• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2015880002 審決 意匠

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判    L6
審判    L6
管理番号 1314378 
審判番号 無効2015-880001
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-02-13 
確定日 2016-04-27 
意匠に係る物品 換気棟 
事件の表示 上記当事者間の登録第1496660号「換気棟」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯の概要

本件の意匠登録第1496660号に係る手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成25年 5月17日:意匠出願(意願2013-010897号)
平成26年 3月 5日:登録査定
平成26年 4月 4日:登録第1496660号として設定登録
平成26年 5月12日:意匠公報発行
平成27年 2月13日:無効審判請求
平成27年 7月17日:審判事件答弁書
平成27年 9月 8日:審判事件弁駁書
平成27年10月20日:審理事項通知書
平成27年11月26日:口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年12月11日:口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年12月25日:口頭審理

第2 請求人の申立及び理由

1.審判請求書(平成27年2月13日付け審判請求書)
請求人は,「登録第1496660号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出し,要旨以下のとおり主張した。
以下,この意匠登録第1496660号の意匠を「本件登録意匠」という。

(1)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,甲第2号証の意匠(以下,「引用意匠」という。)である出願前公知意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。又,前記引用意匠である公知意匠から当業者において創作容易であり,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。
よって,本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきものである。

(2)本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当し無効とすべき理由
ア 本件登録意匠(甲第1号証の意匠)の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「換気棟」の「部分意匠」で意匠登録第1496981号の本意匠として登録されたものである。その意匠は願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりであり,実線で表した部分が,部分意匠として意匠登録を受けた部分である。
その特徴(要部)は,願書の意匠に係る物品の説明及び添付図面の「A-A拡大端面図」「B-B拡大図」及び「使用状態を示す参考端面図」から明らかなとおり,「外方端部が山形形状に折り曲げて加工」された形状「第1部材の三角部」と認められ,それを片流れ屋根に設置するものである。
それは屋根に向かって吹き付けられる風雨が,当該三角部により上方に向きが変えられて,風雨の侵入が防止できる意匠形態の特徴と認められる。本件登録意匠に係る物品「換気棟」に接する取引者需要者は,その視覚印象において,その特徴を容易に認識看取して取引に供するものと認められる。

イ 引用意匠登録第1333959号(甲第2号証の意匠)の説明
引用意匠に係る物品は「換気棟」であり,その意匠の特徴である要部は,「本物品の水下側の三角状凸部」にあり,願書の「意匠に係る物品の説明」並びに添付図面の「右側面図」,「左側面拡大断面図」及び「風の流れを示す拡大断面図」より明らかである。屋根の片棟(片流れ屋根)における頭頂部に取り付ける金属製の棟カバーであり,その「水下側の三角状凸部」は,取引者需要者に容易に認識看取される。
それは,屋根に向かって吹き付けられる風雨の向きを上方に変え,風雨の侵入を防止する機能を有する形状である。この点が引用意匠における形態の意匠的特徴である。

ウ 本件登録意匠と引用意匠との対比
(ア)意匠に係る物品は,両者いずれも換気棟であり「同一」である。
(イ)本件登録意匠及び引用意匠における当該部分である,本件登録意匠の実線部分と引用意匠における相当部分は,その用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲において,前記の説明のとおり共通していると認められる。
両者棟カバーにおいて,屋根の片棟(片流れ屋根)に設置するものであり,意匠的効果も同一と認められ,しかも,両者は形態において彼此類似する事明らかで,その意匠範囲が抵触する点は明らかである。

エ 両意匠の形態及び類否
本件登録意匠は前記のとおり「外方端部が山形形状に折り曲げて加工」された形状「第1部材の三角部」であり,引用意匠は前記のとおり「物品の水下側の三角状凸部」であり,その形態的特徴の共通点は一瞥して明らかであり,両意匠における基調となる部分と認められる。
取引者需要者にあって,その共通点を対比観察した場合,そこに注意が及ぶ部分で視覚印象に与える影響大であり,両意匠当該部分を容易に認識看取され,彼此誤認混同されて取引されること火を見るより明らかである。
しかして,その相違点を探すに,前記その特徴が表現され把握できると認められる「右側面図」を見るに,実線の表示は認められず,更に敢えて,他の添付図面を精査するに「A一A拡大端面図」及び「B-B拡大図」から所謂通気口の奥に「突出片」の記載が認められるも,「実線」の表現とは認められず,部分意匠の構成とは認められない。又,斯かる突出片は外観には現れず視認できるものとも認められない。
しからば,本件登録意匠は「部分意匠」であり,引用意匠は全体意匠であるとの相違点が認められるのみである。

オ 結び
本件登録意匠の説明は前記のとおりであり,願書の「意匠に係る物品の説明」並びに添付図面の「A-A拡大端面図」,「B-B拡大図」及び「使用状態を示す参考端面図」から明らかなとおり,その要部は「外方端部が山形形状に折り曲げて加工」された形状「第1部材の三角部」と認められ,それを屋根頭頂部に設置するものである。
本件引用両意匠を対比評価するに,意匠に係る物品は同一であり,意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲においては基本的に共通し,形態についても比較検討するまでもなく彼此酷似しているもので,その意匠的効果も同一と認められるから,両意匠は全体として,その基本的構成態様及び具体的構成態様において酷似し,本件登録意匠は,出願前に公然知られた意匠である意匠登録第1333959号の引用意匠の範囲に属し類似すると認められ,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する点明らかで,その登録は無効とされるべきものと判断される。

(3)本件意匠登録が意匠法第3条第2項により無効とすべき理由
本件登録意匠及び引用意匠は前記のとおりであり,敢えてその相違点を見るに,本件登録意匠は換気棟の部分意匠であり,これに対して引用意匠は,同じく屋根の片棟(片流れ屋根)に設置する換気棟の全体意匠である。
所謂換気棟取扱い業者である取引者需要者(当業者)にあって,既に本件登録意匠の出願時(平成25年5月17日)には公知である引用意匠(公報発行日:平成20年6月23日)から本件登録意匠を創作することは,特段の創意工夫はなく極めて容易である点明らかである。その形態をそっくり転用することは自明であり極めて容易である。
よって,本件登録意匠は,既に公知である先願引用意匠とほとんどそのままの後願の部分意匠と認められることから,当業者において極めて容易に創作可能な意匠であり,意匠法第3条第2項に該当し無効とされて然るべきものである。

(4)小括
叙上のとおり,本件登録意匠は公知意匠に類似し,新規性は認められず,しかも,当該公知意匠から当業者なら創作容易であり,その登録は無効にされて然るべきである。本件審判請求につき,請求の趣旨のとおりの審決を下され度,希求する次第である。

(5)証拠方法
本証を以って,本件登録意匠がその出願前,公然知られた意匠に類似する意匠であり,しかも,引用意匠から創作容易であることを立証する。
甲第1号証 本件意匠登録第1496660号の意匠公報の写し
甲第2号証 引用意匠登録第1333959号の意匠公報の写し

2.審判事件弁駁書(平成27年9月8日付け審判事件弁駁書)
(1)本件無効審判事件における被請求人からの平成27年7月17日「答弁書」に対して,請求人は以下のとおり弁駁を行う。

(2)先ず,被請求人は,「無効理由の要点」で「疑問を呈さずにはいられない」と答弁されているが,審査基準及び従前からの審査運用等一瞥され疑問を解消されたい。

(3)次に,本件登録意匠について,「基本的態様」及び「具体的構成態様」として主張され答弁されているが,そもそも,本件登録意匠にあっては物品「換気棟」の一部分であり,その特定を参考図にて特定することは本来認められないものである。
仮に,本件部分意匠の基本的態様が,「山形形状に折り曲げ加工された外方端部付近の一部分」(所謂「三角部」)と「垂直に折り曲げ加工されている外方端部付近の一部分で通気口」を構成している点にあるとされるとしても,引用意匠における「右側面図」に比定し同一と認められる形状の意匠である点明らかで,視覚印象において共通している。
又,乙第1号証の1及び2に表示のA-A拡大端面図で「三角部」及び「垂下部から成る開口部」は,「使用状態を示す参考端面図」で表示が認められるものであり,飽く迄も「参考図」中の表示である。しかも物品の説明の参考図であり,意匠及び意匠の説明における図面とは認められない。部分意匠として特定が困難なものと認められる。
しかして,仮に百歩譲り,被請求人が希望的観察に基づく「部分意匠として登録を受けた部分の基本的態様」を上記「三角部」と「垂下部から成る開口部」としても,審判請求書にて詳説したとおり,上記のとおり引用意匠における「右側面図」と比定し同一と認められる形状の意匠である点明らかである。
更に又,続けて「具体的構成態様」の主張答弁は,本件登録意匠の意匠公報上における部分意匠の表現態様ではない。
被請求人の独自の都合解釈であり,牽強付会の感は否めない。

(4)請求人の主張に対する答弁について
意匠は外面に表示表現された形状であり,内部機構については,特段対比観察されるものとは認められない。両者の「通気構造の形状」を要部としての答弁主張は,外観上見えない部分,特に部分意匠には存在しない部分の主張では,何等とるに足りない論と認められる。
又,引用意匠の「要部」が出願前に公知であるとの答弁は,意匠は全体を一体的に観察されるものであり,物品の一部や部分についてを論ずるものではなく,被請求人の主張答弁は論外である。
請求人が,審判請求書にて縷々詳細に主張したとおり,本件登録意匠は,引用意匠に類似しその新規性は認められず,しかも,当該公知意匠から当業者なら容易に創作可能なものである。
敢えて付言するなら,甲第2号証に表示された引用意匠の形態は,明確であり,その外観構成態様において特徴は明らかである。本件登録意匠である部分意匠の特徴も既に,審判請求書にて詳説したとおりであり,特段に追加すべき説明はないが,「その形態は引用意匠をそっくり転用したもの」と容易に認められ,被請求人の「一部(何の一部か不明であるが)を置換したもの」「配置(何の配置か不明であるが)を変更したもの」ではないとの答弁は,意匠観察を見誤った結果と判断される。
よって,本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきものである。

(5)補足事項について
被請求人は,本件「部分意匠」について,通気経路を飽く迄も当該意匠の要部としたいようであるが,登録意匠の公報に表示の各図は外観上表現され視認される範囲での美感についての部分意匠であり,内部機構についての形状の意匠ではない。しかも参考図からのみ表現された主張では,部分意匠ではない点明らかである。論外といわざるを得ない。

第3 被請求人の答弁及び理由

1.審判事件答弁書(平成27年7月17日付け審判事件答弁書)
被請求人は,結論同旨の審決を求める旨答弁し,証拠方法として乙第1号証の1ないし乙第3号証(枝番号を含む。)までを提出し,その理由として要旨以下のとおり主張した。

(1)請求人が主張する意匠登録無効理由の要点について
請求人は,「本件登録意匠は,甲第2号証の意匠(以下,「引用意匠」という。)である出願前公知意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。」と主張する。
加えて,請求人は,本件登録意匠が,「前記引用意匠である公知意匠から当業者において創作容易であり,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。」と主張する。
ここで,意匠法第3条第2項では,「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは,その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については,前項の規定にかかわらず,意匠登録を受けることができない。」と規定されている。
つまり,意匠法第3条第2項の趣旨は,同法第3条第1項第3号に該当しない意匠であっても,すなわち新規性を有する意匠であっても,公知意匠から当業者が創作容易な意匠は意匠登録を認めない点にあると解せられる。
そうすると,意匠登録無効理由として意匠法第3条第1項第3号に加えて意匠法第3条第2項を引用する請求人が,本件登録意匠に新規性があると認識しているのか否か疑問を呈さずにはいられない。

(2)本件登録意匠について
本件登録意匠は,「換気棟」を物品とする部分意匠であり,各図面の実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けた部分である。
本件登録意匠に係る物品は,乙第1号証の1及び乙第1号証の2に示すとおり,外方端部が山形形状に折り曲げ加工されていると共に開口部を有する第1部材と,第1部材上に設置された換気部材と,外方端部が垂直に折り曲げ加工されていると共に換気部材に被さるように設置された第2部材とから主に構成されている。
部分意匠として登録を受けた部分の基本的態様は,上記第1部材のうち,山形形状に折り曲げ加工されている外方端部付近の一部分と上記第2部材のうち,垂直に折り曲げ加工されている外方端部付近の一部分とが通気口を構成している点にある。
その具体的な構成態様としては,通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部が外方の通気口から少なくとも3箇所連続して形成され,
外方側から第1番目の第1コーナー部が,第1部材の三角部の垂直部,フランジ部と,第2部材の垂下部とにより形成され,
外方側から第2番目の第2コーナー部が,第1部材のフランジ部,立上り部と,第2部材の垂下部とにより形成され,
外方側から第3番目の第3コーナー部が,第1部材の立上り部,第1水平部と,第2部材の第2水平部とにより形成される点にある。

(3)請求人の主張に対する検討
以下,上記(1)で示したような請求人の主張が妥当なものかについて検討する。

ア 本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当し無効とすべき理由に対して
請求人は,本件登録意匠の特徴(要部)は,「『外方端部が山形形状に折り曲げて加工』された形状『第1部材の三角部』」であり,引用意匠の要部は,「水下側の三角状凸部」にある旨を主張しているが,この主張は妥当でない。
その理由は,以下のとおりである。
まず,請求人が引用意匠の要部と主張する「水下側の三角状凸部」は,この引用意匠に係る出願「意願2006-35003号(出願日:平成18年12月20日)」の出願日前に公開された特許公開公報「特開2000-179115号公報」(平成12年6月27日公開)(乙第2号証)及び「特開2000-265631号公報」(平成12年9月26日公開)(乙第3号証)によって開示されて,公知となっている。
なお,乙第2号証及び乙第3号証は,請求人が出願人となっている。
より具体的には,引用意匠の「水下側の三角状凸部」に相当する形態が,乙第2号証の図7及び図8記載の風防板26や,乙第3号証の図3ないし図5の風防板26として公知となっている。
よって,意匠登録出願前の周知意匠・公知意匠に開示されている引用意匠の「水下側の三角状凸部」は,取引者・需要者にとってありふれて見えるものであり,格別に注意を惹かないし,重きが置かれないといわざるを得ず,要部とは到底認められない。
そうすると,請求人は,上記無効理由を導き出すにあたって,本件登録意匠の「第1部材の三角部」と引用意匠「水下側の三角状凸部」しか対比を行っていないが,これは意匠の要部の対比を行っていないということであるので,その結論が妥当であるはずがない。
ここで,換気棟という物品の性質に鑑みれば,その換気性能が重要な機能的要素であり,取引者・需要者である換気棟を取り扱う業者にあっては,この換気性能に影響を及ぼし通気経路を左右する通気構造の形状こそが,注意を惹く部分であるといえる。
よって,通気構造の形状にこそ換気棟に係る意匠の要部があるものと考える。
そこで,以下において,改めて両者の要部「通気構造の形状」について対比すると,本件登録意匠にあっては,乙第1号証の2に示すように,通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部が外方の通気口から少なくとも3箇所連続して形成される構成態様を有しており,これにより屋根材側から通気口に至るまでの通気経路の途中,第1コーナー部,第2コーナー部及び第3コーナー部において通気方向が直角に変化する。そして,このような3つのコーナー部の形状によって雨水の侵入防止効果が向上する。
これに対して,引用意匠にあっては,甲第2号証の各図面からは換気棟内部の具体的な形状が明確ではないが,【風の流れを示す拡大断面図】の風の流れを示す矢印を確認する限りでは,内奥の屋根材の開口部から水下側の三角状凸部に至るまで通気経路にほぼ変化が見られない。
よって,本件登録意匠の内部の形状と,引用意匠の内部の形状とは異なっており,本件登録意匠のコーナー部の形状によって得られるような雨水の侵入防止効果は得られないものと推察される。
更にいえば,本件登録意匠にあっては,このようなコーナー部の特徴により,フランジ部が第2水平部よりも下方に突き出ている様子が外方から視認できる。
これに対して,引用意匠の底板は,上述のとおり,内奥の屋根材の開口部から水下側の三角状凸部に至るまで平坦である。
よって,本件登録意匠と引用意匠との間では換気棟の周囲の納まり構造も相違する。この相違点も,取引者・需要者である換気棟を取り扱う業者に対し,異なる美感を生じさせる要素といえる。

以上,本件登録意匠と引用意匠とでは,その要部において構成態様が相違し,取引者・需要者である換気棟を取り扱う業者に与える美感も異なると考えられるため,両者は同一又は類似の関係であるとはいえない。
このため「本件登録意匠は,出願前に公然知られた意匠である意匠登録第1333959号の引用意匠の範囲に属し類似すると認められ,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する点明らかで,その登録は無効とされるべきものと判断される。」との請求人の主張は妥当でない。

〔補足事項〕
甲第2号証の【左側面拡大断面図】及び【風の流れを示す拡大断面図】は,左右を逆にしたとしても不一致であり,又,両者が同一断面のものかどうかも明確でないため,引用意匠において通気経路に寄与する部分の形状が不明である。
特に,本件登録意匠の第2コーナー部,第3コーナー部が,引用意匠のどの部分と対応するかが明確でない。対比の対象を明確にするうえで,引用意匠において通気経路に寄与する部分の形状を明らかにしていただきたい。請求人が出願人である乙第2号証や,乙第3号証のようなルーバーを備える構成であるのであれば,その旨説明していただきたい。

イ 本件登録意匠が意匠法第3条第2項に該当し無効とすべき理由に対して
上述のとおり,本件登録意匠と引用意匠とでは,その要部において構成態様が相違する。
しかも,本件登録意匠は,引用意匠には無いような,通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部が外方の通気口から少なくとも3箇所連続して形成される構成態様を有している。又,これにより,屋根材側から通気口に至るまでの通気経路の途中,第1コーナー部,第2コーナー部及び第3コーナー部において通気方向が直角に変化する。
このため,本件登録意匠は,引用意匠を,その形態をそっくり転用したものと到底いえるものではない。この点,請求人には,本件登録意匠が引用意匠のどの形態をそっくり転用したものであるのか,対比説明していただきたい。
更にいえば,本件登録意匠は,引用意匠の一部を置換したものでも,配置を変更したものでもなく,他の創作容易性の類型にも当てはまらない。
よって,本件登録意匠は,引用意匠に基づいて当業者が容易に創作することのできた意匠ではない。
以上より,「本件登録意匠は,既に公知である先願引用意匠とほとんどそのままの後願の部分意匠と認められることから,当業者において極めて容易に創作可能な意匠であり,意匠法第3条第2項に該当し無効とされて然るべきものである。」との請求人の主張は妥当でない。

(4)結び
以上のとおり,本件登録意匠と引用意匠とでは,その要部において構成態様が相違すると考えられる。このため,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号及び意匠法第3条第2項のいずれの規定にも該当するものではないため,請求人の主張は妥当ではない。
よって,本件審判の請求は理由がない,との審決を求める。

(5)証拠方法
乙第1号証の1 意匠登録第1496660号の【A-A拡大端面図】において各部材の名称を付したものの写し
乙第1号証の2 意匠登録第1496660号の【A-A拡大端面図】において,【使用状態を示す参考端面図】に示したような通気経路を書き加えたものの写し
乙第2号証 特許公開公報「特開2000-179115号公報」の写し
乙第3号証 特許公開公報「特開2000-265631号公報」の写し

第4 口頭審理

本件審判について,当審は,平成27年12月25日に口頭審理を行った。(平成27年12月25日付け第1回口頭審理調書)

1.請求人
請求人は,審判請求の趣旨及び理由は,審判請求書,平成27年9月8日付け審判事件弁駁書及び平成27年11月26日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりであると陳述した。
また,乙第1号証の1ないし乙第3号証(枝番号を含む。)の成立を認めた。

(1)口頭審理陳述要領書(平成27年11月26日付け口頭審理陳述要領書)
請求人は「審判請求書」及び「審判事件弁駁書」にて本件無効事由を詳論したとおり,その新規性及び進歩性欠如の主張について,改めて補足する必要は感得しないが,被請求人の「答弁書」を精読し,改めてその答弁主張の「不明及び矛盾」について指摘しておく。

ア 審判事件答弁書「(2)本件登録意匠について」
被請求人は,本件登録意匠が,第1部材と第2部材とから構成されているとし,「各図の実線で表した部分である部分意匠」として意匠登録を受けた部分は,「第1部材のうち山形形状に折り曲げ加工されている外方端部付近の一部分」と「第2部材の垂直に折り曲げ加工されている外方端部付近の一部分とが通気口を構成している」ところである,と自認主張している。
しかして,続いて「その具体的な構成態様」として主張するものは,意匠公報5面図には表示なく,部分意匠の説明ではなく「不明」といわざるを得ず,答弁書にて追加説明で乙号証にて加えたものである。到底認容できる範囲の説明ではない点明らかである。

イ 審判事件答弁書「(3)請求人の主張に対する検討」について
本件登録意匠の「第1部材の三角部」と引用意匠の「水下側の三角状凸部」が酷似(類似)している点明らかであるにも拘わらず,本件部分意匠の「要部ではない」としての答弁である。被請求人は「本件登録意匠についての具体的な構成態様の主張では,第1コーナー部が,第1部材の三角部の垂直部等で形成されている」として,それが「要部」であるかの如く主張している。明らかに自己矛盾であり到底認容し難い主張である。

ウ 被請求人は,本件登録意匠の「要部」を「通気構造の形状」にあると断言し,引用意匠の換気棟内部の形状が明確ではない,との主張を答弁しているが,本件登録意匠である部分意匠において「通気構造の形状」が表示されているとは認められない。

エ 本件登録意匠は,引用意匠の形状を一部切り取り,部分意匠としたものである点明らかである。「同一物品」であり彼此誤認混同して取引される虞れが大である。斯かる点当業者の美意識からして引用意匠から容易に推考可能と認められ,その新規性及び進歩性は全く認められないものである。

2.被請求人
被請求人は,平成27年7月17日付け審判事件答弁書及び平成27年12月11日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりであると陳述した。
また,甲第1号証及び甲第2号証の成立を認めた。

(1)口頭審理陳述要領書(平成27年12月11日付け口頭審理陳述要領書)
請求人の審判事件弁駁書(以下,単に「弁駁書」と称する。)及び口頭審理陳述要領書(以下,単に「要領書」と称する。)について,審判事件答弁書における主張に更に以下の事項を付け加える。

ア 弁駁書について
(ア-1)弁駁書の2頁1行目から2行目には,「そもそも,本件登録意匠にあっては物品『換気棟』の一部分であり,その特定を参考図にて特定することは本来認められないものである。」と記載されている。
しかしながら,上記「参考図」とは,【使用状態を示す参考端面図】のことを指すのであれば,後掲の(ア-2)でも詳述するが,本件登録意匠の形態については,【使用状態を示す参考端面図】を参照せずとも,答弁書の記載に加えて,【A-A拡大端面図】及び【B-B拡大図】をも含めて7つの図面を適宜参照していただければ理解可能である。
なお,他にも弁駁書の2頁8行目から12行目や,同頁18行目から19行目にも同様の記載が見受けられるが,上記と同じことがいえる。
(ア-2)弁駁書の2頁22行目から25行目には,「意匠は外面に表示表現された形状であり,内部構造内部機構については,特段対比観察されるものとは認められない。両者の『通気構造の形状』を要部としての答弁主張は,外観上見えない部分,特に部分意匠には存在しない部分の主張では,何等とるに足りない論と認められる。」との記載がある。
まず,意匠とは「視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法第2条)であるため,確かに請求人が述べる「意匠は外面に表示表現された形状であり」という意見は傾聴に値する。
ところで,本件登録意匠は,【意匠の説明】の欄にも記載のとおり,左側面図が右側面図と対称に表れるような関係にある。このため,便宜上特定位置の断面を示す【A-A拡大端面図】及び【B-B拡大図】を添付しているが,幅方向(即ち左右方向)に対しては同一の形状で伸びる形態を有しているため,左右両端部分を除けば,左右方向のいずれの位置で断面を採ったとしても,【A-A拡大端面図】及び【B-B拡大図】と同じ様な形態が表れることが理解できる。
従って,特に【正面図】,【平面図】,【底面図】に加えて,【右側面図】を参照すれば,答弁書に記載したような,「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部が外方の通気口から少なくとも3箇所連続して形成され,外方側から第1番目の第1コーナー部が,第1部材の三角部の垂直部,フランジ部と,第2部材の垂下部とにより形成され,外方側から第2番目の第2コーナー部が,第1部材のフランジ部,立上り部と,第2部材の垂下部とにより形成され,外方側から第3番目の第3コーナー部が,第1部材の立上り部,第1水平部と,第2部材の垂下部,第2水平部とにより形成される」具体的構成態様が把握されるものと考える。特に,第1コーナー部及び第2コーナー部を含む部分は下方に大きく突出しており,【A-A拡大端面図】及び【B-B拡大図】に示したような本件登録意匠の形態を物品の外観から(即ち他の図面から)把握することが可能である。
従って,本件登録意匠については,【使用状態を示す参考端面図】を除くと,7つの図面が添付されているところ,これら7つの図面を参照すれば,何も本件物品を分解,切断せずとも本件登録意匠に係る内部構造・内部機構が,その外観から把握可能である。まさに,本件登録意匠は,各図面において「視覚を通じて美感を起こさせるもの」として表されており,「意匠は外面に表示表現された形状」といえる。
そうすると,本件登録意匠の形態については,上述のとおり,添付の各図面において明確に特定されているので,答弁書の記載は,請求人が述べるような「外観上見えない部分特に部分意匠には存在しない部分の主張」というものでもないし,「内部構造内部機構については,特段対比観察されるものとは認められない」との上記記載についても妥当なものでないといえる。
なお,弁駁書の3頁12行目から16行目にも,同様の趣旨の記載が見受けられるが,上記と同じことがいえる。
(ア-3)弁駁書の3頁3行目から6行目には,「本件登録意匠である部分意匠の特徴も既に,審判請求書にて詳説したとおりであり,特段に追加すべき説明はないが,『その形態は引用意匠をそっくり転用したもの』と容易に認められ,…」と記載されている。
しかしながら,答弁書でも,本件登録意匠と引用意匠との相違点には説明しているところ,この「その形態は引用意匠をそっくり転用したもの」との主張は,依然として詳しい対比説明がないため受け入れ難いものである。
更に,続く弁駁書の3頁6行目から8行目には,「…被請求人の『一部(何の一部か不明であるが)を置換したもの』『配置(何の配置か不明であるが)を変更したもの』ではないとの答弁は,意匠観察を見誤った結果と判断される。」と記載されている。
ここで,意匠審査基準(平成27年4月10日一部修正)によると,意匠法第3条第2項に規定する容易な創作の具体的な内容が以下のように例示されている。
a.置換の意匠,b.寄せ集めの意匠,c.配置の変更による意匠,d.構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠,e.公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合をほとんどそのまま表したにすぎない意匠,f.商慣行上の転用による意匠,
a及びbの類型による創作非容易性の無効理由に関し,何を置換したか,或いは,何を配置変更したかは,請求人に立証責任があるところ,上記記載によれば,それは「不明」であるとのことであるので,少なくともa及びbの類型による創作非容易性の無効理由はないとの理解である。

(イ)要領書について
(イ-1)要領書の「ア 答弁書(2)本件登録意匠について」の記載について
要領書の2頁7行目から10行目には,「しかして,続いて『その具体的な構成態様』として主張するものは,意匠公報5面図には表示なく,部分意匠の説明ではなく『不明』といわざるを得ず,答弁書にて追加説明で乙号証にて加えたものである。到底認容できる範囲の説明ではない点明らかである。」と記載されている。
ここで,上述のとおり,本件登録意匠の図面としては,【使用状態を示す参考端面図】を除くと,7つの図面が添付されているところ,上記記載において,「意匠公報5面図」というのは,正面図,背面図,平面図,底面図,右側面図のことと推察される。この推察が妥当であるのであれば,なぜ故に請求人が本件登録意匠の把握のため【A-A拡大端面図】及び【B-B拡大図】をも含めて7つの図面のすべてを参照しないものか理解に苦しむ。この点に関しては,「ア 弁駁書について」において既に説明したとおりである。
又,答弁書にも記載したとおり,乙第1号証の1は,意匠登録第1496660号の【A-A拡大端面図】において各部材の名称を付したものであり,又,乙第1号証の2は,意匠登録第1496660号の【A-A拡大端面図】において,【使用状態を示す参考端面図】に示したような通気経路を書き加えたものであり,飽く迄本件登録意匠の理解の補助のため添付したものである。
このため,乙第1号証の1及び乙第1号証の2の内容は,元の【A-A拡大端面図】と実質的には変わりがなく,仮にこれらがなくとも,取引業者にあっては上記7つの図面を参照すれば,答弁書にて説明した具体的態様は十分理解可能なものである。今一度,【A-A拡大端面図】及び【B-B拡大図】をも含めて7つの図面すべてについてご参照のうえご検討いただきたい。
(イ-2)要領書の「(2) 答弁書(3)請求人の主張に対する検討」の記載について
要領書の2頁12行目から17行目には,「本件登録意匠の『第1部材の三角部』と引用意匠の『水下側の三角状凸部』が酷似(類似)している点明らかであるにも拘わらず,本件部分意匠の『要部ではない』としての答弁である。被請求人は『本件登録意匠についての具体的な構成態様の主張では,第1コーナー部が,第1部材の三角部の垂直部等で形成されている』として,それが『要部』であるかの如く主張している。明らかに自己矛盾であり到底認容し難い主張である。」と記載されている。
しかしながら,本件登録意匠の「第1部材の三角部」と,引用意匠の「水下側の三角状凸部」とが相違しているか否かの検討は,上記要部とは独立して検討されるものである。
そして,被請求人は,既に説明したように,「換気棟」という物品の特性から,その通気構造の形状に着目し,「通気構造の形状にこそ換気棟に係る意匠の要部があるものと考える。」との立場である。
そこで,答弁書において,要部である通気構造の形状の一部を構成する第1コーナー部は,「第1部材の三角部の垂直部,フランジ部と,第2部材の垂下部とにより形成」されている旨を説明した次第である。すなわち,「換気棟」の要部の一部を構成するのは,『第1部材の三角部』の一部分である『垂直部』であって,『第1部材の三角部』そのものではない。
そうすると,答弁書の上記説明は自己矛盾でないため,請求人の「明らかに自己矛盾であり到底認容し難い主張である。」との記載は,誤解による誤った結論であるといわざるを得ない。
(イ-3)要領書の「ウ」の記載について
要領書の2頁20行目から21行目には,「本件登録意匠である部分意匠において「通気構造の形状」が表示されているとは認められない。」と記載されている。
しかしながら,上述したとおり,【A-A拡大端面図】及び【B-B拡大図】をも含めて7つの図面すべてについてご検討いただければ,本件登録意匠である部分意匠の「通気構造の形状」は明確に理解可能である。
(イ-4)要領書の「エ」の記載について
要領書の2頁22行目から25行目には,「エ 本件登録意匠は,引用意匠の形状を一部切り取り,部分意匠としたものである点明らかである。『同一物品』であり彼此誤認混同して取引される虞が大である。斯かる点当業者の美意識からして引用意匠から容易に推考可能と認められ,その新規性及び進歩性は全く認められないものである。」と記載されている。
しかしながら,この結論は,上述したとおり,本件登録意匠について添付した7つの図面すべてを検討したものではないと考えられるため,十分な検討の上,なされたものとはいえず,妥当でない。
より具体的には,本件登録意匠は,3つのコーナー部を有しており,これらのうち第1コーナー部及び第2コーナー部は側面視において下方に大きく突出した凸形状を有している。
これに対して,引用意匠は,内奥の屋根材の開口部から水下側の三角状凸部に至るまで平坦な形状である。
従って,「本件登録意匠は,引用意匠の形状を一部切り取り,部分意匠としたものである」との上記主張は妥当でなく,両意匠の間で誤認混同して取引される虞もないと考える。

3.審判長
審判長は,この口頭審理において,甲第1号証及び甲第2号証並びに乙第1号証の1ないし乙第3号証(枝番号を含む。)について取り調べ,請求人及び被請求人に対して,本件無効審判事件の審理終結を告知した。(平成27年12月25日付け第1回口頭審理調書)

第5 当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,物品の部分について意匠登録を受けようとして,平成25年(2013年)5月17日に出願され(意願2013-10897号),平成26年(2014年)4月4日に意匠権の設定の登録がなされた,意匠登録第1496660号の意匠であって,意匠に係る物品を「換気棟」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであって,「実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。1点鎖線は,部分意匠として登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」(以下,本願において,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願実線部分」という。)としたものである。(甲第1号証,別紙第1参照)
なお,換気棟の屋根軒先側を前方側とし,屋根棟側を後方側として以下表記する。

(1)本願実線部分の部分意匠としての用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本願実線部分は,片流れ屋根上部に設置される換気棟における,空気排出機能を有する通気口としての用途及び機能をもつものであって,本願実線部分の位置,大きさ及び範囲は,換気棟通気口の正面視左端部寄りの部分に位置し,この通気口を構成する下側の部材(以下,「下部部材」という。)前方側端部部分及びこれとは別部材の上側の部材(以下,「上部部材」という。)前方側端部部分の機能的な一体性によって一意匠として認められる2つの部分からなるものであって,添付図面において実線で表された部分をその範囲とするものである。

(2)本願実線部分の具体的形態
(ア)本願実線部分全体は,下部部材の上方に,別部材からなる上部部材を,上下部材間に換気部材を挟みつつ隙間を設け,やや後方にずらして配設した換気棟における,上部部材前方側に形成された,上部部材前方側端部部分及び下部部材前方側端部部分からなる平面視略横長スリット状の空気排出側の通気口(以下,「通気口部」という。)の正面視左端部寄りの部分であって,
(イ)下部部材は,前方側端部を山形状になるよう折曲してA-A断面視略三角形状部(以下,「三角部」という。)を形成し,三角部の後方に略水平部分を残し,その後方側部分をクランク状になるように直角に2回折曲してA-A断面視略クランク状の折曲部(以下,「クランク状部」という。)を形成し,その三角部とクランク状部とによってA-A断面視略横コの字状の溝部(以下,「略U字状溝部」という。)を形成したものであり,
(ウ)上部部材は,前方側端部を下に向かって直角に1回折曲してA-A断面視略横L字状の折曲部(以下,「カギ括弧状部」という。)を形成したものであり,
(エ)下部部材と上部部材の配置態様については,側面視において,カギ括弧状部前方端部が略U字状溝部の前方から溝幅の約1/3後方の位置となり,カギ括弧状部前方端部の下端部が三角部頂点部から僅かに下がった位置となるように配設したものである。

2.請求人が主張する無効の理由
請求人が,意匠法第48条第1項第1号の規定に基づき本件登録意匠について主張する意匠登録無効事由は,以下のとおりである。

(1)無効理由1
本件登録意匠は,甲第2号証の意匠(以下,「引用意匠」という。別紙第2参照)である本件登録意匠出願前の公知意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。
よって,意匠法第48条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきものである。

(2)無効理由2
本件登録意匠は,引用意匠である公知意匠から当業者において創作容易であり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。
よって,本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきものである。

3.引用意匠
引用意匠は,平成18年(2006年)12月20日に出願され(意願2006-35003号),平成20年(2008年)5月23日に意匠権の設定の登録がなされ,同年6月23日に意匠公報が発行された,意匠登録第1333959号(意匠に係る物品,「換気棟」)の意匠であり,引用意匠の本願実線部分に対応する部分を「引用対応部分」とし,引用意匠及び引用対応部分の形態を,同公報に掲載されたとおりとしたものである。

(1)引用対応部分の部分意匠としての用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
引用対応部分は,片流れ屋根上部に設置される換気棟における,空気排出機能を有する通気口としての用途及び機能をもつものであって,引用対応部分の位置,大きさ及び範囲は,換気棟通気口の正面視左端部寄りの部分に位置し,この通気口を構成する下部部材前方側端部部分及び上部部材前方側端部部分からなるものであって,本願実線部分に対応する部分をその範囲とするものである。

(2)引用対応部分の具体的形態
(あ)引用対応部分全体は,下部部材の上方に,別部材からなる上部部材を,上下部材間に隙間を設け,やや後方にずらして配設した換気棟における,上部部材前方側に形成された,上部部材前方側端部部分及び下部部材前方側端部部分からなる平面視略横長スリット状の通気口部の正面視左端部寄りの部分であって,
(い)下部部材は,前方側端部を山形状になるよう折曲し,更に先端部分を内側に鋭角に折り込んでA-A断面視略三角形状の三角部を形成し,三角部の後方から換気部材までの略水平な板状部材の部分であり,
(う)上部部材は,前方側端部を下に向かって直角に折曲し,更に先端部分を鋭角に折り込んだカギ括弧状部を形成したものであり,
(え)下部部材と上部部材の配置態様については,側面視において,カギ括弧状部前方端部の下端部が,三角部の後方側傾斜面の約1/2の高さの位置に近接するように配設したものである。

4.無効理由の検討
(1)無効理由1について
請求人の主張及び被請求人の反論を踏まえ,本件登録意匠が,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するか否かについて,本件登録意匠と引用意匠(以下,「両意匠」という。)を対比し,両意匠が類似するか否かについて,以下検討する。

ア 両意匠の対比
(ア)意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は,ともに「換気棟」であるから,両意匠の意匠に係る物品は一致する。

イ 本願実線部分と引用対応部分の対比
(ア)部分意匠としての用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本願実線部分と引用対応部分(以下,「両意匠部分」という。)は,いずれも片流れ屋根上部に設置される換気棟における,空気排出機能を有する通気口としての用途及び機能を有し,両意匠部分の位置,大きさ及び範囲は,いずれも換気棟通気口部の正面視左端部寄りの部分に位置し,この通気口を構成する下部部材前方側端部部分及び上部部材前方側端部部分からなる,本願実線部分については添付図面において実線で表された部分をその範囲とするものであり,引用対応部分についてはこの本願実線部分に対応する部分をその範囲とするものであるから,両意匠部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は,共通する。
(イ)両意匠部分の具体的形態
両意匠部分の形態を対比すると,その形態には,主として以下の共通点及び相違点が認められる。

まず,共通点として,
(A)両意匠部分全体は,下部部材の上方に,別部材からなる上部部材をやや後方にずらした配置で設けた構成態様としている点,
(B)下部部材は,前方側端部に三角部を形成している点,
(C)上部部材は,前方側端部にカギ括弧状部を形成している点,
(D)通気口部は,三角部の後方側傾斜面部分とカギ括弧状部の略垂直面部分との間の平面視略横長スリット状の隙間部分からなる点,
が認められる。

他方,相違点として,
(a)下部部材の略U字状溝部の有無について,本願実線部分は,三角部とクランク状部とによって略U字状溝部を形成しているのに対して,引用対応部分は,三角部後方には略U字状溝部はなく,略水平な板体としている点,
(b)下部部材と上部部材の配置態様について,本願実線部分は,カギ括弧状部前方端部が略U字状溝部の前方から溝幅の約1/3後方の位置となり,カギ括弧状部前方端部の下端部が三角部の頂点部から僅かに下がった位置となるように配設しているのに対して,引用対応部分は,カギ括弧状部前方端部の下端部が,三角部の後方側傾斜面の約1/2の高さの位置に近接するように配設している点,
(c)三角部及びカギ括弧状部の先端部分の態様について,本願実線部分は,先端部分に折曲部を形成していないのに対して,引用対応部分は,三角部及びカギ括弧状部の先端部分に内側に向かって鋭角に折り込んで折曲部を形成している点,
が認められる。

ウ 両意匠部分の形態の評価
まず,共通点(A)の両意匠部分全体の態様における共通点は,換気棟における特段特徴のない横長スリット状の通気口の形態を概略的に捉えたに過ぎないものであるから,この共通性のみをもって両意匠部分の類否判断を決定することはできない。
次に,共通点(B)ないし(D)の態様も,この種物品分野において,本件登録意匠の出願前に既に見られるもの(例えば,参考意匠:日本国特許庁発行の公開特許公報特開2000-265631号(公開日:平成12年9月26日)に所載の【図2】ないし【図6】の換気棟の意匠,乙第3号証)であるので,これらの共通点が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は微弱であるといわざるを得ない。
そして,これらの共通点は,全体としてみても,両意匠部分の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

これに対し,相違点(a)下部部材の略U字状溝部の有無については,略U字状溝部の内側部分は内部の形状であり,外観からは見ることはできないものの,底面側から観察すれば略凸状に突出する外側部分の形状を観察することができ,その略凸状突出部自体も相当の大きさを占め,目立つものであるから,この相違点(ア)が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に,相違点(b)下部部材と上部部材の配置態様については,正面視において,下部部材の三角部の上方に下部部材とほぼ同じ高さの上部部材のカギ括弧状部垂直面部分が表れ,上下に厚みのある換気棟であるとの印象を与える本願実線部分の態様と,下部部材の三角部の上方に僅かに上部部材のカギ括弧状部上端部分が表れ,全体として薄いものであるとの印象を与える引用対応部分の態様とは,看者に別異な印象を与えるものであるから,この相違点(b)が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響も大きい。
そして,これらの相違点(a)及び相違点(b)によって生じる視覚的効果はいずれも大きく,それらが相まって生じる視覚的効果は,両意匠部分の類否判断を左右するものであるといえる。
他方,相違点(c)三角部及びカギ括弧状部の先端部分の態様については,内側に折曲した見えにくい部分であって特段目立つ部位ではない上に,その相違も僅かに先端を折曲したか否かといった程度のものであるから,この相違点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。

エ 両意匠の類否判断
上記のとおり,両意匠の意匠に係る物品については一致し,両意匠部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲についても共通しているが,両意匠部分の形態については,相違点が類否判断に及ぼす影響が,共通点のそれを上回っているので,両意匠部分は,全体として別異の印象を与えるものである。
したがって,本件登録意匠と引用意匠とは類似しないものと認められる。

なお,請求人は,「意匠は外面に表示表現された形状であり,内部機構については,特段対比観察されるものとは認められない」とし,両意匠部分は外形において類似するものであると主張しているが,本願実線部分には,正面側から観察すれば三角部の上方に下部部材とほぼ同じ高さのカギ括弧状部垂直面部分が表れ,底面側から観察すれば略凸状の突出部分が表れているので,請求人のこの主張を採用することはできない。

オ 小括
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた引用意匠に類似しないものであって,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず,無効理由を有さないものであるから,本件登録意匠は,無効理由1によっては,同法第48条第1項第1号の規定に該当しないものと認められる。

(2)無効理由2について
請求人の主張及び被請求人の反論を踏まえ,本件登録意匠が,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。

ア 本件登録意匠の創作容易性の判断
請求人は,本件登録意匠は,いわゆる換気棟取扱い業者である取引者需要者(以下,「当業者」という。)にあっては,本件登録意匠の出願時には,公知である引用意匠から本件登録意匠をその形態をそっくり転用して創作することは,特段の創意工夫はなく極めて容易であると主張している。
しかしながら,本件登録意匠は,緩勾配の屋根に設置され,空気排出側の通気口部から雨水が進入しても略U字状溝部で留まり,それより奥への雨水の進入を防ぐという創意工夫がなされている。そして,この略U字状溝部の形態は,引用意匠において全く見ることができず,また,その意匠の属する分野においてこの改変は常套的な変更によるものともいえないものであるから,本件登録意匠には新たな創作が加わったものであると認められ,本件登録意匠の形態は,請求人の主張するように,引用意匠の形態をそっくり転用したものであるとはいうことはできない。
そうすると,本件登録意匠は,請求人の主張及び提出した証拠方法によって,引用意匠に基づいて容易に創作をすることができたものとはいえないものであるから,請求人の無効理由2についての主張についても認めることができない。

イ 小括
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた引用意匠に基づいて容易に創作することができたものではなく,意匠法第3条第2項の規定する意匠には該当せず,無効理由を有さないものであるから,本件登録意匠は,無効理由2によっては,同法第48条第1項第1号の規定に該当しないものと認められる。

第6 むすび

以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,無効理由1及び無効理由2のいずれにも理由はなく,本件登録意匠が,意匠法第3条第1項第3号の規定及び意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとはいうことはできないから,同法第48条第1項第1号の規定によりその登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲


審決日 2016-03-18 
出願番号 意願2013-10897(D2013-10897) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (L6)
D 1 113・ 113- Y (L6)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 濱本 文子 
特許庁審判長 本多 誠一
特許庁審判官 久保田 大輔
江塚 尚弘
登録日 2014-04-04 
登録番号 意匠登録第1496660号(D1496660) 
代理人 川崎 仁 
代理人 三嶋 景治 
代理人 中里 浩一 
代理人 葛西 泰二 
復代理人 山本 英明 
代理人 葛西 さやか 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社   サービスに関しての問い合わせ