• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 無効  意10条1号類似意匠 無効としない D2
管理番号 1076635 
審判番号 無効2001-35325
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2003-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-07-24 
確定日 2003-04-30 
意匠に係る物品 建築構造材用継手 
事件の表示 上記当事者間の登録第1006603号の類似第1号意匠「建築構造材用継手」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件登録意匠及び手続の経緯
本件登録意匠は、本意匠を、平成8年意匠登録願第33818号(登録第1006603号意匠)とする平成9年11月26日の類似意匠登録願に係り、平成12年5月12日に、意匠登録第1006603号の類似1号として設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が、「建築構造材用継手」であり、その形態が、同添付図面に示されるとおりである(別紙第一参照)。
第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、「登録第1006603号の類似1号の意匠登録はこれを無効とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として請求書の「6 請求の理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出している。
その主張の大要は、以下の通りである。
1.利害関係
請求人は、合成樹脂製及びスチール製の各種形態の継手群その他の部品類と、好みの長さに切断して前記の継手により接続される合成樹脂接着被覆薄肉鋼管とにより、主として需要者自身の発想、設計による各種の立体構造物(例えば棚、椅子、テーブル等の家具類、藤棚、バラアーチ、植木鉢の台、可搬式のビニル温室、縁台などの屋外装置品、或いは産業用の台車、部品棚、安全柵、ローラコンベア、シューターラックなどの機器類を製作できる新素材商品を、Do it Your Self 商品(DIY商品)として、昭和40年代から登録商標「イレクター」(登録第777170号)を付して製造販売してきた。前記商品は、例えば実公昭36-1014号(考案の名称:組立骨子等における継手)をはじめとして、請求人が昭和30年代の後半から商品化を目指して研究開発を始め、昭和46年8月12日付け特許出願(特開昭48-26878号、発明の名称:合成樹脂を被覆した鋼管の製造方法)に係る発明の完成と共に製造販売を本格化したものである。
被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社及び件外のスぺーシア株式会社は、平成10年1月頃から、被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社が製造した、上記請求人の合成樹脂接着被覆薄肉鋼管とほぼ同じ構造、同じ外径、同様な地色の合成樹脂接着被覆薄肉鋼管と、径が同じであるがために必然的に請求人商品と互換性があり、対応する商品同士の寸法、形態、地色がそれぞれ見た目にほぼ同じ合成樹脂製およびスチール製の継手群その他の部品類とから成る商品を、スペーシア株式会社が「スぺーシア」の商標を付して、その上、販売方法や商品リスト、カタログの編集方式まで似た内容で販売しはじめた。
そこで請求人は、平成12年6月22日、被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社及び件外のスペーシア株式会社を被告とする不正競争防止法第2条第1項第1号等に基づく侵害行為の差止等、及び損害賠償請求の訴を東京地方裁判所へ提起し、現在は平成12年(ワ)第12838号として審理中である。本件登録意匠に係る物品「建築構造材用継手」も、被請求人及び件外スペーシア株式会社が製造販売する前記合成樹脂製継手群に包含される一種類である。よって、審判請求人が本件審判を請求することについては重大な利害関係を有する。
2.意匠登録無効理由の要点
(1)無効理由1
登録第1006603号の類似1号意匠(以下、本件登録意匠という。)は、図面の記載が相互に一致せず、登録意匠を正確に認識できないので、意匠法第3条第1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないにも拘らず、誤って意匠登録されたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により登録無効とすべきものである。
(2)無効理由2
本件登録意匠は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第3号証に記載された意匠(以下、引用意匠という。)と類似し、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにも拘らず、誤って類似意匠の意匠登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により登録無効とすべきものである。
3.無効理由1について
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書添付の図面に記載された意匠に基づいて定めるべきであるところ(意匠法第24条)、意匠登録第1006603号の類似1号の願書添付の図面(甲第2号証)の記載は、意匠法施行規則第3条に規定した様式第6の備考8で云う、いわゆる正投影図法による正面図、左右の側面図、平・底面図並びにA-A断面図は相互に一致しているものの、斜視図及び使用状態を示す参考図とは不一致である。
即ち、左右の側面図を見ると、水平方向の短円管は、その下底部を中心角にし
て約120度相当分をスリット状に切除して、下向きにC字形状のいわゆる「1/3割管」に形成されている。ところが、斜視図及び使用状態を示す参考図を見ると、前記水平方向の短円管は「完全に閉じた円管」として記載されており、不一致である。
よって、本件の意匠登録は、その図面から判断して正確にその意匠を認識することができない。
4.無効理由2について
(1)本件登録意匠
a.本件登録意匠は、意匠に係る物品が「建築構造材用継手」である。
b.本件登録意匠の基本的構成態様
(b-1)水平方向管と斜め上向き管とが、それぞれの管の中心線が約45度に交わる形に一体的に接合されて成る。
(b-2)斜め上向き管は完全に閉じた円管であるが、水平方向管は、その下底部が中心角にして約120度相当分をスリット状に切除されて、下向きに略C字形状をなすいわゆる1/3割管に形成されている。
(b-3)水平方向の1/3割管と斜め上向き管との開先部の間には、双方の管の中心線を含む平面に沿って、管壁とほぼ同じ厚さで、略直角二等辺三角形状のリブが配置されている。
c.本件登録意匠の具体的構成態様
(c-1)水平方向の1/3割管と、斜め上向き管の外径および内径はそれぞれ同一である。また、正面図の方向に見ると、水平方向の1/3割管と,斜め上向き管それぞれの中心線の交点は水平方向の1/3割管の左端近傍に位置し、水平方向の1/3割管と斜め上向きの前記交点から右方への中心線の長さはほぼ等しい。
(c-2)水平方向の1/3割管は、その内径が同一のまま貫通しており、パイプを横方向から貫通状態に接続できる。斜め上向き管の奥端は前記水平方向の1/3割管の管壁により閉鎖されている。よって斜め上向き管へパイプは突き当たり状態に接続される。
(c-3)水平方向の1/3割管と斜め上向き管との接合部分は、同径の管の交差部に特有の稜線が弧状に形成されている。
(c-4)正面図、背面図を見ると、水平方向の1/3割管および斜め上向き管の外表面には、各々の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がほぼYの字を横に寝かせた形に一連に形成されている。左側面図の方向に見ると、斜め上向き管の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。平面図の方向に見ると、斜め上向き管から水平方向の1/3割管の上面にかけて、中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が一連に形成されている。前記の各平面部の削り深さは、左右の側面図を見ると、管壁の厚さ(甲第2号証に示した願書添付図面の実測で約3mm程度)に対して0.5mm程度と極僅かである。
(2)引用意匠
甲第3号証は、請求人が、昭和40年代から登録商標「イレクター」を付して製造販売してきた商品の販売促進用として、主にホームセンター等にて頒布した、1984年(昭和59年)1月印刷の「イレクター仕様書」である。その7頁から10頁に記載された「(3)プラスチックジョイント一覧表」の中で7頁4段目右から2列目に商品番号「J-26」と表記されたジョイントの意匠、及び同11頁〜14頁に記載された「(4)プラスチックジョイントの寸法表」の中で11頁の下から2段目中央の「J-26」の図面に表されたジョイントの意匠、並びに同書5頁上段に記載された「すじかい及び補強に使用するジョイント」の中で「J-26」と表記されたジョイントの意匠をそれぞれ、引用意匠とする。
B.引用意匠の基本的構成態様
(B-1)水平方向管と斜め上向き管とが、それぞれの管の中心線が約45度に交わる形に一体的に接合されて成る(甲第3号証11頁下から2段目の商品記号「J-26」の図面参照)。
(B-2)斜め上向き管は完全に閉じた円管であるが、水平方向管は、その下底部を中心角にして約120度相当分をスリット状に切除されて、下向きに略C字形状をなすいわゆる1/3割管に形成されている(甲第3号証5頁のジョイント「J-26」の使用状態図など参照)。
(B-3)水平方向の1/3割管と斜め上向き管との開先部の間には、双方の管の中心線をほぼ含む平面に沿って、管壁とほぼ同じ厚さで、略直角二等辺三角形状のリブが配置されている(甲第3号証の11頁の図面方向)。
C.引用意匠の具体的構成態様
(C-1)水平方向の1/3割管と、斜め上向き管の外形および内径はそれぞれ同一である。また、水平方向の1/3割管と、斜め上向き管それぞれの中心線の交点は、水平方向の1/3割管の左端近傍に位置し、水平方向の1/3割管と斜め上向き管の前記交点から右方への中心線の長さはほぼ等しい(甲第3号証11頁の図面参照)。
(C-2)水平方向の1/3割管は、その内径が同一のまま貫通しており、パイプを横方向から貫通状態に接続できる。斜め上向き管へのパイプが突き当たり状態に接続される(甲第3号証5頁の使用状態の斜視図を参照)。
(C-3)水平方向の1/3割管と斜め上向き管との接合部分は、同径の管の交差部に特有の稜線が弧状に形成されている。
(3)本件登録意匠と引用意匠との対比
[共通点]
1)両意匠の意匠に係る物品は、「建築構造材用継手」であり共通する。
2)両意匠の基本的構成態様(b-1)(b-2)(b-3)と(B-1)(B-2)(B-3)の内容はほぼ一致して共通する。
3)両意匠の具体的構成態様は、(c-1)と(C-1)及び(c-3)と(C-3)の内容はほぼ一致しており共通する。(c-2)と(C-2)については、引用意匠の斜め上向き管の奥端が水平方向の1/3割管の管壁により閉鎖されているか否かは定かでないが、その他は一致しており、共通する。
[相違点]
イ)本件登録意匠の具体的構成態様(c-2)は、「斜め上向き管の奥端は前記水平方向の1/3割管の管壁により閉鎖されている。」が、引用意匠の具体的構成態様における(C-2)の斜め上向き管の奥端の形状、構造は定かに認識できない。
ロ)本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)は、「水平方向の1/3割管および斜め上向き管の外表面には、中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。」が、引用意匠の短円管の外表面にはそのような「平面部」が無い。
(4)相違点の検討
(4-1)本件登録意匠の具体的構成態様(c-2)は「斜め上向き管の奥端は前記水平方向の1/3割管の管壁により閉鎖されている。」が、引用意匠の具体的構成態様(C-2)は、斜め上向き管の奥端の形状、構造を、甲第3号証の記載からは定かには認識できない。しかし、本件登録意匠の場合でも、図面の記載はともかくとして、斜め上向き管の奥端が水平方向の1/3割管の管壁により閉鎖されているか否かは、看者が具体的に子細に観察しないかぎり、外部からは視覚的に確認しがたいし、需要者にとっては、斜め上向き管の奥端の形状、構造はどうであれ、同管へのパイプが突き当たり状態に接続されることが認識されれば、それ以上の意匠的関心は無いところである。
この意味で、当該相違点が有るとしても、そのことが両意匠を見る者に起こさせる美感を左右することにはならないから、この相違点は部分的微差の域を出ないものである。
(4-2)本件登録意匠は、「正面図、背面図を見ると、水平方向の1/3割管および斜め上向き管の外表面には、各々の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がほぼYの字を横に寝かせた形に一連に形成されている。左側面図の方向に見ると、斜め上向き管の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。平面図の方向に見ると、斜め上向き管から水平方向の1/3割管の上面にかけて、中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が一連に形成されている。前記の各平面部の削り深さは、左右の側面図を見ると、管壁の厚さ(願書添付図面の実測で約3mm程度)に対して0.5mm程度に極僅かである。」ところ、引用意匠にはそのような「平面部」がないので、一応相違点と認める。しかし、この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響については、次のことが考慮されるべきである。
1)特許庁に対する意匠登録出願は書面主義に支配されており、意匠は基本的に図面に記載して特許庁長官に提出する。したがって、本件登録意匠の上記「帯状をなす平面部」も短円管の外表面に現れる稜線を、白色用紙に明瞭な形状線として記載しているので、そのような「平面部」を有しない引用意匠とは、図面上の対比においては一見相違するようにも見える。
しかし、現実問題としては、上記(c-4)に掲記した通り、短円管の外表面に、その中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が、削り深さにして、短円管の筒壁の厚さ(3mm程度)に対して、0.5mm程度行われているに過ぎないから、短円管の管壁の厚さの変化も、良く目を凝らして見ないと見分けが付かないほどに微々たるものである。しかも斜め上向き管には直角3方向の位置に3本、水平方向の1/3割管には180度対称な側面位置に2本の平面部が、それぞれ願書添付図面(甲第2号証)の実測によれば、外径が27.5mmの管表面に、幅7mm、中心角にして27度程度に形成されているに過ぎないから、外観上、この「平面部」が意匠的工夫ないし創作として需要者に彼我の意匠を区別するに足る異なった美感を起こさせるものとは認め難い。
2)意匠の類否判断が、需要者の観察において誤認、混同を生ずるや否やにあるとの考え、所謂「混同説」に立てば、一例として甲第4号証に両意匠の実施品を並べた写真を示したように、前記「平面部」の存在を表す稜線は合成樹脂の地色に減殺されて殆ど目立たないから、需要者が一見しただけでは彼我の意匠の見分けがつかず、誤認、混同する虞が大である。
3)意匠の保護は、実は意匠の創作が保護されることに基づき、意匠の類否判断を創作性の有無に求める、いわゆる「創作説」の観点に立ち、本件登録意匠の「帯状をなす平面部」が意匠的工夫、創作の結果として、見る者に起こさせる美感ないし意匠的効果に寄与するかについても検討を進める。
この検討に際しては先ず、甲第3号証の頒布時期と、そこに記載された引用意匠の基本的構成態様(上記B)、及び具体的構成態様(C-1)〜(C-3)による形状が全て、本件登録意匠の出願時から遡ること約18年も前から公知、周知の形状として需要者に知られた事実が考慮されるべきである。
上記(3)の対比で説明したように、本件登録意匠の基本的構成態様b、及び具体的構成態様のうちの(c-1)から(c-3)までが、上記したように引用意匠の公知、周知形状(Bと(C-1)〜(C-3)による形状)と一致して共通する。残る本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)のみが僅かに引用意匠と相違するに過ぎないのである。
その上、本件登録意匠の意匠的工夫というべき「平面部」は、いちいち例証するまでもなく、ずいぶん古くより種々な技術分野において日常的に、丸棒や円管等の表面を必要に応じて削除などして形成してきたことであり、格別創作というほどに目新しいものでもない。
したがって、本件登録意匠に「平面部」が存在して、それが引用意匠との相違点であるとしても、意匠的工夫ないし創作として看者(需要者)に注目されたり、格別の印象を与えたり、異なった美感を起こさせる要因(意匠の要部)になるとは認められない。
(4)要するに、両意匠の全体観察によれば、引用意匠の全体形状が本件登録意匠の出願日の遥か以前から公知、周知の形状であり、本件登録意匠の大部分の形状がそれと共通し、相違点である本件登録意匠の「平面部」が発揮する意匠的効果が、見る者に格別異なった美感を起こさせる要因というには程遠く、両意匠の前記共通点がもたらす美感を凌駕するものとは認められないので、前記の相違点は部分的な微差の域にとどまり、本件登録意匠は、引用意匠と美感を共通にして類似するものと認められる。
(5)むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、引用意匠と類似し、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにも拘わらず、誤って類似意匠の登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により、その意匠登録を無効とされるべきである。
5.結語
以上に説明したように、本件登録意匠は、そもそも意匠法第3条第1項柱書に規定する「工業上利用できる意匠」に該当しないにも拘わらず、誤って意匠登録されたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により、その意匠登録を無効とされるべきである。
仮に、前記の点を措いても、本件登録意匠は、その出願日よりもかなり以前に国内に頒布された甲第3号証に記載された引用意匠と類似し、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」に該当しないにも拘わらず、誤って類似意匠の登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により、その意匠登録を無効とされるべきである。
第3 被請求人の答弁及び理由
被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その理由として答弁書の「7 答弁の理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、乙第1号証及び乙第32号証を提出している。
その主張の大要は、以下の通りである。
1.本件「意匠に係る物品」について
本件登録意匠の「意匠に係る物品」は一応「建築構造材用継手」となっているが、具体的には需要者の好みに応じて需要者自身が所要の長さに切断した断面円形パイプを種々の方向、種々の角度に接合することにより、棚、椅子、テーブル等を組み立てることができる Do it Your Self 商品(DIY商品)に用いる継手に関するものであるが、この継手に関しては本件登録意匠も被請求人の引用意匠も共に用途が限られており、乙第1号証(請求人会社の仕様書)、及び乙第2号証(被請求人会社のカタログ)に示す如く、複数本のパイプを接続するコーナー部等において「すじかい」となるパイプ等の斜めに接合するための継手として用いられるものである。
2.請求人の主張に対する反論
(1)図面の不一致について
請求人は、本件登録意匠の図面は、正投象図法に基づく6面図とA-A断面図とにより把握できる形状と、斜視図、及び使用状態を示す参考図とにより把握できる形状とが互いに符合せず、図面が不一致であるから、「工業上利用することができる意匠」とはいえず意匠法第3条第1項柱書の要件を満足しない旨主張する。
しかしながら、本件図面では、正投象図法に基づく6面図とA-A断面図とは互いに一致しており、これによって把握できる形状は特定できるものであり、斜視図及び使用状態を示す参考図のみ誤って水平方向の短円管を本来、正投象図法の6面図で特定されている形状である1/3割管に表現すべき処、全周が囲まれた短円管(他の出願の図面のもの)と取り違えて記載したものである。
斯る場合、正投象図法に基づき正確に描かれている6面図、及びA-A断面図によって形状が十分特定することができる以上、斜視図や参考図が誤って記載されたものであることが客観的にみて明らかであるから、本件図面は一定の形状が特定されているものといえる。
この点については、過去の判例においても「意匠公報に示す図面中の符合に誤りがあり、この図面による立体意匠を現わす物品が現実存しえないような場合でも、その符合しない箇所が意匠の本質的な点であり、そのため意匠の不特定が生じ、創作者の意図した立体的意匠を客観的に想定することができない場合はともかくとして、符合しない箇所を当業者の常識をもって合理的に善解しうる余地があるか、その不一致箇所のいずれが正しいかを未決定のまま保留しても全体の意匠の把握に影響を及ぼさないときは、図面の記載を統一的、総合的に判断し意匠の具体的構成を究明すべきである。
(2)類否について
a.請求人が本件登録意匠と引用意匠との共通点として挙げている(B-1)、(B-2)、(B-3)、(C-1)、(C-2)、(C-3)は、前記1の本件意匠に係る物品の項にも述べたとおり「すじかい」のように2本のパイプを斜めに接合する際に用いられる継手である以上、斜め上向き管は水平管に対し45度の角度をなす短円管ですじかいとなるパイプに固定し、水平管は、1/3割管に構成してすじかいとなるパイプを接合するパイプに嵌着する構成となることは機能上必然的な構成であると共に、請求人が本件意匠出願日遥か前の1984(昭和59年)より販売を開始したものであり、本件登録意匠の出願時点においては、もはやありふれた陳腐な形状となっており、格別顕著な形態とはいえず看者の注意を強く惹く意匠的特徴点とは到底いえないものである。
これに対し、両者の相違点である「短円管、及び1/3割管の外周面長手方向に複数本形成された管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平坦面の有無」は全体観察上看者の注意を強く惹き、看者をして両意匠を充分弁別し得る要因となる顕著な相違点といえる。
b.上記被請求人の主張が妥当なものであることは、請求人の製造に係り、かつ、本件登録意匠出願前に公知となっていた各種継手の意匠と基本的形態において共通し、短円管の外周長手方向に形成された管外径の約1/4相当幅の複数の帯状をなす平坦面の有無において相違する継手の意匠につき、被請求人において本件登録意匠を除き以下に示す28件にものぼる意匠が登録されている事実により証明することができる。
第4.請求人の弁駁
請求人は、被請求人の答弁に対し、甲第5号証乃至甲第7号証(検証物、本件登録意匠及び引用意匠の実施品)を提出し、大要以下の通り弁駁した。
請求人が挙示した甲第3号証の7頁上から3段目のジョイント「J-14」の意匠、同頁下から2段目のジョイント「J-43」の意匠、同書8頁上から3段目のジョイント「J-69」の意匠なども、やはり「2本のパイプを斜めに接合する際に用いられる継手」に係る意匠であることから明白なように、多種多様な意匠の構成態様が成立し得る。したがって、「2本のパイプを斜めに接合する際に用いられる継手である以上」は「機能上必然的な構成である」との反論に理由がない。
被請求人は、上記の反論の妥当性を、28件掲げた意匠登録の事実で証明するとし、乙3号〜乙30号証を挙示し「帯状の平坦面の有無の差異によって両者類似しないと判断されたケースが多数存在する」と主張するが、総論として、拳示された乙3号の1〜乙30号証の1に係る意匠登録の事実は、本件審判とは事案を異にするものであり、また、各乙号証の意匠登録を正当な類否判断の結果と認めるには個別の検討を要するから、前記意匠登録の事実が直ちに本件登録意匠と引用意匠の類否判断に影響を与えるものではない。
被請求人は、「帯状の平坦部」が引用意匠とは異なる印象を与える根拠として乙32号証の対比写真を提出している。これは請求人の甲第4号証に対応するものである。そこで「見ればわかる」と考えて、請求人は甲第4号証に係る二つの物品について証拠申出の手続をとる次第である。
第4.当審の判断
A.無効理由1について
1.図面の不一致について
本件登録意匠が記載された図面を検討すると、請求人が主張するとおり、「水平方向の短円管は、その下底部を中心角にして約120度相当分をスリット状に切除して、下向きにC字形状のいわゆる『1/3割管』に形成されているが、斜視図及び使用状態を示す参考図を見ると、前記水平方向の短円管は『完全に閉じた円管』として記載されており、」、不一致が認められる。
しかしながら、意匠法施行規則は、「立体を表す図面は、正投影図法により各図同一縮尺で作成した正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図をもって一組として記載する(意匠法施行規則第3条様式第6の備考8)」と規定しているところ、本件登録意匠に係る願書添付図面に記載の6面図は相互に一致しており、これらの図面から把握できる形状は特定できるものであり、斜視図及び使用状態を示す参考図は、誤って記載されたと解釈するのが相当である。
請求人は、「使用状態を示す参考図は、参考図に過ぎないものとして無視できるとしても、斜視図は、当該意匠を表現するための必須図面と解され、本件登録意匠は、水平方向の短円管の記載が、前記したように、斜視図は、完全に閉じた円管であるのに、左右の側面図は下向きにC字形状のいわゆる『1/3割管』に記載されていて不一致である。」と主張するが、斜視図は、いわゆる6面図だけでは、その意匠を十分表現することができないとき必要な図面であり、本件登録意匠のように、正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図、また、A-A断面図が加えられていることにより、本件登録意匠が十分把握できる場合には、必須図面であるとはいえず、請求人の主張を採用できない。
したがって、本件意匠登録は、意匠法第3条第1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないということはできず、その登録を、無効とすべきものとすることはできない。
B.無効理由2について
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、本意匠を、平成8年意匠登録願第33818号(登録第1006603号意匠)とする平成9年11月26日の類似意匠登録願に係り、平成12年5月12日に、意匠登録第1006603号の類似1号として設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が、「建築構造材用継手」であり、その形態が、同添付図面に示されるおりである(別紙第一参照)。
2.甲号意匠
請求人が引用した意匠は、請求人(矢崎化工株式会社)が頒布した(1984年1月印刷)カタログ「ヤザキののイレクター イレクター仕様書 ERECTOR」の7頁〜10頁に記載された「(3)プラスチックジョイント一覧表」の中で7頁5段、右から2個目に商品番号「J-26」と表記されたジョイントの意匠、及び同11頁〜14頁に記載された「(4)プラスチックジョイントの寸法表」の中で11頁下から2段目中央の「J-26」の図面に表されたジョイントの意匠、並びに同書5頁中段に記載された「すじかい及び補強に使用するジョイント」の中で「J-26」の意匠であるが、当審は、同7頁5段、右から2個目に商品番号「J-26」と表記されたジョイントの意匠を甲号意匠とする(別紙第二参照)。
3.両意匠の対比
先ず、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、以下の共通点及び差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様において、円形パイプを斜状に接合するための継手であり、全体が、下方(腹部)を開口した略Cの字状の管(C型管)の背部に、それよりやや短い円筒状の管(接合管)を、双方の管の中心線が略45度に交わる態様に接合したものである点、
また、具体的態様において、
(1)C型管について、その長さが、径の略3倍のものである点、
(2)接合管について、C型管と同径の円筒状であり、その長さが、C型管よりやや短いものとし、C型管の背部の正面視左方略半分の部分に、略45度の角度で接合している点、
(3)C型管と接合管の開先部の間に、右側面視において、双方の管の中心線に沿って、管壁とほぼ同じ厚さの略直角二等辺三角形板状のリブを形成している点、が共通している。
[差異点]
一方、両意匠は、具体的態様において、
本件登録意匠は、C型管につき、その正面及び背面の中心線に沿う部位に、その全長にわたって、管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成し、接合管につき、正面、背面及び平面の中心線に沿う部位に、その全長にわたって、管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成しており、その帯状平面部が、正・背面視において、略倒Yの字状に表れているのに対し、甲号意匠は、そのような平面部が形成されていない点に差異がある。
4.類否判断
そこで、共通点及び差異点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。
先ず、共通点について、両意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、全体が、下方(腹部)を開口した略Cの字状の管(C型管)の背部に、それよりやや短い円筒状の管(接合管)を、双方の管の中心線が略45度に交わる態様に接合したものである点は、この種の物品の分野において、2本のパイプを斜めに接合する際に普通に見られるありふれた形態であり、また、両意匠に共通する具体的態様(1)ないし(3)の点は、請求人が、昭和40年代から登録商標「イレクター」を付して製造販売してきた商品の販売促進用として、主にホームセンター等にて頒布した、1984年(昭和59年)1月印刷の「イレクター仕様書」である。その7頁から10頁に記載された「(3)プラスチックジョイント一覧表」の中で7頁4段目右から2列目に商品番号「J-26」と表記されたジョイントの意匠、及び同11頁〜14頁に記載された「(4)プラスチックジョイントの寸法表」の中で11頁の下から2段目中央の「J-26」の図面に表されたジョイントの意匠、並びに同書5頁上段に記載された「すじかい及び補強に使用するジョイント」の中で「J-26」と表記されたジョイントの意匠に見られるとおり、広く知られたありふれた形態であって(この点については、請求人も、「甲第3号証の頒布時期と、そこに記載された引用意匠の基本的構成態様(上記B)、及び具体的構成態様(C-1)〜(C-3)による形状が全て、本件登録意匠の出願時から遡ること約18年も前から公知、周知の形状として需要者に知られた事実が考慮されるべきである。」と認めるところである。)、看者の注意を惹くところとなり得ず、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
一方、両意匠の差異点、すなわち、管外径の略1/4幅の帯状をなす平面部の有無による差異であるが、この種の物品において、請求人が主張するとおり、「ずいぶん古くより種々な技術分野において日常的に、丸棒や円管等の表面を必要に応じて削除などして形成してきたことであり、格別創作というほどに目新しいものでもない。」としても、本件登録意匠は、C型管につき、その正面及び背面の中心線に沿う部位に、その全長にわたって、管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成し、接合管につき、正面、背面及び平面の中心線に沿う部位に、その全長にわたって、管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成したものであって、管の長手方向に平面部を単に形成したものでなく、また、その帯状平面部が、正・背面視において、略倒Yの字状に表れている点と相俟って、本件登録意匠の特徴が発揮されており、両意匠を別異のものとする意匠的効果が認められものであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。
ところで、請求人は、「本件登録意匠に平面部が存在して、それが引用意匠との相違点であるとしても、意匠的工夫ないし創作として看者(需要者)に注目されたり、格別の印象を与えたり、異なった美感を起こさせる要因(意匠の要部)になるとは認められない。」と主張するが、当業者を基準として創作の容易性の観点から比較する場合においてはともかく、一般需要者を基準としての意匠的効果としての印象(美感)の類否の観点から両意匠を比較する場合においては、前記管外径の略1/4幅の帯状平面部の有無による差異から生じる印象の差異は、一般的には、決して小さいものでなく、共通点がこの差異を埋没させてしまうほどに強力な共通の印象をもたらすものでない限り、両意匠は、意匠全体として異なった印象をもたらすものというべきである。
また、請求人は、「意匠の類否判断が、需要者の観察において誤認、混同を生ずるや否やにあるとの考え、所謂混同説に立てば、一例として甲第4号証に両意匠の実施品を並べた写真を示したように、前記平面部の存在を表す稜線は合成樹脂の地色に減殺されて殆ど目立たないから、需要者が一見しただけでは彼我の意匠の見分けがつかず、誤認、混同する虞が大である。」と主張するが、本件登録意匠の範囲は、「その願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定め」(意匠法第24条)られるものであり、請求人の主張を採用できない。
さらに、請求人は、「左側面図の方向に見ると、斜め上向き管の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。平面図の方向に見ると、斜め上向き管から水平方向の1/3割管の上面にかけて、中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が一連に形成されている。前記の各平面部の削り深さは、左右の側面図を見ると、管壁の厚さ(甲第2号証に示した願書添付図面の実測で約3mm程度)に対して0.5mm程度と極僅かである。」と主張するが、意匠の外観がもたらす美感は、実測による精密な数値より把握されるものというより、外観から受ける印象(美感)として把握されるべきものであり、請求人の主張をそのまま採用することはできない。
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品は共通しているが、その形態について、両意匠における共通点は、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ないのに対し、差異点は、両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいというべきであり、差異点が共通点を凌駕する両意匠は、結局、類似するものとは認めることができない。
その他、請求人は、甲号意匠の他に、「イレクター仕様書」の11頁〜14頁に記載された「(4)プラスチックジョイントの寸法表」の中で11頁の下から2段目中央の「J-26」の図面に表されたジョイントの意匠、及び同書5頁上段に記載された「すじかい及び補強に使用するジョイント」の中で「J-26」と表記されたジョイントの意匠をも引用意匠としているが、それらの意匠は、甲号意匠と実質的に同一のものであり、本件登録意匠と、同様の理由により、類似するものということはできない。
5.まとめ
したがって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第3号証に記載されたいずれの意匠とも類似しないものであるから、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」に該当しないとする理由がなく、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2002-05-20 
結審通知日 2002-05-23 
審決日 2002-06-10 
出願番号 意願平9-76551 
審決分類 D 1 11・ 3- Y (D2)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 上島 靖範 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 伊藤 晴子
西本 幸男
登録日 2000-05-12 
登録番号 意匠登録第1006603号の類似意匠登録第1号(D1006603/1) 
代理人 植木 久一 
代理人 小谷 悦司 
代理人 山名 正彦 
代理人 小谷 悦司 
代理人 植木 久一 
代理人 川瀬 幹夫 
代理人 川瀬 幹夫 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社   サービスに関しての問い合わせ