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審決分類 審判    G2
審判    G2
管理番号 1184345 
審判番号 無効2008-880006
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-02-28 
確定日 2008-08-25 
意匠に係る物品 自動車排ガス用触媒コンバーター 
事件の表示 上記当事者間の登録第1203450号「自動車排ガス用触媒コンバーター」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、登録第1203450号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証ないし甲第34号証を提出した。

1.審判請求理由の要点
(1)本件登録は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠であるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
(2)本件登録意匠は、その意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠であるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。

よって、本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)意匠法第3条第1項第3項(意匠法第48条第1項第1号)について
本件登録意匠は、その出願日である平成15年(2003年)3月27日前に、日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である下記の登録意匠に類似する意匠である。
・意匠登録第1121736号 (関連意匠登録、甲第15号証)
・意匠登録第1121738号 (関連意匠登録、甲第20号証)
・意匠登録第1121740号 (関連意匠登録、甲第21号証)
(以下、上記の意匠を包括的に「引用意匠」という。)

(1.1)本件登録意匠と引用意匠の類否判断

(1.1.1)本件登録意匠と引用意匠の意匠に係る物品について
引用意匠の意匠に係る物品である「自動車用マフラー」及び「触媒コンバーター」と本件登録意匠の意匠に係る物品である「自動車用排ガス用触媒コンバーター」とは、自動車の排気系統の部品として自動車に組み付け使用するという用途が共通する。また、自動車の排気ガスが含有する有害物質の排出量を軽減するという機能も共通する。
よって、引用意匠の意匠に係る物品と本件登録意匠の意匠に係る物品は、類似する物品である(以下、これらの3つの物品を一括して「触媒CVT」という。)。

(1.1.2)本件登録意匠と引用意匠の要部について
本件登録意匠の基本的構成態様は、「触媒CVT本体部」、並びに「触媒CVT本体部」と排気管と嵌合する嵌合部との間に存在する「触媒CVT本体部の両端に形成された直線模様を有するテーパー部」から構成される。
一方、引用意匠の基本的構成態様は、「触媒CVT本体部」、排気管と嵌合する「嵌合部」、並びに「触媒CVT本体部」と排気管と嵌合する「嵌合部」との間に存在する「触媒CVT本体部の両端に形成された直線模様を有するテーパー部」から構成される。「触媒CVT本体部の両端に形成された直線模様を有するテーパー部」の形態は、登録意匠第1053969号(甲第2号証)の出願日以前には存在しない形態である。また、触媒CVT本体部が直線模様を有するテーパー部をその両端に有するという「触媒CVT本体部」と「直線模様を有するテーパー部」の組み合わせも、従来にはない新たな意匠の形態である。したがって、本件登録意匠と引用意匠における意匠の要部は、新たに創作された「触媒CVT本体部の両端に形成された直線模様を有するテーパー部」の形態であると認定することが妥当である。
触媒CVT本体部における嵌合部は、排気管を組み付けるためにのみ使用される機能的な要請にのみ基づく「溶接代(ようせつしろ)」、もしくは、触媒CVTを車体本体に装着するためクランプ又はブラケットなど、装着用部品を組み付ける「部品組付け代(ぶひんくみつけしろ)」であるから、排気管に組み付けた状態では排気管に抱合され、視覚を通じて認識できなくなる。そして、引用意匠及び本件登録意匠における嵌合部の形状は、略長方形、もしくは、略長方形を組み合わせたありふれた形状であり、意匠全体の美観に与える影響は小さい。
したがって、本件登録意匠は、引用意匠の要部である「触媒CVT本体部の両端に形成された直線模様を有するテーパー部」の形態を構成する基本的構成態様をすべて充足するため、本件登録意匠は引用意匠に類似する。

(1.1.3)本件登録意匠と引用意匠の具体的構成態様について
本件登録意匠の具体的構成態様は次の通りである。
構成a.触媒CVT本体部を構成する筒状の円筒部
構成b.触媒CVT本体部の両端に形成された略円錐形状若しくは 略台形状のテーパー部
構成c.触媒CVT本体部の両端に形成された略円錐形状若しくは 略台形状のテーパー部に形成された直線模様
一方、引用意匠における具体的構成態様は、次の通りである。
構成A.触媒CVT本体部を構成する筒状の円筒部
構成B.触媒CVT本体部の両端に形成された略円錐形状若しくは 略台形状のテーパー部
構成C.触媒CVT本体部の両端に形成された略円錐形状若しくは 略台形状のテーパー部に形成された直線模様
ところで、本件登録意匠における左側テーパー部の上辺部は、触媒CVT本体部との境目から一旦窪みを構成し、その後直線が辺を構成し、さらにその辺が連続することにより嵌合部の辺を構成する。また、左側テーパー部の下辺部は、触媒CVT本体部との境目から一旦窪みを構成し、その後緩やかな曲線が辺を構成し、さらにその辺が連続することにより嵌合部の辺を構成する。一方、引用意匠の上辺部は、触媒CVT本体部との境目から開始する直線が辺を構成し、さらにその辺が連続することにより嵌合部の辺を構成する。また、引用意匠の下辺部は、触媒CVT本体部との境目から開始する直線が辺を構成し、さらにその辺が連続することにより嵌合部の辺を構成する。
また、本件登録意匠における右側テーパー部の上辺は、触媒CVT本体部との境目から開始する直線が、僅かにフラットな辺を構成し、その後直ちに約45度の傾斜をもって下降し、さらにそのまま延伸し嵌合部を構成する辺に連続する。一方、引用意匠の上辺は、触媒CVT本体部との境目から開始する直線が直ちに約45度の傾斜をもって下降し、さらにそのまま延伸し嵌合部を構成する辺に連続する。
しかしながら、かかる辺を構成する形状の差異は、本件登録意匠と引用意匠の形態の共通点を凌駕して、需要者・取引者に対し異なる印象を与えるものではない。
また、部触媒CVTの側面図視における同心円の線間隔が均等か非均等かの差異、並びに、嵌合部が若干下方に傾いているか、若干上方に傾いているかの差異は、他の構成の共通点を凌駕して、需要者・取引者に対し、異なる印象を与えるものではない。
よって、本件登録意匠の構成a、b及びcは、引用意匠A、B及びCをすべて充足するから、本件登録意匠は引用意匠に類似する意匠である。したがって、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3項に該当し、登録を無効にされるべきものである。

(2)意匠法第3条第2項(意匠法第48条第1項第1号)について
本件登録意匠と引用意匠との差異は、本件登録意匠は嵌合部を構成しない一方、引用意匠は嵌合部を構成する形態の差異がある。このような触媒CVTの意匠における嵌合部を構成しない意匠を創作することは、公知の意匠の構成を一部削除することにすぎず、引用意匠の形態から容易に意匠の創作ができる範疇の創作行為に過ぎない。また、本件登録意匠におけるテーパー部の「くぼみ」についても、意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば、容易に創作できる範疇の創作である。そして、触媒CVT本体部における排気管が嵌合する径の大きさが、引用意匠が両端とも均等であるのに対し、本件登録意匠は均等ではない。しかしながら、かかる形態の差異は、触媒CVTに組み付ける排気管の径の大きさに応じて設計される程度の改変であり、意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば、容易に創作できる範疇の創作である。 したがって、本件登録意匠は独占権たる意匠権を付与するに値しない創作性の意匠であるから意匠法第3条第2項に該当し、無効とされるべきである。

第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。

1.意匠法第3条第1項第3号について
(1)本件登録意匠と引用意匠の要部の認定と嵌合部の有無について
本体部の両端に形成されたテーパ部を有する意匠は、引用意匠の出願前から既に公知であった(乙1号証乃至乙4号証)ことから、そのテーパ部の形状を公知のテーパ部とどのように変えたのかが創作のポイントであり、要部となるものと考えられる。
この点について、被請求人は、出願時に特徴記載書を提出しており、この中で、特徴のない中央部ではなく、テーパ部やその先端部といった両端が創作のポイントであると主張しており、この部分を要部と捉えるべきであり、両意匠は、要部において、嵌合部の有無といった明確な相違点が見受けられるものである。
ところで、請求人は、引用意匠の嵌合部は、溶接代、部品組付け代であり、排気管に組み付けた状態では、排気管に抱合され、視覚を通じて認識できなくなる部分であるから、意匠の要部とはならないと主張している。しかし、本件登録意匠や引用意匠に係る物品は、それ自体、独立の商品として流通過程におかれ、取引の対象となるものであるから、嵌合部の形状も当然重要視されるべきものである。
このように、あるものに取り付けられる部品であっても、取り付け面側も考慮されるものであり、嵌合部が溶接代、部品組付け代であっても、その長さ、太さによって組み付けられる排気管の種類が限定されたり、その有無によって使用できないこともある以上、注意力の高い判断主体である「作業者」、「購買担当者」、「流通業者」、「購入者(末端消費者)」が、その有無に無関心であったり、見逃すとは到底考えられない。

(2)本件登録意匠と引用意匠の類否判断の観察方法について
請求人は、請求人や被請求人の登録例、審査例を持ち出し、部分的な相違点が存在しても、その意匠が類似意匠や関連意匠として登録されていたり、拒絶されている例があることから、それらの相違点は、意匠の要部ではなく、その相違は意匠の類否判断に影響を及ぼさないと主張している。しかし、請求人の観察方法は、一部の相違によって類似と判断された例を数多く持ち出しているに過ぎないものであり、本件登録意匠と引用意匠のように要部に数多くの相違点が存在するものとは事情が異なるものである。
即ち、本件登録意匠は、前述したように、テーパ部やその先端部が要部と考えられるが、その要部を構成する形状には、
(a)テーパ部、先端部にかけて総てスピニング跡を設けた
(b)スピニング跡を総て平行に設けた(このため、一端の先端部とは平行とならない)
(c)テーパ部の一部に、全周にわたってへこみ(くぼみ)を設けた
(d)一方のへこみ(くぼみ)は長く設けた
(e)テーパ部に逆Rを付けて絞った感じを与えた
というような特徴がある。
この中で、特に(d)や(e)の相違は、従来の意匠や引用意匠とは大きく異なっているものである。
さらに、本件登録意匠と引用意匠とでは、スピニング跡の幅も異なっており、判断主体に与える印象の違いは大きいものがある。しかも、本件登録意匠は、これらの形状が、全体としてバランスよく一つの纏まりを構成しているものである。
本件登録意匠と引用意匠の類否判断の判断主体は、前述のような高い注意力を有する者であり、このような者が、従来の意匠や引用意匠とは大きく異なる特徴や全体の纏まりとしての印象の違いを見逃して混同するようなことは到底考えられないものである。
よって、請求人の類否判断の観察方法は妥当なものではない。

2.意匠法第3条第2項について
請求人は、本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当しないとしても、意匠法第3条第2項に規定する容易な創作であると主張している。
しかし、本件登録意匠は、テーパ部や先端部に(a)?(e)のような特徴を有するものである。これらの特徴には、従来の意匠にはない特有の形状も含まれているものであり、公知の形状に基づいて容易に創作できたものではない。
しかも、本件登録意匠は、これらの特徴をバランスよく一つの纏まりとしたものであり、当業者が容易に創作し得たようなものではない。
本件登録意匠は、従来の意匠にはない特有の形状を有し、しかも全体としての纏まり感も有するため、容易に創作し得るようなものではなく、意匠法第3条第2項に規定する容易な創作には当たらないものである。
したがって、請求人の主張は何れも妥当なものではない。

第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年3月27日に意匠登録出願をし、平成16年3月12日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1203450号の意匠であり、意匠に係る物品を「自動車排ガス用触媒コンバーター」とし、その形態を、願書及び願書に添付の図面の記載のとおりとするものである(別紙第1参照)。

2.請求人が無効の理由として引用した意匠
請求人が無効の理由として引用した意匠は、甲第15号証、甲第20号証および甲第21号証であり、それぞれ、登録意匠第1121736号、登録意匠第1121738号および意匠登録第1121740号であり、意匠に係る物品を、甲第15号および甲第20号証ついては「自動車用マフラー」とし、甲第21号証については「触媒コンバーター」とするものであり、これらの形態は、それぞれの意匠公報に掲載されたとおりとするものである(別紙第2乃至第3参照)。

3.本件登録意匠と引用意匠との対比
そこで、本件登録意匠と引用意匠を比較すると、まず、本件登録意匠の意匠に係る物品は、「自動車排ガス用触媒コンバーター」であり、引用意匠の意匠に係る物品は、「自動車用マフラー」および「触媒コンバーター」であるが、消音か浄化かの機能的相違はあるものの、いずれも自動車の排気系を構成する部品である点で用途が共通し、また、近年は両機能を有する自動車用触媒マフラーが存在することから、両者は類似物品であると認められ、また、形態については、主として以下の共通点と相違点がある。

(1)共通点
すなわち、共通点として、(A)全体が、円筒状の触媒CVT本体部とその両端にテーパー状の円錐台形状部から構成される基本的構成態様からなる点、また、(B)両端のテーパー状の円錐台形状部には、正面視直線模様が形成されている点、がある。
(2)相違点
一方、相違点として(a)嵌合部について、本件登録意匠は、嵌合部が明確に形成されていないのに対し、引用意匠は両端部に、正面視縦長長方形状または直角台形状の嵌合部が明確に形成されている点、(b)円錐台形状部の直線模様が形成されている部位について、本件登録意匠は、両端部まで形成されているのに対し、引用意匠は嵌合部に直線模様が形成されていないため、両端部までは直線模様が形成されていない点、(c)円錐台形状部の直線模様の態様について、本件登録意匠は平行な直線模様であるのに対し、引用意匠は両端または一方が平行な直線ではない点、(d)円錐台形状部の左側基部について、本件登録意匠は円筒状の触媒CVT本体部の直近に全周にわたって窪みを設けているのに対し、引用意匠には窪みがない点、(e)円錐台形状部の右側基部について、本件登録意匠は円筒状の触媒CVT本体部の直近に全周にわたって幅広な平坦部を設けているのに対し、引用意匠には平坦部がない点、(f)円錐台形状部の面の形状について、本件登録意匠は一方の円錐台形状部を逆R状の緩い弧状面としているのに対し、引用意匠は直線的なテーパー面としている点、(g)両端部について、本件登録意匠の両端部は、平行直線模様を斜めに横切るように平面によりカットされているのに対し、引用意匠は嵌合部があるため、端部が直線模様を斜めに横切るようにはカットされていない点、(h)両端部の開口部の向きについて、本件登録意匠は両端部の開口部が、正面も平面も直線的に連通しておらず、いはば捻れている状態であるのに対し、引用意匠は上下にずれているだけであり、いわば折れ曲がっている状態である点、があげられる。

4.本件登録意匠と引用意匠との類否判断
そこで、上記の共通点と相違点について総合的に検討するに、(A)の基本的な構成態様の共通点については、本件登録意匠および引用意匠の形態の全体にかかわりその骨格を構成するところではあるが、この点については、多くの触媒CVTに共通する特徴であって、格別顕著な特徴があるとはいえない。なお、触媒CVTの分野において、両端にテーパー部を有する意匠は、乙第1号証および乙第2号証や意匠登録第616373号および意匠登録第705063号などによれば、引用意匠の出願前より公知であったことは明らかである。また、具体的な態様の共通点である(B)については、スピニング加工による跡であると認められ、スピニング加工が管端の端部加工として公知であるから(乙第3号証および乙第4号証)、複雑なスピニング加工の跡である場合はともかく、自由に成型できる管端加工における直線的かつ単純な跡にそれほど特徴があるとはいえない。さらに、管の連結部という観点に着目した場合、管継ぎ手の分野においては、例えば、意匠登録第604027号、意匠登録第620242号および意匠登録第734578号のように、管端部に直線的かつ単純な凹凸模様を形成することは、普通に行われているところであって、触媒CVTの管端部においてのみ格別特徴的であるという状況を見出だすこともできないことを考慮すると、スピニング加工の跡を過大に評価することはできない。
したがって、これらの共通点は、本件登録意匠と引用意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであるということができない。
一方、相違点(a)の嵌合部の態様については、本件登録意匠や引用意匠に係る物品は、それ自体、独立の商品として流通過程におかれ、取引の対象となるものであるから、注意力の高い判断主体である「作業者」、「購買担当者」、「流通業者」、「購入者(末端消費者)」は、嵌合部の形状に注目することは明らかであり、嵌合部の態様が類否判断に与える影響は大きいというべきである。相違点(b)の直線模様が形成されている部位については、相違点(a)と同様に注目される部分の相違であるから、類否判断に与える影響は大きいというべきである。相違点(c)の直線模様の態様については、注目される部分ではあるが直線模様の幅が均一でない程度の相違であって、類否判断を左右するほどの大きな相違とはいえないまでも、ある程度の影響を与える相違というべきである。相違点(d)の円錐台形状部の左側基部については、僅かな窪みであるから、その視覚的効果も僅かであり、類否判断に与える影響は小さいといえる。相違点(e)の円錐台形状部の右側基部については、僅かな窪みといえる様なものではなく、注目されるテーパー面上に、細幅とはいえ、全周にわたって面状に形成されているものであるから、類否判断に与える影響は大きいというべきである。相違点(f)の円錐台畦状部の面の形状について、緩い逆R状の面は単なるテーパー面とは異なる視覚的効果があるというべきであって、類否判断を左右するほどの大きな相違とはいえないまでも、ある程度の影響を与える相違というべきである。相違点(g)の両端部の態様について、相違点(a)と同様に注目される部分の相違であるから、類否判断に与える影響は大きいというべきである。相違点(h)の両端部の開口部の向きについて、自動車の取り付け部の態様に応じて開口部の向きを変えて取り付けるものであるから、この程度の相違では格別特徴的というほどのものではなく、類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。
なお、請求人は、拒絶査定された出願も検討材料に加え、相違点が類否判断に与える影響は小さい旨主張するが、形状が異なるので同列に扱うことはできない。
以上のとおりであって、本件登録意匠と引用意匠に共通する点は、類否判断を左右する要素としては重要視できないものであるのに対し、相違点(a)、(b)、(e)、(g)が類否判断に与える影響は大きいものであり、これに相違点(c)、(f)の相俟った効果を加えると、本件登録意匠は、引用意匠に類似するものとすることはできない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当しない。

5.本件登録意匠の創作容易性について
請求人は、触媒CVTの意匠における嵌合部を構成しない意匠を創作することは、公知の意匠の構成を一部削除することにすぎず、また、本件登録意匠におけるテーパー部の「くぼみ」についても、意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば、容易に創作できる範疇の創作であり、そして、両端部の排気管が嵌合する径の大きさが、本件登録意匠は均等ではないが、かかる形態の差異は、触媒CVTに組み付ける排気管の径の大きさに応じて設計される程度の改変であり、意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば、容易に創作できる範疇の創作である旨主張するので、この点について検討する。
本件登録意匠と引用意匠とは、前記のとおりの共通点と相違点を有するものである。このうち共通点については、触媒CVTの意匠の属する分野における通常の知識を有する者であれば、普通に知られていることであり、格別特徴があるとはいえない。しかしながら、本件登録意匠の特徴は、主として相違点(a)、(b)、(e)、(g)にあるということができ、この点について全体とのバランスに配慮しながら創作したものと考えられる。そして、これらの相違点は、引用意匠にはみられない点であるから、引用意匠にこれらの点を着想させるヒントが存在していたということはできない。仮に、引用意匠の嵌合部を削除したとしても、本件登録意匠にはならないことは明らかである。また、窪みの有無や両端部の径が異なる点が容易に創作できたものであるとしても、本件登録意匠の主たる特徴は、窪みの有無や両端部の径が異なる点ではないので、本件登録意匠の創作が容易であるとする証拠とは成し得ないものである。
したがって、本件登録意匠は、引用意匠に基づき、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、容易に創作をすることができた意匠であるとすることはできない。

6.結び
以上のとおりであって、請求人の提出した証拠及び主張によっては、意匠法第3条第1項および同条第2項の規定に違反して登録されたものとして、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2008-07-01 
結審通知日 2008-07-03 
審決日 2008-07-15 
出願番号 意願2003-8414(D2003-8414) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (G2)
D 1 113・ 113- Y (G2)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 関口 剛
特許庁審判官 宮田 莊平
岩井 芳紀
登録日 2004-03-12 
登録番号 意匠登録第1203450号(D1203450) 
代理人 中村 知公 
代理人 前田 大輔 
代理人 足立 勉 
代理人 伊藤 孝太郎 

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