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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010880015 審決 意匠

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審決分類 審判    K9
管理番号 1247919 
審判番号 無効2010-880014
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-06 
確定日 2011-11-24 
意匠に係る物品 プーリー 
事件の表示 上記当事者間の登録第1385697号「プーリー」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1385697号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申し立て及び請求の理由の要点
請求人は,結論同旨の審決を求める,と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として,甲第2号証ないし甲第20号証(このうち,甲第12号証ないし甲第20号証は,後述の平成23年1月24日付け口頭審理陳述要領書に添付。)を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠(意匠登録第1385697号の意匠)は,甲第2号証?甲第11号証に示すとおり,その出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その登録は,同法第48条第1項の規定により,無効とされるべきである。

2.本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「プーリー」とし,その形状は,概略,以下のとおりである(甲第1号証)。

A 全体を高さの低い円筒状とし,その上面中央を凹陥させて凹陥部を形成している。
B 凹陥部は,その外側寄りに傾斜が緩やかな傾斜面部を有し,それよりも中央寄りには略真下に向けて直筒状に延びる直筒状部を有する。
C 凹陥部の底面には開口孔が設けられている。
D 直筒状部内にはベアリングが設けられている。
(以下,上記A?Dの構成をそれぞれ「構成A」?「構成D」という。)

3.公知意匠
(3-1)甲第2号証意匠
甲第2号証の意匠は,平成17年6月13日発行の意匠登録第1242471号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
なお,甲第2号証の登録意匠自体は部分意匠についてのものであるが,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」のみならず,「その他の部分」についても具体的な形態を把握することができるものであるから,その全体の形態を引用意匠とすることに何ら妨げはない。
(3-2)甲第3号証意匠
甲第3号証の意匠は,平成17年6月13日発行の意匠登録第1242696号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
なお,甲第3号証の登録意匠自体は部分意匠についてのものであるが,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」のみならず,「その他の部分」についても具体的な形態を把握することができるものであるから,その全体の形態を引用意匠とすることに何ら妨げはない。
(3-3)甲第4号証意匠
甲第4号証の意匠は,平成18年8月21日発行の意匠登録第1279395号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
なお,甲第4号証の登録意匠自体は部分意匠についてのものであるが,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」のみならず,「その他の部分」についても具体的な形態を把握することができるものであるから,その全体の形態を引用意匠とすることに何ら妨げはない。
(3-4)甲第5号証意匠
甲第5号証の意匠は,平成19年1月29日発行の意匠登録第1292128号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
なお,甲第5号証の登録意匠自体は部分意匠についてのものであるが,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」のみならず,「その他の部分」についても具体的な形態を把握することができるものであるから,その全体の形態(特にベアリング自体の形態及び当該ベアリングがプーリー中央の直筒状部内に設けられること)を引用意匠とすることに何ら妨げはない。
(3-5)甲第6号証意匠
甲第6号証の意匠は,平成18年10月16日発行の意匠登録第1283896号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
甲第6号証には,ベアリングがプーリー中央の直筒状部内に設けられることが開示されている。
(3-6)甲第7号証意匠
甲第7号証の意匠は,昭和63年5月27日発行の意匠登録第733846号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
甲第7号証には,ベアリングがプーリー中央の直筒状部内に設けられることが開示されている。
(3-7)甲第8号証意匠
甲第8号証の意匠は,昭和63年6月8日発行の意匠登録第733846号の類似1の意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
甲第8号証には,ベアリングがプーリー中央の直筒状部内に設けられることが開示されている。
(3-8)甲第9号証意匠
甲第9号証の意匠は,平成2年4月19日発行の意匠登録第733846号の類似2の意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
甲第9号証には,ベアリングがプーリー中央の直筒状部内に設けられることが開示されている。
(3-9)甲第10号証意匠
甲第10号証の意匠は,平成18年12月18日発行の意匠登録第1288739号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。
甲第10号証には,ベアリングがプーリー中央の直筒状部内に設けられることが開示されている。
(3-10)甲第11号証意匠
甲第11号証の意匠は,平成18年12月18日発行の意匠登録第1289034号意匠公報に記載された意匠であって,その形態はその各図に示すとおりである。

4.本件登録意匠の創作容易
本件登録意匠と甲第2号証意匠?甲第4号証意匠とを対比すると,両者は,構成A?Cにおいて共通するものである。
他方,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,その中央の直筒状部内にベアリングを有しておらず,構成Dを具備しない点で,本件登録意匠と差異がある。
しかし,甲第5号証?甲第11号証に示すとおり,プーリーの属する分野において,プーリー中央の直筒状部内にベアリングを設けることは周知であり,ありふれた手法に過ぎない。
また,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠自体,その直筒状部内にベアリングを設けることが予定されているものであるから,これらの意匠に甲第5号証意匠?甲第11号証意匠を適用する動機付けは十分にあり,両者の適用に何ら困難性はない。
よって,本件登録意匠は,甲第2号証意匠?甲第11号証意匠に基づいて容易に創作をすることができたものである。

5.結語
以上のとおり,本件登録意匠は,甲第2号証意匠?甲第11号証意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。

(請求人が提出した証拠)
・甲第1号証 意匠登録第1385697号(本件意匠公報)
・甲第2号証 意匠登録第1242471号意匠公報
・甲第3号証 意匠登録第1242696号意匠公報
・甲第4号証 意匠登録第1279395号意匠公報
・甲第5号証 意匠登録第1292128号意匠公報
・甲第6号証 意匠登録第1283896号意匠公報
・甲第7号証 意匠登録第733846号意匠公報
・甲第8号証 意匠登録第733846号の類似1の意匠公報
・甲第9号証 意匠登録第733846号の類似2の意匠公報
・甲第10号証 意匠登録第1288739号意匠公報
・甲第11号証 意匠登録第1289034号意匠公報
(以上,審判請求書に添付。)
・甲第12号証 意匠登録第1279873号意匠公報
・甲第13号証 意匠登録第1280005号意匠公報
・甲第14号証 意匠登録第1255874号意匠公報
・甲第15号証 特開平7-275980号公報
・甲第16号証 特開平7-275984号公報
・甲第17号証 特開平5-76971号公報
・甲第18号証 特開平5-76972号公報
・甲第19号証 特公平2-20345号公報
・甲第20号証 特公平1-44420号公報
(以上,平成23年1月24日付け口頭審理陳述要領書に添付。)


第2 被請求人の答弁及び理由
被請求人は,「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由を要旨以下のように主張した。

1.意匠の創作性についてであるが,意匠の創作容易性の判断の基準として,複数の公然知られた意匠を当業者にとってありふれた手法により寄せ集めたにすぎない意匠は創作性がないとされている。
本件登録意匠にあっては,筒状本体部とベアリングを組み合わせた形状を構成態様とするものであるが,仮に,本件登録意匠が創作容易であるとするのであれば,先ず,筒状本体部とベアリングの形状が公然知られた形状であること,すなわち,筒状本体部とベアリングのそれぞれの全体形状がいずれも明確に開示され且つ知られているということを要する。
さて,請求人が提出した甲第5号証意匠?甲第11号証意匠は,いずれも中央の直筒状部内にベアリングを設けたプーリーの意匠であり,ベアリングの意匠ではない。そのため甲第5号証意匠?甲第11号証意匠のいずれも,ベアリングはその形状の一部だけが表れているだけであり,ベアリングの全体形状を認識できるものとはなっていない。
即ち,甲第5号証意匠?甲第11号証意匠は,請求人も認識されている通り,ベアリングがプーリー中央の直筒状部内に設けられていることが開示されているが,ベアリングの全体形状は開示されておらず,ベアリングの形状を認識することができるものとはなっていないのである。
このことから,甲第5号証意匠?甲第11号証意匠は,ベアリングの形状が公然知られた形状であることを立証する証拠とならないことは明らかである。
したがって,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたものではなく,請求人の主張は失当である。

2.請求人は,「甲第5号証意匠?甲第11号証意匠に示すとおり,プーリーの属する分野において,プーリー中央の直筒状部内にベアリングを設けることは周知であり,ありふれた手法に過ぎない。」と主張している。
この請求人の主張によれば,プーリー中央の直筒状部内にベアリングを設けたプーリーは全て創作性が無いことになり,登録されないということになってしまい,はなはだ乱暴な主張であるといわざるをえない。
プーリー中央の直筒状部内にベアリングを設けること自体は周知であっても,これのみをもって,プーリー中央の直筒状部内にベアリングを設けたプーリーは全てありふれた手法によるものであるから創作性がない,とする主張は到底受け入れられない。
また,請求人は,「甲第2号証意匠?甲第4号証意匠自体,その直筒状部内にベアリングを設けることが予定されているものであるから,これらの意匠に甲第5号証意匠?甲第11号証意匠を適用する動機付けは十分にあり,両者の適用に何ら困難性はない。」と主張しているが,そもそも甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,ベアリングの存在しない意匠として成立しているものであって,少なくとも,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠からは,その直筒状部内にベアリングを設けることが予定されているかどうかは全く不明である。また,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠から,その直筒状部内にベアリングを設けることが予定されている,といったことを想像させなければならないとしたら,その想像こそ無理があると言わざるを得ない。
したがって,仮に甲第5号証意匠?甲第11号証意匠から,ベアリングの形状が公然知られた形状となったものであったとしても,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠に甲第5号証意匠?甲第11号証意匠で開示されたベアリングを適用する動機付けにはならず,両者の適用は困難である。

3.結語
以上のとおり,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたものではなく,意匠法第3条第2項の規程により意匠登録を受けることができないものではない。


第3 口頭審理
当審は,本件審判について,2011年(平成23年)2月21日に口頭審理を行った。(平成23年2月21日付け「第1回口頭審理調書」)

1.平成23年1月24日付け口頭審理陳述要領書における請求人の主張概要
(1)甲第2号証意匠?甲第4号証意匠においてベアリングを設けることが予定されていることについて
(1-1)プーリーの分類
プーリーとは,一般にベルト伝動機構に用いられる滑車のことをいうが,大きく分けて,(I)「回転軸に一体に取り付けられて,回転軸とともに回転するもの」(以下,「タイプ(I)」という)と,(II)「固定軸等の固定部にベアリングを介して取り付けられ,プーリーのみが回転するもの」(以下,「タイプ(II)」という)の2種類がある。
タイプ(I)のプーリーの典型は,ベルト伝動機構の駆動軸(原動軸)や従動軸に取り付けられるプーリー(装着される回転軸の種類に応じて「駆動プーリー」又は「従動プーリー」という)であり,タイプ(II)のプーリーの典型は,アイドラプーリーやテンションプーリーである。
(1-2)アイドラプーリー及びテンションプーリー
アイドラプーリーとは,ベルトを的確に案内するためにベルト経路の適宜箇所に設けられるものであり,テンションプーリーとは,ベルトに適正な張力を付与するためにベルト経路の適宜箇所に設けられるものである。
アイドラプーリー及びテンションプーリーには,ベルトの内側に配置される「正面アイドラプーリー」及び「正面テンションプーリー」と,ベルトの外側に配置される「背面アイドラプーリー」及び「背面テンションプーリー」とがある。
なお,アイドラプーリーやテンションプーリーに限らず,ベルト内側に配置されるプーリーを一般に「正面プーリー」といい,ベルト外側に配置されるプーリーを「背面プーリー」という。
ベルト内面にV溝又はポリV溝を有するベルト伝動機構の場合,正面アイドラプーリーや正面テンションプーリー(正面プーリー)は,V溝又はポリV溝を有するベルト内面と接触するため,プーリー外周而もそれに対応してV溝又はポリV溝を有する。
これに対して,背面アイドラプーリーや背面テンションプーリー(背面プーリー)の場合は,平坦なベルト外面と接触するため,溝のない平坦な外周面を有している。
本件の場合でいえば,甲第5号証意匠が正面プーリー(正面アイドラプーリー又は正面テンションプーリー)であり,本件登録意匠及び甲第6号証意匠ないし甲第11号証意匠が背面プーリー(背面アイドラプーリー又は背面テンションプーリー)である。
また,甲第2号証意匠ないし甲第4号証意匠は,部分意匠に係るものであるが,その図面から直接的に把握される意匠,すなわち,破線を実線に置き換えて認識される意匠は,背面プーリーである。
(以下,「甲第2号証意匠」ないし「甲第4号証意匠」というときは,このような意味で使用する)。
(1-3)ベアリングが装着されるプーリーの流通形態
アイドラプーリーやテンションプーリー等のベアリングが装着されるプーリーの流通形態には,大きくいって2つの形態がある。
以下では,自動車部品に使用するプーリーの場合を例に説明する。
第1の流通形態は,プーリーメーカーにおいてプーリー本体部(ベアリング以外のプーリー部分)の製造だけでなくベアリングまで装着して自動車メーカー(自動車部品メーカーのこともある。以下同じ)に納入するというものである。
第2の流通形態は,プーリーメーカーではプーリー本体部のみを製造し,それを一旦ベアリングメーカーに納めて,ベアリングメーカーにおいてプーリー本体部にベアリングを装着した後,自動車メーカーに納入するというものである。
このため,ベアリングを装着されるプーリーであっても,ベアリングを装着しない態様で取引の対象とされることがある。
(1-4)タイプ(I)のプーリーの固定方法
回転軸に一体に取り付けられるタイプ(I)のプーリーの場合,回転軸に取り付ける方法としては,(a)プーリー本体部に「ボス部」を設けて,この「ボス部」に回転軸を圧入して固定する方法と,(b)回転軸の一端に拡径したフランジ部を設け,このフランジ部の端面(回転軸の軸心と垂直に設けられた平坦面)をプーリー本体部に設けた平坦面(同じく回転軸の軸心と垂直に設けられた平坦面)に当接させて両者をボルトで固定する方法の2種類がある。
これらの例として,甲第12号証?甲第14号証を挙げる。甲第12号証及び甲第13号証に示すプーリーが上記方法(a)に使用されるプーリーであり,甲第14号証に示すプーリーが上記方法(b)に使用されるプーリーである。
なお,甲第14号証のプーリー中央の開口孔の周囲に略等間隔に設けられた3つの小孔は,軸側のフランジ部を固定するためのボルトが神通されるボルト孔である。
(1-5)タイプ(II)のプーリーの固定方法
これに対し,タイプ(II)のプーリーの場合は,プーリー中央部にベアリングを装着するための凹入部が形成されている(甲第15号証?甲第20号証。甲第5号証?甲第11号証も参照。)。
この凹入部は,プーリーの外径と比較しても大径のカップ状筒部として構成されており,その底部の開口孔の周囲には,幅狭の内鍔状部を備えている。
この幅狭の内鍔状部は,甲第5号証?甲第11号証及び甲第15号証?甲第20号証に示すとおり,凹入部に挿入されたベアリングを受ける受部として機能するものである。特に,甲第15号証の【0003】には,「…このポリV溝付き素材300は,ベアリングでなる軸受との嵌め合いが可能なカップ状凹入部310と,ポリV溝321および耳部322とを備えたベルト掛け用の胴壁320とを備えている。そして,図12に示したように,カップ状凹入部310の底壁の中央部に孔穿けが行われ,その孔穿けにより形成された所定直径の開口312の周囲に所望幅の内鍔状の受部313が形成される。この受部313はカップ状凹入部310に嵌着した軸受を受ける部分に相当する。」旨記載されており,「内鍔状の受部313」が「カップ状凹入部310に嵌着した軸受を受ける部分」であることを明確に記載している。
また,この内鍔状部が幅狭であるのは,ベアリング(玉軸受)の外輪のみを受け,内輪には当接しない(内輪は中央の開口孔の上に位置する)ようにするためである(甲第5号証?甲第11号証,甲第15号証の図9,甲第19号証の第1図(h)及び第2図(h1),甲第20号証の第1図(i)及び第2図(i1))。これにより,ベアリング(玉軸受)の機能を阻害しないようにしている。
さらに,凹入部の軸心方向における位置関係についても,ベアリングを装着することを想定して,軸心方向の略真ん中にベアリングが位置するように構成されている(甲第5号証?甲第9号証)。
この点は,ベアリングが2つ装着される場合(例えば,甲第10号証・甲第11号証。)も同様であり,この場合は,2列のベアリングの軸心方向の中央がプーリーの軸心方向の中央に位置するように構成される。
なお,甲第10号証及び甲第11号証に示すとおり,ベアリングが2つ装着されるプーリーの場合は,凹入部の深さ(長さ)が略プーリーの高さに匹敵するほど深い(長い)のが特徴である。
したがって,この点で,プーリーにベアリングが1つ装着されるか,2つ装着されるかを見分けることができる。
(1-6)甲第2号証意匠?甲第4号証意匠にベアリングが設けられる理由
以上のようなプーリーの属する分野における通常の知識に照らせば,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠の中央の直筒状部内にベアリングが設けられることは自明のことである。
すなわち,回転軸に一体に取り付けられるタイプ(I)のプーリーの場合,回転軸を固定するための「ボス部」(甲第12号証及び甲第13号証参照)や,回転軸に設けられたフランジ部をボルト固定するための構造(フランジ部を当接させるための平坦面及びボルト孔)を有していなければならないが(甲第14号証参照),甲第2号証意匠?甲第4号証意匠がこのような構造を有していないことは明らかである。
むしろ,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,その中央部に大径の「直筒状部」を有しており,しかも,この「直筒状部」の底部には,幅狭の内鍔状部が形成されている(中央の「開口孔」の周囲の環状の部分)。
この「内鍔状部」が,甲第15号証の「内鍔状の受部24,13」に相当することは明らかであり,また,甲第15号証の【0003】及び【0019】に示すとおり,この「内鍔状部」がベアリングを受ける受部として機能することも明らかである。
さらに,「直筒状部」の軸心方向における位置関係及びその深さ(長さ)からみて,そこに装着されるベアリングが1つであることも明らかである。
このように,プーリーの属する分野における通常の知識に照らせば,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,その中央の直筒状部にベアリングが1つ設けられることが予定されているものであり,それ以外の方法は考えられないものである。

(2)答弁書に対する反論
被請求人は,「甲第5号証意匠?甲第11号証意匠は,いずれも中央の直筒状部内にベアリングを設けたプーリーの意匠であり,ベアリングの意匠ではない。そのため甲第5号証意匠?甲第11号証意匠のいずれも,ベアリングはその形状の一部だけが表れているだけであり,ベアリングの全体形状を認識できるものとはなっていない」と主張し,恰も本件登録意匠の創作容易性の判断のためには,ベアリング全体の形状が開示されていることを要するかのような主張をしている。
しかし,本件登録意匠自体,「ベアリングについての意匠」ではなく,ベアリングを中央の直筒状部内に設けた「プーリーについての意匠」であるから,引用例としては,本件登録意匠と対比可能な程度に表されていれば,創作容易性の判断の基礎資料となし得るものである。
しかも,本件登録意匠に使用されたベアリング自体はありふれた形状のものであり,それ自体に独自性ないし創作性はない。これは,甲第5号証意匠?甲第11号証意匠との対比からも十分に認識し得ることである。
そうすると,甲第5号証意匠?甲第11号証意匠は,引用例として何ら不足はなく,十分に適格性を有するものである。
したがって,被請求人の主張は失当である。

(3)結語
以上のとおり,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,その直筒状部内にベアリングを設けることが予定されているものであるから,これらの意匠に甲第5号証意匠?甲第11号証意匠を適用する動機付けは十分にあり,両者の適用に何ら困難性はないものである。
よって,本件登録意匠は,甲第2号証意匠?甲第11号証意匠に基づいて当業者が容易に創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。


2.平成23年2月7日付け口頭審理陳述要領書における被請求人の主張概要
(1)請求人は,口頭審理陳述要領書で,「本件登録意匠自体,『ベアリングについての意匠』ではなく,ベアリングを中央の直筒状部内に設けた『プーリーについての意匠』であるから,引用例としては,本件登録意匠と対比可能な程度に表されていれば,創作容易性の判断の基礎資料となし得るものである。」と主張している。
本件登録意匠がベアリングについての意匠ではなく,ベアリングを中央の直筒状部内に設けたプーリーについての意匠であることは指摘されるまでもないことである。被請求人の主張するところは,本件登録意匠が公然知られた筒状本体部とベアリングの形状をありふれた手法により寄せ集めたにすぎない意匠であるとするならば,ベアリングもその全体形状を認識できるものとはなっていなければならないということにある。
また,請求人は「プーリーについての意匠であるから,引用例としては,本件登録意匠と対比可能な程度に表されていれば,創作容易性の判断の基礎資料となし得るものである。」と主張しているが,「本件登録意匠と対比可能な程度」とはどの程度なのか不明であるが,全体形状が認識できないかぎり,公然知られた形状といえない。
(2)請求人は,口頭審理陳述要領書で,「被請求人自身,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,ベアリングの存在しない意匠として成立しているとは主張しているものの,ではそれが具体的にどのような方法で用いられるかについては何等明らかにしていない。」と主張し,挙げ句の果てに,「甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,ベアリングの存在しない意匠として成立していると主張することは,技術常識に反するだけでなく,誠実さも欠いているといわざるを得ない。」と主張している。
この主張は到底受け容れられない。意匠は,願書に添付された図面及び願書に記載された「意匠に係る物品の説明」,「意匠の説明」の記載によってその成立を認識する。従って,被請求人が甲第2号証意匠?甲第4号証意匠の記載の範囲でそれぞれの意匠の成立を認識することは至極当然のことである。
甲第2号証意匠?甲第4号証意匠について,「意匠に係る物品の説明」にこのことを記載していないということは,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠の出願人(請求人)も直筒状部内にベアリングを設けることは予定していなかったことにほかならない。
また,請求人は,「甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は,ベアリングの存在しない意匠として成立していると主張することは,技術常識に反するだけでなく,誠実さも欠いているといわざるを得ない。」と主張しているが,では甲第2号証意匠?甲第4号証意匠はベアリングが存在しなければ意匠として成立しないということなのか。そうであれば,甲第2号証意匠?甲第4号証意匠は意匠として成立していないこととなり,無効理由が存在することとなる。
(3)結語
以上のとおり,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたものではない。


第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1385697号の意匠)は,2009年(平成21年)7月8日に意匠登録出願され,2010年(平成22年)3月19日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「プーリー」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照)

すなわち,本件登録意匠の形態は,
基本的構成態様として,
(A)全体が,厚みがほぼ均一な薄い板材を成形し,扁平な略円筒形状をなし,中央に上面から形成された「凹陥部」の下部に「ベアリング」が陥入されたものであって,
具体的構成態様として,
(B)ベアリングを除いたプーリー本体部(以下,「本体部」という。)は,
(B-1)本体部の「側周面部」を略短円筒形状に形成し,
(B-2)側周面部と凹陥部を繋ぐ「上面部」を水平な細幅帯状の環状とし,その周縁を丸面状とし,
(B-3)凹陥部は,急傾斜な下窄まりの「略逆円錐台形筒状部」とベアリングを収納する「略短円筒形状部」を延設して形成したものであり,
(B-4)この略短円筒形状部の底面部は,ベアリングを係止するために中心方向の内側に折り曲げて,細幅な「円環状縁部」が形成され,その中央部は,陥入させたベアリングの直径よりやや小さめの「開口部」が形成されたものであり,
(C)凹陥部の最下面は,本体部の下端よりやや上方の高さに位置し,
(D)ベアリングは,略有孔円板状であるものである。

(なお,便宜のため,本件登録意匠の図面における正面,平面等の向きを,各甲号証の意匠の各図面にもあてはめることとする。)


2.無効理由と各甲号証の意匠
請求人は,本件登録意匠が,その出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合,すなわち,甲第2号証?甲第11号証の意匠,に基づいて容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その登録は,同法第48条第1甲の規定により無効とされるべきである旨主張した。

そこで,甲第2号証?甲第11号証の各意匠についてみると,以下のとおりである。

(1)甲第2号証?第4号証の意匠
(1-1)甲第2号証(意匠登録第1242471号)の意匠は,物品の部分について意匠登録を受け,本件登録意匠の出願前の2005年(平成17年)6月13日に発行された意匠公報によるものであり,意匠に係る物品は,「プーリー」であり,意匠登録を受けようとする部分以外の「その他の部分の形態」も十分に認識できるものであって,その実線で表した部分と破線で表した部分の全体についての形態は,同意匠公報の図版に掲載されたとおりのものである。(別紙第2参照)
(1-2)甲第3号証(意匠登録第1242696号)の意匠は,物品の部分について意匠登録を受け,本件登録意匠の出願前の2005年(平成17年)6月13日に発行された意匠公報によるものであり,意匠に係る物品は,「プーリー」であり,意匠登録を受けようとする部分以外の「その他の部分の形態」も十分に認識できるものであって,その実線で表した部分と破線で表した部分の全体についての形態は,同意匠公報の図版に掲載されたとおりのものである。(別紙第3参照)
(1-3)甲第4号証(意匠登録第1279395号)の意匠は,物品の部分について意匠登録を受け,本件登録意匠の出願前の2006年(平成18年)8月21日に発行された意匠公報によるものであり,意匠に係る物品は,「プーリー」であり,意匠登録を受けようとする部分以外の「その他の部分の形態」も十分に認識できるものであって,その実線で表した部分と破線で表した部分の全体についての形態は,同意匠公報の図版に掲載されたとおりのものである。(別紙第4参照)
(1-4)そして,甲第2号証?甲第4号証の意匠の形態は,いずれも
基本的構成態様として,
(a1)全体が,厚みがほぼ均一な薄い板材を成形し,扁平な略円筒形状をなし,中央に上面からベアリングを陥入するための凹陥部が形成されたものであって,
具体的構成態様として,
(b1)ベアリングのないプーリー本体部(以下,これも「本体部」という。)は,
(b1-1)本体部の側周面部を略短円筒形状に形成し,
(b1-2)側周面部と凹陥部を繋ぐ上面部を水平な細幅帯状の環状とし,その周縁を丸面状とし,
(b1-3)凹陥部は,やや傾斜の急な下窄まりの略逆円錐台形筒状部とベアリングを収納するための略短円筒形状部を延設して形成したものであり,
(b1-4)この略短円筒形状部の底面部は,ベアリングを係止するために中心方向の内側に折り曲げて,細幅な円環状縁部が形成され,その中央部は,開口部が形成されたものであり,
(c1)凹陥部の最下面は,本体部の下端よりやや上方の高さに位置しているものである。

(2)甲第5号証(意匠登録第1292128号)の意匠は,物品の部分について意匠登録を受けたもので,本件登録意匠の出願前の2007年(平成19年)1月29日にその意匠公報が発行されたものであり,意匠に係る物品は,「プーリー」であり,その実線で表した部分と破線で表した部分の全体についての形態は,同意匠公報の図版に掲載されたとおりのものである。(別紙第5参照)
すなわち,基本的構成態様として,
(a2)全体が,扁平な略円筒形状をなし,中央に上面から形成された凹陥部にベアリングが陥入されたものであって,
凹陥部とベアリングに関する具体的構成態様として,
(b2-1)凹陥部は,ベアリングを収納するための略短円筒形状部を延設して形成したものであり,
(b2-2)この略短円筒形状部の底面部は,ベアリングを係止するために中心方向の内側に折り曲げて,細幅な円環状縁部が形成され,その中央部は,開口部が形成されたようになっているものであり,
(c2)凹陥部の最下面は,本体部の下端よりやや上方の高さに位置し,
(d2)ベアリングは,略有孔円板状であるものである。

(3)甲第6号証(意匠登録第1283896号)の意匠は,本件登録意匠の出願前の2006年(平成18年)10月16日にその意匠公報が発行されたものであり,意匠に係る物品は,「プーリー」であり,その形態は,同意匠公報の図版に掲載されたとおりのものである。(別紙第6参照)
すなわち,基本的構成態様として,
(a3)全体が,厚みがほぼ均一な薄い板材を成形し,扁平な略円筒形状をなし,中央に上面から形成された凹陥部の下部にベアリングが陥入されたものであって,
具体的構成態様として,
(b3)本体部は,
(b3-1)本体部の「側周面部」を略短円筒形状に形成し,
(b3-2)側周面部と凹陥部を繋ぐ上面部を水平な細幅帯状の環状とし,その周縁を丸面状とし,
(b3-3)凹陥部は,やや傾斜の急な下窄まりの略逆円錐台形筒状部とベアリングを収納する略短円筒形状部を延設して形成したものであり,略逆円錐台形筒状部と略短円筒形状部の間には,幅の狭い「水平面部」と「丸面状部」が形成されており,
(b3-4)略短円筒形状部の底面部は,ベアリングを係止するために中心方向の内側に折り曲げて,細幅な円環状縁部が形成され,その中央部は,陥入させたベアリングの直径よりやや小さめの開口部が形成されたようになっているものであり,
(b3-5)凹陥部内面の前記略逆円錐台形筒状部と水平面部,丸面状部と略短円筒形状部との境界には,全体と同心円状の稜線があらわれているものであり,
(b3-6)前記内側の稜線の下側は細幅な段差部が形成されており,また,この段差部には,平面視略45°の角度で8等分割された部位にベアリングの「カシメ部」が8個形成されているものであって,
(c3)凹陥部の最下面は,本体部の下端よりやや上方の高さに位置し,
(d3)ベアリングは,略有孔円板状であるものである。

(4)甲第7号証(意匠登録第733846号)の意匠,甲第8号証(意匠登録第733846号の類似第1号)の意匠及び甲第9号証(意匠登録第733846号の類似第1号)の意匠は,その各意匠公報が,それぞれ本件登録意匠の出願前の,1988年(昭和63年)5月27日,1988年(昭和63年)6月8日及び1990年(平成2年)4月19日に発行されたものであり,意匠に係る物品は,「板金プーリ」,「動力伝導用プーリ」及び「板金プーリー」であり,その形態は,それぞれの意匠公報の図版に掲載されたとおりのものである。(別紙第7ないし別紙第9参照)
すなわち,基本的構成態様として,
(a4)全体が,厚みがほぼ均一な薄い板材を成形し,扁平な略円筒形状をなし,中央に底面側から形成された凹陥部にベアリングが陥入されたもの(この凹陥部の構成は,本件登録意匠や甲第2号証ないし甲第6号証の意匠とは,上下が逆である。)であって,
凹陥部とベアリングに関する具体的構成態様として,
(b4-1)凹陥部は,ベアリングを収納する略短円筒形状部に形成したものであり,
(b4-2)この略短円筒形状部の上面部は,ベアリングを係止するために中心方向の内側に折り曲げて,細幅な円環状縁部が形成され,その中央部は,開口部が形成されたようになっているものであり,
(c4)凹陥部の最上面は,本体部の上端よりやや下方に位置し,
(d4)ベアリングは,略有孔円板状であるものである。

(5)甲第10号証(意匠登録第1288739号)の意匠及び甲第11号証(意匠登録第1289034号)の意匠は,その意匠公報が,本件登録意匠の出願前の,2006年(平成18年)12月18日及び同じく2006年(平成18年)12月18日にそれぞれ発行されたものであり,意匠に係る物品は,「プーリー」及び同じく「プーリー」であり,その形態は,それぞれの意匠公報の図版に掲載されたとおりのものである。(別紙第10及び別紙第11参照)
すなわち,基本的構成態様として,
(a5)全体が,扁平な略円筒形状をなし,中央に形成された略円筒形状の凹陥部に,上面から2個のベアリングが陥入され,略円筒形状の側周面部の内壁と凹陥部の上面部が略円錐台径筒状部によって連結されているものであって,
凹陥部とベアリングに関する具体的構成態様として,甲第10号証の意匠と甲第11号証の意匠の,凹陥部の上面部の位置が,前者は側周面の上端より低く,後者はそれより上方にやや突出し,また,凹陥部の最下面の位置が,前者は側周面部の上端よりやや上方であり,後者は側周面部の下端より下方にやや突出しているという相違を除くと,
(b5-1)凹陥部は,ベアリングを収納する略円筒形状部に形成したものであり,
(b5-2)この略円筒形状部の底面部は,ベアリングを係止するために中心方向の内側に折り曲げて,細幅な円環状縁部が形成され,その中央部は,開口部が形成されたようになっているものであり,
(b5-3)凹陥部内面の上面部には,側面視水平で全体と同心円状の稜線があらわれているものであり,
(b5-4)前記内側の稜線の下側は細幅な段差部が形成されており,また,この段差部には,平面視略45°の角度で8等分割された部位にベアリングのカシメ部が8個形成されているものであって,
(c5)2個のベアリングは,いずれも略有孔円板状であるものである。


3.本件登録意匠の創作容易性について
本件登録意匠の意匠法第3条第2項の該当性,すなわち,本件登録意匠が公然知られた(周知も含む。)形態に基づいて,当業者であれば,容易に創作することができたものであったか否かを以下に検討し,判断する。

(1)まず,本願意匠の本体部の形態については,前項(2.)で述べたとおり,基本的構成態様(a1)及び具体的構成態様(b1)(枝番含む。)に示された甲第2号証ないし甲第4号の意匠の実線で表した部分と破線で表した部分の全体についての形態そのものであるという他なく,既に公然知られたものである。
そうであるとすれば,ベアリングを除くプーリーの本体部について,本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に公然知られた甲第2号証ないし甲第4号証の意匠に表されたものをそのまま表したにすぎないものであるということができる。

(2)次に,本件登録意匠は,凹陥部にベアリングが陥入されている点について,甲第2号証ないし甲第4号証の意匠は,意匠に係る物品はベアリングであるが,その図面にベアリングが記載されておらず,また,意匠の説明等にベアリングを装着するものである旨の記載はないものである点は,本件登録意匠は,背面アイドラプーリー又は背面テンションプーリーであり,甲第6号証の意匠及び甲第11号証の意匠も同様であり,更に,甲第2号証ないし甲第4号の意匠の実線で表した部分と破線で表した部分の全体から判断すれば,甲第2号証ないし甲第4号の意匠も,同様に背面アイドラプーリー又は背面テンションプーリーである(このことは,回転軸に一体に取り付けられるタイプのプーリーの場合,回転軸を固定するための「ボス部」(甲第12号証及び甲第13号証)や,回転軸に設けられたフランジ部をプーリーにボルトによって固定するための平坦面やボルト孔を有していなければならない(甲第14号証)にもかかわらず,甲第2号証ないし甲第4号証の意匠がこのような構造を有していないことからも裏付けられる。)ところ,アイドラプーリー又はテンションプーリーは,正面プーリー,背面プーリーのいずれであっても,その流通形態によって,ベアリングが装着されて取引される場合と取引された後納入先で適宜ベアリングを装着される場合があるにせよ,使用時にはベアリングが装着されるものであることは明らかであることから,前項(2.)の(1)の(a1)及び(b1-4)において認定したとおり,甲第2号証ないし甲第4号証の意匠は,その中央に凹陥部を有しており,その凹陥部の略短円筒形状部にベアリングが陥入されるものであるとするのが相当である。
また,陥入されるベアリングの具体的形状については,本件登録意匠の凹陥部に陥入されたベアリングと同様な略有孔円板状のものが陥入されることが予定されているものであることは,本件登録意匠及び甲第2号証ないし甲第4号証の意匠の凹陥部の略短円筒形状部の形状(高さ・径の構成比率を含む。)がほぼ同様であること,及び,甲第6号証の意匠もほぼ同様な形状の凹陥部の略短円筒形状部に本件登録意匠とほぼ同様なベアリングが陥入されていることなどから,自明といい得るものである。

(3)したがって,本件登録意匠の形態は,甲第2号証ないし甲第4号証の意匠に表されたプーリーの本体部の形状をほとんどそのまま使用して,その凹陥部にベアリングを陥入したにすぎないものといわざるを得ず,当業者であれば,容易に創作することができたものである。


第5 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,その意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内または外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し,その意匠登録は,同法同条同項の規定に違反してされたものであって,同法第48条第1項の規定により,その登録を無効とすべきものとする。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2011-06-29 
結審通知日 2011-07-01 
審決日 2011-10-06 
出願番号 意願2009-15498(D2009-15498) 
審決分類 D 1 113・ 121- Z (K9)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤澤 崇彦 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 杉山 太一
遠藤 行久
登録日 2010-03-19 
登録番号 意匠登録第1385697号(D1385697) 
代理人 鈴江 正二 
代理人 木村 俊之 
代理人 大塚 明博 

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