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審決分類 審判    G2
管理番号 1287492 
審判番号 無効2013-880011
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-14 
確定日 2014-05-07 
意匠に係る物品 自動二輪車用ホイール 
事件の表示 上記当事者間の登録第1381317号「自動二輪車用ホイール」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1381317号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,「登録第1381317号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証の書証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
登録第1381317号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,その出願日前に公知の甲第3号証の意匠(以下,「引用意匠1」という。)及び,その出願日前に公知の甲第6号証の意匠(以下,「引用意匠2」という。)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)引用意匠1
引用意匠1は,2005年(平成17年)12月1日に発行された雑誌「ミスター・バイクBG」(モーターマガジン社;第20巻第12号)209頁「CUSTOM AND RESTORE SHOP/MAD☆STAR」の右下に35として掲載されたホイールの左(甲第3号証),及び,2006年(平成18年)7月1日発行の雑誌「チャンプロード」((株)笠倉出版社;第20巻第7号)118頁「極上カスタムバイク&オリジナルシート」右上に掲載された「GS400用キャストホイール」の右(甲第4号証)であって,どちらも本件登録意匠の出願日前に日本国内で頒布された刊行物に掲載された自動二輪車用ホイールであり,その形態は甲第3号証の2乃至3及び甲第4号証の2に示すとおりである。
(2)引用意匠2
引用意匠2は,日本国内で販売され,2007年(平成19年)2月頃に,塗装業「カラーズ/Calars」の代表者が「ソメット・サン/SOMETTO-SUN」から購入したバイク用ホイールであって,その形態は甲第6号証に示すとおりである。
当該ホイールを転売した代表者が雑誌に写真掲載を依頼してバイクの写真が株式会社笹倉出版発行の雑誌「旧車會CHAMP-我らQバイク仲間全員集合-其ノ四」第16頁(甲第7号証)に掲載された。
(3)本件登録意匠と引用意匠との対比
イ.意匠に係る物品
本件登録意匠と引用の各意匠は,何れも「自動二輪車用ホイール」に係るものであるから,意匠に係る物品は一致する。
ロ.意匠の形態
a 基本的態様
本件登録意匠と引用の各意匠は,自動二輪車用ホイールに係るものであるから,その形態は,ハブとスポークとリムによって構成される。そして,両者の形態は,ハブとリムが14本のスポークによって繋がれているものであって,その接続箇所はハブとリムで夫々7か所であって,スポークがハブを中心に7つの先端を持つ星形(七星,セブンスター)を形成し,その7つの突出部は略二等辺三角形の同一形状であり,リムとスポークによって形成される7つの穴は略扇形を形成し,その形状も同一といえるものである。
b 具体的態様
本件登録意匠と引用の各意匠は,前記した通り,スポークの形態が七星あるいはセブンスターと称される形態であって,ホイールの径とハブの径の割合がほぼ同じであるから,スポークが形成する七星(セブンスター)の形状およびリムとスポークによって形成される扇形の形状がほぼ同一である。したがって,両者は,リムとスポークとハブ外周により形成される形態が同一といえるものである。
つぎに,ハブの形態であるが,本件登録意匠の正面図におけるハブの形態は,引用意匠1(甲第3号証の2乃至3)及び引用意匠2(甲第6号証の1)の左ホイールのハブの形態と同一と言えるものであり,本件登録意匠の背面図におけるハブの形態は,引用意匠1(甲第4号証の2)及び引用意匠2(甲第6号証の2)の左ホイールのハブの形態と同一と言えるものである。
c 差異点
本件登録意匠と引用の各意匠とは,意匠の形態において前記した特徴点が一致する態様のものであって,差異点を見出しにくいものであるから,ほぼ同一の態様のものである。
自動二輪車のホイールは,甲第3号証乃至甲第5号証及び甲第7号証に見られるように,自動二輪車の車体に取り付けられ,その走行に使用されるものであるから,それのみが単体で使用されることのないものである。そして,自動二輪車のホイールは,このような通常の使用形態にあっては,需要者等がそのハブ内部の形状を目にすることができないのであって,その形状に着目することすらできないところである。したがって,自動二輪車用ホイールは,車体に取り付けられた形態で需要者等が目にすることのできる部分,すなわち,ホイールのリムとスポークとハブ外周によって形成される形状・態様が,視覚を通じて美感を起こさせる部分であって当該意匠の要部をなすものであり,通常の使用形態で需要者等が目にすることのできないハブ内部は,意匠の要部とは成り得ず,意匠の類否判断において与える影響も小さいというべきである。
加えて,本件登録意匠と引用の各意匠は,ホイール全体に占めるハブ内側部分の割合は,正面図及び背面図において面積比2割にも満たないものであるから,仮に,ハブ内部の創作性及び差異が認められたとしても,意匠全体に占める割合が小さいので,その形態の差異が類否判断に与える影響は,極めて微弱であると言える。
d 類否
前記の通りであるから,本件登録意匠と引用の各意匠とは,意匠に係る物品が一致し,形態についても,両意匠の特徴を形成する基本的な構成態様と具体的な態様が前記の通り一致ないし共通しているものであって,差異点は皆無に等しいものであるから,同一性の範囲内のものであることは明らかである。
したがって,本件登録意匠は,引用の各意匠と類似するものである。
(4)むすび
以上のとおりであるから,本件登録意匠は,その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠,及び公然知られた意匠に類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して登録されたものであるから,その登録を無効とすべきである。

3.証拠方法
(1)甲第1号証 本件登録意匠 意匠登録第1381317号意匠登録原簿(謄本)
(2)甲第2号証 本件登録意匠 意匠登録第1381317号の意匠公報の写し
(3)甲第3号証 「ミスター・バイクBG」(モーターマガジン社;第20巻第12号)抜粋(写し)
(4)甲第4号証 「チャンプロード」((株)笠倉出版社;第18巻第11号)抜粋(写し)
(5)甲第5号証 「チャンプロード」((株)笠倉出版社;第20巻第7号)抜粋(写し)
(6)甲第6号証 本件登録意匠の出願前に販売・購入された自動二輪車用ホイールの写真
(7)甲第7号証「旧車會CHAMP-我らQバイク仲間全員集合 其ノ四」((株)笠倉出版社)抜粋(写し)


第2 被請求人の答弁及び理由
1.答弁の趣旨
被請求人は,請求人の申立及び理由に対して,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」旨の答弁をした。

2.答弁の理由
(2-1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,平成21年2月26日付けにて出願され,平成22年1月29日付けにて登録されたもので,意匠に係る物品を自動二輪車用ホイールとし,その形態は,登録第1381317号意匠公報における図面として記載されている通りである。
すなわち,その形態は,中央に配した円形状のハブ部と,周縁に配した円形枠状のリム部とをスポーク部にて連結すると共に,ハブ部とリム部とはその大きさ比率をほぼ2:5として成り,ハブ部は,中心に開口された軸孔の周囲に形成された円形枠と外周の円枠部との間に,6方向に突出している凸形矩形状部を備えることで歯車状を呈している正面大歯車形部を形成し,この正面大歯車形部内には,正面においてはこの正面大歯車形部における凸形矩形状位置に対応した計6個の錐体枠状部を周囲に配している小歯車形部を配し,この小歯車形部の錐体枠状部相互間に計6個の小円形孔を配列して成り,また背面においては軸孔の周囲に形成された円形枠の周囲に,リム部自体の外枠に連なり,計6個の幅狭矩形状部を備えることで歯車状を呈している背面歯車形部を,正面における正面大歯車形部位置に対応させて配し,前記小円形孔は,円形枠の周囲と背面歯車形部周囲との間に位置して配列されて成り,リム部は,正面および背面では内側部分が僅かに抉られていることで肉薄状となっている円形枠状に形成されて成り,スポーク部は,ハブ部における外周の円形部位置が中心の頂点となる正面から見て扇形枠状となる二股状の左・右枠部分による計7個のスポーク体をハブ部の周囲に等間隔で配すると共に,これらのスポーク体の左・右枠部分それぞれは,隣接するスポーク体の右・左枠部分それぞれによってリム部の内側位置が中心の頂点となるよう,二股状の計7個の二等辺三角形を形作って成る,ものである。
(2-2)本件登録意匠に対する無効審判の請求及びその無効理由の要点
以上のような本件登録意匠に対し,平成25年5月14日付けにて無効審判請求がなされ,その理由として本件意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して登録されたものであるから,無効にすべきものであるとする。そして,証拠方法として,甲第3ないし7号証を挙げている。
(2-3)引用意匠1,引用意匠2の説明
(1)引用意匠1として示される甲第3号証,甲第4号証の意匠は,これらの証拠方法に示されている通り,自動二輪車用ホイールに係り,その形態は以下の通りである。
すなわち,甲第3号証意匠においては,中央に配した円形状のハブ部と周縁に配した円形枠状のリム部とをスポーク部にて連結すると共に,ハブ部とリム部とはその大きさ比率をほぼ2:5として成り,ハブ部は,中心に開口された軸孔の周囲に形成された円形枠の周囲に,6方向に突出している凸形矩形状部を備えることで歯車状を呈している大歯車形部を形成し,この大歯車形部内には,この大歯車形部における凸形矩形状位置に対応した計6個の縦長突状部を周囲に配している小歯車形部を配して成り,リム部は,内側部分に段差部を備えた円形枠状に形成されて成り,スポーク部は,ハブ部における外周の円枠部位置が中心の頂点となる正面から見て扇形枠状となる二股状の左・右枠部分による計7個のスポーク体をハブ部の周囲に等間隔で配すると共に,これらのスポーク体の左・右枠部分それぞれは,隣接するスポーク体の右・左枠部分それぞれによってリム部の内側位置が中心の頂点となるよう,二股状の計7個の二等辺三角形を形作って成るものである。
但し,この第3号証意匠においては,本件登録意匠における背面図と同様な,背面からの形態は明らかではない。したがって,その背面における形態は説明ができないから,後述するようにこの部分の対比は不可能である。
また,甲第4号証意匠においては,中央に配した円形状のハブ部と,周縁に配した円形枠状のリム部とをスポーク部にて連結すると共に,ハブ部とリム部とはその大きさ比率をほぼ2:5として成り,ハブ部は,中心に開口された軸孔の周囲に形成された円形枠の周囲に,ハブ自体の外枠に連なり,計6個の幅狭矩形突状部を備えることで歯車状を呈している歯車形部を配し,円形枠の周囲と歯車形部周囲との間に計6個の小円形孔を配列して成り,リム部は,内側部分に段差部を備えた円形枠状に形成されて成り,スポーク部は,ハブ部における外周の円形部位置が中心の頂点となる正面から見て扇形枠状となる二股状の左・右枠部分による計7個のスポーク体をハブ部の周囲に等間隔で配すると共に,これらのスポーク体の左・右枠部分それぞれは,隣接するスポーク体の右・左枠部分それぞれによってリム部の内側位置が中心の頂点となるよう,二股状の計7個の二等辺三角形を形作って成るものである。
但し,この甲第4号証意匠においては,本件意匠における正面図と同様な,正面からの形態は明らかではない。したがって,その正面における形態は説明ができないから,後述するようにこの部分の対比は不可能である。
尚,これらの甲第3号証意匠と甲第4号証意匠とは,同一物品であることは証明されていない。
また,甲第5号証の2中の第42頁に掲載されている「セブンスター」として説明されている写真におけるホイールは,甲第4号証意匠と同様に,本件意匠における正面形態は示されていない。
(2)引用意匠2として示される甲第4号証の3,甲第6号証,甲第7号証に記載された意匠は,遅くとも本件登録意匠の出願日である平成21年2月26日前の平成19年8月1日には日本国内で公然と知られたものであったのは明らかである(審判請求書における第4頁第5行目乃至第7行目)とする。
しかしながら,甲第4号証の3に記載のショップから引用意匠2に係るホイールを購入したものが甲第6号証に示されているとするも,この購入の事実,購入されたものが甲第6号証であることは,いずれの証拠方法を仔細に検討するも明らかにされていない。
また,甲第7号証に記載の自動二輪車におけるホイールは,車体(審判請求書においては「車体」に取り付けられ,とするもこれは「車軸」と思われる)に取り付けられた状態での写真が掲載されているが,ホイールのスポーク部,リム部の形態が示されてはいても,ハブ部の形態は全く示されていない。したがって,公然に実施されたとする引用意匠2によっては本件登録意匠と対比すべき形態は明らかではなく,この引用意匠2では本件意匠が公然実施されたものであるとはいえないから,この引用意匠2との対比は割愛する。
ただ,甲第4号証の3における右下部位に掲載の「GS400用18インチキャストホイール」の写真は,前記引用意匠1としてのものとほぼ同一であるので,いずれにしてもこの引用意匠1と対比するのみで足りると考える。
(2-4)本件登録意匠と引用意匠1との対比
この種の自動二輪車用ホイールにおいては,基本的にハブ部,リム部,スポーク部を備えることが物品としての基本的構成であり,また,自動二輪車の愛好者にとっては全体的な形態はもとより,走行性能に大きく影響する車軸から車輪への動力伝達部位における構造,形状等に重大な関心を持っているのである。すなわち,ホイールにおけるハブ部の形状,構造が愛好者・搭乗者等にとっての関心事であるから,これが本件意匠等の要部であり,請求人が主張するように物品における物理的な大きさの比率(審判請求書における第6頁参照)によって意匠の要部を認定すべきではない。
そこで,本件登録意匠のハブ部,引用意匠1のハブ部それぞれをみるに,いずれもリム部に対するその大きさ比率はほぼ5:2であることで共通していても,その内部における本件登録意匠の正面大歯車形部,小歯車形部それぞれの形態において差異があるのは明らかである。すなわち本件登録意匠では,正面大歯車形部における凸形矩形状部はその先端がハブ部の円形外周部の内側と若干の間隔が開いているのに対し,引用意匠1における甲第3号証意匠の凸形矩形状部ではハブ部の円形外周部の内側に接続されるように連続している。本件登録意匠の小歯車形部における縦長突条部の先端はやや尖り状に形成されているのに対し,引用意匠1における甲第3号証意匠の縦長突条部はこれの基部から先端に至るまでほぼ同幅に形成されている。また,本件登録意匠の小歯車形部には計6個の小円形孔を配列してあるのに対し,引用意匠1における甲第3号証意匠にはこの小円形孔は明らかではない。
尚,引用意匠1における甲第3号証意匠では,本件登録意匠における背面から見た背面歯車形部が存在するか否かは明らかではないので,これによる対比はできない。また,同様に引用意匠1における甲第4号証意匠では,本件登録意匠における正面から見た正面大歯車形部,小歯車形部等が存在するか否かは明らかではないので,これらによる対比はできない。
したがって,この種のホイールにおいて,自動二輪車の運転者,搭乗者,愛好者らがもっとも関心を抱き,注意を惹き,また注意する部分であるハブ部は,意匠の要部であるから,上述したようにこの要部において本件登録意匠と引用意匠1とは顕著に相違するので,両意匠は類似しないことは明らかである。
(2-5)請求人における類似するとする主張に対する反論
尚,請求人は,意匠に係る物品において,本件登録意匠と引用意匠等は同一であるとする点は,被請求人においても認めるところであるが,意匠の形態においての類否判断で重要な点を看過しているので,請求人の主張を認めることはできない。
すなわち,請求人は,意匠の形態において,この種ホイールは,ハブ,スポーク,リムによって構成され,スポークによる7つの先端が持つ星形(七星,セブンスター)であることが基本的態様であるとする。また,具体的態様において,本件登録意匠と引用意匠等とはセブンスターと称される形態であって,リム・スポークによって形成される扇形の形状がほぼ同一であるから,リム・スポーク・ハブ外周により形成された形態が同一と言えるとし,正面におけるハブの形態は,引用意匠1(甲第3号証の2乃至3),引用意匠2(甲第6号証の1)のハブの形態と同一と言え,背面におけるハブの形態は,引用意匠1(甲第4号証の2),引用意匠2(甲第6号証の2)の左ホイールのハブの形態と同一と言えるものである,とする。また,差異点として本件登録意匠と引用意匠等とは特徴点が一致し,差異点が見出しにくいとし,ただハブ内部は,取り付けられたときには需要者等が目にすることができず,リム・スポーク・ハブ外周によって形成される形状・態様が意匠の要部をなすからハブにおける相違点は類否判断に与える影響は小さいとする。
しかしながら,上記したように,この種のホイールにおいては,車軸に取り付けるハブ部の形状・構造が最も注意を惹く部分であるから,このハブ部における相違は,愛好者・搭乗者等の需要者にとって異なる美的印象を与え,またこれらの需要者はそれらの僅かな相違でも識別し,その相違を看取するのは明らかである。したがって,本件登録意匠と引用意匠等とはハブ部,リム部,スポーク部の配置,形状等が基本的に異ならないとしても,ハブ部の内部形状において顕著に相違するから,本件登録意匠と引用意匠等とは類似しないことは明らかである。

3.結論
以上述べたように,請求人主張のように本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するとは認められないから,本件審判請求は成り立たない,との審決を求める。


第3 口頭審理
本件審判について,当審は,平成25年10月30日に口頭審理を行った。(平成25年10月30日付口頭審理調書)

1.請求人
請求人は,審判請求書及び平成25年10月2日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。また,平成25年10月30日付け上申書により,審判請求書及び口頭審理陳述要領書の証拠の訂正表を提出した。口頭審理陳述要領書において,本件登録意匠と甲第3号証の意匠との対比について被請求人の答弁書に対して弁駁し,当審からの審理事項通知に対する回答として,引用意匠1は,甲第3号証,甲第4号証,甲第8号証に係るものである,引用意匠2は,甲第6号証に係るものである,と主張し,甲第3号証の2の品番34と甲第4号証の2は,ホイールの適合車種を示す車名型式が「GS400」で同じであるから同一物である,と主張した。口頭審理において,請求人は,甲第3号証及び甲第4号証の原本と甲第6号証ホイールの実物を持参し,当該ホイールに77の刻印が見られ,このホイールが1977年(昭和52年)製である旨主張した。口頭審理陳述要領書において,甲第3号証の4,甲第4号証の4,甲第6号証の写真を提出し,さらに,デイトナのセブンスター・マグホイールが1979年(昭和54年)に刊行物に掲載されていた旨(甲第8号証及び甲第10号証)とキャストホイールの刻印に製造年を表示している旨の記載(甲第9号証)について説明し,口頭審理陳述要領書とともに,証拠として甲第3号証の3,甲第4号証の3,甲第6号証3ないし6,及び甲第8号証ないし甲第10号証の書証を提出した。
(証拠方法)
(1)甲第3号証の3 「ミスター・バイクBG」(モーターマガジン社;第20巻第12号)抜粋(写し)(甲第3号証の2「GS400用キャストホイール」の形状を明確にするため。)
(2)甲第4号証の3 「チャンプロード」((株)笠倉出版社;第18巻第11号)抜粋(写し)(甲第4号証の2「GS400用キャストホイール」の形状を明確にするため。)
(3)甲第6号証の3ないし6 本件登録意匠の出願前に販売・購入された自動二輪車用ホイールの写真
(4)甲第8号証の1ないし5 「オートバイ」(モーターマガジン社;1979年(昭和54年)8月号)抜粋(写し)
(5)甲第9号証の1ないし4 「オートバイ」(モーターマガジン社;1979年(昭和54年)8月号)抜粋(写し)
(6)甲第10号証の1ないし9 「オートバイ」(モーターマガジン社;1979年(昭和54年)8月号)抜粋(写し)

2.被請求人
被請求人は,審判事件答弁書のとおり陳述した。口頭審理陳述要領書の提出はなかった。口頭審理において,請求人の口頭審理陳述要領書についての反論を主張し,本件登録意匠と甲第3号証の意匠,甲第4号証の意匠とが非類似である旨主張した。

3.審判長
口頭審理において,審判長は,両者に対して以後書面審理とする旨告知し,無効理由通知を手交した。被請求人の意見書の提出期日を平成25年11月29日までとした。しかしながら,被請求人からは,期限までに意見書の提出はなされなかった。

4.当審の無効理由通知
本件登録意匠は,請求人が提出した審判請求書に添付された甲第3号証の2の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された下記の意匠(以下,「意匠1」という。),及び甲第4号証の2の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された下記の意匠(以下,「意匠2」という。),に類似するものと認められるので,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠(先行の公知意匠に類似するため,意匠登録を受けることのできない意匠)に該当し,意匠登録を受けることができないものである。

意匠1 平成17年(2005年)12月1日にモーターマガジン社が発行した雑誌「ミスター・バイクBG」(第20巻第12号)第209頁「CUSTOM AND RESTORE SHOP/MAD-STAR」の下段中央に34として掲載された「GS400用本物セブンスターキャスト当時物」のホイールの左側の意匠。
意匠2 平成16年(2004年)11月1日に株式会社笠倉出版社が発行した雑誌「チャンプロード」(第18巻第11号)第118頁「極上カスタムバイク&オリジナルシート」の右上に掲載された「GS400用キャストホイール」の右側の意匠。

本件登録意匠の正面図は意匠1に表された意匠と類似し,本件登録意匠の背面図は意匠2に表された意匠と類似し,いずれもGS400用キャストホイールであり共通し,本件登録意匠は,その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものと認められるので,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するため,意匠登録を受けることができないものである。

第4 当審の判断
当審は,無効理由通知に示したとおり,本件登録意匠は,意匠1及び意匠2に表された自動二輪車用の「GS400用キャストホイール」の意匠に類似するものと認められるので,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,意匠登録を受けることができないものであると判断する。
なお,意匠1は,「GS400用キャストホイール」の正面方向からの形態が,また,意匠2は,「GS400用キャストホイール」の背面方向からの形態が表されており,同じ「GS400用キャストホイール」の正面側と背面側であるので,以下,本件登録意匠と,意匠1及び意匠2を合わせた形態とを比較することとする。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1381317号の意匠)は,平成21年(2009年)2月26日に意匠登録出願され,平成22年(2010年)1月29日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「自動二輪車用ホイール」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである(請求人が提出した甲第2号証の1ないし4:別紙第1参照)。
すなわち,本件登録意匠は,自動二輪車の車輪においてタイヤを取り付けるホイールであり,自動二輪車の走行に用いられるもので,金属などを鋳造して成形するものである。
その形態は,外輪である環状のリム部と中央の軸部を囲む円形状のハブ部及び,リム部とハブ部を繋ぐ略棒状のスポーク部とから成り,ハブ部とリム部は14本の細い略棒状のスポーク部によってハブ部の周囲に7つの同一形状の二等辺三角形による略星形状を形成し,スポーク部の略星形状の先端部のリム部の正面側及び背面側と,ハブ部の外側の背面側の外周部に小型長方形状のリブ部をそれぞれ7個ずつ設け,正面側のスポーク部と背面側スポーク部との間に薄板状部を設け,薄板状部は,スポーク部の略星形状の正面視外側には,リム部寄りが円弧状の略隅丸扇形状の孔が7個,スポーク部の略星形状の正面視内側には,略隅丸三角形状の孔が7個設けられ,ハブ部は,リム部の外径の略2/5の径の円形状で外周の細枠内を凹状部として,正面側の軸部の外周に先細の短い突条部を放射状に6個配し,短い突状部の間に小型円孔部を放射状に6個配し,その外側にはやや太さのある船の舵形状の浅い凹部を配し,外枠部との間にわずかに隙間を設け,背面側の軸部と背面側の外枠部とを6本の等間隔の細い突条部で繋ぎ,背面側の軸部の外側には浅い円形段部を設け,円形段部の細い突条部同士の間に小型円孔部を6個配し,細い突条部で繋いだ円形の細枠の内側に,円周に沿って背面視小型半円形状の突部を2個ずつ合計12個設けたもので,リム部は枠部分の断面形状が略矢羽根形状で,ハブ部寄りの厚みがやや薄くなっているものである。

2.意匠1について(「GS400用キャストホイール」の正面方向からの形態)
意匠1は,平成17年(2005年)12月1日にモーターマガジン社が発行した雑誌「ミスター・バイクBG」(第20巻第12号)第209頁「CUSTOM AND RESTORE SHOP/MAD-STAR」の下段中央に34として掲載された「GS400用本物セブンスターキャスト当時物」の左側に現された写真のホイールの意匠である。(請求人が提出した甲第3号証の2及び甲第3号証の4:別紙第2参照)
その形態は,外輪である環状のリム部と中央の軸部を囲む円形状のハブ部及び,リム部とハブ部を繋ぐ略棒状のスポーク部とから成り,ハブ部とリム部は14本の細い略棒状のスポーク部によってハブ部の周囲に7つの同一形状の二等辺三角形による略星形状を形成し,正面側のスポーク部と背面側スポーク部との間に薄板状部を設け,薄板状部は,スポーク部の略星形状の正面視外側には,リム部寄りが円弧状の略隅丸扇形状の孔が7個,スポーク部の略星形状の正面視内側には,略隅丸三角形状の孔が7個設けられ,ハブ部は,リム部の外径の略2/5の径の円形状で外周の細枠内を凹状部として,正面側の軸部の外周に先細の短い突条部を放射状に6個配し,短い突状部の間に小型円孔部を放射状に6個配し,その外側にはやや太さのある船の舵形状の凹部を配し,リム部は,ハブ部寄りの厚みがやや薄くなっており,外側にタイヤが設けられているものである。

3.意匠2について(「GS400用キャストホイール」の背面方向からの形態)
意匠2は,平成16年(2004年)11月1日に株式会社笠倉出版社が発行した雑誌「チャンプロード」(第18巻第11号)第118頁「極上カスタムバイク&オリジナルシート」の右上に掲載された「GS400用キャストホイール」の右側に現された写真のホイールの意匠である。(請求人が提出した甲第4号証の2及び甲第4号証の4:別紙第3参照)
なお,本件登録意匠の図面の向きに合わせて,意匠2は,本件登録意匠の背面図に合わせて観察する。
その形態は,外輪である環状のリム部と中央の軸部を囲む円形状のハブ部及び,リム部とハブ部を繋ぐ略棒状のスポーク部とから成り,ハブ部とリム部は14本の細い略棒状のスポーク部によってハブ部の周囲に7つの同一形状の二等辺三角形による略星形状を形成し,スポーク部の略星形状の先端部のリム部の背面側と,ハブ部の外側の背面側の外周部に小型長方形状のリブ部をそれぞれ7個ずつ設け,正面側のスポーク部と背面側のスポーク部との間に薄板状部を設け,薄板状部は,スポーク部の略星形状の背面視外側には,リム部寄りが円弧状の略隅丸扇形状の孔が7個,スポーク部の略星形状の背面視内側には,略隅丸三角形状の孔が7個設けられ,ハブ部は,リム部の外径の略2/5の径の円形状で外周の細枠内を凹状部として,背面側の軸部と背面側の外枠部とを6本の等間隔の細い突条部で繋ぎ,背面側の軸部の外側には浅い円形段部を設け,円形段部の細い突条部同士の間に小型円孔部を6個配し,細い突条部で繋いだ円形の細枠の内側に,円周に沿って背面視小型半円形状の突部を2個ずつ合計12個設けたもので,リム部のハブ部寄りの厚みがやや薄くなっているものである。

4.本件登録意匠と意匠1との対比
(1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「自動二輪車用ホイール」であって,意匠1は,「キャストホイール」であるが,いずれも自動二輪車に使用されるホイールであるから,意匠に係る物品が共通する。
(2)形態における共通点
両意匠には,(a)外輪である環状のリム部と中央の軸部を囲む円形状のハブ部及び,リム部とハブ部を繋ぐ略棒状のスポーク部とから成り,ハブ部とリム部は14本の細い略棒状のスポーク部によってハブ部の周囲に7つの同一形状の二等辺三角形による略星形状を形成している点,(b)スポーク部の略星形状の先端部のリム部の正面側に,小型長方形状のリブ部を7個設けている点,(c)正面側のスポーク部と背面側のスポーク部との間に薄板状部を設け,薄板状部は,スポーク部の略星形状の正面視外側には,リム部寄りが円弧状の略隅丸扇形状の孔が7個,スポーク部の略星形状の正面視内側には,略隅丸三角形状の孔が7個設けられている点,(d)ハブ部は,リム部の外径の略2/5の径の円形状で外周の細枠内を凹状部として,正面側の軸部の外周に先細の短い突条部を放射状に6個配し,短い突状部の間に小型円孔部を放射状に6個配し,その外側にはやや太さのある船の舵形状の浅い凹部を配した点,において主に共通する。
(3)形態における差異点
両意匠には,(ア)ハブ部の船の舵状の浅い凹部について,本件登録意匠は,外枠部との間にわずかに隙間を設けているのに対して,意匠1は,外枠部との間に隙間がない点,(イ)リム部の態様について,本件登録意匠は,枠部分の断面形状が略矢羽根形状であり,外側にタイヤが設けられていないのに対して,意匠1は,枠部分の断面形状が不明で,外側にタイヤが設けられている点,(ウ)ハブ部の正面側の軸部の外周に配した6個の先細の短い突条部について,本件登録意匠は,先端部がやや丸みを帯びているが,意匠1は,先端部がやや尖っている点,に主な差異が認められる。
(4)両意匠の類否判断
そこで検討するに,共通点の態様のうち,(a)の外輪である環状のリム部と中央の軸部を囲む円形状のハブ部及び,リム部とハブ部を繋ぐ略棒状のスポーク部とから成り,ハブ部とリム部は14本の細い略棒状のスポーク部によってハブ部の周囲に7つの同一形状の二等辺三角形による略星形状を形成している点は,両意匠の形態の骨格を成しており,需要者の注意を惹き易い全体構成に係るものであるから,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。また,(b)のスポーク部の略星形状の先端部のリム部の正面側に,小型長方形状のリブ部を7個設けている点については,細かい共通点ではあるが,スポーク部の略星形状の態様と合わせて,両意匠に共通する印象を醸し出すものといえるから,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものといえる。そして,(c)の正面側のスポーク部と背面側スポーク部との間の薄板状部が,スポーク部の略星形状の正面視外側には,リム部寄りが円弧状の略隅丸扇形状の孔が7個,スポーク部の正面視内側には,略隅丸三角形状の孔が7個設けられている点については,目立つ特徴ではないが,薄板状部まで共通することによって,両意匠の共通感がさらに増すものといえ,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものといえる。さらに,(d)のハブ部がリム部の外径の略2/5の径の円形状で外周の細枠内を凹状部として,正面側の軸部の外周に先細の短い突条部を放射状に6個配し,短い突状部の間に小型円孔部を放射状に6個配し,その外側にはやや太さのある船の舵状の浅い凹部を配した点については,中央の注意を惹き易い,目立つ部位における共通点であり,短い突条部を放射状に6個配した点や船の舵形状の浅い凹部の態様が特徴的な態様といえるもので,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
そうすると,前記共通点(a)ないし(d)に係る態様は,それらが相乗して生じる視覚的な効果をも考慮すれば,需要者に共通の美感を強く起こさせ,両意匠の類否判断を決定付けるものである。
これに対し,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であって,両意匠の共通する美感を変更するまでのものとはいえない。
すなわち,差異点(ア)のハブ部の船の舵形状の浅い凹部については,外枠部との間にわずかに隙間を設けているか否かの差異であって,意匠全体から見た場合には,船の舵形状の浅い凹部を有するという共通する印象に埋没してしまう程度の軽微な差異といえるものであるから,その差異が両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものとはいえない。次に,差異点(イ)のリム部の態様について,この種のホイールの物品分野においては,使用時にはタイヤを取り付けるもので,リム部の断面形状の差異は,通常は視認できない部位に係る差異であって,たとえ,この形状に差異があったとしても,その差異が両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものに過ぎない。そして,差異点(ウ)のハブ部の正面側の軸部の外周に配した6個の先細の短い突条部については,その差異は目立たない細部に係る微細な差異といえ,当該部位を注意深く観察して初めて気付く程度の差異であるから,その差異が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(5)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,前記差異点を総合しても,その視覚に訴える意匠的効果としては,共通点が生じさせる効果の方が差異点のそれを凌駕し,意匠全体として需要者に共通の美感を起こさせるものであるから,両意匠の正面の形態は類似する。

5.本件登録意匠と意匠2との対比
(1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「自動二輪車用ホイール」であって,意匠2は,「キャストホイール」であるが,いずれも自動二輪車に使用されるホイールであるから,意匠に係る物品が共通する。
なお,本件登録意匠の図面の向きに合わせて,意匠2は,本件登録意匠の背面図と対比して観察する。
(2)形態における共通点
両意匠には,(a)外輪である環状のリム部と中央の軸部を囲む円形状のハブ部及び,リム部とハブ部を繋ぐ略棒状のスポーク部とから成り,ハブ部とリム部は14本の細い略棒状のスポーク部によってハブ部の周囲に7つの同一形状の二等辺三角形による略星形状を形成している点,(b)スポーク部の略星形状の先端部のリム部の背面側と,ハブ部の外側の背面側の外周部に小型長方形状のリブ部をそれぞれ7個ずつ設けている点,(c)正面側のスポーク部と背面側スポーク部との間に薄板状部を設け,薄板状部は,スポーク部の略星形状の背面視外側には,リム部寄りが円弧状の略隅丸扇形状の孔が7個,スポーク部の略星形状の背面視内側は,略隅丸三角形状の孔が7個設けられている点,(d)ハブ部は,リム部の外径の略2/5の径の円形状で外周の細枠内を凹状部として,背面側の軸部と背面側の外枠部とを6本の等間隔の細い突条部で繋ぎ,背面側の軸部の外側には浅い円形段部を設け,円形段部の細い突条部同士の間に小型円孔部を6個配し,細い突条部で繋いだ円形の細枠の内側に,円周に沿って背面視小型半円形状の突部を2個ずつ合計12個設けた点,(e)リム部のハブ部寄りの厚みがやや薄くなっている点,において主に共通する。
(3)形態における差異点
両意匠には,(ア)リム部の態様について,本件登録意匠は,枠部分の断面形状が略矢羽根形状であるのに対して,意匠2は,枠部分の断面形状が不明である点,に主な差異が認められる。
(4)両意匠の類否判断
そこで検討するに,共通点の態様のうち,(a)の外輪である環状のリム部と中央の軸部を囲む円形状のハブ部及び,リム部とハブ部を繋ぐ略棒状のスポーク部とから成り,ハブ部とリム部は14本の細い略棒状のスポーク部によってハブ部の周囲に7つの同一形状の二等辺三角形による略星形状を形成している点は,両意匠の形態の骨格を成しており,需要者の注意を惹き易い全体構成に係るものであるから,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。また,(b)のスポーク部の略星形状の先端部のリム部の背面側に,小型長方形状のリブ部を7個設けている点については,細かい共通点ではあるが,スポーク部の略星形状の態様と合わせて,両意匠に共通する印象を醸し出すものといえるから,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものといえる。そして,(c)の正面側のスポーク部と背面側スポーク部との間に薄板状部を設け,薄板状部は,スポーク部の略星形状の背面視外側は,リム部寄りが円弧状の略隅丸扇形状,スポーク部の背面視内側は,略隅丸三角形状である点については,目立つ特徴ではないが,薄板状部まで共通することによって,両意匠の共通感がさらに増すものといえ,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものといえる。さらに,(d)のハブ部がリム部の外径の略2/5の径の円形状で外周の細枠内を凹状部として,背面側の軸部と背面側の外枠部とを6本の等間隔の細い突条部で繋ぎ,背面側の軸部の外側には浅い円形段部を設け,円形段部の細い突条部同士の間に小型円孔部を6個配し,細い突条部で繋いだ円形の細枠の内側に,円周に沿って正面視小型半円形状の突部を2個ずつ合計12個設けた点については,注意を惹き易い中央部に形成された,目立つ部位における共通点であり,細い突条部で繋ぎ,背面側の軸部の外側には浅い円形段部を設け,軸部と背面側の外枠部とを6本の等間隔の細い突条部で繋いだ点や円形段部の態様が特徴的な態様といえるものであるから,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。そして,(e)のリム部の態様についても,前記(a)及び(b)の共通点と相俟って,両意匠に共通感を与えるものといえ,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。
そうすると,前記共通点(a)ないし(e)に係る態様は,それらが相乗して生じる視覚的な効果をも考慮すれば,需要者に共通の美感を強く起こさせ,両意匠の類否判断を決定付けるものである。
これに対し,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であって,両意匠の共通する美感を変更するまでのものとはいえない。
すなわち,差異点(ア)のリム部の態様について,この種のホイールの物品分野においては,使用時にはタイヤを取り付けるもので,リム部の断面形状の差異は,通常は視認できない部位に係る差異であって,たとえ,この形状に差異があったとしても,その差異が両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものに過ぎない。
(5)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,前記差異点を総合しても,その視覚に訴える意匠的効果としては,共通点が生じさせる効果の方が差異点のそれを凌駕し,意匠全体として需要者に共通の美感を起こさせるものであるから,両意匠の背面の形態は類似する。

6.本件登録意匠と意匠1及び意匠2との類否判断
本件登録意匠の正面は意匠1に表された意匠と類似し,本件登録意匠の背面は意匠2に表された意匠と類似し,いずれもGS400用キャストホイールであり共通し,意匠1及び意匠2の態様が自動二輪車用ホイールの表裏の態様として現れることは,請求人が提出した甲第6号証(別紙第4参照)の意匠からも明らかである。
また,甲第6号証の意匠については,甲第9号証の3(別紙第5参照)によれば,1979年に発行された雑誌に,キャストホイールの刻印が製造年を現したものであるという記述が認められ,請求人が口頭審理に持参していたホイールにも77の刻印が認められた。そうすると,甲第6号証の意匠は,その刻印により,1977年に製造された蓋然性が高いものといえる。そして,「GS400用本物セブンスターキャスト当時物」という甲第3号証の2の記載からも,少なくとも,2005年(平成17年)12月以前にセブンスターキャストが販売され,中古のホイールとして掲載されていたことが明らかであり,甲第4号証の2の記載からも,少なくとも,2006年(平成18年)7月以前に「GS400用のキャストホイール」の背面側の態様についても既に公然と知られた刊行物に掲載されていた事実が確認できる。意匠1と意匠2は,本件登録意匠の出願前に刊行物に掲載された意匠であり,いずれも自動二輪車用の「GS400用キャストホイール」であって共通するものであり,さらに,甲第6号証によって,意匠1(甲第3号証の2)の態様と意匠2(甲第4号証の2)の態様がホイールの表裏の態様として表されていたことが明らかである。

したがって,本件登録意匠は,無効理由通知に示したとおり,本件登録意匠の正面は意匠1(甲第3号証の2)に表された意匠と類似し,本件登録意匠の背面は意匠2(甲第4号証の2)に表された意匠と類似するもので,本件登録意匠は,意匠1及び意匠2に表された自動二輪車用の「GS400用キャストホイール」の意匠に類似するものと認められるから,その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものと認められる。
よって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,意匠登録を受けることができないものであるので,無効理由を有し,同法第48条第1項第1号に該当するものと認められる。


第5 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,無効理由通知で示した意匠1及び意匠2に表された意匠により,意匠法第3条第1項3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものであり,意匠法第48条第1項第1号の規定に該当するから,その登録を無効とすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
別掲


審理終結日 2014-03-12 
結審通知日 2014-03-14 
審決日 2014-03-28 
出願番号 意願2009-4098(D2009-4098) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (G2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大峰 勝士 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 江塚 尚弘
中田 博康
登録日 2010-01-29 
登録番号 意匠登録第1381317号(D1381317) 
代理人 川島 順 
代理人 原田 寛 
代理人 渡邉 常雄 

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