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審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2014600011 審決 意匠

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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) B3
管理番号 1294819 
判定請求番号 判定2013-600011
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2015-01-30 
種別 判定 
判定請求日 2013-04-30 
確定日 2014-11-28 
意匠に係る物品 指輪 
事件の表示 上記当事者間の登録第1382147号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 判定請求書のイ号意匠の図面及び説明により示された「指輪」の意匠は,登録第1382147号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,イ号意匠(判定請求書のイ号意匠の図面及び説明により示された意匠)は,登録第1382147号意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める,と申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として,甲第1ないし第3号証及び添付書類として本件登録意匠の原簿謄本を提出した。

1.判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「指輪」意匠登録第1382147号(別紙第1,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。被請求人(以下,「被請求人」という。)のイ号意匠は,本件登録意匠の出願日の後に出願され登録を受けた,意匠登録第1450024号公報に記載された意匠である。
請求人は,イ号意匠のうちの本件登録意匠が登録を受けた部分(以下,「本件該当部分」と言う)に相当する部分(以下,「イ号相当部分という」)に係る意匠が,本件登録意匠に類似している為,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属するものと思料する。請求人は,当該見解に確信を持つものの,仮に被請求人がイ号意匠の構成を備える指輪を実施した場合,見解の相違によって問題が生じる可能性があるため,特許庁による厳正中立的な立場からの判定を求める次第である。

2.手続きの経緯
(a)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成21年04月17日(意願2009-10379号)
登録 平成22年02月12日(意匠登録第1382147号)
(b)イ号意匠に係る手続きの経緯
出願 平成23年08月12日(意願2011-18535号)
登録 平成24年08月03日(意匠登録第1450024号)

3.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品「指輪」の部分について意匠登録を受けた部分意匠であり,本件該当部分は,願書に添付した各図に実線で表される通り,以下のような構成を備えている。
(a)基本的構成態様
(ア)幅と外径の比が1:5程度で,厚さと外径との比が2:25程度である短円筒状のリング本体からなる。
(イ)リング本体の幅方向両端寄り部分の全周に亙り,このリング本体の幅寸法の約1/5?1/4程度の幅寸法を有する1対の模様形成円輪部が配置されている。
(ウ)模様形成円輪部の外周面の全周にわたり,径方向外方に突出した同一形状の複数個の模様が,円周方向にわずかな隙間を介して隣り合った状態で形成されている。
(b)具体的構成態様
(エ)模様がハート形であり,その上部をリング本体の幅方向内側に向けて形成されている。
(オ)模様の数は,それぞれの模様形成円輪部毎に,約55?65個である。
なお,前記1対の模様形成円輪部の間にあるリング本体の中央円輪部の形状等はなんら限定されるものではない。

4.イ号意匠の説明
イ号意匠は,添付した甲第1号証の図面の記載により表されたものであり,意匠に係る物品を「指輪」とし,イ号相当部分は,以下のような構成を備えている。
(a)基本的構成態様
(あ)幅と外径との比が1:7程度で,厚さと外径との比が1:11程度である短円筒状のリング本体からなる。
(い)リング本体の幅方向両端寄り部分の全周に亘り,このリング本体の幅寸法の約1/5?1/4程の幅寸法を有する1対の模様形成円輪部が配置されている。
(う)模様形成円輪部の外周面の全周に亙り,径方向外方に突出した同一形状の複数個の模様が,円周方向にわずかな隙間を介して,隣り合った状態で形成されている。
(b)具体的構成態様
(え)模様がハート形であり,その上部をリング本体の幅方向内側に向けて形成されている。
(お)模様の数は,それぞれの模様形成円輪部毎に,約90個である。
なお,イ号意匠では,1対の模様形成円輪部の間にあるリング本体の中央円輪部の形状等は具体的に表されているが,1対の模様形成円輪部と明確に区切られており,意匠上の有機的な結合はない。

5.本件登録意匠とイ号意匠の対比
(a)共通点
3.?4.の認定によれば,本件登録意匠の本件該当部分とイ号意匠のイ号相当部分とは,基本的構成態様(ア)と(あ)とのうち,短円筒状のリング本体,および,基本的構成態様(イ)と(い),(ウ)と(う),並びに具体的構成態様(エ)と(え)とにおいて共通する。
(b)相違点
一方,前述の3.?4.の認定によれば,イ号相当部分の形状は,本件該当部分の形状に対して,基本的構成態様(ア)と(あ)とに於ける比の具体的数値,および具体的構成態様(オ)と(お)とに於ける,模様形成円輪部毎に形成されたハート形の模様の総数が,相違する。

6.イ号意匠が本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属する理由
(a)先行周辺意匠
公知資料1 意匠登録第1336198号(甲第2号証)
公知資料2 意匠登録第1351108号(甲第3号証)
(b)要部
本件登録意匠の創作の要点(要部)について,本件登録意匠に係る指輪の使用態様を鑑みると,使用或いは販売の際,リング本体の外径側外方から見たその外周面のデザインが最も需要者の注意を惹くものであり,当該部分のデザインにより,需要者に与える美観は大きく異なる。この様な事情および上記先行周辺意匠を鑑みると,本件登録意匠の創作の要点は,リング本体の幅方向両端寄り部分の1対の模様形成円輪部の外周面に設けた模様の形状,および配設状況と言う事ができる。すなわち,その上部をリング本体の幅方向内側に向けた状態で設けた複数個のハート型の模様が,リング本体の両端部で対向した状態で設けられている点に意匠上の特徴があるというべきである。なお,上述の様な要部の認定の妨げとなるような,本願意匠の基本的構成態様および具体的構成態様を備えた公知意匠も発見されていない。

7.類否判断
本件登録意匠の要部は前記6.(b)の認定の通りである。そこで,上記共通点および相違点を総合して両意匠の類否を検討し,判断する。
上述の5.(a)の認定の通り,本件登録意匠とイ号意匠とは,本件該当部分とイ号相当部分に於ける基本的構成態様(ア)と(あ)とのうち,リング本体の基本形状,(イ)と(い),(ウ)と(う),および具体的構成態様(エ)と(え)との点において共通する。
一方,上述の5.(b)の認定の様に,本件意匠のリング本体の幅と外径との比が1:5程度で,厚さと外径との比が2:25程度であるのに対して,イ号意匠のリング本体の幅と外径との比は1:7程度で,厚さと外径との比が1:11程度である点,本件登録意匠の模様形成円輪部毎に形成されたハート形状の総数は約55?65個であるのに対し,イ号相当部分に係る意匠では約90個である点において相違している。しかしながら,前述のリング本体の構成比に関する相違は,本件登録意匠とイ号意匠との間に異なる美感を生じさせるものではない。また,ハート型の模様の数は,一見しただけではその違いは判明しない。この様な模様の総数の相違は,指輪のサイズの違いなどに基づいて当然に生じるものであり,一見して認識ができる差異ではないし,全体の美観を左右するものということはできない。

8.まとめ
以上の通り,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品が一致し,これらの意匠を特徴づける本件該当部分とイ号相当部分とに於ける形状等が,その構成態様を共通にするものであり,前述した様な構成態様における差異は需要者の注意を惹き付けるものではなく,両意匠の差異は,両意匠の共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないということができる。したがって,本件登録意匠の本件該当部分とイ号意匠のイ号相当部分とは,需要者の視覚を通じて起こさせる美観を共通にして類似しているものということができるから,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属するものであり,請求の趣旨どおりの判定を求めるものである。

9.証拠方法
イ号意匠が,被請求人が有する登録意匠であることを証明するために,甲第1号証を提出する。
また,先行周辺意匠として,甲第2号証および甲第3号証を提出する。
(1)甲第1号証 意匠登録第1450024号公報の写し
(2)甲第2号証 意匠登録第1336198号公報の写し
(3)甲第3号証 意匠登録第1351108号公報の写し


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
1.答弁の趣旨
イ号意匠は,意匠登録第1382147号及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める。

2.答弁の理由
(1)判定請求人(以下,請求人という)は,平成25年4月30日付判定請求書において,1.判定請求の必要性として,『請求人(株式会社英工芸)は,本件判定請求に係る登録意匠「指輪」の意匠権者である。被請求人(株式会社桑山)のイ号意匠は,本件登録意匠の出願日の後に出願され登録を受けた,意匠登録第1450024号公報に記載された意匠である。請求人は,イ号意匠のうちの,本件登録意匠が登録を受けた部分(以下,「本件該当部分」と云う)に相当する部分(以下,「イ号相当部分」という)に係る意匠が,本件登録意匠に類似している為,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属するものと思料する。請求人は,当該見解に確信を持つものの,仮に被請求人がイ号意匠の構成を備える指輪を実施した場合,見解の相違によって問題が生じる可能性があるため,特許庁による厳正中立的な立場からの判定を求める次第である。』と,求めるとともに,8.まとめとして,『・・,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品が一致し,これらの意匠を特徴づける本件該当部分とイ号相当部分とに於ける形状等が,その構成態様を共通にするものであり,前述した様な構成態様における差異は需要者の注意を惹き付けるものではなく,両意匠の差異は,両意匠の共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないと云うことができる。したがって,本件登録意匠の本件該当部分とイ号意匠のイ号相当部分とは,需要者の視覚を通じて起こさせる美観を共通にして類似しているものと云うことができるから,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属するものであり,請求の趣旨どおりの判定を求める。』と主張している。
しかしながら,判定被請求人(以下,被請求人という)は,以下に述べる理由により請求人の主張を認めることができないものである。
(2)請求人は,請求人が意匠権を有する意匠登録第1382147号(以下,請求人意匠という)と,(乙第1号証参照)被請求人が意匠権を有する意匠登録第1450024号(以下,イ号意匠という)に対して,(乙第2号証参照)3.請求人意匠の説明の(a)基本的構成態様(ア)乃至(ウ),(b)具体的構成態様(エ),(オ),4.イ号意匠説明(a)基本的構成要素(あ)乃至(う),(b)具体的構成態様(え),(お)以上の項目にて対比を行い,5.請求人意匠とイ号意匠の対比の(a)共通点,(b)相違点より,請求人意匠とイ号意匠類似する意匠の範囲に属するものであるとしている。
(3)請求人は,5.請求人意匠とイ号意匠の対比より,
(a)共通点として,(ア)と(あ)とのうち,短円筒状のリング本体,および,(イ)と(い),(ウ)と(う),並びに具体的構成態様(エ)と(え)とにおいて共通するとしている。
そして,(b)相違点として,(ア)と(あ)とにおける比の具体的数値,および具体的構成態様(オ)と(お)とにおける,模様形成円輪部毎に形成されたハート形の模様の総数が,相違する。と述べているが,
上記の(表1)に示す指輪は,一般的には結婚指輪,又は,marriage ring(以下,結婚指輪という)と呼称されており,当該指輪は常に身につけているということで,一般的には,指輪の幅は3.0mm?3.5mm,厚みは1.5mm?2.0mmの甲丸又は平打ちの指輪が主流となっている。
また,指輪のサイズと,厚みにより指輪の外径寸法が異なり,日本サイズ12番の指輪は,内周:52.4mm,内径:16.7mmになる。
例えば,幅を3.0mm,厚みを1.5mmとした12番サイズの指輪は,外径:19.7mm・幅と外径の比率:約1:7・厚さと外径の比率:約1:13となり,請求人意匠,イ号意匠及び,結婚指輪は似通った比率となる。(乙第3号証参照)
(4)また,公知資料として,以下に一部図面を示す意匠登録第1461703号(以下,引用意匠という)の登録公報が公開されている。(乙第4号証参照)
当該引用意匠を,請求人意匠の(ア)の項目を(H)とし,(イ)を(I)とし,(ウ)を(J)とし,(エ)を(K)とし,(オ)を(L)として,請求人意匠,イ号意匠,及び引用意匠を対比するために夫々の項目内容を基にして以下に示す(表2)にまとめた。
これらを鑑みれば,上記(表1),(表2)の(ア)と(あ)及び(H)は,一般的に用いられている結婚指輪に近い比率であることが歴然である。
また,(表2)より,模様形成円輪部幅である(イ)と(い)及び(I)の比較に対しても,結婚指輪には古くから用いられているおおよその公知比率で,当該比率にすることで美観を向上させることができる。
(5)また,模様形成円輪部形成状態である(ウ)と(う)及び(J)の比較に対しても当該模様の形成状態が指輪の円周方向に隣り合った状態は,古くから「ミル打ち」と呼称されるデザイン形成は公知の手法である。
また,ミル打ちをローレットにて行う先行技術文献(特開2006-230632号公報,発明の名称:装飾用指輪とその製造方法)が公開されている。
<ミル打ち(ミルグレイン)とは>
ミル打ちとは,ジュエリーに細かな玉を連続して彫入れる装飾手法のことである。
そのデザインの通り,ラテン語の「千の粒」が名前の由来で古くからジュエリーによく施されてきた手法である。現在では,アンティークジュエリーでその技法をよく見ることができる。ミル打ちが入ることで,ジュエリーに繊細な印象や豪華な印象がプラスされる。
<ミル打ちを施した指輪画像>(http://www.filondor.com/knowledge/cat31/より一部抜粋して引用)
ミル打ちは,略円形の形状にて日本国内では古くから(明治時代)用いられている技法で,商品にミル打ちを施すことにより,ジュエリーの輪郭が鮮明となるとともに輪郭の中を際立たせる効果を出すための手法である。
(6)請求人意匠ハート(エ)と,イ号意匠ハート(え)の形状を比較すると,
請求人意匠ハート(エ)は,略円形状にて,平行方向の中心部の下部部分に膨らみが残っている形状である。
イ号意匠ハート(え)は,略三角形状にて,平行方向の中心部の下部部分から膨らみを減少させていく形状である。
(6-1)引用意匠ハート(K)は,略三角形状とするとともに平行方向の中心部の下部部分から膨らみを無くした形状にて,ハートの上部を隣接,下部を隣接(上下交互)させた形状である。
(6-2)上記より,模様形成円輪部模様である(エ)と(え)及び(K)は,ハートとしているが,請求人意匠ハート(エ)と,イ号意匠ハート(え)は,ハート形状は明らかに異なるものであり,非類似であると推察できる。
そして,請求人意匠ハート(エ)と,イ号意匠ハート(え)及び引用意匠ハート(K)の夫々は,非類似の形状であるのは明らかである。
(7)また,請求人は,5.本件登録意匠とイ号意匠の対比の項目(b)相違点で,「具体的構成態様(オ)と(お)とに於ける,模様形成円輪部毎に形成されたハート形の模様の総数が,相違する。」と述べているが,指輪のサイズ(乙第1号証参照)が異なればハート模様の総数も異なるのは歴然であり,例えば,指輪の厚さを1.5mmとした場合,日本サイズ10番の結婚指輪の内周:50.3mm,内径:16.0mm,日本サイズ15番の結婚指輪の内周:55.5mm,内径:17.7mmであり,以上より,日本サイズ10番の結婚指輪の外周:59.7mm,日本サイズ15番の結婚指輪の外周:65.0mmとなり,イ号意匠のハートの横幅の実質寸法は,約0.63mm,ハート間の隙間寸法約0.1mmであるからして,日本サイズ10番の結婚指輪のハート形の模様の総数:81個,日本サイズ15番の結婚指輪のハート形の模様の総数:89個である。
上記より,当該指輪のサイズが異なることで当該模様の総数も異なることは明らかであり,請求人が6.の項目(c)の類比判断にも述べているが(「ハート型の模様の数は,一見しただけではその違いは判明しない。」),ハート形の模様の総数を対比すること自体が不自然である。
(8)また,請求人は,6.のイ号意匠が請求人意匠(本件登録意匠)およびこれに類似する意匠の範囲に属する理由にて,(a)の先行周辺意匠にて,以下の公知資料を用い,公知資料1 意匠登録第1336198号,公知資料2 意匠登録第1351108号,そして,(b)の要部にて,「請求人意匠(本件登録意匠)の創作の要点は,「・・・・すなわち,その上部をリング本体の幅方向内側に向けた状態で設けた複数個のハート型の模様が,リング本体の両端部で対向した状態で設けられている点に意匠上の特徴があると云うべきである。」と,述べているが,例えば,日本食に例えるなら,請求人意匠のハートは主食のお米であって,副食物のおかずは特にこだわらないと,上記より受け取れる。
上記に反して,イ号意匠の略三角形状ハート(ミル打ち)は,副食物のおかずであって,主食のお米は,両側のハートの間に設けられた溝部である。
その根拠として,http://www.filondor.com/knowledge/cat31/には,以下に記述されている。
<ミル打ちの効果>
「ミル打ちを施す事で,ジュエリーの縁の部分をくっきりと見せる効果が得られます。これによって,全体がぐっと引きしまった印象に変わります。・・・」と書かれている。(乙第5号証参照)
上記に当てはめると,イ号意匠の指輪のデザインは,略三角形状のハートのミル打ちを指輪の両側に施すことにより,指輪の両側の縁をくっきり見せる効果があるとともに指輪の中央部に設けた溝部を引き立させ,指輪全体が一体となり引きしまったデザインの指輪となる。
もしも仮に,イ号意匠のハートを,略三角形状のハート以外の略円形状等の副食物のおかずとした場合,指輪の中央部に設けた溝部を引き立させることができない指輪デザインの指輪となる。
また,乙第1号証にも書かれているが,「甲丸リングや平内リングをベースにアレンジしたシンプルであきのこないデザインが主流です」とされ,イ号意匠はそれを基にハートのミル打ち(副食のおかず)を施すことにより,指輪中央部の溝(主食)を浮き出させる役目を担っていることから,これらを鑑み日本食に例えるなら,イ号意匠のデザインは,指輪中央部の溝(主食)と,略三角形状のハートのミル打ち(副食のおかず)を組合せればこそ混然一体の指輪(日本食)のデザインとなっているものである。
(9)以上,(表1)(表2)を基に,請求人意匠((ア)乃至(オ))と,イ号意匠(あ)乃至(お))は,
(a)幅と外径の比率,厚さと外径の比率及びリング本体形状(ア)と(あ),そして,模様形成円輪部幅(イ)と(い)は,一般的に用いられている結婚指輪及び引用意匠の(H)及び(I)に近い比率構成及び形状であることから,対比の対象外である。
(b)また,模様形成円輪部形成状態(ウ)と(う)の比較に対しても当該模様の形成状態が指輪の円周方向に隣り合った状態は,古くから「ミル打ち」と呼称されるデザイン形成は公知のデザイン手法であることから,対比の対象外である。
(c)また,模様形成円輪部の模様(エ)と(え)に対しては,双方がハートとしているが,(エ)のハート形状は略円形状であり,(え)のハート形状は略三角形状であることから,明らかに(エ)と(え)は,非類似である。
(d)更に,模様形成円輪部の模様数である(オ)と(お)に対しても模様の形成状態が指輪の円周方向に隣り合った状態は,古くから「ミル打ち」と呼称される公知のデザイン手法であることから,対比の対象外である。
以上より,上記(a),(b)及び(d)は一般的な結婚指輪のデザインとして用いられており,請求人意匠とイ号意匠は類否の対象とはならない事項であり,(c)は,略円形状と,略三角形状の形状からして,非類似と思慮されるものである。
(10)以上述べたことから明らかなように,請求人意匠は,リング本体の幅方向内側に向けた状態で設けた複数個の略円形状のハート型の模様が,リング本体の両端部で対向した状態で設けられている点に意匠上の特徴があるとしていることから,イ号意匠は,略三角形状のハート模様であるため,請求人意匠の略円形状ハート模様とは異なることはあきらかであるとともに,イ号意匠のデザインは,指輪中央部の溝と,略三角形状のハートのミル打ちを組み合わせて形成した混然一体の指輪のデザインとなっているものである。
よって,本件判定請求についてイ号意匠は,意匠登録第1382147号及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める次第である。

3.証拠方法
(1)乙第1号証 意匠登録第1382147号公報(写)
(2)乙第2号証 意匠登録第1450024号公報(写)
(3)乙第3号証 一般社団法人 日本ジュエリー協会発行のジュエリーコーディネーター検定3級(1997年4月発行)から,iv-2●ジュエリーの商品知識より,「結婚指輪」marriage ring(P189)を抜粋(写)
指輪サイズ表(写)
(4)乙第4号証 意匠登録第1461703号公報(写)
(5)乙第5号証 ジュエリーに関する基礎知識よりミル打ちの効果(写)
(http://www.filondor.com/knowledge/cat31/より)


第3 請求人の弁駁
1.弁駁の理由
(1)概論
本件登録意匠のうちの登録を受けた部分,すなわち,本件登録意匠の要部は,判定請求書で述べたように,構成要件(イ):リング本体の幅方向両端寄り部分の全周にわたり,このリング本体の幅寸法の約1/5?1/4程度の幅寸法を有する1対の模様形成円輪部が配置され,構成要件(ウ):模様形成円輪部の外周面の全周にわたり,径方向外方に突出した同一形状の複数個の模様が,円周方向にわずかな隙間を介して隣り合った状態で形成されており,構成要件(エ):複数個の模様のそれぞれがハート形であり,その上部をリング本体の幅方向内側に向けて形成されている点にある。
そして,請求書で述べたように,イ号意匠を構成する構成(い),(う),(え)は,本件登録意匠を構成する構成要件(イ),(ウ),(エ)と共通である。
被請求人は,答弁書の中で種々述べているが,本件登録意匠の上記構成要件とイ号意匠の上記構成の共通性については何ら否定していない。よって,細かな相違点はあるものの,イ号意匠のうちの本件登録意匠が登録を受けた部分に相当する部分は,本件登録意匠が登録を受けた部分と創作を共通にし,イ号意匠は,本件登録意匠に類似したものにほかならない。
よって,イ号意匠は,本件登録意匠の意匠権の範囲に属するものである。
(2)類否判断について
出願意匠についての公知意匠との対比における登録性に関するものではあるが,意匠審査基準によれば,
(2-1)部分意匠の意匠に係る物品と(公知の)意匠の意匠に係る物品とが同一又は類似であること,
(2-2)部分意匠の意匠登録出願の「意匠登録を受けようとする部分」と(公知の)意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する箇所との用途及び機能が同?又は類似であること,
(2-3)部分意匠の意匠登録出願の「意匠登録を受けようとする部分」と(公知の)意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する箇所との形態が同一又は類似であること,
(2-4)部分意匠の意匠登録出願の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品全体の形態の中での位置,大きさ,範囲と(公知の)意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する箇所の当該物品全体の形態の中での位置,大きさ,範囲とが同一又は当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであること,のすべてを具備した場合に,対比される部分意匠と他の意匠の2つの意匠の関係は類似するとされている。
本件登録意匠とイ号意匠はいずれも指輪であり,物品が同一である(要件2-1)。また,本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分(本件該当部分)とイ号意匠のうちの本件登録意匠が登録を受けた部分に相当する部分(イ号相当部分)は,その外周面の全周にわたり,径方向外方に突出した同一形状の複数個の模様が,円周方向にわずかな隙間を介して隣り合った状態で形成される1対の模様形成円輪部であり,その用途及び機能が同一である(要件2-2)。加えて,本件該当部分とイ号相当部分には,その外周面の全周にわたって,円周方向にわずかな隙間を介して隣り合った状態で形成された,径方向外方に突出した同一形状の複数個のハート形が連続する形状および模様が配されており,個々のハート形の形状やその数に若干の相違があるものの,その形態は類似である(要件2-3)。さらに,本件該当部分とイ号相当部分はいずれも,指輪全体の形態の中での位置,大きさ,範囲とが同一,或いは,被請求人が答弁書で申し述べるように,当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものである(要件2-4)。
すなわち,本件登録意匠とイ号意匠との関係は,意匠審査基準における4要件のすべてを具備するものといえる。
イ号意匠は,本件登録意匠との対比で,本件該当部分すなわちイ号相当部分以外の部分の形態に創作を認められて登録されたものであり,イ号相当部分は本件該当部分と共通である以上,イ号意匠は本件登録意匠と類似であり,その意匠権の範囲に属するというべきであって,イ号意匠は本件登録意匠をそっくりそのまま採り入れた,いわゆる利用意匠に相当するものであると思料する。
(3)以下,答弁書における被請求人の主張に対して必要箇所のみ弁駁する。
(3-1)本件登録意匠の認定について
答弁書の答弁の理由3および5(表1および表2)において,被請求人は,模様形成円輪部形成状態および模様形成円輪部模様に関して,連続する複数個の模様がハート形であることのみ認定しているが,「上部がリング本体の幅方向内側に向けて形成されたハート形」と認定されるべきものと思料する。
(3-2)公知資料について
答弁書の答弁の理由5において,被請求人は,意匠登録第1461703号公報を公知資料(乙4号証)として提出している。しかしながら,当該公報の発行日は平成25年2月12日であり,本件登録意匠の出願日(平成21年4月17日)以後である。したがって,当該公知資料は,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に際する参考資料として不適格であるといわざるを得ないものである。
(3-3)類否判断について
本件登録意匠の構成要件のうち,構成要件(ア):幅と外径の比が1:5程度で,厚さと外径との比が2:25程度である短円筒状のリング本体からなる点については,被請求人が述べる通り,指輪としてありふれた形態である。イ号意匠の構成(あ)との間における比率の相違は,被請求人が述べる通り,それぞれの比率が帯状円環型の指輪の基本的な構成比率の範囲内にあることから,本件登録意匠とイ号意匠との類否判断に何らの影響も及ぼさない程度にとどまるものといえる。
次に,本件登録意匠の基本的構成態様のうち,本件登録意匠を特徴づける,構成要件(イ):リング本体の幅方向両端寄り部分の全周にわたり,このリング本体の幅寸法の約1/5?1/4程度の幅寸法を有する1対の模様形成円輪部が配置され,構成要件(ウ):模様形成円輪部の外周面の全周にわたり,径方向外方に突出した同一形状の複数個の模様が,円周方向にわずかな隙間を介して隣り合った状態で形成されている点については,本件登録意匠およびイ号意匠が属する帯状円環型の公知意匠について調査した限り。このような基本的構成態様を示す意匠は存在していない(甲4号証,甲5号証参照)。
すなわち,「ミルグレイン(ミル打ち)」と称呼されるデザイン形成が公知の手法であるとしても,「ミルグレイン」は,被請求人の述べる通り,円周方向にわたる「細かな玉の連続」であって,リング本体の幅方向片端部,両端部ないしは中央部において,リング本体の幅方向の約1/10?1/8程度の大きさで全周にわたって形成されるものであって,玉以外の具体的な模様が連続する形態とは異なる。
したがって,「ミル打ち」と称呼されるデザイン形成が公知の手法であるとしても,指輪の幅方向両端部に円周方向にわたって,幅方向の1/5?1/4程度の具体的な模様とを伴ったミルグレインを形成するという意匠効果を初めて指輪に具現化したのは,本件登録意匠であるということができる。
被請求人は,引用不適格な資料1点に基づいて,本件登録意匠の構成要件(イ),(ウ)が公知であると述べているが,これは全く根拠のない主張である。そして,被請求人自ら認めるように,イ号意匠の構成(い),(う)は,本件登録意匠の構成要件(イ),(ウ)と共通であり,イ号意匠は,当該構成要件を具備する。
また,構成要件(エ):模様がハート形であり,その上部をリング本体の幅方向内側に向けて形成されている点について,本件登録意匠の個々のミルグレインのハート形状と,イ号意匠の個々のミルグレインのハート形状との間には,下半部の形状にわずかな相違があるといえる。
しかしながら,意匠の類否判断は,その主体を需要者および取引者(意匠法第24条第2項)を基準に,実際の取引の場面において美感を共通するか否かという基準に基づいて行われるものである(意匠審査基準参照)。すなわち,需要者は,指輪を手に取り,肉眼観察かつ全体観察でその美感を捉えるのである。指輪の美感を判断するに際して,需要者はルーペによりミルグレインの個々の形状を観察するのではなく,ミルグレインの模様の配設態様を含めて比較考察するものといえる。本件登録意匠のうち,指輪の幅方向両端部の模様形成円輪部に,複数のハート形のミルグレインが多数連続するという,構成要件(イ),(ウ),(エ)を一体的に看取し,そこから美感を需要者は体得するのである。
すなわち,被請求人が答弁書の答弁の理由の6および7に例示するような,指輪の一部を切り出して,そこを拡大して観察して,指輪の美感を看取することはない。
特に,単なる「細かな玉の連続」ではない,ハート形という具体的な模様を伴ったミルグレインの意匠は,本件登録意匠で初めて実現されたものである。すなわち,重要者は,公知の単なる「細かな玉の連続」によるミルグレインではなく,ハート形が連続するミルグレインに本件登録意匠により初めて接し,かつ,そこに強烈な美感を感受することができたといえる。指輪のモチーフとしてのハートは従来からあるものであるが,あくまでも単一または数個のハートの大きな模様として施されるのであって,ミルグレインにハート形という具体的な模様を採用しようと企図し実現したのは,本件登録意匠が初めてである。したがって,このハート形のミルグレインは高い創作性を具備するものといえる。
そうであるならば,本件登録意匠の構成要件(イ),(ウ),(エ)とイ号意匠の構成(い),(う),(え)が一致することによる美感の共通性は,個々のミルグレインの一部の形状の不一致に起因する相違を遙かに凌駕するものということができる。
なお,ミルグレインの個数に関する本件登録意匠の構成要件(オ)とイ号意匠の構成(お)の相違は,被請求人が述べるとおり,指輪としてありふれた数の範囲にあり,「多数の」という括りで捉えられるべきものであって,その相違は類否判断に影響を及ぼすものではないといえる。
以上のように,本件登録意匠の要部は,構成要件(イ),(ウ),(エ)にあり,被請求人も認めているとおり,イ号意匠の構成(い),(う),(え)は共通する。よって,イ号意匠は,本件登録意匠の要部を具備する。
一方,本件登録意匠の構成要件(ア)および(オ)と,イ号意匠の構成(あ)および(お)における相違は,何れも指輪としてありふれた範囲内であり,これらの意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
そして,本件登録意匠の構成要件(エ)とイ号意匠(え)との間における個々のミルグレインのハート形状の相違については,意匠の特徴は,指輪の幅方向両端部に模様形成円輪部が設けられ,そこに多数のハート形のミルグレインを連続させている点にあり,この構成から得られる美感は,個々のミルグレインのハート形の相違を遙かに凌駕するものである。本件登録意匠とイ号意匠との類否判断における,ハート形の詳細部分に関する相違点の影響は,ごく小さいものにとどまり,上記要部の認定を妨げるものではない。
また,指輪の幅方向両端部に模様形成円輪部を設け,そこに多数のミルグレインを連続させるという基本的構成態様自体が新規であることもあいまって,需要者は,ハート形のミルグレインが連続している点に美感があると捉えるのであり,よって,その構成を共通することに起因して,イ号意匠からは本件登録意匠と共通する美感を看取するということができる。
この点について,本件登録意匠とイ号意匠との類否判断を行う際,意匠登録第1435821号公報(甲第6号証)の本意匠と,意匠登録第1435919号公報(甲第7号証)の関連意匠との関係が参考になると考えられる。甲第6号証に係る登録意匠(本意匠)は,環状に形成された指輪本体の外周面略中央位置に,周方向に沿って凸状のハート模様(大)と,該ハート模様より大きさを小さくした凸状の円模様(小)を交互に連続して設けた部分について登録を受けている。一方,甲第7号証に係る登録意匠(関連意匠)は,環状に形成された指輪本体の外周面略中央位置に,周方向に沿って凸状のハート模様(大)と,該ハート模様より大きさを小さくした凸状のハート模様(小)を交互に連続して設けた部分について,本意匠と類似することを前提に,登録を受けている。すなわち,甲第7号証に係る登録意匠を構成するハート模様(小)と甲第6号証に係る登録意匠を構成する円模様(小)とが異なっていても,両意匠同士は類似関係にあると認定されており,大きなハート模様のミルグレインと小さな任意の模様のミルグレインが交互して連続するという意匠上の特徴か,個々のミルグレインの形状の相違点を陵駕し,このような相違点が,対比される意匠の類否判断に及ぼす影響がきわめて小さいことを示唆しているといえる。
なお,被請求人は,答弁の理由9において,イ号意匠の構成(あ)?(お)とその他の部分(指輪幅方向中央部の溝)の構成とが渾然一体であるとの主張をしているが,「渾然一体」なる四字熟語は,「全体が溶けあって一つのものになること」という意味であって,指輪幅方向中央部の溝の形状や模様と,ハートのミルグレインが連続する指輪の幅方向両端部の形状や模様が,たとえば連続していたり,両者で一つの形状や意匠を構築し,分離して観念したりすることができないような状態を意味するものである。よって,イ号意匠からも,指輪の幅方向両端部の模様形成円輪部の意匠のみを抽出して,たとえば部分意匠とすることが可能であり,指輪の幅方向中央部と区別し得る態様において存在する以上,両者が渾然一体ということができないことは明らかである。
イ号意匠は,全体意匠であることから,イ号意匠から公知意匠ないしは先願意匠に該当する本件登録意匠の存在は,その審査において考慮されていない。しかしながら,イ号意匠における,幅方向中央部の溝の形状はきわめてありふれた周知の形状であって,本来的には,本件登録意匠の意匠登録を受けた部分以外の部分に対して,このような周知形状を採用することは,創作容易であるということもできる。いずれにせよ,イ号意匠は,本件登録意匠をそっくりそのまま内包するものである以上,本件登録意匠とは別に登録を受けているとしても,本件登録意匠をそっくりそのまま内包する以上,先願に係る本件登録意匠の意匠権の範囲に属し,その排他的権利に服すべきものであるということができる。
以上から,答弁書の中で,被請求人は,イ号意匠の構成(あ)?(お)がいずれも本件登録意匠の構成要件(ア)?(オ)を実質的に具備していることを認めているといえる。
そして,本件登録意匠の各構成要件が公知であるとの主張は,不適格な1つの資料のみに基づいているといえる。すなわち,特に本件登録意匠の特徴である構成要件(イ),(ウ),(エ)が公知ないしは創作容易である旨の主張立証は実質的になされていない。したがって,イ号意匠は,本件登録意匠の創作の要部である構成要件(イ),(ウ),(エ)を具備することは明らかであり,かつ,すべての構成要件も具備していることを被請求人が自ら認めている以上,本件登録意匠と類似であり,その意匠権の範囲に属することは明らかである。

2.証拠方法
(1)甲第4号証 意匠公報テキスト検索結果(意匠分類:B3430CA)
(2)甲第5号証 意匠公報テキスト検索結果(Dターム:B343)
(3)甲第6号証 意匠登録第1435821号公報
(4)甲第7号証 意匠登録第1435919号公報


第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1382147号の意匠)は,部分意匠として意匠登録を受けようとして,平成21年(2009年)4月17日に意匠登録出願され,平成22年(2010年)2月12日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,その願書の記載及び願書に添付されたひな形によれば,意匠に係る物品を「指輪」とし,その形態は,願書及び願書に添付されたひな形に現されたとおりのものであり,「黒色で塗った部分以外の部分が部分意匠として意匠を受けようとする部分である。」(以下,本件登録意匠について部分意匠として意匠登録を受けようとする部分の意匠を「本件登録意匠部分」という。)としたものである。(別紙第1参照)(被請求人が提出した乙第1号証)
すなわち,本件登録意匠部分において,その用途及び機能は,指輪の装飾部分であって,その位置,大きさ,及び範囲は,指輪の裏面側全体と平面側の上縁部と底面側の下縁部及び,表面側の外周において上下中央に設けられた帯状部分(以下,「帯状部分」という。)を除いた正面視した上下の高さの略1/4ずつの周縁部分であって,その部分の形態は,全体を短円筒形状の薄い板状を輪にした指輪において,全体であるリング状の本体部(以下,「リング本体部」という。)の上縁部と下縁部,及び裏面全体を無地としたもので,表面側を正面視するとリング本体部は,縦横比を約1:5.5とし,中央の帯状部分を挟んで上下に略1/4ずつの周縁部分を設け,小さな凸状のハート形の模様(以下,この部分を「ハート形模様」という。)を多数一列に配した模様部(以下,この部分を「周縁模様部」という。)を設けたものであって,周縁模様部は,外周面が内側寄りに大きく傾斜し,帯状部と僅かに段差状に形成され,周縁模様部においてハート形模様が,中央の帯状部分に向かって,上側の列は下向きに,下側の列は上向きに,上下対称に設けられたものである。上下の周縁模様部において,略横長楕円形状の丸いハート形模様を左右が接するように,それぞれ59個ずつ配したものである。

2.イ号意匠
イ号意匠は,判定請求書に添付されたイ号意匠の図面及び説明に示されたとおりのものである。(請求人が提出した甲第1号証 別紙第2参照)
イ号意匠は,平成23年(2011年)8月12日に特許庁に意匠登録出願(意願2011-18535号)され,平成24年(2012年)8月3日に意匠権の設定の登録がなされたもの(意匠登録第1450024号)であり,平成24年(2012年)9月3日に意匠公報が発行されたもので,その意匠公報に記載された図面によれば,意匠に係る物品を「指輪」とし,その形態は,意匠公報に掲載された図面に表されたとおりのものである。(以下,イ号意匠において本件登録意匠部分に相当する部分の意匠を「イ号意匠相当部分」という。)
なお,イ号意匠相当部分を本件登録意匠部分と対比するため,イ号意匠相当部分の向きを本件登録意匠部分の向きに合わせて,以下,両意匠部分(以下,本件登録意匠部分とイ号意匠相当部分とを「両意匠部分」という。)を対比して観察する。
すなわち,イ号意匠相当部分において,その用途及び機能は,指輪の装飾であって,その位置,大きさ,及び範囲は,指輪の裏面側全体と平面側の上縁部と底面側の下縁部及び,表面側の外周において上下中央に設けられた帯状部分を除いた正面視した上下の高さの略1/5ずつの周縁模様部であって,その部分の形態は,全体を略短円筒形状の薄い板状を輪にした指輪において,全体であるリング本体部の上縁部と下縁部,及び裏面全体を無地としたもので,表面側を正面視するとリング本体部は,縦横比を約1:7.5とし,中央の溝部を有する帯状部分を挟んで上下に略1/5ずつの周縁模様部を設け,小さな凸状のハート形模様を多数一列に配した周縁模様部を設けたものであって,周縁模様部は,外周面が上下端部において内側寄りに僅かに傾斜し,帯状部と大きく段差状に形成され,周縁模様部においてハート形模様が,中央の帯状部分に向かって,上側の列は下向きに,下側の列は上向きに上下対称に設けられたものである。上下の周縁模様部において,僅かに縦長の端部が尖ったハート形模様を左右が接するように,それぞれ90個ずつ配したものである。

3.両意匠の対比
両意匠を対比すると,いずれも「指輪」に係るものであり,意匠に係る物品が一致し,そして,本件登録意匠部分とイ号意匠相当部分の用途及び機能は,ともに指輪の装飾部分であって共通し,その位置,大きさ,及び範囲は,指輪の上縁部と下縁部,及び裏面全体を含み,表面側の外周において上下中央に設けられた帯状部分を除いた,上下の周縁模様部であって共通し,両意匠部分の形態については,主として以下の共通点と差異点が認められる。
(1)両意匠部分の形態の共通点
(a)部分全体を,略短円筒形状の薄い板状を輪にした指輪において表面側中央の帯状部分を除いた部分とし,リング本体部の上縁部と下縁部及び裏面全体を無地としたもので,中央の帯状部分を挟んで上下に周縁模様部を設けた点,(b)周縁模様部は,小さな凸状のハート形模様を多数一列に配したものであって,周縁模様部においてハート形模様が上側の列は下向きに,下側の列は上向きに上下対称に設けられたものである点,(c)周縁模様部において,ハート形模様を左右が接するように,それぞれ多数配している点,において主に共通する。
(2)形態の差異点
(ア)周縁模様部が全体に占める割合について,本件登録意匠部分は,正面視したリング本体部の上下の高さの略1/4ずつであるのに対して,イ号意匠相当部分は,略1/5ずつである点,また,(イ)ハート形模様の形状について,本件登録意匠部分は,略横長楕円形状の丸いハート形であるのに対して,イ号意匠相当部分は,僅かに縦長の端部が尖ったハート形である点,(ウ)正面視したリング本体部の縦横比について,本件登録意匠部分は,約1:5.5としているのに対し,イ号意匠相当部分は,約1:7.5としている点,(エ)周縁模様部の外周面の上下端部の態様について,本件登録意匠部分は,周縁模様部の外周面が内側寄りに大きく傾斜し,帯状部と僅かに段差状に形成されているのに対して,イ号意匠相当部分は,周縁模様部の外周面が内側寄りに僅かに傾斜し,帯状部と大きく段差状に形成されている点,(オ)上下の周縁模様部のハート形模様の数について,本件登録意匠部分は,59個ずつであるのに対して,イ号意匠相当部分は,90個ずつである点,に主な差異がある。

4.類否判断
そこで,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,本件登録意匠の出願前に存する公知意匠等を参酌し,新規な態様や需要者の注意を最も惹き易い部分を考慮した上で,共通点と差異点が意匠全体として両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,検討する。
両意匠は,意匠に係る物品が一致し,そして,両意匠部分の用途及び機能は,ともに指輪の装飾部分であって共通し,その位置,大きさ,及び範囲は,指輪の上縁部と下縁部,及び裏面全体を含み,表面側の外周において上下中央に設けられた帯状部分を除いた,上下の周縁模様部であって共通する。
(1)形態の共通点の評価
まず,両意匠部分における形態の共通点が類否判断に及ぼす影響について検討する。
共通点(a)について,部分全体を,略短円筒形状の薄い板状を輪にした指輪において表面側中央の帯状部分を除いた部分とし,リング本体部の上縁部と下縁部及び裏面全体を無地としたもので,中央の帯状部分を挟んで上下に周縁模様部を設けた態様は,本件登録意匠の出願前に既に見受けられ(例えば,特許庁意匠課公知資料番号第HA12013598号の指輪の意匠(参考意匠1:別紙第3参照)),この種の指輪の分野においては,ありふれた態様といえるもので,両意匠部分のみに共通する新規な構成態様とはいえず,格別の特徴ともいうことができず,両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
共通点(b)について,ハート形を指輪のモチーフに用いることは,この種の指輪などの分野においては,広く知られたありふれた態様といえるものであり,両意匠部分のみに見られる特徴とはいうことができない。また,中央の帯状部分を挟んで上下に周縁模様部を設けた態様についても,前記共通点(a)で述べたとおり,本件登録意匠の出願前から見られるありふれた態様といえるものである。周縁模様部においてハート形模様が上側の列は下向きに,下側の列は上向きに上下対称に設けられたものである点については,結婚指輪などに用いられるシンプルな略短円筒形状の薄い板状を輪にした態様である,この種の指輪において,表面の模様部を上下対称とすることは,ごく普通に見られるありふれた態様といえるものであり,上下対称の模様部を有するものが本件登録意匠の出願前に既に見受けられ(例えば,意匠登録第912625号の意匠(参考意匠2:別紙第4参照)),周縁模様部における模様が上下対称という共通点が両意匠部分の特徴を形成する程のものとはいえないものであるから,両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は大きいものとはいうことができない。
共通点(c)について,この種の指輪の分野において,ハート形模様を左右が接するように多数配した態様は,本件登録意匠の出願前に既に見受けられ(例えば,意匠登録第1058720号の意匠(参考意匠3:別紙第5参照)),両意匠部分のみに共通する特徴とはいえず,上下の周縁模様部にハート形模様を多数配した共通点があるとしても,その個数も異なるものであり,それが両意匠部分の特徴を形成するほど顕著なものとはいえず,ありふれた態様の中での部分的な共通点に留まる範囲といえ,両意匠部分の印象を左右するほどのものとはいえないから,共通点(c)が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は小さいものというほかない。
そうすると,これらの共通点に係る態様は,従来から見られるありふれた態様に過ぎないものといえ,または,公知意匠を参酌すれば,両意匠部分のみに共通する特徴的な態様とはいえないものであり,両意匠部分の類否判断を決定付けるものとはなり得ない。
(2)形態の差異点の評価
次に,両意匠部分の形態における差異点が類否判断に及ぼす影響について検討する。
差異点(ア)について,周縁模様部が全体に占める割合について,本件登録意匠部分の割合がイ号意匠相当部分より大きい点は,特段の特徴ではないが,本件登録意匠部分の模様部が結果的に大きく目立つものとなり,この種の装身具において,この模様部は,需要者の注意を特に強く惹く部分であるから,両意匠部分の類否判断に影響を与えるものといえる。
差異点(イ)について,ハート形模様の形状が略横長楕円形状の丸いハート形である本件登録意匠部分は,全体が丸い緩やかな印象であるのに対して,僅かに縦長の端部が尖ったハート形であるイ号意匠相当部分は,略三角形状に近い硬い印象を与えるものであり,この種の指輪を実際に購入する際には,需要者が,その模様の具体的な形状についても注意を払うものであるから,いずれの態様も,当該部位を観察した場合の印象が少なからず異なり,その差異が両意匠部分の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
差異点(ウ)の全体の縦横比についても,本件登録意匠部分がやや高さがあって周縁模様部が目立つ態様であるのに対して,イ号意匠相当部分は,高さが低めで周縁模様部が小さい印象を与えるものであり,両意匠部分は,需要者にとって印象が異なるものといえ,両意匠部分の類否判断に与える影響は大きいものといえる。
差異点(エ)の周縁模様部の外周面の上下端部の態様について,段差状に形成することは,従来から普通に見受けられる態様ではあるが,イ号意匠に見られる周縁模様部が帯状部と大きく段差状に形成された態様は,需要者の目に付き易い部分であり,目立つものといえ,段差状が僅かで,傾斜が大きい本件登録意匠部分の態様とは印象が明確に異なり,需要者の注意を惹く部分といえ,この点における差異が両意匠部分の類否判断に与える影響は大きいものといえる。
差異点(オ)のハート形模様の数について,需要者によってサイズの異なる指輪において,周縁模様部においてある程度の模様の数の違いは普通に存在し,例えば男性用か女性用かでも異なるものではあるが,59個と90個では,明らかにその印象が異なるものといえ,また,ハート形模様の大きさ自体にも影響を与えるものであるから,両意匠部分の類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。
(3)小括
そうして,これらの形態の共通点と差異点を総合すれば,形態の共通点に係る態様が両意匠部分にのみ共通する特徴とはいえないものであるのに対して,形態の差異点の態様は,両意匠部分の類否判断に大きな影響を及ぼすものといわざるを得ず,両意匠部分は,類似するものとはいえない。
したがって,本件登録意匠とイ号意匠は,意匠に係る物品が一致し,両意匠部分の用途及び機能,並びに,その位置,大きさ,及び範囲は,共通するが,両意匠部分の形態については,イ号意匠相当部分は本件登録意匠部分の特徴的な態様を有さず,共通点よりも差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果の方が両意匠部分の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから,両意匠は,全体として需要者に与える美感が異なるものであって,類似するということはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2014-11-17 
出願番号 意願2009-10379(D2009-10379) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (B3)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 富永 亘 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 中田 博康
江塚 尚弘
登録日 2010-02-12 
登録番号 意匠登録第1382147号(D1382147) 
代理人 特許業務法人貴和特許事務所 
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