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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) H1
管理番号 1324932 
判定請求番号 判定2016-600032
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 判定 
判定請求日 2016-07-28 
確定日 2017-01-26 
意匠に係る物品 表示灯 
事件の表示 上記当事者間の登録第1136237号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠(判定請求書に添付された「イ号意匠の写真及び説明」に示された「表示灯」の意匠)は,登録第1136237号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,平成28年7月28日付けの判定請求書において,
「イ号意匠(判定請求書に添付の「イ号意匠の写真及び説明」に示された意匠)は,登録第1136237号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由としておおむね以下の主張をし,その主張事実を立証するため,後記4に掲げた甲第1号証ないし甲第14号証の証拠を提出した。

2 請求の理由
(1)判定請求の必要性
請求人は,制御機器製品,制御装置及びFAシステム製品等の電気機械器具の製造・販売を業とする法人であり,取扱製品のラインナップに含まれる表示灯に関し,登録第1136237号意匠に係る意匠権(以下,登録第1136237号意匠を「本件登録意匠」と,本件登録意匠に係る意匠権を「本件意匠権」という。甲第1号証及び甲第2号証)を所有している。
他方,被請求人は,制御機器,FAシステム製品,電子部品,車載電装部品等の製造・販売を業とする法人であり,イ号意匠の実施に係る表示灯(形式:形M22N-BG,照光部形状:樹脂半球形,甲第3号証)を含む4タイプの表示灯(形式:M22N,各形式の表示灯に7色の照光色がそれぞれ対応している。甲第3号証)を2015年5月から販売し,現在も販売を継続している。
請求人は,イ号意匠(「イ号意匠の写真及び説明」に示された意匠)は登録第1136237号意匠の類似範囲に属すると思料し,書簡にて被請求人の見解を求めたところ,被請求人から,イ号意匠は本件登録意匠の類似範囲に属していない旨の書簡による回答を受けた。
そこで,請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に関し特許庁による厳正かつ中立的な立場からの判定を求める。
(2)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,甲第2号証に記載されているとおり,意匠に係る物品を「表示灯」とし,図面及び意匠の説明に表された形態を有する。また,各構成部分の名称は参考正面図(甲第4号証)に付記したとおりである。以下に本件登録意匠の構成態様を詳述する。
ア 基本的構成態様
A 本件登録意匠は,略倒円柱状の表示部と略倒四角柱状の本体から構成されており,全体が奥行き方向に長い形状である。
B 表示部は,正面視右側から,略半球状のレンズ部とそれより径の小さい円筒部と円筒部の外周に嵌め込まれた扁平リング状の締付ナット(表示灯を制御盤のパネル等に固定するための部品)から構成されている。本体は,正面視右側から,略倒四角柱状のケース部と2本の略倒四角柱状の端子突起が設けられた端子部から構成されている。
イ 各構成部分の比
α 正面視における表示部と本体の水平方向の長さの比は,約1:1.9である。
β 表示部中,正面視におけるレンズ部と円筒部の水平方向の長さの比は約1:0.9である。
γ 本体中,正面視におけるケース部前部とケース部後部と端子部の水平方向の長さの比は約1:2.6:1.9である。
δ ケース部後部の正面視における縦方向の長さと平面視における縦方向の長さの比は約1:1.3である。
ウ 具体的構成態様
(ア)レンズ部は全体が略半球状であり,正面視左側から,長方形の帯状の底部と,上方に径を狭めながら直線で立ち上がる中間部と,途中から弧に変化する稜線からなる頭頂部で構成されている。
(イ)円筒部は,正面視右側から,レンズ部と接している2つの扁平な円筒と,その左に位置する,より径が小さく,水平方向に長い円筒と,さらにその左に段差を伴い縮径する扁平な円筒からなる。当該長い円筒は,平面視で中央部に締付ナットと垂直に交差する長方形状の1本の溝を有し,底面側にも同じ形状の1本の溝を有している。平面側の当該溝内に2個の孔が設けられ,左側の孔は矩形である。底面側には当該溝内に1個の孔が設けられている。
(ウ)円筒部に嵌め込まれた締付ナットは扁平なリング状であり,その左側面側に突出したリング状の突起部を持つ。当該締付ナットの外周表面には,レンズ部側に4ヶ所,本体側に12ヶ所の矩形の凹みが設けられている。その凹みは,レンズ部側に1つ,本体側に3つ連続の順を交互に繰り返すパターンで設けられている。
(エ)ケース部前部については,その正面側及び背面側は略直線状に立ち上がり,平面側はストッパーの外形を構成する凹凸が見られるが略水平な面になっており,底面側は円弧状又は略円弧状になっている。ケース部前部の正面側及び背面側の略中央には,わずかに突出した略正方形状の面が存在する。
(オ)ケース部前部の平面側には,表示部と本体を結合させた状態で固定するためのストッパーが設けられている。ストッパーは表示部側に楔状の突起が付いた平面視で長方形状の薄片部分と,それを両側から囲むように設けられた左側面視で鈎状の突起一対からなる。楔状の突起の上部には,左側面視で長方形状の開口部が設けられている。
(カ)ケース部後部の外形は倒四角柱状であり,平面側と底面側に各1ヶ所,長方形状の溝が設けられている。当該溝に端子部の係止爪を嵌め込ませることでケース部後部と端子部が接続されている。
(キ)端子部は,正面視右側から,ケース部後部に接続する扁平な倒四角柱状の台があり,その左側に連続してそれより厚みがあるが大きさが少し小さい倒四角柱状の台があり,さらにその左側に連続して,端子部の中央に最も小さな倒四角柱状の台がある。即ち,ケース部後部との接続部分から順に「大中小」の扁平な倒四角柱状の台がピラミッド状に重なっている態様である。「中」の大きさの倒四角柱状の台の相対する角のやや内側に略倒四角柱状の端子突起が一対設けられている。
(ク)一方の端子突起の平面側に長手方向に沿って相対するフィンが設けられ,同じく他方の端子突起の底面側にも長手方向に沿って相対するフィンが設けられている。当該相対するフィンの先端は斜めに切り欠かれている。
(ケ)両端子突起にはそれぞれ矩形の端子挿入口が設けられている。端子挿入口は,平面視及び底面視において,相対するフィンの間でかつ端子突起の中央ややケース部寄りの位置に設けられ,その開口面は突出した両フィンから少し凹んだ位置にある。両端子突起の内部にはそれぞれ端子ねじが存在し,左側面視では端子ねじの頭部が見え,平面視及び底面視では端子挿入口に端子ねじの側面が見える。
(コ)端子突起の斜めに切り欠かれたフィンの先端は,端子突起の先端の面まで届いている。
(サ)端子突起の先端面の外形は左側面視で略正方形である。
(シ)両端子突起は,端子部中央を横切る薄片により繋がっている。
(3)イ号意匠の説明
イ号意匠の実施に係る製品は,2015年5月にオムロン株式会社から品番「M22N」シリーズとして発売された4タイプの表示灯のうちの,照光部形状が樹脂半球形のタイプである(形式:形M22N-BG,甲第3号証)。当該製品は,制御盤のパネル等に取り付けて,機械装置の運転状態等を光で表示する表示灯である。
イ号意匠の形態は「イ号意匠の写真及び説明」の「イ号意匠(写真)」のとおりであり,各構成部分の名称は「イ号意匠の各構成部分の名称を示す参考正面図」に記したとおりである。以下にその構成態様を詳述する。
ア 基本的構成態様
C イ号意匠は,略倒円柱状の表示部と略倒四角柱状の本体から構成されており,全体が奥行き方向に長い形状である。
D 表示部は,正面視右側から,略半球状のレンズ部とそれより径の小さい円筒部と円筒部の外周に嵌め込まれた扁平リング状の締付ナット(表示灯を制御盤のパネル等に固定するための部品)から構成されている。本体は,正面視右側から,略倒四角柱状のケース部と2本の略倒四角柱状の端子突起が設けられた端子部から構成されている。
イ 各構成部分の比
ν 正面視における表示部と本体の水平方向の長さの比は,約1:1.3である。
ζ 表示部中,正面視におけるレンズ部と円筒部の水平方向の長さの比は約1:0.9である。
η 本体中,正面視におけるケース部前部とケース部後部と端子部の水平方向の長さの比は約1:0.7:2である。
θ ケース部後部の正面視における縦方向の長さと平面視における縦方向の長さの比は約1:1.3である。
ウ 具体的構成態様
(ス)レンズ部は全体が略半球状であり,正面視左側から,長方形の帯状の底部と上方に径を狭めながら直線で立ち上がる中間部と,途中から弧に変化する稜線からなる頭頂部で構成されている.
(セ)レンズ部の外面の底部には,外周に沿った複数の平行線からなる縞模様と,8個の長方形の区画に分かつ当該平行線に略垂直な8本の線が表れ,その中間部には多数の放射状の線からなる縞模様が全周に表れ,その頭頂部には複数の同心円からなる模様が表れている。
(ソ)円筒部は,正面視右側から,レンズ部と接している2つの扁平な円筒と,その左に位置する,より径が小さく,水平方向に長い円筒と,さらにその左に段差を伴い縮径する扁平な円筒からなる。当該長い円筒は,平面視で中央部に締付ナットと垂直に交差する長方形状の1本の溝を有し,底面側にも同じ形状の1本の溝を有している。平面側の当該溝内に2個の矩形の孔が設けられ,底面側には当該溝内に1個の矩形の孔が設けられている。
(タ)円筒部の当該長い円筒忙は,当該溝を除く外周にねじが切られている。
(チ)円筒部に嵌め込まれた締付ナットは扁平なリング状であり,その左側面側に突出したリング状の突起部を持つ。当該締付ナットの外周表面には,レンズ部側に4ヶ所,本体側に12ヶ所の矩形の凹みが設けられている。その凹みは,レンズ部側に1つ,本体側に3つ連続の順を交互に繰り返すパターンで設けられている。
(ツ)ケース部前部については,その正面側及び背面側は略直線状に立ち上がり,平面側はストッパーの外形を構成する凹凸が見られるが略水平な面になっており,底面側は円弧状になっている。ケース部前部の正面側及び背面側の略中央には,わずかに突出した略正方形状の面が存在する。さらに,ケース部前部の正面側及び背面側それぞれの上部には,外側に突出した,平面視で略台形状のフィンが一対存在する。
(テ)ケース部前部の平面側には,表示部と本体を結合させた状態で固定するためのストッパーが設けられている。ストッパーは表示部側に楔状の突起が付いた平面視で長方形状の薄片部分と,それを両側から囲むように設けられた左側面視で鉤状の突起一対からなる。楔状の突起の上部には,左側面視で長方形状の開口部が設けられている。
(ト)ケース部後部の外形は奥行き方向に短い倒四角柱状であり,平面側と底面側に各2ヶ所,長方形の溝が設けられている。当該溝に端子部の係止爪を嵌め込ませることでケース部後部と端子部が接続されている。
(ナ)端子部は,正面視右側から,ケース部後部に接続する扁平な倒四角柱状の台があり,その左側に連続してそれより厚みがあるが大きさが少し小さい倒四角柱状の台があり,さらにその左側に連続して,端子部の中央に最も小さな倒四角柱状の台がある。即ち,ケース部後部との接続部分から順に「大中小」の扁平な倒四角柱状の台がピラミッド状に重なっている態様である。「中」の大きさの倒四角柱状の台の相対する角のやや内側に略倒四角柱状の端子突起が一対設けられている。
(ニ)一方の端子突起の平面側に長手方向に沿って相対するフィンが設けられ,同じく他方の端子突起の底面側にも長手方向に沿って相対するフィンが設けられている。当該相対するフィンの先端は斜めに切り欠かれている。
(ヌ)両端子突起にはそれぞれ矩形の端子挿入口が設けられている。端子挿入口は,平面視及び底面視において,相対するフィンの間でかつ端子突起の中央ややケース部寄りの位置に設けられ,その開口面は突出した両フィンから少し凹んだ位置にある。両端子突起の内部にはそれぞれ端子ねじが存在し,左側面視では端子ねじの頭部が見え,平面視及び底面視では端子挿入口に端子ねじの側面が見える。
(ネ)端子突起の斜めに切り欠かれたフィンの先端は,端子突起の先端の面まで届いていない。
(ノ)端子突起の先端面の外形は左側面視で横方向が少し長い長方形である。
(ハ)両端子突起には,フィンが設けられている反対側の面に接して,倒四角柱状の端子突起より短い突出部が設けられている。
(4)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「表示灯」であり,イ号意匠の実施に係る物品も「表示灯」である。両物品はどちらも制御盤のパネル等に取り付けて,機械装置の運転状態等を光で表示するものであり,用途・機能を同じくするものであるため,両意匠の意匠に係る物品は同一である。
イ 本件登録意匠とイ号意匠の形態の共通点
(ア)基本的構成態様の共通点
a 共通点1:「A」と「C」が共通する。
両意匠共に「略倒円柱伏の表示部と略倒四角柱状の本体から構成されており,全体が奥行き方向に長い形状である。」という意匠全体に亘る基本的構成態様が共通する。
b 共通点2:「B」と「D」が共通する。
両意匠は,その2つの主要な構成部分,即ち表示部と本体の基本的構成態様が共通する。
即ち,両意匠は,表示部について,「正面視右側から,略半球状のレンズ部と円筒部とその外周に嵌め込まれた扁平リング状の締付ナットから構成されている」という基本的構成態様が共通し,本体について,「正面視右側から,略倒四角柱状のケース部と2本の略倒四角柱状の端子突起が設けられた端子部から構成されている」という基本的構成態様も共通している。
(イ)各構成部分の比(相対的大きさ)における共通点
a 共通点3:「β」と「ζ」が共通する。
両意匠の各構成部分の比のうち,レンズ部と円筒部の正面視における水平方向の長さの比は共に約1:0.9である。
b 共通点4:「δ」と「θ」が共通する。
両意匠のケース部後部について,正面視における縦方向の長さの比と平面視における縦方向の長さの比が共に約1:1.3である。したがって,両意匠のケース部後部の平面図における縦断面の外形は相似する長方形であることがわかる。
(ウ)具体的構成態様の共通点
a 共通点5:「ア」と「ス」,即ちレンズ部の外形形状が共通する。
b 共通点6:「イ」と「ソ」の大部分,即ち円筒部の形態の大部分が共通する。
円筒部の平面側及び底面側の溝内に設けられた孔に関しては,平面側溝内の1つ(ケース部寄りの孔)は位置及び形状が共通していることが確認でき,他の2つは位置が共通していることのみ確認できる。
c 共通点7:「ウ」と「チ」,即ち締付ナットの形態が共通する。
d 共通点8:「エ」と「ツ」の大部分,即ちケース部前部の形態の大部分が共通する(フィンの有無のみが相違する)。
e 共通点9:「オ」と「テ」,即ちストッパーの形態が共通する。
f 共通点10:「キ」と「ナ」,即ち端子部の形態のうち,その主要部の形態が共通する。
g 共通点11:「ク」と「ニ」,即ち端子突起に相対するフィンが設けられ,当該フィンの先端が切り欠かれている態様が共通する。
h 共通点12:「ケ」と「ヌ」,即ち端子突起に設けられた端子挿入口の位置及び形状並びに端子突起の内部に端子ねじが設置されている態様が共通する。両意匠の端子挿入口は,平面視及び底面視において,矩形の挿入口が相対するフィンに挟まれた態様となっている。
ウ 本件登録意匠とイ号意匠の形態の差異点
(ア)各構成部分の比における差異点
差異点1:ケース部後部の奥行き方向(正面視における水平方向)の長さ
本件登録意匠とイ号意匠では,正面視における水平方向の長さに関して,表示部と本体の長さの比と,ケース部前部とケース部後部と端子部のそれぞれの長さの比が,次のとおり異なる。
<本件登録意匠>
α 表示部:本体=1:1.9
γ ケース部前部:ケース部後部:端子部=1:2.6:1.9
<イ号意匠>
ν 表示部:本体=1:1.3
η ケース部前部:ケース部後部:端子部=1:0.7:2
これらの比から,イ号意匠のケース部後部の奥行き方向(正面視における水平方向)の長さが本件登録意匠のそれよりも相対的に短くなっていることがわかる。
(イ)具体的構成態様の差異点
a 差異点2:レンズ部の模様
本件登録意匠についてはレンズ部の外面に模様が表れていないが,イ号意匠については模様が表れている。「セ」に記載のとおり,イ号意匠の底部には外周に沿った複数の平行線からなる縞模様と8個の長方形の区画に分かつ当該平行線に略垂直な8本の線,中間部には全周に亘る多数の放射状の線からなる縞模様,頭頂部には複数の同心円からなる模様が見える。
b 差異点3:円筒部のねじ切り
本件登録意匠では円筒部にねじ切りが施されていないが,イ号意匠の円筒部には,「タ」に記載のとおり,ねじ切りが施されている。
c 差異点4:ケース部前部のフィン
ケース部前部について,イ号意匠では,「ツ」の末文に記載のとおり,ケース部前部の正面側及び背面側それぞれの上部に,外側に向けて突出している平面視で略台形状のフィンが一対存在する。本件登録意匠はこのようなフィンを有しない。
d 差異点5:ケース部後部の形態
ケース部後部について,「カ」と「ト」に記載のとおり,その形状に違いがある。即ち,本件登録意匠はケース部後部の奥行き方向(正面視における水平方向)の長さが相対的に長く,イ号意匠はその長さが相対的に短い。本件登録意匠のケース部後部には端子部の係止爪を嵌め込ませる長方形の孔が平面側と底面側に各1か所設けられ,イ号意匠のケース部後部には同じ機能を持つ長方形の孔が平面側と底面側に各2か所設けられている。
e 差異点6:端子突起のフィン
「コ」と「ネ」に記載のとおり,本件登録意匠については端子突起の斜めに切り欠かれたフィンの先端は端子突起の先端面まで届いているが,イ号意匠についてはフィンの先端は端子突起の先端面まで届いておらず,途中で端子突起の側面に交わっている。
f 差異点7:端子突起先端面の外形
「サ」と「ノ」に記載のとおり,本件登録意匠の端子突起先端面の外形は左側面視で略正方形であるのに対し,イ号意匠の端子突起先端面の外形は左側面視で横方向が少し長い長方形である。
g 差異点8:両端子突起を繋ぐ薄片
本件登録意匠の両端子突起は「シ」に記載のとおり端子部中央を横切る薄片で繋がっているが,イ号意匠にはそのような薄片はない。
h 差異点9:端子突起の側面に接する倒四角柱状の突出部
「ハ」に記載のとおり,イ号意匠にはフィンが設けられている反対側の面に接する倒四角柱伏の短い突出部が存在するが,本件登録意匠にはそのような突出部は存在しない。
(5)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
ア 基本的構成態様の共通点に関する評価
(ア)意匠全体の基本的構成態様並びに表示部及び本体の基本的構成態様?共通点1及び2に関して
本件登録意匠とイ号意匠は,意匠全体の基本的構成態様(共通点1),並びに表示部及び本体の基本的構成態様(共通点2)が共通している。
当該共通点1及び2は,両意匠の全体観察において表示灯の需要者に共通の美感を生じさせる方向に影響を与える。
イ 各構成部分の比に関する評価
(ア)ケース部後部に関する比?共通点4と差異点1に関して
本件登録意匠とイ号意匠の各構成部分に関する正面視における水平方向の長さの比(差異点1)と両意匠のケース部後部の平面図における縦断面の縦横比(共通点4)からいえることは,両意匠のケース部後部の平面図における縦断面は相似の長方形であり,ケース部後部の正面視における水平方向の長さ(奥行き方向の長さ)は,本件登録意匠がイ号意匠よりも相対的に長いということである。即ち,両意匠のケース部後部は共にその断面形状が相似の長方形で,奥行き方向の長さが異なる倒四角柱である。このようなケース部後部の形態的特徴が意匠の類否判断にどの程度の影響を与えるか,公知意匠の存在を参酌しつつ考察する。
本件登録意匠の出願前の公知意匠としては,トランスの有無により奥行き方向の長さが異なる表示灯に関し,一群の意匠が存在する。例えば,甲第5号証中の富士電機株式会社製富士コマンドスイッチRCa470形・AH30形・AH25形シリーズ丸形・ダイヤカット形・角形・記名角形の「トランスなし」及び「トランス付」の図(E1-48?51頁),甲第6号証中の同社製富士コマンドスイッチAH22形シリーズ平形・丸突出形・角平形・角丸平形の「トランスなし」及び「トランス付」の図(E2-38?39頁),甲第7号証中のオムロン株式会社製M2Tシリーズ平形の「トランスなし」及び「トランスつき」の図(181頁)が挙げられる。これらの事例から,トランスを付加することにより表示灯の本体部に該当する部分が奥行き方向に長く伸びた形態となることは,本件登録意匠の出願前から表示灯の分野で普通に見られるものであることがわかる。
また,本件登録意匠の出願前に,表示灯の奥行き方向の長さのみが主要な相違点である意匠同士が本意匠と類似意匠として登録された事例が,複数存在する。例えば,「意匠登録第404111号とその類似1」(甲第8号証),「意匠登録第984622号とその類似1」(甲第9号証),「意匠登録第984623号とその類似1」(甲第10号証),「意匠登録第327804号とその類似1」(甲第11号証)が挙げられる。これらの事例から,奥行き方向の長さは異なるが,それ以外の態様が共通している或いは略共通している表示灯に係る意匠同士に関し,同一の美観の範囲に止まるとして類似すると認定されたことが読み取れる。
したがって,本件登録意匠とイ号意匠における,本体のケース部後部の奥行き方向の長さの差異は本件登録意匠の出願前から見られる表示灯の分野でありふれたものであるため,当該差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
(イ)レンズ部と円筒部に関する比?共通点3に関して
次のウ(ア)ないし(ウ)で詳述するとおり,両意匠の表示部(レンズ部,円筒部及び締付ナット)の具体的構成態様は多くの構成要素について共通している。そのうえ,両意匠のレンズ部と円筒部の正面視における水平方向の長さの比も共通している。したがって,当該共通点は,表示部における共通の視覚的印象の形成に寄与しているといえる。
ウ 具体的構成態様の共通点及び差異点に関する評価
(ア)レンズ部の形態?共通点5及び差異点2に関して
本件登録意匠とイ号意匠のレンズ部の外形形状は共通している。
次に,両意匠のレンズ部の形態において差異点として挙げられる要素は,本件登録意匠のレンズ部外面には模様が見られず,イ号意匠のレンズ部外面には模様が表れている点である。両意匠のレンズ部の外面に表れる模様の有無による差異は顕著なものといえず,当該差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいと考えられる。
(イ)円筒部の形態?共通点6及び差異点3に関して
本件登録意匠とイ号意匠の円筒部の形状については,正面視右側から径の異なる円筒が順に接続している態様であること,長方形状の溝の相対的大きさ及び位置,並びに孔の位置が共通していることが確認できる。両意匠の円筒部は細部に至るまで共通点が多い。
両意匠の異なる点はねじが切られているか否かであるところ,締付ナットを使用して表示灯を制御盤のパネルに取り付ける方法は本件登録意匠の出願前から広く行われており,当該円筒部のねじ切りはありふれた態様である。
したがって,円筒部のねじ切りの有無による差異は両意匠の円筒部における視覚的印象の共通性を損なわず,両意匠の円筒部は類似度が高いといえる。
(ウ)締付ナットの形態?共通点7に関して
本件登録意匠とイ号意匠の締付ナットの形状は,凹みの形状・位置及び突起部の形状も含め,共通している。
本件登録意匠の出願前には,両意匠の締付ナットに共通する,外周表面のレンズ部側及び本体側の両方に凹みが設けられ,片側側面にリング状の突起部を有する態様のものは存在せず,本件登録意匠の締付ナットの形状は出願時に新規性を有していたといえる。締付ナットの形態が両意匠で共通していることは,両意匠の類否判断に大きな影響を与えると考えられる。
(エ)ストッパーを含むケース部前部の形態?共通点8及び9並びに差
異点4に関して
本件登録意匠とイ号意匠のケース部前部の形態を比較すると,ストッパーの態様が共通しているうえ,フィンの有無以外の要素は全て共通している。
イ号意匠が有する当該フィンについては,ケース部前部に占める面積がかなり小さい。
したがって,ストッパーを含むケース部前部の形態における共通点がケース部前部における視覚的印象の共通性をもたらしており,フィンの有無はその共通性を損なっていない。よって,両意匠のケース部前部の形態は類似度が高いといえる。
(オ)ケース部後部の形態?差異点5に関して
本件登録意匠とイ号意匠のケース部後部の長さ(正面視で水平方向の長さ)の差異に関しては,前記イ(ア)「ケース部後部に関する比?共通点4と差異点1に関して」で言及したとおり,両意匠の類否判断への影響は軽微であるといえる。
また,当該長さの差異に加え,端子部の係止爪を嵌め込ませる矩形状の溝の位置・相対的な大きさ・数についても差異がある。しかしながら,両意匠共に,溝は単純な矩形であり,ケース部後部に占める相対的な大きさも小さい。したがって,両意匠の当該溝に関する差異についても,特に顕著なものでないことから,両意匠の類否判断にほとんど影響を及ぼさないと考えられる。
(カ)端子部の形態?共通点10ないし12及び差異点6ないし9に関して
本件登録意匠とイ号意匠の端子部はどちらも全体として複雑な形状を有しているが,端子部の主要な構成部分として,端子突起の根元に位置し,ピラミッド状に重なっている,大中小の扁平な倒四角柱状の台からなる部分(以下,「端子部の土台部分」という)と,左側面視で対角線上に相対する二本の端子突起に分けられる。
まず,前者の端子部の土台部分の態様については,両意匠で共通している。
次に,後者の端子突起については,相対するフィンを有する略倒四角柱状の外形,設けられた位置,内部に端子ねじが設置された態様,及び端子挿入口とその近接部分の態様が両意匠で共通している。端子挿入口とその近接部分の態様について詳細に述べると,端子挿入口は,両意匠共に,その開口部が矩形であり,平面視及び底面視において端子突起の中央ややケース部寄りの位置でかつ相対するフィンの間の少し凹んだ位置に設けられている。当該端子挿入口とその近接部分の態様は,表示灯の機能・用途に関連する部分であり,需要者の注意を引く部分である。
他方,両意匠の端子突起における差異点としては,まず端子突起の相対するフィンの切り欠き位置の相違が挙げられる。当該相違は切り欠き位置の僅かな差異にすぎないうえに,相対するフィンも構成の一部となっている端子挿入口とその近接部分の態様は両意匠で共通している。次に,端子突起に接する倒四角柱状の短い突出部の有無が挙げられるが,当該突出部の端子部全体に占める面積は小さい。
なお,端子突起を正面視及び背面視で観察した場合,これらの差異点により,本件登録意匠では角を一箇所切り欠いた略四角形状に見え,イ号意匠では略凸字状に見える。しかしながら,端子突起を他の視点,例えば平面視,底面視,左側面視及び斜視図の視点で観察し,総合的に把握した場合は,両意匠共に,端子突起は略倒四角柱状の態様であると認識される。即ち,端子突起を正面視及び背面視で観察した場合の差異は特定の視点に限定されたものであり,端子突起が略倒四角柱状であるという総合的な形状認識を覆すほどのものではない。
また,その他の差異点,即ち,端子突起先端面の外形の差異(略正方形か長方形かの差異)については軽微なものであり,両端子突起を繋ぐ薄片の有無についても,当該薄片の端子部全体に占める面積が小さいため,軽微な差異といえる。
ここで,両意匠の端子部における共通点及び差異点を総合的に検討するに,両意匠の端子部における共通点は,端子部の土台部分の形状,端子突起の基本的態様(相対するフインを有する略倒四角柱伏の突起であり,内部に端子ねじが設置された態様)及び端子挿入口とその近接部分の態様であり,当該共通点は端子部の大部分の面積を占め,端子挿入口とその近接部分の態様は需要者の注意を引くところである。よって,当該共通点が両意匠の端子部における視覚的印象の共通性を生み出しているといえる。他方,差異点は,端子突起の相対するフィンの切り欠き位置の相違,端子突起に接する倒四角柱状の短い突出部の有無,端子突起先端面の外形の差異及び両端子突起を繋ぐ薄片の有無であるところ,何れも上記の共通点に埋没する程度の軽微な差異であるため,当該視覚的印象の共通性を損なう程のものではないと考えられる。
エ 意匠の類否判断のまとめ
本件登録意匠とイ号意匠は,同じ用途・機能を有する「表示灯」の意匠であり,意匠に係る物品は一致する。
両意匠の基本的構成態様は一致しているため,需要者に共通の美観を生じさせる基調となる。
次に,両意匠の具体的構成態様に関して述べると,両意匠の円筒部,締付ナット,ストッパーを含むケース部前部及び端子部の形態については,上述のとおり,完全に共通するか,あるいは差異点を有しながらも軽微なものであるため,需要者に共通の美感を生じさせる。次に,レンズ部の形態については,外形形状が共通する一方,外面に表れる模様の有無の差異が存在する。しかしながら,当該差異点は,上述のとおり,表示灯の分野では本件登録意匠の出願前から見られる常套的な手法により形成されたありふれた態様であるため,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。さらに,ケース部後部の形態についても,奥行き方向の長さの差異が存在するが,当該差異点についても上述のとおりありふれた態様であるため,両意匠の類否判断に与える影響は軽微なものに止まる。よって,両意匠を全体観察した場合,両意匠の共通点が両意匠の類否判断において支配的であり,需要者に共通の美感を生じさせていると思料する。
以上のことから,本件登録意匠とイ号意匠は類似すると思料する。
(6)むすび
したがって,イ号意匠(判定請求書に添付の「イ号意匠の写真及び説明」に示された意匠)は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

3 「判定請求弁駁書」における主張
請求人は,平成28年12月1日付けで判定請求弁駁書を提出しておおむね以下の主張をし,その主張事実を立証するため,後記4に掲げた甲第15号証ないし甲第22号証の証拠を提出した。
(1)物品の類否に関して
登録第1136237号意匠(以下,「本件登録意匠」という)に係る物品は,意匠に係る物品名が表示灯であり,制御盤のパネル等に取り付けて,機械装置の運転状態等を光で表示するための表示灯である。他方,イ号意匠に係る物品も,制御盤のパネル等に取り付けて,機械装置の運転状態等を光で表示するための表示灯である。よって,両意匠に係る物品は共に同種の用途及び機能を有する表示灯であり,物品同一である。
被請求人は制御盤等のパネルへの取付方法が異なることをもって両意匠の物品は同一ではないと主張しているが,仮にパネルへの取付方法が異なるとしても,表示灯としての本質的な用途及び機能が同じである限り同一の物品であることに変わりはない。
(2)円筒部の形態の相違に関して
被請求人は,「円筒部にねじ溝を形成したか否かは,ねじ溝が外観形状の相違として表れるだけでなく,本件意匠とイ号意匠の機能面の相違,さらには美観の相違として表れる。したがって,本件意匠の無ねじ円筒部とイ号意匠のねじ付き円筒部の違いは,本件意匠とイ号意匠の類否を判断する際に相当なウェイトをもって考慮されなければならない」(後記第2の2(2)イ(ア)b)と主張している。当該主張に対し,以下のとおり反論する。
本件登録意匠の図面中の円筒部にねじ溝が図示されていないが,表示灯の需要者は当該図面を見て,レンズ部の奥にレンズ部よりやや径の小さな円筒部が存在しその円筒部にリング状の部材が取り付けられていることから,本件登録意匠の円筒部の表面及びリング状の部材の内側面にねじ切りが施されていると解釈すると考える。そもそも本件登録意匠の意匠登録出願前から,表示灯の表示部の態様として,レンズ部の奥にレンズ部より径が小さく,ねじが切られた円筒部が設けられ,その円筒部にリング状の締付ナットが螺合されている態様を有し,締付ナットを締めパネルを挟み込むことで表示灯を制御盤に取り付けるタイプの表示灯は多数存在していた事実がある(例えば,甲第15号証ないし甲第19号証)。また,表示灯の需要者は,制御盤のメーカーや工事業者であり,表示灯に関する製品知識を有している。このような実情の下で,表示灯の需要者が本件登録意匠の図面を見れば,円筒部の表面にはねじが切られており,リング状の部材は内側面にねじが切られた締付ナットであって円筒部に螺合されていると解釈すると思料する。
また,仮に,表示灯の需要者が本件登録意匠の円筒部の表面及び締付ナットの内側面にねじが切られていないと解釈する場合でも,本件登録意匠及びイ号意匠の円筒部について,前記「2 請求の理由」に記載のとおり,「正面視右側から径の異なる円筒が順に接続している態様であること,長方形状の溝の相対的大きさ及び位置,並びに孔の位置が共通していることが確認でき」(前記2(5)ウ(イ)),両意匠の円筒部の形態に細部に至るまで共通点が多いことに変わりはない。さらに,本件登録意匠の締付ナットの表面形状は,イ号意匠の締付ナットと凹部の数・向き・大きさ等細部に至るまで共通している。
なお,イ号意匠の円筒部のねじ溝の態様について意匠的価値があるかについて付言すれば,イ号意匠のねじ溝は特殊な態様のものではなく,表示灯の分野でありふれた態様であることは顕著な事実であるといえる。したがって,イ号意匠にねじ切りが施されている点は,イ号意匠の要部とはなり得ず,意匠の類否判断において重視すべき態様であるとはいえない。
以上のことから,表示灯の需要者が本件登録意匠の図面から本件登録意匠の円筒部の表面及び締付ナットの内側面にねじ切りが施されていると解釈する場合は,円筒部及び締付ナットの形態は両意匠で共通性が非常に高いといえ,また,仮に本件登録意匠の円筒部の表面及び締付ナットの内側面にねじ切りがないと解釈した場合でも,両意匠の円筒部におけるねじ切りの有無の差異は,ねじ切りの有無以外の円筒部の態様における多くの共通点と締付ナットの外観形状の細部に亘る共通点を凌駕するほどのものではないと思料する。
(3)ケース後部の形態に関して
ア 各構成部分の長さの比
本件登録意匠の表示部と本体の正面視における水平方向の長さの構成比は約1:1.9であり,本体を構成するケース部前部とケース部後部と端子部の同構成比は約1:2.6:1.9であり,表示部を構成するレンズ部と円筒部の同構成比は約1:0.9であり,ケース部後部の左側面視における縦横の長さの比(前記「2 請求の理由」における「ケース部後部の正面視における縦方向の長さと平面視における縦方向の長さの比」に相当)は約1:1.3である。さらに,レンズ部の正面視における水平方向と縦方向の長さの比は約1:2である。
他方,イ号意匠の各構成部分の長さの構成比は,上記の本件登録意匠の各構成部分の構成比と同じ順で記載すると,約1:1.3,約1:0.7:2,約1:0.9である。さらに,ケース部後部の縦横比及びレンズ部の水平方向と縦方向の長さの比は,それぞれ約1:1.3,約1:2である(甲第20号証)。
上記の構成比及び縦横比から,本件登録意匠とイ号意匠はケース部後部と他の構成部分の正面視における水平方向の長さの構成比のみ相違し,他の構成比及び縦横比については略等しいことが読み取れる。また,両意匠における表示部と本体の正面視における水平方向の長さの構成比の違いがケース部後部の相対的な長さが異なる故のものであることは明らかである。したがって,両意匠における各構成部分の外観形状の近似性を鑑みると,需要者が両意匠を比較した場合,ケース部後部の正面視における水平方向の相対的な長さのみが異なっているとの印象を受けると思われる。
イ ケース部後部の形態
本件登録意匠とイ号意匠におけるケース部後部の差異点は,「ケース部後部の正面視における水平方向の長さ(奥行き方向の長さ)は,本件登録意匠がイ号意匠よりも相対的に長い」という点である(前記2(5)イ(ア))。請求人は,前記「2 請求の理由」で,この差異点を意匠の類否判断においてどう評価すべきかについて公知意匠を挙げながら説明した。
これに対し,被請求人は,公知意匠として挙げた甲第5号証及び甲第6号証について,これらは「トランスなしにトランスを付加できるように最初からそのトランス付加機能を設けた形状デザインとしたものであって,トランスを付加できるよう接続部を設けており,外観は継ぎ合わせたそのままの形状を表している」ものであり,「それに対してケース部後部が長い本件意匠にはトランスなしのベースにトランスを付加した態様は表れておらず,一体の形状である」と述べ,このような公知意匠の例示は妥当ではないと評価している。また,甲第8号証ないし甲第11号証についても,「トランスなしと,トランスなしにトランスを付加したトランスありの態様」と認められ,同様に妥当ではないと評価している(後記第2の2(2)イ(ア)b)。
請求人は,甲第5号証ないし甲第6号証を,ある特定の表示灯メーカーが同一のシリーズの表示灯において,表示部及び本体の表示部寄りの部分の外観形状を共通にし,トランスの有りのものは奥行き方向に長くなるというデザインを採用していることを示す例示として挙げた。当該事例から,本件登録意匠の意匠登録出願前に,表示灯の機能(当該事例の場合はトランスの有無)に差異がある場合,表示部や本体の前部(表示部寄りの部分)の外観形状について統一性を持たせ,そのデザインの統一性を損なうことなく,本体の奥行き方向の長さを変えるという手法が採られていたことが把握できる。
次に,甲第8号証ないし甲第11号証は,表示部と端子部に挟まれた部分,即ち本件登録意匠及びイ号意匠のケース部に相当する部分について,短いものと長いものが特許庁審査で類似関係にあると認定されていることを示すために挙げたものである。当該各公知意匠(本意匠と類似意匠)では,ケース部に相当する一体に形成された構成部分が短いか長いかの相違を有し,他の構成部分の形態は共通している。
以上のことから,本件登録意匠の意匠登録出願前から,表示灯の機能の差異に基づいて,外観形態に統一性を持たせつつ,本体を奥行き方向に伸ばすという手法が表示灯の産業分野で存在していたことがわかり,加えて,他の構成部分の形態が共通し,ケース部に相当する一体に形成された構成部分の長短の差異のみを有する意匠が類似関係にあるとして意匠登録されていた事実も存在していたことがわかる。したがって,これらの事実から,本件登録意匠とイ号意匠のケース部後部の長短に係る形態の差異は,意匠的価値のある要素とはいえない。甲第5号証,甲第6号証,及び甲第8号証ないし甲第11号証に係る公知意匠は,ケース部後部の長短に係る形態の差異が両意匠の類否判断に軽微な影響しか与えないことを補強するものであると評価できる。
ウ ケース部後部の形態に関する小括
本件登録意匠とイ号意匠のケース部後部の外形は共にシンプルな倒直方体であり,外形における主な差異点は奥行き方向の長さである。両意匠のケース部後部を除く部分は物品全体における過半を占める上に複雑な形状を有しており,前記「2 請求の理由」で詳細に指摘したとおり,その複雑な形状の全体に亘り,両意匠の共通点が存在し,美感の共通性を生じさせている。よって,このケース部後部の長さの差異をもって,他の構成部分における共通点を凌駕するとはいえないと思料する。その上で公知意匠の存在も考慮すると,需要者は,当該共通点から両意匠の美感の共通性を見出し,両意匠を統一感のあるデザインを有する同一シリーズの表示灯におけるバリエーションの意匠である(そのバリエーションは,例えば,トランスの有無等,表示灯の機能に基づく形態の違いでもよい)と認識するおそれが十分にあると思料する。
(4)端子部の形態に関して
被請求人の主張によると,端子部の形態について,本件登録意匠とイ号意匠の間には,以下の違いがあると主張している。
被請求人は,本件登録意匠は「左右上下斜め位置に突出した端子台を相互に薄い板状体で中央でつなぎ,・・・正面視手前側の端子台の正面視形状は幅広長方形状の先端部下面を僅かに斜めに切り欠いた形状」であるのに対し,イ号意匠は「正面視側の端子台の正面視形状は上面を一段の下り階段状形状とし,下面を下面ほぼ中央から斜め上方に切欠き,後方を細くした形状としたもの」であり,イ号意匠では「2つの端子台の間に大きな隙間が形成されていることから,これら2つの端子台が完全に分離された状態で表れており,その分離された形状は美感面での大きな特徴となって表れている」と主張している(後記第2の2(2)イ(ア)b)。
しかしながら,前記「2 請求の理由」に記載のとおり,本件登録意匠の端子突起(被請求人が「端子台」と呼ぶ部分)は,平面視,底面視,左側面視及び斜視図の視点で観察し,総合的に把握した場合,相対するフィンを有する二本の略倒四角柱状の態様であると認識される。特に,左側面視では,対角線上の相対する位置に端子突起が各々設けられていることが明瞭に把握できる。両端子突起の中央部の間隙には両端子突起を繋ぐ薄片が設けられているが,あくまで対角線上の相対する位置に離れて存在する二本の端子突起があり,それらを単に繋いでいるように見え,当該薄片は相対するフィンを有する略倒四角柱状の端子突起が二本存在しているように見えるという視覚的印象を損なう程の要素ではない。
また,端子部の各構成部分の中で,需要者に含まれる工事業者がとりわけ注目する部分は,配線工事に関わる要素である端子挿入口の位置・形状・大きさ・端子の挿入方向,及び,ドライバ挿入口の位置・形状・大きさ・ドライバの挿入方向であるところ,前記「2 請求の理由」に記載のとおり,本件登録意匠とイ号意匠は,端子挿入口とその近接部分の形状及び位置が共通している。即ち,端子挿入口は,両意匠共に,その開口部が矩形であり,平面視及び底面視において端子突起の中央ややケース部寄りの位置でかつ相対するフィンの間の少し凹んだ位置に設けられている。さらに,端子突起の先端面の中央に丸穴(「ドライバ挿入口」に該当する)が設けられ内部にねじの頭部が見える点も両意匠で共通している。端子挿入口とその近接部分の態様及び端子突起の先端面の態様は,上記のとおり工事業者が注目する部分であり,その部分の態様が両意匠で共通することは,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといえる。
被請求人は,イ号意匠は端子台(端子突起)の正面視形状が上面を一段の下り階段状とし,下面を下面ほぼ中央から斜め上方に切欠き,後方を細くしたものであり,他方,本件登録意匠は端子台の正面視形状が幅広長方形状の先端部下面を僅かに斜めに切り欠いた形状に見えると述べるが,これらの態様の相違は,視点を限定した上での微細な相違にすぎず,他の視点も含めた総合的な観察により把握できる端子突起の主要な態様は共通している。換言すれば,対角線上に相対する位置に配置され,端子挿入口が設けられた面に相対するフィンが形成されている,二本の略倒四角柱状の態様が端子突起のデザインの基調であり,当該デザインの基調は両意匠で変わりはない。
以上のことから,本件登録意匠及びイ号意匠の端子部全体の形態の共通点についてまとめると(甲第21号証),端子突起の根元に位置し,ピラミッド状に重なっている,大中小の扁平な倒四角柱上の台からなる部分(即ち,「端子部の土台部分」)の態様が共通しており,二本の端子突起についても上記のとおりデザインの基調は変わらず,特に需要者が注目する部分,即ち,端子挿入口とその近接部分及びドライバ挿入口の位置及び形状は共通しているといえる。
(5)その他の形態に関して
ア レンズ部の形態
被請求人は,「レンズ部表面に内部の光拡散のカット模様が透過して模様を表した模様形状としたか否かの差異は,本件登録意匠とイ号意匠の類否を判断するうえで十分に考慮されるべき事項である」(後記第2の2(2)イ(ア)b)と主張している。
当該主張に関しては,前記「2 請求の理由」で述べたとおり,レンズ部の内面及び外面にこのようなカット模様を施す手法は,表示灯の分野で本件登録意匠の意匠登録出願前に既に常套的手法であったと考えられ,レンズ部の表面に表れる模様の有無は,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいと思料する。
イ ケース部前部のフィンの有無
被請求人は,イ号意匠のケース部前部には「それぞれ外側に突出したフィン状の略長方形状板を設けており,この点は,イ号意匠の表示灯を扱う際に,左右に突出したフィン状形状を撮むことにより撮み方も安定し,より容易に着脱が可能となるもので,たとえ形状が小さくてもフィンを設けたことによる機能的な効果は大である」(後記第2の2(2)イ(ア)b)と述べている。
しかしながら,着脱のために本体を撮む際は,本体の最も横幅が広く,かつ,撮める程度に表面積がある部分(ケース部後部)を撮むのが通常であるため,被請求人による,上記のフィンに機能的な効果があるという説明は理に適っていないと思われる。よって,イ号意匠が有する当該フィンは,意匠全体に占める面積が小さく,機能的な効果もない部分であるため,本件登録意匠とイ号意匠における類否判断に及ぼす影響は非常に小さいと思料する。
ウ イ号意匠のケース部後部背面の白い色彩
被請求人は,イ号意匠のケース部後部の「一面のみに表した白い色彩の有無に関する相違も類否判断へ与える影響は少なからずある」(後記第2の2(2)イ(ア)b)と主張している。
しかしながら,当該色彩はケース部後部の一つの面に単純な矩形状に着色されているにすぎず,何ら意匠的特徴を有していない。表示灯の品番を見やすくするための単なる背景色であると思われる。よって,当該白い色彩が両意匠の類否判断に及ぼす影響は取るに足らないものであると思料する。
(6)結び
本件登録意匠とイ号意匠は,上記のとおり,表示灯としての本質的な用途及び機能が同一であるため,物品同一であると認められる。
次に本件登録意匠とイ号意匠の形態を比較するに,レンズ部の外形形状は共通し,ストッパーを含むケース部前部の形態は,非常に軽微な差異点であるフィンの有無以外,共通している。円筒部及び締付ナットの形態については,表示灯の需要者は円筒部の表面及び締付ナットの内側面にねじ溝があると解釈すると思われ,その場合,両意匠の円筒部及び締付ナットの形態は共通しており,仮に需要者がねじ溝がないと解釈する場合でも,上記のとおり共通点が差異点を凌駕していると考える。端子部については,端子部の土台部分の態様が共通する上に端子突起の主要な態様(デザインの基調)が共通し,端子突起における需要者が注目する部分の態様も共通することから,共通点が差異点を凌駕しているといえる。加えて,レンズ部と円筒部の正面視における水平方向の長さに関する構成比,ケース部前部と端子部の正面視における水平方向の長さに関する構成比,ケース部後部の左側面視における縦横の長さの比及びレンズ部の正面視における縦横比については,上記のとおり,略同一である。よって,両意匠の略全体に亘って存在する共通点が,両意匠の類否判断において支配的であり,需要者に共通の美感を生じさせていると思料する。
また,本件登録意匠とイ号意匠のケース部後部の形態については,両意匠共に外形は直方体状であり,左側面視におけるケース部後部の縦横比は略同一である。差異点としてはケース部後部の平面と底面に設けられた矩形状の溝の位置・相対的な大きさ・数の差異,背面の白い彩色の有無,ケース部後部の正面視における水平方向の長さの差異が挙げられるが,矩形状の溝の位置等や白い彩色の有無の差異は軽微なものであり,長さの差異についても,上記の公知意匠の存在を考慮すると,両意匠の全体に亘る美感の共通性を損なう程のものではないと評価できる。
以上のことから,本件登録意匠とイ号意匠は類似し,イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

4 請求人が提出した証拠
請求人は,以下の甲第1号証ないし甲第22号証(全て写しであると認められる。)を,判定請求書及び判定請求弁駁書の添付書類として提出した。
甲第1号証 意匠登録第1136237号登録原簿謄本
甲第2号証 意匠登録第1136237号公報(訂正)
甲第3号証 イ号意匠の実施に係る製品(形式:形M22N-BG)が掲載されている被請求人ウェブサイト該当ページのプリントアウト及び当該製品が掲載されている新商品ニュース
甲第4号証 本件登録意匠の各構成部分の名称を示す参考正面図
甲第5号証 「富士コマンドスイッチ 30φ・25φシリーズ」カタログの抜粋写し:表紙,E1-48?51頁及び奥付(1984年9月発行,富士電機株式会社)
甲第6号証 「富士コマンドスイッチ 22φシリーズ」カタログの抜粋写し:表紙,E2-38,39頁,奥付(1984年10月発行,富士電機株式会社)
甲第7号証 「’96?’97 押ボタンスイッチ/サムロータリスイッチ総合カタログ」の抜粋写し:表紙,181頁及び奥付(1997年6月発行,オムロン株式会社)
甲第8号証 意匠登録第404111号とその類似1の意匠公報
甲第9号証 意匠登録第984622号とその類似1の意匠公報
甲第10号証 意匠登録第984623号とその類似1の意匠公報
甲第11号証 意匠登録第327804号とその類似1の意匠公報
甲第12号証 意匠登録第275515号公報
甲第13号証 意匠登録第744818号公報
甲第14号証 意匠登録第750394号公報
甲第15号証 「富士コマンドスイッチ 16φシリーズ 閉鎖形AH164形・防油形AH165形・AH165-2形」のカタログ抜粋写し:表紙,C2-16頁及び裏表紙(1989年8月発行,富士電機株式会社)
甲第16号証 「押ボタンスイッチ/サムロータリスイッチ総合カタログ 2000」の抜粋写し:表紙,23頁,41頁,100頁,403頁(奥付)及び裏表紙(1999年12月発行,オムロン株式会社)
甲第17号証 「富士16φコマンドスイッチAH165-2形シリーズ」富士汎用機器ニュース’87 No.43の抜粋写し:1頁,10頁及び奥付(1987年9月発行,富士電機株式会社)
甲第18号証 「Telemecanique XB2-E 控制及信号単元」のカタログ写し(1997年3月発行,Schneider Electric China)
甲第19号証 「タイコー 小形照光スイッチ K8シリーズ」のカタログ抜粋写し:表紙,2頁及び裏表紙(昭和59(1984)年9月発行,株式会社大興電機製作所)
甲第20号証 本件登録意匠とイ号意匠の各構成部分の比
甲第21号証 本件登録意匠とイ号意匠の端子部の対比
甲第22号証 「富士コマンドスイッチ 30φ・25φシリーズ」カタログの抜粋写し:表紙,E1-72頁,E1-76頁及び裏表紙(1984年9月発行,富士電機株式会社)


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点
1 答弁の趣旨
被請求人は,平成28年10月7日付けで判定請求答弁書を提出し,
「イ号意匠は,意匠登録第1136237号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないとの判定を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をし,その主張事実を立証するため,後記3に掲げた証拠を提出した。

2 答弁の理由
(1)両意匠の共通点及び相違点
ア 物品の異同
意匠に係る物品はともに表示灯である。しかし,本件意匠の表示灯とイ号意匠は,構成(特に,表示部の円筒部が“無ねじ円筒部”か“ねじ付き円筒部”の点)の違いから,取付方法が異なる別異の表示灯として分類されるものである。
イ 形態の異同
(ア)共通点
a 基本的構成態様
本件意匠とイ号意匠は,全体構成を表示部と本体で構成し,表示部をレンズ部と円筒部で構成し,本体がケース部(前部と後部)と端子部で構成した点で共通する。
b 具体的構成態様
本件意匠とイ号意匠は,各部分の構成比のうち表示部のレンズ部:円筒部の構成比を1:0.9とし,
(A′)レンズ部形状を低い円柱とドーム状形状を組み合わせて構成し,
(B′)表示部円筒部を概略円筒形状で構成し,
(C′)ケース前部形状は横倒略隅丸四角柱の左右に低い略直方体形状を突出させ,中央上部に円筒部嵌合用の嵌合用の爪形状を左右から抱えるように突出形状を形成し,
(D′)ケース後部形状を略横長直方体形状に形成し,
(E′)端子部は後方へ外周よりやや小さく低い横倒直方体形状の台部を形成し,その中央に低い横倒四角柱台部形状を形成した二段台形状を形成し,その左右上下斜め位置に突出した端子台を形成した点で共通する。
(イ)相違点
a 基本的構成態様
本件意匠は,円筒部を“無ねじ”円柱形状とし,無ねじ円筒部にリングを外装しているのに対し,イ号意匠は,円筒部を“ねじ付き円柱形状とし,ねじ付き円筒部に締め付けナットを外装している点で相違する。
b 具体的構成態様
本件意匠とイ号意匠は,具体的構成態様に関して,
各部分の構成比のうち,全体の概括構成である表示部:本体の構成比を本件意匠は1:1.9としたのに対して,イ号意匠は1:1.3とした点,
その各部を構成する本体のケース前部:ケース後部:端子部の構成比を本件意匠は1:2.6:1.9としたのに対して,イ号意匠は1:0.7:2とした点で相違する。
各部の形状に関して,
(A″)イ号意匠は,レンズ部表面に内部の光拡散のカット模様が透過して模様を表した模様形状が表れるのに対して,本件意匠にはそのような模様が表れていない点,
(B″)イ号意匠は円筒部(ねじ付き円筒部)に小さなねじ溝が一定の間隔をあけて形成されているのに対して,本件意匠はそのようなねじ溝が形成されていない点,
(C″)本件意匠は,ケース前部形状は横倒略隅丸四角柱の左右に低い略直方体形状を突出させただけに対して,イ号意匠は,その左右突出部上面にそれぞれ外側に突出したフィン状の略長方形状板(先端部を斜めに小さく切り欠いた形状)を設けた点,
(D″)イ号意匠はケース後部背面側の面に白い彩色が施されている点,
(E″)本件意匠の端子部は,左右上下斜め位置に突出した2つの端子台を相互に薄い板状体で連結しているのに対して,イ号意匠は2つの端子台を連結せずに両者の間に大きな隙間を形成しており,あたかも2つの端子台が2つの脚のごとく表れている。
本件意匠は,正面視手前側突出端子台の下部両側にフィン状形状を突出形成し,その先端部を僅かに斜めに切り欠いた形状,つまり,正面視手前側の端子台の正面視形状は幅広長方形状の先端部下面を僅かに斜めに切り欠いた形状としたものであるのに対して,イ号意匠は,正面視手前側突出端子台の上部に端子幅より細い直方体形状を設け,その端子長さの四分の三程に下部方向へ向けて両側にフィン状形状を突出形成し,その先端部を斜めに切欠き,その先は略四角柱形状が突出した点(2つの端子台のうち正面視奥側に表れる端子台は逆さまに表れる。),で相違する。
(2)類否判断
ア 物品
本件意匠とイ号意匠の物品は,共に表示灯と呼ばれるものであるが,構成(特に,表示部の円筒部が“無ねじ円筒部”か“ねじ付き円筒部”の点)の違いから,別異の表示灯として当業者に認識されるものである。
イ 形態
(ア)共通点と相違点
a 基本的構成態様
本件意匠とイ号意匠は,全体構成を表示部と本体で構成し,表示部をレンズ部と円筒部で構成し,本体がケース部(前部と後部)と端子部で構成した点で共通するが,この基本的構成態様については,従来の表示灯において採用されていた構成態様であって,両意匠のみに限って共通する態様とは言えない。
一方,表示部における円筒部にねじが有るか無いかは大きな違いであって,需要者に対して単に形態の相違を認識させるに止まらず,物品そのものの違いを認識させる大きな要素である。
b 具体的構成態様
各部分の構成比のうち表示部のレンズ部:円筒部の構成比は1:0.9で構成された点で本件意匠とイ号意匠は共通するが,それは部分的な部分での共通点であって,全体の概括構成である表示部対本体の構成比を本件意匠は1:1.9としたのに対してイ号意匠は1:1.3とし,本件意匠の本体は表示部の約2倍としたのに対してイ号意匠は表示部よりはやや長い程度のものであることから,本件意匠の本体に表示部を付けたものという感に対して,イ号意匠は全体がコンパクトな表示灯の感を呈している。
また,その各部を構成する本体のケース前部:ケース後部:端子部の構成比を本件意匠は1:2.6:1.9としたのに対して,イ号意匠は1:0.7:2としたことからケース後部の2.6と0.7の構成比の相違は約3.7倍もの相違であって,その相違は一見しても明らかであって,その相違がもたらす形態の相違は多大なものがあり,また,その形態の相違は異なる美感を創出するものであることから,類否判断に与える影響は大きいといわざるを得ないものである。
なお,請求人は,長さの相違について請求人は公知意匠を甲第5号証の「コマンドスイッチRCa470形,AH30形,AH25形」,甲第6号証の「コマンドスイッチAH22形」を例示し,「トランスを付加することにより表示灯の本体部に該当する部分が奥行き方向に長く伸びた形態となることは,本件意匠の出願前から表示灯の分野で普通に見られるものである」(前記2(5)イ(ア))と主張するが,トランスありとトランスなしを見ると,トランスなしにトランスを付加できるように最初からそのトランス付加機能を設けた形状デザインとしたものであって,トランスを付加できるよう接続部を設けており,外観は継ぎ合わせたそのままの形状を表している。それに対してケース後部が長い本件意匠にはトランスなしのベースにトランスを付加した態様は表れておらず,一体の形状であることからすればこのような例示によって主張することは妥当ではない。
また,請求人は,甲第8号証の「意匠登録第404111号とその類似1」,甲第9号証「意匠登録第984622号とその類似1」,甲第10号証の「意匠登録第984623号とその類似1」,甲第11号証の「意匠登録第327804号とその類似1」を例示して「奥行き方向の長さは異なるが,それ以外の態様が共通している或いは略共通している表示灯に係る意匠同士に関し,同一の美観の範囲に止まるとして類似すると認定された」(前記2(5)イ(ア))と主張するが,これらも上記例示の公知意匠と同様にトランスなしと,トランスなしにトランスを付加したトランスありの態様と認められ,上記公知資料と同様に根拠とすることはできないものである。
次に,各部の構成についてみると,
(A′,A″)レンズ部表面に内部の光拡散のカット模様が透過して模様を表した模様形状としたか否かの差異は,本件意匠とイ号意匠の類否を判断するうえで十分に考慮されるべき事項である。
(B′,B″)円筒部にねじ溝を形成したか否かは,ねじ溝が外観形状の相違として表れるだけでなく,本件意匠とイ号意匠の機能面の相違,さらには美感の相違として表れる。したがって,本件意匠の無ねじ円筒部とイ号意匠のねじ付き円筒部の違いは,本件意匠とイ号意匠の類否を判断する際に相当なウェイトをもって考慮されなければならない。
(C′,C″)本件意匠とイ号意匠は,ケース前部形状横倒略隅丸四角柱の左右に低い略直方体形状を突出させ,中央上部に円柱部嵌合用の爪形状を左右から抱えるように突出形状を形成した点は共通するが,イ号意匠のケース前部形状はその左右の低い突出略直方体形状の上面にそれぞれ外側に突出したフィン状の略長方形状板を設けており,この点は,イ号意匠の表示灯を扱う際に,左右に突出したフィン状形状を撮むことにより撮み方も安定し,より容易に着脱が可能となるもので,たとえ形状が小さくてもフィンを設けたことによる機能的な効果は大である。
(D′,D″)本件意匠のケース後部形状はイ号意匠の約3.7倍の長さとしたやや幅広の略横長直方体形状の単調な同色としたのに対して,イ号意匠は幅薄の略正方形状板体形状とし,さらに背面側の面に白い彩色を施し,全体の同色の中においてその色彩がポイントとして一つの特徴を形成していることから略正方形状板体形状とその約3.7(=2.6/0.7)倍もの長さの横長直方体形状の相違が類否判断に与える影響は多大なるものがあり,一面のみに表した白い色彩の有無に関する相違も類否判断へ与える影響は少なからずある。
(E′,E″)本件意匠の端子部は後方へ外周よりやや小さく低い横倒直方体形状の台部を形成し,その中央に低い横倒四角柱台部形状を形成した二段台形状を形成しており,この点ではイ号意匠も同様である。しかし,本件意匠は後方へ突出した端子台を,左右上下斜め位置に突出した端子台を相互に薄い板状体で中央でつなぎ,その正面視手前側突出端子台は直方体形状の下部両サイドにフィン状形状を突出形成し,その先端部を僅かに斜めに切り欠いた形状,つまり,正面視手前側の端子台の正面視形状は幅広長方形状の先端部下面を僅かに斜めに切り欠いた形状としたもの(他方の端子台は逆さまに表れる。)としたのに対して,イ号意匠は左右上下斜め位置に突出した端子台を別々に形成し,その正面視手前側突出端子台は直方体形状の上部に端子幅より細い直方体形状を設け,その端子長さの四分の三程に下部方向へ向けて両サイドにフィン状形状を突出形成し,その先端部を斜めに切欠きその先は略四角柱形状が突出した態様としたものである。つまり,正面視側の端子台の正面視形状は上面を一段の下り階段状形状とし,下面を下面ほぼ中央から斜め上方に切欠き,後方を細くした形状としたものである。(他方の端子台は逆さまに表れる。)
このように,イ号意匠では,2つの端子台の間に大きな隙間が形成されていることから,これら2つの端子台が完全に分離された状態で表れており,その分離された形状は美感面での大きな特徴となって表れている。
また,ケース後部と端子部の形態の違いは,本件意匠とイ号意匠の平面視に顕著に表れており,本件意匠では略正方形のケース後部の横にそれよりも長さの短い2つの端子台が互いに連結された状態(つまり,両端子台の間に隙間を作ることなく)で略四角形状に表れているのに対し,イ号意匠では幅の薄い(正方形とは程遠い)形状のケース後部に該ケース後部の幅よりも遥かに長い2つの端子台が互いに分離してあたかも二本の脚のように表れており,それらの形状やケース本体と端子台のバランスの違いは需要者をして両意匠がまったく異なるものであると印象づけるものである。
ウ 類否
(ア)物品の類否
本件意匠の表示灯とイ号意匠の表示灯は,呼び名こそ同じであるが,機能面(特に,パネルへの取付方法)で大きく相違しているため,需要者にとって別異の物品であると認識されるものである。つまり,本件意匠の表示灯とイ号意匠の表示灯は同一物品ではない。
(イ)形態の類否
本件意匠とイ号意匠は概括的構成形状において共通するが,イ号意匠において,
表示部におけるレンズ部に光拡散のカット模様が表れる点,
表示部における円筒部の外周にねじ溝を形成した点,
ケース後部が極めて薄く形成されている点,
端子部における2つの端子台を分離してそれらの間に隙間を形成するとともに各端子台の形状を先端に向かって階段状(段々)に細く形成した点は,いずれも本件意匠に無い独特な形状であり,それらの形状は本件意匠には無い特有の美感を創出するものであって,その美感は本件意匠とイ号意匠に共通する美感を遥かに凌駕するものである。
特に,本件意匠とイ号意匠におけるケース後部における大きさの違い,すなわち,本件意匠ではケース後部が本体の約半分を占めるのに対して,イ号意匠ではケース後部が本体の僅か約五分の一にすぎない点は,両意匠を比べたときに最も目立つ箇所の一つであり,両意匠を対比したときにそれらが非類似であると印象づける。
また,イ号意匠において,2つの端子台を分離して両者の間に形成された隙間の存在は,イ号意匠の独自形状を需要者に印象づける大きな要素であって,本件意匠とは違った美感を創出するものである。
以上,イ号意匠の表示灯は,本件意匠の表示灯と同じ名称で呼ばれるものであっても,本件意匠の表示灯とは機能的には全く違う物品で,同一物品とは到底認め難い。
また,イ号意匠に固有の形態は,本件意匠とイ号意匠の形態面における共通性を遥かに凌駕するものであって,結果として,イ号意匠と本件意匠とでは需要者に対して異なる美感を与えるものである。
よって,本件意匠とイ号意匠は非類似であって,イ号意匠は本件意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない。

3 被請求人が提出した証拠
被請求人は,以下の乙第1号証ないし乙第5号証(全て写しであると認められる。)を,判定請求答弁書の添付書類として提出した。
乙第1号証 意匠登録第1136237号公報
乙第2号証 イ号意匠の表示灯(M22N-BGの製品)を表す写真
乙第3号証 牛木理一「判例意匠権侵害」発明協会(平成5年)
641?647頁
乙第4号証 意願2000-033439号に対する
平成13年9月21日付拒絶理由通知書
乙第5号証 意匠登録第1136236号公報


第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1136237号)は,平成12年(2000年)11月24日に意匠登録出願され,平成14年(2002年)1月25日に意匠権の設定の登録がなされ,意匠登録出願の願書の記載によれば,本件登録意匠の意匠に係る物品は「表示灯」であり,本件登録意匠の形態は,願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたものである(請求人が提出した甲第2号証(別紙第1)参照。)。
本件登録意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。なお,本件登録意匠の各部の名称は,請求人が提出した甲第4号証(別紙第2参照)に記載された名称に基づく。
(1)基本的構成態様について
全体が,略倒円柱状の表示部と略倒四角柱状の本体部で構成されており,表示部がレンズ部と円筒部で構成され,本体部がケース部と端子部で構成されて,ケース部は,周面に凹凸のある前部(以下「ケース部前部」という。)と凹凸のない後部(以下「ケース部後部」という。)から成る。(以下,正面視右側を前側ともいい,正面視左側を後側ともいう。)
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)表示部の具体的態様について
ア 正面から見て,表示部横幅のレンズ部:円筒部の構成比が,約1:0.9である。
イ レンズ部について
レンズ部は全体が略半球状であり,後方から,略倒短円柱状の底部,前方に向けて径を狭める略倒円錐台形状の中間部,及び略球状面の頭頂部から成る。
ウ 円筒部について
円筒部は,レンズ部の最大径よりも径が小さく,表面に凹凸のない略円柱形状であって,前方にごく薄い拡径部が2層表されてレンズ部に近接し,後方に幅狭の縮径部が形成されてケース部前部の前端面との間に溝部が表されている。円筒部の上面中央及び下面中央には,平面視(又は底面視)略扁平コ字状の切り欠き部が形成されており,上面の切り欠き部内の後方に平面視縦長矩形状の孔部が表れている。
また,円筒部の中央やや前方寄りには,リング状の締付ナットが取り付けられており,その幅は円筒部の軸方向(正面から見た左右方向)の長さの約2/5であって,その径はレンズ部の最大径より若干小さい。締付ナットには,ほぼ同形同大の矩形状の凹み(切り欠き)が16個形成されており,前方側に1個,後方側に3個の順に周方向に繰り返されている。
(3)本体部の具体的態様について
ア 正面から見て,本体部横幅のケース部前部:ケース部後部:端子部の構成比が,約1:2.6:1.9である。
イ ケース部前部について
全体が略倒隅丸短四角柱であって,その正面及び背面の中央に,正面視(又は背面視)略正方形でやや突出した部分(以下「略正方形突出部」という。)が形成され,平面中央の右端部には,表示部を固定するためのストッパー部が形成されている。該ストッパー部は,下部が断面視略レ字状に先細り,上部がやや上方に突出して,その突出した部分の左側面視内側には横長矩形状の孔が形成されている。そして,ストッパー部上面の後側の角に近接して直角に並ぶように,斜視方向から見て倒略L字状(手前側)又はその鏡像(奥側)の前端面を有する一対の鉤状突起部が形成されており,鉤状突起部と平面中央部の間には溝部が形成されている。
ウ ケース部後部について
正面視(又は背面視)略正方形で,左側面視縦横比が約1:1.2の直方体形状である。平面及び底面の後端寄りに縦長スリット状の孔部が1つ形成され,該孔部には端子部から延びた係合片が内側から嵌合している。
エ 端子部について
端子部の前方寄りは,右から順に,ケース部後面に寸分違わず密着している板状部(以下「密着板状体」という。),それよりも径がやや小さい略倒扁平四角柱状の台部(以下「大型台部」という。),及び更に径が小さい略倒扁平四角柱状の台部(以下「小型台部」という。)が連設されている。左側面から見ると,密着板状体は略隅丸横長長方形であり,大型台部の外形は密着板状体の外形を一回り小さくした略相似形であり,小型台部の外形は(部分的に途切れた)略正方形であって,大型台部と小型台部の大きさの比(仮想後端面の面積比)が約9:1になっている。
大型台部の後方に,小型台部を挟むように,同形同大で向きが上下逆の2つの略直方体状端子台が上下斜め位置に設けられ,この2つの端子台は下端部と上端部が板状体で連結されており(以下,この板状体を「連結板状体」という。),左側面から見ると,2つの端子台が大型台部のやや内側で左上と右下に配置しており(以下,それぞれ「左上端子台」,「右下端子台」という。),連結板状体が両者の間に横長に表されており,その連結板状体と端子台の角部付近が小型台部の中央部と角部付近を覆っている。このため,小型台部は上下に分断されて,2つの略横長長方形状が斜めに並ぶように表されている。また,端子台の軸方向の長さ(大型台部に載った端子台の長さ)と大型台部の幅の比は,約2.5倍である。
左側面から見て,左上端子台の上部には左右両端にフィン状の突出部が形成されており,正面から見ると,そのフィン状突出部の上部右端が密着板状部のほぼ上端に接しており,フィン状突出部の上部左端が,左上端子台の左上角(大型台部から左方の左上端子台の約1/4の範囲)で斜めに切り欠かれている。
左上端子台の後端面は略正方形であって,その中央には円形孔部が形成され,その内側奥に端子ねじの頭部が表れている。左上端子台の上面には,中央やや前方寄りでフィンに挟まれた矩形状の端子挿入部が形成されており,その端子挿入部から端子ねじの側部が表れている。
(4)表示部と本体部の構成比について
正面から見て,表示部:本体部の横幅構成比が,約1:1.8である。

2 イ号意匠
請求人は,イ号意匠の形態を特定するにあたり,判定請求書の添付として書類「イ号意匠の写真及び説明」(別紙第3参照)を提出した。同書類及び請求人による前記第1の2(3)の説明によれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「表示灯」であり,イ号意匠の形態は,同書類に現されたとおりであって,基本的構成態様として,以下の点が認められる。なお,イ号意匠の各部の名称は,同書類の最終頁に記載された名称に基づく。
(1)基本的構成態様について
全体が,略倒円柱状の表示部と略倒四角柱状の本体部で構成されており,表示部がレンズ部と円筒部で構成され,本体部がケース部と端子部で構成されて,ケース部は,周面に凹凸のある前部(以下「ケース部前部」という。)と凹凸のない後部(以下「ケース部後部」という。)から成る。(以下,正面視右側を前側ともいい,正面視左側を後側ともいう。)
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)表示部の具体的態様について
ア 正面から見て,表示部横幅のレンズ部:円筒部の構成比が,約1:1である。
イ レンズ部について
レンズ部は全体が略半球状であり,後方から,略倒短円柱状の底部,前方に向けて径を狭める略倒円錐台形状の中間部,及び略球状面の頭頂部から成る。また,レンズ部は,全体が透光性を有して緑色で表されており,正面視底部では,内側の周方向の溝部(ねじ溝と推認される。)が複数透けて表されている。そして,中間部には放射線状の多数の縞模様が表されて,頭頂部には同心円状の複数の縞模様が表されている。
ウ 円筒部について
円筒部は,レンズ部の最大径よりも径が小さく,前方にごく薄い拡径部が2層表されてレンズ部に近接し,後方に幅狭の縮径部が形成されて平面視及び底面視においてケース部前部の前端面との間に溝部が表されており,それ以外の表面にねじ溝が周方向に複数形成されている。円筒部の上面中央及び下面中央には,ねじ山の無い部分が横長矩形状に形成されており,上面の横長矩形状部の前方寄り及び後方寄りに平面視縦長矩形状の孔部が有ると推認される。
また,円筒部の中央やや前方寄りには,リング状の締付ナットが取り付けられており,その幅は円筒部の軸方向の長さの約2/5であって,その径はレンズ部の最大径より若干小さい。締付ナットには,ほぼ同形同大の矩形状の凹み(切り欠き)が16個形成されており,前方側に1個,後方側に3個の順に周方向に繰り返されている。
そして,円筒部のねじ溝は,締付ナットより前方に3列,後方に3列形成されており,ねじ山の先端形状は略先尖り状である。
(3)本体部の具体的態様について
ア 正面から見て,本体部横幅のケース部前部:ケース部後部:端子部の構成比が,約1:0.7:2.1である。
イ ケース部前部について
全体が略倒隅丸短四角柱であって,その正面及び背面の中央に,正面視(又は背面視)略正方形でやや突出した部分(以下「略正方形突出部」という。)が形成され,平面中央の右端部には,表示部を固定するためのストッパー部が形成されている。該ストッパー部は,下部の前面が斜めに切り欠かれて先細り,上部がやや上方に突出して,その突出した部分には斜視方向から見て横長矩形状の穴が形成されている。そして,ストッパー部上面の後側の角に近接して直角に並ぶように,斜視方向から見て倒略L字状(手前側)又はその鏡像(奥側)の前端面を有する一対の鉤状突起部が形成されており,鉤状突起部と平面中央部の間には溝部が形成されている。
また,正面及び背面の上部には,外側に突出した水平板状のフィンが設けられており,フィンの前方角部が斜めに切り欠かれている。
さらに,ケース部前部の底面は,周方向に略弧状面状に表されており,上記書類の【斜視図2】にその弧状面が明瞭に現されている。
ウ ケース部後部について
正面視(又は背面視)縦横比が約7:2の縦長長方形状で,左側面視縦横比が約1:1.3である直方体形状である。平面及び底面の上寄りと下寄りに縦長スリット状の孔部が1つずつ形成され,該孔部には端子部から延びた係合片が内側から嵌合していると推認される。
エ 端子部について
端子部の前方寄りは,右から順に,ケース部後面に寸分違わず密着している板状部(以下「密着板状体」という。),それよりも径がやや小さい略倒扁平四角柱状の台部(以下「大型台部」という。),及び更に径が小さい略倒扁平四角柱状の台部(以下「小型台部」という。)が連設されている。左側面から見ると,密着板状体は略隅丸横長長方形であり,大型台部の外形は密着板状体の外形を一回り小さくした略相似形であり,小型台部の外形は(部分的に途切れた)略正方形であって,大型台部と小型台部の大きさの比(仮想後端面の面積比)が約8:1になっている。
大型台部の後方に,小型台部を挟むように,同形同大で向きが上下逆の2つの略直方体状端子台が上下斜め位置に設けられ,左側面から見ると,2つの端子台が大型台部の左上やや下と右下やや上に配置しており(以下,それぞれ「左上端子台」,「右下端子台」という。),端子台の角部付近が小型台部の角部付近を覆っている。また,端子台の軸方向の長さ(大型台部に載った端子台の長さ)と大型台部の幅の比は,約3倍である。
左側面から見て,左上端子台の上部には左右両端にフィン状の突出部が形成されており,正面から見ると,そのフィン状突出部の上部右端が密着板状部のほぼ上端に接しており,フィン状突出部の上部が,大型台部から左方の左上端子台のほぼ中央位置から傾斜して縦幅が漸次小さくなり,左上端子台の約2/3の位置でフィン状突出部が途切れている。
左上端子台の後端面は略横長長方形であって,その中央には円形孔部が形成され,その内側奥に端子ねじの頭部が表れている。左上端子台の上面には,中央やや前方寄りでフィンに挟まれた矩形状の端子挿入部が形成されており,その端子挿入部から端子ねじの側部が表れている。
また,左上端子台の下面には,略扁平直方体状の張り出し部が形成されており,上記書類【背面図】及び【左側面図】によれば,該張り出し部の長さ(背面図における左右方向)は大型台部に載った端子台の長さの約3/5であって,横幅(左側面図における左右方向)も端子台の横幅の約3/5であり,同【斜視図2】には張り出し部の存在によって端子台が段状に表されている。そして,右下端子台の上面にも同様の張り出し部が設けられている。
(4)表示部と本体部の構成比について
正面から見て,表示部:本体部の横幅構成比が,約1:1.3である。
(5)色彩とパネル部について
本体部,締付ナット,及び円筒部拡径部の一部(後方の層)が暗調子に表され,縮径部を含む円筒部が明調子に表されている。また,ケース部後部の正面及び背面には,ほぼ一杯にパネル部が嵌め込まれており,背面側のパネル部は明調子に表されている。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「表示灯」であり,イ号意匠の意匠に係る物品も「表示灯」である。
(2)形態の共通点
本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)の形態には,以下の共通点が認められる。
(A)基本的構成態様の共通点
全体が,略倒円柱状の表示部と略倒四角柱状の本体部で構成されており,表示部がレンズ部と円筒部で構成され,本体部がケース部と端子部で構成されて,ケース部は,周面に凹凸のある前部(以下「ケース部前部」という。)と凹凸のない後部(以下「ケース部後部」という。)から成る。
(B)表示部についての共通点
(B-1)レンズ部と円筒部の構成比
正面から見た表示部横幅のレンズ部:円筒部の構成比は,本件登録意匠では約1:0.9であり,イ号意匠では約1:1であるから,ほぼ共通している。
(B-2)レンズ部についての共通点
レンズ部は全体が略半球状であり,後方から,略倒短円柱状の底部,前方に向けて径を狭める略倒円錐台形状の中間部,及び略球状面の頭頂部から成る。
(B-3)円筒部についての共通点
円筒部は,レンズ部の最大径よりも径が小さく,前方にごく薄い拡径部が2層表されてレンズ部に近接し,後方に幅狭の縮径部が形成されてケース部前部の前端面との間に部分的に溝部が表されている。円筒部の上面の後端寄りに平面視縦長矩形状の孔部が有る。
また,円筒部の中央やや前方寄りには,リング状の締付ナットが取り付けられており,その幅は円筒部の軸方向の長さの約2/5であって,その径はレンズ部の最大径より若干小さい。締付ナットには,ほぼ同形同大の矩形状の凹みが16個形成されており,前方側に1個,後方側に3個の順に周方向に繰り返されている。
(C)本体部についての共通点
(C-1)ケース部前部についての共通点
全体が略倒隅丸短四角柱であって,その正面及び背面の中央に略正方形突出部が形成され,平面中央の右端部には,表示部を固定するためのストッパー部が形成されている。該ストッパー部は,下部が先細り,上部がやや上方に突出して,その突出した部分には横長矩形状の孔(又は穴)が形成されている。そして,ストッパー部上面の後側の角に近接して直角に並ぶように,斜視方向から見て倒略L字状(手前側)又はその鏡像(奥側)の前端面を有する一対の鉤状突起部が形成されており,鉤状突起部と平面中央部の間には溝部が形成されている。
(C-2)ケース部後部についての共通点
左側面視縦横比が約1:1.2(又は1.3)の直方体形状であって,平面及び底面に縦長スリット状の孔部が形成され,該孔部には端子部から延びた係合片が内側から嵌合している。
(C-3)端子部についての共通点
端子部の前方寄りは,右から順に,密着板状体,それよりも径がやや小さい大型台部,及び更に径が小さい小型台部が連設されている。左側面から見ると,密着板状体は略隅丸横長長方形であり,大型台部の外形は密着板状体の外形を一回り小さくした略相似形であり,小型台部の外形は(部分的に途切れた)略正方形である。
大型台部の後方に,小型台部を挟むように,同形同大で向きが上下逆の2つの略直方体状端子台が上下斜め位置に設けられ,左側面から見ると,2つの端子台が大型台部の左上と右下に配置しており,端子台の角部付近が小型台部の角部付近を覆っている。端子台の軸方向の長さは,大型台部の幅の2.5倍以上である。
左側面から見て,左上端子台の上部には左右両端にフィン状の突出部が形成されており,正面から見ると,そのフィン状突出部の上部右端が密着板状部のほぼ上端に接している。
左上端子台の後端面中央には円形孔部が形成され,その内側奥に端子ねじの頭部が表れている。左上端子台の上面には,中央やや前方寄りでフィンに挟まれた矩形状の端子挿入部が形成されており,その端子挿入部から端子ねじの側部が表れている。
(3)形態の差異点
一方,両意匠の具体的態様には,主として以下の差異点が認められる。
(a)表示部についての差異点
(a-1)レンズ部についての差異点
イ号意匠では,レンズ部全体が透光性を有して緑色で表されており,正面視底部では内側の周方向の溝部が複数透けて表され,中間部には放射線状の多数の縞模様が表されて,頭頂部には同心円状の複数の縞模様が表されている。これに対して,本件登録意匠のレンズ部には色彩は表されておらず,透けて表される溝部や縞模様は表されていない。
(a-2)円筒部についての差異点
イ号意匠の円筒部の表面には,拡径部と縮径部を除いて,ねじ溝が周方向に複数形成されているが,本件登録意匠にはねじ溝は表されていない。そして,イ号意匠のねじ溝は,締付ナットより前方に3列,後方に3列形成されており,ねじ山の先端形状は略先尖り状である。
(b)本体部についての差異点
(b-1)ケース部前部:ケース部後部:端子部の構成比
正面から見た表示部横幅のケース部前部:ケース部後部:端子部の構成比は,本件登録意匠では約1:2.6:1.9であるが,イ号意匠では約1:0.7:2.1である。
(b-2)ケース部前部についての差異点
イ号意匠の正面及び背面の上部には,外側に突出した水平板状のフィンが設けられており,フィンの前方角部が斜めに切り欠かれているが,本件登録意匠にはそのようなフィンは設けられていない。
また,イ号意匠のケース部前部の底面は,周方向に略弧状面状に表されているが,本件登録意匠では,願書及び願書に添付された図面に記載の限りでは,ケース部前部の底面が略弧状であるかは不明である。
(b-3)ケース部後部についての差異点
本件登録意匠のケース部後部の正面視(又は背面視)形状は略正方形であるが,イ号意匠のその形状は縦横比が約7:2の縦長長方形状である。
また,平面及び底面に形成された縦長スリット状の孔部について,本件登録意匠では後端寄りに1つ形成されているが,イ号意匠では上寄りと下寄りに1つずつ形成されている。
(c)端子部についての差異点
(c-1)連結板状体の有無と周囲の態様
本件登録意匠では,左上端子台の下端部と右下端子台の上端部を繋ぐ連結板状体が有り,左側面から見ると,連結板状体が両端子台の間に横長に表されており,その連結板状体が小型台部の中央部を覆っている。このため,小型台部は上下に分断されて,2つの略横長長方形状が斜めに並ぶように表されている。これに対して,イ号意匠では,そのような連結板状体は無く,小型台部は分断されていない。
(c-2)フィン状突出部の態様
本件登録意匠では,正面から見たフィン状突出部の上部左端が,左上端子台の左上角(大型台部から左方の左上端子台の約1/4の範囲)で斜めに切り欠かれている。これに対して,イ号意匠では,フィン状突出部の上部が,大型台部から左方の左上端子台のほぼ中央位置から傾斜して縦幅が漸次小さくなり,左上端子台の約2/3の位置でフィン状突出部が途切れている。
(c-3)張り出し部の有無
イ号意匠の端子台の下面(又は上面)には,略扁平直方体状の張り出し部が形成されており,該張り出し部の長さ(背面図における左右方向)は大型台部に載った端子台の長さの約3/5であって,横幅(左側面図における左右方向)も端子台の横幅の約3/5であり,張り出し部の存在によって端子台が段状に表されている。これに対して,本件登録意匠にはそのような張り出し部は端子台に形成されていない。
(c-4)左上端子台の後端面形状
本件登録意匠の左上端子台の後端面は略正方形であるが,イ号意匠のそれは略横長長方形である。
(c-5)端子台の長さと大型台部の幅の比
端子台の軸方向の長さと大型台部の幅の比は,本件登録意匠では約2.5倍であり,イ号意匠では約3倍である。
(d)表示部と本体部の構成比についての差異点
正面から見た表示部:本体部の横幅構成比は,本件登録意匠では約1:1.8であるが,イ号意匠では約1:1.3である。
(e)色彩とパネル部の有無についての差異点
イ号意匠では,本体部,締付ナット,及び円筒部拡径部の一部(後方の層)が暗調子に表され,縮径部を含む円筒部が明調子に表されて,ケース部後部の正面及び背面にパネル部が嵌め込まれて,背面側のパネル部が明調子に表されている。これに対して,本件登録意匠には,暗調子と明調子の区分けはなく,パネル部も存在しない。

4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
(1)表示灯の物品分野の意匠の類否判断
表示灯を使用するに当たり,表示灯の需要者は表示灯をパネル等に取り付けて使用することとなり,全体観察により締付ナットを含む表示部や端子部の具体的態様を含む本体部の各部の形態に注意を払うこととなる。したがって,表示灯の物品分野の意匠の類否判断においては,各部の形態を詳細に評価し,各評価を総合して意匠全体として形態を評価する。
(2)意匠に係る物品
前記3(1)で認定したとおり,両意匠の意匠に係る物品は共に「表示灯」であるので,両意匠の意匠に係る物品は同一である
(3)形態の共通点の評価
ア 基本的構成態様の共通点(A)の評価
本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様の共通点(A)のうち,「全体が,略倒円柱状の表示部と略倒四角柱状の本体部で構成されており,表示部がレンズ部と円筒部で構成され,本体部がケース部と端子部で構成されている」態様については,表示灯の物品分野において本件登録意匠の出願前に広く知られている(例えば,公開実用昭和55-126612の第3図に表された「表示灯」の意匠(参考意匠1)。別紙第4参照)から,両意匠にのみ見られる特徴とはいえず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。また,ケース部が周面に凹凸のあるケース部前部と凹凸のないケース部後部から成る共通点についても,ケース部を概括的に捉えた共通点であって上述したように需要者が各部の形態に注意を払うこと,及びトランス(ケース後部に相当)と表示部の間に凹凸のあるケース部前部を設けた表示灯が表示灯の物品分野において本件登録意匠の出願前に広く知られている(例えば,上記参考意匠1では,ケース部前部の表示部寄りに拡径部が形成されている。)ことから,共通点(A)が類否判断に及ぼす影響は大きいとはいえない。
イ 表示部についての共通点(B)の評価
表示部についての共通点(B)のうち,レンズ部の全体が略半球状である点は,表示灯の物品分野において本件登録意匠の出願前に広く知られている(例えば,上記参考意匠1。)ことから,需要者が特段注意を惹くとはいい難く,レンズ部が略倒短円柱状の底部,前方に向けて径を狭める略倒円錐台形状の中間部,及び略球状面の頭頂部から成る点についても,それらが略半球状の形状を構成するものであって,ありふれた略半球状の形状を超えて需要者に特異な美感を呈するほどのものということはできない。そして,レンズ部に近接した前方のごく薄い拡径部や,後方の幅狭の縮径部,及び円筒部上面の後端寄りに有る平面視縦長矩形状の孔部については,いずれも意匠全体に占める面積が極めて小さく,需要者の注意を惹くものではないので,これらの存在が両意匠の共通点に及ぼす影響は小さい。
また,正面から見た表示部横幅のレンズ部:円筒部の構成比が約1:0.9(又は1)とほぼ共通している点も,表示灯の物品分野においては円筒部よりも表示部の割合が大きいもの(例えば,上記参考意匠1。)や,表示部よりも円筒部の割合が大きいもの(例えば,意匠登録第438279号の意匠(参考意匠2)。別紙第5参照。)が本件登録意匠の出願前に広く知られているから,両者の構成比が約1:1である点に需要者が殊更着目するとはいい難く,レンズ部:円筒部の構成比に係る共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
さらに,両意匠の締付ナットの態様に係る共通点のうち,幅が円筒部の軸方向の長さの約2/5であって径がレンズ部の最大径より若干小さい点も,表示灯の物品分野においては本件登録意匠の出願前に締付ナットの幅や径に様々なものがあるから,需要者はその点について特に注目するとはいい難く,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
他方,締付ナットにほぼ同形同大の矩形状の凹みが16個形成されて,前方側に1個,後方側に3個の順に周方向に繰り返されている点は,他の表示灯の意匠には見られない両意匠の特有の共通点であって,需要者が着目するというべきであるから,この締付ナットの凹みに係る共通点は,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすということができる。
ウ 本体部についての共通点(C)の評価
ケース部前部についての共通点として,平面中央の右端部に表示部を固定するためのストッパー部が形成されて,その下部が先細って上部がやや上方に突出して横長矩形状の孔(又は穴)が形成されている点,及びそのストッパー部上面の後側の角に近接して直角に並ぶように倒略L字状又はその鏡像の前端面を有する一対の鉤状突起部が形成されている点は,他の表示灯の意匠には見られない両意匠の特有の共通点であって,このストッパー部と鉤状突起部に係る共通点は,需要者が注目するというべきであるから,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすということができる。しかし,ケース部前部の全体が略倒隅丸短四角柱である点は,四角柱状のケース部を有する表示灯の意匠がありふれていることから需要者が着目するとはいえず,また,鉤状突起部と平面中央部の間に溝部が形成されている点も,その溝が意匠全体に占める面積が小さいので需要者が着目するとはいい難いので,いずれの点も両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
また,ケース部後部についての共通点,すなわち,左側面視縦横比が約1:1.2(又は1.3)の直方体形状であって,平面及び底面に縦長スリット状の孔部が形成され,該孔部には端子部から延びた係合片が内側から嵌合している共通点は,直方体が左側面視約1:1.2程度である点は表示灯の物品分野においては特異な構成ではなく,内側から嵌合される孔部の存在も表示灯の物品分野においては特異な態様ではないので,この共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に,端子部の共通点について,端子部の前方寄りが密着板状体及び大型台部が連設されている点,及び同形同大で向きが上下逆の2つの端子台が左側面視上下斜め位置に配置している点は,密着板状体や大型台部の存在が目立つものではなく,同形同大で向きが上下逆の2つの端子台を有する意匠が表示灯の物品分野において本件登録意匠の出願前に広く知られている(例えば,上述の参考意匠2(別紙第5参照)。)から,需要者が特に着目するとはいえず,両意匠の類否判断に与える影響は少ない。そして,端子台にフィン状の突出部を形成すること,そのフィン状突出部の上部をケース部の端に接合すること,及び端子台の内側奥に端子ねじの頭部を表すことも表示灯の物品分野においてはありふれた態様である(例えば,上述の参考意匠1(別紙第4参照)。)から,これらの態様に需要者が特に着目するとはいえず,これらの態様に係る共通点が両意匠の類否判断に与える影響は少ない。
他方,大型台部の外方に設けられた小型台部の存在と,端子台が略直方体状であってその小型台部を挟むように大型台部の後方に設けられている点は,小型台部の左側面視外形が略正方形であること,端子台の角部付近が小型台部の角部付近を覆っていること,及び端子台の軸方向の長さが大型台部の幅の2.5倍以上であることとあいまって,需要者の注意を惹くというべきであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。そして,端子台の上面(又は下面)に,中央やや前方寄りでフィンに挟まれた矩形状の端子挿入部が形成されて,その端子挿入部から端子ねじの側部が表れている点も,需要者の注意を惹くから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
(4)形態の差異点の評価
ア 表示部についての差異点(a)の評価
まず,表示部の差異点(a)については,以下のとおり,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすといわざるを得ない。
イ号意匠はレンズ部全体が透光性を有しており,かつ緑色で表されているのに対して,本件登録意匠のレンズ部には色彩は表されておらず,透けて表される溝部や縞模様は表されていないので,両意匠のレンズ部は需要者に異なる印象を与えているというべきであるから,差異点(a-1)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
また,イ号意匠の円筒部の表面にはねじ溝が周方向に複数形成されているが,本件登録意匠にはねじ溝は表されていない差異については,イ号意匠においてはねじ溝のピッチ幅と先端形状が具体的に表されているところ,本件登録意匠の円筒部においては,仮にねじ溝が付与されるにしても,そのピッチ幅と先端形状などは依然不明なままであり,ねじ溝が具体的であるイ号意匠と不明である本件登録意匠の差異,すなわち差異点(a-2)は,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすといわざるを得ない。
イ 構成比についての差異点の評価
次に,本体部における構成比と,本体部と表示部の構成比についての差異は,以下のとおり,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすといわざるを得ない。
正面から見て,表示部横幅のケース部前部:ケース部後部:端子部の構成比が約1:2.6:1.9(本件登録意匠)であるか,約1:0.7:2.1(イ号意匠)であるかの差異,及び表示部:本体部の横幅構成比が約1:1.8(本件登録意匠)であるか,約1:1.3(イ号意匠)であるかの差異は,詰まるところケース部後部の軸方向の長さの差異(差異点b-3で述べた正面視縦横比の差異)に起因するものであり,この長さの差異は,一見して把握できる両意匠の差異であるから,看者に異なる印象を与えるものであるというべきであり,差異点(b-1),差異点(b-3)及び差異点(d)が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
このケース部後部の軸方向の長さの差異について,請求人は,甲第5号証ないし甲第7号証に掲げられた意匠を提示して,「トランスを付加することにより表示灯の本体部に該当する部分が奥行き方向に長く伸びた形態となることは,本件登録意匠の出願前から表示灯の分野で普通に見られるものである」と主張するが,これらの意匠では,略倒四角柱状のトランスが軸方向の最後部に付加的に足されたものであり,両意匠のようにケース部後部から更に後方に略直方体状の端子台が備わったものではなく,これらの意匠を両意匠と単純に比較することができないので,請求人の主張を採用することはできない。また,請求人は,甲第8号証ないし甲第9号証の意匠登録の事例を示して,「奥行き方向の長さは異なるが,それ以外の態様が共通している或いは略共通している表示灯に係る意匠同士に関し,同一の美観の範囲に止まるとして類似すると認定された」と主張するが,これらの本意匠-類似意匠は,ケース部の後方に端子台が備わったものではあるものの,本意匠の端子台と類似意匠の端子台の形態は大きく異なっておらず,後述する両意匠の端子台のような差異点を有していないため,これらの本意匠-類似意匠も両意匠と単純に比較することができないので,同様に請求人の主張を採用することはできない。
ウ ケース部前部についての差異点の評価
イ号意匠では,正面及び背面の上部に外側に突出した水平板状のフィンが設けられており,ケース部前部の底面が周方向に略弧状面状に表されているが,本件登録意匠にはそのようなフィンが設けられておらず,ケース部前部の底面が略弧状であるかが不明である差異は,表示灯を全体観察する需要者が容易に気付く差異であるというべきであり,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼす。
一方,上記認定したケース部前部についての共通点も,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすことから,ケース部前部については共通点と差異点が同程度に認められるので,ケース部前部の共通点と差異点のいずれか一方が両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということはできない。(以降の評価においては,このケース部前部についての共通点と差異点のどちらも採り上げない。)
エ 端子部についての差異点の評価
そして,端子部の差異点については,総じて以下のとおり両意匠の類否判断に大きな影響を与えるといわざるを得ない。
本件登録意匠では,連結板状体の存在によって,左上端子台と右下端子台とが一体になっており,平面視において両端子台が繋がったような美感を需要者に与えることとなる。そして,左側面から見ても,その連結板状体の存在によって両端子台が連携し合い,両端子台の間に有る小型台部を分断して小型台部を目立たなくするようになっている。このような左上端子台と右下端子台とが一体になった印象は,正面から見て端子台の角が小さく切り欠かれた態様,及び端子台に張り出し部が形成されていない態様とあいまって,次のイ号意匠の視覚的印象と大きく異なるものとなっている。
イ号意匠では,連結板状体は存在せず,それ故平面方向や斜視方向から左上端子台と右下端子台を見ると,両端子台の間に大きな隙間が形成されて,両端子台が独立した存在であるような美感を需要者に与えることとなっている。そして,フィン状突出部の上部が端子台のほぼ中央位置から傾斜して後端寄りも前でフィン状突出部が途切れている点と,張り出し部の存在によって端子台が段状に表されている点は,端子台が後方にいくにつれて先細り状になる印象を生み出し,両端子台が独立した存在であるような美感を増長させることとなっている。この美感は本件登録意匠の端子台が需要者に与える美感とは大きく異なっているので,端子部についての差異点(c-1)ないし(c-3)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいというほかない。
請求人は,この連結板状体について,「両端子突起を繋ぐ薄片の有無についても,当該薄片の端子部全体に占める面積が小さいため,軽微な差異といえる」と主張するが,左側面から見て連結板状体は薄片ではなく,両端子台の間に有る小型台部を目立たなくするものであって,小型台部が略正方形の形をとどめて左上と右下の端子台と3つの矩形が連鎖したようなイ号意匠とは異なる印象を与えること,及び上述のとおり両端子台が独立した存在であるような美感を需要者に与えていることから,請求人の主張を採用することはできない。
他方,左上端子台の後端面が略正方形(本件登録意匠)であるか,略横長長方形(イ号意匠)であるかの差異,及び端子台の長さと大型台部の幅の比が約2.5倍(本件登録意匠)であるか,約3倍(イ号意匠)であるかの差異は,いずれも微差であって需要者が注目する差異ではないので,差異点(c-4)及び差異点(c-5)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
エ その他の差異点の評価
本件登録意匠では暗調子と明調子の区分けがなく,パネル部も存在しないが,イ号意匠では,円筒部のみが明調子に表され,ケース部後部の正面及び背面にパネル部が嵌め込まれて,背面側のパネル部が明調子に表されている点については,円筒部のみを明調子にすることが両意匠を別異の印象のものとするというには及ばず,また,表示灯などの電子機器の物品分野においてケース部にパネル部を有することもありふれた態様であるというべきであって需要者が殊更パネル部に注目するとはいい難いので,色彩とパネル部の有無についての差異点(e)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(5)総合判断
両意匠の形態の共通点については,締付ナットの凹みに係る共通点,略直方体状の端子台が小型台部を挟むように大型台部の後方に設けられている点,及び端子台の上面(又は下面)に矩形状の端子挿入部が形成されて端子ねじの側部が表れている点は,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものの,その余の共通点は,基本的構成態様の共通点も含めて総じて両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいということができる
これに対して,両意匠の形態の差異点については,総じて両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく,特に,ねじ溝が具体的であるイ号意匠と不明である本件登録意匠の差異,本体部における構成比と本体部と表示部の構成比についての差異,及び左上端子台と右下端子台とが一体になった本件登録意匠と両端子台が独立した存在であるようなイ号意匠の差異は,需要者に与える両意匠の美感を異にするものであって,両意匠の形態の共通点と差異点を総合して比較衡量すると,差異点が共通点を圧しているというほかない。
(6)小括
したがって,これらの共通点と差異点を総合して判断すれば,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品は同一であるが,形態については,共通点が類否判断に与える影響よりも,差異点が類否判断に及ぼす影響の方が総じて大きく,意匠全体として見ると,差異点は両意匠を別異なものと印象付けるから,両意匠は類似するとはいえない。


第4 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2017-01-16 
出願番号 意願2000-33439(D2000-33439) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (H1)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 橘 崇生 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
渡邉 久美
登録日 2002-01-25 
登録番号 意匠登録第1136237号(D1136237) 
代理人 桶野 育司 
代理人 山田 卓二 
代理人 日比野 香 
代理人 桶野 清香 
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