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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) D3
管理番号 1157248 
判定請求番号 判定2006-60071
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-06-29 
種別 判定 
判定請求日 2006-12-21 
確定日 2007-05-01 
意匠に係る物品 提灯 
事件の表示 上記当事者間の登録第0843835号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面代用写真及びその説明書に示す「提灯」の意匠は、登録第0843835号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第一 請求の趣旨及びその理由
請求人は、イ号図面代用写真ならびにその説明書に示す意匠(以下「イ号意匠」という。)は、登録第843835号意匠(以下「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求めると申し立て、その理由として判定請求書の請求の理由及び弁駁書の弁駁の理由に記載の通りの主張をし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証の書証を提出したものである。
その主張の要点は、以下の通りである。
1.判定請求の必要性
請求人は、本件登録意匠の意匠権者である。被請求人が製造販売している提灯台は、本件登録意匠の意匠権を侵害するものであり、請求人は被請求人を被告として意匠権侵害差止請求訴訟(福岡地裁平成16年(ワ)第910号)を提起した。なお、被請求人の「提灯台」の製品は、提灯本体を吊り下げられ展示され、又提灯本体が吊り下げられる旨の説明がなされ販売され、更に提灯本体を組み合わせられて販売されることが多いものでり、間接侵害の可能性もある。従って、「提灯台」製品に「提灯本体」を吊り下げられた形態の「提灯」を判定のイ号意匠として判定を請求する。
2.本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和58年9月1日の意匠登録出願に係り、平成4年4月27日に意匠権の設定の登録がなされたものである。
本件登録意匠は、その意匠登録出願の願書及び添付図面の記載によると、意匠に係る物品を「提灯」とし、その形態の要旨を次のとおりとするものである(甲第1号証参照(別紙第1参照))。
上端が少し湾曲した切破風板の付いた山型形状屋根部と、同屋根部を高く保持して中間に水平に延びた棒材を前方へ突出させた一本の支柱と、同支柱の下端に取り付けられて同支柱を設置面に保持する2段の井桁組みに底板を付けた台座と、上記屋根部に吊られ下端に房を取付けた大略球面状の外形の提灯本体とを結合させてなる形状である。
本件登録意匠の創作性のある点は、第1は長い支柱の上端にある山型形状の屋根部と支柱の下端にある2段の井桁組みの台座を対置させて全体として安定感のある優雅な形状形態とした点にある。しかも2段の井桁組みの台座は、構造的に「軽やかさ」と「優雅さ」の印象を与える保持構造の形状である。創作性の第2は、屋根部に上端が少し湾曲した切破風板を付け装飾を与えた点にある。本件登録意匠は、この第1、2の点の形状の組み合わせに特徴があり、特に、第1の点の上下の屋根部と2段の井桁組みの台座との対置に創作性の要部がある。
3.イ号意匠
イ号意匠は、被請求人が製造販売する「提灯台」製品に、大略球面状の外形で下端に房が取付けられた「提灯本体」を吊り下げた「提灯」である。そして、その形態の要旨を次のとおりとするものである(イ号図面代用写真1ないし9参照(別紙第2参照))。
イ号意匠の基本形状は、切破風板を前面に有する山型形状屋根部と、同屋根部を上端で取付け中間に水平に延びた棒材を設けた一本の支柱と、同支柱の下端に取付けられた2段の井桁組みの底板付きの台座とからなる「提灯台」の屋根部に、大略球面状の外形の房付き「提灯本体」を吊り下げた形状である。
更に、屋根部及び切破風板には焼杉を多く使用し、屋根部のベニヤ製の屋根面上面は黒色で、下面(裏面)は木肌色であり、又切破風板の上端及び屋根面は少し湾曲している。台座の底板は全面でなく一部を開放したものである。支柱は3本の焼杉角材をボルトで継いだ一本柱である。台座の井桁組みの部材はやはり焼杉の短い角材を使用してボルトで連結している。切破風板の前面の中央・左右端には、金色の小型の装飾品を付している。
4.本件登録意匠とイ号意匠との比較
(1)意匠に係る物品の比較
両意匠の意匠に係る物品は、ともに「提灯」であり、同一・類似物品である。
(2)両意匠の意匠形態の比較
本件登録意匠は形状意匠であり、他方イ号意匠は色彩と模様がある製品そのものの形態である。
(a)共通形態
両意匠は、前面に上端が少し湾曲した切破風板を取り付けた山型形状の屋根部を1本の支柱の上端に取付け、下端には2段の井桁組みの底板付き台座が取付けられ、支柱の中間には水平に延びた棒材が設けられ、房付きの大略球面状の提灯本体が屋根部に吊り下げられた基本形状形態で共通する。
(b)相違点の形態
(イ)イ号意匠は、ほぼ全体に焼杉の模様が存在するが、本件登録意匠は模様・色彩は付されていない。
(ロ)イ号意匠の屋根部の屋根上面は黒色、下面(裏面)は木肌色であり、又屋根面は緩やかに湾曲しているのに対し、本件登録意匠は色彩・模様は付されておらず、切破風板のみが緩やかに湾曲している。
(ハ)イ号意匠の支柱が3本の焼杉角材を継いだ一本柱であるのに対し、本件登録意匠の支柱は継ぎのない一本柱である。
(ニ)イ号意匠の台座の底板が一部のみで底開き部分(開口)があるのに対し、本件登録意匠は、台座全面に底が取付けられている。
(ホ)イ号意匠では屋根部と切破風板との前面に小さな金色の金属製装飾品が付せられているが、本件登録意匠では金属製装飾品はない。
(ヘ)イ号意匠の提灯本体の球面状部分は白色であり、又その上下の円筒部は黒色であるが、本件登録意匠は色彩がない。
5.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由
登録意匠の類似の判断は、登録意匠がどの点に新規で創作がなされているか抽出し、意匠権はその創作の保護(意匠法第1条)の為に創設された権利であるので、その創作を使用しているか否かを基準になされるべきである。
(1)本件登録意匠とイ号意匠とは、上記の創作性が認定された共通の基本形状形態を有するものであるから、イ号意匠はその創作部分を使用していることとなり、基本的に類似である。
そして、両意匠の相違点はいずれも2次的な装飾のデザインに過ぎず、その相違の意匠性は、類似とする両者の類似性を否定するに到るものでなく、両者は類似のものである。
(2)両意匠の相違点は、被請求人の創作したものでなく、昭和60年前後から多数の「提灯」、「提灯台」製品に使用していた意匠形態であり、相違点において、何ら被請求人の創作性が認められるものでない。以下詳しく説明する。
(3)イ号意匠中の「提灯台」の製造・販売前に、甲第5、6、8、9号証に掲載された意匠によって、両意匠の相違点に係るイ号意匠の下記特徴は周知・公知のものとなっていた。
すなわち、(イ)焼杉の模様は、公知・周知となっており、また、(ロ)屋根部の屋根上面は黒色、下面(裏面)は木肌色とすること、(ハ)支柱が3本の焼杉角材を継いだ一本柱であること、(ニ)台座の底板が一部のみで底開き部分(開口)があること、(ホ)切破風板の前面に小さな金色の金属製装飾品が付せられていること、及び、(ヘ)提灯本体の球面状部分は白色であり、又その上下の円筒部分は黒色であることは、すでに行われていた意匠形態である。
(4)両意匠の相違点について
してみると、イ号意匠の相違点は、イ号意匠の「提灯台」の製品を製造・販売する前から既に請求人の製品の特徴としてよく知られていた意匠形態であり、それをほとんどそっくり採用しているだけで、被請求人には何らの創作性を付加したものでない。
(5)従って、イ号意匠と本件登録意匠との基本形状形態は同じであり、類似性は高く、しかも両者の相違点はイ号意匠の「提灯台」を製造・販売する前からこの「提灯」、「提灯台」でよく知られた意匠形態であり、これらを本件登録意匠に付加したものに過ぎず、何らかの創作性を付与して非類似としたものでなく、イ号意匠は本件登録意匠の基本形態の創作部分を使用して、両者は類似の範囲のものである。
6.被請求人は、「提灯台」製品のみを製造・販売しても「提灯台」と「提灯」とは非類似であるので意匠権侵害でないと主張する。しかし、「提灯」の主要な重要部分であり、且つこれ自体で使用されることがない「提灯台」の製造・販売の問題は、間接侵害の問題である。
第二 被請求人の答弁
被請求人は、イ号図面代用写真ならびにその説明書に示す意匠は、登録第843835号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求めると申し立て、その理由として答弁書の答弁の理由に記載の通りの主張をし、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証の書証を提出したものである。
その主張の要点は、以下の通りである。
1.イ号意匠の物品は、あくまで「提灯台」であり「提灯」ではない。
2.両意匠の相違点について、本件登録意匠とイ号意匠との最も目立つ部分である屋根部の検討がなされていないまま、概括的な形状のみの比較を行い、その上で「主たる相違点」としている点が、誤りである。
本件登録意匠とイ号意匠の主たる相違点は、既に行われた2件の判定(判定2006-60015、及び、判定2006-60031。)の理由に詳細に記載されている通りである。
従って、両意匠は、「提灯」と「提灯台」という物品の機能において大きく相違し、提灯本体の有無という基本的構成態様において差異があり、屋根部の構成態様においても顕著な差異があるものであり、その差異点を勘案すると、両意匠は全体として美感が相違し、類似しないものである。
3.結び
以上のように、イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は、登録第843835号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないとの判定を求める。
第三 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和58年9月1日の意匠登録出願に係り、平成4年4月27日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第843835号の意匠である。
本件登録意匠は、その意匠登録出願の願書及び添付図面の記載によると、意匠に係る物品を「提灯」とし、その形態の要旨を次のとおりとするものである(別紙第1参照)。
(1)基本的な構成態様
全体が提灯台と提灯本体よりなり、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた切破風板付き屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなり、提灯本体は、略球状とし、屋根部から吊り下げられている。
(2)具体的な構成態様
(a)屋根部について、(a-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、平坦状の屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、その屋根板は外側が徐々に厚くなり下端部は水平に切断され、(a-2)屋根部本体の下部には正面視及び背面視略三角形状の部材が配されている(なお、その下部部材の配置位置等の構成態様は特定できない。)、(a-3)切破風板は、厚味が一定で、屋根部本体の正面端部に取り付けられ、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有している。(a-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、横幅が屋根全体の幅の約20分の1で、切破風板の拝み部上端に取り付けられている。(a-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。
(b)支柱は、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の下部の背面視略三角形状の後部部材の中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている(なお、支柱の断面形状が、角か丸かは特定できない。)。
(c) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁であり、平面全面が薄板で覆われている(なお、薄板の設置位置は特定できない。)。
(d)支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している。
(e)提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されている。
2 イ号意匠
イ号意匠は、イ号図面代用写真に現わされた意匠であって、意匠に係る物品が「提灯」であり、その形態の要旨を次のとおりとするものである(イ号図面代用写真1ないし9参照(別紙第2参照))。
なお、被請求人は、イ号意匠の意匠に係る物品を「提灯台」と認定すべき旨主張しているが、請求人は、間接侵害の可能性を主張して、イ号写真に現わされた意匠をイ号意匠として本件判定を請求しており、間接侵害の当否はともかく、判定の必要性は認められるから、被請求人の主張は採用できない。
(1)基本的な構成態様
全体が提灯台と提灯本体よりなり、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた切破風板付き屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなり、提灯本体は、略球状とし、屋根部から吊り下げられている。
(2)具体的な構成態様
(a)屋根部について、(a-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、湾曲そり上がり形状の屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、その屋根板は同じ厚みの薄板で、(a-2)屋根部本体の下部に、正面視略三角形状で、背面視すると上部山型の略扁平5角形状で、側面視すると屋根部本体よりも下方にはみ出した矩形状で、底面視すると全体略矩形状の枠部材が配されている、(a-3)切破風板は、厚味が一定で、屋根部本体の下部やや奥まった位置において下部枠部材の正面端部に取り付けられ、正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有している。(a-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、横幅が屋根全体の幅の約10分の1で、切破風板の拝み部上端に取り付けられている。(a-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている。(a-6)紋章が、切破風板正面の左右両破風尻、及び鬼瓦板正面に付され、横幅が屋根全体の幅の約6分の1で横長板状の装飾具が切破風板正面の拝み部に付されている。
(b)支柱は、角柱であって、3つの部材で構成され、2箇所に継ぎ目があり、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の下部の後部枠部材の中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている。
(c) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁であり、下段の井桁に幅が井桁平面全体の略4分の1の細幅薄板を2枚架設して約2分の1を覆っている。
(d) 支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している。
(e)提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されている。
(f)全体が、焼杉材で構成され、表面に焼杉材の木目模様が表れている。
3 両意匠の対比
両意匠は、意匠に係る物品が「提灯」で一致し、その形態については以下の共通点と差異点が認められる。
(1)共通点
両意匠は、(A)基本的な構成態様において、全体が提灯台と提灯本体よりなり、提灯台は、縦に垂直に延びる直線状の支柱と、支柱の略中央から正面方向に突設した棒材と、支柱の上端に正面方向に突設して取り付けられた切破風板付き屋根部と、支柱の下端に取り付けられた台座からなり、提灯本体は、略球状とし、屋根部から吊り下げられている点で共通する。
また、両意匠は、具体的な構成態様において、(B)屋根部について、(B-1)屋根部本体は平面視略正方形状で、屋根板により山型の切妻形屋根状に構成され、 (B-2)屋根部本体の下部には正面視略三角形状の部材が配され、(B-3)切破風板は、厚味が一定で、 正面視した場合、その拝み部から上縁と下縁それぞれが下側に向けて湾曲しており、拝み部から破風尻に向けて除々に幅が広がっていると共に、上縁が下縁よりも長くなった左右対称形状を有し、(B-4)鬼瓦板は、切破風板と同じ厚みで、 切破風板の拝み部上端に取り付けられ、(B-5)鬼瓦板の後方には、鬼瓦板より高さが低く幅が狭い、屋根部本体の奥行きと同じ長さの棟部材が、屋根部本体の頂部稜線に沿って取り付けられている点、(C)支柱は、縦に垂直に延びる直線状の支柱上端が屋根部本体の下部の後部部材の中央位置に取り付けられ、支柱の下端は台座の背面端部の中央位置に取り付けられている点、(D) 台座は、屋根部本体よりやや小さい平面略正方形状で、断面四角形状の棒材で構成された上下二段の井桁である点、(E) 支柱よりも幅が狭い断面四角形状の棒材が、支柱正面の中央よりやや下から正面方向へ地面と略平行に、屋根部及び台座の奥行きよりも短く突設している点、(F)提灯本体が屋根部の内側から吊り下げられ、提灯本体の底部と支柱正面から突設した棒材が紐体によって連結されている点で共通する。
(2)差異点
両意匠は、具体的構成態様において、(a)屋根部について、(a-1)本件登録意匠は、屋根板が平坦状で、外側が徐々に厚くなり下端部は水平に切断されているのに対し、イ号意匠は、屋根板が湾曲そり上がり形状で、同じ厚みの薄板である点、(a-2)屋根部本体の下部に、本件登録意匠は、正面視及び背面視略三角形状の部材が配されているのに対し、イ号意匠は、正面視略三角形状で、背面視すると上部山型の略扁平5角形状で、側面視すると屋根部本体よりも下方にはみ出した矩形状で、底面視すると全体略矩形状の枠部材が配されている点、 (a-3)切破風板が、本件登録意匠は、屋根部本体の正面端部に取り付けられているのに対し、イ号意匠は、屋根部本体の下部やや奥まった位置において下部枠部材の正面端部に取り付けられている点、(a-4)鬼瓦板の横幅が、本件登録意匠は、屋根全体の幅の約20分の1であるのに対し、イ号意匠は、横幅が屋根全体の幅の約10分の1である点、(a-5)本件登録意匠には、紋章や装飾具がないのに対し、イ号意匠は、紋章が、切破風板正面の左右両破風尻、及び鬼瓦板正面に付され、横幅が屋根全体の幅の約6分の1で横長板状の装飾具が切破風板正面の拝み部に付されている点、(b)支柱は、本件登録意匠には継ぎ目がないのに対し、イ号意匠は、3つの部材で構成され、2箇所に継ぎ目がある点、(c)台部井桁の平面が、本件登録意匠は、全面が薄板で覆われているのに対し、イ号意匠は、幅が井桁平面全体の略4分の1の細幅薄板を2枚架設して約2分の1を覆っている点、(d)本件登録意匠は、形状のみの意匠であって模様がないのに対し、イ号意匠は、全体に焼杉材の木目模様が表れている点に差異がある。
4.両意匠の類否判断
この種台付の提灯は、その使用状態等を考慮すると、設置されて使用されるものであり、離れた所から全体が観察されるとともに、ある程度近寄って各部の構成態様も視認されるものと認められる。
そうすると、(a)屋根部の構成態様については、この種提灯の通常の使用状態を考慮すると、斜視されることが普通であり、正面視はむしろ例外的な状態である。両意匠の屋根部は、斜視された場合、正面端部の切破風板の正面視形状のみならず、屋根板の形状、切破風板の取付け(配置)態様等を含めた構成態様全体が視認されるものと認められる。この観点から見ると、両意匠の屋根部は、(a-1)屋根板が平坦状か湾曲そり上がり形状か、(a-2)屋根部本体の下方にはみ出した下部部材の有無、(a-3)切破風板の取付け位置の差異等が明確に視認され、また、(a-5)切破風板の正面部における紋章や装飾具の有無も付加的な装飾要素ではあるが、正面部の目立つ部位における全くない状態とある状態の差異であって一定の視覚的効果があり、そして、これらの差異は屋根部全体にわたるものであるから、両意匠の屋根部の構成態様は顕著に相違するといわねばならない。なお、正面視する場合は、切破風板の正面形状のみが視認される場合があるが、図面上で対比するのと違い、立体的な意匠を対比するのであるから、両意匠を正面視する場合も、上記のような切破風板の取付け位置の相違等が視認されるものである。
したがって、両意匠は、屋根部の構成態様において顕著な差異があるものであり、その他の差異点をも勘案すると、両意匠は全体として美感が相違し、類似しないものである。
これに対して、共通する構成態様は、差異点を凌駕し共通する美感を起こさせるものではない。すなわち、(A)支柱、突設棒材、屋根部、台座及び提灯本体による基本的構成態様は、この種提灯の分野において、広く知られた態様であり(例えば、昭和14年実用新案公告第15093号、実公開昭和57-161801号、意匠登録第603102号。(別紙第3参照))、格別特徴的なものではなく、看者の注意を引くものではない。(B)屋根部の共通点は、上記のように、正面視した場合にのみ視認されるものであって、屋根部全体としては大きく相違するものであるし、また、切妻形屋根本体の先端に切破風板と鬼瓦板を設ける態様も、広く知られた態様であり(例えば、昭和14年実用新案公告第15093号、昭和14年実用新案公告第19965号。(別紙第3参照))、格別特徴的なものでもない。(D)台座の上下二段の井桁の構成態様は、この種提灯や提灯台の意匠の分野において、本件登録意匠の出願前にはあまり見られない態様である。しかし、井桁の形状は、一般的に周知の形状であり、かつ、庭園灯やかさ立て等家具分野においては普通に見られる形状である(例えば、意匠登録第287829号、同第405416号、同第556780号。(別紙第3参照))。たしかに、意匠の類否は物品ごとに判断されるものである。しかし、提灯も家具分野の物品であるから、家具分野において普通に見られる形状であれば、当該形状については格別新規で特徴的な態様とはいえず、看者の注意を格別に引くものではない。さらに、台座部は、本件登録意匠の基本的構成態様の一要素ではあるが、屋根部の構成態様に顕著な差異があり、台座部の共通する態様は、差異点を凌駕して、両意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものとはいえない。(C)支柱の態様、(E)突設棒材の態様、及び、(F)提灯本体の態様は、基本的構成態様と同様、広く知られた態様で格別特徴的なものではなく、看者の注意を引くものではない。そして、これらの共通する態様の相俟って奏する視覚的効果を勘案しても、差異点を凌駕して、両意匠全体に共通する美感を起こさせるまでのものではない。
なお、請求人は、本件登録意匠の創作性のある点は、第1は長い支柱の上端にある山型形状の屋根部と支柱の下端にある二段の井桁組みの台座を対置させて全体として安定感のある優雅な形状形態とした点で、第2は、屋根部に上端が少し湾曲した切破風板を付け装飾を与えた点にある旨主張する。しかし、上記のように、本件登録意匠の支柱、突設棒材、屋根部、台座及び提灯本体による基本的構成態様は、この種提灯の分野において、広く知られた態様であり、格別特徴的なものではなく、屋根部の構成態様は、屋根板の形状や破風板の配置等が視認されるものであって、「山型形状」という概括的な態様において捉えることができないものであり、二段の井桁組みの台座の態様は一般的に周知の形状であり、かつ、家具分野においては普通に見られる形状であり、格別特徴的なものではない。したがって、本件登録意匠の創作性のある点としては、全体の基本的構成態様に屋根部と台座部を中心とする各部の具体的構成態様を合わせた構成態様であると認められ、請求人の主張は採用できない。そうすると、上記のように、両意匠は、屋根部の具体的構成態様において顕著な差異があり、本件登録意匠の創作性のある点において相違し、意匠全体として美感が相違するものである。
以上のように、両意匠は、差異点が共通点を凌駕し、意匠全体として美感が相違し、イ号意匠は本件登録意匠に類似しないものである。
5.結び
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2007-04-17 
出願番号 意願昭58-37876 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (D3)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 杉山 太一
鍋田 和宣
登録日 1992-04-27 
登録番号 意匠登録第843835号(D843835) 
代理人 中嶋 裕昭 
代理人 戸島 省四郎 
代理人 松尾 憲一郎 
代理人 長賀部 雅子 

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