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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 J7
管理番号 1323552 
審判番号 不服2016-13021
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-30 
確定日 2016-12-16 
意匠に係る物品 鼓膜切開刀替刃 
事件の表示 意願2014- 16066「鼓膜切開刀替刃」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとして,平成26年(2014年)7月24日に出願された意匠登録出願であり,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品は「鼓膜切開刀替刃」であり,その形態は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであって,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で、それ以外の部分を破線で表している。一点鎖線は、意匠登録を受けようとする部分とそれ以外の部分との境界のみを表すものである。」としたものである(以下,本願について意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)。(別紙第1参照)


第2 原査定における拒絶の理由及び引用意匠

原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,下記のとおりである。
「この意匠登録出願に係る鼓膜切開刀替刃などの手術用メス及びナイフの分野において、刀身や刃先を種々の形状等に置き換えることは本願出願前より極普通に行われているのでありふれた手法であり(意匠1、意匠2)、この意匠登録出願の意匠は、本願出願前に公然知られたものと認められる手術用メスの替え刃の意匠(意匠1)の刀身部を、ごく一般的な円筒針形状としたうえで、刃先部の形状を、本願出願前に広く知られたものと認められる3面形状(意匠3)に単に置き換えたに過ぎないので、容易に創作できたものと認められます。

意匠1(当審注;別紙第2)
特許庁発行の意匠公報記載
意匠登録第0880763号の意匠

意匠2(当審注;別紙第3)
特許庁発行の意匠公報記載
意匠登録第0880763号の類似意匠登録第1号の意匠

意匠3(当審注;別紙第4)
独立行政法人工業所有権情報・研修館が2014年6月25日に受け入れた
TOCHIGI SEIKO CO.,LTD.
第4頁所載
トロッカー針の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HC26008403号)」


第3 請求人の主な主張の要点

これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。

1.本願意匠が登録されるべき理由
以下に理由を詳述するとおり、本願意匠の構成態様は公然知られた形状等を基にして当業者が容易に創作できたものではない。

(1)「三稜鍼」の周知性について
原査定においては、刀身は円筒状で且つ刃先が3面形状のものは「三稜鍼」とも呼ばれ、周知の形状であると認定しているが、この認定は妥当性に欠けるものである。
(ア)「三稜鍼」は、鍼灸治療において用いられる極めて専門的かつ、特殊な用途のものである。
その存在自体、針灸治療を行う者以外には殆ど知られておらず、「その名称をいえば、証拠を出すまでもなく思い浮かべることができる」ものには該当しないというべきである。

(イ)「三稜鍼」の形状は、第5号証のように様々なものが存在し、単に「三稜鍼」というだけで、誰もが「特定の形状」を思い浮かべることができるようなものでもない。

(ウ)「三稜鍼」が「その名称をいえば、証拠を出すまでもなく思い浮かべることができる状態」に該当する周知の形状であるとした原査定の認定は、明らかに妥当性を欠いている。

(2)「意匠3」の拒絶引例としての妥当性について
(ア)上記のとおり「三稜鍼」は、「周知の形状には該当しないため、拒絶引例に挙げる場合は、形状を明確に特定し得るような証拠を提示する必要がある(審査基準23.6)。
しかし、拒絶理由通知において提示された「意匠3」は、以下に述べるように、具体的な形状を明確に特定できるものではない。

(イ)すなわち、「意匠3」として提示された写真(上記)には二本のトロッカーが写っているが、上下でトロッカーの軸径が異なっており、2種類のトロッカーを、それぞれ一方向から撮影したものである可能性がある。
この場合、一方向からの写真だけでは、各意匠の全体形状を正確に把握することはできない。
また仮に、一つのトロッカーの先端部を二方向から撮影したものであるとしても、どの方向から撮影したものであるかが不明な上、二方向から撮影した写真だけでは、やはり意匠の全体形状を正確に特定できない。
よって、意匠3は本願意匠の創作非容易性を否定するための資料(拒絶引例)として不適当なものである。

(ウ)なお、本願意匠のような医療器具は人体への手術において使用されるため、細部の形状にまで配慮して意匠の創作が行われる。
このような当該物品分野に特有な事情も考慮したとき、「意匠3」は不明確な点が多く、当業者が新たな意匠を創作する上で参考となるようなものでもない。

2.本願意匠の創作非容易性の判断について
本願意匠のような医療器具は、その開発においては、施術法への適応性や、執刀医にとっての使いやすさ、患者の身体への影響に配慮しながら、改良が重ねられている。
本願意匠の創作においても、下記1)?4)で詳述するように、鼓膜を切開するという用途や治療法に配慮し、刀身の全体形状や、断面形状、太さ、先端形状、それらの組み合わせや配置をどのようにするかという点で試行錯誤がなされ、従来意匠からの差別化が図られており、そのような過程において創作性が発揮されている。
(ア)円筒針形状の刀身
本願意匠は、主として中耳炎の手術に使用される鼓膜切開用替刃である。
中耳炎の手術においては、鼓膜を切開するが、本願意匠は、切開孔が所定の期間、閉塞しないような大きさ、形状となるよう、また、厚い鼓膜等に対しても、速やかな動作で確実に孔を開けられるよう、刀身形状を、平板部を有さない円筒状にしたものである。
鼓膜切開刀の刀身形状としては、意匠1や意匠2のような平板状のものや、先端を平板状にしたものが一般的であるため、敢えて、平板部を有さない円筒状を採用した本願意匠の創作は独自性を有しており、当業者にとって容易に創作し得るものではないと評価すべきである。

(イ)三角錐状の刃先
本願意匠は、円筒針形状の刀身の先端に、三角錐状の刃部を形成することで、「楔形」の切開孔を形成できるようにし、三角錐の各エッジの長さ(下図Y)が刀身の直径(下図X)に比して長くなるように形成して刃先を細長くし、「穿孔」と「切開」の両機能を併せ持つことができるようにしている。
一方、意匠3は、「穿孔」を目的としたトロッカーであるから、先端に切開機能を併せ持たせる必要はなく、各エッジの長さ(下図Y')は、軸の直径(下図X')に比して(本願意匠におけるX/Yの比よりも)遥かに短く形成され、切開に適した形状ではない。
このように、本願意匠は「穿孔」と「切開」を連続した動作で行うことを可能にするため、全く独自に創作されたものであって、単に、意匠1等の刃先部の形状を、意匠3に置き換えたに過ぎないものではない。

(ウ)刃先の向き
刃先を鼓膜に突き刺して孔を開けた後、孔を切開する際に、鼓膜に突き刺した刃先を(左右方向よりも)上下方向に動かして施術を行いやすくすることに着目し、本願意匠においては、三角錐のエッジの一つが(ハンドル部に取り付けた状態において)下向きになるような配置としている。

(エ)下向きに傾斜した刀身
本願意匠は刀身の傾斜角度においても、独自の創作性が発揮されており、意匠1や意匠2よりも、基端部から刃先への傾斜(下図a)を大きくしているため、自然に構えた状態で、刀身が視線をさえぎることなく、耳孔へ挿入する際に刃先位置を確認しやすく,切開すべき位置を確実に視認することができ、速やかな動作で確実に孔を開けることができる。
意匠1、2は傾斜が極めて緩やかで、殆ど水平に近いのに対し、本願意匠は意匠1、2に比して明らかに傾斜が急である。このような違いは、鼓膜切開刀替刃として、有意かつ顕著な差異であり、専門的見地から両者を対比した場合、創作の意図に明白な違いが感じられるものである。
したがって、本願意匠においては、刀身の傾斜角度においても、独自の創作性が発揮されていると評価すべきであり、上記原査定は妥当性を欠いている。

(3)本願意匠の創作について
(ア)本願意匠は、中耳炎手術等において、より好適な施術結果を得やすく、施術しやすくするため、刀身や刃先の形状、それらの組み合わせや配置において、それぞれ無数の選択肢がある中から、意匠1?3を始めとした公知の意匠とは異なる態様を選択し、さらに、それらを全体として一つの新たな意匠にまとめ上げたものであり、本願意匠は意匠1?3に基づいて、当業者が容易に創作し得たとはいえないものである。

(イ)なお、本願意匠の創作が容易でないことは、平成19年(行ケ)第10078号 審決取消請求事件(貝吊り下げ具),平成20年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件(研磨パッド)に示す創作非容易性の判断に関する昨今の判例に鑑みても明らかである。

(ウ)さらに、メス等の医療用具は、僅かな形状の違いによって、用途や性能に大きな影響が生じるため、過去の意匠登録例においても、細部形状の違いに着目して新規性、創作非容易性の評価がなされており、この種意匠においては細部の僅かな形状の違いによって差別化が図られており、本願意匠は、新規性に加えて創作非容易性を具備している。

3.むすび
以上述べた理由により、本願意匠は出願前に広く知られた形状等にもとづき、ありふれた手法により、当業者が容易に創作し得るものではないのであって、意匠法第3条第2項の規定には該当せず、当然意匠登録されるべきものと確信する。


第4 当審の判断

請求人の主張を踏まえ,本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性,すなわち,本願意匠が容易に創作することができたか否かについて,検討し,判断する。

1.意匠の認定
(1)本願意匠
(ア)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は,鼓膜の手術に使用される鉗子の「鼓膜切開刀替刃」である。

(イ)本願部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本願部分は,先端の刃先によって耳の中の奥の鼓膜を切開することができる鉗子の替刃であって,全体を細長い円柱の針金状とする刀身の刃先から略クランク状に折り曲げたところまでの部分を,意匠登録を受けようとするものである。

(ウ)本願部分の形態
本願部分の形態は,部分全体を円柱の針金状の刀身とし,先端の刃先を平らな同じ形状の3面を持つ略三角錐形状としたものであって,正面視で針金状の刀身を,刃先から全体横の長さの約3/4で刀身を略への字に折り曲げ,刃先から全体横の長さの約5/6で再度略逆への字に折り曲げてクランク状としたものである。
刃先は,平らな3つ面の刃先からの幅を,刀身の直径の約2倍とし、平らな3つの面のそれぞれが接する3つの稜線部分を刀身の直径に比べてやや長い刃とするものである。

(2)原査定の拒絶の理由の引用意匠
(ア)意匠1
意匠1は,この種の手術用鉗子などの医療機器の分野において、刀身や刃先を種々の形状等に置き換えることは本願出願前より極めて普通に行われているありふれた手法であることを示し,手術用鉗子の替刃を略クランク状に折り曲げた刀身の態様が,本願出願前より公然知られたものであることを示すための意匠である。
意匠1は,意匠登録第880763号の「手術用メスの替刃」の意匠であり、刀身全体を細長い板状とし,先端の刃先を略鏃形状としたものであって,正面視で刃先から全体横の長さの約13/18で刀身を略への字に折り曲げ,刃先から全体横の長さの約13/17で再度略逆への字に折り曲げてクランク状としたものである。
刃先は,板状の刀身の片面において,面を2つ設けるように削り,その2つの面と板状の刀身の反対側の面によって略三角錐形状を構成して、その稜線部分を刃とするものである。

(イ)意匠2
意匠2は,この種の手術用鉗子などの医療機器の分野において、刀身や刃先を種々の形状等に置き換えることは本願出願前より極めて普通に行われているありふれた手法であることを示すための意匠である。
意匠2は,意匠登録第880763号の類似意匠登録第1号の「手術用メスの替刃」の意匠であり、刀身全体を細長い板状とし,先端の刃先を板状の刀身の片面を削って略鉤形状としたものであって,正面視で刃先から全体横の長さの約7/10で刀身を略への字に折り曲げ,刃先から全体横の長さの約23/30で再度略逆への字に折り曲げてクランク状としたものである。

(ウ)意匠3
意匠3は,刃先部の形状を、円柱形状の先端を削って3面形状とすることは,本願出願前に広く知られた周知形状であることを示すための意匠である。
意匠3は,独立行政法人工業所有権情報・研修館が2014年6月25日に受け入れたカタログ「TOCHIGI SEIKO CO.,LTD.」の第4頁所載の「トロッカー針」の意匠であり,円柱形上先端を3面削って略三角錐形状としたものである。
針先は,平らな3つ面の針先からの幅を,刀身の直径の約1.8倍とし、平らな3つの面のそれぞれが接する3つの稜線部分を刀身の直径とほぼ同じ長さ刃とするものである。

2.創作非容易性の判断
本願意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するか否か,すなわち,本願意匠が,この意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に創作することができたものであるか否かについて,請求人の主張を踏まえて,以下,検討する。

まず, 本願部分のような鉗子の刀身をクランク状の態様とすることは、この種の鼓膜の手術用鉗子の分野において,意匠1及び意匠2に見られるように本願出願前から見られる態様である。
そして、この種の手術用鉗子などの医療機器の分野において、刃先を種々の形状等に置き換えることは,意匠1及び意匠2に見られるように,本願出願前より極めて普通に行われているありふれた手法である。

しかし、本願部分の態様について詳細に検討すると,本願部分の刀身は円柱の細長い針金状としているのに対し,意匠1及び意匠2は,刀身を細長い板状としており,本願部分とは刀身が異なる態様であり、本願部分の先端の刃先についても,本願部分は同じ形状の3面を持つ略三角錐形状としているのに対して,意匠1は略鏃形状、意匠2は略鉤形状としており、本願部分とは刃先が異なる態様である。
また、本願部分の刀身は円柱の細長い針金状としていることから、3面を同じ形状の面とする略三角錐形状を構成することができるが,意匠1及び意匠2は,刀身を細長い板状としていることから、3面を同じ形状の面とする略三角錐形状を構成することはできないものである。
次に、刃先については,本願部分の3つの刃が,鼓膜の切開するために刀身の直径に比べてやや長い刃としているのに対して,意匠3の刃は,トロッカー針であって、穿刺することを目的とし,刀身の直径とほぼ同じ長さ刃としていることから,本願部分とは,機能が異なり刃の態様も異なっている。

そうすると,本願部分の刃先は,この種の手術用鉗子などの医療機器の分野における通常の知識に基づいて意匠1及び意匠2に創作を加えたとしても,本願部分の形態とすることは、当業者が容易にできたものとはいえず,さらには,意匠3が本願出願前に広く知られた周知形状であったとしても,両意匠部分の機能や態様が異なっているため,本願部分の刃先を,この種の手術用鉗子などの医療機器の分野における通常の知識に基づいて,周知形状である3面形状(意匠3)に単に置き換えたということはできない。

よって、本願部分は,当業者であれば容易に着想できたということはできないものであるから,意匠全体として,本願意匠は,容易に創作することができたということはできない。


第5.むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものに該当するとはいえないので,本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-12-06 
出願番号 意願2014-16066(D2014-16066) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (J7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前畑 さおり 
特許庁審判長 温品 博康
特許庁審判官 正田 毅
山田 繁和
登録日 2017-01-06 
登録番号 意匠登録第1568653号(D1568653) 
代理人 恩田 誠 
代理人 恩田 博宣 

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