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審決分類 審判    K9
管理番号 1322359 
審判番号 無効2014-880008
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-06-13 
確定日 2016-11-07 
意匠に係る物品 給油機用防護具 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1472160号「給油機用防護具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1472160号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 事案の概要

本件は,請求人が,被請求人が意匠権者である意匠登録第1472160号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)についての登録を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯の概要

本件の意匠登録第1472160号に係る手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成24年11月30日:意匠登録出願(意願2012-029437号)
平成25年 4月23日:登録査定
平成25年 5月10日:登録第1472160号として設定登録
平成25年 6月17日:意匠公報発行
平成26年 6月13日:無効審判請求書(甲第1号証の1ないし甲第12号証提出)
平成26年11月 7日:審判事件答弁書(乙第1号証ないし乙第21号証提出)
平成26年12月 5日:証人尋問申出書及び尋問事項書(被請求人側,平内祐斗氏)
平成27年 4月17日:審判事件弁駁書(甲第13号証ないし甲第20号証提出)
平成27年10月 2日:証人尋問申出書及び尋問事項書(被請求人側,森永志帆氏)
平成27年10月 9日:当事者尋問申出書及び尋問事項書(被請求人側,土山理一郎氏)
平成27年10月23日:証人尋問申出書及び尋問事項書(請求人側,中野麻子氏)
平成27年10月28日:口頭審尋
平成27年11月10日:上申書(被請求人)(乙第22号証提出)
平成27年12月10日:証人尋問申出書及び尋問事項書(請求人側,古澤克己氏)
平成27年12月17日:上申書(請求人)(甲第21号証提出)
平成27年12月25日:審理事項通知書
平成28年 1月25日:口頭審理陳述要領書(被請求人)(乙第2号証の1,乙第2号証の2,乙第23号証及び乙第24号証提出)
平成28年 2月 8日:口頭審理陳述要領書(請求人)(甲第2号証の1ないし5及び甲第22号証提出)
平成28年 2月22日:口頭審理・証拠調べ

第3 請求人の主張の概要

1.審判請求書
請求人は,平成26年6月13日付け審判請求書を提出し,結論同旨の審決を求めると申し立て,その理由として要旨以下のように主張するとともに,証拠方法として甲第1号証の1から甲第12号証を提出している。

(1)本件意匠登録
請求人らが無効審決を求める意匠登録(以下「本件意匠登録」という。)は,登録番号第1472160号の給油機用防護具の意匠(以下「本件意匠」という。)に係る意匠登録である(甲第1号証の1及び2)。

(2)無効理由の要点
冒認出願
本件登録意匠は,本件意匠について意匠登録を受ける権利を有していない者により出願されたものであるため,いわゆる冒認出願であって,意匠法第48条第1項第3号により,無効とすべきである。

イ 共同出願違反
被請求人が本件意匠について意匠登録を受ける権利を有していたとしても,本件登録意匠には共同創作者が存在することから,本件意匠登録は共同出願されるべき意匠についての単独出願であって,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反して意匠登録されたものであり,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(3)請求人適格
請求人のシェル ブランズ インターナショナル アクチェンゲゼルシャフト(以下「請求人SBI」という。)は,本件意匠の真の創作者(共同創作者)であるシャロン・ワン(以下「ワン」という。)に発生した意匠登録を受ける権利を承継している(甲第2号証)。
また,請求人の昭和シェル石油株式会社(以下「請求人昭和シェル」という。)は同じく本件意匠の真の創作者(共同創作者)である上下政宏(以下「上下」という。)及び中野麻子(以下「中野」という。)に発生した意匠登録を受ける権利を承継している(甲第3号証)。
したがって,請求人らは,いずれも本件意匠についての意匠登録を受ける権利を保有しており,意匠法第48条第2項の要件を満たしている。

(4)本件意匠登録を無効とすべき理由
ア 本件意匠
本件意匠は,本件登録意匠の意匠公報(甲第1号証)に記載のとおりである。
本件意匠に係る物品は,サービスステーション(いわゆるガソリンスタンド)において,給油機に対して車両が進入する方向の前方及び/又は後方に設置され,車両が給油機に直接衝突するのを防止するために用いられる給油機用防護具であり,「リーダーボード」と通称されている(以下,本件意匠に係る物品を「リーダーボード」という。)。

イ 請求人ら
請求人SBIは,オランダのロイヤルダッチシェルを中心とするシェルグループのブランド管理会社である。シェルグループは世界各国で「Shell」のブランド(以下「シェルブランド」という。)のもとで,産油国から調達してきた原油を,製油所にてガソリン・灯油をはじめとした様々な製品へと精製し,サービスステーション等を通じて顧客に販売等を行っている。
請求人昭和シェルは,同グループ傘下にあり,日本においてシェルブランドのもとでサービスステーション事業を行っている。(甲第3号証)。

ウ 背景
本件意匠の創作に係る背景事情は以下のとおりである(甲第3号証)。
請求人SBIは,シェルブランドのイメージを統一するため,世界各国のシェルサービスステーションにおける建屋,看板,指示板,給油器等のサービスステーションの外観を構成するあらゆる部材(以下「外装部材」という。)のデザインを管理している。本件意匠登録に係る物品であるリーダーボードも外装部材の一種であり,そのデザインは請求人SBIの管理下にある。
日本国内のシェルブランドのサービスステーションでは,平成23年頃までは,請求人昭和シェルの管理の下,請求人SBIの定めた国際デザイン仕様規格である「Retail Visual Identity」(以下「RVI」という。)に基づく外装部材が使用されていた。しかし,平成23年に「Retail Visual Identity Evolution」(以下「RVIe」という。)という新しい国際標準仕様が定められ(甲第4号証),SBIから当該新仕様に基づき,サービスステーションのデザインを順次切り替えるよう示唆があったことから,請求人昭和シェルは,平成24年7月頃以降に,日本のシェルブランドのサービスステーションの全ての外装部材を,RVIeに従った新たな仕様の外装部材に切り替えることとした。
請求人昭和シェルは,平成24年1月に全国のサービスステーションの運営者が集まって開催されるディーラーズミーティングにおいて,RVIeに基づく新たな外装部材で構成されたサービスステーションのデモ展示を行うことを計画し,これに向けて,RVIeに基づく新たな外装部材の仕様を確定することとした。
もっとも,RVIeに基づく新たな外装部材に関しては,ブランドイメージの統一をより徹底するため,シェルグループが承認した業者から調達しなければならないことになっていた。そこで,請求人SBIは,請求人昭和シェルに対して,マレーシア法人のHexagon Holdings Berhadを中心とするヘキサゴングループを,請求人昭和シェルの外装部材の調達先として紹介した。
ヘキサゴングループでは,同グループの一員であるPolymer Composite Asia Sdn Bhd (以下「PCA」という。)というマレーシア法人が,アジア諸国で使用されるRVIeに基づいた外装部材の設計及び製造を行い,同グループの各国法人が工場からサービスステーションまでの当該外装部材の輸出入や配送等の流通を担っていた。日本において,RVIeに基づく外装部材の流通を担当することになったのが被請求人であった。
被請求人の代表者である土山理一郎(以下「土山」という。)によれば,被請求人はヘキサゴングループの日本法人となる予定の会社であり,日本で看板の製造販売等を行っていたサイベイト株式会社を母体とする会社であった(甲第5号証)。
しかし,請求人昭和シェルが調査した限りにおいて,サイベイト株式会社がサービスステーションの外装部材を供給した実績はなかった(甲第6号証)。
なお,被請求人は,当初から,PCAの製造した外装部材を日本に輸入し,請求人昭和シェルのサービスステーションまで配送する流通業者として関与することのみが予定されており,外装部材の設計やデザインを行うことは予定されていなかった。この点,被請求人が請求人昭和シェルに提出した被請求人に関する資料(甲第5号証)において,被請求人の強みとして,過去の導入実績(ただし,ヘキサゴングループの導入事例であって被請求人の導入事例ではない),輸入・流通体制,メンテナンス,コンプライアンス,低コスト,安全性等を強調しているものの,設計やデザインに係る実績や体制等に関する記載が一切ないことからも,被請求人が外装部材の設計やデザインを行うことは予定されていなかったことは明らかである。

エ 本件意匠の創作経緯
(ア)外装部材の仕様確定プロセス
本件意匠に係る仕様は,RVIeに基づく他の外装部材と同様のプロセスを経て確定していった。そこで,まずは,RVIeに基づく外装部材の仕様確定プロセスを以下において概説する(全体につき甲第3号証及び甲第2号証)。
RVIeに基づく外装部材の基本的な仕様は,RVIeに既に記載されているが,日本の場合には,消防法等の法規制,日本人の性格,嗜好,慣習,文化の観点から,デザインや素材について日本固有の仕様に変更する必要があった。そこで,以下のような役割分担によって,RVIeに基づく新たな外装部材の仕様が確定されていった。
まず,PCAが,請求人SBIが提供するRVIeや,これに準じたデザイン案に基づいて仕様の原案を作成し,被請求人を通じて,請求人昭和シェルに提示した。請求人昭和シェルは,PCAから原案を受領した後に,日本固有の観点(法的な要請や顧客側からの印象等)を考慮しつつ,デザインや素材の変更の指示を,被請求人を通じてPCAに対して行った。
さらに,請求人らと同じシェルグループ企業であるShell Eastern Petroleum Ltd.(以下「SEP」という。)のアジア地域のブランド・フォーマットコーディネーターであるワンも,アジア各国におけるRVI及びRVIeに準拠した外装部材の仕様確定に関する過去の経験等に基づき,被請求人を通じてPCAに対し仕様の変更を指示する場合もあった。請求人昭和シェルやSEPからの変更指示を受けたPCAは,これを踏まえて仕様案を変更し,改めて被請求人を通じて請求人昭和シェルに提案を行った。請求人昭和シェルやSEPは,PCAの変更案を検討し,さらに変更すべき点があれば,被請求人を通じてPCAに更に指示を行った。このような検討・修正過程を繰り返し,請求人らの承認を経て,最終仕様が確定されていった。
上述のとおり,被請求人はサービスステーションの外装部材を供給した実績がないため,外装部材の仕様について具体的な提案をする能力を備えておらず,仕様確定プロセスにおける被請求人の役割は,専ら請求人昭和シェル又はSEPのワンからの仕様変更の指示をPCAに伝達すること,また,PCAの変更案を請求人昭和シェル又はSEPのワンに伝達することにあった。
また,被請求人は,外装部材の仕様が確定した後,請求人昭和シェルと締結した資材購入基本契約に基づき,請求人昭和シェルから発注を受けPCAが製造した外装部材を,請求人昭和シェルの各サービスステーションまで配送する役割を担っていた。
したがって,外装部材の供給段階において,被請求人は,請求人昭和シェルに対するPCAの外装部材供給を仲介する商社又は販売代理店のような役割を有しているに過ぎず,外装部材の具体的な仕様変更に携わる立場にはなかった。

(イ)本件意匠の創作の具体的経緯
本件意匠の創作の具体的経緯は以下のとおりである(全体につき甲第3号証)。
まず,平成23年4月に,請求人SBIより,リーダーボードの仕様について,RVIeに基づく仕様(以下「基本仕様案」という。)の提案がされた(甲第7号証)。なお,甲第7号証の右下部に「ISSUE DATE」に「2011-04-01」とあるのは,基本仕様案が平成23年4月1日に発行されたものであることを示している。
請求人SBIが提供した基本仕様案を踏まえ,平成23年7月に,PCAの従業員であるサニ(Sani)ことサニスディン・ビン・カスムリ(Sanisudin bin Kasmuri)(以下「サニ」という。)がリーダーボードの仕様の原案を作成した(甲第8号証及び甲第9号証)。この原案では,支柱は1本しかなく,支柱は前面下部及び背面においてむき出しになっていた。
リーダーボードは,本来的には,油種の表示のために給油機の前に設置されるものである。しかし,日本では,消防庁の指導により,セルフサービスのサービスステーションにおいては,給油機に車両が衝突することを防ぐため,給油機の前に防護具としてガードポールを設置しなければならないことになっていた。そこで,日本のサービスステーションでは,リーダーボードにこの防護具としての機能も併用させていた。ところが,支柱が1本のリーダーボードでは,車両の衝突に耐え得る十分な強度を持ち得ない。また,PCAが提案したデザインでは,背面は,支柱等の亜鉛メッキ素材がむき出しになっていたが,これでは工事現場のようで見栄えが悪く,女性や高齢者には冷たい印象を与える可能性があった。そこで,請求人昭和シェルの中野は,被請求人を通じてPCAに対して,リーダーボードの強度を高め,かつ,むき出しの背面を覆うために,RVIで採用されていたリーダーボードと同様のデザインを適用することを提案した。
一方で,SEPのワンからも,リーダーボード前面においても支柱がむき出しになっているが,日本人は清潔好きなので,下部に支柱を隠す覆いを付けるようにとの指示があった。
平成23年10月3日に,請求人昭和シェルが,被請求人の土山を通じて取得したPCAのサニが作成した変更案(甲第10号証)では,支柱は2本となり,前面に支柱を覆い隠すための白色のパネル(以下「パネル下部」という。)が追加されていたが,背面は支柱等の亜鉛メッキ素材がむき出しのままだった。
これに対して,SEPのワンは,被請求人を通じてPCAに対して,RVIeにあるポスターフレームのデザインと統一感が出るよう,パネル下部の横幅をパネル上部よりやや狭くし,シルバーに変更するようにとの指示を出した。
一方,請求人昭和シェルでは,東京都八王子みなみ野に所在するサービスステーションに,この変更案に基づくリーダーボードを先行して設置してみたが,やはり背面の亜鉛メッキ素材がむき出しになっているのは見栄えが良くないと考えた。そこで,請求人昭和シェルの上下は,リーダーボードをよりソフトでシンプル,かつフレンドリーなデザインに変更すべく,被請求人を通じてPCAに対して,平成24年1月のディーラーズミーティングに設置するデモ展示用のリーダーボードでは,背面の亜鉛メッキ素材を覆い隠すためのパネルを追加するようにとの変更指示を出した。
これを受けて,平成24年1月のディーラーズミーティングで設置されたリーダーボードには背面にもパネルが設けられてはいたが,前面のパネルとは異なる素材の白い板で覆っただけのものだった。そこで,請求人昭和シェルの上下は,被請求人を通じてPCAに対して,リーダーボードの背面を,前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をした。
このようなSEPのワン並びに請求人昭和シェルの上下及び中野の指示を受け,PCAのサニが作成した平成24年2月20日付けのデザインは,2本の支柱と,その下部に底板が設けられ,前背面ともにシルバーのパネル下部と,同じく前背面ともに当該パネル下部よりもやや幅広の白色のパネルからなるものであった(甲第11号証)。結果的には,この案でリーダーボードの素材やデザインが確定し,最終仕様まで変更されなかった。
その後,平成24年2月20日付けのデザイン案に基づいて,文字表示のみを変更した最終案が作成され,最終案をまとめたデザインガイドブックが作成された(甲第12号証)。請求人らがこの最終案を承認し,リーダーボードの最終仕様が確定した(以下「最終確定意匠」という。)。
なお,デザインガイドブックに記載されている最終確定意匠と本件意匠とは,意匠に係る物品がいずれもリーダーボード,すなわち給油機用防護具であり,物品が共通する。また,最終確定意匠には「Shell Pura」,「レギュラー」及び「軽油」の文字等が記載されているという点で本件意匠と相違するが,これら文字等の表示は専ら情報伝達のためだけに使用されているものであって,意匠を構成するものではない。したがって,最終確定意匠及び本意匠とは,その基本的構成態様及び具体的構成態様も共通することから,同一の意匠である。

オ 本件意匠の創作者及び意匠登録を受ける権利を有する者
創作者とは,意匠の創作に実質的に関与した者をいい,具体的には,形態の創造,作出の過程にその意思を直接的に反映し,実質上その形態の形成に参画した者をいうべきであって,主体的意思を欠く補助者はこれに含まれない(大阪高等裁判所平成6年5月27日判決[平成5年(ネ)第2339号])。
上記エ(イ)で述べたように,本件意匠と同一の最終確定意匠は,RVIeや請求人SBIが提示した基本仕様案(甲第7号証)を基にPCAのサニが作成した原案(甲第9号証)に基づき,SEPのワン並びに請求人昭和シェルの上下及び中野からの変更指示を受け,PCAのサニが修正を行い(甲第10号証及び甲第11号証),調整が行われながら最終確定仕様として完成したものである(甲第12号証)。
したがって,本件意匠は,PCAのサニ,SEPのワン並びに請求人昭和シェルの上下及び中野によって創作されたものである。なお,PCAのサニは専らRVIeや請求人らの指示に基づいて作図を行ったに過ぎないから,本件意匠の創作者であるとは言い難い。
そして,請求人SBIは,SEPのワンから本件意匠に係る意匠登録を受ける権利を承継し(甲第2号証),請求人昭和シェルは,上下及び中野から本件意匠に係る意匠登録を受ける権利を承継している(甲第3号証)。
よって,本件意匠に係る意匠登録を受ける権利を有しているのは,請求人SBIと請求人昭和シェルである。

冒認出願
被請求人は,請求人らやPCAに何ら連絡することなく,平成24年11月30日に本件意匠について平内祐斗(以下「平内」という。)を創作者として意匠登録出願を行っているが,本件意匠はSEPのワン並びに請求人昭和シェルの上下及び中野が共同で創作したものであって,平内がその創作に関わっている事実は認められない。
被請求人は,PCAが製造した外装部材を日本に輸入し,請求人昭和シェルのサービスステーションに納品する流通業者に過ぎず,本件意匠の創作における役割も,SEPのワン並びに請求人昭和シェルの上下及び中野の指示をPCAに伝える仲介者ないし情報伝達者にすぎない。このため,本件意匠の創作者とされている平内が仮に本件意匠の創作に関与していたとしても,主体的意思を欠く補助者として関与したにすぎず,本件意匠の創作に実質的に関与したとはいえない。したがって,被請求人の平内は本件意匠の創作者ではない。
また,本件意匠の意匠登録を受ける権利が,被請求人に対して承継された事実もない。
よって,被請求人は,意匠登録を受ける権利を有していない。
以上より,本件意匠の登録は,意匠登録を受ける権利を有する者ではない者による冒認出願であって,意匠法第48条第1項第3号により,無効とすべきである。

キ 共同出願違反
上記オで述べたとおり,本件意匠は,SEPのワン並びに請求人昭和シェルの上下及び中野が共同で創作したものであり,請求人SBIはSEPのワンから本件意匠に係る意匠権を受ける権利を承継し(甲第2号証),請求人昭和シェルは上下及び中野から本件意匠に係る意匠登録を受ける権利を承継している(甲第3号証)。仮に,本件意匠の創作者として登録されている平内が,本件意匠の創作の一部に実質的に関与していたと認める余地があったとしても,本件意匠について意匠登録を受けるためには,上記の共同創作者又はこれらの者から意匠登録を受ける権利の持分を承継した者と,共同して出願しなければならない(意匠法第15条第1項で準用する特許法第38条)。
よって,本件意匠の登録は,仮に冒認出願でないとしても,少なくとも共同で出願されなければならない意匠が単独で出願されたものであって,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反して意匠登録されたものであり,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(5)むすび
以上より,本件意匠登録は,意匠登録を受ける権利を有する者ではない者による冒認出願であって,意匠法第48条第1項第3号により,無効とすべきである。
また,本件意匠登録が意匠法第48条第1項第3号により無効とすべきものでなかったとしても,本件意匠登録は共同出願されるべき意匠についての単独出願であって,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反して意匠登録されたものであり,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(6)証拠方法
1)甲第1号証の1 意匠公報(本件登録意匠:登録第1472160号)の写し
2)甲第1号証の2 意匠原簿(本件登録意匠:登録第1472160号)の写し
3)甲第2号証 陳述書(シャロン・ワン)の写し
4)甲第3号証 陳述書(上下政宏)の写し
5)甲第4号証 「RVI Evolution Specification」(抜粋)の写し
6)甲第5号証 「Hexagon Japanの御紹介」の写し
7)甲第6号証 サイベイト社ウェブサイト(抜粋)の写し
8)甲第7号証 「07.007 RVIe DRAWINGS FOR TENDER PACK」(抜粋)の写し
9)甲第8号証 陳述書(サニスディン・ビン・カスムリ)の写し
10)甲第9号証 リーダーボードの図面(Sani 25/07/2011 Rev B 3/8/2011)の写し
11)甲第10号証 リーダーボードの図面(Sani 25/07/2011 Rev D 3/10/2011)の写し
12)甲第11号証 リーダーボードの図面(Sani 26/01/2012/Rev Hiranai 20/02/2012)の写し
13)甲第12号証 「Shell RVI Evolution デザインガイドブック」(抜粋)の写し

2.審判事件弁駁書
また,請求人は,本件無効審判事件に関し被請求人より提出された平成26年11月7日付け審判事件答弁書における被請求人の主張に対して,平成27年4月17日付け審判事件弁駁書を提出し,要旨以下のとおり弁駁するとともに,証拠方法として甲第13号証から甲第20号証までの証拠を提出している。

(1)はじめに
本件意匠は,SEPのワン,請求人昭和シェルの上下及び中野らにより共同で創作されたものであり,被請求人は,これら意匠登録を受ける権利を有する者から当該権利を正当に譲り受けることなく出願を行っていることから,本件意匠の登録は冒認出願であって意匠法第48条第1項第3号により無効とすべきである。また,仮に平内が本件意匠の創作に関与していたとしても,本件意匠はワン,上下及び中野との共同創作であり,共同出願違反であって意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反して意匠登録されたものであるから意匠法第48条第1項第1号により無効とすべきである。
これに対して,被請求人は,本件意匠の創作の経緯や各当事者の本件意匠創作への関与について請求人らの主張とは大幅に異なる主張を展開した上で,平内が本件意匠の唯一の創作者であるから,冒認出願又は共同出願違反のいずれにもあたらないと反論する。
しかしながら,被請求人の主張は,後述のとおり,憶測と主観的な解釈により事実を歪めるものであり,また,独自の意匠法の解釈に基づくものであって失当である。
本件の争点は,本件意匠は平内が唯一単独の創作者ではないという点に尽きる。
被請求人は本件意匠の開発経緯についても事実と異なる様々な主張をし,また,本件と全く関連性のない本件意匠の開発後の事情を纏々述べていることから,被請求人の主張に逐一反論することは,本件の争点を不明確にすることになりかねない。そこで,まずは,「創作者」の意義に関する意匠法の一般的解釈を整理した上で本件意匠の創作者が,請求人昭和シェルの中野及び上下並びにシェルグループのSEPのワンであることを改めて明らかにする。その上で,本件意匠の作成が請求人らによって全面的に被請求人に委託されており,平内が唯一単独の創作者であるとの被請求人の主張に反論する。

(2)創作者の意義
ア 創作者
創作者とは,意匠の創作をした者(意匠法第3条柱書)であるが,その意義を明らかにするため,以下においては,まず,1)「意匠の創作」とはいかなる形態を創造する行為をいうのかを整理した上で,2)かかる形態の創造にどのような関与をした者が「創作者」と評価されるべきであるのかを明らかにする。

イ 意匠の創作
「意匠」とは,「物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法第2条第1項)であるところ,「美感」とは意匠審査基準では「美術品のように高尚な美を要求するものではなく,何らかの美感を起こすものであれば足りる。」とされている(甲第13号証)。美感を主観的な美しさと理解すると,それは人によって千差万別のものとなってしまい,法律上の要件として法的判断の対象に馴染むものではない。そのため,美感は広く,視界を通じて人間の心理に与える感覚的な影響一般を意味すると解される。むしろ,「美感」の要件は,意匠法の保護対象から,専ら物品の技術的機能を発揮させるための形態を除外し,特許法や実用新案法の保護範囲との線引きを図るための要件と捉えられている(甲第14号証)。そこで,意匠の美感性とは,美的処理をなす余地があったか否か,つまり,その形態が機能上一義的に決定されるものであるか否かという点をメルクマールとして区別されるものであると解される(甲第15号証)。この点,無効2012-880009号審決においても,骨格筋をデザインしたTシャツの創作に関して,骨格筋は必然的に選択される意匠であるとの主張に対して,「約9割の筋肉は,必然的に選択されるものであっても,残りの細々としたところでは,取捨選択に余地があり,選出し決定するという知的作業は,本件登録意匠を創作する際の作業の一部と認められる」としている(甲第16号証)。
以上を踏まえれば,機能上一義的に決定されるものではない形態は視覚を通じて美感を起こさせる「意匠」に該当し得るのであるから,かかる形態の創作行為は,「意匠の創作」に該当する。

ウ 「創作者」の判断
「創作者」の意義に関し,大阪高等裁判所平成6年5月27日判決(平成5年(ネ)第2339号)は,意匠の「創造,作出の過程にその意思を直接的に反映し,実質上その形態の形成に参画した者をいう」との解釈を示している。
具体的にどのような関与があれば,創作者として認められるのかという点について,同事案では「鉄工用クランプの開発という抽象的なアイデアを表示したにとどまり,その後,本件意匠の形態の創作過程において,自分の意思を反映させていない」場合は,意匠の創作過程において自分の意思を反映させたとはいえないと判断している。また,被請求人が引用する無効2010-880001号事件(乙第21号証)では,競合品が掲載されたカタログの提供,製品イメージの提示,製品デザインの最終決定等を行ったに過ぎない開発委託者は創作者には該当しないとの判断がされている。一方,前掲審決(無効2012-880009号審決)では,骨格筋をデザインしたTシャツの創作に関して,「約9割の筋肉は,必然的に選択されるものであっても,残りの細々としたところでは,取捨選択に余地があり,選出し決定するという知的作業は,本件登録意匠を創作する際の作業の一部と認められる」として,かかる作業に従事した者を創作者として認定している。
これらの裁判例や審決例を踏まえると,製品の形態の創作の方向性について単に抽象的なアイデアや製品イメージの提示,デザインの最終決定のみを行ったに過ぎない者は「創作者」に該当し得ないが,一方で,取捨選択に余地がある場合に,その中の一つを選出し決定するような作業を自らの意思に基づいて行った場合には,「創作者」に該当するといえる。

エ 小括
以上の結論を整理すると,意匠とは視覚を通じて美感を起こさせる物品の形態であるところ,美感を起こさせる形態とは,機能上一義的に決定されるものではない形態をいう。また,取捨選択の余地がある中で,一つの形態を選出する作業が行われていた場合には,そのような作業は「創作」と評価し得る。
したがって,機能上一義的に決定されるものではない形態について取捨選択の余地がある中で自らの意思に基づいて一つの形態を選出するような行為は「意匠の創作」に該当し,その行為者は意匠の「創作者」に該当すると解すべきである。
そこで以下,このような「創作者」の意義を前提とした場合に,中野,上下,ワンが本件意匠の創作者に該当することを改めて整理した上で,この点に関する被請求人の主張に反論する。

(3)本件意匠の創作者
ア 中野,上下,ワンによる創作行為
本件意匠は,平成23年7月にPCAのサニが作成したRVIeの基本仕様案(甲第7号証)に基づく原案(甲第11号証)を基礎として,請求人昭和シェルの中野及び上下並びにシェルグループのSEPのワンの指示により変更が行われることで完成したものである。具体的な変更指示は以下のとおりである。
まず,請求人昭和シェルの中野は,サニの原案(甲第11号証)について,支柱が一本のリーダーボードでは衝突防止装置としての機能を果たし得ないから強度の高いものに変更するようにとの指示を出した(甲第17号証)。同様にワンからも支柱を隠すためにリーダーボード前面に覆いを付けるようにとの指示がされた(甲第3号証)。これを踏まえた平成23年10月3日のサニの変更案では,支柱が2本となり,全面に支柱を覆い隠すための白色のパネルが追加された(甲第10号証)。
さらに,平成23年10月6日に,ワンは,RVIeにあるポスターフレームのデザインと統一感が出るように,リーダーボードのパネル下部の横幅をパネル上部よりやや狭くし,パネル下部の色彩をシルバーに変更するようにとの指示を出した(甲第2号証,甲第3号証)。
また,請求人昭和シェルの上下は,リーダーボードのデザインを,よりソフトでシンプルかつフレンドリーなデザインに変更すべく,背面にむき出しになっていた亜鉛メッキ素材を覆い隠すパネルを設置するように指示をし,白色のパネルが設置された。その後,上下はリーダーボードの背面を前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆う指示をした(甲第3号証)。
このような中野,上下,ワンの指示はいずれも,それぞれの意思に基づいて,具体的な形態の変更を指示するものであり,その変更案は機能上一義的に決定されるものではない。したがって,中野,上下,ワンの行為は,自らの意思に基づき,機能上一義的に決定されるものではない形態について,取捨選択の余地がある中で特定の形態への変更を指示するものであるから,本件意匠の創作行為に該当する。

イ 被請求人の主張とこれに対する反論
(ア)中野及び上下の創作行為について
被請求人は,中野及び上下は部材調達に関わる社員であり,部材のデザイン制作についての権限も能力もないと主張する(答弁書9頁)。しかし,上下は外装部材の仕様確定を行う「リテール販売部ネットワーク課」の責任者であり(甲第3号証),中野はその部下であったため(甲第3号証),外装部材のデザイン制作について,権限も能力も有していたのであるから,被請求人の主張には根拠がない。
なお,被請求人は,上下の創作行為について,前面と同じパネルで覆うことを提案したのは土山である旨を主張する(答弁書18頁)。しかし,上下の変更指示は,背面にむき出しになっていた亜鉛メッキ素材を覆い隠すという,リーダーボードの美感に大きく影響を与える変更であるから,覆い隠す方法について土山が具体的な提案をしたとしても,これにより上下の創作行為が否定されるものではない。なお,このような被請求人の主張は,美感に重大な影響を与える背面デザインに平内が関与していないことを自認するものであって,平内が単独の創作者であるとの主張に矛盾するものであることを付言する。

(イ)ワンの創作行為について
被請求人は,ワンについても「基本的に本件意匠の創作にはかかわっておらず,最終的な了承を与える際に意見を述べただけ」と主張する(答弁書10頁)。しかしながら,かかる主張は,甲第2号証別紙2から6にあるワンと土山との本件意匠のデザインを巡るやりとりの存在を無視するものである。すなわち,甲第2号証別紙2から6のメールのやりとりは,平成23年(2011年)10月6日から平成24年(2012年)2月21日までにされたものであり,「最終的な了承を与える際に意見を述べただけ」とは到底いえない。
また,被請求人はワンの指示について,デザイン製作をするにあたっての「制約又は許容範囲」を示したものに過ぎず,意匠の「創作」とはいえないと主張する(答弁書18頁)。
しかしながら,「制約又は許容範囲」を示す行為であっても,その指示が具体的な形態の選択であって,視覚を通じて美感を起こさせる形態を決定付けるような具体的な指示であれば,かかる指示は意匠の創作行為であるということができる。ワンの指示は具体的な図面を例示しての色彩の指定であるから,選択の余地のないところであって,明らかな「創作」行為である。
なお,被請求人は,ワンが自ら図面を作成したことや寸法等について具体的な指示をしていないことをもって,ワンの指示が「創作」足り得ないことを主張しているが,創作者とは,形態の創造,作出の過程にその意思を直接的に反映し,実質上その形態の形成に参画した者であれば足り,自ら図面を作成する立場でない者も当然に含まれ得る。

ウ 小括
よって,中野,上下,ワンはそれぞれ本件意匠の創作に際して,自らの意思を直接的に反映し,実質上その形態の形成に参画した者であるといえるから,本件意匠の創作者に該当する。
なお,仮に平内等の第三者も本件意匠の創作者と評価し得るとしても,かかる他の創作者の存在は中野,上下,ワンの創作行為を否定するものではないし,本件意匠は共同創作に該当するという請求人らの予備的主張と矛盾するものではない。

(4)被請求人の主張に対する反論
ア 被請求人の主張
被請求人の主張の概要は次のとおりである。

(ア)本件取引における被請求人の役割に関する主張
被請求人は,RVIeに基づく外装部材に関する取引(以下「本件取引」という。)において,自らの本件取引での役割について,単にPCAの製造した外装部材を輸入・流通するだけでなく,日本固有の外装部材の設計やデザインを行う役割も担っていた(答弁書4頁)。

(イ)本件意匠の創作経緯に関する主張
リーダーボードのデザインが日本における規制や慣行を踏まえて一からデザインしなければならないものであったため,請求人昭和シェルは,被請求人にリーダーボードのデザインを丸投げされており,リーダーボードのデザインは,被請求人の従業員として勤務していたデザイナーの平内が単独で全て創作した(答弁書12頁)。
これらの被請求人の主張はいずれも客観的事実に反するものである。そこで以下,本件取引における被請求人の役割と,本件意匠の創作経緯のそれぞれの主張に対して反論する。

イ 本件取引における被請求人の役割
被請求人は,日本法人である請求人昭和シェルが,マレーシア法人のPCAが製造したRVIeに準拠した外装部材を円滑に調達するため,両者の間に介在する役割を有しており,本件取引において,被請求人は,いわば海外の会社が日本で商品を販売するために設立する販売子会社のような存在に過ぎなかった。
これに対して,被請求人は,自らの本件取引での役割について,単にPCAの製造した外装部材を輸入・流通するだけでなく,日本固有の外装部材の設計やデザインを行う役割も担っていたと主張する(答弁書4頁)。
この点に関して被請求人はその根拠を縷々主張するが,いずれも真実に反するか,事実を自らの都合のよいように解釈するものであって失当である。以下,被請求人の各主張に反論する。

(ア)資材購入基本契約書
被請求人は,被請求人が単なる輸入・流通業者ではないことの根拠として,請求人昭和シェルとPCAとの間に契約関係がない一方で,請求人昭和シェルと被請求人の間で「資材購入基本契約書」(乙第3号証)が締結されていることを挙げる(答弁書4頁)。
しかし,同契約書には,発注方法(第2条),所有権・危険負担(第4条),検収手続(第5条),品質保証(第7条)等の商品売買に関する基本契約(調達基本契約)に関する典型的な基本条件が定められており,同契約書は,まさに外装部材の輸入及び流通に関する基本契約書である。被請求人が主張するように,外装部材の意匠の開発も「丸投げ」で委託がされていたのであれば,知的財産権の帰属や,非侵害保証等の新たに創作された意匠に関する規定が設けられるはずである。しかし,このような規定は「資材購入基本契約書」には一切設けられていない。
また,「資材購入基本契約書」の請求人昭和シェル側の押印者はプロキュアメントチームのリーダーである本村賢一(以下「本村」という。)である。プロキュアメントチームは,「procurement」(調達)という名称が付されているとおり,資材調達部門であって,外装部材のデザインを担当する部署ではない(甲第18号証)。
国際調達取引において,国内の会社が海外のサプライヤーから製品を購入する際に,当該サプライヤーの国内支社との間で売買基本契約(調達契約)を締結するのは極めて一般的な実務である(甲第19号証)。したがって,請求人昭和シェルが,本件取引において,海外サプライヤーであるヘキサゴングループの日本支社の役割を担っていた被請求人との間で「資材購入基本契約書」を締結していたことは,被請求人の役割は日本におけるRVIeに基づく外装部材の流通であったという請求人らの主張と何ら矛盾するものではなく,むしろ,国際調達取引の一般的実務に照らせば,請求人らの主張を裏付けるものといえる。
なお,被請求人は,被請求人が流通業者に過ぎないというのであれば請求人昭和シェルはPCAとの間で資材購入に関する基本契約を締結していたはずとも主張する(答弁書4頁)。かかる主張の趣旨は明らかではないものの,シェルグループとPCAの間には実際に資材購入に関するグローバル調達基本契約が締結されているから,被請求人の主張は反論として意味をなさない。

(イ)被請求人と請求人昭和シェルのミーティング
被請求人は,被請求人が請求人昭和シェルから本件意匠の創作の委託を受けていた根拠として,請求人昭和シェルと被請求人の間で頻繁にミーティングが行われ,部材の種類・数・デザインについての協議がされたと主張している(答弁書5頁)。
しかし,頻繁にミーティングを行ったという事実のみをもって意匠創作の委託がされたと直ちに解釈することはできず,被請求人の主張には飛躍がある。請求人昭和シェルは,被請求人をヘキサゴングループの日本支社と認識した上で,ヘキサゴングループの窓口との認識で土山らと接していたに過ぎない。実際に,土山のEメールには常にヘキサゴングループのドメイン名(@hexagonholding.com)を有したメールアドレスの者がccに入っているし(甲第3号証の別紙5及び6,乙第8号証,乙第9号証の1),土山自身も同じドメイン名を使用したヘキサゴングループのメールアドレス(tsuchiyama@hexagonholding.com)を使用しており(乙第7号証の1,乙第8号証の1),ヘキサゴングループの一員として活動をしていた。したがって,請求人昭和シェルとしては,被請求人との協議は,当然,PCAを含むヘキサゴングループとの協議という認識であった(甲第17号証)。
したがって,請求人昭和シェルと被請求人の間で頻繁にミーティングが行われていた事実は,本件取引において被請求人の役割に関する請求人らの主張と何ら矛盾するものではない。

(ウ)ワンの平成23年10月10日付けEメール
被請求人は,ワンによる平成23年10月10日付け電子メールの内容を根拠として,ワン自身が「リーダーボードの役割が日本独自のものであり,デザインもそれに応じて日本独自のものでよい」との認識を有しており,「デザインの決定は被請求人からの提案に対して了承するという受動的な態度」を示していたことから,「請求人らがリーダーボードのデザインを日本のローカルサプライヤーである被請求人に委託していたことは,明らかである。」と主張する(答弁書6頁)。
しかし,平成23年10月10日付けEメールは「リーダーボードを衝突防止装置として使用するのはローカルの要請であるから,全体のデザインはこれでよい(Since it is local requirement to use the leaderboard as a crash guard,the overall design is acceptable.)」というものである(甲第2号証別紙3)。この発言から,リーダーボードのデザインが被請求人に委託されていたという結論が導かれるという被請求人の主張には著しい飛躍がある。
後述するように,リーダーボードは日本独自のものではなく,あくまで衝突防止機能を付加する意味で日本固有のデザイン上の変更が許容されていたに過ぎない。ワンは,日本の法規制との関係でリーダーボードに衝突防止装置としての役割を持たせる必要があることから,その仕様が日本独自のものにならざるを得ないことを理解した上で,かかる法規制を踏まえたリーダーボードのデザインになることを承知したに過ぎず,平成23年10月10日付けEメールもそのように読むのが自然である。
また,シェルグループのグローバルブランド管理を行うSBIが,リーダーボードのデザインについて「受動的」であることもあり得ない。実際に,ワンは被請求人が引用した部分に続いて,リーダーボードのデザインについて,他国のRVIeのデザインとの統一性を維持するために,具体的にリーダーボードのベース下部の幅を上部よりやや狭くし,色をシルバーに変更するようにとの積極的かつ具体的な指示を出している。

(エ)サイベイト株式会社の実績
被請求人の母体であったサイベイト株式会社は外装部材を供給した実績がなかったとの請求人らの主張に対して,被請求人は,サイベイト株式会社は過去に請求人昭和シェルに対して太陽電池が設置されていることを示す看板を納入していたと反論する(答弁書11頁)。
請求人昭和シェルにおいて,過去の受注履歴等を調査したところ,確かにそのような事実が確認された。しかし,この看板はごくありふれたものであり(甲第19号証),かかる看板の受注実績があったとしても,サービスステーションの外装部材についてのノウハウを有していたとは到底いえない。
以上のとおり,被請求人は,ヘキサゴングループの窓口として,PCAが製造したRVIeに基づく外装部材を請求人昭和シェルに対して円滑に供給するための仲介としての役割を有していたに過ぎず,被請求人に対して本件意匠の創作が委託された事実は全く存在しない。

ウ 本件意匠の創作者
上記のとおり,本件意匠の創作者は中野,上下,ワンであり,本件意匠はこの3人の共同創作にかかる意匠である。仮に他に創作者がいたとしても,かかる者と中野,上下,ワンの共同創作となるに過ぎない。これに対して被請求人は,リーダーボードは日本固有の外装部材であって,そのデザインの創作は請求人昭和シェルから被請求人に丸投げされていたものであるから,被請求人の従業員であった平内が唯一単独の創作者であると主張する。この点について,被請求人はその理由を縷々主張しているため,以下必要な範囲で反論する。

(ア)リーダーボードの機能
被請求人は,リーダーボードがRVIeに記載のない日本固有の外装部材であることから,本件意匠の創作は全面的に被請求人に委託されていたと主張する(答弁書12頁)。
被請求人の主張によれば,リーダーボードは「給油機に対して車両が進入する方向の前方又は後方に設置されることにより,車両が給油機に直接衝突することを防止するためのもの」(答弁書5頁)であり,「日本独自の法規制により置かれているもの」(答弁書6頁)であり,RVIeには「リーダーボードの項目はない」(答弁書5頁)し,シェルグループで「リーダーボードの基本仕様は設けられていない」(答弁書6頁)とのことである。
しかしながら,この主張は,リーダーボードに関する基本的理解の欠如に基づく完全な誤りである。「リーダーボード」(Leader Board)という用語は,おそらくシェルグループ固有のものであるが,その本来的役割は油種表示をすることにある。つまり,サービスステーションを訪れた顧客に給油可能な油種を表示する文字表示板がリーダーボードなのである。この点において,リーダーボードが本来的に衝突防止装置であって日本独自の法規制により置かれているものであるとする被請求人の主張は,リーダーボードに関する被請求人の基本的理解の欠如を示すものであり,失当である。
また,油種表示板としてのリーダーボードは,世界各国のシェルグループのサービスステーションに標準的に設置されており,RVIeにもリーダーボードの記載がある(甲第20号証)。リーダーボードには,ゴミ箱などが設置されるCSU(Customer Service Unit)という部材の側面に設置されるものと,「自立式」と呼ばれる独立して設置されるものの二種類がある。RVIeに記載があるリーダーボードはCSUに設置されるタイプのものであり(甲第17号証),基本仕様案(甲第7号証)に記載されているリーダーボードは自立式のものである。日本においては,消防法上の要請からリーダーボードに衝突防止具としての機能を持たせなければならないため,CSUにリーダーボードを設置することはできない。しかし,日本以外の国ではCSUに設置されたリーダーボードは多く存在するし,また,衝突防止装置としての機能を有していない基本仕様案にそのまま準拠した自立式のリーダーボードも,世界各国のシェルブランドのサービスステーションに設置されている。この点において,RVIeにはリーダーボードの項目はなく,リーダーボードの基本仕様は設けられていないとの被請求人の主張も全くの誤りである。

(イ)デザインを「丸投げ」した事実はないこと
被請求人はリーダーボードのデザインは日本における規制や慣行を踏まえて一からデザインしなければならないものであって,請求人昭和シェルから丸投げされて,全て平内が担当していたと主張する(答弁書12頁)。
しかし,上述したとおり,リーダーボードの役割は日本独自のものではなく,消防法上の要請によって,衝突防止機能が付加されているという点において独自性を有していたに過ぎない。したがって,そのデザインも,日本用のリーダーボードは,グローバル仕様のデザインをベースとして衝突防止機能を有するために必要な修正をする必要があるに過ぎず,被請求人が主張するような「一からデザインしなければならない」というようなものでもないし,変更案もあくまで請求人SBIの管理下にあり,かつその承認を得なければならないものであるから,請求人昭和シェルが被請求人に「丸投げ」できる性質のものではない。

(ウ)本件意匠の原案
被請求人は,本件意匠の原案は平内が創作した乙第6号証のデザイン図であると主張する(答弁書13頁)。
そもそも,乙第6号証のデザインは,平内の独自のアイデアではなく,請求人昭和シェルの中野が発案した形態を図面化したに過ぎないが(甲第17号証),この点は措くとしても,被請求人自身が認めるように,サニ作成にかかる甲第9号証のデザイン図は平内作成に係る乙第6号証のデザイン図とは異なっており,本件意匠とも「著しく異なっており,類似性もない」(答弁書13頁)。したがって,乙第6号証のデザイン図は,本件意匠の原案たり得ない。なお,この点について,被請求人は「PCAが既に製造している部材の材料を組み合わせただけのものであり,可能な限りコストを抑えるために作成したものと思われる」(同頁)とするが,結論ありきの都合の良い憶測に過ぎない。
むしろ,平内のデザイン図(乙第6号証)の提案にも関わらず,これと全く異なる甲第9号証の図面をサニが作成したことは,サニの図面は専らRVIeに基づく基本仕様のデザイン(甲第7号証)に準拠して作成されたと考えるのが自然である。
なお,この点に関し,被請求人は,サニの原案の基となった甲第7号証が請求人らの捏造であると主張する。無論,そのような事実はない。確かに,被請求人が指摘するように,甲第7号証と乙第5号証は記載に一部異なる点がある。改めて調査したところ,基本仕様案を作成していたJurgen Van Der Windenが,修正日付け(「REV.DATE」)を最初の変更日付けである平成23年4月1日から変更しないまま,基本仕様案のバージョンアップを行っていたことが判明した。もっとも,甲第7号証と乙第5号証は,点線の有無やレイアウトに微細な違いはあるにせよ,サニの原案(甲第9号証)と同一性を有するデザインが記載されていることには変わりはなく,また,サニ自身も原案(甲第9号証)がグローバル標準の基本仕様書を基礎として作成されたものであることを認めているところである(甲第8号証)。

(エ)本件意匠の創作過程
被請求人は,本件意匠の変更が平内によって行われたことを縷々主張するが,以下のとおり,その主張の根拠は脆弱であるし,平内が単独で本件意匠を創作したとの被請求人の主張にも矛盾がある。
まず,被請求人は,本件意匠の創作過程において,ワンがシンガポールを拠点にしていたことを理由に,マレーシアのPCAに直接指示が可能であったのにそうしなかったことや,上下や中野のデザインに関する指示が被請求人を通じてPCAに伝達されたことについて,「伝達役にデザインについての意見や要望を述べることはありえない」と主張する(答弁書15頁)。しかし,なぜ「ありえない」のかその根拠は示されていない。上述のとおり,請求人らにとって被請求人はヘキサゴングループの連絡窓口であったのだから,PCAへの指示を土山に対して行うことはごく自然である。
また,平内はPCAと直接のやりとりを行うことなく,製造図面は基本的にPCAが作成・修正を加えており,平内の作成するデザイン画と並行的に作成されていたと主張する(答弁書15頁)。しかし,平内が本件意匠の単独の創作者なのだとすれば,平内の関与なしに仕様確定のプロセスが進んでいくこと自体が不自然である。PCAの製造図面と平内のデザイン画が同時並行で進んでいたことは,被請求人を含む関係者間において,リーダーボードの仕様確定に関して,平内が唯一の創作者ではなかったことを自認するに等しい。
さらに,被請求人は,乙第9号証の1によるフィルダウス氏のサニへの指示をもって平内のデザインがもとになっているとも主張する(答弁書16頁)。しかし,これはリーダーボードの足部分における直角三角形状の補強材の配置に関するやりとりの一部に過ぎず,平内が本件意匠を創作したことの根拠にはならない。また,被請求人は「graphic」が平内のデザイン画であると主張するが,そのデザイン画は証拠として提出されておらず,フィルダウス氏が指摘する「graphic」がどの「graphic」をさしているのかは明らかではない。なお,直角三角形状の補強材の配置は,高野氏からの提案で変更されたデザインであって,そもそも平内の創作にかかるものですらない。
なお,被請求人は,平成23年10月10日付けの電子メールを根拠に「リーダーボードのデザイン開発は,土山が主体となり,中野氏や消防署,その他強度計算の専門家の意見を総合的に踏まえた上で,被請求人によって行われていた」(答弁書16頁)と主張する。しかしながら,かかる主張は,土山が本件意匠の創作行為を行っていたと主張するに等しく,平内が単独で本件意匠を創作したという被請求人の主張に矛盾する。

(オ)平内の陳述書
被請求人は,平内が本件意匠の創作者であることを立証するために平内の陳述書(乙第2号証)(以下「平内陳述書」という。)を提出するが,その陳述内容は,以下のとおり,自らが意匠の創作は行っていないことを自認するものである。
まず,平内は,パネル下部に覆いを設けたことなどのデザイン変更について「その後,土山氏からの指示を踏まえて,足が2本になり,また,文字を表示するパネルの下部には,別のパネルを付けて足を隠すような形になりました。このような形になったのは,土山氏がPCA及び昭和シェルと話し合った結果,PCAが製造している他の部材のための材料を利用することで,コストが下げられることがわかったからです。私は,そのデザインをコンピュータ上で作成し,土山氏に渡しました」としている(平内陳述書4頁)。これは,平内は土山の指示に従ってコンピュータ上でデザイン図を作成したに過ぎず,自らの意思によりデザインを発案したものではないことを自認するものである。
また,パネル下部のデザイン変更についても,平内は「土山氏の指示に従って,リーダーボードの足元のカバーの幅を少し狭くし,色もシルバーのものに変更しました」(平内陳述書4頁)とし,リーダーボードの裏面に表面と同じパネルを付すことについても「土山氏が裏面も表と同じパネルを付けることを提案し,私がそれをデザイン画にしました。」(同頁)としている。これは,パネル下部のデザイン変更や裏面のデザイン変更が,いずれも平内の発案によるものではないことを自認するものである。
このように,平内は,本件意匠の創作過程においては常に土山の指示を受けたものであって,平内自身がそのような役割にあることを十分に理解していたのである。

エ 小括
以上のとおり,本件取引において,請求人昭和シェルは被請求人に対してリーダーボードのデザインを全面的に委託したことはないし,平内は本件意匠の創作の過程において専ら請求人らの指示に従った図面の作成を行ったに過ぎず,自らの意思に基づいた意匠の創作行為を行ってはいない。被請求人の主張によれば,請求人昭和シェルはリーダーボードについての基本的知識すら欠如する被請求人にデザインを全面委託し,しかも,外装部材をデザインした経験のない平内がその全てのデザインを自らの意思に基づいて創作したということになるが,このような主張が不合理であることは明らかである。被請求人は自らに都合良く事実を歪め,自らに都合の良い主張を試みるものであるが,そのあまりの不合理さ故か,被請求人の主張は破綻しており,本件意匠が平内の単独創作にかかるものではないことすら自ら認めてしまっている。
以上より,被請求人の主張はいずれも事実に基づかないものであって失当である。

(5)結語
被請求人の主張は,意匠法の解釈についての独自の見解に基づくものであり,かつ,その多くの主張事実が真実と異なるばかりか,自ら平内が単独の創作者であることを否定するかのような自己矛盾を内包する主張である。
よって,本件意匠について被請求人が単独で意匠登録を受ける権利を有するという被請求人の主張は失当である。
証拠から合理的に推認される本件の事実関係を,意匠法の合理的な解釈に基づいて評価すれば,本件意匠が請求人らの創作にかかるものであって被請求人の本件意匠の出願は冒認出願であることは明らかであり,また,仮に平内に何らかの創作行為が認められるとしても,本件意匠は共同出願されるべき意匠である。

(6)証拠方法
1)甲第13号証 意匠審査基準第10頁及び第11頁の写し
2)甲第14号証 茶園成樹著『意匠法』第27頁の写し
3)甲第15号証 寒河江孝充他編著『意匠法コメンタール(第2版)』56頁から58頁の写し
4)甲第16号証 無効審決(無効2012-8800009号事件)の写し
5)甲第17号証 陳述書(中野麻子)の写し
6)甲第18号証 陳述書(本村賢一)の写し
7)甲第19号証 看板の設置イメージ図の写し
8)甲第20号証 RVIe 5頁及び6頁の写し

3.上申書
また,請求人は,平成27年12月17日に上申書を提出し,証拠方法として甲第21号証の証拠を提出している。

(1)証拠方法
1)甲第21号証 陳述書(古澤克己)の写し

第4 被請求人の主張の概要

1.審判事件答弁書
被請求人は,平成26年11月7日付け審判事件答弁書を提出し,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人らの負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由として要旨以下のように主張するとともに,証拠方法として乙第1号証から乙第21号証までの証拠を提出している。

(1)請求の理由に対する反論
ア 請求人らの主張及び被請求人の主張の概要
請求人らは,主位的主張として,登録番号第1472160号の給油機用防護具の意匠(以下「本件意匠」という。)は請求人らが創作したものであるから,被請求人による意匠登録はいわゆる冒認出願であると主張し,また,予備的主張として,本件意匠につき被請求人が意匠登録を受ける権利を有していたとしても,本件意匠は,共同創作者である請求人らと共同出願されるべきであったにもかかわらず単独出願されたものであり,共同出願違反であると主張する。
請求人らは,その理由として,被請求人は,当初から,ヘキサゴングループのPolymer Composite Asia Sdn Bhd(以下「PCA」という。)の製造した外装部材を日本に輸入し,請求人昭和シェル石油株式会社(以下「請求人昭和シェル」という。)のサービスステーションまで配送する流通業者として関与することのみが予定されており,外装部材の設計やデザインを行うことは予定されていなかったと主張し,また,本件意匠の創作過程についても,請求人シェル ブランズ インターナショナル アクチェンゲゼルシャフト(以下「請求人SBI」という。)から提案された本件意匠の基本仕様を元に,PCAのSanisudin bin Kasmuri 氏(以下「サニ氏」という。)が原案を作成し,請求人昭和シェルの上下政宏氏(以下「上下氏」という。)及び中野麻子氏(以下「中野氏」という。),ロイヤルダッチシェル・グループのSharon Wan氏(以下「ワン氏」という。)がデザインや素材の変更の指示を行ったと主張する。
しかし,本件意匠は,請求人昭和シェルから直接資材の発注を受けた被請求人が,デザイナーの平内祐斗(以下「平内」という。)にデザインさせて創作したものであり,平内が本件意匠の創作者である。請求人らは,本件意匠の基本仕様の提供その他仕様の指示を行っていない。また,PCAのサニ氏は,被請求人からデザインの原案を受け取り,量産のための製造図面を作成したに過ぎず,本件意匠の創作者たりえない。上下氏,中野氏及びワン氏についても,被請求人に対して依頼者としての意向,要望を伝えたとしても,製品の製作委託をする過程においては通常のことであり,いずれも,平内の創作者としての地位を失わせるものではない(乙第1号証,乙第2号証)。
そして,平内は,本件意匠が創作された当時,被請求人の社員として活動していたのであり,創作した本件意匠の登録を受ける権利を被請求人の譲渡することに同意しているから(甲第2号証),被請求人が本件意匠につき登録を受ける権利を有する唯一の者であったことは,論を待たない。

イ 請求人らの主張する事実に対する反論
(ア)被請求人の契約上の位置付け
請求人らは,被請求人は,PCAの製造した外装部材を日本に輸入し,請求人昭和シェルのサービスステーションまで配送する流通業者として関与することのみが予定されており,外装部材の設計やデザインを行うことは予定されていなかったと主張するが,全く事実に反する。請求人昭和シェルは,外装部材を調達するための「資材購入基本契約書」を被請求人と締結しているのであり(乙第3号証),請求人昭和シェルとPCAとの間には,一切の契約関係がなかった。また,資材の発注等のやりとりも,請求人昭和シェルは,もっぱら被請求人との間で行っており,PCAとは直接的な接触をほとんど行っていない。
仮に被請求人が単なる輸入・流通業者として関与するに過ぎない立場なのであれば,請求人昭和シェルは,被請求人より信用力のあるPCAとの間で資材購入に関する基本契約を締結し,被請求人は,PCAから輸入・流通業務だけを下請けするか,別途請求人昭和シェルと輸入・流通のみに関する契約を締結していたはずである。請求人昭和シェルがPCAと直接契約せず被請求人との間でのみ契約を締結したのは,PCAが世界のロイヤルダッチシェル・グループに対して外装部材を供給した実績があるといっても,日本固有の部材については日本独自の規制内容などについての知識を有しておらず,十分な対応ができないからである。被請求人は,請求人昭和シェルからの元請けとして,部材のデザインからPCAへの発注,輸入,搬送までを一括して受注することにより,日本固有の部材を含む請求人昭和シェルの全国のサービスステーションの外装部材の供給元として,請求人昭和シェルとの間で包括的な基本契約を締結したのである。
なお,請求人らは,審判請求書において,「被請求人を通じてPCAに対し」といった表現を用い,あたかも請求人昭和シェルが実質的にPCAとの間でやりとりを行っており,被請求人が単なる伝達役でしかなかったかのように主張するが,実際には,PCAに対して具体的かつ実質的な指示をしていたのは,被請求人である。被請求人は,請求人昭和シェルからの要望を受けてリーダーボードの意匠を考案し,請求人昭和シェルと毎週のようにミーティングを重ねて部材の種類・数・デザインについて提案や調整を行った結果をPCAに指示していたのであり,請求人昭和シェルがPCAに対して指示をしたことは,直接的にも間接的にもない。PCAは,被請求人が上記過程を経て考案したデザインの指示を受けて製造するための図面を作成し,被請求人から部材の注文を受けて生産をしていただけである。

(イ)本件意匠にかかる基本仕様書がないこと
請求人らが本件審判において証拠として提出している「RVI Evolution Specification」(甲第4号証)は,ロイヤルダッチシェル・グループの新しいRVIe規格の共通仕様書であり,同グループのサービスステーションにおいて共通に使用される部材の仕様が細かく定められているが,この中には,リーダーボードの項目はない。リーダーボードは,給油機に対して車両が進入する方向の前方又は後方に設置されることにより,車両が給油機に直接衝突することを防止するためのものであるが,これは,消防法及びこれに付随する下位法令により,ガソリン等の危険物の取扱所において「自動車等の衝突を防止するための措置」を取ることが要求されていることによるものであり(消防法第10条第4項・危険物の規制に関する政令第17条第2項第9号・危険物の規制に関する規則第25条の9第5号),日本独自の法規制により置かれているものである。したがって,ロイヤルダッチシェル・グループでは,リーダーボードの基本仕様は設けられておらず,請求人昭和シェルが,独自に部材を調達して,そのサービスステーションに設置している。
そのことは,ワン氏が被請求人の代表者である土山理一郎(以下「土山」という。)に宛てた平成23年10月10日付けEメールの中で,「リーダーボードを衝突防止装置として使用するのはローカルの要請であるから,全体のデザインはこれでよい(Since it is local requirement to use the leader board as a crash guard, the overall design is acceptable.)」と述べていることからもわかる(ワン氏の陳述書(甲第2号証別紙3)参照)。ワン氏は,リーダーボードの役割が日本独自のものであり,デザインもそれに応じて日本独自のものでよいと認識していたため,デザインの決定は被請求人からの提案に対して了承をするという受動的な態度を取っていた。リーダーボードがロイヤルダッチシェル・グループの共通仕様に沿ったものでなければならないのであれば,ワン氏が上記のような表現をするはずはなく,そのことからも,請求人らが,リーダーボードのデザインを日本のローカルサプライヤーである被請求人に委託していたことは,明らかである。
なお,従来のリーダーボードについても,ロイヤルダッチシェル・グループが仕様を有していたわけではなく,株式会社ボックス(以下「ボックス社」という。)がデザインして製造し,請求人昭和シェルに納入していたが,その形状は,被請求人が製造・納入したリーダーボードとは異なり,長方形の箱状をしていた(乙第4号証)。
また,請求人らは,平成23年4月に,請求人SBIがリーダーボードの仕様について,甲第7号証に記載のRVIeに基づく仕様書(以下「本件仕様書」という。)の提案を行ったと主張しているが(ただし,誰に対して提案,提示したのかについては主張されていない。),そのような事実はない。被請求人は,本件意匠を創作する過程において,請求人らから,本件仕様書を含むいかなる仕様書の提示を受けたこともない。被請求人は,本件審判に先立って,請求人昭和シェルの代理人と本件意匠その他の事項をめぐって和解交渉を行っていたが,その交渉中の平成25年9月30日,請求人昭和シェルの代理人である奥野総合法律事務所の奥野善彦弁護士ら(本件審判の代理人とは異なる。)から,PCAのサニ氏が請求人らと共同で本件意匠を創作するにあたってロイヤルダッチシェル・グループから示された仕様書とされる文書の提示を受けた(乙第5号証)。この文書は,発行日(Issue Date)が平成23年4月1日,整理番号(Reference Number)が「07.007-9」と,本件仕様書と同じであり,一見すると,リーダーボードの図面以外の仕様が書かれた部分がマスキングされているほかは,本件仕様書と同一の文書であるようにも思われるが(マスキングは,情報保護の観点からなされたものと考えられる。),この文書は,本件仕様書と異なり,右側のリーダーボード正面図の足元の部分に点線の囲いがなく,リーダーボード側面図に足の部分がない。また,本件仕様書と異なり,リーダーボード側面図と,文書右側の「Notes」と記載された文字列部分までの空白部分がより大きくなっている(甲第7号証・乙第5号証参照)。
仮に,RVIe規格のリーダーボードの仕様書が,平成23年4月の時点で被請求人又はPCAに提示されていたという事実が真実なのであれば,誰が請求人昭和シェルの代理人であろうと,同じ仕様書が証拠として提示されるはずである。しかし,実際には,奥野総合法律事務所の奥野善彦弁護士らが請求人昭和シェルの代理人として提示した仕様書(乙第5号証)と,本件審判の代理人が提示した仕様書(甲第7号証)は,同じ趣旨で提示された証拠であるにもかかわらず,明らかに内容が異なっている。このことからは,本件意匠の元となる仕様書は平成24年4月の時点において存在しておらず,本件意匠の創作者を巡って紛争となった後に,請求人らが自らの主張を取り繕うために仕様書を捏造したとしか考えられない。本件仕様書と奥野善彦弁護士らが提示した文書は,いずれも修正番号(Revision Number)が「2.0」となっており,後に修正された違うバージョンのものが誤って証拠として提示されたなどという弁解をする余地はなく,請求人らが紛争発生後に場当たり的に作成したものであることは,疑いようがない。
また,被請求人の代表者である土山は,平成23年6月21日に,PCAの取締役であるJeff Wong 氏(以下「ジェフ氏」という。)及びTee Kok Wong 氏(以下「ティー氏」という。)を伴って初めて請求人昭和シェルの元に赴き,昭和シェルブランドのサービスステーションのデザインの更新に伴う資材の発注を,被請求人に対して行うようプレゼンテーションしている(甲第5号証)。この時点においては,昭和シェルブランドのサービスステーションの資材を,PCAを含むヘキサゴングループが製造することは決まってなかったばかりか,PCAは,日本の部材に関して請求人昭和シェルとは接点さえなかったのであり,これに先立つ平成24年4月1日に本件仕様書がPCAや被請求人に提案されるなどということは,そもそも時期的にもありえず,矛盾している。
以上より,本件意匠にかかる基本仕様書が存在していなかったことは,明らかである。日本にしか存在しないリーダーボードの意匠は,資材の発注を受けた被請求人が平内に一から作らせたものである。

(ウ)PCA及び請求人らには意匠を創作する立場の人物がいないこと
請求人らは,本件意匠は,SBIから提案された基本仕様を元に,PCAのサニ氏が原案を作成し,請求人昭和シェルの上下氏及び中野氏,ロイヤルダッチシェル・グループのワン氏がデザインや素材の変更の指示を行ったとして,本件意匠はサニ氏,上下氏,中野氏又はワン氏によって創作されたと主張する。
しかし,まずサニ氏は,PCAにおいて部材のデザインの製作を行う役割を担っていたのではなく,既にデザインされた部材について,PCAにおいて量産するための製造図面を作成する立場の者であるにすぎない。そのため,サニ氏は,被請求人から送られてきたデザイン原画を元に,PCAにおいて低コストで製造することが可能となるような材料の選択,寸法の調整をすることはあっても,自ら意匠を考案して創作することはない。そのことは,サニ氏の陳述書(甲第8号証)において,サニ氏が,自らの役割を「ヘキサゴンジャパンを通じて伝えられるシェルまたは昭和シェルからの指示に従って看板の図面を作成すること」と述べており,自らはデザインを考案しておらず,指示されるままに図面を作成しただけである旨述べていることからも明らかである。なお,サニ氏は,「ヘキサゴンジャパンを通じて伝えられるシェルまたは昭和シェルからの指示」という表現を用いているが,それは,被請求人からなされた具体的な指示の背後に,請求人らの被請求人に対する指示があったとサニ氏が考えていただけのことであり,被請求人がPCAに指示を出すにあたり,その指示が請求人らによるものであるなどと言ったことはない。また,サニ氏の上記の供述は,PCAに対する指示が請求人らからなされることはなく,もっぱら被請求人によってなされたものであることを示している。
また,上下氏及び中野氏は,請求人昭和シェルにおいて部材調達に関わっている社員であり,部材のデザイン製作についての権限も能力もない。請求人昭和シェルはデザイン製作を被請求人に丸投げしているため,上下氏又は中野氏は,被請求人から提案された複数のデザイン案を比較して選択したり,これを了承するなどのことは行ったが,自ら図案を示してデザインを提案することはなく,提案されたデザイン案に意見を述べることがあっても,後述のように,そのことによって平内の本件意匠の創作者としての地位が失われるとはいえない。
ワン氏についても同様であり,ワン氏は,基本的に本件意匠の創作には関わっておらず,最終的な了承を与える際に意見を述べただけであり,このことによって平内の本件意匠の創作者としての地位が失われることはない。

(2)本件意匠の創作経緯
ア 請求人昭和シェルと被請求人及びPCAとの接点
被請求人が請求人昭和シェルと取引を開始することとなったきっかけは,PCAが被請求人に対し,請求人昭和シェルを紹介したことに始まる。
被請求人代表者である土山は,かつてヘキサゴングループのホールディング会社であるHexagon Holdings Berhad(以下「ヘキサゴンHD」という。)でチーフ・コンサルティング・オフィサーとして勤務していたが,ヘキサゴンHDのCEOであるJason Tan氏(以下「ジェイソン氏」という。)とPCAのCOOであるジェフ氏から,日本にヘキサゴングループの法人を設立して欲しいと頼まれ,被請求人(旧商号:ヘキサゴンジャパン株式会社)を設立することにした。
日本での新会社設立は,請求人昭和シェルの外装部材の切り替えとは直接関係なく,ヘキサゴングループの日本での販路拡大を目指したものだったが,もともとヘキサゴングループ傘下のPCAが,ロイヤルダッチシェル・グループの海外の会社への外装部材の供給を行っており,請求人昭和シェルにもかつて資材を供給していたことがあったことから,PCAの業務執行取締役であるジェフ氏は,土山に対し,請求人昭和シェルに営業プレゼンをすることを提案した。土山は,請求人昭和シェルに対して自ら連絡をし,プレゼンをする約束を取り付けた。
こうして被請求人の会社設立に先立つ平成23年6月21日,土山は,PCAのジェフ氏及びティー氏と共に,営業プレゼンをするために請求人昭和シェルのもとに赴いた。被請求人は,このとき初めて請求人昭和シェルとコンタクトを持ったのであり,PCAも,かつては部材を請求人昭和シェルに納入していた実績があるものの,当時は一切契約関係を持っていなかったため,このときがその後の取引関係における請求人昭和シェルとの最初の接点となった。また,請求人昭和シェルは,この時点では,外装部材を従来のRVIから新しいRVIeに切り替えることを決定していなかった。
ジェフ氏,ティー氏及び土山がプレゼンに用いた資料は甲第5号証のとおりである。土山は,被請求人はヘキサゴングループから外装部材を調達することができ,その後のメンテナンス・クリーニング業務及び管理業務についてはサイベイト株式会社(現商号:gCストーリー株式会社,以下「サイベイト」という。)が行うことができるとの説明を行った。
このときのプレゼンにおいては,請求人昭和シェルが被請求人に対して外装部材の発注を行うということは言及されなかった。
なお,請求人らは,土山が,サイベイトは日本で看板の製造販売等を行っていたと説明したが,サイベイトがサービスステーションの外装部材を供給した実績はなかった旨主張する。
しかし,サイベイトは,請求人昭和シェルが東日本大震災を契機にその系列サービスステーションに太陽電池を設置した際に,サービスステーションに設置された,太陽電池が設置されていることを示す看板を実際に納入しているのであり,請求人昭和シェルとはプレゼンの当時取引関係にあった。また,被請求人は,プレゼンの中で,サイベイトが看板の製造を担当するとは説明しておらず,サイベイトは,あくまで納入後のメンテナンス・クリーニング業務及び管理業務を行うと説明していた。

イ 請求人昭和シェルからのリーダーボード開発の依頼
その後,平成23年7月に入り,請求人昭和シェルの中野氏は,土山に対し,外装部材の正式な発注があるかどうかはわからないが,日本特有の部材で世界共通の仕様が存在しないリーダーボードについて,デザインを考えてくれないかとの依頼を行った。中野氏を含む請求人昭和シェルからは,リーダーボードの意匠について,消防法令上の要求を満たす強度を有するものであることが必要という要望があった程度で,具体的なデザインの内容について,何の指示もなかった。
土山は,これを了承してリーダーボードの開発に着手することとした。

ウ リーダーボードの当初図案
請求人昭和シェルから注文される部材のうち,世界共通のものについては,既に仕様が決まっているため,被請求人はPCAに製造を依頼するだけでよかったが,日本独自の部材については,共通仕様のようなものは存在しないため,日本における規制や慣行を踏まえて一からデザインしなければならず,それは,請求人昭和シェルから被請求人に対して,丸投げのような形で委託された。被請求人においては,日本独自の部材のデザイン,及び世界共通の部材の日本向けの文字表記のデザインは,全てデザイナーである平内が担当することとなった。
平内は,現在は独立してフリーのデザイナーをしているが,当時は,サイベイトの社員として看板のデザイン製作などに従事しており,被請求人が請求人昭和シェルから外装部材のデザイン一切の製作を委託されることになったため,サイベイトから被請求人に出向することとなった。
サイベイトのオフィスは被請求人と同じフロアを共有しているが,平内は,その共同オフィス内にて,被請求人の従業員として,もっぱら請求人昭和シェル向け部材のデザイン製作に従事していた。
平内は,まず,土山から大まかなデザインの指示を受けて,コンピュータの製図ソフトウェアの「Illustrator」を使って,平成23年7月21日付けでリーダーボードの最初のデザインを作図した(乙第6号証)。このデザイン図は,支柱がなく,1枚の板が地面まで伸びているもので,従来のRVI規格のリーダーボードを参考にしたものであるが,被請求人が請求人昭和シェルの中野氏に見せ,中野氏から,これで行きましょうという了承が得られたため,製造を担当するPCAと共有することとなった。
被請求人は,このデザインをPCAに提示し,これを元にリーダーボードを合理的な価格で量産できるか検討するよう依頼した。被請求人がコンタクトしていたPCAの担当者はMohd Firdaus氏(以下「フィルダウス氏」という。)であり,土山及び被請求人の藤島志帆(以下「藤島」という。)は,フィルダウス氏及びティー氏と頻繁に電話やEメール,インターネット電話を通じて協議をしていただけでなく,何度もマレーシアに飛んで直接協議を行っていた。
土山は,フィルダウス氏を通じてPCAで作成された製造図面を受領したが,それは,平内が製作したデザイン図とは異なり,既にPCAで製造している部品を組み合わせたものであった(甲第9号証)。図面はPCAのサニ氏が作成したものであるが,サニ氏が作成した製造図面は,PCAが既に製造している部材の材料を組み合わせただけのものであり,可能な限りコストを抑えるために作成したものと思われる。サニ氏が,平内が作成したデザイン図をフィルダウス氏から提供されていたか否かについては不明である。
なお,サニ氏が作成した図案は,1本の脚にボードが1枚貼り付けられただけのものであり,足元の部分に覆いはなく,また,背面は支柱がむき出しとなったものであるから,本件意匠とは著しく異なっており,類似性もない。

エ 意匠の変更
被請求人は,PCAから受領した図面を請求人昭和シェルの中野氏らに見せたが,中野氏らは,消防法令上,強度的な問題で承認が下りない可能性があると指摘した。そこで被請求人は,平内を中心に,改めてリーダーボードのデザイン画を製作し,これをPCAに提供し,製造図面を作り直すよう依頼した。その過程としては,まず,請求人昭和シェルから指摘を受けた内容及び土山の指示を平内氏に伝え,デザイン全般を平内が担当した。図面は,その時点で昭和シェルの担当者に見せて了解をもらった上で,土山がPCAに送り,PCAの中で,グローバルの共通部材を使用して作成した場合の組み立て図や,部材の厚みなどが記載された詳細の製造図面が作成された(乙第1号証,乙第2号証)。PCAに対しては,土山は,PCAのフィルダウス氏又はティー氏との間で,電話,Eメール,インターネット電話会議で協議をした他,直接マレーシアに赴き,平内が作成したリーダーボードのデザイン画を示すなどをして,リーダーボードの意匠に関する指示を行った。なお,当時作成されたデザイン画やPCAとのやりとりのEメール等の資料は,現在においては,断片的なもの以外は保存されておらず,残っていない。
土山は,リーダーボードが消防法令に基づく衝突防止装置としての役割を求められていることから,考案したリーダーボードの設置が消防法令上の衝突を防止するための措置となるかについて,サービスステーションの部材を納入した経験のある東亜レジン株式会社に相談しているほか,強度計算を専門に行うタングラム社の高野菊男氏(以下「高野氏」という。)に対し,リーダーボードの強度についてのアドバイスを求めた(乙第7号証の1及び2)。そして,それらの相談やアドバイスを踏まえた上で,デザイナーの平内に,自動車等の衝突に耐えられる強度を持つリーダーボードの形状をデザインさせた上,PCAにデザイン画を提供し,その詳細を伝えて製造用の図面を作成させた。
この製造用の図面を作成したサニ氏は,単に被請求人から示されたデザインを,工業的に大量生産するための図面に落とす役割しか担っていない。このことは,ワン氏が土山に送付したEメールを見ても明らかである。ワン氏は,平成23年10月6日,土山に対し,月曜日(同年10月3日)に土山と交わした議論に加えての要望であるとして,リーダーボードのデザインについて,RVIeの宣伝ポスター板(Promotional poster frame)と似たものにして欲しい旨意見を述べたが(ワン氏の陳述書(甲第2号証別紙2)参照),このことは,リーダーボードのデザインの創作は,サニ氏を含むPCAが行っていたのでも,請求人昭和シェルの中野氏や上下氏が実質的に行っていたのでもなく,土山,すなわち被請求人サイドが行っていたことを示している。もし実質的な創作行為が,サニ氏その他PCAの者により行われていたのであれば,ワン氏はPCAに対して直接指示すればよく(シンガポールを拠点にしていたワン氏はPCAに直接コンタクトを取ったこともある。),また,実質的な創作が請求人昭和シェルの中野氏又は上下氏の指示によりなされており,被請求人が単なる伝達役を担っていただけなのであれば,そのような伝達役にデザインについての意見や要望を述べることはありえないからである。
なお,リーダーボードのデザインを担当した平内は,PCAとの間で直接やりとりすることはなく,PCAとのやりとりは,もっぱら土山又は藤島が行った。また,平内が作成したデザイン画がPCAで製造図面になった後,平内の方でデザインを修正するときには,平内は自身で作成したデザイン画に修正を入れ,同時にPCAで作成した製造図面の方も土山の指示を受けてPCAの方で修正するということが多く,デザイン画と製造図面がそれぞれ独自に並行的に動いているような状態になっていた。したがって,平内は,PCAの製造図面に直接手を入れていたわけでは必ずしもなく,製造図面は,基本的にPCAの方で作成され,修正を加えられていた。
PCAのサニ氏からリーダーボードの平成23年10月3日付け修正図面を受領した被請求人は,平成23年10月10日,土山からワン氏に対してこれをEメールで送信したが,その際,土山は,ワン氏に対し,リーダーボードについては中野氏及び消防署と協議をした,消防署はこの部材を衝突防止装置と考えており,非常に厳しく見ている,日本の消防法令に基づき長い議論を重ねて,最終的にデザインを開発した,との趣旨の説明をしている(乙第8号証の1及び2)。このことからも,被請求人が請求人昭和シェルの単なる伝達役ではなく,リーダーボードのデザイン開発は,土山が主体となり,中野氏や消防署,その他強度計算の専門家の意見を総合的に踏まえた上で,被請求人によって行われていたことは,明らかである。
なお,このとき土山がワン氏に送付したリーダーボードのデザインは,その土台の2つの足の形状が被請求人の指示したとおりになっていなかったため,それに後から気が付いた被請求人の藤島が,平成23年10月13日,PCAのフィルダウス氏に対して,足の部分を修正するよう依頼し,修正させた(乙第9号証の1及び2)。この修正は,リーダーボードの2本の足の強度を強めるための直角三角形の補強材を,リーダーボードの正面から見て横側に2枚つけていたものを,前後に2枚つけるように変更するものである。被請求人がこのような補強材を前後に付けたのは,強度について相談をしていたタングラム社の高野氏から,リーダーボードは車両の正面からの衝突を受け止める役割をしているため,前後方向に強度を強めた方がよいと提案されたからである。藤島からの指摘の結果,リーダーボードの足元部分が修正された平成23年10月3日付け修正図面が作成された(乙第7号証の2及び第9号証の2参照)。なお,この修正に際して,フィルダウス氏は,サニ氏に対し,「なぜ足元部分の製図(baseplate drawing)が図面(graphic)と違うのか?我々は図面(graphic)通りのものを提供することに合意しているのだから,製図(drawing)は図面(graphic)に従うように。」と注意している(乙第9号証の1)。フィルダウス氏は,被請求人からの要望をサニ氏に伝えるだけで,デザインの製作には一切関わっておらず,また,請求人ら及びワン氏から,デザイン指示のための図面が出されたことは一度もないから,ここでいう図面(graphic)とは,当然ながら,被請求人が提示した平内のデザイン画のことである。このことからも,リーダーボードのデザインは,被請求人がPCAに対して示したデザイン画が元になっており,それは,請求人らが提供したものではなく,被請求人が様々な意見や要素を総合的に勘案して考案・作成したものであることは,明らかである。

オ ワン氏の関与
請求人らは,ロイヤルダッチシェル・グループのワン氏もまた,本件意匠の創作に実質的に関与したものとして,創作者の一人である旨主張するが,ワン氏の関与は,平内の本件意匠の創作者としての地位を失わせる程度のものではない。
請求人らは,ワン氏が平成23年10月6日に土山に宛てたEメールの中で,「宣伝ポスターの枠(promotional poster frame)と同様の,わずかな差し込みのあるシルバーをベースとした(silver base (with slight inset))RVIeのリーダーボードの土台をデザインしてください。こうすることで,RVIeの場所全てで仕様される看板に統一性があることを確保することができます。」と提案したことを,ワン氏が本件意匠の創作者の一人であると主張する根拠としているようである(ワン氏の陳述書(甲第2号証別紙2)参照)。
しかし,物品のデザイン製作を委託する取引において,受託者が委託者から一切の意向や要望を受けずに,完全に自由に物品のデザインを創作することは通常ないのであり,受託者は,委託者が有するデザインの全体のイメージの範囲内で,デザインを考案し,形にしていくものである。本件では,ロイヤルダッチシェル・グループにおいて,新しいリーダーボードのデザインは,RVIeという新規格の一部として製作されるものであるから,他の同規格の部材のデザインとの統一性を持たせることは当然のことであり,被請求人においてデザインを製作するにあたっても,そのRVIe規格の他の部材との整合性の取れる範囲内で創作することになっていたとしても,そのことによって,ただちに平内の創作者としての地位が失われることはない。
ワン氏は,Eメールの中で,RVIe規格の宣伝ポスターの枠(promotional poster frame)の写真を添付し,これとの整合性を取れるような足元部分にして欲しい旨被請求人に依頼したが,このことは,被請求人に対し,被請求人がデザイン製作をするにあたっての制約又は許容範囲を示したものにすぎず,それが本件のようにデザイン案でできた後に示されたものであったとしても,委託する最初の時点において制約・許容範囲が示された場合と,何ら変わりはない。また,ワン氏は,具体的にリーダーボードの図面案を自ら作成して提示したわけでも,寸法等について具体的な指示を出したわけでもなく,他の部材の写真を示し,これと似たような少し差し込みのある銀色の土台(similar silver base(with slight inset))になるようにデザインして欲しいという抽象的な依頼しかしておらず,これをもって意匠の「創作」と到底いえるものではない。
したがって,ワン氏による上記の要請は,被請求人に対して製作されるデザインの制約又は許容範囲を伝えただけであり,積極的に具体的な意匠の提案をしているものではなく,ワン氏が本件意匠の創作者であることを意味するものではない。
よって,ワン氏の提案によっても,平内の創作者としての地位が失われることはない。

カ 裏面の追加
請求人昭和シェルは,全国のサービスステーションの運営者を集めて新しいRVIeの部材を紹介するための「ディーラーズミーティング」を,平成24年1月にパシフィコ横浜で開催することとし,新しいリーダーボードも,そこに出展することとなっていた。
被請求人の土山は,ディーラーズミーティングのリハーサルにおいて,請求人昭和シェルの上下氏から,リーダーボードの裏側が,支柱がむき出しになっているため,なんとかした方がよいという指摘を受けた。土山は,上下氏から,コストの増加が最小限になるようなデザインを考えて欲しいと言われたため,高野氏に,リーダーボードの背面を覆うためのパネルをいくつかデザインさせ(乙第10号証),最終的に,ディーラーズミーティング向けに,ボックス型の背面専用パネルを装着したリーダーボードを提案した(乙第11号証)。
ボックス型の背面専用パネルは,ディーラーズミーティングの時点ではまだ試作品段階であったが,これを量産した場合にコストがかなり跳ね上がることとなり,請求人昭和シェルからは,コストを片面と同程度でないと厳しいと言われていたため,土山は,前面と同一のパネルを背面に付けてもコスト面で許容できると判断し,前面と同一のパネルを背面に付けるデザインを提案した。
このようにしてできあがったデザインは,平成24年2月21日,土山から請求人昭和シェルの上下氏及び中野氏に対して提出された(乙第12号証の1及び2)。乙第12号証の2の図面は請求人らが提出した甲第11号証のものと同じであるが,この図面では,平内が最終的な修正を行ったことが明らかになっている。

キ その後の意匠に関するやりとり
その後も,リーダーボードの意匠は,コスト面での検討も含め,請求人昭和シェルからの依頼を受けた被請求人がアイデアを提案し,請求人昭和シェルがこれを了承するという形で調整されていった(乙第13号証)。また,請求人昭和シェルは,被請求人に対し,スプリットサイン,ペクテンサイン,LED価格看板など,日本独自の他の部材の意匠の製作も依頼しているが,そのプロセスは,請求人昭和シェルが被請求人に意匠の提案を求め,提案された案を比較検討した上で最終的なデザインを採用するというものであった(乙第14号証)。このことからしても,被請求人が,単なる輸入・流通業者ではなく,リーダーボードその他日本独自の部材のデザインを一式委託され,自ら意匠を開発していたことは,明白である。
また,リーダーボードの意匠は,平成24年6月頃まで細かい調整を行っていたが,その間も,請求人昭和シェルからの依頼を受けて被請求人が平内に意匠製作を依頼し,できたものを請求人昭和シェルに提案して,請求人昭和シェルがこれを了承するということが行われた(乙第15号証ないし乙第17号証)。

(3)本件意匠の創作者
ア 創作者の意義
請求人らは,創作者とは意匠の創作に実質的に関与したものをいうことを前提に,基本仕様案に基づき意匠の原案を作成したサニ氏対して変更指示を行ったワン氏,上下氏及び中野氏が創作者であると主張する。
しかし,上記の者が本件意匠の創作過程に何らかの関与をしているとしてもそのことによって,平内が創作者であることには影響はない。
この点,製品のデザインを委託した場合の委託者と受託者との間で,いずれが意匠の創作者か,という点で争われた事例として,平成23年1月7日に審決が出された無効2010-88000事件がある(乙第21号証)。この件では,道路灯のデザイン製作の委託者と受託者のいずれが意匠の創作者となるか,との点が争いになったが,1)委託者は,受託者に対して道路灯のデザイン製作を委託した際,受託者に対し,同業他社の先行製品の道路灯のカタログのコピーを参考として提供すると共に,道路灯のデザイン全体のイメージを伝達した,2)委託者は,受託者が提供した意匠を基に,製品化のための製作図面を起すとともに実物大模型を作成し,受託者同席の上で,稜線のRの大小(接合部の強調)やポール取付け部の形状等を検討し,デザインの最終形を確定した,との事実を認定した上で,1)については,「一般に,デザイン製作を委託する際に,市場や既存製品の情報,あるいは製品に関する企画等を提供し,希望する製品イメージを伝えることは,委託者として,ごく普通で,また当然のことであり,意匠の創作はこれら様々の情報を前提として適宜選択し,統合して物品の形態として具体化することであるから,この種の情報伝達,あるいはカタログ提供等の情報提供があったとしても,意匠の創作者としての地位が失われるとはいえない。」との判断を示した。また,2)についても,「この種のデザイン過程,とりわけ最終段階において,製作したデザインを委託者やクライアントに見せ,意向,要望を再度確認して,デザインに修正を加えることは,それ自体がデザイン上の必須の課程として,創作上当然に行われることであり,これにより創作者としての地位が失われるとすることはできない。」との判断を示し,事案の経緯を踏まえた上で,争いとなった意匠の創作者を受託者であるとした。

イ 請求人らの主張
請求人らは,概要,リーダーボードに関する本件意匠の開発経緯を以下のように主張し,ワン氏,中野氏及び上下氏が本件意匠を創作したと主張している。
1)請求人SBIが,平成23年4月,RVIeに基づく仕様(甲第7号証)を提案した(ただし,誰に対して提案したかについての主張はない。)。
2)PCAのサニ氏が,平成23年7月,上記1)の仕様を踏まえ,リーダーボードの仕様の原案(甲第9号証)を作成した。
3)請求人昭和シェルの中野氏が,リーダーボードの強度を高め,かつ,むき出しの背面を覆うために,被請求人を通してPCAに対して,RVIで採用していたリーダーボードと同様のデザインを適用することを提案した。
4)ワン氏が,下部に支柱を隠す覆いを付けるようにとの指示を行った。
5)PCAのサニ氏が,上記3)及び4)の提案及び指示を踏まえ,平成23年10月3日,変更案を作成した(甲第10号証)。
6)ワン氏が,被請求人を通してPCAに対して,RVIeのポスターフレームのデザインと統一感が出るよう,パネル下部の横幅をパネル上部よりやや狭くし,シルバーに変更するようにとの指示を出した。
7)請求人昭和シェルの上下氏が,背面の亜鉛メッキ素材を覆い隠すためのパネルを追加するようにとの変更指示を出した。
8)請求人昭和シェルの上下氏が,リーダーボードの背面を,前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をした。

ウ 請求人らの主張に対する被請求人の反論
請求人らの上記の各主張に対しては,被請求人は,以下のとおり反論する。
1)請求人SBIが平成23年4月に提案したとする,RVIeに基づく仕様(甲第7号証)については,前述のように,被請求人に提示された証拠(乙第5号証)及び当時の状況と矛盾するものであり,その存在自体を争う。
2)このときサニ氏が作成した製図(甲第9号証)は,従来からPCAが製造している部品を組み合わせて間に合わせで作成したものである。また,本件意匠との類似性はない。
3)中野氏が,RVIで採用していたリーダーボードと同様のデザインを適用することを提案したとの事実はなく,証拠も存在しない。また,RVI(RVIeの前のモデル)で採用していたリーダーボードは,本件意匠とは全く異なるデザインである(乙第4号証)。
4)ワン氏が,下部に支柱を隠す覆いを付けるようにとの指示を行ったとの事実はなく,証拠も存在しない。
5)PCAのサニ氏が,平成23年10月3日付けの変更案(甲第10号証)を作成したことは認めるが,それは,被請求人からのデザイン案の提示及び細かい指示の通りに作成したものに過ぎない(乙第9号証の1参照)。
6)ワン氏が,RVIeのポスターフレームのデザインと統一感が出るようにするよう指示したことは認めるが,前述のように,物品の製作の委託関係において,委託者が受託者に対し,他の製品との統一性を損なわないよう求め,受託者がそのような制約の中でデザインを製作することは,委託関係においては通常のことであるから,そのことをもって,受託者である被請求人の平内の創作者としての地位が失われることはない。
7)土山と上下氏との話の中で,背面の亜鉛メッキ素材がむき出しになっているのをどうにかしなければならないという話になったことは認めるが,これを覆い隠すためのパネルを追加することを提案したのは,被請求人である(乙第11号証)。
8)リーダーボードの背面を,前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うような提案をしたのは被請求人である。

エ 被請求人の主張
本件は,上記アに記載の審決事案(乙第21号証)と同様,物のデザインの委託者と受託者間においていずれが意匠の創作者であるかが争われている事案である(請求人昭和シェルが,リーダーボードの意匠製作について,被請求人に委託していたことは,前述のとおりである。)。
受託者である被請求人は,ロイヤルダッチシェル・グループの新規格であるRVIeの他の部材との統一性を保つという制約の中で,平内を中心として本件意匠を創作した。請求人昭和シェルの上下氏及び中野氏は,被請求人が提案したデザインを承認する立場にあっただけであり,実質的な意匠の創作には一切関わっていない。また,PCAのサニ氏は,被請求人から提示されたデザイン画のとおりに量産のための製造図面を製作する立場にあっただけであり,自らの裁量は,与えられていなかった(甲第8号証,乙第9号証の1参照)。また,ワン氏についても,前述のように,リーダーボードの形状に関してRVIe規格の他の部材との統一性を保つよう要請したものであって,本件意匠の許容範囲を示したものにすぎず,実質的な意匠の創作の主体となったとはいえない。
結局,本件意匠は,土山の指示を受けた平内がその創作に主体的に関わっており,平内が自らのコンピュータにおいてデザイン画を作成し,適宜修正を加えて請求人昭和シェルに提供し,了承を得て創作されたものである。
そして,平内は,本件意匠の登録を受ける権利を被請求人の譲渡することに同意しているから,被請求人が本件意匠につき登録を受ける権利を有する唯一の者であり,本件意匠にかかる意匠登録が無効となる余地はない。
以上のとおり,請求人らの請求は,成り立たない。

(4)証拠方法
1)乙第1号証 陳述書(土山理一郎)の写し
2)乙第2号証 陳述書(平内祐斗)の写し
3)乙第3号証 資材購入基本契約書の写し
4)乙第4号証 状況報告書(新旧リーダーボード比較資料)の写し
5)乙第5号証 平成25年9月30日付け回答書(抜粋)の写し
6)乙第6号証 リーダーボードの図面(Hiranai 21/7/2011)の写し
7)乙第7号証の1 Eメール「Fwd:Proposed Graphic 3/10/2011」の写し
8)乙第7号証の2 Eメール添付ファイル「SH-GRA-JAP-LBFS_Rev D_Leader Board Free Standing(Proposed))」の写し
9)乙第8号証の1 Eメール「Re:RVIE Pilot Station plan for ”Hachiouji”」の写し
10)乙第8号証の2 Eメール添付ファイル「Oil&Leader」」の写し
11)乙第9号証の1 Eメール「Fwd:リーダーボード最終図面&意匠」の写し
12)乙第9号証の2 Eメール添付ファイル「SH-GRA-JAP-LBFS_Rev D_Leader Board Free Standing(Proposed)」の写し
13)乙第10号証 デザイン図(パシフィコリーダーボード裏板)の写し
14)乙第11号証 Eメール「パシフィコ用リーダーボード裏面」の写し
15)乙第12号証の1 Eメール「Fwd:新リーダーボード意匠修正」の写し
16)乙第12号証の2 Eメール添付ファイル「SH-GRA-JAP-LB2S_Leader Board Free Standing Double Sided 200212」の写し
17)乙第13号証 Eメール「【ご検討依頼】アイテムの仕様について」の写し
18)乙第14号証 Eメール「【ご依頼】本日商談の件に関しまして」の写し
19)乙第15号証 Eメール「意匠図起こしてください」の写し
20)乙第16号証 Eメール「RE:リーダーボード,モノリスブランクパネル新デザイン意匠」の写し
21)乙第17号証 Eメール「【返信・ご依頼】リーダーボード仕様書及び施工要領書」の写し
22)乙第18号証 平成25年5月17日付け通知書の写し
23)乙第19号証 Eメール「Suspension Of Business」の写し
24)乙第20号証 SWOT JAPAN株式会社法人登記情報の写し
25)乙第21号証 意匠登録無効審決(無効2010-880001号事件)の写し

2.被請求人による上申書
被請求人は,平成27年11月10日付け上申書を提出し,証拠方法として乙第22号証の証拠を提出している。

(1)証拠方法
1)乙第22号証 陳述書(森永志帆)の写し

3.請求人による上申書
請求人は,平成27年12月17日に上申書を提出し,証拠方法として甲第21号証の証拠を提出している。

(1)証拠方法
1)甲第21号証 陳述書(古澤克己)の写し

第5 口頭審理

当審は,本件無効審判事件について,平成28年2月22日に口頭審理を行った。(平成28年2月22日付け第1回口頭審理調書・証拠調べ調書)

1.請求人
請求人は,審判請求の趣旨及び理由は,審判請求書,平成27年4月17日付け審判事件弁駁書,及び平成28年2月8日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりであると陳述した。
また,乙第1号証ないし乙第24号証(枝番号を含む。)を確認し,その成立を認めた。

(1)口頭審理陳述要領書(平成28年2月8日付け口頭審理陳述要領書)
請求人らの主張及び被請求人の答弁書に対する反論は,それぞれ審判請求書及び審判事件弁駁書記載のとおりである。
以下,口頭審理において確認されるべき本件の争点を明らかにし,請求人らの主張を概説した上で,被請求人が提出した平成28年1月25日付け口頭審理陳述要領書に対して必要な範囲で反論する。

ア 請求人らの主張
請求人らの意匠登録第1472160号(以下「本件意匠登録」という。)に係るリーダーボードの意匠(以下「本件意匠」という。)に関する主張は以下のとおりである。
1)本件意匠登録は,意匠登録を受ける権利を有する者ではない者による冒認出願であって意匠法第48条第1項第3号により無効とすべきである。
2)仮に本件意匠登録が意匠法第48条第1項第3号により無効とすべきものでなかったとしても,本件意匠登録は共同出願されるべき意匠についての単独出願であって,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反して意匠登録されたものであって意匠法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

イ 本件の争点と当事者の主張
本件における争点は「本件意匠の創作者は誰か。」の一点に尽きる。
請求人らは,本件意匠はShell Eastern Petroleum Ltd.(以下「SEP」という。)のシャロン・ワン(以下「ワン」という。),請求人昭和シェルの上下政宏(以下「上下」という。)及び中野麻子(以下「中野」という。)らによって共同で創作されたものであり,本件意匠登録の創作者として登録されている平内祐斗は本件意匠の創作者ではないと主張する。
これに対して,冒認出願及び共同出願違反を争う被請求人は,平内祐斗(以下「平内」という。)が,本件意匠についての,唯一単独の創作者であって,上下,中野,ワンはいずれも創作者ではないと主張する。
そこで,まずは,無効審判請求書及び審判事件弁駁書で行った請求人らの主張及び被請求人の主張に対する反論を,概説する。

ウ 創作者
本件意匠の創作者が誰であるかを判断するためには,まず,意匠の創作者をどのように判断すべきか,という点に関する意匠法の解釈を明らかにしておく必要がある。
「意匠」とは視覚を通じて美感を起こさせる物品の形態であるところ(意匠法第2条第1項),美感を起こさせる形態とは,機能上一義的に決定されるものではない形態をいう。また,取捨選択の余地がある中で,一つの形態を選出する作業が行われていた場合には,そのような作業は「創作」と評価し得る。したがって,機能上に一定されるものではない形態について取捨選択の余地がある中で自らの意志に基づいて一つの形態を選出するような行為が「意匠の創作」に該当し,その行為者こそが意匠の「創作者」に該当すると解すべきである。
なお,かかる解釈は,請求人らの独自の見解などではなく,裁判例,審決例,意匠法審査基準,有識者の見解(文献)に基づいた解釈である(この点の詳細は請求人らの審判事件弁駁書5頁から7頁を参照されたい。)。

エ 本件意匠の創作過程と創作者
本件意匠は,平成23年7月にPolymer Composite Asia Sdn Bhd (PCA)の従業員であるサニスディン・ビン・カスムリ(以下「サニ」という。)が作成したRetail Visual Identity Evolution(RVIe)の基本仕様案(甲第7号証)に基づく原案(甲第9号証)を基礎として,請求人昭和シェルの中野及び上下並びにシェルグループのSEPのワンの具体的な変更指示により完成したものである。
具体的な創作行為については既に無効審判請求書及び審判事件弁駁書で主張したとおりであるが,平成27年12月25日付け「審理事項通知書」にある指示に従い,各創作者による本件意匠の創作への関与について,創作の段階に応じて改めて以下のとおり要約する。

(ア)前面のみ上側正面パネルを配した支柱一本の形態の創作(甲第9号証)
甲第9号証の形態は,請求人SBIが提供した基本仕様案(甲第7号証)を踏まえ,平成23年7月に,サニが作成した本件意匠の原案である(甲第8号証)。
なお,甲第7号証にあるデザインは,Jurgen Van Der Winden(以下「ユルゲン」という。)が請求人SBIのために作成したRVIeに基づく自立式のリーダーボードの基本仕様であって,世界中で既に製品化されたおり,その形態には新規性がない。
また,請求人らは自ら図面を描いていないため,「PREPARED BY」の表示の趣旨については承知していない(甲第10号証及び甲第11号証についても同様である。)。

(イ)前面のみ上側正面パネル及び上側正面パネルと等幅の下側正面パネル(白色)を配した支柱2本の形態の創作(甲第10号証)
請求人昭和シェルの中野は,サニの原案(甲第9号証)について,支柱が一本のリーダーボードでは衝突防止具としての機能を果たし得ないから強度の高いものに変更するようにとの指示をした(甲第3号証)。
これを踏まえた平成23年10月3日のサニの変更案では,支柱が2本となり,前面に支柱を覆い隠すための白色パネルが追加された(甲第10号証)。
なお,甲第10号証の図面を作成したのがサニであることは当事者間において争いがない。したがって,中野及びワンの指示を受け,支柱2本で上側正面パネルと等幅の下側正面パネル(白色)を配した形状を作成したのは,甲第10号証の図面を作成したサニである可能性が高い。
これに対して,被請求人は,甲第10号証は平内のデザインを基にしたものであると主張するが,平内が甲第10号証にあるデザインを作成した事実やその図面をPCAに送ってこれに基づいてサニが甲第10号証を作成した事実を証明する客観的な証拠は一切提出されていない。

(ウ)前面のみ上側正面パネル及び上側正面パネルより幅狭の下側正面パネル(銀色)を配した支柱2本の形態の創作
平成23年10月6日に,ワンは,被請求人の代表者である土山理一郎(以下「土山」という。)に対して,RVIeにあるポスターフレームのデザインと統一感が出るように,リーダーボードのパネル下部の横幅をパネル上部よりやや狭くし,パネル下部の色彩をシルバーに変更するようにとの指示を出した(甲第2号証別紙2及び3,甲第2号証の1及び2,甲第3号証)。
その後,被請求人がこの指示に従って図面を変更しなかったため,平成23年11月16日に,ワンはPCAのフィルダウス氏に対して直接連絡をし,指示したとおりに下側正面パネルの形状及び色彩が変更されていないことについての不満を伝えている(甲第2号証別紙4,甲第2号証の3)。
これに対して,平成23年11月27日に被請求人の土山からワンの指示に従って変更を行うことの確認がされ(甲第2号証別紙5,甲第2号証の4),平成24年2月21日には,土山からワンに対して,指示に従って図面を変更した旨の連絡がされている(甲第2号証別紙6,甲第2号証の5)。
これに対して,被請求人は,ワンの指示は抽象的な依頼であって創作行為には該当しないと反論する。しかしながら,ワンの指示は,具体的な図面を例示しての色彩の指定であるものであるから,具体的な形態を選択し,視覚を通じて美感を起こさせる形態を決定付けるような具体的な指示であり,明らかな創作行為である。被請求人はワンの指示が支柱のないリーダーボードを想定していたと反論するが,仮にそうであったとしても,下側正面パネルの形態について具体的な形態の選択を行った事実が否定されるものではない。

(エ)上記(ウ)の前面側上下パネルを背面側にも配した支柱2本の形態の創作(甲第11号証)
請求人昭和シェルは,上記(ウ)の形態のリーダーボードを東京都八王子みなみ野に所在するサービスステーションに試験的に設置した。設置されたリーダーボードを確認した請求人昭和シェルの上下は,上記(ウ)のデザインは,背面の亜鉛メッキ素材がむき出しになっていたため見栄えが良くないと考えた。そこで,上下は,リーダーボードのデザインを,よりソフトでシンプルかつフレンドリーなデザインに変更すべく,背面をむき出しになっていた亜鉛メッキ素材を覆い隠すパネルを設置するように被請求人を介してPCAに指示をし,これを踏まえて白色のパネルが背面に追加された。
さらに,これを受けて,平成24年1月のディーラーズミーティングで設置されたリーダーボードにも背面にパネルが設けられてはいたが,これは,前面のパネルとは異なる素材の白い板で覆っただけのものだった。そこで,上下は被請求人に対してリーダーボードの背面を前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をした(甲第3号証)。
このような中野,上下,ワンの指示(上記下線部)はいずれも,それぞれの意思に基づいて,機能上一義的に決定されるものではない形態について,取捨選択の余地がある中で特定の形態への変更を指示するものであるから,本件意匠の創作行為に該当する。
被請求人は,既存製品の情報提供や希望イメージを伝える行為は,無効2010-880001(乙第21号証)において示されたように創作行為に該当しないと主張するが,当該事案においては,委託者が意匠の創作に実質的に関与したことの説明が具体的になされておらず,かつ受託者に対し与えられた具体的な指示が完成品の意匠上の特徴をなすものとして意匠を直接的に構成していないことなどを前提として,デザイン制作を委託する場合に既存製品の情報提供や希望イメージを伝えることは創作行為に該当しない旨認定されており,本件とは事案を異にするものである。
本件においては,中野,上下,ワンは,本件意匠の創作に実質的に関与しており,かつその指示は,明確かつ具体的な形態の変更に関する指示であって,単なる情報提供や希望イメージの伝達などではない。さらに,かかる指示は本件意匠の意匠上の特徴をなす部分にも影響を与えるものであり,上記事案とは明らかに異なる。
被請求人は,過去の事例から自身に都合のよい部分のみを抽出し,客観的証拠を提出することなく事実を捻じ曲げた主張を繰り返しており,その強引さは目に余るものがある。しかし,当事者において争いの無い事実と,双方が提出する客観的証拠に基づき,事実を認定し,意匠の創作者に関する意匠法の合理的な解釈に従って判断をすれば,請求人昭和シェルの中野,上下,シェルグループのSEPのワンが本件意匠の創作者に該当することは明らかである。

オ 平内が単独の創作者ではないこと
そもそも,本件において本件意匠登録の登録無効事由の有無を判断するためには,本件意匠について平内以外の創作者の存在が明らかになれば足りる(少なくとも本件意匠登録が共同出願違反に該当することになる)。
そのため,平内が単独の創作者ではないことの積極的立証は本件の事案の解決の観点からは必須ではないが,被請求人は,事実を捻じ曲げて自らに都合のよいストーリーを捻出し,請求人らの提出した主張の合理性や証拠の信用性について,繰り返し疑義を呈しているので,以下においては,敢えて当事者間において概ね争いがない範囲で整理する。

1)本件意匠の物品であるリーダーボードは,シェルグループの新しい外装部材の統一規格である「Retail Visual Identity Evolution」(RVIe)に基づいたデザインである。RVIeは,シェルブランドのサービスステーションにおける外装デザインを世界的に統一したものであり,ブランドの一体性を維持するための重要な役割を担っていた。
2)RVIeの外装部材のデザインは,請求人SBIによって管理されており,基本的にはRVIe(甲第4号証)及びこれを踏まえた仕様書(甲第7号証)に従って製作される。もっとも,各国における法規制の遵守等の合理的な理由がある場合には請求人SBIの承認のもとでの仕様変更が認められている。
3)リーダーボードの本来的役割は油種表示をすることにあり,RVIeにその記載があるし,RVIeに基づく基本仕様書にもその基本デザインが定められている(甲第7号証)。ただし,日本では消防法関連の要請から特にセルフサービスのステーションにおいては衝突防止具としての機能を有する必要があり,日本向け仕様に変更する必要があった。
4)日本のシェルブランドのサービステーションの外装部材を,RVIeに基づく新しいものに変更することは,平成19年頃から議論されてきたが,請求人昭和シェルは,平成23年になって本格的に切り替えを行うことを決定した。
5)リーダーボードを含むRVIeに基づく外装部材は,シェルグループの承認サプライヤーの製品を調達することが求められており,当時は,承認サプライヤーであるヘキサゴングループのマレーシア法人であるPCAの製造した部材を調達する必要があった。
6)被請求人は,PCAが請求人昭和シェルとの間でRVIeに基づく外装部材の取引を行う請求人昭和シェルとPCAの取引のためにヘキサゴングループの日本法人となるべくして設立された。
7)被請求人は,看板の製造販売等を行っていたサイベイト株式会社を母体とする会社であったが(甲第5号証),サイベイト株式会社にはサービスステーションの外装部材を製造した実績はなかった。
8)平成23年6月21日に行われた被請求人による請求人昭和シェルに対するプレゼンテーションにおいても,被請求人はヘキサゴングループの日本法人としての位置づけで,ヘキサゴングループとの関係や,ヘキサゴングループ又はサイベイト社の実績をアピールするものであった。
9)請求人昭和シェルの資材調達部門は被請求人と「資材購入基本契約」(乙第3号証)を締結し,被請求人からPCAが製造した外装部材の供給を受けることとなった。なお,同契約は一般的な売買基本契約であり,外装部材のデザイン作成を委託する条項は存在しない。
以上の背景事情からも明らかなとおり,本件意匠はシェルグループの外装部材の統一規格であるRVIeに準拠したものでなければならず,消防法関連の要請から仕様を変更するに際しても,請求人SBIの厳格な管理下にあった。一方で,被請求人はPCAの製造した外装部材を請求人昭和シェルに販売するためのヘキサゴングループの販売子会社としての役割を担っており,サービスステーションの外装部材に関しては,被請求人自身は何ら実績のない会社であった。
このように当事者間において争いのない背景事情からしても,請求人らが被請求人に本件意匠の創作を丸投げするはずもなく,したがって平内が本件意匠の唯一の創作者であるという主張がいかに不自然なものであるかが明らかとなる。

カ 被請求人の口頭審理陳述要領書について
(ア)口頭審理陳述要領書への反論
被請求人の口頭審理陳述要領書の内容は,基本的には従前の主張内容のとおりであり,「本件意匠の創作者は誰か」という本件の争点に係る主張に関して,改めて個別に反論する必要性を認めない。
ただし,被請求人の主張には,請求人らの主張や提出証拠に対する誤解や曲解に基づくものが多く,目に余るため,以下,この点に限って訂正する。

1)甲第20号証のリーダーボード(口頭審理陳述要領書4頁)
甲第20号証に掲載されたリーダーボードはゴミ箱などが設置されるCSU(Customer Service Unit)という部材の側面に設置されるリーダーボードであり,今回の「自立式」と呼ばれる独立して設置されるリーダーボードとは異なる(詳細な説明は審判事件弁駁書17頁参照)。グローバル仕様の自立式リーダーボードの仕様は甲第7号証に記載されたとおりであり,本件意匠はこのデザインが基になっている(甲第8号証,甲第9号証)。

2)甲第7号証について(口頭審理陳述要領書7頁)
甲第7号証は本件意匠の原案の創作過程に関する証拠であって本件意匠の創作行為に関する証拠ではない。サニが,請求人の関与なく,甲第9号証の本件意匠の原案を作成したことには争いがなく(甲第8号証),甲第7号証の作成時期や交付時期は本件の争点との関係では直接の関連性を有しない。もっとも,被請求人は甲第7号証が捏造であるなどと事実無根の主張によって請求人らを誹膀中傷し続けているため,改めて甲第7号証について説明する。
まず,被請求人は甲第7号証が平成23年4月に提示されたはずがないと主張する。甲第7号証は,請求人SBIのイントラネットからダンロードすることによって取得できた基本仕様案の一部であって,甲第7号証の発行日付けにあるように,遅くとも平成23年4月1日には同イントラネットにアップロードされたものである。基本仕様案は,シェルグループの会社や承認サプライヤーのアクセス権限を有する者のみが同イントラネットからダウンロードすることができる資料であったが,PCAにはアクセス権限が与えられていた。なお,被請求人にはアクセス権限は付与されていなかった。
また,被請求人は,甲第7号証が捏造されたものであると主張し続けている。しかし,審判事件弁駁書18頁でも説明したように,単に,異なるバージョンの基本仕様案が同一の変更日付けで存在していたにすぎず,捏造などではない。被請求人自身も,平内は図面のフォーマットや作成名義欄などの形式面には関心がなかったと主張しているが(口頭審理陳要領書11頁),これと同様に,ユルゲンも作成日付け欄のような形式面を気にせずにアップデートを続けたに過ぎない。また,念のため指摘すれば,甲第7号証の作成経緯も本件の争点とは関連性がない。
さらに,被請求人は甲第7号証について,リーダーボードだけが,甲第4号証とは別の紙に記載されて提供されたのか説明がつかないと主張する。しかし,これは明らかな理解不足である。甲第4号証はRVIeの全体像を示したものであり,甲第4号証で示された全体像に基づいて,看板や料金表示,キャノピー(建屋の装飾部材),指示板等の個別の部材の基本仕様が定められる。甲第7号証はこの基本仕様の一部であり,リーダーボードのためだけに作られたものではない。
そもそも,甲第7号証にも,リーダーボード以外の部材の基本仕様が定められている。請求人らは基本仕様の一部を,本件に関連する範囲で証拠として提出しているにすぎない。
被請求人によるこうした的外れな指摘は,被請求人が外装部材の基本仕様の開示すら受けておらず,RVIeにかかるプロジェクト全体を正確に理解していなかったことを自認するものである。このことからしても,請求人らが本件意匠の創作を被請求人に丸投げしていたという被請求人の主張がいかに不自然であるかが明らかとなる。

(イ)乙第23号証,乙第24号証について
「被請求人が日本固有の外装部材の設計やデザイン開発を行う役割を担っていたこと」の証拠として,被請求人の森永志帆(旧姓「藤島」)の作成にかかるというノート2冊(乙第23号証,乙第24号証)を提出する。しかしながら,膨大な頁数にもかかわらず,被請求人が上記主張との関連で引用するのは乙第23号証のわずか2頁と乙第24号証のわずか1頁のみであり,そのいずれもが被請求人の主張を何ら根拠づけるものではない。

1)乙第23号証について
まず,乙第23号証20頁の図は「昭和シェル」,「グローバル」,「HJ」という文字が丸囲いされ,「HJ」から「昭和シェル」,「グローバル」に矢印が伸び,それぞれに1),2)という数字が付され,「昭和シェル」の下に「O.K.」と書かれただけの図である。平成28年1月25日付け証拠説明書によれば,被請求人は,この図によって「被請求人が自ら主体的に日本固有の外装部材のデザイン制作を委託され,請求人らは被請求人からデザインの承認を求められるという立場にあったという事実」を立証する趣旨とのことであるが,飛躍が過ぎる。
また,乙第23号証の35頁から36頁の図は,外装部材が制作されるまでの流れを図にしたものであると主張するが,単に個人名や社名が記載されて矢印でつながれているだけであって,何を意味する図かは明らかではなく,乙第23号証によって,外装部材のデザインの委託を受けていた事実は何ら立証されない。

2)乙第24号証について
被請求人は,乙第24号証53頁の「Backは弊社プラン(同額)」という記載をもって,背面パネルを被請求人の提案したとおりにすることが決定されたとの事実を立証しようとしているようであるが,このような短い表現で,背面パネルのデザインの選択を誰が行ったのかは明らかにはならない。そもそも前面を背面と同じデザインとしても製品代金に影響がないという話を土山から受けたことは上下も陳述するところであり,特に争いはない(甲第3号証)。
このように乙第23号証や乙第24号証はその量の割には,被請求人の主張事実を何ら立証し得ない。この程度の証拠しか提出できないのは,主張事実に根拠がない証左である。

キ 結語
以上より,平内は本件意匠の創作者ではなく,本件意匠登録は,意匠登録を受ける権利を有する者ではない者による冒認出願であって,意匠法第48条第1項第3号により,無効とすべきである。
また,本件意匠登録が意匠法第48条第1項第3号により無効とすべきものでなかったとしても,請求人昭和シェルの中野,上下,SEPのワンも本件意匠の創作者であるから,本件意匠登録は共同出願されるべき意匠についての単独出願であって,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反して意匠登録されたものであり,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

ク 証拠方法
1)甲第2の1号証 シャロン・ワンのメール(2011/10/6)の写し
2)甲第2の2号証 シャロン・ワンのメール(2011/10/10)の写し
3)甲第2の3号証 シャロン・ワンのメール(2011/11/16)の写し
4)甲第2の4号証 土山理一郎のメール(2011/11/27)の写し
5)甲第2の5号証 土山理一郎のメール(Subject:RVI_e items@Japan)の写し
6)甲第22号証 陳述書(中野麻子)の写し

2.被請求人

被請求人は,答弁の趣旨及び理由は,平成26年11月7日付け審判事件答弁書及び平成28年1月25日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりであると陳述した。
また,甲第1号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。)を確認し,甲第1号証ないし甲第6号証並びに甲第8号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。)の成立を認めたが,甲第7号証は,当時存在していない書類であり,事前に作成されていないものであるとして,成立を否認した。

(1)本審判の争点
本審判における争点は,本件意匠について,被請求人が単独で意匠登録を受ける権利を有していたか,という点である。すなわち,本件意匠の創作者が誰であったかという点が争いとなっている。
請求人らは,(A)被請求人は,PCAの製造した外装部材の輸入及び配送を行う役割だけを担っていたと主張し,本件意匠の創作経緯について,(B)請求人SBIが提案したRVIe規格の基本仕様案(甲第7号証)がリーダーボードの原案となり,(C)これに対して請求人昭和シェル石油の中野氏及び上下氏並びに請求人SBIのワン氏が仕様変更の指示を行った,と主張している。
以下,それぞれの主張根拠ごとに,被請求人の反論・主張をまとめる。なお,上記(B)においては,本件意匠の創作の各段階における被請求人の関わり及びその時期について,要約する。

(2)被請求人の立場・役割(A)について
ア 請求人らは,被請求人の立場・役割について,PCAが製造する外装部材を日本に輸入し,請求人昭和シェル石油のサービスステーションまで配送する流通業者として関与することのみが予定されており,外装部材の設計やデザインを行うことは予定されていなかったとの主張を基礎として,被請求人の平内が本件意匠を創作したという事実を争っている。
しかし,以下の事実関係から,被請求人が単なる流通業者ではなく,日本固有の外装部材の設計やデザイン開発を行う役割を担っていたことは,明らかである。

イ まず,被請求人の森永志帆(旧姓「藤島」)が社内でのミーティングや請求人昭和シェル石油とのやりとりを記録したノートが何冊か残っているが,これを見ると,被請求人が,請求人昭和シェル石油の担当者と多数の打ち合わせを重ねて,世界共通部材における日本仕様のデザイン及び日本固有の部材のデザインを主体的に確定していったことがわかる。
このことを明らかにするため,平成23年6月頃から同年10月頃までのやりとりを記録したノート(以下「ノート1」という。乙第23号証(元のサイズは見開きでB4。))及び始期が不明であるが平成24年2月頃までのやりとりを記録したノート(以下「ノート2」という。乙第24号証(元のサイズは見開きでA4。))のそれぞれ全ページを証拠として提出する(なお,証拠化に際し,ノートの各ページ右上に丸で囲った番号を振っている。)。
このような多数のやりとりからは,被請求人が請求人昭和シェル石油とPCAとの間の連絡の単なる伝達人でなかったことはもちろん,部材の仕様やデザインについて,請求人昭和シェル石油に指示されるだけの立場でなかったことは明らかであり,より主体的に,ロイヤルダッチシェル・グループのグローバル部門及び請求人昭和シェル石油の承認の下,日本における昭和シェル石油ブランドのサービスステーションの外装部材の仕様を作り上げていったことが明らかになっている。
なお,請求人らは,「リーダーボード」は日本固有の部材ではないとの趣旨の反論をしているが,「リーダーボード」という言葉が他の国で使われているか否かは問題ではない。他国で「リーダーボード」と呼ばれる部材があるとしても,それは衝突防止装置として用いられているものではないから,そのまま日本において使うことができないことは,請求人らも認めているところである。そうであるならば,日本において用いられる「リーダーボード」には,世界共通の仕様がなく,日本固有の部材であり,日本のサービスステーションに設置するために新たにデザインしなければならないことは,当然のことである。請求人らは,日本用のリーダーボードは,グローバル仕様のデザインをベースとして衝突防止機能を有するために必要な修正をする必要があるに過ぎず,一からデザインしなければならないものではない,と主張するが,請求人らが指摘する「グローバル仕様の」リーダーボード(甲第20号証の写真参照)は,今回問題となっている日本仕様のリーダーボードとはおよそかけ離れた外観をしており,これが日本仕様のリーダーボードのベースになっていることは,ありえない。

ウ 外装部材の仕様を確定するプロセスについてであるが,まず,ロイヤルダッチシェル・グループの共通仕様があるものについてはその仕様のとおりとするが,共通仕様のある部材の中でも日本語で表示するパネルなどの文字デザイン,及びロイヤルダッチシェル・グループの共通仕様がない部材の外形デザイン・文字デザインは,被請求人に出向していたデザイナーの平内祐斗(以下「平内」という。)が担当して制作した。平内が制作したデザインは,依頼者である請求人昭和シェル石油と,シェルのグローバル部門の双方が承認するものでなければならず,被請求人がデザイン原案をまず請求人昭和シェル石油に提示して受入れ可能であるかの確認を行い,やり直し等があれば再度制作をした上で確認をして承認を得た後,シェルのグローバルから最終的な承認を得るという流れであった。ノート1(乙第23号証)の20ページ目上部にある図がこれを表している。本来,シェルのグロ?バルからの承認は,請求人昭和シェル石油が責任を持って行うべきであったが,請求人昭和シェル石油は,シェルのグローバルとの連携をほとんどしていなかったため,グローバルからの承認を受けるプロセスについても,被請求人に丸投げの状態であった。
平内がデザイン制作を一手に担っていたことは,ノート1(乙第23号証)の34ページ目から35ページ目に記載された,外装部材が制作されるまでの流れを図にしたものからも,明らかである。ここでは,デザインを平内が制作した後,シェルのグローバルと請求人昭和シェル石油の承認を経ることが描かれているほか,被請求人代表者である土山理一郎(以下「土山」という。)が,被請求人における日本独自の仕様に関する最終決定権者であることが示されている。このことからも,被請求人は,外装部材のうち,日本独自の仕様に関して積極的な提案を行っており,シェルのグローバル及び請求人昭和シェル石油は,被請求人が選択,決定した仕様を受動的に承認するという立場でしかなかったことは,明らかである。

(3)リーダーボードの仕様の創作過程(B)について
ア 請求人らは,平成23年4月,請求人SBIより,甲第7号証の基本仕様案の提案がなされたと主張する。
しかし,請求人らの主張は,誰に対して,どのような方法によって提案されたのかについて,何らの具体的な主張もなされていない。
請求人らが,基本仕様案を提案したとの主張について,その対象,方法を特定できないのも当然である。基本仕様案が提案されたと主張されている平成23年4月には,被請求人は設立されておらず,存在もしていなかった。また,被請求人の代表者である土山は,平成23年6月に初めて被請求人昭和シェル石油と接触し,外装部材の調達について営業活動を行ったのであり,当時はまだPCAが請求人昭和シェル石油のための外装部材の製造を行うことはもちろん,請求人昭和シェル石油が外装部材をRVIe規格に一新することさえ,全く決まっていなかったのである。なお,PCAのサニ氏の陳述書(甲第8号証)には,甲第7号証と同様の基本仕様書が,平成23年(2011年)にPCAに提供されたとの記載がある。しかし,同陳述書には,PCAが平成23年(2011年)7月にShell International Ltd.のグローバルサプライヤの1社に指名され,同月頃,サニ氏はリーダーボードの図面を作成するよう初めて指示されたとの記載があり,この供述は,2011年4月に基本仕様書が提供されたとの請求人らの主張と矛盾する。
そうすると,この陳述書によっても,平成23年(2011年)4月の時点で基本仕様書がPCAに提供されたこともありえない。
この点について,請求人らからは,何ら反論はなされていない。

イ また,平成26年11月6日付け答弁書において詳しく主張したとおり,甲第7号証の図面は,被請求人が和解交渉において請求人昭和シェル石油の別の代理人から同趣旨で提出された証拠(乙5号証)とは異なったものであり,本件の紛争が生じた後に捏造された文書であることは,明らかである。
そればかりでなく,甲7号証の図面に描かれたリーダーボードは,足の部分が完全に覆われたものと,覆いがないが足元近くまで伸びる覆いのようなものが点線で示されたものが並列されており,また,横から見た図では,パネルが片面のものと両面のものが並列されている。このような図面では,覆いのあるものを製造すればよいのか,パネルは片面にすべきか両面にすべきか,受け取った者には全く判断ができず,仕様書の体をなしていない。
このような意図の不明な図面が請求人らから証拠として提出されたのは,リーダーボードの初期のデザインが基本仕様書をベースにしたものであると主張しつつ,その後変更されたデザインについても甲第7号証の基本仕様書に基づいているとして,本件意匠の創作者が請求人らであるとの主張の根拠に利用しようと考えたためであろう。
この点について,請求人らは,甲第7号証の図面が乙第5号証の図面と異なっている理由について,基本仕様案を作成していた者が日付けを変更しないままバージョンアップを行ったから,との予想通りの弁解をしている。
しかし,バージョンアップがいつ行われたのか,また,何の目的でバージョンアップがなされたのかについて,請求人らは合理的に説明できていない。また,基本仕様書がバージョンアップされたのであれば,それは仕様の変更なのであるから,被請求人に改めて交付されるべきであるが,請求人らから,そのような主張はなされていない。また,乙第5号証の図面と甲第7号証の図面では,リーダーボードの図から右の「Notes」の枠の境界線までのスペースの広さにも差があり(「csu mounted or free standing」との文字列から境界線までの距離も異なっている,),これは,単純に図面をバージョンアップしたというだけでは説明がつかない。

ウ 基本仕様書それ自体だけ見ても,上記のように,請求人らの提出した書面は内容が不可解で矛盾だらけなのであるが,実質的に考えてみても,そもそもRVIeの基本仕様は,請求人らが甲第4号証として提出する基本仕様書の冊子に記載されているのであり,なぜリーダーボードについてのみ,1枚の用紙に記載されて提供されたのか,説明がつかない。
また,平内が最初に作成したリーダーボードのデザイン図(乙第6号証)は,請求人らが主張する基本仕様書とは似ても似つかないものであり,被請求人が基本仕様書の提供を受けたのであれば,平内がこのようなデザインを作図するはずがない。
さらに言うと,請求人らは,デザインの変更は,中野氏,上下氏及びワン氏から口頭でなされたと主張しており,そうであれば,最初に提供された基本仕様書をバージョンアップする必要はないし,逆に,基本仕様書の変更で対応するのであれば,担当者が口頭で指示する必要はない。

エ 以上のように,基本仕様書と称する甲第7号証について,請求人らの説明は支離滅裂であり,この基本仕様書も,請求人昭和シェル石油の別の代理人が提出した回答書に添付の同様の仕様書(乙第5号証)についても,当時存在していたと考えることは不可能である。

オ 以上のように,基本仕様書なる図面(甲第7号証及び乙第5号証)は存在していなかったのであるから,サニ氏が最終的に製造用の図面を作成することとなったリーダーボードの仕様のデザインを実質的に考案したのは誰か,という点が問題となる。
この点,請求人らは,サニ氏の役割について,「PCAのサニは専らRVIeや請求人らの指示に基づいて作図を行ったに過ぎないから,本件意匠の創作者であるとは言い難い。」と主張し(請求書11?12ページ),サニ氏がリーダーボードの仕様原案の実質的な作成者であることを否定しているから,サニ氏が本件意匠を自ら考案したのでない点については,争いはない。
また,請求人らは,中野氏,上下氏及びワン氏がデザイン変更の指示を出したと主張しているが(これは事実ではなく,後記(4)にて反論する。),これはあくまでもデザイン変更に関するものであり,デザインの原案について,中野氏,上下氏又はワン氏が関与したとの主張はなされていない。
そうすると,リーダーボードの原案は,被請求人サイド(平内を含む。)が創作し,請求人がサニ氏に対して指示して作図させたものであるという結論以外,導かれようがない。事実,PCAとの連絡は,もっぱら被請求人のみが行っていたのであり,請求人昭和シェル石油は,英語のわかる担当者がいなかったこともあり,PCAとは基本的には接触していなかった。

カ 被請求人が本件意匠のデザインを一から創作した経緯については,以下のとおり,創作の段階ごとに,被請求人の関わり及びその時期について,要約する。
(ア)前面のみ上側正面パネルを配した支柱一本の形態の創作(甲第9号証)
被請求人において,リーダーボードのデザインを担当していたのは平内であるが,既に主張したとおり,平内は,平成23年7月21日付けの最初のデザインを作図した(乙第6号証)。被請求人は,これをPCAに提示すると共に,請求人昭和シェル石油の求めるコストで量産可能であるか検討するよう依頼したが,PCA側では,上記デザイン図がサニ氏に連携されていなかったのか,又は提供される前に作成されたのかは今となっては不明であるが,平成23年7月25日付けでサニ氏が作図した図面が被請求人側に提供された。この図面は,被請求人サイドで作成されたものではないため,実際の作成日は不明である。
この図面は,PCAが当時使っていた他の部材の材料を組み合わせただけのものであり,PCA側が,請求人昭和シェル石油の求めるコスト内で製造できるよう,コストを抑えたものを勝手に提案してきたものであった。
この点について請求人らは,平内のデザイン図の提案にも関わらずこれと異なる甲第9号証の図面をサニ氏が作成したことは,サニ氏の図面が専らRVIeに基づく基本仕様のデザイン(甲第7号証)に準拠して作成されたと考えるのが自然であると主張する。しかし,前記のように,甲第7号証の図面は,複数の図面を重ね合わせたような内容であり,これを見ただけでどのようなデザインを指示されているのか全くわからないものである。甲第9号証の図面は,世界共通部材のエントランスサインとして既に用いられているものとほぼ同じであり(甲第12号証参照),サニ氏は,これと同じ材料でリーダーボードを作成すれば開発コストが大幅に安くなると考えただけに過ぎない。
なお,PCAでは,部材のデザインは甲第9号証等のようなPCAのロゴが入ったフォーマットを用いることにしているようであり,平内が最初に作成したヘキサゴンジャパンの社名が入ったフォーマットでデザインを提供したものも,結局はPCAのフォーマットのものに移されて返されることとなった。そのため,平内は,その後も,PCAのロゴ入りのフォーマット上でデザインの修正を行うこととなり,「PREPAREDBY:」と記載される最下行の作成者欄の箇所も,サニ氏の氏名が記載されたままのものを使い続けることになる。平内としては,どのフォーマットで作成されるかという点については全く関心がなかったため,あえてヘキサゴンジャパンの社名の入ったフォーマットに置き換える必要もなかった。

(イ)前面のみ上側正面パネル及び上側正面パネルと等幅の下側正面パネル(白色)を配した支柱2本の形態の創作(甲第10号証)
甲第10号証に示される図面のデザインを創作したのは,被請求人の平内である。もっとも,最終的に出てきた甲第10号証の図面を作成したのは,平内のデザインを図面化したサニ氏の作成によるものである。
このデザインが創作された経緯であるが,PCAがコスト重視の作図をしたものを,被請求人が中野氏に見せたところ,消防法令上強度の問題があるかもしれないとの指摘を受けたために,被請求人において協議し,平内がデザインを行ったことにより創作された。
平内は,コストの制約があるために,PCAの既存の材料を最大限に生かすデザインにする必要性と,強度を確保する必要性とを勘案し,PCAの既存の材料(甲第9号証の図面にあるパネル)に,新たな足元のパネルを接合し,併せて,足の数を2本にするというデザイン案を考案した。その結果生まれたのが,甲第10号証のデザインである。
甲第10号証の図面は,被請求人が提出した,同一日付けの乙第7号証の2(乙第8号証の2も同じ)とほぼ同じであるが,足元の羽根の付き方が異なる。甲10号証のものは,羽根がリーダーボードの正面に向かって前後方向に付いているのに対し,乙第7号証の2の図面は,正面に向かって左右に付いている(なお,横から見た図では前後方向にも羽根が付いているように見えるが,これは誤りである。)。この違いについては,以下の経緯がある。
まず,サニ氏が,平成23年10月3日,羽根が左右方向に付いた乙第7号証の2のとおりの図面を上司のフィルダウス氏及び被請求人の藤島に対して,要望された通りの図面を送るとの趣旨のEメールで送信した(乙第1号証の1及び2)。この図面で羽根が左右方向に付いていたのは,元々平内による図面での指示では前後方向に羽根が付いていたものが,サニ氏のミスで左右方向に作図されたものであった。このことは,翌10月4日,藤島が,構造物の強度についてのアドバイスをもらっている高野氏に同図面を送信したところ(乙第7号証の1及び2),高野氏から,リーダーボードは自動車が正面から衝突した場合にそれを食い止める機能を備える必要があるから,羽根が左右方向だけでは衝突に対する耐力が不足するのではないか,との指摘を受けて発覚した。
藤島は,上記の図面を請求人昭和シェル石油に既に送信していたが,その後の10月13日,支柱の底の部分のデザインを平内が元々指示していたものに修正するよう,Eメールでサニ氏に依頼した(乙第9号証の1)。このEメールに対しては,フィルダウス氏が,同日,サニ氏が足元部分に関して平内氏による指示の図面(graphic)と異なる製図(drawing)をしたことを叱責している(乙第9号証の1)。フィルダウス氏は,PCAは図面(graphic)による指示通りの製品を提供することに合意しているのだから,製図(drawing)は図面(graphic)に従うように,とサニ氏に指示をしている。ここで,PCAは自らデザインを考案しているのではなく,PCAに対して図面(graphic)による指示があったことが明らかになっているが,請求人らは,図面を示して被請求人にデザインの指示を出したことはないから,その図面とは,平内が作成し,被請求人がPCAに提供したものに他ならない(なお,念のために付言すると,請求人らが基本仕様書として提供したと主張する図面(甲第7号証)には,リーダーボードの足元部分の羽根は示されていないから,このEメールで図面(graphic)が基本仕様書のことを指しているものでないことは当然である。)。
その後,サニ氏は,高野氏からの指摘を受けて気が付いたミスを修正し,平成23年10月13日に藤島に送信した(乙第9号証の1及び2)。
したがって,甲第10号証(デザインは乙第9号証の2と同一である。)の図面が最終的に確定した時期は,図面の日付けとなっている平成23年10月3日ではなく,同年10月13日である。

(ウ)前面のみ上側正面パネル及び上側正面パネルより幅狭の下側正面パネル(銀色)を配した支柱2本の形態の創作
前記(イ)の図面は,請求人SBI氏のワン氏に送付されたが,ワン氏からは,平成23年10月6日付けEメールにて,RVIe規格の他の部材との統一性を要求されたため,平内が,その制約の範囲内でデザインの修正を行った。こうして,製作されたデザインが,2本の支柱に前面のみ上下2枚のパネルが設置され,下のパネルがグレー(銀色というよりグレーである。)で上のパネルより幅狭となったものが完成した。
なお,ワン氏は,平成23年10月6日付けEメールにて,「リーダーボードにポールではなく全面の衝突防止の土台を付けることが消防規制であるため,宣伝ポスターの枠と同様のシルバーをベースとした(わずかな差し込みのある)RVIeのリーダーボードの土台をデザインしてください。」と述べ,参考のために宣伝ポスター用部材(promotional poster unit)の図面を添付している(乙第8号証の1)。このEメールでは,ワン氏は,ポール(支柱)の代わりに完全な衝突防止用土台を取り付けることが消防署の規制である(it is fire station regulation to have full crash guard base for the leader board instead of pole)と言及した上で(なお実際の消防法令は,特定の構造を要求しているわけではない。),RVIeのリーダーボードの土台を宣伝ポスター用部材のフレームと同じように銀色ベースのものにデザインして欲しいと要望している(乙第8号証の1,なお,乙第2号証別紙2の和訳は不正確であり,異なる趣旨になってしまっている。)。これは,平内がデザインした支柱に薄いパネルを取り付ける形態自体を否定し,宣伝ポスター用部材と同様,地面から直接,厚み持った土台(base)を構築することを求めていることに他ならない。そしてその土台がその上に覆われるパネルより若干幅狭であることを示唆しているが,その差し込みの程度や,土台の色の指定(色番号など)は特に行わず,参考資料との統一性という抽象的な要望しかしていない。
上記のようなワン氏の提案に対し,平内は,大幅な構造の変更をせずにあくまでも支柱にパネルを取り付ける方式を選択し,ただ,宣伝ポスター用部材との統一性を図るために,下のパネルを若干幅狭にした上でグレーにすることとした。
こうした平内のデザインは,必ずしもワン氏の要望通りではなかったが,その後の協議の結果,ワン氏は支柱にパネルを取り付ける方式を受け入れ,平内の案は最終的には承認された。
このデザインが創作された時期は,正確には不明であるが,ワン氏とのEメールのやりとりからは,平成23年10月以降であると考えられるが,平内がワン氏の要望をそのまま受け入れなかったため,(イ)の図面が確定した10月13日の時点では,まだ上記の修正は反映されていなかった。しかし,遅くとも年内には,デザインはできていた。もっとも,平成24年1月に開催されたディーラーズミーティングに展示されたリーダーボードは,PCAに対する部材の発注が間に合わなかったため,上記(イ)のデザインのままであった(ただし,背面にボックス型のパネルを取り付けている。乙第10号証及び第11号証)。

(エ)上記(ウ)の前面側上下パネルを背面側にも配した支柱2本の形態の創作(甲第11号証)
背面にも前面と同じパネルを取り付けるデザインは,平成24年1月に開催されたディーラーズミーティングの後,請求人昭和シェル石油の上下氏から,ボックス型の背面パネルを付けた場合の見積りが高いと言われたため,被請求人から,背面に前面と同一のパネルを取り付けることを提案した(乙第21号証及び第22号証)。なお,かかる提案は,対外的には全て土山が行ったが,デザインの変更であるから,必ずデザイナーである平内がデザインを行っている。
この点については,藤島のノートに記録されたメモにも,リーダーボードに関して「Backは弊社プラン(同額)」との記載が残っている(乙第24号証・53頁)。これは,背面パネルを被請求人の提案したとおりにすることが決定されたことを意味し,「同額」とは,片面パネルのみの場合と同じ価格で受注するということである。
この修正については,平成24年5月頃には確定していたが,請求人昭和シェル石油から正式に両面パネルでの仕様で発注がなされたのは,さらに後のことである。

キ 本件意匠に関する図面には,最下行に「PREPAREDBY:」としてサニ氏の氏名が記載され,時には平内の氏名が「Rev」として記載されている。
これは,基本的には,その図面のベースになった図がサニ氏の作図によるものであることを示しており(ただしデザインを創作したのは平内である。),平内の氏名が記載されているものは,その後に平内が当該図面に直接修正を入れたことを示す。ただし,サニ氏は,平内がデザインの修正を指示するために作成した別の形式の図面やPCAのロゴ入りフォームによる図面に従って自らの手元にある図面を修正するばかりではなく,指示に従って修正した内容で自ら新しい図面を起こしたりもしているため,「PREPAREDBY:」の後に続く日付けが当該図面のデザインが制作された日とは限らず,また,平内が作成者の欄に注意を払っていなかったために,平内の氏名が記載されていないからといって,平内が直接手を入れていないとも限らない。平内による修正も,リーダーボードの外形デザインの修正のみならず,パネルに記載される数字や日本語のフォント,位置など多岐にわたっている。
したがって,「PREPAREDBY:」に続く記載は,参考程度の意味しか持たず,平内の氏名が入っていないものについて平内が関与していないということはない。むしろ,前記のように,サニ氏は平内による図面での指示に忠実に従って作図をするのが仕事であり(指示に従わなかった点をフィルダウス氏にも叱責されている。),全ての図面のデザインは,平内が考案したものである。

ク また,被請求人においては,請求人らとの連絡業務において,対外的に本件意匠のデザインを提案したのは,土山や藤島であることも多かったが,それは,土山や藤島が本件意匠の創作者であったことを意味するものではない。
土山や藤島が,平内に無断でPCAにデザインを指示したり,請求人昭和シェル石油に提案を行ったことはない。デザインは,全て平内が取り扱っており,土山や藤島が,デザインイメージについて平内に指示,提案したり,土山が請求人らに提案する内容を最終決定することはあっても,具体的な作図に口を出すことはなく,最後は必ず平内に詳細のデザインをさせていた。
高野氏についても同様である。高野氏は,ディーラーズミーティングに間に合わせるために急場しのぎのボックス型背面パネルをデザインした他は(乙第10号証),土山や平内に強度に関するアドバイスをしてデザインを助けていたのみであり,自らリーダーボードの具体的なデザインについて口を出したことはない。支柱の足元の羽根の位置に関するものについても,高野氏は,強度を確保するためには前後方向に力がかかっても耐えられるような構造にしなければならないとの抽象的なアドバイスをしたのみで,具体的にどのような措置をするかをデザインに落としたのは,全て平内である。

(4)中野氏,上下氏及びワン氏の関与(C)について
ア 請求人らは,請求人昭和シェル石油の中野氏及び上下氏,並びに請求人SBIのワン氏が本件意匠の「創作者」であると主張するが,彼らの本件意匠への関わりは,到底「創作」といえるようなものではない。

イ この点,「創作者」とは,意匠の創作をした者をいい,「意匠」とは,「物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法第2条第1項)とされている。
「意匠」の定義については,単に物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」であるのみならず,「視覚を通じて美感を起こさせるもの」であるとの要件が加えられているが,この点について請求人らは,意匠の美感性とは,美的処理をなす余地があったか否か,つまり,その形態が機能上一義的に決定されるものであるか否かという点をメルクマールとして区別されるものであるとして,機能上一義的に決定されるものではない形態は視覚を通じて美感を起こさせる「意匠」に該当し得ると主張している。
上記の議論は,あくまでも,その形態が機能上一義的に決定されるものである場合にはそれをまず排除した上で,視覚を通じて美感を起こさせるか否かを実質的に判断すべきと言っているに過ぎず,機能上一義的に決定される形態でない限り美感性が認められるという趣旨のものではない。にもかかわらず請求人らは,上記の規範を拡大解釈し,『機能上一義的に決定されるものではない形態について取捨選択に余地がある中で自らの意思に基づいて一つの形態を選出するような行為は「意匠の創作」に該当し,その行為者は意匠の「創作者」に該当する』などと論理を飛躍させている。
その結果,その形態が機能上一義的に決定されるものでない限り,その形態はすべからく美感性を有するとの独自の解釈を行い,中野氏,上下氏及びワン氏の関与を全て創作であるとの強引な結論を導いている。
なお,請求人らは,「約9割の筋肉は,必然的に選択されるものであっても,残りの細々としたところでは,取捨選択に余地があり,選出し決定するという知的作業は,本件登録意匠を創作する際の作業の一部と認められる」と言及する無効審決(無効2012-880009号事件,甲第16号証)を引用するが,この審判は,描写の対象となる骨格筋は必然的に確定するものであるとの主張を退け,取捨選択に余地がある部分もあることを前提としてその描写に意匠の創作性を認めたものであるが,必然的に確定しない,取捨選択可能な形状であればどんなものでも美感性のある意匠であるとしたものではない。
むしろ無効2010-88000事件における審決(乙第21号証)において示されたように,デザイン制作を委託する場合に市場や既存製品の情報,製品に関する企画等を提供し,希望する製品イメージを伝えることは,委託者としてごく普通かつ当然のことであるから,そのような情報提供や希望イメージを伝える行為は,このことをもって意匠の創作とはいえないと考えるべきである。

ウ 以上を前提に,まず,請求人昭和シェル石油の中野氏の行為について検討する。
請求人らは,中野氏が,サニ氏が作図したデザイン図(甲第9号証)に対し,支柱が1本のリーダーボードでは衝突防止装置としての機能を果たし得ないから強度の高いものに変更するようにとの指示を出した旨主張する。この点,中野氏が,サニ氏の案に対して,強度が不足するため消防署から承認されない可能性があるとの指摘を行ったことは事実である(乙第22号証)。
もっとも,中野氏は,上記の指摘をするのみで,強度を持たせるためにどのようなデザインにすべきかについては一切提案せず,被請求人に対してデザインの再提案を求めたのみであった。
このような指摘が,具体的なデザインの指示でないことは明白であり,請求人らの主張を前提にしてさえ,中野氏が本件意匠の「創作者」であると考える余地はない。
なお,請求人らは,平内が創作した当初デザイン(乙第6号証)は中野が発案したと主張し,中野氏もその陳述書(甲第17号証)において,同デザインと同じものをホワイトボードに描いて披請求人に提案したと供述している。しかし,あまりにも唐突なその主張内容は,請求人ら自らの主張を否定するものであり,また,矛盾に満ちている。
すなわち,請求人らの上記主張は,本件意匠の当初デザインは中野氏が考案して被請求人に提案したというものであるが,このことは,基本仕様書(甲第7号証)を提示してリーダーボードの仕様を指示したとする請求人らの主張を否定するものである。加えて,請求人昭和シェル石油のリテール販売部の一担当者にすぎない中野氏が,全国に約3000か所ある昭和シェルブランドのサービスステーションにおいて更新されるリーダーボードの新デザインを自ら考案し,しかも頭の中で考案したデザインをホワイトボードに手書きで書いて提案するなどということは,常識からも考えられない荒唐無稽な主張である。
請求人らは,RVIe規格の仕様は国際標準仕様をまとめた冊子(甲第4号証)にて定められていると主張しながら,リーダーボードについてのみ1枚の用紙に記載された基本仕様書が存在し,これに基づいた指示を行ったという矛盾する主張をし,しかも別の代理人との交渉時とは異なる仕様書(甲第7号証を証拠として提出している,さらには,中野氏が,自ら本件意匠の元となった原案をホワイトボードに手書きで描いて提案したとの主張も加えており,これらの主張は相互矛盾している。
このような矛盾だらけの主張,供述は,被請求人名義の本件意匠登録を無効ならしめようとするためだけの場当たり的なものであり,いずれも信用に値しない。

エ 次に,請求人昭和シェル石油の上下氏の行為について検討する。請求人らは,上下氏が,1)背面にむき出しになっていた亜鉛メッキ素材を覆い隠すパネルを設置するように指示し,また,その後,2)リーダーボードの背面を前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をしたと主張する。
まず,1)の点であるが,上下氏が,背面がむき出しになっているのをどうにかして欲しいと発言したことは事実である(乙第1号証及び乙第22号証)。しかし,上下氏からは,具体的に背面にどのような処置をするのかについての指示は一切なく,被請求人からの提案を待っていたのみであった。
そこで,被請求人からは,ボックス型の覆いを背面に取り付けることを提案することになった(乙第10号証及び第11号証)。
次に2)の点であるが,上下氏が,リーダーボードの背面を前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をしたことはなく,そのような提案をしたのは被請求人である(乙第1号証,乙第22号証及び乙第24号証・53頁)。
そもそも,請求人昭和シェル石油は,被請求人に対して厳しいコスト低減の要求をしており,被請求人では,請求人昭和シェル石油からのコスト要求を満たすようなデザインを創作することに常に苦労していた。裏面パネルについても,上下氏から,片面の場合と同様のコストでやって欲しいと無茶な要求をされており,苦肉の策として,裏面を表面と同一にすることを提案したのである。請求人昭和シェルは,部材の各材料がどれだけのコストで製造できるのかを一切把握していなかったため,ボックス型の覆いを付けるよりも前面と同一のパネルを取り付ける方が,コストが安いという認識もなかった。
したがって,ボックス型の覆いでは見積りが高いという理由で前面と同じパネルを背面にも取り付けることを,上下氏が提案できるはずがない。
なお,上下氏は,その陳述書(甲第3号証)において,「その後,ヘキサゴンジャパンの土山氏から,前面と背面を同じデザインとしても製品代金に影響はないとの連絡を受けたので,私は,ヘキサゴンジャパンを通じて,リーダーボードの背面を,前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をしました。」と述べている。この供述は,土山から前面と同じパネルを背面に取り付ける提案を受け,上下氏がこれを承諾したに過ぎないという事実を認めているのと同じである。土山が,前面と背面を同じデザインとしても製品代金に影響がないと連絡したのは,そのようなデザインに変更することを上下氏に提案したからに他ならない(上下氏の陳述書では,この点を意図的に省いている。)。デザイン変更の提案もせずに,変更した場合に製品代金に影響がないという事実だけを連絡する意味がないし,パネルが無料で製造できることはありえない以上,土山が代金に影響がないと述べた趣旨は,裏面パネルを取り付けた場合でも価格を同じにする(その分を値引きする)という提案をしたとしか解釈できないからである。
以上のことから,上下氏は,リーダーボードの意匠に関して,積極的なデザインの提案・変更指示をしたことはなく,本件意匠の「創作者」となる余地はない。

オ 最後に,請求人SBIのワン氏の行為について検討する。
請求人らは,ワン氏が,1)サニ氏の原案に対し,支柱を隠すためにリーダーボード前面に覆いを付けるように指示し,また,2)リーダーボードのパネル下部の横幅をパネル上部よりやや狭くし,パネル下部の色彩をシルバーに変更するよう指示を出したと主張する。
まず,1)の点であるが,ワン氏が,サニ氏の案(甲第9号証)に対して何らかの指示を出したという事実はない。ワン氏の陳述書(甲第2号証)にも,そのような記載はない。
そもそも,請求人SBIは,最終的にデザインを承認する役割を果たしているものの,前記のように,請求人昭和シェル石油とは連携が取れておらず,請求人SBIへの承認請求は,基本的に被請求人が行っていた。したがって,ワン氏が支柱に覆いを付けるよう請求人昭和シェル石油の担当者に指示することはありえないし,被請求人は,ワン氏から,そのような指示を受けたことはない。
また,後記のように,ワン氏は,支柱にパネルを取り付ける方法自体を否定する要望を後に出しているのであり,支柱を隠すために前面に覆いを付けるように依頼することは,これに矛盾する。
したがって,ワン氏が,支柱を隠すためにリーダーボード前面に覆いを付けるように指示したことは,ありえない。
次に2)の点であるが,前記のように,ワン氏からの平成23年10月6日付けEメールでは,ポールの代わりに(instead of pole),完全な衝突防止用土台(full crash guard base)を設けることが消防署の規制であることを理由に,宣伝ポスター用部材のフレームと同様の銀色ベースの土台,すなわち支柱にパネルを付けただけのものではなく,それ自体が厚みを持つ土台自体が地面に接するような強固なデザインを要望している(乙第8号証の1)。これは,実際に平内がデザインしたものと異なるものであり,最終的にも採用されていない(理由は,消防法令の規制が,単に衝突を防止するものであることを要求しているだけであり,上記のような土台を要求しているものではないこともあるが,コストの問題も大きいと思われる。)。ワン氏の指示が上記のように解釈されるのは,文頭に「リーダーボードにポールではなく全面の衝突防止の土台を付けることが消防規制であるためとの記述があるからである。単に下部パネルの幅を狭くして色を変えるだけであれば,消防署の規制を持ち出す理由はない。
平内は,最終的には,下部パネルを上部パネルより幅狭にした上で,グレー(銀色とはいえない色である。乙第4号証の写真参照)にすることで,ワン氏からの指摘の一部を取り入れているが,支柱にパネルを取り付ける方式を維持している。ワン氏もその後,厚みのある土台を持つ宣伝ポスター腰部材と同じ構造で制作するよう依頼することを撤回し,RVIeの統一性のみを求めるようになった。実際,土山は,平成23年11月27日付けEメールにおいて,ワン氏に対し,デザイン変更を行っているところである,あなたのリクエストは理解しているが,強度の計算とデザイン変更のための時間が欲しい旨を述べており(甲第2号証別紙5参照),ワン氏の要望をそのまま受け入れるのではなく,支柱にパネルを取り付ける場合でも十分な強度が得られるかどうかについての検討を続けていることを説明している。
そもそも,ワン氏が資料を提供した宣伝ポスター用部材は,地面からトップまで続く厚みのあるシルバー(正確な色は不明である。)の部材の上に,広告を掲示するための白色のパネルを重ねているものであって,白色パネルとシルバーの土台との間には,表面に段差がある。これに対して,平内が創作したリーダーボードのパネルは,薄い白色の上部パネルとグレーの下部パネルとが並列して接合された上で支柱に取り付けられており,上下パネルの表面に段差はない。また,平内のデザインにおける上部パネルと下部パネルの高さの比率は,参考資料である宣伝ポスター用部材の上部と下部の高さの比率と比べて,下部パネルが大き目となっている。
以上のことからすると,平内の考案したデザインは,ワン氏の指示,示唆のとおりではなく,独自のものであり,ワン氏は,本件意匠を創作したとはいえない。
平内が採用した幅狭で色がグレー(シルバーとは言えない)の下部パネルについても,ワン氏の要望は,下部パネルの幅を若干狭める(slightly inset)という抽象的な表現に留まっており,色についても,類似の銀色ベース(similar silver base)というもので,参考資料と同一(same)の色を指定したわけでもない。そして,参考資料として添付された宣伝ポスター用部材の図には,下部の土台か上部のカバーより何センチ幅が狭くなっているのか,色は何色なのか(色コード等)といった詳細な情報がー切ない。
したがって,下部パネルの幅・色に関するワン氏の要望は,ロイヤルダッチシェル・グループのRVIe規格との統一性という。デザイン制作の委託・受託関係に伴う通常の制約の範囲内といえ,その内容も,既存製品の情報を提供し,希望する製品イメージを伝えるもの以上ではない。さらにそもそも,RVIe規格のデザインを創作したわけでもないワン氏が,受託者に対してデザインの統一性について言及しただけで「創作者」になるということ自体が不合理である。
以上より,ワン氏が宣伝ポスター用部材を参考資料として提供し,RVIe規格の他の製品との統一性を要望した事実をもっても,ワン氏が本件意匠の「創作者」とはなり得ない。

(5)結語
以上のとおり,リーダーボードに関する本件意匠の創作に関しては,平内は単独の創作者」であり,中野氏,上下氏及びワン氏は,具体的な意匠の創作を一切行っていないから,「創作者」たりえず,本件意匠は,平内から意匠登録を受ける権利を承継した被請求人が単独で意匠登録を受ける権利を有するものである。
したがって,請求人らの請求は,成り立たない。

(6)証拠方法
1)乙第2の1号証 リーダーボードの図面(Sani 25/07/2011 Rev Hiranai 15/03/2012)の写し
2)乙第2の2号証 リーダーボードの図面(Hiranai 17/04/2012 Rev 25/04/2012)の写し
3)乙第23号証 ノート(H23.6頃?H23.10頃,森永志帆記載)の写し
4)乙第24号証 ノート(不明?H24.2頃,森永志帆記載)の写し

3.審判長
審判長は,口頭審理において,甲第1号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。)及び乙第1号証ないし乙第24号証(枝番号を含む。)を取り調べた。
その後,口頭審理を中断して以下の証拠調べ(証人尋問及び本人尋問)を行い,証拠調べ終了後に口頭審理を再開した。

(1)証拠関係
下記証人及び本人調書のとおり。
後に尋問されることになっている証人は,在廷しない。

ア 証人調書(1)
審判番号 無効2014-880008
期日 平成28年2月22日 午前10時20分
証人の表示
氏名 中野 麻子
審判長は,宣誓の趣旨を説明し,証人が偽証した場合の罰を告げ,別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
陳述の要領
証人等の陳述は,審判長の許可があったので録音テープ等に記録する。(DVD-R1枚のとおり)

イ 証人調書(2)
審判番号 無効2014-880008
期日 平成28年2月22日 午前12時30分
証人の表示
氏名 平内 祐斗
審判長は,宣誓の趣旨を説明し,証人が偽証した場合の罰を告げ,別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
陳述の要領
証人等の陳述は,審判長の許可があったので録音テープ等に記録する。(DVD-R1枚のとおり)

ウ 証人調書(3)
審判番号 無効2014-880008
期日 平成28年2月22日 午後1時30分
証人の表示
氏名 森永 志帆
審判長は,宣誓の趣旨を説明し,証人が偽証した場合の罰を告げ,別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
陳述の要領
証人等の陳述は,審判長の許可があったので録音テープ等に記録する。(DVD-R1枚のとおり)

エ 本人調書
審判番号 無効2014-880008
期日 平成28年2月22日 午後2時40分
本人の表示
氏名 土山 理一郎
審判長は,宣誓の趣旨を説明し,証人が偽証した場合の過料を告げ,別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
陳述の要領
本人等の陳述は,審判長の許可があったので録音テープ等に記録する。(DVD-R1枚のとおり)

オ 証人調書(4)
審判番号 無効2014-880008
期日 平成28年2月22日 午後3時15分
証人の表示
氏名 古澤 克己
審判長は,宣誓の趣旨を説明し,証人が偽証した場合の罰を告げ,別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
陳述の要領
証人等の陳述は,審判長の許可があったので録音テープ等に記録する。(DVD-R1枚のとおり)

最後に,審判長は,本件無効審判事件の審理を終結する旨告知した。

4.録音テープ等の書面化申請
平成28年2月23日に請求人から,また,平成28年3月10日に被請求人から録音テープ等の書面化申請が行われた。その後,それについての意見は提出されなかった。

第6 当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,
平成24年(2012年)11月30日の意匠登録出願に係り,平成25年(2013年)5月10日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1472160号の意匠であって,願書の記載によれば,出願人をヘキサゴンジャパン株式会社(現SWOT JAPAN株式会社)とし,創作者を平内祐斗(以下「平内氏」という。)とし,意匠に係る物品を「給油機用防護具」とし,その形態を願書及び添付図面に記載のとおりとするものである。(別紙第1参照)
すなわち,その形態は,
(1)全体は,底面視の縦横比が約5:16の略横長長方形板状の基台部(以下「基台部」という。)の左右端部付近から基台部横幅の約1/4内側の位置に,円筒形状の支柱(以下「支柱」という。)を2本立設し,この支柱の正面側及び背面側上方部分に,正面視の縦横比が約1.6:1の略縦長長方形板状で,その上端部分を支柱側に向かって側面視R状に折曲した形状のパネル(以下「上パネル部」という。),及びその上パネル部の下辺部分に接して,正面視の縦横比が約3:4の略横長長方形板状のパネル(以下「下パネル部」という。)を,螺子及び金具にて固定したものであって,
(2)基台部には,四隅及び長辺側縁部中間部分に円孔を計6つ設け,
(3)支柱には,その正面側及び背面側の根元部分に,略直角二等辺三角形板状のリブ部材(以下「支柱リブ」という。)を配設し,
(4)正面側の上パネル部(以下「正面上パネル部」という。)は,左右辺及び下辺部に僅かな白色の領域を残して,中央部下辺部寄りに,正面視の縦横比が約3:2の略縦長長方形状の黄色のステッカー部を設け,背面側の上パネル部(以下「背面上パネル部」という。)は,黄色のステッカー部を設けず,全面を白色とし,
(5)下パネル部は,正面側及び背面側とも添付図面によれば灰色としているものである。

2.無効理由の要点
請求人が主張する本件意匠登録の無効事由は,以下のとおりである。
(1)冒認出願
本件登録意匠は,本件意匠について意匠登録を受ける権利を有していない者により出願されたものであるため,いわゆる冒認出願であって,意匠法第48条第1項第3号の規定により,無効とすべきである。
(2)共同出願違反
被請求人が本件意匠について意匠登録を受ける権利を有していたとしても,本件登録意匠には共同創作者が存在することから,本件意匠登録は共同出願されるべき意匠についての単独出願であって,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反して意匠登録されたものであり,意匠法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

3.証拠により認められる事実
請求人及び被請求人の主張及び提出された甲第7号証を除く証拠によると,本件登録意匠の創作に関係する事実は,以下のものが認められる。
(1)創作の段階について
本件登録意匠は,以下の段階を経て創作されたものであると認められる。
まず,板状の基台部中央部分から支柱を1本立設し,この支柱の正面側上方部分に,上端部分を支柱側に向かって折曲した正面上パネル部のみを螺子及び金具にて固定したものであって,その正面上パネル部には,左右辺及び下辺部に僅かな白色の領域を残しつつ中央部下辺部寄りを黄色としたものであって,支柱部根元部分には支柱リブを配設(正面図では左右側面側に記載され,右側面図では正面側,背面側及び左右側面側に記載されており,図面不一致のため配置態様は不明)した形態のもの(以下「意匠1」という。)が創作され(甲第9号証,別紙第2参照),
次に,支柱を2本に増やし,それに合わせて基台部を横長の板状体に変更し,支柱部根元部分には支柱リブを正面側及び背面側のみに配設し,正面視の縦横比が約2:3の正面上パネル部と同じ横幅の白色の下側パネル部(以下「当初下側パネル部」という。)を,正面上パネル部の下辺部分に接して配設した形態のもの(以下「意匠2」という。)に変更し(甲第10号証,別紙第3参照),
そして,意匠2の当初下側パネル部を,正面上パネル部の横幅よりも僅かに幅の狭い本件登録意匠と同様の灰色の下パネル部とし,基台部の横幅を下パネル部の横幅に合わせた形態のもの(以下「意匠3」という。)に変更し,
さらに,意匠3の背面側に,正面上パネル部と同形状で白色の背面上パネル部及び正面側と同じ下パネル部を配設した,本件登録意匠と同様な態様のもの(以下「意匠4」という。)が創作されたものである(甲第11号証,別紙第4参照)。
なお,被請求人側の平内氏が最初に提案した,請求人SBIの定めた国際デザイン仕様規格である「Retail Visual Identity」(以下「RVI」という。)を参考に創作した全体が箱形の形態のもの(以下「参考意匠1」という。)は,採用されなかった(乙第6号証,別紙第5参照)。

(2)創作者に関する事実
ア 意匠1について
(ア)図面の作成者
請求人側の主張によれば,意匠1を表した図面(甲第9号証)には,Polymer Composite Asia Sdn Bhd(以下「PCA」という。)従業員のサニスディン・ビン・カスムリ氏(以下「サニ氏」という。)の記名があり,同図面はサニ氏が作成したものである(審判請求書第8頁第3行?6行)とし,被請求人側も「図面はPCAのサニ氏が作成したものである」(審判事件答弁書第13頁第14行?第15行)と認めており,この点について両者に争いはないので,意匠1を表した図面はサニ氏が作成したと認められる。
(イ)意匠1の創作者
請求人側の主張によっては,意匠1の創作者は明らかではない。また,被請求人側の主張においても,「土山は,フィルダウス氏を通じてPCAで作成された(意匠1の)製造図面を受領したが,それは,平内が製作したデザイン図とは異なり,既にPCAで製造している部品を組み合わせたものであった。」(審判事件答弁書第13頁第12行?第14行)と主張していることから,意匠1の創作者は少なくとも平内氏ではないと認められる。

イ 意匠2について
(ア)図面の作成者
請求人側は,「平成23年10月3日に,請求人昭和シェルが,被請求人の土山を通じて取得したPCAのサニが作成した変更案(甲第10号証)では,」(審判請求書第8頁第26行?第27行)と主張し,被請求人側も,「もっとも,最終的に出てきた甲第10号証の図面を作成したのは,平内のデザインを図面化したサニ氏の作成によるものである。」(被請求人口頭審理陳述要領書第11頁第21行?第22行)と主張しており,意匠2を表した図面(甲第10号証)をサニ氏が作成したことについて当事者間に争いはなく,意匠2を表した図面はサニ氏が作成したと認められる。
(イ)意匠2へ変更する創作をした者
請求人側は,意匠2への変更を行った者は,「中野及びワンの指示を受け,支柱2本で上側正面パネルと等幅の下側正面パネル(白色)を配した形状を作成したのは,甲第10号証の図面を作成したサニである可能性が高い。」(請求人口頭審理陳述要領書第5頁第24行?第27行)と主張し,一方,被請求人側は,「サニ氏は,被請求人から送られてきたデザイン原画を元に,PCAにおいて低コストで製造することが可能となるような材料の選択,寸法の調整をすることはあっても,自ら意匠を考案して創作することはない。そのことは,サニ氏の陳述書(甲第8号証)において,サニ氏が,自らの役割を『ヘキサゴンジャパンを通じて伝えられるシェルまたは昭和シェルからの指示に従って看板の図面を作成すること』と述べており,自らはデザインを考案しておらず,指示されるままに図面を作成しただけである旨述べていることからも明らかである。」(審判事件答弁書第9頁第5行?第12行),「被請求人は,平内を中心に,改めてリーダーボードのデザイン画を製作し,これをPCAに提供し,製造図面を作り直すよう依頼した。その過程としては,まず,請求人昭和シェルから指摘を受けた内容及び土山の指示を平内氏に伝え,デザイン全般を平内が担当した。図面は,その時点で昭和シェルの担当者に見せて了解をもらった上で,土山がPCAに送り,PCAの中で,グローバルの共通部材を使用して作成した場合の組み立て図や,部材の厚みなどが記載された詳細の製造図面が作成された。」(審判事件答弁書第13頁第25行?第14頁第6行),「甲第10号証に示される図面のデザインを創作したのは,被請求人の平内である。」(被請求人口頭審理陳述要領書第11頁第2行?第4行)と主張しており,平内氏が意匠2をデザインし,それに基づいて,サニ氏が意匠2を表した図面を作成したと主張している。

ところで,請求人側からは,支柱を2本に増やし,正面上パネル部と同じ横幅で白色の当初下側パネル部の配設についての主張はあるが,基台部及び支柱リブの変更について言及はない。一方,被請求人側からは,乙第7号証の1及び乙第9号証の1が提出され,各支柱に基台部を配し,支柱リブの配置態様が各図不一致である形態の意匠(以下「参考意匠2」という。)が表されたサニ氏が作成した図面(乙第7号証の2,別紙第6参照)に対し,被請求人側の森永氏が基台部及び支柱リブの配置態様をサニ氏に修正させたと主張している。
このように,被請求人のみが基台部及び支柱リブの配置態様について主張していることから,支柱の数及び当初下側パネル部についてはともかく,少なくとも基台部及び支柱リブの配置態様については,被請求人側のみがこの創作に関与したと判断され,これらはタングラム社の高野菊男氏の提案を受けつつ被請求人側が創作したものであると推認される(なお,被請求人側は平内氏を唯一単独の創作者であると主張している。)。
なお,支柱を2本に増やした構成態様,及び正面上パネル部と同じ横幅の当初下側パネル部を配設した形態を創作した者については,提出された証拠からは明らかとなっていない。

ウ 意匠3について
(ア)図面の作成者
請求人側からも被請求人側からも意匠3の表れている図面は提示されていない。
(イ)意匠3へ変更する創作をした者
請求人側は,平成23年(2011年)10月6日に,Shell Eastern Petroleum Ltd.(以下「SEP」という。)のシャロン・ワン氏(以下,「ワン氏」という。)が,「被請求人を通じてPCAに対して,RVIeにあるポスターフレームのデザインと統一感が出るよう,パネル下部の横幅をパネル上部よりやや狭くし,シルバーに変更するようにとの指示を出した。」(審判請求書第9頁第3行?第6行,甲第2号証),「ワンの指示は,具体的な図面を例示しての色彩の指定であるものであるから,具体的な形態を選択し,視覚を通じて美感を起こさせる形態を決定付けるような具体的な指示であり,明らかな創作行為である。被請求人はワンの指示が支柱のないリーダーボードを想定していたと反論するが,仮にそうであったとしても,下側正面パネルの形態について具体的な形態の選択を行った事実が否定されるものではない。」(請求人口頭審理陳述要領書第6頁第25行?第7頁第4行)と主張し,被請求人側は,請求人らが,ワン氏が平成23年10月6日に土山に宛てたEメールの中で,「宣伝ポスターの枠(promotional poster frame)と同様の,わずかな差し込みのあるシルバーをベースとした(silver base (with slight inset))RVIeのリーダーボードの土台をデザインしてください。こうすることで,RVIeの場所全てで仕様される看板に統一性があることを確保することができます。」と提案した点は認め(審判事件答弁書第17頁第8行?第13行,甲第2号証),「ワン氏は,Eメールの中で,RVIe規格の宣伝ポスターの枠の写真を添付し,これとの整合性を取れるような足元部分にして欲しい旨被請求人に依頼したが,このことは,被請求人に対し,被請求人がデザイン製作をするにあたっての制約又は許容範囲を示したものにすぎず,それが本件のようにデザイン案ができた後に示されたものであったとしても,委託する最初の時点において制約・許容範囲が示された場合と,何ら変わりはない。また,ワン氏は,具体的にリーダーボードの図面案を自ら作成して提示したわけでも,寸法等について具体的な指示を出したわけでもなく,他の部材の写真を示し,これと似たような少し差し込みのある銀色の土台(similar silver base(with slight inset))になるようにデザインして欲しいという抽象的な依頼しかしておらず,これをもって意匠の「創作」と到底いえるものではない。」(審判事件答弁書第17頁第25行?第18頁第11行)と主張している。

まず,ワン氏は,形状及び色彩が表されたポスターフレームの具体的な図面をEメール(甲第2号証の1ないし甲第2号証の3)中に提示し,形態の変更を指示若しくは依頼した点について当事者間に争いはない。
しかしながら,形状の変更についての指示は,ワン氏がベース部を僅かな差し込み部を有するデザインに合うように変更することを求めたのか,ポスターフレームと同様のベース部分に変更することを求めたのかの点で,請求人,被請求人に争いがある上に,ワン氏が提示したポスターフレームは,そもそもベース部分の前後に上部ポスターフレームが段差をもって取り付けられた異なる形状のものであるから,このワン氏の指示若しくは依頼のみによって,本件登録意匠のような上下のパネル部に段差のない下パネル部の具体的な形状を創作することができたとまではいえず,この下パネル部の形状の創作がワン氏によるものであるとすることはできない。
一方,色彩の変更についての指示は,国際標準仕様である「Retail Visual Identity Evolution」(以下「RVIe」という。)によりシェルにおいてグローバルで使用可能な色が限定されている上に,ワン氏のEメールにおいて実際の色がはっきり提示されたのであるから,下パネル部に使用する色彩をシェルで使用可能な色の中から誰でも同じ色を選択できる程の詳細な情報が提示されたものと認められる。
したがって,下パネル部の形状については,ワン氏の創作であるとまではいうことはできないが,色彩については,ワン氏の具体的な指示によって創作されたものであると認められる。
なお,意匠3は,下パネル部の横幅に合わせて基台部の横幅についても変更しているが,この点に関して請求人側から言及はなく,また,下パネル部の形状がワン氏ではなく平内氏の創作であると認められるため,意匠3の基台部の創作についても,被請求人側によるものと認められるが,平内氏が創作したとまでは認められない(被請求人側は,平内氏を唯一単独の創作者であると主張している。)。

エ 意匠4について
(ア)図面の作成者
請求人側は,「このようなSEPのワン並びに請求人昭和シェルの上下及び中野の指示を受け,PCAのサニが作成した平成24年2月20日付けのデザインは,2本の支柱と,その下部に底板が設けられ,前背面ともにシルバーのパネル下部と,同じく前背面ともに当該パネル下部よりもやや幅広の白色のパネルからなるものであった(甲第11号証)。」(審判請求書第9頁第22行?第26行)と主張し,被請求人側は,「このようにしてできあがったデザインは,平成24年2月21日,土山から請求人昭和シェルの上下氏及び中野氏に対して提出された(乙第12号証の1及び2)。乙第12号証の2の図面は請求人らが提出した甲第11号証のものと同じであるが,この図面では,平内が最終的な修正を行ったことが明らかになっている。」(審判事件答弁書第19頁第10行?第14行,乙第12号証の1)と主張しているが,甲第11号証の図面における記名及び乙第12号証の1のEメールの経緯によれば,サニ氏が,平成24年(2012年)1月26日に図面を作成し,平内氏が,同年2月20日に裏面の表示削除と文字の修正を行った結果,甲第11号証の図面が作成されたものと認められる。
(イ)意匠4へ変更する創作をした者
請求人側は,「請求人昭和シェルの上下は,被請求人を通じてPCAに対して,リーダーボードの背面を,前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をした。」(審判請求書第9頁第19行?第21行,甲第3号証)と主張し,被請求人側は,「土山は,前面と同一のパネルを背面に付けてもコスト面で許容できると判断し,前面と同一のパネルを背面に付けるデザインを提案した。」(審判事件答弁書第19頁第8行?第9行,乙第1号証)と主張している。

ところで,昭和シェル株式会社の上下政宏氏(以下「上下氏」という。)の陳述書(甲第3号証)において,「ヘキサゴンジャパンの土山氏から,前面と背面を同じデザインとしても製品代金に影響はないとの連絡を受けたので,私は,ヘキサゴンジャパンを通じて,リーダーボードの背面を,前面と同じ素材及びデザインのパネルで覆うように指示をしました。」と陳述し,口頭審理での証人尋問において,請求人側の証人である中野麻子氏も「ヘキサゴンジャパンさんからの御提案で,同じ素材で覆うというところの提案があって,それを上下のほうで最終的に,これでいこうと決定したというふうに聞いております。」と証言しているのであるから,前面と同一のパネルを背面に付けることを最初に提案したのは土山氏であると認められ,土山氏のこの指示はデザインを担当する平内氏にしか行われていないと推測されるので,平内氏が背面側にもパネルを配設した具体的な形態の創作を行った者と認められる。

(3)本件登録意匠の創作者について
本件登録意匠における下パネル部の形状,基台部の形状及び支柱リブ部の配置態様,並びに背面側に背面上パネル部及び下パネル部を配設した創作は,被請求人側(被請求人側は平内氏を唯一単独の創作者であると主張)によるものであると認められるものの,意匠1及び意匠2を表した図面において既に見られる,上端部分を支柱側に向かって折曲した上パネル部の形状,各支柱自体の形状及び本数の変更,及び支柱リブの配置態様を除く各リブ自体の形状,並びに左右辺及び下辺部に僅かな白色の領域を残し,上パネルの中央部下辺部寄りを黄色とした色彩の創作については,平内氏以外の者によるものと認められ,かつ,下パネルを灰色とした色彩の創作についてはワン氏によるものと認められるのであるから,本件登録意匠には被請求人側以外の共同創作者が存在し,平内氏単独の創作又は被請求人側のみの者による創作であるとは認めることはできない。

第7 むすび

以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法(甲第7号証を除く)によっては,本件登録意匠の意匠登録は,意匠の創作をした者ではない者で,かつ,意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対してなされたものとはいえず,本件登録意匠を無効とすることはできないが,本件登録意匠の創作に当たっては,請求人及び被請求人双方の関与が認められるところであるにもかかわらず,本件登録意匠は,請求人側の本件意匠登録を受ける権利の共有者と共同ではなく,被請求人側の平内氏のみを創作者とし,被請求人ヘキサゴンジャパン株式会社(現SWOT JAPAN株式会社)の単独により出願され,意匠登録を受けたものであると認められ,意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条の規定に違反して意匠登録出願され,意匠登録を受けたものであるから,その意匠登録は,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,無効とすべきものである。

また,審判に関する費用については,意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。


別掲


審決日 2016-09-27 
出願番号 意願2012-29437(D2012-29437) 
審決分類 D 1 113・ 15- Z (K9)
最終処分 成立 
前審関与審査官 植山 陽子八重田 季江 
特許庁審判長 本多 誠一
特許庁審判官 江塚 尚弘
清野 貴雄
登録日 2013-05-10 
登録番号 意匠登録第1472160号(D1472160) 
代理人 林 美和 
代理人 宮川 美津子 
代理人 外海 周二 
代理人 波田野 晴朗 
代理人 波田野 晴朗 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 宮川 美津子 
代理人 林 美和 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 克郎 
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