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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立成立) L3 |
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管理番号 | 1305044 |
判定請求番号 | 判定2014-600028 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2014-06-30 |
確定日 | 2015-09-10 |
意匠に係る物品 | 階段手すり |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1090371号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | イ号意匠の図面及びその説明により示された「階段手すり」の意匠は,登録第1090371号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨及び理由 1.請求の趣旨 本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,イ号図面並びにその説明書(甲第1号証)に示す意匠(以下「イ号意匠」ともいう。)は登録第1090371号意匠(以下「本件登録意匠」ともいう。)及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求め,要旨,以下のとおり主張した。 (1)判定請求の必要性 請求人は,イ号意匠の階段手すり(イ号物件)を取引先会社へOEM供給すべく準備を進めていたところ,本件登録意匠の意匠権者である本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)は,該取引先会社を訪れ,イ号物件の販売は本件登録意匠の意匠権侵害となるので請求人との取引を中止するよう警告してきた。 請求人は,被請求人に対し,該取引先会社への警告を止めるように通知したが,警告を止めないため,また該取引先会社に対してイ号物件の販売が本件意匠権の侵害にならないとの客観的判断を示す必要があるため,特許庁による判定を求める。 (2)本件登録意匠の説明 本件登録意匠は,意匠に係る物品を「階段手すり」とし,その形態の要旨を,次のとおりとする。 ア.基本的な構成態様 手摺り本体が長さ方向に「波形状の折れ曲がり」を連続的に繰り返し有している。 波形状の折れ曲がりが「直線」によって形成されている。 手摺り本体が傾斜して設置されている。 イ.具体的な構成態様 波形状の折れ曲がりの折れ曲がり角度が「鈍角」になっている。 波形状の折れ曲がりが「略三角波形状」になっている。 断面真円形の筒状部によって構成されている。 外周面にブラケット部等の凹凸を有しない。 (3)イ号意匠の説明 イ号意匠は,意匠に係る物品を「階段手すり」とし,その形態の要旨を,次のとおりとする。 ア.基本的な構成態様 手摺り本体が傾斜して設置されている「傾斜部」と水平に設置されている「水平部」とを備えている。 手摺り本体の傾斜部が長さ方向に「波形状の折れ曲がり」を連続的に繰り返し有している。 波形状の折れ曲がりが「曲線」によって形成されている。 イ.具体的な構成態様 波形状の折れ曲がりの折れ曲がり角度が「鈍角」になっている。 波形状は「略正弦波形状」になっている。 下向きに開口する断面略C字状の手すり材によって構成され,全長にわたって開口溝部が形成されている。 一定間隔で手すり本体の開口溝部からブラケット部が突出形成されている。 (4)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 ア.両意匠の共通点 (ア)両意匠は,意匠に係る物品が階段手すりの手摺り本体の点で一致している。 (イ)両意匠は,基本的な構成態様において,手摺り本体の全部又は一部が長さ方向に「波形状の折れ曲がり」を連続的に繰り返し有している。 (ウ)両意匠は,具体的な構成態様において,波形状の折れ曲がりの折れ曲がり角度が「鈍角」になっている。 イ.両意匠の相違点 (ア)本件登録意匠の手摺り本体はイ号意匠における「傾斜部」に相当する部分のみからなるのに対し,イ号意匠の手摺り本体は「傾斜部」と「水平部」とからなる。 (イ)本件登録意匠は,波形状が「直線」によって「略三角波形状」に形成されているのに対して,イ号意匠は,波形状が「曲線」によって「略正弦波形状」に形成されている。 (ウ)本件登録意匠は,断面真円形の筒状部によって構成されているのに対して,イ号意匠は,下向きに開口する断面略C字状の手すり材によって構成され,全長にわたって開口溝部が形成されている。 (エ)本件登録意匠は,外周面にブラケット部等の凹凸を有しない手すり材であるのに対し,イ号意匠は,一定間隔で手すり本体の開口溝部からブラケット部が突出形成されている。 (5)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由の説明(平成26年6月30日付けの本件判定請求書には,「……の範囲に属する理由の……」と記載されているが,請求の趣旨より,誤記と認める。) ア.本件登録意匠の要部 先行周辺意匠(公知資料1ないし10(甲第4ないし13号証))には,波形状の手すり本体部を有する手すりがそれぞれ開示されており,手すり本体を直線状ではなく波形状に変形したものはこの種物品の属する分野では周知であり,その波形が直線によって形成された略三角波形状を繰返し連続してなるものも周知である。従って本件登録意匠の要部は,略三角波形状の折れ曲がり角部において,その角度が鈍角に開き,かつ角部を構成する直線部の長さが異なる不等辺の略三角波形状になっている点に存するものと考えられる。 イ.本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察 本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び相違点を比較検討する。 (ア)共通点 両意匠は,波形状の手すり本体部を有し,波形状の折れ曲がり角度が鈍角である点が共通しているが,本件登録意匠では,略三角波形状の折れ曲がり角部として,その鈍角部が看者に明確に認識されるのに対し,イ号意匠では半径100mmの大きな円弧状湾曲部の連続によって形成される波形であり,その湾曲部間の接線を延長した仮想の折り曲げ角が鈍角であっても,仮想の鈍角部を看者が認識することはない。 また,甲第10号証の図4に示された階段手すりにおいて,断続的ではあるものの,折れ曲がり角度が鈍角になっていること,さらに甲第12号証に示された手すりにおいて,折れ曲がり角度が鈍角になっていることを考慮すれば,折り曲げ角が鈍角になっている点は格別な特徴とすることはできない。 従って,共通点において,波形手すり部を有することは,この種物品の属する分野では周知なものであり,波形の折曲げ角が鈍角であることは,両意匠の外観上の共通点として看者の注意を惹くものではなく,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。 (イ)相違点 本件登録意匠の波形状の折れ曲がりは「直線」によって「略三角波形状」に鋭く折れ曲がって形成されているのに対し,イ号意匠の波形状の折れ曲がりは「曲線」によって「略正弦波形状」に滑らかに湾曲して形成されている。 そして,この特徴によって,イ号意匠は需要者に対して軟らかくて優しい印象を与えているので,需要者に対して硬い印象を与えている本件登録意匠とは,需要者に与える美観が異なる。 さらに本件登録意匠は,「異なる長さの直線部」と「鈍角の角部」とで構成される「不等辺の略三角波形状」であるのに対して,イ号意匠は,「左右対称の接線部」と「円弧状の湾曲部」とで構成される「略正弦波形状」であり,両意匠を比較すればその相違は顕著である。 そして,本件登録意匠は,角部が手すりとして握り難いため角部を飛ばして直線部を断続的に掴みながら使用する階段手すりの意匠として需要者に認識されるのに対して,イ号意匠は滑らかな曲線の連続によって,手すりを離すことなく連続的に手を滑らせながら移動することのできる階段手すりの意匠として認識され,需要者において両意匠が混同されることはない。 次に本件登録意匠の手すり部は断面真円形のパイプで構成されているのに対して,イ号意匠は底面に溝部が形成された,断面が下向き開口のC字状の連続型材で構成されている。さらに,イ号意匠の溝部にはブラケット部が適宜間隔で一体的に取付けられて突出している。この種物品では,建築業者等が需要者であり,底面部の相違といえども大きな注意を惹く部分であって,これらの底面部の相違は顕著なものであり,類否判断に大きく影響するものである。 次に本件登録意匠では波形手すり部の両端は,下方垂直に折り曲げられているのに対し,イ号意匠では,下端は斜め下方へ直線状に延長され,上端は水平状に長く延長されている。イ号意匠の水平部は波形状傾斜部の直線上の距離の約1/2の長さであり,水平部は傾斜部と繋ぎ目なく連続状に形成されている。水平部は階段踊場から階段降り口へのガイドとして連続性が重要な要素であり,両意匠を全体観察するとき,連続する水平部の有無による相違は類否判断において大きく評価されるものである。 (ウ)以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意 匠の相違点は,類否の判断に与える影響が大きく,共通点を凌駕しており,視覚的印象を異にするというべきであるから,イ号意匠は,本件登録意匠に類似するものとすることはできない。 (6)結び 従って,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないので,請求の趣旨どおりの判定を求める。 3.証拠方法 (1)イ号物件の販売が本件意匠権の侵害にならないとの客観的判断を示す必要がある,との証明に関するもの。 ア.イ号図面並びに説明書(甲第1号証) イ.登録第1090371号意匠公報(甲第2号証) ウ.登録第1090371号意匠登録原簿謄本の写し エ.内容証明郵便謄本の写し(甲第3号証) オ.意匠の比較写真(甲第14号証) (2)本件登録意匠の先行周辺意匠に関するもの。 先行周辺意匠(甲第4?13号証) 第2 被請求人の答弁 1.答弁の主旨 イ号図面並びにその説明書に示す意匠は,登録第1090371号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。 2.答弁の理由 請求の理由について,判定請求書に付与された番号に沿って答弁する。 (1)判定請求の必要性について 被請求人が,本件のイ号意匠を特定し,それが本件登録意匠の意匠権の侵害となるとし,判定請求人に対し請求人の取引先会社との取引を中止するように,と警告したことはない。 請求人が被請求人から受けたとする甲第3号証に記載されている平成26年5月19日付の警告は別紙のとおりである(乙第1号証)。 ここには本件イ号意匠について何も記載されていない。また,被請求人が請求人の取引先会社に出向き知財担当者等と面談した内容は上記警告書に沿ったものであり,特に本件イ号意匠を特定したものではない。当該時点で本件イ号意匠を知る由もなく,上記警告内容は本件イ号意匠の階段手すりのみを特定して行ったものではない。また,甲第3号証に記載されている「便宜上のイ号商品」と本件イ号意匠とは同一ではない。 (2)本件登録意匠の説明について 本件登録意匠の構成は,下記のとおりである。 本件登録意匠は,本件登録意匠の公報に示すとおり,次の構成からなる。 ア.階段手すり本体をその長手方向に沿って複数箇所にわたって等間隔で凸部と凹部が交互に出現するように折り曲げを繰り返し,その凸部と凹部の各々の頂部を頂点とした折り曲げ部の角度を同一鈍角として形成した点 イ.折り曲げ部の同一鈍角を形成する両辺となる複数個所の傾斜部と略水平部とは,その各々を同一長として形成した点 ウ.階段手すりの両端部に階段手すりの下方に向けて略直角方向に折り曲げ部を設けた点 従来直線であった階段手すり本体の形状を,上記構成要素の「ア.」及び「イ.」のようにした構成,すなわち,階段手すり本体の長手方向に沿って複数か所にわたって等間隔で凸部と凹部とが交互に出現するように折り曲げを繰り返して設け,折り曲げ部の角度を同一鈍角とし,傾斜部と略水平部の各々を同一長として形成した構成は,需要者・利用者の注意を喚起する新規で極めて斬新な構成となっており,意匠として極めて大きなウェイトが置かれる要部と認識され,その形状における類似の範囲は極めて大きなものがある。 「ウ.」の構成要素である,階段手すりの両端部に該階段手すりの下方に向けてほぼ直角方向に折り曲げ部を設けた点は,利用者がその階段手すりに接触や衝突する時の衝撃緩和及び服の袖口が階段手すりに入り込むことを防止する安全性を配慮した閉止部であり,階段手すりとしてありふれた公知の形状であり,需要者・利用者の注意を喚起する要部ではなく,階段手すりの単なる細部の形状にすぎない。 また,上記階段手すり本体の長手方向に沿って複数か所にわたって繰り返して出現する折り曲げ部において,約135度の同一鈍角で折り曲げられ,その左右の辺となる傾斜部と略水平部とが各々において同一長で交互に出現することを特徴とする階段手すりであるが,階段等の傾斜と同一方向に設置されることにより,本体の美しさと同様に両者がバランスよい美しさを表現できる構成となっている。 他方,傾斜部は,利用者が「取っ手」のように引き付けて使うことができ,略水平部は「杖」のように利用者を支えるようにして使用できるものであり,各々が階段等の傾斜面及び水平面に沿って設けられるので,傾斜部及び略水平部を握ったときの手首の角度が自然となり,握り込みやすく,滑りにくい機能美を備えた構成となっている。 また,傾斜面となる箇所に使用することが主たる用途となっているため,意匠の対象として,他の長尺の棒状建築部材と同様,設置される場所によって長さに長短が生じるものである。少なくとも本件登録意匠のように,手すりの折り曲げ部と,傾斜部及び略水平部とが8,9か所にわたって同一形状で繰り返して連続形成される意匠の表現であれば,その長さは,一般的な階段の蹴上げ数及び踏み面の数或いはスロープの長さ等に合うようにして決定されることは常であり,それにより折り曲げ部,傾斜部及び略水平部の数も変わるものであり,本件登録意匠においても手すり本体の長さ並びに折り曲げ部,傾斜部及び略水平部の数等を限定的に解釈されるべきものではない。また,手すりの直径は,通常の利用者が手の平で握り込むことによりある程度の力を作用させることができる太さである。 本件登録意匠の「意匠に係る物品の説明」において,各々の頂部の折り曲げ部の形状を「折曲」なる言葉で説明しているが,それは,本件登録意匠の正面図において各々の頂部の形状が,湾曲をもって曲げられていることを説明しているものであり,そのことは拡大図等において丸みをもって表現されていることからも明らかである。そもそもステンレスパイプを折曲するにはベンダー(折り曲げ加工機)を使用することになり,該ステンレスパイプの折り曲げ部は,湾曲をもって曲げられることになる。この湾曲を形成する丸みの表現は,当該部分の曲率(1/R)によって決定されるが,その曲率が大きく或いは小さく表現されたとしても,その曲率に大きな差異が有り,看者をして異なるものと認識されない以上,その曲率の相違は本件登録意匠の権利範囲に属する事項である。 請求人は,請求理由の「本件登録意匠の要部」において,その要部を「従って本件登録意匠の要部は,略三角波形状の折れ曲がり角度において,その角度が鈍角に開き,かつ角部を構成する直線部の長さが異なる不等辺の略三角波形状になっている点に存するものと考えられる。」と認めているとおり,請求人が認定した要部は「階段手すり本体の形状」にあることは上記した被請求人の本件登録意匠の要部の認定と同一である。 但し,上記請求人の本件登録意匠の要部認定において「略三角波形状の折れ曲がり角度」及び「直線部の長さが異なる不等辺の略三角波形状」とした点については下記で反論する。 (3)請求理由の「イ号意匠の説明」及び「本件登録意匠とイ号意匠との比較説明」における両者の相違点,並びに「イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由の説明」の各項目について ア.「先行周辺意匠が本件登録意匠に関するもの」である,とした点について (ア)甲第4ないし10号証は,部材を「折曲」したものではなく,その折曲部の折れ曲がり角度を「鈍角」としたものでもない。 (イ)甲第10号証の図4は,断続的な手すりで,一本の長尺棒を折曲して手すりとしたものではない。 (ウ)甲第11ないし13号証は,便所又は浴室等の壁に縦位置又は横位置に取り付ける手すりで,手すりの凸部側が病人又は身体障害者等の利用者が使用することになる室内側へ突出したものあるいは螺旋状に突出したものとして構成されており,身体の屈伸時の補助を目的とし,階段を歩行昇降する時の身体の支えを目的とするものではない。意匠の構成も用途も本件登録意匠とは全く別異のものである。 したがって,甲第4ないし13号証の先行周辺意匠は,本件登録意匠とは関係のない文献である。 イ.請求理由の「本件登録意匠の要部」について 上記「(2)本件登録意匠の説明について」のとおりである。 ウ.請求理由の「本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察」について 請求人は,「本件登録意匠の要部」において,本件登録意匠の要部を「階段手すり本体の形状」と認定しているので,本来ならば「上記第1の1.(5)イ.(イ)相違点」で判定請求人が主張している階段手すり本体以外の構成部分については言及する必要はないものと考えるが,敢えて言及する。 (ア)本件登録意匠の手すり本体はイ号意匠における「傾斜部」に相当する部分のみからなるのに対し,イ号意匠の手すり本体は「傾斜部」と「水平部」とからなる,とした点 建築基準法施行令では「特定の階段にあっては,高さが3mをこえるものにあっては高さ3m……(略)……以内ごとに踊場を設けなければならない」「…直階段の踊場の踏幅は,1.2m以上としなければならない」及び「階段には,手すりを設けなければならない」と規定しており,その法解釈は「踊り場には手すりを設け,階段の手すりと一続きになっていなければならない」とされ,実際の設置場所でも階段と踊場の手すりは連続した一続きのものとして施工されている。 階段とそれに続く踊場の「手すり」を一続きに設ける理由は,その間に隙間があると当該部分に手を挟み込んだり,着物の裾を入れ込んだり,物を引っ掛けたりする危険性があるからである。上記のとおり,階段における「傾斜部」の手すりと踊場における「水平部」の手すりとを連続一体的に設けることは周知事項である。例えば,甲第10号証に階段の手すりと踊場の手すりとを連続一体的に設けたものが記載されている。また,乙第6号証にも踊り場と階段部の手すりとを連続一体的に設けていることが記載されている。 「傾斜部」における手すりと「水平部」における手すりは,手すりの設置場所において様々な態様が考えられるので,請求人の取引先会社の本件イ号意匠が記載されているパンフレットのとおり,それらをジョイント部で連結して連続一体的なものとしている。踊場の踏幅の長さに応じて「水平部」の手すりの長さも適宜選択されるものである。 従って,「傾斜部」の手すりに「水平部」の手すりを一続きとすることは,踊場を一定条件のもとで設けなければならない建築基準法の規定からごく一般的なことであり,「水平部を連続形成した」点は,判定請求人も認めているとおり,意匠の要部とは成り得ない。 また,手すりの「傾斜部」における長さは,階段の長さに応じて適宜選択されるもので,乙第2号証にジョイント部が記載されているように,そのジョイント部を利用して適宜長さに連続して手すり本体となる「傾斜部」を形成するもので,長さをイ号意匠のようにした点も意匠の要部とは成り得ない。 なお,乙第2号証は,平成26年7月中旬になって初めてネット上に公開された。ここに記載されている商標「ネオラクネット」は同6月10日に商標出願されており,それ以前の同3月11日には商標「ネオクネット」として商標出願している。このことからも「イ号商品」が本件イ号意匠ではないことがわかる。 (イ)本件登録意匠は,波形状が「直線」によって「略三角波形状」に形成されているのに対し,イ号意匠は,波形状が「曲線」によって「略正弦波形状」に形成されている,とした点 a.本件登録意匠は,その意匠に係る物品の説明で記載しているように,「ステンレスパイプを折曲したもの」である。ステンレスパイプを折曲するためには,通常「ベンダー」を使用する。湾曲状の金型間に直線部材を配置し,その金型を移動させることにより折曲加工を行うもので,その折曲部は当然のことながら湾曲状となり,波形状が「直線」をもって構成されることはない。 b.判定請求人は,甲第14号証の「写真1」をもって本件登録意匠の波形部分としているが,この写真は,直線状の短片部材の端部を斜めに形成,その端部を他の短片部材の傾斜端部と連結した写真であり,本件登録意匠の「折曲」という概念とは全く関係のないものである。少なくとも安価さと把持部の滑らかさとが求められる階段手すり本体において,部材を小さく切断すること,端部を傾斜して加工すること,端部相互の溶接をすること及び研磨を行うこと等の多くの時間を費やす作業工程を採用し,かつ,部材相互の溶接箇所を敢えて鋭敏な直線形状とすることなどは有り得ない。本件登録意匠をイ号意匠となる甲第14号証の写真2の大きさに近似した大きさに拡大した図とイ号意匠とを比較すれば,両者の折曲部の形状及びその曲率において両者に対する視覚上の差異はなく,両者において意匠の美感を共通することは明らかである。乙第4号証の上図は,本件登録意匠の公報の平面図を2倍に拡大した部分図である。 c.実用新案登録第3068771号は,本件登録意匠の創作者である上田俊二氏が,本件登録意匠の出願日より約40日ほど後の平成11年11月5日に出願した実用新案出願に係るものである。明細書【0016】には「図11,12に示すのは緩傾斜部分と急傾斜部分を湾曲させて丸みのカーブのある形状にした例である。図中,5,6は湾曲させて丸みのカーブのある形状にした階段・はしご用手すりである」と記載している。上記図11は,本件登録意匠の平面図の一部をそのまま採用したものであり,意匠に係る物品の説明の「折曲したもの」とは「湾曲させて丸みのカーブのある形状」を意図していることは明らかである。他方,同【0008】の図2に示す階段・はしご用手すり1の説明において「…図2に示すように階段の水平な一段からの高さAが800mmとなる位置に階段・はしご用手すり1の緩傾斜部分1aを設ける。緩傾斜部分1aは水平な一段の下段側に長さL2が120mmとなるように設ける。このようにして階段Sの各水平な一段の上方にそれぞれ緩傾斜部分1aを設ける。次に緩傾斜部分1aをつなぐようにして急傾斜部分1bをそれぞれ設ける。急傾斜部分1bは水平な長さL1が120mmになるようにして水平な一段の上段側に設けられる。…」と記載している。直線状の部材については「つなぐようにして」と表現し,「折曲した」とは表現していない。上記図2に示す「つなぐようにして」と表現した手すりは木製のものを意図したものである。 d.折曲部の左右において長さが異なるとした点は,階段の踏み面の長さと蹴上げの高さとを考慮したもので,手すり全体から観察すれば,左右が同一長さの手すりと比較して,需要者・利用者が視覚を通じて得る意匠の美感に差異はない。 (ウ)本件登録意匠は,断面真円形の筒状部によって構成されているのに対して,イ号意匠は,下向きに開口する断面略C字状の手すり材によって構成され,全長にわたって開口溝部が形成されている,とした点 a.イ号意匠の開口溝部は手すりの底面側に表現されるものである。手すりは床面から手すり上部までの高さが750mmないし850mmの位置に取り付けられるのが一般的で,人の目線はそれ以上の高さであり,イ号意匠の溝部が目視できる位置に取り付けられることはない。外観に表れてはいるが,需要者・利用者が外部から視覚を通じてその溝を認識することはなく,流通過程や壁への取り付け作業過程等において一時的に目視可能状態が生じるにすぎず,判定請求人も認めているとおり,意匠の要部とは成り得ない。 b.手すり本体に溝を形成することは,請求人の取引先会社の特許出願となる特開2003-49521号公報及びその明細書の従来技術として示されている特開平9-151588号公報でも明らかなように,この技術分野において周知技術であり,それ以外にも多数の公知文献及び使用例が存在する。このことを参酌すれば,この部分がイ号意匠の要部として需要者・利用者の注意を引く部分となることは有り得ない。 (エ)本件登録意匠は,外周面にブラケット部等の凹凸を有しない手すり材であるのに対し,イ号意匠は,一定間隔で手すり本体の開口溝部からブラケット部が突出形成されている,とした点 a.本件登録意匠も,壁面に手すりを取り付ける場合は,当然のこととしてブラケットを使用する。手すりをブラケットを介して取り付けることは周知の技術である。例えば,乙第5号証の実用新案登録公報に記載されている。 b.特開平9-151588号公報も手すり支持部材をブラケット40と表現し,特開2003-49521号公報もブラケット40と表現し,手すり本体の開口溝部からブラケット部が突出形成されている。 c.実物のブラケット部の正面側の幅寸法は約25ないし30mm程度であり,手すりの長さを仮に3mとすると幅寸法割合は1/100ないし1/120ほどにすぎず,かつ,手すり利用者からの荷重を下方側から支持すること並びに手すりの把持を容易とすること及び利用者の通行に邪魔とならないようにすること等より,ブラケット部は手すりの下部側から垂下させ,壁側に取着する構造としている。イ号意匠は,その一般的なブラケット部を表現しているにすぎない。上記溝と同様,需要者・利用者の視線から隠れた位置にあるいは僅かに目視できる小さな存在として表現されるのみである。また,従来より手すりの付属品として多数の公知文献及び使用例が存在する一般的な部材であり,また,イ号意匠のブラケット部に意匠的な特徴は全くなく,これらのことを参酌すれば,ブラケット部がイ号意匠の要部として需要者・利用者の注意を引く部分となることは有り得ない。 (オ)「上記第1の1.(5)イ.(イ)相違点」において,本件登録意匠の波形手すり部の両端は,下方垂直に折り曲げられているのに対し,イ号意匠では,下端は斜め下方へ直線状に延長され,上端は水平状に長く延長されている,とした点 手すりの「水平部」の構成は,上記したとおり,周知であり,他方端の構成も従来の直線状の手すりにおいてその端部を下方へ折曲させることは衝撃緩和やその端部が服の袖口に入り込まないようにするため等,安全上普通に行われている常套手段である。イ号意匠の手すり本体の両端部も乙第2号証より明らかなとおり,ジョイント部が設けられ,設置場所の状況においてその端部にジョイント部を介して適宜な形状や長さの手すりを選択して取着するものである。判定請求人も認めているように,この両端部は意匠の要部ではなく,この点が意匠の類否の判断に与える影響は軽微である。 上記のとおり,請求人は,その請求の理由「上記第1の1.(5)ア.本件登録意匠の要部」において,手すりの端部の構成や手すりの取り付け部の構成を除いた手すり本体の構成を本件登録意匠の要部として認定している事実からも,手すり本体以外の構成が本件登録意匠の要部ではなく,その手すり本体は本件登録意匠とイ号意匠とは同一又は類似する意匠である。 高裁判決において「意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が要部において構成態様を共通するか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。」と判示しているように,本件登録意匠とイ号意匠とを要部の構成態様の共通点を中心に観察すれば,両者が全体として美感を共通することは明らかである。 3.結び 上記のとおり,本件登録意匠の要部は,従来直棒であった手すり本体を一定間隔毎に一定曲率の鈍角をもって折り曲げを繰り返したことであり,他方,イ号意匠の要部は,手すり本体端部の構成や手すり本体の取り付け部の構成にはなく,本件登録意匠と同様の手すり本体が視覚に訴える部分である。両者の要部を重視して意匠全体の類否判断をすれば,両意匠は美感を共通し,イ号図面並びにその説明書に示す意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものである。 4.証拠方法 (1) 乙第1号証 平成26年5月19日付の通知書及び回答書(3)の写し (2) 乙第2号証 2014年6月17日発行の請求人の取引先会社のパンフレットの写し (3) 乙第3号証 ベンダーの写真 (4) 乙第4号証 本件登録意匠とイ号意匠との拡大比較図 (5) 乙第5号証 実用新案登録第3068771号公報 (6) 乙第6号証 特開2003-49521号公報 (7) 乙第7号証 特開平9-151588号公報 第3 当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1090371号の意匠)は,平成11年(1999年)9月28日に意匠登録出願され,平成12年(2000年)9月8日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,その願書及び願書に添付した図面によれば,意匠に係る物品を「階段手すり」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面の記載のとおりとしたものである。(別紙第1参照) すなわち,その形態は,基本的構成態様として,手すり本体が,(ア)円筒状の細長い棒状のものであって,(イ)当該本体部分をその長手方向に沿って複数か所で凸部と凹部が交互に表れるように折り曲げたものであり,(ウ)凸部と凹部の頂部を頂点とした折り曲げ部の角度を同一鈍角として形成し,(エ)凸部同士の頂部と凹部同士の頂部はそれぞれ等間隔で表れる様にしたものであって, 具体的構成態様として,(オ)凸部頂部から凹部頂部まで(以下「傾斜握り部」という。)を直線状として,その傾斜角度を約55度とし,(カ)凹部頂部から凸部頂部まで(以下「略水平握り部」という。)を直線状として,その傾斜角度を約10度とし,(キ)凸部及び凹部の頂部を頂点とした折り曲げ部の同一鈍角を共に,約135度とし,(ク)傾斜握り部の長さは,全て同一の長さとし,(ケ)略水平握り部の長さは,全て同一の長さとして,(コ)その傾斜握り部と略水平握り部の長さの比率を,約3:2として,(サ)(キ)及び(コ)によって,略逆「へ」の字状の三角波形状となり,(シ)この三角波形状を1パターンとして,全体でその波状を8パターン繰り返して連続形成したものであって,(ス)手すり本体両端は,略水平握り部としつつ,その端部を下向き垂直方向に折り曲げて,端部折り曲げ部としたものである。 2.イ号意匠 イ号意匠は,請求人が提出したイ号図面及び説明書に表された意匠である。(別紙第2参照) すなわち,イ号意匠は,笠木部と笠木部を固定するためのブラケット部が一体に形成された階段手すりであって,その形態は,基本的構成態様として,手すり本体が,(あ)略円筒状の細長い棒状のものであって,(い)建物の踊り場等に対応する水平部と,階段部分に対応する傾斜した傾斜部を備え,(う)傾斜部における手すり本体部分は,その長手方向に沿って複数か所で凸部と凹部が交互に表れるように折り曲げたものであり,(え)凸部と凹部の頂部を頂点とした折り曲げ部の角度を同一鈍角として形成し,(お)凸部同士の頂部と凹部同士の頂部はそれぞれ等間隔で表れる様にし,(か)手すり本体下部に複数のブラケットを設けたものであって, 具体的構成態様として,(き)上記(い)でいう水平部の長さと傾斜部の長さの比率を,約1:2とし,(く)傾斜握り部の傾斜角度を約60度とし,(け)凹部頂部から凸部頂部まで(以下「水平握り部」という。)の傾斜角度は0度の水平とし,(こ)傾斜握り部も水平握り部も曲線とし,合わせて略正弦波形状としており,(さ)凸部及び凹部の頂部を頂点とした折り曲げ部の同一鈍角を共に,約120度とし,(し)傾斜握り部及び水平握り部の長さは,共に同一の長さとし,(す)凸部及び凹部でなす波状を1パターンとして,全体でその波状を9パターン繰り返して連続形成したものであって,(せ)水平部の端部は,エルボー状の部材を設けて,壁側に曲げた態様とし,(そ)傾斜部の端部は,斜め直線状にした上で,エルボー状の部材を設けて,壁側に曲げた態様としたもので,(た)手すり本体部分は,下側に,ブラケット取付け用の,長手方向の溝があり,結果,断面形状は,下向き開口C字状としたものである。 3.本件登録意匠とイ号意匠の対比 本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という)を対比すると,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「階段手すり」とし,対するイ号意匠は,笠木部と笠木部を固定するためのブラケット部が一体に形成された「階段手すり」である。 形態については,主として以下の共通点と相違点が認められる。 (1)共通点 基本的構成態様として,手すり本体が,(A)略円筒状の細長い棒状のものであって,(B)当該本体部分をその長手方向に沿って複数か所で凸部と凹部が交互に表れるように折り曲げたものであり,(C)凸部と凹部の頂部を頂点とした折り曲げ部の角度を同一鈍角として形成し,(D)凸部同士の頂部と凹部同士の頂部はそれぞれ等間隔で表れる様にしている点において主に共通する。 (2)相違点 基本的構成態様として,(a)本件登録意匠は,階段部分に対応する傾斜した傾斜部のみであるのに対して,イ号意匠は,傾斜部と,踊り場等に対応する水平部を備えている点, 具体的構成態様として,(b)折り曲げ部の角度につき,本件登録意匠は,約135度であるのに対して,イ号意匠は,約120度である点,(c)握り部の態様につき,本件登録意匠は,傾斜握り部と略水平握り部共に直線状とし,傾斜握り部の傾斜角度を約55度,略水平握り部の傾斜角度を約10度とし,その長さの比率を約3:2としているのに対して,イ号意匠は,傾斜握り部と水平握り部を曲線で構成し,傾斜握り部の傾斜角度を約60度,水平握り部は水平とし,その長さの比率を1:1としており,その結果,本件登録意匠は,略逆「へ」の字状の三角波形状としているのに対して,イ号意匠は,略正弦波形状としている点,(d)波状パターンの数につき,本件登録意匠は,8であるのに対して,イ号意匠は,9である点,(e)手すり端部の態様につき,本件登録意匠は,下向き垂直方向に折り曲げているのに対して,イ号意匠は,壁側に曲げている点,(f)底面側の溝につき,本件登録意匠は,溝が無く,手すり本体の断面が真円形の筒状であるのに対して,イ号意匠は,長手方向に溝を設けている点,に主な相違がある。 4.類否判断 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,すなわち,両意匠が類似するか否かについて,検討する。 まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「階段手すり」としているのに対して,イ号意匠は,笠木部と笠木部を固定するためのブラケット部が一体に形成された階段手すりであるから,手すり本体を取り付けるためのブラケット部の有無という付加的な点で違いはあるものの,どちらも建物等の階段部に設ける手すりという意味において,主な用途と機能が一致し,意匠に係る物品は共通するといえる。 次に,形態については,本件登録意匠の出願前に存する公知意匠等を参酌し,新規な態様や需要者の注意を最も引きやすい部分を考慮した上で,共通点と相違点が意匠全体として両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,検討する。 共通点(A)については,手すり本体が細長い棒状であることは,ごく普通のことであって,その断面形状は各種あることが認められるが,略円筒状とすることもごく普通であるから,この共通性のみをもって両意匠の類否判断を決するものとすることはできず,また,共通点(B)ないし(D)によって,階段手すりが直線状ではなく,繰り返す波状である,という一定程度の共通感を起こさせる態様が認められるとは言え,これらの構成態様を基本とした上で,以下の異なる具体的な構成態様が見受けられ評価できることから,これらの共通性のみをもって両意匠の類否判断を決するものとすることはできない。 これに対して,基本的構成態様に係る相違点である(a)は,「建築基準法施行令で『一定の高さをこえるものにあっては,一定の高さ以内ごとに踊場を設けなければならない』と規定しており,その法解釈は『踊り場には手すりを設け,階段の手すりと一続きになっていなければならない』とされ,実際の設置場所でも階段と踊場の手すりは連続した一続きのものとして施工されており,階段における『傾斜部』の手すりと踊場における『水平部』の手すりとを連続一体的に設けることは周知事項であって,甲第10号証にも,乙第6号証にも,踊り場と階段部の手すりとを連続一体的に設けていることが記載されていて,『傾斜部』における手すりと『水平部』における手すりは,手すりの設置場所において様々な態様が考えられるので,請求人の取引先会社の本件イ号意匠が記載されているパンフレットのとおり,踊場の踏幅の長さに応じて『水平部』の手すりの長さも適宜選択されるものである」などと被請求人が主張するとおり,傾斜部の手すりに水平部の手すりを一続きとすることは,踊場を一定条件のもとで設けなければならない建築基準法の規定からごく一般的なことであり,傾斜部に水平部を連続形成した点は,意匠の要部とは成り得ず,また,手すりの傾斜部における長さは,階段の長さに応じて適宜選択されるもので,長さをイ号意匠のようにした点も意匠の要部とは成り得ないとしても,形態を全体観察して両意匠の類否を図る意匠の類否判断においては,これらの相違点が,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えると言わざるを得ない。 相違点(b)については,イ号意匠の傾斜部における手すり本体は曲線のみで構成されていることから,折り曲げ角度との認識がしづらいと考えられるし,そもそも共通点(C)の中での僅かな差でしかないから,両意匠の類否判断には影響を与えない。 相違点(c)は,本件登録意匠に,直線的で,不等辺三角形の躍動感のある,カクカクとした固いイメージを醸し出させるのに対して,イ号意匠には,1:1の左右対称の,静的な,曲線による柔らかいイメージを醸し出させ,なおかつ,本件登録意匠の,手すりの各部分を意識的に断続的に握り直さなければならないと思わせる形状と,イ号意匠の,連続的に手を滑らせながら移動することができると思わせる形状では,視覚的な印象が大きく異なり,その結果,両意匠の類否判断に与える影響は大きいといえる。 なお,被請求人は,本件登録意匠の特徴として,傾斜部においては「取っ手」のように,体を引きつけることが可能であり,略水平部は「杖」のように,体を支えることが可能である,と主張する(上記第2の2.(2)ウ.)から,この被請求人の主張に対して考察する。 仮に,イ号意匠に,本件登録意匠と同様の機能や効果が存するならば,その技術的な内容は,該当する特許(又は「実用新案」。以下同じ。)を利用していることになるとしても,その機能や効果を発揮する形態を基礎として,新規な,創作が容易でない形態を新たに創作したのであれば,その創作した内容は,意匠法においては評価されるべきものであって,当該特許の有無とは関係無く判断されるものであるから,この判定請求事件において,イ号意匠が,本件登録意匠に類似するか否かの判断においては,被請求人の当該主張は何ら考慮する必要はない。 相違点(d)については,繰り返し表れるパターンの,8か9の微差であって,なおかつ,階段の段数や長さに合うようにして決定されるものであるから,両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 相違点(e)については,この種の,長尺的な物においては,その端部は要部ともいえる部分であるから,小さくとも一定程度類否判断に与える影響はあると認められる。 相違点(f)については,被請求人の主張どおり,設置後の,通行人等一般利用者の目視できる位置ではなく,視覚を通じて認識することはないとしても,建築物等の完成に向けて,どのような建築部品を使用するか,取捨選択する設計士,また,現場施工時に作業をする業者としては,重要な部位に係る事項であって,それら需要者にとっては,この種物品における意匠的要部と考えられ,本件登録意匠のようなものにあっては,輪状の取付け部があるクランプ等をはめるものか,溶接などして直接クランプや支柱を付けるものか,又はボルト用ねじ穴などの後加工を施さないとクランプが取り付けられないものか,などと見えるところ,イ号意匠が,被請求人の言うとおり,例え乙第6及び7号証に明らかなように,従来からある周知技術であったとしても,クランプ取付け用の溝があるということは,本件登録意匠のように施工において施工方法の自由度はなくなるが,当該溝にクランプ上端を組み込むという特定の施工方法はたやすくなるものであることは自明であり,それが需要者の視覚を通じて認識できるものであるから,この溝の有無という相違は,両意匠の類否判断において大きな影響を与えるものと認められる。 よって,形状については,相違点全体は基より,いくつかの相違点のみでも,共通点が生じさせている共通感をしのぎ,見る者に両意匠が別異であるとの印象を与えることから,両意匠の共通点及び相違点を総合的に判断すると,両意匠の意匠に係る物品が共通するものの,形態は類似しないから,イ号意匠は,本件登録意匠に類似するということができない。 5.結び 以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2015-09-01 |
出願番号 | 意願平11-26215 |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZA
(L3)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
本多 誠一 |
特許庁審判官 |
橘 崇生 刈間 宏信 |
登録日 | 2000-09-08 |
登録番号 | 意匠登録第1090371号(D1090371) |
代理人 | 窪田 法明 |
代理人 | 伊藤 哲夫 |