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審決分類 審判    L2
管理番号 1264266 
審判番号 無効2011-880015
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-08 
確定日 2012-09-20 
意匠に係る物品 地下浸透桝 
事件の表示 上記当事者間の登録第1035100号の類似第1号意匠「地下浸透桝」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯及び両当事者が提出した証拠

1.手続の経緯
本件意匠登録第1035100号類似第1号「地下浸透桝」の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)(別紙第1参照)は,概略以下の(1)の手続を経た後,当審において,概略以下の(2)の手続を経たものである。

(1)意匠登録出願と意匠登録
1)1996(平成 8)年 1月23日 原意匠登録出願(意願平08-001366)
2)1999(平成11)年 1月18日 意匠法第12条第2項の規定(出願の変更)により,独立の意匠登録出願から,意願平09-62403(意匠登録第1035100号)を本意匠とする類似意匠の意匠登録出願に変更
3)1999(平成11)年 6月25日 意匠権の設定の登録(意匠登録第1035100号類似第1号)

(2)本件意匠登録無効審判請求事件
1)2011(平成23)年11月 8日 本件審判請求
2)2012(平成24)年 1月 4日 審判事件答弁書
3)2012(平成24)年 3月29日 口頭審理陳述要領書(請求人)
4)2012(平成24)年 4月12日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
5)2012(平成24)年 4月12日 口頭審理開廷
6)2012(平成24)年 5月 8日 上申書(被請求人)(以下,「被請求人の上申書1」という。)
7)2012(平成24)年 5月28日 上申書(請求人)(以下,「請求人の上申書1」という。)
8)2012(平成24)年 6月 6日 上申書(被請求人)(以下,「被請求人の上申書2」という。)
9)2012(平成24)年 6月21日 上申書(請求人)(以下,「請求人の上申書2」という。)

2.請求人が提出した証拠
(1)審判請求書に添付
(注:「甲第1号証」は,「甲1」と記し,その他の各号証も同様とする。)
1)本件意匠公報 意匠登録第1035100号類似第1号公報
2)甲1 実開平5-54689号公報(実願平3-99252)
3)甲2 実開平2-136185号(実願平1-44840)のマイクロフィルム
4)甲3 意匠登録第560203号公報
5)甲4 意匠登録第897327号公報
6)甲5 実開平7-29086号公報(実願平5-59345)
7)甲6 実開平6-88145号公報(実願平5-33699)
8)甲7の1 意匠登録第460582号公報
9)甲7の2 意匠登録第460582号類似第1号公報
10)甲8の1 意匠登録第460579号公報
11)甲8の2 意匠登録第460579号類似第1号公報
12)甲9の1 意匠登録第323340号公報
13)甲9の2 意匠登録第323340号類似第1号公報
14)甲9の3 意匠登録第323340号類似第2号公報
15)甲9の4 意匠登録第323340号類似第3号公報
16)甲9の5 意匠登録第323340号類似第4号公報
17)甲9の6 意匠登録第323340号類似第5号公報
18)甲10の1 意匠登録第484086号公報
19)甲10の2 意匠登録第484086号類似第1号公報
20)甲11 実開平7-31988号公報(実願平5-65442)
21)甲12 意匠登録第840256号公報

(2)請求人の上申書1に添付
1)甲13 甲1の意匠(立証趣旨:先行意匠の斜視形状及び正面形状を証する。)
2)甲14 本件登録意匠(立証趣旨:本件意匠公報のA-A断面図がクランク状に折れ曲がった切断線によるものであることを証する。)
3)甲15 (立証趣旨:小倉セメント製品工業株式会社のカタログの一部で,種々の大きさの角形桝蓋が存在することを証する。)
4)甲16 (立証趣旨:大和重工株式会社のカタログの一部で,種々の大きさの丸形桝蓋が存在することを証する。)

3.被請求人が提出した証拠
(1)被請求人の上申書1に添付
(注:「乙第1号証」は,「乙1」と記し,その他の各号証も同様とする。)
1)乙1 甲1(実開平5-54689号公報の図8)の雨水浸透桝の断面を示した資料
2)乙2 乙1に示した断面図から,被請求人が通常の知識に基づいて独自に創作した意匠1と,本件登録意匠とを対比して示した資料
3)乙3 流通している通常の浸透桝と,被請求人が製造および販売を行っている本件登録意匠に係る浸透桝とを対比して示した資料
4)乙4 流通している通常の浸透桝と,被請求人が製造および販売を行っている本件登録意匠に係る浸透桝とを対比して示した資料
5)乙5 創作した意匠1と,本件登録意匠とを正面図および平面図により対比して示した資料
6)乙6 乙1に示した断面図から,被請求人が通常の知識に基づいて独自に創作した意匠2と,本件登録意匠とを対比して示した資料
7)乙7 創作した意匠2と,本件登録意匠とを正面図および平面図により対比して示した資料
8)乙8 乙1に示した断面図から,被請求人が通常の知識に基づいて独自に創作した意匠3と,本件登録意匠とを対比して示した資料
9)乙9 乙1に示した断面図から,被請求人が通常の知識に基づいて独自に創作した意匠4と,本件登録意匠とを対比して示した資料
10)乙10 乙1に示した断面図から,被請求人が通常の知識に基づいて独自に創作した意匠5と,本件登録意匠とを対比して示した資料


第2 請求人の申立及び理由の概要

請求人は,請求の趣旨を「登録第1035100号の類似第1号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める」とし,その理由として,概略以下のとおり主張した。

1.理由の要点
本件登録意匠は,その出願日(原出願の出願日である平成8年1月23日)の前に日本国内において頒布された刊行物である甲1(図8)(別紙第2参照)に記載された意匠(以下,「先行意匠」という。)に類似する意匠であるから,意匠法第3条第1項第3号に該当し,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。

2.本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,登録第1035100号類似第1号の意匠公報に記載のとおり,次の形態を有するものである。

(1)基本的形態
1)四角筒状のコンクリート製ブロックを上下に積み重ねて全体を縦長の四角筒体状とした浸透桝である。
2)四角筒体の最上部に開口部が設けられている。
3)四角筒体は,上方に配置された側面に排水口のないブロックと,そのブロックの下方に配置された側面に排水口のあるブロックとから構成されており,排水口のあるブロックが全体に対して占める割合は,排水口のないブロックが全体に対して占める割合よりも大きい。
4)排水口のあるブロックの各側面には,4列の排水口が設けられている。

(2)具体的形態
5)開口部は,内周面に蓋(ふた)受段部を有する丸いドーナツ状である。

3.先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
甲1(実開平5-54689号)は,本件登録意匠出願前の平成5年7月23日に公開され,甲2(実開平2-136185号)(別紙第3参照)は,本件登録意匠出願前の平成2年11月13日に公開されたものである。
甲1の図8,並びに甲2の第1図及び第2図には,次の意匠が記載されている。
1)四角筒状のコンクリート製ブロックを上下に積み重ねて全体を縦長の四角筒体状とした浸透桝。
2)四角筒体の最上部に開口部が設けられている。
3)四角筒体は,上方に配置された側面に排水口のないブロックと,そのブロックの下方に配置された側面に排水口のあるブロックとから構成されており,排水口のあるブロックが全体に対して占める割合は,排水口のないブロックが全体に対して占める割合よりも大きい。
4)排水口のあるブロックの各側面には,4列の排水口が設けられている。

4.本件登録意匠と先行意匠との対比
意匠に係る物品は,両意匠共に「地下浸透桝」で同一である。
その形態については,以下の共通点と差異点が認められる。

(1)共通点
前記した,本件登録意匠の基本的形態は,全て先行意匠と共通する。すなわち,本件登録意匠と先行意匠とは,次の共通点を有する。
1)四角筒状のコンクリート製ブロックを上下に積み重ねて全体を縦長の四角筒体状とした浸透桝である点,
2)四角筒体の最上部に開口部が設けられている点,
3)四角筒体は,上方に配置された側面に排水口のないブロックと,そのブロックの下方に配置された側面に排水口のあるブロックとから構成されており,排水口のあるブロックが全体に対して占める割合は,排水口のないブロックが全体に対して占める割合よりも大きい点,
4)排水口のあるブロックには,4列の排水口が複数段設けられている点。

(2)差異点
前記した,本件登録意匠の具体的形態5)は,先行意匠との差異点である。
具体的形態5)についてであるが,本件登録意匠の開口部は,内周面に蓋受段部を有する丸いドーナツ状であるのに対し,先行意匠の開口部は正方形である。
しかし,具体的形態5)の,内周面に蓋受段部を有する丸いドーナツ状の開口部は,甲3及び甲4に見られるように公知である。また,甲7の1,2,及び甲8の1,2においては,正方形の開口部を有する桝と円形の開口部を有する桝が類似となっている。
土に埋めて設置する桝の開口部の形態は数種類の形態があり,それぞれ長所短所がある。桝の開口部の形態は,その求められる機能(性能)に応じて数種類の形態から選択されるのが一般的である。したがって,開口部の形態は,意匠法の保護対象である意匠の美的創作というよりは,機能性によって選択されたものというべきであり,看者が受ける美感には殆ど影響しない。
よって,本件登録意匠の開口部の形状は,意匠の類否を論じる際の要部とはなり得ない。
次に,本件登録意匠では上部の排水口の形成されていないブロックに配管用の貫通孔が設けられていないのに対し,先行意匠では配管用の貫通孔が設けられている点が異なっている。
しかし,配管用の貫通孔は,意匠法の保護対象である意匠の美的創作というよりは,機能的要請により設けられるものである。また,本件意匠公報の「説明」には,「・・さらに,地下浸透させる雨水排水などを供給する集水管3やトレンチ等を現場で本物品1に孔を開けて接続し,・・」と記載されているように,配管用の貫通孔は必要に応じて現場で開けるものでもあるから,このような貫通孔は,看者が受ける美感には殆ど影響することはなく,意匠の類否を検討する際の要部にはなり得ない。甲9の1?6では,配管用の貫通孔の有無の違い,配置や数の異なる態様の意匠が類似とされている。また,甲10の1,2でも,配管用の貫通孔の有無の違いがある意匠が類似とされている。
次に,本件登録意匠では最下部に底板が無いのに対し,先行意匠は底板を有する。しかし,甲11の図4や甲12に示されるように,底板を設けない浸透桝は周知であるから,底板を設けないことは看者の注意を惹くものではなく,意匠の類否を判断する際の要部とはなり得ないものである。

(3)対比のまとめ
以上検討したように,本件登録意匠は,前記1)?4)の基本的形態が先行意匠と共通しており,これによって,本件登録意匠と先行意匠とは全体形状において共通した美感を呈している。一方,本件登録意匠と先行意匠の差異点は,前記したように,いずれも意匠の類否を判断する際の要部とはなり得ないもので,全体形状の美感の共通性を凌駕するものではない。
したがって,本件登録意匠は,先行意匠の類似範囲に属するものである。


第3 被請求人の答弁及び理由の概要

被請求人は,請求人の申立及び理由に対して,答弁の趣旨を「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める」とし,その理由として,概略以下のとおり主張した。

1.審判請求書中「理由の要点」の欄の記載について
(1)甲1の第2ページ第1欄の「図面の簡単な説明」には,「[図8]従来の例の断面図である。」との記載がある(以下,「記載1-1」という。)。
したがって,記載1-1によると,甲1の図8は断面図である。
(2)断面図の記載内容は外部から視覚を通じて認識できない。このため,意匠法第2条第1項によると,断面図には意匠法上の意匠は記載されていない。
(3)甲1の図8は断面図であり,意匠法上の意匠である物品の外観が示されていない。
甲1の図8には意匠が記載されていない。したがって,「理由の要点」の「甲1(図8)に記載された意匠(以下,「先行意匠」という。)」との記載(以下,「記載1-2」という。)は誤っている。
このため,記載1-2は誤りであり,「理由の要点」は誤りを含んでおり,「請求の理由」は容認できない。

2.同「本件登録意匠の要旨」の欄の記載について
(1)基本的形態1)および同3)については認め,その余は否認する。
(2)基本的形態2)は,四角筒体の最上部に,四角筒体の側壁よりも内側に収まる丸形の出入口が設けられている。
基本的形態4)は,排水口のあるブロックには,縦に複数列の排水口が設けられている。
具体的形態5)は,丸形の出入口は,内周面に丸形の蓋受けを有する。
(3)このため,「本件登録意匠の要旨」は誤りを含んでおり,「請求の理由」は容認できない。

3.同「先行意匠が存在する事実及び証拠の説明について」の欄の記載について
(1)上記のとおり,甲1の図8には意匠が記載されていないため,先行意匠が存在しない。
(2)第2段落には,「甲1の図8,並びに甲2の第1図及び第2図には,次の意匠が記載されている。」との記載(以下,「記載1-3」という。)がある。
甲2は,「理由の要点」に記載がない。
甲2の目的が不明であり,甲2を認める理由がなく,答弁できない。
(3)記載1-3では,甲1の図8に意匠が記載され,さらに,甲2にも意匠が記載されているとしている。このため,記載1-3に矛盾があり,認定の対象を特定できない。
さらに,記載1-3は,記載1-2と矛盾している。
(4)したがって,先行意匠が存在せず,類否判断の対象が見当たらない。このため,被請求人は類否判断を行うことができず,答弁のすべがない。
(5)上記のように,請求人が言う先行意匠が存在するという理由はない。このため,「先行意匠が存在する事実及び証拠の説明」は誤りを含んでおり,「請求の理由」は容認できない。

4.同「本件登録意匠と先行意匠との対比について」の欄の記載について
(1)上記のとおり,先行意匠が存在せず,類否判断の対象が存在しない。したがって,被請求人は類否判断を行うことができず,答弁のすべがない。
(2)上記のとおり,先行意匠が存在しない。このため,「本件登録意匠と先行意匠との対比」は誤りを含んでおり,「請求の理由」は容認できない。

5.同「むすび」の欄の記載について
以上のとおり,本件意匠登録が同法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきという理由はない。
したがって,答弁の趣旨のとおり,本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。

6.付言
(1)甲2の第7ページ「4.図面の簡単な説明」には,「第1図は本考案の一実施例の斜視図,第2図は第1図の断面図,」との記載がある(以下,「記載2-1」という。)。
したがって,甲2の第1図には物品の外観が示されているので念のため検討する。

(2)甲2の第1図と本件登録意匠との比較
1)甲2の第1図の基本的形態
甲2の第1図の記載の基本的形態は以下のとおりである。
基本的形態1)桝本体下に桝本体より広く張り出した底版塊があり,桝本体上に底版塊と同様に桝本体より広く張り出した角形の環状体がある雨水浸透桝。
2)本件登録意匠の基本的形態1)は以下のとおりである。
基本的形態1) 四角筒状のコンクリート製ブロックを上下に積み重ねて全体を縦長の四角筒体状とした浸透桝。
3)比較
(ア)甲2の第1図の形状が,桝本体上下に桝本体より広く張り出した底版塊および環状体を持つのに対し,本件登録意匠は全体が縦長の四角筒体状で,上下に本体より広く張り出した底版塊および環状体はない点で,基本的な形態が相違する。
(イ)桝本体上下に桝本体より広く張り出した底版塊および環状体を持つ構造は,雨水浸透桝において需要者が注目する形態である。
(ウ)甲2の第1図に示されている,桝本体上下に桝本体より広く張り出した底版塊および環状体を持つ構造は,物品の外観に顕著に現れ,第1図から明らかなように,物品全体において,看者が注視する十分な面積を占める。
(エ)したがって,(ア)に示した甲2の第1図の形状と本件登録意匠との,基本的な形態の相違は,構造の相違から,技術的な注目度から,さらに,物品の形態に占める面積からも顕著であることは明らかである。このため,全体として看者に対して異なる美感を与えることは明らかであるから,他の形態の相違を比較するまでもなく,本件登録意匠は,甲2の第1図の形状に類似する意匠ではない。
(オ)さらに,甲2の第1図の形状が,桝本体より広く張り出した角形の環状体11に通気孔13が形成された角形の蓋体12が設けられた雨水浸透桝であるのに対して,本件登録意匠は,全体が縦長の四角筒体の上部に丸形の出入口が設けられている点で,形態が相違する。
(カ)すなわち,本件登録意匠は,四角筒体の上部に丸形の出入口が設けられるため,出入口に方向性がなく,需要者に,浸透桝を地中に埋設する際に設置する位置や方向を意識させないデザインとなっている。これに対して,甲2の第1図の形状は,角形の環状体11に角形の蓋体12が設けられているため,需要者に,浸透桝を地中に埋設する際に設置する位置や方向を意識することを強制させるデザインとなっている。 したがって,全体として看者に対して異なる美感を与えることは明らかであるから,本件登録意匠は,甲2の第1図の形状に類似する意匠ではない。


第4 口頭審理

本件審判について,当審は,2012(平成24)年4月12日に口頭審理を行った。
その内容は,第1回口頭審理調書のとおりであるが,概略以下のとおりである。

1.請求人は,審判請求書及び2012(平成24)年3月29日提出の口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。
口頭審理陳述要領書において,請求人は主に,甲1の図8には,実質的に物品の形状(外観)が記載されており,当該意匠と本件登録意匠とは類似するものであると主張した。

2.被請求人は,審判事件答弁書及び2012(平成24)年4月12日提出の口頭審理陳述要領書のとおり陳述した。
口頭審理陳述要領書において,被請求人は主に,甲1の図8には,物品の外観は示されておらず,意匠法上の意匠が記載されていないとし,口頭審理陳述要領書における請求人の主張には理由が無いと主張した。

3.なお,口頭審理において,審判請求書第2ページの「理由の要点」の欄における「意匠法第10条第1項の規定に違反してなされたものであり」との記載と,同第7ページの「むすび」の欄における「自己の登録意匠にのみ類似する意匠ではなく,意匠法第10条第1項の規定に違反してなされたものであり」との記載について,請求人から,いずれも「意匠法第3条第1項第3号に該当し」と訂正したい旨の申出がなされ,被請求人は当該申出に同意したことから,当該訂正を認めることとした。

4.また,審判請求書第2ページの「理由の要点」の欄においては,先行意匠として甲1のみしか記載されていないのに対し,同第3ページの「先行意匠が存在する事実及び証拠の証明」の欄においては,先行意匠として,甲1に加え,甲2も記載されている点について,被請求人から両欄の記載が整合しないとの指摘がなされた。これに対し,請求人から,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当すると主張するにあたり,その根拠として引用した先行意匠は,甲1のみであるとの説明がなされた。


第5 上申書

1.被請求人の上申書1
被請求人は,概略以下の主張をした。

(1)乙1は,甲1(実開平5-54689号公報の図8)の雨水浸透桝の断面を示したものである。
(2)乙1は断面図である。断面図の記載内容は外部から視覚を通じて認識できず,物品の外観,さらに,物品の美感を認定することはできない。このため,意匠法第2条第1項によると,断面図である乙1には物品の外観が示されておらず,意匠法上の意匠は記載されていない。したがって,断面図のみから類否判断の対象となる先行意匠を特定できる理由がないことは,平成23年12月28日付審判事件答弁書および平成24年4月11日付口頭審理陳述要領書において述べたとおりである。
(3)被請求人は,対比するために,乙1のみから,通常の知識に基づいて先行意匠を独自に創作せざるを得ない。なお,乙1の断面図には,要素1:少なくとも2方の壁面に,桝本体の上から下まで一連の連続した孔が設けられていること,要素2:少なくとも2方の壁面の上部は外側に張り出していること,要素3:少なくとも2方の壁面の上部にかかるように蓋板が設けられていること,要素4:少なくとも2方の壁面の下側から外側に張り出すように底板が設けられていること,要素5:一方の壁面に横一列に並んだ4つの孔が6段設けられていること,要素6:一方の壁面の高さと横幅との比率が1.5:1.0であること,が含まれている。被請求人は,これらの要素を含む意匠を先行意匠として創作することにする。なお,残りの壁面の外観を認定する要素はない。
(4)乙1に示した断面図から,多数の意匠が創作され,甲1に意匠は示されていない。また,断面図から創作した意匠と対比して,意匠法第3条第1項第3号を判断する理由はない。さらに,被請求人が通常の知識に基づいて独自に創作した意匠1?5と,本件登録意匠(登録第1035100号類似第1号)とを対比しても,本件登録意匠と創作した意匠1?5とが類似するとの理由はない。このため,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し,本件意匠登録が同法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきとの理由はない。したがって,答弁の趣旨のとおり,本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。


2.請求人の上申書1
請求人は,概略以下の主張をした。

(1)本件登録意匠について
既に述べたとおり,被請求人の本件登録意匠及び先行意匠の大きさに関する主張は理由が無く,全て認められない。本件登録意匠の認定についての主張も大きさに関するものは失当である。具体的には,「通常の浸透桝の約4倍の高さを有し」「通常の浸透桝の埋設深さよりも深い位置に埋設し」「通常の浸透桝の埋設深さに埋設し」「技術的に通常の浸透桝の埋設深さよりも深い位置で排水を地中に浸透させる」などの表現は,本件意匠公報に開示されていない大きさに関する事項であるばかりでなく,「通常の浸透桝」が何を意味するかも不明であり,認められない。
本件登録意匠の形態については,本件審判請求書2ページ「(B)本件登録意匠の要旨」に記載したとおりである。
(2)先行意匠について
既に述べたとおり,被請求人が創作した「創作意匠1」?「創作意匠5」は,いずれも故意に不自然な形態を創作したものであり,先行意匠とはいえない。
本件登録意匠の形態については,本件審判請求書3ページ「(C)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明」の1?4に記載したとおりである。
(3)対比について
被請求人が創作した「創作意匠1」?「創作意匠5」は,いずれも故意に不自然な形態を創作したものであり,先行意匠とはいえないから,これらを本件登録意匠と対比している被請求人の主張は失当である。
本件登録意匠と先行意匠との対比は,本件審判請求書6ページ「(E)本件登録意匠と先行意匠との対比」に記載したとおりである。
また,先行意匠が,桝本体よりも広く張り出した底板を有する点,及び桝上部に桝本体よりも広く張り出した「環状体」を有する点については,陳述要領書5ページ1行目?6ページ16行目に記載したとおりである。
また,上申書において被請求人は,本件登録意匠と先行意匠とは桝の縦横の比率が異なる旨述べているが,縦横比率の相違は本件審判請求書6ページ4行目?11行目の共通点1?4による美感の共通性を凌駕するものではない。
(4)被請求人の主張は理由が無く,本件審判請求書の請求の趣旨に記載したとおりの審決を求めるものである。


3.被請求人の上申書2
被請求人は,概略以下の主張をした。

請求人上申書の内容はすべて否認する。
意匠の類否判断は,願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われなければならないことは法令上明らかである。
さらに,願書に添付すべき図面は,正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面図及び底面図のいわゆる六面図により記載しなければならず,意匠法上の意匠は,外観を示す六面図に基づいて認定されることも法令上明らかである。
したがって,断面図は,六面図だけでは意匠を十分に表現することができないときに加える補助的書面に過ぎないことは法令上明らかである。
このため,外観を示す六面図を無視して,補助的書面である断面図のみに基づいて意匠を認定することは違法であり,請求人の主張に理由がないことは明らかである。

4.請求人の上申書2
請求人は,概略以下の主張をした。

意匠登録出願に添付される図面は,意匠権が発生したときに,当該図面に基づいて権利範囲が判断されるのであるから,意匠の形態に不明な部分があることは許されず,六面図及びその他の必要な図面が求められるのは当然である。
一方,意匠法3条新規性の要件は,「意匠の創作を奨励し,もって産業の発達に寄与する」という意匠法の目的に鑑み,創作に値しない程度の出願意匠を排除する趣旨であるから,先行意匠は,刊行物において,需要者がどのような意匠かを認識できる程度に記載されていれば足りるのである。
この点意匠審査基準「22.1.2.6刊行物に記載された意匠について」には,「刊行物に記載された意匠は,意匠登録出願に係る意匠が当該刊行物に記載された意匠に該当するか否か,あるいは,当該意匠に類似する意匠に該当するか否かについての判断を行う際に,対比可能な程度に十分表されていれば,新規性の判断の基礎となる資料とすることができる。」と記載され,例として「背面,底面等の形態が表れていない場合,あるいは,刊行物に記載された意匠の一部が表れていない場合であっても,当該意匠の全体の形態が物品の特性等によってほぼ定型化されている等の理由により,不明な部分の具体的な形態を推定できるもの」や,「その物品とは非類似の物品に係る意匠(例えば,部品に係る意匠)であっても,当該意匠自体の具体的な形態を識別できるもの」が先行意匠として新規性判断の基礎となる資料にできる旨が記載されており,このような柔軟な運用は意匠法の趣旨に沿ったものであるといえる。
新規性判断の基礎となる資料については,断面図だからダメだという形式的なことではなく,不明な部分の具体的な形態を推定できるかどうかである。
本件の場合,甲1図8は単なる断面図ではなく正面形状も記載されており,加えて意匠に係る物品が地下浸透桝であって,筒状物品である桝類の特性によって,当該図面から不明な部分の具体的な形態を容易に推定できるのである。
被請求人の上申書における主張はいずれも理由がない。


第5 当審の判断

当審は,本件登録意匠は,その出願日(原出願の出願日である平成8年1月23日)の前に,日本国内において頒布された刊行物である甲1(図8)に記載された意匠(先行意匠)とは類似するものではなく,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないものであると判断する。その理由は以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1035100号の意匠類似第1号)は,概略前記第1に記載した手続を経たものであり,意匠に係る物品を「地下浸透桝」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照)

すなわち,その形態は,
(1)全体を,(1-1)縦長の略正四角筒体状のものとし,当該略縦長正四角筒体は,略四角筒状のブロックを上下に4つ積み重ねてなるものであり,(1-2)正面視の態様が,略垂直直線状のもので,(1-3)最上段のブロックは,上端面を覆った有蓋ブロックであって,その上端面の中央に,正円形開口部を設け,(1-4)当該最上段ブロックの側面には,あらかじめ導入管取付け孔等を設けず,施工現場において必要に応じて設けることとしたもので,2段目以下のブロック(以下,「下段ブロック」という。)には,全側面に多数の小排水口を設けた構成としたものであって,

(2)高さと横幅の構成比等は,(2-1)全体が約3.8:1の細長いもので,(2-2)各構成ブロックは,最上段ブロックが,約0.7:1の,ややへんぺいな略正四角筒体,下段ブロックは,いずれも当該比が略等しい略立方体筒状で,(2-3)最上段ブロックの高さと,全下段ブロックを重ねた部分の高さの比は,約1:4で,後者の方が大きいものであり,

(3)上端面は,(3-1)当該面の横幅よりわずかに小径の正円形開口部を中央に配置し,(3-2)当該正円形開口部には,内周面に蓋受けのための段部を設けた,外周上端部に面取りを施した細幅の円形枠ブロックを載置して,正面視で最上段ブロックが略凸状になるように構成したもので,

(4)下段ブロックの小排水口の構成態様は,(4-1)側面の,上下左右に太幅の余地部を残した中央寄りの部位に,小排水口を,垂直線上に8段並べたものを1列とし,それを左右等間隔に4列配したものであり,(4-2)各小排水口の形態は,外側の形状が円形状で,内側面が水平で径が一定のものである。

2.請求人が無効の理由として引用した先行意匠(甲1意匠)
請求人が無効の理由として引用した先行意匠は,本件登録意匠の出願日(原意匠登録出願の出願日である1996(平成8)年1月23日)よりも前の,1993(平成5)年7月23日に発行された刊行物である甲1に掲載されたものであり,その意匠は,意匠に係る物品が,「雨水浸透桝」であり,その形態を甲1に記載されたとおりとしたものである。(別紙第2参照)

すなわち,その形態は,
(1)この種物品分野においては,桝本体の水平断面形状は,通常正円又は矩形状であるところ,引用公報図8に表されている背面側(向こう側)側面の小排水口の並びが,桝本体の水平断面形状が正円のときのように放射状に表されていないことや,甲1の図8に関連する記載等に照らすと,全体を,(1-1)略四角筒体状のものとし,当該略四角筒体は,略四角筒体状のブロックを上下に3つ積み重ねてなるものであり,(1-2)上端面の縁部を側面側へ突出させて,鍔(つば)部(被請求人のいうところの「環状体」)を形成し,(1-3)最下端部には側面側に突出させた底板を設けて,(1-4)正面視の態様を,略I字状としたものであって,(1-5)その上端面に,蓋板を有する開口部を設け,(1-6)最上段ブロックには,左右側面に導入管取付け孔を,下段ブロックには,側面に多数の小排水口を設けた構成としたものであって,

(2)高さと横幅の構成比等は,(2-1)全体が約1.3:1のずんどうなもので,(2-2)各構成ブロックは,最上段ブロック,各下段ブロックともに,約0.5:1の,へんぺいな略四角筒体で,(2-3)最上段ブロックの高さと,全下段ブロックを重ねた部分の高さの比は,約1:2.3で,後者の方が大きいものであり,

(3)上端面は,(3-1)開口部と,それを塞ぐ蓋板とからなり(3-2)当該蓋板には,間隔を空け2つの導入孔を設けており,

(4)下段ブロックの小排水口の構成態様は,(4-1)少なくとも1つの側面において,上下端部には余地部をほとんど設けずに,小排水口を,垂直線上に3段並べたものを1列とし,それを左右等間隔に4列配したものであり,(4-2)各小排水口の形態は,背面側(向こう側)側面と断面箇所の断面形状に照らすと,少なくとも1つの側面において,外側に向かって漸次径を大きくし,外側の形状を円形状としたもので,詳細に見ると,内側面最上部は水平で,最上部以外の内側面は,左右及び下方向へ放射状に拡開しているものである。

なお,被請求人は,「甲1の図8は断面図であり,意匠法上の意匠である物品の外観が示されていない」と主張するが,この種物品において,全体を略四角筒体状の態様とするものは,本願出願前から極一般的に見受けられるところであり,また,引用公報図8,及び甲1のこれに関連する説明(実願平3-99252(実開平5-54689号)のCD-ROM)の記載を考慮して判断すると,上記(1)から(4)のとおりに,先行意匠を認定することができるものであり,被請求人の当該主張には理由がない。

3.本件登録意匠と先行意匠との対比

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「地下浸透桝」であるのに対し,先行意匠の意匠に係る物品は,「雨水浸透桝」であって表記は異なるが,いずれも地下に埋設して使用し,雨水等を地中に浸透させるためのものであることから,物品の用途及び機能が共通しており,両意匠の意匠に係る物品は共通している。

(2)本件登録意匠と先行意匠の形態
本件登録意匠と先行意匠の形態については,主として,以下のとおりの共通点及び相違点がある。

1)共通点
(A)全体を,(A-1)略四角筒体状のものとし,当該略四角筒体は,略四角筒体状のブロックを複数段積み重ねてなるものであり,(A-2)その上端面に,開口部を設け,(A-3)各下段ブロックの側面に多数の小排水口を設け,最上段ブロックには,かかる小排水口を設けない構成としたものである点,

(B)最上段ブロックの高さと,全下段ブロックを重ねた部分の高さの比は,後者の方が大きいものである点,

(C)下段ブロックの小排水口は,外側の形状を円形状としたものである点。

2)相違点
(ア)全体の構成について,(ア-1)本件登録意匠は,上端面の縁部に鍔部を設けていないのに対し,先行意匠は上端面縁部を側面側へ突出させて,鍔部を形成しており,(ア-2)本件登録意匠の最下端部は底板を有さない態様であるのに対し,先行意匠は側面側へ突出させた底板を設けたものであり,よって,(ア-3)本件登録意匠には水平方向の突出部が存在せず,正面視の全体形状が垂直直線状であるのに対して,先行意匠は上下端に鍔部と底板の水平方向の突出部が存在して,正面視の全体形状が略I字状のものであって,(ア-4)本件登録意匠は,略四角筒体状のブロックを上下に4つ積み重ねてなるものであるのに対し,先行意匠は,3つ積み重ねたもので,(ア-5)本件登録意匠の最上段ブロックは,側面に孔を設けていないものであるのに対し,先行意匠の最上段ブロックは,左右側面に導入管取付け孔を設けた態様のものであり,(ア-6)本件登録意匠は,上端面において,開口部に蓋板を設けていない態様であるのに対して,先行意匠は,蓋板を設けたものである点,

(イ)高さと横幅の比について,(イ-1)本件登録意匠は,全体が約3.8:1の細長いものであるのに対し,先行意匠は,約1.3:1のずんどうなものであり,(イ-2)本件登録意匠の各構成ブロックは,最上段ブロックが,約0.7:1の,ややへんぺいな正四角筒体であって,下段ブロックは,いずれも当該比が等しい略立方体筒状のものであるのに対し,先行意匠の各構成ブロックは,最上段ブロック,各下段ブロックともに,約0.5:1の,へんぺいな略四角筒体状のものである点,

(ウ)上端面の態様について,本件登録意匠は,最上段のブロックを,上端面を覆った有蓋ブロックとし,その上端面中央に,正円形開口部を設け,当該正円形開口部には,内周面に蓋受けのための段部を設けた,外周上端部に面取りを施した細幅の円形枠ブロックを載置して,正面視で最上段ブロックが略凸状になるように構成したものであるのに対し,先行意匠は,開口部と,それを塞ぐ蓋板とからなる点,

(エ)下段ブロックの小排水口の構成態様について,(エ-1)本件登録意匠は,側面の上下左右に太幅の余地部を残した中央寄りの部位に,小排水口を,垂直線上に8段並べたものを1列とし,それを左右等間隔に4列配したものであるのに対し,先行意匠は,少なくとも1つの側面において,上下端部には余地部をほとんど設けずに,垂直線上に3段並べたものを1列とし,それを左右等間隔に4列配したものであり,(エ-2)本件登録意匠の各小排水口の形態は,外側の形状が円形状で,内側面が水平で径が一定のものであるのに対し,先行意匠のものは,少なくとも1つの側面において,外側の形状は円形状であるものの,外側に向かって漸次径を大きくしたものである点。

2.本件登録意匠と先行意匠の類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,それらを総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。
両意匠は,前記のとおり意匠に係る物品が共通し,形態については,以下のとおりである。

(1)共通点の評価
共通点(A)は,いずれも両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものであり,また,四角筒体状のブロックを複数段積み重ねて,全体を略四角筒体状のものとし,その上端面に,開口部を設け,さらに,下段のブロックに,多数の小排水口を設けた構成としたものは,浸透桝の構成として,本件登録意匠の出願前から極一般的に見受けられるところであり,かかる共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。なお,先行意匠については,水平断面形状が正方形であるか長方形であるかが明記されていないところ,たとえ本件登録意匠と同様に水平断面形状が正方形の略正四角筒体状であったとしても,上記の判断に変わり無く,共通点(A)が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。

また,共通点(B)と同(C)もこの種物品の先行意匠に照らすところ,いずれもありふれた態様であって,看者の注意を強く惹くものであるとは言い得ないものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であり,共通点全体としても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

(2)相違点の評価
これに対して,相違点(ア)と同(イ)の各点は,両意匠の基本構成に関わるものであって,形態全体に及ぼす影響は大きく,相違点(ア-5)については,この種物品分野においては,有孔のもの,無孔のもの,施工現場において穿孔するもの等,種々のものが本件登録意匠の出願前から多数存在すること等から,類否判断に及ぼす影響は大きいとは言い得ないものの,特に相違点(ア-3)と,同(イ-1)とがあいまって表出された,全体が細長く正面視略垂直直線状の本件登録意匠の態様と,全体がずんどうで正面視略I字状の先行意匠の態様の相違は,形態全体の基調に関わるものであることから,看者に大きな視覚的影響を及ぼすもので,類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものである。

また,相違点(ア-1),同(ア-6)と同(ウ)の各点があいまって表出された上端面の態様は,本件登録意匠は,鍔部が無く,かつ,開口部に円形枠ブロックを載置して,正面視で最上段ブロックが略凸状になるように構成したものであることから,全体が縦長のものである印象を一層強めるものであるのに対し,先行意匠は,鍔部があり,かつ,上方へ突出した枠ブロックはなく,蓋板と蓋受け部とを,いずれも開口部の内方に配置したことで,上端面を面一にした態様であることから,上端面の態様が水平方向に拡がるものであり,全体がずんどうなものであるとの印象を一層強めているところであり,当該各相違点も,類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
なお,先行意匠の上端面の開口部及び蓋板の詳細な形状について,引用公報図8においては,断面のみが開示されているに止まるところであるが,当該先行意匠の開口部と蓋板が,平面視で四角形であっても,あるいは,本件登録意匠の上端面の開口部の形状と同じ正円形状であったとしても,上端面縁部に鍔部があり,かつ,上方に突出する円形枠ブロックがなく,上端面を面一にした態様は,水平方向に拡がった印象を醸成するものであることに変わり無いことから,開口部と蓋板の平面形状がいずれの態様であっても,上記のとおり判断されるところである。また,本件登録意匠は,開口部に未だ蓋板を設けていない態様であるのに対して,先行意匠は,蓋板を設けたものであるが,本件登録意匠と,蓋板を外した先行意匠の態様とを比較した場合においても,当該上端面の態様の相違が,類否判断に大きな影響を及ぼすことに変わりは無い。

さらに,相違点(イ-2)と,同(エ-1)における本件登録意匠の態様が,あいまって表出された本件登録意匠の下段ブロックの態様は,この種物品の先行意匠に照らして,本件登録意匠の特徴を構成するものであるから,かかる相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響も大きいといわざるを得ない。
なお,先行意匠は,少なくとも1つの側面において,小排水口を,垂直線上に8段並べたものを1列とし,それを左右等間隔に4列配したものであるが,他の側面における配列については明記されていないところ,他の各側面も同様の配列であると推認したとしても,先行意匠は,小排水口を上下端部に余地部をほとんど設けずに配列したものであって,前記の特徴を有する本件登録意匠の態様とは異なるものであるから,(エ-2)の相違点ともあいまって,上記の判断に変わり無いと言わざるを得ない。
そして,これらの相違点に,その他の各相違点があいまった視覚的効果を考慮すると,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕して,両意匠は,意匠全体として需要者に別異の美感を起こさせるものであるというべきである。

(3)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品は,共通するが,形態においては,共通点が未だ両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して,相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕しており,意匠全体として見た場合,両意匠は,意匠全体として看者に別異の美感を起こさせるに至っているというべきであり,本件登録意匠は,先行意匠に類似するということはできない。


第6 結び
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当せず,請求人の提出した証拠および主張によっては,本件登録意匠の登録は,同法第48条第1項に該当しないから,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2012-07-18 
結審通知日 2012-07-20 
審決日 2012-08-07 
出願番号 意願平8-1366 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (L2)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 内藤 弘樹 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 橘 崇生
下村 圭子
登録日 1999-06-25 
登録番号 意匠登録第1035100号の類似意匠登録第1号(D1035100/1) 
代理人 神戸 真 
代理人 神戸 真 
代理人 斉藤 翼 
代理人 今井 彰 
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