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審決分類 審判    C4
審判    C4
管理番号 1265896 
審判番号 無効2011-880013
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-05 
確定日 2012-11-05 
意匠に係る物品 美容器具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1300325号「美容器具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,請求の趣旨を「登録第1300325号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由を,要点以下のとおり主張し,その主張事実を立証するため,証拠方法として,甲第1号証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
(1)本件意匠登録
意匠登録第1300325号
意匠に係る物品「美容器具」

(2)手続の経緯
出 願 平成18年7月10日
登 録 平成19年4月6日
掲載公報発行 平成19年5月14日

(3)無効理由の要点
本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された意匠(以下,先行意匠という)に類似する意匠であり(理由1),意匠法第3条第1項第3号の規定により,意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
また,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた上記甲第1号証記載の形態(以下,引用形態という)に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものである(理由2)から,意匠法第3条第2項の規定により,意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。


2.本件意匠登録を無効とすべき理由1(新規性なし)
(1)本件登録意匠の説明
(1-1)本件登録意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「美容器具」であり,本件登録意匠の意匠に係る物品の説明には,「本物品は,正面図において上部両側にあらわしたウエイトのいずれかを軟質のハンマー等で叩くことにより調律用音叉と同様に振動波を発生させ,その状態で正面図において下部にあらわした持ち手部分の下端部の当て部を人体に軽く当てることにより当該振動波を人体に伝え,これにより歪んだ体形・自律神経・ホルモンバランス等を整える効果を奏する美容器具である。」との記載がある。
(1-2)本件登録意匠に係る形態(比較参考図A参照:別紙第3参照)
本件登録意匠に係る形態を,基本的構成態様と具体的構成態様に分説する。
[基本的構成態様]
本件登録意匠に係る形態は,基本的に,音叉状振動波発生部(A)と,持ち手部(B)と,当て部(C)から構成されている。
上記音叉状振動波発生部(A)は,2本の平行な棒状部(A1)と,これら棒状部(A1)の下端を,相互に連結しているU字状連結基部(A2)により一体的に構成されている。
上記持ち手部(B)は,上記音叉状振動波発生部(A)の上記U字状連結基部(A2)の下方に設けられている。
上記当て部(C)は,上記持ち手部(B)の下部に設けられている。
[具体的構成態様]
I:上記棒状部(A1)の上部には,ウエイト(A3)が設けられている。
II:正面図において,上記音叉状振動波発生部(A)の形状は,上記棒状部(A1)の厚み(W)を1とすると,それらの間隔(G)は3.3であり,長さ(L)は22である。(比較参考図B参照:別紙第3参照)
III:本件登録意匠の右側面図に表されている上記棒状部(A1)の幅は,上記厚み(W)と略同じ1である。即ち,棒状部(A1)の横断面は略正方形である。
IV:上記持ち手部(B)の形状は,中間部(M)が括れると共に上下両端に向けて径が次第に小さくなり,両端で径が再び大きくなった縁取り(E)が形成されている。(比較参考図C参照:別紙第3参照)
V:上記持ち手部(B)の長さ(N)は,上記音叉状振動波発生部(A)の棒状部(A1)の長さ(L)22に対して,10となっている。
VI:上記当て部(C)の形状は,下端が尖った円錐状となっている。大ささは,円錐底部の径(S)が,上記持ち手部(B)の縁取り(E)の径より小さい。(比較参考図C参照)

(2)先行意匠(甲第1号証意匠)の説明
(2-1)先行意匠が存在する事実
先行意匠は,本件登録意匠の出願日前の2002年(平成14年)11月7日に公開された国際公開番号WO 02/087488 A1の国際公開公報(甲第1号証)の明細書及び第1図ないし第7図に開示されている。
(2-2)先行意匠に係る物品
先行意匠に係る物品は,音叉型治療器であり,甲第1号証の明細書の第3頁第4行目乃至第3頁第18行目並びに第1図及び第2図の記載から,U字状の振動子(1)を槌打すると調律用音叉と同様に振勤し,伝動杆(2)を介して振動する押当部材(4)を人体の患部(リンパ腺の腫れや肩こりなどの症状部分)に押し当てて,症状を改善する治療器であることが,明らかにされている。
(2-3)先行意匠に係る形態(比較参考図A参照:別紙第3参照)
先行意匠に係る形態を,基本的構成態様と具体的構成態様に分説する。
[基本的構成態様]
先行意匠に係る形態は,基本的に,U字状の振動子(a)と,握り部(b)と,押当部材(c)から構成されている。
上記U字状の振動子(a)は,2本の平行な棒状部(a1)と,これら棒状部(a1)の下端を,相互に連結しているU字基部(a2)により一体的に構成されている。
上記握り部(b)は,上記U字状の振動子(a)の上記U字基部(a2)の下方に設けられている。
上記押当部材(c)は,上記握り部(b)の下部に設けられている。
[具体的構成態様]
i:甲第1号証の上記U字状の振動子(a)の上部には,上記ウエイト(A3)に相当する部材は設けられていない。ただし,甲第1号証の第3図(A)には,上記ウエイト(A3)と同じ機能を有する錘材(1b)が開示されている。
ii:甲第1号証の図4(比較参考図B参照:別紙第3参照)において,上記U字状の振動子(a)の形状は,上記U字状の振動子(a)の厚み(w)を1とすると,それらの間隔(g)は3であり,長さ(l)は24である。
iii: 棒状部(a1)の幅については,先行意匠には開示されていない。
iv: 上記握り部(b)の形状は,中間部(m)が膨らむと共に上下両端に向けて径が次第に小さくなり,両端で径が再び大きくなった縁取り(e)が形成されている。(比較参考図C参照:別紙第3参照)
v: 上記握り部(b)の長さ(n)は,上記棒状部(a1)の長さ(l)24に対して,10となっている。
vi: 押当部材(c)の形状は,甲第1号証の第5図(A)から明らかなように,ラグビーボール状となっている。大きさは,その径(s)が上記握り部(b)の縁取り(e)の径より小さい。(比較参考図C参照)

(3)本件登録意匠と先行意匠との対比
(3-1)本件登録意匠と先行意匠の物品の対比
本件登録意匠の物品は,音叉状振動波発生部(A)に生じせしめた振動を当て部(C)を通じて,人体の歪んだ体形・自律神経・ホルモンバランス等の症状部分に与え,これらの症状部分を整える美容器具である。
一方,先行意匠の物品は,U字状の振動子(a)に生じせしめた振動を押当部材(c)を通じて,人体の症状部分に与え,これらの症状部分を治療する治療器である。
両物品を対比すると,人体の症状部分に振動を与えて,その改善を図る器具である点で,両者は同一の物品である。
(3-2)本件登録意匠と先行意匠の形態の共通点及び差異点の列挙
[共通点]
(基本的構成態様の共通点)
先行意匠のU字状の振動子(a),握り部(b)及び押当部材(c)は,それぞれ,本件登録意匠の音叉状振動波発生部(A),持ち手部(B)及び当て部(C)に相当する。
先行意匠の握り部(b)は,U字状の振動子(a)のU字基部(a2)の下部に設けられており,一方,本件登録意匠の持ち手部(B)は,音叉状振動波発生部(A)のU字状連結基部(A2)の下部に設けられている。
また,本件登録意匠の当て部(C)は持ち手部分(B)の下部に設けられており,一方,先行意匠の押当部材(c)は,握り部(b)の下部に設けられている。
したがって,両意匠の基本的構成態様は,共通する。
(具体的構成態様の共通点)
【1】本件登録意匠の音叉状振動波発生部(A)の形状は,棒状部(A1)の厚み(W)を1とすると,それらの間隔(G)は3.3であり,長さ(L)は22である。
一方,先行意匠のU字状の振動子(a)の形状は,棒状部(a1)の厚み(w)を1とすると,それらの間隔(g)は3であり,長さ(l)は24である。
すなわち,本件登録意匠では,1:3.3:22であるのに対して,先行意匠では,1:3:24であり,両意匠は殆ど同じ形状である。
【2】本件登録意匠の持ち手部分(B)の長さ(n)は,音叉状振動波発生部(A)の長さ22に対して10となっている。
一方,先行意匠の握り部(b)の長さ(n)は,棒状部(a1)の長さ(l)24に対して10となっている。すなわち,本件登録意匠は22:10であり,先行意匠は24:10であって,両意匠の比率は,ほぼ同じである。
[差異点]
(具体的構成態様の差異点)
【1】本件登録意匠のウエイト(A3)は,棒状部(A1)の上部に,これより僅かに太い角柱状を呈して設けられている。
一方,先行意匠の棒状部(a1)には,上記ウエイト(A3)に相当する機能を有する部材は無い。
【2】本件登録意匠の棒状部(A1)の断面形状は,略正方形である。
一方,先行意匠の棒状部(a1)の断面形状は,明らかでない。
【3】本件登録意匠の持ち手部(B)の形状は,中間部(M)が括れると共に上下両端に向けて径が次第に小さくなり,両端で径が再び大きくなった縁取り(E)が形成されている。
一方,先行意匠の握り部(b)の形状は,中間部(m)が膨らむと共に上下両端に向けて径が次第に小さくなり,両端で径が再び大きくなった縁取り(e)が形成されている。
【4】本件登録意匠の当て部(B1)の形状は,下端が尖った円錐伏となっている。大きさは,円錐底部の径(S)が,持ち手部分(B)の縁取り(E)の径より小さい。当て部(B1)の長さ(R)は上記径(S)の約0.5である。
一方,先行意匠の押当部材(c)の形状は,ラグビーボール状となっている。大きさは,その径(s)が握り部(b)の縁取り(e)の径より小さい。押当部材(c)の長さ(r)は上記径(s)の約1.5である。

(4)本件登録意匠と先行意匠の評価
(4-1)本件登録意匠と先行意匠の形態の共通点の評価
【1】本件登録意匠を全体観察すると,共通する基本的構成態様のうち,音叉状振動波発生部(A)と持ち手部(B)は,取引者・需用者が最も注意を惹く部分であり,当て部(C)は,上記(A)(B)に比較して,極端に小さくて殆ど日立たない部分である。
【2】また,具体的構成態様のうち,本件登録意匠の音叉状振動波発生部(A)の形状は,1:3.3:22であるのに対して,先行意匠のU字状の振動子(a)の形状は,1:3:24であり,両意匠は殆ど同じ形状であって,取引者・需用者には同じ形状の印象を与える。
【3】さらに,具体的構成態様のうち,本件登録意匠の持ち手部分(B)の形状は22:10であり,先行意匠の握り部(b)の形状は24:10であって,両意匠の比率は,ほぼ同じであり,両意匠は殆ど同じ形状であって,取引者・需用者には同じ形状の印象を与える。
(4-2)本件登録意匠と先行意匠の形態の差異点の評価
【1】先行意匠の握り部(b)は伝動杆(d)を介して取り付けられているのに対して,本件登録意匠には,上記伝動杆(d)に相当する部材が存在するのか否か,明らかでない点で両意匠間に差異が見られるが,先行意匠の伝動杆(d)は握り部(b)内に挿設されているため,両意匠は外観上,殆ど差異は認められない。
【2】本件登録意匠の当て部(B1)は持ち手部分(B)の下端部に設けられているのに対して,先行意匠の押当部材(4)は伝動杆(d)の下部に設けられているが,それらの取付態様に関する限り,外観上,殆ど差異は認められない。
【3】本件登録意匠のウエイト(A3)は,棒状部(A1)の上部に延長して,これより僅かに太い角柱状を呈して設けられているが,外観的に殆ど目立たない。
【4】本件登録意匠の棒状部(A1)の断面形状は,略正方形であり,先行意匠では棒状部(a1)の断面形状を明らかにしていないが,音叉の形状は古くから多種多様のものがあり,先行意匠の棒状部(a1)が正方形の断面形状をも含むものと解釈するのに無理がない以上,両意匠の棒状部の断面形状は同じであると評価する。
【5】本件登録意匠の持ち手部(B)と先行意匠の握り部(b)の形状は,中間部(m)が括れているか否かの点を除けば,全体的に中間部が膨らんだ形状が共通する。また,本件登録意匠の持ち手部(B)の形状は持ち手として極ありふれた形状であって,特に看者の注意を惹く形状ではない。
【6】本件登録意匠の当て部(C)と,先行意匠の押当部材(c)の大きさと形状には,差異が見られるが,上述のように,当て部(C)は,基本的構成態様の中で極端に小さくて,全体の外観に影響を与えるほど殆ど目立たない部分である。
(5)類否判断
本件登録意匠を全体観察すると,共通する基本的構成態様のうち,音叉状振動波発生部(A)と持ち手部(B)は,取引者・需用者が最も注意を惹く特徴のある構成態様であり,上記音叉状振動波発生部(A)の形状は先行意匠のU字状の振動子(a)の形状と殆ど同じであると共に,上記持ち手部(B)と先行意匠の握り部(b)の差異点が看者に与える印象は微弱なものである。
さらに,本件登録意匠と先行意匠の形態のその他の差異点についても,上記共通点がもたらす類似した美観を凌駕するほどのものとは到底いえない。


3.本件意匠登録を無効とすべき理由2(創作非容易性なし)
(1)本件登録意匠の認定
本件登録意匠の部分態様について,上記比較参考図Aを参照しながら説明する。
部分態様I:音叉状振動波発生部(A)が,2本の平行な棒状部(A1)と,これら棒状部(A1)の下端を,相互に連結しているU字状連結基部(A2)により一体的に構成されていること。
部分態様II:ウエイト(A3)が,上記2本の棒状部(A1)の上部に,それぞれ設けられていること。
部分態様III:持ち手部(B)が,上記U字状連結基部(A2)の下部に設けられていること。
部分態様IV:当て部(C)が,上記持ち手部分(B)の下部に設けられていること。
(2)引用形態の態様
引用形態の態様の部分態様について,上記比較参考図Aを参照しながら説明する。
部分態様i:U字状の振動子(a)が,2本の平行な棒状部(a1)と,これら棒状部(a1)の下端を,相互に連結しているU字基部(a2)により一体的に構成されていること。
部分態様ii:上記2本の棒状部(a1)の上部には,本件登録意匠の上記ウエイト(A3)に相当する部材が設けられていない。
部分態様iii:握り部(b)が,上記U字基部(a2)の下部に設けられていること。
部分態様iv:押当部材(c)が,上記握り部(b)の下部に設けられていること。
(3)本件登録意匠と引用形態の対比(両者の対応する部分態様の対比)
【1】部分態様(I)と(i)の対比
本件登録意匠の音叉状振動波発生部(A)は,引用形態のU字状の振動子(a)を引用するまでもなく,広く知られている音叉の形態であり,公知形態をそのまま表した,ありふれた造形処理であって創作性を有しない。
【2】部分態様(II)と(ii)の対比
本件登録意匠のウエイト(A3)は,棒状部(A1)の上部を単に太くした,ありふれた形状に過ぎず,また,その取付位置も格別に注意を惹くものでもなく,創作容易な意匠である。なお,甲第1号証の第3図(A)には,上記ウエイト(A3)と同じ機能を有する錘材(1b)が開示されている。
【3】部分態様(III)と(iii)の対比
本件登録意匠の持ち手部(B)は,引用形態の持ち手部(b)とは,その形状が僅かに相違するが,持ち手部(B)の形状は,持手部材(握り部)として極ありふれたた形状に過ぎず,美観上格別に注意を惹く形態でもないので,創作容易な意匠である。
【4】部分態様(IV)と(iv)の対比
本件登録意匠の当て部(C)は,本件登録意匠の全体の形態に較べて,その存在が無視し得る程度に小さく,全体の形態に影響を及ぼさない。従って,引用形態の押当部材(c)と比較するまでもなく,創作性はない。
(4)創作容易性の判断
以上の点【1】?【4】を総合して判断すると,本件登録意匠は,その形態を構成する部分態様I,II,III及びIVに格別の創作性が認められず,引用形態i,ii,iii及びivから容易に想到できるものである。
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた甲第1号証の引用形態に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定に該当する。



第2 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,答弁書を提出し,答弁の趣旨を「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」と答弁し,その理由を要点,以下のとおり主張し,その主張事実を立証するため,証拠方法として,乙第1号証乃至乙第5号証を提出した。


1)無効理由の要点について
請求人は本件登録意匠について無効を主張するが,本件登録意匠には請求人が主張するような無効の理由はない。

以下,請求人の主張する無効理由が存在しない旨を述べるが,そもそも請求人が無効の理由として引用した意匠の認定方法に重大な誤りがあるので,まずその点について反論する。

請求人は無効理由の一つとして,本件登録意匠が,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された先行意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により,意匠登録を受けることができないものである旨主張する。

請求人は,甲第1号証に記載された意匠を先行意匠と定義しているが,請求人が,第3頁の「(2-1)先行意匠が存在する事実」において,「明細書及び第1図ないし第7図」に開示している」と述べているように,請求人が,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に違反しているものとして引用している意匠は複数存在する。

意匠法第3条第1項第3号に該当するか否かについて,すなわち,意匠についての類否判断は,比較される両意匠の形態における各共通点及び差異点についての個別評価に基づき,意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に,需要者に対して異なる美感を起こさせるか否かを判断するものとされている。したがって,請求人の定義のように,複数の意匠を一つの意匠として観察した結果に基づき類否判断を行うことは許されないものと考える。
ここで,「明細書及び第1図ないし第7図に開示されている」意匠であるが,意匠全体の形態が認定できる意匠は,第1図,第5図に開示されている3つの意匠のみである。第2図における図面は,第1図に開示されている意匠の使用形態を示すものであり,第3図,第4図,第6図,及び第7図にはいずれも意匠の一部分のみが開示されているのみであり,発明の詳細な説明の記載によっても,それらがいかなる意匠であるのか全体の形態を認識することができないものである。

したがって,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当するか否かの検討は,第1図及び第5図において開示されている3つの意匠に基づいて行われるべきである。本答弁書においては,第1図に開示されている意匠を「先行意匠1」,第5図(A)に開示されている意匠を「先行意匠2」,第5図(B)に開示されている意匠を「先行意匠3」とし,これら先行意匠1乃至3を総称して検討に支障がない場合のみ単に「先行意匠」として反論を行うものとする。


2)本件意匠登録を無効とすべき理由1(新規性なし)に対する反論
2)-1 物品に係る認定
本件登録意匠に係る物品は,「美容器具」であり,振動波を人体に伝えることによって,体形・自律神経・ホルモンバランス等を整える効果を奏するものである,一方,先行意匠に係る物品は,「音叉型治療器」であり,U字状の振動子を槌打すると調体用音叉と同様に振勤し,伝道杆を介して振動する押し当て部材を人体の患部に押し当てて,症状を改善する治療器であるとされている。

物品の類似の認定については,物品の用途・機能に基づいて判断するものとされており,一般的には,同一物品とは,用途及び機能が同じものをいい,類似物品とは,用途が同一で機能が異なるものをいうとされている。

本件登録意匠に係る物品と先行意匠に係る物品とは,音叉状の振動子から発生する振動波を人体の一部に伝えるという機能においては同一ともいえるが,美容を目的とするか,治療を目的とするかという用途において異なるものである。従って,両物品は,請求人が主張する同一の物品ではなく,類似物品であるとも言えず,非類似物品であると言える。

2)-2 基本的構成態様に係る認定及び評価
本件登録意匠及び先行意匠は,いずれもU字状の振動波を発生させる部位(U字部)の下部に棒状の持ち手部分(持ち手部)が設けられ,さらにその下部に,振動波を人体に伝えるための押し当て部材(当て部)が設けられている。

したがって,両意匠は基本的構成態様は共通するものである。なお,請求人は,審判請求書において,両意匠の各部に関する名称について複数の用語を使用しているが,基本的構成態様の共通点及び差異点の評価を明確にするため,これらの共通する部位については,以後,それぞれ「U字部」,「持ち手部」,「当て部」として反論する。

一方,本件登録意匠及び先行意匠はいずれも音叉をモチーフとした器具である。この点については,先行意匠が開示されている特許公報の「発明の名称」において「音叉型治療器」とされていることから,請求人においても異論のないことであると思われる。ここで,音叉とは,一般的に「全体的にU字形をしており,底部に柄が付いている」ものとされている(乙第1号証)。
請求人は,本件登録意匠を全体観察すると,共通する基本的構成態様のうち,U字部(振動波発生部)と持ち手部は,取引者・需要者が最も注意を惹く特徴のある構成態様であると述べるが,本件登録意匠及び先行意匠の基本的構成態様のうち,U字部(振動波発生部)と持ち手部の態様は,これらに先行する意匠との関係では特徴的な形態とは言えない(乙第2号証)。したがって,これらの形態そのものが需要者の注意を引く程度は小さいものと言える。

2)-3 具体的構成態様に係る認定及び評価
A.U字部上部のウエイト
本件登録意匠のU字部上部に設けられているウエイトは,先行意匠1乃至3のいずれにも見られない部位である。本件登録意匠については,意匠に係る物品の説明に記載しているとおり,当該ウエイトを軟質のハンマー等によって叩くことにより振動波を発生させるものである。したがって,当該ウエイトは,本件登録意匠に係る物品を使用する際は,需要者の注意を強く引く部分であると言える。

請求人は,具体的構成態様の差異点として,「本件登録意匠のウエイトは,棒状部の上部に,これより僅かに太い角柱状を呈して設けられている」と評価しているが,「僅かに太い」のは正面図(もしくは,省略されている背面図)を正視した場合のみであり,右側面図(もしくは,省略されている左側面図),平面図,及び底面図を見た場合,U字部下部を構成する棒状部の横幅に対し,当該ウエイト部の横幅の比は1:3ほどもあり,当該ウエイト部が本件登録意匠の与える美感に与える影響は大きいものと言える。なお,参酌されるべき参考斜視図においても,棒状部に比べて,相当太いウエイト部が設けられていることは顕著な事実である。

請求人が,正面図以外の図面をも含めて,当該ウエイト部を「僅かに太い」と評価しているのであれば,具体的構成態様の認定を誤っているとしか思えない。また,例えば通常の設置状態であれば背面及び底面を見ることのないテレビ受像機の意匠の場合は,背面や底面に係る観察の比重が軽くなるものとされているが,本件登録意匠のように,需要者が手にとって使用するような物品の場合は,意匠全体を同じ比重で観察すべきであるとされているのであるから,正面図以外の図面を含めていないのであれば,その観察方法において,そもそも誤りがあると言えるものである。

また,請求人は,「甲第1号証の第3図(A)には,上記ウエイト(A3)と同じ機能を有する錘材(1b)が設けられている」とするが,前記の通り,第3図(A)には意匠の一部分のみが開示されているのみであり,発明の詳細な説明の記載によっても,それらがいかなる意匠であるのか全体の形態を認識することができないのであるから,そもそもこの図面を両意匠の類否判断の基礎とすることはできない。

B.持ち手部
請求人は,持ち手部の差異点に係る認定について,いずれの意匠についても,「上下両端に向けて径が小さくなり,両端で径が再び大きくなった縁取り」が形成されているとする。しかしながら,本件登録意匠においては,両端で径が再び大きくなるとは言っても,緩やかな曲線を描きながらやや大きくなる程度であり,特に両端部において緩やかな曲線を描いているのに対し,先行意匠では,両端部において,中央部と同じ,または,それ以上の,持ち手部における最大径を有しており,さらに,両端部に向かって径が再び大きくなる縁取りが急な角度で形成されているため,全く異なる印象を看者に与えているものである。

また,本件登録意匠は,請求入札述べるように中央部が括れているため,あたかも二つの部材が接合しているかのように見えるのに比べ,先行意匠は,全体として一体的な部位である。

これらの差異点は,需要者に全く異なる美感を与えるものであり,両意匠に係る物品が,手にとって使用するものなのである以上,前記のウエイト部と同様に,持ち手部は,両意匠に係る物品を使用する際は,需要者の注意を強く引きやすい部分であると言える。実際に,物品を「音叉」とする意匠登録第1296654号(乙第3号証),意匠登録第1296320号(乙第4号証)などの意匠公報を見ても,持ち手部分に係る部分意匠がそれぞれ非類似の意匠として独立して登録されていることからも,持ち手部が需要者の注意を引きうる部分であり,この部分の形状が需要者の美感に与える影響について,何ら根拠もなく捨象されなければならない理由は存在しない。

請求人は,本件登録意匠の持ち手部について,「ごくありふれた形状であって,特に看者の注意を惹く形状ではない」と断じているが,当該形状が「ごくありふれたもの形状である」ことを証明する客観的な証拠を示すこともなく,単に主観的に印象を述べているに過ぎない。

C.当て部
請求人が主張するとおり,本件登録意匠を全体観察しか場合,当て部は他の部位に比べると比較的小さく設けられており,比較的目立たない部分であると言える。

一方,先行意匠1及び2における当て部は,請求人が主張するようにラグビーボール状の球体である。先行意匠1は持ち手部に対し,当該球体の長い直径が横になるように垂直に当て部を設けたものであり,先行意匠2は,当該球体の長い直径が縦になるように当て部を設けたものである。当該球体の長い直径は持ち手部の径と同程度であり,球体全体として目立たないというほど小さいものではない。

また,先行意匠3における当て部は,下端部が凹面状の部材であり,下端部に向かって大きくなる縁取りが急な角度で描かれており,下端部の径は持ち部の径よりも大きく設けられているのは明らかである。

本件登録意匠における当て部が目立たないのに比べ,先行意匠における当て部はいずれも他の部位に比べて著しく小さいというものではなく,そのような大きな差異が捨象されなければならない積極的な理由はない。

本件登録意匠も先行意匠も,当て部は人体の患部等に接するものである。両意匠がいずれも音叉の振動波を人体の患部等に伝えることにより,美容効果または治療効果を奏する物品に係るものなのであるから,実際の使用にあたり,当該当て部は,需要者に最も強い関心をもって観察される部分であるとも言える。例えば,注射器を使用する行為においては,針と患部を見ずに注射する看護師はいないのであるから,注射器の針と患部が注視されるだろうし,聴診器を使用する行為においては,医者は聴診器の先と患部が注目されるであろう。

美容にせよ,医療にせよ,対象となる患者の患部に接する部分は使用の際に最も注意を引く部分(実際には,使用者の職務上最も注意を持たなければならない部分)であるといってよいのであるから,この部分に係る形状を類否判断における評価から単純に除外することには何ら妥当性はない。

D.その他
請求人は,本件登録意匠と先行意匠のU字部の形状を比較するために比較参考図Bを提出しているが,比較参考図Bに表されている「先行意匠」は先行意匠1乃至3のいずれのU字部とも形状が異なるものであるため,請求人の主張する「本件意匠登録を無効とすべき理由1(新規性なし)」についての無効理由としては参酌すべきではない。

E.小括
請求人が,「本件意匠登録を無効とすべき理由2(創作非容易性なし)において主張するとおり,U字状の振動子は音叉としては広く知られている形態であり,また前記したとおり振動子の下部に柄が設けられていることも広く知られている形態である。そうであれば,基本的構成態様において,これらの形状が共通しているという点が,類否判断に与える影響は,小さくなるものと考えるべきである。

一方,具体的構成態様の各部,特に需要者の注意を引きやすい箇所でそれぞれが顕著な差異を有していることは明らかであり,これらの具体的構成態様の差異は,基本的構成態様の共通点を凌駕するものと言える。

本件登録意匠と先行意匠については,基本的構成態様における共通点が広く知られている形態であることを踏まえると,需要者の注意を引きやすい各部位における顕著な差異は,明らかに基本的構成態様における共通点の与える印象を凌駕するものであり,してみれば,本件登録意匠は,先行意匠とは全く異なる美感を生じせしめるものと言え,両意匠は非類似の形態であると言える。

請求人の主張には,具体的態様の差異点を個別にとらえ,かつ,その差異点を主観的な評価のみで単純に除外している面が多々見られるが,意匠は全体が有機的なつながりを持って結合することによって成立するものであるから,各部の差異を個別に取り上げて微差であるとして単純に除外する請求人の評価手法は明らかに失当である。
以上より,本件登録意匠には,請求人の主張するような意匠法第3条第1項第3号に該当するという無効理由が存在しないことは明らかである。


3)本件意匠登録を無効とすべき理由2(創作非容易性なし)に対する反論
3)-1 創作非容易性について
意匠法第3条2項の規定は,独占排他権を付与するに値しない意匠の登録を排除するために,創作容易な意匠を登録しない旨を定めたものであるが,現在の特許庁の審査基準では,創作容易な意匠の類型として,「置換の意匠」,「寄せ集めの意匠」,「配置の変更による意匠」,「構成比率の変更又は連続する数の増減による意匠」,「公然知られた形状,模様若しくは色彩これらの結合をほとんどそのまま表したにすぎない意匠」,「商慣習上の転用」の六つを挙げている。

もちろん,これらの基準は,特許庁における意匠登録出願事務の便宜と統一のために定められたものであり,またこれらの類型は例示として列挙されているものであるから,これらの行為類型にあてはまらないからと言って,創作容易ではないということはできない。しかしながら,意匠が創作容易であるというためには,少なくともこれらの類型において示されている程度の先行意匠との具体的な対比及び創作が容易であることの客観的な基準に基づく評価が必要であるものと思料する。

3)-2 請求人の主張について
請求人は,本件登録意匠における意匠の態様について,それぞれ以下のように創作性がない旨主張する。

(i)本件登録意匠の音叉状振動波発生部(U字部)は,広く知られている音叉の形態であり,公知形態をそのまま表した,ありふれた造形処理であって創作性を有しない。
(ii)本件登録意匠のウエイト部は,棒状部(持ち手部)の上部を単に太くしたありふれた形状に過ぎず,またその取付位置も格別に注意を惹くものではなく,創作容易な意匠である。
(iii)本件登録意匠の持ち手部は,持手部材として極ありふれた形状に過ぎず,美観上格別に注意を惹く形態でもないので,創作容易な意匠である。
(iv)本件登録意匠の当て部は,本件登録意匠の全体の形態に較べて,その存在が無視し得る程度に小さく全体の形態に影響を及ぼさない。従って,引用形態の押当部材と比較するまでもなく,創作性はない。

請求人の主張は,例えば,「ありふれた」とか,「注意を惹く形態でもない」とかいう主張をしながら,なぜありふれているのか,なぜ注意を惹く形態でないのか,何ら客観的な資料を示すことなく,ただ主観的評価を述べているだけにすぎないものである。

事案は異なるが,平成21年(行ケ)第10209号事件(乙第5号証)においても,原告の創作が容易であるとの主張について,「公然と知られたものであった」と認めるに足りる証拠が提出されていないということを根拠の一つとして,創作容易性を否定した判決かおる。当該判決に照らしても,「ありふれた」という主張をするのであれば,「ありふれていた」と認めるに足りる証拠を示す必要かおるのは当然であり,これを欠く請求人の主張は明らかに失当である。

3)-3 請求人の主張に対する反論
本件登録意匠と先行意匠とは,本答弁書の2)で述べたとおりの共通点と差異点を有するものである。このうち共通点であるU字部の振動子は音叉としては広く知られている形態であることが普通に知られていることであり,格別特微かあるとはいえないのは請求人の主張の通りである。

しかしながら,本件登録意匠の特徴は,主として差異点,U字部上部のウエイト,持ち手部,さらに,当て部にあるということができ,これらの点について,意匠全体とのバランスに配慮しながら創作をしたものである。そして,これらの差異点は,明らかに先行意匠にはみられない点てあるから,先行意匠にこれらの点を着想させるヒントが存在していたということはできない。
請求人は,甲第1号証の第3図(A)には本件登録意匠のウエイトと同じ機能を有する錘材が開示されていると主張するが,本件登録意匠のウエイト部は,棒状部の上部に,これより太い角柱状を呈して設けられているものであり,第3図(A)の錘材は,棒状部の側面に半円状を呈して設けられているものなのであるから,仮に先行意匠に当該錘材を単純に加えたとしても,本件登録意匠にはならず,単純な付加行為によって本件登録意匠を創作することはできない。

また,上記のような差異点に特徴があることから,公然知られた音叉の形態と,その他公然と知られている部材とを組み合わせただけの意匠であるということもできない。

したがって,本件登録意匠は,公然知られた形態に基づき,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,容易に創作をすることができた意匠であるとすることはできない。

むしろ,振動波を発生させるウエイト部,音叉を患部に当てる際に持つ持ち手部,対象となる人体の患郎等に振動波を伝える当て部の形態にそれぞれ創意工夫をこらした独創的なデザインであるというべきものである。

以上より,本件登録意匠には,請求人の主張するような意匠法第3条第2項に該当するという無効理由が存在しないことは明らかである。


4) むすび
以上の通り,本件登録意匠は,甲第1号証に記載された先行意匠に類似する意匠ではないため,意匠法第3条第1号第3項の規定に違反して登録されたものではなく,また,甲第1号証に記載された形態に基づいて当業者が容易に創作することができたものではないため,意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものではない。
従って,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第1号に規定する無効理由を有するものではない。



第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠,すなわち,本件審判事件に係る意匠登録第1300325号の意匠は,意匠法第4条第2項の規定の適用の申請を伴って,2006年(平成18年) 7月10日に意匠登録出願されたものであって,2007年(平成19年) 4月 6日に意匠権の設定の登録がなされたものであって,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたものによれば,意匠に係る物品を「美容器具」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであって,意匠に係る物品の説明には,「本物品は,正面図において上部両側にあらわしたウエイトのいずれかを軟質のハンマー等で叩くことにより調律用音叉と同様に振動波を発生させ,その状態で正面図において下部にあらわした持ち手部分の下端部を人体に軽く当てることにより当該振動波を人体に伝え,これにより歪んだ体形・自律神経・ホルモンバランス等を整える効果を奏する美容器具である。」とあるものである。(別紙第1参照)


2.無効理由の要点
本件無効審判において,請求人が主張する無効理由は,2つであって,その要点は,以下のとおりである。

(1)無効理由1
無効理由1は,本件登録意匠が,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された「甲第1号証に記載された意匠」に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により,意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである,というものである。

(2)無効理由2
無効理由2は,本件登録意匠が,本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた「甲第1号証記載の形態」に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により,意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである,というものである。


3.甲第1号証
(1)甲第1号証は,本件意匠登録出願の出願日である2006年(平成18年) 7月10日より前に発行された刊行物であり,かつ,出願日より約4年も前に発行されたものであるから,この記載内容が意匠法第3条第2項にいう「日本国内又は外国において公然知られた」ものと認められるものである,2002年(平成14年)11月 7日に公開された国際公開番号 WO 02/087488 A1の国際公開公報(世界知的所有権機関国際事務局発行)であって,「甲第1号証に記載された意匠」及び「甲第1号証記載の形態」は,それぞれ,その明細書及び第1図ないし第7図に開示されているものである。(別紙第2参照)

(2)「甲第1号証に記載された意匠」及び「甲第1号証記載の形態」
当審は,上記甲第1号証に掲載された「第1図」,「第5図(A)」及び「図5(B)」並びにそれらに関連する記載等から特定される意匠を,それぞれ,「先行意匠1」,「先行意匠2」及び「先行意匠3」とし,これらの意匠と本件登録意匠が類似するか否かを検討することによって,無効理由1の判断を行うこととし,また,これに加えて,上記甲第1号証載記載の,「第3図(A)」,「第4図(B)」,「第4図(C)」及び「第6図(A)」並びにこれらに関連する記載等から抽出される形状等の態様を,それぞれ,「先行公知態様〔1〕」,「先行公知態様〔2〕」,「先行公知態様〔3〕」及び「先行公知態様〔4〕」とし,これらの意匠又は態様に基づいて,当業者であれば,本件登録意匠を容易に創作することができたか否かを検討することによって,無効理由2の判断を行うこととする。(別紙第4参照)

(なお,先行意匠1,先行意匠2及び先行意匠3が形態上異なる点は,下端に形成された「当て部(押当部材)」の形状のみであるので,以下,これらの3つを「先行各意匠」といい,必要に応じてその形態上異なる点について述べることとする。)


4.無効理由1の判断
(1)本件登録意匠と先行各意匠の対比
(意匠に係る物品)
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「美容器具」であって,意匠に係る物品の説明によれば,「本物品は,正面図において上部両側にあらわしたウエイトのいずれかを軟質のハンマー等で叩くことにより調律用音叉と同様に振動波を発生させ,その状態で正面図において下部にあらわした持ち手部分の下端部を人体に軽く当てることにより当該振動波を人体に伝え,これにより歪んだ体形・自律神経・ホルモンバランス等を整える効果を奏する美容器具である」とするものであり,先行各意匠の意匠に係る物品は,「音叉型治療器」であり,甲第1号証の明細書の記載によれば,「例えば,リンパ腺の腫れや肩こりなどの症状を改善する音叉型治療器に関する」としていることから,これあ,本件登録意匠の願書及び願書に添付した図面の記載並びに先行各意匠に係る文献の記載等を総合し,物品の性状や両者の物品が発揮しようとする機能的な側面を考慮すれば,表記は異なり,物品としての取引流通の場がどうであるかについて不明な点もあるが,本件登録意匠と先行各意匠(以下,本項において,単に「両意匠」という。)の意匠に係る物品は,共通する。

(形態の共通点)
両意匠の形態については,主として,以下のとおりの共通点がある。

基本的構成態様として,
(A)全体が,手持ち型の音叉型状であって,細長い略「U」字状の部位(以下,「U字部」という。)と,該部が二股に分かれる湾曲した部位(以下,「U字基部」という。)の下端に形成された,やや短い略棒状の「持ち手部」からなるものであり,
具体的構成態様として,
(B)持ち手部は,外周面に凹凸が形成された回転体であって,その中心にU字部と接合された細い棒状の「杆部」が軸状に貫通してなるものであって,
(C)持ち手部(杆部)の下端には,突起状の「当て部」が形成されたものである点。

(形態の相違点)
両意匠の形態については,主として,以下のとおりの相違点がある。

(ア)本件登録意匠のU字部の両上端には,左右対称形状で一対の,極短い,角面取りした略縦長直方体形状の「ウエイト部」が,U字部の直立平行状の部位の先端部に陥合したように形成されているのに対して,先行各意匠は,それがない点,
(イ)本件登録意匠のU字部は,直立平行状の部位が略角柱状であって,ウエイト部の直下から下方に向かって,正・背面両面の外周辺部ほぼ全体が角面取りされ,左右両側面では,断面視略三角柱状で稜線を呈しているものであるのに対して,先行各意匠は,側面図等がないため,正確な形状を特定することはできないが,少なくとも,本件登録意匠のような角面取りはされておらず,略角柱状であると推定されるものである点,
(ウ)本件登録意匠の持ち手部は,外周面に凹凸が形成された回転体であって,略「ひょうたん」型のものを2個略上下対称で一対に接合したような形状をなすものであるのに対して,先行各意匠の持ち手部は,中膨れの略樽型状体の上下が糸巻きの鍔状をなしているものであり,高さに対して径が大きいものである点,
(エ)本件登録意匠の当て部は,下側に膨出した略半球体状であるのに対して,先行意匠1は,略扁平楕円体状であり,先行意匠2は,略扁長楕円体状であり,先行意匠3は,丸い鍔の付いた突起状である点,
(オ)本件登録意匠のU字基部は,一体的に形成されているものであって,該部のU字部の厚みが大きくなっているのに対して,先行各意匠は,均等な厚みのU字部に杆部が段差部を形成して接合したようになっているものである点。

(2)本件登録意匠と先行各意匠の類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。

両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態については,次のとおりである。

(形態の共通点の評価)
基本的構成態様及び具体的構成態様についての共通点(A)の「全体が,手持ち型の音叉型状であって,U字部と,U字基部の下端に形成された,やや短い略棒状の持ち手部からなるものである点」,同(B)の「持ち手部は,外周面に凹凸が形成された回転体であって,その中心にU字部と接合された細い棒状の杆部が軸状に貫通してなるものである点」及び同(C)の「持ち手部(杆部)の下端には,突起状の「当て部」が形成されたものである点」は,いずれも両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものであるし,また,音叉及び音叉から派生したこの種物品において極めてありふれた態様に過ぎないものであるから,これらの点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を大きいということはできず,この種物品の先行公知意匠に照らすところ,いずれもありふれた態様であって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であり,共通点全体としても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

(形態の相違点の評価)
これに対して,両意匠の具体的構成態様に係る各相違点は,意匠全体にわたり,いずれも非常に目に付き易い部位に係るものであり,また,この種物品の用途及び機能を前提に考えれば,いずれの点も需要者・取引者が,いずれも重大な関心をもって着目する点であって,これらの相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいという他ない。とりわけ,相違点(ア)の,U字部の両上端のウエイト部の有無については,該部にウエイト部が形成されているという基本的構成は,先行公知意匠に見られるが,本件登録意匠の具体的構成態様である「本件登録意匠は,U字部の両上端に,左右対称形状で一対の,極短い,角面取りした略縦長直方体形状のウエイト部が,U字部の直立平行状の部位の先端部に陥合したように形成されている」とした点は,この種物品の先行公知意匠に照らして,本願の特徴であるといい得るし,そもそも,先行各意匠は,ウエイト部がないのであるから,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きいというべきである。そして,相違点(ウ)の持ち手部の具体的形状の相違も,極めて見る者に与える印象の差が大きい点であるし,さらに,相違点(エ)の当て部の形状の相違は,この種物品の用途及び機能を前提とすれば,見る者の注意を極めて強く惹くものであるし,相違点(オ)U字基部の形状の相違も,両意匠の類否判断上無視できないものであって,これら相違点(ア)乃至(オ)が相まった視覚的効果を考慮すると,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕して,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきである。
なお,請求人は,「甲第1号証の上記U字状の振動子(a)の上部には,上記ウエイト(A3)に相当する部材は設けられていない。ただし,甲第1号証の第3図(A)には,上記ウエイト(A3)と同じ機能を有する錘材(1b)が開示されている」,そして,「本件登録意匠のウエイト(A3)は,棒状部(A1)の上部に延長して,これより僅かに太い角柱状を呈して設けられているが,外観的に殆ど目立たない」と主張するが,上述したように,先行公知態様〔1〕として例示される他,ウエイト部を設ける構成は,よく見られるものであるが,ウエイト部の有無による相違は大きく,また,本件登録意匠の該部の具体的構成態様が特徴のある態様であるから,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きくないということはできない。

(3)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品は,共通するが,形態においては,共通点が未だ両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して,相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕しており,意匠全体として見た場合,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕し,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきであり,本件登録意匠は,先行各意匠に類似するということはできず,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当して同法同条同項柱書の規定に違反して意匠登録を受けたものということはできないから,請求人が主張する,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,同法同条同項柱書の規定により,無効とされるべきであるとする無効理由1は,理由がない。


5.無効理由2の判断
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は,前記本章の「1.」で述べたとおりのものである。

すなわち,本件登録意匠は,意匠に係る物品を「美容器具」とし,その形態は,
基本的構成態様として,
(i)全体が,手持ち型の音叉型状であって,U字部と,U字基部の下端に形成された,やや短い略棒状の持ち手部からなるものであり,

具体的構成態様として,
(ii)U字部の両上端には,左右対称形状で一対の,極短い,角面取りした略縦長直方体形状のウエイト部が,U字部の直立平行状の部位の先端部に陥合したように形成されており,
(iii)U字部は,直立平行状の部位が略角柱状であって,ウエイト部の直下から下方に向かって,正・背面両面の外周辺部ほぼ全体が角面取りされ,左右両側面では,断面視略三角柱状で稜線を呈しているものであり,
(iv)持ち手部は,外周面に凹凸が形成された回転体であって,略「ひょうたん」型のものを2個略上下対称で一対に接合したような形状をなすものであり,
(v)持ち手部は,外周面に凹凸が形成された回転体であって,その中心にU字部と接合された細い棒状の杆部が軸状に貫通してなるものであり,
(vi)持ち手部(杆部)の下端に,突起状の当て部が形成され,その形状は,下側に膨出した略半球体状であるものであり,
(vii)U字基部は,一体的に形成されているものであって,該部のU字部の厚みが大きくなっているものである。

(2)本件登録意匠の創作容易
本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日前に公然知られていたものと認められる,「先行意匠1」,「先行意匠2」及び「先行意匠3」,並びに,「先行公知態様〔1〕」,「先行公知態様〔2〕」,「先行公知態様〔3〕」及び「先行公知態様〔4〕」,その他,周知態様等から,これらの意匠又は態様に基づいて,当業者であれば,本件登録意匠を容易に創作することができたか否かを,以下,検討する。

まず,本件登録意匠の基本的構成態様である(i)は,先行各意匠の他,この種物品分野の先行公知意匠に数多く見られる。
次に,本件登録意匠の具体的構成態様である(ii)は,ウエイト部を形成すること自体は,ありふれているが,本件登録意匠の具体的構成態様そのものは,見当たらない。同様に,本件登録意匠の具体的構成態様である(iii)も,同(iv)も,同(v)も,同(vi)も,見当たらない。本件登録意匠の具体的構成態様である(vii)については,先行公知態様〔3〕が存在する。
そうすると,無効理由2は,基本的構成態様が存在し,具体的構成態様のうちの(vii)のみが,存在するというだけに過ぎないのであって,意匠が創作容易であるとされる場合の類型への当て嵌めを検討することができないのであるから,本件登録意匠が,意匠法第3条第2項に違反して意匠登録されたものであると到底いうことはできない。

(3)小括
したがって,本件登録意匠は,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日前に,日本国内又は外国において公然知られたものと認められる「甲第1号証に記載された意匠」及び「甲第1号証記載の形態」に基づいて,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者,すなわち,当業者が容易に創作をすることができた意匠ということはできないのであって,本件意匠登録は,意匠法第3条第2項の規定に違反して意匠登録を受けたものということはできず,請求人が主張する,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,同法同条同項柱書の規定により,無効とされるべきであるとする無効理由2は,理由がない。


6.むすび
以上のとおりであって,無効理由1及び同2は,いずれも理由が無く,請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件意匠登録を無効とすることはできない。

また,審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で更に準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2012-09-14 
結審通知日 2012-09-19 
審決日 2012-09-27 
出願番号 意願2006-18120(D2006-18120) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (C4)
D 1 113・ 121- Y (C4)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 尾曲 幸輔早川 治子 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 橘 崇生
下村 圭子
登録日 2007-04-06 
登録番号 意匠登録第1300325号(D1300325) 
代理人 白銀 博 
代理人 鈴木 征四郎 
代理人 杉山 直人 
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