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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) G2
管理番号 1163859 
判定請求番号 判定2007-600011
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-10-26 
種別 判定 
判定請求日 2007-02-15 
確定日 2007-08-21 
意匠に係る物品 二輪車用集配箱 
事件の表示 上記当事者間の登録第0958404号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「二輪車用集配箱」の意匠は、登録第0958404号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 1.請求の趣旨
本件は、イ号物件説明書に記載する二輪車用集配箱の意匠(以下、イ号意匠という)が登録第958404号意匠(以下、本件登録意匠という)及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める事案である。
2.請求の理由
本件判定請求人は、本件登録意匠の意匠権者であり、イ号意匠は、本件判定請求人が企画及び開発を行い、第三者企業にイ号物件の製造、更には請求外郵政公社に対する納品を委託している。
請求人においては、イ号意匠は本件登録意匠に類似しており、その権利範囲に属するものと考えていたが、万一双方が非類似の関係にある場合には、イ号意匠についても意匠権を取得する必要があると考えたことから、平成18年6月1日、意匠登録出願を行った。これに対しては、拒絶理由が通知され、その後、拒絶すべき旨の査定が確定しており、当初請求人が考えていたように、イ号意匠は本件登録意匠と類似する旨の認定、判断がされた。
しかしながら、イ号物件と本件登録意匠との関係については、イ号物件に対し利害を有している第三者との関係において、さらに一層明確にすることが不可欠な状況にあり、本件判定請求に及んだ次第である。
3.請求人の主張
請求人は、本件登録意匠とイ号意匠について概ね次のとおり主張し、甲第1?5号証を提出している。
3.1 本件登録意匠の構成
本件登録意匠は、甲第2号証の意匠公報に示すとおりであるが、その構成は下記のように分説することができる(尚、説明の便宜のために、以下の構成の分説において使用されている数字に対応する数値を付した意匠公報を甲第(2)号証として別途添付する。)。
A 郵便物などを収納するための内側箱1、当該内側箱1の外側及び上側に位置し、かつ内側箱1と協働して郵便物の収納に寄与し得る外側箱2、及び外側箱2の上側に位置し、かつ開閉自在な状態である蓋体3によって構成されている。
B(1) 内側箱1は、上側が解放され、かつ下側において底部12を有している略四角筒状部11による略直方体形状を形成しており、当該略四角筒状部11の四隅は、平面方向断面に沿って外向きの略円弧状を呈した状態にて湾曲しており、筒状部11の下側は下方の位置となるに従って順次狭幅となるように上下方向断面に沿って外向きの略円弧状を呈した状態にて湾曲したうえで下端において底部12と直交した状態にて接続している。
B(2) 外側箱2は、上側及び下側において開放されており、下側が僅かに広がり、下端において前後左右方向への微小突出部を有した状態の略四角錐体状を呈しており、当該略四角錐体の四隅は、平面方向断面に沿って外向きの略円弧状を形成して湾曲しており、正面側において上縁部に沿って上側となるに従ってなだらかに窪んだ状態となっている細長凹部21が形成されており、底面視において蓋体3と接続に関与している2箇所の蝶番4に対する外側カバー部分2 3は、背面側に略矩形状にやや突出した状態を呈している。
B(3) 蓋体3は、外側箱2と外側において連続した接続状態となり得るような略四角形枠部分31とその上側に位置し、かつ当該四角形枠部分31となだらかに接続している略矩形皿部分32とによる枠付きの略矩形皿形状を呈しており、四角形枠部分31の四隅が平面方向断面に沿って外向きの略円弧状を呈した状態にて湾曲しており、略矩形皿部分32は四角形枠部分31との接続部位から中央となるに従って、僅かに湾曲をした傾斜を以ってなだらかに盛り上がった平滑形状を呈しており、平面視において外側箱2と接続に関与している2箇所の蝶番4に対する上側カバー部分33は背面側に略矩形状にやや突出した状態を呈している。
C(1) 内側箱1の左右の両面側には、上下方向に2本のレール13が前後方向(正面側と背面側との方向)の中心線を基準として対称となるようにそれぞれ突設されており、外側箱2の左右両面の下側において、略台形状の枠22内に設けられている操作板24を介して、内側箱1と外側箱2とは前記2本のレール13を介したスライドによって、上下方向に移動可能な状態にあるが、前記移動が行われていない場合には、外側箱2は内側箱1を外側及び上側からカバーしており、内側箱1の底部及びその近傍が下端において目視可能な状態にて外側箱2を支えている。
C(2) 外側箱2の背面側の上緑内側及び蓋体3の略四角形枠部分31の背面側の内側に設けられた2個の蝶番4を介して、蓋体3は、外側箱2に対し正面側において開閉自在な状態を呈している。
C(3) 蓋体3の略矩形皿部分32の内側、即ち、外側箱2を閉じた場合の底面側には、左右側面と平行な方向に2本のレール34が左右方向の中心線を基準として対称となるように突設されており、かつ外側箱2と蓋体3との接続に関与し、かつ背面の左右両側において、蓋体3及び外側箱2に跨っている上下の外側カバー部分23と共に外側に突出した状態にて設けられている2個の蝶番4において、蓋体3との接続部分に設けられた嵌合用凹状把手と前記2本のレール34とはスライド可能とすることによって、前後方向及び上下方向における角度及び位置を調整自在とする状態にあり、蓋体3が背面側と概略平行な状態にて配置されている場合には、蓋体3は前記スライドによって上下方向に移動可能な状態にある。
D(1) 鍵部5は、正面側の左右方向路中央において蓋体3と外側箱2の上縁に跨った状態にて設けられており、蓋体3は鍵部5の両側において平坦形状を呈している。
D(2) 鍵部5は、左右上下方向に概略平板状態となっている。
3.2 本件登録意匠の要部
前記A、B、C、Dを集約した場合、本件登録意匠は下記の形態を要部とすると共に、全体構成をも規律しており、現に、当該要部に基づく形態と同一又は類似する公知意匠は、本件登録意匠出願前に存在しない。
(1) 二輪車用集配箱が、上側を開放された状態にあり、かつ略四角筒状体及びその底部からなる内側箱、当該内側箱の外側及び上側に位置し、かつ略四角錐体状を呈している外側箱、当該外側箱の上側に位置し、四角形枠部分、及び当該部分と略円弧状になだらかに接続し、かつ僅かに湾曲した傾斜を以って盛り上がった状態にある略矩形皿部分とによる枠付き略矩形皿状の蓋体によって構成されていること(各図面参照)。
(2) 内側箱と外側箱とは、スライド及び固着によって上下方向の位置を調整自在の状態にあり(上ケースを上げた状態の右側面図、正面図、背面図、平面図、及び使用状態参考図(1))、蓋体は、外側箱の背面側における蝶番による接続を介して、正面側に対し開閉自在であると共に、当該接続を構成している部分(嵌合用棒状把手)とスライド可能とすることによって、前後方向及び上下方向における角度及び位置を調整自在とし、特に蓋体が外側箱の背面側に位置している場合においても、上下方向の位置を調整自在としていること(使用状態参考図(2))。
3.3 イ号意匠の構成
イ号物件説明書及びこれと一体をなす図面からも明らかなように、イ号意匠の構成は、以下のように分説することができる(尚、説明の便宜のために、イ号意匠については、以下の分説の構成において使用している数値を付した図面を別途添付した。)。
a 郵便物などを収納するための内側箱1、当該内側箱1の外側及び上側に位置し、かつ内側箱1と協働して郵便物の収納に寄与し得る外側箱2、及び外側箱2の上側に位置し、かつ開閉自在な状態である蓋体3によって構成されている。
b(1) 内側箱1は、上側が解放され、かつ下側において底部12を有し、左右両側面は略平面形状を呈した状態にて、下方となるに従って、やや狭幅となっているのに対し、正面側においては、左右両側においてそれぞれ下側となるに従って左右方向にやや狭幅となり、かつかすかに内側に傾斜するような上下両端に跨る2個の凹部14を各両側の傾斜面(但し、各傾斜面は、何れも凹部を形成する面の側に向かって傾斜しており、かつ下側となるに従って左右方向に狭幅となっている。)を介して形成しており、背面側においては、左右両側において左右方向を基準として前記正面側の凹部に対応し合う位置に、上下方向に沿って概略一定幅の上下両端に跨る2個の凸部15を各両側の傾斜面(但し、各傾斜面は、何れも凸部を形成する面の側に向かって傾斜しており、かつ下側となるに従って広幅となっている。)を介して形成していることによる略四角筒状部11による略直方体形状を形成しており、当該略四角筒状部11の四隅は、平面方向断面に沿って外向きの略円弧状を呈した状態にて湾曲しており、筒状部11の下端は底部12と略直交した状態にて接続しており、
b(2) 外側箱2は、上側及び下側において開放されており、左右両側面視からも明らかなように、正面側及び背面側においては上端から下端近傍に至るまで、下側となるに従って正面側と背面側とによる双方の幅は順次広がると共に、下端近傍において、前記双方の幅が急激に狭小となるような傾斜面を形成しており、左右両面側においては、下方となるに従ってやや広幅状態を呈することによって前記のように正面及び背面の下端近傍においてやや変形された略四角錐体状を呈しており、当該略四角錐体の四隅は、平面方向断面に沿って外向きの略円弧状を形成して湾曲しており、正面側において上端から前記傾斜面を形成する下端近傍に至るまでの上下方向の領域、及び左右両側の中央位置を基準としてそれぞれ左右両端側の中間位置よりもやや外側に近い位置にある左右方向の領域の範囲内に、上側となるに従って広幅となっている逆台形状の凹部21を左右両側及び下側の傾斜面(但し、各傾斜面は、何れも凹部を形成する面の側に向かって傾斜しており、左右両側の傾斜面は、それぞれ下側となるに従って順次広幅となっており、下側の傾斜面は略一定幅を呈した状態にて左右両側の傾斜面となだらかに接続している。)を介して形成しており、底面視において蓋体3と接続に関与している2箇所の蝶番4に対する外側カバー部分2 3は、背面側に略矩形状にやや突出した状態を呈している。
b(3) 蓋体3は、外側箱2と外側において連続した接続状態となり得るような略四角形枠部分31とその上側に位置し、かつ当該四角形枠部分31となだらかに接続している略矩形皿部分32とによる枠付きの略矩形皿形状を呈しており、四角形枠部分31の四隅が平面方向断面に沿って外向きの略円弧状を呈した状態にて湾曲しており、略矩形皿部分32においては、左右方向の中央位置を基準として、それぞれ前記中央位置から左右両端に至るまでの中間位置よりもやや左右両端側に近い領域及び背面側の近傍に至る領域において、背面方向となるに従って順次下方向に位置するような略矩形状の凹部を左右両側の傾斜面及び背面側の傾斜面(但し、各傾斜面は、何れも凹部を形成する面の側に向かって傾斜しており、左右両側の傾斜面は何れも背面側となるに従って順次広幅となっており、背面側の傾斜面は、背面に沿って約一定幅を呈した状態にて左右両側の傾斜面となだらかに接続している。)を介して形成しており、略矩形皿部分32の内側(裏側)において、前記凹部に概略対応する位置の内側に薄浅平板形状の収納ケースが左右両面側、正面側及び背面側の傾斜面(但し、各傾斜面は何れも下側となるに従って収納ケースは狭幅となるような傾斜状態を呈している。)を介して設けられており、平面視において外側箱2と接続に関与している2箇所の蝶番4に対する上側カバー部分33は背面側に略矩形状にやや突出した状態を呈している。
c(1) 内側箱1の左右の両面側には、2本のレール13を前後方向(正面側と背面側との方向)の中心線を基準として対称となるように突設すると共に、正面側においては、左右両側の凹部の左右両側端(凹部を形成する左右両側端の傾斜面の左右両側の外側端)の位置に2本のレール13を上側端から下側端の近傍に至るまで突出しており、背面側においては、前記凹部の左右両側端(凸部を形成している左右両外側の傾斜面の中央側の内側端)において、上端から下端近傍に至るまで2本のレール13を突設しており、外側箱2の正面側及び背面側の内側面においても、前記内側箱の正面側及び背面側のレールと左右両側の外側から係合するような2本の略同一幅のレール13をそれぞれ突設しており、外側箱2の左右両面の下側において、略台形状の枠22内に設けられている操作板24を介して、内側箱1と外側箱2とは前記左右の両面側における2本のレール13、及び前記正面及び背面側における3本のレール13を介したスライドによって、上下方向に移動可能な状態にあるが、前記移動が行われていない場合には、外側箱2は内側箱1を外側及び上側からカバーしており、内側箱1の底部及びその近傍が下端において目視可能な状態にて外側箱2を支えている。
c(2) 外側箱2の背面側の上緑内側及び蓋体3の略四角形枠部分31の背面側の内側に設けられた2個の蝶番4を介して、蓋体3は、外側箱2に対し正面側において開閉自在な状態を呈している。
c(3) 蓋体3の略矩形皿部分32の内側、即ち、外側箱2を閉じた場合の底面側には、左右側面と平行な方向に2本のレール34が左右方向の中心線を基準として対称となるように突設されており、かつ外側箱2と蓋体3との接続に関与し、かつ背面の左右両側において蓋体3と外側箱2とに跨った状態にて上下両側に肉厚状態にて設けられている収容部の内側に収容されている2個の蝶番4において、蓋体3との接続部分に設けられた歓合用凹状把手と前記2本のレール34とはスライド可能とすることによって、前後方向及び上下方向における角度及び位置を調整自在とする状態にあり、蓋体3が背面側と概略平行な状態にて配置されている場合には、蓋体3は前記スライドによって上下方向に移動可能な状態にある。
d(1) 鍵部5は、正面側の左右方向略中央において蓋体3と外側箱2の上縁に跨った状態にて設けられている。
d(2) 鍵部5は、左右上下方向に略平坦形状を呈している。
3.4 イ号意匠の要部
イ号意匠の要部は、下記のとおりである。
(1) 二輪車用集配箱が、上側を開放された状態にあり、かつ略四角筒状体及びその底部からなる内側箱、当該内側箱の外側及び上側に位置し、かつ下方となるに従ってやや広幅状態を呈することによる正面及び背面の下端近傍においてやや変形された略四角錐体状を呈している外側箱、当該外側箱の上側に位置し、四角形枠部分、及び当該部分と略円弧状になだらかに接続し、かつ僅かに湾曲した傾斜を以って盛り上がった状態にある略矩形皿部分とによる枠付き略矩形皿状の蓋体によって構成されていること(各図面参照)。
(2) 内側箱と外側箱とは、スライド及び固着によって上下方向の位置を調整自在の状態にあり(上ケースを上げた状態の右側面図、正面図、背面図、平面図、及び使用状態参考図(1))、蓋体は、外側箱の背面側における蝶番による接続を介して、正面側に対し開閉自在であると共に、当該接続を構成している部分(骸合用棒状把手)とスライド可能とすることによって、前後方向及び上下方向における角度及び位置を調整自在とし、特に蓋体が外側箱の背面側に位置している場合においても、上下方向の位置を調整自在としていること(使用状態参考図(2))。
3.5 本件登録意匠とイ号意匠の要部の対比
(1) 前記3.3(1)と3.4(1)とを対比するに、双方が内側箱、外側箱、蓋体の基本形状において相違しており、外側箱の正面及び背面の下端近傍が下側となるに従ってやや狭幅となる点において相違しているが、当該相違は局所的な相違に過ぎない。したがって、共通点が前記相違点を明らかに凌駕しており、双方は類似関係にある。
(2) 前記3.3(2)と3.4(2)とは共通しており、双方は、類似関係にある。
(3) かくして、本件登録意匠とイ号意匠とは全体観察及び要部観察の双方において共通しており、明らかに類似関係にある。
3.6 本件登録意匠とイ号意匠の相違点
本件登録意匠とイ号意匠とは、以下の点において相違している。
(1) 内側箱において、本件意匠の場合には、筒状部の正面側、背面側及び左右両面側には、格別の凹凸形状が存在せず、かつ下端において筒状部が湾曲したうえで下端において底部と直交した状態にて接続しているのに対し、本件集配箱意匠の場合には、正面側の左右両側に凹部が形成され、背面側の左右両側に凸部が形成されており、かつ下端部は直接底部に直交状態にて接続していること。
(2)外側箱において、本件意匠の場合には、下端において正面、背面、左右南側方向への微小突出部を有しており、しかも、正面上側において細長凹部が形成されているのに対し、本件集配箱意匠の場合には、下端に前記微小突出部は存在せず、しかも正面側において上端から下端近傍にまで及んでいる略逆台形状の凹部を形成していること。
(3)蓋体において、本件意匠の場合には、略矩形状皿部分がなだらかに盛り上がった平滑形状を呈し、特に凹部を形成していないのに対し、本件集配箱意匠の場合には、背面側に近付くに従って、順次下側に位置するような略矩形状の凹部が形成されると共に、当該凹部の周囲においてなだらかに盛り上がった平滑形状を呈しており、しかも、略矩形状に対応する位置の内側において収納ケースが設けられていること。
(4)本件意匠の場合には、外側箱及び内側箱の正面側及び背面側には、レールが突設されていないのに対し、本件集配箱意匠の場合には、それぞれ2本のレールが上下方向に突設されていること。
内側箱における上記(1)の相違のうち、略四角筒状部と底部との下端における相違は局所的な相違に過ぎず、正面側における凹部の形成、及び背面側における凸部の形成は、本件意匠における平坦な形状に対する付加的な利用形態に過ぎず、しかも前記3.3(1)並びに3.4(1)による基本的な特徴点に基づく印象及び前記3.3(2)並びに3.4(2)によるダイナミックな印象を打ち消し、かつ凌駕する訳ではない以上、全体観察及び要部観察に基づく類似性を左右し得ない。
外側箱における上記(2)の相違のうち、下端における微小な突出部の存否は局所的な相違に過ぎず、他方、正面側における凹部の領域幅の相違は、精々程度問題に過ぎず、却って双方において凹部が存在し、かつ正面において多少の起伏を与えているという印象の共通性を否定する訳ではない以上、結局、これらの相違は、前記3.3(1)と3.4(1)、及び3.3(2)と3.4(2)との対比における全体観察及び要部観察における類似性を左右し得ない。
蓋体に関する上記(3)相違のうち、凹部を設け、かつ収納ケースを設けることは、本件意匠に対する付加的な利用形態に過ぎず、しかも前記3.3(1)並びに3.4(1)による基本的な特徴点に基づく印象及び前記3.3(2)並びに3.4(2)によるダイナミックな印象を打ち消し、かつ凌駕する訳ではなく、更には収納ケースを設けることは、本件意匠の蓋体に対する付加的な利用形態に過ぎない以上、全体観察及び要部観察に基づく類似性を左右し得ない。
正面側及び背面側におけるレールの存否に関する上記(4)の相違は、局所的な相違であると共に、本件意匠に対する付加的な利用形態に過ぎず、しかも前記3.3(1)並びに3.4(1)による基本的な特徴点に基づく印象及び前記3.3(2)並びに3.4(2)によるダイナミックな印象を打ち消し、かつ凌駕する訳ではない以上、全体観察及び要部観察に基づく類似性を左右し得ない。
このように、上記(1)?(4)の相違は、何ら全部観察及び要部観察に基づく双方の意匠の類似関係を左右し得ない。
かくして、イ号意匠は、本件登録意匠と類似関係にある。
4.被請求人について
本件判定請求には被請求人が存在しないが、請求人は、本件登録意匠の意匠権者であって、イ号意匠の企画及び開発をおこない、第三者企業にイ号物件の製造及び納品を委託しているものである旨述べており、これを疑う理由は認められない。
5.当審の判断
そこで、イ号意匠が本件登録意匠に類似するか否かについて以下検討する。
5.1 本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「二輪車用集配箱」として、平成6年3月4日に出願され、平成8年4月23日に意匠登録されたものであり、願書及び願書添付の図面によれば、本件登録意匠は、該物品の形状に関する創作物であって、その構成態様は同図面に記載されたとおりのものである。(別紙1参照)
なお、請求人が摘記した前記3.1A?Dの構成態様は、同図面に照らせば、本件登録意匠全般の概括的な構成態様として概ね是認することができ、請求人が本件登録意匠の要部として認定した前記3.3(1)及び(2)の構成態様は、本件登録意匠全体の基本的構成態様に係るものと認められる。
5.2 イ号意匠
一方、イ号意匠は、請求人が提出した「イ号物件説明書」(別紙2参照)及び「イ号意匠図面」(別紙3参照)によれば、意匠に係る物品が「二輪車用集配箱」であり、その構成態様は、「イ号意匠図面」に記載されたとおりのものである。
なお、前記3.2a?dにおいて請求人が摘記したイ号意匠の構成態様は、同図面に照らせば、イ号意匠全般の概括的な構成態様として概ね是認することができ、請求人がイ号意匠の要部として認定した前記3.4(1)及び(2)の構成態様は、(1)において略四角錐体状を呈している外箱の形態をさらに具体的に摘記した部分「下方となるに従ってやや広幅状態を呈することによる正面及び背面の下端近傍においてやや変形された」を除き、イ号意匠全体の基本的構成態様に係るものと認められる。
また、外箱について具体的に摘記した上記部分に対応する態様は、両意匠の相違点に係る外箱の形態であると認められる。
5.3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
本件登録意匠とイ号を対比すると、両者は、意匠に係る物品が「二輪車用集配箱」である点で一致し、意匠の主たる構成態様については、次に示す共通点及び相違点が認められる。
なお、本件判定請求の理由及びイ号意匠図面には、イ号意匠の「外側カバー部分23」、「矩形皿部分32」、「レール13」、「レール34」等について、記載内容と図面が整合しない点及び、配置態様が判然としない点が認められるが、他の記載内容及び図面を参酌して、当該部分の形態を適宜認定するものとする。
[共通点]
(1)全体の基本的構成態様
底部を開放した上蓋(蓋体3)付き外側箱2の開口部に上部を開放した底付き内側箱1を収容し、内側箱1の左右両側面に設けられたレール13及び外側箱2の左右両側面の下縁際部中央に設けられた操作部(操作板24及び枠22)を介して外側箱2を上下移動可能に、且つ位置調整自在に構成して、全体を横長の略直方体状にまとめた箱体であって、外側箱2については、蓋体3を背面側上縁部に蝶番4を介して片開き状に開閉可能に、且つ蝶番4、嵌合用凹状把手及び蓋体3の裏面に設けられたレール34を介して外側箱2の外側にスライド可能に、且つ位置調整自在に装着し、鍵部5を正面側上縁部中央で外側箱2及び蓋体3の両者に跨るように設置し、さらに蓋体3を除く外側箱2の周側面(正背両面及び左右両側面)を下方に向けて漸次僅かに拡開させるとともに、周側面の出隅部及び蓋体3の周縁部(四角形枠部分31)に同程度の曲率の丸面を形成して全体を構成している点。
(2)蓋体3について
蓋体3を天板部(矩形皿部分32)とその周縁部(四角形枠部分31)から成る略矩形皿状に形成するとともに、裏面に2本のレール(レール34)を平行に配置し、背面側の縁部に蝶番4に対する矩形フード状の突出部(上側カバー部分33)を2箇所形成している点。
(3)内側箱1について
内側箱1の左右両側面の中央に2本のレール13を平行に配置し、周側面の下方周縁部を一段縮径して、低い台座状の接地部(底部12)を形成し、底部周縁を接地面に対して僅かに浮かせている点。
(4)操作部について
隅丸台形状の枠22で縁取られた凹陥部の上半部に横長矩形板状の操作板24を嵌着して操作部を形成し、該操作部を外側箱2の左右両側面の下縁際部中央に配置している点。
(5)鍵部5について
鍵部5を正面視縦長矩形状に形成している点。
(6)外側箱2について
外側箱2の正面上縁部から下方に向けて逆台形状の凹部21を形成し、背面側の縁部に蝶番4に対する矩形フード状の突出部(外側カバー部分23)を2箇所形成している点。
(7)全体的な寸法比率
全幅:全高:全奥行の寸法比率を、略12:7:9程度としている点。
[相違点]
(1)外側箱2の周側面について
本件登録意匠は、正面における逆台形状の凹部21の上下幅を蓋体3の上下幅よりも小さい小幅なものとし、周側面の下縁部に僅かに突出する小幅な縁取りを設けているのに対し、イ号意匠は、凹部21の上下幅を周側面の上下幅の略4/5程度の大幅なものとし、周側面の下縁部には縁取りを設けておらず、正背両面の下縁部を一定の幅で内側に傾斜させている点。
(2)蓋体3の天板部について
本件登録意匠は、天板部全域を緩やかに膨出する凸曲面状に形成しているのに対し、イ号意匠は、天板部の中央に正面から背面方向に向かって緩やかに傾斜する幅広の矩形皿状凹部を形成している点。
(3)内側箱1について
本件登録意匠は、内側箱1の下方周縁部を除く周側面の大部分を一様な平滑面とし、下方周縁部を丸面と垂直面が連なる所謂「几帳面」状に形成し、さらに内側箱1の底部中央を一段小径の隅丸矩形状に陥没させるとともに下方に突出させて、底面が平坦な接地部を形成しているのに対し、イ号意匠は、内側箱1の正面には左右両側と中心部の3箇所に、背面には中心部を振分状に挟んだ2箇所に、それぞれ周側面を上下に貫通する底面視台形状の突出部を形成することによって、正背両面の左右方向にそれぞれ略均等に凹凸を形成するとともに、正背両面の左右に形成された該凸部の出隅部4箇所にレール13を追加配置し、周側面の下方周縁部を角張った階段状に形成し、さらに底面に順次縮径する略相似形の4組の矩形リブ、中心に配された円形リブ及び各リブを架橋する直線リブからなるリブ構成の接地部を形成している点。
(4)鍵部5について
本件登録意匠は、鍵部5の本体部を蓋体3に設置し、係止具を外側箱2に設置しているのに対し、イ号意匠は、鍵部5の本体部を外側箱2に設置し、係止具を蓋体3に設置している点。
5.4 判断
これらの共通点及び相違点について以下検討する。
先ず、共通点(1)に示す全体の基本的構成態様については、これが両意匠全体の骨格を構成するものであり、これに共通点(2)に示す蓋体3の態様、共通点(6)に示す外側箱2の態様及び、共通点(7)に示す全体的な寸法比率が併合されることによって、両意匠に共通の支配的基調が形成され、さらに共通点(3)に示す内側箱1の態様、共通点(4)に示す操作部の態様及び、共通点(5)に示す鍵部5の態様の共通性が加味されることによって、前記支配的基調の共通性が一層強められていることが図面上看取できる。
また、必要に応じて外側箱2を上下させて箱体の容量を変化させ、しかも上蓋を片開き状に開閉可能とするだけでなく、外側にスライド可能とした機構を備え、その都度外観形態をダイナミックに変化させる意匠は、この種物品において、本件登録意匠の出願時点では他に見当たらないことから、前記支配的基調の共通性は、相違点(1)?(4)に係る差異を凌駕して看者に強く印象づけられるとともに、共通の美感を起こさせるものということができる。
一方、相違点(1)に係る外側箱2の周側面の差異については、イ号意匠の凹部21が正面の下縁部付近にまで達する広範なものであるとしても、コンテナ等の箱体側壁の形態としてはありふれたもの(別紙4参照)であり、しかも、凹部21を蓋体3の縁部直下に設けられた指かけ部として見た場合には、横幅及び逆台形状の基本形において本件登録意匠と共通する点が認められることから、その共通性が当該部位の差異を希釈させる効果を考慮すれば、正背両面の下縁部を多少内側に傾斜させている点及び、下縁部に縁取りを設けていない点を加味したとしても、この差異は、局所的僅差に止まるものというほかなく、イ号意匠の当該部位の形態についても、前記支配的基調に抗してイ号意匠を特徴付ける特有の視覚効果は認められない。
つぎに、相違点(2)に係る蓋体3の天板部の差異については、天板部中央に矩形皿状凹部を設ける手法及びその形態が、別紙5に示すように、従来から公然知られていたものであり、しかも、蓋体3には共通点(2)に示す共通性が認められることを考慮すれば、この差異は、局所的僅差に止まるものというほかなく、また、蓋体3に関連するものとして、相違点(4)に係る鍵部5の差異については、鍵の機構的差異についてはともかく、両意匠の鍵部に共通点(5)に示す共通性が認められることを考慮すれば、この差異は、局所的微差というほかなく、イ号意匠の当該各部位の形態についても、前記支配的基調に抗してイ号意匠を特徴付ける特有の視覚効果は認められない。
また、相違点(3)に係る内側箱1の差異については、イ号意匠の正背両面に形成された凹凸が、コンテナ等の箱体側壁の形態としてはありふれたもの(別紙6(1)参照)であり、正背両面の左右に形成された凸部に追加配置されたレール13が、専ら技術的改変の域を出ない目立たないもであり、さらに底面に形成された接地部の構成及びリブのパターンもありふれたもの(別紙6(2)参照)であって、しかも、内側箱1の大部分が常態では外側箱2に覆われていることを考慮すれば、この差異は、内側箱1の略全域に及ぶ広範なものであるとしても、全体的に見れば僅差に止まるというべきものであり、イ号意匠の当該部位の形態についても、前記支配的基調に抗してイ号意匠を特徴付ける特有の視覚効果は認められない。
さらに、これらの相違点に係るイ号意匠の形態が相俟って表出する視覚効果を勘案しても、イ号意匠を全体的に特徴付ける構成態様を見出すことはできない。
以上を総括すると、両意匠は、意匠に係る物品が「二輪車用集配箱」である点で一致し、意匠の主たる構成態様において、外観形態をダイナミックに変化させる前記支配的基調が本件登録意匠特有のものであり、しかもこの共通性は、両意匠の相違点を圧倒するものと認められる。
6.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するといわざるをえないものである。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2007-08-06 
出願番号 意願平6-5588 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (G2)
最終処分 成立  
特許庁審判長 関口 剛
特許庁審判官 岩井 芳紀
木本 直美
登録日 1996-04-23 
登録番号 意匠登録第958404号(D958404) 
代理人 赤尾 直人 

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