ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項容易に創作 取り消して登録 F2 |
---|---|
管理番号 | 1323554 |
審判番号 | 不服2016-7655 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-05-25 |
確定日 | 2016-12-13 |
意匠に係る物品 | 綴じ具 |
事件の表示 | 意願2015- 8224「綴じ具」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 本願意匠 本願は,意願2015-008222の意匠を本意匠とする関連意匠として,平成27年(2015年)4月10日に意匠登録出願されたものであり,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「綴じ具」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照) 第2 原査定における拒絶の理由 原査定における拒絶の理由は,この意匠登録出願の意匠は,下記に示すように,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には以下のとおりである。 この意匠登録出願の意匠に係るバインダー用金具の分野に於いては,基板に連続構成する綴環の数を,適宜必要に応じ変更することが,本願出願前より極く普通に行われています(例えば,意匠1,意匠2,意匠3,意匠4,意匠5)。 そうすると,本願出願前より公然知られた前掲意匠5の綴環の数を,本願出願前より極く一般的に見受けられる手法により,左側に4環,右側に3環ずつに変更したに過ぎない本願の意匠は,当業者であれば容易に創作することができたものです。 意匠1(別紙第2参照) 特許庁発行の意匠公報記載 意匠登録第0808344号の意匠 意匠2(別紙第3参照) 特許庁意匠課が1999年 2月16日に受け入れた (株)熊谷製作所発行の BINDERCATALOG(日刊工業新聞 10.9.25P15)第83頁所載 バインダー用金具の意匠 (特許庁意匠課公知資料番号第HN11001118号) 意匠3(別紙第4参照) 特許庁発行の意匠公報記載 意匠登録第0801659号の意匠 意匠4(別紙第5参照) 特許庁発行の公開特許公報記載 平成 8年特許出願公開第267980号 に表されている意匠 意匠5(別紙第6参照) 特許庁発行の登録実用新案公報記載 実用新案登録第3067018号 [図1]乃至[図8]で表されている従来の綴具の意匠 第3 請求人の主張の要点 (1)本願意匠の説明 本願意匠は,図面に示す形態から解かるように,その綴具に綴じ込む紙葉には所定の数の穴が等間隔に存在し得ると解されるにも関わらず,あえて綴具の基板上の長手方向中央域の綴環は無くす一方で,両端部のそれぞれには複数本の綴環を残した点に創作的な特徴を有するものである。さらに,本願意匠は,一方の端部と他方の端部とで,綴環の本数を3本,4本と変更したものである。 (2)意匠1乃至5の説明 意匠1は,システム手帳等に用いられ得る事務用バインダー具の意匠であり,一方向に延びる基板上に,計6本のほぼ半長円形状の綴環を設けるとともに,長手方向の中央の2本の綴環間の間隔を,他の間隔に比してやや広くしたものである。 意匠2もまた,システム手帳等に用いられ得るバインダーの意匠であり,長手方向に延びる基板上に,計6本のほぼ円形状の綴環を設けるとともに,長手方向の中央の2本の綴環間の間隔を,他の間隔に比してやや広くしたものである。 意匠3は,いわゆる2穴式綴具を有するバインダーの意匠であり,その綴具は,2個の円形状の綴環を有するものである。 意匠4は,26個の穴を有するルーズリーフ等を綴じ込むことに用いられる綴具の意匠であり,一方向に延びる基板上に,計26本の綴環を等間隔で長手方向に並べて配置したものである。なお,意匠4が表された平成8年特許出願公開第267980号公報の図2では,長手方向中央域の綴環が描かれていないが,他の図では中央域の綴環も描かれており,また同公報の明細書ではその点について何ら触れられていないことから,図2では単に描くことを省略したにすぎないと考えられる。このような省略は,当業界の特許ないし実用新案の出願図面でごく一般に行われている。 意匠5は,26個の穴を有するルーズリーフ等を綴じ込むことに用いられる綴具の意匠であり,一方向に延びる基板上に,計26本の綴環を等間隔で長手方向に並べて配置したものである。 意匠6は,ルーズリーフ等を綴じ込むことに用いられる綴具の意匠であり,一方向に延びる基板上に,複数本の綴環を並べて配置したものである。この意匠6が表された実開昭60-83780号公報の第1図では,基板の長手方向中央域の綴環が表されておらず当該綴環が存在しないようにも思われるが,同図には基板の長手方向中央域に2本の二点鎖線が引かれていることからすれば,中央域の綴環が存在しないのではなく,中央域の綴環を描くことを単に省略したにすぎないと解される。それ故に,この意匠6は実際には,基板の長手方向中央域にも,両端側に描かれた綴環と等間隔に配置された綴環が存在すると解することが相当である。 意匠7は,一方向に延びる基板上に,複数本の綴環を長手方向に沿って設けた綴具を含むバインダーの意匠である。意匠7が表された実開昭63-172677号公報の第1図および第3図では,複数本の綴環の一部しか描かれていないが,3本と2本の綴環のセットが不規則な間隔で描かれているところから,同図では単に描くことを省略したものと解される。したがって,この意匠7もまた実際には,長手方向の全域にわたって綴環が存在すると考えられる。 (3)本願意匠と意匠1乃至7との対比 意匠1乃至7(当審注:意匠6及び7は,拒絶査定書において示した参考意匠である。別紙第7及び第8参照)はいずれも,その綴具の綴環の配設本数及び位置が,綴具に綴じ込む用紙ないし紙葉の規格に従って定められた形態を有するものである。 これに対し,本願意匠は,図面に表したところから解かるように,意匠4の綴具に綴じ込むような26個の穴を有するルーズリーフ等を綴じ込むことのできる形態を有するも,その基板の長手方向中央域の綴環を大幅に除去し,中央域に広いスペースを設け,さらに両端部のそれぞれで綴環の本数を変更したという創作的な特徴を有するものである。つまり,基板の寸法形状との関係において相対的に,中央域に広いスペースを設けた点および,各端部の綴環本数が異なる点に特徴がある。 これらの特徴は,以下に述べる理由より,単に綴じ込む用紙ないし紙葉の規格に従ったにすぎない意匠1乃至7から創作できるとは到底解されない。 すなわち,意匠1乃至3は,規格の相違の故に,各部分から把握される綴具の寸法,隣り合う綴環の間隔等において本願意匠とは大きく異なるものであることから,意匠1乃至3は,原査定の説示でいう,「中央に比較的広範囲にわたるスペースを設け,両端では密集させて設けるということも出願前より普通に行われていた」ことを示すものとは全く考えられない。また,意匠4乃至7はいずれも,上述したとおり,基板の長手方向中央域にも綴環が存在するものであるから,上記の「出願前より普通に行われていた」ことを示す根拠になり得ない。 よって,意匠1乃至7からは,「中央に比較的広範囲にわたるスペースを設け,両端では密集させて設けるということ」が,ありふれた手法であると考えることはできない。 またそもそも,上記のような意匠1乃至3を参照して,意匠5の綴具の中央域の綴環を無くすことを創作し得たとする原査定の論理構成は,それらの意匠1乃至3と意匠4及び5の形態の相違を考慮すれば常識的に考えても極めて無理があるといえる。当業者は,意匠1乃至3を,意匠4や5から綴環の本数を減らしたものとして把握するとは考えられず,本来的に規格の異なるものであると理解するので,これらの意匠1乃至3に基いて意匠5の綴具の綴環本数を,基板等の他の構成はそのままにして変更しようとは考えないからである。 さらにいえば,仮に原査定の説示のように,「綴具分野に於いて,種々の態様で綴環を種々の本数設けることが従来より普通に行われている」としても,意匠1乃至3から,意匠5の綴具の綴環を,本願意匠のように中央域に所定の大きなスペースを設けるように変更することまで創作できるとは解されない。意匠5の綴具で綴環の本数を単純に減らしても,それが直ちに,本願意匠のような中央域に所定の大きなスペースを設けた形態とはならないからである。本願意匠は,少なくとも綴環の除去の態様に独創性があり,意匠5における綴環の本数を単純に減らしただけでは創作し得ないものである。 加えて,意匠1乃至7はいずれも,各端部で綴環本数を相違させた点については何ら示されていない。意匠7は,上述したとおり,一部の綴環を描くことを省略したものにすぎず,実際の綴具では長手方向の全体にわたって綴環が存在すると解される。したがって,本願意匠の各端部で綴環本数を相違させた点は,意匠1乃至7から容易に創作し得たとは到底考えられない。 (4)むすび 以上の通りであるので,本願意匠は,意匠1乃至7に対して十分な創作性を有するものであり,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものである。 第4 当審の判断 以下,本願意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するか否か,すなわち,本願意匠が,この意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」ともいう。)が容易に創作することができたものであるか否か,について検討する。 1 本願意匠の認定 本願意匠は,意匠に係る物品を「綴じ具」とし,形態について,(A)全体は,上面側部材と底面側部材を噛み合わせて成る基板(以下「基板部」という。)を,厚み,短手方向の幅及び長手方向の長さの構成比を約1対3対45とする扁平な略細長直方体形状とし,その上面の長手方向の両端部寄りの,一方は長手方向の長さの約11分の1の狭い範囲に向かい合わせに4つ,他方は長手方向の長さの約8分の1の狭い範囲に向かい合わせに3つ,基板部の左右から約4分の1円弧の突起をそれぞれ設け,向き合う突起の上端同士を接続して半リング状となる金具(以下「リング部」という。)とし,その突起の付け根はその外方が本体部の両長辺側縁部に接する位置とし,長手方向の長さの約40分の1の等間隔で近接して突設したものとし,本体部の長手方向の一端に備えた操作片を引くと,基板部の上面側部材が底面側部材に対して長手方向にわたり短手方向に平行にスライド移動し,リング部も頂部から開いた状態となるものであり,(B)基板部は具体的には,上面部について,長手方向にわたり短手方向の一端から全幅の約9分の7の位置までが上面側部材であり,その余のもう一端から約9分の2の位置までが底面側部材の上面側であり,両部材の上面を面一状としたものであり,また,底面側部材の上面のリング部の付け根には,基板部の長辺縁部に沿って突条部を連続的に形成したものであり,(B-1)操作片は具体的には,底面側部材の底部の溝内を長手方向にスライドするものであって,摘み部となる端部を側面視凸型で平面視において内側が凹弧状の突出片としたものであり,(C)リング部は具体的には,頂部の接続部について,一端面の略中央にほぞ部として小突起を1つ,もう一端の略中央にほぞ穴部として凹部を1つ備えたものであり,その端面の外形は,開いた状態の斜視図によれば,円形状の左右やや下方を外方へ少し引き伸ばして拡げた略楕円形状としたものである,と認められる。 2 引用意匠の認定 (1)意匠1 意匠1は,原審の拒絶理由において,バインダー用金具の分野では,基板部に連続構成するリング部の数を適宜必要に応じ変更することが,本願出願前から極普通に行われていることを示すために挙げた意匠の1つであり,リング部についていえば,基板部の上面の長手方向の左右に,それぞれ長手方向の全幅の約4分の1の幅に,リング部を3つずつ,長手方向の全幅の約10分の1の等間隔で広めの幅をとって突設したものである。 (2)意匠2 意匠2は,原審の拒絶理由において,バインダー用金具の分野では,基板部に連続構成するリング部の数を適宜必要に応じ変更することが,本願出願前から極普通に行われていることを示すために挙げた意匠の1つであり,リング部についていえば,基板部の上面の長手方向の左右に,それぞれ長手方向の全幅の約5分の1の幅に,リング部を3つずつ,長手方向の全幅の約15分の1の等間隔で広めの幅をとって突設したものである。 (3)意匠3 意匠3は,原審の拒絶理由において,バインダー用金具の分野では,基板部に連続構成するリング部の数を適宜必要に応じ変更することが,本願出願前から極普通に行われていることを示すために挙げた意匠の1つであり,リング部についていえば,基板部の上面の長手方向の左右に,リング部を1つずつ突設したものである。 (4)意匠4 意匠4は,原審の拒絶理由において,バインダー用金具の分野では,基板部に連続構成するリング部の数を適宜必要に応じ変更することが,本願出願前から極普通に行われていることを示すために挙げた意匠の1つであるが,基板部上面の長手方向にわたりリング部が多数突設されたものを簡略して作図された可能性のあるものである。 (5)意匠5 意匠5は,原審の拒絶理由において,バインダー用金具の分野では,基板部に連続構成するリング部の数を適宜必要に応じ変更することが,本願出願前から極普通に行われていることを示すために挙げた意匠の1つであるとともに,基本となる公然知られた形状として挙げた意匠であり,その形態は,全体は,上面側部材と底面側部材を噛み合わせて成る基板部を,厚み,短手方向の幅及び長手方向の幅の構成比を約1対3対43とする扁平な略細長直方体形状とし,その上面の長手方向にわたり,リング部を,その両端部の付け根はその外方が本体部の両長辺側縁部に接する位置とし,等間隔に26個突設したものとし,本体部の長手方向の一端に備えた操作片を引くと,基板部の上面側部材が底面側部材に対して長手方向にわたり短手方向に平行にスライド移動し,リング部も頂部から開いた状態となるものであり,基板部は具体的には,上面部について,長手方向にわたり短手方向の一端から全幅の約9分の7の位置までが上面側部材であり,その余のもう一端から約9分の2の位置までが底面側部材の上面側であり,両部材の上面を面一状としたものであり,操作片は具体的には,底面側部材の底部の溝内を長手方向にスライドするものであって,摘み部となる端部を側面視凸型で平面視において内側が凹弧状の突出片としたものである。 3 創作容易性の判断 バインダー用金具の分野では,基板部上面において,リング部を左右に寄せて突設することは意匠1ないし3により,また,リング部の個数を変更することは意匠1ないし5により,本願出願前から一般的に行われていることが認められる。 しかしながら,本願意匠のリング部の配置態様は,基板部上面において極端に左右両端寄りの狭い範囲に複数のリング部を近接させた間隔で突設したものであって,意匠1ないし4及び参考意匠の態様とは,綴じられる用紙の相違に伴い大きく異なるものであり,意匠5とは,リング部の付け根部に突条部を連続的に形成した点が異なるものであり,用紙の綴じやすさ等の機能性を考慮した本願意匠の態様には十分な創作性が認められるから,当業者が容易に創作できたとはいえない。 なお,意匠4及び参考意匠については,請求人も主張しているところであるが,基板部上面の長手方向にわたりリング部が多数突設されたものを簡略して作図されたものであるとの可能性を否定できず,リング部を左右に寄せて突設したものであるとして取り扱わない。 そうすると,本願意匠は,意匠5の形態をありふれた手法により変更したに過ぎないものである,ということはできない。 第5 むすび 以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項に規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠に該当しないので,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審決日 | 2016-11-29 |
出願番号 | 意願2015-8224(D2015-8224) |
審決分類 |
D
1
8・
121-
WY
(F2)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木本 直美 |
特許庁審判長 |
山田 繁和 |
特許庁審判官 |
正田 毅 江塚 尚弘 |
登録日 | 2017-01-06 |
登録番号 | 意匠登録第1568909号(D1568909) |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |