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審決分類 審判 判定   属する(申立成立) F2
管理番号 1268325 
判定請求番号 判定2012-600034
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2013-02-22 
種別 判定 
判定請求日 2012-09-18 
確定日 2013-01-09 
意匠に係る物品 ルースリーフ綴じ具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1033214号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「ルースリーフ綴じ具」の意匠は、登録第1033214号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1. 請求の趣旨及び理由
判定請求人(以下、請求人という。)は、『イ号図面及びその説明書に示す「ルースリーフ綴じ具」の意匠は、登録第1033214号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。』と申し立て、その理由として要旨以下のとおり主張し、意匠登録第1033214号(以下、「本件登録意匠」という。)意匠公報写し、イ号図面(以下、イ号図面に示された意匠を「イ号意匠」という。)、並びに証拠として、甲第1号証ないし第3号証(本件登録意匠の先行周辺意匠を示す公開実用新案公報及び公開特許公報の写し)を提出した。
請求の理由は、概要次のとおりである。

1.判定請求の必要性
被請求人は、イ号意匠と実質的に同一の意匠を用いたルースリーフ綴具を表紙に取り付けたものを輸入販売しているが、被請求人は、イ号意匠が本件登録意匠に類似しないとして争っているため、判定請求の必要性が生じた。

2.イ号意匠の形態と、本件登録意匠との差異点(比較説明)
イ号意匠は、基本的構成態様を本件登録意匠と同じとし、具体的態様について、
(a)リンク板について、
(a-1)右側面図に表された略板状突起の、突起外郭線内側の逆U字形の線の有無と、頂部中央の円弧状小突起の有無、
(a-2)底面視のリンク板本体形状において、下辺の台形凸部の数、
(b)リングについて、
(b-1)リングの太さ、
(b-2)その数を全体で6対とし、その列設問隔を本件登録意匠よりやや広くし、
(b-3)リング開放状態でのリング半体端部の微小突起が固定板側と可動板側とで交互に現れ、
(c)リング閉鎖状態について、
(c-1)基部の縦横比が、本件登録意匠は約1対14であるのに対し、イ号意匠では約1対7で、
(c-2)基部上面の円孔が3個ではなく2個であり、
(c-3)基部上面の長手方向両端部が傾斜面でなく面一であること、
(d)リング開放状態について、
(d-1)可動板拡幅後の凹部上に現れる小円孔や小縦長区画部の数や横長区画部の形状がことなること、
(d-2)右方に引き出されたリンク板の突出長さと、開口部の有無、
(d-3)固定板の長手方向縁に沿う段落ち部の有無、
の諸点において、本件登録意匠と相違するものである。

3.本件登録意匠の要部
リンク板の摘みである略板状突起や摘み基端部を含む摘み部全体の形態を除けば、例えば、公開実用新案公報である、実開昭53-101821号(甲第1号証)、公開特許公報である、特開平7-101192号(甲第2号証)、特開平8-337088号(甲第3号証)に明らかなように、既に従来より普通に見られる態様であるが、しかし、本件登録意匠は摘み部全体の形態がこれらの公知意匠と相違し、且つ容易に創作できたものではない。
よって、本件登録意匠の要部は、新規な形態に係る摘み部を有するリンク板を、従来から見られる拡幅の態様を有する基部に組み合わせて表したところにあると言えるものである。
また使用の実態において、綴具のリングは部分的にルーズリーフに隠れるので、意匠の類比の判断には軽微な影響しか及ぼさない。
さらに、イ号意匠におけるリンク板は半透明の樹脂から成形されているが、本件登録意匠は形状に関するもので半透明であることは要素ではない。
これらの前提に立ってイ号意匠が本件登録意匠に類似するか否かを判断すべきである。

4.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
本件登録意匠とイ号意匠の上記差異点を検討すると、その差異は適用されるノートサイズの規格が異なることに起因するものであり、基本的に基部長手方向の寸法が異なるものとなっている。
(a)リンク板について、
(a-1)略板状突起部の差異は、定かには視認できないほどの局所的差異で、突起外郭線内側の逆U字形の線については、球面状部の境界線を示すにすぎず本件意匠登録の図面の底面図にごくわずかに球面状の盛り上がりが見えているようにこの逆U字形の線は右側面図ではほとんど看取できない境界線に過ぎない。(a-2)底面視のリンク板本体形状の差異は、共に台形凸部を設けている中での、規格を異にするが故の一般的改変に係る差異である。
(b)リングについて、
(b-1)リングの略半円形状や太さの差異や、(b-2)その数や列設間隔の差異は規格を異にするが故に施される一般的改変に係る差異であり、(b-3)リング半体端部の微小突起の位置の差異は、共にありふれている態様であるうえ、局所的差異であり、使用時においてはリング頂部近傍はルースリーフに隠されてるので格別の差異とは言えない。
(c)リング閉鎖状態について、
(c-1)基部の縦横比の差異や、(c-2)基部上面の円孔数の差異は、規格を異にするが故に施される一般的改変に係る差異であり、注意を惹くことはない。
(c-3)本件登録意匠における基部の左右端部の傾斜面は約10分の1の勾配であり、正面や背面又はそれからわずかだけ傾斜した位置から観察したときにのみ傾斜面を認識できるものである。基板の平面部との間の線も良く観察しなければ看取できない。よってこれらの勾配の存在は無視はできないけれども、依然として、リンク板の右端部分の意匠要素に比しては意匠の類否を左右するほどの要素とはなってはいない。
(d)リング開放状態について、
(d-1)可動板拡幅後の凹部上に現れる細かい形状の差異や、(d-2)引き出されたリンク板の突出長さと開口部の有無の差異は、目立たない部位の局所的差異であり、いずれも類否判断を左右するものではない。
またリング開放状熊の有無にかかわらず(d-3)のイ号意匠における段落ち部は一見して段落ちかどうかわからず、長手方向に直線が断続的に伸びていることが観察されるだけであり、微小な差異に過ぎない。
なお、先に述べたとおり、リンク板の摘みである略板状突起や摘み基端部を含む摘み部全体の形態を除けば、例えば、従来より普通に見られる態様であることが認められるが、しかし、本件登録意匠は摘み部全体の形態がこれらの公知意匠と相違する。よって、本件登録意匠の要部は、新規な形態に係る摘み部を有するリンク板を、従来から見られる拡幅の態様を有する基部に組み合わせて表したところにあると言えるものである。そしてイ号意匠についてみれば、イ号意匠も本件登録意匠と共通する摘み部を有し、基部の態様も上に検討したとおり本件登録意匠とわずかな差異を除いて共通するものである。
したがって、上記のとおり、本件登録意匠とイ号意匠の差異点はいずれも細部に係るものであるか、あるいは特徴をそのままに、規格サイズ変更に伴って行われた改変に伴う差異に過ぎないから注意を惹かず、それら差異点を総合しても視覚効果は微弱で、類否判断に影響を及ぼすものではないのに対して、両意匠の共通点は要部に係り、ほとんどの態様にわたり圧倒的で、意匠全体の骨格を形成し、美感が共通するから、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものである。

5.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。

第2.被請求人の答弁
判定被請求人(以下、被請求人という。)は、「イ号意匠は、登録第1033214号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める。」と答弁し、証拠として乙第1号証及び同第2号証を提出し、要旨以下のとおり主張した。
答弁の理由は、概要次のとおりである。

1.以下に示す(1)?(4)の点において、本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に重大な影響を与える差異点が存在する。
(1)リング閉鎖状態について
先ず、基部の縦横比が、本件登録意匠では約1対14であるのに対し、イ号意匠では約1対7となっている。また、基部上面のリングが、本件登録意匠では26対であり、イ号意匠では6対となっている。
この点、判定請求人は、「基部の縦横比や基部上面の円孔数の差異は、規格を異にするが故に施される一般的改変による差異であり、注意を惹くことはない。」と述べている。
しかしながら、本件登録意匠に係る物品であるルースリーフ綴じ具の中で、基部は全体の中で圧倒的に大きな面積を占め、物品の特性に基いて需要者(取引者を含む)の目に触れやすく、基部の縦横比や基部上面の円孔数の大きな違いは両者の間に全体として顕著な美感上の差異があるとの印象を与えることは明らかである。
判定請求人は、規格を異にするが故に施される一般的改変による差異は注意を惹くことはないと主張する。しかしながら、この「規格を異にするが故に施される一般的改変」は、規格を異にすると構成比率の変更又は連続する単位の増減が生じることがある点で、意匠法第3条第2項の審査基準23.5.4「構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠」とパラレルに考えられる。この意匠法第3条第2項は、意匠法第3条第1項各号の要件をクリアしたもの、例えば意匠法第3条第1項第3号(公知意匠等との類似)の判断を行って類似しないとされたもの、について更に創作が容易か否かの判断を加えるものである。換言すれば、この意匠法第3条第2項は、注意を惹くか否かの基準が適用される類否判断がされた後に、創作非容易性を判断するものである。しかも、本件登録意匠の基部とイ号意匠の基部とを見た場合、本件登録意匠の基部は、この審査基準に記載されているような同一構成(イ号意匠の基部の一部)の単純な繰り返し等ではない。してみれば、「規格を異にするが故に施される一般的改変による差異」の場合も、一律に、その差異は注意を惹くことはないと断ずるべきではなく、特に全体として顕著な差異がある場合には、むしろ、その差異が注意を惹くとした上(非類似であるとした上)で創作が容易かどうかの問題として処理すべきものと思料する。以上から、「基部の縦横比や基部上面の円孔数の差異は・・・注意を惹くことはない。」との判定請求人の主張は誤りと言わざるを得ない。
また、特に、リング閉鎖状態で現れる2重丸状円孔は、本件登録意匠では両隣のリングと共にアルファベットの「H」の模様として認識され、イ号意匠では両隣のリングから離れ両隣のリング間で浮遊した形となっている。別の見方をすると、本件登録意匠の隣り合うリング同士の間隔は前記2重丸状円孔と同幅であるが、イ号意匠のリング同士の間隔は2重丸状円孔の約3倍弱の幅である。平面視の基台上下方向の幅に対する2重丸状円孔サイズの比率が、本件登録意匠とイ号意匠とほぼ同じであることを考慮すると、イ号意匠のリング同士の間隔は本件登録意匠に比して明らかに広い印象を与える。その結果、基部上面の模様が本件登録意匠とイ号意匠とでは美感が著しく異なっている。その上、本件登録意匠においてリング閉鎖状態で現れる2重丸状円孔及び両隣のリングからなる基部上面の「H」の模様は、本件意匠登録出願前には見られない目新しい模様である。したがって、この「H」の模様は需要者の注意を強く惹く部分となっている。よって、この差異が類否判断に与える影響は大きいものと思料する。
さらに、基部上面の長手方向両端部が、本件登録意匠では傾斜面となっているのに対して、イ号意匠では面一となっている。
この点、判定請求人は「本件登録意匠における基部の左右端部の傾斜面は約10分の1の勾配であり、正面や背面又はそれからわずかだけ傾斜した位置から観察したときのみ傾斜面を認識できるものである。基板の平面部との間の線も良く観察しなければ看取できない。よってこれらの勾配の存在は無視できないけれども、依然として、リンク板の右端部分の意匠要素に比しては意匠の類否を左右するほどの要素とはなっていない。」と述べている。
しかしながら、本件登録意匠における基部の左右端部の傾斜面は約10分の1の勾配であるとは言え、この傾斜面は平面視において傾斜面の始端に明らかな稜線が表れ、正面図及び背面図で明確に見て取れること、本件意匠登録出願前に、基部上面の長手方向両端部に勾配を有するものは存在せず目新しいものであることを考慮すれば、この傾斜面も需要者の注意を強く惹く部分であり、傾斜面の有無が類否判断に与える影響は大きいものと思料する。
(2)リング開放状態について
本件登録意匠では、開放状態を示す平面図に示すように、リング開放状態で可動板に現れる円孔は両隣のリング半体の上部に接触し両隣の半体と共に逆U字状の模様となっているのに対し、イ号意匠では両隣のリング半体の間で浮遊したような形となっている。この逆U字状の模様も、本件意匠登録出願前には見られない目新しい形態であり、またリング同士の間隔の差異を顕著にしている。したがって、本件登録意匠とイ号意匠との美感上の差異はこの点でも歴然であり、この差異が類否判断に与える影響は大きいものと思料する。
また、本件登録意匠では、開放状態を示す平面図において、可動板の上縁に長手方向全長に渡る段落ち部が存在しないのに対して、イ号意匠では、可動板の長手方向全長に渡る段落ち部が存在している。
この点については判定請求人は触れていない。ただし、(D‘-3)で「固定板の全長(リング部を除く)の長手方向に沿って固定板の幅の半分より小さな幅で微小な深さ(基部の厚さの0.03倍程度)の段落ち部」について触れ、「イ号意匠における段落ち部は一見して段落ちかどうかわからず、長手方向に断続的に伸びていることが観察されるだけであり、微小な差異に過ぎない。」と主張している。
しかしながら、固定板側の段落ち部とは異なり、可動板側の段落ち部は、可動板の厚さの0.5倍程度つまり基部の厚さの0.25倍程度となっており、固定板側の段落ち部の8倍強の深さとなっている。しかも、イ号意匠の可動板側の段落ち部は、小縦長区画部と交差する箇所で途切れる以外は基台長手方向全長に渡る形状となっていて、段落ち部が強調された形となっている。他方、本件登録意匠は、基台長手方向全長の約3%程度の長方形状の段落ち部がほぼ等間隔に4箇所(即ち全長の12%程度)確認されるだけである。
したがって、可動板の長手方向全長に渡って視認できるイ号意匠の段落ち部は本件登録意匠と美感上での大きな差異点であり、この差異が類否判断に与える影響は大きいものと思料する。
(3)リンク板について
本件登録意匠では、右側面図に表された略板状突起の、突起外郭線内側の逆U字形の線と、頂部中央の円弧状小突起を有し、イ号意匠では、逆U字状の線と円弧状小突起を有しない。
この点、判定請求人は「突起外郭線内側の逆U字形の線については、球面状部の境界線を示すにすぎず本件登録意匠の図面の底面図にごくわずかに球面状の盛り上がりが見えているようにこの逆U字形の線は右側面図ほとんど看取できない境界線にすぎない。」と主張している。
しかしながら、この逆U字形の線は右側面図及び右側面拡大図で明確に見て取れること、本件意匠登録出願前に、突起外郭線内側の逆U字形の線を有するものは存在しなかったことを考慮すれば、この逆U字形の線も摘み部の中では大きな範囲を占め、摘み部の中では需要者の注意を強く惹く箇所であるものと思料する。一方、判定請求人の主張には図面に表れた逆U字形の線を軽視する点で権利範囲を殊更拡張する意図が見られ、第三者の保護の観点から当該主張は認められるべきではない。むしろ、判定請求人のように摘み部の創作性を重視する立場からすればこのU字状の線を重視すべきであると思われる。
さらに、判定請求人は前記円弧状小突起の有無に関しても触れていない。
イ号意匠は円弧状小突起を設けておらず、本件登録意匠とこの点で相違する。意匠全体に対する円弧状小突起の比率を考慮すれば、必ずしも大きな相違点ではないとも考えられるが、本件意匠登録出願前には見られない目新しい形態であることと、前述の通り摘み部の創作性を重視する判定請求人の立場からすれば、当該円弧状小突起の有無を看過することは妥当ではないと思料する。
また、本件登録意匠では、リンク板を右方に引き出した際に固定板の直ぐ右方に舌片状の開口部が現れるのに対して、イ号意匠では、リンク板を右方に引き出した際に固定板の右方に舌片状の開口部は現れない。
この点、判定請求人は「引き出されたリンク板の突出長さと開口部の有無の差異は、目立たない部位の局所的差異であり、いずれも類否判断を左右するものではない。」と主張する。
しかしながら、この開口部は開放状態を示す平面図で明確に見て取れること、本件意匠登録出願前に、開放状態で開口部が見えるものは存在しなかったことを考慮すれば、この開口部もリンク板の中では需要者の注意を強く惹く箇所であるものと思料する。したがって、判定請求人のように摘み部を重視するのであればこの開口部を軽視することは誤りであると思われる。
(4)リングについて
リングの略半円形は、本件登録意匠では、真円の半体の両端を平行にわずかに延長させた形状とし内縁側に段部を形成し、根元側の太さを太くしているのに対して、イ号意匠では、真円の半体の両端を平行に延長させた形状とし内側に段部を形成せず、全体の太さを一様としている。
この点、判定請求人は、「リングの略半円形状や太さの差異は、規格を異にするが故に施される一般的改変に係る差異であ」ると主張している。
しかしながら、特に、判定請求人の主張していない、本件登録意匠の「内周側の段部」について見ると、本件左側面拡大図及び右側面拡大図に示すように、明確に2重線として表れされており、「内周側の段部」を有しないイ号意匠のリングとの美感上の差は歴然である。そして、このような「内周側の段部」は、本件意匠登録出願前には、めったには見られない形態である。その結果、このリングの「内周側の段部」は、ルースリーフを綴じたり外したりするためルースリーフ綴じ具のリングを開閉する使用段階や、特に、ルースリーフ綴じ具の取引段階においては取引者(需要者)の注意を強く惹く部分であり、このリングの「内周側の段部」の有無は意匠の類否に大きな影響を与える部分であると思料する。

2.結論
判定請求人は、「イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明」の欄中で「リンク板の摘みである略板状突起や摘み基端部を含む摘み部全体の形態を除けば、例えば、従来より普通に見られる態様であることが認められる・・・そしてイ号意匠についてみれば、イ号意匠も本件登録意匠と共通する摘み部を有し、基部の態様も上に検討したとおり本件登録意匠とわずかな差異を除いて共通するものである。」と主張する。
しかしながら、本件登録意匠についてみれば、リング閉鎖状態で現れる「H」状の模様、基部両端の傾斜面、リング開放状態において可動板に現れる逆U字状の模様、摘み部の逆U字状の線および円弧状小突起、開口部の存在、リング内周側の段部は目新しいものであり、これらの点を無視して「本件登録意匠とイ号意匠はわずかな差異を除いて共通する」との主張は認めることができない。
これらの差異点の多くは、上述したように、類否判断に大きな影響を与えるものであるから、本件登録意匠とイ号意匠とは非類似であることは明らかである。
なお、判定請求人は、殊更、「リンク板の摘みである略板状突起や摘み基端部を含む摘み部全体の形態」を強調している。
しかしながら、リング閉鎖状態の上面視で基部と同幅を有する基部上に略板状突起を形成した摘み部は特公昭57-8679号公報(乙第1号証)に開示され、また、摘み部を湾曲させたものは特開平8-267980号公報(乙第2号証)に開示されているので、本件登録意匠の摘み部の外形は必ずしも斬新なものとは言えない。その上、仮にリンク板の摘み部形態が逆U字状の線および円弧状小突起を含めてこれまでの公知意匠には見られない新規なものであるにせよ、基端部を含めた摘み部全体の形態はリンク板を右方に引き出したときに初めて全容が明らかになるものである。そして、リング閉状態にあっては、摘み部基端部は基部に段差無く接触しているから全容は看取しづらく、上方に突出する板状突起部分はリング閉状態でも目に付きやすいとしても、摘み部全体の形態が目立つとは言えない。
したがって、本件登録意匠の要部は、基本的構成態様及び各具体的態様に該摘み部を組み合わせた全体の態様にあると言わざるを得ないものと思料する。
以上、総合すると、本件登録意匠の要部は、基本的構成態様及び各具体的態様に該摘み部を組み合わせた全体の態様にあり、意匠の類否に大きな影響を与える多くの点で両者の形態は相違するので、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないものと思料する。

第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成9(1997)年5月2日に出願され(意願平9-53095号)、平成10(1998)年12月11日に意匠権設定の登録がなされた意匠登録第1033214号の意匠であって、願書及び願書添付図面の記載によれば、意匠に係る物品を「ルースリーフ綴じ具」とし、その形態を願書添付図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

2.イ号意匠
イ号意匠は、「ルースリーフ綴じ具」の意匠であって、その形態をイ号図面記載のとおりとしたものである。(別紙第2参照)

3.両意匠の形態の対比
両意匠の基本的構成態様は、
(ア)上面に高低の段差を有する固定板と、該段差の低段部上をスライド移動する可動板とによって構成される細幅帯状二重板構造の基部、該基部上面に等間隔で多数列設された開閉自在なリング部、及び、固定板の下にスライド移動可能に設けられたリンク板とからなり(以下、リング列設方向を「長手方向」、これと直交する方向を「幅方向」という。)、
(イ)リング閉状態では、極細幅帯状の固定板高段部上面と細幅帯状の可動板上面とが、基部上面の長手方向全体にわたり当接して面一状の基部上面を構成し、該基部上面には、幅方向の両端部である固定板高段部及び可動板端縁を基点とする略半楕円形状のリングを形成し、基部右端部には、リンク板をスライド移動させるための摘み部を略板状突起状に立設した態様として、
(ウ)リング開状態では、リンク板はスライド移動して長手方向に引き出され、固定板と共に基部上面を構成していた可動板が固定板から離隔、幅方向に平行スライドして拡幅することで、固定板上には凹部が現れ、リング部は、中央で幅方向に二分割されて各対応するリング半体同士間に間隙が生じ、固定板と可動板のそれぞれにリング半体が結合した態様としている点において、いずれも共通している。
次に、本件登録意匠の具体的構成態様は、以下のとおりである。
(A)リンク板について、
(A-1)右端部の略板状突起状摘み部は、リング閉状態の基部とほぼ同じ幅及び厚さの平面視略縦長矩形状の摘み基端部上に形成し、該摘み部の立設高さをリングの高さの約半分程度、幅を基部及び摘み基端部の幅よりも僅かに幅狭とし、該摘み部の基部側の面を凹弧状面、外側の面を僅かに凸弧状面としつつ、該摘み部の上面中央には側面視略半円形状の微小突起を、外側面には上方の左右角部を隅丸とした略逆「凵」字状の区画線を設け、
(A-2)リンク板の底面視形状は、上方側には長手方向に連続する長い略帯状の延在部を、下方側には短い細幅帯状の延在部を設け、上方延在部の下辺には、逆台形状の凸部を複数形成している。
(B)リングについて、
(B-1)個々のリングは、真円の半体の両端を平行に若干延長しつつ、根元側に向けて内側をなだらかに拡径した略半楕円形状とし、
(B-2)列設されたリングの数は全体で26個、
(B-3)リング開状態でのリング半体は、固定板側半体の各端部に微小突起を設けている(可動板側半体の各端部には、該微小突起を受け入れる凹陥部があると推認される。)。
(C)リング閉状態について、
(C-1)基部の平面視縦横比(幅対長さ)を約1対14、基部上面を構成する固定板と可動板の幅の比率を約1:3とし、
(C-2)基部の左端部は、平面視形状を右端部のリンク板摘み部外側と呼応する緩やかな凸弧状とし、幅方向中央には、長手方向に3個の平面視二重丸状円孔を等間隔に設け、
(C-3)長手方向両端部付近の基部上面は、リングを設けない下り傾斜面状の余地部とし、
(C-4)基部上面の側面視両端縁は、角部をわずかに丸く面取りしている。
(D)リング開状態について、
(D-1)可動板が幅方向(平面視下方)にスライド移動することで、基部全体がリング閉時の約1.5倍に拡幅し、
(D-2)可動板スライド移動後の固定板上に形成される凹部上には、3個の小円孔と縦長略矩形状区画3個が、また、可動板上面からの段落ち部となる短い横長略矩形状区画4個が現れ、
(D-3)基部右方には、リンク板本体がリンク板の幅よりも若干長い突出長さで引き出され、その基部側に、右端部を湾曲状とする略倒「U」字状の開口部が現れる。
一方、イ号意匠は、その具体的構成態様として、主として以下の点において、本件登録意匠とは相違する構成を有している。
(a)リンク板について、
(a-1)右端部に配された略板状突起状摘み部の上面中央及び外側面には、それぞれ、本件登録意匠に見られる略半円形状の微小突起及び略逆「凵」字状区画線が存在しない、
(a-2)底面視形状における逆台形状凸部が、本件登録意匠では幅広のものが2個であるのに対し、イ号意匠では幅狭のものが1個である。
(b)リングについて、
(b-1)リングの太さを部分的に拡径することなく全体を一定とし、
(b-2)列設されたリングの数は全体で6個、その列設間隔は、基部の幅を基準とした相対比較において本件登録意匠よりも大きな間隔を取っており、
(b-3)リング開状態でのリング半体端部の微小突起は、固定板側と可動板側とで交互に現れるように配している。
(c)リング閉状態について、
(c-1)基部の平面視縦横比(幅対長さ)が、本件登録意匠は約1対14であるのに対し、イ号意匠では約1対7で、
(c-2)基部上面の平面視二重丸状円孔の数が2個、
(c-3)長手方向両端部付近の基部上面は、傾斜面ではなく他の基部表面と面一の水平面からなる余地部であり、
(c-4)基部上面の側面視両端縁は、面取りのない直角である。
(d)リング開状態について、
(d-1)可動板移動後の固定板凹部上に現れる小円孔の数は2個、また、可動板上面からの段落ち部は、横長矩形状区画4個が短・長・長・短の順で現れ、
(d-2)基部右方に引き出されたリンク板の突出長さはリンク板の幅よりも若干短く、その基部側には開口部が存在しない。

4.類否判断
以上の一致点、共通点及び相違点が類否判断に及ぼす影響を評価、総合して、両意匠の意匠全体としての類否を判断する。
本件登録意匠及びイ号意匠の意匠に係る物品は、いずれも「ルースリーフ綴じ具」であり、両意匠の意匠に係る物品は一致する。
次に、両意匠の形態について評価する。
まず、意匠の類否を判断するにあたり、両意匠の意匠的特徴を評価する上で重視すべき部分、すなわち、需要者が最も注意を惹く意匠の構成(本件登録意匠の要部)と、両意匠の形態との関係について検討する。
前記した両意匠の基本的構成態様及び各具体的構成態様については、そのほとんどが、例えば、公開実用新案公報実開昭53-101821(甲第1号証)、公開特許公報特開平7-101192(甲第2号証)、公開特許公報特開平8-337088(甲第3号証)、公開特許公報特開平9-95079等に見られるように、本件登録意匠の出願前から既に見られる態様と言える。しかしながら、本件登録意匠は、リンク板摘み部の形態を、基部及び摘み基端部よりも僅かに幅狭、かつ、基部左端部と呼応する平面視緩やかな凸弧状とした点が、これらの公知意匠と相違している。
この点につき被請求人は、「リング閉鎖状態の上面視で基部と同幅を有する基部上に略板状突起を形成した摘み部は特公昭57-8679号公報(乙第1号証)に開示され、また、摘み部を湾曲させたものは特開平8-267980号公報(乙第2号証)に開示されているので、本件登録意匠の摘み部の外形は必ずしも斬新なものとは言えない」と主張するが、これらの公知意匠は各要素を個別に示すのみで、本件登録意匠が有する具体的な形状を表すものではないため、その主張は上記認定に影響を与えない。
そうすると、本件登録意匠の要部は、綴じ具の開閉に際して常に意識される部位であり、新規な形態である、平面視緩やかな凸弧状とした摘み部を有するリンク板を、従来から見られる拡幅の態様を有しつつ、左端部を凸弧状とした基部に組み合わせて全体を表したところにあると言える。そして、イ号意匠も、本件登録意匠と共通する摘み部を有し、左端部を含む基部の態様も本件登録意匠と共通しており、これら共通点は、意匠全体の基調を形成して看者に共通の印象を強く与えるものであるから、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところとなっている。
両意匠の具体的形態に係る相違点の評価は、次のとおりである。
(a)リンク板について、
(a-1)略板状突起状摘み部における微小突起及び区画線に係る相違は、
いずれも、具体的な形状としては定かには視認できないほどの微差であり、
(a-2)底面視形状の相違も、
共に凸部の形状を逆台形状とした中で、同部の個数や幅を適宜変更したまでのものであり、もとより、これら物品の底面は、使用時にはファイル等に固着されて視認できない部分であるため、両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
(b)リングについて、
(b-1)リングの略半楕円形状や、部分的な拡径の有無を含むリング太さの態様、
(b-2)その列設数や列設間隔、
(b-3)リング半体端部の微小突起の配設位置は、
いずれも本願出願前から見られる態様であり、また、局所的な相違又は規格を異にするが故に施される一般的改変としての相違であるため、看者の注意を強く惹くことはなく、両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
(c)リング閉状態について、
(c-1)基部の縦横比や、
(c-2)基部上面の平面視二重丸状円孔数の相違は、
規格を異にするが故に施される一般的改変としての相違であるため、看者の注意を強く惹くことはない。また、
(c-3)長手方向両端部付近における基部上面の面構成、及び
(c-4)基部上面の側面視両端縁部の態様についても、
本件登録意匠における傾斜面及び角部面取りは、その傾斜角度や隅丸の程度がごくわずかであるため、いずれも局所的な微差にとどまり、上記縦横比や円孔数の相違も含め、両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
(d)リング開状態について、
(d-1)可動板移動後の凹部上に現れる小円孔や区画形状、
(d-2)リンク板の突出長さや開口部の有無に係る相違についても、
規格を異にするが故に施される一般的改変としての相違であると共に、リング開時に限定的かつ局所的に現れる目立たない部位の相違であるため、看者の注意を強く惹くことはなく、両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。

なお、両意匠に見られる基部長手方向の寸法(縦横比)や列設リング数、固定用小円孔数などの相違が、両意匠の類否判断に与える影響の評価について補足すると、国内のファイル・バインダー製品及びそのとじ具などの部品メーカーの団体である日本ファイル・バインダー協会が定め、公表しているファイルとバインダーの統一規格(別紙第3参照)によれば、バインダーのとじ穴に係る規格として、両意匠の列設リング数に対応する26穴及び6穴のとじ穴が、それぞれ、「多穴式26穴 B5-S、B4-E」、「6穴 B7-S」として定められていることが認められる。両意匠の列設リング数や全体寸法等の相違は、意匠に係る物品である「ルースリーフ綴じ具」に綴じ込むノート等のサイズとして、イ号意匠が、本件登録意匠とは異なる規格サイズを採用したことに起因するものであって、意匠としての造形的な観点から見れば、イ号意匠は、本件登録意匠にも見られる特徴をそのままに、異なる規格サイズを適用するための改変を加えたに過ぎないものといわざるを得ない。意匠の類否判断を行うに際して、これらの規格変更に伴う改変の範囲での相違が、形態的な特徴として看者の注意を強く惹くといえないことは前述のとおりであって、両意匠全体の寸法等が異なることをもって、両意匠全体の美感が異なるということはできない。

以上によれば、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、共通点は看者に強い共通感を与えて両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼしているのに対して、相違点はいずれも微弱であり、それら相違点が相まって生じる視覚効果を考慮しても、その効果は、前記共通点が醸成する全体の共通感を覆して両意匠を別異の意匠と印象付けるまでのものとはいえないから、意匠全体として見た場合、イ号意匠は本件登録意匠に類似する。

5.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2012-12-25 
出願番号 意願平9-53095 
審決分類 D 1 2・ - YA (F2)
最終処分 成立 
前審関与審査官 川崎 芳孝清野 貴雄 
特許庁審判長 遠藤 行久
特許庁審判官 早川 治子
伊藤 宏幸
登録日 1998-12-11 
登録番号 意匠登録第1033214号(D1033214) 
代理人 アクシス国際特許業務法人 
代理人 荒船 博司 
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