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審決分類 審判    H2
管理番号 1137846 
審判番号 無効2005-88020
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2006-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-10-18 
確定日 2006-05-12 
意匠に係る物品 ゲーム機用コントローラ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1237506号「ゲーム機用コントローラ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1237506号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求の趣旨及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として要旨以下に示すとおり主張し、証拠方法として資料1、及び、甲第1号証ないし甲第29号証(枝番を含む)を提出した。
1.本件意匠登録無効理由の要点
意匠登録第1237506号意匠(以下、本件登録意匠という)は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠(プレイステーション用コントローラー「サイバーフォースPS」に係る意匠;甲第1号証;以下、「意匠1」という。)と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し(無効理由1)、また、その意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠(意匠登録第952253号公報に記載された意匠;甲第2号証;以下「意匠2」という。)と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し(無効理由2)、従って、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。
2.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「ゲーム機用コントローラ」とし、その形態の要旨を、次の通りとする。
〔基本的構成態様〕
(ア)略横長箱体状の本体部の左右に平面視略円形状の操作部が形成され、左右の操作部の前側をそれぞれ前方に大きく突出させて左右のアーム部を形成し、ハウジング全体を、平面視略U字状且つ左右対称形状に形成している。
(イ)アーム部は、操作部側の基端部から前方の先端部に向かって徐々に細くなるように形成され、左右のアーム部は、左右の先端部が左右側にやや開いた形状をなしている。
〔具体的構成態様〕
(ア’)平面視において、本体部の左側後側部分及び右側後側部分はいずれも、後方に略矩形状に突出した突出部を形成している。
(イ’)左右のアーム部は、先端部を半円弧状の曲面とし、上面から側面にかけて滑らかな傾斜状の曲面とし、下面前方部をやや丸く膨出させ、その後方に側面視なだらかな湾曲部の凹部を形成している。
(ウ’)平面視において、本体部の中央後側部分は、後方に向けて湾曲して張り出し、本体部の中央が扇状部を成している。
(エ’)本体部及び左右のアーム部の内側角部に、平面視において円形部分を設け、この円形部分の前側一部分を前方に突出させて設けている。
(オ’)本体部及び左右のアーム部の内側角部の円形部分の上面から上方に延びる略キノコ状の操作ボタンが設けられている。
(カ’)各突出部の後面に、上下に配置された矩形状の2個の操作ボタンを突出して設けている。
(キ’)各突出部の下側の操作ボタンを上側の操作ボタンよりも大きくしている。
(ク’)右側の円形状の操作部には、円形状の4個の操作ボタンが十字状に配置されている。
(ケ’)左側の円形状の操作部には、略菱形をなす凹凸部を有する1つの円形状の操作ボタンが配置されている。
(コ’)本体部に形成された扇形部の周囲及びキノコ状の操作ボタンの間に、複数の小さな操作ボタンが設けられている。
(サ’)左右のアーム部の上面に平面視矩形部が表れている。
(シ’)ハウジング全体が、不透明である。
3.無効理由1
〔意匠1が本件意匠登録出願日前公知であったことの説明〕
甲第3号証は、平成13年1月15日付で、本件無効審判の請求人と有限会社ドルフィンとの間で交わされた合意書であり、その添付資料1により、遅くとも平成13年1月15日より前には、甲第3号証の添付資料1に表れた意匠1が公知であったことが分かる。甲第4号証は、本件審判請求人が判定を求めた判定請求書(判定2001-60023号)であり、これに添付した甲第2号証の写真中、斜視図に表れている意匠を、同合意書添付資料1に表れた意匠1と比較すると、両意匠は形状の細部、更には、その上に記載された模様や文字にいたるまで全く同一であり、両商品は同一のものであるといえる。従って、意匠1は、上記判定請求書に添付の甲第2号証の斜視図、正面図、平面図、左右側面図、背面図及び底面図に表れた形状をなしている意匠であるといえる。そして、これらの図面に表れた形状をなす意匠1は、遅くとも平成13年1月15日には公知であったといえる。
〔本件登録意匠と意匠1の比較、類似する理由〕
両意匠は、意匠に係る物品が「ゲーム機用コントローラ」で一致している。本件登録意匠の基本的構成態様(ア)及び(イ)はそれぞれ、意匠1の基本的構成態様と共通し、本件登録意匠の具体的構成態様(ア’)ないし(ク’)、(コ’)及び(サ’)はそれぞれ、意匠1の具体的構成態様と共通している。
両意匠を全体的に観察すると、両意匠は、意匠全体の基調を決定づける基本的構成態様が共通し、具体的構成態様においても大部分が共通しているのに対して、両意匠の差異点は部分的な差異にとどまり、共通する部分以上に看者に印象づける大きな特徴をなしているものと認めることはできず、差異点が共通点を凌駕しているということはできない。そのため、意匠全体から感得される美観も、本件登録意匠と意匠1とで共通しているということができる。
従って、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠1と類似するといえる。
4.無効理由2
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において頒布された意匠登録第952253号公報(甲第2号証)に記載された意匠(意匠2)と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する。
本件登録意匠に係る物品は「ゲーム機用コントローラ」であり、意匠2に係る物品は「ゲーム機用操作器」であり、両物品は用途及び機能が共通しているので、両意匠に係る物品は同一である。本件登録意匠の基本的構成態様(ア)及び(イ)はそれぞれ、意匠2の基本的構成態様と共通しており、本件登録意匠の具体的構成態様(ア’)、(イ’)、(カ’)、(ク’)及び(シ’)はそれぞれ、意匠2の具体的構成態様と共通している。
両意匠を全体的に観察すると、両意匠は、特に、意匠全体の基調を決定づける基本的構成態様が共通し、具体的構成態様も、基本的構成態様と相俟って両意匠を特徴づけているのに対して、両意匠の差異点は部分的な差異にとどまり、共通する部分以上に看者に印象づける大きな特徴をなしているものと認めることはできず、差異点が共通点を凌駕しているということはできない。そのため、意匠全体から感得される美観も、本件登録意匠と意匠2とで共通しているということができる。
従って、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において頒布された意匠2と類似する意匠であるといえる。
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し(無効理由1)、また、その意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し(無効理由2)、従って、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、無効とされるべきものである。
第2.被請求人の答弁の趣旨及び答弁の理由
被請求人は、審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、その理由として要旨以下に示すとおり主張し、乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
1.答弁の要旨
意匠1は、甲第3号証の合意書添付資料1により表されてなるが、その全体の構成態様を正確に特定できないため全体観察を基本とする意匠の類否判断の対象になり得ず、本件登録意匠と意匠1との類否を検討することができないため、意匠1により本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に該当することはあり得ない。
2.本件登録意匠について
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「ゲーム機用コントローラ」とし、その構成態様は本件登録意匠の説明図(乙第1号証)によれば以下の通りである。
〔基本的構成態様〕
本体が略横長箱体からなり、その後辺中央部を円弧状に膨出して扇形状部を形成し、該扇形状部の左右両側に円形状の操作部を配置し、さらに操作部の前方内側寄りで若干交差するように一対の円形状の前方操作部を一体的に形成すると共に、操作部から前方に向けてアーム部を略ハの字状に広げてなる点を基本的構成態様とするものである。
〔具体的構成態様〕
(1)本体は、扇形状部の円弧状部を中心とし、その左右両側の操作部の半円形状部を介して前方操作部の円弧状部に至り、該円弧状部が本体前辺の円弧状凹部で繋がり、全体として円弧状部と半円形状部とを連続的に組合せた平面視「蝶が羽を広げた」如くの態様からなる点。
(2)アーム部は、先端が前方下がりに形成され、該先端部を半円形状の曲面とし、上面から側面にかけて滑らかな傾斜状の曲面とし、下面の中央部を円弧状に膨出させてなる点。
(3)アーム部の上面中央部に側面までのびてなる横長の略長方形状部を形成し、該横長形状部内に1個の長方形状部を2本の直線状部で挟むように表し、アーム部の先端近傍には小径の円形状部を表してなる点。
(4)操作部の後方側にはそれぞれ後方に突出してなる矩形の突出部を形成してなる点。
(5)左側操作部には4重の同心円内に短円筒状の操作ボタンが突出し、その上面中央を略菱形状に浅く抉ってなる点。
(6)右側操作部には4個の短円筒状の操作ボタンを十字状に配置してなる点。
(7)操作部の下面を湾曲状に抉って凹部を形成してなる点。
(8)前方操作部の上面には、略キノコ形状の操作ボタンを突出させてなる点。
(9)本体の突出部にはそれぞれ略直方体の操作ボタンを上下二段で後方側に突出させてなり、下段の操作ボタンを上段よりも大きくしてなる点。
(10)本体の中央部やや前方寄りにひとみ形状の操作ボタンを形成し、これを中心として逆ハの字状に4個の操作ボタンを配置してなる点。
(11)ハウジング全体が不透明である点。

3.意匠1について
請求人が引用した意匠1は、甲第3号証の合意書添付資料1に表されたものであるが、添付資料1は請求人の主張する商品を俯瞰した状態で撮影したものであり、その平面視の形態が若干斜めに表れているにすぎないものである。そうすると、該添付資料1だけで意匠1の構成全体を正確に特定することは不可能であり、この点、請求人が意匠1の上面のみならず、右側面も上記資料1に表れている旨を主張するが、この資料1には同商品右側面は一切表れていない。意匠1はその上面形状のみが特定できるに過ぎず、他の左右両側面及び正面等が如何なる形状であるか不明である以上、全体観察を基本とする意匠の類否判断において意匠1と本件登録意匠とは対比することができず、両意匠が互いに類似すると結論づけることができないことは明らかである。
請求人は、意匠1の構成全体を請求人が提出した判定請求書に添付した甲第2号証の写真に表れた意匠により意匠1の構成全体を特定しようとするが、請求人の主張及び証書からは両者の同一性を到底肯定することはできない。
請求人の上記論法は、両意匠の斜視図が同一であれば、その斜視図に表れていない他の左右側面や正面等までも同一であると主張しているのと同様であるが、斜視図の形状が同一であっても他面の形状まで同一と言えないことは特許庁の多数の意匠登録例からも明らかである。
意匠1は甲第3号証の合意書添付資料1だけでその構成全体を特定することができず、また、意匠1と甲第4号証の判定請求書添付の甲第2号証の写真に現された意匠(本件審判の甲第1号証)とが同一であるとは到底考えられない。
よって、意匠1と本件登録意匠とは全体観察により対比するには無理があり、類否を検討することができないため、本件登録意匠が意匠1によりその新規性を否定されるものでないことは明らかである。
4.本件登録意匠と意匠2との対比
本件登録意匠と意匠2と対比すると、両物品は用途及び機能を同じくするので同一物品であり、形態面について両意匠は何れも本体の両側に円形状の操作部を配置し、該操作部の前方側よりハの字状にアーム部を拡げてなる点で共通している(共通点1)
しかるに、両意匠は以下の顕著な差異点がある。
すなわち、
本件登録意匠は本体が略横長の箱体とし、その後辺中央部で円弧状に膨出してなる扇形状部を形成し、該扇形状部の左右両側に円形状の操作部を配置すると共に該操作部の前方内側寄りで若干交差するように円形状の前方操作部を一体的に形成し、該本体が扇形状部、操作部の円弧状部と半円形状部とが連続的に組合わさることで丸みを基調とした平面視「蝶が羽を拡げた」如くの特徴ある態様を呈してなるのに対し、意匠2は本体中央の直線状部がその左右両側に円形状の操作部を配置してなるため、本体全体が平面視すれば「電話の受話器を横倒しした」如くの態様を呈してなるため、両意匠は本体の全体形状が全く異なる(差異点1)。
また、本件登録意匠は、本体左右両側に位置する操作部の前方側からアーム部だけでなく、その前方内側寄りで若干交差するように一対の円形状の前方操作部を一体的に形成してなるが、意匠2にはこのような操作部がない点(差異点2)、左右のアーム部において、本件登録意匠がその上面中央部に側面までのびる横長の略長方形状部が表れてなり、しかも該長方形状部内にさらに1個の長方形状部とこれを挟む2本の直線状部も表れ、該アーム部の先端近傍に小径の円形状部が表れてなるが、意匠2にはこのような長方形状部や円形状部が一切表れていない点(差異点3)、左右アーム部の下面において、本件登録意匠が中央部を膨出させた円弧状であるのに対し意匠2は勾配の急な傾斜面と緩やかな傾斜面とで形成してなる点(差異点4)、意匠2には前方操作部がないため、本件登録意匠のように略キノコ状の操作ボタンが存在しない点(差異点7)、等がある。
5.本件登録意匠と意匠2との類否判断
本件登録意匠と意匠2との類否を検討すると、両意匠の物品の分野では、例えば乙第4号証ないし乙第6号証の如く、操作部から前方に向けてアーム部を形成してなるものは意匠2の意匠登録出願以前に既に公知の形態であったことは明らかである。そうすると、両意匠の共通点である基本的構成態様中、本体の両側に円形状の操作部を配置し、該操作部の前方側よりハの字状にアーム部を広げてなる点(共通点1)はありふれたものであると言える。また、具体的構成態様中、共通点は、本体後面側の目立たない部分におけるもの、公知意匠にみられるもの、ありふれたもので、看者の注意を惹く部分とは到底考えられない。さらにハウジング全体が不透明であることはこの種物品が不透明であることが一般的であり、共通点何れもが意匠の類否判断を左右する重要な要因になり得ないと考えるのが相当である。
一方、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に本体全体が丸み感を基調とした「蝶が羽を拡げた」如くの特徴的な態様からなるものは全くなく、その斬新性は高く評価することができるものである。そうすると両意匠の差異点1は、本件登録意匠の特徴的態様に係るものであり、しかも意匠2の本体全体からは本件登録意匠と異質な「電話の受話器を横倒しした」如くの態様を呈してなることと相俟って意匠の類否判断を左右する要因になることは疑う余地はない。
また、両意匠の差異点2、7は一対の前方操作部及び略キノコ状の操作ボタンの有無の差異は、取扱者の注意を集めるゲームの操作性に直接的に影響を与えるものであり、意匠の類否判断に影響を与えるものと言え、両意匠の差異点4は、左右アーム部の下面の形状の差異であるが、この種物品の取扱者にとってゲームの操作性に影響を及ぼす部分における違いであるため、取扱者に別異のものと認識せしめるに十分なものであるから、意匠の類否判断に影響を与えるものと言える。
以上を総合すれば、意匠全体として観察した場合、両意匠の共通点はこの種物品において公知の形態、又は目立たない部分的なもので取扱者の注意を喚起するものではないのに対し、両意匠の差異点中、差異点1、2、4及び7は他の差異点を検討するまでもなく、取扱者(看者)に別異の美観を与えるものであるから、これら差異点は共通点を大きく陵駕し、意匠の類否判断を左右するものであると結論付けることができる。
よって、本件登録意匠は、意匠2に類似するものではないため、意匠法第3条第1項第3号に該当するものではない。
以上の通り、意匠1は請求人の提出した証書からその全体の構成態様を正確に特定することができず、本件登録意匠と類否を検討することができず、意匠2とは同一又は類似するものでないから、本件登録意匠は意匠1、2の何れによっても意匠法第3条第1項の規定に違反して登録されたものではないから、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項の規定により無効とされるものではない。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、当該登録原簿及び出願書面の記載によれば、平成16年9月1日に出願にされ、平成17年3月11日に設定の登録がなされた登録第1237506号の意匠であって、意匠に係る物品が「ゲーム機用コントローラ」であり、その形態は、願書に添付された図面に表されたとおりのものである(別紙1参照)。そして、その形態の要旨を次のとおりとするものである。
すなわち、
(1)基本的構成態様について、概略横長箱体状の本体部前面側左右に、幅を窄め先端部を半円弧状としたアーム部を手前側に向けてハの字状に突出させて外殻を形成したもので、本体部上面には、直径を本体部左右近傍の前後幅より僅かに小さくした円形状操作部を、左右2つそれぞれ本体部両側に近接して設け、同操作部の内側斜め手前側には軸部が括れ上端を円盤状とした左右一対の操作ボタンを突設させたものである。
(2)本体部上面外周形状について、両側は円形状操作部に沿った半円状とし、この手前内側は突設した操作ボタンと同心円弧状に張り出しており、後辺側については中央を緩やかな凸円弧状に張り出し、その左右の半円状側部と滑らかな凹弧状に繋げた構成としている。
(3)本体部上面について、突設した操作ボタン付け根部を囲う円形状操作部よりやや小さい円形凸縁を、円形状操作部の斜め手前内側にほぼ接して設け、同円形凸縁の手前側が本体部手前側の外周形状を形成し、上面中央には後面側を広くした概略扇形余地部が形成されている。
(4)本体部前壁(両アーム部の間)について、上面の両円形凸縁の手前側張り出しに伴い左右が膨出し、中央が凹んだものである。
(5)本体部前壁中央付近の凹み部について、左右の膨出部と滑らかに繋がる緩やかな凹弧状曲面としている。
(6)本体後部側について、上面両円形状操作部後側の左右位置に、平面視低い台形状に現れる凸部を設けている。
(7)アーム部について、手前側がやや下がっているもので、各アーム部外側辺は半円状本体部側端部から接線方向に設けられ、内側辺は、外側辺に対して円形状操作部の中心とアーム先端を繋ぐ仮想直線に対してほぼ対称位置に設けられ、上面は両側面方向に丸みを有し、本体部との接続基端部上面は本体部上面より僅かに低くしている。
(8)本体部後面側左右に設けられた凸部形状について、後面下端に達するやや縦長方形状であって、横幅が同じで僅かに突出した矩形状凸部を上下2個ずつ表したものである。
(9)本体部底面側形状について、後面側の上下幅をやや広くし、後端から手前側に大きく凹弧状に抉り、これに繋がるアーム部下面は側面視凸弧状とし、これらは側面視S字状に表れている。
(10)右側円形状操作部について、基盤部に4つの小円形ボタンを前後左右に配したものである。
(11)左側円形状操作部について、円形状基盤部全体を揺動多方向スイッチとし、角部を上下左右に配したほぼ正方形を表している。
(12)本体部上面中央扇形余地部について、左右両円形状操作部寄り斜め前後位置に2個ずつ、その手前中央に1個の小操作ボタンを設けている。
(13)扇形余地部に設けられた操作ボタンについて、両側に設けられたものは何れも円形状、手前中央のものは横長楕円状としている。
(14)意匠全体を不透明としている。
2.本件登録意匠の無効理由に引用する意匠
本件登録意匠の無効理由に引用する意匠は、請求人の主張によれば、株式会社ドルフィン(以下、D社という)が販売したプレイステーション用コントローラー「サイバーフォースPS」の意匠(以下、甲号意匠という)であって、その形態は甲第1号証に示されたものであり、形態の要旨を次のとおりとするものである。
(1)基本的構成態様について、概略横長箱体状の本体部前面側左右に、幅を窄め先端部を半円弧状としたアーム部を手前側に向けてハの字状に突出させ外殻を形成したもので、本体部上面には、直径を本体部左右近傍の前後幅より僅かに小さくした円形状操作部を、左右2つそれぞれ本体部両側に近接して設け、同操作部の内側斜め手前側には軸部が括れ上端を円盤状とした左右一対の操作ボタンを突設させたものである。
(2)本体部上面外周形状について、両側は円形状操作部に沿った半円状とし、この手前内側は突設した操作ボタンと同心円弧状に張り出しており、後辺側については中央を緩やかな凸円弧状に張り出し、その左右の半円状側部と滑らかな凹弧状に繋げた構成としている。
(3)本体部上面について、突設した操作ボタン付け根部を囲う円形状操作部よりやや小さい円形凸縁を、円形状操作部の斜め手前内側にほぼ接して設け、同円形凸縁の手前側が本体部手前側の外周形状を形成し、上面中央には後面側を広くした概略扇形余地部が形成されている。
(4)本体部前壁(両アーム部の間)について、上面の両円形凸縁の手前側張り出しに伴い左右が膨出し、中央が凹んだものである。
(5)本体部前壁側中央付近の凹み部について、中央を細幅平面とし、その左右を円柱曲面状としている。
(6)本体後部側について、上面両円形状操作部後側の左右位置に、平面視低い台形状に現れる凸部を設けている。
(7)アーム部について、手前側がやや下がっているもので、各アーム部外側辺は半円状本体部側端部から接線方向に設けられ、内側辺は、外側辺に対して円形状操作部の中心とアーム先端を繋ぐ仮想直線に対してほぼ対称位置に設けられ、上面は両側面方向に丸みを有し、本体部との接続基端部上面は本体部上面より僅かに低くしている。
(8)本体部後面側左右に設けられた凸部形状について、後面下端に達するやや縦長方形状であって、横幅が同じで僅かに突出した矩形状凸部を上下2個ずつ表したものである。
(9)本体部底面側形状について、後面側の上下幅をやや広くし、後端から手前側に大きく凹弧状に抉り、これに繋がるアーム部下面は側面視凸弧状とし、これらは側面視S字状に表れている。
(10)右側円形状操作部について、基盤部に4つの小円形ボタンを前後左右に配したものである。
(11)左側円形状操作部について、円形状基盤部全体を揺動多方向スイッチとし、太い十字を表している。
(12)本体部上面中央扇形余地部について、左右両円形状操作部寄り斜め前後位置に2個ずつ、その手前中央に1個の小操作ボタンを設けている。
(13)扇形余地部に設けられた操作ボタンについて、両側に設けられたものは何れも長方形状、手前中央のものは小さな円形状とし、更に同余地部中央に横長円形状の操作ボタンを設けている。
(14)アーム部について、内部が僅かに透けて見える半透明状としている。
3.甲号意匠の公知性について
甲号意匠は、以下の理由により本件登録意匠出願前公然知られたものである。
なお、当審は、甲第4号証の「判定請求書2001-60023号(控)」と、その原本である判定2001-60023号の判定請求書とは差異がなく、同判定請求書添付書類甲第2号証(原本)と、本件請求書添付書類甲第1号証とは、実質的に同一であることを確認した。したがって、甲第1号証及び甲第4号証については、これらのことを前提として以下認定する。
甲第5号証の判定2001-60023号の内容によれば、甲第4号証の判定請求書の副本が、被請求人である大阪府大阪市西区立売堀3-7-18所在の株式会社ブレインズ(以下、B社という)に送達され、同社は答弁せず請求人の主張に対して反論をしていなかったことが認められる。
甲第3号証の合意書によれば、同合意書の添付資料1に現された商品の納入者がB社であることが認められ、同証の作成日が平成13年1月15日であり、甲第4号証の判定請求書の提出日がその略1ヶ月後の平成13年2月20日付であることから、B社を被請求人として同添付資料1の写真に現された意匠を対象として判定請求を行うことは極めて自然なことと認められ、後述するように請求人が同合意書の添付資料1に表された意匠と異なる意匠を甲号意匠とする理由が認められない。
すなわち、甲第3号証の合意書添付資料1の写真に現されたものについて、被請求人は、「その全体の構成態様を正確に特定できないため全体観察を基本とする意匠の類否判断の対象になり得ず」と主張するが、甲号意匠の全体の概略形状、及び、この種意匠において最も着目され、かつ、最も特徴をよく表していると認められる主要操作部が設けられた上面形状をほぼ正確に把握できるものであることから、底面側形状及び後面側形状が現されていなくとも、これのみによって本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号における類否判断をするのに十分であること、甲第1号証によって類否判断に大きな影響を及ぼす新たな事実が開示されるものでもない(理由については後述する)こと、鮮明な写真は不鮮明な写真よりも差異点が明確になる場合も多いことなどから、同添付資料1に現されたものと異なる意匠を請求人が甲号意匠とする理由が認められない。
このように、甲第4号証の判定請求書に甲号意匠がに示された経緯、及び、甲第3号証の合意書添付資料1に現されたものと異なる意匠を請求人が甲号意匠とする理由がないことを綜合すれば、甲号意匠は甲第3号証の合意書添付資料1に現されたプレイステーション用コントローラー「サイバーフォースPS」と同じ意匠である、と解する十分な理由があり、また、これを疑う理由、更に、被請求人により同添付資料1に現されたものと甲号意匠とは異なる意匠であるとする根拠も示されている訳ではないことから、甲号意匠は本件登録意匠出願前公然知られたものと解するほかないものである。
また、甲第5号証の判定2001-60023号によれば、同判定日が本件登録意匠の出願日の3年以上前である平成13年7月12日とされている。判定について、特許庁が公報を発行していることは広く知られていることであるが、甲号意匠が別紙第2として示された同判定の公報は、当然のことながら本件登録出願前発行されており(発行日、平成13年9月28日)、この点からも甲号意匠が出願前公然知られた意匠に該当することは明らかである。
4.本件登録意匠と甲号意匠との比較、検討
そこで、本件登録意匠と甲号意匠を比較すると、本件登録意匠は意匠に係る物品が「ゲーム機用コントローラ」であり、甲号意匠は「プレイステーション用コントローラー」、すなわち、ゲーム機用コントローラーに関するものであるから、両意匠は意匠に係る物品について共通し、形態については、前記両意匠の認定によれば、以下の共通点、及び、差異点がある。
まず、両意匠は、前記(1)の基本的構成態様の点、(2)の本体部上面外周形状の点、(3)の本体部上面の点、(4)の本体部前壁の点、(6)の本体後部側の点、(7)のアーム部の点、(8)の本体部後部側左右に設けられた凸部形状の点、(9)本体部底面側形状の点、(10)の右側円形状操作部の点、(12)の本体部上面中央扇形余地部の点、が共通する。
一方、両意匠は、差異点として、
(5)の、本体部前壁中央付近の凹み部について、本件登録意匠は左右の膨出部と滑らかに繋がる緩やかな凹弧状曲面としているのに対して、甲号意匠は中央を細幅平面とし、その左右を円柱曲面状としている点、
(11)の、左側円形状操作部の揺動多方向スイッチ形状について、本件登録意匠は、角部を上下左右に配したほぼ正方形を表しているのに対して、甲号意匠は、太い十字を表している点、
(13)の、扇形余地部に設けられた操作ボタン形状について、本件登録意匠は、両側に設けられたものは何れも円形状、手前中央のものは横長楕円状としているのに対して、甲号意匠は、両側に設けられたものは何れも長方形状、手前中央のものは小さな円形状とし、更に同余地部中央に横長円形状の操作ボタンを設けている点、
(14)透明、不透明等について、本件登録意匠は全体を不透明としているのに対して、甲号意匠は、アーム部を半透明状としてい点、がある。
そこで両意匠の共通点、及び、差異点の意匠全体としてみた場合における類否判断に及ぼす影響について検討する。
まず、共通点について、(1)の基本的構成態様については、外殻全体の骨格、及び、上面に設けられた操作部の基本的構成態様に関するものであり、(2)ないし(4)、及び(6)の構成態様は、本体部の上面及び外周形状に関するものであり、(7)はアーム部の構成態様に関するものであり、これら(1)ないし(4)、(6)および(7)の共通点に係る構成態様は、意匠全体として訴求力の強い共通した視覚的まとまりを形成するものであるから、これらを併せ持った点は、類否判断を左右する大きな影響を及ぼすものと認められる。(8)の本体部後部側左右に設けられた凸部形状の点、(9)の本体部底面側形状の点については、上面側と比較して着目度が相対的に低く類否判断に及ぼす影響が小さい部位に関するものであり、また、これらの構成態様は、意匠登録第952253号類似登録第11号、同類似第12号、同類似第13号、同類似第14号の意匠に表されている(甲第4号証、判定請求書添付甲第13号証ないし甲第16号証参照)ように従前からみられることから両意匠特有の特徴には該当せず、類否判断にさほど大きな影響を及ぼすものとすることができないものであるが、共通感を強める視覚的効果を有するものである。(10)の共通点に係る構成態様も、細部形状であるが、共通感を強める視覚効果を有するものであるから、類否判断に僅かに影響を及ぼすものである。なお、これより更に小さい(12)の共通点に係る構成態様は、類否判断に殆ど影響を及ぼすものではない。
これに対して、(5)の本体部前壁側中央付近の凹み部における差異点については、両意匠とも上面の小円形凸縁の手前側張り出しに伴い左右が膨出し中央が凹んだものであることには変わりがなく、本体部全体としてみた場合には(4)の共通点に係る構成態様が生じさせる視覚的効果の方が優っており、
(11)の左側の円形状操作部の基盤部における差異点について、甲号意匠は太い十字を現しているが、具体的事例を挙げるまでもなくこの種意匠の分野における多方向揺動スイッチにおいてありふれているものであり、甲号意匠の特徴を構成するものではなく、一方、本件登録意匠はほぼ正方形としているとしても、仔細に見れば4隅を直線状に落としており、両意匠共上下左右の4方向揺動スイッチであることを示していることには変わりがなく、本体部上面全体としてみた場合には、共通するとした(1)における「直径を本体部左右近傍の前後幅より僅かに小さくした円形状操作部を、左右2つそれぞれ本体部両側に近接して設け、同操作部の内側斜め手前側には軸部が括れ上端を円盤状とした左右一対の操作ボタンを突設させた」上面の共通点に係る構成態様の生じさせる視覚的効果の方が優っており、
(13)の扇形余地部に設けられた操作ボタン形状の差異点についても、類否判断に及ぼす影響は僅かとした(9)における右円形状側操作部の4つの小円形ボタンよりも更に小さい微細なものであり、
(14)透明、不透明等の点について、甲号意匠のアーム部が半透明であるとしても極く僅か透けて見えるだけの微弱なものであり、また、その他の不透明部との格別顕著な視覚的対比効果が生じているわけでもない。
したがって、これらの差異点に係る構成態様は、何れも類否判断に及ぼす影響は僅かであり、これら差異点の相まった視覚効果を考慮したとしても、前記共通するとした訴求力の強い共通した視覚的まとまりに吸収されてしまう程度の微弱なものに過ぎない。
このように、前記共通するとした(1)ないし(4)、(6)および(7)の構成態様を併せ持った点は類否判断を左右する大きな影響を及ぼすものであるのに対して、差異点に係る構成態様は何れも類否判断に及ぼす影響は極く僅かであり、相まった視覚的効果を考慮したとしても、共通するとした訴求力の強い視覚的まとまりに吸収されてしまう程度の微弱なものにすぎず、これに加え、共通感を強める前記(8)、(9)、及び(10)の点も共通するから、本件登録意匠は甲号意匠に類似するとせざるを得ないものである。
5.むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願前公然知られた甲号意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項の規定に違反して登録されたものであるから、請求人のその他の主張を検討するまでもなくその登録は、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2006-02-23 
結審通知日 2006-02-27 
審決日 2006-03-31 
出願番号 意願2004-26495(D2004-26495) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (H2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江塚 尚弘 
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 山崎 裕造
岩井 芳紀
登録日 2005-03-11 
登録番号 意匠登録第1237506号(D1237506) 
代理人 渡邊 徹 
代理人 藤本 昇 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 野村 慎一 
代理人 飯田 圭 
代理人 井野 砂里 

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