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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) F4
管理番号 1182495 
判定請求番号 判定2007-600097
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2008-09-26 
種別 判定 
判定請求日 2007-12-18 
確定日 2008-08-08 
意匠に係る物品 包装用箱 
事件の表示 上記当事者間の登録第1090175号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠(甲第2号証の写真及びその説明書に示す「包装用箱」の意匠)は、登録第1090175号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求の趣旨及びその理由の要点
請求人は、「イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は登録第1090175号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」旨請求し、請求の理由として要旨以下のように主張する。
1.判定請求の必要性
請求人は、本件登録意匠(甲第1号証(1)、甲第1号証(2)。)の意匠権者である。被請求人が販売しているイ号意匠(甲第2号証)の包装用箱は、本件登録意匠の意匠権を侵害する旨の警告状を送付したが、被請求人らは、「イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」旨主張するので、判定を求める。
2.本件登録意匠の手続の経緯
本件登録意匠は,平成12年1月27日に意匠登録出願され(意願2000-1053),平成12年9月1日に設定の登録がされたものである(意匠登録第1090175号)。
3.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「包装用箱」とし、その形態の要旨を、次の通りとする。甲第1号証(1)及び甲第1号証(2)。
基本的な構成態様は甲第1号証(1)(意匠登録第1090175号)及び甲第1号証(2)の通り、この包装用箱は瓶に入ったお酒などを運ぶ際に、輸送中に逆さまに落としても中のお酒の瓶が割れにくいようにする為の包装用箱である。
本体の構造は箱の上部開口を取り巻く縁の一辺に、該箱に詰めた瓶の上端を抑える為の中蓋を延設し、対向する辺には上蓋を延設して成り、該中蓋は折り返し部、中蓋本体及び立ち上がり部の3部分からなり、しかも、この順で箱本体から延べており、蓋を閉じた状態では「逆コの字」状に屈曲して上蓋との間に空間を形成することを特徴とする瓶用の包装箱である。
4.イ号意匠の説明
基本的な構成態様は甲第2号証の通り、イ号意匠は本件登録意匠と同様に本体の構造は箱の上部開口を取り巻く縁の一辺に、該箱に詰めた瓶の上端を抑える為の中蓋を延設し、対向する辺には上蓋を延設して成り、該中蓋は折り返し部、中蓋本体及び立ち上がり部の3部分からなり、しかも、この順で箱本体から延べており、蓋を閉じた状態では「逆コの字」状に屈曲して上蓋との間に空間を形成された包装用箱である。イ号意匠は上蓋を止める為の止片形状に則した切り欠きが設けられている。また,両フラップの先端が該中蓋の中央に垂直に折り曲げられて瓶が逆さまから落下した場合の衝撃を緩和させるようにしている。
5.本件登録意匠とイ号意匠の比較説明
(1)両意匠の共通点
(a)本体の構造は箱の上部開口を取り巻く縁の一辺に、該箱に詰めた瓶の上端を抑える為の中蓋を延設し、対向する辺には上蓋を延設して成り、該中蓋は折り返し部、中蓋本体及び立ち上がり部の3部から成り、しかも、この順で箱本体から延べており、蓋を閉じた状態では「逆コの字」状に屈曲して上蓋との間に空間を形成することを特徴とする瓶用の包装箱。
(2)両意匠の相異点
(a)イ号意匠は上蓋を止める為の止片が中央に付いて、その止片の差込口の為、両フラップの先端がその止片形状に則した切り欠きが設けられている。
(b)両フラップの先端が該中蓋の中央に垂直に折り曲げられて瓶が逆さまから落下した場合の衝撃を緩和させるようにしている。
6.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(1)本件登録意匠の要部
この包装用箱は瓶に入ったお酒などを運ぶ際に、輸送中に逆さまに落としても中のお酒の瓶が割れにくいようにする為の包装用箱である。創作の主なる対象は、本体、箱の上部開口を取り巻く縁の一辺に、該箱に詰めた瓶の上端を抑える為の中蓋を延設し、対向する辺には上蓋を延設して成り、該中蓋は折り返し部、中蓋本体及び立ち上がり部の3部から成り、しかも、この順で箱本体から延べており、蓋を閉じた状態では「逆コの字」状に屈曲して上蓋との間に空間を形成することを特徴とする瓶用の包装箱である。
(2)本件登録意匠とイ号意匠の類否の考察
両意匠を全体的に考察すると、上記相異点(2)は、本件登録意匠の基幹部分である上記共通点(1)を含んでいる。この(1)意匠の基幹部分がなくしては、イ号意匠は存在しない意匠である。また、上記(2)の差違点は、類否の判断に与える影響は何れも微弱なものである。よって、イ号意匠は本件登録意匠の類似意匠と判断されるべきである。
(3)むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。
第2.被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は、「本判定請求は成り立たない。請求人が示すイ号意匠は、登録第1090175号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める。」旨答弁し、答弁理由として要旨以下のように主張する。
1.本件登録意匠について
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「包装用箱」とするものであり、使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示しているが、その用途が特に限定されていない。そして、意匠に係る物品の形状は、甲第1号証(1)の意匠公報に示す通りである。
2.イ号意匠について
本判定請求におけるイ号意匠は、甲第2号証として示されているが、全体として不明確であるから、被請求人においてこれを別紙1のイ号物件の図面として提出する。イ号意匠の形態は、別紙1のイ号物件の図面に記載された通りである。
3.公知意匠について
(1)公知意匠1(乙第1号証)
本件登録意匠出願前に日本国内において頒布された刊行物である実開昭58-163430号公報の図面に記載された固形洗剤収納容器の包装箱の意匠。
(2)公知意匠2(乙第2号証)
本件登録意匠出願前に日本国内において頒布された刊行物である実開昭51-17133号公報の図面に記載されたコーンカップの包装箱の意匠。
4.本件登録意匠とイ号意匠との比較
(1)意匠に係る物品
意匠に係る物品については、本件登録意匠は、使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示している。イ号意匠も「瓶」の包装に使用する包装用箱であるから、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が共通する。
公知意匠1は、固形洗剤収納容器の包装箱であり、公知意匠2はコーンカップの包装箱であるが、本件登録意匠は、意匠に係る物品を単に「包装用箱」とするものであり、その用途を特に限定するものでないので、本件登録意匠も、公知意匠1,公知意匠2も、意匠に係る物品については、「包装用箱」で共通する。
(2)意匠の形態
本件登録意匠とイ号意匠との意匠の形態は、(A)有底角筒形の胴部と、胴部の背面板の上端に連接された外蓋と、胴部の正面板の上端に連接された内蓋と、両側面板の上端に連接された側面フラップとを有する点、(B)有底角筒形の胴部は,縦長で,横幅が奥行きの2倍の長方形の開口部を有する点,(C)背面板の上端縁に、胴部の上端開口部を閉塞する外蓋と、外蓋の先端に差し込み片を設けている点、(D)正面板の上端縁に、正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と、この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と、この内蓋の先端に背面板の内面に重なるように上方に折り返される立ち上げ片を設けている点が共通している。
一方、両意匠間には、(イ)両側面板の上端縁に設けた側面フラップの先端が、本件登録意匠は切りっぱなし形状になっているのに対し、イ号意匠の場合は、先端縁部に折り返し片が形成され,この折り返し片が両側面フラップを折り込んだ状態で突き合うようになっている点、(ロ)イ号意匠の両側面フラップの先端と折り返し片のコーナー部分に切り欠きを設けている点,(ハ)イ号意匠の正面板の上端中央ロック用の摘みを設けている点において差異を有する。
5.両意匠の類否判断
以上の共通点と差異点を総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討すると,両意匠において共通するとした態様は,公知意匠1並びに公知意匠2も備えている。
したがって,本件登録意匠とイ号意匠の類否を判断する上において,上記の共通点があるから両意匠を類似すると判断することはできない。
また,公知意匠2の両側面フラップの形態は,先端縁に折り返し片が形成され,この折り返し片が両側面フラップを折り込んだ状態で突き合うようになっている点でイ号意匠と共通しており,そのイ号意匠の形態は,本件登録意匠よりも公知意匠2に近似している。
そして,イ号意匠には,公知意匠2や本件登録意匠に備えていない,差異点(ロ),(ハ)を備えている点を考慮すると,イ号意匠は,公知意匠2よりも本件登録意匠から離れた印象を与える形態を有する。
したがって,公知意匠1や公知意匠2の存在を前提にして,本件登録意匠をイ号意匠との類否を判断すると,本件登録意匠とイ号意匠は,意匠全体から見て別異の印象を受ける非類似のものであり,イ号意匠は,本件登録意匠の範囲及びこれに類似する意匠の範囲に属さないものである。
6.むすび
イ号意匠は、以上のように、本件登録意匠と非類似のものであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める。
第3.請求人の弁駁の要点
1.本件登録意匠とイ号意匠との比較について
(1)意匠に係る物品について
本件登録意匠は使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示しており,固形洗剤収容に使用する包装箱用や,コーンカップの包装箱用に創作したものではない。本件登録意匠はイ号意匠同様に瓶用の包装箱として創作されたものである。
(2)意匠の形態について
被請求人は,「(A)有底角筒形の胴部と、胴部の背面板の上端に連接された外蓋と、胴部の正面板の上端に連接された内蓋と、両側面板の上端に連接された側面フラップとを有する点、(B)有底角筒形の胴部は,縦長で,横幅が奥行きの2倍の長方形の開口部を有する点,(C)背面板の上端縁に、胴部の上端開口部を閉塞する外蓋と、外蓋の先端に差し込み片を設けている点、(D)正面板の上端縁に、正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と、この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と、この内蓋の先端に背面板の内面に重なるように上方に折り返される立ち上げ片を設けている点が共通する。」と主張しているが,この3点が本件登録意匠の基幹部分意匠である。ただし,(B)は有底角筒の胴部が正方形でも本件登録意匠の基幹部分意匠には支障はない。
本件登録意匠は,背面板の上端縁から延設された外蓋とその先端の差し込み片で形成されるコの字(X)と,正面板の上端縁に,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋,さらにこの内蓋の先端に背面板の内面に重なるように上方に折り返される立ち上がり片によって形成される逆コの字(Y)とが(すなわち,コの字(X)と逆コの字(Y)とが)たがいにがっちりとスクラムを組み合い,瓶が逆さまから落下した場合の衝撃を(X)+(Y)とで緩和させ,両側面板の上端縁に設けた2枚のフラップで,さらに,2度,3度とその衝撃を緩和させて,瓶が壊れにくいように創作された,基幹部分意匠(Z)である。
両意匠とも瓶用に創作されたもので,本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)をイ号意匠も備えている。よって,類似している。
両意匠の差異点について,(イ)フラップ先端の折り返し片の有無は,本件登録意匠の基幹部分意匠で類否の判断に与える影響は全く関係ない。(ロ)フラップ先端部の切り欠きの有無は,本件登録意匠の基幹部分意匠で類否の判断に与える影響は全く関係ない。(ハ)ロック用の摘みの有無は,業界で,一般に上蓋をロックするためのもので,これも,本件登録意匠の基幹部分意匠で類否の判断に与える影響は全く関係ない。
よって,(A)ないし(D)の共通点だけで十分である。本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)がなくしては,イ号意匠は存在しない意匠である。よって,イ号意匠は本件登録意匠の類似意匠と判断されるべき意匠である。
2.両意匠の類否判断について
被請求人は,「両意匠において共通するとした態様は,公知意匠1並びに公知意匠2も備えている。」と主張しているが,本件登録意匠と公知意匠1の共通点は(A)及び(B)のみで,(C)及び(D)は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)の点で違う。一方,本件登録意匠と公知意匠2の共通点は(B)及び(C)のみで,(A)及び(D)は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)の点で違う。
(1)本件登録意匠と公知意匠1
公知意匠1の(C)の態様については,外蓋の先端に差し込み片を設けている片の長さが短く,(D)の態様については,垂下片の長さが長く形成されている点が本件登録意匠と相違する。本件登録意匠の外蓋と内蓋との間の空間は約3センチメートルであるが,公知意匠1は約6センチメートルである。瓶が逆さまから落下した場合に十分に緩衝能力を発揮できず破損にいたる。
したがって,公知意匠1は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)を備えていないので,類似しない。また,公知意匠1の仕様では瓶用としては使用できない。
(2)本件登録意匠と公知意匠2
公知意匠2の(A)の態様については,側面フラップの先端縁に折り込み片が形成されている点,(D)の態様については,2個の嵌止穴が空いている点が本件登録意匠と相違する。公知意匠2ではこの嵌止穴なくしては,この創作の目的はありえないが,本件登録意匠ではこの嵌止穴は不必要である。かえって緩衝能力が半減してしまう。
したがって,公知意匠2は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)を備えていないので,類似しない。
(3)本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
本件登録意匠とイ号意匠は(A)ないし(D)の共通点を有し,共に瓶の包装に使用する包装箱であり,本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)の要件を満たしており,外蓋と内蓋との間の空間も約3センチメートルで,同一仕様となっている。本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)をイ号意匠だけが備えている。よって,本件登録意匠とイ号意匠は類似している。本件登録意匠の基幹部分意匠の要件をもっとも満たしているのがイ号意匠である。
被請求人の主張する差異点(ロ)でそれぞれに切り欠きを設けているのは(ハ)のロック片で上蓋をロックする為とそのロック片の収まるスペースを確保する為にそれぞれに切り欠きを設けているのであって,この相違点は,本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)で類否の判断に与える影響は全く関係ない。
イ号意匠は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)を十分に備えた意匠であり,これなくしてはそもそも,瓶の包装に使用する包装用箱としては語ることができない。
従って,イ号意匠は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)に関連する部分において,本件登録意匠と類似しており,他の差異点は意匠全体を非類似とするほどの本質的な差異はないので,類比判断に与える影響は微弱,よって,本件登録意匠とイ号意匠は類似である。
第4.当審の判断
本件登録意匠については,意匠登録無効審判が請求されており(無効審判2009-880009参照),本件意匠登録が意匠登録無効審判により無効にされた場合は,そもそも本件判定請求は不適法な判定の請求であって,その補正をすることができないものとなるから,判定をもってこれを却下すべきものである(意25条3項で準用する特71条3項で準用する特135条)。しかし,たとえ本件意匠登録が無効にされるべきものではないとしても,下記のように,本件登録意匠に類似する意匠の範囲は,公知意匠1及び公知意匠2等との関係で相対的に狭いものと認められ,イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないものである。
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成12年1月27日に意匠登録出願され(意願2000-1053),平成12年9月1日に設定の登録がされたものであって(意匠登録第1090175号)、その願書及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品が「包装用箱」であり、その形状が願書及び願書添付の図面に記載されたとおりのものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は,甲第2号証に記載された意匠であって,意匠に係る物品が1.8L瓶2本用の「包装用箱」であり,その形態が甲第2号証の写真に現わされたとおりのものである(別紙第2参照)。
3.両意匠の対比
両意匠を対比すると、意匠に係る物品については、共に「包装用箱」で共通し、形状については以下の共通点及び差異点が認められる。(イ号意匠は,甲第2号証の写真によって,形状のみならず,模様及び色彩についても現されているが,本件登録意匠が形状の意匠と認められるので,イ号意匠の形状のみについて対比する。)
(1)共通点
両意匠は,(A)胴部を有底角筒形とし,胴部の上端開口部に,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを設け,上端開口部の外蓋と内蓋との間に扁平直方体状空間を設けた基本的構成態様において共通する。そして,具体的構成態様について,(B)有底角筒形の胴部は,高さが奥行きの約3倍の縦長で,上端の開口部は,横幅が奥行きの約2倍の長方形に形成した点,(C)外蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,外蓋の先端に同じ横幅の差し込み片が設けられ,差し込み片の角をやや隅丸に形成した点,(D)内蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片とを設け,その横幅全体を同幅とし,立ち上げ片の角をやや隅丸に形成した点,(E)両側面フラップは,幅が開口部の奥行きと同じ,長さが開口部の横幅の約1/2で,全体略正方形状に形成した点,(F)外蓋と内蓋との間の扁平直方体状空間は,断面視略コ字状の外蓋と,外蓋と対称形状の断面視略逆コ字状の内蓋との組み合わせで形成され,空間の高さを箱全体の高さに比して約10分の1の幅狭に形成した点において共通する。
(2)差異点
両意匠は、(イ)両側面フラップ先端について,本件登録意匠は,両側面フラップの先端が切りっぱなし形状になっており,折り返し片が形成されていないのに対して,イ号意匠は,両側面フラップの先端縁部に折り返し片が形成され,この折り返し片が両側面フラップを折り込んだ状態で突き合うようになっており,折り込んだ状態で中央部に円形穴が形成されるように両側面フラップに半円形穴が設けられている点,(ロ)両側面フラップの外形状について,本願意匠は,全く切欠のない略正方形状であるのに対し,イ号意匠は,両側面フラップの先端と折り返し片のコーナー部分にフラップ各辺の略5分の1の略正方形状切り欠きを設けている点,及び(ハ)本件登録意匠は,蓋部ロック用の構成態様がないのに対し,イ号意匠は,正面板の上端中央に正面幅の略5分の1の幅のロック用の長方形状摘みを正面板と内蓋の垂下片を切り欠いて形成し,外蓋の差し込み片の角部中央にロック用摘みの挿入穴を設けている点において差異がある。
4.両意匠の類否判断
意匠の類否を判断するに当たっては,両意匠の共通点及び差異点について,意匠全体に占める割合,物品特性,及び公知意匠を参酌し,美感の観点から看者の注意を引く部分か否かを評価して,意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に,需要者に対して共通する美感を起こさせるか否かを判断する。
そこで検討するに,この種包装用箱においては,箱形状全体について注目するとともに,この種包装用箱の使用において物品を包装する際には,開閉する蓋部の具体的構成態様についても注目しつつ意匠全体を観察するものである。
そうすると、本件登録意匠とイ号意匠の共通する基本的構成態様(A)すなわち胴部を有底角筒形とし,外蓋と内蓋との間に扁平直方体状空間を設けた構成態様は,意匠全体の大部分を占め,両意匠の造形的な骨格を形成する構成態様であり或程度看者の注意を引くものである。しかしながら,この基本的構成態様は,公知意匠1及び公知意匠2にみられる構成態様であり,かつ,本件登録意匠の出願前からその他の意匠においてもみられる構成態様であって(例えば,(1)実公昭37-33089号の第2図ないし第5図に表された意匠,(2)実公昭39-32186号の第1図ないし第5図に表された意匠,(3)実全昭47-37227号の第1図及び第2図に表された意匠,(4)実全昭49-43331号の第1図ないし第5図に表された意匠。別紙第3参照。),この種包装用箱においてはありふれた構成態様である。したがって,両意匠の共通する基本的構成態様(A)は,格別看者の注意を引くものではなく,それのみでは類否判断を左右するものではない。
さらに,具体的構成態様の共通点について検討するに,共通する具体的構成態様のうち,(B)箱の構成比率は,例を挙げるまでもなくこの種包装用箱においてありふれた態様である(なお,上記公知意匠にもみられる態様である。)。また,(C)差し込み片を設けた外蓋の態様,(D)立ち上げ片を設けた内蓋の態様,及び(E)全体略正方形状の両側面フラップの態様は,いずれも,公知意匠1及び公知意匠2にみられる態様であり,かつ,本件登録意匠の出願前からその他の意匠においてもみられる構成態様であって(例えば,(1)実公昭37-33089号の第2図ないし第5図に表された意匠,(2)実公昭39-32186号の第1図ないし第5図に表された意匠,(3)実全昭47-37227号の第1図及び第2図に表された意匠,(4)実全昭49-43331号の第1図ないし第5図に表された意匠。),この種包装用箱においてはありふれた構成態様である。また,(F)外蓋と内蓋との間の扁平直方体状空間の態様は,上記公知意匠にみられるとともに,その空間の高さを箱全体の高さに比して約10分の1の幅狭に形成した態様もすでにみられる態様である(例えば,公知意匠2,(1)実公昭37-33089号の第2図ないし第5図に表された意匠,(2)実公昭39-32186号の第1図ないし第5図に表された意匠。)。したがって,両意匠の共通する具体的構成態様も,格別特徴的なものではなく,特に看者の注意を引くものではない。
そうすると,本件登録意匠は,基本的構成態様および具体的構成態様の各構成態様についてみると,格別新規な特徴的構成態様がないものである。したがって,本件登録意匠は,各構成態様の全体のまとまりにおいて新規性があり意匠登録を受けたものと認められる。それゆえ,本件登録意匠と類似する意匠というためには,当該意匠が本件登録意匠と基本的構成態様のみならず具体的構成態様に至までほとんど全ての構成態様を共通にする必要がある。
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の差異点について検討するに,これらの差異点は,本件登録意匠の構成態様について,イ号意匠に(イ)両側面フラップの先端縁部に折り返し部を,(ロ)そのコーナー部分に切り欠きを,(ハ)正面板に摘みを付加したか否かの差異であり,構成態様の有無という明確な差異である。そして,これら差異点に係るイ号意匠の具体的構成態様は,いずれもこの種包装用箱においてありふれたものであるが,この種包装用箱において看者が注意する開口部において一定の範囲を占める構成態様であり微細なものではなく,かつ,折り返し部は,これによって外蓋と内蓋との間の扁平直方体状空間が区切られるものであり,また,コーナー部分の切り欠きと摘みは,これによって箱がロックされるものであり,これらの構成態様は,この種包装用箱の使用状態において注目される部分に係る構成態様であり,この差異は類否判断に与える影響が大きいものと認められる。したがって,これらの差異点を総合して考慮すると,本件登録意匠とイ号意匠は,ほとんど全ての構成態様を共通にするものとはいえず,両意匠は,全体として異なる美感を起こさせるものである。
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,形状において,差異点が共通点を凌駕し,意匠全体として美感が異なるものであるから,両意匠は類似しない。
6.結び
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2008-07-25 
出願番号 意願2000-1053(D2000-1053) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (F4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 太一 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 樋田 敏恵
並木 文子
登録日 2000-09-01 
登録番号 意匠登録第1090175号(D1090175) 
代理人 東尾 正博 
代理人 東尾 正博 
代理人 鎌田 文二 
代理人 鳥居 和久 
代理人 鳥居 和久 
代理人 鎌田 文二 
代理人 東尾 正博 
代理人 鳥居 和久 
代理人 鎌田 文二 

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