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審決分類 審判    M3
管理番号 1130918 
審判番号 無効2004-88032
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2006-03-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-15 
確定日 2006-02-07 
意匠に係る物品 キャスター 
事件の表示 上記当事者間の登録第1192386号「キャスター」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1192386号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立て及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、要旨次のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証乃至甲第4号証の書証を提出した。
すなわち、意匠登録第1192386号の意匠(意匠に係る物品「キャスター」。以下、「本件登録意匠」という。)は、出願前に頒布された刊行物である意匠登録第946347号の意匠公報(甲第1号証)に記載されている「運搬車用キャスター」の意匠(以下、「甲号意匠」という。)に類似する意匠であり、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する。
また、甲号意匠、及び本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である意匠登録第1035514号の意匠公報(甲第2号証)に記載されている「キャスター」の意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、本件登録意匠は同法第3条第2項の規定にも該当するから、登録を受けることができないものであるので、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
本件登録意匠と甲号意匠との類否について、両意匠は、全体が、水平な略平板状の取付板と、その取付板の下部に、ベアリング部を介して回動自在に設けた略円筒形状の本体と、本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持した車輪とからなる基本的構成態様が共通し、また、具体的構成態様のうち、特に、取付板、本体及び脚部は、形態の大部分を占める主要部を構成して、意匠全体の基調を成しており、本体の切欠部の正面側と背面側の形状、ベアリング部周囲に薄い円柱形状部材を設けている点が共通し類似する。
これに対し、両意匠において、切欠部正面側の上部に庇部を形成しているか否かの差異、本体上部の円柱形状部材の形状及び明暗調子の差異、軸受け部の側面視形状の差異、切欠部形状の差異、車輪形状の差異及び各部の寸法比率の差異は、類否に与える影響は微弱である。
したがって、これらの両意匠の差異点は、いずれも類否判断に与える影響は微弱なものであって、これらが相俟って生じる効果を総合したとしても、類否判断に及ぼす影響は微弱である。

第2 被請求人の答弁及び理由
被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めると答弁し、その理由として要旨次のとおり主張し、その証拠方法として、乙第1号証乃至乙第12号証の書証を提出した。
1 甲号意匠について
甲号意匠は、甲号意匠が登場する以前から既に公知であった意匠が有する形状を単に寄せ集めて構成されただけであり、甲号意匠の要部は、
(1)本体は、上部に360°にわたって完全なる円筒形の筒状体が形成されている、
(2)本体は、側面図において、(イ)下部の正面側が垂直に、(ロ)背面側が外側に膨らむ略円弧状に切り欠かれている、
(3)脚部の軸受部は、前方側下隅と後方側上隅が円弧状をした略正方形状の平面であり、縦幅は本体部の1/3程度、横幅は脚部の1/2程度である、
(4)車軸ボルトからニップルが側方(正面図における左方)に大きく突出している、
という4点を全て備えている点にあり、かかる要部を備えることにより、円筒形状を特に強調した意匠であることは明らかである。
2 本件登録意匠と甲号意匠との類否について
(1)共通点について
本件登録意匠と甲号意匠とを比較すると、基本的構成態様である、
ア 水平な略平板状の取付板と、この取付板の下側にベアリング部を介して水平回転自在に設けられた基部を有する本体と、この本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持された車輪とで構成されている、
イ 取付板は、略四角形状であって、四隅寄りに小円孔が設けられており、中央に本体取付用主軸の頭部が円形に現れ、その周囲にベアリング受溝が同心円状に設けられている、
ウ 本体は、取付板よりやや小さい基部を備え、下部の正面側及び背面側を切り欠いていて、下部に左右一体の脚部が形成されている、
エ 脚部には、正面寄りの下端部が内側に窪まされて平面状の軸受部が形成されており、その軸受部に車軸ボルトが本体の中心軸より正面側に偏心して設けられている、
という点で共通し、また、車輪が幅広の略倒円柱形をしているという具体的構成態様が共通しているが、これらはいずれも甲号意匠の要部ということができないから、かかる共通点が類否判断において重要視される形態とはいえず、上記特徴が共通していることをもって、本件登録意匠が甲号意匠に類似するということはできない。
(2)相違点について
本件登録意匠と甲号意匠とは、具体的構成態様の多くの点において相違しており、甲号意匠の要部である具体的構成態様の
ア 円筒形の形状
イ 側面の形状
ウ 軸受部の特徴
エ ニップル
について、本件登録意匠がその特徴を有さず全く異なった形状である。
(3)意匠の全体的観察について
個別の相違点のみならず、全体的な観察を行った場合にも、本件登録意匠と甲号意匠とは、全く異なる印象を看者に与えるものであり、本件登録意匠が力強くごつごつと角張った印象を与えるのに対して、甲号意匠は、意匠全体において円筒形状が強調され、丸っこくコンパクトな印象を看者に与えており、本件登録意匠とは明らかに美感を異にしている。
(4)総括
以上のとおり、本件登録意匠と甲号意匠とは、美感を異にする非類似の意匠であることは明らかである。

第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年(2003)5月26日に意匠登録出願され、その後平成15年(2003)10月24日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1192386号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「キャスター」とし、形態は、願書に添付された図面の記載のとおりとしたものである(本件審決書に添付の別紙第一参照)。
2 甲号意匠
甲号意匠は、平成8年(1996)2月9日発行の意匠公報に記載された意匠登録第946347号の意匠であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「運搬車用キャスター」とし、形態は、同公報に現されたとおりのものである(本件審決書に添付の別紙第二参照)。
3 本件登録意匠と甲号意匠の対比検討
本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、両意匠ともキャスターに係るものであって、意匠に係る物品が共通し、その形態については、主として以下に示す共通点及び差異点が認められる。
以下、甲号意匠の各図の方向に、両意匠を揃えて認定する。
[共通点]
(1)全体が、水平な略平板状の取付板と、その取付板の下部に、ベアリング部を介して回動自在に設けた略円筒形状の本体と、本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持した車輪とからなる、基本的な構成態様のものである点、
各部の具体的な態様において、
(2)取付板は、四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸正方形状であって、四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けており、中央に本体取付用主軸の頭部が円形に現れ、その周囲にベアリング受け溝を円環状に設けたものである点、
(3)本体は、取付板の一辺よりやや短い横幅であって、下側の正面及び背面側を切り欠いて、上部の円筒部と、下部の左右一対の脚部とからなるものである点、
(4)車輪は、幅(厚さ)が直径よりも短い、略倒円柱形である点、
(5)脚部は、正面寄り略半分を内側に窪ませて平坦状の軸受部を形成し、そこに車軸ボルトを本体の中心軸よりやや正面側に偏心して設けている点、
(6)本体の切欠部は、正面側が下方に開放した略コ字形状であり、背面側が下広がりに開放する略等脚台形状である点、
(7)本体上部と取付板との間のベアリング部周囲に、本体とほぼ同幅で薄い円柱形状部材を設けている点、
[差異点]
(イ)本体上部の正面側形状について、本件登録意匠は、正面側切欠部とほぼ同幅で角張った庇部を突出形成しているのに対して、甲号意匠は円筒形状である点、
(ロ)本体上部と取付板との間に設けられた円柱形状部材について、形状が、本件登録意匠の方が甲号意匠より厚く、また、本件登録意匠は、暗調子であるのに対して、甲号意匠は、明調子である点、
(ハ)軸受部の側面視形状について、本件登録意匠は、正面側端部を上方が正面側にやや傾斜する直線状とし、上部の境界線を正面側が上がる傾斜直線状としているのに対して、甲号意匠は、平坦部の正面側端部をほぼ垂直状とし、上部の円筒形状部との境界線をほぼ水平状としている点、
(ニ)本体切欠部の形状について、正面側切欠部の上辺の二隅を、本件登録意匠は略直角状としているのに対して、甲号意匠は円弧状としており、背面側切欠部の上辺を、本件登録意匠は上方に膨らむ円弧状としているのに対して、甲号意匠は水平な直線状としている点、が認められる。
4 本件登録意匠と甲号意匠の類否判断
両意匠の共通点及び差異点を総合して、両意匠を全体として考察すると、前記共通するとした、(1)の基本的な構成態様、及び具体的な態様の共通点、特に(2)ないし(4)は、本件登録意匠の出願前に既に見られるものではあるが、形態の大部分を占める主要部を構成して、意匠全体の基調を成しており、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものであり、具体的な態様におけるその他の共通点、(5)ないし(7)とも相俟って、類否判断に及ぼす影響は相当大きい。
一方、差異点については、
(イ)の本体上部の正面側形状については、切欠部の上部に庇部を形成しているか否かの差異であるが、両意匠が本体を略円筒形状としている中で、正面側切欠部の上部という限られた部位における、本体の幅の略8分の1程度の突出幅の小さな庇部の有無にすぎず、また、本件登録意匠の庇部形状が、先端を本体の円筒形と略同心円の円弧状としていることから、円筒形状としている甲号意匠の同部とさほど顕著な差異があるものとは認められず、類否判断に与える影響は微弱である。
(ロ)の本体上部の円柱形状部材の形状及び明暗調子の差異については、まず、形状の差異については、この程度の厚さの相違は通常の変更の範囲内であって、看者が着目するほどの差異ではなく、類否判断に与える影響は微弱である。次に、明暗調子の差異については、取付板の下側というあまり目立たない部位における、厚さが薄い部材に係る明暗調子の違いであって、材質の選択によって各種明暗調子のものが見られる部位でもあるので、特段看者がその差異に着目するほどのものではなく、明調子であるか暗調子であるかの差異が、類否判断に与える影響は微弱である。
なお、被請求人は、「形状の差異」と「明暗調子の差異」とにバラバラにして類否判断を行うことは妥当でなく、その理由として、意匠は形状と色彩が一体としてなる旨主張するが、当審としては、両意匠を形状及び模様の結合として認識しているのであって、「形状の差異」と「明暗調子の差異」を含む差異点及び共通点を総合して、両意匠を全体として比較検討しているのであるから、被請求人の主張を採用することはできない。
(ハ)の軸受部の側面視形状の差異については、平坦部の正面側端部について、側面視において比較した場合に看取される程度の傾斜の有無に関する差異であり、また、上部の境界線という限られた部分における傾斜の態様の差異であって、両意匠が、本体略下半分の正面寄りに平坦部を形成して軸受部としている共通性に対して、部分的で微弱な差異に止まり、形態全体の基調に影響を与えるほどの要素でもないから、類否判断に与える影響は微弱である。
なお、被請求人は、本件登録意匠における平滑部(軸受部)の形状が甲号意匠の略正方形状と相違する旨主張するが、その形状の差異は、平坦部の正面側端部の上部という限られた部位における平坦面の有無によって生じる差異であって、比較的目立たないものであり、平坦部の正面側端部の上部に平坦面を設けることは、既にありふれたものである(例えば、登録意匠第1035514号(甲第2号証)、登録意匠第392973号(乙第2号証))ことを勘案すると、その差異が類否判断に与える影響は微弱であると言わざるを得ず、被請求人の主張は採用できない。
(ニ)の切欠部形状の差異については、いずれも正面側上辺の二隅、あるいは背面側上辺という限られた部位の差異に止まり、切欠部形状の共通性に対して部分的で僅かな差異にすぎないので、類否判断に与える影響も微弱に止まる。
そうすると、前記(イ)ないし(二)の 両意匠に係る形態の差異点は、いずれも類否判断に与える影響は微弱なものであって、これらが相俟って生じる効果を総合したとしても、類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においても、共通点が、形態全体に係わる基調を形成して類否判断に大きな影響を及ぼし、差異点を凌駕しているので、類似するものというほかない。

第4 むすび
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号に規定した意匠に該当するものであり、同法同条同項の規定に違背して登録されたものであるから、その登録は、その余の点について審理するまでもなく、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


審理終結日 2005-01-31 
結審通知日 2005-02-02 
審決日 2005-02-16 
出願番号 意願2003-14571(D2003-14571) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (M3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関口 剛 
特許庁審判長 伊勢 孝俊
特許庁審判官 小林 裕和
鍋田 和宣
登録日 2003-10-24 
登録番号 意匠登録第1192386号(D1192386) 
代理人 向江 正幸 
代理人 井口 喜久治 
代理人 面谷 和範 
代理人 福田 あやこ 
代理人 井崎 康孝 
代理人 小山 方宣 
代理人 辻村 和彦 
代理人 小松 陽一郎 
代理人 宇田 浩康 
代理人 大塚 忠 
代理人 福島 三雄 

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