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審決分類 審判    L3
審判    L3
審判    L3
管理番号 1318123 
審判番号 無効2015-880003
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-02-19 
確定日 2016-08-08 
意匠に係る物品 手摺用被覆材 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1506020号「手摺用被覆材」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,平成27年2月19日付けの審判請求において,「登録第1506020号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証の書証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
(1)第一の無効理由
本件登録意匠は,甲第1号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(2)第二の無効理由
本件登録意匠は,甲第2号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(3)第三の無効理由
本件登録意匠は,甲第2号証及び甲第5号証に基づいて容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠登録第1506020号の意匠公報に記載のとおり,意匠に係る物品を「手摺用被覆材」とし,その形態は,基本的構成態様が,全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状としたものである。そして,各部の具体的な構成として,被覆材の挟持口側端部には,長手方向に渡って空洞部が形成されると共に,挟持口側端部の内周面には,内方に向けて突出した角片部が長手方向に渡って形成されており,さらに,挟持口側端部の先端から角片部にかけての内周側壁部が肉薄に形成された肉薄部となっている。また,被覆材の内周における挟持口の反対側の位置には,凸状に突出した小突出片部が長手方向に渡って形成されている。
(2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
i)甲第1号証
甲第1号証の意匠は,本件登録意匠の出願前,意匠に係る物品を「建物用手すりの笠木材」として平成22年10月12日に意匠登録出願がなされ,本件登録意匠の出願後,平成24年12月10日に発行された意匠公報「意匠登録第1457151号」に掲載されたものである。甲第1号証の意匠の形態は,基本的構成態様が,全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状としたものである。そして,各部の具体的な構成として,笠木材の挟持口側端部には,長手方向に渡って空洞部が形成されると共に,挟持口側端部の内周面には,内方に向けて突出した角片部が形成されており,挟持口側端部の先端から角片部にかけての内周側壁部が肉薄に形成された肉薄部となっている。また,笠木材の内周における挟持口の反対側の位置には,直角状に突出した小突出片部が長手方向に渡って形成されている。
ii)甲第2号証
甲第2号証の意匠は,本件登録意匠の出願前,平成23年4月14日に発行された登録実用新案公報「実用新案登録第3167262号」の図面(図2?図5)に記載された「手すりの被覆材」の意匠であり,その形態は,基本的構成態様が,全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状としたものである。そして,各部の具体的な構成として,被覆材の挟持口側端部には,長手方向に渡って空洞部が形成されると共に,挟持口側端部の内周面には,内方に向けて突出した角片部が形成されており,挟持口側端部の先端から角片部にかけての内周側壁部が肉薄に形成された肉薄部となっている。また,被覆材の内周における挟持口の反対側の位置には,直角状に突出した小突出片部が長手方向に渡って形成されている。
(3)先行周辺意匠の摘示
i)甲第3号証,甲第4号証
本件登録意匠と同様に小突出片部を凸状としたものは,本件登録意匠の出願前,平成23年6月13日に発行された意匠公報「意匠登録第1415766号」に掲載されており(甲第3号証),本件登録意匠の出願前から公然知られている。
また,甲第1号証及び甲第2号証の意匠と同様に小突出片部を直角状としたものは,本件登録意匠の出願前,平成23年6月13日に発行された意匠公報「意匠登録第1416504号」に掲載されており(甲第4号証),本件登録意匠の出願前から公然知られている。
甲第3号証 意匠登録第1415766号(掲載公報発行:平成23年6月13日)※本意匠
甲第4号証 意匠登録第1416504号(掲載公報発行:平成23年6月13日)※関連意匠
甲第4号証の意匠登録第1416504号は,甲第3号証の意匠登録第1415766号を本意匠とする関連意匠である。甲第3号証の本意匠と甲第4号証の関連意匠とは,小突出片部が凸状か直角状かで異なる以外は,共通の形態である。したがって,基本的構成態様に対して小突出片部が凸状か直角状かの差異は,本件登録意匠と甲第1号証の意匠との類否判断,及び本件登録意匠と甲第2号証の意匠との類否判断にほとんど影響を与えない。
ii)甲第5号証
甲第5号証の意匠は,本件登録意匠の出願前,平成19年9月20日に発行された公開特許公報「特開2007-239411号」の図面に記載された「手すりの被覆材」の意匠であり,図8?図12に示されるように,その形態は,基本的構成態様が,全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状としたものである。そして,各部の具体的な構成として,被覆材の挟持口側端部の内周面には,内方に向けて突出した角片部が形成されており,挟持口側端部の先端から角片部にかけての内周面が平坦に形成されている。
なお,図2?図7には,被覆材の内周面における挟持口から離れた位置に凸状に突設された小突出片部が記載されている。また,段落「0037」には,「尚,本実施形態においては,各切り離し端部25a,25bを,前記第1実施形態の場合のように軟質部23a,23bをもって形成することは行われておらず,また,被覆材5は,一種類の合成樹脂(第1実施形態における基層部21又は外層部22を形成する材料)をもって形成されている。」と記載されている。
以上のことから,甲第5号証の意匠と本件登録意匠とは,基本的構成態様に対する小突出片部の位置や空洞部の有無で相違するものの,意匠全体の輪郭が共通する。
したがって,本件登録意匠の意匠全体の輪郭は,本件登録意匠の出願前に発行された公開特許公報「特開2007-239411号に掲載されており,本件登録意匠の出願前から公然知られている。
(4)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比
本件登録意匠は,意匠に係る物品が「手摺用被覆材」であり,甲第1号証の意匠は,意匠に係る物品が「建物用手すりの笠木材」であり,両意匠の「意匠に係る物品」は実質的に同一である。
次に,本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは,以下のような共通点・差異点が認められる。
I)「共通点」
a.全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状とした基本的構成態様
b.挟持口側端部に形成された空洞部
c.挟持口側端部の内周に突出して設けられた角片部状
d.挟持口側端部の内周側壁部に形成された肉薄部
e.角片部と対向する小突出片部
II)「差異点」
a.共通点d.の肉薄部の態様→先行意匠:弧状,本件登録意匠:平面
b.共通点e.の小突出片部の態様→先行意匠:直角状,本件登録意匠:凸状
(5)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との類否
差異点b.について,上記「(3)先行周辺意匠の摘示」で述べたように,基本的構成態様に対して小突出片部が凸状か直角状かの差異は,本件登録意匠と甲第1号証の意匠との類否判断にほとんど影響を与えない。
差異点a.について,甲第1号証の意匠における空洞部及び肉薄部を有する挟持口側端部の形態は,甲第2号証に示されるように,階段の折返しや廊下の曲がり角などに応じて手摺用被覆材を曲げ加工する際に挟持口側端部の波打ちや拡開を防止すべく創作された独創的なデザインである。また,建物用手すりの笠木材は,合成樹脂等の押出成型により製造されることから,空洞部や肉薄部の形状にバラツキが生じやすい。したがって,甲第1号証の意匠における空洞部及び肉薄部について,図面に表された形状に拘泥して類似範囲を狭く捉えるべきでなく,従来にない斬新なデザインとして類似範囲を広く捉えるべきである。
これに対し,本件登録意匠の意匠全体の輪郭は,甲第5号証によって本件登録意匠の出願前から公然知られており,本件登録意匠の肉薄部の平面状な輪郭も,本件登録意匠の出願前から公然知られている。したがって,差異点a.について,基本的構成態様に対して挟持口側端部の肉薄部が平面状か弧状かの差異は,本件登録意匠と甲第1号証の意匠との類否判断にほとんど影響を与えない。
以上のことから,本件登録意匠は,甲第1号証の意匠に類似するものであり,意匠法第9条第1項の規定に違反している。
(6)本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比
本件登録意匠は,意匠に係る物品が「手摺用被覆材」であり,甲第2号証の意匠は,「手すりの被覆材」に関する意匠であり,両意匠の「意匠に係る物品」は実質的に同一である。
次に,本件登録意匠と甲第2号証の意匠とは,以下のような共通点・差異点が認められる。
I)「共通点」
a.全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状とした基本的構成態様
b.挟持口側端部に形成された空洞部
c.挟持口側端部の内周に突出して設けられた角片部
d.挟持口側端部の内周側壁部に形成された肉薄部
e.角片部と対向する小突出片部
II)「差異点」
a.共通点d.の肉薄部の態様→先行意匠:弧状,本件登録意匠:平面状
b.共通点e.の小突出片部の態様→先行意匠:直角状,本件登録意匠:凸状
(7)本件登録意匠と甲第2号証の意匠との類否
差異点b.について,上記「(3)先行周辺意匠の摘示」で述べたように,基本的構成態様に対して小突出片部が凸状か直角状かの差異は,本件登録意匠と甲第2号証の意匠との類否判断にほとんど影響を与えない。
差異点a.について,甲第2号証の意匠における空洞部及び肉薄部を有する挟持口側端部の形態は,階段の折返しや廊下の曲がり角などに応じて手摺用被覆材を曲げ加工する際に挟持口側端部の波打ちや拡開を防止すべく創作された独創的なデザインである。また,建物用手すりの笠木材は,合成樹脂等の押出成型により製造されることから,空洞部や肉薄部の形状にバラツキが生じやすい。したがって,甲第2号証の意匠における空洞部及び肉薄部について,図面に表された形状に拘泥して類似範囲を狭く捉えるべきでなく,従来にない斬新なデザインとして類似範囲を広く捉えるべきである。
これに対し,本件登録意匠の意匠全体の輪郭は,甲第5号証によって本件登録意匠の出願前から公然知られており,本件登録意匠の肉薄部の平面状な輪郭も,本件登録意匠の出願前から公然知られている。したがって,差異点a.について,基本的構成態様に対して挟持口側端部の肉薄部が平面状か弧状かの差異は,本件登録意匠と甲第2号証の意匠との類否判断にほとんど影響を与えない。
以上のことから,本件登録意匠は,甲第2号証の意匠に類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定に違反している。
(8)本件登録意匠の創作容易性の判断
上記「(3)先行周辺意匠の摘示ii)甲第5号証」で述べたように,本件登録意匠と甲第5号証の意匠とは,基本的構成態様に対する小突出片部の位置や挟持口側端部の空洞部及び肉薄部の有無で相違するものの,意匠全体の輪郭が共通する。そして,上記「(2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明ii)甲第2号証」で述べたように,本件登録意匠における空洞部及び肉薄部を有する挟持口側端部形態は,甲第2号証に示されている。
したがって,本件登録意匠は,甲第5号証の意匠に甲第2号証の空洞部及び肉薄部を組み合わせることにより,容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項の規定に違反している。

3.むすび
したがって,本件登録意匠は,意匠法第9条第1項,第3条第1項第3号及び第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

4.証拠方法
本件登録意匠がその出願日前に意匠登録出願された意匠と類似することを証するため,甲第1号証,甲第3号証,甲第4号証及び甲第5号証を提出する。
また,本件登録意匠がその出願前に公然知られた意匠と類似することを証するため,甲第2号証,甲第3号証,甲第4号証及び甲第5号証を提出する。
また,本件登録意匠がその出願前に公然知られた形状等に基づいて容易に創作できたことを証するため,甲第2号証及び甲第5号証を提出する。

添付書類の目録
(1)甲第1号証 意匠登録第1457151号の意匠公報(写し)
(2)甲第2号証 実用新案登録第3167262号の登録実用新案公報(写し)
(3)甲第3号証 意匠登録第1415766号の意匠公報 (写し)
(4)甲第4号証 意匠登録第1416504号の意匠公報 (写し)
(5)甲第5号証 特開2007-239411号の公開特許公報(写し)


第2 被請求人の答弁及び理由
1.答弁の趣旨
被請求人は,請求人の申立及び理由に対して,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」との答弁をした。

2.答弁の理由
(1)請求人の主張する無効理由
請求人は,審判請求書2頁「5.請求の理由」の「(3)意匠登録無効の理由の要点」において,本件第1506020号登録意匠(以下「本件登録意匠」という。)の無効理由を次のように主張する。
「本件登録意匠は,甲第1号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。」(以下「無効理由1」という。)
「本件登録意匠は,甲第2号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。」(以下「無効理由2」という。)
「本件登録意匠は,甲第2号証及び甲第5号証に基づいて容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。」(以下「無効理由3」という。)
しかしながら,請求人の主張はいずれも失当である。以下,詳述する。
(2)本件登録意匠の構成態様
本件登録意匠は,以下の構成態様をとる。
【基本的構成態様】
A 全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状とした手摺り用被覆笠木材において,
【具体的構成態様】
B 被覆材の内周における挟持ロと反対側の位置に,突状内包小突出片部を有し,
C 挟持口側端部には,長手方向にわたって,断面視略四角状の空洞部が形成され,
D 挟持口側端部の内周面には,内方に向かって突出した角片部が長手方向にわたって形成され,
E 挟持口側端部対面部分が平面である。
(3)被請求人の反論
I)無効理由1について
〔1〕出願経過
本件登録意匠は,平成24年11月6日に登録出願したところ,平成25年4月19日(発送日)に,意匠登録第1457151号(出願番号 意願2010-024358)(以下「引用意匠」という。)(甲1)を引用例とする拒絶理由通知(乙1)を受けたが,同年5月7日に意見書(乙2)を提出して,平成26年8月1日に意匠登録がなされたものである。
すなわち,審査官が,拒絶理由通知(乙1)において,引用意匠の下段に「出願番号 意願2010-024358」と記載したことで,本件意匠は,出願中の意匠に類似するものとして拒絶理由通知を出したということが分かる。
〔2〕被請求人の意見書と有効理由
被請求人は,この拒絶理由通知に対して意見書(乙2)を提出し,「本願意匠は,引用意匠と具体的構成態様が異なるものであって引用意匠における『口側に向う膨出部』の形状と形態が大きく相違する本願意匠は,引用意匠とは非類似である」旨の主張が認められて,登録となったものである(乙3)。
したがって,請求人の無効理由1は,意見書(乙2)で述べたとおりの理由で,意匠法第9条第1項の適用を受けず,無効理由とならないものである。
〔3〕請求人の主張への反論
なお,請求人は,本件登録意匠も,引用意匠も,「挟持口側端部の先端から角片部にかけての内周側壁部が肉薄に形成された肉薄部となっている」とし,本件登録意匠と引用意匠の差異として,肉薄部が曲面であるか,平面であるかを挙げる。
しかし,引用意匠(甲1)の構成態様は次のとおりである。
【基本的構成態様】
A′全体形状を長手方向にスリット上の挟持ロを設けた略円筒状とした手摺り用被覆笠木材において,
【具体的構成態様】
B′被覆材の内周における挟持ロと反対側の位置に,直角状内包小突出片部を有し,
C′挟持口側端部には,長手方向に渡って,断面視略四半円状の空洞部が形成され,
D′挟持口側端部の内周面には,内方に向かって突出した角片部が長手方向にわたって形成され,
E′挟持口側端部が口側に向かって細くなる断面視略半円状の膨出部となっており,
F′挟持口側端部対面が曲面である。
すなわち,挟持口側端部対面が平面か曲面かだけではなく,そもそも,挟持口側端部が口側に向かう膨出部となっているか否か(E′)で大きく相違しているのである。
II)無効理由2について
〔1〕挟持口側端部対面部分の形状について
公知意匠1(実用新案登録第3167262号)(甲2)は,施工時に被覆材の切離し端部のスリットが波打ったり,「開きが大きくなる」ことを防止することをその課題として,考案されたものである(甲2)。
そのため,当該考案においては,「開きが大きくなる」可能性を排するために,挟持口側端部の間隔が狭いことがその前提とされている。そこで,挟持口側端部に「口側に向う膨出部」を有することが当然の前提とされていることは,「考案を実施するための形態」として,「突片部25a(25b)は,・・・断面視半円状に突出する」(甲2【0021】1行目)とされていることからも明らかである。
〔2〕挟持口側端部の空洞について
請求人は,「建物用手すりの笠木材は,合成樹脂等の押出成型により製造されることから,空洞部や肉薄部の形状にバラツキが生じやすい」ため,「空洞部及び肉薄部について図面に表された形状に拘泥して類似範囲を狭く捉えるべきではない」と主張する。
しかし,そもそも,挟持口側端部の空洞は,合成樹脂の厚みを均一にするという目的のため,甲1出願のはるか以前から公知公用であった。このことは,公開実用昭和58-45842(乙4)に掲載されている第1図からも明らかである。
仮に,挟持口側端部に空洞を有しているということにデザインの新規性を見出すとすれば,挟持口側端部の空洞というデザインは,乙4に掲載されている第1図によって,既に甲1出願の時点で公知となっていたのであり,却って,公知意匠1(甲2)が新規性喪失という無効理由をはらむことになる。
そのため,挟持口側端部の空洞については,その存在自体が斬新なデザインというわけではなく,挟持口側端部の形状に合った空洞部を有していることに,デザインの斬新さを見出すことができる。
〔3〕公知意匠1(甲2)の構成態様
【基本的構成態様】
A′′全体形状を長手方向にスリット上の挟持ロを設けた略円筒状とした手摺り用被覆笠木材において,
【具体的構成態様】
B′′被覆材の内周における挟持ロと反対側の位置に,直角状内方突出片部を有する。
C′′挟持口側端部には,長手方向に渡って,断面視略四半円状の空洞が形成され
D′′挟持口側端部の内周面には,内方に向かって突出した角片部が長手方向に渡って形成され,
E′′挟持口側端部が口側に向かって細くなる断面視略半円状の膨出部となっており,
F′′挟持口側端部対面が曲面であり,
G′′挟持口側端部対面の間隔が5mm未満である。
〔4〕本件登録意匠と公知意匠1(甲2)の共通点・差異点
ア 本件登録意匠と公知意匠1(甲2)の共通点は,1)「全体形状を長手方向にスリット上の挟持ロを設けた略円筒状としたものである。」という基本的構成態様と,2)「挟持口側端部には,長手方向に,空洞部を形成し」という具体的構成態様と,3)「挟持口側端部の内周面には,内方に向かって突出した角片部が長手方向にわたって形成され」という具体的構成態様である。
イ 本件登録意匠と公知意匠1(甲2)の差異点は,1)挟持口側端部に「膨出部」があるか否か,2)挟持口側端部対面部分が「平面」か,「曲面」か,3)挟持口側端部の空洞が「断面視略四角状」か,「断面視略四半円状」か,4)挟持口側端部対面の間隔が5mm以内か否か,5)被覆材内周における挟持口と反対側の位置に存在する内包突出片が,「突状」か,「直角状」かという点である。
〔5〕本件登録意匠と公知意匠1(甲2)が類似していないこと
ア 1)挟持口側端部にロ側に向かう「膨出部」があるという点と,2)「膨出部」がなく挟持口側端部対面部分が「平面」であるという点が,意見書(乙2)において,「口側に向かう膨出部が大きく相違する」ことが,本件登録意匠と引用意匠が非類似であるという根拠になったように視覚的に明らかな形態の差異を生む差異なのである。
イ 以上の点について,請求人は,「建物用手すりの笠木材は,合成樹脂等の押出成型により製造されることから,空洞部や肉薄部の形状にバラツキが生じやすい」ため,「甲2号証の意匠における空洞部及び肉薄部について,図面で表された形状に拘泥して類似範囲を狭く捉えるべきでなく,従来にない斬新なデザインとして類似範囲を広く捉えるべきである」とする。
しかし,前述〔2〕のとおり,空洞部が存在すること自体は,斬新なデザインではない(乙4)。
ウ また,公知意匠1の実施形態として,挟持口側端部の間隔は,「指が入り込まない5mm未満(好ましくは4mm前後)」(甲2【0021】5行目)とされているところ,公知意匠1の挟持口側端部の間隔に着目して本件登録意匠と公知意匠1とを比較すると,(当審注:答弁書記載の)図のとおりとなる。この場合において,本件登録意匠と公知意匠1は,その挟持口側端部における形状と形態が全く異なることは明らかである。
エ 以上より,本件登録意匠と公知意匠1は,1)基本的構成態様,2)挟持口側端部に空洞を有すること,及び,3)挟持口側端部の内周面には,内方に向かって突出した角片部が長手方向に渡って形成されているという点について共通するとしても,本件登録意匠と公知意匠1では,挟持口側端部の形状において明白に相違するのであるから,両意匠を類似するものということはできない。
III)無効理由3について
〔1〕置換の意匠
意匠審査基準において,創作容易な事例として,「置換の意匠」,すなわち「公知の意匠の構成要素を当業者にとってありふれた手法により他の公知の意匠に置き換えて構成したにすぎない意匠」が挙げられている。
この場合,「置き換えて構成したにすぎない」とは,「部品の置換」「模様の置換等」にあって,「置換することは当業者なら容易に想到できる」「置換によって新たな美感が創出されていない」「部品等を単に置換したのみで置換にかかる構成態様に何の工夫もない」のいずれにも該当する場合とされており,そのいずれかに該当しない場合には,「置き換えて構成したに過ぎない」状態にあるわけでなく,創作非容易性を備えているとされる。
請求人の主張も,「公知の意匠」である公知意匠2(甲5)の「構成要素」である意匠全体の輪郭に,「他の公知の意匠」である公知意匠1(甲2)の空洞部及び肉薄部を組み合わせるという「ありふれた手法」により,置き換えて構成したに過ぎない「意匠」が本件登録意匠であると考えられる。
〔2〕膨出部の存在
しかし,そもそも,公知意匠2(甲5)における挟持ロ側端部は,引用意匠1及び公知意匠1と同様,口側に向って膨出しているのであり,請求人が公知意匠2を「挟持口側端部の先端から角片部にかけての内周面が平坦に形成されている」を主張するのは誤りである。
すなわち,図1?図4は第1実施形態であるところ(甲5【0018】),請求人が平坦であると主張している24a,24bの外面に,さらに軟質部23a,23bが存在し,この軟質部が膨出部に該当するのである。
そして,「両軟質部23a,23bの間隔は,被覆材5の径方向外方に向うほど短くなっている。」(甲5【0022】19行目)とされているのであるから,少なくとも,挟持口側端部が平面であることは想定されていないといえる。
さらに,挟持口側端部の間隔は,「この両軟質部23a,23bの最小間隔(径方向最外方の間隔)は,常温において,取付けブラケット3の厚みよりも短く,より具体的には,指が入り込まない5mm以下(好ましくは3mm前後)に設定されている。」(甲5【0022】20行目)とされており,本件登録意匠とは,挟持口側端部における形状(平面か,膨出しているか)において大きく異なるのである。
なお,請求人は,「本実施形態においては,各切り離し端部25a,25bを,前記第1実施形態のように軟質部23a,23bをもって形成することは行われておらず」(甲【0037】)とあることから,23a,24bが存在しない場合があることを根拠としたいようである。しかしながら,その実施形態における図は図8及び図9であり(甲5【0037】1行目),図9においては,挟持口側端部である25a,25bは膨出部となっており,その対面部分25a,25bは曲面となっている。
したがって,公知意匠2において,挟持口側端部対面部分が平面である実施形態は存在しないといえる。
〔3〕小括
以上より,公知意匠2に膨出部が存在し,本件登録意匠とは異なる以上,公知意匠2に公知意匠1の空洞部及び肉薄部を組み合わせることにより容易に創作できたものであるとの請求人の主張は,公知意匠2と本件登録意匠で意匠全体の輪郭が共通するとの前提を欠くため,請求人の主張は成り立たない。

3.結語
以上のとおり,請求人の主張する無効理由は,いずれも成り立たず,本件登録意匠に無効理由は存在しない。
したがって,答弁の趣旨のとおりの審決を求める次第である。

4.証拠方法
(1)乙第1号証:拒絶理由通知書(写し)
(2)乙第2号証:意見書(写し)
(3)乙第3号証:登録査定(写し)
(4)乙第4号証:公開実用新案公報(公開実用昭和58-45842)(写し)


第3 請求人の弁駁
1.弁駁の理由
(1)答弁書「(3)被請求人の反論」「I)無効理由1について」
(1-1)「〔2〕被請求人の意見書と有効理由」について
乙第1号証「拒絶理由通知書」において,甲第1号証「意匠公報:意匠登録第1457151号(以下「引用意匠」という。)」における「膨出部」とは,「空洞部を含む挟持口側端部」を意味するものと思われる(次頁上図参照)。
これに対し,乙第2号証「意見書」の(5)において,「上図のように本願意匠と引用意匠を比較すると,引用意匠においては『挟持口内側に内方に向う角片部と口側に向いて膨出部がある』とされるが,本願意匠にはこのような『口側に向う膨出部』はなく,」と記載されている。また,答弁書5ページ「(3)請求人の主張への反論」において,「E’挟持口側端部が口側に向かって細くなる断面視略半円状の膨出部となっており,」と記載され,さらに「そもそも,挟持口側端部が口側に向かう膨出部分となっているか否か(E’)で大きく相違しているのである。」と記載されている。これらの記載から,被請求人にとって甲第1号証「引用意匠」の「膨出部」とは,「挟持口側端部における空洞部よりも挟持口側に位置する略半円状の先端部分」を意味するものと思われる。
以上のことから,審査官の「膨出部」と被請求人の「膨出部」とが別物であることは明らかである。したがって,被請求人は,本件登録意匠と甲第1号証「引用意匠」との非類似を主張するにあたり,「膨出部」の意味をすり替えて両意匠を対比しており,請求人としては,このようなすり替えを看過できない。
なお,これ以降,請求人主張における「膨出部」とは,「挟持口側端部における空洞部よりも挟持口側に位置する略半円状の先端部分」を意味することとする。
(1-2)「〔3〕請求人の主張への反論」について
被請求人は,上述のように,甲第1号証「引用意匠」の具体的構成態様として『E’挟持口側端部が口側に向かって細くなる断面視略半円状の膨出部となっており,』を挙げている。しかし,この認定は,あたかも膨出部が空洞部近傍から挟持口側に向けて膨らみ出たような印象を読み手に与え,不適当である。
甲第1号証「引用意匠」の笠木材は,略円筒形の全体形状に対して長手方向全長に亘る挟持口によって下部を切離されたような形状であり,笠木材の外周面が凹凸のない滑らかな円柱面状であることからして,「先端Rの挟持口側端部に空洞部を設けて内周側壁を内方へ膨らませて肉薄部とした」と認定するのが適当である。なお,この空洞部を断面視略四半円状としたことにより,肉薄部(対面部)が曲面となったのである。
そして,本件登録意匠の被覆材もまた甲第1号証「引用意匠」と同様,「先端R挟持口側端部に空洞部を設けて内周側壁を内方へ膨らませて肉薄部とした」のであり,この空洞部を断面視略四角状としたことにより,肉薄部(対面部)が平面となったのである。
したがって,甲第1号証「引用意匠」では,空洞部が断面視略四半円状で肉薄部(対面部)が曲面であるのに対し,本件登録意匠では,空洞部が断面視略四角状で肉薄部(対面部)が平面である点が,両意匠の差異点である。しかし,この差異点は,両意匠の細部の微差でしかなく,両意匠を全体的に観察した場合,両意匠は視覚を通じての美感を同じくするものである。ゆえに,本件登録意匠は,甲第1号証「引用意匠」に類似するものである。
(2)答弁書「(3)被請求人の反論」「II)無効理由2について」
(2-1)「〔1〕挟持口側端部対面部分の形状について」について
被請求人は,答弁書6ページにおいて『そこで,挟持口側端部に「口側に向う膨出部」を有することが当然の前提とされていることは,「考案を実施するための形態」として,「突片部25a(25b)は,・・・断面視半円状に突出する」(甲2【0021】1行目)とされていることからも明らかである。』と述べている。しかし,この認定は,あたかも突片部25a(25b)が空隙部A近傍から切離しスリット20側に向けて膨らみ出たような印象を読み手に与え,不適当である。
そもそも甲第2号証「公知意匠1」の被覆材は,略円筒形の全体形状に対して長手方向全長に亘る切離しスリット20(挟持口)によって切離されたような形状であることからして,切離し端部5a,5bの先端が互いに対向するように突出することは自明である。そして,甲第2号証「公知意匠1」の明細書の段落0021において「突片部25a(25b)は,被覆材5の外面と滑らかに連続され,手すり2の中心方向(切離しスリット20の中心方向)に向かい対向するように,断面視半円状に突出する。」と記載されているが,要するに切離し端部5a,5bの先端をR形状に形成したのである。
(2-2)「〔2〕挟持口側端部の空洞について」について
被請求人は,答弁書6ページにおいて「しかし,そもそも,挟持口側端部の空洞は,合成樹脂の厚みを均一にするという目的のため,甲1出願のはるか以前から公知公用であった。 このことは,公開実用昭和58-45842・・・(乙4)に掲載されている第1図からも明らかである。」と主張している。
さらに,被請求人は,答弁書6ページにおいて「仮に,挟持口側端部に空洞を有しているということにデザインの新規性を見出すとすれば,挟持口側端部の空洞というデザインは,乙4に掲載されている第1図によって,既に甲1出願の時点で公知となっていたのであり,却って,公知意匠1(甲2)が新規性喪失という無効理由をはらむことになる。」と主張している。
これに対し,乙第4号証「公開実用新案公報:公開実用昭和58-45842(以下「実開昭58-45842」という。)」の明細書の1ページ下部から2ページ上部にかけて「そこで,これを防ぐため,第1図に示されるように,手摺本体たる型材aの両側に外向きの係止凹溝b,bを形成し,この係止凹溝内に嵌合し得る膨出状突部c’,c’を形成した被覆体(手摺材)cを,該突部c’,c’を凹溝b,bに嵌合させるようにして装着するものが考案され,」と記載されている。しかし,被覆体(手摺体)3の膨出状突部c’において長手方向に渡って空洞部が形成される旨の記載は,乙第4号証「実開昭58-45842」の明細書には見当たらない。また,被請求人は乙第4号証「実開昭58-45842」の第1図の膨出状突部c’内に表された略四角形を「空洞部」と特定したのであろうが,第1図は従来の手摺の縦断面図にすぎず,この略四角形が膨出状突部c’を長手方向に貫通して被覆体(手摺材)cの外観に現出しているかは不明である。
そもそも,乙第4号証「実開昭58-45842」の第1図の手摺及び被覆体(手摺材)cでは,被覆体(手摺材)cの内周面と型材aの外周面とが互いに嵌合可能な形状となっており,型材aの側壁に形成された係止凹溝bに膨出状突部cが嵌合することにより,被覆体(手摺材)cが型材aに装着される。つまり膨出状突部c’は,型材aの側壁に形成された係止凹溝bに嵌まり込むものである。なお,この手摺を握った場合,手の指が型材aに触れてしまう。
これに対し,甲第1号証「引用意匠」の建物用手すりや甲第2号証「公知意匠1」の手すりは,笠木材・被覆材が芯材のほぼ全周を覆って挟持口側端部が芯材の下側で互いに対向すると共に,挟持口側端部の内周面側に形成された角片部が芯材の底部に引っ掛かることにより,笠木材・被覆体が芯材に装着されるものである。そして,一対の挟持口側端部は,芯材の下側の位置で長手方向に続くスリットを画成している。なお,これらの手すりを握った場合,手の指が芯材に触れることはない。
以上のことから,乙第4号証「実開昭58-45842」の第1図の手摺及び被覆体(手摺材)cは,甲第1号証「引用意匠」の建物用手すり及び笠木材,並びに甲第2号証「公知意匠1」の手すり及び被覆材とは全く異なるものであり,被請求人のように同一視すべきでない。
なお,甲第2号証「公知意匠1」の明細書の段落0019には,「被覆材5は,熱可塑性合成樹脂材料(例えば塩化ビニル)を用いて略円筒形状に形成されており,」及び「この被覆材5は,本実施形態においては,複層押出成形等の成型方法を用いて,基層部21および外層部22が一体形成されている。」と記載されており,また,明細書の段落0022には,「また,突片部25a(25b)から折曲部24a(24b)にかけて,被覆材5の肉厚内に長手通し状の空隙部Aが形成される。」と記載されている。これらの記載や図2の斜視図に鑑みて,甲第2号証「公知意匠1」の被覆材5の両端の形状が,図5に縦断面で表された被覆材5の形状と略同一であることは,明らかである。
また,甲第5号証「公開特許公報:特開2007-239411号(以下「公知意匠2」という。)」の明細書の段落0022には,「この被覆材5は,本実施形態においては,複層押出し成形等の成形方法を用いて,基層部21,外層部22及び軟質部23a,23b(図1においては外層部22は図示略)をもって構成されている。」と記載されている。この記載や図1,8,10の斜視図に鑑みて,甲第5号証「公知意匠2」の被覆材5の両端の形状が,図面に縦断面で表された被覆材5の形状と略同一であることは,明らかである。
(2-3)「〔3〕公知意匠1(甲2)の構成態様」について
被請求人は,上述のように,甲第2号証「公知意匠1」の具体的構成態様として「E’’挟持口側端部が口側に向かって細くなる断面視略半円状の膨出部となっており,」を挙げている。しかし,この認定は,あたかも膨出部が空洞部近傍から挟持口側に向けて膨らみ出たような印象を読み手に与え,不適当である。
甲第2号証「公知意匠1」の被覆材は,略円筒形の全体形状に対して長手方向全長に亘る切離しスリット20(挟持口)によって下部を切離されたような形状であり,被覆材の外周面が凹凸のない滑らかな円柱面状であることからして,「先端Rの切離し端部5a,5b(挟持口側端部)に空隙部A(空洞部)を設けて内周側壁を内方へ膨らませて肉薄部とした」と認定するのが適当である。なお,この空隙部Aを断面視略四半円状としたことにより,肉薄部(対面部)が曲面となったのである。
そして,本件登録意匠の被覆材もまた甲第2号証「公知意匠1」と同様,「先端Rの挟持口側端部に空洞部を設けて内周側壁を内方へ膨らませて肉薄部とした」のであり,この空洞部を断面視略四角状としたことにより,肉薄部(対面部)が平面となったのである。
(2-4)「〔5〕本件登録意匠と公知意匠1(甲2)が類似していないこと」について
上記(2-3)より,甲第2号証「公知意匠1」では,空洞部が断面視略四半円状で肉薄部(対面部)が曲面であるのに対し,本件登録意匠では,空洞部が断面視略四角状で肉薄部(対面部)が平面である点が,両意匠の差異点である。
しかし,この差異点は,両意匠の細部の微差でしかなく,両意匠を全体的に観察した場合,両意匠は視覚を通じての美感を同じくするものである。ゆえに,本件登録意匠は,甲第2号証「公知意匠1」に類似するものである。
なお,被請求人は,答弁書9ページの「ウ」に本件登録意匠を図示し,この挟持口側端部の間隔が「6mm」であると主張している。しかし,本件登録意匠の挟持口側端部の間隔が「6mm」であることは,本件登録意匠の願書や図面から読み取れない。
(3)答弁書「(3)被請求人の反論」「III)無効理由3について」
(3-1)「〔2〕膨出部の存在」について
被請求人は,答弁書の11ページ14行目から「なお,請求人は,『本実施形態においては,各切り離し端部25a,25bを,前記第1実施形態のように軟質部23a,23bをもって形成することは行われておらず』(甲5【0037】)とあることから,23a,24bが存在しない場合があることを根拠としたいようである。」と述べているが,この表現は読み手に語弊を与えるおそれがある。
まず,甲第5号証「公知意匠2」の段落0022では,「軟質部23a,23bは,折曲部24a外面及び外層部22端,折曲部24b外面及び外層部22端上にそれぞれ跨るように設けられて,前記切り離しスリット20を区画する一対の切り離し端部25a,25bを構成している。」と記載されている。つまり,甲第5号証「公知意匠2」の第1実施形態においては,「軟質部23a,23b」≒「切り離し端部25a,25b」である。
そして,甲第5号証「公知意匠2」の段落0037には,第5実施形態について「尚,本実施形態においては,各切り離し端部25a,25bを,前記第1実施形態の場合のように軟質部23a,23bをもって形成することは行われておらず,また,被覆材5は,一種類の合成樹脂(第1実施形態における基層部21又は外層部22を形成する材料)をもって形成されている。」と記載されている。つまり,当該第5実施形態では,切り離し端部25a,25bを含む被覆材5全体が,基層部21又は外層部22と同種の合成樹脂にて一体に形成されるのであり,このことは甲第5号証「公知意匠2」の図9からも見て取れる。
次に,被請求人は,答弁書の11ページ3行目から「そして,『両軟質部23a,23bの間隔は,被覆材5の径方向外方に向うほど短くなっている。』(甲5【0022】19行目)とされているのであるから,少なくとも,挟持口側端部が平面であることは想定されていないといえる。」と主張している。さらに,被請求人は,答弁書の同ページ18行目から「しかしながら,その実施形態における図は図8及び図9であり(甲5【0037】1行目),図9においては,挟持口側端部である25a,25bは膨出部となっており,その対面部分25a,25bは曲面となっている。したがって,公知意匠2において,挟持口側端部対面部分が平面である実施形態は存在しないといえる。」と主張している。しかし,甲第5号証「公知意匠2」の各図面に鑑みれば,切り離し端部25a,25b(挟持口側端部)における最小間隔Sを挟んだ対面部分を平面と認識するのが通常である。したがって,被請求人の上記主張は認容できるものでない。
(3-2)「〔3〕小括」について
以上のことから,甲第5号証「公知意匠2」の第5実施形態の被覆材の切り離し端部25a,25b(挟持口側端部)に甲第2号証「公知意匠1」の空隙部A及び肉薄部を組み合わせることにより,本件登録意匠を容易に創作することができる。
なお,被請求人の主張するように,仮に,乙第4号証「実開昭58-45842」の第1図のc’(膨出状突部)の略四角形が被覆体(手摺体)3の挟持口側端部において長手方向に渡る空洞部とするならば,甲第5号証「公知意匠2」の切り離し端部25a,25b(挟持口側端部)に乙第4号証「実開昭58-45842」の断面略四角形状の空洞部を設けることで,本件登録意匠を容易に創作することができる。


第4 口頭審理
本件審判について,当審は,平成28年2月9日に口頭審理を行った。(平成28年2月9日付口頭審理調書)(口頭審理において,審判長は,両者に対して審理を終結する旨を告知した。)

1.請求人
請求人は,口頭審理陳述要領書のとおり主張した。
(1)第一の無効理由(意匠法第9条第1項違反)
(1-1)被請求人の口頭審理陳述要領書の〔1〕(1)について
被請求人の主張する「膨出部」が「空洞部を含む挟持口側端部」であるならば,被請求人の主張する「膨出部」と審査官の認定する「膨出部」とが同じである点は認める。
(1-2)被請求人の口頭審理陳述要領書の〔1〕(2)について
乙第5号証(公開実用昭64-29423)の手すりでは,笠木の嵌合膨大部2を笠木受け5の溝部に嵌合させて装着しており,また,笠木受け5により手すりの底面を形成している。そして,被請求人は,笠木の嵌合膨大部2が「笠木受けに笠木を装着させる際に,クッション性を持たせて装着を容易にするためのもの」であることを主張している。
これに対し,甲1意匠(引用意匠)の建物用手すりの笠木材では,笠木材の角片部を芯材の下側凸部に係止させて装着しており,笠木材の膨出部を芯材の側壁凹部に嵌合させておらず,また,この膨出部により手すりの底面を形成している。かかる点は,本件登録意匠の手摺用被覆材にも共通するものである。
そうすると,甲1意匠(引用意匠)及び本件登録意匠の膨出部は,乙第5号証の嵌合膨大部2と全く異なるものであり,したがって,被請求人の陳述が見当違いであることは明らかである。
(1-3)本件登録意匠と甲1意匠(引用意匠)の類否判断について
A.「空洞部」ついて
被請求人は,口頭審理陳述要領書の〔2〕(2)イにおいて「挟持口側端部の形状に合わせて,挟持口側先端部に空洞部が存在することにデザインの斬新さがある」と主張する。
甲1意匠(引用意匠)は,全体形状を長手方向にスリット状の挟持口を設けた略円筒状とした笠木材の挟持口側端部において,長手方向に渡る空洞部が形成されると共に,この空洞部の周囲が膨出部となっており,挟持口側端部の形状に合わせて,挟持口側先端部に空洞部が存在する形態となっている。
そうすると,本件登録意匠と甲1意匠(引用意匠)とは,「挟持口側端部の形状に合わせて,挟持口側先端部に空洞部が存在する」点で共通する。
この共通点である「挟持口側端部の形状に合わせて,挟持口側先端部に空洞部が存在する」点については,被請求人も認めるように斬新なデザインであり,看者の注意を強く惹く部分であることから,かかる共通点は両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
B.「膨出部」ついて
本件登録意匠の膨出部は,挟持口側端部の内周面に内方に向けて突設された角片部から挟持口側端部の外周側の先端にかけて互いに対向する対面部が形成されているのに対し,甲1意匠(引用意匠)の膨出部も,挟持口側端部の内周面に内方に向けて突設された角片部から挟持口側端部の外周側の先端にかけて互いに対向する対面部が形成されており,両意匠は「膨出部」の基本的構成態様において共通する。
また,「膨出部」の態様において,本件登録意匠は,膨出部における対面部の内周側及び外周側の角部が角丸形状であるのに対し,甲1意匠(引用意匠)は,膨出部における対面部及び対面部の外周側の先端が角丸形状であることから,両意匠の「膨出部」は,「膨出部の角が角丸形状である」点で共通する。
かかる共通点から,本件登録意匠と甲1意匠(引用意匠)とは,特に,膨出部の角が角丸形状となっている態様から,どちらも「丸みを帯びて膨らんだ膨出部」との印象を看者に与えるものである。
これに対し,「膨出部の対面部が平面であるか,曲面であるか」の相違点は,上記共通点により醸し出される共通の「丸みを帯びて膨らんだ膨出部」という印象に埋没してしまう程度の相違に過ぎず,看者の視覚にほとんど影響を与えない僅かな形状の相違である。
ところで,被請求人は口頭審理陳述要領書の〔2〕(2)イにおいて「挟持口側端部が膨出しているか否かという点は,デザインの斬新さに決定的な影響を与える」と主張する。上記したように,「挟持口側端部が膨出している」点は,本件登録意匠と甲1意匠(引用意匠)との共通点であることから,かかる共通点がデザインの斬新さに決定的な影響を与えるとの被請求人の主張は,本件登録意匠と甲1意匠(引用意匠)とが要部となる形態において共通することを自認するものである。
(2)第二の無効理由(意匠法第3条第1項第3号違反)
(2-1) 被請求人の口頭審理陳述要領書の〔2〕(2)アについて
挟持口側端部に隣接して空洞部を設けるデザインが公知である点は認める。
なお,本件登録意匠と甲2意匠(公知意匠1:実用新案登録第3167262号)との類否判断には直接関係ない事項であるが,甲2意匠(公知意匠1)の手摺では,被覆材5の折曲部24a,bを芯材4の係止部17a,bに係止させて装着しており,被覆材5の膨出部(切離し端部5a,b)を芯材4の側壁部12a,bに嵌合させておらず,一対の膨出部(切離し端部5a,b)の間に隙間(切離しスリット20)が生じる。これに対し,乙5号証(公開実用昭64-29423)の手摺では,笠木の嵌合膨大部2を笠木受け5の溝部に嵌合させており,一対の嵌合膨大部2の間には笠木受け5が存在するため,甲2意匠(公知意匠1)の手摺のような隙間が存在しない。したがって,甲2意匠(公知意匠1)の膨出部と乙5号証の嵌合膨大部2とは異なるものである。
(2-2)被請求人の口頭審理陳述要領書の〔2〕(3)について
A.被請求人の主張の立証について
被請求人は,「本件登録意匠の図面を,通常の手すり径である直径34mmに拡大すると,挟持口側端部の間隔が6mmとなる。なお,手すり径には,直径34mm以上のものも存在するが,図面をさらに拡大すると,挟持口側端部の間隔が6mm以上となり,6mm未満となることはない。」と主張する。しかし,被請求人は,この主張を立証する証拠を何ら提示しておらず,真偽は不明である。
なお,乙第6号証の裏表紙には「2015年5月」と記載されており,甲2意匠(公知意匠1)の公報発行日「2011年4月14日」以後のものである。また,乙第7号証には甲2意匠(公知意匠1)に相当するものが何処にも見当たらない。
B.類否判断について
被請求人は,「挟持口側端部に幅の違いは,本件登録意匠と公知意匠とのデザインの違いの決定的要素であるといえる」と主張する。
しかしながら,挟持口側端部の間隔が1mm或いは2mm相違したとしても,そのような僅かな相違を看者が明確に認識できるものではなく,本件登録意匠と甲2意匠(公知意匠1)の類否判断に及ぼす影響は小さい。
なお,被請求人のカタログ「PaL LINE」Vo1.3」(甲第6号証)で明らかなように,通常溝タイプの挟持口側端部の間隔を10mmとしているのに対し,「細溝スリムタイプ」の挟持口側端部の間隔を「6mm」としていることから,挟持口側端部の間隔「6mm」が「スリム目地」の部類に含まれることを自認するものである。
(2-3)本件登録意匠と甲2意匠(公知意匠1)の類否判断について
本件登録意匠と甲2意匠(公知意匠1)の類否判断は,上記(1-3)「本件登録意匠と甲1意匠(引用意匠)の類否判断について」と実質的に同様であるため,詳細な説明を省略する。
(3)第3の無効理由(意匠法第3条第2項違反)
被請求人は,口頭審理陳述要領書の〔3〕において,甲5意匠(公知意匠2:特開2007-239411号)の挟持口側端部における最小間隔Sを挟んだ対面部が曲面である,と主張する。
しかし,甲5意匠(公知意匠2)において,例えば,対面部(切り離し端部25a,b)が径方向外方に向かうにつれて互いに接近するように僅かに傾いた平面であるならば,挟持口側端部の間隔が径方向外方に向かうほど狭まる。したがって,甲5意匠(公知意匠2)の挟持口側端部の対面部は,曲面に限られず,平面をも含むものである。
なお,甲2意匠(公知意匠1)の図2の部分拡大図及び図3には,芯材4に取り付けられた状態の被覆材ではあるが,膨出部の対面部の一部が平面となった手すり用の被覆材5が開示されている。
したがって,本件登録意匠は,挟持口側端部(切り離し端部25a,b)の対面部を平面とした甲5意匠(公知意匠2)を基礎とし,この挟持口側端部に甲2意匠(公知意匠1)の空洞部(空隙部2a)を挟持口側端部の形状に合わせて設けたものであって,当業者において容易に創作できたものである。
(4)証拠方法
甲第6号証 被請求人カタログ「「PaL LINE」Vo1.3」の一部(写し)

2.被請求人
被請求人は,平成28年1月8日付け口頭審理陳述要領書及び平成28年2月8日付け口頭審理陳述要領書(2)のとおり主張した。
(I)平成28年1月8日付け口頭審理陳述要領書
〔1〕弁駁書5.理由(1)について
請求人の主張は,否認ないし争う。
(1)被請求人の主張する「膨出部」について
請求人は,被請求人が本件登録意匠と引用意匠(甲1)との非類似性を主張するに当たり,「膨出部」の意味をすり替えて,両意匠を対比していると主張する(弁駁書2頁)。
しかし,請求人が何を目的としてかかる主張を行っているのかは不明であるが,審査官の「膨出部」と被請求人の主張する「膨出部」とは,同一であり,請求人の主張は誤りである。
すなわち,審査官も被請求人も,弁駁書3頁上部掲載の図面の赤色部分をとらえて,「口側膨出部」と表現している。被請求人の主張する「口側膨出部」が,弁駁書3頁下部掲載の図面赤色部分であるとすれば,被請求人は,当該部分につき,答弁書5頁において,「E’挟持口側端部が『口側に向かって細くなる』断面視略半円状の膨出部」とは表現しない。したがって,請求人こそ,「膨出部」の意味をすり替えた主張をしている。
本件登録意匠は,引用意匠(甲1)と異なり,挟持口側端膨出部の対抗面が平面となっていることから,口側に「向かって」膨出しているとは,一般的に表現しない。したがって,被請求人の主張する「膨出部」は,審査官の認定する「膨出部」と同じである。
(2)引用意匠(甲1)は,挟持口を狭めるために,挟持口に向って先細りつつ,略半円状に膨らみ出ていることについて
請求人は,引用意匠(甲1)は,「先端Rの挟持口側端部に空洞部を設けて内周側壁を内方へ膨らませて肉薄部とした」と認定するのが適当であると主張する(弁駁書4頁)。
しかしながら,手すり用笠木において,挟持口側端部に空洞部を設けることは,合成樹脂の厚みを均一にするだけでなく,笠木受けに笠木を装着させる際に,クッション性を持たせて装着を容易にするためであることは,公知のデザインであるところ(乙5),挟持口側端部にクッション性を持たせるためには,当該空洞部が挟持口側端部の形状に沿った形でなければならない。なぜなら,挟持口側端部とそれに隣接する空洞部の形状が一致していない場合,挟持口には肉薄部と肉厚部が形成され,肉薄部では柔軟性が高く,他方,肉厚部では柔軟性が低くなり,挟持口側端部の部分ごとに柔軟性の程度に差が生じてしまい,むしろ,装着の際に扱いづらくなり,クッション性を持たせることで笠木装着を容易にするという目的を達成しえないからである。したがって,空洞部の形状は,必然的に,挟持口側端部の形状に一致することになる。
引用意匠(甲1)においては,挟持口側端部先端がR状になることが前提とされているところ,先端がR状である場合,挟持口側端部にクッション性を持たせて,笠木への装着を容易にするという目的を達するためには,空洞部の外周形状は,必然的に,先端の形状に沿ってR状でなければならず,その空洞部の存在によって,挟持口側端部は,空洞部の体積相当分,R状に,挟持口側端部中心から径方向外方へ拡張され,挟持口側端部が近接することになる。さらに,そもそも,挟持口側端部先端がR状である場合,対面する挟持口側端部それぞれが,挟持ロに向かって,カーブを描いていることから,挟持口側端部は,挟持口に向かって膨出するところ,挟持口側端部が空洞部を有することによって,その体積分,挟持口側端部は,一層膨出することになるのである。
したがって,引用意匠(甲1)の具体的態様としては,先端Rの挟持口側端部に断面視略四半円状の空洞部を設けて内周側壁を内方へ膨らませて肉薄部とすることによって,「E’挟持口側端部が口側に向って細くなる断面視略半円状の膨出部となっており」と認定されるのである。そして,挟持口側端部が断面視略半円状の膨出部となっているかという点と,挟持口側端部が平面になっているかという点とでは,視覚的にも明らかに形状が異なる。
〔2〕弁駁書5.理由(2)について
請求人の主張は,否認乃至争う。
(1)公知意匠1(甲2)についても,引用意匠と同様に,挟持口に向って膨出していること
請求人は,被請求人の主張が,「あたかも突片部25a(25b)が空隙部A近傍から切離しスリット20側に向けて膨らみ出たような印象を読み手に与え,不適当である」と主張する(弁駁書5頁17?18行)。
しかし,他方で,請求人は,公知意匠(甲2)につき,「切離し端部5a,5bの先端が互いに対向するように突出することは自明」であり。「切離し端部5a,5bの先端をR形状に形成した」のであると主張する(弁駁書5頁21?27行)。この主張は,すなわち,挟持口側端部の先端が互いに突出しており,その突出部分がR状,つまり,カーブを描いていることを指すところ,挟持口側端部先端が突出しており,しかも,先端部がカーブを描いているということは,挟持口側端部先端が膨出していることを指すから,結局,請求人の主張は,挟持口側端部が膨出していることを,表現を変えて主張したに過ぎない。
(2)挟持口側端部に空洞を設けるデザインは,公知であり,挟持口側端部の形状が,挟持口側端部に空洞を設けるデザインにも大きな影響を及ぼすこと
ア 挟持口側端部に隣接して空洞部を設けるデザインは,公知意匠1以前に公知であること
請求人は,「被覆体(手摺体)3の膨出状突部cにおいて長手方向に渡って空洞部が形成される旨の記載は,乙第4号証『実開昭58-45842』の明細書には見当たらない」という(弁駁書6頁16?18行)。
しかし,「実開昭58-45842」の第1図は,「従来の手摺の縦断面図」なのであり,縦断面図に空洞部が表出しているということは,当然に,長手方向に渡って,空洞部が形成されているのである。さらに,公開実用昭64-29423(乙5)においても,手すり用笠木材の挟持口側端部に空隙部(空洞部)を設けるデザインは,公知となっているのであり,少なくとも,公知意匠1が出願される前には,公知となっているのである。
なお,請求人は,乙第4号証記載の発明は,手の指が芯材に触れるため,引用意匠(甲1)や公知意匠(甲2)とは異なるとも主張するが(弁駁書6頁22行?7頁9行),手すり用笠木材の挟持口側端部に空隙部(空洞部)を設けるデザインが公知となっているという点には変わりがない。
イ 挟持口側端部の形状に合わせて,挟持口先端部に空洞部が存在することにデザインの斬新さがあること
請求人は,挟持口突出部に隣接して空洞部を設けて,内周側壁を内方へ膨らませて肉薄部とする点に,公知意匠(甲2)の創作性を見出し,空洞部や肉薄部の形状の差異は,微差でしかないという(弁駁書8頁19行)。
しかし,挟持口側端部に空洞部を設けて,肉薄部を形成するのは,それによって,挟持口側端部を弾力化・柔軟化し,曲げ形状にも追従性をよくするためである。既に述べたとおり,挟持口側端部に,肉薄部と肉厚部が混在していては,弾力性・柔軟性が不均一になり,変形させることに困難が生じるから,曲げ形状に対する追従性は望めない。したがって,単に,挟持口側端部に空洞部があるというだけでなく,挟持口側端部の形状に略同一の空洞部が,挟持口側端部に隣接して存在することで,初めて,挟持口側端部に均一な肉薄部が形成され,変形が容易になり,曲げ形状への追従性が認められるのであるから,その点に斬新なデザインが見出される。
さらに,その前提として,挟持口側端部がいかなる形状をしているかという点が,空洞部及び肉薄部の形状にも影響するのであり,結局,挟持口側端部が膨出しているか否かという点は,デザインの斬新さに決定的な影響を与えるのである。
(3)挟持口側端部の間隔
確かに,本件登録意匠の願書や図面には,本件登録意匠の挟持口側端部が6mmであることは示されていない。しかし,本件登録意匠の図面を,通常の手すり径である直径34mmに拡大すると,挟持口側端部の間隔が6mmとなる。なお,手すり径には,直径34mm以上のものも存在するが,図面をさらに拡大すると,挟持口側端部の間隔は6mm以上となり,6mm未満となることはない。この点,請求人のカタログ(乙6)においても,直径34mmが最小である。
ところで,公知意匠1においては,「また,一対の突片部25a,25b間の切離しスリット20の幅に関しては,・・・・・。具体的には,指が入り込まない5mm未満(好ましくは4mm前後)に設定されている」(甲2【0021】5?8行)とあり,公知意匠2においては,「この両軟質部23a,23bの最小間隔・・・より具体的には,指が入り込まない5mm以下(好ましくは3mm前後)に設定されている」(甲5【0022】20,21行)とある。したがって,公知意匠1・2においては,挟持口側端部の間隔が,5mm以下となることが当然の前提とされており,本件登録意匠の挟持口側端部の幅と重なりあう範囲はない。公知意匠2によって解決すべき課題が,「挟持口に指を嵌りこむことを防止することにある」(甲5【0003】47行)とされており,公知意匠1においても,「被覆材の一対の切離し端部間に形成される隙間が極力小さくなるようにしたもの」(甲2【0005】41,42行)との記載があることに鑑みても,挟持口側端部の幅の違いは,本件登録意匠と公知意匠とのデザインの違いの決定的要素であるといえる。
なお,請求人の広告(乙7)においても,「9mm目地幅から5mm未満のスリム目地へ」として,挟持口側端部の間隔を,5mm未満とすることを強くアピールしている。
〔3〕弁駁書5.理由(3)について
請求人の主張は,否認ないし争う。
請求人は,公知意匠2(甲5)の挟持口側端部における最小間隔Sを挟んだ対面部分を平面と認識するのが通常であると主張する(弁駁書10頁1行)。
しかし,既に述べたとおり,「両軟質部23a,23bの間隔は,被覆材5の径方向外方に向うほど短くなっている」(甲5【0022】19,20行)のであり,仮に,挟持口側端部が平面であれば,挟持口側端部の間隔は,被覆材外周中心部から径方向外方に向かって変化せず,挟持口側端部が,径方向外方に向って膨出又は突出しているからこそ,径方向外方に向けて,挟持口側端部の間隔が狭くなるのである。
〔4〕結語
以上より,請求人の主張は,いずれも理由がなく,本件登録意匠に無効理由は存在しない。
〔5〕添付書類の目録
(1)乙第5号証 公開実用昭64-29423号 公開実用新案公報(写し)
(2)乙第6号証 ナカ工業株式会社のカタログ「手すり総合カタログVOL.8」(写し)
(3)乙第7号証 ナカ工業株式会社のリーフレット「より使いやすく,より安全に 廊下・階段手すりの目地がスリム幅になります。」(写し)
(II)平成28年2月8日付け口頭審理陳述要領書(2)
〔1〕請求人口頭審理陳述要領書の第5項(1-2)について
請求人は,乙5の手すり(以下「乙5意匠」という。)では,「嵌合膨大部2を笠木受け5の溝部に嵌合させて装着しており」「笠木受けに笠木を装着させる際に,クッション性を持たせて装着を容易にするためのもの」である一方,甲1意匠(引用意匠)では,「笠木材の膨出部を芯材の側壁凹部に嵌合させておらず,また,この膨出部により手すりの底面を形成している」ため,全く異なるものである旨主張する。
しかし,甲1意匠(引用意匠)の膨出部は,ブラケットに当接しているところ,ブラケットに押し付けられて変形しているように見え(甲1の4枚目),そうであれば,膨出部にクッション性が認められる。
また,そもそも,甲1意匠(引用意匠)は,芯材を除いた部分意匠であり,乙5の意匠と意匠的には変わらないのである。
〔2〕同(1-3)について
請求人は,本件登録意匠も,甲1意匠(引用意匠)も,膨出部が,「角片部から挟持口側端部の外周面の先端にかけて互いに対向する対面部が形成され」ているため,基本的構成態様が共通し,「膨出部の角が角丸形状である」点で共通するため,どちらも「丸みを帯びて膨らんだ膨出部」との印象を看者に与える,と主張する。
しかし,「互いに対向する対面部」といっても,引用意匠のように対向面が曲面となっているものと,本件登録意匠のように平面になっているものとでは,対面部として共通するとは到底いえない。
また,「膨出部の角」は,引用意匠では,外周側にしか存在しておらず,内周側では角がなく斜めとなっているのみである。そうすると,一方しかない「角が角丸形状である」点で共通していたとしても,そもそも,角が一つか二つかで大きな相違が生じているのである。そして,その結果,引用意匠では,「丸みを帯びて膨らんだ膨出部」というよりも,「口側に向かう膨出部」という印象を受けるのである。なお,本件登録意匠は,角が角丸形状であっても,「丸みを帯びて膨らんだ膨出部」との印象も与えないし,「口側に向かう膨出部」でもない。
さらに,引用意匠では,膨出部に「突片部」が含まれるが(甲2の図1の25),かかる突片部は,本件登録意匠には存在しないものであり,この点でも,大きな相違が生じている。
したがって,本件登録意匠と引用意匠では,要部で共通するものではない。
〔3〕同(2-2)について
(1)請求人は,本件登録意匠の図面を通常の手すり径である34mmに拡大すると,挟持口端部の間隔が6mmとなることについて,何ら証拠を提示していない,と主張する。
しかし,図面を測定すればすぐに分かることである。34mmが通常用いられる最小径であることは,乙6からも,甲6からも明らかである。
(2)また,請求人は,乙7には甲2意匠(公知意匠1)が掲載されていない,と主張する。
しかし,乙7の提出意図は,請求人が笠木の挟持口端部の間隔が5mm未満であることを強調していることであり,甲2意匠が掲載されていなくても全く問題ない。
(3)また,請求人は,挟持口端部の間隔が1mmあるいは2mm相違したとしても,そのような僅かな相違を看者が明確に認識できるものではなく,本件登録意匠と甲2意匠(公知意匠1)の類否判断に及ぼす影響は小さい,と主張する。
しかし,本件登録意匠は,全体が34mm程度の小さな意匠であるし,単に挟持口端部の間隔のみが相違するわけではなく,膨出部の形状と相侯って,挟持口端部の間隔の違いが外観に影響するものであり,見ただけで正確には認識できなくとも,相違を感じ取ることのできる差異であるといえる。
(4)さらに,請求人は,被請求人が6mmでもスリム目地と自認していると主張するが,本件登録意匠の類否判断とは全く無関係である。
被請求人が作成している商品における挟持口端部の間隔6mmと,請求人が作成している商品における挟持口端部の間隔5mmとは,相違している,というのみである。
〔4〕同(3)について
(1)請求人は,甲5意匠(公知意匠2)において,対向面が僅かに傾いた平面であるということもできるため,対面部は曲面に限られず,平面も含む,と主張する。
しかし,甲5に,かかる図面は一切開示されていない。甲5意匠は,対向面が曲面なのである。
(2)また,請求人は,甲2意匠(公知意匠1)の図2では,挟持口端部の対向面の一部が平面となっている,と主張する。
しかし,(2-1)図2のように一部のみ平面となっても,対向面全体としては曲面であり,「口側に向かう膨出部」である印象を受けるため,本件登録意匠とは大きく相違するものであるし,(2-2)そもそも,図2では,ブラケットに押し付けられたために,対向面の一部が平面になっているように見えるに過ぎず,甲2意匠の挟持口端部の対向面は曲面であるというべきである。

3.口頭審理調書
(1)請求人
1 請求の趣旨及び理由は,審判請求書,平成27年11月12日付け審判事件弁駁書及び平成28年1月25日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。
2 被請求人の提出した乙第1号証ないし乙第7号証の成立を認める。
(2)被請求人
1 答弁の趣旨及び理由は,平成27年7月17日付け審判事件答弁書,平成28年1月8日付け口頭審理陳述要領書及び平成28年2月8日付け口頭審理陳述要領書(2)に記載のとおり陳述。
2 請求人の提出した甲第1号証ないし甲第6号証の成立を認める。
(3)審判長
1 甲第1号証ないし甲第6号証及び乙第1号証ないし乙第7号証について取り調べた。
2 本件の審理を,終結する。


第5 当審の判断
当審は,意匠登録第1506020号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)がその出願の日前に出願された先願の登録意匠である甲第1号証に記載された意匠と類似しない意匠であり,意匠法第9条第1項の規定に該当する(無効理由1)とはいえないと判断する。
また,本件登録意匠が本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である甲第2号証に記載された意匠と類似しない意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する(無効理由2)とはいえないと判断する。
そして,本件登録意匠が甲第2号証及び甲第5号証に基づいて容易に創作することができたものともいえないので,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に違反して意匠登録を受けたもの(無効理由3)とはいえないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成24年11月6日に意匠登録出願され,平成26年8月1日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「手摺用被覆材」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に表されたとおりのものである。(別紙第1参照)
すなわち,本件登録意匠は,建物の階段や廊下にブラケットや脚部によって取り付けられる,手摺の芯材を覆う長尺の被覆材である。
その形態は,全体を側面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成し,側面視形状を左右対称状としたもので,底部の挟持口側の両端部(以下,この部分を「挟持口側端部」という。)の相互に対向する部分を垂直な平坦面状とし,挟持口側端部の内部に略縦長長方形状の空洞部(以下,この部分を「空洞部」という。)を設け,内周面における空洞部の上方の位置に立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する垂直な平坦面から続く内側の面を凹円弧状とし,外側の面を垂直面とした側面視略台形状の突起部(以下,この部分を「突起部」という。)を左右対称状に形成し,内周面の上方左右に間隔を開けて小型略U字状の短い小突出部(以下,この部分を「小突出部」という。)を垂下させて設けたものである。

2.無効理由1について(意匠法第9条第1項)
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録の出願の日前に出願された先願の登録意匠である甲第1号証に記載された意匠と類似する意匠であり,意匠法第9条第1項の規定に該当するものであり,意匠登録を受けることができないものであるので,その意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである旨主張するので,以下,検討する。

甲第1号証の意匠(以下,「引用意匠1」という。)(別紙第2参照)
引用意匠1は,本件登録意匠の出願の日前である平成22年(2010年)10月12日に出願した意願2010-24358号で,平成24年(2012年)11月9日に意匠権の設定の登録がされ,その後平成24年(2012年)12月10日に意匠公報が発行された意匠登録第1457151号の意匠であり,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に表されたとおりのものであって,意匠に係る物品を「建物用手すりの笠木材」としたものである。引用意匠1は,建物内の廊下等に取り付けられる,建物用手すりの芯材を覆う長尺の笠木材である。
そして,その形態は,全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成し,正面視形状を左右対称状としたもので,底部の挟持口側端部の相互に対向する部分を内側上方に向かった凸弧状の曲面とし,その下端部を内側に向かった小さな凸弧状に形成した2段の凸弧状とし,挟持口側端部の内部に略倒栗の実形状の空洞部を設け,内周面における空洞部の上方の位置に立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する2段の凸弧状面から続く内側の面を直線状の斜面とし,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を正面視左右対称状に形成し,内周面の上方左右に間隔を開けて,直角部を内側寄りとした略直角三角形状の小突出部を水平な段状に設けたものである。

3.本件登録意匠と引用意匠1との対比
(1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「手摺用被覆材」であって,引用意匠1は,「建物用手すりの笠木材」であるが,いずれも建物内の廊下や階段などに取り付けられる,手摺の芯材を覆う長尺の被覆材であるから,意匠に係る物品は共通する。
(2)形態における共通点
本件登録意匠と引用意匠1(以下,「両意匠」という。)を対比するため,本件登録意匠の向きを引用意匠1の向きに揃えて,以下,両意匠の形態について対比する。
両意匠は,
(A)全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成した点,
(B)正面視形状を左右対称状としたもので,その下方の挟持口側端部の内部に空洞部を設けた点,
(C)内周面における空洞部の上方の位置に立ち上がる,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を正面視左右対称状に形成した点,
(D)内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けた点,
において主に共通する。
(3)形態における差異点
一方,両意匠には,
(ア)正面視した挟持口側端部の相互に対向する部分の態様について,本件登録意匠は,垂直な平坦面状であるのに対して,引用意匠1は,凸弧状の曲面の下端部に小さな凸弧状を形成した2段の凸弧状である点,
(イ)空洞部の形状について,本件登録意匠は,略縦長長方形状であるのに対して,引用意匠1は,略倒栗の実形状である点,
(ウ)空洞部上方の突起部の形状について,本件登録意匠は,内側の面のラインが凹円弧状であるのに対して,引用意匠1は,内側の面のラインが直線状の斜面である点,
(エ)小突出部の態様について,本件登録意匠は,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成したものであるのに対して,引用意匠1は,直角部を内側寄りとした略直角三角形状の小突出部を水平な段状に形成したものである点,
に主な差異が認められる。

4.本件登録意匠と引用意匠1の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は,共通するから,以下,両意匠の形態の共通点及び差異点について評価し,両意匠の類否について判断する。
(1)共通点
そこで検討するに,共通点(A)については,全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けた態様は,両意匠に共通する全体の基本構成であるが,この種の物品分野においては,全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けた態様は,両意匠の他にも既に見られるもので,両意匠のみに認められる格別の特徴とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
次に,共通点(B)について,正面視形状を左右対称状とした態様は,この種の物品分野においては,ごく普通に見られるありふれた態様で特徴のないものといえ,また,その底部の挟持口側端部の内部に空洞部を設けた態様についても,両意匠の他にも既に見られるもので(例えば,参考意匠1,実開昭58-45842号:別紙第3参照),両意匠のみに認められる格別の特徴とはいえず,また,空洞部にも様々な態様のものがあることから,空洞部を設けたというだけで,直ちに両意匠が類似となる程の顕著な特徴とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度に留まるものである。
また,共通点(C)についても,内周面の空洞部の上方の位置に立ち上がる,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を挟持口側の両端部において左右対称状に形成した態様が共通しているが,この種の物品分野においては,内周面の上方の位置に立ち上がる,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を設けたものが他の意匠にも見られ(例えば,参考意匠2,意匠登録第1325621号:別紙第4参照),さほど特徴のない態様といえるものであり,両意匠のみに共通する態様とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
さらに,共通点(D)についても,内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けた態様が共通しているが,細部に係る態様で目立つものとはいえない態様であるうえ,この種の物品分野においては,普通に見られるありふれた態様であって,特徴のないものといえ,両意匠のみに共通する態様とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
そして,共通点全体として両意匠の類否判断に与える影響を考慮しても,これらの共通点が両意匠の類否判断を決定付けるものであるということはできない。
(2)差異点
これに対して,差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断を決定付けるものである。
すなわち,まず,差異点(ア)の正面視した挟持口側端部の相互に対向する部分の態様について,本件登録意匠の挟持口側端部の垂直な平坦面状を平行に対向させた態様は,本件登録意匠の出願前に見られない特徴的なものであり,それが全体の印象に影響を与えるもので,凸弧状の曲面の下端部に小さな凸弧状を形成した2段の凸円弧状である引用意匠1とでは,明らかに視覚的印象が異なり,その差異は,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
次に,差異点(イ)の空洞部の形状について,略縦長長方形状の空洞部を設けている本件登録意匠の態様は,略倒栗の実形状である引用意匠1とでは,両意匠を正面から見た場合の印象が明らかに異なり,その差異は,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
また,差異点(ウ)の空洞部上方の突起部の形状についても,細部に係るものではあるが,内側の面のラインが凹円弧状である本件登録意匠と,内側の面のラインが直線状である引用意匠1とでは,差異点(ア)の挟持口側端部の態様における差異と相俟って,視覚的印象が異なり,その差異は,両意匠の類否判断に僅かではあるが影響を与えるものといえる。
そして,差異点(エ)の小突出部の態様についても,細部に係るものであり,両意匠の態様ともありふれた態様といえるものであるが,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成した本件登録意匠と,直角部を内側寄りとして略直角三角形状の小突出部を水平な段状に形成した引用意匠1とでは,その視覚的印象が異なるものであるから,その差異は,両意匠の類否判断に僅かではあるが影響を与えるものといえる。
(3)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態において,差異点が共通点を凌駕し,それが両意匠の意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないものと認められる。
したがって,本件登録意匠は,先願の意匠である引用意匠1と類似しないものであって,本件登録意匠の意匠登録出願は,最先の意匠登録出願人による意匠登録出願であり,意匠法第9条第1項の規定に違反して登録されたものではないから,その意匠登録は,無効理由1によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。

5.無効理由2について(意匠法第3条第1項第3号)
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録の出願の日前に日本国内において公然知られた刊行物である甲第2号証に記載された意匠と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものであり,意匠登録を受けることができないものであるので,その意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,その意匠登録を無効とすべきである旨主張するので,以下,検討する。

甲第2号証の意匠(以下,「引用意匠2」という。)(別紙第5参照)
引用意匠2は,本件登録意匠の出願日前である平成23年(2011年)4月14日に発行された実用新案登録第3167262号の登録実用新案公報に掲載された【考案の名称】を「手すり」とした【図2】ないし【図5】に表された符号5の被覆材の意匠であって,その形態は,同公報の図面及び関連する説明の記載のとおりのものである。引用意匠2は,建物内の階段や廊下等の壁面に取り付けられる,建物用の手すりの芯材を覆う長尺の被覆材である。
その形態は,全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状の長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成したもので,その端部を約1/4円弧状に曲げたものである。そして,その正面視形状を左右対称状としたもので,正背面部の下方の挟持口側端部の相互に対向する部分を内側上方に向かった凸弧状の曲面とし,その下端部を内側に向かった小さな凸弧状に形成した2段の凸弧状とし,挟持口の内部に略倒栗の実形状の空洞部を設け,内周面における空洞部の上方の位置に立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する2段の凸弧状面から続く内側の面を直線状の斜面とし,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を正面視左右対称状に形成し,内周面の上方左右に間隔を開けて,直角部を内側寄りとした略直角三角形状の小突出部を水平な段状に形成した小突出部を設け,外周をごく薄い外層材で覆ったものである。

6.本件登録意匠と引用意匠2との対比
(1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「手摺用被覆材」であって,引用意匠2は,手すりの「被覆材」であるが,いずれも建物内の廊下や階段などに取り付けられる,手摺の芯材を覆う長尺の被覆材であるから,意匠に係る物品は共通する。
(2)形態における共通点
本件登録意匠と引用意匠2(以下,「両意匠」という。)を対比するため,本件登録意匠の向きを引用意匠2の向きに揃えて,以下,両意匠の形態について対比する。
両意匠は,
(A)全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成した点,
(B)正面視形状を左右対称状としたもので,その下方の挟持口側端部の内部に空洞部を設けた点,
(C)内周面における空洞部の上方の位置に立ち上がる,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を正面視左右対称状に形成した点,
(D)内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けた点,
(3)形態における差異点
一方,両意匠には,
(ア)正面視した挟持口側端部の相互に対向する部分の態様について,本件登録意匠は,垂直な平坦面状であるのに対して,引用意匠2は,凸弧状の曲面の下端部に小さな凸弧状を形成した2段の凸弧状である点,
(イ)空洞部の形状について,本件登録意匠は,略縦長長方形状であるのに対して,引用意匠2は,略倒栗の実形状である点,
(ウ)空洞部上方の突起部の形状について,本件登録意匠は,内側の面のラインが凹円弧状であるのに対して,引用意匠2は,内側の面のラインが正面視直線状の斜面である点,
(エ)小突出部の態様について,本件登録意匠は,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成したものであるのに対して,引用意匠2は,直角部を内側寄りとした略直角三角形状の小突出部を水平な段状に形成したものである点,
(オ)部材全体の態様について,本件登録意匠は,棒状であるのに対して,引用意匠2は,端部が円弧状である点,
(カ)引用意匠2は,略円筒形状の外周をごく薄い外層材で覆っているのに対して,本件登録意匠には,そのような外層材がない点,
に主な差異が認められる。

7.本件登録意匠と引用意匠2の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は,共通するから,以下,両意匠の形態の共通点及び差異点について評価し,両意匠の類否について判断する。
(1)共通点
そこで検討するに,共通点(A)については,全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けた態様は,両意匠に共通する全体の基本構成であるが,この種の物品分野においては,全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けた態様は,両意匠の他にも既に見られるもので,両意匠のみに認められる格別の特徴とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
次に,共通点(B)について,正面視形状を左右対称状とした態様は,この種の物品分野においては,ごく普通に見られるありふれた態様で特徴のないものといえ,また,その底部の挟持口側端部の内部に空洞部を設けた態様についても,両意匠の他にも既に見られるもので(例えば,前記参考意匠1:別紙第3参照),両意匠のみに認められる格別の特徴とはいえず,空洞部にも様々な態様のものがあることから,空洞部を設けたというだけで,直ちに両意匠が類似となる程の顕著な特徴とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度に留まるものである。
また,共通点(C)についても,内周面の空洞部の上方の位置に立ち上がる,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を挟持口側の両端部において左右対称状に形成した態様が共通しているが,この種の物品分野においては,内周面の上方の位置に立ち上がる,外側の面を垂直面とした正面視略台形状の突起部を設けたものが他の意匠にも見られ(例えば,前記参考意匠2:別紙第4参照),さほど特徴のない態様といえるものであり,両意匠のみに共通する態様とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
さらに,共通点(D)についても,内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けた態様が共通しているが,細部に係る態様で目立つものとはいえない態様であるうえ,この種の物品分野においては,普通に見られるありふれた態様であって,特徴のないものといえ,両意匠のみに共通する態様とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
そして,共通点全体として両意匠の類否判断に与える影響を考慮しても,これらの共通点が両意匠の類否判断を決定付けるものであるということはできない。
(2)差異点
これに対して,差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断を決定付けるものである。
すなわち,まず,差異点(ア)の正面視した挟持口側端部の相互に対向する部分の態様について,本件登録意匠の挟持口側端部は,垂直な平坦面状を平行に対向させた態様が本件登録意匠の出願前に見られない特徴的なものであり,それが全体の印象に影響を与えるもので,凸弧状の曲面の下端部に小さな凸弧状を形成した2段の凸円弧状である引用意匠1とでは,明らかに視覚的印象が異なり,その差異は,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
次に,差異点(イ)の空洞部の形状について,縦長長方形状の空洞部を設けている本件登録意匠の態様と,略倒栗の実形状である引用意匠2とでは,両意匠を正面から見た場合の印象が明らかに異なり,その差異は,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
また,差異点(ウ)の空洞部上方の突起部の形状についても,細部に係るものではあるが,内側の面のラインが凹円弧状である本件登録意匠と,内側の面のラインが直線状である引用意匠2とでは,差異点(ア)の挟持口側端部の態様及び差異点(イ)の空洞部の形状における差異と相俟って,視覚的印象が異なり,その差異は,両意匠の類否判断に僅かではあるが影響を与えるものといえる。
そして,差異点(エ)の小突出部の態様についても,細部に係るものであり,両意匠の態様ともありふれた態様といえるものであるが,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成した本件登録意匠と,直角部を内側寄りとして略直角三角形状の小突出部を水平な段状に形成した引用意匠2とでは,その視覚的印象が異なるものであるから,その差異は,両意匠の類否判断に僅かではあるが影響を与えるものといえる。
また,差異点(オ)の部材全体の態様が,棒状か端部が円弧状かについては,この種の物品分野においては,必要に応じて,設置する場所に合わせて棒状部材か曲げ部材かを選択して使用するものであるから,その点における差異が目立つものとはいえないが,部材が異なることは需要者に容易に認識できるところであるから,その差異は,両意匠の類否判断に僅かではあるが影響を与えるものといえる。
さらに,差異点(カ)の略円筒形状の外周の外層材の有無については,当該部分を注視して漸く気付く程度の細部に係る差異であるが,前記した差異点(ア)ないし差異点(ウ)と相俟って,正面視した場合の印象が異なるものといえるから,その差異は,両意匠の類否判断に僅かではあるが影響を与えるものといえる。
(3)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態において,差異点が共通点を凌駕し,それが両意匠の意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないものと認められる。
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証(無効理由2)に記載された引用意匠2の意匠と類似しないものであるから,意匠法第3条1項第3号に規定された意匠には該当せず,その意匠登録は,無効理由2によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。

8.無効理由3について(意匠法第3条第2項)
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において公知となっていた甲第2号証及び甲第5号証に基づいて容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項に該当することにより意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである旨主張するので,以下,検討する。
(1)甲第2号証の意匠(「引用意匠2」)(別紙第5参照)
引用意匠2は,本件登録意匠の出願日前である平成23年(2011年)4月14日に発行された実用新案登録第3167262号の登録実用新案公報に掲載された【考案の名称】を「手すり」とした【図2】ないし【図5】に表された符号5の被覆材の意匠であって,引用意匠2の形態は,前記5.のとおりであり,また,本件登録意匠と引用意匠2の共通点及び差異点は,前記6.のとおりである。
(2)甲第5号証の意匠(以下,「引用意匠3」という。)(別紙第6参照)
(2-1)引用意匠3
引用意匠3は,本件登録意匠の出願日前である平成19年(2007年)9月20日に発行された特開2007-239411号の公開特許公報に掲載された,【発明の名称】を「手摺り」とした【図2】ないし【図12】に表された符号5の被覆材の意匠であって,その形態は,同公報の図面及び関連する説明の記載のとおりのものである。
なお,【図8】ないし【図12】に表された意匠は,【図8】及び【図9】が第5実施形態に係る手摺りを示す図で,【図10】及び【図11】が第6実施形態に係る手摺りを示す図で,【図12】が第7形態に係る手摺りを示す図であるが,壁に取り付けるためのブラケットの断面形状が異なるものであるが,被覆材はいずれも同一の意匠であるため,当審においては,【図8】ないし【図12】に表された意匠を引用意匠3-1として,本件登録意匠と対比することとする。
さらに,【図2】ないし【図7】に表された被覆材の意匠については,【図2】ないし【図4】が第1実施形態に係る手摺りを示す図で,【図5】が第2実施形態に係る手摺りを示す図で,【図6】が第3実施形態に係る手摺りを示す図で,【図7】が第4実施形態に係る手摺りを示す図であり,軟質材の有無や外周面の薄い外層材の有無が異なるものであり,【図2】ないし【図4】に表された被覆材の意匠は同様のものであるため,ここでは,【図2】ないし【図4】に表された意匠を引用意匠3-2とし,【図5】に表された意匠を引用意匠3-3とし,【図6】に表された意匠を引用意匠3-4とし,【図7】に表された意匠を引用意匠3-5として,それぞれ本件登録意匠と対比することとする。
(2-2)本件登録意匠と引用意匠3-1
本件登録意匠と引用意匠3-1とは,
(A)全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成した点,
(B)挟持口側端部の両端部が内側に折り返して立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する面を正面視略垂直な平坦面とした点,
において主に共通する。
また,本件登録意匠と引用意匠3-1とは,
(ア)挟持口側端部の態様について,本件登録意匠は,内部に空洞部があるのに対して,引用意匠3-1は,空洞部がない点,
(イ)小突出部の態様について,本件登録意匠は,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成したものであるのに対して,引用意匠3-1は,小突出部を形成していないものである点,
(ウ)挟持口側端部の上方の態様について,本件登録意匠は,内側のラインが凹円弧状で短いのに対して,引用意匠3-1は,内側の面のラインが直線状で長い点,
に主な差異が認められる。
(2-3)本件登録意匠と引用意匠3-2
本件登録意匠と引用意匠3-2とは,
(A)全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成した点,
(B)挟持口側端部の両端部が内側に折り返して立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する面を正面視略垂直な平坦面とした点,
(C)内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けたものである点,
において主に共通する。
また,本件登録意匠と引用意匠3-2とは,
(ア)挟持口側端部の態様について,本件登録意匠は,内部に空洞部があるのに対して,引用意匠3-2は,空洞部がない点,
(イ)小突出部の態様について,本件登録意匠は,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成したものであるのに対して,引用意匠3-2は,円弧状の小突出部を内周面の上方から斜め方向に左右の間隔を離して形成したものである点,
(ウ)挟持口側端部の上方の態様について,本件登録意匠は,内側のラインが凹円弧状で短いのに対して,引用意匠3-2は,内側の面のラインが直線状で長い点,
(エ)引用意匠3-2は,外周面を薄い外層材で覆い,挟持口側端部の両端部を内側に折り返して立ち上がった部分に軟質材を設けて構成しているのに対して,本件登録意匠には,そのような外層材や軟質材がない点,
に主な差異が認められる。
(2-4)本件登録意匠と引用意匠3-3
本件登録意匠と引用意匠3-3とは,
(A)全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成した点,
(B)挟持口側端部の両端部が内側に折り返して立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する面を正面視略垂直な平坦面とした点,
(C)内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けたものである点,
において主に共通する。
また,本件登録意匠と引用意匠3-3とは,
(ア)挟持口側端部の態様について,本件登録意匠は,内部に空洞部があるのに対して,引用意匠3-3は,空洞部がない点,
(イ)小突出部の態様について,本件登録意匠は,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成したものであるのに対して,引用意匠3-3は,円弧状の小突出部を内周面の上方から斜め方向に左右の間隔を離して形成したものである点,
(ウ)挟持口側端部の上方の態様について,本件登録意匠は,内側のラインが凹円弧状で短いのに対して,引用意匠3-3は,内側の面のラインが直線状で長い点,
(エ)引用意匠3-3は,外周面を薄い外層材で覆い,挟持口側端部の両端部を内側に折り返して立ち上がった部分に薄い外層材と軟質材を設けて構成しているのに対して,本件登録意匠には,そのような外層材や軟質材がない点,
に主な差異が認められる。
(2-5)本件登録意匠と引用意匠3-4
本件登録意匠と引用意匠3-4とは,
(A)全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成した点,
(B)挟持口側端部の両端部が内側に折り返して立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する面を正面視略垂直な平坦面とした点,
(C)内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けたものである点,
において主に共通する。
また,本件登録意匠と引用意匠3-4とは,
(ア)挟持口側端部の態様について,本件登録意匠は,内部に空洞部があるのに対して,引用意匠3-4は,空洞部がない点,
(イ)小突出部の態様について,本件登録意匠は,内周面の上方から垂直方向に小型略U字状の短い小突出部を形成したものであるのに対して,引用意匠3-4は,円弧状の小突出部を内周面の上方から斜め方向に左右の間隔を離して形成したものである点,
(ウ)挟持口側端部の上方の態様について,本件登録意匠は,内側のラインが凹円弧状で短いのに対して,引用意匠3-4は,内側の面のラインが直線状で長い点,
(エ)引用意匠3-4は,外周面を薄い外層材で覆い,挟持口側端部の両端部を内側に折り返して立ち上がった部分の右側だけに軟質材を設けているのに対して,本件登録意匠には,そのような外層材や軟質材がない点,
に主な差異が認められる。
(2-6)本件登録意匠と引用意匠3-5
本件登録意匠と引用意匠3-5とは,
(A)全体を正面部の略円形状を長手方向に連続させて一定の長尺材とした略円筒形状とし,長手方向の底部に細溝状スリットを設けて挟持口を形成した点,
(B)挟持口側端部の両端部が内側に折り返して立ち上がる,挟持口側端部の相互に対向する面を正面視略垂直な平坦面とした点,
(C)内周面の上方左右に間隔を開けて小突出部を設けたものである点,
において主に共通する。
また,本件登録意匠と引用意匠3-5とは,
(ア)挟持口側端部の態様について,本件登録意匠は,内部に空洞部があるのに対して,引用意匠3-5は,空洞部がない点,
(イ)小突出部の態様について,本件登録意匠は,小型略U字状の短い小突出部を垂下して形成したものであるのに対して,引用意匠3-5は,円弧状の小突出部を内周面の上方から斜め方向に左右の間隔を離して形成したものである点,
(ウ)挟持口側端部の上方の態様について,本件登録意匠は,内側のラインが凹円弧状で短いのに対して,引用意匠3-5は,内側の面のラインが直線状で長い点,
(エ)引用意匠3-5は,挟持口側端部の両端部を内側に折り返した対向する面に軟質材を設けているのに対して,本件登録意匠には,そのような軟質材がない点,
に主な差異が認められる。
(3)創作性について
この引用意匠2と引用意匠3-1ないし引用意匠3-5の態様を組み合わせて本件登録意匠が容易に創作できたものであるかどうかについて検討してみると,本件登録意匠と引用意匠2の手すりの被覆材とは,正面視した挟持口側端部の態様や空洞部の内部の形状等の具体的な態様が異なり,また,本件登録意匠と引用意匠3-1ないし引用意匠3-5の手摺りの被覆材とは,挟持口側端部の空洞部の有無や挟持口側端部の上方の態様が異なり,さらに本件登録意匠の小突出部の態様は,引用意匠2とも,引用意匠3-2ないし引用意匠3-5とも異なり,引用意匠3-1ないし引用意匠3-5の手すりの被覆材に引用意匠2の空洞部と突起部を設けたとしても,本件登録意匠の態様を導き出すことはできない。本件登録意匠の挟持口側端部の正面形状とするためには,まず,引用意匠3-2ないし引用意匠3-5の外層材や軟質材を外して変更し,本件登録意匠のように小突出部を小型略U字状とし,引用意匠2の空洞部の形状を本件登録意匠のように略縦長長方形状とし,対向する面の上方の突起部の形状を本件登録意匠のように内側の面のラインを凹円弧状に変更してから組み合わせることとなり,いずれも,ありふれた改変の範囲であるとはいうことができないものであるから,本件登録意匠は,引用意匠3-1ないし引用意匠3-5の手摺りの被覆材に引用意匠2の空洞部と突起部を単に組み合わせたまでのものとは到底言うことができず,本件登録意匠の態様を容易に導き出すことはできないものである。
そうすると,本件登録意匠は,挟持口側端部の具体的な態様や空洞部の有無や挟持口側端部の上方の態様により,本件登録意匠独自の態様を持つものといえるものであるから,このような本件登録意匠は,引用意匠2と引用意匠3-1ないし引用意匠3-5に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものということはできない。

請求人は,本件登録意匠と甲第5号証(引用意匠3)の意匠とは,小突出部の位置や挟持口側端部の空洞部の有無で相違するものの,意匠全体の輪郭が共通する,そして,本件登録意匠における空洞部及び突起部を有する挟持口側端部の形態は,甲第2号証(引用意匠2)に示されているとして,本件登録意匠は,甲第5号証(引用意匠3)の意匠に甲第2号証(引用意匠2)の空洞部及び突起部を組み合わせることにより,容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項の規定に違反していると主張する。
確かに,挟持口側端部を引用意匠3-1のように挟持口側端部の先端部が折り返して立ち上がり,垂直な平坦面状とすることについては,この種の物品分野において,本件登録意匠の出願前から,既に見られるものであり,また,引用意匠2のように,突起部を設けた態様も,既に公然知られた態様であるといえるものである。それらの一つ一つについては,それらを本件登録意匠のものと同様のものとする点に格別の創作を要するものとはいえないものである。
しかしながら,前記したとおり,本件登録意匠の態様は,引用意匠3-1ないし引用意匠3-5の形状,及び引用意匠2の様々な部位における形状をそのまま組み合わせたものではなく,特に空洞部の形状は,ありふれた改変ではないから,容易に本件登録意匠の態様を導き出すことはできないものである。
(4)小括
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された,引用意匠2及び引用意匠3に基づいて容易に創作することができたものとは認められず,意匠法第3条第2項の規定には該当しないから,その意匠登録は,無効理由3によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。


第6 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,無効理由1である,意匠法第9条第1項の規定に違反して意匠登録を受けたものとはいえないから,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。
また,本件登録意匠は,無効理由2である,意匠法第3条第1項3号に規定された意匠に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。
そして,本件登録意匠は,無効理由3である,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず,意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲


審決日 2016-06-28 
出願番号 意願2012-28746(D2012-28746) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (L3)
D 1 113・ 113- Y (L3)
D 1 113・ 4- Y (L3)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 渡邉 久美 
特許庁審判長 本多 誠一
特許庁審判官 久保田 大輔
斉藤 孝恵
登録日 2014-08-01 
登録番号 意匠登録第1506020号(D1506020) 
代理人 玉置 菜々子 
代理人 雨宮 沙耶花 
代理人 山上 和則 
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