• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 J7
管理番号 1309595 
審判番号 不服2015-14227
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-29 
確定日 2015-12-15 
意匠に係る物品 歯科器具用ストッパー 
事件の表示 意願2014- 7258「歯科器具用ストッパー」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,2013年5月2日の米国への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴う,意願2013?25643号(平成25年(2013年)11月1日に出願され,その後平成26年(2014年)7月11日に意匠権の設定登録がされた意匠登録第1504632号)を原出願とする意匠法第10条の2第1項の規定による分割出願として,平成26年(2014年)4月2日に出願された部分意匠として意匠登録を受けようとする意匠登録出願であり,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付された図面によれば,意匠に係る物品を「歯科器具用ストッパー」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を願書及び願書に添付された図面に表されたとおりとしたものであって,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである(以下,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)。(別紙第1参照)


第2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には以下のとおりである。

「本願意匠は,歯科器具に挿通される板状のストッパーの孔の形状について,円形の孔の周囲に,5本のスリットを放射状に配したものと認められます。
ところで棒状のものが板状体に差し込まれる場合,孔の周囲に,放射状にスリットを設けることは,様々の分野でごく普通に行われるところです。(公知意匠1?5)
本願意匠は,公然知られた板状の歯科器具用ストッパー(公知意匠6)の円形孔において,単にその周囲にごく普通のスリットを5本,等間隔の放射状に配したまでの創作であり,当業者が容易に創作をすることができる意匠に該当します。

公知意匠1(別紙第2参照)
電気通信回線の種類 インターネット
掲載確認日(公知日) 2010年 9月 6日
受入日 特許庁意匠課受入2010年 9月15日
掲載者 鍋屋バイテック株式会社
表題 SWAS-SC - 脱落防止ワッシャ
掲載ページのアドレス http://www.e-nedzi.com/product/swas-sc/index.html
に掲載された座金の孔部
(特許庁意匠課公知資料番号第HJ22037428号)

公知意匠2(別紙第3参照)
特許庁特許情報課が2002年 8月 8日に受け入れた
2002年 7月23日発行の米国特許商標公報(DVD-ROM番号:USP2002W30)に記載された意匠特許 第 US D460,685S号の
ワッシャーの孔部
(特許庁意匠課公知資料番号第HH14664625号)

公知意匠3(別紙第4参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
平成6年特許出願公開第101708号
【図8】に示された孔部

公知意匠4(別紙第5参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
平成11年特許出願公開第051252号
【図2】に示された孔部

公知意匠5(別紙第6参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2002-048117
【図2】に示された孔部

公知意匠6(別紙第7参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2003-102746
【図4】に「88」として示されたストッパーの意匠」


第3 請求人の主張の要旨

請求人は,審判請求書によって,要旨以下のとおり理由を述べ,原査定を取り消し,本願は意匠登録をすべきものであると主張している。

本願意匠の放射状幅広スリットは,中央円形孔部の直径と放射状幅広スリットの長さが略同一に形成され,各幅広スリットは中央円形開口部の幅が図面上約0.5cmであり,先端部付近の幅が図面上約0.4cmであり,幅広スリット先端部は円弧状に形成されている。さらに,各幅広スリットには先端部ほど幅が狭くなるようテーパー状に形成されている。幅広スリット開口部付近と先端部との差は約0.1cmあり,中央円形孔部の直径と放射状幅広スリットの長さが約1.5cmであり,かつ,幅広スリットの幅がスリット長の約3分の1と太幅であることからすると,本願意匠を観察する場合,視線は自然に幅広スリットに惹かれるため0.1cmといえどもその差は大きく,「テーパー状に狭まる度合いは,視覚上気づかない程度のごく僅かなもの」ではなく,はっきりと視認でき,かつ,注意を惹く部分である。幅広スリット先端部が円弧状に形成されているため,この円弧状部分と幅広スリットが連続的に形成されていることから,より一層テーパー状に狭まる視覚的効果を生み出してしているということができ,「気づかない程度のごく僅かなもの」ということはできない。その上,幅広スリット先端部が円弧状となっているので,単なる細い等幅のスリットではなく,中央円形孔部,テーパー状幅広スリット,円弧状先端部とが相俟って,全体として曲面を多用した柔らかい視覚的印象を与える略「大」字状孔部を形成している。しかも,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分は,円形状孔部と5本の放射状幅広スリットからなる略「大」字状孔部の内面であるから,中央の円形孔部の直径と同程度の厚さがある立体的な面である。この点を考慮して,中央円形孔部,テーパー状スリット,円弧状先端部の各曲面が連設されていることに対する具体的事例を提示して創作が容易である旨を説示すべきであるにも関わらず,この部分に対する事例は概念的であり,かつ,具体的考察もされていない。引用意匠と本願意匠の属する分野が全く異なる上に形態も異なるのであるから,厚さを変更することが当然に容易ということにはならない。 本願意匠は,ストッパーとしての機能・用途から適切な厚さを検討した結果であるので,この点においても創意工夫があったと言わざるを得ない。

また,従来の歯科器具用ストッパーは,その使用方法及び機能要求から,中心孔のみを有し,摩擦力を低下させるスリットは設けない,いわゆるドーナツ状とすることが一般的であった。(公知意匠6:特開2003-102746号公報図4等参照)
本願意匠は,従来の歯科器具用ストッパーとは異なり,本願意匠のストッパーは,既に組み立てられた歯科器具に,後から別体として取り付けたり,取り外したりするという新しい使用方法を想定したものである。
そして,この新しい使用方法を可能とするために,軸との十分な摩擦力を保持したままで,中心孔の内径が増大可能となるように,中心孔の周囲に,適切なスリット長及びスリット幅の複数の幅広スリットを設けたものである。
以上のことから,従来の使用方法に合わせて中心孔のみがあればよく,幅広スリットを設けることは摩擦力を低下させて逆に好ましくないとされる歯科器具用ストッパーの分野で,従来とは異なる新たな使用方法に対応できるように,中心孔の周囲に複数の幅広スリットを設けたことは,それ自体が,十分な創作性を有するものである。

ところで,円形孔の周囲にスリットを設けることの事例として公知意匠1ないし公知意匠5の公知資料が提示されているが,公知意匠1ないし公知意匠5はいずれも,歯科器具用ストッパーとは関連がなく,用途機能が異なり,円形孔およびスリットの態様も異なるものである。公知意匠1ないし公知意匠5において,スリットはいずれも,ワッシャや締結仮止め等の機能要求に適応させたスリット長,スリット幅,スリット数,及び,立体形状を有するものであるから,公知意匠6に組み合わることはできないし,そもそも意匠の属する分野が異なるため組み合わせる動機づけもないので,公知意匠1ないし公知意匠6に基づいて,容易に想到することができたということはできない。
したがって,公知意匠1ないし公知意匠6に基づいて容易に創作できたというためには,歯科器具用ストッパーの分野において,機械部品のワッシャの意匠が通常の状態で利用されている事例を示すこと,すなわち,当業者にとってありふれた手法であることの提示が必要であり(意匠審査基準第2部第3章創作非容易性23.7),このような事例が全く提示されていない拒絶理由通知書は,意匠審査基準に反するものであり,手続違背ともいうべきものであって,拒絶理由として成立し得ない。
さらに,原査定においては,本願意匠の孔部の形状が「孔の形状として周知ともいうべき範囲のもの」との認定だが,本願意匠の孔部は,単なる細い等幅のスリットではなく,中央円形孔部,テーパー状幅広スリット,円弧状先端部とが相俟って,全体として曲面を多用した柔らかい視覚的印象を受ける略「大」字状孔部を形成しているので,「周知ともいうべき範囲」のものではない。
この点に関しては,たとえば,意匠登録第1475830号および意匠登録第1479180号は,本願意匠とは異なる分野の意匠であるが,「内径ブローチ工具用スクレーパ」の孔部の形態に係る部分意匠であって,本願意匠と同様に,概念的には中心孔の周囲に幅の狭いスリットを設けただけのものである。
この両意匠は,中心孔の相違およびスリットの数の相違によって別意匠として登録されているものである。スリットを含む孔部が,「孔の周囲にスリットを設けること自体が,様々の分野で,様々の目的で極く普通に行われているところ」であるならば,両意匠が登録になった理由が説明できないし,とりわけ,中心の円形孔が本願意匠と同様な意匠登録第1475830号については,一見「孔の形状として周知ともいうべき範囲のもの」といえるものであるが,これも登録になった理由が説明できない。つまり,両意匠がそれぞれ別意匠として登録となった理由は,中心孔部の形状およびスリットの形状や数を具体的に考慮した結果であると考えることが最も合理的な説明ということができる。したがって,本願意匠についても,中心孔の形状,大きさ,および,幅広スリットの長さ,幅(テーパー部を含む),数を具体的に検討すべきである。
また部分意匠出願に関する創作非容易性判断については,意匠登録を受けようとする部分のみに着目すべきではなく,「当該部分の用途及び機能を考慮し,『意匠登録を受けようとする部分』を当該物品全体の形態の中において,その位置・その大きさ・その範囲とすることが,当業者にとってありふれた手法であるか否かを判断する」(意匠審査基準71.4.3)とされている。原査定ではこの観点についての検討がなく,またこの観点からの例示の提示がない。
たとえば,意匠登録第1063604号の意匠はコンデンサーの部分意匠登録であるが,略円筒状のコンデンサーの側面部に略縦長楕円形状の凹部を形成したまでの意匠であるが,コンデンサーの分野においては,それまで側面に凹部を形成することが技術的にも形状的にもありえなかったため,たとえ凹部そのものが周知形状である縦長楕円形状であったとしても,それだけでは上記審査基準から創作容易とは判断されずに登録となっている。
これを,本願について当て嵌めてみると,仮に孔部が「孔の形状として周知ともいうべき範囲のもの」であるとしても,それだけで容易に創作できたということはできない。容易に創作ができたとするならば,前提として,そもそも歯科器具用ストッパーの分野において「孔の周囲にスリットを設けること」が普通に行われていなければならない。しかしながら,従来のストッパーはスリットのない円形孔のみからなるものであり,かつ,固着されるべきものであるからスリットは不要であったため,スリットを設けること自体が普通に行われていたという事実がない。したがって,上記審査基準のとおり「当該部分の用途及び機能を考慮し,『意匠登録を受けようとする部分』を当該物品全体の形態の中において,その位置・その大きさ・その範囲とすることが,当業者にとってありふれた手法であるか否かを判断する」ことにより,本願意匠が容易に想到できたということはできない。

以上のことを総合すると,公知意匠1ないし公知意匠5のいずれも,本願意匠の属する分野とは異なる分野の意匠であり,本願意匠を創作するに当たり,参照したりヒントを得たりするものではない。
また,公知意匠1ないし公知意匠5のいずれにも,本願意匠のような,「平板の中央部に設けられた中心孔の周囲に幅広スリットを設けたものであって,中心孔の周囲に5つの幅広スリットを設け,各幅広スリットは中心孔の直径とほぼ等しいスリット長と,そのスリット長の約3分の1の太いスリット幅とを有する幅広状であり,各幅広スリットの先端部は円弧状で,丸みを帯びている」態様は表されておらず,この態様は本願意匠の特徴であって,容易に創作できたものではない。
さらには,公知意匠1ないし公知意匠5のスリットを,公知意匠6に適用したところで,本願意匠には至らない。

以上のことから,本願意匠は公知意匠1ないし公知意匠6に基づいて容易に創作できたということはできないので,意匠法第3条第2項に該当する意匠ではなく,登録を拒絶すべき理由はない。


第4 当審の判断

1 意匠の認定
意匠の認定にあたっては,公知意匠1ないし公知意匠6については,本願意匠の図面の向きとあわせて記載する。

(1)本願意匠
1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は,歯内栓塞子や歯科用または医療用ドリル等の歯科器具に装着して使用される「歯科器具用ストッパー」である。

2)本願部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本願部分は,全体が板状の歯科器具用ストッパーの中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分であり,挿通された歯内栓塞子や歯科用または医療用ドリル等の歯科器具シャフト等に当接し,本願意匠が歯科器具からずれることを防止するものである。

3)本願部分の形態
ア 基本的構成態様
厚みを有する板体の中央に設けられた孔部(以下,「中央孔部」という。)から外側に向かって略放射状に複数のスリット部を形成したものである。

イ 具体的態様
本願部分は,
(ア)中央孔部を円形状とし,
(イ-1)スリット部を等角度に5本設け,
(イ-2)各スリット部を先端に向かうにつれて僅かに先細らせ,先端を円弧状とした略縦長「U」字状に形成し,
(イ-3)各スリット部の長さを,中央孔部の直径と略同一とした
ものである。

(2)公知意匠1
公知意匠1の意匠に係る物品は,ねじを締め付ける際に使用される「座金」であって,公知意匠1の本願部分に相当する部分(以下,「公知意匠1部分」という。)は,全体が略板状の座金の中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分であり,挿通されたねじのねじ山に爪部を引っかけてねじの抜け落ちを防止するものである。
そして,公知意匠1部分の形態は,基本的構成態様を,薄い略板状体に設けられた中央孔部から外側に向かって略放射状に複数のスリット部を形成したものとし,具体的態様を,中央孔部を略円形状とし,スリット部を等角度に8本設け,各スリット部を,先端を円弧状とした略縦長「U」字状に形成し,各スリット部の長さを,中央孔部の直径の約1/2とし,各スリットの中央側端部を下方に鈍角に屈曲させて,各スリット間に爪部を形成したものである。

(3)公知意匠2
公知意匠2の意匠に係る物品は,ボルト等の金具を締め付ける際に使用される「ワッシャー」であって,公知意匠2の本願部分に相当する部分(以下,「公知意匠2部分」という。)は,全体が板状のワッシャーの中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分であり,締め付けたボルト等の金具の抜け落ちを防止するものである。
そして,公知意匠2部分の形態は,基本的構成態様を,厚みのある板体に設けられた中央孔部から外側に向かって略放射状に複数のスリット部を形成したものとし,具体的態様を,中央孔部を略円形状とし,スリット部を平面視上下方向に1本ずつ設け,各スリット部を,先端を円弧状とした略「U」字状に形成し,各スリット部の長さを,中央孔部の直径の約1/3としたものである。

(4)公知意匠3
公知意匠3の意匠に係る物品は,ねじ材と公知意匠3が取り付けられた支持材を固定するための「取付金具」であって,公知意匠3の本願部分に相当する部分(以下,「公知意匠3部分」という。)は,全体が略板状の取付金具の中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分であり,ねじ材の周側面に設けられた溝に係合して,ねじ材と支持材とを相互に回動可能とするものである。
そして,公知意匠3部分の形態は,基本的構成態様を,薄い略板状体に設けられた中央孔部から外側に向かって略放射状に複数のスリット部を形成したものとし,具体的態様を,中央孔部を略五角形状とし,スリット部を略五角形状中央孔部の各頂点から外周方向に向かって各1本設け,各スリット部を,先端を直角状とした略縦長倒コ字状に形成し,各スリット部の長さを,中央孔部の直径と略同一とし,各スリット部は先端から中央に向かって,底面側にやや膨出した側面視略「ノ」字状に形成したものである。

(5)公知意匠4
公知意匠4の意匠に係る物品は,合成樹脂管を固定するための「配管用クランプの留め板」であって,公知意匠4の本願部分に相当する部分(以下,「公知意匠4部分」という。)は,全体が略板状の配管用クランプ留め板の中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分であり,挿通された合成樹脂管を固定するために挟持するものである。
そして,公知意匠4分の形態は,基本的構成態様を,薄い略板状体に設けられた中央孔部から外側に向かって略放射状に複数のスリット部を形成したものとし,具体的態様を,中央孔部を略円形状とし,スリット部を等角度に8本設け,各スリット部を,先端を円弧状とした略縦長U字状に形成し,各スリット部の長さを,中央孔部の直径の約1/2とし,各スリット部は中央孔部側端部付近を底面側に湾曲させて,端部を水平方向に屈曲させた断面視略匙状に形成したものである。

(6)公知意匠5
公知意匠5の意匠に係る物品は,ボルトに被取付部材を仮止めするための「仮止め用金具」であって,公知意匠5の本願部分に相当する部分(以下,「公知意匠5部分」という。)は,全体が板状の仮止め用金具の中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分であり,挿通されたボルトのねじ山に中央円孔の端部を引っかけて,公知意匠5とボルトを有する取付部材に挟まれた被取付部材を仮止めするものである。
そして,公知意匠5部分の形態は,基本的構成態様を,薄い板体に設けられた中央孔部から外側に向かって略放射状に複数のスリット部を形成したものとし,具体的態様を,中央孔部を略円形状とし,スリット部を等角度に4本設け,各スリット部を,先端を直角状とした略縦長倒コ字状に形成し,各スリット部の長さを,中央孔部の直径の約1/2としたものである。

(7)公知意匠6
公知意匠6の意匠に係る物品は,歯内治療処置中に歯根管の鮮創を行うための「歯内治療用鑢」であって,公知意匠6の本願部分に相当する部分(以下,「公知意匠6部分」という。)は,歯内医療用鑢の全体が板状のストッパー部分の中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分であり,挿通された歯内治療用鑢のシャフト部と接しているものである。
そして,公知意匠6部分の形態は,基本的構成態様を,厚みのある板体に中央孔部のみを形成したものとし,具体的態様を,中央孔部を略円形状としたものである。

4 創作非容易性の判断
以下,本願意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するか否か,すなわち,本願意匠が,この意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に創作することができたものであるか否かについて検討する。

まず,部分意匠に対する意匠法第3条第2項の規定の適用についての判断は,意匠登録を受けようとする部分全体の形態が,当該意匠登録出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かを判断すると共に,当該部分の用途及び機能を考慮し,意匠登録を受けようとする部分を当該物品全体の形態の中において,その位置,大きさ,及び範囲とすることが,当業者にとってありふれた手法であるか否かを判断することによって行うことが必要である。
そこで,本願部分の位置,大きさ及び範囲について検討すると,歯科器具のシャフトに取り付けられる板状のストッパーの中央に孔部を設け,その孔部に当該シャフトを挿通することは,従来から普通に見られることから,本願意匠の中央に設けられた孔部及びスリット部の内周面部分とした本願部分の位置,大きさ及び範囲は,当業者にとってありふれたものであると言える。
なお,本願部分は,歯科器具用ストッパーが属する物品分野においては従来見られないスリット部を有する孔部の内周面ではあるが,孔部及びスリット部がまとまってひとつの孔部を形成していると言えることから,本願部分の位置,大きさ及び範囲の検討を行う際には,孔部を設けることが従来より見られるか否かが問題であり,スリット部の有無については特に判断に大きく影響を与えるものではない。

次に,本願部分の形態が,当該意匠登録出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かを検討する。

原査定は,拒絶の理由の根拠として,公知意匠1ないし公知意匠5を例示し,棒状のものが板状体に差し込まれる場合,孔の周囲に,放射状にスリットを設けることは,様々の分野でごく普通に行われることであるとし,公然知られた板状の歯科器具用ストッパー(公知意匠6)の円形孔において,単にその周囲にごく普通のスリットを5本,等間隔の放射状に配したまでの創作である本願意匠は,当業者が容易に創作をすることができる意匠に該当する,と判断している。
しかし,公知意匠1ないし公知意匠5は,座金やワッシャ等の,2つの木材や金属材等を固定するために使用される金具であって,本願意匠とは異なる物品分野の意匠である。そこで,まず,本願意匠が属する物品分野において,上記金具が属する物品分野の意匠の形状を採用することが,当業者にとって容易であるか否かについて検討する。
本願意匠について,本願意匠が属する物品分野以外の他の物品分野の意匠の形状に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであるというためには,本願意匠が属する物品分野において,他の物品分野の意匠の形状を用いることがありふれた手法であることの根拠が必要であるが,原査定はそのような根拠を示していない。そして,当審が改めて調査したところ,本願意匠が属する物品分野において,金具等が属する物品分野において見られる公知意匠1ないし公知意匠5のような形状を用いた意匠は見受けられない。
したがって,本願意匠が属する物品分野において,公知意匠1ないし公知意匠5の形状を用いることは,当業者であれば容易に創作することができたものであるということはできない。

さらに,仮に本願意匠が属する物品分野において公知意匠1ないし公知意匠5の形状を用いることが,当業者によって容易に用いられる手法であるとしても,原査定が例示した公知意匠1ないし公知意匠5の本願部分に相当する部分の形状は,前記1(2)ないし(6)のとおりであり,これらの形状と本願部分の形態の共通する部分は,略板状体の中央に設けられた略円形状の中央孔部から外側に向かって略放射状に複数のスリット部を形成したという点のみであって,その他の具体的形態はいずれも本願部分とは異なるものであるから,本願部分の形態,とりわけ各スリット部を先端に向かうにつれて僅かに先細らせ,先端を円弧状とした略縦長「U」字状に形成した形態が,公知意匠1ないし公知意匠5の形状に基づいて容易に創作することができたということはできない。

したがって,本願部分は,公知意匠6の形状を,公知意匠1ないし公知意匠5に基づいて変更したものであるとして,当業者が容易に創作することができたということはできない。


第5 むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたとはいえないものであるから,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2015-11-30 
出願番号 意願2014-7258(D2014-7258) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (J7)
最終処分 成立 
前審関与審査官 市村 節子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 久保田 大輔
江塚 尚弘
登録日 2016-01-08 
登録番号 意匠登録第1543195号(D1543195) 
代理人 竹林 則幸 
代理人 結田 純次 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社   サービスに関しての問い合わせ