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審決分類 |
審判 D7 審判 D7 |
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管理番号 | 1265898 |
審判番号 | 無効2012-880003 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2012-03-01 |
確定日 | 2012-11-05 |
意匠に係る物品 | ラチェット爪 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1364780号「ラチェット爪」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第1364780号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 意匠登録第1364780号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)に関する手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 2009年(平成21年)1月30日 意匠登録出願 2009年(平成21年)6月12日 設定の登録(意匠登録第1364780号) 2012年(平成24年)3月 1日 本件意匠登録無効審判請求(請求人) 2012年(平成24年)4月27日 審判事件答弁書(被請求人) 第2 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は,「登録第1364780号意匠の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,概略以下の主張をし,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第8号証を提出したものである。 (1)意匠登録無効の理由の要点 本件登録意匠は,甲第1号証又は甲第2号証のものと類似し,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができない(当審注:以下,甲第1号証に基づく意匠法第3条第1項第3号の該当性を「無効理由1」といい,同第2号証に基づくものを「無効理由2」という。)。あるいは,甲第1号証又は甲第2号証によって公知となった意匠に基づいて当業者が容易に創作できたものであり,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができない(当審注:以下,甲第1号証に基づく意匠法第3条第2項の該当性を「無効理由3」といい,同第2号証に基づくものを「無効理由4」という。)。 したがって,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。 (2)証拠方法 甲第1号証:特開2006-230720号公報 甲第2号証:特開2005-076735号公報 甲第3号証:意願2009-018881の出願から拒絶査定までの出願経 過書類 甲第4号証:本件登録意匠の出願書類(意願2009-001853) 甲第5号証:日本粉末冶金工業会著,株式会社技術書院発行「焼結機械部品 -その設計と製造-」昭和62年10月20日発行 甲第6号証:JIS B 1581「日本工業規格 焼結含油軸受」昭和 51年11月1日発行 甲第7号証:日本機材株式会社 営業部 課長への照会書と,それに対する 回答書 甲第8号証:平成23年(ワ)第9476号 意匠権侵害差止請求事件判決 (全文) (3)本件登録意匠について ア 意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は,「ラチェット爪」である。 イ 本件登録意匠の基本的構成態様 (a)正面に於て,縦長であり,上方にいくに従って左右にわずかに減少するくさび形である。 (b)右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が円弧凹状として形成されている(正面図参照)。 (c)左側面には,滑らかな凸湾曲の当接面が形成されている(正面図参照)。 (d)左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。 (e)平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。 (f)正面視に於て,枢着用軸部の突出や,枢着ピン用小孔が,全く無い。 ウ 本件登録意匠の具体的構成態様 (g)正面視に於て,頂部から歯面の上端まで下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成されている。 (h)ギア歯の数は5個である。 (i)正面視に於て,歯面の下端から,当接面の下端まで,平滑な下傾斜面が形成されている。 (j)正面及び背面の各端面には,周縁に沿って微小高さの段押しがされている。 (4)甲第1号証(特開2006-230720号公報)について 甲第1号証は,本件登録意匠の出願日前の平成18年9月7日に発行された特許公開公報であり,本件登録意匠と類似する意匠は,甲第1号証に於て,符号(6)にて示された「浮動くさび部材」の意匠(当審注:以下,「甲1意匠」という。)である。 ア 甲1意匠の意匠に係る物品 甲1意匠の意匠に係る物品は,本件登録意匠の意匠に係る物品「ラチェット爪」と,同一用途,かつ,同一作用・機能の同一物品である。 イ 甲1意匠の「基本的構成態様」(甲1意匠の姿勢と向きを本件登録意匠と一致させて比較する。) (A)正面視に於て,縦長であり,上方にいくに従って左右にわずかに減少するくさび形である。 (B)右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が円弧凹状として形成されている(正面図参照)。 (C)左側面には,滑らかな凸湾曲の当接面が形成されている(正面図参照)。 (D)左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。 (E)平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。 (F)正面視に於て,枢着用軸部の突出や,枢着ピン用小孔が,全く無い。 ロ 甲1意匠の「具体的構成態様」 (G)頂部から歯面の上端まで下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成されている。 (H)ギア歯の数は6個である。 (I)正面視に於て,歯面の下端から幅方向の略半分まで左下方に傾斜する,平滑な下傾斜面が形成されており,この下傾斜面の下端には,円弧状膨出部が連設されている。 (5)甲第2号証(特開2005-76735号公報)について 甲第2号証は,本件登録意匠の出願日前の平成17年3月24日に発行された特許公開公報であり,本件登録意匠と類似する意匠は,甲第2号証に於て,符号(6)にて示された「浮動くさび部材」の意匠(当審注:以下,「甲2意匠」という。)である。 ア 甲2意匠の意匠に係る物品 甲2意匠は,本件登録意匠の意匠に係る物品「ラチェット爪」と,同一用途,かつ,同一作用・機能の同一物品である。 イ 甲2意匠の「基本的構成態様」(甲2意匠の姿勢と向きを本件登録意匠と一致させて比較する。) (A)正面視に於て,縦長であり,上方にいくに従って左右にわずかに減少するくさび形である。 (B)右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が(正面視に於て,)円弧凹状として形成されている。 (C)左側面には,滑らかな凸湾曲の当接面が形成されている(正面図参照)。 (D)左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。 (E)平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。 (F)正面視に於て,枢着用軸部の突出や,枢着ピン用小孔が,全く無い。 ロ 甲2意匠の「具体的構成態様」 (G)頂部から歯面の上端まで下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成されている。 (H)ギア歯の数は6個である。 (I)正面視に於て,歯面の下端から幅方向の略半分まで左下方に傾斜する,平滑な下傾斜面が形成されており,この下傾斜面の下端は,下方へ凸の略半円形状に形成された膨出部に繋がっている。 (K)当接面には(図5に示したような)隆起部(24),又は,(図6に示したような)2本の凹溝(25)(25)が形成されている。 (6)本件登録意匠と甲1意匠との対比(意匠法第3条第1項第3号)〔当審注:無効理由1〕 ア 意匠に係る物品について 本件登録意匠の意匠に係る物品は,「ラチェット爪」であり,甲1意匠の意匠に係る物品と同一物品であることは,本件登録意匠の「意匠に係る物品の説明」の欄に,「本物品は,いすの角度調節金具に用いられるものである」と記載され,かつ,使用状態を示す参考図に,いすの角度調整金具が部分断面にて描かれており,これ等を,甲第1号証の図1,図9等,及び詳細な説明と対比すれば,明白である。 イ 形態について 甲1意匠の姿勢と向きを,本件登録意匠に合わせた同一姿勢と向きとして,両意匠を比較して述べる。 (ア)本件登録意匠と甲1意匠の共通点 (ア-1)基本的構成態様 (Aa)正面視に於て,縦長であり,上方にいくに従って左右にわずかに減少するくさび形である点, (Bb)右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が円弧凹状として形成されている点, (Cc)左側面には,滑らかな凸湾曲の当接面が形成されている点, (Dd)左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である点, (Ee)平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である点, (Ff)正面視に於て,枢着用軸部の突出や,枢着ピン用小孔が,全く無い点, (ア-2)具体的構成態様 (Gg)頂部から歯面の上端まで,下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成されている点。 (イ)本件登録意匠と甲1意匠の差異点 (Hh)ギア歯の数が,本件登録意匠は5個,甲1意匠では6個である点, (Ii)正面視に於て,歯面の下端から,当接面の下端まで,本件登録意匠では,平滑な下傾斜面に連結されているのに対して,甲1意匠では,幅方向の略半分までの平滑な下傾斜面,及び,残りは下方へ凸の円弧状膨出部にて連結されている点, (Jj)本件登録意匠では,正面及び背面の各端面に,周縁に沿って微小高さの段押しがされているのに対して,甲1意匠では段押しがない点。 (ウ)共通点の検討 両意匠は,基本的構成態様(Aa)ないし(Ff)が全く共通し,かつ,具体的構成態様(Gg)も共通している。 特に,基本的構成態様(Bb)及び同(Cc)を共通することにより,両意匠には,「表ての顔」と「裏の顔」を持った以下のような独特の「二面性」という共通点がある。 即ち,「表ての顔」は,その滑らかな曲面形状から,看者に,丸みのある,柔らかな印象を与え,「裏の顔」は,そのギザギザの形状から,看者に,角ばった,硬い印象を与える。 このような「二面性」をもつ形状は,今までにない極めて特異な形状である。この「二面性」から奏される美感が,従来の意匠にはない甲1意匠の最大の特徴であるが,前記基本的構成態様(Bb)及び同(Cc)を共通とした本件登録意匠も,全く同様の「二面性」から奏される美感を有する。 (エ)差異点の検討 a 具体的構成態様に於ける差異点(Hh)の小さなギア歯の個数が「5個」と「6個」の差異は,微細な違いであって,間接対比観察によれば,看者は気付かない程度のものと言える。 b 差異点(Ii)は,甲第3号証の出願経過を勘案するならば,類否判断に与える影響は全く軽微なものである。 即ち,特許庁審査官は,甲2意匠には,「当接面(符号9)」に凸部(図5の隆起部24)又は凹部(図6の凹溝25)が存在しているにもかかわらず,この甲2意匠と甲第3号証の意匠と類似であると判断している。 従って,「当接面(符号9)」に凸部や凹部が存在しない甲1意匠は,甲第3号証の意匠と一層類似する関係にあると言える。 そして,上記甲第3号証の意匠と本件登録意匠とは,「正面視に於て,歯面の下端から,当接面の下端まで,平滑な下傾斜面にて連結された形状」において共通している以上,甲1意匠と本件登録意匠とは,深い類似関係にあることは明白であり,上記差異点(Ii)は,類否判断に与える影響は軽微なものである。 c 差異点(Jj)について 物品の大きさ・寸法について検討すれば,「浮動くさび(ラチェット爪)」は,正面図の高さ寸法が,請求人の製品では約14ミリであり,被請求人の製品では約12ミリであり,意匠の類否判断に於ては,拡大鏡(虫メガネ)を用いて観察するのではなく,“肉眼”をもってする間接対比観察が基本的原則である。 さらに,甲第5ないし7号証から明らかなように,本件登録意匠の正面図と背面図に表われた段押し模様は,このような小さな物品を粉末冶金法によって製造する場合には,従来からの周知の模様に過ぎず,機械部品(角度調整金具の一部品)を取扱う需要者が,肉眼をもって観察した場合には,全く注意を喚起することなく,見過ごすところのありふれた(周知の)極めて微小な模様に過ぎない。 ウ 小括 以上のとおり,機械部品(角度調整金具の一部品おしての浮動くさび部材)を取扱う一般需用者にとっては,主として前述の基本的構成態様の共通点(Aa)ないし(Ff),及び,具体的構成態様の共通点(Gg)に,格別な注意が喚起される。 これに対して,差異点(Hh)ないし(Jj)は,類否判断に与える影響は極めて僅かである。 即ち,本件登録意匠と甲1意匠とを比較すれば,特徴的な共通点(Aa)ないし(Gg)が,差異点(Hh)ないし(Jj)を,遥かに凌駕し,両意匠は類似であることは疑いがない。特に,前述の「表ての顔」「裏の顔」の「二面性」を共通としており,両意匠は類似する。 故に,本件登録意匠は,甲1意匠と類似し,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。 (7)本件登録意匠と甲2意匠との対比(意匠法第3条第1項第3号)〔当審注:無効理由2〕 ア 意匠に係る物品について 甲1意匠について,(6)アにて述べた理由と同様の理由にて,甲2意匠と本件登録意匠「ラチェット爪」とは,同一物品である。 イ 形態について (ア)(甲1意匠の場合に比べて)この甲2意匠では,当接面(9)に,図5の突隆部(24),又は,図6の凹溝(25)が付加されている点で,甲1意匠と僅かの差異が存在する。しかしながら,甲第3号証に示すように,本件登録意匠に近似の意匠のものが,甲2意匠と類似であるとの特許庁審査官の拒絶査定が確定している。 (イ)従って,正面図に於て,下端部の形状の差異は,無視すべき軽微な差異である。 (ウ)それ以外の主張については,前項(6)に於て主張の内容と,ほぼ共通するので,前項(6)の請求人の主張内容を,甲2意匠でもそのまま主張する。 即ち,本件登録意匠は,甲2意匠と類似し,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。 (8)本件登録意匠と甲1意匠(又は甲2意匠)との対比(意匠法第3条第2項)〔当審注:無効理由3,同4〕 ア 意匠に係る物品について 甲1意匠(又は甲2意匠)の意匠に係る物品と,本件登録意匠の意匠に係る物品とは,同一物品である((6)ア参照)。 イ 形態について (ア)本件登録意匠と甲1意匠(甲2意匠)との共通点 (但し,両意匠の比較に当たって,本件登録意匠の意匠図面にならって,正面図,左側面図,右側面図,平面図等を一致した姿勢にて,対比する。) (i)正面視に於て,両意匠は,上方にいくに従って左右幅寸法が僅かに減少する縦長状くさび形である点, (ii)右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が円弧凹状として形成されている点, (iii)左側面(当接面)には,凸湾曲面状に形成されている点, (iv)右側面と左側面における輪郭は,縦横比の差が小さい長方形である点, (v)平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である点, (vi)正面視において,(従来のラチェット爪では必須であったところの)枢着用軸部の突出も,枢着ピン用小孔も,全然備えていないシンプルな形状である点, (vii)正面視に於て,頂部から,(歯面の上端に至る)下方へ傾斜する平滑な上傾斜面が形成されている点, (イ)本件登録意匠と甲1意匠(甲2意匠)と差異点 (viii)ギア歯の数に於て,5個と6個の相違がある点, (ix)正面視に於て,歯面の下端から下方へ連続する部位が,本件登録意匠では,平滑な下傾斜面であるのに対して,甲1意匠(甲2意匠)では,平滑な下傾斜面,及び,円弧状膨出凸部とを有する形状である点, (x)正面図及び背面図に於て,本件登録意匠では周縁に沿って微小高さの段押しがされているのに対して,甲1意匠(甲2意匠)では,段押しが無い点。 (ウ)創作容易性についての検討 (ウ-1)まず,前項(イ)の(viii)について検討すれば,ギア歯の本数を,6個から5個に減少させることは極めて容易であることは疑いがない。 (ウ-2)次に,前項(イ)の(ix)について検討すれば,前記甲第3号証から明らかな如く,審査官は,差異(ix)につき,「両意匠に別異感を生じさせるほどのものとはいえません」(拒絶査定謄本の”付記”第4行目)と査定し,両意匠の類否への影響は微小な部位であると付記している。 しかも,同拒絶査定謄本の“付記”第3行目に於て,審査官は,「本願の意匠の方がむしろ特徴のないものであって」と明記し,甲第3号証の意匠における下端部の平滑な下傾斜面(即ち,本件登録意匠における下端部の平滑な下傾斜面)が,”特徴のないものであって”と断定している。 従って,当業者にとって,甲1意匠・甲2意匠の下端部の形状を,円弧状膨出部を下方斜めに切断するような”特徴のないもの”に形状変更することは,全く創作性を必要とせず,容易になしえたことは,明らかである。 (ウ-3)次に,前項(イ)の(x)について検討すれば,甲第5号証に記載の写真又は図面から,小型の精密機械部品を,“粉末冶金法”によって焼結金属として製造すれば,(X)ギア歯では,ギア歯基部よりも少し内部寄りに勾配面(面取り)が段押しされる点,(Y)ギア歯以外では周縁に沿って微小高さの段押しがされている点,は全くの周知技術である。 さらに,甲第6号証から判るように,昭和51年の昔から,焼結合金では,平坦面と勾配面とから成る面取り形状(段押し)が規格化されており,その後の焼結合金の小型機械部品への普及に伴って,このような段押し模様は,全く周知・慣用化されている。 さらに,甲第7号証からも,本件登録意匠は,単に“粉末冶金法”によって製造した結果,自然に出現するところの「段押し跡」(ランド形状)が,正面図及び背面図の両端面に表示されているに過ぎない。 ウ 小括 以上述べたように,本件登録意匠は,公知の甲1意匠(又は甲2意匠)の形状に,甲第5号証ないし甲第7号証に示した周知の「段押し模様」を単に取り入れ,かつ,ギア歯の数を6個から5個に減少し,そして,下端形状を特徴のない形状に置き換えたに過ぎず,当業者ならば容易に創作することができたことは,明白である。 故に,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定により,意匠登録を受けることができないものである。 (9)むすび 以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号,又は,同法第3条第2項の規定により,意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。 2.被請求人の主張 被請求人は,「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由として,概略以下の主張をし,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。 (1)本件登録意匠について ア 意匠に係る物品について 本件登録意匠の意匠に係る物品は,「ラチェット爪」である。 イ 本件登録意匠の形態について イ-1 正面視において (i)全体として「くさび」状である。 (ii)上部と下部は,頂部がR状に形成された三角状である。 (iii)上部三角状と下部三角状の頂部の角度は,上部が下部よりも大きい。 (iv)上部三角状と下部三角状の底辺は,上部が下部よりも小さい。 (v)上部三角状と下部三角状のギア歯側(右側)の斜辺は,下部三角状の斜辺が長い。 (vi)右側側面(正面)にギア歯が5個配設されている。 (vii)5個のギア歯の中間に位置するギア歯の歯先点は,「くさび」の縦方向の中間位置点よりも上方に位置して配設されている。 (viii)左側面(背面)は,下部から垂直線との高さ対比において上から3個目のギア歯の下側歯底点の水平直線位置まで直線を形成し,上記位置から3個目ギア歯の上側歯底点まで緩やかなR状を形成し,さらに,「くさび」の上部まで直線を形成する略「く」の字状形状である。 (iv)「くさび」の外周縁の内側に膨隆部が形成されている。 イ-2 側面視において (i)縦長の長方形状であって,その縦と横の長さの比は1.3:1である。 (ii)長方形状の右側と左側の縦線は,2本の線からなる二重線からなり,外側の縦線は横線端より内側に位置して,膨隆部の左右側の縦線が看取される形状である。 イ-3 平面視において (i)縦長の長方形であって,縦と横の長さの比は1.5:1である。 (ii)長方形状の上側と下側の横線は,2本の線からなる二重線からなり,外側の横線は縦線端より内側に位置して,膨隆部の上下側の横線が看取される形状である。 (2)甲1意匠の形態について (i)正面視に於いて,下部の半円形の耳朶状膨出部と比較すると,「左右がわずかに減少するくさび形である」とは言えない。 (ii)左右の各側面視における輪郭は,横長の長方形であって,縦と横の長さの比は,0.77:1である。 (iii)正面視に於いて,最下端のギア歯からの傾斜は,幅方向の略3分の1まで平滑な傾斜面が形成されて傾斜下端部からは半円形の耳朶状膨出部が連設されている。 (3)甲2意匠の形態について (i)正面視に於いて,下部の半円形の耳朶状膨出部と比較すると,「左右がわずかに減少するくさび形である」とは言えない。 (ii)左平面視(当接面)においては,中央部に2条の縦溝あるは縦長の膨隆部が形成されている。 (iii)正面視に於いて,歯面下端から下傾斜面下端部位置は,歯面下端と当接面との間の長さの約3分の1の位置までである。下傾斜面下端部から下方には略半円形状の耳朶状膨出部が形成されている。 (4)本件登録意匠と甲1意匠との対比(意匠法第3条第1項第3号・同法第3条第2項)〔当審注:無効理由1及び同3〕 本件登録意匠と甲1意匠の形状を比較すると次のとおりである。 ア 一致点 (i)全体として「くさび」形である。 (ii)「くさび」の上端部(頂部)は三角形状である。 (iii)正面視において「くさび」形の右側面には歯が配設されている。 イ 形態の相違点 (i)側面視において歯側と反対面である当接面につき,本件登録意匠は,中間部をR状の曲面とし,その上下を直線とする「く」の字状であるのに対して,甲1意匠は,当接面全体が凸湾曲状である点, (ii)正面視において下端部は,本件登録意匠では三角状であるのに対して,甲1意匠は,半円形の耳朶状の形状である点, (iii)正面視及び側面視において,本件登録意匠は,正面と背面に歯の幅を基準にして,その外側に段違いの平坦な膨隆部が形成されているのに対して,甲1意匠には,このような膨隆部は存在しない点, (iv)側面視において,本件登録意匠は,外形輪郭が縦長の長方形であるのに対して,甲1意匠は,横長の長方形である点。 ウ 小括 上記比較から,本件登録意匠の形状と甲1意匠の形状において,一致点(i)ないし(iii)は共に,公知意匠(乙第1号証ないし乙第3号証)において公開された形状である。 本件登録意匠が,これら(i)ないし(iii)の形状と類似しているとしても,これらの形状を本件登録意匠のラチェット爪に用いることは,甲1意匠とは無関係に公知意匠を利用したものであるから,甲1意匠の存在が本件登録意匠の登録無効原因となるものではない。 しかして,相違点(i)ないし(iv)は,本件登録意匠と甲1意匠において,意匠の要部といえる構成部分であり,また,これらの相違は本件登録意匠と甲1意匠とを峻別させる部分である。すなわち,これらの相違は,本件登録意匠と他のラチェット爪の意匠とを区別し混同防止となる構成である。 なお,請求人は,相違点(iii)の本件登録意匠の正面と背面に設けられた段違い平坦膨隆部につき,「(ラチェット爪のような)小さな物品を粉末冶金法によって製造する場合には,従来から周知の模様に過ぎず,機械部品(角度調整金具一部品)を取扱う需用者が,肉眼をもって観察した場合には,全く注意を喚起することなく,見過ごすところのありふれた(周知の)極めて微小な模様にすぎない」旨主張する。 しかしながら,本件登録意匠の物品の製造方法は焼結法に限定されず,射出成型法,引抜法などの製法がある。 焼結法においては,「段違い平坦膨隆部」を配設しても,しなくても製造できるのであるから,その選択は製造者の意向次第であり,もし,本件登録意匠の物品の製造に焼結法を選んだとしても,「段違い平坦膨隆部」の形状を如何にするかの問題は,設計者の意匠感覚に基づくものであり,本件登録意匠の「段違い平坦膨隆部」は,本件登録意匠の構成において要部となっている。 また,請求人は,需用者が,肉眼をもって観察した場合には,「段違い平坦膨隆部」が「全く注意を喚起することなく,見過ごすところのありふれた(周知の)極めて微小な模様にすぎない」旨主張するが,登録意匠と他の商品との類否判断は,登録意匠として公報に記載されている意匠形状と侵害と目される商品との形状等の対比で行われるものであって,意匠公報に記載されている意匠の構成部分を無視することはできない。また,登録意匠の形状の解釈において,その実施品の形状をもって解釈することもできないのであり,請求人の主張は理由がない。 よって,本件登録意匠と甲1意匠は,全く別異の意匠であり,類似の関係にはない。 また,さらにいえば,本件登録意匠の要部である相違点(i)ないし(iv)からなる全体としての構成の創作は容易であるものではない。 上記のとおりであるので,本件登録意匠は,甲1意匠の存在により,登録無効原因を有するものではない。 (5)本件登録意匠と甲2意匠との対比(意匠法第3条第1項第3号・同法第3条第2項)〔当審注:無効理由2,同4〕 ア 形態の一致点 (i)全体として「くさび」形である点, (ii)「くさび」の上端部(頂部)は三角形状である点, (iii)正面視において「くさび」形の右側面には歯が配設されている点。 イ 形態の相違点 (i)側面視において歯側と反対面である当接面につき,本件登録意匠は,中間部をR状の曲面とし,その上下を直線とする「く」の字状であるのに対して,甲2意匠は,当接面全体が凸湾曲状である点, (ii)正面視において下端部は,本件登録意匠は,三角状であるのに対して,甲2意匠は,半円形の耳朶状の形状である点, (iii)正面視及び側面視において,本件登録意匠は,正面と背面に歯の幅を基準にして,その外側に段違いの平坦な膨隆部が形成されているのに対して,甲2意匠には,このような膨隆部は存在しない点, (iv)側面視において,本件登録意匠は,外形輪郭が縦長の長方形であるのに対して,甲2意匠は,横長の長方形である点, (v)左側面(歯と反対側)において,本件登録意匠は,平坦面であるのに対して,甲2意匠は,中央部において縦長で幅のある隆起部が形成されている点。 ウ 小括 上記比較から,本件登録意匠の形状と甲2意匠の形状において,一致点(i)ないし(iii)は共に,公知意匠(乙第1号証ないし乙第3号証)において公開された形状である。 本件登録意匠が,これら(i)ないし(iii)の形状と類似しているとしても,これらの形状を本件登録意匠のラチェット爪に用いることは,甲2意匠とは無関係に公知意匠を利用したものであるから,甲2意匠の存在が本件登録意匠の登録無効原因となるものではない。 しかして,相違点(i)ないし(v)は,本件登録意匠と甲2意匠において,意匠の要部といえる構成部分であり,また,これらの相違は本件登録意匠と甲2意匠とを峻別させる部分である。すなわち,これらの相違は,本件登録意匠と他のラチェット爪の意匠とを区別し混同防止となる構成である。 なお,請求人は,本件登録意匠と極めて類似する甲第3号証の意匠登録出願の意匠が,甲2意匠と類似するとの理由で拒絶査定を受けたのであるから,本件登録意匠が甲2意匠や甲1意匠と類似する旨主張する。 しかしながら,意匠出願の審査においては,自他商品の混同を防止する意匠であるか否かは極めて重要な要素である。 今,下部を三角形状とする甲第3号証と下部を耳朶状とする甲2意匠とを比較すれば,両意匠に混同はあり得ない。また,下部の三角形状と耳朶状の相違は美感においても相違する。さらには,甲2意匠にあっては,歯と反対側の面の中央部に側面幅の3分の1の幅を有する膨隆部が配設されているのであるから,膨隆部の配設がない平坦面である甲2意匠と甲第3号証意匠とは別異の意匠であるというべきである。 よって,本件登録意匠と甲2意匠は,全く別異の意匠であり,類似の関係にはない。 また,さらにいえば,本件登録意匠の要部である相違点(i)ないし(v)からなる全体としての構成の創作は容易であるものではない。 上記のとおりであるので,本件登録意匠は,甲2意匠の存在により,登録無効原因を有するものではない。 (6)結論 上述したところから,本件登録意匠は,甲1意匠,甲2意匠に類似せず,かつ,その創作は非容易である。 よって,意匠法第3条第1項第3号,同2項の要件を満たすものである。 第3 当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1364780号の意匠)は,意匠に係る物品を「ラチェット爪」とし,意匠に係る物品の説明によれば,本物品は,いすの角度調整金具に用いられる部品であって,その形態は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照) 2.甲1意匠 請求人が,本件登録意匠の無効理由1の根拠とする甲1意匠は,甲第1号証として提出した,本件登録意匠の出願前,2006年(平成18年)9月7日に日本国特許庁が発行(公開)した,特開2006-230720号(発明の名称:角度調整金具)の特許公開公報に記載された,符号(6)にて示された「浮動くさび部材」である。(別紙第2参照) 3.無効理由1 本件登録意匠が,甲1意匠に類似するか否かについて,以下検討する。 3-1.本件登録意匠と甲1意匠の対比 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は,「ラチェット爪」であり,甲1意匠の意匠に係る物品は,「浮動くさび部材」であって,表記は異なるが,いずれも椅子等の角度調整金具の部品であることから,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。 (2)形態 (共通点) ア 基本的構成態様 (A)正面視における輪郭形状は,右辺は,やや凹弧状を呈し,全長にわたり複数個のギア歯からなる歯部を形成し,左辺は,滑らかな略凸湾曲状であって,上辺は,最上部のギア歯から斜め左上がりの上傾斜辺とし,下辺は,最下部のギア歯から,左下がりの下傾斜辺とし,背面視における輪郭形状は,正面視における輪郭形状と対称形状である点, (B)左右側面視における各輪郭形状は,いずれも縦横比の差が小さな略矩形状である点, (C)平底面視における各輪郭形状は,いずれも略縦長矩形状である点。 イ 具体的構成態様 (D)正背面部は,全面がほぼ平坦面状である点, (E)正面視において (E-1)上傾斜辺と下傾斜辺は,ほぼ上下対称の傾斜角度で,倒略「ハ」の字状を呈し,背面視においても,その対称形状を呈している点, (E-2)左右辺の幅が,上方にいくにしたがって僅かに減少する態様である点, (E-3)左辺と上傾斜辺が構成する頂部は,凸円弧状であり,背面視においても,その対称形状を呈している点。 (相違点) (a)正背面部につき,本件登録意匠は,それぞれの面の周縁に沿って微小高さの段押しがされている(ただし,波形状の歯部からなる右辺部分は,その周縁に沿わず,垂直方向に直線状としている。)のに対して,甲1意匠は,段押しがされていない点, (b)正面視において (b-1)左辺の略凸湾曲状の態様につき,本件登録意匠は,中間部をやや大きな曲率のR状とし,その下方をほぼ直線状,また,その上方を僅かに凸湾曲状としているのに対して,甲1意匠は,全体が緩やかな凸湾曲状とした態様とし,両意匠の背面視における同辺の態様も,正面視のそれぞれの態様と対称に表れている点, (b-2)下傾斜辺につき,本件登録意匠は,直線状であって,その下端のやや小さな曲率の円弧状を介して左辺と連設して三角形状を想起させる態様としたのに対して,甲1意匠は,左辺寄りの略2分の1の部分に,下方へ凸の略半円形状の膨出部が形成され,左辺となだらかに連設して耳朶形状を想起させる態様とし,両意匠の背面視における下傾斜辺の態様も,正面視の態様とそれぞれ対称に表れている点, (b-3)右辺の歯部に列設されたギア歯の数につき,本件登録意匠は,山部が5個であるのに対して,甲1意匠は6個である点, (b-4)頂部の凸円弧状につき,本件登録意匠は,甲1意匠より曲率がやや大きな円弧状とした態様とし,両意匠の背面視における頂部の態様も,正面視のそれぞれの態様と対称に表れている点, (c)左右側面視における各輪郭形状につき,本件登録意匠は,高さに比して左右幅が若干短い縦長矩形状であるのに対して,甲1意匠は,高さに比して左右幅が若干長い横長矩形状を呈している点。 3-2.本件登録意匠と甲1意匠の類否判断 以上の本件登録意匠と甲1意匠の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価して,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。 (1)形態の共通点の評価 基本的構成態様に係る共通点(A)ないし(C)は,両意匠の基調を形成し,共通の印象を強く与えるものであって,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところとなっている。 また,具体的構成態様に係る共通点(D)については,甲1意匠の公開前,正背面部に枢着用ピンの小孔等が全く無く,浮動した状態で使用されるものは,見受けられないことから,看者の注意を惹く部分である正背面部がほぼ平坦面状であるという共通点は,両意匠のみに見られる特徴的な態様のものであって,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものである。 また,共通点(E-1)については,右辺に設けられた波形の歯部の上下部に連設する上傾斜辺及び下傾斜辺は,正面視ほぼ上下対称の傾斜角度で,倒略「ハ」の字状を呈し,当該歯部と一体となって,略倒台形状を想起させるものであり,このような態様のものは,乙第1号証ないし乙第3号証に示された意匠にも見受けられず,これもまた,両意匠のみに見られる特徴的な態様のものであって,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものである。 次に,共通点(E-2)及び(E-3)については,いずれも顕著な視覚効果を生じているとは言い難く,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものと言わざるを得ないが,前記基本的構成態様に係る共通点(A)ないし(C)と一体となって,見る者に与える共通の印象を一層強くするものとなっている。 なお,被請求人は, (i)全体として「くさび」形である。 (ii)「くさび」形の上端部(頂部)は三角形状である。 (iii)正面視において「くさび」形の右側面には歯が配設されている。 という一致点があるが,これらは,公知意匠(乙第1号証ないし乙第3号証)において公開された形状であり,本件登録意匠が,これら(i)ないし(iii)の形状と類似しているとしても,これらの形状を本件登録意匠のラチェット爪に用いることは,甲第1号証とは無関係に公知意匠を利用したものであるから,甲第1号証の存在が本件登録意匠の登録無効原因となるものではない旨主張する。 しかしながら,乙第1号証ないし乙第3号証に示された「くさび」の形態においては,いずれも本件登録意匠と一致する部分はなく,被請求人の主張は,単に,全体が「くさび」形,あるいは,頂部が三角形状であるとか,「くさび」形の右側面に歯が配設されているなど,概念的な主張に留まり,前記判断を左右するまでには至らないものである。 したがって,被請求人のその旨の主張は,採用することができない。 (2)形態の相違点の評価 これに対して,相違点(a)ないし(c)が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,いずれも微弱にとどまるものであって,上記共通点が看者に与える強い共通感を覆すほどのものではない。 すなわち,相違点(a)の正背面部の段押しの有無の相違については,本件登録意匠の段押しは,物品全体からすれば,その高さもごく僅かであり,また,正背面部の周縁にほぼ沿って設けられた態様は,段押しというよりも,各辺の角部を斜めに僅かに面取りしたという,この種金属製部品においては,ありふれた態様との印象が強いことから,波形状の歯部からなる右辺部分は,その周縁に沿わず,垂直方向に直線状の段押しとした点を考慮したとしても,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと言えるほどの,格別の視覚効果を生じているとは言い難い。 なお,被請求人は,もし,本件登録意匠の物品の製造に焼結法を選んだとしても,「段違い平坦膨隆部」の形状を如何にするかの問題は,設計者の意匠感覚に基づくものであり,本件登録意匠の「段違い平坦膨隆部」は,本件登録意匠の構成において要部である旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件登録意匠の「段違い平坦膨隆部」の高さは極僅かであって,その形態についても格別の視覚効果を生じているものといえないことから,当該膨隆部は,本件登録意匠の構成において要部とはいえず,前記判断を左右するまでには至らない。 したがって,被請求人のその旨の主張は,採用することができない。 次に,相違点(b-1)の正面視における左辺の略凸湾曲状の相違については,正背面視してその相違がわかる程度のものであって,本件登録意匠が,その中間部をやや大きな曲率のR状とした点を考慮すれば,むしろ,両意匠ともに左辺全体が滑らかな略凸湾曲状を呈しているという共通感を生じているというべきである。 また,相違点(b-2)の下傾斜面の下端の膨出部の有無の相違は,当該部分は,椅子等の角度調整金具の部品として重要な作用効果を奏する部分とは言えず,使用状態では通常あまり目立たない下面に位置するものであって,看者の注意を惹き付ける部分であるとまではいうことができず,意匠全体から見れば,部分的な細部の相違と言わざるを得ない。 相違点(b-3)のギア歯の数の相違は,数えてみて初めて分かる程度の僅かな相違であり,むしろ,歯部に5個または6個という少ない水平な山部を形成した態様は,甲1意匠の公開前においても見受けられない両意匠の特徴的な共通する態様というべきである。 相違点(b-4)の頂部の凸円弧状の曲率の相違,及び同(c)の左右の各側面視の輪郭形状の縦横比率の相違についても,いずれもその差は僅かなものであって,未だ両意匠を別異なものとするまでには至らない。 なお,被請求人は,前記相違点(a),同(b-1),同(b-2),及び同(c)は,本件登録意匠と甲1意匠において,意匠の要部といえる構成部分であり,また,これらの相違は,本件登録意匠と甲1意匠とを峻別させる部分である旨主張する。 しかしながら,被請求人が主張する相違点は,前記のとおり,いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものであって,本件登録意匠と甲1意匠とを峻別させる部分とはいえない。 したがって,被請求人のその旨の主張は,採用することができない。 3-3 無効理由1の小括 そうすると,本件登録意匠と甲1意匠は,意匠に係る物品が一致し,また,両意匠の形態についても,両意匠の共通点が,看者に強い共通感を与えて,両意匠の類否判断を決定付けているのに対し,両意匠の相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱で,それらの相違点が相乗して生じる視覚効果を考慮しても,その効果は,前記共通感を覆すほどのものではないから,両意匠は,意匠全体として類似するものであって,本件登録意匠は,その意匠登録出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠と認められ,無効理由1には理由がある。 第5 むすび 以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,その意匠登録は,同条同項柱書の規定に違反してされたものであるから,無効理由2ないし4については,判断するまでもなく,同法第48条第1項第1号に該当し,同法同条同項柱書の規定により,その意匠登録を無効とすべきである。 また,審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2012-08-27 |
結審通知日 | 2012-08-29 |
審決日 | 2012-09-26 |
出願番号 | 意願2009-1853(D2009-1853) |
審決分類 |
D
1
113・
113-
Z
(D7)
D 1 113・ 121- Z (D7) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
川崎 芳孝 |
特許庁審判官 |
瓜本 忠夫 遠藤 行久 |
登録日 | 2009-06-12 |
登録番号 | 意匠登録第1364780号(D1364780) |
代理人 | 宮原 秀隆 |
代理人 | 中谷 武嗣 |
代理人 | 本渡 諒一 |
代理人 | 清水 義仁 |
代理人 | 清水 久義 |
代理人 | 仲元 紹 |