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審決分類 審判    C4
管理番号 1288636 
審判番号 無効2013-880008
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-05 
確定日 2014-05-12 
意匠に係る物品 携帯用薬剤拡散袋 
事件の表示 上記当事者間の登録第1454140号「携帯用薬剤拡散袋」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1454140号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件登録意匠,すなわち,本件意匠登録第1454140号の意匠(別紙第1参照)は,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとし,平成24年(2012年)4月4日に意匠登録出願(意願2012-8014。以下「本願」という。)されたものであって,審査を経て同年9月28日に意匠権の設定の登録がなされ,同年10月29日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

・本件審判請求(審判請求書提出) 平成25年3月 5日
・証拠説明書提出 平成25年3月 5日
・上申書提出 平成25年4月 3日
・審判事件答弁書提出 平成25年5月 7日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成26年2月 5日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成26年2月18日
・口頭審理 平成26年3月 5日


第2 当事者が提出した証拠
1 請求人が提出した証拠
(1)「証拠説明書」
甲第1号証 意匠登録第1454140号の意匠公報の写し
甲第2号証 「東海新報」の掲載記事の写し
甲第3号証の1 携帯用袋図1の提案の通信記録の写し
甲第3号証の2 ウエットティッシュ型首掛け用の設計図の写し
甲第3号証の3 携帯用袋図2の提案の通信記録の写し
甲第3号証の4 携帯用袋図2の写し
甲第4号証 デザイン変更の依頼受信記録の写し
甲第5号証の1 デザイン協議の受信記録の写し
甲第5号証の2 ビニール袋の御見積書の写し
甲第6号証の1 ビニール袋構造の送受信記録の写し
甲第6号証の2 ビニール袋の三層構造図の写し
甲第7号証の1 ビニール袋材質の質問依頼の写し
甲第7号証の2 ビニール袋材質の指導記録の写し
甲第8号証の1 ビニール袋の注文書送付記録の写し
甲第8号証の2 ビニール袋の注文書の写し
甲第9号証の1 ビニール袋の請求書の写し
甲第9号証の2 納品見本図(a)?(d)
甲第9号証の3 ビニール袋の出荷の写し(その1)
甲第9号証の4 ビニール袋の出荷の写し(その2)
甲第9号証の5 ビニール袋の出荷の写し(その3)
甲第10号証 資金調達記録の写し
甲第11号証の1 ストラップデザイン送信記録の写し
甲第11号証の2 ストラップデザイン図の写し
甲第12号証の1 CL-30印刷用データ受信記録の写し
甲第12号証の2 CL-30印刷用データ模様の写し
(2)平成25年4月3日付け「上申書」に添付
甲第2号証の1 「東海新報」の全面を掲載した書面の写し


第3 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,請求の趣旨を「登録第1454140号意匠の意匠登録は,これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由を,要点以下のとおり主張し(平成26年2月5日付け「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。),その主張事実を立証するため,前章「第2」に掲げた証拠を提出した。

1 意匠登録無効の理由の要点
(1)本件意匠登録第1454140号(「甲第1号証」)の意匠(以下,『本件登録意匠』という。)の本質的な基調とする「携帯用薬剤拡散袋」(以下,単に『薬剤拡散袋』という。)に係る意匠は,意匠登録出願前に日本国内で頒布された「刊行物」(「甲第2号証」)に記載された意匠であるから,意匠法第3条第1項第2号の規定に該当すること,または同2号に掲げる意匠に類似する意匠でもあるから,同法第3条第1項第3号の規定に該当するものである。従って,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第1号の規定により,これを無効とすべきものである。
(2)本件登録意匠の本質的な部分である「薬剤拡散袋」に係る意匠の真の創作者は,本件無効審判請求人である「新光株式会社」の「菊池徳美」であるところ,被請求人の「エンブロイ株式会社」の「和気清煕」は,「菊池徳美」から意匠登録を受ける権利を承継しないまま本件意匠につき単独で意匠登録出願をしたものであり,本来ならば,この登録意匠権は,請求人が移転請求をすることができるものであるが,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第1号の規定もしくは意匠法第48条第1項第3号の規定に該当するので,これは無効とされるべきものである。

2 本件登録意匠
(1)意匠に係る物品について
本件登録意匠とは「携帯用薬剤拡散袋」に係わる物品であり,その物品の形態は,[図1](別紙第2参照)に示す意匠に見るとおり,抗菌剤や消臭剤などの徐散性薬剤を袋体内に収容した携帯用薬剤拡散袋である。この携帯用薬剤拡散袋は,微細孔を有する不織布からなる内袋内に徐散性薬剤が収容され,その内袋が,表面にアルミコートした外袋(A)内に収容されている。外袋には複数の放出孔(D)が設けられ,これらの放出孔から薬剤が徐々に放出される。各放出孔は透明なシール材(E)によりシールされ,使用時には,使用状態参考図に示すように,シールを剥がして使用する。外袋の上部には吊り下げ用の穴(C)が設けられている。
(2)形態について
ア 形状
外袋(A)は扁平な略四角形で,その上部には吊り下げ用の穴(C)が設けられており,その穴部を設ける部分は緩やかなカーブを描いて山高(B)となっている。外袋の四辺は内部に内袋を収容するために接着密封されている。外袋の上部に設けられた吊り下げ用の穴(C)の下で,且つ模様より上の部分には8つの円形の放出孔(D)が,さらに横中心線より下位置で,六角形の模様より外側に扁平な楕円形の穴を左右一つずつ設けている。楕円形の穴からは収容されている徐散性薬剤が見える。
イ 模様
外袋の円形の放出孔を設けた部分及び四方の接着部分(H)を除いた,略四角形の上部分と下部分のそれぞれを青色の一本の太い直線で塗りつぶし,下部の塗りつぶし部分の線の太さは上部の太さより3倍程度大きく太い。この上下二本の塗りつぶし部分に掛かるように,中央部には四角形の横の長さの三分の一程度の大きさの横幅の六角形を青色の線で描き,六角形の上の頂点は内側に押し込まれて低くなっており,逆に下の頂点はその分だけ突き出ている。六角形の横幅は下に行くにつれて若干窄まっている。六角形(G)の青色の線が青色の塗りつぶし部分に掛かる部分においては,地色の線をその青色の線の外側に沿って描くことによりその境界を明確にしている。その六角形(G)の中心部分に十字型(R)を,上部分に施した線の1.8倍程度の太さで描いている。右下の青色部分には,丸を地色の点線で描き,その中に胸の部分に青色の略四角形を描いた人間の全身を模した人形を配している。
ウ 色彩
模様部分は青色,地色は白色の2色のみである。

3 本件意匠登録を無効とすべき理由(1)
(1)平成25年3月5日付け「審判請求書」の内容
本件登録意匠の,出願日平成24年(2012年)4月4日以前であり,しかも新規性喪失の例外規定日前である,平成23年(2011年)9月17日発行の「東海新報」の「刊行物」(甲第2号証)の一面に,本件登録意匠に係る物品が写真として掲載されている。
本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第2号の規定に該当するか,または同2号に掲げる意匠に類似する意匠でもあるから,同法第3条第1項第3号の規定に該当するものである。
従って,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項1号の規定により,これを無効とすべきものである。
(2)平成26年2月5日付け「口頭審理陳述要領書」の内容
ア 本件登録意匠が刊行物に記載された意匠に類似する理由は,「刊行物」(甲第2号証の1)に掲載された意匠の状態を吟味すれば,二枚の袋体の一部が重なった状態の写真が掲載されており,その一枚の袋においては,袋体に赤色シールが見られない状態の意匠が右側図(手前)であり,一方,赤色シールを貼った状態の袋体の意匠が左側図(後方)である。
これら袋体の右側図および左側図を一部分重ねた状態の写真図であり,後方に位置する左側図の場合には,シールが放出孔の全面に貼られた状態であると推測されるが,写真には見えない隠れた部分も,いわゆる類似した状態の部分を備えた意匠であると主張されることが有り得るので,このような場合は,本件登録意匠は,「刊行物」(甲第2号証の1)の意匠と類似すると解釈すべきである。
イ 放出孔の配置の相違
本件登録意匠と「刊行物に掲載の意匠」(甲第2号証)とは,外袋体の形態は全く同じであるばかりでなく,色彩,変形六角形の中に字が入った太字の十字が配置され,破線円内に人型が納められている図柄においても一致する意匠である。
本件登録意匠を,特に放出孔に基づいて吟味すれば,外袋体の上部付近に直列に8個の○印の放出孔が配置されており,さらに,「下部の左右に扁平形の放出孔」が設けられているものであり,放出孔を封止するシール材は一枚の大きな透明なシートを使用している。
一方,「刊行物」(甲第2号証の1)に記載の意匠の外袋体には,「下部の左右に扁平形の放出孔」を設けた状態が鮮明に描かれてはいない。
しかし,放出孔の形状,配置する位置などは,除散性薬剤の放散量などを考慮して,任意に決めることであって,形状,模様若しくは色彩などに於いて,地色と区別が付かないこともあり,美観を起こさせるような役割を果たしているものではない。
そうすれば,本件登録意匠は,「刊行物」(甲第2号証の1)の特に後方左側の袋体の意匠とは,単に放出孔として,「下部の左右に扁平形の放出孔」を配置しただけの創作であるから,両者は類似する意匠であるので,結局,意匠法第3条第1項第3号に該当する。
なお,「刊行物」(甲第2号証の1)の特に前方右側の写真図は,上部付近に直列に8個の○印の放出孔の配置状態が鮮明に描かれていることからすれば,本件登録意匠であり,しかも「納品物」(c)」(甲第9号の2)である蓋然性が高い。
ウ 本件登録意匠は立体形状であるという理由
本件登録意匠は,その「立体的形状」を含めた全体に創作性を有するという主張や解釈もあり得ることが一応考えられる。
本件登録意匠は,「意匠公報」(甲第1号証)に掲載されている図面を参酌すれば,「正面図」,「背面図」,「左側面図」,「右側面図」等が挙げられている。
本件登録意匠に係る物品は,外袋体内に除散性薬剤を収納した内袋体を収容した携帯用薬剤拡散袋であるという,その「立体的形状」を含めた全体に創作性を有する意匠であることを強調する主張も一応有り得ると思われる。
しかし,本件登録意匠は,除散性薬剤を収容した「内袋」を,「外袋」内に収容しただけのことであり,詳細には意匠公報掲載の各図は,袋体内に除散性薬剤を収容した携帯用薬剤拡散袋とした場合に,袋体が除散性薬剤の収納量に比例をして,若干袋が膨れるという,いわゆる俗語で申し上げると,「飯を食えば腹が膨れる」という周知慣用の原理であって,一体,どのような除散性薬剤を,どのような状態で,どれくらいの量を袋体に詰め込めば,その収容物品が機能美として,或いは,物品の形状,模様若しくは色彩等において視覚を通じて美観を想起させるかというような性格のものではない。
一方,「刊行物」(甲第2号証の1)に掲載された意匠は,本件登録意匠の袋体の物品と形状,模様若しくは色彩の結合状態が全く同じ袋体の物品である。
しかも,同「刊行物」には,「固形剤を袋に詰めて専用機械で封をする作業」と記載されているとおりで,あくまでも,「固形剤を袋に詰める」ことを前提に,意匠の利用を図ることを目的とするものである。
そうすると,袋体内に除散性薬剤を収容した携帯用薬剤拡散袋の物品に係わる「本件登録意匠」は,袋体内に除散性薬剤を収容したあるいは収容しようとする「刊行物」の袋体の物品に係る意匠と実質的に同一の意匠であると見るべきである。
もし,仮に,同一の意匠と見ることができない場合には,除散性薬剤を袋体に収納した立体状態の物品に係わる「本件登録意匠」は,これから袋体に除散性薬剤を収容しようとする空の状態の,即ち,膨らんでいない袋体の物品に係わる「意匠」(甲第2号証)とは,類似する意匠であると解するべきであるから,意匠法第3条第1項第3号に該当する。

4 本件意匠登録を無効とすべき理由(2)
請求人は,本件登録意匠が共同出願又は冒認出願に該当する理由について,概要以下のとおり主張し,立証した。
(1)無効審判請求人菊池徳美の創作意匠(「引用意匠」)
無効審判請求人新光株式会社の菊池徳美は2件の意匠を創作して,被請求人のエンブロイ株式会社の代表者和気清煕氏へ送信している。最初に送信した意匠は,2011年5月5日に送信した意匠(以下,『引用意匠1』という。)(甲第3号証の1,2参照)であり,他の一件は2011年5月11日に送信した意匠(以下,『引用意匠2』という。)(甲第3号証の3,4参照)である。本件登録意匠の創作は菊池徳美によるものであり,その意匠に係る物品の創作,製作,改良,提案,納品にも深く関与していたことは明白である。この本件登録意匠は知的財産権の性格からして,「原始的に創作者菊池徳美に発生する」とみるべきである。
(2)引用意匠の創作および開発協議
請求人菊池徳美は,本件登録意匠に係わる「携帯用薬剤拡散袋」の創作段階で,被請求人和気清煕氏に対して,提示,教示,協力および参画している。
ア 用語の協議
請求人が被請求人へ2011年5月11日に送信した,「携帯用袋図2」(甲第3号証の3,4)に対して,約一週間後の,2011年5月20日に,被請求人側から検討をした「検討事項」(甲第4号証)を受け取った。この被請求人側の指示は,専ら袋の表面の用語の指示である。
以上のように,本件登録意匠に係わる「携帯用薬剤拡散袋」の用語の表記や配置においても請求人は被請求人と協議している。
イ デザインの協議
デザイン開発段階で,2011年6月9日に,請求人菊池徳美と被請求人和気清煕氏とは,書面(甲第5号証の1,2)を送信しており,本件登録意匠に係わる「携帯用薬剤拡散袋」のデザインの創作においても,請求人は指導的な役割を果たしている。
ウ 素材の協議
「携帯用薬剤拡散袋」のビニール袋の素材の開発段階で,請求人菊池徳美と被請求人和気清煕氏とは,書面を送信している。
エ その後の材料指導または教示
ビニール袋の納品の後に,被請求人エンブロイ株式会社より,材料に関する問題点が指摘され,その詳細の問い合わせが請求人にあった。本件登録意匠の出願日平成24年4月4日以前で,しかも「新規性の喪失の例外証明書」による新規制喪失の例外日である2012年1月10日以前に,本件登録意匠の意匠権者エンブロイ株式会社の創作者 和気清煕氏へ教示したものである。
オ 資金調達
被請求人和気清煕氏は,2011年5月31日に,請求人菊池徳美に対して,資金調達を依頼している。意匠の創作,教示,提示,協力ばかりでなく,資金協力することがあった。
カ まとめ
以上のとおり,引用意匠1,引用意匠2の創作段階において,用語,デザイン,形態,素材,見積および発注,資金などにおいて,請求人菊池徳美が,主体となり,被請求人和気清煕氏へ提示,教示,提案したものであり,以下の(3)において示す理由により,本件登録意匠は,引用意匠1,引用意匠2に係る形状,模様若しくは色彩またはこれらの結合により想起される,美観性のある意匠に係る物品の形態として,本質的に同一または類似する意匠である。しかもこのような経緯に基づいて創作された意匠に係わる物品とは,請求人が,被請求人へ納品した「納品製品(b)?(d)」(甲第9号証の2)にみるとおりのものである。
結局,「本件登録意匠」の真の創作者は,請求人菊池徳美であることは明白である。
(3)本件登録意匠と引用意匠1,2とが同一の意匠である理由
本件登録意匠は,請求人の創作した引用意匠1,2とは形態が共通しており,両意匠は,意匠全体の基調として,形態上別異とする視覚上強い印象を与える要素を有しない。
ア 本件登録意匠と引用意匠1との類似判断
両意匠に係わる物品である「携帯用薬剤拡散袋」の類似判断の支配的な影響を与える部分は,「袋」部分であり,それは両意匠の基調を形成する部分であり,看者が両意匠を見た場合に,共通の印象を受ける部分でもあり,しかも,身に付けるパックという感覚で共通の美観を生じさせる部分でもある。しかも製品は,全く同じ態様で使用されるものであって,本件登録意匠および引用意匠に係る物品の形態が,流通業者や販売現場の作業員にとっては,本質的に識別や,区別がつかない,当該産業分野において,まさに誤認混同をするような,同一の形状または模様を有する物品に係る意匠である。
本件登録意匠の本質的な部分は,引用意匠1に基づくものであり,引用意匠の創作者の菊池徳美が,被請求人エンブロイ株式会社(和気清煕)に教示または提案をした意匠,または請求人が,被請求人へ納品した「納品製品(b)?(d)」(甲第9号証の2)を見て,和気清煕は,創作者と偽り,真の意匠創作者であります請求人の「菊池 徳美」の承諾を得ることもなく,勝手に平成24年4月4日に,単独で意匠登録出願をして,平成24年9月28日に登録になったものであることは明白である。
イ 本件登録意匠と引用意匠2との類似判断
両意匠に係わる物品である「携帯用薬剤拡散袋」の類似判断の支配的な影響を与える基調となる部分は,殆ど一致しており,全く同じ態様で使用されるものであって,本件登録意匠および引用意匠2に係る物品の形態が,流通業者や販売現場の作業員にとっては,本質的に識別や,区別がつかない,当該産業分野において,まさに誤認混同をするような,同一の形状または模様を有する物品に係る意匠である。しかも本件登録意匠におけるその形態は,取引者或いは需要者に最も注意を引きやすく,美観を生じさせる特徴的な基調をなす要部である。
(4)本件登録意匠の模様付けの経緯
ア 「略六角形」の図柄の表示
本件登録意匠の創作段階において,本件登録意匠に「略六角形」の図柄や模様が賦与された点は,当事者以外の部分の事実関係は明らかでないが,以下の経緯に基づいている。
被請求人側(川崎氏)から,2011年6月8日に,請求人菊池徳美へ「メール」(甲第12号証)が送信され,「CL-30印刷用データを転送いたします。ご確認お願いいたします。また,詳細はのちほど和気からご説明させて頂きます。」(甲第12号証の1)という趣旨のものであった。
この「印刷用データ」の詳細は,「模様図」,「背面図」(甲第12号証の2)に見るとおりのものである。
イ 「略六角形」の図柄の表示
略六角形の「送信データ」(甲第12号証1,2)によると,「CL-30の印刷データ」として,ARMIK 原田氏より,2011年6月8日に,被請求人側のエンブロイ株式会社(川崎氏)へ送信されたものである。
このARMIK 原田氏とは,被請求人エンブロイ株式会社に所属する者なのか,それともデザイン業者に依頼してデザイン業者が業として作成したものなのか,その作図の作成経緯は確認していない。
いずれにせよ,「本件登録意匠」は,請求人が,引用意匠1,引用意匠2として作成および教示した物品の態様である「携帯用薬剤拡散袋」の表面に,その図柄または模様を印刷,貼り付けた程度のものである。
(5)見積,発注,請求書,納品
被請求人和気清煕氏は,2011年6月23日に,請求人菊池徳美に対して,平成23年6月18日付けの見積に対する発注をしている(甲第8号証の1,2) CL-40ビニール袋,金型などの意匠の仕様は,請求人および被請求人が共有していたことは明らかである。
請求人新光株式会社は,CL-ビニール袋,粘着シール,製版費,金型などの製作費を含めて,被請求人エンブロイ株式会社に対して納品したことに対する請求書(甲第9号証の1)を,2011年6月18日付で送付している。
請求人が被請求人へ納品した原寸大の製品として,「納品物(b)?(d)」(甲第9号証の2,「納品物(b)」?「納品物(d)」)に見るようなものである。
(6)本件登録意匠に対する結論
本件登録意匠の基調とする要部は,引用意匠1,2に基づくものであり,引用意匠1,2の創作者の菊池徳美が,被請求人エンブロイ株式会社和気清煕氏へ,納入,教示,指導または提案をした意匠を見て,または請求人菊池徳美が創作し,請求人が,被請求人へ納品した「納品物(b)?(d)」(甲第9号証の2)を見て,または,和気清煕は,袋表面へ,容易に人手できる図柄または模様を適当に変えて印刷するという,いわゆるラベルを変えて作成した模様程度の図柄を形成した程度に過ぎないものである。
ということは,和気清煕氏は,真に意匠の要部を創作した者でない者であって,しかも真の意匠の要部創作者である請求人「菊池徳美」より意匠登録を受ける権利を承継しないまま,勝手に平成24年4月4日に,単独で意匠登録出願をして,平成24年9月28日に登録になったものであることは明白である。
従って,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第1号の規定もしくは意匠法第48条第1項第3号の規定に該当するので,これを無効とされるべきものである。


第4 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,答弁書を提出し,答弁の趣旨を「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」と答弁し,その理由を,要点以下のとおり主張(平成26年2月17日付け「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)した。

1 本件登録意匠が甲第2号証に記載された意匠と同一又は類似ではないこと
(1)本件登録意匠は,甲第2号証に記載された意匠ではない。本件登録意匠は,本件意匠登録の出願日前の先行意匠との関係から,その立体的形状を含めた全体に創作性を有するものである。言い換えれば,本件意匠登録の出願日前には,本件意匠にかかる物品又はこれに類似する物品について,その立体的形状において類似のものが存在していなかったため,物品の一方向からの写真のみからは,その立体的形状を把握することが極めて困難であったと言える。
ここで,甲第2号証には,商品の正面写真が掲載されているのみである。すなわち,この写真からは,背面,底面,上面方向から見たときの形状が不明であり,当該写真からは,商品の立体的形状を容易に理解することができない。さらに,唯一掲載されている正面写真からは,穴の形状や位置,模様についても明確に把握することができない。従って,本件登録意匠は,甲第2号証に記載された意匠ではない。
以上より,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第2号に規定される意匠に該当しない。
(2)本件登録意匠は,本件意匠登録の出願日前の先行意匠との関係から,その立体的形状を含めた全体に創作性を有するものであるから,この立体的形状について開示していない甲第2号証に記載された写真からは,本件登録意匠を創作するのは容易であったとは到底言えない。
本件登録意匠と刊行物2に記載の意匠を比較すると,本件意匠は,薬剤袋の下部側に細長い穴が2つ設けられているのに対し,刊行物2に記載の意匠にはこれが設けられていない点,本件意匠は,薬剤袋表面に透明に赤の舌片を有する大きなシールが設けられているのに対し,刊行物2に記載の意匠にはこれが設けられていない点,において相違する。
また,刊行物2には,薬剤袋の立体的な形状は記載されていない。これらの点は,薬剤袋という物品との関係に照らし合わせれば,意匠を構成する特徴的部分であり,本件意匠と刊行物2に記載の意匠は,需要者に対して,異なる美観を起こさせるものである。
従って,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものではないから,意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきものではない。

2 本件登録意匠の創作者が「菊地徳美」ではないこと
審判請求人は,種々の証拠を提出し,本件登録意匠の創作者が審判請求人の代表者である菊池徳美であることを主張しているが,いずれの証拠も本件登録意匠の創作者が菊池徳美であることを裏付けるものではない。
(1)引用意匠1,引用意匠2の創作者について
審判請求書において審判請求人が示す甲第3号証の1,甲第3号証の2,甲第3号証の3,甲第4号証,甲第5号証の1,甲第5号証の2は,審判請求人と,和気清煕又は審判被請求人の従業員との間のデザインに関するやり取りに関する書面である。
このうち,甲第3号証の1,甲第3号証の2,甲第3号証の3,甲第3号証の4は,審判請求人が和気清煕宛てに送信したメールであるが,甲第3号証の2に示された意匠(以下,「引用意匠1」という。)及び甲第3号証の4に示された意匠(以下,「引用意匠2」という。)には「エンブロイ株式会社」あるいは「Envroy.Co.,Ltd」との文字が入っていること,甲第3号証の3に,「ご確認をお願いします。」と記載されていることから,審判請求人は,和気清煕の指示に基づいて,単に印刷内容を図面に起こしているにすぎないことが容易に認められる。
また,甲第4号証は,エンブロイ株式会社の従業員が,本件登録意匠の創作者である和気清煕の指示に基づいて,審判請求人にデザインの校正を指示した書簡であるが,同書簡に於いて詳細な指示をしていることから,審判請求人は,和気清煕の指示に基づいて,単に印刷内容を図面に起こしているにすぎないことが容易に認められる。
また,甲第5号証の1に示される2011年6月9日付けのメールにおいても,和気清煕がデザインを構成するベースの色について,菊池徳美宛てに指示をしていることから,審判請求人は,和気清煕の指示に基づいて,単に印刷内容を図面に起こしているにすぎないことが容易に理解できる。
また,甲第5号証2の「御見積書」には,意匠の創作に関する費用などは一切記載されておらず,当該証拠も,菊池徳美が引用意匠を創作したことの証拠とは何らなりえないことは明らかである。
以上のとおり,審判請求人が提出するいずれの証拠も,引用意匠1,引用意匠2が菊池徳美により創作されたものであることを裏付けるものではない。
(2)本件意匠の創作者について
これらの証拠に記載されている引用意匠1,引用意匠2の創作に一部菊池徳美が関与したと仮定したとしても,当該証拠に記載されている意匠と本件登録意匠は全く異なるものであり,本件登録意匠の創作者が菊池徳美であるとはいえない。
本件登録意匠は,本件意匠登録の出願日前の先行意匠との関係から,その立体的形状を含めた全体に創作性を有するものである。
しかしながら,審判請求人が提出する上記いずれの証拠にも,物品の立体的形状についてのデザインへの言及は一切存在しない。
また,正面の孔の形状や位置,模様についても,引用意匠1,引用意匠2と,本件登録意匠とは全く異なるものである。
従って,引用意匠1,引用意匠2の創作に一部菊池徳美が関与したと仮定したとしても,上記証拠からは,本件登録意匠の創作者が菊池徳美であるとは到底言えない。
また,審判請求人が提出する,甲第12号証の1は,審判被請求人の従業員が,和気清煕が創作した意匠について,印刷用データ作成に関する委託先から納品された納品メールを菊池徳美に送信したものであるが,本証拠は,当該証拠中「詳細はのちほど和氣からご説明させて頂きます。」と記載されている通り,和気清煕のみが創作に関する詳細を把握していることを支持するものであるばかりでなく,本件登録意匠の模様の創作に関して,菊池徳美が一切関与していないことを裏付けるものであるとさえいえる。
さらに,甲第11号証中,9月5日付けのエンブロイ株式会社の従業員からの菊池徳美へのメールには,「CL-40デザインを再送いたします」と記載され,これに対し,同日付の菊池徳美からの和気清煕へのメールには,「デザインを添付致しました,最終確認をお願いします」と記載され,これに対し,9月26日付けのエンブロイ株式会社の従業員からの菊池徳美へのメールには,文字の大小に関する修正の指示が記載されている。
これらのやり取りから,菊池徳美は,登録意匠に関し,単に印刷を請け負っているにすぎないことが容易に理解できる。
以上のとおり,審判請求人の主張は,いずれも根拠を欠くものであり,到底認められるべきものではない。
このように,本件登録意匠は,和気清煕により創作されたものであるため,本件意匠登録は,意匠法第48条第1項第1号又は同項3号の規定により,無効とされるべきものではない。

3 結論
よって,本件意匠登録は,意匠法第48条第1項第1号又は同項3号の規定により,無効とされるべきものではない。


第5 口頭審理
当審は,本件審判について,平成26年(2014年)3月5日に口頭審理を行った。(平成26年3月5日付け「第1回口頭審理調書」)


第6 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は,本願の願書の記載によれば,意匠に係る物品を「携帯用薬剤拡散袋」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面代用写真に現されたとおりとしたものであり,意匠に係る物品の説明を「本意匠に係る物品は,抗菌剤や消臭剤などの除散性薬剤を袋体内に収容した携帯用薬剤拡散袋である。この携帯用薬剤拡散袋は,微細孔を有する不織布からなる内袋内に除散性薬剤が収容され,その内袋が,表面にアルミコートした外袋内に収容されている。外袋には複数の放出孔が設けられ,これらの放出孔から薬剤が徐々に放出される。各放出孔は透明なシール材によりシールされ,使用時には,使用状態参考図に示すように,シールを剥がして使用する。外袋の上部には吊り下げ用の穴が設けられている。」としたものである。
本件登録意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
(1)基本的構成態様について
全体が,厚みの薄い略袋状体であって,平面視略横長長方形であり,正面及び側面から見て,端部を除いて少し膨らんだものである。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)具体的態様について
ア 平面部の形状について
上辺中央付近が緩やかに隆起しており,最大隆起した部分(以下「上辺隆起部」という。)の横幅は上辺全幅の約1/3を占めており,上辺隆起部中央直下に,上辺隆起部の横幅の約1/3の横幅を有する略横長トラック形状の孔部(以下「中央孔部」という。)がある。また,上辺寄りには,平面側から袋内に貫通する八個の正円形の孔が横一列に並んで配されている。さらに,中央やや下の左端寄り及び右端寄りの位置に,平面側から袋内に貫通し,中央孔部の横幅の約1.5倍の横幅を有する略横長トラック形状の孔部(以下,それぞれ「左孔部」,「右孔部」という。)が配されている。その左孔部と右孔部には,内袋の一部があらわれている。
イ 平面部の模様について
平面部には,銀色の地色の上に青色の模様が付されており,略中央に変形六角形の線模様が配され,その内部に十字形の太い線模様が配されている(以下「略六角形模様」ともいう。)。略六角形模様は,上部の膨らみが小さく,左右の辺が下にいくにつれてやや内側に傾斜している。その略六角形模様の上部の膨らみの位置には,平面部左端寄りから右端寄りにかけて,横帯状で中央下が上向き三角状に切り欠かれた模様(以下「上部略横帯模様」という。)が配され,略六角形模様の下部の膨らみの位置にも,平面部左端寄りから右端寄りにかけて,横帯状で中央上が下向き三角状に切り欠かれた模様「以下「下部略横帯模様」という。」が配されている。上部略横帯模様の縦幅,十字形の線の幅,及び下部略横帯模様の縦幅の比は,約1:2:3である。
また,略六角形模様の左右には余地部があり,左側余地部,略六角形模様,及び右側余地部の横幅の比は,約4:5:4になっており,左側余地部の左上で上部略横帯模様の直下には,三重の青色線から成る全体が略円形の模様が配置され,下部略横帯模様の右端寄りには,地色の点線円形の内部に人体を模した模様が地色で描かれており,その人体の胸部には,略横長矩形部が小さく青色で描かれている。
ウ 透明シールについて
平面部の,八個の正円形の孔から左孔部と右孔部までの範囲に,透明のシールが貼られており,そのシールの左端中央部に,赤色の略左向き扁平台形状の突出部が形成されている。
エ 表面の態様について
表面がアルミコーティングされており,平面部の左右縁部と,底面部の左右縁部に,小格子状の細かい凹凸が形成されている。
オ 底面部の模様について
下辺寄りに,左端寄りから右端寄りにかけて,横帯状で黒色の模様が配されている。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件意匠登録の無効事由は,本件登録意匠が,意匠登録出願前に日本国内で頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された意匠と同一又は類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第2号又は同項第3号に規定する意匠に該当するので,同項柱書の規定により,意匠登録を受けることができないものであるから,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするもの(以下,これを「無効理由1」という。),及び,本件登録意匠の真の創作者が請求人である「新光株式会社」の「菊池徳美」であるところ,被請求人の「エンブロイ株式会社」の「和気清煕」は,「菊池徳美」から意匠登録を受ける権利を承継しないまま意匠登録出願をしたか,または,単独で意匠登録出願をしたものであるので,本件意匠登録は,意匠登録を受ける権利を有しない者の意匠登録出願に対して意匠登録がされたものであるから,意匠法第48条第1項第3号の規定に該当し,または,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条(共同出願)の規定に違反して意匠登録がされたものであるから,意匠法第48条第1項第1号の規定に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするもの(以下,これを「無効理由2」という。)である。
3 無効理由1に対する判断
本件登録意匠が,甲第2号証の右下の写真に現された右側の意匠(以下「甲2意匠」という。)と同一又は類似する意匠であるか否かについて検討する。なお,甲第2号証に現れている文字は部分的に読めないので,文字の不可読箇所を,甲第2号証の1に基づいて認定する。
(1)甲2意匠
成立に争いのない甲第2号証及び甲第2号証の1(別紙第3参照)によれば,甲2意匠は,「除菌,消臭力の高い二酸化塩素を固形化し,商品化した。・・・商品についたシールをはがすと空いた穴から有効成分が出て,1カ月にわたって殺菌や消臭に力を発揮する。首に提げられるタグタイプで,1個あたり780円。」と説明されているので,意匠に係る物品は,「携帯用薬剤拡散袋」であると推認される。
甲2意匠の形態(本件登録意匠の向きに合わせて認定する。)には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
ア 基本的構成態様について
全体が,平面視略横長長方形の略袋状体である。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
イ 具体的態様について
(ア)平面部の形状について
上辺中央付近が緩やかに隆起しており,最大隆起した部分(以下「上辺隆起部」という。)の横幅は上辺全幅の約1/3を占めている。また,上辺寄りには,平面側から袋内に貫通する八個の正円形の孔が横一列に並んで配されており,各孔には,内袋の一部があらわれている。
(イ)平面部の模様について
平面部には,銀色の地色の上に濃紺色又は青色の模様が付されており,略中央に変形六角形の線模様が,その内部に十字形の太い線模様が,それぞれ濃紺色で配されている(以下「略六角形模様」ともいう。)。略六角形模様は,上部の膨らみが小さく,左右の辺が下にいくにつれてやや内側に傾斜している。その略六角形模様の上部の膨らみの位置には,平面部左端寄りから右端寄りにかけて,横帯状で中央下が上向き三角状に切り欠かれた模様(以下「上部略横帯模様」という。)が青色で配され,略六角形模様の下部の膨らみの位置にも,平面部左端寄りから右端寄りにかけて,横帯状で中央上が下向き三角状に切り欠かれた模様(以下「下部略横帯模様」という。)が濃紺色で配されている。上部略横帯模様の縦幅,十字形の線の幅,及び下部略横帯模様の縦幅の比は,約1:2:3である。
また,略六角形模様の左右には余地部があり,左側余地部,略六角形模様,及び右側余地部の横幅の比は,約4:5:4になっており,左側余地部の左上で上部略横帯模様の直下には,三重の青色線から成る全体が略円形の模様が配置され,下部略横帯模様の右端寄りには,地色の模様が描かれている。
(ウ)透明シールについて
平面部に,透明のシールが貼られているかは不明である。
(エ)表面の態様について
表面がアルミコーティングされているかは不明であり,平面部の左右縁部と,底面部の左右縁部に,小格子状の細かい凹凸が形成されているかも不明である。
(オ)底面部の模様について
底面部の模様は不明である。
(2)本件登録意匠と甲2意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠は「携帯用薬剤拡散袋」であり,甲1意匠も「携帯用薬剤拡散袋」と推認されるので,本件登録意匠と甲2意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は共通する。
イ 形態の共通点
両意匠の形態には,以下の基本的構成態様の共通点が認められる。
(ア)基本的構成態様の共通点
全体が,平面視略横長長方形の略袋状体である。
また,以下の具体的態様の共通点が認められる。
(イ)平面部の形状の共通点
外形の上辺中央付近に上辺隆起部があり,その横幅が上辺全幅の約1/3を占めている。また,上辺寄りには,平面側から袋内に貫通する八個の正円形の孔が横一列に並んで配されている。
(ウ)平面部の模様の共通点
平面部には,銀色の地色の上に暗調子の模様が付されており,略中央に略六角形模様が配されて,その上部の膨らみが小さく,左右の辺が下にいくにつれてやや内側に傾斜している。その略六角形模様の上部の膨らみの位置には上部略横帯模様が,下部の膨らみの位置には下部略横帯模様が,平面部左端寄りから右端寄りにかけて配されている。上部略横帯模様の縦幅,十字形の線の幅,及び下部略横帯模様の縦幅の比は,約1:2:3である。そして,上部略横帯模様,略六角形模様,及び下部略横帯模様には,地色ではない色彩が施されており,上部略横帯模様は青色である。
また,略六角形模様の左右には余地部があり,左側余地部,略六角形模様,及び右側余地部の横幅の比は,約4:5:4になっており,左側余地部の左上で上部略横帯模様の直下には,三重の青色線から成る全体が略円形の模様が配置され,下部略横帯模様の右端寄りには,地色の模様が描かれている。
ウ 形態の差異点
一方,両意匠の形態には,以下の差異点が認められる。
(ア)正面及び側面から見た形状の差異点
本件登録意匠では,正面及び側面から見て,端部を除いて少し膨らんだものであるのに対し,甲2意匠では,正面及び側面の形状は不明である。
(イ)平面部の形状の差異点
本件登録意匠では,上辺隆起部中央直下に,上辺隆起部の横幅の約1/3の横幅を有する略横長トラック形状の中央孔部があり,中央やや下の左端寄り及び右端寄りの位置に,平面側から袋内に貫通し,中央孔部の横幅の約1.5倍の横幅を有する略横長トラック形状の左孔部と右孔部が配されている。これに対して,甲2意匠の上辺隆起部の中央には,首掛けストラップの縦長フックが付いているため中央孔部の存在とその形状が不明であり,本件登録意匠に見られる左孔部と右孔部はない。
(ウ)平面部の模様の差異点
略六角形模様及び下部略横帯模様の色彩について,本件登録意匠では青色であるが,甲2意匠では濃紺色である。また,下部略横帯模様の右端寄りに,本件登録意匠では,地色の点線円形の内部に人体を模した模様が地色で描かれ,その人体の胸部に略横長矩形部が小さく青色で描かれているのに対して,甲2意匠では,地色の模様の具体的態様(本件登録意匠の青色の略横長矩形部に相当する部分の態様を含む)は不明である。
(エ)透明シールの有無の差異点
本件登録意匠の平面部には,八個の正円形の孔から左孔部と右孔部までの範囲に,左端中央部に略左向き扁平台形状の突出部が形成された透明のシールが貼られているのに対して,甲2意匠では,透明のシールが貼られているかは不明である。
(オ)表面の態様の差異点
本件登録意匠では,表面がアルミコーティングされているのに対して,甲2意匠では,表面がアルミコーティングされているかは不明である。また,本件登録意匠の正面の左右縁部と,背面の左右縁部に,小格子状の細かい凹凸が形成されているのに対して,甲2意匠の同部位にそのような凹凸が形成されているかは不明である。
(カ)底面部の模様の差異点
本件登録意匠の下辺寄りに,左端寄りから右端寄りにかけて,横帯状で黒色の模様が配されているが,甲2意匠にそれがあるかは不明である。
(3)本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
以上の本件登録意匠と甲2意匠の共通点及び差異点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価して,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。
ア 形態の共通点の評価
先ず,全体が略横長長方形状であって,全幅の約1/3を占める横幅を有する隆起部を上辺に形成して,上辺寄りに八個の正円形の孔を横一列に並べて配した平面部の形状の共通点は,平面部の上部という目に付きやすい部位に関する共通点であり,看者の注意を惹くものであること,そして,八個の正円形孔の列が一定の視覚的印象を与えることから,平面部の形状の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に,平面部の模様の共通点について,平面部略中央に配された略六角形模様は,上下非対称の特徴的な模様を呈しており,看者が特に注視するものであって,その略六角形模様を挟む形で上下に上部略横帯模様と下部略横帯模様が配され,略六角形模様がその上部略横帯模様と下部略横帯模様にくい込む態様は,略六角形模様の左右の余白部の存在と相まって,看者に確たる視覚的印象を与えており,上部略横帯模様の縦幅,十字形の線の幅,及び下部略横帯模様の縦幅の比の共通点と,左側余地部,略六角形模様,及び右側余地部の横幅の比の共通点が,その印象を強固にしているというべきであるから,平面部の模様の共通点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きい。
イ 形態の差異点の評価
これに対して,前記認定した差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,以下のとおり,いずれも小さいものであって,上記共通点が看者に与える美感を覆すほどのものではない。
(ア)正面及び側面から見た形状の差異について
甲第2号証には,甲2意匠の正面視形状と側面視形状はあらわされていないものの,甲2意匠の底面側にもう一つの意匠が重ねられて,甲2意匠とその意匠の二つを片手でつまんで持つ様子があらわされている。その様子から,甲2意匠は厚みの薄いものであると推認できるので,本件登録意匠の少し膨らんだ正面形状及び側面形状と著しく異なる形状を甲2意匠が有しているということはできない。したがって,正面及び側面から見た形状の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
なお,被請求人は,この差異に関して,「甲第2号証には,商品の正面写真が掲載されているのみである。すなわち,この写真からは,背面,底面,上面方向から見たときの形状が不明であり,当該写真からは,商品の立体的形状を容易に理解することができない」旨を主張する。しかし,甲第2号証に記載された説明によれば,甲2意匠は「首に提げられるタグタイプ」であり,タグとは荷札などを意味することから,甲2意匠が薄いものであることが推認でき,少し膨らんだ形状を有する本件登録意匠の正面形状及び側面形状と大きな違いがあるということはできないので,請求人の主張を採用することはできない。
(イ)平面部の形状の差異について
平面部の形状において,上辺隆起部の中央に首掛けストラップの縦長フックが付いているため中央孔部の存在とその形状が不明である甲2意匠と,隆起部中央直下に略横長トラック形状の中央孔部を有する本件登録意匠には差異が認められるが,一般的に首掛けストラップは着脱自在であることから,甲2意匠のフックをとった際には,フックの先端付近に相当する部位(隆起部中央直下)に孔があるものと推認される。そうすると,甲2意匠のその孔の形状は不明であるものの,その孔の位置と大きさについては,フックの先端付近の位置で,フック横幅と同程度の横幅の孔があると推認できるところ,その位置と大きさは,本件登録意匠の中央孔部のそれとそれ程変わりはないものであるというべきである。そして,その孔はストラップのフックを引っ掛けるという機能的なものであって使用時にはフックに隠れることから,その孔の形に特別な装飾が施されることは考え難く,甲2意匠の隆起部中央直下に格別看者の目を惹く孔があるということはできず,また,仮に特異な孔が甲2意匠にあったとしても,それは甲2意匠において特徴的な形状であり,本件登録意匠の中央孔部の形状は略横長トラック形状であるからありふれていることを踏まえると,本件登録意匠の中央孔部と,形状が不明な甲2意匠の孔の差異は,本件登録意匠の甲2意匠に対する差異として評価することはできない。したがって,その差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
次に,本件登録意匠に見られる左孔部と右孔部が,甲2意匠には無いという差異については,本件登録意匠の左孔部と右孔部が意匠全体に占める面積が小さいものであって,かつ中央やや下の左端寄り及び右端寄りというやや目立たない部位に位置していることから,その有無に対して,看者が特に注意を払うとはいい難く,意匠全体から見ると,その有無の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(ウ)平面部の模様の差異について
略六角形模様及び下部略横帯模様の色彩が,本件登録意匠では青色であり,甲2意匠では濃紺色である差異については,青色と濃紺色は,色みが同系であって,濃さが異なるのみであるから,看者に別異の感を抱かせる程のものではなく,共に地色ではない色彩が施された共通点に埋没するというべきであるから,その差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。また,下部略横帯模様の右端寄りにある地色の模様が,本件登録意匠では点線円形の内部に人体を模した模様であり,甲2意匠では模様の具体的態様が不明であるという差異については,その地色の模様の範囲が意匠全体に占める面積が小さいものであるから目立たず,共に地色の模様であるという共通点に埋没する程度の差異であるというべきであるから,その差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(エ)透明シールの有無の差異について
本件登録意匠に貼られている透明のシールが,甲2意匠で貼られているか不明であるとの差異については,そのシールが透明であって目立たず,シール左端中央部の赤色の略左向き扁平台形状突出部についても,意匠全体に占める面積が小さいものであるから看者の目をそれ程惹くものとはいい難いので,透明シールの有無の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(オ)表面の態様の差異について
本件登録意匠に見られるアルミコーティングは,この種包装用袋において他にも見受けられるものであって,看者の注意を惹くものとはいえず,共に地色が銀色であるという共通点に埋没する差異であるともいえるので,アルミコーティングの有無の差異が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。また,本件登録意匠に見られる小格子状の細かい凹凸は,この種包装用袋において縁をヒートシール(加熱溶着)した際にあらわれるごく普通の態様であり,かつ微細なものであって,そのような凹凸が形成されているかが不明である甲2意匠と比較した際に,その凹凸の有無の差異について看者が特に着目するとはいい難いので,その差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(カ)底面部の模様の差異について
本件登録意匠と甲2意匠は,共に「携帯用薬剤拡散袋」であって,平面部に設けられた孔から抗菌や消臭の効力のある薬剤を放出する目的を持つものであるところ,孔を有する平面側がより目立つ部位であること,及び,平面側に商品としての訴求力を高めるための模様等が施されていることから,平面側がこの商品の顔であるということができるので,底面部の態様について看者が殊更注意を払うとはいい難く,横帯状で黒色の模様が配されているか否かの差異は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものではない。
(4)小括
そうすると,両意匠の意匠に係る物品が共通し,両意匠の形態においても,共通点は,看者に対して視覚を通じてまとまった一つの美感を与え,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認められるのに対して,差異点は,いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さく,これらが相まって生じる視覚的効果を考慮しても,共通点が看者に与える美感を覆して,両意匠を別異のものと印象付けるほどのものとはいえないから,本件登録意匠は,甲2意匠に類似するものと認められる。
したがって,本件登録意匠は,意匠登録出願前に日本国内で頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,同項柱書の規定により,意匠登録を受けることができないものであって,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであると,請求人が主張する無効理由(「無効理由1」のうち,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するとの理由)については,理由がある。


第7 むすび
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠登録出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,同項柱書の規定に違背して登録されたものであるから,その登録は,その余の点について審理するまでもなく,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2014-03-31 
出願番号 意願2012-8014(D2012-8014) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (C4)
最終処分 成立 
前審関与審査官 温品 博康 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 橘 崇生
富永 亘
登録日 2012-09-28 
登録番号 意匠登録第1454140号(D1454140) 
代理人 辻田 朋子 
代理人 柿澤 紀世雄 
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