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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) F2
管理番号 1157249 
判定請求番号 判定2006-60072
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-06-29 
種別 判定 
判定請求日 2006-12-21 
確定日 2007-04-21 
意匠に係る物品 事務用パンチ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1274493号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面(写真)に示す「事務用パンチ」の意匠は、登録第1274493号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は、「イ号図面に示す「事務用パンチ」の意匠は、登録第1274493号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申立て、その理由として要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証を提出した。
なお、請求人は、被請求人を特定していない(この点について、平成19年2月20日付の審尋により、被請求人を特定するよう求め、被請求人を特定できない場合には、その合理的理由を明らかにするよう求めたところ、請求人は、「被請求人を特定すべく努力したが、国内において実施する者を具体的に特定することができなかった。」旨回答した。)。
1.判定請求の必要性について、
本件判定請求人は、本件判定請求に係る登録第1274493号意匠(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。この登録意匠は、同日に出願し登録された登録第1274492号意匠の部分意匠であるが、判定請求人は、これらの意匠又はこれらに類似する意匠の実施として、別紙に示す事務用パンチの製造及び販売の準備を進めている。
しかしながら、平成18年10月頃より、本件登録意匠と類似すると思われるハンドル部(以下「イ号意匠」という。)を有する事務用パンチ(以下、「イ号物件」という。)が国内市場に出回り始めた。
請求人は、本件登録意匠を実施するにあたり、本件登録意匠と類似する商品を市場から排除したいと考えるが、権利行使に際して細心の注意を払うべく、判定請求するに及んだ。
2.イ号意匠が本件登録意匠及びこれの類似意匠の範囲に属する理由の説明
先行周辺意匠(甲第7号証の1ないし6)をもとに本件登録意匠の創作の要点について述べれば、この種の物品のハンドル部における創作の主たる対象は、最も注意を惹きやすいアーム部と操作面にあると考えられる。
本件登録意匠のように、馬蹄形状の操作面の周囲をアーチ状のアームで囲った態様は、いずれの先行意匠にも見られず、また、操作面を馬蹄形状とし、アーム部の中間を内側に括れさせた態様もいずれの先行意匠にも存在しないので、本件登録意匠の要部は、馬蹄形状の操作面の周囲をアーチ状のアーム部で囲い、アーム部の中間を内側に括れさせて「だるま形状」にした点であると考えられる。
3.本件登録意匠とイ号意匠の比較説明
(1)両意匠の共通点
(あ)意匠に係る物品が事務用パンチである点で一致する。
(い)基本的構成態様において、パンチ基台の両端の枢支部に回動可能に取り付けられた基部と、操作面と、基部から連続して操作面を取り囲むアーチ状のアーム部とを有する点が共通している。
(う)具体的な構成態様としては、操作面が馬蹄形状であり、アーム部に対して上方に向けてわずかに膨出している点が共通する。また、基部から斜め上方に向けて延びるアーム部が、操作面との連続部付近において内側に向けて括れており、正面視及び平面視において「だるま形状」を成す点が共通する。
(2)両意匠の差異点
(A)本件登録意匠の基部が、側面視において円弧形状で、正面視において長方形状に切り欠かれているのに対して、イ号意匠の基部は、側面視において直線状で、正面視においてパンチ基台の枢支部に覆い被さっている点で相違する。
(B)イ号意匠の操作面の馬蹄形状は、本件登録意匠の操作面の馬蹄形状よりも丸みを帯びている点で相違する。
(C)操作面の下端が、本件登録意匠の場合は直線状であるのに対して、イ号意匠は、U字状担っている点で相違する。
(D)操作面の膨出状態が、本件登録意匠の場合は、中央部から上方寄りの部位が最も高いのに対し、イ号意匠の場合は、中央部が最も高くなっている点で相違する。
(E)アーム部の側面視における傾斜状態が、本件登録意匠では、平均約50度程度であるのに対し、イ号意匠は、約30度程度である点で相違する。
(F)本件登録意匠は、アーム部の中間部において僅かに湾曲しているのに対し、イ号意匠が同一の傾斜状態である点で相違する。
(G)アーム部の幅は、本件登録意匠は側面視形状において略同一幅であるのに対して、イ号意匠は上方に向かうにつれて収束している点で相違する。
(H)本件登録意匠の場合は、アーム部の下端部は長方形状に切り欠かれた平面上の傾斜面であるのに対し、イ号意匠の場合は、枢支部に覆い被さるような湾曲面である点で相違する。
(I)正面視において、本件登録意匠のアーム部の括れは滑らかであるが、イ号意匠の括れは段差状である点で相違する。
4.本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに、
操作面がアーチ状のアームによって取り囲まれている点において、基本的な構成態様において両意匠は共通している。具体的態様においては、操作面の馬蹄形状とアーム部の「だるま形状」において共通している。
操作面の馬蹄形状もアーム部の「だるま形状」も何れも本件登録意匠の要部であるので、これらの共通点は、類否判断に大きな影響を与えるものである。
差異点A(即ち、基部の形状)は、パンチ基台の枢支部の形状に対応させて設計されたものである上に側面視において直線状の基部をパンチ基台の枢支部に覆い被せるように取り付ける態様は常套的な手法なので、類否判断に与える影響は微弱である。
差異点B(即ち、操作面の形状)は、馬蹄形状を基調とした中での微妙な差異に過ぎない。
差異点C(即ち、操作面の下端部をU字状にした点)は、操作面の下端部の態様として常套的な手法であるので、類否の判断に与える影響は微弱である。
差異点D(即ち、操作面中央部を膨出させた点)は、操作面を押圧しやすくするために用いられる常套的な手法であるので、類否判断に与える影響は微弱である。
差異点E、F及びG(即ち、アーム部の傾斜状態)は、様々な態様が採用可能な中での一態様に過ぎないので、その差異は、設計上の微差にすぎない。
差異点H(即ち、アーム部の括れ部分において段差を設ける態様)は、公知意匠にも示されるように、特段目新しいものでないばかりか、かえって、本件登録意匠の要旨であるところの操作面の馬蹄形状とアーム部の「だるま形状」とを強調させる効果を有するものである。よって、イ号意匠のアーム部が段差状に括れているが故に本件登録意匠と基調を同一にするものであることが強調され、時又は所を異にして観察した需要者をして混同を生じせしめるものである。
以上の判断を前提として両意匠を全体的に観察すると、両意匠の差異点は、いずれも類否の判断に与える影響は何れも微弱なものであって、その共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが相俟っても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の主旨通りの判定を求める。

第2 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成17年7月6日の意匠登録出願に係り、平成18年5月12日に意匠権の設定の登録がなされたものであって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「事務用パンチ」とし、その形態は、願書に添付された図面に表されたとおりのものであって、意匠登録を受けようとする部分を実線で表したものである。(別紙第1参照)
すなわち、意匠登録を受けようとする部分は、事務用パンチのハンドル相当部分であって、その形態は、側面視において上下に亘って略同幅とし、背面側の辺を中間部分で僅かに屈曲して略く字状に形成し、正面視において、上半分を押圧部とし、該押圧部は、上方を略半円形状とし、下方を略方形状とし、下端を水平状の辺としたものであり、下半分は2本の脚からなる脚部を形成し、該脚部は、押圧部左右下端から下方に真っ直ぐ延びるもので、押圧部と脚部の外側中間部分に括れ部を形成した基本的構成態様のものであり、各部の具体的態様において、
(あ)押圧部は、側面視傾斜角を50度弱とし、正面上方に向かって弧状に膨出した上円下方形状の操作面を形成し、その上方寄りに三日月状の溝部を形成したものであり、
(い)脚部は、断面形状を略コ字状とし、正面側の下端部を切り欠き状とし、2本の脚の内側の辺と押圧部下辺とで矩形状の空間部を形成し、側面視において、下端を略半円形状とし、
(う)脚部の外側の面と正面側の面は、中間部分の括れ部の位置で一つの面に収束して押圧部の周側面を形成したものである。
2.イ号意匠
イ号意匠は、甲第5号証として提出したイ号図面(写真)(別紙第2参照)及び甲第6号証として提出したイ号物品が印刷された包装用箱の写し(別紙第3参照)であって、これらによれば、意匠に係る物品を事務用パンチとし、その形態は写真及び包装用箱に印刷された写真版に現されたとおりのものである。
すなわち、本件登録意匠が登録を受けた部分に対応するハンドル相当部分の形態は、左側面視において、下方に向かって徐々に幅広とし、前後辺を前方に向かって弧状に膨出して略つ字状に形成し、平面視において、上半分を押圧部とし、上方を略3分の2円形状とし、続く下方をすぼまり状として、脚部の内側の面と接する部位で内方に反転して、略逆U字状の辺を形成したものであり、下半分は2本の脚からなる脚部を形成し、該脚部は、押圧部左右下端から下方に外膨らみ湾曲状に延びるもので、押圧部と脚部の外側中間部分に括れ部を形成した基本的構成態様のものであり、各部の具体的態様において、
(ア)押圧部は、側面視傾斜角を略30度とし、外周寄りに幅狭の余地部を残してその内側に、正面上方に向かって弧状に膨出した三日月形状の操作面を形成したものであり、
(イ)脚部は、正面視において、2本の脚の内側の辺が押圧部の略逆U字状の辺に連続して、さらに大きな略逆U字状の空間部を形成し、外側をそれと平行に形成したものであり、正面及び側面側の下端を水平状に形成し、
(ウ)脚部の正面側の面は、外側部分が押圧部の面よりわずかに下がった段差を設け、内側部分の押圧部の面と略面一致状の部分に向けて徐々に段差をなくしたものである。
3.両意匠の対比考察
以下、本件登録意匠の登録を受けた部分についてイ号意匠との対比考察をする。
(1)本件登録意匠とイ号意匠は、意匠に係る物品が共に、書類につづり穴を穿孔するための事務用パンチであるから共通する。
(2)本件登録意匠とイ号意匠は、形態において、以下のとおりの共通点、及び差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様のうち、正面視において、上方を略円形状とした押圧部と該押圧部左右下端から下方に延びる2本の脚を有する脚部とからなり、押圧部と脚部の外側中間部分に括れ部を形成した点が共通するものと認められ、各部の具体的態様において、
(A)押圧部について、正面上方に向かって弧状に膨出した操作面を形成したものである点が共通するものと認められる。
[差異点]
基本的構成態様のうち、全体の側面視において、本件登録意匠は、上下に亘って略同幅とし、背面側の辺を中間部分で僅かに屈曲して略く字状に形成したものであるのに対し、イ号意匠は、下方に向かって徐々に幅広とし、前後辺を前方に向かって弧状に膨出して略つ字状形成したものである点、押圧部の形状について、本件登録意匠は、正面視上方を略半円形状とし、下方を略方形状とし、下端を水平状の辺としたものであるのに対して、イ号意匠は、上方を略3分の2円形状とし、続く下方をすぼまり状として、脚部の内側の面と接する部位で内方に反転して、下方を略逆U字状の辺としたものである点、脚部の形状において、本件登録意匠は、下方に真っ直ぐ延びるものであるのに対して、イ号意匠は、下方に外膨らみ湾曲状に延びる点に差異が認められ、各部の具体的態様において、
(a)押圧部について、本件登録意匠は、側面視傾斜角を50度弱とし、上円下方形状に膨出した操作面を形成したもので、その上方寄りに三日月状の溝部を形成したものであるのに対して、イ号意匠は、側面視傾斜角を略30度とし、外周寄りに幅狭の余地部を残してその内側に、三日月形状に膨出した操作面を形成したもので、溝部は有していないものである点、
(b)脚部について、本件登録意匠は、正面側の下端部を切り欠き状とし、側面側において、下端を略半円形状としたものであるのに対して、イ号意匠は、正面及び側面側の下端を水平状に形成したもので、切り欠き状としていない点、
(c)押圧部下辺と、2本の脚の内側の辺が形成する空間部の形状について、本件登録意匠は、矩形状の空間部を形成しているのに対して、イ号意匠は、略逆U字状の空間部を形成している点、
(d)押圧部と脚部の接合部分について、本件登録意匠は、脚部の外側の面と正面側の面が、中間部分の括れ部の位置で一つの面に収束して押圧部の周側面を形成したものであるのに対して、イ号意匠は、脚部の外側部分がわずかに下がった段差状とし、内側部分は押圧部の面と略面一致状に形成したものである点に差異が認められる。
(3)形態における共通点及び差異点の評価
[共通点]
まず、基本的構成態様における共通点は、この種事務用パンチにおいては、本件登録意匠の出願前に、公然知られている(例えば、現独立行政法人工業所有権情報・研修館が2001年7月17日に受け入れたWIPO国際事務局意匠公報所載の登録番号DM/055 961の事務用パンチの意匠(意匠課公知資料番号HH14618942号)(別紙第4参照))ものであって、本件登録意匠のみの特徴といえるほどのものではないことから、この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるをえない。
なお、請求人は、両意匠の中間部が括れた態様をもって、「『だるま形状』を成す点が共通する。」旨主張するが、当審が示した差異点(a)、(b)及び(d)によれば、本件登録意匠は、「だるま」というよりも「マショリカ人形」形状といえるものであり、イ号意匠は、頭でっかちな「雪だるま」形状といえるものであって、「だるま形状」として一括りにした請求人の主張は当を得ないものであるから、採用することができない。
また、共通する(A)の点は、共通する特徴を表しているといえるほどのものではなく、(a)の差異点が醸し出す別異の感がこれを圧するものであるから、類否判断に及ぼす影響は微弱に止まる。
そうして、これらの共通点は、その相俟った効果を勘案しても、なお類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎないものと認められる。
[差異点]
次に、基本的構成態様における差異点は、形態全体の主要なところを形成しており、具体的態様における差異点の(a)ないし(d)の点と相俟って意匠全体の基調を醸成しており、前記共通点を大きく凌駕して、両意匠が看者に別異の印象を与えているものといえるから、これらの差異点は、両意匠の類否判断を左右するところと認められる。
したがって、イ号意匠と本件登録意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態について共通点があるとしても、類否判断を左右する差異点があるから、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものということができない。
4. むすび
以上のとおり、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないものであるから、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2007-03-26 
出願番号 意願2005-19723(D2005-19723) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (F2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本田 憲一 
特許庁審判長 西本 幸男
特許庁審判官 岩井 芳紀
鍋田 和宣
登録日 2006-05-12 
登録番号 意匠登録第1274493号(D1274493) 
代理人 朝日 直子 

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