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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) D3
管理番号 1146472 
判定請求番号 判定2006-60031
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2006-12-22 
種別 判定 
判定請求日 2006-06-28 
確定日 2006-11-10 
意匠に係る物品 提灯 
事件の表示 上記当事者間の登録第0843835号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号写真に現された「提灯」の意匠は、登録第0843835号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第一 請求の趣旨及びその理由
請求人は、「イ号写真に示すイ号意匠は意匠登録第843835号意匠(以下「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属しないとの判定を求める。」と申し立て、その理由として判定請求書の請求の理由に記載の通りの主張をし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第21号証の書証を提出したものである。
その主張の要点は、以下の通りである。
1.判定請求の必要性
本件判定の被請求人は、平成16年3月19日付で、本件判定請求人を被告として意匠権侵害差止等請求訴訟を提起し(平成16年(ワ)第910号)、更に、平成18年3月9日付で、図面により特定したイ号意匠に基づいて判定請求を行った(判定2006-60015)。
しかし、本件判定請求人は、図面によってイ号意匠を正確に特定することは困難であり、イ号意匠は写真によって特定すべきであると考えている。
したがって、本件判定請求人は、写真によりイ号意匠を正確に特定した上で特許庁の判定を求める。
2.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「提灯」とし、その形態を意匠公報(甲第1号証)に記載の通りとするものである。(別紙第1参照)
3.イ号意匠
イ号意匠は、意匠に係る物品を「提灯台」とし、その形態をイ号写真(甲第3号証)に現された通りとするものである。(別紙第2参照)
4.本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)意匠に係る物品
「提灯」と「提灯台」は、用途及び機能が明らかに異なるものであるから、本件登録意匠とイ号意匠とは、そもそも意匠に係る物品において非類似である。
(2)基本的構成態様
本件登録意匠は、三角形の屋根部と球状の提灯本体と方形状の台座との上下三段階の基本的構成態様を有しているのに対して、イ号意匠は、提灯本体が存在しない提灯台であり、三角形の屋根部と方形状の台座との上下二段階の基本的構成態様である。
基本的構成態様が非類似であることは、明白である。本件登録意匠もイ号意匠も、基本的構成態様が出願前公知であるが、仮に互いの基本的構成態様が公知であったとしても、その基本的構成態様を対比すれば互いに非類似であるため、全体の類否判断において重要な対比項目とすべきである。
(3)具体的構成態様
(a)屋根部本体について
1) 本件登録意匠においては、屋根部本体が裾部にかけて漸次肉厚とした一定厚みの平坦な切妻形屋根板からなるのに対して、イ号意匠においては、屋根部本体が湾曲してそり上がり形状とした表面黒色の切妻形屋根板からなり、しかも厚みが均一な薄板としている。
2)本件登録意匠においては、前板、後板の中央部を貫通する縦板が屋根部本体の内側中央に配されているのに対して、イ号意匠においては、縦板の代わりに枠体が左右に配されて略矩形枠を形成している。
3)本件登録意匠においては、切破風板を、山型の屋根部本体の前端面に貼着しているのに対し、イ号意匠においては、切破風板を山型の屋根部本体の下方前部に配設している。
4)本件登録意匠においては、鬼瓦板が小さく切破風板の頂部に立設されているのに対し、イ号意匠においては大きな鬼瓦板が屋根部本体の前端頂部に立設されている。
5)以上を総合すると、本件登録意匠では、質実剛健な肉厚の平坦山型屋根形状が特徴と認められ、イ号意匠のように湾曲した柔軟で上品なデザイン性のある印象を与える意匠は、屋根部の対比において、本件登録意匠と全く印象を異にする非類似の意匠といわなければならない。
(d)支柱について
本件登録意匠においては、一本の垂直な柱であるのに対し、イ号意匠においては、中途がジョイントしてボルトで取り外し自在に連結されている。構造上、形状上、機能上のいずれにおいてもこのジョイントの有無は大きな差異であり、両意匠の非類似の根拠となり得る。
(e)台座について
1)本件登録意匠とイ号意匠のいずれも、上下二段に井桁を重ねた形状である点では共通する。
しかしながら、一般に、支柱の台座として井桁形状を用いることは公知であり、各種の製品において周知の形状である。提灯台の台座としての上下二段の井桁形状は、本件意匠の出願前に公知の形状となっており、なんら意匠としての創作性はなく、従って、この部分の形状を捉えて本件意匠の要部とすべきではない。
2)台座そのものの対比をしても、両意匠は非類似である。すなわち、本件登録意匠では、台座の底板が井桁の矩形空間を全面閉塞するような超薄板より構成されるのに対し、イ号意匠における台座は、井桁の矩形空間中央に一定の厚みで一定幅員の2枚の底板を架設し、底板の前後に狭幅の細窓を形成した形状である。台座を注視しようとすれば近づいてあえて覗き込むことになり、この際、井桁内部の構造形状は看者に強い印象を与える。
(f)棒材について
やや長さに差があるが、略同一形状である。
(g)提灯本体について
本件登録意匠を実施する際には、この「提灯本体」に灯りがともされ、看者が最も注意を惹かれる部分は「提灯本体」であり、意匠全体の印象に大きな影響を及ぼすものである。したがって、両意匠は、看者に対して全く異なる印象を与えるものである。
(h)材質について
本件登録意匠の材質は、不明であるが、イ号意匠は、焼杉材からなる。イ号意匠におけるこの木目が浮かび上がる独特の色彩等を有する焼杉の材質は、イ号意匠の屋根部の形状と相俟って一層優美な印象を与えるものであり、本件登録意匠とイ号意匠は、看者に対して全く異なる印象を与えるものである。
(j)以上より、本件登録意匠とイ号意匠は、具体的構成態様において顕著な差異があり、両意匠が非類似であることは明らかである。
5.両意匠の類否について
対比において特に重要な点は、意匠に係る物品が異なること、全体の形状部分において基本的構成が異なること、具体的構成(a),(b)及び(c)の切妻形屋根板、切破風板、屋根板内部の枠体等の形状が異なることである。このような屋根部の形状の相違により、本件登録意匠とイ号意匠とは、看者の最も注視しやすい部分の屋根部の印象が全く異なる。
本件登録意匠とイ号意匠とを全体観察により対比すると、(1)「意匠に係る物品」が異なり、(2)球状の提灯本体の有無は、看者に最も目に付きやすい部分の差異であり、(3)具体的構成態様において最も看者の目を惹く屋根部において顕著に異なる印象があり、(4)台座の外観は、足元にある形態であるため、看者には注視されない部分であり、両意匠は非類似である。
第二 被請求人の答弁
被請求人は、「イ号意匠は意匠登録第843835号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める。」と申し立て、その理由として答弁書の答弁の理由に記載の通りの主張をし、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証の書証を提出したものである。
その主張の要点は、以下の通りである。
1.判定請求の必要性について
イ号意匠は6面図によって正確に特定することができ、特に複雑な構造を有しているわけでもない。イ号意匠について、なにゆえ写真による特定を持ち出すのか疑問である。
2.意匠の説明について
請求人は、意匠公報に対応すると主張する分解図を提出し、これに基づいて本件意匠を説明していると共に、請求人がイ号意匠の写真に対応すると主張する分解図を提出し、これに基づいてイ号意匠を説明している。しかし、意匠公報に掲載された図面が意匠権の内容であるから、このような分解図に基づく説明は的外れな説明である。
そこで、被請求人は、図面による意匠の特定を行った。
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「提灯」とし、その形態を意匠公報に記載の通りとするものである。(別紙第1参照)
イ号意匠は、その形態を乙第1号証図面に記載の通りとするものである。(別紙第3参照)
3.本件登録意匠とイ号意匠との比較
(1)両意匠の共通点
(a)基本的な構成態様において、全体が縦長の形状を有し、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる。
また、具体的な構成態様において、
(b)屋根部本体は、前板、後板、前板及び後板の上部と固着された切妻形屋根板から構成され、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲して拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称構造を有する切破風板が、屋根部本体の正面端部に取り付けられている。
(c)切破風板の拝み部上端に鬼瓦板が取り付けられている。
(d)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。
(e)縦に垂直に延びる支柱の上端が屋根部本体に取り付けられ、支柱の下端は台座に取り付けられている。
(f)上段の井桁と下段の井桁が重ねられ、上段の井桁と下段の井桁との間に矩形の隙間を有する二段の井桁で台座は構成されている。井桁は断面四角形状の互いに同一寸法の棒材で組み立てられている。
(g)支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒状が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に突設している。
(2)両意匠の相違点
(a)本件登録意匠に係る物品が「提灯」であるのに対して、イ号意匠に係る物品は「提灯台」である。
(b)本件登録意匠の切破風板には紋章が付されていないが、イ号意匠の切破風板には、その拝み部及び両破風尻に紋章が付されている。
(c)本件登録意匠の鬼瓦板には紋章が付されていないが、イ号意匠の鬼瓦板には紋章が付されている。
(d)本件登録意匠の支柱は一続きの柱であるのに対して、イ号意匠の支柱は接合した3つの部材で構成されている。
(e)本件登録意匠の井桁には薄板が架設されているのに対して、イ号意匠の井桁には2枚の板が架設されている。
(f)本件登録意匠は提灯本体を含んだものであるのに対して、イ号意匠は提灯本体を含んでいない。
4.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由
(1)本件登録意匠の要部
本件登録意匠に係る物品における意匠上の創作の主たる対象は、従来、単なる切妻形の屋根や十字形の土台を備えた提灯が存在するばかりであることから、屋根部の構成態様と台座の構成態様にあることは明らかであり、本件登録意匠においては、屋根部に取り付けられた他に全く見られない切破風板の形状、及び井桁状の台座の態様が相俟って、本件登録意匠全体の基調を表出している。また、このような審美的な形状の切破風板が取り付けられた屋根部を備えた本件登録意匠は、単なる切妻形の屋根を備えたものに比べて、本件登録意匠を見るものに華麗な印象を強く与え、更に、二段の井桁状の台座も提灯の持つ和風で伝統的なイメージと調和がとれて本件登録意匠を見るものに強い印象を与える。
(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
両意匠の共通点は、多数に及び、特に、本件登録意匠の要部である、切破風板の形状及び井桁状の台座の態様が共通しており、両意匠の類否の判断に大きな影響を与える。
両意匠の相違点(a)及び(f)については、イ号意匠も、本件登録意匠のように提灯本体を吊り下げて使用することが前提とされており、また、意匠の類否判断においては、通常の使用状態すなわち提灯を吊り下げた状態で判断するものであるから、特段顕著な相違とは言えず、意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
相違点(b)については、一般家屋の屋根に紋章を付すことは昔から行われてきた常套手段であり、一般家屋の屋根を模した屋根部を備えるこの種の物品において紋章を付した屋根部はありふれた形態であるから、特段顕著な相違とは言えず、類否判断に与える影響は微弱である。
相違点(c)についても、一般家屋の屋根の鬼瓦板に紋章を付すことは昔から行われてきた常套手段であり、一般家屋の屋根を模した屋根部を備えるこの種物品において紋章を付した鬼瓦板はありふれた形態であり、この点においても特段顕著な相違とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱である。
相違点(d)については、意匠の外観として表れるものは支柱の途中に二箇所の継ぎ目であるが、支柱に二箇所継ぎ目が入っても、見るものに何ら審美的な強い印象を与えるものではなく、特段顕著な相違とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱である。
相違点(e)については、本件登録意匠もイ号意匠も正面視される状態で主として使用されるものであり、このような状態では通常、井桁の内部は見えない上に、本件登録意匠もイ号意匠も、いずれも井桁内部に植栽などを置いて使用することが予定されており、通常の使用状態においては、井桁内部の板の配置状態が見られることはほとんどなく、また、板が2枚に分かれていても、見るものに何ら審美的な強い印象を与えるものではないから、特段顕著な相違とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の点を前提として、両意匠を全体的に考察すると、両意匠の相違点は、類否の判断に与える影響がいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているとはいえず、それらがまとまっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでに至らないものである。
5.請求人の主張について
(1)意匠に係る物品並びに基本的構成態様について
日本古来の伝統行事である点を考慮すれば、盆提灯そのものの形状には大きな差異は存せず、また、意匠の類否判断においては、通常の使用状態すなわち提灯を吊り下げた状態で判断するものである。
(2)屋根部について
請求人は、切妻形屋根板の形状が、本件登録意匠では漸次肉厚とした一定厚みの平坦な形状であるのに対して、イ号意匠においては厚みが均一な薄板の湾曲そり上がり形状である旨主張している。しかし、意匠を正面視した場合、このような相違は全くわからず、単に切破風板が看取されるのみであり、切破風板が看者の注意を引く部分であり、このような相違は意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。提灯台は基本的には正面視される状態でしか使用されないもので、通常の使用状態は正面視される状態である。
屋根部の内側構造は、意匠公報からは全く不明であり、本件の意匠公報の図面からは看取できず、類否判断の対象とはなり得ない。
切破風板の配設の相違は、正面視される状態では看取されず、側面視される状態においても、瑣末な差異を生じるに過ぎないので意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
鬼瓦板の大きさは本件の意匠公報の図面からは特定不能であり、仮に鬼瓦板の大きさに若干の違いがあったとしても、瑣末な相違に過ぎず、意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
(3)支柱について
支柱に単に二箇所ジョイントがあっても、看者に何ら審美的な強い印象を与えるものではなく、意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
(4)台座について
井桁状の台座はそれまで皆無であったことが明らかであり、このような井桁状の台座に植木等の植栽を配し、日本古来の行事である盆の雰囲気を壊さないようにすることができる本件登録意匠の高い創作性は明瞭である。なお、庭園灯やかさ立てに井桁の形状があったとしても、意匠の類否は物品ごとに判断されるものである。
この種提灯や提灯台は、一定の距離を離れた状態で、正面から見ることが多く、そこでは当然、屋根部と台座は等しく視界に入り、近づいてわざわざ台座を覗き込むようなことは通常考えられない。
また、井桁内に設置された板の形状などは瑣末な相違点に過ぎないことに加え、通常見えない上に、植栽などを置いて使用することが予定されているので、板の配置状態が看取されることはなく、このような相違は意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
(5)提灯本体について
提灯本体は、盆提灯である以上、日本古来の提灯の形状を踏襲せざるを得ず、正円または楕円状の、公知かつありふれた形状のものにならざるを得ないから、提灯本体は本件登録意匠の要部にはならない。また、提灯台の通常の使用状態は提灯を吊り下げた状態であり、盆提灯の形態自体にはそれほどの選択肢もないことを考慮すると、この点は意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
(6)材質について
意匠公報の図面から不明な材質をどのようなものにしようとも、意匠の形状に比べて、意匠の類否判断において何ら影響を及ぼさないか若しくは影響は微弱である。
そもそも、意匠公報の図面から読み取れる特長を満たしている意匠については、当然に同一または類似となるのであって、更に意匠公報から不明確であり、数通りの実施例が考えられる部分について、本件意匠の範囲を無理に実施例の一つに限定した上で、これとの相違点を主張して非類似の主張をすることは、全く意味をなさない。
6.本件登録意匠の要部について
本件登録意匠の要部、すなわち「見る者の注意をもっとも引きやすい部分」であって、一般需要者に対する自他識別力の中核となる部分は、上部の屋根部と井桁状の台座であることは一目瞭然である。支柱は提灯本体及び屋根部を保持するという機能上、地面に対し垂直の棒状の形状にならざるを得ず、公知ないしありふれた形状であり、また、提灯本体は、盆提灯である以上、日本古来の提灯の形状を踏襲せざるを得ず、公知かつありふれた形状のものにならざるを得ないからである。
本件登録意匠における正面視した屋根部の態様は、極めて優美かつ上品で豪華な印象を与える提灯台は全く存在していなかったことは明らかであり、このような本件意匠の高い創作性に、自他識別力が存することも明らかである。なお、屋根部本体の内部空間の枠体が組み込まれた形状は、本件の意匠公報の図面からは看取されず、要部にならない。また、本件登録意匠のような井桁状の台座はそれまで皆無であったことが明らかであり、本件意匠の高い創作性に、自他識別力が存することも明らかである。
本件登録意匠やイ号意匠は、盆提灯台として民家の玄関等に置かれるものであり、一定の距離を離れた状態で、正面から見られることが多く、屋根部と台座は等しく視界に入ると共に、屋根板の下方の形状など、よほど注意して見ない限り、視界に入らず、ましてや屋根板下方の形状や構造が、看者の注意を引き、自他識別力を獲得するなどということは、考えられない。
したがって、本件登録意匠の要部は、上記4(1)に述べた通りに認定すべきものである。
第三 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和58年9月1日の意匠登録出願に係り、平成4年4月27日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第843835号の意匠である。
本件登録意匠は、その意匠登録出願の願書及び添付図面の記載によると、意匠に係る物品を「提灯」とし、その形態の要旨を次のとおりとするものである(別紙第1参照)。
(1)基本的な構成態様
全体が提灯台と提灯本体よりなり、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなり、略球状提灯本体は、屋根部から吊り下げられている。
(2)具体的な構成態様
(a)屋根部について、(a-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、平坦状の屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、その屋根板は外側が徐々に厚くなり下端部は水平に切断され、(a-2)屋根部本体の下部には正面視及び背面視略三角形状の部材が配されている(なお、その下部部材の配置位置等の構成態様は特定できない。)。(a-3)切破風板は、厚味が一定で、屋根部本体の正面端部に取り付けられ、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有している。(a-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、横幅が屋根全体の幅の約20分の1で、切破風板の拝み部上端に取り付けられている。(a-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。
(b)支柱は、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている(なお、支柱の断面形状が、角か丸かは特定できない。)。
(c) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁であり、平面全面が薄板で覆われている(なお、薄板の設置位置は特定できない。)。
(d)支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している。
(e)略球状提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されている。
2 イ号意匠
イ号意匠は、イ号写真(甲第3号証)に現された意匠であって、意匠に係る物品が「提灯台」であり、その形態の要旨を次のとおりとするものである(別紙第2参照)。
なお、被請求人は、イ号意匠を乙第1号証図面(別紙第3参照)に記載の通りと認定すべき旨主張しているが、請求人はイ号写真(甲第3号証)に現された意匠をイ号意匠として本件判定を請求しており、また、意匠法において意匠を写真で現すことが認められているから(意匠法第6条第2項、及び同法第24条参照。)、被請求人の主張は採用できない。
(1)基本的な構成態様
縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる。
(2)具体的な構成態様
(a)屋根部について、(a-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、湾曲そり上がり形状の屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、その屋根板は同じ厚みの薄板で、(a-2)屋根部本体の下部に、正面視略三角形状で、背面視すると上部山型の略扁平5角形状で、側面視すると屋根部本体よりも下方にはみ出した矩形状で、底面視すると全体略矩形状の枠部材が配されている。(a-3)切破風板は、厚味が一定で、屋根部本体の下部やや奥まった位置において下部枠部材の正面端部に取り付けられ、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有している。(a-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、横幅が屋根全体の幅の約10分の1で、切破風板の拝み部上端に取り付けられている。(a-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。(a-6)紋章が、切破風板正面の左右両破風尻、及び鬼瓦板正面に付され、横幅が屋根全体の幅の約6分の1で横長板状の装飾具が切破風板正面の拝み部に付されている。
(b)支柱は、角柱であって、3つの部材で構成され、2箇所に継ぎ目があり、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている。
(c) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁であり、下段の井桁に幅が井桁平面全体の略4分の1の細幅薄板を2枚架設して約2分の1を覆っている。
(d) 支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している。
(e)全体が、杉材で構成され、表面に杉材の木目模様が表れている。
3 両意匠の対比
(1)共通点
両意匠は、(A)基本的な構成態様において、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなる点で共通する。
また、両意匠は、具体的な構成態様において、(B)屋根部について、(B-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、 (B-2)屋根部本体の下部には正面視略三角形状の部材が配され、(B-3)切破風板は、厚味が一定で、 正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有し、(B-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、 切破風板の拝み部上端に取り付けられ、(B-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている点、(C)支柱は、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の後板中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている点、(D) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁である点、(E) 支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している点で共通する。
(2)差異点
両意匠は、意匠に係る物品について、本件登録意匠が「提灯」であるのに対し、イ号意匠が「提灯台」であり、差異がある。
また、その形態について両意匠は、(a)基本的構成態様において、本件登録意匠は、全体が提灯台と提灯本体よりなり、略球状提灯本体が屋根部から吊り下げられているのに対し、イ号意匠は、提灯本体がなく、提灯台のみである点に差異がある。
具体的構成態様において両意匠は、(b)屋根部について、(b-1)本件登録意匠は、屋根板が平坦状で、外側が徐々に厚くなり下端部は水平に切断されているのに対し、イ号意匠は、屋根板が湾曲そり上がり形状で、同じ厚みの薄板である点、(b-2)屋根部本体の下部に、本件登録意匠は、正面視及び背面視略三角形状の部材が配されているのに対し、イ号意匠は、正面視略三角形状で、背面視すると上部山型の略扁平5角形状で、側面視すると屋根部本体よりも下方にはみ出した矩形状で、底面視すると全体略矩形状の枠部材が配されている点、 (b-3)切破風板が、本件登録意匠は、屋根部本体の正面端部に取り付けられているのに対し、イ号意匠は、屋根部本体の下部やや奥まった位置において下部枠部材の正面端部に取り付けられている点、(b-4)鬼瓦板の横幅が、本件登録意匠は、屋根全体の幅の約20分の1であるのに対し、イ号意匠は、横幅が屋根全体の幅の約10分の1である点、(b-5)本件登録意匠には、紋章や装飾具がないのに対し、イ号意匠は、紋章が、切破風板正面の左右両破風尻、及び鬼瓦板正面に付され、横幅が屋根全体の幅の約6分の1で横長板状の装飾具が切破風板正面の拝み部に付されている点、(c)支柱は、本件登録意匠には継ぎ目がないのに対し、イ号意匠は、3つの部材で構成され、2箇所に継ぎ目がある点、(d)台部井桁の平面が、本件登録意匠は、全面が薄板で覆われているのに対し、イ号意匠は、幅が井桁平面全体の略4分の1の細幅薄板を2枚架設して約2分の1を覆っている点、(e)本件登録意匠は、略球状提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されているのに対し、イ号意匠は、提灯及び紐体がない点、及び(f)本件登録意匠は、形状のみの意匠であって模様がないのに対し、イ号意匠は、全体に杉材の木目模様が表れている点に差異がある。
4.両意匠の類否判断
この種台付の提灯や提灯台は、その使用状態等を考慮すると、設置されて使用されるものであり、離れた所から全体が観察されるとともに、ある程度近寄って各部の構成態様も視認されるものと認められる。
そうすると、まず、(a)両意匠の意匠に係る物品における「提灯」と「提灯台」との差異は、機能的には照明機能の有無であり、形態的には提灯本体の有無の差異であるが、照明機能の有無は物品として大きな差異であり、かつ、形態的にも大きな差異である。本件登録意匠の提灯本体は、たしかにありふれた形状の提灯本体であって、格別特徴的な形態ではないが、提灯本体は、意匠全体に占める割合が大きいとともに中央部の最も目に付きやすい位置にあり、本件登録意匠の基本的構成態様において大きな要素となっており、提灯本体の有無は、形態的には両意匠の骨格を形成する基本的構成態様に係る差異である。なお、イ号意匠は使用状態において提灯本体を吊り下げる物品であるとしても、イ号意匠には提灯本体が含まれず、イ号意匠の図面に記載されているように提灯本体がない意匠として本件登録意匠と対比し、類否判断されるべきものである。次に、(b)屋根部の構成態様については、この種提灯や提灯台の通常の使用状態を考慮すると、斜視されることが普通であり、正面視はむしろ例外的な状態である。両意匠の屋根部は、斜視された場合、正面端部の切破風板の正面視形状のみならず、屋根板の形状、切破風板の取付け(配置)態様等を含めた構成態様全体が視認されるものと認められる。この観点から見ると、両意匠の屋根部は、(b-1)屋根板が平坦状か湾曲そり上がり形状か、(b-2)屋根部本体の下方にはみ出した下部部材の有無、(b-3)切破風板の取付け位置の差異等が明確に視認され、また、(b-5)切破風板の正面部における紋章や装飾具の有無も付加的な装飾要素ではあるが、正面部の目立つ部位における全くない状態とある状態の差異であって一定の視覚的効果があり、そして、これらの差異は屋根部全体にわたるものであるから、両意匠の屋根部の構成態様は顕著に相違するといわねばならない。なお、正面視する場合は、切破風板の正面形状のみが視認される場合があるが、図面上で対比するのと違い、立体的な意匠を対比するのであるから、両意匠を正面視する場合も、上記のような切破風板の取付け位置の相違等が視認されるものである。
したがって、両意匠は、物品の機能において大きく相違し、提灯本体の有無という基本的構成態様において差異があり、屋根部の構成態様においても顕著な差異があるものであり、その他の差異点をも勘案すると、両意匠は全体として美感が相違し、類似しないものである。
これに対して、共通する構成態様は、差異点を凌駕し共通する美感を起こさせるものではない。すなわち、(A)支柱、突設棒材、屋根部、台座による基本的構成態様は、この種提灯台の分野において、広く知られた態様であり(例えば、昭和14年実用新案公告第15093号、実公開昭和57-161801号、意匠登録第603102号。)、格別特徴的なものではなく、意匠に係る物品及び提灯本体の有無という基本的構成態様に係る差異点を希釈して、意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものではない。(B)屋根部の共通点は、上記のように、正面視した場合にのみ視認されるものであって、屋根部全体としては大きく相違するものであるし、また、切妻形屋根本体の先端に切破風板と鬼瓦板を設ける態様も、広く知られた態様であり(例えば、昭和14年実用新案公告第15093号、昭和14年実用新案公告第19965号。)、格別特徴的なものでもない。(C)支柱の態様、及び(E)突設棒材の態様は、基本的構成態様と同様、広く知られた態様で格別特徴的なものではない。(D)台座の上下二段の井桁の構成態様は、この種提灯や提灯台の意匠の分野において、本件登録意匠の出願前にはあまり見られない特徴的な態様である。しかし、井桁の形状は、一般的に周知の形状であり、かつ、庭園灯やかさ立て等家具分野においては普通に見られる形状である(例えば、意匠登録第287829号(乙第5号証)、同第405416号(乙第6号証)、同第556780号(乙第7号証)。)。たしかに、意匠の類否は物品ごとに判断されるものである。しかし、提灯や提灯台も家具分野の物品であるから、家具分野において普通に見られる形状であれば、当該形状については格別新規で特徴的な態様とはいえず、看者の注意を格別に引くものではない。さらに、台座部は、本件登録意匠の基本的構成態様の一要素ではあるが、他の基本的構成態様において提灯本体の有無、及び、屋根部の構成態様に顕著な差異があり、台座部の共通する態様は、意匠に係る物品及び基本的構成態様における差異点を凌駕して、両意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものとはいえない。そして、これらの共通する態様の相俟って奏する視覚的効果を勘案しても、差異点を凌駕して、両意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものではない。
以上のように、両意匠は、差異点が共通点を凌駕し、意匠全体として美感が相違し、イ号意匠は本件登録意匠に類似しないものである。
5.結び
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2006-10-31 
出願番号 意願昭58-37876 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (D3)
最終処分 成立 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 樋田 敏恵
杉山 太一
登録日 1992-04-27 
登録番号 意匠登録第843835号(D843835) 
代理人 西山 忠克 
代理人 松尾 憲一郎 
代理人 中嶋 裕昭 
代理人 長賀部 雅子 
代理人 田中 雅敏 
代理人 有吉 修一朗 
代理人 工藤 修一 
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