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審決分類 審判    L2
管理番号 1322363 
審判番号 無効2013-880007
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-01 
確定日 2016-11-07 
意匠に係る物品 擁壁用パネル 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1226790号「擁壁用パネル」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1226790号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,平成25年3月1日に審判請求書を提出し,「登録第1226790号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出した。

1.本件登録意匠の無効理由
(1)本件登録意匠の無効理由の要点
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「擁壁用パネル」とするもので,平成16年1月19日に意願2004-1065号として出願され,平成16年11月19日に設定登録されたものである(審判請求書添付 別紙1?別紙2)。
しかるに,本件登録意匠は,落石覆工に使用する「軽量盛土工法」として,平成11年3月に開発され,九州,四国を中心に多くの工事がおこなわれた「S.P.Cウォール工法」の主要部材として使用されたプレキャストコンクリート版の形状であって,島根県木次土木建築事務所(現 雲南県土整備事務所)の発注により,平成13年9月18日から平成14年3月10日までの工期で工事が行なわれた「S.P.Cウォール工法」に使用されたプレキャスト化粧版の形状と同一又は類似する意匠である。
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号又は第3号に規定する意匠に該当するにもかかわらず,同条同項の規定に違反して登録されたものであるから,意匠法第48条第1項第1号の規定により,その意匠登録は無効とされるべきである。

(2)本件登録意匠について
ア 本件登録意匠の基本的構成態様
全体が,横長略長方形板状であって,平面視両側面寄りに段差部を設けて中央部を肉薄に形成し,該段差部に隣接して山形の突出部を上下方向に形成した態様のものである。
イ 具体的態様
(ア)正面視及び背面視において,その横縦比が略2:1の横長長方形板状であり,平面視中央部に嵌め合わせ用の小径凸部が形成され,該小径凸部と対応する嵌め合わせ用の小径凹部が背面視中央部に形成されているものである。
(イ)平面視及び底面視において,平面視左側面に円弧状の嵌め合わせ用の小径凸部が形成され,該凸部と対応する嵌め合わせ用の小径凹部が平面視右側面に形成されており,背面の両側面寄りに段差部を設けて中央部を肉薄に形成すると共に,その段差部に隣接して山形の突出部を形成し,両突出部のほぼ中心位置に鉄筋の挿通孔が設けられ,該挿通孔を囲うように四角形状の凹部を設けているものであり,該挿通孔は底面視に二重円形として現れている。
(ウ)右側面視及び左側面視において,縦横略4.5:1の縦長長方形状であり,上面に嵌め合わせ用の小径凸部が形成されているものである。

(3)引用する意匠について
請求人が引用する意匠(以下,「引用意匠」と称する。)は,別紙図面のとおり,上記「S.P.Cウォール工法」の主要部材である「プレキャスト化粧版」の意匠であり,本件登録意匠の出願前にわが国で現実の工事に広く使用された結果,公然と知られた意匠である。
ア 引用意匠の構成態様
(ア)引用意匠の基本的構成態様は,全体が横長略長方形板状であって,平面視両側面寄りに段差部を設けて中央部を肉薄に形成し,該段差部に隣接して山形の突出部を上下方向に形成した態様のものである。
(イ)引用意匠の具体的構成態様は,
a 正面視及び背面視において,その横縦比が略2:1の横長長方形板状であり,平面視中央部に嵌め合わせ用の小径凸部が形成され,該小径凸部と対応する嵌め合わせ用の小径凹部が背面視中央部に形成されているものである。
b 平面視及び底面視において,平面視右側面に円弧状の嵌め合わせ用の小径凸部が形成され,該小径凸部と対応する嵌め合わせ用の小径凹部が平面視左側面に形成されており,背面の両側面寄りに段差部を設けて中央部を肉薄に形成すると共に,その段差部に隣接して山形の突出部を形成し,両突出部のほぼ中心位置に鉄筋の挿通孔が設けられ,該挿通孔を囲うように四角形状の凹部を設けているものであり,該挿通孔は底面視に円形として現れている。

(4)本件登録意匠の無効理由
ア 平成11年3月に,落石覆工に使用する「軽量盛土工法」として,「S.P.Cウォール工法」が開発され,その工法研究会として平成11年10月に「熊本S.P.C工法研究会」(以下,単に「研究会」と称する。)が正式に発足した(甲第1号証)。同時に,熊本エス・ピー・シー株式会社が設立され,国土交通省技術事務所に「NETIS」(新技術情報システム)登録を行い,研究会会員の会社によって,各地で「S.P.Cウォール工法」による多くの工事が行なわれた。
「S.P.Cウォール工法」とは,工場製作によるプレキャストコンクリート版をPC鋼棒により順次積み上げて,気泡混合軽量材の自立型枠を形成する方法であり,従来の落石覆工及び道路構築工法に比べて,大幅なコスト縮減と工期短縮の著しい効果が確認され,それ以来,国土交通省や地方自治体からの発注が増え,施工事例も拡大し,急速に普及した工法である。
「S.P.Cウォール工法」の主要部材である「擁壁用パネル」は,「S.P.Cウォールパネル」,「S.P.Cウォール版」,「プレキャスト化粧版」,「プレキャストパネル版」,「プレキャストコンクリート版」などと称されている。

イ 熊本エス・ピー・シー株式会社は,平成12年3月28日に,九州エス・ピー・シー株式会社に名称変更され(甲第3号証),更に,平成16年1月1日付けで,株式会社シビコンヘ名称変更された。この間,S.P.C工法研究会は,九州各県で独自に活動していたが,平成16年9月3日,「日本S.P.C工法研究会九州本部」を設立して,九州全域への工法普及と研究会の発展を図るために活動することになった(甲第4号)。
被請求人は,土木建築工事一式の請負を主な業務とする会社であり,平成11年10月に熊本エス・ピー・シー株式会社が設立されたときからの研究会員であり,各地の工事に携わってきており,甲第4号証にも会員として名前を連ねている。請求人代表者は,熊本エス・ピー・シー株式会社設立者の一人であり,かつ,S.P.Cウォール工法の開発者の一人として,この工法の技術的な面及び営業についての統括者として,今日まで各地の工事に関わってきている。
平成18年12月25日,「日本S.P.C工法研究会九州本部」は名称を変更し,「N-S.P.C工法構造研究会」が発足した。その後,平成19年9月28日開催の研究会の総会において,「日本S.P.C工法研究会」を廃止し,研究会の名称を「N-S.P.C工法構造研究会」とすることが正式に決まった。被請求人は新しく発足した研究会には入会しなかった。

ウ 「S.P.Cウォール工法」は国土交通省や地方自治体からの発注が増え,工事事例も拡大し,急速に普及した。そのような中で,設計・施工の手引きをまとめて公表するようにとの要望が多く寄せられたので,書籍「S.P.Cウォール工法」の初版が2004年(平成16年)4月15日に理工図書株式会社から発行された(甲第5号証)。この書籍の「第2章 部材」の中の第21頁「2.2.2 S.P.Cウォール版」について,「○1(○の中に1。以下,同じ)基本タイプ」の説明と「写真2.7 基本タイプ」が掲載されている。この基本タイプのウォール版は全体の形状は掲載されていないが,引用意匠と同一の構成からなっている実施品である。
また,第277頁には《参考資料》として,平成16年2月現在でまとめられた「S.P.Cウォール工法工事実績一覧表」が掲載されており,平成11年2月から平成15年9月までの工事実績は計60件となっている。
甲第5号証の書籍は,請求人の現代表者である山田文男を委員長とする編纂委員会によって出版されたものであり,2003年(平成15年)3月31日現在,被請求人の代表取締役及び九州支店長も委員となっていた。

エ 平成14年3月に作成されたS.P.C工法研究会のカタログ「軽量盛土工法/S.P.C工法/シリーズ」(甲第6号証)の第11頁には「景観と性能を重視したプレキャストコンクリート版製品」の「基本タイプ用」が掲載されているが,この「基本タイプ用」のコンクリート版も引用意匠と同一の構成からなっている実施品である。
また,同カタログ第2頁には,「S.P.Cウォール工法の現場実証実験」として,「平成13年12月,島根県木次土木建築事務所より発注された松江木次線の災害防除工事として,軽量盛土工法を利用した方法で,落石覆工方式S.P.Cウォール工法(スロープ・バンケット・プレキャスト・コンクリート・ウォール工法)が完成した」と記載されている。

オ すなわち,本件登録意匠の出願日である平成16年1月19日より前には,「S.P.Cウォール工法」による多くの工事が行なわれたのであるが,その中から,甲第6号証カタログに記載されているように,平成13年9月から平成14年3月までの工期で工事が行なわれた当時の島根県大原郡大東町(現在の島根県雲南市)の「松江木次線交A(災害防除)工事」詳しくは「松江木次線道路防災緊急対策工事」(以下,「松江木次線工事」と称する。)において,引用意匠の「プレキャスト化粧版」を使用した「S.P.Cウォール工法」が行なわれた事実を立証する。
まず,島根県木次土木建築事務所(現 雲南県土整備事務所)から受注を受けて,工事の詳細設計を行なった設計事務所,工事元請の建設会社,工事下請の会社及び現地実物大現場実証実験を実証した者の証明書を提出して,引用意匠が本件登録出願前日本国内において公然知られた意匠であることを主張立証する。
すなわち,下記(ア)ないし(カ)の工事関係者の各証明書に添付の図面である「プレキャスト化粧版 構造図」が引用意匠と同一のものである
(ア)株式会社藤井基礎設計事務所の証明書(甲第7号証)
藤井基礎設計事務所は,測量調査設計業務委託を受注し,平成12年12月6日?平成13年3月23日までの工期で詳細設計を実施した。使用されたS.P.Cウォールパネルは,添付の「プレキャスト化粧版 構造図」のとおりであり,図面には測量・調査した会社として記載されている。
(イ)下請のテクノエ業株式会社の証明書(1)(甲第8号証)
テクノエ業株式会社は,元請の有限会社山根建設から,平成13年9月18日?平成14年3月10日までの工期で受注した。使用されたS.P.Cウォールパネルは,添付の「プレキャスト化粧版構造図」のとおりである。なお,引用意匠の図面はテクノエ業株式会社によって作成された。
(ウ)下請のテクノエ業株式会社の証明書(2)(甲第9号証)
プレキャスト版は,S.P.C工法研究会,九州エス・ピー・シー株式会社で改造された改良型S.P.Cウォール版のプレキャスト化粧版を製造し,工事現場に納入した。そのプレキャスト版は,添付の「プレキャスト化粧版 構造図」のとおりである。改良型S.P.Cウォール版についての実験報告書も添付されている。
(エ)元請の有限会社山根建設の証明書(甲第10号証)
山根建設は,平成13年8月11日?平成14年3月25日までの工期で工事を実施した。使用されたS.P.Cウォールパネルは,添付の「プレキャスト化粧版 構造図」のとおりである。
(オ)島根大学総合理工工学部地球資源環境学科の名誉教授横田修一郎氏の証明書(甲第11号証)
横田修一郎氏は,工事におけるS.P.Cウォール工法について,現地実物大現場実証実験を平成13年12月19日?平成13年12月20日において実証し,委員長として報告書を取りまとめた。
実験報告書と「プレキャスト化粧版 構造図」の図面が添付されている。
(カ)島根県雲南県土整備事務所,株式会社藤井基礎設計事務所及び有限会社山根建設の三者による証明書(甲第12号証)。証明者である上記三者も現地実物大現場実証実験を実施し,実験報告書及び「プレキャスト化粧版 構造図」の図面が添付されている。

カ 引用意匠の実施品を掲載した甲第5号証第21頁掲載の「基本タイプ」の「S.P.Cウォール版」は,積み重ねられている二段目及び三段目は平面視であり,一段目及び四段目は底面視であるが,構成態様は,平面視全体が横長長方形状であって,両側寄りに段差部を設けて中央部を肉薄に形成し,段差部に山形の突起部を形成し,該突出部の略中心位置に鉄筋の挿通孔が設けられ,該挿通孔を囲うように四角形状が設けられ,該挿通孔は底面視円形として現れている。更に,平面視右側に嵌め合わせ用の小径凸部が形成され,該凸部と対応する嵌め合わせ用の凹部が平面視左側に形成されているものである。
すなわち,パネル版全体は図示されていないが,全体が横長長方形の板状からなるものであって,鉄筋の挿通孔が設けられた山形の突起部は底面まで挿通して形成されており,パネル版全体形状は,当業者にとっては当然のこととして,六面図がこのような書籍に図示されたり,写真掲載されたりすることはない。
甲第6号証第11頁掲載の実施品である「基本タイプ用」のプレキヤストコンクリート版は,五段に積み重なったパネル版のうちの二段目及び三段目のパネル版は平面視であり,一段目,四段目及び五段目は底面視であり,いずれも甲第5号証と同様の構成態様である。

キ 「S.P.Cウォール工法」が行なわれた「松江木次線工事」に使用された「プレキャスト化粧版」の構造図は,甲第7号証ないし甲第12号証の各証明書に添付されている。
各証明書に添付されているプレキャスト化粧版の構造図の基本的構成態様は,全体が横長略長方形板状であって,平面視両側面寄りに段差部を設けて中央部を肉薄に形成し,該段差部に隣接して山形の突出部を上下方向に形成した態様のものである。
そして,その具体的構成態様は,正面視及び背面視において,その横縦比が略2:1の横長長方形板状であり,平面視中央部に嵌め合わせ用の小径凸部が形成され,該小径凸部と対応する嵌め合わせ用の小径凹部が背面視中央部に形成されているものである。また,平面視及び底面視において,平面視右側面に円弧状の嵌め合わせ用の小径凸部が形成され,該小径凸部と対応する嵌め合わせ用の小径凹部が平面視左側面に形成されており,背面の両側面寄りに段差部を設けて中央部を肉薄に形成すると共に,その段差部に隣接して山形の突出部を形成し,両突出部のほぼ中心位置に鉄筋の挿通孔が設けられ,該挿通孔を囲うように四角形状の凹部を設けているものであり,該挿通孔は底面視に円形として現れている。
すなわち,各証明書に添付されているプレキャスト化粧版の構造図は,引用意匠と同一のものである。

(5)結論
本件登録意匠と引用意匠を対比すると,先に詳細に説明のとおり,両意匠の基本的構成態様は共通しており,具体的態様においても同一又は類似するものとなっている。
よって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号又は第3号に規定する意匠に該当するものであり,同条同項の規定に違反して登録されたものであるから,意匠法第48条第1項第1号の規定により,その意匠登録は無効とされるべきである。

2 証拠方法
甲第1号証 熊本エス・ピー・シー株式会社設立の挨拶状 写し
平成11年10月8日
熊本エス・ピー・シー株式会社作成
甲第2号証 「S.P.Cウォール工法におけるS.P.C版の開発について」 写し
平成20年8月22日
基礎地盤コンサルタンツ株式会社 福田泰英 作成
甲第3号証 九州エス・ピー・シー株式会社の会社案内 写し
(九州エス・ピー・シー株式会社作成)
甲第4号証 「九建日報」2004年9月9日付け 写し
(発行所:株式会社九建日報社)
甲第5号証 書籍「S.P.Cウォール工法」2004年4月15日発行
(発行所:理工図書株式会社)
表紙,まえがき,目次,第1章総説,第2章部材(17頁?2 1頁),《参考資料》(277頁?302頁),奥付 各写し
甲第6号証 カタログ「軽量盛土工法 S.P.C工法」 写し
平成14年3月,九州エス・ピー・シー株式会社作成
甲第7号証 株式会社藤井基礎設計事務所の「証明書」 原本
(平成24年12月25日作成)
甲第8号証 テクノエ業株式会社の「証明書(1)」 原本
(平成25年1月17日作成)
甲第9号証 テクノエ業株式会社の「証明書(2)」 原本
(平成25年1月17日作成)
甲第10号証 有限会社山根建設の「証明書」 原本
(平成25年1月11日作成)
甲第11号証 島根大学総合理工工学部地球資源環境学科
名誉教授 横田修一郎氏の「証明書」 原本
(平成25年1月4日作成)
甲第12号証 島根県雲南県土整備事務所 所長 植田充弘氏,株式会社藤 井基礎設計事務所及び有限会社山根建設の三者による「証明 書」 原本
(平成25年1月16日作成)

第2 被請求人の答弁
本件合議体は,被請求人に対し,平成25年3月19日付けで,請求人の提出した審判請求書副本を送付するとともに,この審判請求に対して答弁があれば,答弁書を提出するように通知したが,現在に至るまで答弁書の提出はなく,その外の何らの応答もなかった。

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成16年1月19日の出願に係り,平成16年9月29日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1226790号意匠であり,願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば,物品の部分について意匠登録を受けようとするものであって,意匠に係る物品を「擁壁用パネル」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載したとおりとするものであって,「実線で表された部分が部分意匠として意匠を受けようとする部分である」とするものである(別紙1参照)(以下,本件登録意匠において,その実線で表された意匠登録を受けようとする部分を「本件登録意匠部分」という。)。

(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,意匠に係る物品の説明の記載及び使用状態の参考図に示すように,本物品を複数上下左右に連結して使用し,土留め用途に使用される擁壁を構築する「擁壁用パネル」である。

(2)本件登録意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本件登録意匠部分の位置,大きさ及び範囲は,正面側の表面全面のみを除いた部分であって,ほぼ板状全体に近いものであり,その用途及び機能は,上下左右に複数連結する他のパネル等の連結部を含め,擁壁用(土留めの)パネルとしての用途及び機能を有するものである。

(3)本件登録意匠部分の形態
ア 基本的構成態様
全体が,横長長方形板状であって,背面の左右両端寄りに台形状に突出する帯状段差部を垂直方向に設けて,その間の中央部分を肉薄に形成した態様のものである。
イ 具体的態様
(ア)縦横比が約1:2の横長長方形板状であり,その厚み(帯状段差部の最大厚)と縦の比が約1:4.5である。
(イ)上面の中央背面側に,上下嵌め合わせ用の板の厚みの略半分の平面視及び正面視扁平横長台形状の横長小凸部を形成し,該扁平台形状の横長小凸部と対応する嵌め合わせ用の横長小凹部を下面の中央背面側に形成している。
(ウ)また,左右側面の前後の角を小さく面取りしたものであって,その左側面側は左右嵌め込み用の板厚よりやや小径の平面視略半円状の凸条部(以下,「半円状凸条部」という。)を垂直方向に形成し,該半円状凸条部と対応する左右嵌め合わせ用の小径の半円状凹条部を右側面側に垂直方向に形成している。
(エ)上下面の帯状段差部の突出した台形状のほぼ中央に,鉄筋挿通用の垂直に貫通する小円孔(以下,「挿通小円孔」という。)を設け,上面においては該挿通小円孔を囲うように四角形状の浅い凹部を設け,下面においては該挿通小円孔がその開口付近の内側をテーパ状に形成している。(「B-B断面図」による。そのテーパ状の態様は,底面図では二重円として現れている。)

2.請求人が主張する無効理由について
請求人は,甲第1号証ないし甲第12号証を証拠として, 本件登録意匠は,島根県雲南市木次町地区(-松江市間)において,本件登録意匠の出願前の,平成13年9月18日から平成14年3月10日までの工期で行なわれた松江木次線(道路)災害防除工事において実施された軽量盛土工法を利用した落石覆工方式S.P.C(スロープ・バンケット・プレキャスト・コンクリート)ウォール工法の主要部材として使用され,公然知られたプレキャスト化粧版の意匠と同一又は類似するから,意匠法第3条第1項第1号又は第3号に該当し,よって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号又は第3号に規定する意匠に該当するにもかかわらず,同条同項の規定に違反して登録されたものであるから,意匠法第48条第1項第1号の規定により,その意匠登録は無効とされるべきであると主張するので,以下,それらの証拠について検討し,本件登録意匠が,意匠法第3条第1項第1号又は第3号に該当する否かを判断する。

(1)公知の事実について
まず,本件登録意匠と同一又は類似する意匠が公知となった事実として請求人が主張する,平成13年9月18日から平成14年3月10日までの工期で行なわれた松江木次線災害防除工事及び実証実験において実施されたS.P.Cウォール工法の主要部材として使用されたプレキャスト化粧版(擁壁用パネル)の意匠が公然知られたものとなった事実が存在するかを検討する。

ア 甲第1号証ないし第4号証
・甲第1号証 熊本エス・ピー・シー株式会社設立の挨拶状 写し
平成11年10月8日
熊本エス・ピー・シー株式会社 作成
・甲第2号証 「S.P.Cウォール工法におけるS.P.C版の開発につい て」 写し
平成20年8月22日
基礎地盤コンサルタンツ株式会社 福田泰英 作成
・甲第3号証 九州エス・ピー・シー株式会社の会社案内 写し
(九州エス・ピー・シー株式会社作成)
・甲第4号証 「九建日報」2004年9月9日付け 写し
(発行所:株式会社九建日報社)

甲第1号証ないし第4号証は,S.P.Cウォール工法を使用した工事を行う会社の設立,同工法普及のための研究会の設立,S.P.Cウォール工法の開発に関する内容を示す書証であって,無効理由を構成する,プレキャスト化粧版(擁壁用パネル)の意匠が本件登録意匠の出願前に,松江木次線(道路)災害防除工事において公然知られる状態となったことを証明するものではない。

イ 甲第5号証 (別紙第2参照)
・甲第5号証 書籍「S.P.Cウォール工法」2004年4月15日発行
(発行所:理工図書株式会社)
表紙,まえがき,目次,第1章総説,第2章部材(17頁? 21頁),《参考資料》(277頁?302頁),奥付 各 写し

甲第5号証は,「S.P.C.ウォール工法(スロープ・バンケット・プレキャストコンクリート・ウォール工法)」(大見美智人(熊本大学),奥園誠之(九州産業大学),竹内則雄(法政大学)監修 日本S.P.C.工法研究会 編著)と題するS.P.Cウォール工法を解説する書籍の一部の写しである。その書籍の発行は2004年(平成16年)4月15日(奥付記載の初版発行の日)であり,本件登録意匠の意匠登録出願の日より後の発行である。
したがって,この書籍(刊行物)にプレキャスト化粧版の意匠が掲載された事実をもって,本件登録意匠が意匠法3条1項2号又は3号に該当し,意匠登録を受けることはできないものであるとすることはできない。そして,請求人もこの書籍(刊行物)に掲載した意匠を先行意匠として無効理由を申し立てていない。
一方,この書籍には,「<<参考資料>> S.P.Cウォール工法工事実績一覧(落石覆工方式・道路構築方式 平成16年2月現在)(277頁)」として具体的な工事件名,発注者,受注者,工法,工期,工事規模が表形式で記載されている(278?302頁)。この表中の番号37に,引用意匠であるプレキャスト化粧版の意匠が公知となった現場である工事について,工事件名「松江・木次線交A(交通安全)工事」,発注者「島根県土木建築事務所」,受注者「有限会社山根建設」,工法「S.P.Cウォール工法(道路)」,工期 自「H13.11」至「H14.3」等(工事規模は省略。)が記載されている。
また,これらの工事現場において使用されたS.P.Cウォール版(プレキャスト化粧版)については,「第2章 部材」の「2.1 概説」「2.2 部材の構成」「2.2.2 S.P.Cウォール版」の項に記載がある(17?21頁)。
「図2.1 部材の構成」の樹形図において,部材-S.P.Cウォール版-標準タイプとして示され,「図2.2 組立図」において基礎の上に積み上げられたS.P.Cウォール版(標準タイプ)の概略形状の全体が表されている。(当該図は,基礎,下段の版やPC鋼材が透視的に表現されている。)
「2.2.2 S.P.Cウォール版(21頁)」には,「○1基本タイプ」として「写真2.7 基本タイプ」が現され,その写真版中には,S.P.Cウォール版(プレキャスト化粧版)の平面又は底面が前方に向いたものが4段現れており,そのうちの1段目と4段目に底面が,2・3段目に平面(鉄筋挿通用の小円孔を囲うように四角形状の浅い凹部が設けられている方の面)が現れている。(なお,この項の記載では,「基本」タイプと記載されているが,「2.2 部材の構成」の項の記載では「標準」タイプと記載されている。(以下,「標準タイプ」という。)
そして,「2.1 概説(17頁)」の「写真2.1 二次製品工場」の写真版中にもS.P.Cウォール版(プレキャスト化粧版)の標準タイプが多数現れている。当該写真版の略中央に平面を手前に向けて連続して平積みされたものが現れ,その左右には底面を手前に向けて連続して平積みされたものが現れている。(この写真版にS.P.Cウォール版の全体形状が現れていることについては,請求人は言及していない。)
その他,奥付の前頁に記載された監修・執筆者や委員会委員(請求人及び被請求人の役員がともに名を連ねている。)の名簿には,「2003年3月31日現在」,冒頭の「まえがき」の日付として「平成16年2月29日」と記載され,また上述の「<<参考資料>>」として掲載された工事一覧表の内容は,「平成16年2月現在」と記載されてはいるが,その工期の開始(自)は全てが平成11年2月?15年9月(平成16年より前)であり,この刊行物に表されている実質的な内容は,そのほとんどが平成15年(2003年)に,実施された事実をもとに,それをまとめたものであるといえる。
そうすると,請求人が無効理由として挙げた引用の意匠が公知となった現場である当該工事が本件登録出願前の時期に実施され,そして,その工事において,引用の意匠として図面で示しているS.P.Cウォール版(プレキャスト化粧版)の標準タイプ(版背面中央が肉薄のもの)と同一又は類似の実施物が使用され,公然知られた状態になった蓋然性は高いということができる。

ウ 甲第6号証
・甲第6号証 カタログ「軽量盛土工法 S.P.C.工法」 写し
平成14年3月,九州エス・ピー・シー株式会社作成

甲第6号証には,請求人が引用意匠とするS.P.Cウォール版(プレキャスト化粧版)が使用されて公知となった,平成13年12月の松江木次線の災害防除工事のことが概略記載されているが,引用意匠とするS.P.Cウォール版(プレキャスト化粧版)の形状が具体的に記載されているものではない。また,本件登録意匠の意匠登録出願前の平成14年3月に発行されたものとしているが,カタログに具体的な発行日の記載はない。表紙には「S.P.C.工法研究会」,最後頁には「西日本エス・ピー・シー株式会社」と記載されている。

エ 甲第7号証ないし甲第12号証について
・甲第7号証 株式会社藤井基礎設計事務所の「証明書」 原本
(平成24年12月25日作成)
・甲第8号証 テクノエ業株式会社の「証明書(1)」 原本
(平成25年1月17日作成)
・甲第9号証 テクノエ業株式会社の「証明書(2)」 原本
(平成25年1月17日作成)
・甲第10号証 有限会社山根建設の「証明書」 原本
(平成25年1月11日作成)
・甲第11号証 島根大学総合理工工学部地球資源環境学科
名誉教授 横田修一郎氏の「証明書」 原本
(平成25年1月4日作成)
・甲第12号証 島根県雲南県土整備事務所所長 植田充弘氏,株式会社藤 井基礎設計事務所及び有限会社山根建設の三者による「証 明書」 原本
(平成25年1月16日作成)

(ア)甲第7号証
甲第7号証については,平成25年12月25日付けで,株式会社藤井基礎設計事務所がテクノ工業株式会社に対して,「松江木次線道路防災緊急対策工事測量調査設計業務委託は,島根県木次土木建築事務所(現 島根県雲南県土整備事務所)より受注し,平成12年12月6日から平成13年3月23日までの工期にて詳細設計を実施したことを証明したものである。この証明書は,以下の文書が添付され,それらを綴じて冊子状に作成された上で割り印を押印し,株式会社藤井基礎設計事務所代表取締役藤井三千勇の印が押されたものである。
以下、添付文書は,詳細設計の報告書の表紙(表紙に「松江木次線 道路防災緊急対策工事 測量調査設計業務委託」「報告書」「平成13年3月」「島根県木次土木建築事務所」及び「株式会社藤井基礎設計事務所」連名を表記。),業務成果の報告(株式会社藤井基礎設計事務所 代表取締役 藤井三千勇から島根県木次土木事務所長 宮原 勉(平成13年3月当時)に宛て,項目のみ記載),図面一式(5葉「プレキャスト化粧版 構造図」含む)である。

(イ)甲第8号証
甲第8号証については,平成25年1月17日付けで,テクノ工業株式会社が西日本エス・ピー・シー株式会社に対して,「(主)松江木次線道路防災緊急対策工事は,島根県木次土木建築事務所(現 島根県雲南県土整備事務所)より発注され,元請:有限会社山根建設株式会社から,下請:テクノ工業株式会社が平成13年9月18日?平成14年3月10日までの工期で受注したこと」,「詳細設計は,平成12年12月6日?平成13年3月23日の工期で株式会社藤井基礎設計事務所にて実施され,平成13年12月19日?平成13年12月20日において,S.P.Cウォール工法現場実証実験を実施したこと」を証明した証明書(1)である。
この証明書(1)には,以下の項目の文章が記載されているが,添付の書面はない。
1.S.P.Cウォール工法現場実証実験の証明書
2.株式会社藤井基礎設計事務所の証明書
3.有限会社山根建設の証明書
4.テクノ工業株株式会社の証明書

(ウ)甲第9号証
甲第9号証については,平成25年1月17日付けで,テクノ工業株式会社が西日本エス・ピー・シー株式会社に対して,「(主)松江木次線交A(災害防除)工事は,島根県木次土木建築事務所(現 島根県雲南県土整備事務所)より発注され,元請:有限会社山根建設株式会社から,下請:テクノ工業株式会社が平成13年9月18日?平成14年3月10日までの工期で受注し,プレキャスト化粧版は,平成13年5月にS.P.C工法研究会,九州エス・ピー・シー株式会社で改造された,改良型S.P.Cウォール版のプレキャスト化粧版型枠を用いてプレキャスト化粧版を製造製作し,現場に納入した事」を証明した証明書(2)である。
この証明書(2)には,「1.関連図書」と記載され,以下の文書が添付されている。
・写真(表題「松江木次線交A(改良)工事 A工区 (落石対策)」)写し
・図面一式(5葉「プレキャスト化粧版 構造図」含む) 写し
・「実験報告書 13-5 改良型S.P.Cウォール版構造計算書 道路構築方式 N-S.P.Cウォール版の改造 平成13年5月 S.P.C工法研究会 九州エス・ピー・シー株式会社」(S.P.C.ウォール工法に関する記述の全11頁の文書,プレキャスト化粧版の図(3葉)),カタログらしきもの(パネル構造図,プレキャストコンクリート版製品の写真版,S.P.C.ウォール工法(道路構築方式)載荷実験が掲載された頁)の写し4頁分が添付。)
それらを綴じて冊子状に作成された上で割り印(テクノ工業株式会社 代表取締役印)が押されたものである。

(エ)甲第10号証
甲第10号証については,平成25年1月11日付けで,有限会社山根建設がテクノ工業株式会社に対して,「(主)松江木次線交A(災害防除)工事は,平成13年8月10日に島根県木次土木建築事務所(現 島根県雲南県土整備事務所)より受注し,平成13年8月11日から平成14年3月25日までの工期で実施した事」を証明したものである。
この証明書には,「1.関連図書」と記載され,以下の文書が添付されている。
・写真(表題「松江木次線交A(改良)工事 A工区 (落石対策)」)写し
・図面一式(5葉「プレキャスト化粧版 構造図」含む)の写し
・カタログらしきものの写し2頁分(パネル構造図,プレキャストコンクリート版製品の写真版が掲載された頁)
それらを綴じて冊子状に作成された上で割り印(有限会社山根建設 社長印)が押されたものである。

(オ)甲第11号証 (別紙第3参照)
甲第11号証については,平成25年1月4日付けで,島根大学総合理工工学部地球資源環境学科 名誉教授 横田修一郎が西日本エス・ピー・シー株式会社に対して,「(主)松江木次線交A(災害防除)工事,S.P.Cウォール工法,現地実物大現場実証実験を平成13年12月19日?平成13年12月20日において実証し,委員長として取りまとめた事」を証明したものである。
この証明書には,
1.落石覆工方S.P.Cウォール工法現地実証実験報告書(ダイジェスト版)
2.日経コンストラクション 2002.6.28付 頁8?11
と記載され,以下の文書が添付されている。
・「実験報告書 14-3 松江木次線災害防除工事の内 落石覆工方式,S.P.Cウォール工法現場実証実験報告書(ダイジェスト) 平成14年1月 S.P.C工法研究会 九州エス・ピー・シー株式会社 テクノ工業株式会社」1?15頁の写し,図面一式(6葉「プレキャスト化粧版 構造図」含む)の写し,カタログの写し
・雑誌「日経コンストラクション」2002年6月28日発行号 8?11頁 「広告企画 S.P.Cウォール工法」記事 の写し
それらを綴じて冊子状に作成された上で割り印が押印されたものである。

その内容は,平成13年12月19日から平成13年12月20日に実施した松江木次線交A(災害防除)工事,S.P.Cウォール工法現場実証実験において,添付の図面のプレキャスト化粧版(擁壁用パネル)を使用して実施されたことを証明するもので,実験実施者はテクノ工業株式会社,実験の企画立会者は島根大学総合理工工学部地球資源環境学科名誉教授横田修一郎氏を委員長とする委員会であり,報告書(ダイジェスト)の第1ページの「図1.2 現場実証実験標準断面図」中にプレキャスト化粧版が示され,添付の図面の一つにプレキャスト化粧版(擁壁用パネル)の構造図が記載されている。それらを綴じて冊子状に作成された上で割り印(島根大学総合理工工学部地球資源環境学科 名誉教授 横田修一郎の印「横田(縦書き)」)が押印されたものである。

(カ)甲第12号証 (別紙第4参照)
甲第12号証については,平成25年1月16日付けで,島根県雲南県土整備事務所(所長 植田充弘),株式会社藤井基礎設計事務所及び有限会社山根建設の3者が,テクノ工業株式会社に対して,「(主)松江木次線交A(災害防除)工事,S.P.Cウォール工法現場実証実験を平成13年12月19日?平成13年12月20日において実施した事」を証明したものである。
この証明書には,
1.落石覆工方S.P.Cウォール工法現地実証実験報告書(ダイジェスト版)2.日経コンストラクション 2002.6.28付 頁8?11
と記載され,以下の文書が添付されている。
・「実験報告書 14-3 松江木次線災害防除工事の内 落石覆工方式,S.P.Cウォール工法現場実証実験報告書(ダイジェスト) 平成14年1月 S.P.C工法研究会 九州エス・ピー・シー株式会社 テクノ工業株式会社」1?15頁の写し,図面一式(5葉「プレキャスト化粧版 構造図」(甲第11号証に添付された図面と同一)含む)の写し,カタログの写し
・雑誌「日経コンストラクション」2002年6月28日発行号 8?11頁 「広告企画 S.P.Cウォール工法」記事 の写し
それらを綴じて冊子状に作成された上で割り印(3者の役職の印)が押されたものである。

その内容は,平成13年12月19日から平成13年12月20日に実施した松江木次線交A(災害防除)工事,S.P.Cウォール工法現場実証実験において,添付の図面のプレキャスト化粧版(擁壁用パネル)を使用して実施されたことを証明するもので,発注者は島根県木次土木建築事務所,設計者は株式会社藤井基礎設計事務所,請負者は有限会社山根建設,その他,実験実施者はテクノ工業株式会社,実験の企画立会者は島根大学総合理工工学部地球資源環境学科名誉教授横田修一郎氏を委員長とする委員会であり,報告書(ダイジェスト)の第1ページの「図1.2 現場実証実験標準断面図」中にプレキャスト化粧版が示され,添付の図面の一つにプレキャスト化粧版(擁壁用パネル)の構造図が記載されている。そして,それらを綴じて冊子状にした上で,島根県雲南県土整備事務所長と外2者の割り印が押印されたものである。

以上,甲第7号証ないし甲第12号証は,いずれも請求人が立証しようとする公知の事実である,当該工事及び実験の内容を証明しようとするものであるが,甲第7号証ないし甲第10号証は,当該工事及び実験の実施に直接関係した者ではあるが,一方で請求人あるいは被請求人と直接的に利害関係にある私企業である者が証明するものであるから,証拠力は限定的であるといわざるを得ない。
しかし,甲第11号証及び甲第12号証は,その証明書に添付された報告書(ダイジェスト)は同一のものであるが,甲第11号証は,実験の実施に直接関係した者ではあるが,企画立会者(報告書(ダイジェスト)4頁)の委員会(島根県木次土木建築事務所所長等公的機関の者も委員に含む)の委員長として報告書を取りまとめた者であって,公的な立場(国立大学の教授)にある者が証明するものであり,甲第12号証は,当該工事及び実験の実施に直接関係した者であって請求人あるいは被請求人と直接的に利害関係にある私企業である者だけでなく,公的機関である島根県雲南県土整備事務所(前島根県木次土木建築事務所)が証明するものである。
証明しようとするこのような工事及び実験は,発注者である県が,県の事業として知事から権限を委任された者,すなわち公務員である県の土木整備事業の担当者(県土整備事務所長)が職務により行うものである。そして,甲第12号証の証明書には,島根県雲南県土整備事務所長の公印が押印されており,その内容は,平成13年12月19日から平成13年12月20日までに,島根県土木建築事務所(当時)が発注した工事及び実験において,添付の図面に表されたプレキャスト化粧版(擁壁用パネル)を使用したことを証明するものである。
すなわち,証明する者が,冊子状に綴じられた書類及び図面の内容を確認した上で,その工事及び実験に当該プレキャスト化粧版(擁壁パネル)が使用されたことを公の機関も証明した文書であるから,信用に足るものといえる。
また,甲第11号証についても,同工事及び実験において報告書を取りまとめた公的な立場にある者が,甲第12号証と同様の内容を証明するものであるから,これも信用に足るものといえる。
そして,先に検討した甲第5号証によっても,当該プレキャスト化粧版(擁壁パネル)を使用して同工事及び実験が行われていたことが裏付けられる。

(キ)小活
よって,甲第12号証及び甲第11号証に添付された図面「プレキャスト化粧版 構造図」に表された意匠を実施した意匠(図面と同一の意匠)が,本願出願前に公然知られていたものと認められるから,この意匠(図面に表された意匠)を引用意匠(別紙第2参照)として,以下,本件登録意匠と対比して類否を検討する。
(なお,甲第12号証及び甲第11号証に添付の図面「プレキャスト化粧版 構造図」に表された意匠と実質的に同一の意匠が,審判請求書添付の別紙3(引用意匠)として示されているが,この図面は,作成時期,作成者や提出先,工事の実施時期も不明であり,また何ら証明されたものではないから,証拠力はなく,検討の際には使用しない。)

(2)引用意匠
ア 引用意匠の意匠に係る物品
引用意匠の意匠に係る物品は,証明書に添付された報告書(甲第12号証)に掲載された写真版や添付図面に示されているように,本物品を複数上下左右に連結して使用し,土留め用途に使用される擁壁を構築する「擁壁用パネル」であるプレキャスト化粧版である。

イ 引用意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本件登録意匠部分に相当する引用意匠部分は,横長略長方形板状の正面側の表面全面のみを除いた部分であって,ほぼ板状全体に近いものであり,その用途及び機能は,上下左右に複数連結する他のパネル等の連結等を含め,擁壁用(土留めの)パネルとしての用途及び機能を有するものである。

ウ 引用意匠部分の形態
(ア)基本的構成態様
全体が,横長長方形板状であって,背面の左右両端寄りに台形状に突出する帯状段差部を垂直方向に設けて,その間の中央部分を肉薄に形成した態様のものである。
(イ)具体的態様
a.縦横比が約1:2の横長長方形板状であり,その厚み(帯状段差部の最大厚)と縦の比が約1:4.5である。
b.上面の中央背面側に,上下嵌め合わせ用の板の厚みの略半分の平面視及び正面視扁平横長台形状の横長小凸部を形成し,該扁平台形状の横長小凸部と対応する嵌め合わせ用の横長小凹部を下面の中央背面側に形成している。
c.また,左右側面の前後の角を小さく面取りしたものであって,その右側面側は左右嵌め込み用の板厚よりやや小径の平面視略半円状の凸条部(以下,「半円状凸条部」という。)を垂直方向に形成し,該半円状凸条部と対応する左右嵌め合わせ用の小径の半円状凹条部を左側面側に垂直方向に形成している。
d.上下面の帯状段差部の突出した台形状のほぼ中央に,鉄筋挿通用の垂直に貫通する小円孔(以下,「挿通小円孔」という。)を設け,上面においては該挿通小円孔を囲うように四角形状の浅い凹部を設け,下面においては該挿通小円孔がその開口付近の内側をテーパ状に形成している。(「正面」及び「背面」の図に挿通孔が透視的に表されている。そのテーパ状の態様は,「底面」の図では二重円として現れている。)

(3)本件登録意匠と引用意匠の類否判断
本件登録意匠と引用意匠を対比すると,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,両部分の用途及び機能が一致し,また両部分の部分意匠としての位置,大きさ及び範囲は一致すると認められる。
また,両部分の形態についても,上記のとおり,基本的構成態様及び具体的態様(本件登録意匠(ア),(イ),(ウ),(エ)-引用意匠a.b.c.d.)のほぼすべてにおいて一致しており,(ウ)-c.において,左右嵌め込み用の凸状部と凹状部が左右逆になっている相違はあるが,この種の嵌合部の態様を逆にすることは極めて常套的な改変の範囲であって,ほぼ同一の態様といえるものであるから,両部分の形態の相違点はほとんどないものと認められる。
したがって,本件登録意匠部分は引用意匠部分に類似するものと認められる。

(4)小括
よって,本件登録意匠と類似するプレキャスト化粧版(擁壁用パネル)は,平成13年12月19日から平成13年12月20日までの間に,当該工事(実験)現場において不特定の者に秘密でないものとして現実にその内容が知られたものであるから,その意匠は,平成16年1月6日を出願日とする本件登録意匠の出願前に日本国内で公然知られたものであると認められる。

第4 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠に類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,意匠登録を受けることができないものであるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから,意匠法第48条第1項第1号に該当し,その意匠登録を無効とすべきものである。
審判に関する費用については,意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2016-09-08 
結審通知日 2016-09-14 
審決日 2016-09-29 
出願番号 意願2004-1065(D2004-1065) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (L2)
最終処分 成立 
前審関与審査官 早川 治子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 橘 崇生
本多 誠一
登録日 2004-11-19 
登録番号 意匠登録第1226790号(D1226790) 
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所 
代理人 山口 朔生 
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