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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) M3
管理番号 1272510 
判定請求番号 判定2012-600027
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2013-05-31 
種別 判定 
判定請求日 2012-08-22 
確定日 2013-03-25 
意匠に係る物品 鍵材 
事件の表示 上記当事者間の登録第1154279号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「鍵材」の意匠は、登録第1154279号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号図面ならびにその説明書に示す意匠は,登録第1154279号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として,甲第1ないし第3号証,及び添付書類として,イ号意匠の説明書と参考図1ないし3を提出した。
1.判定請求の必要性
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,本件判定請求に係る登録意匠「鍵材」(甲第1号証,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。一方,被請求人の株式会社後藤製作所は,本件登録意匠の出願日(平成14年2月8日)の後,平成18年2月2日付で意匠登録出願(意願2006-2263号)をし,意匠登録第1334992号として設定登録された(甲第2号証,以下「イ号意匠」という。)。
本件登録意匠及びイ号意匠は,共に,ディンプルキーの一歩手前の,鍵屋を取引の対象とする「鍵材」であり,鍵材そのものが,鍵材製造業者と鍵屋との間で独立して取引の対象となる物品(鍵材)の部分意匠である。本件登録意匠は,そのブレードの平面部に複数種類の大きさと深さの摺り鉢形状の窪みを形成して,請求人の販売する幾つかのディンプル錠に使用される所,被請求人も,イ号意匠のブレードの平面部に複数種類の大きさと深さの摺り鉢形状の窪みを形成して,請求人の販売する錠前,又は第三者が販売する幾つかの錠前に使用し得るディンプルキーの鍵材として販売し,或いは販売する可能性がある。

2.本件登録意匠の手続きの経緯
出願日 平成14年(2002年)2月8日
登録日 平成14年(2002年)8月9日
(登録番号 意匠登録第1154279号)
意匠公報発行日 平成14年(2002年)9月30日

3.本件登録意匠とイ号意匠の比較説明
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,次の共通点と差異点がある。
(1)両意匠の共通点
1)物品が同一である。本件登録意匠の意匠に係る物品は,縦長板状体(ブレード)を含む「鍵材」であるのに対して,イ号意匠も「鍵母材」であるから,両者は,用途及び機能が同一又は類似である。
2)「物品全体の中の部分」の用途及び機能も同一又は類似である。鍵材の縦長板状体は,錠前の鍵穴に差し込まれ,錠前を構成するシリンダーを施・解錠するために使用されることから,「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能も同一又は類似である。
3)創作対象の基本的な構成態様において,仮想線で示す中央部の左右の括れ部分を基準として,該括れ部分よりも上方に仮想線で描かれた平板状摘み部と,該平板状摘み部に連設した状態で前記括れ部分よりも下方に描かれた縦長板状体とから成る箆形状の鍵材であって,前記縦長板状体の裏・表の両側面に,該縦長板状体の長手方向に多数の線条(縦縞模様)を施している。
4)創作対象の具体的な構成態様において,縦長板状体の先端部について,正面視,背面視が略U字形状の文字をデザインした形状となっている点,凹凸によって生じる裏・表の両側面の多数の線条は,略中央部寄りの部位に形成されたやや太い縦縞模様と,該太い縦縞模様の左右にそれぞれ形成された細かな縦縞模様とからなり,いわば左右のカーテンを若干開いた状態をデザインした縦縞模様の形状となっており,その先端部の一部が斜めに面取りされている点,底面視の先端部は,縦長板状体の中心を通る頂点を基準として回転対称の波状或いは段差状に形成され,中央に相当する該段差部分の左右には,横倒しの二等辺三角形が現れている点,先端部の断面視の全体形状は,「結び目がよじれた蝶ネクタイ」をデザインした形状となっている点,さらに,左右の側面視において,左右の二辺の直ぐ内側にこれと平行に走る線があらわれ,その先端部が,いわばマイナスドライバーの先端形状を呈している点。
5)創作対象の,両意匠の当該物品全体(篦形状の鍵材)の中での位置,大きさ,範囲が同一である。
(2)両意匠の差異点
左右の側面視において,縦長板状体の先端部寄りの部位に横線が現れる
(本件登録意匠)か,現れない(イ号意匠)かの点。

4.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(1)本件登録意匠に関する先行周辺意匠
公知刊行物1・・・意匠登録第1130980号公報(甲第3号証)
この公知刊行物1(以下,「公知意匠1」という)には,両意匠の「基本的構成態様」が現れている。したがって,鍵加工業者を意匠の判断主体(需要者)とすれば,「仮想線で示す中央部の左右の括れ部分を基準として,該括れ部分よりも上方に仮想線で描かれた平板状摘み部と,該平板状摘み部に連設した状態で前記括れ部分よりも下方に描かれた縦長板状体とから成る箆形状の鍵材であって,前記縦長板状体の裏・表の両側面に,該縦長板状体の長手方向に多数の線条(縦縞模様)を施している点」は,特段,注意を惹くものではない。
(2)本件登録意匠の要部
この種の物品は,「錠前あってこその鍵」なので,鍵の一歩手前の鍵材(鍵母材)の創作の主たる対象は,錠前を施・解錠するための,「縦長板状体(ブレード)の構成態様」にあることは明らかで,本件登録意匠については,縦長板状体の全体形状及び使用時に錠前を施・解錠する機能上も重要な部分である縦長板状体の態様(両意匠の共通点)が相まって,本件登録意匠の基調を表出しているものと言うべきである。
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討して見るに,
1)両意匠の共通点は,具体的な構成態様に係るものであり,特に,縦長板状体の先端部について,正面視,背面視が略U字形状の文字をデザインした形状となっている点,凹凸によって生じる裏・表の両側面の多数の線条は,略中央部寄りの部位に形成されたやや太い縦縞模様と,該太い縦縞模様の左右にそれぞれ形成された細かな縦縞模様とからなり,いわば左右のカーテンを若干開いた状態をデザインした縦縞模様の形状となっており,その先端部の一部が斜めに面取りされている点,底面視の先端部は,縦長板状体の中心を通る頂点を基準として回転対称の波状或いは段差状に形成され,中央に相当する該段差部分の左右には,横倒しの二等辺三角形が現れている点,左右の側面視において,左右の二辺の直ぐ内側にこれと平行に走る線があらわれ,その先端部が,いわばマイナスドライバーの先端形状を呈している点,縦縞模様の形状から彷彿され得る断面形状も同様である等の各態様が共通しており,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
2)両意匠の差異点については,実務上,「アール部分」には,線を入れても,入れなくても良い場合が多いことから,見方を変えれば,左右の垂直ラインにそれぞれ連続する先端部の斜め方向のラインは,前記左右の垂直ラインにそれぞれ鈍角状態を描いた状態で緩やかな曲率を描いた状態で連続していることから,特段顕著な相違点といえず,類否判断に与える影響は微弱であり,また「横線の有無は」,いわば作図上の問題であって,本件登録意匠の要部ではないことから,この点においても,特段顕著な相違点とは言えない。
3)以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否判断に与える影響は微弱なものであって,鍵加工業者や取引業者(需要者)が,関心を持って観察する部位の両意匠の共通点を凌駕しているものとはいえず,その他細部的事項や底面図の一部に誤りがあるといえども,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでに至らないものである。

5.むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

6.請求人が提出した証拠
(1)甲第1号証:本件登録意匠 意匠登録第1154279号の意匠公報の写し
(2)甲第2号証:イ号意匠 意匠登録第1334992号の意匠公報の写し
(3)甲第3号証:先行周辺意匠 意匠登録第1130980号の意匠公報の写し
(4)イ号意匠の説明書
(5)参考図1:本件登録意匠の拡大図
(6)参考図2:本件登録意匠とイ号意匠の対比図
(7)参考図3:本件登録意匠とイ号意匠の対比図


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
1.答弁の趣旨
被請求人は,「イ号意匠は登録第1154279号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない。との判定を求める。」と答弁し,その理由として要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として,乙第1ないし第3号証を提出した。

2.答弁の理由
(1)本件登録意匠とイ号意匠との対比
本件登録意匠は,意匠に係る物品「鍵材」の部分意匠(鍵材上部の摘み部(頭)は除外され,鍵材下部の,鍵穴に挿入される部分(胴中)の意匠)に関するものである。
イ号意匠は,意匠に係る物品を「鍵母材」の部分意匠(鍵母材上部の摘み部は除外され,鍵母材下部の,鍵穴に挿入される部分の意匠)に関するものである。
ア 両意匠の共通点
a)基本的構成態様は,へら状の縦長板状体で,表裏両面に多数の線条が長手方向に施されて縦縞模様になっている。
b)正面視及び背面視において,その輪郭は,対向する左右の2辺が,互いに平行且つ垂直に下向した後,下端部において湾曲して互いに接続しており,全体的な形状は縦長U字形である。
c)正面視及び背面視において,板状体の下端部の左右に横や斜めの線状があらわれて,面取りされて削られているために,縦縞模様の一部はそこで途切れて下端まで達していない。
d)右側面視及び左側面視において,その輪郭は,対向する左右の2辺が,互いに平行且つ垂直に下向した後,下端部において内側に曲折して互いに接続している。
e)底面視の先端部は,一対の二等辺三角形が内側に横倒しされた回転対称の形状となっている。
f)中央部の水平方向の断面形状は,矩形部が左右両側に,これらを結ぶ連結部が中央にあらわれている。
イ 両意匠の相違点
a)正面視及び背面視において,本件登録意匠においては,板状体の凹凸によって生ずる縦の多数の線条が大差ない間隔を置いて隣接して施されて,整然とした縦縞模様となっているのに対し,イ号意匠では,多数の線条が広狭不揃いの間隔を置いて雑然と走り,アンバランスな縦縞状となっている。イ号意匠では,略中央部にあり最下端部に至る非常に太い縦縞模様があるが,本件登録意匠には存在しない。本件登録意匠の略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様も他の縦縞模様より若干太くなっただけで,イ号意匠の右端から3番目や左端から3番目にあるやや太い縦縞模様と同様の太さにすぎず,看者の目を惹くものではない。
b)両意匠の正面視及び背面視において,本件登録意匠においては,板状体の下端部の略中央部に横の線状があらわれて面取りされて削られているために,略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様は,横の線条で途切れて下端まで達していない(最下端部が面取りされて削られている)が,イ号意匠では,略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様は,横の線条等により遮られることなく下端まで達している(最下端部が面取りされていない)。また,本件登録意匠における面取りは,いずれも(特に左右の面取りは)ごくわずかな範囲が面取りされて削られているだけであるのに対し,イ号意匠では,下端部の左右が広範囲に面取りされて削られているものである。このように,縞模様の一部が途切れて下端まで達していない場所及び範囲が大きく異なっている。
c)右側面視及び左側面視において,その輪郭は,対向する左右の2辺が,本件登録意匠においては,下端部において内側に直角に曲折し,引き続きすぐ下方に大きく弾頭状に湾曲した形で互いに接続している(したがって,下部の形状は,大まかに言えば弾頭形であるが,正確に言うと口紅ケースから口紅が突き出た形である)のに対し,イ号意匠では,下端部において内側に緩やかに(約30度)曲折し,最下端部に至って真横に急激に曲折して水平直線状になって互いに接続している(下部の形状は,矩形に台形を継ぎ足した形の変形六角形である)。
d)右側面視及び左側面視において,本件登録意匠においては,下部(略弾頭形)とそれより上の部分(棒状)とは,水平方向の線により明確に区分されており,全体的な形状はクレヨンの形であるのに対し,イ号意匠では,下端部から上端部に至る全体のどこにも区分はなく,全体的な形状は削った鉛筆の太い芯が折れた形である。
e)底面視の先端部は,本件登録意匠においては,二等辺三角形(頂部あり)の右上部には小さい楕円が付加されて,小さい楕円が位置がずれて重ねられた特殊な形状となっているのに対し,イ号意匠では,二等辺三角形は頂部が欠けており,これらを一つの直線の左下部と別の直線の右上部を接合させた形の直線状の連結部で連結した形状となっている。
f)中央部の水平方向の断面形状において,左右両側の矩形部を結ぶ連結部の形状が,本件登録意匠においては,S字形の曲線状の連結部となっているのに対し,イ号意匠では,一つの直線の左下部と別の直線の右上部を接合させた形の直線状となっている。
ウ 両意匠の共通点についての検討
両意匠の共通点のa)?f)は,1例として取り上げた乙第1号証にもことごとくあらわれているものであって本件登録意匠以前から周知であった。判定請求人は,両意匠の共通点b)?f)を本件登録意匠の要部とするものであるが,これらの点はいずれも乙第2号証にもことごとくあらわれている。更に,本件登録意匠の登録後にも,共通点a)?f)をいずれも有する意匠が登録になっている(例えば乙第3号証)。したがって,両意匠にa)?f)の共通点があるからといって決して意匠が類似と見られるものではないことは,極めて明白である。
エ 両意匠の相違点についての検討
両意匠の相違点a)から見ていくと,バランスかアンバランスかで明らかな美感の相違がある。特にイ号意匠では,略中央部にあり最下端部に至る非常に太い縦縞模様があり,目立っているが,本件登録意匠にはこれが存在しない。
この点,本件登録意匠の略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様は,他の縦縞模様より若干太いだけであるのみならず,本件登録意匠とは異なり下端部の略中央部に横の線条があらわれて面取りされて削られており(両意匠の相違点のb)),明らかに異なっている。
本件登録意匠の略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様が面取りされているのは,同縦縞模様の両側の縦縞模様(面取りされていない)が溝部になっていて,これらより相当高い位置になっているからであって(断面図参照),その為に中央部の水平方向の断面形状において,両側の矩形部を結ぶ連結部の形状も(倒)S字形の曲線状となっているものである(両意匠の相違点のf)。連結部は,右側の矩形部の左隣には上方が開口した溝,その次は下方が開口した溝,続いて上方が開口した溝,最後に下方が開口した溝,と交互に溝が逆にあらわれて,くねくねと曲がった形をとって左側の矩形部に連結している)。
これに対し,イ号意匠の略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様が非常に太いものとなっているのは,本件登録意匠とは異なり,同縦縞模様の外側が溝部ではなくて同じ高さの平面になっており,幅広になっていることがその一番の要因である(断面図参照)。そして,そのことにより,断面形状において,両側の矩形部を結ぶ連結部の形状も,本件登録意匠のようなS字形の曲線状ではなく,一本の直線の左下部と別の直線の右上部を接合させた形の直線状となっているものである(両意匠の相違点のf))。
そして,イ号意匠においては,略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様が面取りされていないことにより,底面視においても連結部の形状は断面形状と変わらず一本の直線の左下部と別の直線の右上部を接合させた形となっており,この連結部と連結する二等辺三角形は頂部を欠くものになっている。ところが,本件登録意匠においては,略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様が面取りされていることにより,底面視においては,連結部の形状は,断面形状のS字形とは様変わりして,小さい楕円2つが位置がずれて重なった特殊な形状となっているものであって,この連結部と連結する二等辺三角形も頂部を備えている(両意匠の相違点のe))。
更に,イ号意匠では,正面視及び背面視において略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様が面取りされていないことにより,左右の側面視において最下端部が水平の直線状となっており,面取りにより最下端部が弾頭状に湾曲している本件登録意匠とは明白に異なっている(両意匠の相違点のc))。
このように,特に,イ号意匠の略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様は,本件登録意匠の略中央部にあり最下端部に至る縦縞模様とは,その太さが全く違うばかりでなく,その高さも,その外側の溝部の有無も,面取りの有無等もことごとく異なることによりその形状等も看者の受けるイメージも全く異なるものであって,両意匠が類似してないことは,極めて明白と言える。看者たる鍵加工業者にとって縦縞模様(ミーリング下向溝)の違いは重要なポイントであって,両意匠は完全に別物である。
次に,正面視及び背面視における面取りの範囲であるが,本件登録意匠では下端部のごくわずかな範囲が面取りされているだけであるのに対し,イ号意匠では,下端部が広範囲に面取りされている(両意匠の相違点のb))。これにより,縞模様の途切れ具合が異なる(本件登録意匠では縞模様が途切れていることにも気づきにくい)ばかりでなく,側面視において対向する左右の2辺の接近具合も全く異なっている。すなわち,広範囲に面取りされているイ号意匠では,下端の大分上の方から長い距離を緩やかに(約30度)曲折しているのに対して,面取りが狭くてもっと下の方から曲折させている本件登録意匠では,緩やかに曲折させる余裕はなく,いきなり直角に曲折し,引き続き弾頭状に湾曲した形で対向する左右の2辺を接続させている(両意匠の相違点のc))。これにより,側面視の全体の形状も,イ号意匠が削った鉛筆の太い芯が折れた形であるのに対し,本件登録意匠では,下部とそれより上の部分とが水平方向の線により明確に区分されていることでもあり,(新品の)クレヨンの形(上の部分がクレヨンの包装紙で,下部が包装紙に覆われていないクレヨン)である(両意匠の相違点のd))。

3.むすび
上記のとおりであり,本件登録意匠とイ号意匠の共通点は,ことごとく周知である一方,その相違点は顕著で,その美感も明らかに全く異なるものであって,両意匠が類似するものとは到底考えられない。よって,答弁の趣旨記載のとおりの判定を求める。

4.被請求人が提出した証拠
(1)乙第1号証:意匠登録第967712号の意匠公報の写し
(2)乙第2号証:意匠登録第1039891号の意匠公報の写し
(3)乙第3号証:意匠登録第1206423号の意匠公報の写し


第3 請求人の弁駁
(1)本件登録意匠とイ号意匠との対比
1)両意匠の共通点
細部事項を除き,概ね認める。
2)両意匠の相違点
ア 被請求人主張のa)について
被請求人は,本件登録意匠の多数の線条の内,略中央部寄りの部位に形成されたやや太い縦縞模様は,左右の線条と「大差ない間隔だ」と主張するが,肉眼をもって間接対比観察すると,本件登録意匠は,明らかに,略中央部寄りの部位に形成されたやや太い縦縞模様は,左右の線条よりも間隔が広く,イ号意匠も,本件登録意匠の縦縞模様の態様に依拠しているものとの印象を受ける。本件登録意匠の縦縞模様が「整然」であり,一方,イ号意匠は,「アンバランスな縦縞模様」というのは,いわば屁理屈に過ぎない。
イ 被請求人主張のb)について
正面視及び背面視において,下端部が略U字形状の文字をデザインした形状となっている点は同じである。最下端部の一部を削り取るか否かは細部的事項である。
ウ 被請求人主張のc)とd)について
側面視の輪郭は,面取りしているか否か,それとも実務上,図面作成者が線を入れるか,それとも省くかの問題であり,またクレヨン形状の話は,被請求人の全く主観的な判断であって,肉眼をもって間接対比観察離すると,先端部はクレヨン形状に見えない。鍵材の大きさに基づいて判断すると,両意匠の先端部が,いわばマイナスドライバーの先端形状を呈している点は同様である。
エ 被請求人主張のe)とf)について
イ号意匠を底面視から見ると,段差状に見えるが,全体観察すると,S字形状のデザイン或いは「結び目がよじれた蝶ネクタイ」をデザインした形状となっている点は同様である。
(2)被請求人の検討に基づく主張
被請求人は,要するに,縦縞模様(乙1),先端部の略U字形状の文字をデザインした形状(乙2),断面を回転対称にする形状(甲3)がそれぞれ存在するから,本件登録意匠の要部は支配的要素になるものではなく,その他の先端部の横線,面取り,角度等に基づく相違点が類否判断の支配的要素になる旨を主張する。しかしながら,鍵材において,縦縞模様,先端部の略U字形状,断面回転対称形状がそれぞれ周知又は公知であるとしても,これらの形状は,色々な表現形式として物品の美的外観に表れるのであるから,看者の注意を惹く意匠の要部と成り得るのであるというべきである。
(3)結び
以上,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。


第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1154279号の意匠)は,物品の部分について意匠登録を受けようとし,平成14年(2002年)2月8日に意匠登録出願され,平成14年(2002年)8月9日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,その願書の記載及び願書に添付された図面によれば,意匠に係る物品を「鍵材」とし,「実線で囲まれた部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものであり(以下,本件登録意匠について部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本件実線部分」という。),その形態は,願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照)
すなわち,本件登録意匠は,意匠に係る物品が,錠前を施・解錠するための鍵を一般消費者に販売する前に,加工業者によって取り扱われる「鍵材」であって,本件実線部分は,摘み部を除いた,錠前に挿入される縦長の薄い板状体のブレード部分(以下,「ブレード部」という。)であり,その全体の形態は,正面視略U字形状であって,正面及び背面に複数の縦縞状凹凸部(以下,「縦縞状凹凸部」という。)を配し,ブレード部の正面上端は逆S字の曲線状をなしたものである。
縦縞状凹凸部を正面視すると,中央のやや右寄りにやや太い縦縞状部(以下,「太い縦縞状部」という。)を設け,その左右両側に細い縦縞を配したものである。
そして,当該細い縦縞は,略等間隔に規則的に配され,下端部先端には,小さな傾斜面を4個設けたものである。
縦縞状凹凸部を横断面視すると,両端部に略倒台形状の略同形同大の厚みのある部分(以下,「厚み部分」という。)を略左右対称状に設け,その間の正面側(上側)には,扁平な略逆台形状の浅い凹状部を設けたもので,当該凹状部の中央やや左寄りに断面が倒略コ字状のやや深い溝部を形成し,また,右端に断面が倒略コ字状の浅い溝部が右側の厚み部分に接して形成され,その全体を回転対称状としたものである。
側面視において,側面部のほぼ全体を細い長方形状とし,下端部の先端を略V字形状とし,略V字形状の傾斜部上端にわずかな切り欠きを設け,当該傾斜部のやや上方に水平直線状の境界線を有するものである。

2.イ号意匠
イ号意匠は,判定請求書に添付されたイ号図面及び説明書に示す意匠(請求人が提出した甲第2号証:別紙第2参照)に表されたとおりのものであり,本件登録意匠の本件実線部分に相当する部分(以下,「イ号相当部分」という。)は,イ号図面において実線で表された部分である。
すなわち,イ号意匠は,意匠に係る物品が「鍵材」であって,イ号相当部分は,摘み部を除いた,錠前に挿入される縦長の薄い板状体のブレード部分であり,その全体の形態は,正面視略U字形状であって,正面及び背面に複数の縦縞状凹凸部を配し,ブレード部の正面上端は,境界のみを示す一点鎖線によって水平な直線状に区切られたものである。
縦縞状凹凸部を正面視すると,中央のやや右寄りに太い縦縞状部を設け,その左右両側に細い縦縞を配したものである。
そして,当該細い縦縞は,不規則な幅で配され,下端部先端には,やや大きな傾斜面を2個設けたものである。
縦縞状凹凸部を横断面視すると,両端部に略倒台形状の略同形同大の厚み部分を略左右対称状に設け,その間の正面側(上側)には,扁平な略逆台形状の浅い凹状部を設けたもので,当該凹状部の左端に断面が略逆台形状のやや深い溝部を左側の厚み部に接して形成し,その全体を回転対称状としたものである。
側面視において,側面部のほぼ全体を細い長方形状とし,下端部先端を略V字形状とし,略V字形状の傾斜部の下端角部にわずかな水平直線状部を有し,当該傾斜部のやや上方に境界線を有さないものである。

3.両意匠の対比
両意匠を対比すると,いずれも「鍵材」に係るものであり,意匠に係る物品が共通し,本件実線部分及びイ号相当部分は,摘み部を除いた,錠前に挿入される縦長板状体のブレード部分であるから,部分意匠としての用途・機能及び位置・大きさ・範囲は,ほぼ一致している。そして,両意匠の形態については,主として以下の共通点と差異点が認められる。
(1)共通点
(a)正面視略U字形状であって,正面及び背面に複数の縦縞状凹凸部を配したものである点,(b)縦縞状凹凸部を正面視すると,中央のやや右寄りに太い縦縞状部を設け,その左右両側に細い縦縞を配した点,(c)縦縞状凹凸部を横断面視すると,両端部に略倒台形状の略同形同大の厚み部分を略左右対称状に設け,その間の正面側(上側)には,扁平な略逆台形状の浅い凹状部を設け,全体を回転対称状とした点,(d)縦縞状凹凸部の下端部先端に小さな傾斜面を複数個設けた点,(e)側面視において,側面部のほぼ全体を細い長方形状とし,下端部先端を略V字形状とした点,において主に共通する。
(2)差異点
(ア)ブレード部の正面上端について,本件登録意匠は,逆S字状の曲線状をなしたものであるのに対して,イ号意匠は,境界のみを示す一点鎖線によって水平な直線状に区切られている点,(イ)縦縞状凹凸部を横断面視した正面側(上側)の扁平な略逆台形状の浅い凹状部において,本件登録意匠は,凹状部の中央やや左寄りに断面が倒略コ字状のやや深い溝部を形成し,また,右端に断面が倒略コ字状の浅い溝部を右側の厚み部分に接して形成しているのに対して,イ号意匠は,凹状部の左端に断面が略逆台形状のやや深い溝部を左側の厚み部分に接して形成している点,(ウ)縦縞状凹凸部の正面において,太い縦縞状部の左右に,本件登録意匠は,細い縦縞を略等間隔に規則的に配しているのに対して,イ号意匠は,細い縦縞を不規則な幅で配している点,(エ)縦縞状凹凸部の正面視した下端部先端において,本件登録意匠は,小さな傾斜面を4個設けているのに対して,イ号意匠は,やや大きな傾斜面を2個設けている点,(オ)側面視した下端部先端の略V字形状について,本件登録意匠は,略V字形状の傾斜部上端にわずかな切り欠きを設けているのに対して,イ号意匠は,切り欠きがなく,下端角部にわずかな水平直線状部を有している点,また,本件登録意匠は,傾斜部のやや上方に水平直線状の境界線を有しているのに対して,イ号意匠は,境界線を有していない点,に主な差異がある。

4.類否判断
そこで,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,本件登録意匠の出願前に存する公知意匠等を参酌し,新規な態様や需要者の注意を最も惹き易い部分を考慮した上で,共通点と差異点が意匠全体として両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,検討する。
(1)共通点の評価
まず,共通点が類否判断に及ぼす影響について比較して検討する。
共通点(a)について,正面視略U字形状であって,正面及び背面に複数の縦縞状凹凸部を配したものは,この種の鍵材の分野において本件登録意匠の出願前に多数見受けられ(例えば,意匠登録第1130980号の意匠(参考意匠1:別紙第3参照)),本件登録意匠のみの特徴とはいえず,両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえないし,また,共通点(b)についても,縦縞状凹凸部を正面視すると,中央のやや右寄りに太い縦縞状部を設け,その左右両側に細い縦縞を配したものは,本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば,意匠登録第1062489号の意匠(参考意匠2:別紙第4参照)),両意匠のみに共通する態様とはいえないのであるから,共通点(a)及び同(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものというほかない。
共通点(c)について,縦縞状凹凸部を横断面視すると,両端部に略倒台形状の厚み部分を設け,その間の正面側(上側)に,扁平な略逆台形状の浅い凹状部を設け,全体を回転対称状としたものが,本件登録意匠の出願前より普通に見られ(例えば,特許庁意匠課公知資料番号第HH11014395号の鍵材の意匠(参考意匠3:別紙第5参照)),両意匠のみに共通する態様とはいえないものであるから,共通点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
共通点(d)については,縦縞状凹凸部の下端部先端に小さな傾斜面を複数設けたものは,当該傾斜面がごく小さい面であって,目立つ態様とはいえないうえに,この種の物品分野においては,下端部にこのような傾斜面を設けることは,本件登録意匠の出願前より,普通に見受けられるありふれた態様であって特徴のないものといえ(例えば,前記参考意匠2:別紙第4参照),両意匠のみに共通する格別の態様ということはできず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
共通点(e)側面視において,側面部のほぼ全体を細い長方形状とし,下端部先端を略V字形状とした点については,この種の鍵材の分野において本件登録意匠の出願前から多数見受けられるありふれた態様であり,両意匠のみに共通する態様とはいうことができず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものに過ぎない。
そうすると,これらの共通点に係る態様は,ありふれた態様に過ぎないもの,または,公知意匠を参酌すれば,両意匠のみに共通する特徴的な態様とはいえないものであり,両意匠の類否判断を決定付けるものとはなりえない。
(2)差異点の評価
次に,差異点が類否判断に及ぼす影響について検討する。
差異点(ア)の正面上端の区切り方の差異については,いずれの態様も従来から見受けられる態様ではあるが,正面の目立つ部分における差異といえ,意匠登録を受けようとする部分に影響を与える部位に係る差異であって,この差異点が両意匠の類否判断に与える影響は,小さいものとはいえない。
差異点(イ)の横断面視した扁平な略逆台形状の浅い凹状部に設けられた溝部の数及びその位置の差異については,この種物品の使用者である鍵加工業者等が特に着目する部分に係る差異であって,注意を惹く部分であり,両意匠の全体的な印象に影響を与えるもので,類否判断に与える影響は大きいといわざるを得ない。
差異点(ウ)の縦縞状凹凸部の正面において,太い縦縞状部の左右に,細い縦縞を不規則な幅で配したイ号意匠の態様は,本件登録意匠の態様とは異なり,イ号意匠独自の態様といえるものであるから,その差異が両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
差異点(エ)について,下端部に傾斜面を設けることは本件登録意匠の出願前より行われているところであるが,小さな傾斜面を4個設けている本件登録意匠の態様は,やや大きな傾斜面を2個設けているイ号意匠の態様とは異なり,いずれの態様も,下方から当該部位を観察した場合の印象が少なからず異なり,その差異が両意匠の類否判断に与える影響は小さいものとはいえない。
差異点(オ)について,側面視した下端部先端の態様について,略V字形状の傾斜部の下端角部にわずかな水平直線状部を有し,傾斜部のやや上方に境界線を有さないイ号意匠の態様は,本件登録意匠とは形態が明らかに異なるから,細部に係る差異ではあるが,両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
(3)小括
そうして,これらの共通点と差異点を総合すれば,共通点に係る態様が両意匠にのみ共通する特徴とはいえないものであるのに対して,差異点(ア)に係る正面上端の区切り方の差異は,意匠登録を受けようとする部分に影響を与える部位に係る差異であって,両意匠の類否判断に影響を与え,また,差異点(イ)には,両意匠の,目に付き易く,看者の注意を惹く差異が顕著に表れているものであって,差異点(ウ)のイ号意匠の縦縞の特徴的な態様は,本件登録意匠には見られないものであって,差異点(エ)に係る態様と相俟って,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものといわざるを得ず,さらに他の差異点による意匠的な効果も合わせ考えれば,意匠全体として,イ号意匠は,本件登録意匠に類似するものとはいえない。
したがって,本件登録意匠とイ号意匠は,意匠に係る物品が共通し,部分意匠としての用途・機能及び位置・大きさ・範囲は,ほぼ一致しているものではあるが,その形態については,イ号意匠は本件登録意匠の特徴的な態様を有さず,共通点よりも差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから,両意匠は,全体として需要者に与える美感が異なるものであって,類似するということはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2013-03-14 
出願番号 意願2002-6764(D2002-6764) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (M3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 治子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 川崎 芳孝
遠藤 行久
登録日 2002-08-09 
登録番号 意匠登録第1154279号(D1154279) 
代理人 橘高 郁文 
代理人 三浦 光康 

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