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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) C3
管理番号 1083354 
判定請求番号 判定2003-60009
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2003-10-31 
種別 判定 
判定請求日 2003-01-22 
確定日 2003-08-29 
意匠に係る物品 物干用吊掛具 
事件の表示 上記当事者間の登録第0923794号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号意匠の「物干用吊掛具」は、登録第0923794号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 理 由
第1.請求人の申立て及び理由
請求人は、甲第3号証に示す「物干用吊掛具」の意匠(以下「イ号意匠」という)は、意匠登録第923794号意匠(以下「本件登録意匠」という)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める、と申し立て、その理由を大要以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
本願意匠とイ号意匠は、共に、天井に取り付けられる「物干用支持具」に、物干用吊掛具の上方を着脱自在に嵌め込み、物干用吊掛具の下方に設けられた円形状リングに物干具を引っ掛けて使用するものであり、意匠に係る物品が共通し、形態においては、両意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、全体が、上方に物干用支持具との嵌合部を有する細長い円形管状体と、その円形管状体に伸縮自在に挿入される細長い円形棒状体から構成されており、その円形棒状体の下方に、円形状リングを取り付けた態様のものである点は、両意匠の形態の骨格を形成しており、この種の物品において、本件登録意匠の出願前に、全体構成がこれに近似した態様の意匠が見られないことから、形態上の特徴を成し、両意匠の類否判断を左右する要部となっている。また、嵌合部と円形管状体との接合部に、略円筒状の接合部材を設け、その下方を揺動自在に形成している点、下方の円形状リングについて、その径を、最大に伸ばした状態の略10数分の1とし、その円形状リングを、略円柱状の継手下方に取り付け、円形棒状体と連結している点は、基本的構成態様の共通点と相俟って、両意匠の形態上の特徴を表出し、看者の注意を惹くところであり、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼしている。これに対して差異点は、何れも類否判断に及ぼす影響は小さいものであって、これらの差異点が相俟って生じる効果を考慮したとしても、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものであり、両意匠の共通点がもたらす類似感を凌駕することができないものであり、両意匠は類似する意匠である。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、「本件意匠権の範囲に、イ号製品は属さない」旨のの判定を求める、と答弁し、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証(枝番を含む)を提出した。
極めて単純な構成部材より成る意匠の類否判断においては、たとえ相対的には僅かな意匠の差異であったとしてさえも、意匠の類否判断において大きなウエイトを占めることとなる。1.イ号意匠は、上端の球状のフック部材の両側に大きな形状の一対の突起を有している点、2.イ号意匠は、球状フック部材の最先端には大きな直径を有する真円状凹部が存在する点、3.イ号意匠は、吊掛棒(円形管状体)に、伸縮用のプッシュボタンないしダボ孔の類いが存しない点、4.イ号意匠は、球状フック部材と吊掛棒とを連結するテーパー状中間部材が存する点、5.イ号意匠は、テーパー状中間部材には細溝形状は形成されていない点、6.本件登録意匠は伸ばして使用することはできないのに対して、イ号意匠は任意の位置で伸縮可能である点、7.イ号意匠は、最大縮小時にも、円形管状体が円形環状体に埋没することはなく一部が露出する点、8.イ号意匠の円形管状体下端には、同端部を覆う結合部材が表れている点、9.円形管状体の径と、最下端リング部材の外形との比が、本件登録意匠は1:6で「細い」印象が生じるの対して、イ号意匠は、1:3で全体として「太い」という印象が生じる点、に差異があり、これらの差異を明らかにすることだけで、イ号意匠が本件登録意匠の範囲にない、すなわち非類似であることは容易に理解しうる。そして、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定違反により、また、同法第3条第1項柱書に規定による意匠たりえず、無効原因を内在している。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成5年5月14日に意匠登録出願をし、平成7年2月9日に意匠権の設定の登録がなされた、登録第923794号の意匠であり、登録原簿及び願書の記載によれば、意匠に係る物品が「物干用吊掛具」であり、形態については、願書及び願書に添付した図面に記載されたとおり(別紙第1参照)のものである。
2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書添付、甲第3号証の書面により示されたものであり、意匠に係る物品については、その書類の記載によれば「物干用吊掛具」であり、形態については、同書面により示されたとおり(参照、別紙第2)のものである。
3.両意匠の対比検討
両意匠を対比するに、意匠に係る物品について、両意匠は「物干用吊掛具」であるから、意匠に係る物品は共通する。また、形態については、主として以下の共通点と差異点、がある。
すなわち、共通点として、
(1)全体の概略につき、支柱本体を伸縮可能な2段構成とし、使用時における長さを調節できるようにした丸棒状吊り下げ支柱部と、下端のリング状掛け部からなる点、
(2)吊り下げ支柱部につき、吊り下げ支柱本体は、下部円形棒状体を上部の円形管状体の下端部から挿通したもので、支柱本体の上方には、円形管状体と略同径であって円形管状体の区画部状に表された略円柱状の中間部材(接合部材)を介し、天井に固定する器具に取り付けるための係止部材(支持部材)を設け、下端には円形棒状体より僅かに太くした円柱状継手部を設けた点、
(3)リング状掛け部につき、円形断面形状とし、太さはリングの直径の1/6程度であって、支柱本体下部側円形棒状体の太さに対しては、ほぼ同じ、若しくはやや細い程度であって、なお、その外形の大きさにつき、吊り下げ支柱を最大に伸ばした状態の全体の12分の1ないし16分の1程度の直径とした点、
(4)上端の係止部材の基本的構成態様につき、上端付近の丸みを落とした球形状上部と、細長円錐台状下部からなる点、
(5)吊り下げ支柱下端の継手部に対するリング状掛部の接続態様につき、継手下部近傍の両側面から嵌入させた態様とした点、がある。
次に差異点として、
(イ)係止部材上部の球形状部につき、イ号意匠は、本件登録意匠には存在しない一対の小突起を両側に設けている点、
(ロ)中間部材につき、本件登録意匠は円形管状体と同径であって密に巻いたコイル形状から成り、外観として上下に密な平行横筋が表れているのに対して、イ号意匠は、円形管状体よりも僅かに細く、極く僅かにテーパ状とし、平行横筋が表れていない点、
(ハ)本件登録意匠は、円形管状体の上下中央のやや下寄りに小さな円形孔(ダボ孔)を設け、円形棒状体に設けられた内側から押圧され伸縮可能としたダボにより係止可能としたものであるが、最短状態(一組の図面に表された状態)と最長状態(「長さを伸ばした状態の正面図」に表された状態、この図については、固定できる最長状態である旨は明記されていないものの、「B-B’部のA-A’線拡大断面図」による丸棒状体の上端位置、および背面図に表されたダボ孔の位置によれば、明示されていない細丸棒上端近傍に設けられたダボにより固定できる最長状態であると解するのが合理的と認められる)以外の固定可能位置は不明であるのに対して、イ号意匠は、円形管状体下端に本件登録意匠が有しない下部側を僅かにすぼめた短円筒状保護キャップを被せており、円形棒状体を任意の位置で固定可能としている点、
(ニ)円形管状体の太さにつき、本件登録意匠はリング状掛部の太さより僅かに太くしているだけであるのに対して、イ号意匠は略2倍の太さとしており、本件登録意匠よりやや太い感を呈している点、
(ホ)吊り下げ支柱本体の最大縮小時において本件登録意匠は円形棒状体が円形管状体に埋没してしまうのに対して、イ号意匠は下方の一部が露出する点、
(ヘ)継手部につき、本件登録意匠は横方向の平行細溝が等間隔に表されているのに対して、イ号意匠はそれが無い点、に差異がある。
なお、被請求人は.イ号意匠は、係止部材の最先端には大きな直径を有する真円状凹部が存在するから、本件登録意匠と大きく異なると主張するが、その存在の有無は不明確であり、仮にそれが存在したとしても、限られた部位である係止部材においても小さな部位に関するものであり、また、本件登録意匠には正6角形の凹部が存在するから、その存在の有無または形状の差異は、類否判断に影響を及ぼすことのない微差にすぎず、認定するまでもないものと認められる。
そこで意匠全体として比較検討すると、前記共通するとした、(1)及び(3)の点は、意匠全体の骨格を形成するものであり、(2)の吊り下げ支柱部の共通点に係る構成態様と共に、共通した視覚的まとまりを形成しており、(4)および(5)の共通点は、更に共通感を増すものであり、これら(1)ないし(5)の共通点に係る構成態様は、相互に関連し合って共通した意匠全体の基調を表出させているから、類否判断に大きな影響を及ぼすものである。なお、これら(1)ないし(5)の共通点に係る構成態様の内容について、被請求人は「物品の機能を確保するために不可欠の形状」であるとするところ、確かにその全体構成は機能に応じた比較的シンプルなものではあるとしても、乙各号証に照らしてその全体形状及び各部材の形状が物品の機能に対して唯一無二の不可避の形状とは必ずしも云えず、全体形状及びこれを構成する各部材の共通性、また構成比率上の共通性は相互に相俟って看者に強い共通感を印象付けており、また、被請求人においても、そのような意匠が公然知られていたとする事例を示しておらず、当審においても本件登録意匠の出願前に全体形状が本件登録意匠に近似する意匠の登録例を他に認めることができず、上記の通り両意匠の共通点は類否判断に大きな影響を及ぼすものとせざるを得ない。
これに対して、(イ)の差異点については、(4)において指摘したように係止部材の基本的構成態様は共通するものであり、意匠全体としてみた場合、限られた部位における微細な形態の有無に関する差異に過ぎず、類否判断に及ぼす影響は殆どない程度のものであり、(ロ)の差異点については、平行横筋の有無、テーパーの有無における差異は、限られた部位における視覚的に微弱な差異にすぎず、(2)において指摘したように円形管状体と略同径とし、吊り下げ支柱の区画部状に表された略円柱状部が存在する共通感の方が勝っており、類否判断に及ぼす影響は極く僅かである。なお、コイル形状とした点については、コイルスプリングは揺動可能な取り付け手段として様々な分野において広く用いられているものであり、本件登録意匠において敢えてこのような部分にコイル形状を採用したことは、弾性体であることが明記されていないとしても、当業者であるならば安全性を考慮しコイルスプリングを採用して揺動可能としたと解するのが自然であり、また、イ号意匠は請求人の主張によればこの部分が「揺動自在」としており(この点については被請求人は否定していない)、両意匠共揺動可能であるとするならば、更に共通感が増すと解されるものである。(ハ)の点については、本件登録意匠におけるダボ及びダボ孔は、その視覚的存在感は殆ど感じられない程度の微細なもので、イ号意匠の短円筒状保護キャップについても、丸棒状体を挿通する円形管状体の端部付近を単に覆う機能を満たす上で必要な最低限の形態を採用した程度に止まるものであり、格別存在感を訴えるものではなく、これらの差異点は、前記共通するとした(1)ないし(3)の共通点から奏せられる共通した視覚的まとまりに埋没してしまう程度のもので、類否判断に及ぼす影響は僅かであり、(ニ)の点については、吊り下げ支柱自体がかなり細長く伸縮可能としたものであり、本件登録意匠の吊り下げ支柱よりもイ号意匠の吊り下げ支柱が単にやや太い感を呈するに止まり、なお、(3)の共通点として指摘したように、意匠全体としてみた場合、両意匠のリング状掛部の太さに対する支柱本体下部の円形棒状体の太さの関係は、視覚的には近似している範囲に属するものと認められ、類否判断に及ぼす影響は僅かであり、(ホ)の点については、固定できるか否かは別として本件登録意匠もイ号意匠と同じ長さで露出させることは可能であり、また、イ号意匠も円形管状体に全て埋没させることができないとした点に何らかの特徴があるとは認められず、その差異を高く評価することは到底できず、類否判断に及ぼす影響は僅かであり、(ヘ)の点については、外周面全体に均一に設けられた微弱な平行細溝の有無における差異にすぎず、形態全体の中では素材の地模様的な印象を与える程度で、また、これが存在しない本願の意匠に特別な意義があるとも認められず、類否判断に及ぼす影響は殆どない。そして、意匠全体として見た場合、これら差異点の相俟った効果を考慮したとしても、前記共通するとした基調を凌駕し、別異の視覚的まとまりを生じさせているとは到底云えないものである。
なお、被請求人は、本件登録意匠を基にした製品は、複数(3個)のダボ孔を設けることにより固定位置を変更できるのに対して、本件登録意匠はダボ孔が1個のみであり、伸張させて使用することができない旨主張するが、この点につき、本件登録意匠の願書の記載及び添付図面の内容をこの種意匠の通常の知識に基づき合理的に解釈するとしたならば、前記(1)及び(ハ)で認定したとおりの内容のものと認められる。また、固定位置を調節するために設けられるダボは、必要に応じて適宜間隔をあけて複数設けるのが普通であるから、本件登録意匠において、さほど重要でない中間の固定可能位置について明確にされていないからといって、中間位置で固定できないと断定することもできない。
このように、両意匠の共通点が相互に関連し合って表出する共通するとした基調を、差異点が凌駕することができないから、意匠全体として、イ号意匠は本件登録意匠に類似する。
4.結び
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2003-08-19 
出願番号 意願平5-14039 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (C3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 生亀 照恵 
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 山崎 裕造
市村 節子
登録日 1995-02-09 
登録番号 意匠登録第923794号(D923794) 
代理人 吉田 親司 
代理人 小出 俊實 
代理人 石川 義雄 
代理人 畠山 隆 
代理人 鈴江 武彦 

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