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審決分類 審判 判定   属さない(申立成立) B7
管理番号 1258139 
判定請求番号 判定2011-600026
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2012-07-27 
種別 判定 
判定請求日 2011-06-07 
確定日 2012-05-21 
意匠に係る物品 ヘアドライヤ本体 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第0900962号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠,ならびにその説明書に示す「ヘアドライヤの本体部」の意匠は,登録第0900962号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由

本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号意匠,ならびにその説明書に示す意匠は,登録第900962号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。」との趣旨の判定を求め,その理由を要旨以下のとおり主張し,添付書類として,添付資料1「本件登録意匠の意匠公報」(「別紙第1」参照。),添付資料2「本件登録意匠の説明書」(「別紙第2」参照。),添付資料3「イ号意匠の写真」(「別紙第3」参照。),添付資料4「イ号意匠の説明書」(「別紙第4」参照。),添付資料5「特開昭60-96204の特許公開公報」(「別紙第5」参照。),及び,添付資料6「意匠登録1237140の意匠公報を提出した。

1.判定請求の必要性
本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)は,本件判定請求に係る登録第900962号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の意匠権者であった。
請求人は,イ号意匠(添付資料3の「イ号意匠の写真」及び添付資料4の「イ号意匠の説明書」参照)のヘアドライヤを販売している。
被請求人は,請求人を被告として,「1,被告は,イ号意匠のヘヤードライヤを,販売し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸し渡しの申し出をしてはならない。」こと等を請求の趣旨とする訴状を大阪地方裁判所に提出した。
そこで,請求人は,本事件の審理における参考資料を得るために,高度な専門的技術的知識を有する特許庁による厳正中立的な立場からの判定を求めた次第である。

2.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
(1)両意匠の共通点
(A)本件登録意匠のシェード11は,第1シェード31と第2シェード33とが線対称の形状を有し,一体的に形成されている。同様に,イ号意匠の説明に記載したように,イ号意匠の第1シェード131と第2シェード133とが線対称の形状を有し,一体的に形成される。これらの形態において,両意匠は共通する。しかしながら,このような形態は,本件登録意匠の出願前において既に公知であり(添付資料5),本件登録意匠のみが備える特徴的な形態ではない。また,略長方形の網状の保護ネットを形成したシェードについても,既に公知であり(添付資料5),本件登録意匠のみが備える特徴的な形態ではない。
(B)両意匠は,支持部15,115の背面に操作パネル51,151が設けられている点で共通する。しかしながら,両意匠の物品の機能及び操作性を考えると,支持部15,115の背面に操作パネルを設けることが普通であり,支持部15,115の背面に操作パネル51,151が設けられているという点は特徴的な形態ではない。

(2)両意匠の差異点
(ア)シェードの態様
本件登録意匠の意匠公報の右側面図(添付資料2)に表出されるように,本件登録意匠のシェード11は,「ゴツゴツ」とした荒削りで男性的な印象を与える美感を表出している。
これに対し,イ号意匠の右側面図(添付資料4)に表出されるように,イ号意匠のシェード111は,シルエットの曲線が全体的に緩やかであるため,滑らかな女性的な印象を与える美感を表出している。
両意匠の正面視,平面視,底面視,右側面視において比較して分かるように,本件登録意匠のシェード11と,イ号意匠のシェード111とは全く異なる印象を看者に与えている(添付資料2,4参照)。
(イ)円柱部の態様
本件登録意匠の意匠公報の平面図及び右側面図(添付資料1,2)に表出されるように,本件登録意匠の円柱部13の上側は上方に突出しており,上側はやや丸みを帯びた曲面71を形成している。
また,当該やや丸みを帯びた曲面71は,本件登録意匠の最も高い位置にあり,本件登録意匠の意匠公報の正面図,背面図,平面図,右側面図に表出されるように,本件登録意匠の正面,背面,平面,右側面及び左側面の5方向から見え,看者の注意を特に惹く要部である。
これに対し,イ号意匠の右側面視に表出されるように,イ号意匠の円柱部113は,厚みが薄く,正面視,背面視,平面視,底面視からは見えず,イ号意匠の全体形態に与える影響は小さい。まだ,イ号意匠の円柱部113の端郎には丸みを帯びた曲面はない。
特に,右側面視において比較して分かるように,本件登録意匠の円柱部13と,イ号意匠の円柱部113とは全く異なる印象を看者に与えている(添付資料2,4,右側面図参照)。
(ウ)支持部の態様
本件登録意匠の意匠公報の平面図及び右側面図(添付資料2)に表出されるように,本件登録意匠の支持部15は,第1支持部15Aに対して第2支持部15Bが屈曲し,第2支持部15Bに対して第3支持部15Cが屈曲している。また,第2支持部15B及び第3支持部15Cの断面は略矩形である。さらには,第1支持部15Aには蛇腹部分が設けられている。そのため,本件登録意匠の支持部15は,外形が不連続に折れ曲がり,「ゴツゴツ」とした荒削りで男性的な印象を与える美感を表出している。また,全体的に下側にうつむいた印象を与える。
これに対し,イ号意匠の背面視,平面視及び右側面視に示されるように,イ号意匠の支持部115は,シルエットの曲線が連続的かつ緩やかであるため,滑らかな女性的な印象を与える美感を表出している。また,支持部の外形は「さじ」を立てたような形状をし,全体的に姿勢が真っ直ぐに延びた印象を与える(添付資料4,右側面図参照)。
背面視,平面視及び右側面視において比較して分かるように,本件登録意匠の支持部15と,イ号意匠の支持部115とは全く異なる印象を看者に与えている(添付資料2,4参照)。
特に,本件登録意匠及びイ号意匠の支持部15,115は,意匠全体において,視覚的に大きな部分を占めているとともに,操作者が操作を行う際に操作者の正面に位置し,看者の注意を特に惹くものであって,要部である。
(エ)取っ手部の態様
本件登録意匠の意匠公報の底面図(添付資料2)に表出されるように,本件登録意匠の取っ手部17は,矩形のリンク状である。
これに対し,イ号意匠の底面視に表出されるように,イ号意匠の取っ手部117は錨型である(添付資料4)。底面視及び背面視において比較して分かるように,本件登録意匠の取っ手部17と,イ号意匠の取っ手部117とは全く異なる印象を看者に与えている(添付資料2,4の背面図,右側面図参照)。
本件登録意匠及びイ号意匠の取っ手部17,117は,操作者が操作を行う際に目視されて手で触れられる部分であるため,看者の注意を特に惹くものであって,要部である。

(3)小括(本件登録意匠とイ号意匠とは非類似であること)
以上述べた差異点が,意匠全体の美感に影響を与えることは明白であり,取引者・需要者に対して,本件登録意匠とイ号意匠とは異なる美感を与えているから,イ号意匠は本件登録意匠に類似しない(非類似である)。

3.むすび
イ号意匠,ならびにその説明書に示す意匠は,登録第900962号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないので,請求の趣旨どおりの判定を求める。


第2 答弁の趣旨及び理由

被請求人は,「イ号意匠は,登録第900962号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」との趣旨の答弁をし,その理由を要旨以下のとおり主張し,添付書類として,「被請求人側資料1(円筒シェード固定タイプ(1),円筒シェード固定タイプ(2))」(「別紙第6」参照。),「被請求人側資料2(複数シェード点在固定タイプ(1),複数シェード点在固定タイプ(2))」(「別紙第7」参照。),「被請求人側資料3(環状シェード回転タイプ)」(「別紙第8」参照。),「被請求人側資料4(帯状シェード回転タイプ)」(「別紙第8」参照。),及び,「被請求人側資料5(弓形シェード可動タイプ)」(「別紙第8」参照。)を提出した。

1.意匠の類否判断に対する反論
(1)判定請求人は,本件登録意匠とイ号意匠との対比のみによりそれらの類否判断を行い,そして,それらが非類似であると主張する。
しかしながら,看者が意匠が類似すると感じるか否か,つまり,混同するか否かは,かかる両意匠の対比のみによる類否判断によって決定すべきものではなく,他の意匠との関係をも参酌して決定すべきである。このことは,例えば,日本国内では似ていないと判断される2人の日本人でも,欧米諸国に行けば東洋人の風貌に着目されて似ていると判断され,また,猿の集団に入れば人類としての形態に着目されてそっくりであると判断されることを考えれば明らかである。
そして,本件登録意匠及びイ号意匠に係る物品である業務用のヘアドライヤの市場における意匠全体を俯瞰すれば,それらが類似することは明白である。以下詳述する。
(2)美容室やヘアサロンに設置される業務用のヘアドライヤは,顧客の頭部毛髪にヒーターで加熱等することによってパーマ液を浸透させたり,毛髪にウェーブを付けたり,或いは,ストレートにしたりする処理を促進するために用いられる美容機器である。
かかる業務用のヘアドライヤは,昭和60年代以降,美容室やヘアサロンの店舗のファッション化及びカリスマ美容師のマスメディアヘの出現等に件い,店舗内で顧客の目に触れる美容機器として形態が進化及び変遷した。すなわち,従来の実用一点張りの形態から,顧客の頭部に圧迫感を与えず,頭髪処理中も顧客がゆったりと雑誌等を見ることができ,開放感,安心感が保たれる形態へと変化し,それに続いて,むらなく均一に頭髪の処理する及び美容師にとって作業性の向上をもたらすといった機能性に加え,ヘアドライヤ自体の動作も合わさった,おしゃれで話題性豊かな独特のファッション性に富む形態へと変化していった。そして,その過程において,美容機器製造販売業者は,各種形態のヘアドライヤを競って創造,開発,製造し,その中から優れた意匠のヘアドライヤは,美容室やヘアサロンの経営者及び美容師のみならず,顧客にも広く認識され,また,意匠の斬新さ等に好感を持たれ,美容雑誌等にも顧客がリラックスした状態で利用中の写真が掲載されるなどして,美容業界で新しく優れた意匠の美容機器として話題となるに至った。
(3)以上のような経緯から,現在,美容室やヘアサロンに設置されている業務用のヘアドライヤの意匠として,大別して,円筒シェード固定タイプ(被請求人側資料1),複数シェード点在固定タイプ(被請求人側資料2),環状シェード回転タイプ(被請求人側資料3),帯状シェード回転タイプ(被請求人側資料4),及び弓形シェード可動タイプ(被請求人側資料5)が少なくとも存在することとなった。
(i)円筒シェード固定タイプ(被請求人側資料1)は,実用性のみを考慮したいわゆるお釜型であり,ヘアドライヤの意匠としては最も古いものである。これは,顧客の頭部をすっぽりと覆うので,顧客に窮屈感々恐怖感を与えるという難点を有する。
(ii)複数シェード点在固定タイプ(被請求人側資料2)は,頭部上方,左右側面,及び後方の4つのヒーターが設置されたものである。これは,円筒シェード固定タイプが抱える難点を緩和克服するが,ファッション性や審美性においてなお課題を有する。
(iii)環状シェード回転タイプ(被請求人側資料3)は,リング状のヒーター部が顧客の頭部上方で回転揺動するものである。これは,従来の課題を解決すると共にファッション性や審美性にも優れる。また,これは,元来,タカラベルモント株式会社が開発して「ローラーボール」という名称で製造販売し,市場に最も多く受け入れられており,そして,このタカラベルモント株式会社の「ローラーボール」という名称はこのタイプの代名詞となっている。
(iv)帯状シェード回転タイプ(被請求人側資料4)は,本件登録意匠の対象となるものであり,帯状体の両端部が内側にへの字状に折れ曲がって形成されたシェードを備え,シェードの両端部の内側にヒーター部が設けられ,また,シェードが中心部を支点に回転可能に支持されたものである。これは,顧客の頭部を均一にムラなく加熱でき,かつ動作時の必要な空間が小さく,しかも,美容師の作業性を向上させることができることから機能性に優れ,さらに独創的な形態と動作でファッション性や審美性に富み,そのうえ作動終了時にシェードが縦位置で止まるため,収納の場所をとることがないという利点を有する。また,これは,元来,被請求人が開発して「ブーメラン」という名称で製造販売し,上記の利点故,独特で斬新な形態の美容機器として美容室やヘアサロンの経営者及び美容師,並びに顧客に評判となった被請求人のヒット商品の1つであり,「ローラーボール」程のシェアは有さないものの,被請求人の「ブーメラン」という名称もこのタイプの代名詞となっている。
(v)弓形シェード可動タイプ(被請求人側資料5)は,細い弓状の2本のヒーター部が顧客の頭部の上方で左右に開平するものである。これは,被請求人が顧客の頭部への圧迫感をより低減する構成として開発して「わくわく21」という名称で製造販売したものである。
(4)上記のような業務用のヘアドライヤの市場における意匠全体を勘案すれば,本件登録意匠における帯状体の両端部が内側にへの字状に折れ曲がって形成されたシェードを備え,シェードの両端部の内側にヒーター部が設けられ,また,シェードが中心部を支点に回転可能に支持された基本的構成態様が業務用のヘアドライヤの意匠のごくありふれた態様であると言うことはできない。それ故,本件登録意匠とイ号意匠とを対比した場合,看者は,全体観察において,その基本的構成態様が共通する点を要部として最も大きなウェイトをもって判断し,一方,具体的構成態様の個々の相違点を些末な微差としか判断しないはずである。そして,イ号意匠を目にした取引者・需用者が,それらの基本的構成態様の共通性から,それを被請求人の「ブーメラン」と混同するおそれがあることが容易に予想される。
(5)従って,イ号意匠が本件登録意匠に類似しないとの判定請求人の主張は全く理由を有さない。

2.その他の反論事項
判定請求人は,本件登録意匠のシェードの形態が判定請求書の添付資料5に開示され,それが公知の意匠であったと主張する。
しかしながら,添付資料5に開示されているのは,上記の複数シェード点在固定タイプに相当するものであり,シェードが固定されて不動であり,本件登録意匠のシェードのように回転する構成ではない。また,添付資料5の複数シェード点在固定タイプは,左右にもヒーターが設けられており,左右のヒーターを有さない本件登録意匠と対比した場合,左右ヒーターの有無の影響により意匠全体の印象が全く異なる。判定請求人のこの主張は明らかに誤りである。

3.むすび
よって,イ号意匠が本件登録意匠に非類似であるとの判定請求人の主張には全く理由が無いことから,被請求人としては,答弁の趣旨の通りの判定を求める次第である。


第3 当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠,すなわち,登録第900962号「ヘアドライヤ本体」の意匠は,1991年(平成3年)12月11日に意匠登録出願され,1994年(平成6年)3月25日に意匠権の設定の登録がなされたものであって,意匠に係る物品は,「ヘアドライヤ本体」であり,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(「別紙第1」参照。)

すなわち,本件登録意匠は,美容室用のヘアドライヤの「ヘアドライヤ本体」に係るものであり,願書の説明に「本物品は,制御部を操作して通電すると,使用状態を示す参考図1に示すように,本体がA線を中心に図示矢印の如く回動すると共に,ヒーター部は,本体のB線を中心に図示矢印の如く回動する。上記制御部は,その他,オゾンの送風,熱風の噴出等を制御する。」と記載されているように,キャスター付きで高さの調節可能なスタンド等に取り付けて使用し,美容椅子に腰掛けた客の頭部に近接させて,温風により髪を乾燥させる等に使用するものである。
その形態は,
(A)基本的構成態様として,
(A-1)全体は,「シェード部」,及び,「支持部」(以下に示すように支持部は,頭部と本体からなる。)からなり,シェード部と支持部は,シェード部の背面中央で支持部の頭部下端と接続されており,
(A-2)シェード部は,温風を出す「ヒーター部」を2つ有し,平面視略矩形状の薄板状体を,側面視略倒「亀甲(きっこう)括弧」状に折り曲げた態様であり,
(A-3)支持部は,太い略円柱状で,頂面がなだらかな略凸湾曲面状の頭部(以下,「円柱状頭部」という。),及び,側面視略倒「へ」字状で略厚板状の「支持部本体」からなり,シェード部と支持部の接続は,円柱状頭部の下端部でなされ,円柱状頭部の軸は,シェード部と直交する態様であり,支持部において支持部本体と円柱状頭部の接続は,支持部本体の上端が円柱状頭部の胴体部分の背面側の略中央に直交する態様でなされているものであり,
(A-4)支持部本体は,背面側略中央に略縦長矩形状の「操作部」を設け,底面にヘアドライヤ本体をスタンドに取り付けるため「取り付け部」を形成したものであり,
(B)具体的構成態様として,
(B-1)シェード部は,
(B-1-1)円柱状頭部の軸と直交し,円柱状頭部の軸を中心に回動可能であり,該部を中心として側面視左右対称形をなし,シェード部の内面中央部は,中心に円形状の「オゾン送風口部」が形成された略矩形状の平坦面であり,その左右に,「第1シェード部」(図面上,右側面図において左側に位置する部分)と「第2シェード部」(図面上,右側面図において右側に位置する部分)がそれぞれ形成されているものであって,第1シェード部と第2シェード部は,上記回動可能な軸に対して,それぞれ約45°の角度に傾斜した態様であり,
(B-1-2)第1及び第2シェード部の各平面視形状は,それぞれ略矩形状であり,第1及び第2シェード部の各内面側には,縦長矩形状の「網状格子部」(格子は,縦6本,横3本で構成されている。)が取り付けられたヒーター部がそれぞれ形成され,
(B-1-3)第1及び第2シェード部の各背面側には,円柱状頭部の軸を中心に対称状の側面視略くさび型状をなす2つの「膨出部」が,正面視の横幅をシェード部の横幅よりやや狭くして,それぞれ形成されており,該膨出部中程には略正方形状で膨出部の幅とほぼ一致する横幅の略正方形状の「横桟状孔部」がそれぞれ形成されており,
(B-2)支持部本体と円柱状頭部の胴体部分の接合部分は,支持部本体の短い屈曲部分の軸を中心に回動可能であり,
(B-3)円柱状頭部は,その胴体部分の全高の下から約3分の1の高さに2条の円環状模様が施されており,その軸は,スタンドの載置面に対して,図面上約70°の傾斜角であり,
(B-4)支持部本体の,円柱状頭部との接合側の大きく屈曲した,短い部分には,底面側に「膨出部」が形成され,該部の中央部分に「蛇腹状部」が形成されており,支持部本体の,屈曲部から下の長い部分の背面側には操作部が形成され,該部の上端と下端に大きな略隅丸横長矩形状のスイッチが2個ずつ,それらの間には小さいスイッチが約18個配置されており,操作部の下側には横長矩形状の「横桟状孔部」が形成され,取付部は,底面視横長矩形状の台座部の中心に略短円柱状の軸部を形成したもので,その軸部には,底面視略横長隅丸矩形状の「リング状部」が貫通する態様で形成されているものである。

2.イ号意匠
イ号意匠(「イ号意匠の写真,ならびにその説明書に示す意匠」)は,ヘアドライヤの本体部に係るものであって,その形態は,判定請求書に添付された「添付資料3」の「イ号意匠の写真」(【イ号意匠の正面図】,【イ号意匠の背面図】,【イ号意匠の平面図】,【イ号意匠の底面図】,及び,【イ号意匠の右側面図】),及び同「添付資料4」の「イ号意匠の説明書」(【イ号意匠の正面図】,【イ号意匠の背面図】,【イ号意匠の平面図】,【イ号意匠の底面図】,【イ号意匠の右面図(右側面図の誤記と認められる。)】,【イ号意匠の操作パネル付近の拡大図】,【イ号意匠の取っ手部付近の拡大図】)に示されたとおりのものである。(「別紙第3」(請求人提出の「添付資料3」)及び「別紙第4」(請求人提出の「添付資料4」)参照。)

すなわち,イ号意匠は,美容室用のヘアドライヤのドライヤ本体部に係るものであり,美容椅子に腰掛けたヘアサロンの客の髪を乾燥させたり温風でパーマ液の浸透を促進したりするためのもので,通常は,下方に高さを調節できる細長い棒状の軸部とそれを支えるキャスター付き脚部が接続されるものである。
その形態は,
(a)基本的構成態様として,
(a-1)全体は,「シェード部」,及び,「支持部」からなり,シェード部と支持部は,シェード部の背面中央で,短い円柱状の接続部(以下,「円柱状接続部」という。)を介して接続されているものであり,
(a-2)シェード部は,温風を出す「ヒーター部」を2つ有し,略薄板状体を側面視略倒「亀甲(きっこう)括弧」状に折り曲げた態様をなし,
(a-3)支持部は,頭部が大きい略半球状で下窄まり状の,倒立した略「ひしゃく形状」をなし,背面側略中央に略縦長矩形状の「操作部」を設け,底面にヘアドライヤ本体をスタンドに取り付けるため「取り付け部」を形成したものであり,
(b)具体的構成態様として,
(b-1)シェード部は,
(b-1-1)円柱状接続部の軸と直交し,円柱状接続部の軸を中心に回動可能であり,該部を中心として側面視左右対称形をなし,シェード部の内面中央部は,中心に円形状の網状部を前面に有する円形状の「オゾン送風口部」が形成された略矩形状の平坦面であり,その左右に,「第1シェード部」と「第2シェード部」がそれぞれ形成されているものであって,第1シェード部と第2シェード部は,上記回動可能な軸に対して,それぞれ約45°の角度に傾斜した態様であり,
(b-1-2)第1及び第2シェード部の各平面視形状は,側面側が略円弧状に膨出した略「卵形」状であり,第1及び第2シェード部の各内面側には,縦長矩形状の「網状格子部」(格子は,外枠を除き,縦4本,横約27本で構成されている。)が取り付けられたヒーター部がそれぞれ形成され,
(b-1-3)シェード部は,平面視外周部に縁部を設けるとともに,背面側が全体に肉厚状に膨出し,第1及び第2シェード部の各背面側には,略台形状の「横桟状孔部」がそれぞれ形成されており,
(b-2)円柱状接続部は,短い単なる円筒形状であり,その軸は,スタンドの載置面に対して,約45°の傾斜角であり,
(b-3)支持部は,略半球状の頭部に細幅な畝状の凸部が形成されており,操作部は,3列3段に配列された小円形状のスイッチが主として形成され,操作部の下側には横長矩形状の「横桟状孔部」が形成され,取付部は,略短円柱状の軸部を形成したもので,その軸部には,底面視略「T」字状の金具部が貫通する態様で形成されているものである。


3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
両意匠を対比すると,まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「ヘアドライヤ本体」であり,イ号意匠は,ヘアドライヤの本体部に係るものであって,両意匠は,いずれもキャスター付きで高さの調節可能なスタンド等に取り付けて使用し,美容室において,美容椅子に腰掛けた客の頭部に近接させて,温風により髪を乾燥させる等に使用するものであるから用途及び機能がほぼ同一であって,意匠に係る物品が一致する。

(1)形態における主たる共通点
基本的構成態様に関して,
(i)全体は,シェード部及び支持部からなり,シェード部と支持部は,シェード部の背面中央で支持部と接続されている点,
(ii)シェード部は,温風を出すヒーター部を2つ有し,略薄板状体を側面視略倒「亀甲(きっこう)括弧」状に折り曲げた態様である点,
(iii)支持部(本体)は,背面側略中央に略縦長矩形状の操作部を設け,底面にヘアドライヤ本体をスタンドに取り付けるため取り付け部を形成したものである点,

具体的構成態様に関して,
(iv)シェード部は,支持部との接続部分において回動可能であり,側面視左右対称形をなし,シェード部の内面中央部は,中心にオゾン送風口部が形成された略矩形状の平坦面であり,その左右に,第1シェード部と第2シェード部がそれぞれ形成されているものであって,第1シェード部と第2シェード部は,上記回動可能な軸に対して,それぞれ約45°の角度に傾斜した態様である点,
(v)第1及び第2シェード部の各内面側には,縦長矩形状の網状格子部が取り付けられたヒーター部がそれぞれ形成され,第1及び第2シェード部の各背面側には,横桟状孔部がそれぞれ形成されている点,
(vi)操作部の下側には横長矩形状の横桟状孔部が形成されている点。

(2)形態における主たる相違点
基本的構成態様に関して,
(ア)本件登録意匠は,支持部が,太い略円柱状で,頂面がなだらかな略凸湾曲面状の円柱状頭部,及び,側面視略倒「へ」字状で略厚板状の支持部本体からなり,シェード部と支持部は,円柱状頭部の下端部で接続されているのに対して,イ号意匠は,支持部が,頭部が大きい略半球状で下窄まり状の,倒立した略「ひしゃく形状」をなしており,シェード部と支持部は,シェード部の背面中央で,短い単なる円筒形状である円柱状接続部を介して接続されているものである点,

具体的構成態様に関して,
(イ)シェード部について,本件登録意匠は,第1及び第2シェード部の各平面視形状は,それぞれ略矩形状であるのに対して,イ号意匠は,第1及び第2シェード部の各平面視形状は,側面側が略円弧状に膨出した略「卵形」状である点,
(ウ)同じく,シェード部について,本件登録意匠は,第1及び第2シェード部の各背面側には,円柱状頭部の軸を中心に対称状の側面視略くさび型状をなす2つの膨出部が,正面視の横幅をシェード部の横幅よりやや狭くして,それぞれ形成されており,該膨出部中程に形成された横桟状孔部が該膨出部の幅とほぼ一致する横幅で,かつ,その形状が略正方形状であるのに対して,イ号意匠は,シェード部の平面視外周部に縁部を設けるとともに,背面側が全体に肉厚状に膨出しており,第1及び第2シェード部の各背面側に形成された横桟状孔部の形状が,略台形状である点,
(エ)本件登録意匠は,シェード部が回動するとともに,支持部においても,支持部本体と円柱状頭部の胴体部分の接合部分が,支持部本体の短い屈曲部分の軸を中心に回動可能であるのに対して,イ号意匠は,支持部に回動する部位はない点,
(オ)本件登録意匠は,支持部本体の,円柱状頭部との接合側の大きく屈曲した,短い部分には,底面側に膨出部が形成され,該部の中央部分に蛇腹状部が形成されているのに対して,イ号意匠は,蛇腹状部はなく,支持部の略半球状の頭部に細幅な畝状の凸部が形成されているものである点,
(カ)シェード部の回動する軸の態様について,本件登録意匠は,その軸の傾斜角は,スタンドの載置面に対して,図面上約70°であるのに対して,イ号意匠は,その軸の傾斜角は,スタンドの載置面に対して,約45°である点,
(キ)背面側の操作部について,本件登録意匠は,該部の上端と下端に大きな略隅丸横長矩形状のスイッチが2個ずつ,それらの間には小さいスイッチが約18個配置されたものであるのに対して,イ号意匠は,3列3段に配列された小円形状のスイッチが主として形成されているものである点,
(ク)支持部の底面の取付部について,本件登録意匠は,底面視横長矩形状の台座部の中心に略短円柱状の軸部を形成したもので,その軸部には,底面視略横長隅丸矩形状のリング状部が貫通する態様で形成されているものであるのに対して,イ号意匠は,略短円柱状の軸部を形成したもので,その軸部には,底面視略「T」字状の金具部が貫通する態様で形成されているものである点,
(ケ)オゾン送風口部の態様について,イ号意匠は,その前面に円形状の網状部を有しているのに対して,本件登録意匠は,それがない点,
(コ)第1及び第2シェード部の網状格子部の態様について,本件登録意匠は,格子が,縦6本,横3本で構成されているのに対して,イ号意匠は,格子が,外枠を除き,縦4本,横約27本で構成されている点,
(サ)イ号意匠は,色彩,明暗を表す濃淡等があるのに対して,本件登録意匠は,それらがない点。


4.両意匠の類否判断
以上の一致点,共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討する。

(1)共通点の評価
形態における共通点のうち,基本的構成態様に関する共通点(i)「全体は,シェード部及び支持部からなり,シェード部と支持部は,シェード部の背面中央で支持部と接続されている点」及び共通点(ii)「シェード部は,温風を出すヒーター部を2つ有し,略薄板状体を側面視略倒「亀甲(きっこう)括弧」状に折り曲げた態様である点」,並びに,具体的構成態様に関する共通点(iv)「シェード部は,支持部との接続部分において回動可能であり,側面視左右対称形をなし,シェード部の内面中央部は,中心にオゾン送風口部が形成された略矩形状の平坦面であり,その左右に,第1シェード部と第2シェード部がそれぞれ形成されているものであって,第1シェード部と第2シェード部は,上記回動可能な軸に対して,それぞれ約45°の角度に傾斜した態様である点」及び共通点(v)「第1及び第2シェード部の各内面側には,縦長矩形状の網状格子部が取り付けられたヒーター部がそれぞれ形成され,第1及び第2シェード部の各背面側には,横桟状孔部がそれぞれ形成されている点」は,本件登録意匠の出願前には,見られない態様であり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きいといえるが,このヘヤドライヤ本体という物品全体から見れば,構成態様の一部に係る共通性に過ぎず,この種物品の使用の態様,使い勝手等を考慮すれば,物品全体の形態が使用する者,見る者の目に付きやすいというべきであるから,上記の部分的な共通性のみで両意匠の類否判断を決定付けるということはできない。
また,「ヒーター部を2つ有し,回動可能で,側面視略倒「亀甲(きっこう)括弧」状のシェード部を有する基本的構成」そのものが,請求人提出の「【添付資料5】」などにあるとおり,本件登録意匠のみの独創的なものとはいえず,他の具体的構成態様を含めた上で,本件登録意匠のシェード部の着想の新しさを判断すべきであると考えられるところ,この基本的構成態様に関する共通点(i)は,相違点(ア)の支持部の構成が,本件登録意匠は,円柱状頭部と支持部本体からなるのに対して,イ号意匠は,円柱状接続部を介するが支持部が一体的であることを前提とした上での共通性であるから,この共通性は基本的構成態様を概括的に捉えたに過ぎないものであるし,さらに,具体的構成態様に関する共通点(iv)についても,相違点(イ)の第1及び第2シェード部の各平面視形状が,本件登録意匠は,それぞれ略矩形状であるのに対して,イ号意匠は,側面側が略円弧状に膨出した略「卵形」状であること,及び,相違点(ウ)の第1及び第2シェード部の各背面側が,本件登録意匠は,円柱状頭部の軸を中心に対称状の側面視略くさび型状をなす2つの膨出部が,正面視の横幅をシェード部の横幅よりやや狭くして,それぞれ形成されている等であるのに対して,イ号意匠は,シェード部の平面視外周部に縁部を設けるとともに,背面側が全体に肉厚状に膨出している等であるという違いがあることを前提とした上での共通性であるから,この点も,係る具体的構成態様を概括的に捉えたに過ぎないのであって,上記共通点(i)ないし(iv)全体が相まって生じる視覚的効果を考慮しても,やはり,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度あるといえるにとどまる。

(2)相違点の評価
他方,形態に係る相違点のうち,基本的構成態様に関する相違点(ア)「本件登録意匠は,支持部が,太い略円柱状で,頂面がなだらかな略凸湾曲面状の円柱状頭部,及び,側面視略倒「へ」字状で略厚板状の支持部本体からなり,シェード部と支持部は,円柱状頭部の下端部で接続されているのに対して,イ号意匠は,支持部が,頭部が大きい略半球状で下窄まり状の,倒立した略「ひしゃく形状」をなしており,シェード部と支持部は,シェード部の背面中央で,短い単なる円筒形状である円柱状接続部を介して接続されているものである点」,及び,具体的構成態様に関する相違点(オ)「本件登録意匠は,支持部本体の,円柱状頭部との接合側の大きく屈曲した,短い部分には,底面側に膨出部が形成され,該部の中央部分に蛇腹状部が形成されているのに対して,イ号意匠は,蛇腹状部はなく,支持部の略半球状の頭部に細幅な畝状の凸部が形成されているものである点」は,非常に目に付きやすい部位に係るものであって,かつ,これらの構成態様は,両意匠のそれぞれにおいて,形態全体の骨格をなすものであるとともに,先行意匠に照らすところ,両意匠においてそれぞれに特徴的なものであるから,これらの相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きく前記の相違点は,両意匠の類否判断を決定付けているという他ない。加うるに,相違点(サ)の色彩,濃淡等の有無の違いは,意匠の実施を念頭におけば,両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどないし,相違点(キ),同(ク),同(ケ)及び同(コ)が微差であるとしても,相違点(イ),同(ウ),同(エ)及び同(カ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はそれぞれ一定程度あるのであるから,相違点全体,すなわち,相違点(ア)ないし(サ)が相まって生じる視覚的効果を考慮すると,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕して,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきである。

(3)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品は,一致するが,形態においては,共通点が未だ両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して,相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕しており,意匠全体として見た場合,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕し,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきであるから,本件登録意匠は,イ号意匠に類似するということはできない。


5.むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。

別掲
判定日 2012-05-10 
出願番号 意願平3-37493 
審決分類 D 1 2・ - ZA (B7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早川 治子 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 遠藤 行久
斉藤 孝恵
登録日 1994-03-25 
登録番号 意匠登録第900962号(D900962) 
代理人 後藤 秀継 
代理人 玉置 健 
代理人 前田 弘 
代理人 松下 昌弘 
代理人 竹内 祐二 

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