• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判    E3
審判    E3
管理番号 1318121 
審判番号 無効2014-880007
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-06-10 
確定日 2016-08-08 
意匠に係る物品 身体鍛練機 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1494466号「身体鍛練機」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は「登録第1494466号意匠の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その証拠として,甲第1号証の1ないし第5号証の2を提出し,要旨以下のとおり主張した(以下,この意匠登録第1494466号の意匠(甲第1号証の1及び甲第1号証の2)を「本件登録意匠」という。)

1.請求の理由の要約
(1)意匠登録無効の理由の要点
ア 意匠法第3条第1項第3号について
本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された第1引用意匠(以下,「第1引用意匠」という。)及び甲第3号証に記載された第2引用意匠(以下,「第2引用意匠」という。)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,その意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

イ 意匠法第3条第2項について
本件登録意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,その意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

証拠
甲第2号証
中華人民共和国意匠登録第301949061号意匠公報
(【意匠に係る物品】フィットネス機器)
出願日:2011年(平成23年)11月14日
発行日:2012年(平成24年) 6月 6日

甲第3号証
中華人民共和国意匠登録第302333989号意匠公報
(【意匠に係る物品】バネ式仰臥台)
出願日:2012年(平成24年) 9月13日
発行日:2013年(平成25年) 2月27日

2.本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成25年(2013年)7月9日
(意匠登録出願2013年第015578号)
登録 平成26年(2014年)3月7日
意匠公報発行 平成26年(2014年)4月7日
(意匠登録第1494466号公報)

3.本件登録意匠を無効にすべき理由
(1)意匠法第3条第1項第3号について
本件登録意匠は,その出願日である平成25年(2013年)7月9日前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠である第1引用意匠及び第2引用意匠(以下,これらをまとめて単に「引用意匠」という。)に類似する意匠である。以下,その理由を詳述する。

ア まず,引用意匠は,下記の年月日に発行された公報に掲載された意匠である。よって,本件登録意匠の出願日である平成25年(2013年)7月9日前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠である。
・第1引用意匠 平成24年(2012年) 6月 6日(甲第2号証)
・第2引用意匠 平成25年(2013年) 2月27日(甲第3号証)

イ 次に,引用意匠の意匠に係る物品は,「フィットネス機器」又は「バネ式仰臥台」(以下,これらをまとめて「フィットネス機器等」という。)である。一方,本件登録意匠の意匠に係る物品は,「身体鍛錬機」である。ここで,引用意匠の意匠に係る物品であるフィットネス機器等と本件登録意匠の意匠に係る物品である身体鍛錬機とは,使用者が身体,特に腹部の筋肉を鍛えるために使用するという用途が共通する。また,使用者が物品上に腰をおろし,上半身や脚部の反復運動を行うことができるという機能も共通する。
よって,引用意匠の意匠に係る物品と本件登録意匠の意匠に係る物品は,同一又は類似の物品である。

ウ さらに,本件登録意匠にかかる物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「意匠の形態」もしくは単に「形態」という。)は,引用意匠の形態に類似するものである。以下,その理由を詳述する。

エ 本件登録意匠と引用意匠の類否判断における判断主体
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うためその判断主体は「需要者」であり(意匠法24条2項),また,「需要者」は「取引者」を含む概念であることから,意匠に係る物品の取引,流通の実態に応じた適切な者を判断主体として認定する必要がある(意匠審査基準22.1.3.1.1)。
意匠の類否判断は,もともと人間の感覚的な部分によるところが大きいが,その判断を行う際は意匠創作に係る創作者の主観的な視点を排し,意匠に係る物品の需要者・取引者が観察した場合の客観的な印象をもって判断しなければならない。
そこで,かかる判断主体に関する考え方を,本件登録意匠と引用意匠の類否判断について当てはめて検討する。
まず,本件登録意匠の意匠に係る物品である身体鍛錬機と,引用意匠の意匠に係る物品であるフィットネス機器等は,自宅等で腹筋等の身体を鍛えるために使用されるものである。
よって,かかる物品の需要者・取引者は,健康や美容に関心のある一般消費者,並びに,これらの物品を販売する流通業者が該当する。
したがって,身体鍛錬機及びフィットネス機器等の意匠の類否判断は,これらの物品を購入する「一般消費者」,並びに,これらの物品を販売する「流通業者」を判断主体として行うことが妥当である。

オ 本件登録意匠と引用意匠の要部の認定
(ア)本件登録意匠の具体的構成態様-要部に関する一般論
本件登録意匠と引用意匠における具体的構成態様の検討に先立ち,意匠の要部認定の考え方を再度整理し,本件登録意匠及び引用意匠の要部について具体的な比較考察に及ぶ。
まず,意匠の要部とは,意匠が需要者・取引者の注意を最も惹き付ける部分である。即ち,意匠の要部は,意匠に係る物品である身体鍛練機及びフィットネス機器等の機能,目的,用途,使用態様等を総合的に参酌し,需要者・取引者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,その要部に表れた意匠の形態が,意匠の看者,即ち,身体鍛錬機及びフィットネス機器等の需要者・取引者に「異なった美感」を与えるかによって,かつ,公知意匠にはない「新規な創作部分を参酌し」判断すべきである(東京高裁平成10年6月18日判決 平成9年(ネ)第404号 自走式クレーン事件,及び大阪地裁昭和59年2月28日判決 昭和56年(ワ)第4926号 乱れ箱事件裁判例同旨)。
そして,意匠は物品の美感の創作物であることから,具体的には次の観点若しくは基準に立ち,意匠の要部を認定することが必要である。
i.公知意匠若しくは登録意匠の参酌
公知意匠との関係においては,意匠の要部を認定する際は公知意匠を参考にして検討すべきであり,「ありふれた公知部分のウェイトを低く」認識し「新規な部分のウェイトを大きく」把握しながら全体的な特徴を把握して,意匠の要部を認定する必要がある(大阪地裁平成元年6月19日弁当箱事件判例同旨)。
この点,本件登録意匠及び引用意匠の意匠に係る物品に関連する分野においては,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様の身体鍛錬機又はフィットネス機器等の意匠は,第1引用意匠の出願前には公然と知られたものではなく,また,意匠登録されていなかったものである。
従って,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様は,それまでの公知意匠に見られなかった全く新規な態様である。
よって,身体鍛錬機及びフィットネス機器等の意匠の要部の認定においては,かかる基本的な構成のウェイトを高く認識して要部を認定することが妥当である。
ii.観察方法
意匠の要部の認定においては,意匠に係る物品の需要者・取引者が実際に当該意匠に係る物品を購入する状態及び使用する状態を前提として,意匠の要部を検討すべきである。
そして,意匠に係る物品の需要者・取引者を要部の判断主体とするため,購入者及び使用者が実際に当該意匠に係る物品を購入する際の取引の事情を十分勘案して意匠の要部を判断する必要がある。
iii.創作的寄与度
公知意匠等に示される当該意匠分野における従来意匠の水準との関係で,どの程度意匠的創作として法的に保護すべき寄与があるか客観的に評価すべきである。
即ち,「創作的寄与の大きい意匠はそれが小さい意匠よりも保護を厚く」する必要がありその類似範囲を広く認めるべきであるが,「創作的寄与の小さい場合は保護を厚くする必要は無く」その類似範囲も広く認めるべきではない。
かかる保護の創作的寄与が低い意匠について徒に広い保護範囲,即ち,広い類似範囲を認める場合は,意匠権による制約を受ける他の創作者・取引者との関係で適切に判断すべきである。
(イ)本件登録意匠の具体的構成態様-要部に関する具体的な検討
i.要部認定の判断主体
本件登録意匠及び引用意匠の意匠に係る物品は身体鍛練機及びフィットネス機器等であるから,要部認定の判断は,これらの物品を購入する「一般消費者」,並びに,これらの物品を販売する「流通業者」を判断主体として行うことが妥当である。
ii.要部の特定
本件登録意匠及び引用意匠に係る物品は身体鍛錬機及びフィットネス機器等であるところ,かかる物品は,リビングルーム等の室内に配置され,使用者がまず物品の側方に立ち,次に物品の側方から本体フレームを跨いで,使用されるものである。また,物品の販売に際しては,購入者に物品全体の形状を見せるため,物品を側方から見た状態で展示され又は撮影されるものである。
このため,需要者・取引者は,主として本件物品を側面方向から最初に観察するものであるため,本件物品の側面から看た形態に注意を注ぐのが一般的であり,看者の注意を最も引きやすい意匠の要部であると把握すべきである。
また,身体鍛錬機及びフィットネス機器等は主に住宅内におけるリビングルーム等に配置されることが一般的であるため,身体鍛錬機及びフィットネス機器等の使用者(購入者)は,配置する予定のリビングルーム等の美感やスペース等を考慮し,配置箇所にふさわしい身体鍛錬機及びフィットネス機器等を,本願意匠と引用意匠の要部の形態に基づき選択するのである。
よって,意匠の看者,若しくは意匠に係る物品である身体鍛錬機及びフィットネス機器等の需要者・取引者が,物品全体の形状が把握しやすく且つ物品全体に占める面積が大きいため,最も目に付く側面から見た形態に無頓着であるはずがなく,側面の形状に最も注意を注ぎ意匠を看取するものである。
また,身体鍛錬機及びフィットネス機器等の流通業者においても,需要者の嗜好に合いそうなデザインを考慮して,販売する身体鍛錬機及びフィットネス機器等を選ぶため,側面から見た形態に注意を注ぐのが一般的である。
よって,本件登録意匠と引用意匠における意匠の要部は,側面から見た態様,即ち,本件登録意匠は願書に添付された正面図視の態様,第1引用意匠は公報に掲載された正面図視の態様,第2引用意匠は公報に掲載された側面図視の態様にあるとの評価の下,本件登録意匠と引用意匠の類否を検討する。

力 本件登録意匠と第1引用意匠との対比
(ア)本件登録意匠及び第1引用意匠の基本的構成態様
本件登録意匠に係る物品は「身体鍛錬機」であるところ,本件登録意匠の基本的構成態様は,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。
一方,第1引用意匠は,意匠に係る物品が「フィットネス機器」であるところ,第1引用意匠の基本的構成態様は本件登録意匠の基本的構成態様と同様に,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。そして,かかる構成は,第1引用意匠の骨格を構成して,意匠の支配的基調を形成し,看者に強い印象を与えるものである。
(イ)本件登録意匠の具体的構成態様
本件登録意匠は,願書に添付された正面図視において,レッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着された形態であり(この構成を「構成A」という。),本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置され(この構成を「構成B」という。),レッグフレームの下端と本体フレームの下端には円柱状の足部が形成され(この構成を「構成C」という。),背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成される(この構成を「構成D」という。)。
なお,本件登録意匠は,願書に添付された正面図視において,背もたれフレームの上方の短い部分がレッグフレーム方向に歪曲する形態であり(この構成を「構成E」という。),レッグフレームの上端から補助レッグフレームが屈曲しながら伸延し(この構成を「構成F」という。),シート下部に円柱状のグリップバーが設置され(この構成を「構成G」という。),レッグフレームの下端からシート下部のグリップバーにかけてエクササイズバンドが配置される(この構成を「構成H」という。),また,本件登録意匠は,平面図視において,シートが略三角形状に形成され(この構成を「構成I」という),レッグフレームの上端には一対のレッグパッドのみが配置される(この構成を「構成J」という。)。
(ウ)第1引用意匠の具体的構成態様
第1引用意匠は,公報に掲載された正面図視において,レッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着された形態であり(この構成を「構成a」という。),本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置され(この構成を「構成b」という。),レッグフレームの下端と本体フレームの下端には円柱状の足部が形成され(この構成を「構成c」という。),背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成される(この構成を「構成d」という。)。
なお,第1引用意匠は,公報に掲載された正面図視において,背もたれフレームの上方の部分が背もたれフレーム全体の緩やかな円弧の一部を形成する形態であり(この構成を「構成e」という。),レッグフレームは1本の棒状体により構成され(この構成を「構成f」という。),シート下部と本体フレームの間には短い縦軸部が設置され(この構成を「構成g」という。),頭部パッドが背もたれフレームの上端に装着される(この構成を「構成k」という。)。また,第1引用意匠は,平面図視において,シートが略長方形状に形成され(この構成を「構成i」という。),背もたれフレームの下方の位置の背もたれパッドの両端にグリップバーが設置される(この構成を「構成j」という。)。
(エ)各構成態様の比較
i.本件登録意匠の基本的構成態様と第1引用意匠の基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様は,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。
一方,第1引用意匠の基本的構成態様は,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。
よって,本件登録意匠の基本的構成態様は第1引用意匠の基本的構成態様と同じ構成であり,本件登録意匠の基本的構成態様は第1引用意匠の基本的構成態様を充足する。そして,かかる構成は,本件登録意匠および第1引用意匠の骨格を構成するものであり,両意匠の支配的基調を形成し,看者に強い印象を与えるものである。
ii.本件登録意匠の構成A,B,C,Dと第1引用意匠の構成a,b,c,d
本件登録意匠の構成A,B,C,Dは,願書に添付された正面図視において,レッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着された形態であり,本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置され,レッグフレームの下端と本体フレームの下端には円柱状の足部が形成され,背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成されるものである。
一方,第1引用意匠の構成a,b,c,dは,公報に掲載された正面図視において,レッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着された形態であり,本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置され,レッグフレームの下端と本体フレームの下端には円柱状の足部が形成され,背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成されるものである。
よって,本件登録意匠の構成A,B,C,Dは第1引用意匠の構成a,b,c,dと同じ構成であり,本件登録意匠の構成A,B,C,Dは第1引用意匠の構成a,b,c,dを充足する。そして,かかる両意匠の共通点は,物品を側面から看た場合に,意匠の看者が容易に認識できる部分の構成である。
iii.本件登録意匠の構成E,F,G,Hと第1引用意匠の構成e,f,g,k
本件登録意匠の構成E,F,G,Hは,願書に添付された正面図視において,背もたれフレームの上方の短い部分がレッグフレーム方向に歪曲する形態であり,レッグフレームの上端から補助レッグフレームが屈折しながら伸延し,シート下部に円柱状のグリップバーが設置され,レッグフレームの先端からシート下部のグリップバーにかけてエクササイズバンドが配置されるものである。
一方,第1引用意匠の構成e,f,g,kは,公報に掲載された正面図視において,背もたれフレームの上方の部分が背もたれフレーム全体の緩やかな円弧の一部を形成する形態であり,レッグフレームは1本の棒状体により構成され,シート下部と本体フレームの間には短い縦軸部が設置され,頭部パッドが背もたれフレームの上端に装着されるものである。なお,本件登録意匠には,第1引用意匠の構成kに相当する構成はない。また,第1引用意匠には,本件登録意匠の構成Hに相当する構成はない。
よって,本件登録意匠の構成E,F,G,Hは第1引用意匠の構成e,f,g,kを充足しない。しかしながら,本件登録意匠の構成E,F,G,Hと第1引用意匠の構成e,f,g,kの差異は,物品の細部の構成の差異であり,また,視覚的に格別注意を惹かず,本件登録意匠と第1引用意匠に共通する印象に変更を加える程のものではなく,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
iv.本件登録意匠の構成I,Jと第1引用意匠の構成i,j
本件登録意匠の構成I,Jは,平面図視において,シートが略三角形状に形成され,レッグフレームの上端には一対のレッグパッドのみが配置されるものである。
一方,第1引用意匠の構成i,jは,平面図視において,シートが略長方形状に形成され,背もたれフレームの下方の位置の背もたれパッドの両端にグリップバーが設置されるものである。
よって,本件登録意匠の構成I,Jは第1引用意匠の構成i,jを充足しない。しかしながら,本件登録意匠の構成I,Jと第1引用意匠の構成i,jの差異は,物品の細部の構成の差異であり,また,ありふれた構成の差異であることから,本件登録意匠と第1引用意匠の類否の判断に影響を及ぼす程のものではない。

キ 本件登録意匠と第2引用意匠との対比
(ア)本件登録意匠及び第2引用意匠の基本的構成態様
本件登録意匠に係る物品は「身体鍛錬機」であるところ,本件登録意匠の基本的構成態様は,上記力(ア)にて述べた通りである。
一方,第2引用意匠は,意匠に係る物品が「バネ式仰臥台」であるところ,第2引用意匠の基本的構成態様は本件登録意匠の基本的構成態様と同様に,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。そして,かかる構成は,第2引用意匠の骨格を構成して,意匠の支配的基調を形成し,看者に強い印象を与えるものである。
(イ)本件登録意匠及び第2引用意匠の具体的構成態様
本件登録意匠の具体的構成態様は,上記力(イ)にて述べた通りである。
一方,第2引用意匠の具体的構成態様は,公報に掲載された側面図視において,レッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着された形態であり(この構成を「構成a」という。),本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置され(この構成を「構成b」という。),レッグフレームの下端と本体フレームの下端には円柱状の足部が形成され(この構成を「構成c」という。),背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成される(この構成を「構成d」という。)。
なお,第2引用意匠は,公報に掲載された側面図視において,背もたれフレームの上方の部分が背もたれフレーム全体の緩やかな円弧の一部を形成する形態であり(この構成を「構成e」という。),レッグフレームの上端から補助レッグフレームが屈折しながら伸延し(この構成を「構成f’」という。),シート下部に円柱状のグリップバーが設置され(この構成を「構成g’」という。),レッグフレームの下端からシート下部のグリップバーにかけてエクササイズバンドが配置される(この構成を「構成h」という。)。また,第2引用意匠は,平面図視において,シートが略長方形状に形成され(この構成を「構成i」という。),レッグフレームの上端には一対のレッグパッドのみが配置される(この構成を「構成j’」という。)。
(ウ)各構成態様の比
i.本件登録意匠の基本的構成態様と第2引用意匠の基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様は,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。
一方,第2引用意匠の基本的構成態様は,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。
よって,本件登録意匠の基本的構成態様は第2引用意匠の基本的構成態様と同じ構成であり,本件登録意匠の基本的構成態様は第2引用意匠の基本的構成態様を充足する。そして,かかる構成は,本件登録意匠および第2引用意匠の骨格を構成するものであり,両意匠の支配的基調を形成し,看者に強い印象を与えるものである。
ii.本件登録意匠の構成A,B,C,Dと第2引用意匠の構成a,b,c,d
本件登録意匠の構成A,B,C,Dは,願書に添付された正面図視において,レッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着された形態であり,本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置され,レッグフレームの下端と本体フレームの下端には円柱状の足部が形成され,背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成されるものである。
一方,第2引用意匠の構成a,b,c,dは,側面図視において,レッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着された形態であり,本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置され,レッグフレームの下端と本体フレームの下端には円柱状の足部が形成され,背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成されるものである。
よって,本件登録意匠の構成A,B,C,Dは第2引用意匠の構成a,b,c,dと同じ構成であり,本件登録意匠の構成A,B,C,Dは第2引用意匠の構成a,b,c,dを充足する。そして,かかる両意匠の共通点は,物品を側面から看た場合に,意匠の看者が容易に認識できる部分の構成である。
iii.本件登録意匠の構成E,F,G,Hと第2引用意匠の構成e,f’,g’,h
本件登録意匠の構成E,F,G,Hは,願書に添付された正面図視において,背もたれフレームの上方の短い部分がレッグフレーム方向に歪曲する形態でありレッグフレームの上端から補助レッグフレームが屈曲しながら伸延し,シート下部に円柱状のグリップバーが設置され,レッグフレームの下端からシート下部のグリップバーにかけてエクササイズバンドが配置されるものである。
一方,第2引用意匠の構成e,f’,g’,hは,公報に掲載された側面図視において,背もたれフレームの上方の部分が背もたれフレーム全体の緩やかな円弧の一部を形成する形態であり,レッグフレームの上方先端から補助レッグフレームが屈折しながら伸延し,シート下部に円柱状のグリップバーが設置され,レッグフレームの下方先端からシート下部のグリップバーにかけてエクササイズバンドが配置されるものである。
よって,本件登録意匠の構成F,G,Hは第2引用意匠の構成f’,g’hを充足するが,本件登録意匠の構成Eは第2引用意匠の構成eを充足しない。 しかしながら,本件登録意匠の構成Eと第2引用意匠の構成eの差異は,物品の細部の構成の差異であり,また,視覚的に格別注意を惹かず,本件登録意匠と第2引用意匠に共通する印象に変更を加える程のものではなく,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
iv.本件登録意匠の構成I,Jと第2引用意匠の構成i,j’
本件登録意匠の構成I,Jは,平面図視において,シートが略三角形状に形成され,レッグフレームの上端には一対のレッグパッドのみが配置されるものである。
一方,第2引用意匠の構成i,j’は,平面図視において,シートが略長方形状に形成され,レッグフレームの上端には一対のレッグパッドのみが配置されるものである。
よって,本件登録意匠の構成Jは第2引用意匠の構成j’を充足するが,本件登録意匠の構成Iは第2引用意匠の構成iを充足しない。しかしながら,本件登録意匠の構成Iと第2引用意匠の構成iの差異は,物品の細部の構成の差異であり,また,ありふれた構成の差異であることから,本件登録意匠と第2引用意匠の類否の判断に影響を及ぼす程のものではない。

ク 本件登録意匠と引用意匠との類否
本件登録意匠と引用意匠は,意匠に係る物品が「身体鍛錬器具」又は「フィットネス機器等」である点で用途及び機能が共通し,意匠の基本的構成態様において共通する。
そして,両意匠の基本的構成態様は,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームによる構成であるところ,両意匠全体の骨格を構成し両意匠の支配的基調を形成するものである。そして,両意匠の基本的構成態様に共通するレッグフレームが若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する構成は,両意匠を特徴付けている構成であり,この構成の共通性は,看者に両意匠の共通性を強く印象付けるものである。
また,両意匠の具体的構成態様においても,構成Aと構成aにおけるレッグパッドがレッグフレームの二箇所に装着され,背もたれパッドが背もたれフレームの三箇所に装着される構成,構成Bと構成bにおける本体フレーム上のレッグフレームに近い位置にシートが配置される構成,構成Cと構成cにおけるレッグフレームの下端と本体フレームの下端に円柱状の足部が形成される構成並びに構成Dと構成dにおける背もたれフレームの下端から本体フレームの下方にかけてバネ部が形成される構成は,物品を側面から看た場合に,意匠の看者が容易に認識できる部分の構成である。
一方,本件登録意匠と引用意匠は,具体的構成態様において,本件登録意匠の構成E,Iは,引用意匠の構成e,iを充足しない。また,本件登録意匠の構成F,G,H,Jは,第1引用意匠の構成f,g,h,iを充足しない。
しかしながら,本件登録意匠及び引用意匠の要部は,基本的構成態様における支配的基調にあり,構成E乃至構成J並びに構成e乃至構成jは,いずれも本件登録意匠及び引用意匠の要部たり得ず,需要者・取引者の注意を引く程の特徴的な構成ではない。
即ち,本件登録意匠の構成E乃至構成Jと引用意匠の構成e乃至構成jは,「身体鍛錬機」及び「フィットネス機器等」の一般的な使用状態において,看者の目に付きにくい細部の形態であり,また,視覚的に格別注意を惹く態様でもないことから,これらの態様の差異は両意匠の類否判断を左右する程のものではない。
そして,両意匠のこれら共通する基本的構成態様は,本件登録意匠と引用意匠における形態の構成の支配的な部分であるため,本件登録意匠の基本的構成態様と引用意匠の基本的構成態様との形態の共通点は,本件登録意匠の構成E乃至構成Jと引用意匠の構成e乃至構成jにおける差異点を十分に凌駕し,意匠の看者に対し共通の美観を起こさせるものである。
即ち,意匠に係る物品である「身体鍛錬機」及び「フィットネス機器等」の一般的な使用状態において,当該物品の側面から看た形態は最も注意を引く部分であることから,「身体鍛錬機」及び「フィットネス機器等」の意匠において側面から看た形態,特に,側面視における物品の骨格をなす基本的な形状が最も重要な要部であることを鑑みれば,かかる形状における共通点が意匠全体に及ぼす影響は大きく,本件登録意匠と引用意匠との側面視における,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成される形状の共通点のみをもってしても,意匠の看者は両意匠から共通の印象を受けるものである。
よって,本件登録意匠と引用意匠の類否判断に際しては,本件登録意匠の構成E乃至構成Jと引用意匠の構成e乃至構成jのウェイトを低く認識し,その一方で,本件登録意匠の基本的構成態様と引用意匠の基本的構成態様のウェイトを高く認識して意匠の要部を認定のうえ比較検討すべきであり,本件登録意匠と引用意匠とは美観を共通にする類似の意匠であると認定することが妥当である。
更に,本件登録意匠と引用意匠は,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する構成により,意匠全体をして意匠の看者に対し,シンプルですっきりした印象を与えるものであり,本件登録意匠と引用意匠から受ける印象は全く共通するものである。
従って,本件登録意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品である「身体鍛錬機」及び「フィットネス機器等」の分野における需要者・取引者の視覚を通じて,共通の美感をもって看取されるものであり,類似する意匠である。

(2)意匠法第3条第2項について
本件登録意匠は,前述の通り,意匠法第3条第1項第3号に該当し登録は無効にされるべきものであるが,仮に意匠法第3条第1項第3号に該当しないとしても,意匠法第3条第2項に該当し,登録は無効にすべきものである(意匠法第48条第1項第1号)。以下,その理由を詳述する。

ア まず,本件登録意匠の意匠権者は,身体鍛錬機等のフィットネス関連製品の販売を業とするものである(甲第4号証)。よって,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者であることは明らかである。

イ 次に,本件登録意匠の出願日は平成25年(2013年)7月9日である。一方,引用意匠は平成24年(2012年)6月6日から平成25年(2013年)2月27日にかけて公報に掲載されたものである。よって,引用意匠は本件登録意匠の出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合となっていたものである。

ウ 一方,本件登録意匠と引用意匠には,上記(1)で述べた通り,本件登録意匠の具体的な構成E及びIは,引用意匠のいずれにも見られない構成である。
しかしながら,このような身体鍛錬機及びフィットネス機器等の意匠において,細部の具体的な構成を変更した意匠を創作することは,公知の意匠の構成を置換,寄せ集め等したにすぎず,引用意匠の形態から容易に意匠の創作ができる範躊の創作行為に過ぎない。
特に,本件登録意匠におけるシートが略三角形状に形成されることについては,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば,引用意匠の略長方形状のシートを略三角形状のシートに置き換えたにすぎず,きわめて容易に意匠の創作をすることができたものである。
また,背もたれフレームの上方の短い部分の形態が,引用意匠においては本体フレーム全体の緩やかな円弧の一部を形成するのに対し,本件登録意匠においてはレッグフレーム方向に歪曲しているが,かかる本件登録意匠の形態は,背もたれフレームの上方の部位を若干曲げた程度の改変であり,また,本件登録意匠の出願前に,例えば,折りたたみ椅子の意匠において,背もたれフレームの上方の短い部分が歪曲した形態が公知となっており(甲第5号証),本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば,容易に創作できる範躊の創作である。
なお,本件登録意匠の構成Fはレッグフレームの上端から補助レッグフレームが逆V字状に開いた態様であるのに対し,第2引用意匠の構成f’は補助レッグフレームが閉じた状態の態様であるが,フレームの上端から補助レッグフレームが屈折しながら伸延する構成は基本的に同じであり,開閉式の補助レッグフレームを開いた状態で出願したか,閉じた状態で出願したかの相違であり,本件登録意匠の構成Fは何ら意匠創作が創出された構成とはいえない。
即ち,本件登録意匠は公然知られた引用意匠の形態を,そのまま取り込んで意匠の創作を完成することを回避し,引用意匠が有する細部の構成をありふれた手法により改変し意匠を完成したものである。換言すれば,本件登録意匠は何ら意匠としての新たな創作を完成したものではなく,創作価値を顕在化したものではない。
意匠法第3条第2項は,独占権たる意匠権を付与するに値しない創作性を持つ意匠の登録を事前に排除することを目的にする規定である。かような立法趣旨を鑑みれば,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり,独占権たる意匠権を付与するに値しない創作性の意匠であるから意匠法第3条第2項に該当し,無効とすべきである。

4.むすび
以上詳述した通り,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号又は同条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。

5.証拠方法 (全て写し)
・甲第1号証の1 意匠登録第1494466号意匠公報
・甲第1号証の2 意匠登録第1494466号意匠原簿
・甲第2号証 中華人民共和国意匠登録第301949061号意匠公 報
・甲第3号証 中華人民共和国意匠登録第302333989号意匠公 報
・甲第4号証 「会社概要」(アルインコ株式会社 ウェブサイト)
・甲第5号証の1 「楽天 みんなのレビュー 折りたたみ椅子 キャプテ ンチェア ハイタイプ ブラック(チェア イス)」( 株式会社楽天ウェブサイト)
・甲第5号証の2 「リビングート楽天市場店 折りたたみ椅子 キャプテ ンチェア ハイタイプ ブラック(チェア イス)」( 株式会社楽天ウェブサイト)

第2 被請求人の答弁及び理由
1.答弁の趣旨
被請求人は,「結論同旨の審決を求める。」旨答弁し,証拠として乙第1号証ないし乙第6号証を提出して,以下のとおり反論した。

2.答弁の理由
(1)請求の理由に対して
ア 請求の理由のうち,
(ア)第1,2.本件登録意匠登録の経緯は,認める。
(イ)第1,3.本件登録意匠を無効とすべき理由(1)(ア)(甲第2号証及び甲第3号証の経緯)は,認める。
(ウ)その余は,全て否認ないし争う。
イ 甲第1号証の1及び2,甲第2号証,甲第3号証,甲第4号証,甲第5号証の1及び2は,成立を認める。

(2)請求人の主張に対する反論
新規性(意匠法3条1項3号)に関して
(ア)意匠類否判断の基準
意匠の類否に関して,請求人が主張する判断の主体(第1 3.本件登録意匠を無効とすべき理由(1)エ),意匠の要部認定に際し公知意匠を参酌すべきとする一般論(同(1)オ(ア)),観察方法(同(1)オ(ア)ii.),創作寄与度(同(1)オ(ア)iii.)は,被請求人においても異論はない。
しかしながら,請求人も主張するとおり,意匠の要部を認定する際には公知意匠の参酌が不可欠であるところ,本件の場合,公知意匠を参酌することにより新規な創作部分として注目される本件登録意匠の要部は,請求人が主張するような「基本的構成態様」ではなく,後述するとおりの特徴的形態(後記のY1?Y4)にあり,それは第1引用意匠及び第2引用意匠に全く存在しておらず,意匠が非類似であることは極めて明らかである。
ところで,要部特定のための観察方法について,請求人は,本件のような物品は,側方から見た状態で展示されるものであるから,側方から見た態様が重要であると主張し,側面視図を貼付することにより縷々主張している(3.(1)オ(イ)ii.)。
しかしながら,仮に,物品を側方から観察することが重要であるとしても,実際の物品を「肉眼」で観察したとき,側面だけが二次元的平面で視認されることはなく,常に必ず側面以外の部分を含む三次元的立体で視認されるものであるから,請求人が主張するような二次元的な側面視図や平面視図だけを観察することは適切でなく,斜視図を含めて意匠を観察すべきである。
(イ)引用意匠の評価
引用意匠を評価するための時間的基準について,請求人は,「・・・態様の身体鍛錬機又はフィットネス機器等の意匠は,第1引用意匠の出願前には公然と知られたものはなく,また,意匠登録されていなかったものである。従って,・・・態様は,それまでの公知意匠に見られなかった全く新規な態様である。よって,身体鍛錬機及びフィットネス機器等の意匠の要部の認定においては,かかる基本的な構成のウェイトを高く認識して要部を認定することが妥当である。」と主張している(3.(1)オ(ア)i.)。
しかしながら,本件無効審判は,意匠法第3条第1項第3号及び同条第2項の規定を根拠として請求され,甲第2号証(第1引用意匠)及び甲第3号証(第2引用意匠)は,何れも頒布された刊行物として,「意匠登録出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された意匠」(意匠法第3条第1項第3号)と「意匠登録出願前に・・・日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」(意匠法第3条第2項)を立証するために提出されたものである。
従って,第1引用意匠及び第2引用意匠の要部の評価は,あくまでも,刊行物が頒布されたとき,すなわち,甲第2号証(第1引用意匠)は,発行日の2012年(平成24年)6月6日を基準とし,甲第3号証(第2引用意匠)は,発行日の2013年(平成25年)2月27日を基準として行わなければならない。
この点について,甲第1号証及び甲第2号証は,中華人民共和国の意匠登録出願に基づいて発行されたものであるが,そのような外国における出願の有無は,本件登録意匠登録の無効理由とは何の関係もないから,「第1引用意匠の出願前」を問題とする請求人の主張は,正しくない。
後述するように,第1引用意匠及び第2引用意匠は,それぞれ甲第1号証及び甲第2号証の発行時の公知意匠を参酌した上で,その要部及び類似範囲を判断されるべきものである。
(ウ)請求人が主張する基本的構成態様と意匠の要部
請求人は,「本件登録意匠の基本的構成態様は,レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様である。」と主張し(3.本件登録意匠を無効とすべき理由(1)カ(ア)前段),この基本的構成態様は,第1引用意匠(甲第2号証)及び第2引用意匠(甲第3号証)と共通すると主張している(同(1)カ(ア)後段及びキ(ア))。そして,このような「基本的構成態様」は,「第1引用意匠の出願前」において公知意匠に見られない新規な態様であるから,意匠の要部として,観察時に高いウェイトを以て認識されるべきであると主張し(同(1)オ(ア)i.),これを前提として,本件登録意匠は,それぞれ第1引用意匠と第2引用意匠に類似すると主張している。
しかしながら,「第1引用意匠の出願前」を基準として,その意匠の新規な要部を判断すべきであるとする請求人の主張が誤りであることは前述のとおりである。
第1引用意匠の要部の評価は,甲第1号証の発行日とされた2012年(平成24年)6月6日を基準として行わなければならないところ,請求人が主張する「基本的構成態様」は,後述するように,甲第1号証が発行される前から日本国内で公知のものであり,何ら,第1引用意匠及び第2引用意匠に特有の基本的構成態様ではない。
従って,「基本的構成態様」が公知であるにも関わらず新規であると誤信し,これを前提として,本件登録意匠が各引用意匠と類似するという請求人の主張は,その根拠の前提において,根本的な間違いがある。
(エ)請求人が主張する具体的構成態様その1
具体的構成に関し,請求人は,本件登録意匠のレッグパッド及び背もたれパッドに関する構成A,シートの位置に関する構成B,水平ロット状の脚座(請求人のいう「円柱状の足部」)に関する構成C,バネ部に関する構成Dについて,第1引用意匠及び第2引用意匠の構成a,構成b,構成c,構成dとそれぞれ同じであり,両意匠の共通点は,物品を側面から見たときに看者が容易に認識できる部分であると主張し(3.(1)カ(ウ)ii.),キ(ウ)ii.),その結果,本件登録意匠は,それぞれ第1引用意匠と第2引用意匠に類似すると主張している。
しかしながら,レッグパッドに関する構成や,シートの位置に関する構成や,水平ロット状の脚座に関する構成等は,乙第2号証に基づいて後述するように,甲第2号証が発行される前から日本国内で公知のものであり何ら,第1引用意匠及び第2引用意匠に特有の態様ではないから,これが共通することを以て,本件登録意匠が第1及び第2引用意匠に類似するという請求人の主張は,明らかに間違いである。
そして,背もたれパッドに関する構成については,後述するように,第1及び第2引用意匠の背もたれパッドの構成が何ら特徴的でないのに対して,本件登録意匠の背もたれパッドは,背もたれパッドそれ自体の形態と,該パッドを取付けた横骨の形態等の点において,独創性に満ち溢れた極めて特徴的な形態を備え,これにより,意匠全体の美観に強い影響を与える要部を成しており,意匠の非類似感を顕在化している。
(オ)請求人が主張する具体的構成態様その2
更に別の具体的構成に関し,請求人は,本件登録意匠の背もたれフレームの形状に関する構成E,補助レッグフレームに関する構成F,グリップバーに関する構成G,エクササイズバンドに関する構成H,シート形状に関する構成Iについて,第1引用意匠は,全ての点で相違することを認めた上で,これらは物品の細部に関する差異に過ぎないと主張し(3.(1)力(ウ)iii.iv.),また,第2引用意匠は,構成Iと相違することを認めた上で,この点は物品の細部に関する差異に過ぎないと主張し(3.(1)キ(ウ)iii.iv.),その結果,本件登録意匠は,それぞれ第1引用意匠と第2引用意匠に類似すると主張している。しかしながら,後述するように,背もたれフレーム及びシートの形状に関する構成は,第1及び第2引用意匠が何ら特徴的でないのに対し,本件登録意匠は,背もたれフレームが全体として異形のS字形ラインを描き,シートが特異な三角形状を表すことにより,独創性に満ち溢れた極めて特徴的な形態を備え,これにより,意匠全体の美観に強い影響を与える要部を成しており,意匠の非類似感を顕在化している。
(カ)本件登録意匠が第1引用意匠及び第2引用意匠に類似しないことは,後述するとおりである。

創作容易性(意匠法3条2項)に関して
(ア)本件登録意匠のシートの形状
本件登録意匠のシートに関して,請求人は,当業者が引用意匠の略長方形状のシートを略三角形のシートに置き換えたに過ぎないから,容易に創作することができたものであると主張している(3.(2)ウ前段)。しかしながら,単に主張するだけで,置換が容易であるとする根拠を示す公知意匠は,全く提示されていない。
従って,意匠法3条2項に規定された「・・・公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易」の要件事実について立証を欠如するとの誹りを免れない。
本件登録意匠のシートは,単純な幾何学形状とされた三角形ではなく,後述するような特異な三角形状とされており,到底,創作容易ではない。
(イ)本件登録意匠の背もたれフレームの形状
本件登録意匠の背もたれフレームに関して,請求人は,上方の部位を若干曲げた程度の改変であり,しかも,甲第5号証によれば,折りたたみ椅子の意匠において,背もたれフレームの上方の短い部分を歪曲した形態が公知であるから,容易に創作できる範躊のものであると主張している(3.(2)ウ中段)。
しかしながら,甲第5号証は,折たたみ椅子に関するものであり,本件登録意匠に係る物品「身体鍛錬機」と全く無関係であり,従って,「その意匠の属する分野における通常の知識を有する者」(意匠法3条2項)を明らかに相違している。
しかも,甲第5号証の折りたたみ椅子は,X状に交差させた左右脚部の一方から,左右一対の背もたれフレームを斜め上方に延長し,左右の延長フレームの上端近傍部を鉛直方向に向かわせるように「へ字状」に折曲し,その左右フレームの上端部に跨って背もたれパッドを跨設した形態とされているだけであり,どの部分がどのように本件登録意匠の背もたれフレームの形状に関係すると主張しているのか,全く不可解である。
本件登録意匠の背もたれフレームは,後述するように,1本のフレームの上端部を後方に向けて湾曲する円弧部を介して,斜め上方に延長させ,全体として異形のS字形ラインを描く点に特徴があり,仮に,甲第5号証のフレームの「へ字状」に折曲された上端近傍部を転用したとしても,到底,創作できるものではない。
(ウ)従って,本件登録意匠が第1引用意匠又は第2引用意匠に基づいて容易に創作し得たものでないことは,明らかである。

(3)被請求人の主張
ア 本件登録意匠の創作に至る経緯
(ア)「マルチコンパクトジム」
被請求人は,現在,本件登録意匠を実施した製品(以下,「本件登録意匠製品」という。)を「マルチコンパクトジムNeo EXG 144」の商品名で販売している(乙第1号証,1枚目参照)。
「マルチコンパクトジム」は,被請求人のシリーズ商品名であり,本件登録意匠製品に先立ち,「マルチコンパクトジムDX EXG044」(以下,「旧製品」という。)及び「マルチコンパクトジム EXG042」(以下,「旧々製品」という。)を販売し,現在も販売している(乙第1号証,2枚目参照)。
これらの製品は,店舗販売及び通信販売を合む多方面で販売されているが,旧々製品は,2011年(平成23年)9月21日に発売され,旧製品は,2012年(平成24年)4月1日に発売され(乙第1号証及び乙第2号証),それぞれ甲第1号証及び甲第2号証が発行される前に日本国内で公知とされている。
(イ)旧々製品(マルチコンパクトジム EXG042)
旧々製品の意匠形態と使用方法は,レッグフレームと本体フレームを備え,レッグフレームを本体フレームに向けて傾斜姿勢で起立させ,レッグフレームの上端近傍から本体フレームを緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延させ,レッグフレームの上端部に回動自在に枢結した補助レッグフレームを該レッグフレームの前面に重ねて配置し,レッグフレームの上端と補助レッグフレームの下端にそれぞれ左右水平方向に延びるレッグパッドを設け,更に,レッグフレームの下端と本体フレームの下端にそれぞれ水平ロット状の脚座を設けている(以下,この意匠形態を「旧々意匠形態」という。)。
尚,旧々製品の腹筋鍛錬方法は,ユーザがレッグパッドに足を掛け,身体の上体を起伏させる事により腹筋を鍛錬するシットアップベンチ方式を採用しているため,本体フレームに沿ってベンチ座板を搭載している。
(ウ)旧製品(マルチコンパクトジムD EXG044)
旧製品は,旧々製品を改良し進化させたものであり,旧々製品の前記「旧々意匠形態」をそのまま踏襲している。
そこで,旧製品は,旧々製品のベンチ座板を分割することにより,「座部と背もたれ部の組み合わせ」を採用し,背もたれ部を起立させた状態でのエクササイズと,背もたれ部を伏臥させた状態でのエクササイズを可能にしたものである(以下,この意匠形態を「旧意匠形態」という。)
(エ)本件登録意匠製品(マルチコンパクトジムNeo EXG144)
本件登録意匠製品は,旧製品を更に改良し進化させたものであり,旧製品の旧意匠形態」で採用した「座部と背もたれ部の組み合わせ」を別の形態の座部及び背もたれ部の組み合わせとすることにより,本体フレーム上で載せ替え,これにより,ユーザが座部に着座した状態で,背もたれ部を背中で押付けながら身体の上体を起伏させることにより腹筋を鍛錬する「着座式の身体鍛錬機」を提供するために開発されたものである。
この際,i)レッグフレームと本体フレームを備える点,ii)レッグフレームを本体フレームに向けて傾斜姿勢で起立させる点,iii)レッグフレームの上端近傍から本体フレームを緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延させる点,iv)レッグフレームの上端部に回動自在に枢結した補助レッグフレームを該レッグフレームの前面に重ねて配置する点,v)レッグフレームの上端と補助レッグフレームの下端にそれぞれ左右水平方向に延びるレッグパッドを設ける点,vi)レッグフレームの下端と本体フレームの下端にそれぞれ水平ロット状の脚座を設ける点は,全て,2011年(平成23年)9月21日から販売している旧々製品及び2012年(平成24年)4月1日から販売している旧製品の意匠形態をそのまま踏襲している。その上で,本件登録意匠製品は,旧製品の「旧意匠形態」における「座部と背もたれ部の組み合わせ」を下記の同種物品に関する公知意匠(乙第3ないし5号証)のような1本の背もたれフレームと,該フレームの左右から水平方向に延びる背もたれパッドを上下方向に列設した意匠形態を参考として,座部と背もたれ部に独自の意匠を施すことにより,新規な審美感を現出するように創作したものである。

イ 第1引用意匠の評価
請求人は,「レッグフレーム,本体フレーム及び背もたれフレームの3体のフレームにより構成され,レッグフレームが本体フレーム方向に若干の傾斜をもって直立し,本体フレームがレッグフレームの上方の位置から緩やかな円弧を描くアーチ状に伸延し,背もたれフレームが本体フレームのほぼ中央の位置から上部方向に伸延する態様」(請求人のいう「基本的構成態様」)が第1引用意匠の前に公知とされておらず,全く新規な態様であるから,これが第1引用意匠の要部であると主張している。
しかしながら,ここで請求人がいう「背もたれフレーム」がどのような構成態様のものであるかは不明であるが,少なくとも,被請求人の旧製品(マルチコンパクトジムDX EXG044)の「背もたれ部」と明確に区別することが困難なように抽象化されている。因みに,背もたれフレームを設けることや,該フレームの左右両側から水平方向に延びる背もたれパッドを上下に列設することは,乙第3ないし5号証に示されるように,周知の意匠形態である。
従って,請求人が主張する「基本的構成態様」は,被請求人の旧製品が具備している意匠構成態様と実質的に相違していない。
そして,被請求人の旧製品は,第1引用意匠よりも前(甲第2号証が発行された2012年(平成24年)6月6日よりも前)の2012年(平成24年)5月10日から日本国内で販売され,公知意匠とされているから(乙第2号証参照),請求人の主張は,明らかに失当である。
従って,第1引用意匠は,請求人が主張する「基本的構成態様」の点に意匠の要部があるものではない。
この点に関して,仮に,第1引用意匠に新規な意匠構成態様があるとすれば,それは,本体フレームを2本の平行なレール状部材により表した具体的形態と,背もたれフレーム及び背もたれパッドを図示のとおりに表した具体的な形態等,極めて限定された部分に過ぎないと考えられる。
因みに,第1引用意匠が,背もたれフレームの全体を基端部と上端部の間で前方に向けて湾曲する単純な円弧形状として表している点や,背もたれフレームを挟んで左右に分割された背もたれパッドを上下に列設している点は,公知意匠(乙第3号証)と格別な相違がなく,何ら斬新な美観を呈するものでもない。従って,公知意匠に見ることができない第1引用意匠に特有の意匠形態を敢えて追求するならば,それは,唯一,背もたれフレームの上端部に交差して枕パッドを設けた点である。

ウ 第2引用意匠の評価
上述のとおり,請求人が主張する「基本的構成態様」は,被請求人の旧製品に具備された公知の意匠構成態様であるから,第2引用意匠の要部にもなり得ないものである。
そこで,仮に,第2引用意匠に新規な意匠構成態様があるとすれば,前方に湾曲する単純な円弧形状として表された背もたれフレームを挟んで左右に分割された背もたれパッドを上下に列設した点に関して,各背もたれパッドを内側から外側に向けて顕著に直径が大きくなる円錐形状に表した点である。

エ 本件登録意匠の評価
上述のとおり,被請求人の「マルチコンパクトジム」のシリーズ商品は,旧々製品→旧製品→本件登録意匠製品の順に変遷し,本件登録意匠は,旧々製品及び旧製品により公知とされたレッグフレームや本体フレームの意匠形態に立脚した上で,新たな意匠を施すことにより創作されたものである。
従って,本件登録意匠は,旧々製品や旧製品に表されていた公知の意匠構成態様,つまり,請求人が主張する「基本的構成態様」の点に意匠の要部を備えるものでないことは勿論である。
本件登録意匠は,上述のとおり,旧製品における「座部と背もたれ部の組み合わせ」を別の形態の座部及び背もたれ部の組み合わせとして,本体フレーム上で載せ替えることにより,ユーザが座部に着座した状態で,背もたれ部を背中で押付けながら身体の上体を起伏させることにより腹筋を鍛錬する「着座式の身体鍛錬機」を提供したものであり,この際,座部と背もたれ部に独自の意匠を施すことにより,新規な審美感を現出するように創作したものである。
従って,本件登録意匠の新規な独創的意匠形態は,下記の点にあり,これにより,ユーザ及び取引者を含む需要者に対して,従来の公知意匠に全く見られない斬新な美観を惹起させるものであるから,これが本件登録意匠の要部を構成する意匠形態である。すなわち,下記の着色図のうち,着色部分が新規な意匠形態であり,無着色の部分は,従来公知ないし意匠の基本的美観に影響しない細部の意匠形態である。
(Y1)座部(緑色の部分)に関して,各頂部の3個所を円弧状とした概ね三角形状であり,背もたれフレームに直交する底辺に対して,一対の斜辺を長くした二等辺三角形状を表すと共に,一対の斜辺の間(二等辺三角形の頂角相当部分)に大きな円弧縁を表し,底辺の両端と斜辺の間(二等辺三角形の底角相当部分)に小さな円弧縁を表している(以下,「特徴的形態Y1」という。)。
(Y2)背もたれフレーム(青色の部分)に関して,前傾する基端部から屈折部を介して後傾姿勢で上方に延びる中間部(下側の2個の背もたれパッドを設けた部分)をほぼ直線に近いラインで表し,該中間部の上端から後方に向かう円弧状の湾曲部を介して,上端部(最上段の背もたれパッドを設けた部分)を斜め上方に向けて延長させ,全体として,異形のS字形をイメージするラインを表している(以下,「特徴的形態Y2」という。)。
(Y3)背もたれパッド(黄色の部分)に関して,背もたれフレームの前面に間隔をあけて横一文字状に配置され,各パッドは,周面が中央の小径部から両端近傍の大径部に向けて湾曲する概ね鼓形状を表し,前記大径部から端面に向けて次第に小径となる環状山部を表している(以下,「特徴的形態Y3」という。)。
(Y4)横骨(朱色の部分)に関して,背もたれフレームの前面に直交して横断する帯状板を表し,該帯状板の両端部を前方に屈曲させた耳部により背もたれパッドを両側から挟み,該背もたれパッドの端面に挿入された横向き円柱体を該耳部に貫通させると共に該耳部の外面に突出させている(以下,「特徴的形態Y4」という。)。

オ 本件登録意匠と第1引用意匠及び第2引用意匠の対比
(ア)特徴的形態Y1
下図に緑色で示すとおり,本件登録意匠は,座部に関して,前述の特徴的形態Y1を有しており,座部は,レッグフレームに向かう大きな円弧縁と,背もたれフレームの両側方に向かう小さな円弧縁を備えた特異な二等辺三角形状を表す点に特徴がある。
これに対して,第1引用意匠及び第2引用意匠は,前記特徴的形態Y1を備えておらず,その座部の意匠形態は,本件登録意匠の特異な二等辺三角形状として表された座部の意匠形態とは顕著に相違している。
(イ)特徴的形態Y2
下図に青色で示すとおり,本件登録意匠は,背もたれフレームに関して,前述の特徴的形態Y2を有しており,全体として,異形のS字形をイメージするラインを表す点に特徴があり,特に,ほぼ直線に近いラインを表して後傾姿勢で上方に延びる中間部の上端から,後方に向かう円弧状の湾曲部を介して,上端部を斜め上方に向けて延長させた点に特徴がある。
これに対して,第1引用意匠及び第2引用意匠は,前記特徴的形態Y2を備えておらず,その背もたれフレームは,単純な円弧を描くだけで,本件登録意匠の特異なラインを表す背もたれフレームの意匠形態とは顕著に相違している。
そして,背もたれフレームが描くラインを相違する結果,上下3個の背もたれパッドの配列ラインも顕著に相違している。
(ウ)特徴的形態Y3
下図に黄色で示すとおり,本件登録意匠は,背もたれパッドに関して,前述の特徴的形態Y3を有しており,背もたれフレームの前面に間隔をあけて横一文字状に配置され,各パッドの周面形状が中央の小径部から両端近傍の大径部に向けて湾曲することにより概ね鼓形状を表し,前記大径部から端面に向けて次第に小径となる環状山部を表している点に特徴がある。
これに対して,第1引用意匠及び第2引用意匠は,前記特徴的形態Y3を備えておらず,その背もたれパッドは,公知の形態(乙第3号証)と同様に,背もたれフレームの左右両側に分割された一対のパッドを表しているに過ぎず,各パッドの形態も,本件登録意匠の特異な鼓形状としたパッドを横一文字状に配置した意匠形態とは顕著に相違している。
(エ)特徴的形態Y4
下図に朱色で示すとおり,本件登録意匠は,各背もたれパッドに横骨を設けることにより,前述の特徴的形態Y4を有しており,横骨により,背もたれフレームの前面に直交して横断する帯状板を表し,該帯状板の両端部を前方に屈曲させた耳部により背もたれパッドを両側から挟み,該背もたれパッドの端面に挿入した横向き円柱体を該耳部に貫通させ,該耳部の外面に突出させている点に特徴がある,これに対して,第1引用意匠及び第2引用意匠は,前記特徴的形態Y4と対比できる意匠形態を備えていない。すなわち,本件登録意匠の「横骨」及び「横向き円柱体」に相当するものを設けておらず,本件登録意匠の前記特徴的形態Y4により惹起される美感を感じ取ることができない。

カ 本件登録意匠の新規性(意匠法3条1項3号)
(ア)本件登録意匠と第1引用意匠
上述のとおり,請求人が主張する「基本的構成態様」は,従来公知の形態であるから,第1引用意匠の要部であるとも,本件登録意匠の要部であるとも認めることはできない。
ところで,公知意匠を参酌するならば,本件登録意匠の最大の特徴は,前記特徴的形態Y1?Y4の点にあり,これが意匠の全体的美観を支配する要部であることが明らかであるところ,第1引用意匠には,このような本件登録意匠の特徴的形態が全く見られない。
そうすると,本件登録意匠は,第1引用意匠と明らかに非類似であり,意匠法第3条第1項第3号に該当するものではない。
(イ)本件登録意匠と第2引用意匠
上述のとおり,請求人が主張する「基本的構成態様」は,従来公知の形態であるから,第2引用意匠の要部であるとも本件登録意匠の要部であるとも認めることはできない。
ところで,公知意匠を参酌するならば,明らかに,本件登録意匠の要部は,前記特徴的形態Y1?Y4の点にあるところ,第2引用意匠には,このような本件登録意匠の特徴的形態が全く見られない。
(ウ)本件登録意匠の出願審査経過
本件登録意匠公報(請求人の甲第1号証の1を援用する)における【参考文献】の欄には,「意匠1467448」(以下,そこに開示されている意匠を「先行意匠」という。)の記載があり,本件登録意匠の出願審査に際し,特許庁審査官は,これを参照の上,本件登録意匠が先行意匠とは非類似であると判断した結果,本件登録意匠の登録出願を登録査定したことがわかる。
この先行意匠は,乙第6号証に示される通り,本件審判において請求人が引用する第1引用意匠とほとんど相違していない。

従って,本件審判における被請求人の主張と全く同様に,特許庁審査官は,本件登録意匠が先行意匠と非類似であると正しく判断し,本件登録意匠登録出願を登録査定したことが理解される。そうすると,このように正しく判断するならば,本件登録意匠が第1引用意匠と非類似であることは,極めて明らかである。

キ 本件登録意匠の創作容易性(意匠法3条2項)
上記2.(2)において述べたとおり,請求人の主張は,全く根拠のないものである。
本件登録意匠の要部は,上述した特徴的形態Y1?Y4の点にあり,これが公知意匠に全く見ることができない独創的形態であるのに対し,請求人の主張は,創作容易であることを示す証拠を欠如している。
そうすると,本件登録意匠は,公知意匠に基づいて当業者が容易に創作し得たものでないことが明らかであり,意匠法第3条第2項に該当するものではない。

(4)総括
以上のとおり,請求人の主張は,悉く失当であり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号及び同条第2項の何れの規定にも該当しないことが明らかである。
依って,答弁の趣旨のとおりの審決を確信し,答弁書の提出に及ぶ次第である。

3.証拠方法(全て写し)
・乙第1号証(株式会社ジャパネットたかたのネットショッピングのホー ムページにおけるマルチコンパクトジムの欄)
・乙第2号証(株式会社ジャパネットたかたの田道祐樹氏の確認書)
・乙第3号証(中華民国専利公報・公告番号420566:2001年1 月21日発行)
・乙第4号証(US特許公報・特許番号5573485抜粋:1996年 11月12日発行)
・乙第5号証(中華民国専利公報・証書番号M374366:2010年 2月21日発行)
・乙第6号証(意匠公報・意匠登録1467448号)

第3 当審の判断
本件審判については,請求人及び被請求人の当事者双方の上申により,口頭審理を行わず,書面により審理した。

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成25年(2013年)7月9日に出願され(意願2013年第15578号),平成26年(2014年)3月7日に意匠権の設定がなされた意匠登録第1494466号の意匠であって,意匠に係る物品を「身体鍛錬機」とし,その形態を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

(1)本件登録意匠の形態
ア.基本的構成態様
全体は,本体フレーム,レッグフレーム及び背もたれフレームの3つの棒状体から成るフレームにより骨格が構成され,レッグフレームを立ち上げて,その上方位置から本体フレームを後下方に延出し,本体フレームの略中央から斜め後方に背もたれフレームを立ち上げた構成であって,本体フレームの中央やや前方に座部を設け,背もたれフレーム及びレッグフレームに複数のローラーパッドを設けたものである。

イ.各部の具体的態様
(ア)本体フレームは,角棒状体を後方に向けて僅かに下方に傾斜する前半直線部分から,さらに下方に緩やかに湾曲する後半弧状部分の末端に,直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた、全体が倒立T字のアーチ状を呈するものである。
(イ)レッグフレームは,直線状の角棒状体を若干後方に傾斜させて立ち上げ,上方寄りの部分で本体フレームの前端につながるものとし、下端には直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた全体が倒立T字を呈するもので,またその上端部に回動自在に枢結した補助レッグフレームを該レッグフレームの前面に設けている。
(ウ)背もたれフレームは,その全体が,本体フレームの前後ほぼ中央の位置から斜め後ろ上方に伸延するもので,下端部分はほんの短く前方に立ち上がり,そこから屈曲して斜め後方にやや反るように直線的に立ち上がった後に,後方に凸弧状を描いて屈曲してから,斜め前方に首を突き出すように伸延し,全体として異形の略「S」字状を呈するものである。
(エ)座部については,前方に尖った,前後方向にやや長い角丸二等辺三角形板状のものを設けている。
(オ)背もたれフレームの上端,中央及び下方の3箇所に,両端より中央をやや細くした1本の長円柱形状のローラーパッドをフレームと直交する向きに,フレームの前面側に支持部を介して設けている。
(カ)レッグフレームの上端及び補助レッグフレームの下端に,左右一対の短円柱形状のローラーパッドを,中央に間隔を空けてフレームの両側に延出するように設けている。
(キ)本体フレームの座部の下の位置に左右対称に伸びるグリップバーを設け,また,レッグフレーム下端の水平ロット状脚座部の左右両端からエクササイズバンドが伸びている。(エクササイズバンドの端部グリップがグリップバーに掛けて表されている。)

2.請求人が主張する無効の理由及び引用意匠
請求人は,本件登録意匠は、以下の2つの理由により,意匠法第48条第1項第1号に該当するから、その意匠登録は無効にすべきであると主張する。
(1)無効理由1:意匠法第3条第1項第3号について
本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された第1引用意匠又は甲第3号証に記載された第2引用意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当するから,その意匠登録を無効とすべきである。
(以下、第1引用意匠に基づく上記無効理由を「無効理由1-1」とし、第2引用意匠に基づく上記無効理由を「無効理由1-2」とする。)

(2)無効理由2:意匠法第3条第2項について
本件登録意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合,具体的には第1引用意匠及び第2引用意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当するから,その意匠登録を無効とすべきである。

(3)引用意匠
上記無効理由の根拠として請求人が引用した意匠は以下の2つの意匠であって,いずれも,本件登録意匠に係る出願前,平成24年(2012年)6月6日に中国国家知識産権局が発行した中華人民共和国意匠公報CN301949061Sに記載された「フィットネス機器」の意匠(別紙第2 第1引用意匠(甲第2号証)参照),及び,平成25年(2013年)2月27日に中国国家知識産権局が発行した中華人民共和国意匠公報CN302333989Sに記載された「バネ式仰臥台」の意匠(別紙第3 第2引用意匠(甲第3号証)参照)であって,その形態はそれぞれ同公報に記載されたとおりとしたものである。

[第1引用意匠]
中華人民共和国意匠公報CN301949061Sに記載された「フィットネス機器」の意匠の形態は以下のとおり。
ア.基本的構成態様
全体は,本体フレーム,レッグフレーム及び背もたれフレームの3つの棒状体から成るフレームにより骨格が構成され,レッグフレームを立ち上げて,その上方位置から本体フレームを後下方に延出し,本体フレームの略中央から斜め後方に背もたれフレームを立ち上げた構成であって,本体フレームの中央やや前方に座部を設け,背もたれフレーム及びレッグフレームに複数のローラーパッドを設けたものである。
イ.各部の具体的態様
(ア)本体フレームは,角棒状体を後方に向けて僅かに下方に傾斜する前半直線部分から,さらに下方に緩やかに湾曲する後半弧状部分の末端に,直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた、全体が倒立T字のアーチ状を呈するものである。
角棒状体は、前方の短い部分を1本の太い角棒状体で、それより後ろの大半の部分を2本の平行な細い角棒状体で構成したものとしている。
(イ)レッグフレームは,直線状の角棒状を若干後方に傾斜させて立ち上げ,そのほぼ上端部分で本体フレームの前端につながるものとし、下端には直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた全体が倒立T字を呈するものである。
(ウ)背もたれフレームは,本体フレームの前後ほぼ中央の位置から斜め後ろ上方に伸延するもので,下端から上端まで斜め後方に一つの大きな弧状に反るように立ち上がるものである。
(エ)座部については,前方が緩やかな凸弧状の略横長長方形板状で、その前方弧状の上辺部分に緩やかな面取りを施しているものを設けている。
(オ)背もたれフレームの上端,上方,中央及び下方の4箇所にフレームと直交する向きに、円柱形状のローラーパッドを配設しており,上端には,中央が僅かに弧状に細い短円柱形状のローラーパッド1本を両側から挟持する支持部を介して設け,他の3箇所には,左右一対の内側が僅かに縮径するテーパの付いた短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。(また,下方のローラーパッドの軸がローラーパッドの外側に左右対称に突出して伸びてグリップバーを兼ねたものとなっている。(後掲(キ)参照))
(カ)レッグフレームの上端及び中央やや下方に,左右一対の中央が僅かに弧状に細い短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。
(キ)背もたれフレームの下方に取り付けられたローラーパッドの軸がローラーパッドの外側に左右対称に突出して伸びてグリップバーを兼ねたものとなっている。

[第2引用意匠]
中華人民共和国意匠公報CN302333989Sに記載された「バネ式仰臥台」の意匠の形態は以下のとおり。
ア.基本的構成態様
全体は,本体フレーム,レッグフレーム及び背もたれフレームの3つの棒状体から成るフレームにより骨格が構成され,レッグフレームを立ち上げて,その上方位置から本体フレームを後下方に延出し,本体フレームの略中央から斜め後方に背もたれフレームを立ち上げた構成であって,本体フレームの中央やや前方に座部を設け,背もたれフレーム及びレッグフレームに複数のローラーパッドを設けたものである。
イ.各部の具体的態様
(ア)本体フレームは,角棒状体を後方に向けて僅かに下方に傾斜する前半直線部分から,さらに下方に緩やかに湾曲する後半弧状部分の末端に,直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた、全体が倒立T字のアーチ状を呈するものである。
(イ)レッグフレームは,直線状の角棒状体を若干後方に傾斜させて立ち上げ,その上方寄りの部分で本体フレームの前端につながるものとし、下端には直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた全体が倒立T字を呈するもので,またその上端部に回動自在に枢結した補助レッグフレームを該レッグフレームの前面に設けている。(なお、補助レッグフレームは枢結した上端部で折れ曲がりレッグフレーム本体に重なるように畳まれているものであり、上方に回動して開くものと推認される。)
(ウ)背もたれフレームは,背もたれフレームは,本体フレームの前後ほぼ中央の位置から斜め後ろ上方に伸延するもので,下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲して、上端まで斜め後方に一つの大きな弧状に反るように立ち上がるものである。
(エ)座部については,前方が幅広の緩やかな凸弧状の略等脚台形状板状のものを設けている。
(オ)背もたれフレームの上端,中央及び下方の3箇所にフレームと直交する向きに,左右一対の内側が縮径するテーパの付いた短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて,支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。
(カ)レッグフレームの上端及び補助レッグフレームの下端に,左右一対の短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。
(キ)本体フレームの座部の下の位置に左右対称に伸びるグリップバーを設け,また,レッグフレーム下端の水平ロット状脚座部の左右両端からにエクササイズバンドが伸びている。(エクササイズバンドの端部グリップがグリップバーに掛けて表されている。)

3.無効理由該当の当否について
(1)無効理由1:意匠法第3条第1項第3号について
(本件登録意匠と各引用意匠の類否)
ア 無効理由1-1:第1引用意匠に基づく意匠法第3条第1項第3号について
(ア)本件登録意匠と第1引用意匠との対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「身体鍛錬機」であり,第1引用意匠の意匠に係る物品は,「フィットネス機器」であって,表記は異なるものの,共に腹筋や背筋等を鍛えるための機器であるから,両意匠の意匠に係る物品は共通する。

また,本件登録意匠と第1引用意匠の形態を対比すると,両意匠の形態には,主として以下のとおりの共通点及び相違点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様
(i)全体は,本体フレーム,レッグフレーム及び背もたれフレームの3つの棒状体から成るフレームにより骨格が構成され,レッグフレームを立ち上げて,その上方位置から本体フレームを後下方に延出し,本体フレームの略中央から斜め後方に背もたれフレームを立ち上げた構成であって,本体フレームの中央やや前方に座部を設け,背もたれフレーム及びレッグフレームに複数のローラーパッドを設けたものである。
具体的態様
(i)本体フレームは,角棒状体を後方に向けて僅かに下方に傾斜する前半直線部分から,さらに下方に緩やかに湾曲する後半弧状部分の末端に,直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた、全体が倒立T字のアーチ状を呈するものである。
(ii)レッグフレームは,直線状の角棒状体を若干後方に傾斜させて立ち上げ,その上方寄りの部分で本体フレームの前端につながるものとし、下端には直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた全体が倒立T字を呈するものである。
(iii)背もたれフレームは,本体フレームの前後ほぼ中央の位置から斜め後上方に反るように立ち上がったものである。
(iv)座部については,本体フレームの中央やや前方位置に板状のものを設けている。
(v)背もたれフレーム上端,中央及び下方の箇所に,円柱形状のローラーパッドをフレームと直交する向きに設けている。
(vi)レッグフレームの上端及び下方に,左右一対の短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。

[相違点]
具体的態様
(i)本体フレームについては,本件登録意匠は,1本の角棒状で構成しているのに対して,第1引用意匠は,前方の短い部分を1本の太い角棒状体で、それより後ろの大半の部分を2本の平行な細い角棒状体で構成したものとしている。
(ii)レッグフレームについては,本件登録意匠は,その上端部に回動自在に枢結した補助レッグフレームをレッグフレームの前面に設けているのに対して,第1引用意匠には補助レッグフレームがない。
(iii)背もたれフレームについては,本件登録意匠は,下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲して、斜め後方に僅かに反るように直線的に立ち上がり,上方約1/3部分で後方に凸弧状を描いて屈曲してから斜め前方に首を突き出すように伸延し,全体として異形の略「S」字状を呈するものであるのに対して,第1引用意匠は,下端から上端まで斜め後方に一つの大きな弧状に反るように立ち上がるものである。
(iv)座部については,その形状が,本件登録意匠は,前方に尖った,前後方向にやや長い角丸二等辺三角形板状のものであるのに対して,第1引用意匠は,前方が緩やかな凸弧状の略横長長方形板状で、その前方弧状の上辺部分に緩やかな面取りを施しているものである。
(v)背もたれフレームのローラーパッドについては,本件登録意匠は,その取付位置と数が上端,中央及び下方の3箇所であり,ローラーパッドの形状と取り付け方が,両端より中央をやや細くした長円柱形状のローラーパッドを,フレームの前面側に両側から挟持する支持部を介して設けているのに対して,第1引用意匠は,その取付位置と数が上端,上方,中央及び下方の4箇所であり,ローラーパッドの形状と取り付け方が,フレームの中央の上端のものは,中央が僅かに弧状に細い短円柱形状のローラーパッド1本を両側から挟持する支持部を介して設け,他の3箇所には,他の3箇所には,左右一対の内側が僅かに縮径するテーパの付いた短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。
(vi)レッグフレームのローラーパッドについては,本件登録意匠は,その形状を短円柱形状とし、下方のものを補助レッグフレームの下端に設けているのに対して,第1引用意匠は,その形状を中央が僅かに弧状に細い短円柱形状とし、レッグフレームの下方に設けている。
(vii)本件登録意匠は,本体フレームの座部の下の位置に左右対称に伸びるグリップバーを設け,また,レッグフレーム下端の水平ロット状脚座部の左右両端からエクササイズバンドが伸びているのに対して,第1引用意匠は,背もたれフレームの下方に取り付けられたローラーパッドの軸がローラーパッドの外側に左右対称に突出して伸びてグリップバーを兼ねたものとなっており、エクササイズバンドは設けられていない。

(イ)類否判断
以上の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,総合して,両意匠の意匠全体としての類否を判断する。
まず,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態の類否に係る評価については,以下のとおりである。

[共通点の評価]
前記認定した両意匠の共通点のうち,基本的構成態様(i)のフレーム全体の概略構成及びローラーパッド,座部の配置等については,両意匠のみに共通するものではなく,乙第6号証にも見られるものであり,また本体フレームとレッグフレームから成る構成に薄路に反る背もたれ部をもった構成なども従前から見られるものであって,この種物品における1つの骨格の構成ともいえるものであるから,このような概括的な共通点をもって,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということはできない。
そして,各部の具体的な態様共通点(i)(ii)(iii)の各フレームの構成については,上記の基本的構成態様と同様に,この種物品分野において,既に見られる態様であって,両意匠のみの特徴とはいえず,具体的態様の共通点(iii)の背もたれフレームが後方に反り返る態様は,やや概括的な共通点であって,他の意匠においても共通するものであり,共通点(ii)もレッグフレームの基本部分のみの共通点であるから,これらの共通点が両意匠の類否判断に与える影響は軽微なものにとどまるものである。
また,共通点(v)及び共通点(vi)のローラーパッドについても,この種物品において,トレーニングの動きに合わせてフレームの適宜箇所にローラーパッドを設けることは,この種物品分野において,ごく普通に行われることであり,特段特徴のあるものとはいえないから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると言わざるを得ない。
なお,共通点(iv)の座部の位置のみの共通性については,類否判断に影響を及ぼすものではない。
そして,これら共通点は,全体としてみても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

[相違点の評価]
一方,両意匠の相違点について見ると,相違点(iii)の背もたれフレームの湾曲形状の相違については,本件登録意匠が,フレームの下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲して、斜め後方に僅かに反るように直線的に立ち上がり,上方約1/3部分で後方に凸弧状を描いて屈曲してから斜め前方に首を突き出すように伸延し,全体として異形の略「S」字状を呈するものとした点は,第1引用意匠の後方に反るだけの他の意匠にも見られるごく普通の態様とは大きく異なっており,また,この部位は,腹筋のトレーニングにおいて可動する際に、フレームの上方部分を前方にしたことにより上端のローラーパッドが前方に位置することによって、背もたれ部が使用者の背中を押し返す反発力の伝わり方に違いも生じることになるので、需要者の注意を大きく惹く部分であるから,この相違点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといえる。
また,相違点(v)の背もたれフレームの背もたれローラーパッドの態様については,本件登録意匠が,1本の両端より中央をやや細くした長円柱形状のローラーパッドを,フレームの前面側に両側から挟持する支持部を介して設けた点は,第1引用意匠の左右一対の内側が僅かに縮径するテーパの付いた短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている態様とは大きく異なっており,当該部位の態様は,上記の相違点(iii)の部位とともに,需要者の注意を惹きやすい部分でもあり,また,第1引用意匠のこの態様は,この種物品において従来からよく見られる背もたれローラーパッドの左右一対の構成態様のものであるから,この相違点(v)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きなものであるといえる。
一方,相違点(ii)(vi)のレッグフレームの構成とレッグパッドの態様については,補助レッグフレームの有無に起因するものであるが,補助レッグフレームのあるものも,ないものも共に従前から見られる態様であり、ローラーパッドの形状の違いも僅かであることから,この相違点が両意匠の影響に及ぼす影響は一定程度に留まる。
相違点(iv)の座部の形状については,角丸二等辺三角形状と略横長長方形状という,共に比較的普通の単純な形状ではあるが,明らかに異なる形状であり、また座部は座式の鍛錬具においては身体を支える重要な部位であって,腿裏に接する面積、角度が異なることによって使用感が異なるから、使用者の注意を惹く部位であり、また物品の形態の中央に位置し,フレーム構成の中においてパッドと共に面を構成するものであって需要者の目に付きやすい部分であるから,両意匠の類否判断において一定程度の影響を及ぼすといえる。

したがって,これらの各相違点に係る態様のうち(iii)(v)が大きな影響を及ぼす上に,そのほかの相違点も相まって生じる視覚的効果は,意匠全体として見た場合,上記共通点を凌ぎ,需要者に別異の美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠と,第1引用意匠とは,形態において類似しないものである。

(ウ)小括
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,概括的に見た場合の共通点があり,また各部の具体的態様において共通する点はあるものの,具体的形態に係る相違点において,大きく印象を異にするものがあり,またそれら相違点が相まって生じる視覚効果が共通点のそれを凌駕し,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼして,看者に両意匠を意匠全体として別異の意匠と印象付けているというべきであるから,本件登録意匠は,第1引用意匠に類似するということはできない。

イ 無効理由1-2:引用意匠2に基づく意匠法第3条第1項第3号について
(ア)本件登録意匠と引用意匠2の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「身体鍛錬機」であり,第2引用意匠の意匠に係る物品は,「バネ式仰臥台」であり,表記は異なるものの,共に腹筋や背筋等を鍛える器具であるから,両意匠の意匠に係る物品は一致する。

また,本件登録意匠と第2引用意匠の形態を対比すると,両意匠の形態には,主として以下のとおりの共通点及び相違点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様
(i)全体は,本体フレーム,レッグフレーム及び背もたれフレームの3つの棒状体から成るフレームにより骨格が構成され,レッグフレームを立ち上げて,その上方位置から本体フレームを後下方に延出し,本体フレームの略中央から斜め後方に背もたれフレームを立ち上げた構成であって,本体フレームの中央やや前方に座部を設け,背もたれフレーム及びレッグフレームに複数のローラーパッドを設けている。
具体的態様
(i)本体フレームは,角棒状体を後方に向けて僅かに下方に傾斜する前半直線部分から,さらに下方に緩やかに湾曲する後半弧状部分の末端に,直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた、全体が倒立T字のアーチ状を呈するものである。
(ii)レッグフレームは,直線状の角棒状体を若干後方に傾斜させて立ち上げ,その上方寄りの部分で本体フレームの前端につながるものとし、下端には直交する丸棒状端部(使用時に床面に接する水平ロット状脚座部)を設けた全体が倒立T字を呈するもので,またその上端部に回動自在に枢結した補助レッグフレームを該レッグフレームの前面に設けている。
補助レッグフレームについては、図面上は異なる態様が表されているが、共に枢結した上端部で折れ曲がりレッグフレーム本体に重なるように畳まれ、また上方に回動して開くものであるので共通している。
(iii)背もたれフレームは,本体フレームのほぼ中央の位置から,ほんのく前方に立ち上がった後屈曲して,斜め後方に反るように立ち上がったものである。
(iv)座部については,本体フレームの中央やや前方位置に板状のものを設けている。
(v)背もたれフレーム上端,中央及び下方の3箇所に,円柱形状のローラーパッドをフレームと直交する向きに配設している。
(vi)レッグフレームの上端及び補助レッグフレームの下端に,左右一対の短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。
(Vii)本体フレームの座部の下の位置に左右対称に伸びるグリップバーを設け,また,レッグフレーム下端の水平ロット状脚座部の左右両端からにエクササイズバンドが伸びている。(エクササイズバンドの端部グリップがグリップバーに掛けて表されている。)

[相違点]
具体的態様
(i)背もたれフレームについては,本件登録意匠は,下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲して、斜め後方に僅かに反るように直線的に立ち上がり,上方約1/3部分で後方に凸弧状を描いて屈曲してから斜め前方に首を突き出すように伸延し,全体として異形の略「S」字状を呈するものであるのに対して,第2引用意匠は,下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲して、上端まで斜め後方に一つの大きな弧状に反るように立ち上がるものである。
(ii)座部については,その形状が,本件登録意匠は,前方に尖った,前後方向にやや長い角丸二等辺三角形板状のものあるのに対して,第2引用意匠は,前方が幅広の緩やかな凸弧状の略等脚台形状板状のものである。
(iii)背もたれフレームのローラーパッドについては,そのローラーパッドの形状と取り付け方が,本件登録意匠は,両端より中央をやや細くした1本の長円柱形状のローラーパッドを,フレームの前面側に両側から挟持する支持部を介して設けているのに対して,第2引用意匠は,左右一対の内側が縮径するテーパの付いた短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて,支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている。

(イ)類否判断
以上の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,総合して,両意匠の意匠全体としての類否を判断する。
まず,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態の類否に係る評価については,以下のとおりである。

[共通点の評価]
前記認定した両意匠の共通点のうち,基本的構成態様(i)のフレーム全体の概略構成及びローラーパッド,座部の配置等については,両意匠のみに共通するものではなく,乙第6号証にも見られるものであり,また本体フレームとレッグフレームから成る構成に薄路に反る背もたれ部をもった構成なども従前から見られるものであって,この種物品における1つの骨格の構成ともいえるものであるから,このような概括的な共通点をもって,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということはできない。
そして,各部の具体的な態様共通点(i)(ii)(iii)の各フレームの構成については,上記の基本的構成態様と同様に,この種物品分野において,既に見られる態様であって,両意匠のみの特徴とはいえず,具体的態様の共通点(iii)の背もたれフレームが後方に反り返る態様は,やや概括的な共通点であって,他の意匠においても共通するものであるから,これらの共通点が両意匠の類否判断に与える影響は軽微なものにとどまるものである。
また,共通点(v)及び共通点(vi)についても,この種物品において,ローラーパッドをトレーニングの動きに合わせてフレームの適宜箇所に設けるものであって,両意匠に見られる背もたれ部,脚部を掛ける部位に設けることは,ごく普通の態様であり,また(vi)のレッグパッドの態様を左右一対の内側が小径のテーパの付いた短い円柱状のローラーパッドを,中央に間隔を空けてフレームの両側に延出するように設ける態様も,両意匠の他にも普通に見られる態様であり,いずれも特段特徴のないものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると言わざるを得ない。
なお,共通点(iv)の座部の位置のみの共通性については,類否判断に影響を及ぼすものではない。
また,共通点(vii)については,付加的,補助的な部分の共通点であるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
そして,これら共通点は,全体としてみても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

[相違点の評価]
一方,両意匠の相違点について見ると,相違点(i)の背もたれフレームの湾曲形状の相違については,本件登録意匠が,フレームの下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲して、斜め後方に僅かに反るように直線的に立ち上がり,上方約1/3部分で後方に凸弧状を描いて屈曲してから斜め前方に首を突き出すように伸延し,全体として異形の略「S」字状を呈するものとした点は,第2引用意匠の、その下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲するところまでは局部的に同じではあっても、その先の上端まで斜め後方に一つの大きな弧状に反るだけの他の意匠にも見られる普通の態様とは大きく異なっており,また,この部位は,腹筋のトレーニングにおいて可動する際に、フレームの上方部分を前方にしたことにより上端のローラーパッドが前方に位置することによって、背もたれ部が使用者の背中を押し返す反発力の伝わり方に違いも生じることになるので、需要者の注意を強く惹く部分であるから,この相違点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものといえる。
また,相違点(iii)の背もたれフレームの背もたれロールパッドの態様については,本件登録意匠が,1本の両端より中央をやや細くした長円柱形状のローラーパッドを,フレームの前面側に両側から挟持する支持部を介して設けた点は,第1引用意匠の左右一対の内側が縮径するテーパの付いた短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けている態様とは大きく異なっており,当該部位の態様は,上記の相違点(i)の部位とともに,需要者の注意を惹きやすい部分でもあり,また,第2引用意匠のこの態様は,この種物品において従来からよく見られる背もたれローラーパッドの左右一対の構成態様のものであるから,この相違点(iii)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きなものであるといえる。
また,相違点(ii)の座部の形状については,角丸二等辺三角形状と略等脚台形状という共に比較的普通の単純な形状ではあるが,明らかに異なる形状であり、また座部は座式の鍛錬具においては身体を支える重要な部位であって,腿裏に接する面積、角度が異なり使用者の注意を惹く部位であり、物品の形態の中央に位置し,フレーム構成の中においてパッドと共に面を構成するものであって需要者の目に付きやすい部分であるから,両意匠の類否判断において一定程度の影響を及ぼすといえる。

したがって,これらの各相違点に係る態様のうち(i)(iii)が大きな影響を及ぼす上に,(ii)も相まって生じる視覚的効果は,意匠全体として見た場合,上記共通点を凌ぎ,需要者に別異の美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠と,第2引用意匠とは,形態において類似しないものである。

(ウ)小括
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,概括的に見た場合の共通点があり,また各部の具体的態様において共通する点はあるものの,具体的形態に係る相違点において,大きく印象を異にするものがあり,またそれら相違点が相まって生じる視覚効果が共通点のそれを凌駕し,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼして,看者に両意匠を意匠全体として別異の意匠と印象付けているというべきであるから,本件登録意匠は,第2引用意匠に類似するということはできない。

(2)無効理由2:意匠法第3条第2項について
本件登録意匠の形態は,上記1.(1)において認定したとおりであり,無効理由2(意匠法3条2項:創作容易)の根拠とする第1引用意匠及び第2引用意匠の形態は,1.(3)において認定したとおりである。
そこで,第1引用意匠及び第2引用意匠の全体の基本構成態様及び各部の構成態様に基づいて,本件登録意匠が容易に創作できたか否か判断するにあたり,まず本件登録意匠に存在し,両引用意匠のいずれにも存在しない態様を確認すると,上記(1)無効理由1(無効理由1-1及び無効理由1-2)の検討において,両引用意匠との相違点として掲げたもののうち,
ア 背もたれフレームの形状
イ 背もたれフレームの背もたれパッド部の態様(パッドの形状,パッド取付部の形状と取り付け方)
ウ 座部の形状
が,両引用意匠に存在せず,本件登録意匠のみに存在する態様であるので,以下これらについて検討する。

ア 背もたれフレームの形状
本件登録意匠の背もたれフレームは,下端部分がほんの短く前方に立ち上がった後屈曲して、斜め後方に僅かに反るように直線的に立ち上がり,上方約1/3部分で後方に凸弧状を描いて屈曲してから斜め前方に首を突き出すように伸延し,全体として異形の略「S」字状を呈するものであって,両引用意匠のみならず,その他の意匠においても見られない態様のものである。
そして,本件登録意匠のこの態様は,請求人が主張するような,背もたれフレームの上端部をほんの僅かに曲げた程度のものではなく,また,請求人がその主張において示した普通の椅子における背もたれ部分態様は,後傾する背もたれの上端を垂直状にほんの僅かに曲げた程度のものであって,本件登録意匠の、後方に凸弧状を描いて屈曲してから斜め前方に首を突き出すように前方に大きく曲げた本件登録意匠の態様とは大きく異なるものであるから,その例示をもって容易に創作することができたとはいえない。

イ 背もたれフレームの背もたれパッド部(パッドの形状,パッド取付部の形状と取り付け方)の態様
本件登録意匠の背もたれフレームのローラーパッドに近しい態様のものとしては,第1引用意匠において,その背もたれフレームの上端に設けられた中央が僅かに弧状に細い短円柱形状のローラーパッドを両側から挟持する支持部を介して設けたものが見られるが,それは頭部のみを受けるためのものであって,本件登録意匠のように背もたれ部大きなものを複数設けたものではなく,その形状及びフレーム部との相対的な大きさ等にも違いがあること,また本件登録意匠は,レッグパッドを従来か見られる左右一対の短円柱形状のローラーパッドを中央に間隔を空けて支持部を介してフレームの両側に延出するように設けたものとしつつ,この背もたれ部のパッドのみを長い1本のローラーのものとして,全体として変化を付けていることも考え合わせれば,容易に創作することができたとはいえない。
本件登録意匠のものと同形状の,左右両端部を大径の帯状部分とし,その内側に2本のラインを表し、中央を緩やかな凹弧状に縮径した長い円柱形状の1本のローラーパッドを両側から挟持する大きな支持部を介して設けている背もたれパッドの態様は,甲号証及び乙号証のいずれに表された意匠にもない態様のものである。

ウ 座部の形状
本件登録意匠の座部の形状は,形状としても単純な幾何学形状である「正三角形」でもなく,前方の頂角を大きな角丸とし,左右両側の角部をそれよりやや小さな角丸とする「二等辺三角形」であって,「略三角形状」であると大雑把に認定して,一概に容易に創作することができたものとすることは妥当ではない。
また,両当事者によって示された同種物品である甲号証及び乙号証に表された意匠のいずれにも略三角形状のものさえなく,前述のとおり、この種の座式の身体鍛錬機械・器具においては,座部も身体を支える重要な部位であることから,その形状,大きさについても相応に設計がなされるところであって,何らの証拠もなく,容易に創作することができたと判断することはできない。

以上のとおりであるから,本件登録意匠については,その全体の概括的な基本的な構成態様及び一部の部分の具体的構成態様において,第1引用意匠及び第2引用意匠等本件登録意匠の出願前に従来から見られる意匠の態様と同様のものがあるとしても,本件登録意匠のみに見られる上記の各部の具体的態様を含む本件登録意匠については,この種物品分野における通常の知識を有する者が,本件登録意匠の出願前に公然知られた第1引用意匠及び第2引用意匠及びその各部の態様に基づいて容易に創作することができたものとはいえない。

4.当事者の主張について
(1)請求人は,無効理由2について,
「本件登録意匠と引用意匠には,上記(1)で述べた通り,本件登録意匠の具体的な構成E(背もたれフレームの上方の短い部分がレッグフレーム方向に歪曲する態様)及びI(シートが略三角形状である態様)は,引用意匠のいずれにも見られない構成である。
しかしながら,このような身体鍛錬機及びフィットネス機器等の意匠において,細部の具体的な構成を変更した意匠を創作することは,公知の意匠の構成を置換,寄せ集め等したにすぎず,引用意匠の形態から容易に意匠の創作ができる範躊の創作行為に過ぎない。
また,背もたれフレームの上方の短い部分の形態が,引用意匠においては本体フレーム全体の緩やかな円弧の一部を形成するのに対し,本件登録意匠においてはレッグフレーム方向に歪曲しているが,かかる本件登録意匠の形態は,背もたれフレームの上方の部位を若干曲げた程度の改変であり,また,本件登録意匠の出願前に,例えば,折りたたみ椅子の意匠において,背もたれフレームの上方の短い部分が歪曲した形態が公知となっており(甲第5号証),本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば,容易に創作できる範躊の創作である。
特に,本件登録意匠におけるシートが略三角形状に形成されることについては,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有するものであれば,引用意匠の略長方形状のシートを略三角形状のシートに置き換えたにすぎず,きわめて容易に意匠の創作をすることができたものである。
即ち,本件登録意匠は公然知られた引用意匠の形態を,そのまま取り込んで意匠の創作を完成することを回避し,引用意匠が有する細部の構成をありふれた手法により改変し意匠を完成したものである。(引用冒頭部分の記載、「構成E」及び「I」それぞれの後ろの()括弧書き部分は当審が補足のために追記した。)」
と主張する。
しかしながら,第1引用意匠及び第2引用意匠のいずれにもない,本件登録意匠にのみ存在する態様について,当該部分の態様とすること,その態様を含めて本件登録意匠全体について,具体的に証拠をもって,容易に創作することができたと説明がなされていない。
加えて,請求人が認識する両引用意匠にない,本件登録意匠のみに存在する相違点として,背もたれフレームの上方の短い部分がレッグフレーム方向に歪曲する態様(請求人が「構成E」という態様。)及びシートが略三角形状である態様(請求人が「構成I」という態様。)のみが掲げられているが,上記「(2)無効理由2:意匠法第3条第2項について」 において述べたとおり,その他に,背もたれフレームの背もたれパッドの態様が欠落しており,その点についての創作容易性が立証されておらず。その点でも請求人の主張は不十分であって,採用することはできない。
また,「本件登録意匠の構成Fはレッグフレームの上端から補助レッグフレームが逆V字状に開いた態様であるのに対し,第2引用意匠の構成f’は補助レッグフレームが閉じた状態の態様であるが,フレームの上端から補助レッグフレームが屈折しながら伸延する構成は基本的に同じであり,開閉式の補助レッグフレームを開いた状態で出願したか,閉じた状態で出願したかの相違であり,本件登録意匠の構成Fは何ら意匠創作が創出された構成とはいえない。」としているが,この点は,単に図面に表されているのが補助レッグフレームを閉じた状態か折り畳んだ状態かの違いであって,意匠そのもの相違ではないと当審においても認識しているものであって,その点を採りあげて言及している点でも当を得ない主張である。

5.むすび
以上検討したとおり,本件登録意匠は,引用意匠1及び引用意匠2のいずれの意匠とも類似するものではないと認められるため,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するものとして,同条第1項柱書の規定に違反して登録されたということはできず,請求人が主張する無効理由1は成り立たず,また,本件登録意匠は,引用意匠1及び引用意匠2に基づいて本件登録意匠の属する分野の通常の知識を有する者が容易に創作することができたものと認められないため,意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当するものとはいえず,請求人が主張する無効理由2は成り立たないから,同法第48条第1項第1号の規定により,本件登録意匠の意匠登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2016-06-09 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-28 
出願番号 意願2013-15578(D2013-15578) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (E3)
D 1 113・ 121- Y (E3)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 伊藤 宏幸平田 哲也 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 久保田 大輔
本多 誠一
登録日 2014-03-07 
登録番号 意匠登録第1494466号(D1494466) 
代理人 中村 知公 
代理人 中野 収二 
代理人 前田 大輔 
代理人 伊藤 孝太郎 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社   サービスに関しての問い合わせ