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審決分類 審判    B5
管理番号 1292719 
審判番号 無効2012-880011
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-10-31 
確定日 2014-09-08 
意匠に係る物品 履物用台 
事件の表示 上記当事者間の登録第1387970号「履物用台」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立て及び理由
1.請求の趣旨
(1)登録第1387970号意匠の登録を無効とする
(2)審判費用は被請求人の負担とする
との審決を求める。

2.請求の理由
(1)本件登録意匠
意匠登録第1387970号
意匠に係る物品「履物用台」(甲第1号証及び甲第2号証参照)

(2)手続きの経緯
出願 平成21年7月16日
登録 平成22年4月16日
意匠公報発行 平成22年5月24日

(3)無効審判請求の要点
登録第1387970号意匠(以下,「本件登録意匠」と称する)は出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠であるため,意匠法第3条第1項第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,また,本件登録意匠は出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠に類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,更に,本件登録意匠は出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公然知られた意匠である甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたので,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

(4)本件登録意匠を無効とすべきである理由
ア-1 本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,甲第2号証である意匠登録第1387970号の意匠公報に記載のとおり,意匠登録に係る物品を「履物用台」とし,その形態は,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材の側面は中央部分の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっているものである。
また,本件登録意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
(ア)外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている。
(イ)外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている。
(ウ)外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが穏やかになるように形成されている。
(エ)外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている。
(オ)外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている。
(カ)外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている。
(キ)外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている。
(ク)外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した溝と繋がっている。

ア-2 公知意匠が存在する事実及び証拠の証明
(ア)甲第3号証について
甲第3号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2009年6月22日に投稿されたレビューが掲載された楽天の物販サイトのページの写しである。また,サイトにて製品の販売を行っているのは「シューブレイク」なる販売店である。甲第3号証第1頁の下から2番目のレビューの投稿日が2009年6月22日になっていることから,本件登録意匠の出願前に,甲第3号証に記載された「サンダル」が販売されていたことが明らかである。
なお,甲第3号証は,第1頁目?第3頁目が楽天の物販サイトのレビューページであり,第4頁目?第14頁目が販売店「シューブレイク」の商品紹介ページになっている。第1頁目の上部のサンダルの写真と,第5頁目の下部のサンダルの写真は同一のものであることから,第1頁目?第3頁目のレビューのページが,第4頁目?第14頁目で紹介されたサンダルについてのものであることは明らかである。
甲3号証の「サンダル」に係る意匠について,その形態は,第5頁目?第8頁目,第11頁目の写真に示されているように,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状となっているものである。
また,甲第3号証に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
a 第5頁目?第7頁目,第10頁目,第11頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている。
b 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている。
c 第7頁目,第11頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている。
d 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている。
e 第5頁目?第7頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている。
f 第8頁目の写真に示されているように,外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている。
g 外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている。
h 外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている。

(イ)甲第4号証について
甲第4号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2009年5月20日に投稿されたレビューが掲載された楽天の物販サイトのページの写しである。また,サイトにて製品の販売を行っているのは「PennePenne」なる販売店である。甲第4号証第4頁目の2件目のレビューの投稿日が2009年5月20日になっていることから,本件登録意匠の出願前に,甲第4号証に記載された「サンダル」が販売されていたことが明らかである。
甲第4号証の「サンダル」に係る意匠について,その形態は,第2頁目?第4頁目の写真に示されているように,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっているものである。
また,甲第4号証に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
a 第3頁目,第4頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている。
b 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている。
c 外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている。
d 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている。
e 第2頁目,第3頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている。
f 第3頁目の写真に示されているように,外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている。
g 第3頁目,第4頁目の写真に示されているように,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている。
h 外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている。

(ウ)甲第5号証について
甲第5号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2009年7月8日及び7月10日の記事が掲載された「日本一効率的な商品企画会社のブログ」なるタイトルのページの写しである。
なお,甲第5号証は,第2頁目?第4頁目までが2009年7月10日の記事であり,第7頁目が2009年7月8日の記事になっている。
甲第5号証には,「サンダル」に係る意匠が記載されており,その形態は,第4頁目の写真に示されているように,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっているものである。
また,甲第5号証に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
a 第4頁目の写真に示されているように,外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている。
b 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている。

(エ)甲第6号証について
甲第6号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2009年6月14日の記事が掲載された「【店長日記】浜松デザイン家具,雑貨のインテリアショップ」なるタイトルのページの写しである。
甲第6号証には,「サンダル」に係る意匠が記載されており,その形態は,第1頁目,第2頁目の写真に示されているように,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっているものである。
また,甲第6号証に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
a 第1頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている。
b 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている。
c 外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている。
d 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている。

(オ)甲第7号証について
甲第7号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2009年6月23日の記事が掲載された「印 LADY’S BLOG」なるタイトルのページ写しである。
甲第7号証には,「サンダル」に係る意匠が記載されており,その形態は,第1頁目の写真に示されているように,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっているものである。
また,甲第7号証に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
a 第1頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている。

(カ)甲第8号証について
甲第8号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2009年7月10日及び2009年5月25日に投稿されたレビューが掲載された楽天の物販サイトのページの写しである。また,サイトにて製品の販売を行っているのは「02BRAND ゼロツーブランド」なる販売店である。甲第8号証第1頁の中段のレビューの投稿日が2009年7月10日であり,第2頁目の最上段のレビューの投稿日が2009年5月25日になっていることから,本件登録意匠の出願前に,甲第8号証に記載された「サンダル」が販売されていたことが明らかである。
なお,甲第8号証は,第1頁目?第4頁目が楽天の物販サイトのレビューページであり,第5頁目?第16頁目が販売店「02BRAND ゼロツーブランド」の商品紹介ページになっている。第1頁目の上部のサンダルの写真と,第6頁目の中段のサンダルの写真は同一のものであることから,第1頁目?第4頁目のレビューのページが,第5頁目?第16頁目で紹介されたサンダルについてのものであることは明らかである。
甲8号証の「サンダル」に係る意匠について,その形態は,第6頁目?第8頁目,第10頁目の写真に示されているように,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状となっているものである。
また,甲第8号証に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
a 第7頁目,第8頁目,第10頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている。
b 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている。
c 第8頁目,第10頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている。
d 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている。
e 第6頁目,第8頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている。

(キ)甲第9号証について
甲第9号証は,本件登録意匠の出願前,即ち2009年5月21日の記事が掲載された「DOGUYA TERASHIMA」なるタイトルのページの写しである。
なお,甲第9号証の第2頁目上部に掲載の写真は,甲第8号証の第7頁目及び第8頁目に掲載の写真と同じものであることを付言する。
甲9号証には,「サンダル」に係る意匠が記載されており,その形態は,第1頁目,第2頁目の写真に示されているように,基本的構成態様が,平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状となっているものである。
また,甲第9号証に記載された意匠は,具体的構成態様が以下のとおりである。
a 第2頁目の写真に示されているように,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている。
b 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている。

ア-3 本件登録意匠と公知意匠との対比
本件登録意匠に係る物品は「履物用台」であり,甲第3号証ないし甲第9号証に記載の意匠に係る物品は「サンダル」であり,どちらも履物であることから,用途及び機能が同一であって同一物品であると言える。

ア-3-1 本件登録意匠と公知意匠(甲第3号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第3号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)両意匠の共通点
基本的構成態様につき,
a 平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点,
各部の具体的構成態様につき,
b 外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,
c 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,
d 外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,
e 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている点,
f 外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,
g 外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,
h 外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,
i 外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点,
において共通する。
(イ)両意匠の差異点
j 本件登録意匠は内側部材と外側部材で構成されるのに対して,甲第3号証に記載の意匠には内側部材と外側部材に加えて足を固定するためのベルトが配置されている点で両意匠は相違する。

ア-3-2 本件登録意匠と公知意匠(甲第4号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第4号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)両意匠の共通点
基本的構成態様につき,
a 平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点,
各部の具体的構成態様につき,
b 外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,
c 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,
d 外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,
e 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている点,
f 外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,
g 外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,
h 外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,
i 外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点,
において共通する。
(イ)両意匠の差異点
j 本件登録意匠は内側部材と外側部材で構成されるのに対して,甲第4号証に記載の意匠には内側部材と外側部材に加えて足を固定するためのベルトが配置されている点で両意匠は相違する。

ア-3-3 本件登録意匠と公知意匠(甲第5号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第5号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)両意匠の共通点
基本的構成態様につき,
a 平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点,
各部の具体的構成態様につき,
b 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,
c 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている点,
において共通する。
(イ)両意匠の差異点
d 本件登録意匠は内側部材と外側部材で構成されるのに対して,甲第5号証に記載の意匠には内側部材と外側部材に加えて足を固定するためのベルトが配置されている点,
e 本件登録意匠は外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられているのに対して,甲第5号証に記載の意匠には先端部の側面に設けられた略直線の溝が確認できない点,
f 本件登録意匠は外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されているのに対して,甲第5号証に記載の意匠では先端部の上部と底部の丸みの曲率が確認できない点,
g 本件登録意匠は外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第5号証に記載の意匠には外側部材の先端部の正面の溝が確認できない点,
h 本件登録意匠は外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第5号証に記載の意匠には外側部材の後端部の正面の溝が確認できない点,
i 本件登録意匠は外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっているのに対して,甲第5号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
で両意匠は相違する。

ア-3-4 本件登録意匠と公知意匠(甲第6号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第6号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)両意匠の共通点
基本的構成態様につき,
a 平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点,
各部の具体的構成態様につき,
b 外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,
c 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,
d 外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,
e 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている点,
において共通する。
(イ)両意匠の差異点
f 本件登録意匠は内側部材と外側部材で構成されるのに対して,甲第6号証に記載の意匠には内側部材と外側部材に加えて足を固定するためのベルトが配置されている点,
g 本件登録意匠は外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられているのに対して,甲第6号証に記載の意匠には先端部の側面に設けられた略直線の溝が確認できない点,
h 本件登録意匠は外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されているのに対して,甲第6号証に記載の意匠では先端部の上部と底部の丸みの曲率が確認できない点,
i 本件登録意匠は外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第6号証に記載の意匠には外側部材の先端部の正面の溝が確認できない点,
j 本件登録意匠は外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第6号証に記載の意匠には外側部材の後端部の正面の溝が確認できない点,
k 本件登録意匠は外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっているのに対して,甲第6号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
で両意匠は相違する。

ア-3-5本件登録意匠と公知意匠(甲第7号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第7号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)両意匠の共通点
基本的構成態様につき,
a 平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点,
各部の具体的構成態様につき,
b 外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,
において共通する。
(イ)両意匠の差異点
c 本件登録意匠は内側部材と外側部材で構成されるのに対して,甲第7号証に記載の意匠には内側部材と外側部材に加えて足を固定するためのベルトが配置されている点,
d 本件登録意匠は外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられているのに対して,甲第7号証に記載の意匠には先端部の側面に設けられた略直線の溝が確認できない点,
e 本件登録意匠は外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられているのに対して,甲第7号証に記載の意匠には外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が確認できない点,
f 本件登録意匠は外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されているのに対して,甲第7号証に記載の意匠では先端部の上部と底部の丸みの曲率が確認できない点,
g 本件登録意匠は外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されているのに対して,甲第7号証に記載の意匠には外側部材の後端部の丸みが確認できない点,
h 本件登録意匠は外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第7号証に記載の意匠には外側部材の後端部の正面の溝が確認できない点,
i 本件登録意匠は外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されているのに対して,甲第7号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
j 本件登録意匠は外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっているのに対して,甲第7号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
で両意匠は相違する。

ア-3-6 本件登録意匠と公知意匠(甲第8号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第8号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)両意匠の共通点
基本的構成態様につき,
a 平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点,
各部の具体的構成態様につき,
b 外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,
c 外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,
d 外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,
e 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている点,
f 外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,
において共通する。
(イ)両意匠の差異点
g 本件登録意匠は内側部材と外側部材で構成されるのに対して,甲第8号証に記載の意匠には内側部材と外側部材に加えて足を固定するためのベルトが配置されている点,
h 本件登録意匠は外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第8号証に記載の意匠には外側部材の後端部の正面の溝が確認できない点,
i 本件登録意匠は外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されているのに対して,甲第8号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
j 本件登録意匠は外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっているのに対して,甲第8号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
で両意匠は相違する。

ア-3-7 本件登録意匠と公知意匠(甲第9号証)の形態の対比
本件登録意匠と甲第9号証の公知意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)両意匠の共通点
基本的構成態様につき,
a 平面に形成された内側部材と,内側部材の外周を覆う外側部材で構成され,外側部材は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点,
各部の具体的構成態様につき,
b 外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,
c 外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている点,
において共通する。
(イ)両意匠の差異点
d 本件登録意匠は内側部材と外側部材で構成されるのに対して,甲第9号証に記載の意匠には内側部材と外側部材に加えて足を固定するためのベルトが配置されている点,
e 本件登録意匠は外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられているのに対して,甲第9号証に記載の意匠には先端部の側面に設けられた略直線の溝が確認できない点,
f 本件登録意匠は外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられているのに対して,甲第9号証に記載の意匠には外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が確認できない点,
g 本件登録意匠は外側部材の先端部の正面に溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第9号証に記載の意匠には外側部材の先端部の正面の溝が確認できない点,
h 本件登録意匠は外側部材の後端部の正面に溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっているのに対して,甲第9号証に記載の意匠には外側部材の後端部の正面の溝が確認できない点,
i 本件登録意匠は外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されているのに対して,甲第9号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
j 本件登録意匠は外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっているのに対して,甲第9号証に記載の意匠では外側部材の底面が確認できない点,
で両意匠は相違する。

ア-4 本件登録意匠と公知意匠との類否

ア-4-1 本件登録意匠と公知意匠(甲第3号証)との類否
本件登録意匠と甲第3号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,その使用に際して,使用者の足を内側部材の上に乗せ,履いて使うものであることから,両意匠の側面からの形態が意匠の要部を構成するものであり,本件登録意匠の正面図及び背面図と,甲第3号証の第5頁目?第8頁目,第11頁目の写真に示されていますように,両意匠は平面に形成された内側部材と内側部材の外周を覆う外側部材で構成される点,両意匠の外側部材の側面は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,そして,外側部材の後端部の丸みは,上部から底面にかけて略均等な曲率で形成されている点が共通しており,両意匠の側面における具体的構成態様も共通している。このような基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は類否の判断に大きな影響を与えるものである。
これに加えて,両意匠は,外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,そして,外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点で共通しており,このような先端部や後端部の溝の形状や,底面の外観も両意匠の類否の判断に影響を与えるものである。
一方,両意匠の差異点である,足を固定するためのベルトは外側部材の附属物に過ぎず,様々な形状が考えられることから,特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえないので,本件登録意匠は,実質的に甲第3号証に記載の意匠であり,また,甲第3号証に記載の意匠に類似するものであり,更に,本件登録意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,公然知られた意匠である甲第3号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。

ア-4-2 本件登録意匠と公知意匠(甲第4号証)との類否
本件登録意匠と甲第4号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,その使用に際して,使用者の足を内側部材の上に乗せ,履いて使うものであることから,両意匠の側面からの形態が意匠の要部を構成するものであり,本件登録意匠の正面図及び背面図と,甲第4号証の第3頁目及び第4頁目の写真に示されているように,両意匠は平面に形成された内側部材と内側部材の外周を覆う外側部材で構成される点,両意匠の外側部材の側面は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,そして,外側部材の後端部の丸みは,上部から底面にかけて略均等な曲率で形成されている点が共通しており,両意匠の側面における具体的構成態様も共通している。このような基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は類否の判断に大きな影響を与えるものである。
これに加えて,両意匠は,外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,そして,外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点で共通しており,このような先端部や後端部の溝の形状や,底面の外観も両意匠の類否の判断に影響を与えるものである。
一方,両意匠の差異点である,足を固定するためのベルトは外側部材の附属物に過ぎず,様々な形状が考えられることから,特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえないので,本件登録意匠は,実質的に甲第4号証に記載の意匠であり,また,甲第4号証に記載の意匠に類似するものであり,更に,本件登録意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,公然知られた意匠である甲第4号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。

ア-4-3 本件登録意匠と公知意匠(甲第5号証)との類否
本件登録意匠と甲第5号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,その使用に際して,使用者の足を内側部材の上に乗せ,履いて使うものであることから,両意匠の側面からの形態が意匠の要部を構成するものであり,本件登録意匠の正面図及び背面図と,甲第5号証の第3頁目及び第4頁目の写真に示されているように,両意匠は平面に形成された内側部材と内側部材の外周を覆う外側部材で構成される点,両意匠の外側部材の側面は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点及び外側部材の後端部の丸みは,上部から底面にかけて略均等な曲率で形成されている点が共通しており,両意匠の側面における具体的構成態様も共通している。このような基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は類否の判断に大きな影響を与えるものである。
一方,両意匠の差異点である,足を固定するためのベルトは外側部材の附属物に過ぎず,様々な形状が考えられることから,特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,両意匠の差異点である,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点及び外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点は,意匠の側面における差異点であるが,これらは両意匠の具体的構成態様の一部にすぎない。全体観察を原則とする意匠の類否判断においては,具体的構成態様の差異点が類否判断に与える影響は,基本的構成態様の共通点が類否判断に与える影響よりも小さく,本件登録意匠と甲第5号証に記載の意匠の比較においても,上記の差異点は,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,両意匠の差異点である,外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,そして,外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点も,同様に,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえないので,本件登録意匠は,実質的に甲第5号証に記載の意匠であり,また,甲第5号証に記載の意匠に類似するものであり,更に,本件登録意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,公然知られた意匠である甲第5号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。

ア-4-4 本件登録意匠と公知意匠(甲第6号証)との類否
本件登録意匠と甲第6号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,その使用に際して,使用者の足を内側部材の上に乗せ,履いて使うものであることから,両意匠の側面からの形態が意匠の要部を構成するものであり,本件登録意匠の正面図及び背面図と,甲第6号証の第1頁目及び第2頁目の写真に示されているように,両意匠は平面に形成された内側部材と内側部材の外周を覆う外側部材で構成される点,両意匠の外側部材の側面は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,そして,外側部材の後端部の丸みは,上部から底面にかけて略均等な曲率で形成されている点が共通しており,両意匠の側面における具体的構成態様も共通している。このような基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は類否の判断に大きな影響を与えるものである。
一方,両意匠の差異点である,足を固定するためのベルトは外側部材の附属物に過ぎず,様々な形状が考えられることから,特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,そして,外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点は両意匠の具体的構成態様の一部にすぎない。全体観察を原則とする意匠の類否判断においては,具体的構成態様の差異点が類否判断に与える影響は,基本的構成対応の共通点が類否判断に与える影響よりも小さく,本件登録意匠と甲第6号証に記載の意匠の比較においても,上記の差異点は,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえないので,本件登録意匠は,実質的に甲第6号証に記載の意匠であり,また,甲第6号証に記載の意匠に類似するものであり,更に,本件登録意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,公然知られた意匠である甲第6号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。

ア-4-5 本件登録意匠と公知意匠(甲第7号証)との類否
本件登録意匠と甲第7号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,その使用に際して,使用者の足を内側部材の上に乗せ,履いて使うものであることから,両意匠の側面からの形態が意匠の要部を構成するものであり,本件登録意匠の正面図及び背面図と,甲第7号証の第1頁目の写真に示されているように,両意匠は平面に形成された内側部材と内側部材の外周を覆う外側部材で構成される点,両意匠の外側部材の側面は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点が共通しており,具体的構成態様も共通している。このような基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は類否の判断に大きな影響を与えるものである。
一方,両意匠の差異点である,足を固定するためのベルトは外側部材の附属物に過ぎず,様々な形状が考えられることから,特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,両意匠の差異点である,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,そして,外側部材の後端部の丸みは,上部から底部にかけて略均等な曲率で形成されている点は,意匠の側面における差異点であるが,これらは両意匠の具体的構成態様の一部にすぎない。全体観察を原則とする意匠の類否判断においては,具体的構成態様の差異点が類否判断に与える影響は,基本的構成態様の共通点が類否判断に与える影響よりも小さく,本件登録意匠と甲第7号証に記載の意匠の比較においても,上記の差異点は,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,両意匠の差異点である,外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,そして,外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点も,同様に,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえないので,本件登録意匠は,実質的に甲第7号証に記載の意匠であり,また,甲第7号証に記載の意匠に類似するものであり,更に,本件登録意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,公然知られた意匠である甲第7号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。

ア-4-6 本件登録意匠と公知意匠(甲第8号証)との類否
本件登録意匠と甲第8号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,その使用に際して,使用者の足を内側部材の上に乗せ,履いて使うものであることから,両意匠の側面からの形態が意匠の要部を構成するものであり,本件登録意匠の正面図及び背面図と,甲第8号証の第6頁目?第8頁目,第10頁目の写真に示されているように,両意匠は平面に形成された内側部材と内側部材の外周を覆う外側部材で構成される点,両意匠の外側部材の側面は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点,外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点,そして,外側部材の後端部の丸みは,上部から底面にかけて略均等な曲率で形成されている点が共通しており,両意匠の側面における具体的構成態様も共通している。このような基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は類否の判断に大きな影響を与えるものである。
これに加えて,両意匠は,外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点で共通しており,このような先端部や後端部の溝の形状も両意匠の類否の判断に影響を与えるものである。
一方,両意匠の差異点である,足を固定するためのベルトは外側部材の附属物に過ぎず,様々な形状が考えられることから,特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,そして,外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点は両意匠の具体的構成態様の一部にすぎない。全体観察を原則とする意匠の類否判断においては,具体的構成態様の差異点が類否判断に与える影響は,基本的構成態様の共通点が類否判断に与える影響よりも小さく,本件登録意匠と甲第8号証に記載の意匠の比較においても,上記の差異点は,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえないので,本件登録意匠は,実質的に甲第8号証に記載の意匠であり,また,甲第8号証に記載の意匠に類似するものであり,更に,本件登録意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,公然知られた意匠である甲第8号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。

ア-4-7 本件登録意匠と公知意匠(甲第9号証)との類否
本件登録意匠と甲第9号証記載の意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,両意匠は,その使用に際して,使用者の足を内側部材の上に乗せ,履いて使うものであることから,両意匠の側面からの形態が意匠の要部を構成するものであり,本件登録意匠の正面図及び背面図と,甲第9号証の第1頁目及び第2頁目の写真に示されているように,両意匠は平面に形成された内側部材と内側部材の外周を覆う外側部材で構成される点,両意匠の外側部材の側面は中央部の厚みに比べて,先端部及び後端部が顕著に厚みを有しており,丸みを帯びた小船型の形状になっている点が共通しており,意匠の類否判断に大きな影響を与える基本的構成態様が共通するものである。
また,外側部材の先端部の丸みは,上部と底部で曲率が異なり,底部の曲率は上部の曲率よりも小さく丸みが緩やかになるように形成されている点及び外側部材の後端部の丸みは,上部から底面にかけて略均等な曲率で形成されている点が共通しており,両意匠の側面における具体的構成態様も共通している。このような基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は類否の判断に大きな影響を与えるものである。
一方,両意匠の差異点である,足を固定するためのベルトは外側部材の附属物に過ぎず,様々な形状が考えられることから,特段顕著な相違とは言えず,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,両意匠の差異点である,外側部材の先端部の側面に略直線の溝が設けられている点及び外側部材の後端部の側面にやや湾曲した形状の溝が設けられている点は,意匠の側面における差異点ではありますが,これらは両意匠の具体的構成態様の一部にすぎない。全体観察を原則とする意匠の類否判断においては,具体的構成態様の差異点が類否判断に与える影響は,基本的構成態様の共通点が類否判断に与える影響よりも小さく,本件登録意匠と甲第9号証に記載の意匠の比較においても,上記の差異点は,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
また,外側部材の先端部の正面にも溝が設けられており,先端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の後端部の正面にも溝が設けられており,後端部の側面に設けられた溝と繋がっている点,外側部材の底面の先端部側と後端部側に1つずつ,楕円形の模様が付されている点,そして,外側部材の底面の側面から中央に向けて,略V字型の形状に溝が設けられており,この溝は外側部材の先端部の側面に設けられた略直線の溝及び外側部材の後端部の側面に設けられたやや湾曲した形状の溝と繋がっている点も,同様に,両意匠の類否の判断に与える影響は微弱である。
以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響は微弱であって,共通点を凌駕しているものとはいえないので,本件登録意匠は,実質的に甲第9号証に記載の意匠であり,また,甲第9号証に記載の意匠に類似するものであり,更に,本件登録意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,公然知られた意匠である甲第9号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。

(5)結び
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第2号,意匠法第3条第1項第3号及び意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は意匠法第48条第1甲第1号に該当し,無効とすべきである。


3.証拠方法
甲第1号証 意匠登録第1387970号の意匠登録原簿の写し
甲第2号証 意匠登録第1387970号公報の写し
甲第3号証 販売店「シューブレイク」の楽天の物販サイトページの写し
http://review.rakuten.co.jp/item/1/215189_10004500/1.1/a3-mf2/(日付)
http://item.rakuten.co.jp/outlet-para/c1000/(商品紹介)
甲第4号証 販売店「PennePenne」の楽天の物販サイトページの写し
http://item.rakuten.co.jp/pennepenne/mn1000/
甲第5号証 ブログ「日本一効率的な商品企画会社のブログ」ページの写し
http://conceput.blog43.fc2.com/blog-date-200907.html
甲第6号証 ブログ「【店長日記】浜松デザイン家具,雑貨のインテリアショップ」ページの写し
http://blog306.lovers-room-online.com/?eid=575472
甲第7号証 ブログ「印 LADY’S BLOG」ページの写し
http://instaff,blog92.fc2.com/blog-entry-196.html
甲第8号証 販売店「02BRAND ゼロツーブランド」の楽天の物販サイトページの写し
http://review.rakuten.co.jp/item/1/231493_10000954/1.1/a4/(日付)
http://item.rakuten.co.jp/02brand/c-1000/(商品紹介)
甲第9号証 ブログ「DOGUYA TERASHIMA」ページの写し
http://t-terashima.petit.cc/banana/archives/2009/05/


第2 被請求人審判事件答弁書
1.答弁の趣旨
本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。

2.答弁の理由
本件審判請求に関して,以下のとおり答弁する。

(1)はじめに
請求人は,本件登録意匠の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠に照らして考察するならば,本件登録意匠は,意匠法3条1項2号3号,同条3条2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法48条1項1号により無効とされるべきであると主張する。
しかしながら,請求人がその主張の根拠として摘示する甲第3号証ないし甲第9号証に掲載されている各画像は,いずれも,本件登録意匠との同一性あるいは類否を検討し得るに足りるほど,その各構成が鮮明に描写されていない。つまり,甲第3号証ないし甲第9号証に掲載されている各画像は,画像が余りに小さく,あるいは色彩が暗すぎる,陰影が不鮮明であるが故に,各構成の識別・把握が困難であり,さらには,サンダルの各構成を識別し得るに足りるほどに多角的に撮影されているものでもない。
このように,請求人の主張は,その提出にかかる各公知資料により十分に根拠付けられておらず,請求人の本件審判請求は成り立たない。
もっとも,仮に,甲第3号証ないし甲第9号証に掲載されている各画像が,請求人の述べる構成と同様のものであったとしても,これらは,意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知となったものであり,本件登録意匠は,甲第3号証ないし甲第9号証に示されている各日付から6月以内に出願をされたものであることから,意匠法4条1項の規定が適用されることとなる。
したがって,いずれにしても,請求人の本件審判請求は成り立たない。
以下,本件登録意匠が,意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知となった経緯につき説明する。

(2)意に反する公知(乙第1号証?乙第7号証)
本件登録意匠は,シューズ,サンダルの製造販売を業とする有限会社シューズ・ミニッシュ(以下,単に「会社」と言う。)の代表取締役である高本泰朗(以下,単に「高本」と言う。)の創作によるものである。高本は代表取締役であるのと同時にデザイナーでもあり,自身でシューズ,サンダルのデザイン等を創作することが多く,営業面は概ねの方針を決めて他の従業員に任せるようにしていた。
本件登録意匠も,平成21年1月頃に,高本が創作したデザインによるものである。上記のように高本はデザイナーでもあることから,会社ではなく個人にて意匠権を出願し,会社で商品化して製造販売するケースも多々あり,本件登録意匠に関しても,高本の創作したデザインによるものであったことから,高本が個人にて出願することとした。
高本は,本件登録意匠に係るデザインを創作したとき,すぐに意匠権を取得することも視野に入れたが,実際に商品化するまでに若干のマイナーチェンジをしたり,デザインを変更したものを別に製造販売したりすることもあり得たことから,出願するタイミング等については,以前から出願を依頼していた弁理士事務所に相談することとした。弁理士事務所から受けた種々のアドバイスの中には「デザインが出願日前に公に出てしまうと基本的には権利を取得できないから,出願が完了するまでは市場に出ることがないように注意して下さい」という趣旨のものも含まれていた。
高本は,上記のように,本件登録意匠に関するデザインの権利化について弁理士事務所に相談するのと並行して,その商品化に向けての準備についても検討するよう社内に指示を出した。商品化は順調に進み,平成21年春頃には一定数を製造販売できる状態となった。もっとも,若干のマイナーチェンジも検討していたことから(実際,最初に商品化したものと本件登録意匠に関するものとは,底面の形状等において異なる部分が認められる),弁理士事務所への出願手続の依頼は同年7月から8月頃になる見込みであった。もちろん,出願が完了するまでは市場に出してはいけないことは,上記弁理士事務所のアドバイスもあって,高本も十分に意識していたので,会社の従業員には「出願前に商談を行うことがあっても,出願前に市場に出ることがないように」「取引先にも事情を説明して販売は差し控えてもらい,デザインについて秘密を保持することを了解いただくように」等と指示していた。そして,会社の従業員も高本の指示を理解しており,高本に対して「取引先にも理解してもらっている」等と説明していた。
このような経緯を経て,高本は,平成21年6月頃までに若干のマイナーチェンジを行い,同年7月16日に上記弁理士事務所を通じて,変更後のデザインを出願するに至った。
本件登録意匠は,上記のように,弁理士事務所のアドバイスに従い,出願前に市場に出ることがないように細心の注意を払って出願に及んだものであるから,高本の元に,本件登録意匠に関する無効審判請求の記録が届いたとき,高本は,その原因をどうしても理解することができなかった。
もっとも,確かに,本件登録意匠の出願前に一部の商品が販売されていたような証拠(ただし,前記のように,その画像は不鮮明であり,底面の形状等で少し異なる部分があるように思われる)が提出されていたことから,高本は,会社内及び取引先について,その事実の有無に関する調査を実施した。その結果,会社の総務部(当時は出荷担当)に所属する塙阪貴司(以下,単に「塙阪」と言う。)という従業員を通じてシューブレイク(甲第3号証)やペンネペンネ(甲第4号証)というネットショップに,本件登録意匠に関する商品が流れてしまっていたことが判明した。
塙阪によると,出願前に販売してはならないという高本の指示は間違いなく認識していたが,出願に関する事柄は高本と弁理士事務所との間で行われていたことから,塙阪自身は出願手続に関する進捗状況を認識しておらず,時間が経過するにつれて高本から受けた指示に対する意識が薄らいでいったとのことであった。また,そのような状況下,サンダルの売上が伸びていくタイミング(サンダルという商品は,暑くなる初夏から次第に売り上げが伸びていく性質を有する)をできるだけ逃すことなく早くに販売を開始したいという事情があったところに,上記ネットショップ等から注文が入ったため,高本の指示に反して一部の商品を販売してしまったとのことであった。
また,塙阪は,アカツキ商事とライブワンズという取引先も担当していた(甲第5号証の商品はアカツキ商事からセシールを通じて一般消費者に販売され,甲第6号証?甲第9号証の商品はライブワンズから各店舗等(乙第4号証?乙第7号証)を通じて一般消費者に販売されたもののようである)。
アカツキ商事とライブワンズは本件登録意匠のデザインを非常に気に入ったことから,本件登録意匠の出願に先立って一部の商品を納入することになった。ただし,このうち,少なくともライブワンズについては,塙阪から「7月か8月頃に意匠登録の出願をするつもりなので,出願が完了するまで販売を待って欲しい」と間違いなく伝え,取引先からの了解も得ていたことが確認されている。これに対して,アカツキ商事については,高本の意向を伝えていたかどうか定かでなく,塙阪が伝えるのを失念していた可能性もある。
このように,少なくともライブワンズについては,高本の意向が間違いなく伝えられていたが,前記のようにサンダルの季節的な特殊性等と意匠権の出願に対する理解の不十分さから,フライング的に販売するに至ってしまった。
以上の経緯にて,本件登録意匠の出願前に,マイナーチェンジ前の一部の商品が市場に出回ってしまった可能性があるが,このことは,意匠権者である高本の意図するところではなく,高本の意思に明確に反している。つまり,これらは,意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知となったものであり,本件登録意匠は,甲第3号証ないし甲第9号証に示されている各日付から6月以内に出願をされたものであることから,意匠法4条1項の規定が適用されることとなる。
したがって,請求人の本件審判請求は成り立たない。

3.証拠方法
乙第1号証 陳述書(高本泰朗)
乙第2号証 陳述書(塙阪貴司)
乙第3号証 陳述書(中島正一)
乙第4号証 納品書(控)の写し(ライブワンズから浜松デザイン家具,雑貨のインテリアショップ)
乙第5号証 納品書(控)の写し(ライブワンズから印 LADY’s BLOG)
乙第6号証 納品書(控)の写し(ライブワンズから02BRAND)
乙第7号証 納品書(控)の写し(ライブワンズからDOGUYA TERASHIMA)


第3 被請求人上申書
1.上申の内容
被請求人は,本件審判事件に関して,平成24年12月28日付け審判事件答弁書(以下,単に「答弁書」と言う。)を提出したが,同答弁書に記載の内容を補足的に説明するために,以下のとおり上申する。

(1)商品の流通ルートに関する整理
本件登録意匠の出願前に,そのマイナーチェンジ前の一部の商品が市場に出回ってしまっていたとしても,それが意匠権者である高本の明確な指示に反してなされたことについては,被請求人が答弁書において述べたとおりである。
本件審判請求書においては,本件登録意匠に係る商品が出願前に販売されていたものとして,請求人より甲第3号証?甲第9号証が提出されているところ,その各ルートを整理すると,以下のとおりとなる。
ア 甲第3号証
甲第3号証は,シューブレイクというネットショップに関するものである。シューブレイクは株式会社裕豊商会が運営しており(乙8),高本の会社と直接取引があるネットショップである。
そして,かかる株式会社裕豊商会(シューブレイク)に対して,意匠権者である高本の指示に反して,塙阪が一部の商品を販売してしまったこと(乙9)については,被請求人が答弁書において説明したとおりである。(乙1,乙2)

イ 甲第4号証
甲第4号証は,ペンネペンネというネットショップに関するものである。ペンネペンネは株式会社サンアローが運営しており(乙10),高本の会社と直接取引があるネットショップである。
そして,かかる株式会社サンアロー(ペンネペンネ)に対して,意匠権者である高本の指示に反して,塙阪が一部の商品を販売してしまったこと(乙11)については,被請求人が答弁書において説明したとおりである。(乙1,乙2)

ウ 甲第5号証
甲第5号証は,アカツキ商事株式会社からセシールを通じて一般消費者に販売されたものである。
アカツキ商事株式会社は塙阪が担当していた取引先であり,塙阪を通してアカツキ商事株式会社に商品が納入され,結果的に意匠権者である高本の指示に反して,商品が販売されてしまったこと(乙12)については,被請求人が答弁書において説明したとおりである。(乙1,乙2)

エ 甲第6号証?甲第9号証
甲第6号証?甲第9号証は,有限会社ライブワンズから各店舗等を通じて一般消費者に販売されたものである。(乙第4号証?乙第7号証)
有限会社ライブワンズも塙阪が担当していた取引先であり,塙阪を通して有限会社ライブワンズに商品が納入され,「販売は待って欲しい」旨の確認を取っていたにもかかわらず,結果的に意匠権者である高本の指示に反して,商品が販売されてしまったこと(乙4?乙7)についても,被請求人が答弁書において説明したとおりである。(乙1,乙2,乙3)

以上のように,本件登録意匠に係る商品が出願前に流通に置かれたルートは4つに整理することが可能である。そして,そのいずれもが,塙阪による商品の販売・納入に起因するものであった。

(3)過去の裁判例等に基づく考察
被請求人が答弁書及び本上申書において述べたように,本件登録意匠に係る商品の一部が市場に流通してしまったことは,意匠登録を受ける権利を有する高本の明確な指示に反して,その社員である塙阪によりなされてしまったものであるところ,裁判例等によれば,「意に反する」とは,例えば不注意によって公知となってしまった場合でも含まれるとされており,本件の事案が「意に反する」に該当することは明らかである。
以下,かかる点を明らかにするため,「意に反する」に関する裁判例等の一部を紹介する。
ア 東京高判昭47年4月26日無体裁集4巻1号261頁
イ 東京高判昭和54年5月16日(昭和53年(行ケ)第91号)
ウ 東京高判昭56年10月28日無体裁集13巻2号780頁
エ 大阪高判平成6年5月27日知的裁集26巻2号447頁
オ 審判平成11-35135(審決日平成13年4月4日)
以上のような裁判例等に基づき考察するならば,本件事案が,意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知となったものであり,意匠法4条1項の規定が適用されるべきことは明らかである。

2.証拠方法
乙第8号証 シューブレイクの会社概要に関するウェブページ
乙第9号証 納品書(株式会社裕豊商会)
乙第10号証 ペンネペンネの会社概要に関するウェブページ
乙第11号証 請求書(株式会社サンアロー)
乙第12号証 納品書(アカツキ商事株式会社)


第4 審理事項通知書
【審理事項】
1.請求人に対して
(1)本件登録意匠(意匠登録第1387970号,甲第2号証)が,先行公知意匠(甲第3号証ないし甲第9号証)と同一であるため,意匠法第3条第1項第2号の規定により,意匠登録を受けることができないと主張するが,本件登録意匠と先行公知意匠とが同一であるという根拠を示されたい。

(2)当審は,履物用台に係る類否判断や創作非容易性の判断を行うにあたって,当該物品の底面の形態は重要な要部であると考えるが,本件登録意匠と甲第3号証及び甲第4号証とは,底面の形態が異なっており,また,甲第5号証ないし甲第9号証は底面が不明であると認めるが,請求人が本件登録意匠と先行公知意匠とが類似する,あるいは創作容易であるとする根拠を示されたい。

(3)請求人は,被請求人が審判事件答弁書及び上申書において主張する点について,意見があれば述べられたい。
なお,被請求人の上申書において述べられた「第3 本件審判事件に至る背景事情」に関しては,本件無効審判事件の審理に関係しないものと判断するので,この記載内容に関する意見は不要である。

2.被請求人に対して
(4)請求人の,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第2号,意匠法第3条第1項第3号及び意匠法第3条第2項の規定に該当するという主張に対する,被請求人の見解を述べられたい。

(5)被請求人の意に反して,社員が意匠登録出願前に商品を市場に流してしまったということであるが,
ア 社員にはどのような指示を行ったのか。
イ 社員から,商品を市場に流したことに関する報告はなかったのか。
ウ 被請求人は,社員が商品を市場に流したことをいつ知ったのか。
エ 通常の取引において,社員の営業活動等はどのような指示・決裁ルートとなっているのか。
オ 取引先との契約内容はどのように監理しているのか。
カ ライブワンズ社とシューズ・ミニッシュ社間で,どのような契約内容となっていたのか。(守秘義務等)
キ ライブワンズ社から,守秘義務に反して販売したことの報告はなかったのか。
ク アカツキ商事には被請求人の意向が伝えられていなかった可能性があり,この点については,被請求人の意に反してとは言えないのではないか。
以上の点について,被請求人の見解を述べられたい。

なお,上申書において述べられた「第3 本件審判事件に至る背景事情」の記載事項は,本件無効審判事件の審理内容と直接関係しない事項であると当審は考えるので,撤回を検討されたい。


第5 口頭審理陳述要領書(被請求人の主張)
1.【審理事項(4)】について
請求人は,本件登録意匠は,意匠法3条1項2号3号,同条2項の規定により意匠登録を受けることができないものであると主張し,かかる主張を根拠づけるものとして甲第3号証ないし甲第9号証を適示する。
しかしながら,意匠の類否判断は,(ア)意匠に係る物品の認定及び類否判断,(イ)対比する両意匠の形態の認定,(ウ)形態の共通点及び差異点の認定,(エ)形態の共通点及び差異点の個別評価,(オ)意匠全体としての類否判断,の全過程を検討・判断することにより行われる必要があるところ,請求人がその主張の根拠として適示する甲第3号証ないし甲第9号証に掲載されている各画像は,いずれも余りに不鮮明であり,当該各過程を検討・判断し得るに足りるほど,その各構成を識別・把握することができない。すなわち,甲第3号証ないし甲第9号証に掲載されている各画像では,その基本的構成態様に加えて各部の形態を具体的に認定することが極めて困難であり,本件登録意匠との共通点及び差異点を間違いなく対比観察することが不可能である。
したがって,請求人の主張は,その提出にかかる各公知資料では証明不十分であるから,そもそも請求人の本件審判請求は成り立たない。

2.【審理事項(5)】について
(1)社員への指示【審理事項(5)ア】について
被請求人は,本件登録意匠に関するデザインの権利化について弁理士事務所に相談するのと並行して,その商品化に向けての準備についても検討するよう社内に指示を出し,取引先との商談についても順次進めていた。被請求人が,このように権利化,商品化及び商談を並行的に進めていたのは,次の各事情を考慮したうえでのことであった。すなわち,(ア)販売開始の間際までデザインをマイナーチェンジする可能性が残っており,弁理士事務所への出願手続の依頼は同年7月から8月頃になる見込みであったところ,(イ)サンダルという商品の性質上,暑くなる初夏から次第に売上げが伸びていくという特性を有しており,そのタイミングを逃すことなく販売を開始する必要もあった。そこで,被請求人は,このような(ア)及び(イ)双方の要請を満たすため,社員に対して,このような各種の事情,及び,弁理士事務所から,「デザインが出願日前に公に出てしまうと基本的には権利を取得できないから,出願が完了するまでは市場に出ることがないように注意して下さい」とアドバイスされていることを説明のうえ,「出願前に商談を行うことがあっても,出願前に市場に出ることがないように」「取引先にも事情を説明して販売は差し控えてもらい,デザインについて秘密を保持することを了解いただくように」との指示を出していた。
そして,被請求人は,会社の従業員から,「取引先にも理解してもらっている」との報告を受けていた。
このように,被請求人としては弁理士事務所のアドバイスに従って万全を期していたはずであったところから,本件登録意匠に関する無効審判請求の記録が届いたとき,被請求人はその原因を理解することができなかったほどである。

(2)社員からの報告,被請求人が知った時期【審理事項(5)イ及びウ】について
被請求人は,社員に対して各種の事情を説明のうえ,「出願前には商品を市場に出さないこと」「取引先にも秘密を保持してもらうよう了解をいただくこと」等の指示を出し,このような指示を受けた社員から「取引先にも理解してもらっている」との報告を受けていた。
このように,被請求人は,本件登録意匠の出願前には商品が市場に出ることのないよう細心の注意を払っており,かつ,被請求人の出した指示が貫徹されていると信じていた(指示が貫徹されている旨の報告も受けていた)。
つまり,被請求人としては,本件登録意匠に関する無効審判請求の記録が届き,その内容に驚いた被請求人において,会社内及び取引先について,その事実の有無に関する調査を実施したことにより,はじめて,その社員である塙阪を通じて本件登録意匠に関する商品が流れてしまっていたことを知ったのである。

(3)通常の取引における指示・決裁ルート【審理事項(5)エ】について
本件商品が出願前に流通に置かれてしまった当時,被請求人の経営する会社は家族経営のような体制であって,その社員はアルバイトを含めて10名程度であった。
そのような状況であったことから,もちろん,取引や商談は社長及び部長が中心となって進めていたものの,社内における指示・決裁ルートのようなものが確立していたわけではなく,社長や部長の口頭の指示に基づいて,その他の社員が具体的な出荷等を実行するという流れであった。
なお,被請求人の会社が上記のような少人数の各人の顔の見える組織であったことからも,被請求人としては,上記のような商品の流通に関する指示が全ての社員に行き届いていると確信していたところである。

(4)契約内容の管理【審理事項(5)オ】について
本件当時の被請求人の会社の状況は上記のとおりであって,取引先との契約も口頭で行われていた。つまり,取引先と契約書を取り交わすことはなく,書面としては受発注の伝票のみであった。しかも,取引先からの伝票は,取引先によって異なる独自の書式の伝票であった。
なお,このような受発注の伝票の管理は,本件当時,問題となっている塙阪の担当となっており,個々具体的な伝票の送信等は塙阪に委ねられていた。

(5)ライブワンズ社との契約内容【審理事項(5)カ】について
ライブワンズに対しては,同社が本件登録意匠のデザインを非常に気に入ったことから,本件登録意匠の出願に先立って一部の商品を納入することになった。もっとも,同社に対しては,被請求人の指示を受けていた塙阪より,「7月か8月頃に意匠登録の出願をするつもりなので,出願が完了するまで販売を待って欲しい」と間違いなく伝え,ライブワンズとの間において,本件登録意匠の出願完了まで販売をしないことに関する合意が成立していたことは明らかである。

(6)ライブワンズ社からの報告【審理事項(5)キ】について
上記のように,ライブワンズには被請求人の意向が間違いなく伝えられていたが,同社は,サンダルの季節的な特殊性,意匠権の出願に対する理解の不十分さなどから,フライング的に販売するに至ってしまったものと思われる。
もっとも,ライブワンズ社がフライング的に販売してしまったことに関して,被請求人や塙阪には特段の報告はなかった。前記のように,被請求人としては,本件登録意匠に関する無効審判請求の記録が届き,その内容に驚いた被請求人において,会社内及び取引先について,その事実の有無に関する調査を実施したことにより,はじめて,その社員である塙阪を通じて本件登録意匠に関する商品が流れてしまっていたことを知った次第である。

(7)アカツキ商事の販売が被請求人の意に反すること【審理事項(5)ク】について
確かに,アカツキ商事については,被請求人の意向が確実に伝えられていたか否かが定かでなく,塙阪が伝えるのを失念していた可能性も否定できない。しかしながら,本件登録意匠を考案し,これを出願し,権利取得したのは被請求人(被請求人の会社が取得したのではない)であるところ,前記のように,被請求人は,その社員に対して,弁理士事務所から,「デザインが出願前に公に出てしまうと基本的には権利を取得できないから,出願が完了するまでは市場に出ることがないように注意して下さい」とアドバイスされていたことなどを説明のうえ,「出願前に商談を行うことがあっても,出願前に市場に出ることがないように」「取引先にも事情を説明して販売は差し控えてもらい,デザインについて秘密を保持することを了解いただくように」との指示を出していた。そして,被請求人は,これら社員から,「取引先にも理解してもらっている」旨の報告を受けていた。
このような被請求人の意向・指示に反して,商品が出願前に市場に流れてしまったのであるから,その流通が,「意匠登録を受ける権利を有する者」である被請求人の「意に反して」(意匠法4条1項)に該当することは明らかである。
そして,この結論は,被請求人が指摘した各裁判例や学説にも合致する。すなわち,過去の裁判例や学説等においては,意匠法の趣旨に基づき,例えば,意匠登録を受ける権利を有する者の不注意によって公知となってしまった場合でさえ,「意に反する」と認定されているところ,このこととのバランスから考察するならば,社員に対して明確に指示を出していた本件のケースが,「意に反する」に該当しないと認定されてしまうのは明らかに背理である。
したがって,アカツキ商事の販売に関しても,被請求人の「意に反する」ものであったことは明らかである。


第6 口頭審理
本件審判について,当審は,平成26年2月14日に第一回口頭審理を行ったが,請求人は,出頭しなかった。
1.被請求人
(1)甲第1号証ないし甲第9号証の成立を認める。
(2)平成25年1月29日付け上申書の「第3 本件審判事件に至る背景事情」の項目の記載及び乙第13号証ないし乙第29号証を削除する。

2.審判長
(1)請求人は,被請求人提出の口頭審理陳述要領書及び口頭審理調書記載の内容に関して意見がある場合には,平成26年3月14日までに上申書を提出すること。
(2)本件審理は,以後書面審理とする。


第7 当審の判断
請求人は,「登録第1387970号意匠(以下,「本件登録意匠」と称する)は出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠であるため,意匠法第3条第1項第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであり(当審注:以下「無効理由1」という。),また,本件登録意匠は出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠に類似する意匠であるため,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり(当審注:以下「無効理由2」という。),更に,本件登録意匠は出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公然知られた意匠である甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたので,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである(当審注:以下「無効理由3」という。)ので,本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。」と主張するが,これに対して,被請求人は,「甲第3号証ないし甲第9号証に掲載されている各画像が,請求人の述べる構成と同様のものであったとしても,これらは,意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知となったものであり,本件登録意匠は,甲第3号証ないし甲第9号証に示されている各日付から6月以内に出願をされたものであることから,意匠法4条1項の規定が適用されることとなる。
したがって,いずれにしても,請求人の本件審判請求は成り立たない。」旨,主張するので,まず,甲第3号証ないし甲第9号証に掲載されている各画像が,意匠登録を受ける権利を有する者(被請求人)の意に反して公知となったものであるか否かについて検討,判断する。

1.甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠が,被請求人の意に反して公知となったものかについて

請求人が,本件登録意匠の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった本件登録意匠と同一又は類似する意匠,若しくは創作の容易性を判断する基礎となる意匠として提示した,両当事者において争いのない証拠資料は,以下のとおりのものである。

(1)甲第3号証
本件登録意匠の出願前,2009年6月22日に投稿されたレビューが掲載された楽天の物販サイトのページに記載の「サンダル」の意匠。

(2)甲第4号証
本件登録意匠の出願前,2009年5月20日に投稿されたレビューが掲載された楽天の物販サイトのページに記載の「サンダル」の意匠。

(3)甲第5号証
本件登録意匠の出願前,2009年7月8日及び7月10日の記事が掲載された「日本一効率的な商品企画会社のブログ」なるタイトルのブログに記載の「サンダル」の意匠。

(4)甲第6号証
本件登録意匠の出願前,2009年6月14日の記事が掲載された「【店長日記】浜松デザイン家具,雑貨のインテリアショップ」なるタイトルのブログ記事に記載の「サンダル」の意匠。

(5)甲第7号証
本件登録意匠の出願前,2009年6月23日の記事が掲載された「印 LADY’S BLOG」なるタイトルのブログ記事に記載の「サンダル」の意匠。

(6)甲第8号証
本件登録意匠の出願前,2009年7月10日及び2009年5月25日に投稿されたレビューが掲載された楽天の物販サイトのページに記載の「サンダル」の意匠。

(7)甲第9号証
本件登録意匠の出願前,2009年5月21日の記事が掲載された「DOGUYA TERASHIMA」なるタイトルのブログ記事に記載の「サンダル」の意匠。

これに対して,被請求人は,上記いずれの意匠も,被請求人が,その社員に対して,「出願前に商談を行うことがあっても,出願前に市場に出ることがないように」「取引先にも事情を説明して販売は差し控えてもらい,デザインについて秘密を保持することを了解いただくように」との指示を出し,社員から,「取引先にも理解してもらっている」旨の報告を受けていたことより,被請求人の意向・指示に反して,商品が出願前に市場に流れてしまったのであるから,その流通が,「意匠登録を受ける権利を有する者」である被請求人の「意に反して」(意匠法第4条第1項)に該当することは明らかである,旨主張する。

被請求人の主張において,提示された乙第1号証ないし乙第12号証によれば,各販売店に本件登録意匠の出願前に本件登録意匠に係る商品を納品していた事実,また,本件登録意匠に係る商品を本件登録意匠の出願前に公知となることがないように社員や納品先に指示を行っていた事実,及び被請求人の指示にもかかわらず,本件登録意匠に係る商品が公知となってしまった事実を確認することができる。
これに対し,これらの事実を覆す主張や証拠について,請求人からの提示はないし,発見もできない。

したがって,甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠は,意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知となったものであり,また,本件登録意匠は,甲第3号証ないし甲第9号証に示されている各日付から6月以内に意匠登録出願されたものであることから,意匠法第4条第1項の規定に該当し,同法第3条第1項及び第2項の規定の適用については,同条第1項第1号又は第2号に該当するに至らなかったものとみなされることより,甲第3号証ないし甲第9号証に記載された意匠に基づく,本件登録意匠についての無効理由1ないし3については,判断するまでもなく,いずれも理由がないものである。

2.むすび
以上のとおりであるから,本件登録意匠は,意匠法第4条第1項の規定に該当し,意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至った意匠は,その該当するに至った日から6月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第1項及び第2項の規定の適用については,同条第1項第1号又は第2号に該当するに至らなかったものとみなされることより,本件登録意匠は無効とすべきものとはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-07-14 
結審通知日 2014-07-16 
審決日 2014-07-30 
出願番号 意願2009-16299(D2009-16299) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (B5)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神谷 由紀 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 橘 崇生
江塚 尚弘
登録日 2010-04-16 
登録番号 意匠登録第1387970号(D1387970) 
代理人 有吉 修一朗 
代理人 森田 靖之 
代理人 辻本 良知 
代理人 辻本 一義 
代理人 松田 裕史 
代理人 辻本 希世士 
代理人 金澤 美奈子 

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