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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 H7
管理番号 1315706 
審判番号 不服2015-22559
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-24 
確定日 2016-05-24 
意匠に係る物品 プリンター 
事件の表示 意願2014- 29270「プリンター」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする,平成26年(2014年)12月26日の意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「プリンター」とし,その形態を願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたもので,「本体正面上カバーと下カバー接合部分の朱色の細い帯が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分であり,朱色を限定する。図面の表面部全面に表された濃淡は,立体表面の形状を表す濃淡であり,水色部分は部分意匠として意匠登録を受けようとする部分以外の部分である」としたものである。(以下,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)(別紙第1参照)

2.原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

本願意匠は,当該物品における筐体正面のカバー接合部分の形状及び色彩の結合に関する創作物であり,その基本的構成態様は,筐体の正面下方寄りに左右に貫通する細溝状の接合部を配置し,該接合部に接する下カバー上縁部を直線状に区画して,該区画域に朱の色彩を施して成るものと認められる。
しかしながら,この基本的構成態様に係る接合部及び下カバー上縁部の態様は,色彩を除き,下記の文献に見られるように,この種物品におけるありふれた態様であり,色彩については,該区画域に周知の朱色を単に施しただけのものであることから,当業者であれば,本願意匠の構成態様は容易に想到し得るものと言わざるを得ない。

引用意匠(別紙第2参照)
特許庁が平成17年(2005年)12月12日に発行した意匠公報記載
意匠登録第1258178号の意匠(正面下カバー上縁部の区画域の部分)(以下,この部分を「引用部分」という。)

3.請求人の主張の要旨
(1)本願意匠の要旨
本願意匠は,筺体正面の下カバー上縁部の左右両端以外の部分において,上部に丸みをもたせた横長形状の部分を全体にわたり正面から背面にかけて回り込む形状に朱色を施したものである。この形状は,出願当初に提出した図面のうち,特に【A-B-C-D部分拡大斜視図】にて明確に表されているものである。正面から背面にかけて回り込む形状とすることによって,筺体の正面,斜め上方,下カバーを開いた状態などの広範な角度から視認することができ,また,上部の丸みをもたせた形状によって,看者に対して視覚的に親しみやすいソフトな印象を持たせるとともに,下カバーを開閉する者に対してソフトな感触を得る機能を持たせたものである。
さらに,当該箇所に施した朱色の色彩は,プリンターの筺体色としては広く一般に用いられているものではないことから需要者の注意をひくように工夫したものであり,正面から見た横長の細い形状と相俟って,横長で安定感のある印象を持たせることができるものである。
(2)拒絶理由通知書における本願意匠の認定
拒絶理由通知書においては,本願意匠は,「当該物品における筺体正面のカバー接合部分の形状及び色彩の結合に関する創作物であり,その基本的構成態様は,筺体の正面下方寄りに左右に貫通する細溝状の結合部を配置し,該結合部に接する下カバー上縁部を直線状に区画して,該区画域に朱の色彩を施して成る」と認定した上で,「この基本的構成態様に係る接合部及び下カバー上縁部の態様は,色彩を除き,下記の文献に見られるように,この種物品におけるありふれた態様であり,色彩については,該区画域に周知の朱色を単に施しただけのものであることから,当業者であれば,本願意匠の構成態様は容易に想到し得る」とし,ありふれた態様として例示文献の意匠を挙げたうえで,朱色の色彩も含めて創作性を否定したものである。
また,拒絶査定においては,「出願人は意見書を提出し,本願において部分意匠として保護を受けようとする部分は,正面下カバー上縁部の区画域の部分であって,カバー接合部分では無く,該区画域は左右端まで貫通しておらず,正面から背面にかけて上部に丸みをもって回り込む形状としている旨【参考図1】に基づいて述べられました。」とした上で,「該区画域が下カバー上縁部に存在することは上記拒絶理由に記載したとおりであり,【参考図1】で指摘された構成態様は当初の図面に開示されておりません。」とされたものである。
(3)本願意匠と例示文献の意匠との対比
拒絶理由通知書において提示された例示文献の意匠は,本願意匠が「当該物品における筐体正面のカバー接合部分の形状及び色彩の結合に関する創作物」と認定したうえで,「筐体の正面下方寄りに左右に貫通する細溝状の結合部及び下カバー上縁部の態様」が「この種物品におけるありふれた態様」であることを示すために例示されたものである。
しかしながら,本願において部分意匠として保護を受けようとしている部分は,前述(1)の通り,筺体正面の下カバーの上縁部に配置された上部に丸みをもたせた横長の形状の部分であって「細溝状の結合部」の形状ではないことは明らかであり,加えて,例示文献の意匠の「下カバー上縁部」には,本願意匠のような形状,色彩や機能上の工夫は施されていないことから,例示文献の意匠に基づいて本願を創作容易と判断することは妥当ではないと思料する。
(4)本願意匠の形状の開示
本願は,拒絶査定において,本願の該区画域(部分意匠として保護を受けようとする部分)が「下カバー上縁部に存在する」としたうえで,【参考図1】で指摘された構成態様は当初の図面では開示されていない,とされたが,請求人としては,部分意匠として保護を受けようとする部分が「下カバー上縁部に存在すること」については異論はない。一方,当初の図面に開示されていない旨の指摘に関しては,本願は出願当初に六面図のほか【斜視図】,【A-B-C-D部分拡大斜視図】,【拡大部分を示す参考斜視図】を開示しており,特に【A-B-C-D部分拡大斜視図】によって,形状上部に丸みをもたせてカバーの正面から背面にかけて前後に回り込む形状が明確に表わされていることから,出願の際に提出した図面にて十分に意匠を開示できていたものと思料する。【参考図1】は拒絶理由に対する意見書を提出した際に本願意匠と例示文献との対象が異なることを説明する目的のために参考として提示した図に過ぎず,前述の通り本願意匠は出願当初から開示されているものであるので,本願の当初の図面に開示されていないとの理由で本願を拒絶するのは妥当ではないと思料する。
(5)本願意匠の創作非容易性
本願意匠は,前述(1)の通り,筺体正面の下カバー上縁部において形状,色彩,機能上の工夫を施したものでありますが,拒絶理由において提示された例示文献の意匠は(3)で述べた理由から創作容易と判断する根拠とするのは妥当ではなく,また,拒絶査定では,創作容易と判断すべき先行意匠が示されていないことに加え,【参考図1】を用いて説明した構成態様が創作容易である旨の言及もないことから,本願を創作容易と判断するのは妥当ではないものと思料致する。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠
本願意匠は,意匠に係る物品を「プリンター」とし,略扁平直方体状の筺体正面下方寄りに上下カバーによって形成される左右に貫通する細溝状部(以下,「細溝状部」という。)を配置したもので,本願部分の形態は,当該細溝状部に接する下カバー上縁部を直線状に区画して,下カバー上縁部の左右両端部以外の区画域の部分(以下,この部分を「区画域部」という。)において,区画域部全体にわたり上部に丸みをもたせ,正面から背面にかけて回り込む形状とし,朱色を施したものである。
(2)原査定の拒絶の理由の引用意匠
原査定の拒絶の理由に例示された引用意匠は,意匠に係る物品を「プリンター」とし,略扁平直方体状の筺体正面下方寄りに左右に貫通する細溝状部を配置し,当該細溝状部に接する下カバー上縁部の木口面を直線状に区画し,正面の下カバー上縁部の区画域の部分を引用部分としたものである。引用部分は,下カバー上縁部が正面視左右両端部まで同様の形状で,上面側を平坦面状とした倒コ字状で,色彩は施されていない。
(3)創作容易性の判断
まず,この種のプリンターの分野においては,略扁平直方体状の筺体正面下方寄りに左右に貫通する細溝状部を配置し,当該細溝状部に接する下カバー上縁部の木口面を直線状に区画して認識し,据えることは引用部分に見られるように,本願出願前より既にあるありふれた態様である。
しかしながら,この引用部分は下カバー上縁部が正面視左右両端部まで同様の上面側を平坦面状としたごく普通の角張った態様であって,しかも,その前面側に区画を明示しているものでもなく,本願部分とは異なり,また,色彩も施されていないため,引用部分の態様が公然知られていたとしても,本願部分の態様を直ちに導き出すことはできないものである。
そして,朱色についても,本願出願前よりプリンターの一部に鮮やかな色彩を施したものは既に認められるものではあるが,本願部分のように下カバー上縁部の左右両端部以外の区画域部において,朱色を施したものは,他には見当たらないものであるから,本願部分の態様が容易に創出し得るものということはできない。
そうすると,本願部分は,略扁平直方体状の筺体正面下方寄りに左右に貫通する細溝状部を配置し,当該細溝状部に接する下カバー上縁部を直線状に区画して,下カバー上縁部の左右両端部以外の区画域部において,区画域部全体にわたり上部に丸みをもたせ,正面から背面にかけて回り込む形状とし,朱色を施したものであり,特に上部に丸みをもたせ,正面から背面にかけて回り込む形状とした態様は,本願部分の独特の態様といえるもので,当業者であれば容易に創作することができたものとはいうことができないものである。
よって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,原査定の拒絶の理由によっては,本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-05-06 
出願番号 意願2014-29270(D2014-29270) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (H7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上島 靖範 
特許庁審判長 本多 誠一
特許庁審判官 正田 毅
斉藤 孝恵
登録日 2016-07-01 
登録番号 意匠登録第1555141号(D1555141) 
代理人 阿部 琢磨 
代理人 黒岩 創吾 

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