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審決分類 審判    H1
審判    H1
管理番号 1259681 
審判番号 無効2011-880011
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-07-26 
確定日 2012-07-02 
意匠に係る物品 プッシュスイッチ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1410789号「プッシュスイッチ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立て及び理由
請求人は、「登録第1410789号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申立て、その理由を要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
(1)第1に、意匠登録第1410789号の意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、その出願前に頒布された刊行物に記載された公知の意匠登録第1395358号の意匠(以下、「第1引用意匠」といい、甲第2号証に示す)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由1」とする。)

(2)第2に、本件登録意匠は、その出願前公知の第1引用意匠及び他の引用意匠(以下、「第2?第9引用意匠」といい、甲第3号証?第10号証に示す)に基づいて、当業者が容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項に該当する創作力のない意匠として意匠登録を受けることができないものであるから、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由2」とする。)

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)無効理由1(意匠法第3条第1項第3号の規定違反)
本件登録意匠と第1引用意匠との対比を行うと、意匠に係る物品は、両意匠ともに「押しボタン型スイッチ」に関するものであり、同一である。
その形態を比較すると、両者は、(A)座体上に方形のハウジングが被嵌するように設けられている点、(B)ハウジングの側面が下から上に斜面の徐々に窄まる形態である点、(C)ハウジングの各狭角はすべて丸みのある角のデザインである点、(D)座体の底部に複数の接続ピンと複数の位置決めピンが延伸して設けられている点、(E)座体の4隅に棒状体が配置されている点が共通している(以下、共通点A?Eとする)。
一方、(a)第1引用意匠ではハウジングは透明であるのに対して、本件登録意匠ではハウジングは透明であるとは示されていない点、(b)第1引用意匠ではハウジングの左右側面下部に上辺両端を円弧状に面取りした切欠が形成されているのに対して、本件登録意匠ではハウジングにかかる切欠がない点、(c)第1引用意匠ではハウジングの側面上部がさらに斜状に窄まる形態であるのに対して、本件登録意匠ではハウジングは側面上部をさらに斜状に窄めていない点、(d)ハウジングの各狭角の丸みについては、第1引用意匠よりも本件登録意匠の方が丸みが大きい点が相違している(以下、相違点a?dという)。
両意匠の類否を判断すると、まず両者は物品ならびに基本的構成態様が共通している。さらに意匠全体のうち、需要者の注意を引きやすいハウジングに関して、共通点A、B、Cに示したような両意匠の基調を形成する部分の形態が共通しているとともに、座体に関しても、共通点D、ならびに座体の意匠として新規な部分とも呼べる共通点Eでも共通しているのに対して、上記相違点a?dについては、いずれも公知・周知の範囲での相違乃至需要者の注意を引きにくい箇所での部分的な相違に過ぎず、いずれも類否判断に与える影響は微弱である。したがって、意匠全体の類否を判断するにあたり、これらの相違点を勘案しても全体としての意匠が需要者に与える美感の共通感を凌駕するものではなく、本件登録意匠は第1引用意匠に類似するものである。

(2)無効理由2(意匠法第3条第2項の規定違反)
本件登録意匠の創作容易性について、上記した本件登録意匠と上記した第1引用意匠との相違点a?dを参照して具体的に説明する。
相違点aにかかるハウジングを透明にしない構成は、第2引用意匠、第3引用意匠、第5引用意匠乃至第9引用意匠に示されているように公知であるとともに、押しボタンスイッチのハウジング形状(材質)として一般に周知である。ハウジングを透明にするかしないかは、その押しボタンスイッチとハウジングの機能に即して当業者により適宜選択されるものであり、第1引用意匠のハウジングを透明にしないことに創作力は発揮されておらず、当業者であれば容易に創作することができる(特に、第4引用意匠の請求項2には「透明又は半透明」とすることが示されている)。
相違点bにかかるハウジングの側面下部に切欠を形成しない構成は、第2引用意匠乃至第9引用意匠に示されているように公知であるとともに、押しボタンスイッチのハウジング形状として一般に周知であるので、ハウジングの側面下部に切欠を形成しないことに創作力は発揮されておらず、当業者であれば容易に創作することができる。
相違点cにかかるハウジングの側面上部をさらに斜状に窄めない、連続した1つの斜面として構成する構成は、第2引用意匠乃至第7引用意匠、第9引用意匠に示されているように公知であるとともに、押しボタンスイッチのハウジング形状として一般に周知であるので、ハウジング側面上部をさらに窄めず、連続した1つの斜面として構成することに創作力は発揮されておらず、当業者であれば容易に創作することができる。
相違点dであるハウジングの挟角の丸みの度合を大きくすることについては、第2引用意匠および第8引用意匠に示されているように公知であるので、ハウジングの挟角の丸みの度合を大きくすることに創作力は発揮されておらず、当業者であれば容易に創作することができる。
してみれば、本件登録意匠は第1引用意匠に対し、相違点a?dについては、第2引用意匠?第9引用意匠に示された公知の形態に基づいて構成することで、当業者であれば容易に創作できるものである。

(3)むすび
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号及び第3条第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。

3.請求人が提出した証拠一覧
(1)甲第1号証:本件登録意匠が掲載された意匠公報の写し

(2)甲第2号証(第1引用意匠):平成22年8月23日に頒布された刊行物である意匠登録第1395358号の意匠公報の写し

(3)甲第3号証(第2引用意匠):平成22年4月30日に頒布された刊行物である特開2010-97913号の公開特許公報の写し

(4)甲第4号証(第3引用意匠):平成6年7月22日に頒布された刊行物である特開平6-203695号の公開特許公報の写し

(5)甲第5号証(第4引用意匠):平成15年6月6日に頒布された刊行物である特開2003-162934号の公開特許公報の写し

(6)甲第6号証(第5引用意匠):平成9年7月30日に頒布された刊行物である特許第2635781号の特許公報の写し
(7)甲第7号証(第6引用意匠):平成14年8月5日に頒布された刊行物である特許第3310987号の特許公報の写し

(8)甲第8号証(第7引用意匠):平成19年10月15日に頒布された刊行物である意匠登録第1312560号の意匠公報の写し

(9)甲第9号証(第8引用意匠):2007年1月発行の日本開閉器工業株式会社2007年総合カタログのKP01?KP02シリーズのディンプルボタン掲載ページの写し

(10)甲第10号証(第9引用意匠):2007年1月発行の日本開閉器工業株式会社2007年総合カタログのJBシリーズのタクティルスイッチ用ボタン、Kタイプ掲載ページの写し

第2.被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、第1引用意匠と本件登録意匠には、請求人が主張した相違点以外にもさらに多くの相違点が見いだされ、これだけの相違点が存在する両意匠が類似するとは到底いうことができない。また、本件登録意匠は公知の形態に基づいて構成することで容易に創作できたものであるとする主張は、審査基準に基づかない請求人独自の主張であって、請求人が示した公知の意匠から容易に創作できたものとはいえない、旨の反論をした。

第3.口頭審理
当審は平成24年1月26日に口頭審理を行った(平成24年1月26日付け口頭審理調書参照)。

第4.当審の判断
当審は、請求人の主張する無効理由1(意匠法第3条第1項第3号の規定違反)又は無効理由2(意匠法第3条第2項の規定違反)の何れによっても本件登録意匠の登録を無効とすることはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、便宜のため、本件登録意匠の図面における正面、平面等の向きを、第1引用意匠の図面にもあてはめることとする。

1.本件登録意匠
本件登録意匠は、2010年(平成22年)11月8日の意匠登録出願に係り、2011年(平成23年)3月4日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1410789号の意匠であり、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「プッシュスイッチ」とし、その形態は願書及び添付図面に記載されたとおりとするものである(別紙第1参照)。
すなわち、その形態は、基本的構成態様として、(A)全体が、底面を略長方形状とするスイッチ本体とスイッチ本体の上部を冠覆する略四角錐台状のハウジングとからなる点。そして、具体的態様として、(B)ハウジングは、(B-1)横幅に対する奥行きと高さの寸法比がおおよそ1:1.1:0.9弱で、(B-2)上面は、左右の長い稜線部沿いに狭幅の余地を残してその内方に大きく隅丸矩形を表し、(B-3)側壁面は、全てがやや内方に同じ角度で傾斜する平坦面とし、(B-4)上面と側壁面とによって形成された各稜線部はすべて丸みを設け、そのうちで上面の四周稜線部の丸みを側壁面間の稜線部の丸みよりも大きくし、(B-5)側壁面の下辺全てを横一直線状に形成したものである点、(C)スイッチ本体は、(C-1)側壁面の全てをハウジングの側壁面よりも一段奥まった位置に形成し、この側壁面によって形成された4つの出隅を僅かに丸棒状体様に膨出させ、左右の側壁面の中央に幅広の浅い凹面を縦方向に形成し、(C-2)略長方形の底面は、周縁にごく幅狭の鍔縁を延出させ、そのうち左右の対辺の中央部を、スイッチ本体の側壁面に形成された凹面に続く略細幅長方形状の切り欠きとし、切り欠きのない正背の対辺につき、一辺には内方に略長方形区画を設けてそこに複数のピンを2列に立設し、他辺には間に間隔を空けて小長方形区画を設け、そこに各1本のピンを立設し、底面の四隅に略1/4円弧状区画を設けてそこに円柱形のピンを各1本立設した点、が認められる。

2.無効理由1(意匠法第3条第1項第3号の規定違反)について
本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するか否かについて、すなわち、本件登録意匠と第1引用意匠の類否を検討する。

第1引用意匠は、特許庁が2010年(平成22年)8月23日に発行した意匠公報に掲載された意匠登録第1395358号の「表示装置付きスイッチ」の意匠であり、その形態は、同公報に表されたとおりのものである(別紙第2参照)。

両意匠を対比すると、本件登録意匠の意匠に係る物品は「プッシュスイッチ」であり、第1引用意匠の意匠に係る物品は「表示装置付きスイッチ」であって、表記は異なるが、何れも電路を制御するための押しボタン型スイッチであるから、両意匠の意匠に係る物品は一致する。次に形態については、主として以下の共通点及び差異点が認められる。
まず、共通点として、(a)全体が底面を略長方形状とするスイッチ本体と、スイッチ本体を冠覆する略四角錐台状のハウジングとからなる基本的な構成態様が共通し、各部の具体的な態様においても、(b)ハウジングは、横幅に対する奥行きと高さの寸法比がおおよそ1:1.1:0.9弱で、側壁面の全てが下から上に向かってごく僅かに窄まり、上面と4つの側壁面とによって形成された各稜線部はすべて丸みを設けた点、(c)スイッチ本体は、側壁面の全てをハウジングの側壁面よりも一段奥まった位置に形成し、この側壁面によって形成された4つの出隅を僅かに丸棒体様に膨出させ、左右の側壁面の中央に幅広の浅い凹面を縦方向に形成し、底面は、周縁にごく幅狭の鍔縁を延出させ、そのうち左右の対辺の中央部を、側壁面に形成された凹面に続く略細幅長方形状の切り欠きとし、切り欠きのない正背の対辺につき、一辺には内方に略長方形区画を設けてそこに複数のピンを2列に立設し、他辺には間に間隔を空けて小長方形区画を設け、そこに各1本のピンを立設し、底面の四隅に円柱形のピンを各1本立設した点、が共通する。
他方、相違点として、(ア)ハウジングについて、(ア-1)本件登録意匠はハウジングが透明とは示されていないのに対し、第1引用意匠はハウジングが透明である点、(ア-2)上面につき、本件登録意匠は左右の長い稜線部沿いに狭幅の余地を残してその内方に大きく隅丸矩形を表したのに対し、第1引用意匠は上面全体を無模様とした点、(ア-3)側壁面につき、本件登録意匠は全てを平坦な傾斜面で構成し、その下辺全てを横一直線状に形成したのに対し、第1引用意匠は上側約1/3がさらに内方に傾斜する上下2段の傾斜面で構成し、正背の側壁面下辺中央に上辺両隅を隅丸とする矩形状切り欠きを形成して、そこからスイッチ本体の側壁面が露出して見える点、(ア-4)上面の四周稜線部につき、本件登録意匠は第1引用意匠よりもやや丸みが大きい点、(イ)スイッチ本体の左右側壁面の浅い凹面につき、本件登録意匠は凹面の幅が第1引用意匠よりもやや広い点、が相違する。

そこで、これらの共通点及び相違点を総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断すると、(a)の共通点は全体の骨格的な構成態様を表すもので、両意匠の類否判断に及ぼす影響が一定程度あるというべきではあるが、押しボタン型のスイッチの分野においては、例えば、特許庁が発行した意匠公報所載の意匠登録第694674号の「押釦スイッチ」の意匠、Cahners Publishing Company(アメリカ合衆国)発行の雑誌「DESIGN NEWS」第25号第49巻第604頁所載の「スイッチ」の意匠(1995年2月13日特許庁総合情報館受入、公知資料番号HB07004716、別紙第3の参考意匠1参照)、日本開閉器工業株式会社(日本)発行のカタログ「nikkai 2006 総合カタログ」522頁所載の「液晶表示多機能押ボタンスイッチ」の意匠(2006年8月25日特許庁意匠課受入、公知資料番号HC18032331、別紙第3の参考意匠2参照)が例示できるように、この(a)の共通点に係る構成態様は、第1引用意匠の出願前より普通に見られる構成態様であるから、形態上の特段の特徴を生じるまでには至らず、類否判断に与える影響はさほど大きなものではない。また、(b)及び(c)の共通点は、その寸法比や具体的な態様に関する共通点であり、どちらも一応の共通性を印象付けるものであるが、(b)については、相違点(ア-1)ないし(ア-4)も同時に見られることから、未だ概念的な共通点というほかなく、(c)の共通点については、スイッチ本体の側壁面はハウジングの側壁面より一段奥まった観察されにくい部位であり、スイッチ本体の底面は回路基板等に実装されてしまえばほとんど観察されることのない部位であるから、たとえ第1引用意匠の出願時点において、側壁面の4つの出隅を僅かに丸棒状体様に膨出させた点が先行意匠に見られない態様であったとしても、形態上の特徴としてみた場合には局所的でさほど看者の注意を惹くものとはいえず、これらの共通点が一体となったとしても、両意匠の共通点のみによって類否が決定付けられるとまでいうことはできない。
他方、相違点につき、(ア-1)のハウジングが透明か否かの相違点は、スイッチ類の分野においては、ハウジングを透明にしたものも不透明としたものも従来より普通に見られることから、単なる素材の変更に過ぎず、この相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きなものではない。しかしながら、(ア-2)の上面における相違点については、ハウジングの上面は使用時において最も観察されやすく、かつ頻繁に手が触れる部位であることから、看者は当該部位を一際大きな関心を持って観察すると考えられるところ、本件登録意匠がハウジングの上面に大きく隅丸矩形を表した点は、引用意匠の無模様な上面との対比においては、本件登録意匠の形態上の特徴を形成しているものといわざるを得ず、この相違は類否判断にある程度の影響を及ぼすものである。また、(ア-3)の側壁面における相違点については、第1引用意匠の側壁面に見られる上下2段の傾斜面は、その傾斜角にさほど大きな違いがないことからすれば、横に周回する1本の稜線として視認できる程度のものともいえるが、この稜線は(ア-4)の相違として採り上げた、第1引用意匠の稜線部の丸みが本件登録意匠よりも小さく形成されていることと相俟って、第1引用意匠のハウジングに角張った多面体的な印象を付加するものとなって、本件登録意匠のハウジングの丸み感を感じさせる印象との相違を強調するものとなっており、この相違が類否判断に及ぼす影響は大きい。加えて、第1引用意匠の側壁面の下辺に形成された矩形状切り欠きは、横幅が側壁面の横幅の約1/2で高さが約1/3を占めるかなり大きなもので、そこからスイッチ本体の側壁面が他の部位の側壁面よりも2倍以上の高さとなって露出している点も加味すれば、看者の視覚を良く捉える外観上の相違を形成し、該部を横一直線状に形成した本件登録意匠との相違を強く印象付けるものとなっており、この矩形状切り欠きの有無が類否判断に及ぼす影響は極めて大きいものである。したがって、(イ)の相違に言及するまでもなく、このハウジングにおける(ア-1)ないし(ア-4)の相違点が一体となって類否判断に及ぼす影響は、共通点(a)ないし(c)のそれを優に凌ぐものであり、両意匠の相違は、両意匠を別異とするのに十分と認められる。

以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が一致するが、その形態については、相違点が共通点を凌駕し、意匠全体として看者に異なる美感を起こさせるものであるから、両意匠は類似せず、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するとはいえない。

3.無効理由2(意匠法第3条第2項の規定違反)について
本件登録意匠が意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当するか否かについて、すなわち、その出願前公知の第1引用意匠及び第2引用意匠ないし第9引用意匠に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたか否かについて検討する。

まず、本件登録意匠の形態は、前記、項1.に記載のとおりのものである。このうちで、全体を、(A)の構成態様とした点は、第1引用意匠及び前掲の公知意匠(別紙第3の参考意匠1及び参考意匠2)に明らかなように、この種の押しボタン型スイッチにおける典型的な構成と認められるものであるから、この構成を採用した点に特段の創意は見られない。また、(C)スイッチ本体の態様も、第1引用意匠の公然知られた態様に若干の変更を加えた程度に過ぎず、(B)ハウジングの(B-1)横幅に対する奥行きと高さの寸法比をおおよそ1:1.1:0.9弱とした態様も、第1引用意匠に見られることから、何れも格別の創意を要したものではない。しかしながら、本件登録意匠のハウジングが、(B-2)上面の左右の長い稜線部沿いに狭幅の余地を残して内方に大きく隅丸矩形を表し、(B-3)側壁面の全てがやや内方に略同じ角度で傾斜する平坦面とし、(B-4)上面と側壁面との5つの面によって形成された各稜線部の全てに丸みを設け、そのうちの上面の四周稜線部の丸みを他の稜線部より大きくし、(B-5)側壁面の下辺を全て横一直線状に形成した態様は、上記、項2.で相違点(ア-2)ないし(ア-4)として採り上げたとおり、第1引用意匠には見られないものであって、このうちの(B-3)ないし(B-5)の態様については、請求人が提出した第2引用意匠ないし第9引用意匠においてそれぞれ個別には見られるものの、(B-2)の態様についてはその何れにおいても認めることができないものである。そうすると、本件登録意匠は、第1引用意匠ないし第9引用意匠に見られる各態様を選択的に組み合わせ、さらにそのどれにも見られない態様も新たに加えて、これら構成各部の寸法比率や配置等を相互に関連づけ、物品の形態として統合・一体化したものであるから、たとえ、本件登録意匠を構成する形態要素を断片的に抽出して観察する限りにおいて、その多くが公然知られた態様であったとしても、そのことを理由に本件登録意匠の創作が容易であったとすることはできない。

したがって、本件登録意匠は、第1引用意匠及び第2引用意匠ないし第9引用意匠よっては、その意匠の属する分野において通常の知識を有する者が容易に創作することができたとはいえず、意匠法第3条第2項の規定に該当するとはいえない。

4.結び
以上のとおりであって、本件登録意匠は、請求人の提出した証拠及び主張によっては、意匠法第3条第1項第3号又は同法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとして、同法第48条第1項第1号により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2012-02-21 
出願番号 意願2010-26761(D2010-26761) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (H1)
D 1 113・ 113- Y (H1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 恭子 
特許庁審判長 遠藤 行久
特許庁審判官 早川 治子
橘 崇生
登録日 2011-03-04 
登録番号 意匠登録第1410789号(D1410789) 
代理人 清水 守 
代理人 山口 朔生 
復代理人 大島 信之 

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