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審決分類 審判    C1
管理番号 1323562 
審判番号 無効2014-880015
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-14 
確定日 2016-12-09 
意匠に係る物品 ブラインド用スラット 
事件の表示 上記当事者間の登録第1492562号「ブラインド用スラット」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1492562号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
平成25年 5月 1日 意匠登録出願(意願2013-9843号)
平成26年 2月14日 設定の登録(意匠登録第1492562号)
平成26年10月14日 本件審判請求(請求人,甲第1?甲第11号証添付)
平成27年 2月25日 答弁書提出(被請求人,参考資料1?3添付)
平成27年10月27日 審理事項通知書
平成27年11月24日 口頭審理陳述要領書(請求人,参考資料A及びB添付)
平成27年12月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人,参考資料イ添付)
平成27年12月22日 口頭審理

第2 請求人の申立及び理由
請求人は,登録第1492562号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求める,と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠として甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。

1.本件意匠登録の無効理由の要点
本件登録意匠は,その出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)に基づいて容易に創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項の規定により,無効とすべきである。

2.本件意匠登録を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「ブラインド用スラット」とし,実線で表された部分を部分意匠として意匠登録を受けた部分(当該部分)としたものであり,当該部分の形態は以下のとおりである。

(基本的構成態様)
(A)昇降コード等を収容する切り欠き部において,昇降コード等を中央の凹状収容部へガイドするための一対の収容ガイド面であり,
(B)正面視において,上記凹状収容部を挟んで左右対称な逆ハの字状となるようにそれぞれ斜面として形成されている。

(具体的構成態様)
(a)平面視においてそれぞれ外側に円弧を有する左右対称な2つの半月形(かまぼこ形)状面として形成されている。
(b)上記各斜面の角度はいずれも約55度である。

(2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
ア.引用意匠1及び2(甲3,4)について
引用意匠1は,意匠登録公報に掲載された「ブラインド」の意匠である。
引用意匠2は,特許出願公開公報に記載された「横型ブラインド」の意匠である。
(基本的構成態様)
(C)切り欠き部において,昇降コード等を収容部へガイドするためのガイド面であり,
(D)正面視において逆ハの字状となるようにそれぞれ斜面として形成されている。
(具体的構成態様)
(c)平面視における上記傾斜面の形状は図示されておらず不明である。
(d)上記各傾斜面の角度は,引用意匠1が約30度で,引用意匠2が約35度である。

イ.引用意匠3ないし5(甲5?7)について
「木製スラット(woodslats)」又は「ベネシャンブラインド」の意匠である。
スラットは,その短手方向の両縁部が丸みを帯びて形成されており,当該縁部には,ラダーコード又はロープを通すための切り欠き部が形成されている。

ウ.引用意匠6及び7(甲8,9)について
「ブラインド」の意匠である。
スラットは,その短手方向の両縁部が丸みを帯びて形成されている。

エ.周辺意匠1(甲10)について
「横型ブラインド」の意匠である。
スラットは,三角形状の切り欠きを有している。

オ.周辺意匠2及び3(甲11)について
「横型ブラインド」の意匠である。
スラットは,直角台形状の切り欠きを有している,又は三角形状の切り欠きを有しており,その角度は約55度である。

(3)本件登録意匠の創作容易
本件登録意匠と引用意匠1及び引用意匠2は,意匠に係る物品が共通し,本件登録意匠の当該部分と引用意匠1及び2において当該部分に対応する部分の形態については,以下の共通点と相違点がある。

(共通点)
本件登録意匠の当該部分と,引用意匠1及び2はいずれも,基本的構成態様において,
(A)切り欠き部における一対のガイド面であり,
(B)正面視において逆ハの字状となるようにそれぞれ斜面として形成されている。

(相違点)
具体的構成態様において,
(a)本件登録意匠の当該部分は,平面視において2つの半月状面として形成されているのに対して,引用意匠1及び2の形状は図面からは不明である。
(b)本件登録意匠の当該部分の正面視における斜面の角度は約55度であるのに対して,引用意匠1及び2における対応する部分の斜面の角度はそれぞれ約30度,約35度である。

そこで,本件登録意匠と引用意匠1及び2の共通点と相違点とを踏まえて,本件登録意匠が引用意匠1ないし7に基づいて容易に意匠の創作をすることができたかどうかについて検討する。

本件登録意匠と引用意匠1ないし7は,いずれもブラインド(又は,そのスラット)に係る意匠であるから,これら意匠の意匠に係る物品は共通する。

形態に関しては,本件登録意匠の基本的構成態様(A)及び(B)は,引用意匠1及び2の各基本的構成態様と同一であり,公然知られた形態である。
一方,その具体的構成態様については,相違点(a)及び(b)の相違点がある。
相違点(a)について検討すると,本件登録意匠が左右対称の2つの半月形状面を有するのは,スラットの短手方向の縁部が丸みを帯びて形成されていることによるものである。短手方向の両縁部が丸みを帯びて形成したスラットは,上記引用意匠3ないし7に示すとおり,公然知られた形態である。
また,スラットに昇降コードやラダーコード等を係合させるための切り欠き部を形成することは,引用意匠1ないし5及び周辺意匠1ないし3に見られるとおり,ブラインドに係る意匠の属する分野において当然のごとく行われていることであり,更に引用意匠3ないし5にみられるように,縁部が丸みを帯びたスラットに切り欠き部を形成することも当然のごとく行われていることである。

そうすると,引用意匠3ないし7のような公然知られた丸みを帯びたスラットに,引用意匠1及び2の各基本的構成態様に示されるような切り欠き部におけるガイド面を形成すれば,ガイド面の形状は必然的に,本件登録意匠の具体的構成態様(a)に示した左右対称な2つの半月形状になるものである。このことは,特に引用意匠3及び4の切り欠き部における縁部の断面が,本件登録意匠と同様の円弧状を呈していることからも容易に理解できる。

また,相違点(b)について,斜面の角度が約55度であるか約30度若しくは約35度であるかは,ブラインドに係る意匠の属する分野における当業者にとってみれば,適宜行われ得るところの部分的で,ありふれた改変の範囲にある僅かな差異にすぎないものであり,換言すれば,引用意匠1及び2にこれら僅かな改変を加えて本件登録意匠の当該部分を創作することに困難性は無いものである。
付言すれば,周辺意匠3の切り欠き部における斜面の角度は約55度であり,当該角度を有する斜面を,凹状収容部を有する引用意匠1及び2の斜面に適用することに困難性も無い。

したがって,本件登録意匠は,基本的構成態様(A)及び(B)が引用意匠1及び2と同態様であり,具体的構成態様(a)については,斜面を半月形状とした態様は,引用意匠1及び2のスラットを引用意匠3ないし7に示したような縁部が丸みを帯びたスラットに置換することで必然的に実現される態様であり,具体的構成態様(b)については,格別な創意工夫もなく適宜行われ得る態様にすぎない。

そうすると,本件登録意匠は,引用意匠1及び2において,スラットを引用意匠3ないし7におけるスラットに置換したにすぎない程度の意匠であり,容易に意匠の創作をすることができた意匠に該当する。

3.結び
以上のとおり,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた形態に基づいて容易に創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その登録は,同法第48条第1項の規定により,無効とされるべきである。

4.証拠方法
(1)本件登録意匠が,その出願前に公然知られた形態に基づいて容易に創作をすることができたものであることを,甲第1号証ないし甲第11号証より立証する。
(2)証拠の表示
甲第1号証:無効審判対象の意匠登録第1492562号登録原簿の写し
甲第2号証:無効審判対象の意匠登録第1492562号公報の写し
甲第3号証:本件登録意匠の出願前に頒布された意匠登録第1465235号公報の写し
甲第4号証:本件登録意匠の出願前に頒布された特許出願公開2011-252265号公報の写し
甲第5号証:本件登録意匠の出願前に頒布された米国特許第6443042号公報の写し
甲第6号証:本件登録意匠の出願前に頒布された米国特許第6263944号公報の写し
甲第7号証:本件登録意匠の出願前に頒布された米国特許第2202752号公報の写し
甲第8号証:本件登録意匠の出願前に頒布された特許出願公開2011-26804号公報の写し
甲第9号証:本件登録意匠の出願前に頒布された特許出願公開平9-328975号公報の写し
甲第10号証:本件登録意匠の出願前に頒布された実用新案出願公告平3-35034号公報の写し
甲第11号証:本件登録意匠の出願前に頒布された実用新案出願公告平8-8233号公報の写し

第3 被請求人の答弁及び理由
本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。

1.答弁の理由の要点
請求人は,平成26年10月14日付け審判請求書において,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた形態に基づいて容易に創作することができたものであることから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その登録は,同法第48条第1項の規定により,無効とされるべきであると主張する。
しかしながら,被請求人は以下に述べる理由により,請求人の主張は認められるものではなく,本件登録意匠の登録は無効とされるべきものではないと考える。

(1)被請求人の反論
請求人の本件登録意匠及び引用意匠/周辺意匠の態様の特定には特に異論はない。ただし,具体的構成態様の本件登録意匠の正面視における当該部分の斜面の具体的な角度については,特に本件登録意匠の特徴として特定をするものではない。
しかしながら,請求人の本件登録意匠と引用意匠との相違点(a)への評価,またそこから導き出された本件登録意匠が容易に創作することができた意匠に該当するとの結論は到底肯定できるものではない。
まず,請求人が証拠として挙げた引用意匠においては「昇降コード等を収容する切り欠き部において,中央の凹状収容部にガイドするための一対の収容ガイド面であって,平面視において外側に円弧を有するとともに,左右対称となる2つの半月形状面として形成された斜面の構成」は,引用意匠のどこにも全く表れていない。本件登録意匠の当該部分は,従来にない新規な態様といえる。

形状が不明とされている引用意匠1,2は,ごく一般的な薄いスラット材であって,平面視において,本件登録意匠のような半月形状面を呈するものではないことは自明である。

そして,請求人は,引用意匠においては,本件登録意匠の当該部分のような態様が存在しないことから,本件登録意匠の当該部分の態様は,引用意匠3ないし7に示すような公然知られた,短手方向の縁部が丸みを帯びたスラットを採用していることに由来するものであって,公然知られた丸みを帯びたスラットに上記引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるような切り欠き部における収容ガイド面を形成すれば,必然的に本件登録意匠の当該部分のような形態となると主張している。
しかしながら,公然知られた丸みを帯びたスラットに上記引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるような切り欠き部における収容ガイド面を形成しても,必然的に本件登録意匠の当該部分のような態様となるとは言えないものである。
参考資料3として,公然知られた丸みを帯びたスラットに,上述の引用意匠1及び2の基本的構成態様を有する切り欠き部における収容ガイド面を形成した意匠を例示意匠1?3として提出する。
例えば,例示意匠1は,短手方向の縁部を円弧状に丸く形成したスラット材に,ガイド面をスラットの平坦部の奥の方に至るまで深く形成したものである。この場合には,ガイド面の斜面は半長円形状(半カプセル形状)に形成され,また平面視においても半長円形状を呈する。
次に,例示意匠2は,切り欠き部を大きく形成し,ガイド面の傾斜角度を小さくするとともに当該部分をスラットの平坦部の奥に至るまでより深く形成したものである。この際,ガイド面の斜面はロケット状の形状を呈する。
そして,例示意匠3は,傾斜角度を小さくするとともにガイド面をより浅く,スラットの円弧状に形成された縁部に設けたものであるが,この場合もガイド面の斜面は平面視において,スラットの幅(厚み)いっぱいには広がらず,その幅の内側に表れ,その斜面は丸みを帯びた略三角形状に形成され,また平面視においても丸みを帯びた略三角形状を呈する。
このように,本件登録意匠の当該部分は,公然知られた短手方向の縁部が丸みを帯びたスラットに上記引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるような切り欠き部における収容ガイド面を形成すれば,必然的に本件登録意匠の当該部分のような形態となるものではない。
つまり,本件登録意匠の当該部分の態様は,必然的な形態ではなく,意図的に選択的に形成されたものである。

本件登録意匠の当該部分は,ガイド面として機能的でありながら,看者にまとまりのある柔らかな印象を与えられるよう,スラットの短手方向の縁部を円弧状に丸く形成するとともに,当該部分であるガイド面の斜面が,スラットの円弧状に形成した縁部とスラットの平坦部の境界近傍に納まるように形成されているものである。すなわち,上記ガイド面の最奥部(y)が境界近傍(x)の範囲内に納まっている構成であって,この構成は引用意匠からは導き出されるものではない。
そして,本件登録意匠の当該部分を上述のように,選択的に全体としてまとめ上げた行為は,創作行為というべきであって,当業者が容易に創作し得たとはいえないものである。

なお,このことは,以下のような昨今の判例に鑑みても明らかである。
ア.平成19年(行ケ)第10078号 審決取消訴訟事件(貝吊り下げ具)
※以下判決文より抜粋
・・・連結部の形状をどのようにするか(中略)については(中略),様々な意匠を選択する余地があるといえる。
そうすると,本願意匠と例示意匠1との相違点(中略)を,例示意匠2の2本の連結紐に置き換えることによって,本願意匠の特徴を形成することは,当業者において容易に創作し得たということはできない。
・・・その全体の印象として,特有のまとまり感のある,本願意匠の特徴を選択することは,当業者が容易に創作し得たとはいえない・・・。

イ.平成20年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件(研磨パッド)
※以下判決文より抜粋
・・・溝間隔の幅によって,(中略)形成される形状は様々であり,それぞれの場合において,当該意匠から受ける印象は異なる可能性がある。したがって,どのような溝間隔の幅を選択するかということは,当該意匠から受ける印象などをも考慮して決定されるものであり,その決定の過程においても相当程度の創作性を要するものと認められ・・・。

よって,「公然知られた縁部に丸みを帯びたスラットに上記引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるような切り欠き部における収容ガイド面を形成すれば,必然的に本件登録意匠の当該部分のような形態となることから,本件登録意匠の当該部分は,引用意匠1,2において,スラットを引用意匠3ないし7におけるスラットに置換したに過ぎない程度の意匠であり,容易に創作できた意匠に該当する」という,請求人の主張は認められない。

なお,相違点(b)の本件登録意匠と引用意匠及び周辺意匠の正面視における当該部分の斜面の具体的な角度の相違については,本件登録意匠の特徴として特定をするものではないことから,特に言及しない。

(2)むすび
以上に述べたように,本件登録意匠は,「その出願前に公然知られた形態に基づいて容易に創作することができたものであることから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その登録は,同法第48条第1項の規定により,無効とされるべきである」とする請求人の主張は成り立たない。

2.添付書類
(1)参考資料1 本件登録意匠の代表図一覧
(2)参考資料2 引用意匠/周辺意匠の代表図一覧
(3)参考資料3 例示意匠1?3一覧

第4 口頭審理
本件審判において,当審は,平成27年12月22日に口頭審理を行った。(平成27年12月22日付け口頭審理調書参照。)

1.請求人は,口頭審理において,請求の趣旨及び理由について,審判請求書記載のとおり陳述し,併せて,平成27年11月24日付け口頭審理陳述要領書と共に参考資料A及びBを提出し,同要領書に記載のとおり陳述した。

○陳述の要領
(1)被請求人の主張に対する反論
被請求人は,答弁書において,本件登録意匠の当該部分の形状は,ガイド面が,スラットの円弧状縁部と平坦部の境界近傍に収まるように,意図的に選択的に形成されたものであると主張し,例示意匠1?3を提出しているが,これら例示意匠1?3は,いずれも,ガイド面の深さ及び傾斜角度,切欠き部の大きさを意図的かつ恣意的に選択して作成したものである。

被請求人の例示意匠1?3は,以下に示すとおり,いずれも機能面における大きな技術的な障害が存在することから,当業者にとって,現実的ではなく,想定しがたいものである。

ア.例示意匠1
例示意匠1のように,ガイド面をスラットの平坦部の奥の方に至るまで深く形成してしまうと,スラットが前後方向に移動しやすくなってしまい,スラットが不整列状態になりやすいため,現実的ではない。
また,ガイド面の端部の間隔が非常に大きいため,横糸がガイド面に沿って大きく横ずれすることになり,スラットが暴れやすく不整列状態になりやすいため,現実的ではない。

イ.例示意匠2
例示意匠2においては,ガイド面の傾斜角度が小さいため,横糸がガイド面に沿って横ずれしやすくなり,スラットが不整列状態になりやすいため,現実的ではない。

ウ.例示意匠3
例示意匠3においては,切欠き部が全体としてスラットの縁部に近い位置に存在するため,ブラインドの組立時において横糸間にスラットを通す際に,横糸が切欠き部に引っ掛かってしまい,かつ,ガイド面の傾斜角度がほとんどないために,引っ掛かった横糸が抜けにくくなり,組立性が著しく低下するため,現実的ではない。そもそも,当該切欠き部は,ガイド面の傾斜角度が小さすぎるため,昇降コード及び横糸をガイドするという役割を果たしていない。

また,被請求人は「相違点(b)の本件登録意匠と引用意匠及び周辺意匠の斜面の具体的な角度の相違については,本件登録意匠の特徴として特定をするものではないことから,特に言及しない。」と述べている。
一方で被請求人は,例示意匠1?3の斜面の形状がそれぞれ「半長円形状(半カプセル状)」,「ロケット状の形状」,「丸みを帯びた略三角形状」を呈しており,半月形状の斜面を有する本件登録意匠の当該部分の態様が,必然的な形態ではなく,意図的に選択的に形成されたものであると主張している。
しかしながら,被請求人の主張するような例示意匠1?3の斜面の「半長円形状(半カプセル状)」,「ロケット状の形状」,「丸みを帯びた略三角形状」は,斜面の角度によって定まるものであることは説明するまでもなく明らかであり,例示意匠1?3の態様は,それらの斜面の形状が本件登録意匠のそれと異なるものとなるように,被請求人がそれぞれ斜面の角度を意図的かつ恣意的に選択した上で作成したものであると言える。

以上のとおり,被請求人が示した例示意匠1?3は,ガイド面の深さ及び斜面の傾斜角度,切欠き部の大きさ等について,当業者であれば創作することが想定しがたい,技術的な障害が存在する態様のものを意図的かつ恣意的に選択して作成したものであり,このような態様の例示意匠1?3は,公然知られた縁部が丸みを帯びたスラットに引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるような切欠き部におけるガイド面を形成すれば必然的に本件登録意匠の当該部分のような形態となることを否定する根拠とはなり得ないものである。

(2)スラットの境界点に合わせて,ガイド面の斜面が始まる態様の創作容易性について
上述のとおり,被請求人は,相違点(b)の本件登録意匠と引用意匠及び周辺意匠の正面視における当該部分の斜面の具体的な角度の相違については,本件登録意匠の特徴として特定をするものではないと述べている。
このことは,被請求人が,請求人の「上記相違点(b)について,斜面の角度が約55度であるか約30度若しくは約35度であるかは,当業者にとってみれば,適宜行われ得るところの部分的で,ありふれた改変の範囲にある僅かな差異にすぎないもの」との主張を認めたものと解される。

そうすると,当業者であれば,引用意匠3ないし7のような公然知られた丸みを帯びたスラットに,上記引用意匠1及び2の各基本的構成態様(C)及び(D)に示されるような切欠き部におけるガイド面を形成するにあたって,その傾斜面の角度については適宜選択できるものである。
そして,当業者が上記例示意匠1?3について示したデメリットを回避して,スラットのずれを防止しつつ,組立性を考慮した上で切欠き部を形成しようとすれば,スラットの幅及び横糸のサイズとの関係から,斜面の角度(及び凹状収容部の深さ)も必然的に決まるものである。
したがって,本物品の分野における当業者が通常の創作能力を発揮して,公然知られた丸みを帯びたスラットに,上記引用意匠1及び2の各基本的構成態様(C)及び(D)に示されるような切欠き部におけるガイド面を形成しさえすれば,当該ガイド面の形状は必然的に,本件登録意匠の当該部分の具体的構成態様(a)に示した左右対称な2つの半月形状になるものであり,またそれと同時に,当該部分の斜面は,境界近傍に収まるように形成されるものである。

また,被請求人が主張するのは,当該部分の斜面が「境界近傍」に収まる点であって,境界と合致するように斜面を形成するのであれば格別,「境界近傍」となるのは,上述のとおり,例示意匠1?3のデメリットを回避しようとする当業者の創作の結果としては当然である。
すなわち,本件登録意匠の斜面の開始位置に関する態様は,意図的に選択的に形成されたものではなく,必然的な形態である。

付言すると,参考資料Aに示すとおり,本件登録意匠の斜面の開始位置は,境界からは一定の距離D1をおいて形成されており,この距離D1は,縁部の端部から境界までの距離D2の1/2の距離を占めている。すなわち,本件登録意匠における斜面の開始位置は,丸みを帯びた縁部全体の幅の半分もの長さだけ,境界からずれた位置に存在しており,もはや「境界近傍」とは言えない。
仮にこの位置が「境界近傍」であるのであれば,例示意匠3においても,縁部と平坦部の境界から斜面の開始位置までの距離D3は,D1とほぼ同じ距離であることから,当該例示意匠3における斜面も「境界近傍」に収まっていると言える。したがって,斜面が「境界近傍」に収まっていること自体に創作的な特徴は存在しないと言える。

なお,本件登録意匠の出願前に公然知られた参考資料Bの図6及び図7には,円弧状に形成した縁部と平坦部の境界点(平面と曲面の接点)に合わせて,変形性ブラケット18及び固定金具21を設置するための切欠き部(凹部)の底面が形成された木製防護柵が開示されている。
当該参考資料Bにおいては,境界に合わせて切欠き部が形成されることにより,切欠き部の側面(本件登録意匠の斜面に相当)は,本件登録意匠と同様に半月形状を呈している。
したがって,円弧状に形成した縁部と平坦部の境界に合わせて形成された断面半月形状の切欠き部は周知ないし公知の形態と言えるから,その形態は,引用意匠1ないし7に基づいて本件登録意匠を容易に創作できたことを否定する根拠とはなり得ない。なお,創作非容易性の観点からは,本件登録意匠と上記参考資料Bの意匠の物品が異なることが,その判断に影響することはない。

(3)結論
以上説明したとおり,スラット本体の平坦部と,円弧状に形成した縁部の境界点(平面と曲面の接点)に合わせて,ガイド面の斜面が始まる態様については,その創作内容は容易である。

2.被請求人は,口頭審理において,答弁の趣旨及び理由について,審判事件答弁書のとおり陳述し,併せて,平成27年12月8日付け口頭審理陳述要領書と共に参考資料イを提出し,同要領書に記載のとおり陳述した。

○陳述の要領
被請求人は,本口頭審理陳述要領書において,平成27年2月25日付け審判事件答弁書における被請求人の主張を援用する。
加えて,平成27年11月24日付けの請求人の陳述要領書での主張について以下,反論を行う。

(1)被請求人の反論
請求人の主張する「スラット本体の平坦部と,円弧状に形成した縁部の境界点(平面と曲面の接点)に合わせて,ガイド面の斜面が始まる態様について,その創作内容が容易であるという理由」は,以下に詳述するとおり,認められないものと考える。

ア.例示意匠に関する請求人の主張について
請求人は,被請求人が,「公然知られた縁部が丸みを帯びたスラットに引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるようなガイド面を形成すれば必然的に本件登録意匠の当該部分のような形態」となるとは言えないものとして例示した例示意匠1?3について,“いずれも機能面における大きな技術的な障害が存在することから,当業者にとって,引用意匠1及び2から例示意匠1?3のような態様の意匠を創作することは全く現実的でなく,想定しがたいもの”と認定している。
そして請求人は,上記認定に基づき,“例示意匠1?3は,「公然知られた縁部が丸みを帯びたスラットに引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるようなガイド面を形成すれば必然的に本件登録意匠の当該部分のような形態」となることを否定する根拠とはなり得ないもの”であると主張している。
すなわち,請求人は,本件登録意匠以外の態様は,すべからく現実的でなく,想定しがたいものとなるものであることから,本件登録意匠の態様は必然的形態によってのみ(スラット本体の平坦部と,円弧状に形成した縁部の境界近傍に合わせて,ガイド面が始まる態様も含む)構成された,容易に創作できた意匠であると結論づけているものと考える。

しかしながら,被請求人は,例示意匠1?3は様々な態様が可能であるという例示に過ぎず,例示意匠1?3も含め,様々な態様が可能である中で,本件登録意匠の態様を,選択的に全体としてまとめ上げた行為は,創作行為というべきであって,当業者が容易に創作し得たとはいえないとの主張を行うものである。

請求人の結論の前提である,例示意匠1?3はすべからく現実的でなく,想定しがたいものとの認定については,肯定できないものであることから,以下のとおり,例示意匠1,2を例にとって反論を述べる。
まず,請求人は陳述要領書の例示意匠1?3の使用状態例である参考資料Aを作成するにあたって,被請求人が審判事件答弁書において提出した例示意匠1?3の各々のA-A断面図を無視してしまっているため,参考資料イとして,本件登録意匠と例示意匠1?3の斜視図,正面視,平面視,A-A断面図と,その使用状態例の図を一覧としたものを添付する。参考資料イにおいては,登録意匠は被請求人が出願時に提出した断面図,例示意匠1?3は被請求人が上記審判事件答弁書に付した例示意匠1?3の各断面図と照合して,平坦部と円弧状縁部の境界位置(x)を特定している。
なお,請求人は陳述要領書の参考資料Aにおいて,中央収容部の大きさが一定であるとして使用状態例を作成しているが,中央収容部の大きさは一定とは限らないものである。

請求人は,【請求人の例示意匠1の使用状態図】を示し,例示意匠1は,以下の点からスラットが不整列状態となるため,現実的でないと主張している。
(ア)ガイド面を深く形成することにより,スラットが前後方向に移動し易い。
(イ)縁部側の斜面の端部間の間隔が大きく横糸が斜面に沿って横ずれする。

しかしながら,被請求人が答弁書で示した例示意匠1は,【被請求人の例示意匠1とその使用状態例】の図に示す態様である。そして,その使用状態は,当該図中のようなものが想定される。
当該図中における使用状態例の態様であれば,収容部及びガイド面と縦糸・昇降コード等との寸法比率が小さいため,請求人が述べた(ア),(イ)のようなデメリットは回避できるものと考える。ゆえに,例示意匠1が非現実的な態様であるとの請求人の認定は認められない。

また,例え請求人の示す例示意匠1の態様,使用状態であっても,本件登録意匠のような厚みを有するスラット材においては,昇降に関し,スラット自体の自重で安定した昇降が可能なことから,スラットが不整列になるとは考え難く,また横糸はスラットを間に挟んで中央収容部に係合するように設けられることから横ずれの可能性は低いものであって,態様として非現実的とまでは言えないと考える。

請求人は,【請求人作成の例示意匠2の使用状態図】を示し,例示意匠2は,以下の点からスラットが不整列状態となるため,現実的でないと主張している。
(ウ)斜面の傾斜角度が小さいため,横糸が斜面に沿って横ずれし易い

しかしながら,例示意匠1でも述べたように,本件登録意匠のような厚みを有するスラット材においては,昇降に関し,スラット自体の自重で安定して昇降可能なことから,スラットが不整列になるとは考え難く,また横糸はスラットを間に挟んで中央収容部に係合するように設けられることから横ずれの可能性は低いものである。
また,請求人が出願人である引用意匠2の図10,15には,上記に示すように,例示意匠2とほぼ同じ傾斜角度のガイド面が設けられており,例示意匠2のガイド面の傾斜角度によって,例示意匠2の態様がことさら現実的でないものとする請求人の主張は認められないものと考える。

なお,被請求人は【被請求人の例示意匠2とその使用状態例】の図中,右側の使用状態例のような使用も想定可能であり,当該使用状態例においては,横糸内に挿通された昇降コードが収容部に納まる形で維持されることから(ウ)のようなデメリットは生じないと考える。ゆえに,請求人の例示意匠2が非現実的であるとの認定は認められない。

以上のように,例示意匠が,現実的でなく,想定しがたいものであるという請求人の認定は実情とは異なるものと考える。

よって,“例示意匠は,「公然知られた縁部が丸みを帯びたスラットに引用意匠1及び2の基本的構成態様に示されるようなガイド面を形成すれば必然的に本件登録意匠の当該部分のような形態」となることを否定する根拠とはなり得ないもの”であって,本件登録意匠の態様は必然的形態によってのみ構成された,容易に創作できた意匠であるとの請求人の主張は成立しないものである。

なお,被請求人が審判事件答弁書において述べた,“請求人の本件登録意匠及び引用意匠/周辺意匠の態様の特定には特に異論はない。ただし,具体的構成態様の本件登録意匠の正面視における当該部分の斜面の具体的な角度については,特に本件登録意匠の特徴として特定するものではない”との記載の意図については,以下のとおりである。
本件登録意匠の該当部は半月状の斜面として表れるものであり,これは,本件登録意匠の印象の基調をなすものであることは被請求人も認めるものである。
請求人は,審判請求書において,本件登録意匠の具体的な態様の特定において,本件登録意匠の該当部の斜面の角度を55度と特定しているが,被請求人は例えばこの角度が1度変わったからと言って,本件登録意匠の印象が変わるものではないと考える。
ゆえに,本件登録意匠の傾斜角度が55度であるという具体的な角度については,本件登録意匠の特徴としては特定するものではないと述べたものである。
当然,例示意匠1?3に示すような,「半長円形状(半カプセル状)」「ロケット状形状」,「丸みを帯びた略三角形状」の斜面は,本件登録意匠とは印象が異なるものと考える。

なお,上述の該当部の斜面の形状は,傾斜面がスラット本体のどの位置から始まるものであるかということと,その傾斜面の傾斜角度,この2つの要素によって,決定されるものである。
すなわち,本件登録意匠の要部は,スラット本体の平坦部と円弧状に形成した縁部の境界近傍から,その当該部分であるガイド面が始まるように(ガイド面が,スラットの円弧状に形成した縁部とスラットの平坦部の境界近傍に納まるように)形成されるとともに,その斜面の形状が半月状を呈するという点にあるものである。

イ.「スラット本体の平坦部と円弧状に形成した境界点に合わせて,ガイド面が始まる態様の創作容易性」に関する請求人の主張について
次に,請求人が主張する「スラット本体の平坦部と円弧状に形成した境界点に合わせて,ガイド面が始まる態様の創作容易性」の妥当性について,以下被請求人の考えを述べる。

請求人は,陳述要領書において,“当業者が上記例示意匠1?3について示したデメリットを回避して,スラットの前後方向に移動や横ずれを防止しつつ,組立性を考慮した上で切欠き部を形成しようとすれば,スラットの幅及び横糸のサイズとの関係から,斜面の角度(及び凹状収容部の深さ)も必然的に決まる”と主張している。

例示意匠1?3において,請求人が主張するデメリットは以下のとおりである。
・例示意匠1
(ア)ガイド面を深く形成することにより,スラットが前後方向に移動しやすい。
(イ)縁部側の斜面の端部間の間隔が大きく横糸が斜面に沿って横ずれする。
・例示意匠2
(ウ)斜面の傾斜角度が小さいため,横糸が斜面に沿って横ずれしやすい
・例示意匠3
(エ)切欠き部が全体として縁部に近い位置に存在することから,横糸間にスラットを通す際に,横糸が切欠き部に引っ掛かる。
(オ)斜面の傾斜角度が小さいため,引っ掛かった横糸が抜け難い。
(カ)斜面の傾斜角度が小さいため,ガイド面としての役割を果たさない。

しかしながら,さまざまな態様が考えられる中で,(ア)?(カ)のような数々のデメリットを回避し,スラットの前後方向の移動や横ずれを防止しつつ,組立性まで考慮して,切欠き部を形成する行為は,優れた高度な創作行為といえるものである。

また,陳述要領書において,請求人は“したがって,本物品の分野における当業者が通常の創作能力を発揮して公然知られた丸みを帯びたスラットに,上記引用意匠1及び2の各基本的構成態様(C)及び(D)に示されるような切欠き部における収容ガイド面を形成しさえすれば,当該収容ガイド面の形状は必然的に,本件登録意匠の当該部分の具体的構成態様(a)に示した左右対称な2つの半月形状になるものであり,またそれと同時に,当該部分の斜面は,スラット本体の平坦部と,円弧状に形成した縁部の境界近傍に納まるように形成される”との主張を行っている。
しかしながら,当業者が通常の創作能力を発揮した意匠は創作性を充分に具備した意匠となると考える。意匠法第3条第2項は,公然知られた形態に基づいて,当業者が容易に創作できた意匠において適用されるものである。例え,創作された意匠が,公然知られた形態に基づいたものであったとしても,当業者が通常の創作能力を発揮した場合の意匠については,適用されるものではないと考える。

ウ.請求人の付言について
請求人は,本件登録意匠の斜面の開始位置は丸みを帯びた縁部全体の幅の半分もの長さだけ,縁部と平坦部の境界からずれた位置に存在していることから,もはや,本件登録意匠の斜面の開始位置は「境界近傍」とは言えないと主張している。
【被請求人の本件登録意匠の各位置を示す図】で確認すると,本件登録意匠の斜面の開始位置(y)が,丸みを帯びた縁部全体の幅の半分もの長さだけ,縁部と平坦部の境界(x)からずれた位置に存在しているとは言えないと考える。

また,請求人は例示意匠3において,(y)と(x)のずれ幅が,本件登録意匠の(y)と(x)のずれ幅がほぼ同じであると主張している。
【被請求人の例示意匠3の各位置を示す図】で確認すると,例示意匠3の(y)と(x)のずれ幅が本件登録意匠とほぼ同じとは言えないものである。

よって,被請求人の本件登録意匠と例示意匠3を対比した主張は成立しないものと考える。

なお,請求人は,“本物品の分野における当業者が通常の創作能力を発揮して公然知られた丸みを帯びたスラットに,上記引用意匠1及び2の各基本的構成態様(C)及び(D)に示されるような切欠き部における収容ガイド面を形成しさえすれば,当該収容ガイド面の形状は必然的に,本件登録意匠の当該部分の具体的構成態様(a)に示した左右対称な2つの半月形状になるものであり,またそれと同時に,当該部分の斜面は,スラット本体の平坦部と,円弧状に形成した縁部の境界近傍に納まるように形成される”との主張を行いつつ,付言においては,本件登録意匠の斜面の開始位置は「境界近傍」とは言えないと主張しており,請求人の主張は矛盾しているように思われる。

なお,スラットの意匠において,本件登録意匠のような形態は,請求人が引用する意匠のどこにも表れていないことは,依然として変わりはないものである。
また,請求人が主張するほど,本件登録意匠の態様が必然的なものであって,創作が容易なものであるとすれば,本件登録意匠が出願されるまで,本件登録意匠のような態様を示すスラットの意匠が存在していないのはなぜであろうか。
請求人が示す引用意匠7の縁部を円弧状に丸みをつけたスラットが18年以上前から,また同じく請求人が示す引用意匠2の切欠き部を設けたスラットが4年以上前から存在しながら,本件登録意匠の出願まで,全くそのような態様が表れていないことは,本件登録意匠の創作性を肯定する理由となるものと考える。

(2)結論
以上に詳述したように,請求人の「スラット本体の平坦部と,円弧状に形成した縁部の境界点(平面と曲面の接点)に合わせて,ガイド面が始まる態様について,その創作内容が容易であるという理由」は,認められるものではない。
そして,本件登録意匠の「スラット本体の平坦部と円弧状に形成した縁部の境界近傍から,その当該部分であるガイド面が始まるように形成されるとともに,その斜面の形状が半月状を呈する」態様は,当業者であれば容易に創作し得たとはいえないものであり,本件登録意匠は創作性を充分具備した意匠であると考える。

第5 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成25年5月1日の意匠登録出願に係り,平成26年2月14日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1492562号の意匠であり,意匠に係る物品を「ブラインド用スラット」とし,形態を願書及び添付図面に記載されたとおりとしたものであり,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で,それ以外の部分を破線で表している。」としたもの(以下,本件登録意匠において,部分意匠として意匠登録を受けようとした部分を「本件意匠部分」という。)である(甲第2号証,別紙第1参照)。

すなわち,その形態は,
(1)全体は,(1-1)厚みのある平板帯状のもので,正面視で横長長方形の,左右に長いもので,(1-2)上辺の縁は,半正円弧状に形成したものであって,
(2)本件意匠部分は,上辺2箇所に設けた切欠き部のうち,正面視で右側の切欠き部における左右のガイド面部分であり,
(3)当該ガイド面部分は,正面視において,収容部を挟んで左右対称な逆ハの字状となる斜面として形成されており,その角度は約55度であって,
(4)ガイド面である斜面下端を,スラット平坦面から縁の半正円弧状に変化する位置のやや下に位置する態様としたものであって,
(5)このときガイド面が,平面視において,外側に円弧を有する左右対称の,2つの半月形状として表れる,
ものである。

2.本件登録意匠の創作容易性の判断
請求人の主張及び被請求人の反論を踏まえ,本件登録意匠が,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。

(1)スラットの全体形状を,平板帯状のもので,正面視で横長長方形の,左右に長いものとすることは,証拠の提示を要さないほど,この種物品分野において広く知られた形態である。
(2)そのスラットを,厚みのある,上辺の縁を略半正円弧状に形成したものは,引用意匠3ないし7に表れているとおり,広く知られた態様である。
(3)スラットの上辺に切欠き部を設けることは,引用意匠1及び2に表れているとおり,そして,厚みのあるスラットの上辺に切欠き部を設けることは,引用意匠3ないし5に表れているとおり,この種物品分野において極普通のありふれた態様である。
(4)正面視において,切欠き部の収容部を挟んで左右対称な逆ハの字状となる斜面を形成してガイド面とした態様は,引用意匠1及び引用意匠2と同じ態様であって,公然知られた態様と認められる。
(5)また,ラダーコードを係止するために,略ハの字状の一種と認められるV字状の切欠きの傾斜角度を約55度とすることは,周辺意匠3に表れており,かつ,ガイド面の傾斜角度を約30度とした態様は,引用意匠1に表れていることから,ラダーコード等を導くためのこの手の傾斜面の角度を約30?55度とすることは,この種物品分野において公然知られた態様と認められる。
(6)以上より,引用意匠1及び2に表れている,ガイド面部分を逆ハの字状となる斜面とした態様を,引用意匠3ないし5に表れている,上辺の縁を半正円弧状にした厚みのあるスラットの上辺にある切欠き部に用いることは,当業者であれば容易であり,そのガイド面の傾斜角度を55度とすることは,この種物品分野において公然知られた態様であるから,本件登録意匠の創作は,容易であったと認められる。
(7)なお,ガイド面下端の位置を,スラットの平坦な前後面から縁の半正円弧状に変化する位置におおむね合わせるような態様にすることについては,意匠の創作において,技術的な制約が無い場合においては,複数の形状的変化点をおおむね合わせることにより,全体の形状を簡潔にすることは,工業製品等のデザインにおける造形処理として,極普通に行われている手段であると認められる(例えば,請求人が陳述要領書に添付して提出した参考資料Bの図6では,上端が円弧状の木材15Bにおいて,平坦な側面から上端の円弧状に形状が変化する形状的変化点と,ブラケット18を設置するための凹部の底面(下端)という形状的変化点を合わせた事例が表れている(別紙第5参照)。)から,本件の場合も,この極普通の手法と同様であるといえるものであって,ガイド面下端の位置をスラットの平坦な前後面から縁の半正円弧状に変化する位置におおむね合わせた態様も含めて,本願意匠の創作に困難性があるとは認められない。
(当審注;別紙第5は,参考資料B「特開2003-313837」の抜粋である。)

3.被請求人のその他の主張内容について
被請求人は,
(1)「請求人が証拠として挙げた引用意匠においては,次の構成はどこにも表れていない。すなわち,昇降コード等を収容する切り欠き部において,中央の凹状収容部にガイドするための一対の収容ガイド面であって,平面視において外側に円弧を有するとともに,左右対称となる2つの半月形状面として形成された斜面の構成は,引用意匠のどこにも全く表れていない。本件登録意匠の当該部分は,従来にない新規な態様といえる。」(答弁書8ページ1?7行目)
(2)「スラットの意匠において,本件登録意匠のような形態は,請求人が引用する意匠のどこにも表れていないことは,依然として変わりはないものである。」(被請求人陳述要領書10ページ9?11行目)
などと主張するが,上記認定どおり,縁部に丸みを持たせた厚いスラットに切欠き部を設け,その切欠き部に,平坦面から縁の半正円弧状に変化する位置のやや下に斜面下端を合わせた55度に傾斜したガイド面を設けた場合は,意匠法施行規則様式第6備考8の定めにより「正投影図法」によって作図すると,平面視においてガイド面が「半月状を呈する」ことは自明である。

第6 結び
以上のとおりであるから,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものと認められるから,同法第48条第1項第1号の規定によりその登録を無効にすべきである。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲

審決日 2016-04-27 
出願番号 意願2013-9843(D2013-9843) 
審決分類 D 1 113・ 121- Z (C1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 恭子 
特許庁審判長 本多 誠一
特許庁審判官 橘 崇生
刈間 宏信
登録日 2014-02-14 
登録番号 意匠登録第1492562号(D1492562) 
代理人 金子 彩子 
代理人 折居 章 
代理人 恩田 誠 
代理人 金山 慎太郎 
代理人 恩田 博宣 
代理人 関根 正好 
代理人 吉田 望 
代理人 大森 純一 
代理人 中村 哲平 

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