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審決分類 |
審判 査定不服 2項容易に創作 取り消して登録 F4 |
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管理番号 | 1309609 |
審判番号 | 不服2015-6969 |
総通号数 | 194 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2016-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-14 |
確定日 | 2016-01-19 |
意匠に係る物品 | 包装用容器 |
事件の表示 | 意願2014- 9533「包装用容器」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 本願意匠 本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする平成26年(2014年)5月1日の意匠登録出願であり,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「包装用容器」とし,形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」ともいう。)を,願書及び願書に添付した図面の記載のとおりとしたもので,「実線で表された部分(当審注:以下「本願部分」という。)が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。本意匠(当審注:「本願意匠」の誤記と認められる。)は,A-A断面図,B-B断面図及びC-C断面図並びに各端面図に明確に現れるように,歪みを有し,各断面図並びに各端面図において,上下・左右非対称となっている。D-D切断部端面図及びE-E切断部端面図は,内部機構を省略している。」としたものである。(別紙第1参照) 第2 原審の拒絶の理由 原審における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には以下のとおりである。 「容器本体部の形状について,いびつで非対称な略球状体とすることは,容器の物品分野においてありふれた手法であり,公然知られた形状と認められます(注の意匠参照)。よって,本願意匠は公知の形状に基づいて容易に創作することができた意匠と認められます。 注: 電気通信回線の種類 インターネット 掲載確認日(公知日) 2013年 5月14日 受入日 特許庁意匠課受入2013年 5月31日 掲載者 リシュモン アンテルナシオナル ソシエテ アノニム 表題 Joya | Composition No. 6 Parfum,75ml | NET-A- PORTER.COM 掲載ページのアドレス http://www.net-a-porte r.com/product/348540 に掲載された「包装用容器」の意匠 (特許庁意匠課公知資料番号第HJ25009942号)」 第3 請求人の主張の要点 これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。 1 本願意匠と引用意匠の対比 本願意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品が共通しており,主に,その形態について,以下の共通点と差異点がある。 (1)共通点 基本的構成態様において,上窄まりの有底形状である点が共通している。 (2)差異点 一方,両意匠には,下記に示す差異点がある。 ア 本願意匠は,上窄まりの有底略球状体であるのに対し,引用意匠は,上窄まりの有底略多面体形状である点に差異点がある。 イ 本願意匠は,左側面図及び右側面図に示すように,上半分の部分はなだらかに広がり,下半分が外側に凸に丸くなりつつ窄まっているのに対し,引用意匠は,上半分の部分は外側に角張り,下半分も外側に角張りつつ窄まっている点に差異点がある。 ウ 本願意匠は,全体に丸みおびた歪みを有し,各断面図並びに各端面図において,上下・左右非対称になっているのに対し,引用意匠は,全体にごつごつした歪みを有している点に差異点がある。 エ 本願意匠は,斜視図に示すように,表面が丸みおびて滑らかであるのに対し,引用意匠は,表面が多面体であり角張っている点に差異点がある。 オ 本願意匠は,全体がつや消しの白色のポリプロピレンで形成されており,光が拡散して表面があまり光らないのに対し,引用意匠は,全体が型押しされた黒色で形成されており,表面の面に応じて,光の加減で色合いや光沢も変化して見える点に差異点がある。 2 創作容易性判断 意匠に係る物品について,両意匠は,「包装用容器」であり,意匠に係る物品が共通している。 そこで,両意匠の形態の共通点と差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。 (1)共通点の評価 まず,両意匠の基本的構成態様の共通点,すなわち,基本的構成態様において,上窄まりの有底形状である基本的構成態様は,この種の物品の分野において,例えば,登録第1487487号意匠(甲第3号証参照)に見られるように極普通に知られており,両意匠の創作容易性の判断の要部(支配的要素)とならないと思料する。 (2)差異点の評価 そこで,両意匠の差異点が類否判断に及ぼす影響について検討する。 ア 差異点アについて 本願意匠は,上窄まりの有底略球状体であるのに対し,引用意匠は,上窄まりの有底略多面体形状であり,基本的構成態様が明らかに相違しており,創作容易性の判断に大きな影響を及ぼすと思料する。 自然の材料を用いることが重視される化粧品業界において,内容物の材料の形態をかたどりつつ底面を備えている本願意匠の形態が,その創作容易性の判断に及ぼす影響は極めて大きいと思料する。 イ 差異点イについて 本願意匠は,左側面図及び右側面図に示すように,上半分の部分はなだらかに広がり,下半分が外側に凸に丸くなりつつ窄まっているのに対し,引用意匠は,上半分の部分は外側に角張り,下半分も外側に角張りつつ窄まっているため,創作容易性の判断に及ぼす影響は大きいと思料する。 ウ 差異点ウについて 本願意匠は,全体に丸みをおびた歪みを有し,各断面図並びに各端面図において,上下・左右非対称になっているのに対し,引用意匠は,全体にごつごつした歪みを有しているものであるため,創作容易性の判断に及ぼす影響は大きいと思量する。 また,本願意匠の丸みおび歪みが柔らかな印象をうける点が,全体にごつごつした歪みを有している引用意匠にはなく,その有無は需要者が関心を寄せるところであり,両意匠の創作容易性の判断に少なからず影響を及ぼすと思料する。 エ 差異点エについて 本願意匠は,斜視図に示すように,表面が丸みおびて滑らかであるのに対し,引用意匠は,表面が多面体であり角張っているため,創作容易性の判断に及ぼす影響は大きいと思料する。 オ 差異点オについて 本願意匠は,全体がつや消しの白色のポリプロピレンで形成されており,光が拡散して表面があまり光らないのに対し,引用意匠は,全体が型押しされた黒色で形成されており,表面の面に応じて,光の加減で色合いや光沢も変化して見えるため,創作容易性の判断に及ぼす影響は大きいと思料する。 そうして,これらの差異点アないしオが相侯って生じる意匠的効果を考慮すると,両意匠の差異点が創作容易性の判断に及ぼす影響け極めて大きいものであり,両意匠の共通点を凌駕していることは明らかであり,引用意匠から本願意匠は容易に創作することはできない意匠である。 (3)ありふれた手法について 審査官は,拒絶理由において「いびつで非対称な略球状体とすることは,容器の物品分野においてありふれた手法であり,公然知られた形状とみとめられます。」と説示した。また,拒絶査定において「略球状体のいびつの程度に差異があるとしても,ありふれた範囲内の選択乃至変更によるものといわざるを得ません。」と説示した。 確かに,引用意匠のように略多面体形状のものをいびつな非対象にすることは,公然知られているのかもしれない。 しかし,略球状体の包装用容器は,左右対称あるいは上下対称にされているのが一般的である。本願意匠のように,あえて上窄まりの有底略球状体で,表面が丸みおびて滑らかな形状を左右非対称,上下非対称にした包装用容器は,公然知られた形状ではない。公然知られた形状ではないことから明らかなように,当業者が,このような形状を選択乃至変更することもできない。 よって,引用意匠から本願意匠は容易に創作することはできない意匠である。 3 まとめ したがって,本願意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものではなく,意匠法第3条第2項に該当しない意匠であり,登録を受けることができる意匠である。 第4 当審の判断 以下,本願意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するか否か,すなわち,本願意匠が,この意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作することができたものであるか否かについて検討する。 1 本願意匠 本願意匠の意匠に係る物品は「包装用容器」であり,本願部分は上部の蓋部を除いた本体の部分であって,その本願部分の形態は,次のとおりである。 (A)全体が,下面が潰れた略蜜柑形状である。 (B)正面の構成態様について 左右最大幅と上下最大幅(下端から蓋部下端までの長さ)の比は約11.6:10であって,上端の横幅は左右最大幅の約32%であり,水平に表された下端の横幅は左右最大幅の約51%である。 (C)右側面の構成態様について 左右最大幅と上下最大幅(下端から蓋部下端までの長さ)の比は約11.7:10であって,上端の横幅は左右最大幅の約32%であり,水平に表された下端の横幅は左右最大幅の約45%である。 (D)表面の態様について 正面,右側面から見た外形状(左右の稜線)は左右非対称であり,部分的に歪んでいる。また,「A-A断面図」,「B-B断面図」及び「C-C断面図」に表された水平方向の断面外形状は正円形ではなく,断面外形状が同心円形状にはなっていない。また,これらの断面外形状では,右半部において,滑らかに連続していない曲率変更部位が最右端部とそのやや下方に認められ,左半部においては,そのような曲率変更部位は顕現しておらず,右半部と比較すると滑らかな略円弧状に連続している。 2 原審の拒絶の理由において引用された意匠 原審の拒絶の理由において,公然知られた形状であるとして引用された意匠は,前記第2で示したとおり,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「包装用容器」の意匠(以下「引用意匠」という。)であり,その形態は,次のとおりである(別紙第2参照)。 (a)全体が,正面から見て,略徳利形状である本体と,その上に載置された略横長楕円状の蓋部から成るものである。 (b)本体正面の構成態様について 細口状の上部を除いた本体正面の左右最大幅と上下最大幅(下端から細口部下端までの長さ)の比は約11.5:10であって,上端の横幅は左右最大幅の約34%であり,略水平に表された下端の横幅は左右最大幅の約66%である。 (c)本体右側面の構成態様について 本体右側面の構成態様は不明である。 (d)表面の態様について 正面から見た外形状(左右の稜線)は左右非対称であり,部分的に略直線状に表されている。また,略平坦面状に表された部分が不規則に点在している。(ただし,写真として現された引用意匠において,その写真の限りでは,略平坦面状部位の位置や形状を正確に認定することはできない。) 3 創作非容易性の判断 まず,包装用容器の物品分野において,(A)ないし(D)の構成態様を全て有する本願部分は,独自の態様であるというべきであり,引用意匠に見られる公然知られた形状に基づいて,当業者が容易に本願部分の創作をすることができたということはできない。 確かに,引用意匠においては,細口状の上部を除いた本体正面の左右最大幅と上下最大幅の比が本願部分のその比とほぼ同じであり,上端の横幅が左右最大幅に占める割合もほぼ同じである。そして,正面から見た外形状が左右非対称であって,水平方向の断面外形状も,略平坦面状に表された部分が不規則に点在していることから,正円形ではないと推認することは可能である。 しかしながら,引用意匠の本体右側面の構成態様は不明であり,また,それ故に水平方向の断面外形状が具体的にどのようなものであるかも不明であるから,当業者が引用意匠を見た際には,単に正面視外形状が非対称であって,水平方向の断面外形状が正円形ではないものを着想するにとどまるというべきである。そうすると,引用意匠に見られる公然知られた形状に基づく限りでは,本願部分の形状,すなわち,正面及び右側面から見た外形状を部分的に歪ませて,水平方向の断面外形状を同心円形状にはしないで,特に断面外形状の右半部において滑らかに連続していない曲率変更部位を設けた形状について,当業者が想到することができた形状であるということはできない。 次に,本願部分に見られる形状が,包装用容器の物品分野においてありふれた手法により創作することができたかについて検討する。 確かに,包装用容器の物品分野においては,各部を歪ませて,回転体ではない正面(又は側面)が非対称な本体の形状を有する意匠は,例を挙げるまでもなく,本願意匠の出願前に広く知られているということができる。 しかし,本願部分の上記形状は本願部分固有のものであって,特に,断面外形状の右半部において滑らかに連続していない曲率変更部位を設けた形状は本願部分に見られる形状特徴であるというべきである。そうすると,原審の拒絶の理由で述べられたように,「容器本体部の形状について,いびつで非対称な略球状体とすることは,容器の物品分野においてありふれた手法」であるとしても,上記形状を有する本願部分の創作を当業者が容易になし得たということはできない。 第5 むすび 以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたとはいえないものであるから,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2016-01-04 |
出願番号 | 意願2014-9533(D2014-9533) |
審決分類 |
D
1
8・
121-
WY
(F4)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 正田 毅 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
小林 裕和 渡邉 久美 |
登録日 | 2016-01-29 |
登録番号 | 意匠登録第1544797号(D1544797) |
代理人 | 植村 貴昭 |
代理人 | 植村 貴昭 |