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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200626021 審決 意匠

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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない L2
管理番号 1075076 
審判番号 無効2002-35218
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2003-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-05-23 
確定日 2003-03-27 
意匠に係る物品 足場板 
事件の表示 上記当事者間の登録第1034463号「足場板」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 理 由
1.請求人の申し立て及び理由
請求人は、「登録第1034463号意匠の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、請求の理由の要旨を以下のように主張し、証拠方法として、甲第1号証を提出した。
甲第1号証:特開平9-78528号公報
1-1 理由の要点
登録第1034463号意匠(以下、本件登録意匠という。)は、平成7年9月14日出願の特願平7-262179号について、平成9年6月16日に意匠登録出願に分割変更出願した意匠登録出願に係り、その出願日を原特許出願の出願日を援用して平成7年9月14日とし、平成11年1月8日に意匠登録を受けたものである。
然るに本件登録意匠は、不適法な出願変更に相当し、出願日は遡及することなく現実の本件変更出願の日である平成9年6月16日に繰り下がるべきものである。
そうすると、本件登録意匠は、当該現実の出願日前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同法第48条の規定に基づいて本件登録意匠の登録は無効とされるべきものである。
1-2 理由の詳細な説明
(1)出願変更の客体的要件
特許出願から意匠登録出願への出願変更について規定した意匠法第13条には、出願変更の客体的要件については何ら規定されていない。
しかしながら、我が国工業所有権制度は先願主義を原則とし、かつ、出願変更は出願日を原出願日に遡及させる効果を生ずるものである以上、出願変更の要件として変更の前後における客体の同一性がなければならないのは当然のことであり、意匠法第13条の審査基準には、客観的要件として次の2つの事項が明示されている。
イ.もとの特許出願又は実用新案登録出願の最初の明細書及び図面中に、変更による新たな意匠登録出願の意匠が明確に認識できるように具体的に記載されていること
ロ.変更による新たな意匠登録出願の意匠が、もとの特許出願又は実用新案登録出願の最初の明細書及び図面に表された意匠と同一であること
である。
そこで、本件変更出願が上記の客体的要件を充足しているか否かにつき以下検証する。
(2)意匠に係る物品と原特許出願の物品間の同一性を欠くこと
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「足場板」とするものであるが、原特許出願の発明の内容は「下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材を充填した」ことを特徴とする「足場兼用吸音部材」であって、単なる「足場板」ではない。「足場板」は「足場兼用吸音部材」とは異なる上位概念の物品に相当するから、「足場板」への変更は、明らかに分割変更出願に要求される原特許出願の客体と本件意匠登録出願の客体との同一性を失っている。したがって、上記客体的要件のロ.を充足していない。
更に、意匠に係る物品が原特許出願の発明の名称と同一性を欠くため、図面も同一性を欠くものとなっており、原特許出願の明細書及び図面中に記載されてなかった図面が追加されているとも言える。すなわち、本件登録意匠の左右側面図は、原特許出願の図9に対応するものと考えられるが、図9(b)は内部に吸音材が収納されており、単なる「足場板」のみの側面を表す外観図は、原特許出願の図面中には存在せず、それを窺わせる記載もない。したがって、本件登録意匠に対応すると考えられる「足場兼用吸音部材」の断面図をもって、本件登録意匠の「足場板」の側面図であると一義的に断ずることはできない。よって、上記客体的要件のイ.及びロ.を充足していない。
(3)本件登録意匠の平面図は変更出願の際に追加されたものであること
本件登録意匠の平面図の構成を明確に認識し得るような記載は、原特許出願の明細書及び図面には全く記載されていない。図5も平面図の具体的構成を明確に認識することは不可能であり、明細書の記載も同様である。
本件登録意匠は、正確には「足場板」ではなく、「足場板」を構成するための「足場部材」というべきものである。このような「足場部材」の需要者は、この「足場部材」を高架橋への設置工事をする建設業者であるから、上面板は最も目に触れる部分といえ、この部分の形状模様を軽視できるものではない。よって、上記客体的要件のイ.及びロ.を欠くことは明らかである。
1-3 まとめ
以上詳述したとおり、本件登録意匠は、出願変更の客体的要件を明らかに欠いているから、出願日の遡及効は認められない。
したがって、本件登録意匠の出願日は、現実の出願変更の手続きを行った平成9年6月16日に繰り下がることになる。
そうすると、本件登録意匠の出願日は、原特許出願の出願公開日である平成9年3月25日の後の平成9年6月16日であるから、特開平9-78528号公報の図3、図5及び図9(a)(b)の各図によって特定される意匠に類似する。
よって、本件登録意匠は甲1号証に示す出願前公知意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同法第48条の規定に基づき無効とされるべきものである。
1-4 答弁に対する弁駁
請求人は、弁駁書を提出して、意匠に係る物品及び図面が、原特許出願と同一性を欠く点について上記と略同様の主張をし、また、本件登録意匠の平面図の透孔の配列と原特許出願の透孔の配列は異なっていると主張した。
2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と反論し、その理由の要旨を以下のように主張し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証の2を提出した。
乙第1号証:特願平7-262179号出願書類
乙第2号証:特願平9-176370号出願書類
乙第3号証の1:原特許出願の図5
乙第3号証の2:乙第3号証の1の部分拡大図
(1)主張の概要
請求人の主張する請求の理由は、本件登録意匠を無効にするためには全く不十分なものであり、このような申立の理由には到底承服することができない。
(2)出願変更の客体的要件について
イ.意匠に係る物品と原特許出願の物品間の同一性について
本件登録意匠の説明には、「この足場板は、多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板とを備え、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材を充填するように構成したもので、高架橋の下方に設置して用いられる。」と記載されていることから明らかなように、本件登録意匠の「足場板」は、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材を充填することを前提とするものであることから、原特許出願の客体と本件意匠登録出願の客体との間の同一性は維持されている。
ロ.本件意匠と原特許出願の図面の同一性について
本件意匠の「足場板」は、吸音材を充填する前の状態が記載されているものであり、また、この「足場板」は、透孔を除き、長手方向に同一の形状を有してなるものであることは、原特許出願(特願平7-262179号、特願平9-176370号)の明細書及び図面の記載全体から自明であるから、本件登録意匠の側面図は、原特許出願の図9(b)の断面図から一義的に引き出すことができたものである。
なお、請求人は断面図の内部や枠体の側面が露出した状態で使用されることを窺わせる開示がないと主張するが、原特許出願の図5には、足場板の側面図に相当する「足場兼用吸音部材」の側面の外観が記載されている。
ハ.本件登録意匠の平面図について
本件登録意匠の平面図は、原特許出願の明細書及び図面の記載から一義的に導き出すことができたものである。すなわち、図5には、上面板の幅方向に5個、長さ方向に58個、透孔を配列した図が描かれており、本件登録意匠の平面図は、この図5に基づいて正確に作成したものである。
(3)まとめ
以上のとおり、本件意匠登録出願は、出願変更の客体的要件を満たすものであることは明らかであるから、本件意匠登録出願の出願日は、原特許出願日の平成7年9月14日に遡及する。
したがって、請求人の主張には理由がない。
3.当審の判断
(1)経緯
本件登録意匠は、平成7年9月14日に出願された特願平7-262179号について、平成9年6月16日に出願の分割(特願平9-176370号)をし、同時に意匠登録出願に変更された出願(意願平9-58201号)に係り、平成11年1月8日に意匠登録第1034463号として意匠権の設定の登録がなされたものである。
(2)本件登録意匠
本件登録意匠は、意願平9-58201号の願書及び願書添付の図面の記載によれば、意匠に係る物品を「足場板」とし、その形態の要旨は、概ね以下のとおりである。
横長長方形中空板の裏面を大きく開口した上面板と、下方に断面視U字状に膨出した下面板とを、該開口部で結合したものであって、上面板は、その表面に多数の透孔を縦横等間隔に長手方向に5列配列し、両長辺側に断面矩形の中空部を形成してその余を開口し、両側面には小突起を形成したものとし、下面板は、断面視の縦対横の長さが略8:5で、その表面の大半に多数の透孔を縦横等間隔に密に形成したものであって、別紙第1に示すとおりとしたものである。
(3)出願の分割及び変更について
そこで、上記の出願の分割及び変更について検討するに、本件登録意匠に係る意願平9-58201号の原出願である特願平9-176370号は、願書及び願書添付の図面の記載によれば、発明の名称を「高架橋の足場兼用吸音部材」とし、「車両の騒音を低減できるとともに、補修作業の作業効率を向上することができる高架橋の足場兼用吸音部材を提供する」ことを課題とする発明であるところ、該発明の高架橋の要部斜視図の図5及び実施例図9には、上面板と下面板に挟まれた空間に本件登録意匠にない吸音材が充填されているものの、本件登録意匠とほぼ同一の形状が表されていると認められる。
すなわち、本件登録意匠の左右側面図については、図9(b)に明確に表れており、正面図及び背面図については図9(a)及び図5から、また、底面図については図9(a)、(b)からその形状が容易に特定可能である。更に、平面図については、請求項1に「多数の透孔を有する上面板」との記載があり、図5の上面板表面には透孔が配設されていることが認められ(乙第3号証の1 別紙第3参照)、図5では透孔が長手方向に対して傾斜しているように見えるが、本件登録意匠の透孔は、縦横等間隔の配列であるから見る角度によっては45度傾斜して見えること、また、図5は発明の実施例を示した概略的なものであること等を考慮すれば、本件登録意匠の平面図と図5との間に実質的な差異はない。
したがって、特願平9-176370号の明細書の記載及び図5、図9には、横長長方形中空板の裏面を大きく開口した上面板と、下方に断面視U字状に膨出した下面板とを、該開口部で結合したものであって、上面板は、その表面に多数の透孔を縦横等間隔に長手方向に5列配列し、両長辺側に断面矩形の中空部を形成してその余を開口し、両側面には小突起を形成したものとし、下面板は、断面視の縦対横の長さが略8:5で、その表面の大半に多数の透孔を縦横等間隔に密に形成した形状が表れていると認められる。
本件登録意匠の意匠に係る物品は「足場板」であり、意匠に係る物品の説明の記載とを併せて検討すれば、本件登録意匠に係る意願平9-58201号は、原出願である特願平9-176370号の出願の吸音材を除いた足場板の形状を、意匠登録出願に変更したものと認められるから、その出願の変更は適法なものである。
そして、上記特願平9-176370号は、平成7年9月14日に出願された特願平7-262179号を原出願とする分割出願であるから、本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日は、原出願の出願日である平成7年9月14日に遡及する。
そうすると、平成9年3月25日に公開された特願平9-176370号の公開特許公報は、本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願の基準日以降に頒布されたものであるから、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号には該当しない。
請求人は、「足場板」は「足場兼用吸音部材」とは異なる上位概念の物品に相当するから、「足場兼用吸音部材」から「足場板」への変更は、原特許出願の客体と本件意匠登録出願の客体との同一性を失っていると主張するが、本件登録意匠は、原出願の「足場兼用吸音部材」うち吸音材を除いた「足場板」を意匠登録出願に変更したものと認められ、「足場板」についてその変更の前後で何ら同一性を欠くものでないから、請求人の主張は採用できない。
請求人はまた、原特許出願の明細書及び図面から本件登録意匠の平面図の構成を明確に認識することはできないから、本件登録意匠の平面図は変更出願の際に追加されたものであり、出願変更の客体的要件を欠くと主張する。
しかしながら、原特許出願の明細書及び図面から本件登録意匠の平面図を導き出せることは上記したとおりであり、原特許出願の明細書及び図面に表われてなかった形状や、通常の知識をもってしても想定し難い形状が新たに付け加えられたものでもないから、請求人の主張は採用できない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件登録意匠を無効とすべきものとすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2003-01-22 
結審通知日 2003-01-27 
審決日 2003-02-13 
出願番号 意願平9-58201 
審決分類 D 1 11・ 113- Y (L2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梅澤 修太田 恒明 
特許庁審判長 藤木 和雄
特許庁審判官 江塚 尚弘
岩井 芳紀
登録日 1999-01-08 
登録番号 意匠登録第1034463号(D1034463) 
代理人 林 清明 
代理人 小谷 悦司 
代理人 林 清明 
代理人 川瀬 幹夫 
代理人 森 治 
代理人 林 清明 
代理人 森 治 
代理人 森 治 
代理人 植木 久一 

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