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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立成立) C4 |
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管理番号 | 1291587 |
判定請求番号 | 判定2013-600047 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2013-11-27 |
確定日 | 2014-08-18 |
意匠に係る物品 | 防蛾灯 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1478883号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | イ号図面に示す「防蛾灯」の意匠は,登録第1478883号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨及び理由の要点 1 請求の趣旨 本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,「イ号図面並びにその説明書に示す意匠(当審注:以下「イ号意匠」という。)は登録第1478883号意匠(当審注:以下「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として,次の書類を提出した。 (1)イ号意匠が,請求人の実施に係るものである,との証明に関するもの ア エコテンライトJOY2(当審注:ローマ数字を算用数字に置き換えて表記する。以下同じ。)のカタログ イ 販売状況 (2)本件登録意匠の先行周辺意匠に関するもの ア 公知意匠1:意匠請求人が平成22年8月に市場投入した「エコテンライトP」のカタログ, イ 公知意匠2:意匠請求人が平成24年6月に市場投入した「エコテンライトJOY」のカタログ なお,請求人は,請求の趣旨においてイ号図面の説明書に言及しているが,平成25年11月27付けの意匠判定請求書には同説明書は添付書類にはない。しかし,同請求書第3頁第17行目?第4頁第13行目に,イ号意匠に係る物品の形態の要旨が説明されているので,同説明をイ号図面の説明として取り扱うこととする。 2 判定請求の必要性 請求人は,本件請求に係る「エコテンライトJOY2」(イ号意匠に係る物品)の企画開発並びに販売者である。 イ号意匠に係る物品は,緑色に発光するLEDランプを光源とする防蛾灯であり,請求人が平成22年8月に市場投入した「エコテンライトP」及び平成24年6月に市場投入した「エコテンライトJOY」の意匠に基づいている。 本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)の本件登録意匠(意匠登録第1478883号(D1478883),物品名「モスバリアー」(当審注:この名称は被請求人が提供している商品の名称であり,本件登録意匠の意匠に係る物品は「防蛾灯」である。))は,平成25年8月9日に,意匠登録を取得し,イ号意匠に係る物品が該登録意匠権を侵害するものである旨の通告書を請求人に送付してきた。 そこで,請求人は,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないと思慮するので,特許庁による判定を求める。 3 本件物品(イ号意匠に係る物品)と本件登録意匠との比較説明 (1)イ号意匠と本件登録意匠(以下「両意匠」という。)の共通点 ア 両意匠は,意匠に係る物品が「防蛾灯」で一致している。 イ 基本的な構成態様は,円筒状である。 ウ 具体的構成態様において,円筒状本体部の大部分を占める中央部分において,外部が透明円筒状であり,内部に銀色の四角筒が配置されており,四角筒の各表面には表面に多数のLEDが設置されている。 エ 両意匠とも緑色の光を発光するLEDを光源としている。 (2)両意匠の差異点 ア イ号意匠は,円筒状本体部の径が10とするとそれよりやや径の大きな11程度の径を有し,その高さが全長の約8分の1である,有底円筒状のチャンバーを本体の頂部に被せており,チャンバー上面は緩やかな曲線となっており,全体が郵便ポスト形になっているのに対し, 本件登録意匠が,円筒状本体の径よりやや大きな径の平板平天板で本体頂部を被い,その直下の円筒状部分および最下端部を全長のほぼ8分の1の幅の黒色帯で覆っており,天板が平板であることと上下左右対称であることと相侯って,全体が小田原提灯形である点。 イ 正面図において,イ号意匠は,全長の下方8分の7が円筒状本体部と同じく透明円筒で,その内部が正方形四角筒であり,ほぼ円筒状本体と同じ径の薄い青色底板が設けられているのに対し, 本件登録意匠は,本体下端部を全長の約8分の1.2の幅の黒色帯で被っており,その下端中央部に本体中心と同心の小円筒が少し突出し,その小円筒の左側側部に円筒状の黒色小突出部が設けられている上に上記黒色帯が設けられているために中央円筒部および内部の四角筒部が,イ号意匠と比して太く短く見える点。 ウ 背面図,右側面図,及び左側面図において,正面図と同じく,イ号意匠は,全長の下方8分の7が円筒状本体部と同じく透明円筒で,その内部が正方形四角筒であり,ほぼ円筒状本体と同じ径の薄い青色底板が設けられているのに対し, 本件登録意匠は,全長の約8分の1.2の幅で本体下端部を黒色帯で覆っており,その下端部中央部に本体中心と同心の小円筒が少し突出し,該小円筒の左側側部に円筒状黒色小突出部が設けられており,下端部に上記黒色帯が設けられているために中央円筒部および内部の四角筒部がイ号意匠に比して太く短く見え,その小円筒の,背面図においては右,右側面図においては中央の向こう側,左側面図においては中央手前,に円筒状の黒色小突出部がみえる点。 エ 平面図において,イ号意匠は,青色のドーム状有底円筒キャップの中央の正方形の貫通孔から円筒状本体中央部に配置されている四角筒は,その内面に中心に向かって放射線状に延びる複数の薄型フィンを有しており,そのドーム状有底円筒キャップは正方形の貫通孔の各辺の中央部でワッシャ付きねじを介し四角筒本体に固定されているのに対し, 本件登録意匠は,灰色の薄い円板の中央に前記四角筒の正方形貫通孔があり,その4個の内面は単純平面で構成され,その正方形の貫通孔をまたいでその辺と平行に貫通孔の一辺の長さの約3分の1の幅を持ち且つその長さが前記円板の直径の内側に収まるような長方形に見える溝形横部材が取り付けられており,この溝形横部材はその中央に溝形横部材の幅とほぼ同じ寸法の径を持つボルトヘッドのボルトを介し後記小円筒型に見える下部押さえ板と連結され,また,溝形横部材には,右側に突起物(光センサー撮り付け用),両端近傍に溝形横部材のずれ防止するピン頭が設置されている点。 オ 底面図において,イ号意匠は,円筒状本体部とほぼ同じ径で且つ正方形の切り欠きを持つ青色の底板の中央部に円筒状本体径の約3分の1の径を持つ有底小円筒が円筒状本体部と同心状に設けられており,前記小円筒は,その外径面が前記四角筒内壁から放射線状に設けられた薄型フィンの先端が形成する円に内接し固定されており,更に上記底板および小円筒はこれに取り付けられた4個の突出片を介し正方形切欠きの辺近傍で四角筒本体に共にねじで固定され,正方形の切欠き部の一つの角から上記フィンが形成する空間にLED点灯用の電源線が挿入されているのに対し, 本件登録意匠は,円筒状本体部の底面を覆う薄型円形底板に,黒色小突出部を突出するための穴が正方形貫通孔の一辺と円筒体の左側の間に断面円形に設けられており,更に,底板には正方形貫通孔の各角部に当たる部分に円形状切り欠きが施され,貫通孔と同軸で且つこれにほぼ内接するように前記小円筒が挿通されており,この小円筒は底板から伸びた4箇所の円形切欠き残片部により固定されており,小円筒の頂上部内側には正方形貫通孔の対角に沿って下部押さえ板が取り付けられており,該下部押さえ板の中央に前記平面図の溝形横板から伸びた長いボルトの下端部がナットで全体を挟持固定されており,底板の黒色小突出部のない正方形貫通孔の各辺の中央部には,底板を固定するためのねじがある点。 4 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない理由の説明 そこで,イ号意匠と本件登録意匠の共通点及び差異点を比較検討するに, (1)両意匠の共通点は,基本的な構成態様に係るものであり,具体的構成態様において,円筒状本体部の中央部の8分の6において,外部が透明円筒状であり,内部に銀色の四角筒が配置されており,四角筒の各面には表面に多数のLEDが設置されている点が共通しているが,上記の公知物件1,2(当審注:前記公知意匠1及び公知意匠2のこと。)で明らかなように,かかる内部に銀色の角柱(公知物件1は,四角柱,公知文献2は六角柱)は,従来ありふれた構成であり,格別顕著とは言えず,両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。 (2)両意匠の差異点 上記差異点ア,イ,ウにおいて,イ号意匠は,その縦長さが全長の約8分の1で,円筒状本体部の径が10とするとそれよりやや大きい11の径を持ち,且つその上面が緩やかな曲線を成す有底円筒チャンバーを円筒状本体部の上端に被せており,下端部には円筒本体径とほぼ同径の薄い青色円形底板を有しており,やや頭が大きく上下非対称に見えるので,郵便ポスト型に見えるのに対し, 本件登録意匠は,円筒状本体部より径がやや大きい平板円板と,これに接した円筒状本体部の上端部および下端部を全長のほぼ8分の1?1.2幅の黒色帯で覆っており,ずん胴且つ上下対称に見えるので,小田原提灯型である。その最下端部中央部で小円筒の側部に黒色小突出部が設けられている。 したがって,正面から見ると,イ号意匠は,上下非対称で,郵便ポスト型に見えるのに対し,本件登録意匠が,上下対称でずん胴な円筒状であり,小田原提灯型に見えるので,この点において特別顕著な相違といえ,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。 上記差異点エについて,イ号意匠は,中央を貫通する四角筒正方形内面から中心貫通孔に放射線状に延びた多数の薄板フィンがもうけられているため,LEDによる発熱が効率よくフィンを通し放熱されるため本体部の透明円筒体内部に蓄熱されにくく,LEDの長寿命化に効果を発揮している。 これに対し,本件登録意匠は,中央を貫通する四角筒の内面は平面であり,放熱用のフィンを持たないので,熱が本体部にこもり,透明円筒内部に蓄熱されやすい構造になっており,イ号意匠に比べLEDの寿命に対して不利である。このような構造上の点において特別顕著な相違といえ,類否の判断に大きな影響を与える。 上記差異点オについて,イ号意匠は,四角の切欠き孔を持つ単純な平板底板と有底小円筒は円筒部に取り付けた4個の四角片を介して四角筒本体にねじ止めされている。小円筒は四角筒内壁から放射線状に延び多数のフィンに内接しており安定的に支持されている。この単純な構造により4本の締め付けねじを外すだけで底板および透明円筒体が外れるのでLED取り付け面のメンテナンスが非常に容易である。前記のとおり内面のフィンは放熱効果を高める機能を有している。 これに対して本件登録意匠は,円筒の底面を覆う底板に,通気のための4つの円形に切欠き孔を設けている。この切欠き孔の残片で底板と中央小円筒を繋いでいる複雑な形状である。四角筒内部にフィンがないので上記4つの切欠き孔からの通気だけでは,LEDによる熱が効率よく放熱されにくいことは上記のとおりである。又本体全体が,上部,胴部,下部を繋ぐ1本の貫通ボルト・ナットで締結されているため,内部を点検するためにはこのボルトを外すと装置全体がばらけてしまう。又,構造上下方向に透明外筒を抜き取れない等メンテナンス上煩雑さがある。このような構造上の点において特別顕著な相違といえ,類否の判断に大きな影響を与える。 (3)以上の認定,比較検討を前提として両意匠を全体的に考察すると,共通点は,従来から公知の意匠であり観察者から見て特に強烈にひきつけるものはないのに対し,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響はいずれも,特段顕著なものであり,共通点を凌駕しているものであり,それらが纏まって両意匠の類否の判断に及ぼす影響は甚大で,その結論を左右するものである。 5 むすび したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないので,請求の趣旨どおりの判定を求める。 第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点 1 答弁の趣旨 被請求人は,「イ号図面並びにその説明書に示す意匠は,登録第1478883号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をした。 2 被請求人の主張 (1)判定請求の必要性として記載された請求人・被請求人の両当事者間における通告事件の存在,本件登録意匠の手続経緯,及び本件登録意匠とイ号意匠とがともに意匠に係る物品を「防蛾灯」とする点で一致していることについては,意匠判定請求書記載のとおりである。 (2)請求人は,本件登録意匠とイ号意匠とを対比したうえで,両意匠の共通点は主に基本的構成態様に係るものであるところ,本件登録意匠の出願前の公知意匠1及び2に照らせば,具体的構成態様における共通点とともに従来ありふれた構成であるのに対して,具体的構成態様における相違点は特別顕著なものであって共通点を凌駕するものであり,それらが纏まって両意匠の類否判断に及ぼす影響は甚大であるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない旨を主張している。 しかしながら,請求人の主張は,本件登録意匠に対する誤った要部認定に基づくものであり,イ号意匠との共通点に係る形態が生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと考えられるので,以下に理由を述べる。 (3)本件登録意匠とイ号意匠の共通点と相違点について ア 両意匠は,基本的構成態様において,概ね次の共通点を有している。 (ア)全体形状が略円柱状をしている点 (イ)透明な外円筒内に中空な四角柱状をした基盤が収容されている点 (ウ)平面及び底面の閉塞板には,各々の中央部分に開口が設けられている点 (エ)前記基盤上には複数の発光ダイオード(LED)が配されている点 (オ)底面から電源コードが延設されている点 イ そして,両意匠の具体的構成態様における相違点としては,概ね次の点を挙げることができる。 (A)透明な外円筒について,本件登録意匠では上下両端部に幅広の帯状部が設けられているのに対して,イ号意匠では,そのような帯状部は見られない点 (B)平面側の閉塞板について,本件登録意匠では透明な外円筒に比してやや大径であるが上下方向の厚みは少なく,その頂部は平坦であり,左右方向に架け渡された細幅プレートによって正方形をした開口部が分断されているのに対して,イ号意匠では,透明な外筒に比して大径かつ上下方向に厚みを有しており,頂部に向かって緩やかに膨出した形状であって,前記細幅プレート等は見られず,正方形をした開口が全て露出している点 (C)底面側の閉塞板について,本件登録意匠では,中心から左右斜め対角線上に各々略円形状をした計4つの切り欠きが四葉状に穿設されるとともに,左外縁から内側方向に電源コード基部を避けるように略円形状をした1つの切り欠きが穿設されているのに対し,イ号意匠にはそのような切り欠きはなく,中央に正方形をした開口のみが見られる点 ウ 他方,両意匠の具体的構成態様における共通点としては,次の点を挙げることができる。 (i)略円柱状をした本体の縦横比が,概ね3:1である点 (ii)透明な外円筒と,その内側に収容された四角柱状の基盤の直径(横幅)比が,概ね3:2である点 (iii)基盤上に配置されたLEDが,チップ型(表面実装タイプ)である点 (iv)基盤の各パネルに装着されたLEDの配列が,上下方向に千鳥状4列である点 エ なお,請求人は,本件登録意匠及びイ号意匠につき,各々「小田原提灯形」「郵便ポスト形」といった比喩を用いて表現しているが,ともに現実社会においては多種多様な形状の小田原提灯や郵便ポストが存在しており,定型的・一義的に定まる形状ではないから,些か不適切な表現である。 (4)公知意匠について 「イ号意匠が,請求人の実施に係るものである,との証明に関するもの」と題して提出された「エコテンライトJOY2」のカタログをみると,その表面側中程には,横長長方形枠内に「進化するエコテンライト」と強調記載され,そのすぐ上側には,左から右へ順に「チャカメイエロー」「エコテンライトM」「エコテンライト5」「エコテンライトJOY」なる各商品写真が掲載されて,当該「エコテンライトJOY2」に至る同社商品の変遷が示されているところ,請求人が挙げた公知意匠1「エコテンライトP」は,ここには掲載されていない。 また,公知意匠1「エコテンライトP」の商品カタログには,企画製造・販売元として「山口県宇部市東須恵3095番地」「ざっくうらく株式会社」が記載されているところ,公知意匠2「エコテンライトJOY」の商品力タログに記載された企画製造・販売元である「山口県山陽小野田市西高泊大塚1223番10号」「ざっくうらく株式会社」とは,会社名は一致するものの住所が異なっている。にもかかわらず,両社の電話番号とファクシミリ番号は,市外局番を含めて全く同一表記である。 さらに,公知意匠1「エコテンライトP」の販売状況として提出された各伝票(「エコテンライト依頼書」と題された書面)には,「試験貸与」と記載されているのみであって販売事実があったものとは認められないから,(貸与先に守秘義務があったか等を考慮すると)「エコテンライトP」が公然実施されていたものと断定することはできないし,また,その設置状況を示したとされる複数の写真についても,果たして当時撮影されたものであるかどうか不明である。 また,広島県の森田義明氏からの依頼書には「2012.5.4?使用」と記載されているのに対して,その設置状況写真には「2012.5.14?試験貸与」と記載されている点にも齟齬がある。 したがって,公知意匠1につき提出された資料は,証拠としての信憑性に欠けるという疑念を抱かざるを得ない。 (5)本件登録意匠と公知意匠1及び2について そもそも本件登録意匠に係る物品「防蛾灯」は,通電した本体から発する緑色光によって農作物の害虫たる蛾を忌避するという商品であるから,その商品の機能からすれば,需要者・取引者は,ごく当然に発光部分に注目するはずである。そして,発光部分によって「防蛾灯」の性能が変わることは容易に推測できるから,まずは当該発光部分が細いか太いか,長いか短いか,といった観察から始まり,次いで発光部分に配列されたLEDが大きいか小さいか,LEDが多いか少ないか,LEDが密に並んでいるか疎であるか,といった点に注意が惹き寄せられるはずである。 ここで,公知意匠1において発光部分となる基盤は四角柱状をしており,全体バランスからすると上下方向が極端に長い棒状である。そして,発光体となる個々のLEDは,俗に砲弾型と称される突出レンズ部に2本の端子を備えたリードタイプであって,基盤を構成する各パネル上におけるLEDは縦方向2列に,上下間隔を広く空けて疎らな感じに配置されている。 また,公知意匠2において,発光部分となる基盤は六角柱状をしており,全体バランスからするとやや太く感じる幅広のものである。そして,発光体となる個々のLEDは,やはり俗に砲弾型と称されるリードタイプであって,基盤を構成する各パネル上におけるLEDは概ね縦方向8列に,各々の間隔を狭くぎっしりと密な感じに配置されている。 他方,本件登録意匠において,発光部分となる基盤は四角柱状をしており,全体バランスからするとやや太く感じる幅広のものである。そして,発光体となる個々のLEDは,俗にチップと称される表面実装タイプであって,基盤を構成する各パネル上におけるLEDは,上下方向に千鳥状4列に,各々の間隔をやや広めに配置されている。 (6)本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 以上述べたとおりの本件登録意匠とイ号意匠の一致点,共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。 ア 共通点の評価 まず,基本的構成態様として,略円柱状をした本体において平面及び底面に閉塞板を備え,透明な外円筒内に中空な四角柱状をした基盤が収容されており,該基盤の各パネル上には複数のLEDが配されて,本体底面から電源コードが延設されているという共通点については,基盤が四角柱状である点を除けば,本件登録意匠の出願前の公知意匠2と概ね共通するところであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であることは否めない。また,具体的構成態様における共通点のうち,略円柱状をした本体の縦横比が概ね3:1であり,透明な外円筒と基盤の直径比が概ね3:2であるという点についても,公知意匠2と共通するところであるから,類否判断に及ぼす影響は微弱である。 しかしながら,基盤が中空な四角柱状をしているという基本的構成態様に加え,基盤上に配置されたLEDがチップ型(表面実装タイプ)であること,そして基盤の各パネルに装着されたLEDの配列が上下方向に千鳥状4列であるという具体的構成態様については,両意匠のみに見られる特徴ある態様である。ましてや,前述のように,両意匠に係る物品が一致する「防蛾灯」においては,商品としての性格上,発光部分の形状が需要者・取引者の目を惹く要部となると言えるから,たとえ局部的であるとしても,前記発光部分の中核に関する共通点が両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きい。 なお,請求人は,基盤が四角柱状であるという基本的構成態様については,すでに公知意匠1に見られることを理由に両意匠の類否判断に与える影響は微弱であると主張するが,公知意匠1における基盤は縦横比が概ね11:1と極端に縦方向に長い棒状体であるから,概ね4:1程度の縦横比で,やや太く感じる幅広な基盤を備えた本件登録意匠やイ号意匠とは,印象が顕著に相違しているから参酌されるものではない。 イ 相違点の評価 本件登録意匠とイ号意匠とは,前述の(A)-(C)のような具体的構成態様における相違点がある。 まず,(A)透明な外円筒の上下両端部における幅広帯状部の有無につき,本件登録意匠の上端側については,一見すると,平面側の閉塞板と組み合わせた高さ(厚み)がイ号意匠における厚みのある閉塞板と同等な高さをもって認識されるので,視覚的効果によってさほど明瞭な形状的相違があるとは認めにくいが,下端側については一見してその有無が判別できるほどの差異であると言える。 次に,(B)平面側の閉塞板の具体的形状や,(C)底面側の閉塞板の具体的形状については,様々な相違点が認められるし,中央の開口部から覗き込むと放射状のフィンが見えるかどうかといった差異もある。 しかしながら,この種の「防蛾灯」は,緑色光の発光部分がその性能等を評価するうえで最重要部分となるのであるから,通常,看者は当該発光部分を視認することができる正面側の形状を主に観察し,ひいては通電した発光状態にも注意を払って観察するものと認められる。しかも,イ号意匠に係る商品カタログ裏面側に図示されているように,実際の使用状態にあっては,長尺パイプの先端に据え付けて立設し,地面から2.5mないし5mの高さに設置されるものである。 そうとすれば,平面側及び底面側の閉塞板の具体的形状や,それらの中央開口部から放射状のフィンが覗いて見えるかどうかといった相違点については,ごく近接した状態で観察しなければ判別することができないものであり,とくに農場に設置使用された状態では全く見えなくなってしまう程度のものであるから,看者の注意を惹く特徴とはなり得ず,類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまる。 また,透明な外円筒の下端部における幅広帯状部の有無についても,意匠全体として見た場合には,四角柱状をした基盤上においてチップ型のLEDが上下方向に千鳥状4列に配置されているという前記共通点ほどに印象深いものではないし,とくに設置使用時には遠方から視認しづらいか,あるいは下方から見上げるように観察しても視認しづらい差異であるから,類否判断に及ぼす影響は微弱である。 ウ まとめ 以上検討したとおり,本件登録意匠とイ号意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態についても意匠全体としての美感が共通しているのであって,相違点を総合して相侯った視覚的・意匠的効果を考慮しても,発光部分の基本的・具体的形態における共通点がもたらす視覚的・意匠的効果を凌駕して両意匠に別異の感を生じさせるに至っているとは言えないから,イ号意匠は本件登録意匠に類似しているというほかない。 第3 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1478883号)は,平成25年(2013年)3月27日に意匠登録出願され,平成23年(2013年)8月9日に意匠権の設定の登録がなされ,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「防蛾灯」とし,形態を,願書の記載及び願書に添付された図面代用写真に現されたとおりとしたものである。(別紙第1参照) 本件登録意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様について 全体が,略円柱形状であって,側面部及び背面部の形態は上下端の突出部を除いて正面部の形態と同一であり,透明な円筒部の上下に略円盤状の天板及び底板が接合され,円筒部の内部には,表面に多数のLEDを配した四角柱が設けられたものである。 また,具体的態様として,以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 全体の比率は,縦横比が約13:5である。 イ 天板の厚みは全長の約1/36を占め,底板の厚みは天板の厚みの約1/3(全長の約1/108)である。天板の径は円筒部の径よりごく僅かに大きく,底板の径は円筒部の径とほぼ同じである。 ウ 円筒部の上端寄り約1/8の部分に黒色の帯部(以下「上側帯部」という。)が透明な円筒部の内側に配されており,円筒部の下端寄り約1/6の部分にも,黒色の帯部(以下「下側帯部」という。)が透明な円筒部の内側に配されている。円筒部内の上側帯部下端の位置に天井面が形成され,下側帯部上端の位置に床面が形成されて,四角柱がその両方の面に挟まれて設けられている。 エ 正面から見た四角柱の幅は,円筒部の幅の約3/5であり,正面視略小矩形状でごく僅かに厚みのあるLEDが縦に2列,それぞれ千鳥状に配されている。 オ 平面部の形状について,中央に略正方形の貫通孔があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合は約5/11である。貫通孔を横切るように,側面視略倒縦長コ字状で平面視横長矩形状の連結部材が配されており,その幅は平面部の径より僅かに小さく表され,中央にはボルトが挿入されている。 カ 底面部の形状について,中央に略正方形の貫通孔があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合は約3/6である。貫通孔の内側に,一辺の長さよりも径の小さい小円筒部が設けられ,その上下左右は,底板の貫通孔の隅部に相当する部位を略円形状に切り欠いた際に形成された突出片によって固定されている。小円筒部の内側には,上記ボルトと結ばれるナットが,斜め状に配された底面視略横長矩形状の接合片を介して表されている。また,底面部左側の底板が略倒U字形状に切り欠かれ,その切り欠きの内側に略円形状の電源コード用キャップが設けられている。正面,背面及び側面から見て,小円筒部の下部と電源コード用キャップは下方に突出しており,電源コード用キャップの突出の度合いは,小円筒部の下部のそれよりも大きい。 2 イ号意匠 請求人は,イ号意匠の形態を特定するにあたり,意匠判定請求書の添付書類として,「イ号図面」を提出した。(別紙第2参照) 意匠判定請求書第3頁第17行目?第4頁第13行目の記載によれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「防蛾灯」である。 イ号意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様 全体が,略円柱形状であって,側面部及び背面部の形態は上下端の突出部を除いて正面部の形態(上端寄りの緑色の横長矩形部を除く。)と同一であり,透明な円筒部の上部に厚みの大きい天部が設けられ,円筒部の下部には略円盤状の底板が接合されて,円筒部の内部には,表面に多数のLEDを配した四角柱が設けられたものである。 また,具体的態様として,以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 全体の比率は,縦横比が約13:5である。 イ 天部の厚みは全長の約1/8を占め,底板の厚みは天部の厚みの約1/4(全長の約1/32)である。天部の最大径は円筒部の径の約1.1倍であり,底板の径は円筒部の径とほぼ同じである。また,底板の周縁は上下段状に形成されており,僅かに縮径した周縁上側に円筒部の下端が嵌合されて,周縁下側の側面が円筒部と面一致状に表されている。 ウ 天部の形態について,上面が凸曲面状に緩やかに膨出し,正面中央に,商品名を表すための緑色の横長矩形状部が配されている。また,天部下端の周縁は上下段状に形成されており,下端周縁下側が上側よりも僅かに縮径し,その下に,下端周縁下側よりも僅かに縮径した円筒部が連なっている。 エ 正面から見た四角柱の幅は,円筒部の幅の約3/5であり,正面視略小矩形状でごく僅かに厚みのあるLEDが,上から横方向四つ,三つ,四つ,二つの順で配されており,この数配列があと2回繰り返されている。また,四角柱は,天部の底面と底板の上面に挟まれて設けられている。 オ 平面部の形状について,中央に略正方形の開口部があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合は約5/13である。開口部の四辺の中央が内側に張り出されてねじ部が設けられており,開口部の内側には中心に向かって放射線状に伸びたフィンが複数個表されている。 カ 底面部の形状について,中央に略正方形の開口部があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合は約3/7である。開口部の内側に,一辺の長さよりも径の小さい小円筒部が設けられ,その上下左右から張り出された突出片をねじ止めすることによって底板と連結されている。小円筒部の内側の奥は塞がれており,外側にはフィンが複数個設けられて,周囲に広がるように放射線状に伸びている。また,開口部の右上隅から電源コードが延出している。正面,背面及び側面から見て,小円筒部の下部と電源コードは下方に突出している。 3 本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠は「防蛾灯」であり,イ号意匠も「防蛾灯」であるので,両意匠の意匠に係る物品は同一である。 (2)形態の共通点 両意匠の形態には,以下の基本的構成態様の共通点が認められる。 ア 基本的構成態様の共通点 全体が,略円柱形状であって,側面部及び背面部の形態は上下端の突出部を除いて正面部の形態(イ号意匠では上端寄りの緑色の横長矩形部を除く。)と同一であり,透明な円筒部の下部に略円盤状の底板が接合され,円筒部の内部には,表面に多数のLEDを配した四角柱が設けられたものである。 また,以下の具体的態様の共通点が認められる。 イ 全体の比率の共通点 全体の比率は,縦横比が約13:5である。 ウ 底板の径についての共通点 底板の径は円筒部の径とほぼ同じである。 エ 四角柱についての共通点 正面から見た四角柱の幅は,円筒部の幅の約3/5であり,正面視略小矩形状でごく僅かに厚みのあるLEDが配されている。 オ 平面部の形状についての共通点 中央に設けられた貫通孔(イ号意匠では開口部)の形状が略正方形である。 カ 底面部の形状についての共通点 中央に設けられた貫通孔(イ号意匠では開口部)の形状が略正方形であり,その内側に,一辺の長さよりも径の小さい小円筒部が設けられている。正面,背面及び側面から見て,小円筒部の下部が下方に突出している。 (3)形態の差異点 一方,両意匠の形態には,以下の基本的構成態様の差異点が認められる。 ア 基本的構成態様の差異点 本件登録意匠では,透明な円筒部の上部に略円盤状の天板が接合されているのに対して,イ号意匠では,透明な円筒部の上部に厚みの大きい天部が設けられている。 また,以下の具体的態様の差異点が認められる。 イ 天板(本件登録意匠)と天部(イ号意匠)の形態の差異点 本件登録意匠では,天板の厚みが全長の約1/36を占め,天板の径は円筒部の径よりごく僅かに大きいのに対して,イ号意匠では,天部の厚みが全長の約1/8を占め,天部の最大径は円筒部の径の約1.1倍である。 また,イ号意匠の天部にのみ見られる形態の差異点として,上面が凸曲面状に緩やかに膨出している点,正面中央に,商品名を表すための緑色の横長矩形状部が配されている点,天部下端の周縁が上下段状に形成されており,下端周縁下側が上側よりも僅かに縮径し,その下に,下端周縁下側よりも僅かに縮径した円筒部が連なっている点,が挙げられる。 ウ 底板の形状についての差異点 イ号意匠の底板の厚みは,本件登録意匠のそれよりも大きい。また,イ号意匠の底板にのみ見られる形状の差異点として,底板の周縁が上下段状に形成されており,僅かに縮径した周縁上側に円筒部の下端が嵌合されて,周縁下側の側面が円筒部と面一致状に表されている点,が挙げられる。 エ 上側帯部及び下側帯部の有無の差異点 本件登録意匠では,円筒部の上端寄り約1/8の部分に黒色の上側帯部が透明な円筒部の内側に配され,円筒部の下端寄り約1/6の部分にも黒色の下側帯部が透明な円筒部の内側に配されており,円筒部内の上側帯部下端の位置に天井面が形成され,下側帯部上端の位置に床面が形成されて,四角柱がその両方の面に挟まれて設けられているのに対して,イ号意匠では,そのような上側帯部,下側帯部,天井面及び床面はなく,四角柱が天部の底面と底板の上面に挟まれて設けられている。 オ LEDの配列についての差異点 本件登録意匠では,四角柱の正面に,LEDが縦に2列,それぞれ千鳥状に配されているのに対して,イ号意匠では,上から横方向四つ,三つ,四つ,二つの順で配されており,この数配列があと2回繰り返されている。 カ 平面部の形状についての差異点 本件登録意匠では,中央に貫通孔があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合が約5/11であって,貫通孔を横切るように側面視略倒縦長コ字状で平面視横長矩形状の連結部材が配されて,その幅は平面部の径より僅かに小さく表され,中央にはボルトが挿入されているのに対して,イ号意匠では,中央に開口部があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合が約5/13であって,開口部の四辺の中央が内側に張り出されてねじ部が設けられており,開口部の内側には中心に向かって放射線状に伸びたフィンが複数個配されている。 キ 底面部の形状についての差異点 本件登録意匠では,中央に貫通孔があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合が約3/6であって,小円筒部の上下左右が,底板の貫通孔の隅部に相当する部位を略円形状に切り欠いた際に形成された突出片によって固定されており,小円筒部の内側には,上記ボルトと結ばれるナットが,斜め状に配された底面視略横長矩形状の接合片を介して表され,また,底面部左側の底板が略倒U字形状に切り欠かれて内側に略円形状の電源コード用キャップが設けられ,該キャップが小円筒部の下部よりも下方に突出している。 これに対して,イ号意匠では,中央に開口部があり,その一辺の長さの平面部の径に占める割合が約3/7であって,小円筒部は,上下左右から張り出された突出片がねじ止めされて底板と連結されており,小円筒部の内側の奥が塞がれて,その外側には複数個のフィンが周囲に広がるように放射線状に伸び,管状の電源コードが開口部の右上隅から延出している。 4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 以上の本件登録意匠とイ号意匠の形態の共通点及び差異点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価して,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。 (1)形態の共通点の評価 本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様の共通点のうち,「全体が略円柱形状であって,透明な円筒部の下部に略円盤状の底板が接合され,円筒部の内部には,表面に多数のLEDを配した角柱が設けられた」態様については,意匠判定請求書において本件登録意匠の先行周辺意匠として示された「公知意匠2」(別紙第3参照)により,本件登録意匠の出願前に公知となっていることから,その態様は本件登録意匠にのみ見られる特徴とはいえず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 そして,側面部及び背面部の形態が上下端の突出部を除いて正面部の形態と同一である共通点については,防蛾灯が略円柱形状であって,周囲全方位を照らすことが目的であることを鑑みれば,四面が同一であることは当然というべきであるから,この共通点は殊更評価できず,また,円筒部の内部にある角柱が四角柱である共通点についても,上記「公知意匠2」の角柱が六角柱であることを踏まえると,六角柱と四角柱は共に角柱であることから,看者が両意匠の四角柱に対して特に注視して,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということはできない。 被請求人は,この四角柱について,両意匠にのみ見られる特徴ある態様であり,両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きい旨主張するが,仮に四角柱を内部に有する防蛾灯が本件登録意匠の出願前に公知となっていなかったとしても,両意匠の四角柱は防蛾灯の円筒部内にあって比較的目立たないことから,以下に述べる両意匠の差異点を凌駕して,両意匠を全体として見たときに看者に対して両意匠の視覚的印象を同一とする程の要素であるとまではいい難いので,被請求人の主張を採用することはできない。 次に,本件登録意匠とイ号意匠の具体的態様の共通点である,全体の比率が縦横比が約13:5である点,及び底板の径が円筒部の径とほぼ同じである点については,両意匠の類否判断を決定づけるものではなく,四角柱の幅が円筒部の幅の約3/5である点,及びLEDが正面視略小矩形状でごく僅かに厚みがある点についても,上述のとおり,その共通点を含めて両意匠の四角柱の共通点が視覚的印象を同一とする程とはいい難い。 また,平面部の中央に設けられた貫通孔(イ号意匠では開口部)の形状が略正方形である共通点,及び底面部の中央に設けられた貫通孔(イ号意匠では開口部)の形状が略正方形であり,その内側に,一辺の長さよりも径の小さい小円筒部が設けられて,その下部が下方に突出している共通点についても,貫通孔や開口部が,LEDによる発熱を抑制するものであって,底面部の小円筒部も,公知意匠2についての説明(別紙第3参照)によれば,支柱を嵌合するためのものであると推認されることから,貫通孔や開口部と小円筒部が両意匠のような防蛾灯に不可欠な要素であることを踏まえると,これらの要素が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 被請求人は,四角柱が中空であり,LEDの配列が上下方向に千鳥状4列である具体的構成態様の共通点が両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きい旨を主張するが,四角柱が中空である共通点は上述のとおり両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さく,イ号意匠のLEDの配列は,前記認定したとおり一見して千鳥状とはいえないものであって,両意匠のLEDの配列は差異点オとして認められることから,被請求人の主張を採用することはできない。 (2)形態の差異点の評価 これに対し,差異点アの基本的構成態様の差異は,一見して把握できる両意匠の差異であって,イ号意匠の厚みの大きい天部の存在は看者の目に付くものであり,差異点イの天部の最大径が円筒部の径の約1.1倍である点と,イ号意匠に見られる上面の膨出と,正面中央の横長矩形状部の存在とあいまって,看者に異なる印象を与えるものであるというべきであるから,差異点ア及びイが,イ号意匠の本件登録意匠に対する差異として両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。 被請求人は,平面側の閉塞板の具体的形状について,「ごく近接した状態で観察しなければ判別することができないものであり,とくに農場に設置使用された状態では全く見えなくなってしまう程度のものであるから,看者の注意を惹く特徴とはなり得ず,類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまる。」と主張するが,防蛾灯の取引者(流通業者や設置を担当する工事業者)は,両意匠を手にとって観察するところ,意匠法第24条第2項に規定する「需要者」には取引者が含まれると解されていることから,該主張を採用することはできない。 次に,差異点エの上側帯部及び下側帯部の有無の差異については,円筒部の上下という看者の注意を惹く部分に関する差異であって,本件登録意匠に見られる上側帯部及び下側帯部の幅は,それぞれ円筒部の約1/8,約1/6を占めることから,それが存在しないイ号意匠と比較した際に看者に別異の印象を与えるものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。また,上側帯部及び下側帯部は共に黒色であって円筒部に占める割合もほぼ等しいことから,本件登録意匠の天板と底板が薄いこととあいまって,本件登録意匠が略上下対称状に看取できるところ,イ号意匠で,厚みが大きく径が太い天部が上部にあることによって上下非対称であることが明らかであるから,両意匠の視覚的印象は全く異なるというべきである。 この点について,請求人は,「イ号意匠は,上下非対称で,郵便ポスト型に見えるのに対し,登録意匠が,上下対称でずん胴な円筒状であり,小田原提灯型に見えるので,この点において特別顕著な相違といえ,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。」と主張し,これに対して,被請求人は,「ともに現実社会においては多種多様な形状の小田原提灯や郵便ポストが存在しており,定型的・一義的に定まる形状ではないから,些か不適切な表現である。」と指摘するが,請求人は,上述したように,イ号意匠が上下非対称に見えるのに対して,本件登録意匠がそのようには見えない例として「郵便ポスト」と「小田原提灯」を比喩として用いたのであるから,請求人の主張は妥当であり,上下非対称であるか否かが両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすとの請求人の主張は首肯できるものである。 また,被請求人は,イ号意匠の上部の天部について,「透明な外円筒の上下両端部における幅広帯状部の有無につき,本件登録意匠の上端側については,一見すると,平面側の閉塞板と組み合わせた高さ(厚み)がイ号意匠における厚みのある閉塞板と同等な高さをもって認識されるので,視覚的効果によってさほど明瞭な形状的相違があるとは認めにくい」旨主張するが,前記認定したとおり,本件登録意匠の上側帯部は透明な円筒部の内側に配されているのであって,円筒部よりも径が大きいイ号意匠の天部とは明らかに形状が異なることから,本件登録意匠の天板+上側帯部とイ号意匠の天部を共通の要素として比較することは困難であるから,被請求人の主張を採用することはできない。 そして,差異点オのLEDの配列についての差異は,防蛾灯において発光部分の形状は取引者の目を惹く部分であって,このことは被請求人も答弁で首肯しているとおりであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。 同様に,差異点カ及び差異点キで述べた貫通孔や開口部の相対的な大きさの違いや,固定方法の違い(本件登録意匠では連結部材と突出片,イ号意匠ではねじ止め。),及びフィンの有無の差異も,防蛾灯の取引者が注意を払う部分であることから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。 一方,差異点ウの底板の形状についての差異は,防蛾灯の下端という目立たない部位に関する差異であり,また,電源コード用キャップと電源コードの位置及び形状の差異も同様であるから,これらの差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 (3)小括 したがって,これらの共通点と差異点を総合して判断すれば,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品は同一であるが,形態については,両意匠の共通点が類否判断に与える影響が限定的であるのに対して,差異点は両意匠を別異なものと印象付けるような大きな影響を及ぼすものであり,両意匠は類似するとはいえない。 第4 むすび 以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2014-08-04 |
出願番号 | 意願2013-6768(D2013-6768) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZA
(C4)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 宏幸 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
小林 裕和 綿貫 浩一 |
登録日 | 2013-08-09 |
登録番号 | 意匠登録第1478883号(D1478883) |
代理人 | 和泉 等 |
代理人 | 森 寿夫 |