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審決分類 審判 判定   属さない(申立不成立) D5
管理番号 1094838 
判定請求番号 判定2003-60064
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2004-05-28 
種別 判定 
判定請求日 2003-08-15 
確定日 2004-04-05 
意匠に係る物品 シャワー入浴器 
事件の表示 上記当事者間の登録第1030558号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠並びにその説明書に示すシャワー入浴器の意匠は、登録第1030558号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、イ号意匠並びにその説明書に示す意匠(以下、「イ号意匠」という)は、登録第1030558号意匠(以下、「本件登録意匠」という)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求めると申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。
本件登録意匠の要部について述べれば、この種物品における意匠上の創作の主たる対象は、扉と本体との結合した形態をいかに構成するかという構成態様にあることは明らかで、本件登録意匠は、卵形と親しみ易い新幹線等電車の先頭車両部の形とを融合させデフォルメして本件登録意匠の形態の中に創作したものであって、先行する周辺の意匠には全く見られない大きな丸みのある安らぎと安心感と優しさのある新しい形態を創作したもので、かつ、底部が開放されていることからシャワー入浴後の汚れを蓄積させることなく簡単に除去でき、感染等を防ぐことができるという機能上も重要な態様と相俟って、本件登録意匠の基調を表出している。
本件登録意匠とイ号意匠を比較すると、以下のとおりである。
(1)両意匠の共通点
(a)基本的な構成態様において、横開き扉と本体とからなり、本体の上方、前方中央、前方下方に至る曲線が滑らかに連なり、丸みのある形態で、上部に車椅子に乗ったまま首から上を出しておける穴を構成し、底部は開放された形状とし、安らぎと安心感と優しさのある創作としている。
(b)具体的構成態様において、本体上方がわずかに膨らみ、前方中央が丸みのある曲線で下方に向かい、前方下方は上の曲線に沿うが如く内側に至り、全体として滑らかな丸みのある形状となっている。扉部は横開きとし、使い易い形状としている。上部には車椅子に乗ったまま首から上を出しておける穴を構成し、利用者に不安を与えないようにし、底部は開放された形状とし、シャワー入浴後の汚れ等を簡単に除去できるようにし感染等を防ぎ安心して使用できるようにしている。
(2)両意匠の差異点
(a)本体の形状が、本件登録意匠は、上方から前方中央、前方下方に至る曲線が滑らかに連なり、丸みのある形態としているのに対し、イ号意匠は、前方中央が少し突出した状態で滑らかに丸みのある形態としている。
(b)扉部が、本件登録意匠は平面から見て左開きとし中央部が凹んで、ドアハンドルは右側についているのに対し、イ号意匠は平面から見て右開きとし、平面中央に洗髪トレーの凹みを設けドアハンドルは扉部上部中央に設けている。
(c)首周りを覆うカバーが、本件登録意匠は後ろから覆うように装着するのに対し、イ号意匠はスライド式で覆い装着する形状としている。
(d)底部の開放された端部が、本件登録意匠はわずかに内側に巻き込むような形状としているのに対し、イ号意匠は端部を垂直に落ち込むような形状としている。
(e)扉部と本体の下部周囲に設けられた帯状のアクセントが、本件登録意匠はわずかに突出した形状としているのに対し、イ号意匠は凹みのある形状としている。
(f)操作パネル、ハンドシャワーが、扉側から見て、本件登録意匠は右側にあるのに対し、イ号意匠は左側にある。
そこで、両意匠の共通点及び差異点を比較検討するに、両意匠の共通点は、基本的な構成態様にかかるものであり、特に、本件登録意匠の要部である扉と本体との結合の大きな丸みのある全体形態、及び底部を開放して汚れを蓄積することなく簡単に除去できる形態が共通しており、両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
両意匠の差異点の(a)については、大きな丸みのある形態の中で前方中央が少し突出しているか否かは大きな丸みの中に融合されることから、差異点(b)については、扉が右開きであり、洗髪トレーが設けられているが、扉が右開きか左開きかは使用に合わせ随時対応すべき範囲のものであり、洗髪トレーがあるかないかもこの種物品では常套手段として随時対応すべき範囲の形状で特に創作を必要とする形状でないことから要部とならず、差異点(c)については、首周りを覆うカバーがスライド式であるが、首周りをを覆うことに変わりはなく使用に合わせて随時対応すべき範囲であることから、差異点(d)については、底部の端部を垂直にした形状であるが、底部を開放してあることに変わりないことから、差異点(e)については、帯状アクセントを凹みのある形状としているが、腰回りに帯状アクセントを設けていることに変わりないことから、差異点(f)については、操作パネル、ハンドシャワーが左側にあるが、右側にあるか左側にあるかはこの種物品では常套手段として随時対応すべき範囲の形状であることから、それぞれ、差異点(a)ないし差異点(f)は、特段顕著な相違といえず、類否判断に与える影響は微弱である。
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は、登録第1030558号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求めると答弁し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。
本件登録意匠及びイ号意匠とを比較検討する際には、両者の要部、すなわち取引者、需要者の最も注意を惹く部分、目立つ部分における差異を抽出して対比するべきである。なお、両意匠に係る物品が共通することは認める。
判定請求人は、両意匠を比較し、基本的構成態様並びに具体的構成態様における共通点として縷々延べているが、両意匠は、その要部において格段に相違するので、判定請求人の主張を仔細に検討して比較するまでもなく両意匠が類似しないことは明らかである。
まず、両意匠における、全体的に「卵形あるいは新幹線等電車の先頭車両部の形態(上方から前方中央、前方下方に至る曲線が滑らかに連なり丸みのある形態)」
となっている点は、乙第2号証によれば本件登録意匠の出願日前から既に存在する形態であるから、両意匠の要部となるものではなく、両者を比較対照とする要素とはならない。両者の要部を対比してその差異を以下に述べる。
本件登録意匠には、正面、背面、左右側面の全周に亘って、幅広(高さの約1割程度)の帯状のストライプを模様として形成している。これに対して、イ号意匠には、帯状の横方向の凹部(くびれ、えぐれ)が、正面を除いた側面及び扉側面の全周に亘って幅広(全体の1/3を占める)に形成されている。これらの形状、模様は判定請求人も認めるように各意匠の「アクセント」に係るものであり、両意匠において強調される特徴部分であり、その差異は両意匠における最も目立つ部分におけるものである。
本件登録意匠においては、平面図及び底面図に表れるように、扉部表面の中央部に上面から底面に亘って縦方向に全体の2/3を占めた凹部が形成されている。これに対してイ号意匠には、このような凹部は何ら形成されておらず、前記したように両側面の凹部と連なる帯状の横方向の凹部(くびれ、えぐれ)が形成されている。これらの形状は本物品を使用する被介護人が向き合う部分であり、このような顕著な差異点は両意匠の要部に係るものである。
イ号意匠には、扉部の平面(表面)に洗髪トレーが大きく形成されているのに対して、このような洗髪トレーは本件登録意匠には何ら形成されていない。洗髪トレーの配設はイ号意匠に係る物品の技術的機能を増強したものであり、洗髪トレーは看る者の注意を惹く部分であるから、両意匠の類否判断においては重要な要素となるものである。
本件登録意匠における首周りを覆うカバーは扉部に跳ね上げ式で配設、形成されているのに対して、イ号意匠における首周りを覆うカバーは本体にスライド式で配設、形成されている。また、イ号意匠の扉部表面にはシャンプーや石鹸等の置き場やタオル掛けが配設、形成されているのに対して、これらは本件登録意匠には見られない。このような相違点も本物品の使用態様の差異によるものであり、これらの相違点も看る者の注意を惹く部分であるから、両意匠の類否判断においては重要な要素となるものである。
以上のように、両意匠は、それらの要部において顕著な差異を有するものであり、その他の相違点を仔細に述べるまでもなく、両意匠が類似しない別異の意匠であることは、明らかである。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成8年10月25日に意匠登録出願をし、平成10年11月13日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1030558号意匠であり、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「シャワー入浴器」とし、その形態を願書の記載及び願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとするものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は、甲第2号証に示すカタログ掲載のハーモニーと称する意匠であり、意匠に係る物品が「シャワー入浴器」と認められ、その形態を同カタログ掲載の写真版、図面及びその間連記事に現されたとおりとするものである(別紙第2参照)。
3.本件登録意匠とイ号意匠の対比検討
本件登録意匠とイ号意匠を対比するに、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態については、主として以下の共通点と差異点がある。
[共通点]
(1)全体は、シャワー使用時に車椅子に乗った被介護者を収容する本体に横開きの扉を配したものであり、使用者向方を前方として、下面と背面を開放したやや奥行きの長い略直方体筺状の本体の前面側を、上端から下寄りまでを緩やかな曲面で前方へ斜状に下降した後に向きを変え、その下方を後方へ緩やかな斜状に下降して、前面全体をやや大きく突出させ、本体の背面側には、その全体を覆う、取っ手を配した厚みのある扉を軸着し、稜部全体に丸み付けした態様のものとしている点。
(2)本体上面の扉ぎわ中央を大きく開口して、そこに、一辺中央にU字状の大きな切り欠きを有し、そこを首出し部とする板状の首周りカバーを配し、首周りカバーを含む全体の上面中央一帯がわずかに盛り上がって、上面に扁平な曲面からなる丘状の段部を形成し、本体側面上寄りにはハンドシャワー及び操作パネル部を配している点。
[差異点]
(イ)扉を含む全体の周側面の態様について、本件登録意匠は、上方に対しわずかに段状に突出させた下寄りの全周に亘り細幅帯状の態様を表しているのに対して、イ号意匠は、前面を除く中央全周に亘りやや深い広幅横溝状の凹陥部を形成している点、さらに、扉について、本件登録意匠は、中央の上下に亘りやや深い広幅縦溝状の凹陥部を形成し、コの字状の取っ手を上寄り右側の矩形凹陥部内に小さく縦向きに配しているのに対して、イ号意匠は、上面中央にやや大きな略楕円凹陥状の洗髪トレーを設け、上寄り中央には、大きな矩形凹陥状の棚を設け、タオル掛けを兼ねるコの字状の取っ手を棚を跨いで大きく横向きに配している点。
(ロ)首周りカバーについて、本件登録意匠は、前後辺を前方にやや湾曲した略長方形状で、切り欠きを前辺に配し、上面左右に一対のコの字状の小取っ手を配した態様として、後辺側を扉に回動自在に軸着し、そこを支点に使用者の背後から回転して覆い使用するものとしているのに対して、イ号意匠は、前辺が弧状の略半円形状で、切り欠きを後辺に配した態様として、本体にスライド自在に装着し、使用者の前方からスライドして覆い使用するものとしている点。
(ハ)本体前面の突出態様について、本件登録意匠は、イ号意匠に比して、頂点を下方位置とし、突出の度合いを大きくしている点。(ニ)ハンドシャワー及び操作パネル部を配置した本体側面は、本件登録意匠が右であるのに対して、イ号意匠は、左である点。
そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、まず差異点については、(イ)の点のうち、まず、扉を含む全体の周側面の態様差は、本件登録意匠の細幅帯状の態様は単に表面上に表れる模様状のものに過ぎないのに対して、イ号意匠の広幅縦溝状の凹陥部は周側面の形状自体に大きく影響するものであるから、その差異は視覚的に顕著なものであり、そして、扉の態様差についても、先の差異にさらに、扉の形状自体に大きく影響する広幅縦溝状の凹陥部の有無、洗髪トレーの有無、棚の有無、及び、取っ手の大きさと配置の差異が加わって、視覚的に顕著な差異となっており、結局のところ、これらの差異は、相俟って両意匠の基調の形成に強く関わり、両意匠別異の感を強く醸し出すに充分な効果を発揮しているものといえるから、類否判断を左右するものである。
(ロ)の点については、首周りカバー自体の形状差のみならず、その取り付け方の差異とそれに伴う使用方法の差異も加わっており、その差異は無視できないものであり、(イ)の差異にさらに加わることで両意匠の別異感を補強する効果を発揮している。
(ハ)の点については、わずかな差異に過ぎず、(ニ)の点については、適宜選択される常套的な配置に係る差異に過ぎず、いずれの差異も、類否判断に与える影響は小さい。
一方、共通点は、(1)と(2)の点が相俟って両意匠の形態全体に係わり、その基調の形成にも係わるものではあるが、上記のとおりの差異点が醸し出す強い両意匠別異の感の中にあっては、その共通点として働く効果はさほど大きなものではない。
したがって、差異点は、とりわけ、(イ)と(ロ)の点が相俟って両意匠別異の感を強く醸し出しており、その他に(ハ)と(ニ)の差異点もあり、共通点を凌駕することは明らかであるから、意匠全体として、イ号意匠は本件登録意匠に類似しないものである。
4.むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2004-03-24 
出願番号 意願平8-32163 
審決分類 D 1 2・ 113- ZB (D5)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正田 毅 
特許庁審判長 遠藤 京子
特許庁審判官 市村 節子
渡邊 久美
登録日 1998-11-13 
登録番号 意匠登録第1030558号(D1030558) 
代理人 濱田 初音 
代理人 打揚 洋次 
代理人 田澤 博昭 
代理人 加藤 公延 
代理人 田澤 英昭 

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