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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立不成立) C3
管理番号 1163860 
判定請求番号 判定2007-600001
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-10-26 
種別 判定 
判定請求日 2007-01-12 
確定日 2007-08-16 
意匠に係る物品 スチームアイロン 
事件の表示 上記当事者間の登録第1266000号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「スチームアイロン」の意匠は、登録第1266000号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求の趣旨及び理由
請求人は、イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、登録第1266000号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める、と申し立て、その理由として判定請求書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第4号証の書証を提出したものである。
その主張の概要は以下のとおりである。
(1)判定請求の必要性
本件判定請求人は、目下、別紙写真に表わされた商品「スチームアイロン」(甲第1号証、以下「イ号意匠」という)を東京都足立区所在のセトウチ工業から購入し販売している。先般、本件登録意匠に基づき意匠権者から侵害通告を受けた。
(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品が「スチームアイロン」(以下「アイロン」という)であって、その形態の要旨は以下のとおりである(甲第2号証の意匠公報参照)。なお、甲第3号証として本件登録意匠の構成各部に名称を付した図を添付する。
〔1〕 本件登録意匠の基本的構成は、全体的に船形をした本体において、底面(かけ面)に蒸気噴射口と2対の毛織用ブラシ取付け部を有し、本体前方部の舳先に相当する部分に山形状に盛り上がったタンク部を有し、そのタンク部上面に注水口キャップを備え、本体中央部の甲板に相当する部分の長手方向に複数本のリブが設けられ、前記タンク部から本体後部の船尾に相当する部分にかけて取手部を有している。
〔2〕 次に、本件登録意匠の具体的構成態様に言及すると、
a.取手部について
取手部は、側面視中央にサイドラインが入った平板状部材からなり、タンク部上部から後方斜め上部に向かって伸び把手部分は底面に平行で後部屈折点から部材の厚みが徐々に増して前方部分の倍近くになって緩やかな曲線を描きながら略垂直に屈折して本体後部に取付けられている。
b.タンク部及び注水口キャップについて
タンク部は、先端部が尖った流線形を呈して上面は2辺がやや外側に弧を描いた正三角形状になっていて、該上面に嵩高で周面に滑り止めとして縦長楕円形溝が刻まれた注水口キャップが設けられている。更に、タンク部前方から本体全体に亘って下部周面に補強部材が張り巡らされているが、その形状がタンク部の最先端部が最も厚みがあって徐々に薄くなり中央部辺りから略同じ巾で張り巡らされている。
c.本体中央部について
本体中央部は、底面に対して平行ではなく後部が尻高になっている。その上面には長手方向に側面視ホッケースティック状のリブが5本設けられていてその前端も後端も取手部取付部に達していない。
d.底面(かけ面)部について
底面部は、船形状に形成され本体部より若干大きく周辺がはみ出していて、先端側にホームベース板状の窪みがあってその三角形部寄りに円形の蒸気噴射口を有し当該噴射口に沿って棒状の溝が刻まれ前記ホームベース板状窪みの外側に2対の毛織用ブラシ取付部が設けられている。
(4)イ号意匠の説明
イ号意匠(甲第1号証)は、本件登録意匠と同一の物品「スチームアイロン」であり、その形態の要旨は以下のとおりである。なお、甲第4号証としてイ号意匠の構成各部に名称を付した写真を添付する。
〔1〕イ号意匠の基本的構成は、全体的に船形をした本体において、底面(かけ面)に蒸気噴射口と2対の毛織用ブラシ取付け部を有し、本体前方部の舳先に相当する部分に山形状に盛り上がったタンク部を有し、当該タンク部上面に注水口キャップを備え、本体中央部の甲板に相当する部分の長手方向に複数本のリブが設けられ、本体後部の船尾に相当する部分から前方に向かって鉤形状に取手部が設けられ先端はタンク部に達していない。
〔2〕 次に、イ号意匠の具体的構成態様に言及すると、
a.取手部について
取手部は、側面視上下二段黒白に色分けされた平板状部材からなり、先端部には赤色の電源スイッチが横向きに設けられ、下側白色部材がこぶ状に膨出していて、把手部分は底面に対して平行で後部屈折点から部材の厚みが徐々に増し前方部分の倍近くになって緩やかな曲線を描きながら略垂直に屈折して本体後部に取付けられている。上側黒色部材は垂直部中間で終わっている。
b.タンク部及び注水口キャップについて
タンク部は、先端部が削ぎ取られたように面状になった流線形で上面は2辺がやや曲線の五角形状になっていて、該上面に偏平で周面に滑り止め溝が刻まれた注水口キャップが設けられている。更に、タンク部前方から本体全体に亘って下部周面に補強部材が張り巡らされているが、タンク部先端から本体全体にかけて同じ巾で張り巡らされている。
c.本体中央部について
本体中央部は、底面に対して平行で、その上面には長手方向に側面視ホッケースティック状のリブが5本設けられていて中央のリブがタンク部の最上部まで達し外側に行くほど徐々に短くなっていてその後端部は取手部取付部に運している。
d.底面(かけ面)部について
底面部は、船形状に形成され本体部より若干大きく周辺がはみ出していて先端側にホームベース板状の窪みがあってその三角形部寄りに円形の蒸気噴射口を有し前記ホームベース板状窪みの外側に2対の毛織用ブラシ取付部が設けられている。更に、底面部の淵には、前方から左右の淵に沿って浅い溝が設けられている。
(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
〔1〕両意匠の共通点
a.両意匠は、意匠に係る物品が「スチームアイロン」で一致している。
b.基本的構成において、全体的に船形をした本体において、底面(かけ面)に蒸気噴射口と2対の毛織用ブラシ取付け部を有し、本体前方部の舳先に相当する部分に山形状に盛り上がったタンク部を有し、そのタンク部上面に注水口キャップを備え、本体中央部の甲板に相当する部分の長手方向に複数本のリブが設けられ、本体後部の船尾に相当する部分から前方に向かって取手部が設けられている点で両意匠の基本的構成は略同一である。
しかしながら、両意匠は、具体的構成態様において、以下のとおり差異点がある。
〔2〕両意匠の差異点
a.取手部について
両者の大きな違いは、本件登録意匠は、取手部の先端がタンク部に接しているのに対して、イ号意匠の方は、取手部の先端がタンク部に接しておらず、完全に分離している。更に、イ号意匠の方は、先端部下側白色部材がこぶ状に膨出して握り易く工夫されている。またイ号意匠は、先端部に赤色の電源スイッチが横向きに取付けられているのに対して、本件登録意匠の方は、平面視明らかなように、タンク部から後方斜め上部に向かって延びている部分上部に電源スイッチが縦向きに設けられている(ただし、左右側面図ではそれが明らかに落ちている。)。また、取手部後方の本体との取付法に関し、本件登録意匠は、本体中央部の尻高形状に呼応するように斜めに取付けられているのに対して、イ号意匠の方は、底面に対し平行に取付けられている。
b.タンク部及び注水口キャップについて
本件登録意匠のタンク部先端は、尖った流線形であるのに対して、イ号意匠は、先端が削ぎ取られたような面状になっている。そのため、タンク部上面は、本件登録意匠は三角形状であるのに対してイ号意匠は五角形状をしている。また、注水口キャップの形状も本件登録意匠の方は、嵩高く周面には滑り止めの縦長楕円形溝が刻まれているのに対して、イ号意匠の方は、扁平なキャップで周面には縦溝が設けられている。更に、タンク部前方から本体全体に亘って下部周面に補強部材が張り巡らされているが、その形状がタンク部の最先端部が最も厚みがあって徐々に薄くなり中央部辺りから略同じ巾で張り巡らされているのに対して、イ号意匠の方は、タンク部先端から本体全体にかけて全く同じ巾で張り巡らされている。
c.本体中央部について
本件登録意匠の本体中央部は、底面に対して平行ではなく後部が尻高になっているのに対して、イ号意匠の方は、底面に対して平行になっている。また、リブについても、5本のリブという点では共通するものの、本件登録意匠は、前端も後端も取手取付部に達していないのに対し、イ号意匠の方は、中央のリブがタンク部の最上部に達し外側に行くほどリブが徐々に短くなっていて、しかも後端部は取手取付部に達している。
d.底面(かけ面)部について
本件登録意匠の底面(かけ面)部の淵には特に溝は設けられていないが、一方のイ号意匠の底面部の淵には、前方から左右の淵に沿って浅い溝が設けられている。また、本件登録意匠には噴射口に沿って棒状の溝が刻まれているが、イ号意匠にはそれはない。
(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由の説明
〔1〕本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
両意匠は、共に意匠に係る物品が「スチームアイロン」で物品は同一であるが、意匠の形態を比較した場合、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲には属しないと考えるので、その理由について、前項の「本件登録意匠とイ号意匠との比較説明」に基づき説明する。
そこで、前述した両意匠の共通点と差異点について評価をすると、以下のとおりになる。
A)両意匠の共通点の評価
両意匠は、基本的構成が略共通するものの、比較的日常的に馴染みが深い「スチームアイロン」ないしは「アイロン」の商品分野においては、本体部分が動きのスムーズさから船形の形状をしていることや、アイロンを手で動かすために取手部が設けられていること、スチームアイロンであれば底面(かけ面)部に噴射口が設けられ、更にスチームアイロンであれば水を入れるタンク部が必須であることなど、これら共通部を備えていること自体はどちらかと言えばありふれたことであり、基本的構成自体には格別意匠的に評価すべき特徴はないと言える。
B)両意匠の差異点の評価
それに引き換え、具体的構成態様における差異点には評価すべき点が多々あり、この違いが全体の共通点から生じる美感を完全に陵駕しているものと思料する。
a.取手部について
両意匠において、取手部の違いが最も顕著であり、目に付く部分である。前記(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明の項の〔2〕両意匠の差異点で述べたとおり、本件登録意匠の取手部は、後部は勿論のこと先端部もタンク部に取り付けられているのに対し、イ号意匠は、先端側が完全にタンク部と分離していて、後方から前方に鉤形状に突き出ていて、後方に突き出ているものが比較的多く見られる中で極めて特徴的で印象的である。更に、イ号意匠の先端部下側白色部材がこぶ状に膨出している点もシンプルな本件登録意匠に比して意匠的に評価すべきである。また、電源スイッチの取り付け位置や向きにも両者の違いは表れている。
b.タンク部及び注水口キャップについて
タンク自体の形状では、本件登録意匠は、先端が尖っているのに対して、イ号意匠は先端部が削ぎ取られて面状になっている点が異なっている。そのため、タンク部上面の形状も三角形と五角形で異なり、当該上面の注水口キャップも嵩高と扁平というように対照的である。また、タンク部前方から本体全体に亘って下部周面に張り巡らされた補強部材が、イ号意匠は同じ巾であるためシンプルで落ち着いた感じがするのに対して、本件登録意匠の方はタンク部の最先端部が最も厚みがあって徐々に薄くなって本体中央部辺りから略同じ巾で張り巡らされているため、後述する本体中央部の尻高形状とこれとが相俟って滑り出しそうなスピ一ド感すら窺える。ここでの違いも顕著と言える。
c.本体中央部について
本体中央部については、本件登録意匠が底面に対して平行でなく尻高になっているのに対して、イ号意匠の方は底面に対して平行であり落ち着いた印象を与えることは前記b項でも述べたとおりである。また、5本のリブについても、イ号意匠は後部が取手取付部に接していることから安定した頑丈さが窺えるのに対して、本件登録意匠の方は、ここでもどちらかと言えば頑丈さよりも軽快な印象を受ける。
d.底面(かけ面)部について
底面部では、イ号意匠の淵溝が印象的であり、ここでもイ号意匠の頑丈さが表れていると言える。淵溝がない本件登録意匠との違いはここでも明らかである。
C)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠は基本的構成が略共通するものの、この種商品ではありふれたものであり、それに引き換え具体的構成態様における差異点は、いずれも意匠の創作上の特徴点と言え、類否に与える影響はいずれも高いものである。
従って、これらの差異点は共通点から生じる美感を完全に凌駕しているものと言える。
第2.被請求人の答弁
特許庁より被請求人に判定請求書を送り、期間を指定して答弁書の提出を求めたが、被請求人からの応答はなかった。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成17年5月19日の意匠登録出願に係り、平成18年2月10日に意匠権の設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「スチームアイロン」とし、形態を願書の記載及び願書に添付された図面に表されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
本件判定請求の対象とされるイ号意匠は、判定請求書によれば、意匠に係る物品が「スチームアイロン」で、本件登録意匠と同様の物品であり、その形態はイ号意匠写真版に現されたとおりのものである(別紙第2参照)。
3.両意匠の対比
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品がともにいわゆるスチームを噴射するアイロンであって共通し、その形態については、主として以下の共通点と差異点が認められる。
すなわち、共通点として、両意匠ともに、基本的構成態様を、(あ)全体の態様を、所謂船舶を反転させ船体を上方に表した態様の船首部相当部を水等収納用のタンク部とし、その上面に扁平円筒状の注水口キャップを設け、そのタンク部より後半部、全体のほぼ2/3程の部分を略L字状面でえぐり取り、その後端部から前方側に略湾曲突設したやや太めの略角柱状ハンドルを設け、底板部底面に蒸気噴出口を設けた略長方形状板前方を略湾曲V字状とした(所謂船体平面形状)底板形状とした点、(い)タンク部後方面を急斜面とし、その傾斜面から後半部のえぐり取った平面部へと複数本の細くて低い略L字状の板状リブを並列、等間隔に設け(請求人が両意匠ともに5本と主張するように、本件登録意匠の平面図からは4本が確認されるものの、通常並列等間隔に表すことからハンドル下の1本を加え5本と考えることは妥当と思われることから、板状リブを5本設けた点で共通する)、そのリブの長さを中央側リブより両外側リブの長さをやや短くして設けた点、(う)ハンドル部を後端部から立ち上げ、湾曲して前方へ底面と平行にした握り部を形成し、後端立ち上げから湾曲部までを側面視やや幅広とし、握り部をそれよりは幅狭のほぼ角柱状とした点、(え)ハンドル部構成を側面視立ち上がりから握り部までの中央に上下部部材の境界線を表し、ハンドル基部と本体部との境界線を背面視本体上面より僅かに下の横細幅部位に横線で区切り、本体境界線上のハンドル部形状が背面視逆T字状になるよう形成した点、(お)本体部下端寄りの周囲に細幅の凸状帯状部を形成した点、(か)スイッチをハンドル水平握り部の先端部あたりに設けた点、(き)底板部の底面部を僅かな矩形状の後方部を残して先端部までの周縁を極僅かな2段の階段状にして外側へ僅かに突出させた点、(く)底板部底面の蒸気噴出口を円形とし、その周り家型五角形状の極僅かな凹部形状を設け、その上下(前後部)に2対の極細長長方形状のブラシ取付部を設けた点、が認められる。
一方差異点は、(イ)本件登録意匠は、タンク部の略三角形状とした上面先端から下部先端部への態様を湾曲稜線状としているのに対して、イ号意匠は略台形状上面の(台形状の)上底辺から下部先端部へと略細幅V字状の湾曲面状とした点、(ロ)タンク部上面のキャップ形状を本件登録意匠はやや径が小さくやや高さもある円筒状とし、周面に縦長楕円形状を等間隔に表したのに対して、イ号意匠はやや径の大きい高さの低い所謂丸餅状とし、上面周囲から側面にかけて等間隔放射状に細溝を表した点、(ハ)えぐり取った平面部を、本件登録意匠は後端へ向けてやや上方傾斜させているのに対して、イ号意匠はハンドル部基部下まで平坦面とし、ハンドル部基部とにやや低い段差を設けた点、(ニ)板状リブ形状前後端部を、本件登録意匠はハンドル前後近くのところまでの長さとしているのに対して、イ号意匠はタンク上面、後端部をハンドル基部までとしている点、(ホ)ハンドル水平握り部先端部を、本件登録意匠はタンク後方傾斜面上部と傾斜させて連結しているのに対して、イ号意匠はタンク部後部上方までの長さとし、その先端部下側を下方に僅かに突湾曲させてている点、(ヘ)本体部下端寄りの周囲に設けた細幅の凸状帯状部形状を、本件登録意匠は後方から両側面へと同幅とし、両側面前寄り部分からタンク先端面に向けて緩やかに湾曲上昇させたのに対して、イ号意匠は同幅とした点、(ト)スイッチを、本件登録意匠はハンドルの前方タンク部への傾斜面上部にシーソースイッチとみられるスイッチを縦向きに設けたのに対して、イ号意匠はハンドル先端面にシーソースイッチを横向きに設けた点、(チ)底面部の細溝形状については、本件登録意匠は蒸気噴出口下(後方)に横細長の溝を設けているのに対して、イ号意匠は底面外周突出縁のやや内側の縁沿いに細溝を設けた点、が認められる。
そこで上記の共通点と差異点につき、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断に及ぼす影響について、以下に検討する。
まず、両意匠において共通する基本的構成態様の(あ)については、両意匠の全体の骨格を成し、(い)ないし(く)の各具体的態様と一体となって全体の基調を形成している。とりわけ両意匠の差異点を除く全体及び具体的な構成態様の酷似性は、当審において本件登録意匠出願前の両意匠の属する分野の公知意匠を調査したところ(イ号意匠と同一形態を表した公知意匠(特許庁総合情報館1997年1月8日受入の大韓民国意匠公報1462巻第10頁所載の「アイロン」の意匠(意匠課資料番号第HH09065305号))1例を除いて)、両意匠の共通するタンク部形状に似たタンク部を形成した意匠が2,3みられるものの、両意匠の細部の共通する部分(共通点(お)ないし(く))を除いた共通する(共通点(あ)ないし(え)で構成された)概略形態を表したような類型的な意匠を見いだすことはできないことから、通常のスチームアイロンの形態のなかにおいてはむしろ両意匠の共通する態様は可成りの特徴を有した形態であるともいえることから両意匠の共通感を看者に特に強く印象づけており、意匠全体として、これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいといわなければならない。
これに対して前記差異点、(イ)の差異は、共通するタンク部形状のうちの先端稜線部を僅かな幅で削いだような細幅面にすぎず、タンク部の態様の中での極僅かな部分的な差異にすぎず、その差異が類否判断に影響を与える程のものともいえず、(ロ)の差異は、確かにキャップのみをはずして対比した場合にはやや相違するとしても、キャップをタンクに装着して全体としてみた場合には全体の態様のなかのほんの一部の形状にすぎず、ともに扁平円筒状としたことにはかわりはなく、この差異も微差にすぎないものといわざるをえない。(ハ)及び(ニ)の差異は、えぐり取った平面部を僅かな上方傾斜面としたか否かであるが、タンク部後方傾斜平面から後半部の略L字状にえぐり取った平面部へと複数本の細くて低い略L字状の板状リブを表した点では共通し、その前後、つまり、タンク部とハンドル部に囲まれた全体の構成態様の中でみた場合には、僅かな角度の傾斜面にすぎず、その差異は僅かなものといわざるをえず、また、リブの長さの相違は、本件登録意匠がハンドル先端をタンク後方上部に連結接合し、ハンドル後方部逆T字形状と本体とを接合しているために、板状リブ端部をその接合境界線までとすることはできず、接合部の直ぐ下あたりまでとした(イ号意匠斜視図によると板状リブ後端も境界線と接しないようにその僅かに下)にすぎず、ともに略L字状面に同様なリブを僅かに長さが相違するとしても、同本数、並列等間隔に表した点では共通することから、この点も極僅かな相違にすぎないものといわざるをえない。(ホ)の差異は、ハンドル先端部をタンク部と斜めに傾斜させて連結したか否かであるが、この種分野においては本件登録意匠出願前から本体及びハンドルを後方から立ち上げ前方へ湾曲して握り部を設けた態様を共通とするシリーズものの製品にあっては、ハンドル部先端部を本体と繋いだものとそうでないものとを用意することは通常行われている(例えば、特許庁総合情報館1990年11月8日受入の刊行物「HERBST/WINTER90/91Quelle」第1143頁所載の意匠課資料番号第HD02017639号と第HD02017640号の2つの「アイロン」、特許庁総合情報館1998年8月12日受入のドイツ意匠公報11巻第2217頁所載の意匠課資料整理番号第HH11058395号と第HH11058396号の2つの「アイロン」等)(別紙第3及び第4参照)ことからすれば、両意匠のように上記共通する態様を有するアイロンのハンドル部先端部形状の相違は、通常用意される態様の種類の範疇にはいる程度の改変と認められることから、その相違は細部の差異にすぎないものといわざるをえない。また、イ号意匠のハンドルの先端下側を突湾曲させた態様は、ハンドル水平握り部の先端部に僅かに膨らみを設けることは、握り部の手が滑らないように安定させるため、先端に膨らみを設けることはこの種分野に限らず通常行われているところ(上記例示の第1番目参照))であることから、取り立てて特徴ということもできず、類否判断に与える影響は微弱なものにすぎない。(ヘ)の差異は、本体下端部寄りの細幅帯状部分の先端寄りをやや上側へ湾曲上昇させたか否かであるが、その湾曲上昇部分も先端寄りの僅かな高さの僅かな部分のみであり、本体下部周囲に同様な細幅凸状帯状部分を設けたことでは共通し、全体からみた場合には相違は極僅かな差異にすぎないものといわざるをえない。(ト)の差異は、シーソースイッチが横向きか縦向きかの相違であるが、ともにハンドル部の共通する位置あたりに同様なシーソースイッチを設けた点では共通することからすればその縦か横かの相違はほんの僅かな微差にすぎない。(チ)の差異は、下面の細溝形状の相違に係るものであるが、この種の分野における通常みられる蒸気噴出口の態様は下面中央より先端側に下面の外側周縁の一回り内側に沿って小さな小孔を並べて配されることが通常であることからすれば、両意匠のような上記共通する特徴ある蒸気噴出口周りの態様(共通点(く))において共通することからすれば、それらの極細い溝は両意匠ともに極目立ちにくい僅かなものにすぎないものといわざるをえない。
そうすると、ハンドル部先端部がタンク部と連結しているか否かの形状には格別特徴がなく、各部の相異点についても上記の通りであって、それらが形態の特徴として強く主張することもできず、両意匠の類否判断に与える影響は微弱で、上記共通する構成態様の中での微差に止まる。また、仮に、これらの差異点が相俟って表出する効果を勘案したとしても、各共通点から惹起される両意匠の共通感を凌ぐ効果を到底認めることができない。
上記のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態において共通する態様は相俟って両意匠全体に共通する基調を形成しており、これに対して差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであってこの基調を覆すに至らず、全体として共通点が差異点を凌駕して類否判断を支配するというべきものであるから、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するといわざるを得ない。
以上のとおりであって、請求人の主張は採用することができず、両意匠は類似するというべきである。
従って、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論の通り判定する。
別掲

判定日 2007-08-01 
出願番号 意願2005-17225(D2005-17225) 
審決分類 D 1 2・ 1- YB (C3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾曲 幸輔下村 圭子 
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 樋田 敏恵
前畑 さおり
登録日 2006-02-10 
登録番号 意匠登録第1266000号(D1266000) 
代理人 高柴 忠夫 
代理人 志賀 正武 
代理人 高橋 詔男 
代理人 渡邊 隆 

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