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審決分類 審判    L1
管理番号 1151753 
審判番号 無効2006-88015
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2007-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-06-21 
確定日 2007-01-15 
意匠に係る物品 コンクリート型枠支持金具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1043396号「コンクリート型枠支持金具」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1043396号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立て及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨以下のとおり主張し、立証として、甲第1号証ないし甲第15号証(枝番を含む)を提出した。
1.無効の理由の要点
本件登録意匠(意匠登録第1043396号の意匠)は、甲第1号証乃至第8号証に記載された意匠に基づいて容易に創作できたものであり、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるから意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
2.本件登録意匠を無効とすべきである理由
(1)本件登録意匠の説明
本件意匠の構成は願書及び願書に添付された図面の記載から次のとおりのものと認められる。
a 一定巾の帯状金属板を屈曲成形して主鉄筋に嵌合するくの字形のフック部と、このフック部に対向する平板部と、平板部からアーム状に延出する型枠支持部を形成し、平板部の面にフック部に向って螺合された鉄筋締結用のボルトを備えたコンクリート型枠支持金具であって、
b 型枠支持部は平板部から同一平面上に延出している、
c 型枠支持部の一側辺は先端が細くなるように直線的に傾斜している、
d 以上を特徴とするコンクリート型枠支持金具。
以上a乃至dの構成からなっている。
(2)証拠の説明
本件意匠登録の先行意匠について
[刊行物]
1 意匠登録第739081号公報 (甲第1号証)
2 実開昭63-89049号公報 (甲第2号証)
3 実開昭57-196741号公報(甲第3号証)
4 実公昭54-38112号公報 (甲第4号証)
5 意匠登録第661389号公報 (甲第5号証)
6 実開昭59-78455号公報 (甲第6号証)
7 実開昭60-107245号公報(甲第7号証)
8 実開昭60-61332号公報 (甲第8号証)
コンクリート型枠支持金具において、帯状金属板を屈曲して主鉄筋に嵌合するくの字形のフック部と、平板部、アーム状の型枠支持部を形成し、平板部に鉄筋締結用のボルトを備えたaの構成からなるコンクリート支持金具は、甲第1?2号証に開示されているように本件意匠の出願前から広く一般に知られている。
本件意匠は、aの構成からなる周知に属する基本形態において、b及びcの構成を要部とするものであると認められる。
即ち、本件意匠はコンクリート型枠支持金具において、
1「型枠支持部が平板部から同一平面上に延出している」(構成b)
2「型枠支持部の一側辺が先端が細くなるように直線的に傾斜している」 (構成c)
以上1、2の2つの構成b、cが本件意匠の要部と認められる。
しかし、上記1、2の2つの構成b、cは何れも前記刊行物である甲第3号証と甲第5乃至8号証に記載され、これら公知の意匠から容易に創作することができたものである。
具体的には、「型枠支持部が平板部から同一平面上に延出している」というbの構成は甲第3号証と甲第5乃至8号証に、また「型枠支持部の一側辺が先端が細くなるように直線的に傾斜している」というcの構成は甲第3号証及び甲第8号証に記載されている。
(3)むすび
従って、本件登録意匠は、甲第1乃至甲第8号証に記載された意匠に基づいて当業者が容易に創作することができたものであり、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるから、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
なお、請求人は、平成18年9月8日付けで「審判請求理由補充書」を提出し、理由の補充と共に「甲第16号証」としてカタログの複写を提出し、当該カタログに掲載された意匠と同一又は類似するから新規性がなく、本件登録意匠は無効とすべきである旨主張するが、当初の審判請求書の理由、すなわち、意匠法第3条第2項の理由と実質的に異なる新たな理由を追加するものであり、その要旨を変更するものであるから、当該新たな理由は採用することができない。
第2.被請求人の答弁及び答弁の理由
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由として、要旨以下のとおり主張した。
1.理由
(1)甲第1号証に記載された意匠と本件登録意匠とは、この種の型枠支持金具の主要部と見られるクランプ部の形状が殆ど同一であるにもかかわらず、型枠支持部の形状が異なることで全体の意匠が互いに異なり、両者は類似しないと認定された結果、本件登録意匠が登録された経緯を参酌すると、仮に主要部であるクランプ部の形状が殆ど同一でも、型枠支持部の形状に程度の差異があれば新規な意匠感を備えた登録され得る意匠を構成する、ということがいえる。
(2)請求人の主張は、甲第三意匠(甲第3号証の意匠)における型枠支持部の形状と本件登録意匠の型枠支持部の形状とが同一であるから、本件登録意匠は、甲第1号証に記載された公知の形状と甲第3号証に記載された公知の形状との単なる結合に過ぎず、容易に創作することができた意匠である、と要約できる。
(3)両者の型枠支持部の正面形状及び背面形状は、本件登録意匠の方はナイフ形状であるのに対し、甲第三意匠の方は角張ったずんぐり形の楔形であり、特に背面形状においては、甲第三意匠の方は上側辺に沿って手前に張り出す帯状折曲板部の板厚面が見られる点で明確な違いがある。
(4)甲第三意匠における型枠支持部の全体形状は、角張ったアングル形状、即ち、型枠支持部の上側辺から横側方に張り出す「板厚に比較して相当巾広の帯状折曲板部」の存在が看者に頑強な印象を強く与える形状であるのに対し、本件登録意匠における型枠支持部の全体形状は、贅肉を取り去ったシャープで繊細なナイフ状という、現代的な意匠感、美感を看者に与える形状であって、両者はその意匠感を全く異にするものであり、敢えて両者の共通点を挙げるならば、両者共、型枠支持部の下側辺が傾斜している点のみである。請求人は、本件登録意匠における型枠支持部の形状の内、下側辺が傾斜している点、即ち、型枠支持部を正面から見たときの形状(図8A、B参照)に表れる輪郭の一部分のみを捉えて、本件登録意匠における型枠支持部の形状は甲第3号証に記載された公知の形状である、と判断をし、この誤った判断に基づいて、本件登録意匠は甲第1号証に記載の公知の形状と甲第3号証に記載の公知の形状との単なる結合に過ぎず、容易に創作できたものであるとの結論を導いているに過ぎない。
(5) 以上を要するに、本件登録意匠の要部の一つであるクランプ部の形状が公知意匠Bの一部分であるクランプ部の形状と同一であり、本件登録意匠の要部の他の一つである型枠支持部の形状が他の公知意匠Cの一部分である型枠支持部の形状と同一である場合に、果たして本件登録意匠全体の意匠感が、公知意匠Bの全体の意匠感又は公知意匠Cの全体の意匠感と同一か殆ど変わらないと看者が感じるか否かを論ずるまでもなく、「本件登録意匠における型枠支持部の形状は甲第3号証に記載された公知の形状である」との請求人の主張は成り立たないことが上記の通り明らかである。
依って、「視覚を通じて美感を起こさせるものである」意匠に関して本件登録意匠と公知意匠とを比較考察しなければならないところ、特許発明が公知発明と比較して技術思想の創作に係る進歩性があるか否かを論じるのと同様の手法で本件登録意匠と公知意匠とを比較考察している請求人の各論点について詳細に反論するまでもなく、本件登録意匠は、甲第1号証?甲第8号証に記載された意匠に基づいて当業者が容易に創作することができたものではない。従って、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものではないから、答弁の趣旨通り、本件無効審判はその理由が成り立たない、との審決を求める次第である。
第3.当審の無効理由通知
審判長は、請求人及び被請求人に対して、次のとおり、無効理由を通知した。
「本件の意匠登録は、合議の結果、以下の理由によって無効とすべきものと認められます。これについて意見がありましたら、この通知の発送の日から30日以内に意見書の正本1通及びその副本2通を提出して下さい。
理 由
本件登録意匠は、その出願前に国内において頒布されたカタログ「資材事典'95/'96」(株式会社国元商会発行)第62頁下から2番目所載の「KSパネル浮かし」と称する品番#100の「型枠用受け金具」の意匠(別紙参照)に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号に該当するから、その意匠登録は、同法第同条の規定に違反してされたものであり、その意匠登録を無効とすべきである。
なお、当該カタログは、表紙に'95/'96、裏表紙の右下に企画・製作者の名称と共に、9503の記載があることから、1995年(平成7年)の3月に印刷され、その後特段の事情がない限り早い時期に頒布されたものと推認することができるものであり、本件登録意匠の出願日、すなわち、1997年(平成9年)7月28日前に頒布されたものと解するのが相当である。」
第4.無効理由の通知に対する被請求人の対応
被請求人は、上記無効理由の通知に対して、何ら主張がない。
第5.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠登録原簿、出願書類によれば、平成9年7月28日の意匠登録出願に係り、平成11年4月16日に意匠権の設定の登録がなされたものであって、意匠に係る物品を「コンクリート型枠支持金具」とし、その形態は、願書に添付された図面に記載されたとおりのものである(別紙第1参照)。
2.無効の理由として引用した意匠
当審において無効の理由として引用した意匠(以下、「引用意匠」という。)は、本件登録意匠の出願前に国内において頒布されたカタログ「資材事典'95/'96」(株式会社国元商会発行)第62頁下から2番目所載の「KSパネル浮かし」と称する品番#100の「型枠用受け金具」の意匠であって、その形態は、同カタログの写真版及び図面により表されたとおりのものである(別紙第2参照)。
3.両意匠の比較
(1)意匠に係る物品については、両意匠ともに、壁用コンクリート型枠などをその内側に垂直に配設される主鉄筋に支持させるために使用される金具であるから、共通している。
(2)次に、両意匠の形態については、以下の共通点及び差異点が認められる。
なお、本件登録意匠の平面図側を正面側として比較する。
すなわち、両意匠の形態は、一定の長さを有する正面視横長の細幅帯状薄板体の右側部分を背面側へ平面視大略コ字状に屈曲し、屈曲部に対面する正面側の平板部に鉄筋締結用のボルトを貫通させて、鉄筋に固定する「クランプ部」を形成し、クランプ部の正面側平板部から左側部分を型枠を支持する「型枠支持部」としたものであって、クランプ部の折り曲げ構成について、正面側平板部から背面側へ直角状に折り曲げ、さらに、左側へ2回平面視「く」の字状に折り曲げたものとし、型枠支持部について、クランプ部の正面側平板部と同一平面状で、その約3倍の長さを有し、下辺をクランプ部正面側平板部の下端部から上方へ小さな凹弧状を形成して漸次先端が細くなる直線状の傾斜辺とした点が共通している。
一方、両意匠には、主として、以下の点に差異が認められる。
すなわち、(ア)ボルトの頭部の形状について、本件登録意匠は、短六角柱状体であるのに対して、引用意匠は、ネジ部の相対する2方向から押し潰して、2面が平坦で幅がボルトの径より僅かに大きい平板状としている点、(イ)クランプ部の「く」の字状の先端部の長さについて、本件登録意匠の方が、引用意匠より僅かに短い点。
4.両意匠の類否判断
両意匠を全体として観察し、これらの共通点及び差異点の類否判断に及ぼす影響について、総合的に検討する。
まず、両意匠の共通点は、両意匠の形態全体の骨格をなすとともに、形態全体に係わるものであるから、看者に強い共通感を与えるものであり、両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものである。
これに対し、差異点は、形態全体として観察した場合、次のとおり、いずれも微弱なものであって、類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
すなわち、(ア)ボルト頭部の形状の差異について、ボルトの頭部は、当該部位は、意匠全体から見れば、部分的かつ小さいものであり、また、本願意匠のようにボルトの頭部を短六角柱状体としたものは、ボルトとして最も一般的なことから、格別看者の注意を引くものとはいえず、この差異は微弱なものというほかない。(イ)クランプ部「く」の字状の先端の長さの差異について、その差は僅かなものであるから、意匠全体としてみた場合、格別目立つものではなく、部分的かつ微弱な差異といわざるを得ない。
したがって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態について、共通点が類否判断に大きな影響を及ぼすのに対して、各差異点は、いずれも微弱なものであって、それらの相まった視覚効果を考慮しても、両意匠の共通感を凌駕するものとはいえないから、本件登録意匠は、引用意匠に類似するものというほかない。
5.むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、その意匠登録は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第48条第1項の規定により、その意匠登録を無効にすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2006-11-20 
結審通知日 2006-11-24 
審決日 2006-12-05 
出願番号 意願平9-63021 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (L1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅澤 修 
特許庁審判長 藤 正明
特許庁審判官 越河 香苗
山崎 裕造
登録日 1999-04-16 
登録番号 意匠登録第1043396号(D1043396) 
代理人 森脇 康博 

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