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審決分類 |
審判 K7 |
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管理番号 | 1193782 |
審判番号 | 無効2007-880006 |
総通号数 | 112 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2009-04-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-05-18 |
確定日 | 2009-02-12 |
意匠に係る物品 | 取鍋 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1137667号「取鍋」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.請求人の申立及び理由 1.請求人は、「登録第1137667号意匠の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下の主張をし、立証として、甲第1号証ないし甲第12号証を提出した。 登録第1137667号意匠は、その出願前に、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において公然知られた形状に基づいて容易に創作をすることができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その登録は、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 (1)本件意匠の構成は、有底円筒形状の取鍋本体と、取鍋本体にかぶせられた円形の大蓋と、大蓋の中心に設けられた円形の小蓋と、取鍋本体の側面側に設けられ、取鍋本体の外周底部付近から上方に向けて約45°突き出した形状の突き出し部と、突き出し部からさらに上方へ逆U字状に湾曲し、その先端を底面方向に屈曲させてなる配管とで構成される。配管には2枚のフランジが設けられている。 (2)甲第4号証の意匠は、被請求人と日本坩堝株式会社の共同出願である特許出願公告平4-6464号特許公報第6図に掲載された「取鍋」の意匠(以下「公知意匠1」とする。)であり、その基本的形態は、有底円筒状の取鍋本体と、取鍋本体にかぶせられた円形の大蓋と、大蓋の中心に設けられた円形の小蓋と、取鍋本体の側面側に設けられ、取鍋本体の高さの中ほどの位置から上方に向けて約45°突き出した形状の突き出し部からなる。 (3)甲第5号証の意匠は、甲第4号証にかかる特許発明の実施品である「取鍋」の意匠(以下「公知意匠2」とする。)であり、平成元年より公然実施され、公然知られた意匠となったものである。 (4)甲第6号証の意匠は、本件意匠の出願前である平成5年11月9日に発行された特開平5-293634号公開特許公報第1図に掲載された「溶湯運搬炉」の意匠(以下「公知意匠3」とする。)であり、取鍋本体から突き出した側面視直角三角形の突き出し部に、当該突き出し部からさらに上方へ逆U字を描くように湾曲し、その先端を底面方向に屈曲させてなる配管とで構成されている。 (5)本件意匠は、公知意匠1又は2の有底円筒形状の取鍋本体と、取鍋本体にかぶせられた円形の大蓋、大蓋の中心に設けられた円形の小蓋、及び、突き出し部の構成において、突き出し部の本体への取り付け位置を、本体の外周底部付近に修正するとともに、公知意匠3の配管を組み合わせただけの意匠にすぎない。 なお本件意匠と公知意匠1及び公知意匠2は、配管の有無、及び突き出し部の位置が相違するが、本件意匠のような加圧式取鍋では、溶融金属を別の容器に注ぐためには、取鍋内の下部に多くの溶融金属を残留させないようにするために、排出用の流路を容器内の貯留空間に容器の底部付近で接続させることが必要不可欠となるから、傾動式取鍋から加圧式取鍋に変更するに伴って、下向きの配管を付加し、突き出し部の位置を取鍋本体のできるだけ「底部に近い位置」に変更することは技術的に必然の変更である。そして本件意匠と公知意匠3では、配管の形状においても共通する。またその配管の形状を具現化したものとして、特開平7-178515号第1図に掲載の意匠(甲第9号証)もあり、本件意匠の配管は特異な形状ではなく、当業者が容易に創作しうる形状である。 従って本件意匠は、当業者が、その出願前に公然知られた公知意匠1、ないし公知意匠3に基づき容易に創作できた意匠であり、意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当する。 2.請求人は、被請求人の答弁に対して、平成19年8月22日付弁駁書、及び同年11月21日付上申書を提出し、本件意匠と公知意匠1及び公知意匠2には、供給方式の相違に基づく必然性から導かれる相違以上のものはなく、その相違は、選択の余地もない、技術的な必然性を伴う修正であり、これに公知意匠3を参酌すれば、本件意匠は、看者の美感に影響を及ぼすような意匠創作上の工夫のあとは認められない、旨の主張をした。 第2.被請求人の答弁 1.被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と答弁し、以下を主張して、乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。 (1)公知意匠1は断面図であり、当該図面により取鍋の具体的な形態を特定し識別することはできない。仮に当該公報の他の記載を参酌しても、両意匠は、突出し部の大きさとその位置が相違し、更に、先端部が下方に屈曲した配管が公知意匠にない点で、基本的構成態様が相違し、具体的構成態様としても、取鍋本体の上部外縁に設けられたフランジの厚さ、小蓋と大蓋の間のフランジの有無等々で相違し、全体としての美感の相違は明らかである。(2)公知意匠2は、平成元年より公然実施されていたとの立証がなされておらず、判断の基礎にできない。しかも写真が鮮明でなく、外形を正確に特定することはできない。あえて検討しても全体としての美感の相違は明らかである。 (3)公知意匠3は、形態を特定できない図面である。また請求人が突出し部とする部分は、前傾収納部であって、溶湯運搬炉の一部であり、請求人が突き出し部と主張する部分とは明らかに形状を異にする。また配管の大きさ、形状も相違し、美感の相違は明らかである。 (4)本件意匠は、「横方向への広がりを持ち伸びやかな美感」により、全体の印象として、特有のまとまり感があるもので、この特有のまとまり感のある本件意匠の特徴を選択することは、当業者が容易に創作し得たとはいえず、その登録は、意匠法第3条第2項に違反してなされたものではない。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成13年2月13日に意匠登録出願をし、平成14年2月8日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1137667号意匠であり、意匠に係る物品を「取鍋」とし、その形態は、願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりであって、以下のとおりであることが認められる。(別紙第1参照) A.基本的な構成態様 有底円筒形状の取鍋本体と、取鍋本体を覆う円形の大蓋と、大蓋の中心に設けられた円形の小蓋と、取鍋本体の側面に設けられ、その外周底部付近から上方に向けて徐々に外側に突き出した形状の突出し部と、突出し部の上端に取り付けられ、先端部が下方に屈曲した配管とからなるものである。 B.各部の具体的な態様 (a)取鍋本体は、高さと径がおおよそ等しく、上端にフランジを有し、下面に、断面ロ字状のチャネル材が2本、両端が取鍋本体からわずかにはみ出す程度の長さとして、やや間隔を空けて平行に配されたものである。 (b)大蓋は、径が取鍋本体と同径の円盤状で、下端にフランジが設けられて、閉蓋時に取鍋本体のフランジと重なり、また上面中央に、大蓋径の略1/2の径の輪状のフランジが設けられたものである。 (c)小蓋は、径が大蓋径の2分の1弱で、厚みが大蓋とほぼ等厚の円盤状で、下端にフランジが設けられて、閉蓋時に大蓋上面のフランジと重なり、上面、及び側面に取っ手、及びヒンジが設けられている。 (d)突出し部は、本体側面に取り付けられた正面視が縦長逆三角状をなす突出し部本体と、その上部に継ぎ足された短円筒状のパイプ部材からなる。 (e)突出し部本体は、縦長逆三角盤状で、その外側に当たる辺(以下「傾斜辺」とする。)が、取鍋本体の底部やや上位置から、約30度の斜め上向きに外方に突き出しており、この傾斜辺は、横断方向に略半円状の曲面をなしていると認められ、上端面が、取鍋本体の上端(フランジ位置)よりやや低い位置において、横水平面をなして塞がれている。 (f)パイプ部材は、突出し部本体に対してやや小径で、角度を、突出し部本体の傾斜辺と同じ角度で、斜め上向きに継ぎ足されたもので、上端が、大蓋の高さとほぼ同じ高さにおいて、傾斜方向に対して垂直状に横断されて、外周にフランジが形成されている。 (g)配管は、パイプ部材に対してやや小径で、全体が浅い逆略U字状をなして、全体が僅かな上向きに取り付けられたもので、具体的には、パイプ部材の上端にフランジを介して連結された後、パイプ部材と同じ角度で小蓋の上面とほぼ同じくらいの高さまで伸ばされ、この高さで水平方向に傾きを変えて、フランジが設けられて中間管に連結され、中間管は、水平方向に対して僅かな上向きで外方に伸ばされ、先端部分で再度フランジを介して曲管に連結され、曲管の先端が小蓋の上面とほぼ等しい高さで下向きに開口しているもので、配管の先端が、取鍋本体の側面から、取鍋本体の径と大略同程度、外方に突き出た位置にある。 2.公知意匠 本件登録意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するとして請求人が提出した公知意匠は、以下のとおりである。 (1)公知意匠1 公知意匠1は、甲第4号証として提出された、特許出願公告平4-6464号特許公報の第6図に掲載された「取鍋」の意匠であって、その形状は、当該公報の記載によれば、以下のとおりであることが認められる。(別紙第2参照) A.基本的な構成態様 有底円筒形状の取鍋本体と、取鍋本体を覆う円形の大蓋と、大蓋の中心に設けられた円形の小蓋と、取鍋本体の側面に設けられ、その外周から上方に向けて徐々に外側に突き出した形状の突出し部からなるものである。 (なお、公知意匠1である第6図は断面図であるが、当該公報の「発明の詳細な説明」の欄の「実施例」の項に、第1図に関して「2は開口部が密閉可能な円筒形の取鍋」との記載があり、この記載に照らせば、「取鍋の一例を示す縦断正面図」として、第1図と同じ符号を用いて説明された第6図も、取鍋本体が円筒形で、大蓋、及び小蓋も円形と解すのが自然である。) B.各部の具体的な態様 (a)取鍋本体は、高さと径がおおよそ等しく、上端にフランジを有し、下面に、断面ロ字状のチャネル材が2本、両端が取鍋本体からわずかにはみ出す程度の長さとして、やや間隔を空けて平行に配されたものである。 (b)大蓋は、径が取鍋本体と同径の円盤状で、下端にフランジが設けられて、閉蓋時に取鍋本体のフランジと重なり合うものである。 (c)小蓋は、径が大蓋径の2分の1弱で、厚みが大蓋とほぼ等厚の円盤状で、上面に取っ手が設けられたものである。 (d)突出し部は、概略円筒形と認められる筒体が、その外側辺を取鍋本体の側面のほぼ中間の高さ位置として、約30度の斜め上向きで外方に突き出す態様で取り付けられているもので、正面視がおおよそ縦長逆三角状を呈し、その外側辺が、横断方向に、略半円状の曲面をなしていると認められ、上端が大蓋の高さとほぼ等しい高さにおいて、傾斜方向に対して垂直に横断されている。 (2)公知意匠2 公知意匠2は、甲第5号証として2枚の写真により示された取鍋の意匠であり、請求人が公知意匠1の実施品であって、平成元年より公然実施されていたもの、とする意匠であり、その形状は、甲第5号証の2枚の写真に表されたとおりであり、公知意匠1に係る上記の形状がほぼ示されている。(別紙第3参照) (3)公知意匠3 公知意匠3は、甲第6号証として示された、平成5年11月9日発行の特開平5-293634号公開特許公報第1図に掲載された「溶湯運搬炉」の意匠であって、当該公報の第1図、及びこれに関連する記載によれば、以下の形状を認めることができる。(別紙第4参照) A.基本的な構成態様 上面が塞がれた有底四角筒状の運搬炉本体と、上面中央に設けられた円形の小蓋と、本体の一方の側面に、側面全体が底部付近から上方に向けて徐々に外側に突き出す態様で形成された突出し部と、この突出し部の上面に取り付けられ、先端部が下方に屈曲した配管を備えた構成態様である。 B.各部の具体的な態様 (a)突出し部は、運搬炉本体の一方の側面の全幅において、正面視が縦長逆三角形状なす態様で形成されたもので、外側に当たる辺(傾斜辺)が運搬炉本体のほぼ底部位置から、約30度の斜め上向きに外方に突き出たものであり、上端が運搬炉本体の上端よりやや低い位置において、傾斜に方向に対して垂直の斜め上向きに閉じられて、頂面が矩形の傾斜面を形成するもので、配管が、この傾斜面に取り付けられている。 (b)配管は、全体(運搬炉の内側部分は除く)が略逆U字状をなす態様で、取り付けられたもので、具体的には、突き出し部の傾斜と同じ角度で短く伸ばされ後、外方に90度折曲されてフランジが設けられて中間管に連結され、中間管は水平方向に対してやや下向きに短く伸び、再度フランジを介して曲管に連結され、曲管は下降部分がやや長く、先端が、運搬炉の側面から、運搬炉本体の横幅の1/2程度、外方に突出した位置において、運搬炉の高さの中間当たりで下向きに開口しているものである。 3.本件登録意匠の創作容易性についての検討 (1)本件登録意匠と公知意匠1の対比 まず、本件登録意匠を公知意匠1と対比するに、両意匠は意匠に係る物品が共通し、その基本的な構成態様(A.)に関して、有底円筒形状の取鍋本体と、取鍋本体を覆う円形の大蓋と、大蓋の中心に設けられた円形の小蓋と、取鍋本体の側面にその外周から上方に向けて徐々に外側に突き出した形状の突出し部分を備えた構成である点で共通する。またその具体的な態様(B.)においても、取鍋本体(a)について、高さと径がおおよそ等しく、上端にフランジを有し、下面に、断面ロ字状のチャネル材が2本、両端が取鍋本体からわずかにはみ出す程度の長さとして、やや間隔を空けて平行に配されたものである点、大蓋(b)に関して、径が取鍋本体と同径の円盤状で、下端にフランジが設けられて、閉蓋時に取鍋本体のフランジと重なるものである点、小蓋(c)に関して、径が大蓋径の2分の1弱で、厚みが大蓋とほぼ等厚の円盤状で、上面に取っ手が設けられている点、突出し部(d、e、及びf)に関して、本体の側面から突き出た部分(突出し部本体)が、正面視で略縦長逆三角状で、その外側に当たる傾斜辺が、約30度の斜め上向きに外方に突き出し、この傾斜辺(外側辺)は、横断方向に略半円状の曲面をなしていると認められ、上端(本件登録意匠においてはパイプ部材の上端)が大蓋の高さとほぼ同じ高さにおいて、傾斜方向に対して垂直状に横断されている点、が共通する。従ってこの共通する形状は、本件登録意匠の出願前の公然知られた形状である。 一方、両意匠は差異として、まず基本的構成態様(A.)に関する点として、(ア)本件登録意匠は、突出し部の上端に、先端部が下方に屈曲した配管が取り付けられた構成であるが、公知意匠1は配管が取り付けられていない構成である点、具体的な構成態様(B.)に関して、(イ)突出し部の取付け位置について、本件登録意匠は、その外側に当たる傾斜辺が、取鍋本体の底部やや上位置から突き出す態様であるが、公知意匠1は取鍋本体の高さのほぼ中間位置から突き出す態様である点、(ウ)突出し部の全体構成について、本件登録意匠は、正面視が縦長逆三角状をなす突出し部本体と、その上部に継ぎ足された短円筒状のパイプ部材からなる構成であるが、公知意匠1には、パイプ部材に相当するものがなく、全体がおおよそ縦長逆三角状に構成されている点、(エ)大蓋の上面、及び小蓋の下端について、本件登録意匠は輪状のフランジが設けられて、閉蓋時に重なり、小蓋の外周に輪状の段部が形成されるが、公知意匠1には該当するフランジが設けられておらず、段部が形成されていない点、が認められる。 (2)本件意匠と公知意匠1の差異についての検討 そこで上記の、(ア)ないし(エ)に係る本件登録意匠の態様を、公知意匠3の態様と照らし合わせて更に検討する。 まず(ア)の点について、本件登録意匠は、突出し部の上端に、先端部が下方に屈曲した配管が取り付けられた構成であるが、突出し部の上端に、先端が下方に屈曲した配管が取り付けられた構成は、公知意匠3に認められる。またその具体的な態様に関しても、突出し部から、突出し部と同じ傾斜角度で上向きに伸ばされた後、水平方向に傾きを変えて、フランジが設けられて中間管に連結され、中間管により外方に伸ばされ、先端部分で再度フランジを介して曲管に連結され、曲管の先端が下向きに開口した構成、即ち配管全体が逆略U字状を呈し、2箇所にフランジを有する構成も、この公知意匠3に認められる。 次に(イ)の突出し部の取付け位置について、本件登録意匠は傾斜辺が、取鍋本体のほぼ底部近くから突き出す態様としたものであるが、傾斜辺が取鍋本体(炉)の底部付近から突き出す構成もこの公知意匠3に認められる。なお、甲第9号証の容器も、配管が容器本体の底位置から突き出した構成である。 なお(ウ)の点に関して、本件登録意匠は、突出し部の全体が、正面視が縦長逆三角状の突出し部本体と、その上部に継ぎ足されたパイプ部材からなる構成であるが、そのうちの、突出し部本体の形状に関する限り、公知意匠1が掲載された特許出願公告平4-6464号公報の第1図に、「18」として、本件登録意匠とほぼ同様に、上端が横水平をなして、全体が縦長逆三角盤状をなす形状が示されている。 一方、(ア)の点に関して、配管の具体的な構成態様について、全体がパイプ部材に対してやや小径で、全体が僅かな上向きに取り付けられていること、突出し部に取り付けられた後の最初の角度変更が小蓋の上面とほぼ同じくらいの高さ位置でなされ、中間管により僅かな上向きで外方に伸ばされ、曲管が連結された先端が、小蓋の上面とほぼ等しい高さで下向きに開口し、その開口位置が、取鍋本体の側面から、取鍋本体の径と大略同程度、外方に突き出た位置にあること、については公知意匠3に認めることができない。 また(ウ)の突出し部の全体構成について、突出し部の全体(d)が、正面視が縦長逆三角状の突き出し部本体と、その上部に継ぎ足されたパイプ部材からなるものである構成、突出し部本体(e)について、上端面が、取鍋本体の上端よりやや低い位置において塞がれていること、パイプ部材(f)について、突出し部本体よりやや小径で、角度を突出し部本体の傾斜辺と同じ角度の斜め上向きとして継ぎ足され、上端外周にフランジが形成されていること、は公知意匠1ないし公知意匠3に認めることができない。 そして(エ)の小蓋の外周に輪状の段部が形成されている態様も、公知意匠1ないし公知意匠3に認めることができない。 (3)総合検討・判断 以上を総合して、本件登録意匠を創作の観点から更に検討する。 本件登録意匠は、取鍋の形態に係るものであるところ、その形態は、前記の本件登録意匠に係る「A.基本的な構成態様」、及び「B.具体的な構成態様」の(a)ないし(g)のとおりであり、これが一体となって、取鍋の意匠としての全体形態が形成され、形態上のまとまりが形成されている。 そして本件登録意匠は、前述のとおり、取鍋本体、および大蓋小蓋の大きな部分を占めるところが、公知意匠1に認められるところであり、また突出し部の取り付け位置を取鍋の底部付近とする構成、また配管を突出し部と一体的に取り付ける構成も、公知意匠3に認められるところである。なお、突出し部本体の形状についても、本件登録意匠と同様に、その上端が横水平をなすものが、公知意匠1が掲載された公報の別図面に認められるところである。 しかしながら、突出し部の構成について、全体を、突出し部本体と、その上部に継ぎ足された短円筒状のパイプ部材からなるものとした構成は、本件登録意匠の出願前に認めることができず、そしてこの構成は、本件登録意匠において看者の視覚をよく捉えるところを構成し、取鍋としての形態上のまとまりを形成するに不可欠の構成部分となっており、本件登録意匠においては、少なくとも、突出し部の構成を(d)とした点において、その形態創作が容易であったと判断することができない。そして本件登録意匠は、突出し部の具体的な態様を、取鍋本体、大蓋、小蓋、及び配管と関連付けて(e)及び(f)のとおりとしたものであり、この突出し部の全体に亘る具体的な形態創作についても、容易であったと判断することができない。 また配管の具体的な構成態様(g)については、確かに上記のとおり、突出し部の上端に、先端が下方に屈曲した配管を取り付けた構成が出願前に公然知られており、また配管の全体が逆略U字状を呈し、その2箇所にフランジを有する構成も公然知られていたことが認められる(公知意匠3)。また配管の先端の開口位置を容器本体に対してかなり高位置とし、容器本体からかなり外方に突き出た位置で開口している構成も、公然知られていたことが認められる(甲第9号証)。 しかしながら、意匠は、具体化され特定された物品の全体形状であり、本件登録意匠は、取鍋を構成する配管の具体的な態様として、全体がパイプ部材に対してやや小径で、全体が僅かな上向きを呈し、パイプ部材の上端にフランジを介して連結され、斜め上向きに伸ばされた後、小蓋の上面とほぼ同じくらいの高さで中間管に連結され、中間管により僅かな上向きで外方に伸ばされ、先端で再度フランジを介して曲管に連結され、その先端が、小蓋の上面とほぼ等しい高さで下向きに開口し、その開口位置が、取鍋本体の側面から、取鍋本体の径と大略同程度、外方に突き出た位置にあるものとして具体的に特定された意匠であり、これに対して公知意匠3、或いは甲第9号証意匠の配管との共通性は、未だ概念的な共通性の域を出ず、取鍋の配管を(g)の具体的な態様として特定した点において、形態上の創作がなかったと判断することができない。 そして本件登録意匠は、前述のとおり、突出し部の形態を(d)ないし(f)の態様とし、配管の具体的な態様を(g)として、その余の(a)ないし(c)の態様と組み合わせ、取鍋の形状として全体を一体的に表したものであり、これら各部の形状を創作、或いは選択し、相互を関連付けて、一体的に表した点において、その形状創作が容易であったと判断することができない。 請求人は、本件登録意匠の形状は、公知意匠1に、加圧式取鍋に変更するに伴なう必然的な変更がなされたまでの形状である、と主張するところである。 しかしながら、少なくとも、本件登録意匠の突出し部についての(d)の構成は、請求人の提出した証拠に認めることができず、また配管(g)の形態についても、公知意匠3、或いは甲第9号証意匠との間にそれぞれ概念的な共通性はみられるものの具体的な形状差が認められ、突出し部の構成態様、及び配管の構成態様にも多様なものが想定されるところであり、本件登録意匠の形状が、本件登録意匠の取鍋を加圧式に変更したことに伴う必然的、或いは不可避の形状変更の範囲のもの、と判断することはできない。 そして本件登録意匠は、前述のとおり、取鍋を加圧式にするに伴い、突出し部の位置を変更し、配管を取り付けると共に、突出し部の全体形状を創作し、また配管についても、その余の形状と関連付けられて(g)の形状のものとし、そしてこれらが一体化されて表されたものであり、請求人の提出した公知意匠1ないし公知意匠3にみられる公然知られた形状を単に組み合わせた程度、というべき範囲を大きく超えるものであり、その形状創作が容易であったと判断することができない。 従って本件登録意匠は、請求人の提出した公知意匠1ないし公知意匠3に基づいて、当業者が容易に創作できた意匠と判断することができない。 4.むすび 以上のとおりであって、請求人の主張、及び提出した証拠によっては、本件登録意匠について、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとして、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2008-02-13 |
結審通知日 | 2008-02-15 |
審決日 | 2008-03-05 |
出願番号 | 意願2001-3118(D2001-3118) |
審決分類 |
D
1
113・
121-
Y
(K7)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 前畑 さおり |
特許庁審判長 |
本田 憲一 |
特許庁審判官 |
山崎 裕造 市村 節子 |
登録日 | 2002-02-08 |
登録番号 | 意匠登録第1137667号(D1137667) |
代理人 | 竹田 稔 |
代理人 | 森脇 正志 |
代理人 | 松本 尚子 |
代理人 | 大森 純一 |
代理人 | 松本 司 |
代理人 | 川田 篤 |
代理人 | 三枝 英二 |
代理人 | 森 義明 |
代理人 | 折居 章 |
代理人 | 眞下 晋一 |
代理人 | 田上 洋平 |