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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立成立) D2 |
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管理番号 | 1300604 |
判定請求番号 | 判定2014-600033 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2014-07-28 |
確定日 | 2015-05-12 |
意匠に係る物品 | ロッカー用ダイヤル錠付き把手 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1065351号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | イ号図面及びその説明により示された「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」の意匠は,登録第1065351号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨及び理由の要点 1 請求の趣旨 本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,「イ号図面並びにその説明書に示す意匠(当審注:以下「イ号意匠」という。)は登録第1055351号意匠(当審注:1065351の誤記と認める。以下「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める。」と申し立て,判定請求書,及び平成27年1月28日付け上申書において,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,添付物件を提出した。 2 判定請求の必要性 請求人は,イ号意匠を販売しているが,これに関して被請求人(株式会社クローバー)より,本件登録意匠の意匠権を侵害するものである旨の警告を受けた(甲1号証)。そこで,請求人は,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するかどうかの判断を専門的知識を有する特許庁に求めるべく,本件判定を求める。 3 本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)との比較説明 (1)両意匠の共通点 ア 両意匠の意匠に係る物品は「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」である。 イ 基本的な構成態様において,正面視縦長長方形状のプレートと,当該プレートの背面側に配置される略直方体状の箱体とから構成され,プレートは正面視,右半分に把手となる手懸部が配置され,左半分につまみとダイヤル錠が上下に並んで配置され,箱体は背面視中央右側にラッチボルトが配置されて,ラッチボルトの上方に掛け留め金具が配置されている。 ウ 具体的構成態様において,以下の点で共通する。 (ア)手懸部は,縦長の略直方体の凹部により形成され,正面視右内側面は背面に向かって中央に向かう緩やかな傾斜が形成されるとともに,当該傾斜の開口縁部分は段差が形成されている。 (イ)つまみは,円筒体からなり水平軸に軸支固定されている。 (ウ)ダイヤル錠は,扁平な円筒体からなるホイールを4つ上下に間隔をあけて並べられ,それぞれの円筒体の前面側の一部が,プレート前面に設けられた長方形状の穴から表出するように配置されるとともに,各ホイールの外周面には上下に到る10の凸条が等間隔で配置され,ダイヤル錠が配置されるプレート部分は,略扁平なかまぼこ状に突出している。 (エ)箱体は,手懸部の内側面の傾斜の裏面側が当該傾斜に平行な傾斜面を形成し,当該傾斜面の上下に係止のための弾性爪が設けられ,当該傾斜面の対向する面に細長い凸条からなる固定のための爪が設けられている。 (オ)掛け止め金具は長方形状の角部にRが形成された板体からなる。 (カ)ラッチボルトは背面視左底面が閉じられた角筒であり内部に略角柱状のボルトが出没可能に固定されている。 (2)両意匠の相違点 ア 基本的構成態様において,本件登録意匠には正面視上端に名札入れが設けられているのに対して,イ号意匠には名刺入れが設けられていない。 イ 本件登録意匠のつまみは,円筒部分はプレート前面に設けられた円筒状の凹部内にほぼ嵌っており,当該円筒体の前面側に直径に沿って略直方体状のブロック体がRを介して滑らかに一体に形成される。そして,ブロック体の一端側前面には棒状の印が描かれ,当該印が正面視左45度の位置から左45度の位置に渡って回動でき,プレートのつまみ近傍右45度上方及び左45度上方には,一の角がつまみに向かう三角状の図形が描かれている。 一方,イ号意匠のつまみは,円筒部分は,プレート前面に突出しており,当該円筒体の前面は平らで中央に鍵穴が形成されるとともに,外周に前後に延びる溝が外周面に沿って形成されたリングが嵌められ,左右に180度回動できる。プレートのつまみ周りに円形リング状の低い凸部が形成され,当該凸部上方に,円弧状の穴が設けられるとともに,当該穴内部底面はつまみの回転に応じて開錠時には緑色に,施錠時には赤色になるように形成され,さらに,当該穴の正面視右側に円弧状の矢印と開錠を示す緑のマークが配置され,当該穴の左側に円弧状の矢印と施錠を示す赤いマークが配置されている。 ウ 箱体は,本件登録意匠は掛け止め金具を覆うカバーが設けられ,下端中央から上方に延びる断面V宇状の溝が形成されているのに対して,イ号意匠には当該掛け止め金具を覆うカバー及び断面V字状の溝は形成されておらず,また,背面視右下に略直方体状の凹所が形成されている。 エ イ号意匠には,箱体背面にダイヤル錠の番号をリセットするリセット用つまみ及びダイヤル錠の開錠番号を見つけ出すためのレバーが設けられているのに対して,本件登録意匠にはこれらのリセット用つまみ及びレバーが設けられていない。 4 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない理由の説明 (1)本件登録意匠に関する先行周辺意匠 公知資料1?12(後述の「6 証拠方法及び添付物件」を参照)。 (当審注:請求人は,公知意匠12を本件登録意匠に関する先行周辺意匠として挙げているが,公知意匠12の意匠公報の発行日は平成11年1月8日であり,本件登録意匠の出願日よりも後である。) (2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察 ア 両意匠の基本的構成態様における共通点に関し,正面視縦長長方形状のプレートと,当該プレートの背面側に配置される略直方体状の箱体とから構成される点,箱体は背面視中央右側にラッチボルトが配置されて,ラッチボルトの上方に掛け留め金具が配置されている点は,周辺意匠からわかるとおり意匠に係る物品の基本的な形態であるため両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。一方,手懸部,つまみ,ダイヤル錠の配置が共通する点は両意匠の類否判断に少なからず影響を与えるものである。 イ 両意匠の具体的構成態様において,手懸部の形状は公知資料1乃至5に示されるように極めて一般的であり,両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。つまみが円筒体からなる点公知資料6乃至9からわかるように,つまみの形態の基本的なものであり両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。ダイヤル錠も公知意匠6乃至12からわかるように特徴のあるものとはいえず,両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。箱体が傾斜を有し係止のための爪を有する点も,公知資料1乃至4からわかるように一般的な構成であり両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。掛け止め金具及びラッチボルトの形態はロッカー錠として一般的なものであって両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。 ウ 両意匠の基本的構成態様における相違点である,名札入れの有無は正面の上部であり,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。 エ 両意匠の基本的構成態様におけるつまみの相違は,正面に位置し使用者が常に操作する部分であり,イ号意匠のつまみは,円筒にすべり止めのためのリングを嵌めているという特徴的な形態を有し,鍵穴の存在やつまみ上部の開錠施錠により色の変わる穴も観者の注目を引く部分であることから,つまみの形態の相違は両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。また,背面の箱体において掛け金具を覆うカバーの有無,リセットつまみの有無,レバーの有無,下部中央のV溝の有無,右下の凹所の有無は一見して認識されるものであり,ロッカー扉の裏側に表れるものであったとしても,リセットつまみやレバーは使用者が必要に応じて操作するものであるため,背面側のこれらの相違が両意匠の類否判断に与える影響は決して小さくはないものである。 オ 以上の認定から両意匠の類否を全体的に考察すると,手懸部,つまみ,ダイヤル錠の配置が共通する一方で,名札入れの有無,つまみの相異は顕著なものであり,背面の形態の相異も無視できないものであることから,これらの相違点が類否判断に与える影響は,共通点が類否判断に与える影響を凌駕しており,意匠全体として見た場合,視覚的印象を異にするものであるから,イ号意匠は,本件登録意匠に類似するものとすることはできない。 なお,本件登録意匠には,類似意匠の意匠登録(資料2)がなされており,これは名札入れを有さないものである。このことより,名札入れの有無のみの相異では,共通点を凌駕することはできないことが推認されるが,客観的に名札入れの有無が視覚に与える影響は大きいことから,これは他の形態の差異が同じ又は微差である場合に限定されると解するべきである。この証左として,本件登録意匠の後願として出願されている登録意匠(甲2号証)は,ロッカーに使用されるものであることから物品は共通し,手懸部,つまみ,ダイヤル錠の配置は,本件登録意匠と同じであるにも係らず登録されており,これは,名札入れがなく,手懸部の形態が大きく異なるものであることが主たる理由であると解されることからも首肯できるものである。 (3)結び よって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないので,請求の趣旨どおりの判定を求める。 5 平成27年1月28日付け上申書の内容 ロッカーを含む家具における把手を縦に長い矩形状とすることは,本件登録意匠の出願前の公知意匠において既に多数採用されており(公知意匠1?5),ありふれている。そして,正面視において,4個のダイヤルを縦に等間隔に並べ,その上側につまみ部,右側に手懸部を設けた意匠として,本件登録意匠の出願後に登録された,意匠登録第1355146号(甲第2号証。以下,「後願登録意匠1」という。),意匠登録第1442053号(甲第2号証の2。以下,「後願登録意匠2」という。),及び意匠登録第1499492号(甲第2号証の3。以下,「後願登録意匠3」という。)などがある。これらの後願登録意匠1ないし3が,本件登録意匠とは非類似と判断された結果,登録されたのは,上記のとおり,正面視において4個のダイヤルを縦に等間隔に並べ,その上側につまみ部,右側に手懸部を設けた意匠の構成がありふれており,意匠の要部を構成しないためである。 後願登録意匠1?3に鑑みれば,本件登録意匠及びその類似意匠の要部は,いずれもつまみ部の形状にあると解すべきである。すなわち,正面視におけるつまみの右上約45度の方向及び左上約45度の方向に設けられた矢尻状の印も,つまみの停止位置を示すという機能に必要な大きさよりも著しく大きいことから,この点も看者に独特の美感を与えるものといえる。 一方,イ号意匠にかかるダイヤル錠は,つまみ部に鍵穴が設けられている点に特徴があり,1つの部品に2つの機能が融合されていることによる機能美を感じさせる構成であるから,鍵穴が設けられていないつまみとは顕著に異なる美感を看者に与えるものである。 以上のとおり,判定請求書のイ号図面及びその説明書に示す意匠は,いずれも,本件登録意匠及びこれに類似する意匠とは非類似というべきである。 6 証拠方法及び添付物件 (1)判定請求書に添付したもの ア イ号図面並びに説明書 イ 甲第1号証 請求人が被請求人から受けた警告状 ウ 甲第2号証 本件登録意匠の後願に係る 意匠登録第1355146号の意匠公報の写し (発行日:平成21年4月6日) エ 資料1 意匠登録第1065351号の意匠公報の写し (発行日:平成12年3月27日) オ 資料2 意匠登録第1065351号の類似意匠登録 第1号の意匠公報の写し (発行日:平成12年3月27日) カ 公知資料1 意匠登録第607053号の意匠公報の写し (発行日:昭和58年8月18日) キ 公知資料2 意匠登録第572275号の意匠公報の写し (発行日:昭和57年3月6日) ク 公知資料3 意匠登録第607797号の意匠公報の写し (発行日:昭和58年9月1日) ケ 公知資料4 意匠登録第901977号の意匠公報の写し (発行日:平成6年6月28日) コ 公知資料5 意匠登録第358373号の意匠公報の写し (発行日:昭和48年1月26日) サ 公知資料6 意匠登録第780378号の意匠公報の写し (発行日:平成2年1月29日) シ 公知資料7 意匠登録第1046953号の意匠公報の写し (発行日:平成11年8月19日) ス 公知資料8 意匠登録第969311号の意匠公報の写し (発行日:平成8年11月29日) セ 公知資料9 意匠登録第1049456号の意匠公報の写し (発行日:平成11年9月20日) ソ 公知資料10 意匠登録第585802号の意匠公報の写し (発行日:昭和57年10月18日) タ 公知資料11 意匠登録第973279号の類似意匠登録 第1号の意匠公報の写し (発行日:平成9年2月6日) チ 公知資料12 意匠登録第1029249号の意匠公報の写し (発行日:平成11年1月8日) (2)平成27年1月28日付け上申書に添付したもの ア 甲第2号証の2 意匠登録第1442053号の意匠公報の写し (発行日:平成24年5月28日) イ 甲第2号証の3 意匠登録第1499492号の意匠公報の写し (発行日:平成26年6月9日) 第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点 1 答弁の趣旨 被請求人は,「イ号図面並びにその説明書に示す意匠は,登録第1065351号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をした。 2 被請求人の主張 (1)判定請求人における本件登録意匠及びイ号意匠の形態の要旨の認 定,さらには,先行周辺意匠を参照して行われた類否の考察は的確なものとはいえず,判定請求人の判断には首肯できない。 被請求人は,イ号意匠は本件登録意匠に類似するものであり,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,と思料する。以下,請求人において示した公知資料1?12を参酌し,また,本件登録意匠の類似意匠の存在を考慮して,本件登録意匠及びイ号意匠の構成態様を的確に認定し,本件登録意匠とイ号意匠との類否に論及する。 (2)本件登録意匠の構成態様について ア 意匠に係る物品について 本件登録意匠の「意匠に係る物品」は,「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」である。この物品は,願書の「意匠に係る物品の説明」に記載されているように,ロッカーの扉に取り付けられ,施錠のための暗証番号を自在に設定できるダイヤル錠を一体に備えたものである。本件登録意匠の出願当時,ダイヤル錠が一体化されたロッカー用の把手として,判定請求人が提出した資料12の登録第1029249号があるが,この登録意匠は,本件登録意匠とは形態が根本的に異なるものである。 意匠に係る物品の「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」は,本件登録意匠の出願当時において,新品種の商品であるとまでは言えなくても,少なくとも,同種類の物品が市場に数多く出ていた,という事実はない。 以上のことから,本件登録意匠はその形態がかなり斬新なものであり,特有の美感を生じさせ,類似の幅は相応に広く考えるべきものである。斬新なものほど意匠の類似の幅が広い,というのは意匠の類似判断の原則である。本件登録意匠の基本的な構成態様及び具体的な構成態様は,上記の事実を基にして,的確に認定されるべきである。 イ 本件登録意匠の基本的な構成態様について 上記した観点から本件登録意匠の基本的な構成態様を認定すると,以下のとおりである。 (ア)手懸部を有する筐体にダイヤル錠の機構が一体に組み込まれている。 (イ)矩形状をなす前面プレートに手懸部とダイヤル錠の操作部とが横並びに設けられている。 (ウ)ダイヤル錠の操作部には複数個のダイヤルと1個のつまみとが設けられている。 (エ)後面部分につまみと一体に回動する掛止め金具とラッチボルトとが存在する。 ウ 本件登録意匠の具体的な構成態様について 本件登録意匠の具体的な構成態様は,上記した基本的な構成態様を基礎とし,本件登録意匠の要部が明らかとなるように的確に認定する必要がある。 ところで,ロッカー用ダイヤル錠付き把手はロッカーの扉にはめ込まれて取り付けられる。意匠登録第1065351号公報の図面に使用状態の参考図が示されているとおり,物品の前面部分,すなわち,前面プレートのみが扉の前面に現れ,後面部分,側面部分,上面部分,底面部分は表に現れない。物品に見所となる面があれば,意匠の類否判断に際して,その見所となる面(本件登録意匠では前面部分)は大きなウェイトをもって判断される。例えば,壁面にはめ込まれて使用されるクーラーの意匠では,背面,側面,上下面はほとんど無視される。 ロッカー用ダイヤル錠付き把手も前面部分が見所であることは明らかであり,後面,側面,上下面はほとんど無視される。したがって,前面部分以外は意匠の要部,すなわち,新規な形状として需要者の注意を惹く部分とはなり得ない。 以上の観点から本件登録意匠の具体的な構成態様を認定すると,以下のとおりである。 (カ)前面プレートは外形が縦長矩形状であり,その前面プレートに縦長矩形状のダイヤル錠の操作部と縦長矩形状の手懸部とが横並びに配置されている。 (キ)ダイヤル錠の操作部には4個のダイヤルが縦方向に整列して並び,その上につまみが位置している。 (ク)手懸部は全体にわたって窪んだ矩形状の凹部により構成されている。 (ケ)手懸部の凹部は縦方向の長さがダイヤル錠の操作部よりわずかに短く,横方向の幅もダイヤル錠の操作部より短く,凹部の面積はダイヤル錠の操作部より小さい。 (コ)前面プレートの上方位置に横長矩形状の名札入れが設けられている。 (3)イ号意匠の構成態様について ア 意匠に係る物品について イ号意匠は,「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」に係るものであり,本件登録意匠の意匠に係る物品と同一である。 イ イ号意匠の基本的な構成態様について イ号意匠の基本的な構成態様を,本件登録意匠の基本的な構成態様(ア)?(エ)に対応させて認定すると,以下のとおりである。 (ア′)手懸部を有する筐体にダイヤル錠の機構が一体に組み込まれている。 (イ′)矩形状をなす前面プレートに手懸部とダイヤル錠の操作部とが横並びに設けられている。 (ウ′)ダイヤル錠の操作部には複数個のダイヤルと1個のつまみとが設けられている。 (エ′)後面部分につまみと一体に回動する掛止め金具とラッチボルトとが存在する。 ウ イ号意匠の具体的な構成態様について イ号意匠の具体的は構成態様を,本件登録意匠の具体的な構成態様(カ)?(コ)に対応させて認定すると,以下のとおりである。 (カ′)前面プレートは外形が縦長矩形状であり,その前面プレートは縦長矩形状のダイヤル錠の操作部と縦長矩形状の手懸部とが横並びに配置されている。 (キ′)ダイヤル錠の操作部には4個のダイヤルが縦方向に整列して並び,その上につまみが位置している。 (ク′)手懸部は全体にわたって窪んだ矩形状の凹部により構成されている。 (ケ′)手懸部の凹部は縦方向の長さがダイヤル錠の操作部とほぼ一致し,横方向の幅はダイヤル錠の操作部よりやや短く,凹部の面積はダイヤル錠の操作部よりやや小さい。 (コ′)前面プレートの上方位置に横長矩形状の名札入れは設けられていない。 (4)本件登録意匠とイ号意匠との対比 ア 基本的な構成態様の対比 本件登録意匠の基本的な構成態様(ア)?(エ)とイ号意匠の基本的な構成態様(ア′)?(エ′)とを対比すると,両者は完全に一致している。したがって,本件登録意匠とイ号意匠とは基本的な構成態様において差異がない。 イ 具体的な構成態様の対比 本件登録意匠の具体的な構成態様(カ)?(コ)とイ号意匠の具体的な構成態様(カ′)?(コ′)とを対比すると,両者は,具体的な構成態様のうち,(カ)と(カ′),(キ)と(キ′),及び(ク)と(ク′)において一致している。すなわち,本件登録意匠とイ号意匠とは,前面プレートの外形が縦長矩形状であり,その前面プレートに縦長矩形状のダイヤル錠の操作部と縦長矩形状の手懸部とが横並びに配置されている点において共通する。それに加えて,両者は,ダイヤル錠の操作部には4個のダイヤルが縦方向に整列して並び,その上につまみが位置している点,さらには,手懸部は全体にわたって窪んだ矩形状の凹部により構成されている点において共通する。これらの共通点にかかる意匠の構成態様が組み合わさった本件登録意匠の構成態様の全体が,「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」の新規な形状として需要者の注意を惹く部分であって,本件登録意匠の要部に関するものであり,両者に共通の美感を生じさせる。因みに,判定請求人が提出した資料1?11には,単なる家具用引手の意匠,単なるダイヤル錠の意匠が示されているだけで,ダイヤル錠の操作部と手懸部とを一体に備えた「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」の意匠は示されていない。 一方,本件登録意匠とイ号意匠とは,具体的な構成態様のうち,(ケ)と(ケ′),及び(コ)と(コ′)において相違している。すなわち,本件登録意匠とイ号意匠とは以下の差異点を有するものである。 (差異点1) 本件登録意匠では,手懸部の凹部は縦方向の長さがダイヤル錠の操作部よりわずかに短く,横方向の幅もダイヤル錠の操作部より短く,凹部の面積はダイヤル錠の操作部より小さいのに対し,イ号意匠では,手懸部の凹部は縦方向の長さがダイヤル錠の操作部とほぼ一致し,横方向の幅はダイヤル錠の操作部よりやや短く,凹部の面積はダイヤル錠の操作部よりやや小さい。 (差異点2) 本件登録意匠では,前面プレートの上方位置に横長矩形状の名札入れが設けられているのに対し,イ号意匠では,前面プレートの上方位置に横長矩形状の名札入れが設けられていない。 しかしながら,上記の手懸部の凹部の大きさについての差異点1や名札入れの有無についての差異点2は,本件登録意匠の要部に関するものではなく,本件登録意匠の要部に関する共通点によって生じる美感の共通性を失わせるほどの差異ではない。名札入れについていえば,物品の使用態様上重要な機能を果たす部分ではなく,看者である需要者はその形状に特に注意を払うことはない。しかも,上記の差異点1,2は,本件登録意匠の類似意匠を考慮したとき,本件登録意匠とイ号意匠とが類似していない,との根拠にならないことは明らかである。 また,本件登録意匠とイ号意匠とは,例えばダイヤル錠のつまみの形状など,物品の部分において差異が認められる。しかし,物品の使用態様上重要な機能を果たすのはダイヤル錠の操作部と手懸部の全体であり,しかも,いずれのつまみも,ハンドル状,円筒状といったありふれた形態のものであるから,看者である需要者が物品の部分であるつまみに注目するという理由は存在せず,つまみに需要者の注意が惹き付けられることはない。したがって,つまみの差異が美感に及ぼす影響は小さく,両意匠を全体観察したとき,その差異が両者の類否判断に影響を与えるほどのものではない。 以上のことから,イ号意匠は本件登録意匠に類似することは明らかである。 ウ 本件登録意匠の類似意匠について 本件登録意匠には,意匠登録第1065351号の類似意匠登録第1号が存在している。この類似意匠の基本的な構成態様は,本件登録意匠の基本的な構成態様と同じである。 次に,類似意匠の具体的な構成態様についてみると,その具体的な構成態様は,イ号意匠の具体的な構成態様と一致している。換言すれば,類似意匠は本件登録意匠と,手懸部の凹部の大きさおよび名札入れの有無において相違するものである。 類似意匠制度は,意匠権の権利の及ぶ範囲を明確に知ることが容易でないことに鑑み,意匠権の権利範囲,すなわち,意匠権者が登録意匠の類似範囲を確認するために設けられた制度である。 意匠登録第1065351号の類似意匠登録第1号の存在は,この類似意匠と具体的な構成態様が一致する意匠,すなわち,イ号意匠が本件登録意匠と類似すると判断すべきであることを明らかにしている。上記の手懸部の凹部の大きさについての差異や名札入れの有無についての差異は,本件登録意匠の要部に関するものではなく,本件登録意匠の要部に関する共通点によって生じる美感の共通性を失わせるほどの差異ではないのである。手懸部の大きさについての差異および名札入れの有無についての差異は,イ号意匠が本件登録意匠と類似していない,とする根拠になり得ない。 (5)判定請求人の主張に対する答弁 請求人は,本件登録意匠とイ号意匠との類否について考察し,「名札入れの有無は正面の上部であり,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。」と主張している。また,請求人は,「…つまみの相違は,正面に位置し使用者が常に操作する部分であり,……つまみの形態の相違は両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。」と主張し,さらに,「背面の箱体において…リセットつまみやレバーは使用者が必要に応じて操作するものであるため,背面側のこれらの相違が両意匠の類否判断に与える影響は決して小さくはないものである。」と主張している。 しかしながら,名札入れの有無についての差異は本件登録意匠の要部に関するものではなく,本件登録意匠の要部に関する共通点によって生じる美感の共通性を失わせるほどの差異でないことは上記したとおりである。 また,ダイヤル錠のつまみの形態の相違は,美感に及ぼす影響が小さく,両意匠を全体観察したとき,その差異が両者の類否判断に影響を与えるほどのものでないこともすでに述べたとおりである。 さらに,ロッカー用ダイヤル錠付き把手は前面部分が見所であり,後面,側面,上下面はほとんど無視される。したがって,前面部分以外は意匠の要部になり得ず,背面側の相違が両意匠の類否判断に与える影響は決して小さくない,とする判定請求人の主張は誤りである。 (6)むすび 上記したとおり,イ号意匠は,登録第1065351号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するもので,答弁の趣旨どおりの判定を求める。 第3 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1065351号)は,平成10年(1998年)10月20日に意匠登録出願され,平成11年(1999年)12月17日に意匠権の設定の登録がなされ,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」とし,形態を,願書の記載及び願書に添付された図面に表されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。 本件登録意匠には,類似意匠の意匠登録(意匠登録第1065351号の類似意匠登録第1号)がある。 本件登録意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様について 全体が,正面視略縦長長方形状のプレートと,その背面側の略直方体状の箱体から成るものであって,プレートの正面左側につまみとダイヤル錠を有する操作部が配され,プレートの正面右側に開口した手懸部が配されたものである。 また,具体的態様として,以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 操作部の態様について ア-1 操作部内の構成態様 正面から見て,操作部は,外周が略縦長長方形状に区画され,横幅がプレートの横幅の約1/2である。区画内の上部につまみが設けられ,略中央から下端寄りにかけて横方向に回転するダイヤル錠が縦に4つ並んで設けられている。 ア-2 つまみとその周囲の態様 正面から見て,つまみの外周は円形であって,その直径と同幅の縦幅と,直径の約1/3の横幅を有して前方に隆起した略直方体状の部分が形成されて,その左右の平坦面と丸面状に連続しており,側面から見ると,その略直方体状隆起部の前端面上下も丸面状に表されている。また,略直方体状隆起部の上端面中央には棒状の目印が表されて,つまみの周囲,右上と左上には,略三角形状のマークが表されており,つまみが90度回動することで該目印がそのマークの位置に合致する。 ア-3 ダイヤル錠とその周囲の態様 ダイヤル錠は,略扁平円筒体であって,側周面に10個の凸条が等間隔に形成されており,プレートに設けられた横長長方形状の開口部からダイヤル錠の一部が突出して表されている。最上部ダイヤル錠の上,各ダイヤル錠の間,及び最下部ダイヤル錠の下には,該開口部の横幅よりも小さい横幅で,正面視外周が略角丸縦長長方形状の隆起部が形成されており,底面から見た隆起部の形状は略弧状である。隆起部の正面中央には,縦長棒状の目印が,縦方向に5つ表されている。 イ 手懸部の構成態様について 手懸部の正面視外周は縦長長方形状であり,その上下幅は操作部の上下幅よりもやや小さく,左右幅は操作部の左右幅の約1/2であって,プレートの右端寄りに余地部を残して配されている。手懸部の右側内側面は,後方にいくにつれて内側に傾斜している。 ウ 箱体について ウ-1 箱体の構成態様 平面から見て,箱体の右側面が後方にいくにつれて内側に傾斜している。箱体の平面,底面及び左側面は傾斜しておらず,プレートに対して垂直状に表されている。箱体右側面の上下に横長長方形状の係止片が設けられており,箱体左側面のプレート寄りの上下には縦長の凸条部が形成されている。 ウ-2 掛止め金具とラッチボルト 箱体背面の上部には,右端角部がアール状に形成された略横長長方形の掛止め金具が右方に突出して配されており,掛止め金具の左側はカバー板で覆われている。掛止め金具の下方には,略変形角柱状のラッチボルトが配されており,その右側先端部が右方に突出している。 ウ-3 凹部 箱体背面の略中央から下端にかけて,底面視略逆V字状の凹部が縦に形成されている。 エ 名札入れの態様について プレートの上部に名札を収容するための名札入れが設けられており,名札入れの正面視形状は略倒コ字状であり,平面から見ると,プレートの内側に横長の開口部が形成されている。 2 イ号意匠 請求人は,イ号意匠を特定するにあたり,判定請求書の添付物件として,「イ号図面並びにその説明書」(別紙第2参照)を提出した。 それによれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」であり,「つまみ中央には鍵穴が設けられ,当該鍵穴に鍵を差し込んで回すと,ダイヤル錠が施錠状態でもデッドボルトを回すことができる。ダイヤル錠の番号の設定に際しては,背面デッドボルトとラッチボルトとの間にある,つまみをマイナスドライバーで左側に回すとリセット状態となり,この状態で任意の番号に合わせ,その後,右側に回すとダイヤル錠の番号を設定することができる。また,背面のラッチボルトの下に設けられるレバーはダイヤル錠の設定番号を検索するためのものであり,当該レバーを背面視左側いっぱいに倒した状態でダイヤル錠のそれぞれのホイールを回していくと,設定番号に合致する位置でさらに少しレバーが左側に動くのでこれを利用して設定番号を知ることができるものである。」 イ号意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様について 全体が,正面視略縦長長方形状のプレートと,その背面側の略直方体状の箱体から成るものであって,プレートの正面左側につまみとダイヤル錠を有する操作部が配され,プレートの正面右側に開口した手懸部が配されたものである。 また,具体的態様として,以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 操作部の態様について ア-1 操作部内の構成態様 正面から見て,操作部は,外周が略縦長長方形状に区画され,横幅がプレートの横幅の約1/2である。区画内の上部につまみが設けられ,略中央から下端寄りにかけて横方向に回転するダイヤル錠が縦に4つ並んで設けられている。 ア-2 つまみとその周囲の態様 つまみは,略短円柱状であって全体が前方に突出しており,円形の前面中央には横長の鍵穴が設けられて,側周面には,外表面に凹凸の筋が前後に施された環状帯が嵌合されている。つまみの周囲には,僅かに前方に突出した円形リング状部が形成されており,その上側部分に円弧状の開口部が形成されて,その内側が施錠時には赤色に,開錠時には緑色に表される。また,円形リング状部の右側部分には白色の円弧状矢印と緑色の開錠マークが表され,左側部分には白色の円弧状矢印と赤色の施錠マークが表されている。 ア-3 ダイヤル錠とその周囲の態様 ダイヤル錠は,略扁平円筒体であって,側周面に10個の凸条が等間隔に形成されており,プレートに設けられた横長長方形状の開口部からダイヤル錠の一部が突出して表されている。最上部ダイヤル錠の上,各ダイヤル錠の間,及び最下部ダイヤル錠の下には,該開口部の横幅よりも小さい横幅で,正面視外周が略角丸縦長長方形状の隆起部が形成されており,底面から見た隆起部の形状は略弧状である。 イ 手懸部の構成態様について 手懸部の正面視外周は縦長長方形状であり,その上下幅は操作部の上下幅とほぼ同じであり,左右幅は操作部の左右幅よりもやや小さい。手懸部内側の右端寄りには縦長の段差状部があり,その段差状部を介して右側内側面が後方にいくにつれて内側に傾斜している。また,手懸部内側の上端寄りと下端寄りには横長のテーパー状部が形成されている。 ウ 箱体について ウ-1 箱体の構成態様 平面から見て,箱体の右側面が後方にいくにつれて内側に傾斜している。側面から見て,箱体の平面及び底面も後方にいくにつれてやや内側に傾斜している。左側面は傾斜しておらず,プレートに対して垂直状に表されている。箱体右側面の上下に横長長方形状の係止片が設けられており,箱体左側面のプレート寄りの上下には縦長の凸条部が形成されている。 ウ-2 掛止め金具とラッチボルト 箱体背面の上部には,右端角部がアール状に形成された略倒J字状の掛止め金具が右方に突出して配されており,掛止め金具の左端寄りにはボルト部が配されている。掛止め金具の下方には,略変形角柱状のラッチボルトが配されており,その右側先端部が右方に突出している。 ウ-3 凹部 箱体背面の右下に,横長長方形状の凹部が形成されている。 ウ-4 操作部 ラッチボルトの上方には,小円形のリセット用つまみが配されており,ラッチボルトの左下には,縦長の設定番号検索用レバーが突設されている。 3 本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠は「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」であり,イ号意匠も「ロッカー用ダイヤル錠付き把手」であるので,両意匠の意匠に係る物品は同一である。 (2)形態の共通点 両意匠の形態には,以下の基本的構成態様の共通点が認められる。 (A)基本的構成態様の共通点 全体が,正面視略縦長長方形状のプレートと,その背面側の略直方体状の箱体から成るものであって,プレートの正面左側につまみとダイヤル錠を有する操作部が配され,プレートの正面右側に開口した手懸部が配されたものである。 また,以下の具体的態様の共通点が認められる。 (B)操作部の態様について (B-1)操作部内の構成態様 正面から見て,操作部は,外周が略縦長長方形状に区画され,横幅がプレートの横幅の約1/2である。区画内の上部につまみが設けられ,略中央から下端寄りにかけて横方向に回転するダイヤル錠が縦に4つ並んで設けられている。 (B-2)ダイヤル錠とその周囲の態様 ダイヤル錠は,略扁平円筒体であって,側周面に10個の凸条が等間隔に形成されており,プレートに設けられた横長長方形状の開口部からダイヤル錠の一部が突出して表されている。最上部ダイヤル錠の上,各ダイヤル錠の間,及び最下部ダイヤル錠の下には,該開口部の横幅よりも小さい横幅で,正面視外周が略角丸縦長長方形状の隆起部が形成されており,底面から見た隆起部の形状は略弧状である。 (C)手懸部の構成について 手懸部の正面視外周は縦長長方形状であり,右側内側面が後方にいくにつれて内側に傾斜している。 (D)箱体について (D-1)箱体の構成態様 平面から見て,箱体の右側面が後方にいくにつれて内側に傾斜している。左側面は傾斜しておらず,プレートに対して垂直状に表されている。箱体右側面の上下に横長長方形状の係止片が設けられており,箱体左側面のプレート寄りの上下には縦長の凸条部が形成されている。 (D-2)掛止め金具とラッチボルト 箱体背面の上部には,右端角部がアール状に形成された掛止め金具が右方に突出して配されている。掛止め金具の下方には,略変形角柱状のラッチボルトが配されており,その右側先端部が右方に突出している。 (3)形態の差異点 一方,両意匠の形態には,以下の具体的態様の差異点が認められる。 (ア)操作部の形状について (ア-1)つまみとその周囲の態様 本件登録意匠のつまみは,正面視外周が円形であって,その直径と同幅の縦幅と,直径の約1/3の横幅を有して前方に隆起した略直方体状の部分が形成されて,その左右の平坦面と丸面状に連続しており,側面から見ると,その略直方体状隆起部の前端面上下も丸面状に表されている。また,略直方体状隆起部の上端面中央には棒状の目印が表されて,つまみの周囲,右上と左上には,略三角形状のマークが表されており,つまみが90度回動することで該目印がそのマークの位置に合致する。 これに対して,イ号意匠のつまみは,略短円柱状であって全体が前方に突出しており,円形の前面中央には横長の鍵穴が設けられて,側周面には,外表面に凹凸の筋が前後に施された環状帯が嵌合されている。つまみの周囲には,僅かに前方に突出した円形リング状部が形成されており,その上側部分に円弧状の開口部が形成されて,その内側が施錠時には赤色に,開錠時には緑色に表される。また,円形リング状部の右側部分には白色の円弧状矢印と緑色の開錠マークが表され,左側部分には白色の円弧状矢印と赤色の施錠マークが表されている。 (ア-2)隆起部の目印の有無 本件登録意匠のダイヤル錠周囲の隆起部の正面中央には,縦長棒状の目印が,縦方向に5つ表されているが,イ号意匠にはそのような目印は表されていない。 (イ)手懸部の態様について 本件登録意匠の手懸部の上下幅は操作部の上下幅よりもやや小さく,左右幅は操作部の左右幅の約1/2であって,プレートの右端寄りに余地部を残して配されている。 これに対して,イ号意匠の手懸部の上下幅は操作部の上下幅とほぼ同じであり,左右幅は操作部の左右幅よりもやや小さい。手懸部内側の右端寄りには縦長の段差状部があり,手懸部内側の上端寄りと下端寄りには横長のテーパー状部が形成されている。 (ウ)箱体について (ウ-1)箱体の構成 イ号意匠は,側面から見た箱体の平面及び底面が後方にいくにつれてやや内側に傾斜しているが,本件登録意匠の箱体の平面及び底面は傾斜しておらず,プレートに対して垂直状に表されている。 (ウ-2)掛止め金具 本件登録意匠の掛止め金具の形状は略横長長方形であり,掛止め金具の左側がカバー板で覆われているのに対して,イ号意匠の掛止め金具の形状は略倒J字状であり,掛止め金具の左端寄りにはボルト部が配されている。 (ウ-3)凹部 本件登録意匠では,箱体背面の略中央から下端にかけて,底面視略V字状の溝が縦に形成されている。これに対して,イ号意匠では,箱体背面の右下に,横長長方形状の凹部が形成されている。 (ウ-4)操作部 イ号意匠のラッチボルトの上方には,小円形のリセット用つまみが配されており,ラッチボルトの左下には,縦長の設定番号検索用レバーが突設されているが,本件登録意匠には,そのようなつまみやレバーはない。 (エ)名札入れの有無 本件登録意匠には,プレートの上部に名札を収容するための名札入れが設けられており,名札入れの正面視形状は略倒コ字状であり,平面から見ると,プレートの内側に横長の開口部が形成されている。これに対して,イ号意匠には,そのような名札入れはない。 4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 以上の本件登録意匠とイ号意匠の形態の共通点及び差異点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価して,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討する。 (1)形態の共通点の評価 本件登録意匠とイ号意匠の(A)基本的構成態様の共通点,並びに(B-1)操作部内の構成態様及び(B-2)ダイヤル錠とその周囲の態様の共通点は,錠を有する長方形状のプレートに手懸部を設けた構成態様が本件登録意匠の出願前に既に見受けられること(例えば,判定請求書において本件登録意匠の先行周辺意匠として示された公知意匠4(別紙第3参照)及び特許庁意匠課公知資料番号第HH09002918号の家具用錠の意匠(別紙第4参照)。),及び,つまみとダイヤル錠を並置させた態様も同様に見受けられること(例えば,判定請求書において本件登録意匠の先行周辺意匠として示された公知意匠7(別紙第5参照)。)を踏まえると,共通点(A),(B-1)及び(B-2)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度に留まる。 また,(C)手懸部の構成,すなわち,手懸部の正面視外周が縦長長方形状で,右側内側面が後方にいくにつれて内側に傾斜した構成は,家具やロッカーなどの引手の構成として既にありふれていることから(例えば,上記の公知意匠4(別紙第3参照)及び特許庁意匠課公知資料番号第HH09002918号の家具用錠の意匠(別紙第4参照)。),看者はその構成に対して特に着目するとはいい難いので,共通点(C)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 そして,(D-1)箱体の構成態様のうち,箱体の右側面が後方にいくにつれて内側に傾斜している共通点も,上記の公知意匠4及び家具用錠の意匠に見られるとおり既にありふれており,箱体両側面の係止片や凸条部の共通点も,ロッカーの扉に嵌め込まれた使用状態においては看者の目に触れ難くなるものであるから,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。そして,(D-2)で指摘した箱体背面のラッチボルトについても,箱体背面が看者の目に触れ難いこと,及び掛止め金具の先端角部をアール状にすることもありふれていることから,(D-2)の共通点も両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 (2)形態の差異点の評価 これに対し,(ア-1)つまみとその周囲の態様の差異は,使用状態において一見して把握できる両意匠の差異であって,イ号意匠に見られる,外表面に凹凸の筋が前後に施された環状帯が嵌合された略短円柱状のつまみは,その周囲の円形リング状部の態様とあいまって,看者に本件登録意匠のつまみとは異なる印象を与えるものであるというべきである。そして,特に,前面中央に設けられた,横長の鍵穴は,「イ号図面並びにその説明書」(別紙第2参照)によれば,「当該鍵穴に鍵を差し込んで回すと,ダイヤル錠が施錠状態でもデッドボルトを回すことができる」ことから,看者はそのような機能を実現する形態として,イ号意匠の鍵穴に注目することとなり,同機能を有しない本件登録意匠のつまみと比較した際には,看者に別異の印象を与えるというべきである。そして,この鍵穴の有無の差異は,鍵穴を設けることによって実現可能な機能が異なることも示すものであるから,看者は意匠に係る物品の機能の観点からも両意匠が異なることを把握できることとなる。したがって,(ア-1)の差異点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。 両意匠のつまみの形状について,被請求人は,「いずれのつまみも,ハンドル状,円筒状といったありふれた形態のものであるから,看者である需要者が物品の部分であるつまみに注目するという理由は存在せず,つまみに需要者の注意が惹き付けられることはない。」と主張するが,上述のとおり,前面の鍵穴の有無の差異は,看者の注意を惹くというべきであるから,被請求人の主張を首肯することはできない。 次に,(イ)手懸部の態様についての差異,及び(エ)名札入れの有無の差異については,イ号意匠の手懸部の面積が本件登録意匠のそれよりも大きく,手懸部に段差状部やテーパー状部が有る点ははっきりと視認されるものであり,また,本件登録意匠に見られる名札入れも,意匠の上部という目立つ位置にあることから,これらの差異は,両意匠の視覚的印象に変化を加えているものの,差異点(イ)及び差異点(エ)が両意匠の類否判断に影響は一定程度に留まる。 一方,(ア-2)の隆起部の目印の有無についての差異は,イ号意匠に見られる目印が小さいものであるから両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さく,また,(ウ)の箱体についての差異も,ロッカーの扉に嵌め込まれた使用状態においては看者の目に触れ難くなるものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 そうすると,両意匠の形態における共通点は,(A)基本的構成態様と(B)操作部の態様の共通点が類否判断に及ぼす影響が一定程度に留まり,その余の共通点も類否判断に及ぼす影響は小さく,これらの共通点を総合すると,視覚に訴える意匠的効果としては格別の評価ができないものである。これに対して,差異点については,差異点(イ)及び差異点(エ)が類否判断に及ぼす影響は一定程度に留まるものの,(ア-1)の差異点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであるから,その余の差異点が類否判断に及ぼす影響が小さいとしても,(ア-1),(イ)及び(エ)の差異点を総合すると,両意匠を意匠全体で比較した際には,需要者の注意を強く惹き,別異の美感を起こさせるものであるから,差異点が共通点を凌駕し,両意匠は類似するとはいえない。 (3)小括 したがって,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品は同一であるが,形態については,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さいのに対して,差異点を総合すると,両意匠を別異なものと印象付けるような大きな影響を及ぼすものであり,両意匠は類似するとはいえない。 第4 むすび 以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2015-04-30 |
出願番号 | 意願平10-30515 |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZA
(D2)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 正田 毅 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
久保田 大輔 小林 裕和 |
登録日 | 1999-12-17 |
登録番号 | 意匠登録第1065351号(D1065351) |
代理人 | 磯兼 智生 |
代理人 | 鈴木 由充 |
代理人 | 森脇 正志 |