• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判    H1
審判    H1
審判    H1
管理番号 1269511 
審判番号 無効2011-880006
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-07-13 
確定日 2013-01-21 
意匠に係る物品 センサー付発光ダイオードランプ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1412035号「センサー付発光ダイオードランプ」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1412035号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯及び両当事者が提出した証拠
(当審注:以下,本件意匠登録無効審判の請求人を「請求人」といい,同被請求人を「被請求人」という。)

1.手続の経緯概要
本件意匠登録第1412035号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,概要以下の(1)及び(2)の手続を経た後,当審において,概要以下(3)及び(4)の手続を経たものである。

(1)意匠登録出願
・意匠登録出願(意匠登録出願人:株式会社ムサシ,意匠の創作をした者:A(氏),意願2010-019357) 2010年(平成22年)8月6日

(2)意匠登録
・意匠権の設定の登録 2011年(平成23年)3月25日
・意匠公報発行(別紙第1の1参照) 2011年(平成23年)4月25日

(3)本件意匠登録無効審判請求事件
・本件審判請求 2011年(平成23年)7月13日
・無効審判の予告登録 2011年(平成23年)8月29日

(4)口頭審尋(秘密意匠のため,非公開)
・口頭審尋開廷 2012年(平成24年)3月13日


2.請求人が提出した証拠
(当審注:以下,「甲第1号証」を「甲1」と,「甲第2号証の1」を「甲2の1」と記し,その他の各甲号証も同様とする。)

(1)「審判請求書」に添付
・甲1 中国実用新案公告第201535459号公報明細書および その要約書訳文
・甲2の1 Global Manufacturer Certificate (Global Market)(GMC):LivingStyle Enterprises Limitedのページ
・甲2の2 同GMCの背表紙
・甲2の3 同LED CHINA 2010のThe Leading Global LED Event の開催予告ページ
・甲2の4 同Guanzhou Grandeur Exhibition Service Co., Ltd.主催のThe 3rd (Granzhou) International Road Lamp,Patio & Outdoor Lighting Fair 2010の開催予告ページ
・甲2の5 同励展日本展覧公司主催の2nd LED/OLED Lighting Techno l ogy Expo, LIGHTING JAPANの開催予告ページ
・甲2の6 同ホンコン・エキシビション・サービス・リミテッド他共催のBuilding Efficiency For A Sustainable Futureの開催予告ページ
・甲2の7 同ホンコン・エキシビション・サービス・リミテッド他共催のToday and A Greener Tomorrowの開催予告ページ
・甲2の8 同ホンコン・エキシビション・サービス・リミテッド他共催のThe 14th Asian International Installation, Transmission & Distribution and Energy Efficiency Showの開催予告ページ
・甲2の9 同The Global Association of the Exhibition Industry 主催のInternational LED EXPO & OLED EXPO 2010の開催予告ページ
・甲2の10 Global MarketのホームページのSearchの項のページ
・甲3の1 東莞巨揚電器有限公司のホームページ
・甲3の2 同英文版
・甲4の1 請求人会社のPacking List
・甲4の2 請求人会社のBill of Lading
・甲5の1?3 被請求人会社の本件意匠に基づく製品のカラー写真
・甲6 株式会社ムサシのホームページ
・甲7の1 柳野国際特許事務所作成の意匠登録出願の写し
・甲7の2 平成22年8月6日付意匠登録順受領書の写し
・甲7の3 本件意匠登録願の写し
・甲8 被請求人会社の代表取締役社長A氏の名刺
・甲9 同海外事業部チーフB氏の名刺
・甲10 商社であるMMCの代表取締役であるC氏の名刺
・甲11 被請求人会社総経理D氏の名刺
・甲12 同董事長(取締役)E氏の名刺
・甲13 同社副総経理のF氏の名刺

(2)2012年(平成24年) 2月14日付け「口頭審尋陳述要領書」に添付
・甲14 米国特許第5,187,360号明細書,およびその部分訳
・甲15の1 請求人会社の社員であるG氏から,同社員であるH氏宛てに送信した電子メール(2010年6月22日午後4時37分送信)
・甲15の2 同電子メールに添付された「LED SENSORLIGHT TEST REPORT」と称するテストレポート
・甲15の3 請求人が被請求人にサンプル品を送ったことを証明するDHLによる証明書
・甲16の1 請求人会社の社員であるG氏から,J氏を含む複数名宛てに送信した電子メール(2010年7月13日午前8時56分送信)
・甲16の2 同電子メールに添付されたサンプル品のデザイン図面
・甲17の1 請求人会社の社員であるG氏から,J氏を含む複数名宛てに送信した電子メール(2010年8月4日午後3時41分送信)
・甲17の2 同電子メールに添付されたサンプル品のデザイン図面
・甲18 中国意匠登録第300706853号公報

(3)2012年(平成24年) 5月 1日付け「上申書」に添付
・甲16の1の翻訳文
・甲17の1の翻訳文


3.被請求人が提出した証拠
(当審注:以下,「乙第1号証」を「乙1」と,「乙第2号証の1」を「乙2の1」と記し,その他の各乙号証も同様とする。)

(1)2011年(平成23年)10月11日付け「審判事件答弁書」に添付
・乙1 本件意匠に係る意匠登録出願(意願2010-019357)の証明請求書に対して特許庁長官が証明した書面 (出証番号 出証意2011-4000009)
・乙2の1 株式会社ムサシのB氏からMMCのC氏に送付した電子メール(2009年7月29日13時52分発信)の本文
・乙2の2 同電子メールに添付されたデザイン図
・乙3 MMCのC氏から株式会社ムサシのB氏に送付した電子メール(2009年8月3日10時50分発信)


(2)2012年(平成24年) 2月28日付け「口頭審尋陳述要領書」に添付
・乙4 登録実用新案第3110293号公報
・乙5 意匠登録第1371487号公報
・乙6 意匠登録第1376925号公報
・乙7 意匠登録第1376929号公報
・乙8 特開2007-003491号公報
・乙9 特開2000-131136号公報
・乙10 特開2009-010520号公報

(3)2012年(平成24年) 3月28日付け「上申書」に添付
・乙11 株式会社ムサシからMMCのC氏を経由して請求人へ送付されたデザイン図
・乙12の1 MMCのC氏から株式会社ムサシのB氏へ送付された電子メール(2009年8月19日11時17分送信)の本文
・乙12の2 同電子メールに添付されたデザイン図
・乙3の翻訳文



第2 請求人の請求の趣旨及びその理由の要点
請求人は,請求の趣旨を,結論同旨の審決を求める,とし,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲1ないし甲18(枝番を含む。翻訳文を含む。)を提出した。

1. 意匠登録無効理由の要点
(1-1)無効理由1
本件登録意匠は,甲1および甲2の1?3の意匠と同一または類似するものであるから,意匠法第3条第1項第1号ないし第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号の規定により,無効にすべきである。(以下,「無効理由1」という。)

(1-2)無効理由2
本件登録意匠は,甲1および甲2の1?3の意匠から容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号の規定により,無効にすべきである。(以下,「無効理由2」という。)

(1-3)無効理由3
本件登録意匠(本件部分意匠)は,該意匠の創作をした者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願,すなわち冒認意匠の出願に基づくものであるから,意匠法第48条第1項第3号の規定により無効とされるべきものである。(以下,「無効理由3」という。)


2.本件意匠登録を無効とすべき理由
(1)無効理由1及び無効理由2
(1-1)このような意匠(部分意匠)は,本件意匠登録出願前に頒布された刊行物に記載された物品と同一あるいは該物品から当業者が容易に意匠の創作をすることができるものであるから,意匠法第3条第1項第1号ないし第3号あるいは同法第3条第2項に該当するものであるから同法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。

すなわち,中国実用新案公告第201535459号公報明細書(CN201535459 U)(以下,「甲1」という。)は,2010年7月28日に出願公告されたものである。

本件部分意匠と甲1に記載の意匠とを比較すると,両者は,いずれも半球状のセンサーが透光性カバー(ランプパネル)の頂部に突設されている点において軌を一にするものである。
したがって,本件部分意匠と甲1記載の意匠とを比較すると,両者は同一ないし極めて類似しており,また,このような本件の部分意匠は,甲1記載の意匠から,当業者が容易に創作し得る程度のものである。
(iii)Global Manufacturer Certificateのカタログ (Global Market)のページ(以下,「甲2の1」という。)には,その上欄に,放熱体の先端部に透光性カバー(ランプパネル)を設け,その頂部にセンサーを突設したものが3種類bulb with photo cellとして開示されている。まず,最左端部のものは,放熱体と透光性カバーの膨らみが中程度であり,一方,中間のものは前記膨らみがやや細くかつ透光性カバーの部分が大きく(放熱体と透光性カバーの部分がほぼ等量で),最右端のものは前記膨らみが非常に大きく,かつ放熱体と透光性カバーの部分がほぼ等量である。しかしながら,本件部分意匠の特徴は,前記のごとき放熱体と透光性カバーを大部分の構成とする電球にあるのではなく,その先端に設けられるべき半球状のセンサーの部分にある。
したがって,本件部分意匠と甲2の1記載の意匠とを比較すると,両者は極めて類似しており,また,このような本件の部分意匠は,甲2の1に記載の意匠から当業者が容易に創作し得る程度のものである。

(1-2)甲2の1を包含するカタログ『Global Manufacturer Certificate』(Global Market)は,2010年2?3月頃までに頒布されたことについて
なお,前記甲2の1を包含する前記Global Marketは,カタログであるので明確な発行日は記載されていないが,その背表紙(以下,「甲2の2」という。)に,「Feb-Mar 2010」と記載されているので,2010年2?3月頃までに頒布されたことは明らかである。
このことは,また,該カタログの後半部に数ページにわたって展示会の案内が記載されている点からも明らかである。
すなわち,まず第1に,Trust Exhibition Co., Ltd.主催のThe Leading Global LED Eventと題するLED CHINA 2010が中国輸入および輸出フェアパチュー コンプレックスのエリアBで2010年3月2?5日に開催されることが予告されている(以下,「甲2の3」という。)。

(1-3)2012年(平成24年) 2月14日付け口頭審理陳述要領書における請求人の主張概要
(被請求人の主張に対する反論)
(答弁書「公知意匠と同一または類似あるいは創作容易である旨の主張に対する反論」について)
被請求人は,(本件登録意匠の要部)の項において,「球面状透光性カバー表面の頂部から半球状センサーが突出し,該半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を有する点が,本件登録意匠の要部である。」と主張している。


被請求人が本件登録意匠と甲1の意匠との相違点であると主張する点についてさらに反論する。
確かに,甲1の意匠では半球状センサーの表面について無模様ではあるが,センサーの機能を調整するために,半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を設けることは一般的になされている。
例えば,米国特許第5,187,360号明細書(以下,「甲14」という。)は,1993年2月16日に特許されたものであるが,第2欄41行?45行には,つぎのように記載されている。
「図3および図4を参照して,29枚の小型レンズ26ないし検出ゾーンを備える半球状ドームレンズ24が示されている。さらなる小型レンズを備えることができる。小型レンズのそれぞれは,六角形形状を有し,最適化された非球面レンズの中央部分にある。」(甲14 第2欄41行?45行)。
このように,半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を設けることはセンサーの分野においてはセンサーの機能を調整するために一般的なことであり,甲1の意匠において半球状センサーの表面が無模様であるからといって,半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を設けた本件登録意匠に創作性があると認めることはできない。
したがって,本件の登録意匠は,甲1ならびに甲2の1に記載の意匠と実質的に同一あるいはこれらの意匠から容易に創作し得るものである。

(1-4)無効理由1及び無効理由2の小括
よって,本件の登録意匠は,甲1ならびに甲2の1?3に記載の意匠と実質的に同一あるいはこれらの意匠から容易に創作し得るものである。したがって,意匠法第3条第1項第1号ないし第3号あるいは同法第3条第2項の規定に該当し,同法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。


(2)無効理由3
(2-1)請求人適格について
(i)本件意匠登録無効審判事件の請求人である,東莞巨揚電器有限公司は,同社のホームページ(中国文:以下,「甲3の1」という。)より明らかなように,中国東莞市横歴鎮三江工業区168棟に所在し,英文名称をLiving Style Enterprises Limitedとするもので,その英語版(以下,「甲3の2」という。)には,同一の住所,電話番号,ファックス番号,E-mailアドレス等が英文で記載されている。しかして,同社は,2002年に設立され,PIRセンサー類,ECOライト,LEDライト,太陽ライト,セキュリティー器具,チャイムコントローラ等を主要製品として製造している旨記載されている。
本件請求人会社は,以前より被請求人である株式会社ムサシとは取引があり,請求人会社の製品は被請求人である株式会社ムサシヘ納品されるが,支払いおよび注文関係は,Merchandising Meister Corp.(MMC)(C氏の会社)を通してあるいは通さずに(貿易商龍港総経理J氏の会社)Roko Asia Co., Ltd.あるいはTwin?Son Hardware Factory(貿易商龍港総経理J氏の会社)を通じて請求人である東莞巨揚電器有限公司に来るのである(請求人会社のPacking List(以下,「甲4の1」という。)およびBill of Lading(以下,「甲4の2」という。)参照のこと。)。添付のカラー写真(以下,「甲5の1?3」という。)は,本件請求人会社に依頼して製造された被請求人会社の製品の写真である。
なお,前記のとおり本件審判請求人は,本件審判事件に関し利害関係を有し,請求人適格を有するものである。

(2-2)2012年(平成24年) 2月14日付け「口頭審尋陳述要領書」における請求人の主張(答弁書「冒認出願である旨の主張に対する反論」について)
(a)ここにおいて,被請求人は,「乙2の2のデザイン図に記載されている,本件登録意匠の要部の創作は,2009年7月29日時点で被請求人の社内において完成しており,その意匠登録を受ける権利は被請求人が有することは明らかである。」と主張している。
しかしながら,センサー付発光ダイオードランプにおける半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様については請求人が完成させたものであり,それにも拘わらず,被請求人が冒認出願して意匠登録を受けたものであるので,以下に反論する。

(b)請求人が半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様を完成させていることについて:
請求人は,被請求人の主張のとおり,デザイン図(乙2の2)を提示された見積もり依頼を受けたことがある。そして,請求人は,被請求人に請求人が設計・製作したLEDセンサーライトのサンプル品を提供し,被請求人がそのサンプル品に対して種々のテストを行い,被請求人からテストレポートを受領している。
すなわち,甲15の1は,請求人である東莞巨揚電器有限公司(英文名称 LivingStyle Enterprises Limited)の社員であるG氏から同社員であるH氏宛てに,2010年6月22日午後4時37分に送信した電子メールである。この電子メールには,Twin-Son Hardware FactoryのJ氏からG氏を含む複数名宛てに,2010年6月22日午後3時32分に送信された,タイトルを「Re:Re 4W/6W screw type Led sensor light-」と称する電子メール本文が転送され,
「LED SENSOR LIGHT TEST REPORT」と称するテストレポート(以下,「甲15の2」という。)が添付されている。
J氏からG氏を含む複数名宛ての電子メール本文には,
(Dear K(氏),L(氏) & G氏
Hi,
1) 添附した資料はMusashiからLS(当審注:請求人会社の英語名の略称)社が提供したサンプルのテストレポートである。そのテストレポートの一部は日本語ですので,Musashi社に英語のテストレポートを依頼します。
2) 前回の質問を答えて下さい。
J(氏)」と記載されている。
テストレポート(甲15の2)には,被請求人がサンプル品に対して行った種々のテスト「SENSOR DETECTION TEST」,「2.明かりセンサー試験」などの結果が報告されている。サンプル品は請求人が設計・製作したものであり,テストレポートの一番下のサンプル品の写真に,半球状センサーの形状およびそのレンズ模様が記載されている。
サンプル品は,請求人である東莞巨揚電器有限公司の社員であるG氏が2010年6月15日にDHLにて,J氏を介して被請求人である(MUSHASHI Hardware MFG CO.,LTD)に送ったものである。請求人が2010年6月15日にDHLにて被請求人にサンプル品を送ったことは,DHLによる証明書(以下,「甲15の3」という。)によって明らかである。

請求人は,J氏にLEDセンサーライトのサンプル品のデザイン図面を提供している。
すなわち,甲16の1は,G氏からJ氏を含む複数名宛てに,2010年7月13日午前8時56分に送信した電子メールである。この電子メールには,タイトルを「Re: Re Screw type Led sensor lights-」と称する電子メール本文が記載され,サンプル品のデザイン図面(以下,「甲16の2」という。)が添付されている。なお,電子メールには,デザイン図面(甲16の2)を含む複数個のファイルが,データ圧縮のファイルフォーマットの一つであるRAR(「ラー」,または「アールエーアール」)によって圧縮され,「4W MUSASHI LED.rar」と称する一つの圧縮ファイルによって添付されている。
電子メール本文には。
「Dear J(氏),
添附した資料はupdatedしたspec.と短くになったID図面,包装の部分は午後送ります。」と記載されている。
デザイン図面(甲16の2)には,請求人が作成したサンプル品の全体を示す斜視図,カバーおよび半球状センサーを正面から見た正面図,カバーおよび半球状センサーを背面から見た背面図が含まれる。これらの図に,半球状センサーの形状およびそのレンズ模様が明確に記載されている。半球状センサーの表面は滑らかな面であり,内面側にレンズ模様が形成され,その模様が表面側に透けて現れている。


請求人は,甲16の1の電子メールとは別に,J氏に質問に答えるとともに,LEDセンサーライトのサンプル品のデザイン図面を提供している。
すなわち,甲17の1は,G氏からJ氏を含む複数名宛てに,2010年8月4日午後3時41分に送信した電子メールである。この電子メールには,タイトルを「Re: Re 4W Screw type sensor lights-」と称する電子メール本文が記載され,サンプル品のデザイン図面(以下,「甲17の2」という。)が添付されている。なお,電子メールには,デザイン図面(甲17の2)を含む複数個のファイルが,データ圧縮のファイルフォーマットの一つであるRARによって圧縮され,「LAMP-NEW.rar」と称する一つの圧縮ファイルによって添付されている。また,電子メールには,「LAMP-old.rar」と称する他の一つの圧縮ファイルが添付されているが,半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様に関してはデザイン図面(甲17の2)と同じである。
デザイン図面(甲17の2)には,請求人が作成したサンプル品の全体を示す斜視図,カバーおよび半球状センサーを正面から見た正面図,カバーおよび半球状センサーを背面から見た背面図が含まれる。これらの図に,半球状センサーの形状およびそのレンズ模様が明確に記載されている。半球状センサーの表面は滑らかな面であり,内面側にレンズ模様が形成されている。このデザイン図面にあっては,模様を表面側に透けて現さない表現形式を用いて作成されている
デザイン図面(甲17の2)は,甲16の2と同様に,CADデータのビューワーソフト「eDrawings」を搭載した自己解凍ファイル形式(.EXE)にて,ファイル名「LAMP-NEW.exe」で保存されていたものを,そのCADビューワーソフトを用いてプリント出力したものである。プリント出力に際しては,CADビューワーソフトを操作し,サンプル品を見る方向を調整し,カバーおよび半球状センサーに相当する部品以外を一時的に隠す調整を行っているが,形状を表す線には何らの加工も行っていない。
このように,請求人が半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様を完成させていることについては明らかである。
そして,サンプル品の現物は,J氏を介して被請求人におくられ,サンプル品のデザイン図面(甲16の2,および甲17の2)は,J氏を介して被請求人に送信されており,被請求人は,請求人が完成させた半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様を詳細に知るに至ったのである。

(c)(略)

(d)被請求人が本件登録意匠の要部の創作を2009年7月29日時点で完成させていないことについて:
被請求人は,「本件登録意匠の要部の創作は,2009年7月29日時点で被請求人の社内において完成しており,その意匠登録を受ける権利は被請求人が有することは明らかである。」と主張している。
しかしながら,この主張は,きわめて疑わしいものである。
すなわち,デザイン図(乙2の2)と,意匠登録出願の図面(乙1)とを比べてみれば,2009年7月29日時点で被請求人が本件登録意匠の要部の創作が完成していないことは一目瞭然である。デザイン図(乙2の2)においては,半球状センサーのレンズ模様は,ゴルフボールのようなディンプル状の模様を有しているのに対し,意匠登録出願の図面(乙1)においては,半球状センサーのレンズ模様は,網目状(クモの巣状)の模様を有している。ディンプル状の模様と,網目状(クモの巣状)の模様とは,まったく違った形状である。さらに,一つ一つのレンズ模様の大きさを比べてみても,デザイン図(乙2の2)における大きさと,意匠登録出願の図面(乙1)における大きさとが相当程度違っており,意匠登録出願の図面(乙1)における大きさの方が,デザイン図(乙2の2)における大きさよりもかなり大きく変更されている,デザイン図(乙2の2)においては,レンズ模様の個数を数えることが難しいほどに小さい形状を有している。
被請求人が半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様を別個に完成させていることも考えられなくもないが,そうとするならば,請求人が設計・製作したサンプル品に対して行うテストの中に,半球状センサーにおけるセンサーの機能(検出性能)を確認するテストを行う必要はそもそもないはずである。ところが,テストレポート(甲15の2)にはセンサーの機能(検出性能)を確認する「SENSOR DETECTION TEST」が含まれている。このことから,被請求人が半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様を完成させる能力を備えていないことは明らかである。
このように,デザイン図(乙2の2)と,意匠登録出願の図面(乙1)とを比べてみれば明らかなように,本件登録意匠の要部の創作は,2009年7月29日時点で被請求人の社内において完成していないのである。

(e)(略)

(f)意匠登録出願の図面(乙1)における半球状センサーのレンズ模様と,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲16の2,および甲17の2)における半球状センサーのレンズ模様との比較について:
被請求人による意匠登録出願の図面(乙1)と,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲16の2,および甲17の2)とを比べてみれば,半球状センサーのレンズ模様はともに六角形状の模様を有し,実質的に同一の形状である。さらに,一つ一つのレンズ模様の大きさを比べてみても,意匠登録出願の図面(乙1)における大きさと,サンプル品のデザイン図面(甲16の2,および甲17の2)における大きさとはほぼ同じである。
したがって,被請求人による意匠登録出願の図面(乙1)に記載された半球状センサーのレンズ模様は,被請求人によるデザイン図(乙2の2)に記載された半球状センサーのレンズ模様と同一ではなく,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲16の2,および甲17の2)に記載された半球状センサーのレンズ模様と実質的に同一である。
請求人が完成させたサンプル品は2010年6月15日DHLにて被請求人に送られ,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲16の2)は2010年7月13日に被請求人に送信され,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲17の2)は2010年8月4日に被請求人に送信されている。そして,被請求人は,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲17の2)が送信されてきた2日後の2010年8月6日に意匠登録出願を行っている。デザイン図面を受け取ってから2日後に意匠登録出願を完了させたのは,我国が先願主義(意匠法第9条)を採用していることを考慮に入れたものと考えられる。
このように,被請求人は,請求人が半球状センサーのレンズ模様を完成させるのを待ち,その情報に基づいて意匠登録出願しており,いわゆる冒認出願である

(g)なお,請求人による甲1の出願日は2009年9月29日であり,被請求人がデザイン図(乙2の2)を提示した日とされる2009年7月29日よりは後であるが,半球状のセンサーがカバーの頂部に突設されている点は,被請求人がデザイン図を提示するよりも前に公知の事実なっている。すなわち,中国意匠登録第300706853号公報(CN300706853)(以下,「甲18」という。)は,2007年11月7日に出願公告されたものであるが,半球状のセンサーがカバーの頂部に突設されたLED灯具が記載されている。したがって,請求人による甲1の出願は,被請求人よるデザイン図に基づいてなされたものではない。

(2-3)2012年(平成24年) 5月 1日付け「上申書」における請求人の主張概要
半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を設けることはセンサーの分野においてはセンサーの機能を調整するために一般的なことではあるが(平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書の第6頁第2?4行),単に「探知距離:5M 360度」との要求仕様(乙2の1)のみで,半球状センサーの表面に設ける網目状(クモの巣状)の模様が一義的に定まるものではない。甲14,乙8の図3,乙9の図1および図9,乙10の図2に示されるように,センサーの表面に設ける網目状(クモの巣状)の模様には種々の模様があり,網目状(クモの巣状)の模様が異なっても「探知距離:5M 360度」との要求仕様を達成することはできる。
したがって,「探知距離:5M 360度」との要求仕様(乙2の1)は,半球状センサーのレンズ(フレネルレンズ)が本件登録意匠(乙1)のような網目状(クモの巣状)になることを一義的に定めるものではなく,本件登録意匠の要部の創作は,デザイン図(乙2の2)を添付した電子メール(乙2の1)を送付した2009年7月29日時点においては被請求人の社内において完成していない(平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書の第10頁第23行?第11頁第17行)。

本件登録意匠において半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様は,乙1の各図に基づけば次のとおりに把握される。まず,半球状センサーの頂部に多角形状を有する1個の小型レンズ(便宜上,「第1の小型レンズ」という。)が配置されている。第1の小型レンズの周囲に,多角形状を有する8個の小型レンズ(便宜上,「第2の小型レンズ」という。)が配置されている。8個の第2の小型レンズは,第1の小型レンズの中心を中心点とする同心円状に配列されている。8個の第2の小型レンズのそれぞれは,大きさおよび形状が同じである。8個の第2の小型レンズの周囲に,多角形状を有する14個の小型レンズ(便宜上,「第3の小型レンズ」という。)が配置されている。14個の第3の小型レンズは,第1の小型レンズの中心を中心点とする同心円状に配列されている。14個の第3の小型レンズのそれぞれは,大きさおよび形状が同じである。14個の第3の小型レンズの周囲に,多角形状を有する14個の小型レンズ(便宜上,「第4の小型レンズ」という。)が配置されている。14個の第4の小型レンズは,第1の小型レンズの中心を中心点とする同心円状に配列されている。14個の第4の小型レンズのそれぞれは,大きさおよび形状が同じである。乙9の図1(b)(c)(d)および図9(d)に示されている形態と同様に,14個の第4の小型レンズからなる群,14個の第3の小型レンズからなる群,8個の第2の小型レンズからなる群,および,第1の小型レンズは,層をなして積層されるような形態をなしている。このような小型レンズの配列によって,本件登録意匠における半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様が形成されている。

被請求人である株式会社ムサシのB氏(甲9)がMMCのC氏(甲10)を介して請求人に送付したデザイン図(乙11),および請求人である東莞巨揚電器有限公司(Living Style)の董事長であるK(氏)ことE氏(甲12)がデザイン図(乙11)に光線を矢印で追記するとともに影を示したデザイン図(乙12の2)には,確かに,半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様が表されている。
しかしながら,デザイン図(乙11)およびデザイン図(乙12の2)から明らかなように,半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様は,半球状センサーの頂部に配置した小型レンズの中心を中心点とする同心円状に小型レンズを配列したものではなく,それゆえ同心円状に配列した複数の小型レンズからなる群を積層したような形態でもない。複数の小型レンズを非同心円状に配列することによって,デザイン図(乙11)およびデザイン図(乙12の2)における半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様が形成されている。
したがって,本件登録意匠における半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様と,デザイン図(乙11)およびデザイン図(乙12の2)における半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様とは同一ではなく,本件登録意匠の要部の創作は,デザイン図(乙12の2)が添付された乙12の1の電子メールが送信された2009年8月19日よりも前であって,請求人がデザイン図(乙11)を受領した時点においても被請求人の社内において完成していない。

一方,請求人は,2010年7月13日のサンプル品のデザイン図面(甲16の2),および2010年8月4日のサンプル品のデザイン図面(甲17の2)に示されるように,半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様を完成させている(平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書の第8頁第13行?第10頁第1行)。
請求人のサンプル品において半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様は,デザイン図面(甲16の2)およびデザイン図面(甲17の2)の各図に基づけば次のとおりに把握される。まず,半球状センサーの頂部に多角形状を有する1個の小型レンズ(便宜上,「第1の小型レンズ」という。)が配置されている。第1の小型レンズの周囲に,多角形状を有する8個の小型レンズ(便宜上,「第2の小型レンズ」という。)が配置されている。8個の第2の小型レンズは,第1の小型レンズの中心を中心点とする同心円状に配列されている。8個の第2の小型レンズのそれぞれは,大きさおよび形状が同じである。8個の第2の小型レンズの周囲に,多角形状を有する14個の小型レンズ(便宜上,「第3の小型レンズ」という。)が配置されている。14個の第3の小型レンズは,第1の小型レンズの中心を中心点とする同心円状に配列されている。14個の第3の小型レンズのそれぞれは,大きさおよび形状が同じである。14個の第3の小型レンズの周囲に,多角形状を有する14個の小型レンズ(便宜上,「第4の小型レンズ」という。)が配置されている。14個の第4の小型レンズは,第1の小型レンズの中心を中心点とする同心円状に配列されている。14個の第4の小型レンズのそれぞれは,大きさおよび形状が同じである。14個の第4の小型レンズからなる群,14個の第3の小型レンズからなる群,8個の第2の小型レンズからなる群,および,第1の小型レンズは,層をなして積層されるような形態をなしている。このような小型レンズの配列によって,請求人のサンプル品における半球状センサーの表面に設けられる網目状(クモの巣状)の模様が形成されている。
したがって,被請求人による意匠登録出願の図面(乙1)に記載された半球状センサーのレンズ模様は,被請求人によるデザイン図(乙2の2,乙11,乙12の2)に記載された半球状センサーのレンズ模様と同一ではなく,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲16の2,および甲17の2)に記載された半球状センサーのレンズ模様と実質的に同一である。
そして,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲16の2)は2010年7月13日に被請求人に送信され,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲17の2)は2010年8月4日に被請求人に送信され,被請求人は,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲17の2)が送信されてきた2日後の2010年8月6日に意匠登録出願を行っている(平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書の第12頁第19?27行)。

以上のとおり,請求人は少なくとも半球状センサーのレンズ模様を完成させており,センサー付発光ダイオードランプの透光性カバー先端部の部分意匠である本件登録意匠について,意匠登録を受けることができる創作者(意匠法第3条第1項柱書)であるにもかかわらず,被請求人は,請求人が半球状センサーのレンズ模様を完成させるのを待ち,その情報に基づいて意匠登録出願しているのであるから,いわゆる冒認出願である。

3.むすび
以上述べたように,本件意匠登録は,甲1および甲2の1?3により公知であるか(無効理由1)あるいは該証拠から当業者が容易に創作し得るものである(無効理由2)から,意匠法第3条第1項第1号ないし第3号あるいは同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号の規定により,無効とすべきものである。
また,前記のとおり,本件意匠登録は,冒認出願によりなされたものである(無効理由3)から意匠法第48条第1項第3号の規定により無効とすべきである。
よって,登録第1412035号意匠の登録を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求める,次第である。



第3 被請求人の答弁及びその理由の要点
被請求人は,答弁書を提出し,答弁の趣旨を「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,証拠方法として,乙1ないし乙12(枝番を含む。翻訳文を含む。)を提出し,その理由を要点,以下のとおり主張した。

1.公知意匠と同一または類似あるいは創作容易である旨の主張に対する反論(無効理由1)及び(無効理由2)
(1)本件登録意匠
本件意匠登録願の写しである甲7の3では,本件登録意匠の内容が不明確であるため,本件登録意匠に係る意匠登録出願(意願2010-019357)の証明請求書に対して特許庁長官が証明した書面を,乙1として提出する。
本件登録意匠は,「センサー付発光ダイオードランプ」の透光性カバーの先端部の部分意匠であり,透光性カバーは球面状であり,透光性カバーの球面状表面の頂部から半球状センサーが突出しており,半球状センサーの表面には,網目状(クモの巣状)の模様が設けられている。

(2)本件登録意匠の要部
本件登録意匠において,センサーを有する透光性カバーの先端部が,需要者が購入時に最も目に付くところであり,部分意匠として出願していることからも明らかなように,創作のポイントである。
すなわち,球面状透光性カバー表面の頂部から半球状センサーが突出し,該半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を有する点が,本件登録意匠の要部である。

(3)甲1に記載された意匠
甲1の図1に記載された意匠(以下,「甲1の意匠」という。)は,透光性カバーが略円錐台状であり,透光性カバーの平坦な面の中央部から半球状センサーが突出しており,半球状センサーの周囲には溝が形成されており,半球状センサーは無模様である。

(4)本件登録意匠と甲1の意匠との比較
本件登録意匠と甲1の意匠を全体的に観察すると,透光性カバー表面の中央部から半球状センサーが突出している点が共通し,
(イ)透光性カバーの形状について,本件登録意匠では球面状であるのに対して,甲1の意匠では略円錐台状である点,
(ロ)半球状センサーまわりの形状について,本件登録意匠では球面状であるのに対して,甲1の意匠では半球状センサーの周囲に溝が形成されており,その外方が平面状である点,
(ハ)半球状センサーの表面について,本件登録意匠では網目状(クモの巣状)の模様が設けられているのに対して,甲1の意匠では無模様である点,
が相違する。
このような両意匠の相違点は,上記本件登録意匠の要部に係る顕著なものであるから,両意匠に前記の共通点があっても,両意匠はその支配的態様が異なるというべきであるため,両意匠は全体として類似しない。
また,網目状(クモの巣状)の模様を有する半球状センサーを球面状の透光性カバー表面の中央に取り付ける発想は,本件登録意匠の出願前には存在せず,本件登録意匠は創作性を有する。

(5)甲2についての否認
請求人は,「Global Market」のカタログには,「カタログであるので明確な発行日は記載されていない」とし,甲2の2のカタログの背表紙に記載されている「Feb-Mar 2010」を根拠として,また,甲2の3ないし9に記載されている展示会の予告開催日を根拠として,甲2の1を包含するカタログが2010年2?3月あるいはそれ以前に頒布されたことは間違いないとしているが,甲2の2ないし9は,甲2の1を包含するカタログの実際の発行日(実際に頒布された日)を何ら客観的に立証するものではない。
その上,甲2の1ないし9は,「Global Market」のカタログと称するものから,必要な個所だけを部分的に複写したものと推認されるものではあるが,「Global Market」のカタログの表紙及び奥付が提出されていないとともに,多くの不整合な点が存在する。
すなわち,甲2の1及び6ないし8には頁番号が記載されているが甲2の2ないし5及び9には頁番号の記載がない点,甲2の1に記載されている頁番号まわりの体裁が他の頁番号まわりの体裁と一致しない点,甲2の1のカタログの大きさと甲2の2ないし9のカタログの大きさに違いがある点,甲2の1に記載された3種類のLED電球は新製品のはずであるが,他の新製品のような「NEW」という文字の記載がない点,並びに,甲2の1のLED電球の右端に「PATENTED」と記載されており,この権利は甲1の実用新案権であると推認されるが,2010年2?3月あるいはそれ以前の時点で上記実用新案権は未成立である点,等である。
なお,被請求人は,甲2を含む「Global Market」のカタログ全体の原本を入手すべく,請求人が示したカタログの発行団体からの取寄せを試みたが,入手できなかった。
以上より,被請求人は,甲2の1ないし9について否認するとともに,上記不整合な点についての釈明,並びに,甲2を含む「Global Market」のカタログ全体の原本の提出及びカタログの発行日の立証を求める。


2.冒認出願である旨の主張に対する反論(無効理由3)
(2-1)本件登録意匠の「センサー付発光ダイオードランプ」に係る製品は,請求人の主張のとおり,「被請求人の依頼により請求人において製造された」ものであり,この被請求人の依頼内容等について説明する。

被請求人である株式会社ムサシのB氏(甲9参照。)は,Merchandising Meister Corporation (MMC)のC氏(甲10参照。)及びTwin-Son Hardware FactoryのJ氏を介して,請求人のLiving style Enterprises Limited (LS(当審注:請求人会社の英語名の略称。以下,同じ。),甲2の1参照。)ヘデザイン図を添付して見積を依頼し(乙2参照。),その見積依頼に対して,請求人のLSは,同様に,J氏及びC氏を介して,B氏に,質問を行っている(乙3参照。)。
すなわち,乙2は,被請求人である株式会社ムサシのB氏から,MMCのC氏宛てに,2009年7月29日13時52分に送信された電子メールであり,そのメール本文である乙2の1には,「4W PIR付きLED電球」等の具体的な仕様や,請求人であるLSへの見積を依頼する内容が記載されており,また,前記電子メールに添付された乙2の2のデザイン図には,本件登録意匠の要部である球面状透光性カバー(グローブ)表面の頂部から半球状センサー(PIRセンサー)が突出し,半球状センサーの表面に網目状の模様が表れているデザインが記載されている。
また,乙3は,MMCのC氏から被請求人である株式会社ムサシのB氏宛てに,2009年8月3日10時50分に送信された電子メールであり,JからC氏宛てに2009年7月31日午後7時23分に送信された電子メール本文,すなわち,「4W PIR付きLED電球」の見積に対する請求人のLSからの5つの質問事項が記載された電子メール本文が転送されてあり,この質問に対する回答を,C氏からB氏に依頼する旨の記載がされている。
これらの電子メールから,被請求人である株式会社ムサシのB氏が送付した乙2の2のデザイン図を請求人のLSが受け取り,それに対して請求人のLSが質問をしていたことは明らかである。
以上のように,乙2の2のデザイン図に記載されている,本件登録意匠の要部の創作は,2009年7月29日時点で被請求人の社内において完成しており,その意匠登録を受ける権利は被請求人が有することは明らかである。

(2-2)2012年(平成24年) 2月28日付け口頭審理陳述要領書における被請求人の主張概要
(2-2-1)本件登録意匠に係る「意匠の創作」から「意匠登録出願」に至る経緯
(ア)請求人は,デザイン図(乙2の2)を受領したことを認めている
(平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書の第6頁20?21行)。

(イ)このデザイン図は,2009年7月29日付けの電子メール(乙2の1)に添付されたものであり,被請求人の社員であるB(甲9)が電子メールを送付した時点(2009年7月29日の日本時間13時52分)で,デザイン図(乙2の2)が完成していることは明らかである。

(ウ)被請求人は,1998年から,ライトと赤外線センサーが別体である多数のセンサーライトを開発しており,多数のセンサーライトの新製品の中から厳選したものについて意匠登録出願を行ってきた。

(エ)被請求人は,2009年6月頃に,シャープ株式会社が家庭用発光ダイオードランプ(LED電球)を発売する等,発光ダイオードランプ市場の急拡大が見込まれる状況であったため,センサーライトの技術と発光ダイオードランプとを組み合わせた新製品開発を推進した。

(オ)この時点で,被請求人は,全体形状が蜂の巣状で,その底面に多数の砲弾型のLED電球を敷き詰めて中央にセンサーレンズを突出させた風変わりな形状の,室内の家具や装飾品に対して違和感があるセンサー付発光ダイオードランプの製品があることを知っていた。

(カ)そこで,被請求人は,室内の家具や装飾品に対して違和感がない,丸みを帯びたシンプルなデザインのセンサー付発光ダイオードランプの開発を進め,その基本的なデザインとして,社内においてデザイン図(乙2の2)を完成させたものである。

(キ)また,被請求人は,デザイン図(乙2の2)が完成する以前に,特許庁のウェブサイトのトップページにある特許電子図書館(IPDL)の「特許・実用新案検索」の「公報テキスト検索」等を行い,赤外線センサー付電球の考案(乙4)が存在することを知っていた。

(ク)この考案(乙4)は,登録実用新案公報の発行日が2005年6月16日であり,発光ダイオードランプ(LED電球)に赤外線センサーを内蔵することにより別体の赤外線センサーを取り付ける必要をなくしたものであり,同公報の図2,図3,図5ないし図7には,ランプソケット(10)の収容凹部の開口面を遮蔽するように取り付けられる略円筒状のランプシェード(20)の平坦な面(底面)の中央部に孔を形成し,この孔から半球状のフォーカスカバー(50)を突出させた形態が開示されている。

(ケ)さらに,被請求人は,2010年1月頃に,特許庁のウェブサイトのトップページにある特許電子図書館(IPDL)の「意匠検索」の「意匠公報テキスト検索」等を行い,発光ダイオードランプ(LED電球)について,多数の登録意匠が存在すること(例えば,乙5ないし7)を知っていた。

(コ)以上のような状況下で,被請求人は,上述のように出願を厳選するとともに量産の目処がついた時点で出願を行う方針に基づき,社内で創作した「センサー付発光ダイオードランプ」の形態について,多数の登録意匠の存在(例えば,乙5ないし7)により,放熱フィン及び口金を含むソケット部分については意匠上の特徴はないと判断し,その特徴部分である透光性カバーの先端部の部分意匠として,2010年8月6日に意匠登録出願をしたものである。

(2-2-2)被請求人の社内で創作した「センサー付発光ダイオードランプ」の意匠
(ア)上述のとおり,デザイン図(乙2の2)は,被請求人の社員であるB氏(甲9)が電子メールを送付した時点(2009年7月29日の日本時間13時52分)で,完成している。

(イ)このデザイン図(乙2の2)には,上述のとおり,球面状透光性カバー表面の頂部から半球状センサーが突出しており,さらに半球状センサーの表面に比較的細かい網目状の模様が表れている。

(ウ)この半球状センサーの比較的細かい網目状の模様(乙2の2)は,3次元CADを用いた際に簡略化した描写手法であり,被請求人による要求仕様(乙2の1)に「探知距離:5M 360度」と記載されており,このような仕様により半球状センサーのレンズ(フレネルレンズ)が本件登録意匠(乙1)のような網目状(クモの巣状)になることは,デザイン図(乙2の2)を添付した電子メール(乙2の1)を送付した時点で,受動型の赤外線人体検知センサー(PIRセンサー)の技術分野では常識的なことである(例えば,甲14,乙8の図3,乙9の図1及び図9,乙10の図2)。

(エ)また,デザイン図(乙2の2)の意匠の創作以前には,透光性カバーの平坦な面の中央部から半球状センサーを突出させた形態(例えば,乙4(日本の登録実用新案公報「赤外線センサー付き電球」),甲18(中国意匠登録)),及び,全体形状が蜂の巣状で,その底面に多数の砲弾型のLED電球を敷き詰めて中央にセンサーレンズを突出させた上述の製品の形態が存在するのみであり,球面状透光性カバー表面の中央部に網目状(クモの巣状)の模様を有する半球状センサーを取り付けた,室内の家具や装飾品に対して違和感がない,丸みを帯びたシンプルなデザインのセンサー付発光ダイオードランプの形態は見当たらない。

(オ)よって,本件登録意匠の要部の創作は,2009年7月29日時点で被請求人の社内において完成しており,その意匠登録を受ける権利は被請求人が有することは明らかである。

(カ)要するに,被請求人の社内で創作した「センサー付発光ダイオードランプ」の意匠は,センサー付発光ダイオードランプの透光性カバー先端部の部分意匠であり,裸電球に近い形状を成す球面状透光性カバー表面の頂部から半球状センサーを突出させるとともに,半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を表しており,(i)球面状透光性カバー,(ii)半球状センサー,(iii)網目状(クモの巣状)の模様,を組み合わせて構成される,丸みを帯びたシンプルな形態に意匠上の特徴があるものである。

(2-3)2012年(平成24年) 3月28日付け「上申書」における被請求人の主張
審判請求書及び平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書における,本件登録意匠が被請求人の創作ではなく請求人の創作であるという請求人の主張に対して,被請求人は,平成23年10月11日付け審判事件答弁書及び平成24年2月28日付け口頭審尋陳述要領書における反論を補強する。

(2-3-1)請求人の主張の概要
請求人は,請求人が作成したサンプル品のデザイン図(甲16の2,甲17の2)に,半球状センサーの形状およびそのレンズ模様が明確に記載されていることから,このような半球状センサーの全体形状およびそのレンズ模様を請求人が完成させている,と主張している(平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書の第8頁13行?第10頁1行)。
また,請求人は,被請求人のデザイン図(乙2の2)における半球状センサーのレンズ模様は,ゴルフボールのようなディンプル状の模様を有しているのに対し,意匠登録出願の図面(乙1)においては,半球状センサーのレンズ模様は,網目状(クモの巣状)の模様を有しており,これらの半球状センサーのレンズ模様が異なることから,本件登録意匠の要部の創作は,2009年7月29日の時点で被請求人の社内において完成していない,と主張している(同口頭審尋陳述要領書の第10頁23行?第11頁17行)。
そして,請求人は,被請求人が半球状センサーのレンズ模様を完成させるのを待ち,その情報に基づいて意匠出願をしているため,いわゆる冒認出願である,と主張している(同口頭審尋陳述要領書の第12頁28?29行)。

(2-3-2)被請求人の反論
被請求人のデザイン図(乙2の2)における半球状センサーのレンズ模様が比較的細かい網目状である点について,「この半球状センサーの比較的細かい網目状の模様(乙2の2)は,3次元CADを用いた際に簡略化した描写手法であり,被請求人による要求仕様(乙2の1)に「探知距離:5M360度」と記載されており,このような仕様により半球状センサーのレンズ(フレネルレンズ)が本件登録意匠(乙1)のような網目状(クモの巣状)になることは,デザイン図(乙2の2)を添付した電子メール(乙2の1)を送付した時点で,受動型の赤外線人体検知センサー(PIRセンサー)の技術分野では常識的なことである」(平成24年2月28日付け口頭審尋陳述要領書の第4頁4?11行)という被請求人の主張のとおりであり,半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様を設けることが,センサーの分野においてはセンサーの機能を調整するために一般的なことであることは,請求人も認めている(平成24年2月14日付け口頭審尋陳述要領書の第6頁2?4行)。

そして,被請求人である株式会社ムサシのB氏(甲9)は,乙11に示すデザイン図も,MMCのC氏(甲10)を介して請求人へ送付しており,このデザイン図における半球状センサーのレンズは網目状(クモの巣状)の模様を有している。

乙12の1の電子メールは,2009年8月19日の11:17AMに,MMCのC氏(甲10)から被請求人である株式会社ムサシのB氏(甲9)へ送信された,請求人である東莞巨揚電器有限公司(Living Style)の董事長であるK(氏)ことE氏(甲12)からの確認依頼であり,この電子メールの本文に「ムサシのデザイン図」(”Musashi’s ID”)という記載があるとともに,LEDの位置がセンサー部と重なり,点灯させた時に影が出てしまう可能性があることを説明するための図面として,デザイン図(乙12の2)が添付されており(添付ファイル名:musashi id.jpg),乙12の2のデザイン図は,乙11のデザイン図に光線を矢印で追記するとともに影を示したものである。
よって,乙12の1の電子メールが送信された2009年8月19日の11:17AMよりも前に,乙11のデザイン図を請求人が受領していたことは明らかである。

乙11のデザイン図には,裸電球に近い形状を成す球面状透光性カバー表面の頂部から半球状センサーを突出させるとともに,半球状センサーの表面に網目状(クモの巣状)の模様が表されたセンサー付発光ダイオードランプの透光性カバー先端部の形態が描かれており,このような被請求人のデザインを上述の受領により請求人が認識した後に,請求人がサンプル品のデザイン図(甲16の2,甲17の2)を完成したとしても,少なくともセンサー付発光ダイオードランプの透光性カバー先端部の形態については,被請求人の創作以外の新規な創作を請求人がしたことにはならず,よって,請求人は,センサー付発光ダイオードランプの透光性カバー先端部の部分意匠である本件登録意匠について,意匠登録を受けることができる創作者(意匠法第3条第1項柱書き)ではない。
また,本件登録意匠のセンサー付発光ダイオードランプの透光性カバー先端部の形態について,その要部である(i)球面状透光性カバー,(ii)半球状センサー,(iii)網目状(クモの巣状)の模様,を組み合わせて構成される,丸みを帯びたシンプルな形態(平成24年2月28日付け口頭審尋陳述要領書の第4頁29行?第5頁1行)は,平成24年2月28日付け口頭審尋陳述要領書の第2頁第4行?第3頁24行に示した経緯及び上述の経緯から,被請求人により創作されたものであることは明らかである。

以上のとおりであり,本件登録意匠は被請求人の創作ではなく請求人の創作であるという請求人の主張は失当である。


3.結論
以上のように,請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件意匠登録を無効とすることはできない。



第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1412035号の意匠)は,意匠法第14条第1項の規定により本願に係る意匠を秘密にすることを請求し,物品の部分について意匠登録を受けようとして,2010年(平成22年) 8月 6日に出願され,2011年(平成23年) 3月25日に意匠権の設定の登録がされた後,2011年(平成23年) 4月25日に意匠公報が発行されたものであり(別紙第1の1参照),意匠に係る物品を「センサー付発光ダイオードランプ」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」は,願書の記載及び願書に添付された写真に現されたとおりのものであって,『写真において赤色で塗りつぶした部分以外の部分が「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」である。本物品の光源を覆う上部のカバーは透光性を有する。』としたものである(以下,本件登録意匠について部分意匠として意匠登録を受けた部分を「本件登録意匠」という。)。(別紙第1の2参照)

すなわち,本件登録意匠は,
基本的構成態様として,
(1)発光ダイオードランプの略球面体状のランプカバー部(以下,「カバー部」という。)の頭頂部に略小半球状の「センサー部」を突出状に形成したものであって,
(2)センサー部及びカバー部の頭頂部の略球面体状の部分を発光ダイオードランプの垂直な縦軸に直交する平面で切り取ったものについて,部分意匠として意匠登録を受けたものであって,
(3)該部全体が透光性を有するものであり,
具体的構成態様としては,
(4)センサー部の内側には,区域が形成された,センサーのための小レンズ体が多面体状に複数枚(約37枚)形成されたものであり,中心部の1枚の小レンズ体を他の小レンズ体が三重円状に取り囲む構成となっているものであって,該部が透光性を有するため,その小レンズ体の境界線が,外観上「略網目模様状」に視認し得るものとなっており,
(5)その小レンズ体の具体的構成は,中心に「略八角形状のもの」が1枚(a1:この記号については,「別紙第2」の「図1の2」を参照。以下,同じ。)形成され,それを中心として,近接する周囲に「略五角形状のもの」ないし「略変形六角形状のもの」が8枚(b1ないしb8),放射状に形成され,さらにその周囲に同心円状かつ放射状に「略五角形状のもの」が14枚(c1ないしc14)形成され,最外周として,前記第2環状部のc1ないしc14に頂点部が対向する構成で,同心円状かつ放射状に「略五角形状のもの」が14枚(d1ないしd14)形成されているものであって,
(6)とりわけ,b1及びb5の小レンズ体にそれぞれ近接する小レンズ体がb1についてc1及びc2,b5についてc8及びc9の2枚ずつであり,それぞれ線分L1ないしL4で示す,高さの高い略台形状をなし,それがa1を挟んで対称形状に配列されているものである。


2.甲1意匠
甲1は,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願(2010年(平成22年)8月6日)前,2010年7月28日に,中国の知識産権局が発行した刊行物である「中国実用新案公告第201535459号公報明細書および その要約書訳文」である(別紙第3参照)。
当該文献に掲載された意匠は,「図1」に示される,意匠に係る物品「センサー付発光ダイオード電球」の意匠(以下,「甲1意匠」という。)であり,本件登録意匠に相当する部分は,図1の下方に表されたセンサー部及びその周辺のカバー部であって,
その形態は,
(1’)発光ダイオード電球の略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものであって,
(2’)カバー部の頭頂部は,非常に緩やかな略球面体状をなすものであって,
(3’)センサー部とカバー部の境界部には,細幅で浅い溝状部が形成されており,
(4’)センサー部に模様等は表されていないものである。


3.甲2の1意匠
甲2の1は,『外国カタログ「Global Manufacturer Certificate (Global Market)(略称「GMC」)」の「LivingStyle Enterprises Limited」のページ』であり(別紙第4参照),甲2の2は,「同GMCの背表紙」であり(別紙第5参照),甲2の3は,『同GMCの「LED CHINA 2010のThe Leading Global LED Event 」の開催予告ページ」』であって(別紙第6参照),甲2の2に「Feb-Mar 2010」と示されるように,出版物の慣行によれば,該カタログは,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願(2010年(平成22年)8月6日)前の,遅くとも2010年2月か,3月には,発行されていたものと認められる。
当該文献に掲載された意匠,すなわち,甲2の1の左上隅に現された(当審注:当該ページの上段に3つの電球の意匠が現されているが,部分意匠として見た場合,証拠としては,いずれもほぼ同等であると認められるが,本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けた部分以外の部分を含めた全体が近似する左上隅のものを証拠として採用し,以下,検討することとする。),「Bulb with photocell or without photocell」と付記された意匠は,意匠に係る物品「センサー(フォトセル)付電球」の意匠(以下,「甲2の1意匠」という。)であり,本件登録意匠に相当する部分は,当該ページの上方に現されたセンサー部及びその周辺のカバー部であって,
その形態は,
(1’’)電球の略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものであって,
(2’’)センサー部に模様等は現されていないものである。


4.無効理由1
請求人が主張する無効理由1,すなわち,本件意匠は,甲1意匠及び甲2の1意匠と同一又は類似するものであるから,意匠法第3条第1項第2号又は第3号に掲げる意匠に該当し,同法同条同項柱書の規定に基づいて意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号の規定により,本件意匠登録を無効にすべきであるとする点について検討する。


(1)甲1意匠と本件登録意匠の類否判断
(対比)
甲1意匠の意匠に係る物品は,「センサー付発光ダイオード電球」であり,本件登録意匠の意匠に係る物品は,「センサー付発光ダイオードランプ」であって,両意匠の意匠に係る物品は,共通する。

そして,形態について,甲1意匠と本件登録意匠は,以下の共通点及び相違点が主としてある。
(共通点)
(A)発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものである点。

(相違点)
(ア)カバー部の頭頂部の具体的構成態様について,甲1意匠は,非常に緩やかな略球面体状をなすものであるの対して,本件登録意匠は,丸みのある略球面体状をなすものである点,
(イ)甲1意匠は,センサー部とカバー部の境界部に,細幅で浅い溝状部が形成されているのに対して,本件登録意匠は,そのような溝状部はない点,
(ウ)本件登録意匠は,センサー部に,前記1.の具体的構成態様(4)ないし(6)に示すとおりの略網目模様が現れているのに対して,甲1意匠は,センサー部に,模様等は表されていないものである点。

(参酌すべき先行公知意匠)
甲1意匠及び本件登録意匠の類否判断にあたり,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願前に公知となった意匠で,参酌すべきものを両当事者が提出した証拠から摘記すると以下のとおりである。

・甲14に記載された意匠(別紙第7参照)
甲14は,1993年 2月16日に米国特許商標庁が発行した米国特許公報に係る「米国特許第5,187,360号明細書,およびその部分訳」であり,その「FIG.3」及び「FIG.4」に表された「半球状ドームレンズ」は,センサー部に形成される小レンズ体の構成について示すものであり,略六角形状をなす同形同大の小レンズ体が29枚連設されて,略球面体を構成しているものである。(なお,「FIG.1」及び「FIG.2」には放射状の分割面を有するレンズが表されているが,これは,「FIG.1」の断面該略図に示されるとおり,レンズ全体としては,球面状をなすものではない。)

・甲18に記載された意匠(別紙第8参照)
甲18は,2007年11月 7日に中国の知識産権局が発行した「中国意匠登録第300706853号公報」であり,これに掲載された意匠は,発光ダイオードランプであり,本件登録意匠に相当する部分としては,略平板状の頭頂部の中央に略小半球状のセンサー部が形成されたものであり,センサー部に模様等はない。

・乙9に記載された意匠(別紙第9参照)
・乙9は,2000年(平成12年) 5月12日に日本国特許庁が発行した「特開2000-131136号公報」であり,これに掲載された意匠は,主として,図9,図1,図2及びこれに関連する記載等によって表された,発明の名称「熱線式人感センサ」に係る,略半球状のレンズ部を有する受光レンズの意匠であり,レンズ部の内側に,小レンズ体(当該公報では「レンズ小体」と記載されている。)が,三重円状に配列されていて,最も内側の円内には4枚の小レンズ体(図内の当該区域に「A」の符合が付与されている。)が,次に大きい円内には8枚の小レンズ体(図内の当該区域に「B」の符合が付与されている。)が,最も外側の円内には12枚の小レンズ体(図内の当該区域に「C」の符合が付与されている。)が,すなわち,全体として24枚の小レンズ体が,略半球状のレンズ部を構成している。そして,24枚の小レンズ体は,三重円状に配列されるとともに,レンズ全体の中央を中心として略90°角度で4分割された区域を形成しているものである。

・乙8に記載された意匠(別紙第10参照)
・乙8は,2007年(平成19年) 1月11日に日本国特許庁が発行した「特開2007-003491号公報」であり,これに掲載された意匠は,主として,図3,図7及びこれに関連する記載等によって表された,発明の名称「熱線式人感センサ装置」に係る,多面体状のレンズ部を有する受光レンズの意匠であり,小レンズ体が形成された受光レンズの意匠であり,レンズ部は,三重円状に配列されていて,最も内側の円内には4枚の小レンズ体が,次に大きい円内には10枚の小レンズ体が,最も外側の円内には16枚の小レンズ体が,すなわち,全体として30枚の小レンズ体が,寄せ集まって多面体状のレンズ部を構成しているものである。

(判断)
甲1意匠と本件登録意匠は,意匠に係る物品が共通するが,形態については,共通点(A)の「発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものである点」は,両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものである上に,ランプのカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものである態様は,この種物品の先行公知意匠に照らすところ,ありふれた態様であるから,この共通点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であり,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。
これに対して,相違点(ア)の「カバー部の頭頂部の具体的構成態様について,甲1意匠は,非常に緩やかな略球面体状をなすものであるの対して,本件登録意匠は,丸みのある略球面体状をなすものである点」及び同(イ)の「甲1意匠は,センサー部とカバー部の境界部に,細幅で浅い溝状部が形成されているのに対して,本件登録意匠は,そのような溝状部はない点」も両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きい上に,相違点(ウ)に示した本件登録意匠の「センサー部に,前記1.の具体的構成態様(4)ないし(6)に示すとおりの略網目模様が現れている」態様は,本件登録意匠にのみに見られる極めて特徴的なものであるから,甲1意匠は,センサー部に,模様等は表されていない以上,この相違点(ウ)は,これのみでもって,両意匠の類否判断を決定付けているという他ない。そして,相違点(ア)乃至(ウ)が相まった視覚的効果を考慮すると,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕して,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきであって,本件登録意匠は,意匠全体として,甲1意匠に類似するということはできない。


(2)甲2の1意匠と本件登録意匠の類否判断
(対比)
甲2の1意匠の意匠に係る物品は,「センサー付電球」であり,本件登録意匠の意匠に係る物品は,「センサー付発光ダイオードランプ」であって,両意匠の意匠に係る物品は,共通する。

そして,形態について,甲2の1意匠と本件登録意匠は,以下の共通点及び相違点が主としてある。
(共通点)
(A)発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものである点。

(相違点)
(ア)本件登録意匠は,センサー部に,前記1.の具体的構成態様(4)ないし(6)に示すとおりの略網目模様が現れているのに対して,甲2の1意匠は,センサー部に,模様等は表されていないものである点。

(参酌すべき先行公知意匠)
前項(1)の同項と同様である。

(判断)
甲2の1意匠と本件登録意匠は,意匠に係る物品が共通するが,形態については,共通点(A)の「発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものである点」は,両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものである上に,ランプのカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成したものである態様は,この種物品の先行公知意匠に照らすところ,ありふれた態様であるから,この共通点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であり,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。
これに対して,相違点(ア)に示した本件登録意匠の「センサー部に,前記1.の具体的構成態様(4)ないし(6)に示すとおりの略網目模様が現れている」態様は,本件登録意匠にのみに見られる極めて特徴的なものであるから,甲2の1意匠は,センサー部に,模様等は表されていない以上,この相違点(ア)は,両意匠の類否判断を決定付けているという他なく,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕して,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきであって,本件登録意匠は,意匠全体として,甲2の1意匠に類似するということはできない。


(3)無効理由1の小括
以上のとおりであって,本件登録意匠は,甲1意匠及び甲2の1意匠のいずれにも類似するということはできず,意匠法第3条第1項第2号又は第3号に掲げる意匠に該当して同法同条同項柱書の規定に基づいて意匠登録を受けることができないものではないから,請求人が主張する,同法第48条第1項第1号に該当し,同法同条同項柱書の規定により,本件意匠登録は,無効とされるべきであるとする無効理由1は,理由がない。



5.無効理由2
請求人が主張する無効理由2,すなわち,本件意匠は,甲1意匠及び甲2の1意匠から容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号の規定により,本件意匠登録を無効にすべきであるとする点について検討する。

(1)意匠の創作容易性の判断における甲1意匠
甲1意匠は,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願(2010年(平成22年)8月6日)前,2010年7月28日に,中国の知識産権局が発行した「中国実用新案公告第201535459号公報明細書」という刊行物に記載された意匠であり,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日の,9日前に発行されたものである。実用新案公告公報は,中国の知識産権局が公示の目的をもって発行するものであるから,9日間とはいえ,この種物品分野に属する不特定の者に対して,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願時点において現実に公然知られたものとなっていたということができるので,甲1意匠は,本件登録意匠の創作容易性の判断資料とすることできるものと認める。

(甲1意匠と本件登録意匠の関連性)
また,甲1意匠は,前記2.において示したとおりのものであって,意匠に係る物品「センサー付発光ダイオード電球」の意匠について,その基本的構成態様を,発光ダイオード電球の略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成する点について,本件登録意匠との関連性がある。

(2)意匠の創作容易性の判断における甲2の1意匠
甲2の1意匠は,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願(2010年(平成22年)8月6日)前,遅くとも2010年2月か,3月には発行された外国カタログ「Global Manufacturer Certificate (Global Market)(略称「GMC」)」の「LivingStyle Enterprises Limited」のページに記載された意匠であり,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日の,約半年前に発行されたものであるから,常識的に考えて,この種物品分野に属する不特定の者に対して,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願時点において現実に公然知られたものとなっていたということができるので,甲1意匠は,本件登録意匠の創作容易性の判断資料とすることできるものと認める。

(甲2の1意匠と本件登録意匠の関連性)
また,甲2の1意匠は,前記3.において示したとおりのものであって,意匠に係る物品「センサー(フォトセル)付電球」の意匠について,その基本的構成態様を,電球の略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成する点,及び,カバー部の頭頂部を略球面体とする点について,本件登録意匠との関連性がある。

(3)甲1意匠及び甲2の1意匠に基づく本件登録意匠の創作容易性の該当性の判断
本件登録意匠は,前記1.において示したとおりのものであり,また,前記4.の無効理由1において検討したところによれば,センサー部の具体的構成態様,すなわち,小レンズ体の境界が,略網目模様状に表れる点に特徴があるものであるところ,甲1意匠及び甲2の1意匠のいずれにも,その態様は表れていないし,前記4.の無効理由1において検討したとおり,その点が公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であるとする先行意匠も全く見られないのであるから,甲1意匠及び甲2の1意匠から,その基本的構成態様を,発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成する点,及び,カバー部の頭頂部を略球面体とする点について,導き出せたとしても,本件登録意匠の基本的構成態様及び各部の具体的構成態様のすべてを導き出せたとは到底いうことはできない。

(4)無効理由2の小括
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,外国において公然知られた意匠である,甲1意匠及び甲2の1意匠に基づいて容易に創作することができた意匠ということはできず,意匠法第3条第2項の規定に基づいて意匠登録を受けることができないものではないから,請求人が主張する,同法第48条第1項第1号に該当し,同法同条同項柱書の規定により,本件意匠登録は,無効とされるべきであるとする無効理由2は,理由がない。



6.無効理由3
請求人が主張する無効理由3,すなわち,本件登録意匠(本件部分意匠)は,該意匠の創作をした者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願,すなわち冒認意匠の出願に基づくものであるから,意匠法第48条第1項第3号の規定により本件意匠登録は,無効とされるべきものであるとする点について検討する。

(1)請求人適格(利害関係)
無効理由3の判断の前提として,請求人適格,すなわち,請求人が意匠法第48条(意匠登録無効審判)第2項ただし書に関し,「利害関係人」であるか否かを検討する。(なお,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日は,2010年(平成22年)8月6日であって,平成23年改正意匠法の施行日(2012年(平成24年)4月1日)より前であるので,本件無効審判請求は,改正前の旧法に基づくものである。)

本件意匠登録無効審判事件の請求人である,東莞巨揚電器有限公司(英文名称”Living Style Enterprises Limited”)は,請求人が提出した証拠等によれば,PIRセンサー類,ECOライト,LEDライト,太陽ライト,セキュリティー器具,チャイムコントローラ等を主要製品として製造している。また,請求人会社は,以前より被請求人である株式会社ムサシとは取引がある(この点は,被請求人も認めている。)。したがって,請求人は,本件意匠登録無効審判事件に関する利害関係人であり,請求人適格を有するもの認められる。


(2)無効理由3の判断
当審は,請求人が提出した証拠等に基づくところ,本件登録意匠の創作者は,請求人会社の社員であるJ氏であると認める。
そして,本件意匠登録の意匠権者,すなわち,被請求人は,請求人会社の社員であるJ氏が創作したセンサー付発光ダイオードランプのデザインを,そのデザイン図面(甲16の2,甲17の2)から知得して,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継せず,創作者をA氏とし,被請求人自らの名義によって,本件意匠登録に係る意匠について冒認出願して意匠登録を受けたものであるから,本件意匠登録は,意匠を創作した者でない者であってその意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願に対してされたものであって,無効理由3は理由があり,本件意匠登録は,意匠法第48条第1項第3号に該当し,同法同項柱書の規定により,無効とされるべきである。
以下,詳述する。

(i)本件登録意匠の創作に係る請求人会社と被請求人会社との時系列的経緯及びその内容

(ア)2009年(平成21年) 7月29日 乙2の1及び乙2の2(別紙第11参照)によれば, 被請求人である株式会社ムサシのB氏は,Merchandising Meister Corporation (MMC)のC氏及びTwin-Son Hardware FactoryのJ氏を介して,請求人会社ヘデザイン図を添付して見積を依頼した際,被請求人である株式会社ムサシのB氏から,MMCのC氏宛てに,2009年7月29日13時52分(日本時間)に送信された電子メール(乙2の1)に乙2の2のデザイン図が添付されており,その図には,「球面状透光性カバー(グローブ)表面の頂部から半球状センサー(PIRセンサー)が突出し,半球状センサーの表面に網目状の模様が表れているデザインが記載されている」。

(イ)2009年(平成21)年 8月19日(以前) 乙11(別紙第12参照),乙12の1及び乙12の2によれば,被請求人である株式会社ムサシのB氏は,乙11に示すデザイン図も,MMCのC氏を介して請求人へ送付しており,このデザイン図における半球状センサーのレンズは網目状(クモの巣状)の模様を有している。乙12の1の電子メールは,2009年8月19日の11:17AMに,MMCのC氏から被請求人である株式会社ムサシのB氏へ送信された,請求人である東莞巨揚電器有限公司(Living Style)の董事長であるK(氏)ことE氏からの確認依頼であり,この電子メールの本文に「ムサシのデザイン図」(”Musashi’s ID”)という記載があるとともに,LEDの位置がセンサー部と重なり,点灯させた時に影が出てしまう可能性があることを説明するための図面として,デザイン図(乙12の2)が添付されており(添付ファイル名:musashi id.jpg),乙12の2のデザイン図は,乙11のデザイン図に光線を矢印で追記するとともに影を示したものである。

(ウ)2010年(平成22年) 7月13日 甲16の1及び甲16の2(別紙第13参照)によれば,請求人が完成させたサンプル品は2010年6月15日DHLにて被請求人に送られ,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲16の2)は2010年7月13日に被請求人に送信された。

(エ)2010年(平成22年) 8月 4日 甲17の1及び甲17の2(別紙第13参照)によれば,請求人が完成させたサンプル品のデザイン図面(甲17の2)は2010年8月4日に被請求人に送信されている。

(オ)2010年(平成22年) 8月 6日 本件登録意匠に係る日本国特許庁への意匠登録出願(意匠登録出願人:株式会社ムサシ,意匠の創作をした者:A(氏))

(ii)本件登録意匠に係る意匠登録出願の冒認出願該当性の検討
以上の経緯とその内容によれば,被請求人が創作したとするセンサー付発光ダイオードランプの意匠は,乙2の2に示される意匠,乙11に示される意匠であり,請求人が創作したとするセンサー付発光ダイオードランプの意匠は,甲16の2及び甲17の2に示される意匠である。
本件意匠登録は,前記本章の「1.本件登録意匠」に示すとおりのものであるところ,乙2の2に示される意匠について,本件登録意匠に相当する部分を見ると,発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成した点のみが共通するのみであり,センサー部に現れる模様は,略格子状模様であるし,かつ,センサー部の突出の状態も,本件登録意匠に比べて大きく,カバー部が透明体として描かれている点も異なり,乙2の2に示される意匠の本件登録意匠に相当する部分は,本件登録意匠と形態を同一にするということはできない。
また,乙11に示される意匠について,本件登録意匠に相当する部分を見ると,発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成した点のみが共通するのみであり,センサー部に現れる模様は,略蜂の巣状模様であって,本件登録意匠の模様とは大きく異なり,乙11に示される意匠の本件登録意匠に相当する部分は,本件登録意匠と形態を同一にするということはできない。
一方,請求人が創作したとするセンサー付発光ダイオードランプの意匠である甲16の2及び甲17の2に示される意匠(実質的に同一であるので,一つの意匠として扱うものとする。)について,本件登録意匠に相当する部分を見ると,発光ダイオードランプの略球面体状のカバー部の頭頂部に略小半球状のセンサー部を突出状に形成した点が共通し,かつ,センサー部に現れる模様も一致しているものであり,甲16の2及び甲17の2に示される意匠の本件登録意匠に相当する部分は,本件登録意匠と形態を実質的に同一にしているということができる。

なお,被請求人は,「この半球状センサーの比較的細かい網目状の模様(乙2の2)は,3次元CADを用いた際に簡略化した描写手法であり,被請求人による要求仕様(乙2の1)に「探知距離:5M 360度」と記載されており,このような仕様により半球状センサーのレンズ(フレネルレンズ)が本件登録意匠(乙1)のような網目状(クモの巣状)になることは,デザイン図(乙2の2)を添付した電子メール(乙2の1)を送付した時点で,受動型の赤外線人体検知センサー(PIRセンサー)の技術分野では常識的なことである(例えば,甲14,乙8の図3,乙9の図1及び図9,乙10の図2)。また,デザイン図(乙2の2)の意匠の創作以前には,透光性カバーの平坦な面の中央部から半球状センサーを突出させた形態(例えば,乙4(日本の登録実用新案公報「赤外線センサー付き電球」),甲18(中国意匠登録)),及び,全体形状が蜂の巣状で,その底面に多数の砲弾型のLED電球を敷き詰めて中央にセンサーレンズを突出させた上述の製品の形態が存在するのみであり,球面状透光性カバー表面の中央部に網目状(クモの巣状)の模様を有する半球状センサーを取り付けた,室内の家具や装飾品に対して違和感がない,丸みを帯びたシンプルなデザインのセンサー付発光ダイオードランプの形態は見当たらない。よって,本件登録意匠の要部の創作は,2009年7月29日時点で被請求人の社内において完成しており,その意匠登録を受ける権利は被請求人が有することは明らかである。」と主張するので,この点について検討すれば,前記本章の「4.無効理由1」の(参酌すべき先行公知意匠)及び同(判断)において検討したとおり,本件登録意匠の「センサー部に,前記1.の具体的構成態様(4)ないし(6)に示すとおりの略網目模様が現れている」態様は,本件登録意匠にのみに見られる極めて特徴的なものであって,被請求人がいう甲14,乙8の図3,乙9の図1及び図9,乙10の図2など,いずれの先行公知意匠にも本件登録意匠と同一の略網目模様はあらわれておらず,また,該略網目模様の具体的構成態様を直接的に示唆するものもなく,他方,唯一,甲16の2及び甲17の2に示される意匠には,本件登録意匠と形態を実質的に同一にするものがあらわされており,それが請求人会社の社員であるJ氏の創作に係ることについて両当事者間が提出する証拠等から明らかである以上,被請求人の主張に理由はなく,当審は,上記のとおり,無効理由3は理由があると判断するものである。



7.むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第2号又は第3号に掲げる意匠に該当せず,同法同条同項柱書の規定に基づいて意匠登録を受けることができないものではないから,同法第48条第1項第1号に該当せず,同法同条同項柱書の規定によっては,本件意匠登録を無効とすることはできず,また,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に基づいて意匠登録を受けることができないものではないから,同法第48条第1項第1号に該当せず,同法同条同項柱書の規定によっては,本件意匠登録を無効とすることはできないものであるが,本件意匠登録は,意匠の創作をした者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願に対してされたものであるから,意匠法第48条第1項第3号の規定に該当し,同法同条同項柱書の規定により,本件意匠登録を無効とすべきものとする。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2012-08-24 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-12 
出願番号 意願2010-19357(D2010-19357) 
審決分類 D 1 113・ 15- Z (H1)
D 1 113・ 121- Z (H1)
D 1 113・ 113- Z (H1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 正田 毅 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 遠藤 行久
斉藤 孝恵
登録日 2011-03-25 
登録番号 意匠登録第1412035号(D1412035) 
代理人 八田国際特許業務法人 
代理人 関口 久由 
代理人 柳野 隆生 
代理人 森岡 則夫 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ