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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) F2
管理番号 1091643 
判定請求番号 判定2003-60046
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2004-03-26 
種別 判定 
判定請求日 2003-06-13 
確定日 2004-01-30 
意匠に係る物品 事務用裁断機 
事件の表示 上記当事者間の登録第0978545号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「事務用裁断機」の意匠は、登録第0978545号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、(イ)号図面(写真)及びその説明書に示す「事務用裁断機」の意匠(以下、「イ号意匠」という)は、登録第978545号意匠(以下、「本件登録意匠」という)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求めると申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
本件登録意匠において、形態の基調を形成し、意匠全体の美的特徴を決定づけている形態構成要素、すなわち、意匠上の要部は、下記の構成にある。
a 基台の全体形状を平面における縦横の比を略7:10とする長方形状とし、その中央部、横幅の略8/10をやや分厚い平板状の盤体(紙台)とし、両端に基台全体の横幅の略1/10幅で前記盤体よりやや厚みのある枠体を、わずかの段差を設けて構成し、基台の一方の長辺寄りに、細い帯状のカッターマットを埋設した構成、
b 基台の一方の長辺寄りに、上面を円弧状曲面とし断面が扁平な蒲鉾状をなす細板状のレールと、その下部に長手方向に添って突出した透明な定規様の紙押えを有するガイドレールを設けた構成、
c ガイドレールに係合装着されるスライダーを、基本形状を直方体状とし、その上面を円弧状曲面とし、正面に円形の基盤の中央に一文字状の突出部を形成した摘みを設けたボディの上に、正面視における基本形状を円弧状とする分厚い湾曲盤からなるハンドルを設けた態様の構成、
そして、イ号意匠は、本件登録意匠の上記構成をそのまますべて具えている。本件登録意匠と意匠上の要部を共通にするイ号意匠は、看者に共通の美感を惹起せしめることは明らかで、類似であることを免れるものではない。
加えて、カッターマットの端部に沿って形成したカッターマット取り出し口の構成や、基台、レール、スライダーにおける明暗の調子などの表面態様の共通する点が前記構成の共通性とあいまって両意匠の類似性を強調するものとなっている。
これに反し、差異点は、形態の構成全体からみれば部分的ないし微弱なもので、両意匠の類否を左右する要素となるものではない。 差異点のうち、基台の枠体における差異については、構成の基本を同じくする枠体の中における部分的かつ微弱な差異であり、この点は、枠体の外形形状が相違する意匠が本件登録意匠に類似するものとして登録されていることを参酌すれば(意匠登録第978545号類似第1号、甲第3号証)、明らかである。
次に、ガイドレールの構成の差異については、イ号意匠のアームは、静態時においては全く裁断機のごくごく一部として看取されるだけのものであり、共通する全体の構成の中にあっては形態上の特徴を形成するものではない。また、アームを回転させガイドレールを持ち上げる態様は、動的意匠のように形状そのものが変化するものではなく、一定の形状が位置関係を変えるだけであるから、物品の形状にかかわる評価として重視できず、加えて、この態様は、公知のもの(意匠登録第787336号(甲第7号証))であり、イ号意匠独自のものでなく、また特異性もないから、この部分の形状を殊更重視することは正しいものでなく、結局、この差異は、両意匠を別異のものとする理由となり得ない。
スライダーの構成の差異については、イ号意匠は、上面中央に稜線状の突出部を形成する点で本件登録意匠と相違するが、この点は、円弧状をなす分厚い湾曲盤で形成したハンドルを直方体状のボディの上面を覆う態様に設けるという両意匠共通する特徴的構成の中にあって、形態の基調にいささかの変化も生じさせない部分的変化に過ぎず、スライダー全体の形態の中においては、部分的な差異というほかない。
また、ハンドルをスライダーのボディの上面全体を覆う態様としたか否かの差異も、本件登録意匠の類似意匠を参酌しても明らかなように、スライダーの形態の基調を変えるものではなく、部分的かつ微弱な差異である。
そうして差異点全体を総合しても、前記共通する構成によって生起される形態的特徴を超えるものではなく、両意匠は共通の美感を惹起せしめるものであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するというべきである。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、(イ)号図面及びその説明書に示す「事務用裁断機」の意匠は、登録第978545意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求めると答弁し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
意匠の要部の判断に当たっては公知意匠の存在を前提に行うべきである。蓋し、登録意匠の範囲はその出願時に公知であった意匠には及ばないからである。
ここに、被請求人は、本件登録意匠の公知意匠の存在を乙第1号証ないし乙第6号証として明確にする。
一方、請求人は、本件登録意匠の要部を判定請求書中のaないしcであるとしている。
これに対して、乙第1号証意匠には、請求人が本件登録意匠の要部であると主張するaの形態と同一若しくは極めて類似するものが開示されている。
請求人がbとして主張する本件登録意匠の要部については、乙第1号証ないし乙第6号証のいずれの公知意匠においても、基台の一方の長辺寄りに、細板状のレールと、その下部に長手方向に添って突出した定規様の紙押えを設けた形態が、明確に表れており、本件登録意匠の出願時には公知だったもので、要部とはなり得ない。
なお、引用した公知意匠は、細板状のレールが上面を円弧状曲面とし断面が扁平な蒲鉾状をなす形態と、紙押えが透明である形態については明確ではないが、紙押えが透明である点については、単独で要部とはなり得ず、レール形態については、本件登録意匠の後願に係る第三者の公知意匠(乙第7号証ないし乙第9号証)において、a及び紙押えが透明であることを除くb(上面を円弧状曲面とし、断面が扁平な蒲鉾状を呈すもの)の形態をすべて具える形態が表されており、これら後願の意匠は、審査において本件登録意匠とは非類似と判断されたのであるから、請求人の主張するa及びbの形態は意匠の要部とはみなされなかったことになり、請求人の意匠の要部に関する特定は失当である。
続いて、請求人がcとして主張する本件登録意匠の要部は、スライダーに関する形態であるが、基本形状が直方体状であるスライダーについては、乙第1号証ないし乙第6号証の全ての意匠が直方体状である。したがって、公知意匠に存在しない形態は、ボディ正面に円形の基盤の中央に一文字状の突出部を形成した摘みを設けた点と、正面視における基本形状を円弧状とする分厚い湾曲盤からなるハンドルの点とになる。本件登録意匠の摘み部分の形態については、公知意匠の摘み部分は本件登録意匠の類似第1号意匠のそれと同一の形態であるから、本件登録意匠の摘みの形態は公知の形態に類似することになり、意匠の要部たり得ない。したがって、意匠の要部として示されたcにおける本質的な要部は、公知意匠に存在しないところの「正面視における基本形状を円弧状とする分厚い湾曲盤からなるハンドル」にあるといわざるを得ない。
このように、本件登録意匠の要部とは、公知意匠との関係において整理すると、「正面視における基本形状を円弧状とする分厚い湾曲盤からなるハンドル」が非常に大きいウェイトを占めると理解するのが相当である。
そして、本件登録意匠の要部中、非常に大きいウェイトを占めるハンドルの形態におけるイ号意匠との差異については、イ号意匠のものは正面視中央部に天面を平坦とした稜線を有する「和風屋根型」と特定すべきであり、この平坦部を有する稜線は極めて特徴的なものであって、請求人の主張するような微差ではあり得ず、両意匠は、全体として異なった印象を与えるものである。
さらに、ガイドレールにおける両意匠の差異については、「両意匠の類否を支配するものではない。」と請求人はしているが、その判断に至った理由が示されおらず、また、イ号意匠にはガイドレールを回転させる機能面からアームが存在するのであって、アームはレールと異なる色調で基台端面の約5分の1という無視できないウェイトを占めており、また、乙第1号証ないし乙第6号証は、全てイ号意匠と同様にアームを有するものであって、これらの公知意匠が存在する上で本件登録意匠が登録されていることを考慮すれば、このような形態まで意匠の類否に影響を与えないという請求人の主張は、失当である。
結論すれば、イ号意匠は、本件登録意匠の重要な要部であるハンドルの形態が全く異なり、しかもガイドレールのアームという公知意匠の形態を踏襲するものであり、また、平面視においてガイドレールの反対側まで枠体を回り込ませている形態も考慮に入れると、イ号意匠と本件登録意匠は非類似の意匠であることは、明確である。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成7年4月24日に意匠登録出願をし、平成9年1月10日に意匠権の設定の登録がなされた登録第978545号意匠であり、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「事務用裁断機」とし、その形態を願書の記載及び願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとするものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書の(イ)号図面(写真)及びその説明書により示されたものであり、意匠に係る物品が「事務用裁断機」と認められ、その形態を(イ)号図面(写真)に現されたとおりとするものである(別紙第2参照)。
3.本件登録意匠とイ号意匠の対比検討
本件登録意匠とイ号意匠を対比するに、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態については、主として以下の共通点と差異点がある。
[共通点]
(1)やや分厚い平板状の紙台の左右両辺側に細幅状の枠体を配して、基台全体を平面視横長略長方形の板状とし、のガイドレールを、その両端部を基台の枠体に取り付けて基台の前辺寄り横一杯に配し、その上には回転刃付きのスライダーを摺動自在に設け、スライダー上部には手圧をかけて摺動するためのハンドルを設けたものである点。
(2)基台の回転刃が当接する部位に細い帯状のカッターマットを埋設し、基台の枠体の前端寄りにはカッターマットの端部に沿って小矩形凹状のカッターマット取り出し口を設けた点。
(3)基台の紙台表面には、方眼目盛りと用紙サイズガイドの鉤型線を表した点。
(4)ガイドレールのレールは、上面が側面視円弧状の曲面で、断面が扁平な蒲鉾型をなす細板状の板体としたものである点。
(5)ガイドレール下部に長手方向に沿って前方に突出した定規様の紙押えを設けた点。
(6)スライダーのボディは、略直方体状のものをガイドレールを跨ぐように係合し、その上面を正面視円弧状の曲面とし、正面に円形の基盤の中央に略一文字状に突出した摘みを設けたものであり、ハンドルは、正面視略円弧状の分厚い湾曲盤からなり、スライダーのボディ上面を覆うものである点。
[差異点]
(イ)基台の枠体の両端において、本件登録意匠が平面視やや斜状に形成したのに対し、イ号意匠は直角状に形成した点。
(ロ)本件登録意匠が、基台の枠体について、紙台よりわずかに段状に高くし、上面を平坦とし、下面側外縁中央付近に凹状部を設けた態様とし、基台下面は、紙台下面部を塞がずに、そこが長方形状の凹部となっている態様であるのに対し、イ号意匠は、基台の枠体について、紙台に接する側とガイドレール周辺を、紙台と同一平面に形成し、それ以外の縁部を紙台よりわずかに段状に高くした態様とし、基台下面を平板で塞いだ、凹部のない態様とした点。
(ハ)ガイドレールの基台への取り付け態様において、本件登録意匠が、レール両端部に突片を垂設し基台の枠体に嵌合した態様のものであるのに対し、イ号意匠は、レール両端部にレールと直角に構成される暗調子のアームを設け、それを基台の枠体に面一状に嵌合して端部を軸着し、その軸を支点としてアームを回動させガイドレールを持ち上げ得る態様とした点。
(ニ)スライダーのハンドルにおいて、本件登録意匠が、上面を滑らかなものとし、スライダーのボディ上面を若干の余地を残して広く覆う態様であるのに対し、イ号意匠は、上面中央の前後方向に天面が平坦な稜線状の突出部を形成し、スライダーのボディ上面全体を覆う態様である点。
そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、共通点のうち、とりわけ、(4)の、ガイドレールのレールは、上面が側面視円弧状の曲面で、断面が扁平な蒲鉾型をなす細板状の板体とした態様と、(6)の、スライダーのボディは、略直方体状のものをガイドレールを跨ぐように係合し、その上面を正面視円弧状の曲面とし、ハンドルは、正面視略円弧状の分厚い湾曲盤からなり、スライダーのボディ上面を覆うものとしたスライダー全体の態様については、この種物品の分野において本件登録意匠出願前にはみられない態様であって、本件登録意匠の特徴的態様といえ、イ号意匠もこの特徴的態様を有しているものであることから、これらの共通点は、他の共通点とも相俟って両意匠の形態全体の基調を形成し、両意匠間に強い共通感をもたらしているものといえ、結局のところ、共通点は、全体として類否判断に大きな影響を与えるものである。
それに対し、差異点については、(イ)の点は、基台の枠体の両端のわずかな形態処理差であり、両意匠共に基台全体を平面視横長略長方形とした中での微差に過ぎない。
(ロ)の点のうち、基台の枠体上面の差異については、イ号意匠の段状はわずかに高くした程度のものであり、枠体の上面を紙台よりわずかに段状に高くした態様を有する点では両意匠共通する中での微弱な差異に過ぎず、また、下面側外縁の凹状部の有無差及び基台下面を平板で塞いだか否かの差異については、ほとんど看者の目に留まらない部分である基台下面側の差異に過ぎず、してみると、(ロ)の点は、類否判断にさして影響を与えるものではない。
(ハ)の点は、ガイドレールの基台への取り付け態様におけるアームの有無差であるが、アーム回動時の態様においては顕著な差異といえるものの、イ号意匠のように、アームを回動させガイドレールを持ち上げ得る態様が、意匠登録第787336号公報(甲第7号証)、特許第2867062号公報(特開平3-27749号、乙第3号証)などにみられるように従来から公知の態様であった点を考慮すると、この態様自体は、看者の注意をことさら惹き付ける特徴的態様であるとはいえず、その上、イ号意匠のアームは、載置時においては基台の枠体内にそれと面一状に嵌め込まれ一体化した態様となっていることから、アームを暗調子としたものであるとしても、さほど目立つものではなく、その差異は両意匠の形態全体における強い共通感を凌ぐまでには至っていない。
(ニ)の点のうち、スライダーのハンドルの上面中央の稜線状の突出部の有無差については、(6)の両意匠共通する特徴的態様からくるスライダー全体の強い共通感の中にあっては、その細部の変更に係る部分的差異に止まり、類否判断に大きな影響を与えるものではなく、また、スライダーのハンドルがボディ上面全体を覆う態様であるか否かの差異についても、本件登録意匠もスライダーのボディ上面を広く覆う態様であることから、その覆う面積の若干の多少差に過ぎず、スライダー全体の強い共通感の中にあっては、部分的かつ微弱な差異であり、類否判断に与える影響は小さい。
そして、これらの差異点を総合しても、両意匠の類否判断を左右するまでには至っておらず、差異点は上記共通点が惹起する強い共通感を凌駕することができないものであるから、意匠全体として、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものである。
4.むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。

別掲
判定日 2004-01-20 
出願番号 意願平7-11552 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (F2)
最終処分 成立  
特許庁審判長 遠藤 京子
特許庁審判官 渡邊 久美
伊藤 晴子
登録日 1997-01-10 
登録番号 意匠登録第978545号(D978545) 
代理人 濱田 俊明 
代理人 斎藤 暸二 

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