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審決分類 審判    B3
管理番号 1116258 
審判番号 無効2004-88010
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2005-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-05-18 
確定日 2005-04-01 
意匠に係る物品 装飾用下げ飾り 
事件の表示 上記当事者間の登録第1201825号「装飾用下げ飾り」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1201825号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及び請求の理由
1.請求人は、意匠登録第1201825号の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由を審判請求書の記載のとおり主張し、立証として、甲第1号証ないし甲第6号証(枝番を含む)の書証、検甲第1号証の1および2(見本と写真)を提出した。その要点は以下のとおりである。
本件登録意匠は、その出願前公知の検甲第1号証の意匠と同一のものであり、意匠法第3条第1項第1号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。
甲第2号証(被請求人が作成し公開しているホームページ(最終更新履歴2004年5月7日付)のプリントアウト)の1によれば、被請求人自身、検甲第1号証の1及び検甲第1号証の2の意匠が本件登録意匠と同一であることを認めている。そして、検甲第1号証の2の「光る!白バイマスコット(黒)」の意匠が、本件登録意匠出願日である平成15年5月22日以前に販売されていたことを認めている。
甲第3号証(被請求人が作成し公開していたホームページ(「UPDATE」2003年6月4日付)のプリントアウト)により、検甲第1号証の1である「PK001光る!白バイマスコット(青)」の意匠が本件登録意匠出願日である平成15年5月22日以前に販売されていたことは明らかである。
被請求人が作成し公開していたホームページのプリントアウトである甲第4号証の1には「UPDATE 2002年11月27日」と記載され、被請求人の作成・公開に係るホームページにおいて、2002年11月27日の時点で、検甲第1号証の1の意匠が公開され少なくともその販売の申出がされていたことは明らかである。
甲第5号証、(被請求人作成に係る請求人宛の「光る!白バイマスコット」(検甲第1号証)のFAX注文票」)の内容により、平成15年5月22日以前より、検甲第1号証の「光る!白バイマスコット」の意匠が販売されていたことは明らかである。
甲第6号証(請求人作成に係る被請求人宛の「光る!白バイマスコット」の「発注ご確認書」及び被請求人からの回答書)の1の内容から、平成15年5月22日以前より、検甲第1号証の「光る!白バイマスコット」の意匠が販売されていたことは明らかである。
よって、本件登録意匠は、その出願前公知の検甲第1号証の意匠と、意匠に係る物品及び構成態様について同一であることから、意匠法第3条第1項1号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。
2.答弁に対する弁駁
請求人は、被請求人の答弁に対して、弁駁書に記載の通り反駁し、甲第7号証ないし甲第14号証(枝番を含む)の書証を提出した。その要点は以下のとおりである。
2002年11月30日付で「Internet Archive Wayback Machine」が保存した甲第7号証の1に係る意匠の意匠的特徴は、甲第2号証の1の「PK001光る!白バイマスコット(青)」とも検甲第1号証の1の意匠とも完全に一致する。加えて、甲第2号証の1の2つの画像と、甲第8号証(2003年1月23日付で「Internet Archive Wayback Machine」が保存した、UPDATE2003年1月18日付の被請求人ホームページ)の3の画像とを比較すると構図、陰影を含め細部に至るまで一致することにより、検甲第1号証の1ないし2の意匠が本件登録意匠の出願前より販売されていたことは明らかである。
平成16年1月1日に発効されているPCTガイドライン(特許協力条約(PCT)に基づき行われる国際調査及び国際予備審査のためのガイドライン)において「Internet Archive Wayback Machine」が、過去の特定時点におけるホームページをそのままの状態で保存していることを前提として、その保存日時を当該ホームページにおける先行技術の公開日の基準とすることが認められており、国立国会図書館及び日本有数のメディア、IT関連事業者から、過去のウェブサイトを保存している画期的なサイトとして紹介されており、過去の特定時点におけるホームページをそのままの状態で保管しているものとして認知されていることは明らかである。
「Internet Archive Wayback Machine」が保存している本件登録意匠出願日前の作成日付にかかる被請求人ホームページの記載内容に照らし、本件登録意匠と同一である検甲第1号証の1ないし2の意匠が、本件登録の出願前に被請求人によって販売されていたこと、あるいは、2002年11月30日付で「Internet Archive Wayback Machine」が保存した被請求人ホームページにおいて、本件登録意匠の特徴をすべて具備する、同一の意匠(甲第7号証の1)が公開されていたこと、したがって、本件登録意匠が新規性を欠き無効とすべきものであることは明らかである。
第2.被請求人の答弁及び答弁の理由
1.被請求人は、請求人の請求は棄却する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めるとし、その理由として答弁書及び答弁書補充書に記載のとおり主張し、乙第1号証の書証を提出した。その要点は以下のとおりである。
本件登録意匠は、出願前公知の意匠と同一のものではない。
本件登録意匠の最大の特徴は、(1)白バイ、(2)警察官の胴体部分、(3)警察官の頭部の大きさのバランスにある。甲1をみると、白バイの大きさと比較して、警察官の胴体部分は比較的小さく、また、白バイ及び警察官の胴体の大きさと比較して、警察官の頭部分が極端に大きいことが判る。請求人の行う本件登録意匠の説明がこの(1)(2)(3)の大きさのバランスという意匠上の最大の特徴に配慮していないから、請求人の説明は、全く不十分である。
検甲第1号証の1、検甲第1号証の2の製品は、本件登録意匠の出願後、すなわち、平成15年5月22日後に被請求人が販売したものである。
被請求人は、「光る!白バイマスコット」という名称の携帯用着信マスコットを本件登録意匠出願前に販売していたが、同製品は何度も改良を加えられ、モデルチェンジを重ねられ、本件登録出願前に販売したものは、本件登録意匠と同一ないし類似の意匠上の特徴を持つものではなかった。
甲第6号証の「発注ご確認書」をみても、「訂正部分」として訂正指示を行い、改良を加えていたことが判る。このような改良は適宜行われていた。
甲第3号証の1枚目の「5/19時点での状況」というのは、「2003年」の5月19日ということを必ずしも意味せず、3枚目の写真上の同製品も、本件登録意匠と意匠上の特徴を異にし、同一ないし類似のものではない。
「INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE」のサービスの信用性を争う。ホームページ作成者が何ら関与することのない、しかも、外国の、運営団体がどのような主体かも不明な運用するサービスなど信用できる筈はない。よって、仮に甲第4号証の2ないし3を操作し、甲第4号証の1が表示されたとしても、甲第4号証の1には何ら信用性など付与されない。
甲第5号証の示す事実は、「光る!白バイマスコット」という名称の製品が注文されたことに過ぎず、意匠上同一ないし類似する製品を本件登録意匠出願前に被請求人が販売していた事実を意味するものではない。
甲第6号証記載のとおり、被請求人は、同製品の改良を重ね、その改良の結果が本件登録意匠であって、同意匠出願時以前に販売していた製品とは全く別のものである。よって、同証拠は、被請求人が本件登録意匠と同一ないし類似する製品を販売していたことを示すものではない。
乙第1号証をみると、更新が「UPDATE 2003年5月7日」、すなわち平成15年5月7日であることが判る。しかしながら、同証拠の最下右部に表示されたものは平成15年度中に販売しておらず、よって、同ホームページの実際の更新日は平成16年5月7日であるが、乙第1号証では誤って「平成15年」と誤記されたのである。よって、請求人の指摘する同ホームページ上の記載は、全てが誤記である余地がある。請求人の主張は、信用性に大きく疑いのあるホームページ上の記載に依拠する点から、信用できない。
被請求人の製品は、限定された警察関係者のみが購入可能であり、不特定者が購入可能ではなかった。直接販売場所で販売されていた被告製品は、被告製品のうちごく一部のものであり、請求人が重ねて販売されたことを論ずる「光る!白バイマスコット」でさえ、本件登録意匠出願前に公知の意匠ではなかった。
更に、答弁補充書において、
本件登録意匠の形態を、基本的構成態様について、
(ア)二本のタイヤを有する白バイと、
(イ)当該白バイに跨り、両手でハンドルを持つ姿勢で乗車するヘルメット、サングラス、及び制服を着用した警察官、からなり、
具体的構成態様について、
(ウ)白バイの正面の風防部分に「Police」と記載され、
(エ)当該風防部分の下方向に、逆台形状のメインライト、及び、楕円状の二つの方向指示灯を有し、
(オ)白バイの左右側面には、バイクの進行方向を前方として、前方斜め上方向を向いた楕円状の突起物を組合せたものからなる赤色灯が配置され、
(カ)当該赤色灯の後方、警察官の足の下に、丸状のステップが配置され、
(キ)当該ステップの後方、白バイの左右側面に「Police」と記載された略5角形状のボックスが配置され、
(ケ)当該ボックスの上部であり、白バイの平面からみて左右中央に、楕円形の半球からなる赤色灯が配置され、
(コ)白バイの後方からみて、上下及び左右の中央部付近に、長方形状もしくは方形状に分割配置されたテーブル及び方向指示灯を有し、
(サ)当該テーブルランプ等の右斜め下側に丸状のマフラーを有し、
(シ)警察官のヘルメットには、正面側開口部に沿って形成されたバイザーと、
(ス)当該バイザーの上側中央に存在する丸状のマークと、
(セ)当該マークの両脇から、ヘルメットの頂点に向かって伸び、頂点で一体となり、後部に向かって伸び、もう一度二本に別れ、下記線に至る線であって、平面からみて略倒れH状に現れる線と、
(ソ)当該の線の左右両脇に配置された4つの丸状突起と、
(タ)ヘルメット側部を横方向に走る2本の線とがあり、
(チ)ヘルメットから露出する警察官の顔面上部には、サングラスが存在し、
(ツ)当該サングラスの下に、半円状の鼻が位置し、
(テ)ヘルメットのバイザーの左脇から、顔面下部の口下中央部に至るマイクがあり、
(ト)警察官の制服左腕上腕部には、略三角形状の模様が存在し、
(チ)胴部には、横方向に伸びる一本のベルト、及び略楕円状のポシェットがあり、
(ニ)脚部には、当該ベルト及びポシェットから下記ブーツに至る一本の線が伸び、
(ヌ)足部にはブーツを着用している。
以上のとおり、本件登録意匠は、実際の白バイを縮小模型化した程度に、細部に亘り細かい特徴を有し、同細かい特徴を登録意匠の特徴としている。上記(ア)ないし(ヌ)の具体的構成態様こそが本件登録意匠を他の意匠と区別する特徴的な差異である。この観点から、請求人提出の証拠と本件登録意匠は比較されなければならない。
ホームページの記載内容ないしインターネットの信用性に問題があることから、どの写真に載っている製品が本件登録意匠登録申請前にに販売していたものか判らないが、少なくても請求人提出証拠のうち、本件登録意匠出願前のものと窺われる写真中に、本件登録意匠の最大の特徴である上記(ア)ないし(ヌ)の具体的構成態様につき共通した特徴を持つものはない。
よって、請求人が提出したこれらの写真のホームページ上の掲載によって、日本国内において、本件登録意匠が不特定者に秘密でないものとして現実に知られている状態にあったとは到底いえない。
被請求人は、「光る!白バイマスコット」という名称の携帯着信マスコットを本件登録出願前に販売していた。しかしながら、同製品には、何度も改良が加えられ、改良後の最終的な形状が本件登録意匠である。本件登録意匠と同一ないし類似する意匠上の特徴を有する製品は、本件登録意匠出願前に販売されたことはない。本件登録意匠に無効原因がないことは明白である。
2.被請求人の第2答弁及び理由の要点
被請求人は、請求人の弁駁に対して答弁書に記載のとおり答弁した。その要点は以下のとおりである。
甲2の1のような不明瞭な写真から同写真中の意匠と本件登録意匠が共通するなどということは判断不能である。
本件に関しては、ホームページ上の写真などから客観的に同一の特徴を有する意匠が出願前に公知になっているかが問題となる。この客観的な判断が、被請求人の主張如何によって変わることはない。
「Internet Archive Wayback Machine」に関し、PCTガイドラインは、「検討をすることができる」と、検討する余地のある材料を当局に示し、同材料を参考にするか否かは同当局に判断を委ねるだけである。
請求人がいうように、ホームページをそのままの状態で保存していることなど前提にしていない。また、「Internet Archive Wayback Machine」の保存日時を当該ホームページにおける先行技術の公開日基準とすることも認めている訳でもない。
「Internet Archive Wayback Machine」が様々な媒体で紹介されていたとしても、これら紹介媒体も信頼性の検証など行ってなく、また、甲12の5の1をみると「イメージファイル」や「広告」などが削除され、ホームページが手を加えられた状態で表示されており、同サイトが過去のホームページをそのまま保存していないことが判る。よって、同サイトに請求人が主張するような信頼性はない。
弁駁書7ないし11頁について、甲第7号証の1からは、弁駁書記載(d)(e)(f)(g)(h)(i)(j)(m)(n)(q)(s)(t)の点について、請求人主張どおりの意匠的特長が認められないことから、本件登録意匠と同証の写真に係る意匠が一致ないし類似しているとはいえない。
本件登録意匠取得は、平成16年2月27日であるのだから、請求人がいうように「平成15年6月5日」から11ヶ月に亘り「意匠登録第1201825号」などという記載がなされる筈はない。
被請求人の製品は、特定少数の者しか購入できず、また、被請求人の製品「光る!白バイマスコット」が必ずしも「一般の方」が購入、閲覧可能であったわけではない旨の主張をしたのである。にも拘わらず、請求人は、被請求人が「本件登録意匠に係る商品」を不特定多数に対し、販売、閲覧させていたことを被請求人自身が認めたなどと論ずるのは不当である。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年5月22日に出願され、平成16年2月27日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1201825号の意匠であって、登録原簿及び出願書面の記載によれば、意匠に係る物品は「装飾用下げ飾り」であって、その形態は願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙1参照、各図の本来の大きさは、甲第1号証の2に示された大きさであるが、出願図面の画像データが有する内容をより忠実に再現するため、拡大した大きさで作成した。)
2.甲号意匠
甲号意匠は、平成14年11月頃、有限会社有富商会がインターネットを介し販売していた「PK001光る!白バイマスコット(青)」の意匠であって、その形態の要旨を甲第7号証の1に現されたとおりとしたものである。(別紙2参照)
なお、請求人は、本件登録意匠は、出願前公知の検甲第1号証の1及び2の意匠と同一であると主張するが、検甲第1号証の1及び2については、本件登録出願前販売されたものであると判断するには根拠が十分でないから、請求人が出願前販売されていたとする「PK001光る!白バイマスコット」の形態認定に採用することはできない。
甲第7号証の1は、インターネット上の「Internet Archive Wayback Machine」のサイト(甲第4号証の2参照)において「http://www.mametan2.com」を検索し、同サイトが2002年11月30日付(Nov30,2002)で保存した(甲第4号証の3及び甲第7号証の2参照)、有限会社有富商会(被請求人)が運営する防犯&防災グッズ販売店「まめたん」のUPDATE2002年11月27日付ホームページのトップページ(甲第4号証の1及び甲第7号証の3参照)から、リンクにより繋げられた(a)「警察グッズ販売窓口」のページ(甲第7号証の4参照)を介し、リンクにより繋げられた(b)「商品カタログ」(甲第7号証の5参照)のページから、更にリンクにより繋げられた「PK001光る!白バイマスコット(青) 」の1/2ページ(甲第7号証の6参照)左上に現された2図の画像データに基づいて作成されたものである。
なお、当該UPDATE2002年11月27日付ホームページには甲第7号証の3ないし6の書証に示されるように「PK001光る!白バイマスコット(青) 」を示す画像が複数あり、その中で最も鮮明なものは甲第7号証の6の1/2ページに示されたものであるが、同証に表されたものは印刷の特性上、コンピューターの端末表示画面で視認できるものに対して一般的に不鮮明となることは明らかである。一方、当審においてインターネットの「Internet Archive Wayback Machine」のサイトから、前述のごとく弁駁書6頁11行ないし18行の記載内容に沿ってリンクを順にたどっていったところ、甲第7号証の2ないし6のコンピューターの端末表示画面上における反復再現性が確認され、また、甲第7号証の6の1/2ページの同表示画面上において確認できたものは、同証の6として提出されたものと比較するとより鮮明であり、甲第7号証の1に示されたものとほぼ同等と認められる画質が確認され、かつ、同証は何ら作為的改変はなされていないものと認められることから、甲第7号証の1として示されたものを甲号意匠として採用する。
3.甲号意匠の公知性について
被請求人は「Internet Archive Wayback Machine」について、ホームページ作成者が何ら関与することのない、しかも、外国の、運営団体がどのような主体かも不明な運用するサービスであり、請求人の指摘する同ホームページ上の記載は全てが誤記である余地があり、「イメージファイル」や「広告」などが削除され、ホームページが手を加えられた状態で表示されており、同サイトが過去のホームページをそのまま保存していないことから、信用することができない旨主張する。
しかしながら、「Internet Archive Wayback Machine」のサイトについては、甲第10号証の1、甲第12号証の1ないし8に示されているように、公的機関、日本有数のメディア、IT関連事業者等から、過去のウェブサイトを保存しているサイトとして紹介されていることから、過去の特定時点におけるホームページを保管しているものとして社会的に認知されているものと認められ、被請求人のいうように、同サイトが、ホームページ作成者が何ら関与することがなく、運営団体が外国であり、また、被請求人のホームページ上の記載に多くの誤記があり、「イメージファイル」や「広告」などが削除された状態で表示されているとしても、甲号意匠が公然知られていたか否かについて判断する根拠となるのは、当該サイトにおける甲第7号証の1の図版の元となる画像データの記録日であって、甲第7号証の2に示された被請求人のホームページに関する記録履歴とそのホームページ更新日との整合性が認められ、その日付の改竄、ないし、甲第7号証の1の図版の元となる画像データが当該日付以降に追加されたと解釈することは困難であり、格別な根拠がない限り甲号意匠が同サイトの記録日において公然知られた状態にあったと解するほかない。
4.本件登録意匠と甲号意匠との比較検討
そこで、本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、両意匠は意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点、及び、差異点がある。
すなわち、両意匠は、主たる共通点として、
(1)オートバイ(白バイ)、及び、これに跨り両手を前に出しハンドルを握る、ヘルメット、制服、及びブーツを着用した警察官を、小型模型(ミニチュア)化したものであり、警察官は胴部と手足をかなり短く、ヘルメットを含む頭部全体は胴体部より大きな概略球形状に誇張変形表現(デフォルメ)し最も目立つ部位を占めており、オートバイは全体の高さをやや低く、ボディ部の正面視および背面視における左右幅は高さに対してやや広めで、2本のタイヤは、オートバイの前後幅に対してやや小さく、かつ、幅広に誇張変形表現したものである点、
(2)ヘルメットにつき、後頭部から額、耳付近までを覆う顔が僅かに露出するだけの頭部の広い範囲を覆うもので、庇状鍔部を有しており、耳部付近に前記鍔部と滑らかにつながるやや幅広状の縁部を表した点、
(3)ヘルメットの具体的態様につき、前側中央に概略円形状の飾り部を設け、この飾り部を上部側から囲う山形のラインを表し、後頭部側には横方向2本のラインを表し、そのラインの上、後ろ側中央に前側と同様の山形ラインを表している点、
(4)ヘルメットから露出した顔の部分につき、ほぼ正面を向き、顎部を含め全体が丸顔状であって、正面のほぼ上半分に暗調子で描いただけの大きなサングラスを表し、該サングラス部につき、下側を円弧とした半円を左右に並べ、その間を凹弧状に繋ぎ中央の鼻部付近を深く抉った態様とした点、
(5)顔の左側につき、ヘルメットの脇から斜め下の口付近まで伸びた細幅帯状の先端付近をわずかに幅広の概略円形状としたマイクロフォンを濃暗調子で表した点、
(6)警察官の身体部につき、後頭部直下の背中は猫背状にやや丸く表し、腕は前に向け真っ直ぐハンドルまで伸ばし、腋の下の僅か下のウエスト部にベルト部が表され、その直下の足部は股を横に大きく開き、膝を下方に曲げた姿勢をとっており、尻部分はオートバイのボディ部に深く埋まった態様で表されている点、
(7)警察官の身体部の具体的態様につき、服の上下は暗調子、ブーツは濃暗調子で表され、左側上腕部には肩章らしきものを表し、同側ウエストのベルト部付近には明調子のポシェット様の丸みを帯びた横長凸部を表し、ズボンの側面には明調子の縦ラインを表し、手はハンドルを握る明調子のほぼ球形状とした点、
(8)オートバイ部につき、前面上側は僅かに後傾した凸湾曲面状とし、その上部側風防部は上辺を凸弧状としボディ上面よりやや上方に突出して表し、前輪の車軸のほぼ真上とした前面上側の凸湾曲面の下端位置から下側は、斜め後方に向け凹曲面状に抉った態様とし、ボディ部側面前寄りには、上端付近を暗調子とした側面視前傾した概略縦長楕円状に現れる凸部を設けており、同側面下端付近には下面を車輪の接地面とほぼ一致させた凸円弧状に表れる板状凸部を設けており、後輪の上側ぼぼ半分はボディ部に囲われ隠れており、その上部の荷台部は上面を警察官のウエスト部付近とした概略直方体伏せ箱様形状とし、側面警察官の曲げた脚部の後ろ側には荷台上面よりやや下位置から左右に大きく張り出した凸部を設けた点、
(9)オートバイの具体的態様につき、風防部は前面凸湾曲面上側を濃暗調子で区画したもので、その区画辺は上辺の凸弧とほぼ対称の凸弧状とし、後部荷台上面中央には暗調子とした概略半球状凸部を設け、該荷台部背面には方形状区画部を設けており、前輪付近にはボディと車軸を繋ぐ棒状フォーク部、上側を覆う泥よけを表し、前後両輪のタイヤ部は濃暗調子とし、ハンドル端部が警察官の握った手の外側に濃暗調子とした小さな半球状に表れている点、がある。
一方、両意匠は、主たる差異点として、(イ)甲号意匠のオートバイのボディ部分は、前記暗調子とした部分以外はほぼ透明であるのに対して、本件登録意匠は透明の記載がないことから不透明であると解される点、
(ロ)警察官のウエスト部付近につき、甲号意匠は胴部に対してウエスト部がやや括れ、ベルト部分はやや膨んだ態様で表され、ポシェット様の横長凸部もやや下に垂れ大きく膨らんだ目立つ態様としているのに対して、本件登録意匠はウエスト部の括れはなく、ベルト部は胴部と面一の帯状に現れ、ポシェット様横長凸部についてはベルトの上下幅とほぼ同じとし、その膨らみも極く僅かとしさほど目立たない態様とした点、がある。
そこで、これらの共通点、差異点を総合し、類否判断に及ぼす影響を比較、検討する。
先ず、前記共通点に係る(1)の構成態様は全体の概略に関するものであり、単に制服着用の警察官がオートバイに跨った点のみを取り上げた場合には意匠創作として高くは評価し得ないものであるが、誇張変形したとする内容と相まった全体の構成態様は、一定程度両意匠の共通した特徴を表しているものと認められ、(2)、(4)、(6)の点は警察官部分に関する基本的構成態様、すなわち要旨を構成し、(8)の点はオートバイ部分の基本的構成態様、すなわち要旨を構成するものであり、したがって、両意匠は(1)の全体の基本的構成態様が共通するだけでなく、2つの大きな構成要素である警察官及びオートバイの夫々の要旨が共通するものであり、この共通する両要旨を含めた(1)の全体の構成態様は、相互に関連し合って訴求力の強い共通する視覚的まとまりを形成し、また、両意匠の共通した特徴を表出するものと認められるから、これら(1)、(2)、(4)、(6)、(8)の共通点に係る構成態様を併せ持った点は類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものであり、両意匠は後述するように格別な顕著な差異が無いことから、これらの共通点に係る構成態様のみで類似とするに十分である。これに加え、(3)、(5)、(7)、(9)の各具体的構成態様の共通点に係る構成態様は、個別に取り上げた場合、何れも類否判断に及ぼす影響は僅かにすぎないものであるが、それぞれ僅かづつ共通感を強めるものであり、これら(1)ないし(9)の共通点に係る構成態様の総体は、相まって共通した基調を生じさせており、類否判断に支配的影響を及ぼすものである。
一方、(イ)の差異点については、甲号意匠の透明とした部分については、その外面形状は完全な平面部分がほとんどなく曲面で構成されている部分が多く、表面反射及び光の内部屈折により事実上そのまま透けて見えるわけではないため、視覚的には透明感は訴えるもののやや明調子状に視認される程度のものであって、意匠全体からみれば、前記共通するとした訴求力の強い視覚的まとまりに吸収されてしまう程度の微弱な差異であって、類否判断に及ぼす影響は僅かに過ぎず、(ロ)の点については、前記共通するとした(2)、(4)および(6)により構成される警察官部分全体の基本的構成態様が形成する視覚的まとまりに埋没してしまう程度の微弱な差異にすぎず、まして意匠全体としてみた場合には類否判断にほとんど影響を及ぼさない細部の相違である。
このように、甲号意匠と本件登録意匠とは、差異点に係る構成態様は類否判断に及ぼす影響は僅か、ないし、ほとんど無いものであり、一方、共通点に係る構成態様は、基本的な構成態様のみならず多くの具体的な構成態様を含み、あいまって共通した基調を生じさせており、類否判断に支配的影響を及ぼすものであるから、本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものとせざるを得ず、意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当する。
なお、被請求人は、本件登録意匠は具体的構成態様に特徴があり、その具体的構成態様に関し、引用意匠には多くの不明な点がある旨主張する。確かに、甲号意匠は複雑な曲面により形成され、警察官の左側斜め前方及び左側斜め後ろ方向から撮影された2図しかないため、警察官の右側形態が現されてなく(甲第7号証の3のトップページ、及び甲第7号証の4、1/2ページの左上には、甲号意匠の右側形態と推認されるものが表されているが、本件登録意匠の類否判断において、甲第7号証の1のみで十分と認められるから、敢えて形態認定に採用しないこととした)、形状線に相当するものが明確に現れておらず、細部の凹凸形状も不明確な点が多く見受けられる。ところが、本件登録意匠についても、複雑な凹凸形状をしていると認められるにもかかわらず、断面図、端面図、斜視図等がないため、各部を子細に検討すると凹凸の態様が不明確な部分(例えば警察官の足の部分)が存在する。このように、両意匠とも不明確な点があることから、同一意匠であると認定、判断をすることはできない。しかしながら、前記共通点と認定したものは主たるもので、類否判断にほとんど影響を及ぼさないとして、敢えて認定しなかったその他の細部の共通点も存在しており、本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当するか否かを判断する上では、前記認定した範囲で十分である。請求人が引用意匠において不明であると主張する点に関し、全て是認しうる訳ではないが、仮に全てそうであったとしても、顕著な差異が存在するのであるならば甲号意匠の形態として認識できるはずであり、認識することができないとしたら、前記類否判断に及ぼす影響は僅かとした(3)、(5)、(7)、(9)で認定した内容よりも更に細部の形態に関するものとせざるを得ず、まして、その不明な部分に意匠全体として別異の視覚的まとまりを生じさせ得る差異点に係る形態の内在を想定することは到底できないから、前記差異点に加えこれら不明な点を総合したとしても、類否判断に及ぼす影響は大きいものとすることはできない。
一方、請求人は、本件登録意匠は、検甲第1号証の1及び2の意匠と同一であり、意匠法第3条第1項第1号の規定により意匠登録を受けることができないものであると主張するが、検甲第1号証の1及び2については、本件登録出願前販売されたものと同一であると判断するには根拠が十分でなく、また、仮にそうであったとしても、検甲第1号証の1及び2の意匠は、前記甲号意匠が本件登録意匠と相違するとした(イ)および(ロ)の差異点部分については甲号意匠と共通し、更に、前述のごとく本件登録意匠における不明確な態様のみならず、本件登録意匠に表されていない微細な形態まで認識することができ、両意匠は同一の意匠であるとすることができないから、本件登録意匠に関し、検甲第1号証の1及び2を根拠として意匠法第3条第1項第1号に該当するということはできない。
5.むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、請求人の主張するように意匠法第3条第1項第1号に該当するとはいえないが、甲号意匠に類似するものであるから、同条第1項第3号の意匠に該当し、同法第1項の規定に違反して登録されたものであって、その登録は、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2005-02-01 
結審通知日 2005-02-03 
審決日 2005-02-18 
出願番号 意願2003-14182(D2003-14182) 
審決分類 D 1 113・ 111- Z (B3)
最終処分 成立  
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 山崎 裕造
杉山 太一
登録日 2004-02-27 
登録番号 意匠登録第1201825号(D1201825) 
代理人 松本 孝 
代理人 寺井 勇人 
代理人 鎌田 真理雄 

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