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審決分類 審判    H1
審判    H1
管理番号 1325933 
審判番号 無効2016-880007
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-04-21 
確定日 2017-03-08 
意匠に係る物品 発光ダイオード照明器具 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1498005号「発光ダイオード照明器具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1498005の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,原出願である特許出願(特願2006-285720号,出願日:平成18年10月20日)から分割を重ねて直近の原出願(特願2014-15372号)となり平成26年(2014年)2月28日に意匠登録出願(意願2014-4313(以下,本件登録出願という。))に出願変更されたものであって(以下(1)に手続経緯記載。),審査を経て同年4月18日に意匠権の設定の登録がなされ,同年5月26日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下(2)の手続を経たものである。

1 本件登録出願及び本件審判請求の手続経緯
(1)本件登録出願及び特願2014-015372号の出願の分割及び変更の手続経緯
本件登録出願及び特願2014-015372号の出願の分割及び変更の手続経緯は,以下のとおりである。
・特許出願 (特願2006-285720号) 平成18年10月20日
出願の分割による新出願(特願2006-285769号) 平成18年10月20日
出願の分割による新出願(特願2012-235288号) 平成24年10月25日
出願の分割による新出願(特願2013- 47739号) 平成25年 3月11日
出願の分割による新出願(特願2014- 15372号) 平成26年 1月30日
出願の変更による新出願(意願2014- 4313号) 平成26年 2月28日
(2)本件審判請求書の手続経緯
・本件審判請求書提出 平成28年 4月21日
・審判事件答弁書提出 平成28年 6月22日
・審判事件弁駁書提出 平成28年 8月 4日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成28年 10月17日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成28年 10月31日
・口頭審理陳述要領書(2)(請求人)提出 平成28年 11月 2日
・口頭審理陳述要領書(3)(請求人)提出 平成28年 11月14日
・口頭審理 平成28年 11月14日

第2 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,請求の趣旨を
「登録第1498005号意匠の登録を無効とする,
審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由を,要点以下のとおり主張した(「審判事件弁駁書」「口頭審理陳述要領書」,「口頭審理陳述要領書(2)」及び「口頭審理陳述要領書(3)」の内容を含む。)。

1 意匠登録無効の要点
(1)本件登録意匠は,甲第1号証の意匠と同一であるから,意匠法第3条第1項第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(2)本件登録意匠は,甲第1号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(3)本件登録意匠は,甲第2号証の意匠に,甲第1号証の意匠を適用することで容易に創作することができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

2 本件登録意匠を無効にすべき理由
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は,部分意匠であり,登録番号が「意匠登録第1498005号」で,意匠に係る物品は「発光ダイオード照明器具」である。
また,本件登録意匠は「長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されたシート状の基板を,可撓性を有する透明な軟性樹脂で覆った照明器具」であり,前記軟性樹脂の断面は,厚さ方向に比して幅方向が長い長方形であり,軟性樹脂は,その正面視において幅方向に比して長手方向に十分に長い偏平の直方体としている。
(2)甲第1号証の意匠の説明
甲第1号証の第1頁の写真及び説明文には,シート状の基板に長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されているのが記載されており,この基板に透明なシリコン製チューブで包み込んだのが記載されている。
第2頁の上の左側の写真には,シリコン製チューブで包み込まれる前記基板が記載されている。
(3)本件登録意匠と甲第1号証(提案型情報誌 Proposal(プロポーザル)2006年6月号)の意匠との対比
A 本件登録意匠と甲第1号証の意匠とが同一である理由(意匠法第3条第1項第2号)
(ア)意匠に係る物品について
本件登録意匠の意匠に係る物品は,発光ダイオード照明器具であり,甲第1号証の意匠に係る物品も発光ダイオード照明器具であり,本件登録意匠及び甲第1号証の意匠に係る物品は,共に発光ダイオード照明器具である。
よって,本件登録意匠の意匠に係る物品と,甲第1号証の意匠に係る物品とは同一である。
(イ)意匠の基本的態様について
本件登録意匠も甲第1号証の意匠も,その基本的態様は,シート状の基板の長手方向に発光ダイオード(LED)が複数配列されていて,この基板を可撓性を有する透明な軟性樹脂(シリコン製チューブ)で包み込むようにしていることである。
(ウ)具体的態様について
本件登録意匠の具体的態様は,軟性樹脂の断面が厚さ方向に比して幅方向が長い長方形であり,また,軟性樹脂は,その正面視において幅方向に比して長手方向に十分に長い偏平な直方体である。この本件登録意匠の具体的態様と甲第1号証の意匠を対比すると,本件登録意匠の軟性樹脂に対応した甲第1号証のシリコン製チューブも第1頁の下側の写真には,その正面視において幅方向に比して長手方向に十分に長い偏平な直方体の形状となっている。
しかも,甲第1号証の発光ダイオード照明器具の型番は,(tsLIGHTwp」であり(第1頁の上部参照),第2頁の下部の「tsLIGHTwpの仕様」の欄のA-A′断面の図面にはシリコン製チューブの断面は長方形の形状(図面の四角枠の部分)が明確に記載されている。
したがって,本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは相違点は無く同一であり,本件登録意匠は,意匠登録出願前に日本国内において,頒布された刊行物に記載された意匠と同一である。よって,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第2号の規定に違反して登録された意匠である。
B 本件登録意匠が甲第1号証の意匠と類似している理由(意匠法第3条第1項第3号)
(ア)基本的態様について
本件登録意匠も甲第1号証の意匠も上述したように,その基本的態様は,シート状の基板の長手方向に発光ダイオード(LED)が複数配列されていて,この基板を可撓性を有する透明な軟性樹脂(シリコン製チューブ)で包み込むようにしていることである。
(イ)本件登録意匠と甲第1号証の意匠の形態の共通点及び相違点
本件登録意匠も甲第1号証の意匠も,長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されたシート状の基板であることと,この基板を可撓性を有する透明な軟性樹脂(シリコン製チューブ)で覆っていることと,基板を覆っている軟性樹脂(シリコン製チューブ)の断面形状が長方形で長手方向に十分に長い偏平な直方体である点で共通している。
一方,本件登録意匠の軟性樹脂は各図面に示すように,軟性樹脂の幅方向の大きさが基板に対して大きくなっているが,甲第1号証のシリコン製チューブの幅方向の大きさが基板に対してそれほど大きくない点で相違している。
しかしながら,この種の発光ダイオードを基板の長手方向に沿って複数配列された照明器具は,もともと基板や軟性樹脂(シリコン製チューブ)の幅は狭いものであり,本件登録意匠と甲第1号証の外観を見た場合,ほとんど区別ができないくらい看者が混同してしまう。したがって,本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは類似している。
よって,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して登録された意匠である。
C 本件登録意匠が甲第1号証及び甲第2号証(提案型情報誌 Proposal (プロポーザル),2004年9月号)の意匠から容易に創作をすることができた理由(意匠法第3条第2項)
(ア)意匠に係る物品について
本件登録意匠の意匠に係る物品は,発光ダイオード照明器具であり,甲第2号証の意匠に係る物品も発光ダイオード照明器具であり,本件登録意匠及び甲第2号証の意匠に係る物品は,共に発光ダイオード照明器具である。
よって,本件登録意匠の意匠に係る物品と,甲第2号証の意匠に係る物品とは同一である。
(イ)本件登録意匠と甲1,甲第2号証の意匠との対比
甲第2号証の第1頁及び第2頁の写真,説明文には長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されたシート状の基板が記載されている。
したがって,本件登録意匠と甲第2号証の意匠とは,「長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されたシート状の基板」で共通しており,本件登録意匠は「基板を可撓性を有する透明な軟性樹脂で覆っている」が,甲第2号証にはかかる記載が無い点で相違点がある。
一方,甲第1号証には,「長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されたシート状の基板を覆うシリコン製チューブ(軟性樹脂)」が記載されている。しかも,甲第1号証の第1頁の下側の写真及び第2頁のA-A′断面ではシリコン製チューブ(軟性樹脂)の断面形状が長方形として記載されている。また,シリコン製チューブ(軟性樹脂)は,正面視において幅方向に比して長手方向に十分に長い偏平な直方体であることが記載されている。
また,本件登録意匠のように,基板に対して軟性樹脂(シリコン製チューブ)を幅方向に大きくすることは当業者であれば極めて容易に創作をすることができる。したがって,甲第2号証に甲第1号証を適用することで当業者にとって本件登録意匠を容易に創作することができたものである。
よって,本件登録意匠は意匠法第3条第2項の規定に違反して登録された意匠である。
(4)むすび
以上のとおり,本件登録意匠は,甲第1号証の意匠と同一または類似であり,また甲第1号証及び甲第2号証の意匠からその意匠に属する分野における通常の知識を有する者が意匠登録出願前に容易に創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第1項第2号,意匠法第3条第1項第3号,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,意匠法第48第1項第1号に該当し,本件登録意匠は無効とすべきものである。
(5)証拠
請求人は,本件審判請求の主張事実を立証するため,以下の証拠を提出した。
甲第1号証:提案型情報誌 Proposal(プロポーザル),2006年6月号(写し)
甲第2号証:提案型情報誌 Proposal(プロポーザル),2004年9月号(写し)

3 「審判事件弁駁書」における主張
弁駁の内容
(1)被請求人による後記第3の1(3-2)の主張に対して
被請求人は,甲第1号証の照明器具は,「内部に中空部を有することなく,軟性樹脂によって基板が覆われた発光ダイオード照明具,即ち,モールド成形によってシリコンが充填された発光ダイオード照明具に過ぎない。」と主張している。
まず,甲第1号証の第2頁の下の図面は,正確性を期するための設計図ではなく,消費者に対して理解し易いようにした図面であり,A-A′断面はその部位の断面を見せているものである。したがって,端部の防水コネクタまで描いているものではない。長方形状の外殻はチューブの外形線を表している。
加えて,断面図に記載されている「3mm×5mm」は,「tsLIGHTwpの主な仕様」の「サイズ欄」に明記されている「3.0mm(幅)×5.0mm(高さ)」と合致し,更には「※末端部やコネクター部分は除く」と表記されている。
また,企業は品質を落とさずにコストダウンを徹底的に図っており,基板の防水化を図る場合に,被請求人が主張するようにモールド成形によってシリコンを充填した場合,製造工程が煩雑化し,かえってコストアップになり,企業としてはコストアップになることはしない。
基板の防水化を図る場合,一番安上がりにする方法は,チューブ内に基板を挿入することである。
ここで,甲第1号証の第1頁には,「シリコン製チューブで包み込んだ防水バージョン」と記載されており,「チューブ」とは広辞苑によれば,「チューブ(tube):管,筒(広辞苑第四版,1670頁 1991年11月15日発行 発行所 株式会社 岩波書店)(甲第3号証)」と明記されている。また,ジーニアス英和辞典2245頁によれば,「tube管(ジーニアス英和辞典第五版 2015年4月1日発行 発行所:株式会社大修館書店)(甲第4号証)と明記されている。
「チューブ」とは,管,筒という意味であり,これは内部が中空であることを意味している。甲第3号証の1720頁には「筒:円く細長くて中空になっているもの。」と明確に記載されている。被請求人の主張によれば,「チューブ」は内部が中空ではなく部材が充填された柱状のものを言っており,円柱状のものも「チューブ」に含まれることになり,日本語を根本的に破壊することになり,被請求人の主張は全く納得できるものではない。
(2)また,被請求人は,「シリコン樹脂のチューブの断面は,厚さと幅の比は約1:2.75で」,甲第1号証のものは「約1:1.67」と主張し,基板と軟性樹脂の幅方向の大きさの比が本件意匠が「約1:1.5」であるのに対し,甲第1号証は「約1:1.21」であり,比率が異なると主張している。
被請求人が主張するように,厳密に比率の差異を主張すれば確かに異なるものではある。しかしながら,この種の発光ダイオード照明器具は光源を発光ダイオードとしており,この発光ダイオードの大きさはかなり小さいものであり,甲第1号証の場合では,縦,横の大きさが2?3mm程度のものである。
基板にチューブを挿入しても数mm単位の大きさに過ぎず,拡大鏡を用いて需要者が看れば,その比率は認識できるものの,意匠でいう肉眼で看た場合には本件意匠も甲第1号証の意匠も需要者が混同してしまうほど類似している。
また,上述の比率に関しては,物品自体の大きさが,数十cm単位,あるいはメートル単位であれば違ってくるが,基板ないしチューブの幅方向の大きさがmm単位のため本件意匠も甲第1号証の意匠も区別がつきにくいものである。
そして,どの程度の比率にするかは当業者ならば単なる設計的事項に過ぎず,大きさが小さいものであり到底創作性を云々するものではない。
(3)さらに,甲第5号証(特開2002-197901号公報)には,複数のLEDを実装した基板を可撓性を有する透光性で中空のチューブ内に挿入しているのが記載されている(段落番号「0024」,図1及び図7参照)。
(4)したがって,本件意匠は,甲第1号証の意匠と仮に同一でなくても,少なくとも甲第1号証の意匠と類似している。また,甲第1号証及び甲第2号証の意匠から本件意匠を容易に創作をすることができたものである。
よって,本件意匠は,少なくとも意匠法第3条第1項第3号,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,意匠法第48条第1項第1号に該当し,本件登録意匠は無効とされるべきものである。
(5)証拠(追加)
請求人は,「審判事件弁駁書」における主張事実を立証するため,以下の証拠を提出した。
甲第3号証:広辞苑第四版 第1670頁,第1720頁(1991年11月15日発行 発行所 株式会社 岩波書店)(写し)
甲第4号証:ジーニアス英和辞典第五版 第2245頁(2015年4月1日発行 発行所:株式会社大修館書店)(写し)
甲第5号証:特開2002-197901号公報(写し)

4 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)平成28年10月17日付けの口頭審理陳述要領書(第3の2)に対する反論
(1-1)後記第3の2(1)の主張に対する反論
(ア)甲第1号証の第2頁の左上の写真には,「長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されたシート状の基板」が記載されており,第1頁の略中央部の右側には,「フイルム基板上のLEDユニットをシリコン製チューブで包み込んだ仕様。」の文言が記載されている。
また,中央の左側の写真には,基板をシリコン製チューブで包み込んだ状態でLEDユニットを点灯させているのが記載され,また,下側の写真には,基板及びシリコン製チューブを曲成させた状態でLEDユニットを点灯させているのが記載されている。
甲第1号証の第1頁のLEDユニットを点灯させている写真では,シリコン製チューブ(中空)の外形と,第2頁の断面図からチェーブの断面(図面自体の大きさは小さいものの明確に記載されている。)が長方形であることは明白である。
被請求人は,「断面を具体的あるいは直接的にあらわすものがない以上,」と主張しているが,甲第1号証には,「断面を具体的あるいは直接的にあらわしている」,基板を内部に配置しているチューブが明確に記載されている。
したがって,甲第1号証には前記写真及び断面を記載した図面が記載されており,かかる甲第1号証は,本件登録意匠の新規性及び創作非容易性における判断資料となるのは明らかであり,被請求人が判断資料となり得ないと主張するのは不可解である。
(イ)基板の防水化に関する製造工程の煩雑化やコストアップに関しての請求人の主張に対して,被請求人は,「意匠の創作非容易性の判断手法と,特許法上の発明の進歩性の判断手法とを混同したものであって,基板の防水化における製造工程の煩雑化やコストアップと,意匠の創作非容易性の間には何らの相関関係がなく,」と主張している。
これに関しては,意匠も発明も人間が考えることであり,その結果,保護の対象に応じて意匠出願,あるいは特許出願を行なうものであって,外観に美観があれば意匠出願を行ない,技術思想に特徴があれば特許出願を行なうものである。特に,ここで言いたいことは,被請求人が甲第1号証には明確に「チューブ」が「中空」であるにも関わらず,チューブの内部が中空ではないということに被請求人に対してあえて反論したものである。
また,ここでの主張は,意匠の創作容易性について述べているものではない。あくまで,一般的には中空のチューブ内に基板を配置するという常識を述べているに過ぎないのである。
(ウ)「チューブ」に関しては,明らかに内部を中空にしたものであり,これに関しては被請求人に反論すること自体不毛の論争となるので,あえて主張はしない。
(エ)被請求人は,本件登録意匠の厚さと幅の比が,約1:2.75であり,甲第1号証記載のものの厚さと幅の比が,約1:1.67と主張して,断面の長方形の形状が異なっているとして非類似であると主張している。
また,基板と軟性樹脂の幅方向の比についても異なることから,本件登録意匠と甲第1号証とは非類似と主張している。
しかしながら,被請求人も後記第3の2(1)の欄で述べているように,意匠の審査基準によれば,「構成の比率の変更による意匠」は,当業者にとってありふれた手法であることから,被請求人の主張は自己矛盾を呈しており,比率が異なるからといって非類似とはいえず,当業者であれば比率が異なっても,甲第1号証から構成の比率の変更によるありふれた手法でもって本件登録意匠を創作することは容易である。
すなわち,断面形状が甲第1号証と比較して本件登録意匠の方が長細いといっても,これは上述したように「構成の比率の変更による意匠」であり,容易に創作することができる。
(オ)また,被請求人は,点灯時,消灯時云々述べているが,甲第1号証も同様に点灯時,消灯時もあり,LEDユニットは,甲第1号証のものも,本件登録意匠のものも,同じ3個であり,点灯時と消灯時に呈する美観は同じである。
もっとも,LEDユニットの個数の増減による意匠は創作容易となり,被請求人の主張は失当である。
(1-2)後記第3の2(2)の主張に対する反論
(ア)被請求人は,「意匠に係る物品そのものは肉眼によって観察できる程度に大きいし,比率の差は,発光時の発光具合や,樹脂製のチュ?ブの透明度など,看者が認識し得るのに十分な意匠の美観としてあらわれる。」と主張している。
確かに,本件登録意匠は,意匠に係る物品そのものは肉眼によって観察できる程度の大きさではある。しかしながら,甲第1号証の発光ダイオード照明器具も物品そのものは肉眼によって観察できる程度に大きい。
また,被請求人は,「発光時の発光具合や」,「樹脂製のチューブの透明度」と述べているが,本件登録意匠には,「基板に発光ダイオードが光源として複数配列されている」ことと,「透明な軟性樹脂」としか記載されておらず,被請求人が主張しているところの「発光具合」及び「透明度」に関しては何ら記載はない。
前記の「発光時の発光具合」及び「樹脂製のチューブの透明度」に関して述べることは,技術的に発光具合を変えたり,チューブの透明度を変えることによる効果でもって云々することは,それこそ特許法上の判断手法である。
また,本件登録意匠も甲第1証の発光ダイオード照明器具も,発光具合やチューブの透明度に応じて同様に光の強弱として看者が認識し得るものであり,少々の比率の差は,看者にとって本件登録意匠も甲第1号証の意匠も「十分な意匠の美観」としてあらわれるものの,看者にとっては両者を明確に異なるものとして認識し得るものではない。
比率の差に関しては,何倍,何十倍も差があれば当然異なる意匠となってくるが,甲第1号証のものと本件登録意匠との比率の差は,それほど大きくはなく,甲第1号証の意匠と本件登録意匠を比べた場合,類似あるいは創作非容易性の範躊であり,少なくとも甲第1号証の記載から比率の変更を行なうという当業者であれば,ありふれた手法であり容易に創作することができたものである。
(イ)また,比率に関して,意匠の創作非容易性の判断手法と特許法上の発明の進歩性の判断手法と混同したものであると言っているが,被請求人に誤解を与えたかも知れないが,言わんとするところは,前記(1-1)で述べたように,「構成の比率の変更による意匠」は,当業者にとってありふれた手法であるということである。
(1-3)構成比率について
被請求人は,後記第3の2(1)で,「また,文言上,内部が中空のチューブ内に基板が挿入したものが示唆されているとしても,その具体的な形状は種々あり得るものであって,それらが呈する美観も様々に異なる。例えば,チューブの中空部あるいは内周面の形状,チューブの外寸や内寸に対する肉厚,肉厚の幅方向と長さ方向の比率など,全体として呈する美観を決定する要素は種々あり,各要素の相違によって呈する美観も様々に異なる。」と主張している。
甲第1号証には同一比率ではないものの長方形状のチュ?ブと基板とが記載されており,甲第1号証の意匠から構成の比率を変更するというありふれた手法により本件登録意匠を創作することは当業者にとって容易に創作することができる。
また,被請求人は意匠法の判断手法と特許法上の判断手法を混同していると言っているが,あえて言えば意匠を創作することや,発明をすることは基本的に人間の創作活動,つまり人間が考えることで意匠創作や発明を行なうことができるものである。
LEDユニット(発光ダイオード)を複数配列するための基板は,個数やユニット数に応じてその大きさ(幅,長さ)が自ずと決まってくるものであり,また,その大きさの基板を内部に配置するためのチューブの大きさも自ずと決まってくるものである。
基板と,この基板を内部に配置するチューブとの構成態様からなる本件登録意匠は,甲第1号証と類似したり,あるいは創作容易であったり,また,甲第2号証と甲第1号証とから構成の比率を変更して創作するというありふれた手法により本件登録意匠を容易に創作することができるものである。
(2)創作非容易性(意匠法第3条第2項)
また,複数の発光ダイオードを配列したシート状の基板を,断面が長方形状で透明なチューブ内に配置した照明器具が記載されている証拠として甲第7号証の1(米国特許5.815.068)を挙げる。この甲第7号証の1は1998年9月29日に発行されたものである。
甲第7号証の1のFig.4及びFig.5には透明なチューブが記載されている。(中略)
甲第7号証には,複数の光源(発光ダイオード)35を直線状に配置した基板34を断面が長方形で透明なケーシング33に挿入配置している発光ダイオード照明器具であり,これは本件登録意匠の物品と同一である。
(3)証拠(追加)
甲第6号証:審決の予告(無効2012-800175) (写し)
甲第7号証:米国特許 5,815,068(1998年9月29日発行)(写し)

第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,審判事件答弁書を提出し,答弁の趣旨を
「本件審判の請求は成り立たない,
審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由を,要点以下のとおり主張した(「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。)。
1 理由
(1)はじめに
請求人主張の無効理由は全くの誤りであり,本件意匠の登録は無効とすべきものではない。以下,詳述する。
(2)本件意匠
本件意匠の意匠に係る物品と構成は以下のとおりである。
(2-1)本件意匠の意匠に係る物品
本件意匠に係る物品は,発光ダイオード照明器具であって,長手方向に発光ダイオード素子が光源として複数配列されたシート状の基板を,可撓性を有する透明な軟性樹脂で覆ったものである。
(2-2)本件意匠の構成
本件意匠は部分意匠であって,以下の構成態様からなる。
ア 基本的構成態様
1a フレキシブル基板を透明なシリコン樹脂のチューブで覆った照明器具である。
1b フレキシブル基板の長手方向にLED発光素子が複数個配列されている。
イ 具体的構成態様
1c 前記シリコン樹脂のチューブの断面は,厚さ方向に比して幅方向が長い長方形であり,厚さと幅の比は約1:2.75である。
1d 前記シリコン樹脂のチューブは,その正面視において幅方向に比して長手方向に十分に長い扁平の直方体である。
1e 前記フレキシブル基板は,厚みが薄く,その正面視において幅方向に比して長手方向に十分に長いテープ状である。
1f 前記シリコン樹脂のチューブに,前記フレキシブル基板を挿入し,その正面視において前記フレキシブル基板とLED発光素子(意匠登録を受けようとする以外の部分)を前記シリコン樹脂のチューブを通して看取できるように構成されている。
(3)無効理由(新規性欠如・創作容易性)
(3-1)請求人は前記第2の2(3)Aに記載のとおり,本件意匠を後記の基本的態様及び具体的態様からなるものと主張する。
ア 基本的態様
シート状の基板の長手方向に発光ダイオード(LED)が複数配列されていて,この基板を可撓性を有する透明な軟性樹脂(シリコン製チューブ)で包みこむようにしている
イ 具体的態様
軟性樹脂の断面が厚さ方向に比して幅方向が長い長方形であり,また,軟性樹脂は,その正面視において幅方向に比して長手方向に十分に長い扁平な直方体である。
(3-2)請求人は甲第1号証にあらわされた公知意匠1により,本件意匠が新規性又は創作非容易性を欠くと主張しているが,甲第1号証には少なくとも,本件意匠の「1f 前記シリコン樹脂のチューブに,前記フレキシブル基板を挿入し,その正面視において前記フレキシブル基板とLED発光素子を前記シリコン樹脂のチューブを通して看取できるように構成されている。」という構成が何ら開示されていない。
この点について,請求人は前記第2の2(3)A(ウ)において,「甲第1号証の発光ダイオード照明器具の型番は,「tsLIGHTwp」であり(第1頁の上部参照),第2頁の下部の「tsLIGHTwpの仕様」の欄のA-A′断面の図面にはシリコン製チューブの断面は長方形の形状(図面の四角枠の部分)が明確に記載されている。」と主張する。しかしながら,甲第1号証の第2頁の下部の「tsLIGHTwpの仕様」の欄には,シリコン製チューブに覆われていないむき出しの基板が記載されているに過ぎない。そうすると,A-A′断面とされる図面において,基板を囲む長方形状の線は,断面から奥行方向を見たときにあらわれる防水コネクタあるいは基板のエンド部材の外縁を描いた線と捉えるのが合理的であって,このA-A′断面とされる図面に,断面が長方形の形状からなるシリコン製チューブがあらわされているとみることはできない。
また,仮にこの基板を囲む長方形状の線がシリコン製チューブの外縁を描いた線であったとしても,このA-A′断面の図面には,チューブの肉厚があらわされておらず,フレキシブル基板が挿入される中空部があらわされているとみることができない。したがって,当該A-A′断面の図面から把握されるのは,内部に中空部を有することなく,軟性樹脂によって基板が覆われた発光ダイオード照明具,即ち,モールド成形によってシリコンが充填された発光ダイオード照明具に過ぎない。
また同様に,基板を囲む長方形状の線がシリコン製チューブの外縁を描いた線であった場合でも,本件意匠が「1c 前記シリコン樹脂のチューブの断面は,厚さ方向に比して幅方向が長い長方形であり,厚さと幅の比は約1:2.75である。」という構成態様からなるのに対し,公知意匠1は,軟性樹脂の断面における厚さ方向と幅方向の比が約1:1.67であるから,公知意匠1の軟性樹脂の断面は正方形に近い長方形である。
また,請求人は,前記第2の2(3)B(イ)において,本件意匠と公知意匠1との相違点につき,「本件意匠の軟性樹脂は各図面に示すように,軟性樹脂の幅方向の大きさが基板に対して大きくなっているが,甲第1号証のシリコン製チューブの幅方向の大きさが基板に対してそれほど大きくない点で相違している。」とした上で,「しかしながら,この種の発光ダイオードを基板の長手方向に沿って複数配列された照明器具は,もともと基板や軟性樹脂(シリコン製チューブ)の幅は狭いものであり,本件意匠と甲第1号証の外観を見た場合,ほとんど区別ができないくらい看者が混同してしまう。」と主張する。しかしながら,本件意匠は,基板と軟性樹脂の幅方向の大きさの比が約1:1.5であるのに対し,公知意匠のそれは約1:1.21と大きく異なっているし,該主張を裏付ける具体的な論拠が示されてもいないから,その差が小さいとする主張に合理性はない。
このように,本件意匠と公知意匠1とでは,軟性樹脂の形状,及び軟性樹脂と基板の長さの比率が相違しており,本件登録意匠が,全体的に平たく,スリムでシャープなラインを表現しているのに対し,公知意匠1は太く,棒のようなラインを表現しており,両者が看者に与える印象は全く異なる。この差異点は,外観の印象が基板と軟性樹脂によって決定されるこの種の物品においては,意匠の創作の要部における差異なのであって,本件意匠と公知意匠1が非類似であることは明白である。
(3-3)請求人は,甲第2号証にあらわされた公知意匠2に甲第1号証にあわらされた公知意匠1を適用することにより,本件意匠が創作非容易性を欠くと主張している。しかしながら,甲第2号証には,むきだしの基板の意匠が開示されているに過ぎず,基板が軟性樹脂で覆われていることは何ら開示されていないし,公知意匠1は上述のとおり,本件意匠とは軟性樹脂の形状や軟性樹脂と基板の長さの比率が全く異なるものである。
したがって,本件意匠と公知意匠1,2は要部において顕著に相違するものであり,本件意匠は,甲第1号証及び甲第2号証にあらわされた意匠に基づいて,この意匠の属する分野における当業者が容易に創作をすることができたとはいえない。
(3-4) 以上のとおり,甲第1号証又は甲第2号証にあらわされた公知意匠1又は2に基づき,本件意匠が新規性あるいは創作非容易性を欠くとする請求人の主張はその解釈を誤ったものである。
したがって,請求人の主張する無効理由には理由がない。
(4)むすび
以上のように,本件意には,意匠法第48条第1項第1号に該当しないものであるから,無効にすべきものではない。

2 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)前記第2の3(1)の主張に対する反論
請求人は「甲第1号証の2頁の下の図面は,正確性を期するための設計図ではなく,消費者に対し理解し易いようにした図面であり」と主張しているが,他に断面を具体的あるいは直接的にあらわすものがない以上,当該図面に実際にあらわされているもののみが本件意匠の新規性及び創作非容易性における判断資料となり得るのであって,これ以外の看者に創作的な思考あるいは想像を要求する類のものは,本件意匠の新規性及び創作非容易性における判断資料となり得ない。
そして,甲第1号証にあらわされた図面や写真等と本件意匠とを対比すると,答弁書において主張した通り,その態様は明らかに相違しており,甲第1号証には,本件意匠と同一又は類似する意匠は示されていない。
また,意匠の審査基準によれば,容易に創作することができる意匠と認められるものの例として,(当審注:(1)前記第2の3(1)の主張に対する反論中,以下「〔 〕付き数字」は,使用文字の制限のため,丸付き数字を表す。)[1]置換の意匠,[2]寄せ集めの意匠,[3]配置の変更による意匠,[4]構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による意匠,[5]公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合をほとんどそのまま表したにすぎない意匠,[6]商慣行上の転用による意匠,が挙げられているが,本件意匠は,甲第1号証にあらわされた図面や写真との関係において,いずれの意匠にも該当しない。
また,請求人は基板の防水化に関する製造工程の煩雑化やコストアップについて主張しているが,かかる主張は,意匠の創作非容易性の判断手法と,特許法上の発明の進歩性の判断手法とを混同したものであって,基板の防水化における製造工程の煩雑化やコストアップと,意匠の創作非容易性の間には何ら相関関係がなく,夫々に異なる論理で考えられるべきものであって,採用し得ない。
さらに,請求人は甲第3号証及び甲第4号証を挙げた上,前記第2の3(1)において,「チューブ」が「管,筒」という意味である旨,主張している。しかしながら,「チューブ」の一般的な意味がどのようなものであれ,甲第1号証には,内部が中空の「管,筒」からなるチュ?ブ内に基板を挿入したものが具体的な形状をもってあらわされているとは言えない。そうすると,本件意匠に対する創作非容易性の判断資料となり得るものは,甲第1号証の図面や写真にあらわされているものにほかならない。また,文言上,内部が中空のチューブ内に基板を挿入したものが示唆されているとしても,その具体的な形状は種々あり得るものであって,それらが呈する美観も様々に異なる。例えば,チューブの中空部あるいは内周面の形状,チューブの外寸や内寸に対する肉厚,肉厚の幅方向と長さ方向の比率など,全体として呈する美観を決定する要素は種々あり,各要素の相違によって呈する美観も様々に異なる。特に,本件意匠の如く,発光素子を発光させて用いられるものは,その消灯時に呈する美観のみならず,点灯時において呈する美観の相違にも各要素の違いが及ぶのであるから,各要素をどのようなものとするかは,意匠が呈する美観を決定する重要な要素である。したがって,文言上,内部が中空のチューブ内に基板を挿入することが記載されているとしても,これをもって具体的な意匠があらわされているとはいえず,かかる記載が本件意匠の新規性及び創作非容易性に影響を及ぼすことはない。
(2)前記第2の3(2)の主張に対する反論
請求人は意匠に係る物品自体の大きさについて言及し,「基板に挿入しても数mm単位の大きさに過ぎず,拡大鏡を用いて需要者が看れば,その比率は認識できるものの,意匠でいう肉眼で看た場合には本件意匠も甲第1号証の意匠も需要者が混同してしまうほど類似している。」などと主張しているが,かかる主張は失当である。即ち,意匠に係る物品そのものは肉眼によって観察できる程度に大きいし,比率の差は,発光時の発光具合や,樹脂製のチューブの透明度など,看者が認識し得るのに十分な意匠の美観としてあらわれる。また,意匠の類否は比率の差そのものによって決定されるのではなく,比率の差が他の形状の相違等と相俟って生じさせる,意匠全体が呈する美観の相違によって決定されるべきものである。
また,請求人は「どの程度の比率にするかは当業者ならば単なる設計的事項に過ぎず,大きさが小さいものであり到底創作性を云々するものではない。」と主張しているが,かかる主張もやはり,意匠の創作非容易性の判断手法と,特許法上の発明の進歩性の判断手法とを混同したものであって,比率の差が,意匠全体が呈する美観の相違としてあらわれるものであるから,採用し得ない。
(3)むすび
以上のとおり,本件意匠は,甲各号証によって新規性あるいは創作非容易性を欠くものではないから,意匠法第48条第1項第1号に該当せず,無効にすべきものではない。

第4 口頭審理
当審は,本件審判について,平成28年(2016年)11月14日に口頭審理を行い,審判長は,同日付けで審理を終結した。(平成28年11月14日付け「第1回口頭審理調書」)

第5 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は,物品の部分について意匠登録を受けたものであって,本件登録意匠の意匠に係る物品は「発光ダイオード照明器具」であり,本件登録意匠の形態は,その意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりであり,願書の意匠の説明には,「図面中,実線であらわした部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(当審注:以下「本件意匠部分」という。)である。透明部分を斜線で表した参考正面図において,斜線で示されている軟性樹脂は透明である。」と記載されている(別紙第1参照)。
(1)本件意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本件意匠部分は,照明器具として用いる発光ダイオード照明器具の可撓性のある外側を覆う透明な軟性樹脂部(チューブ)とその内部のシート(テープ)状基板部から成る部分であって,そのテープ状基板部上から発光ダイオード素子などの設置物部分を除くものであり,位置は物品全体にあたり,大きさは,発光ダイオード素子はごく小さいものであることから察して,小型の照明器具であると推察され,範囲は発光ダイオード素子などの部材を除いたほぼ物品の全域にわたるものである。
(2)本件意匠部分の形態
本件意匠部分は,以下の構成態様からなる。
ア 基本的構成態様
(あ)長手方向に発光ダイオード素子など(意匠登録を受けようとする以外の部分)を複数設けた細長いシート(テープ)状基板部を透明な略細長矩形筒状のチューブ体で覆ったものである。
(い)略細長矩形筒状のチューブ体内の略中央にテープ状基板部が配置されている。
イ 具体的構成態様
(う)略細長矩形筒状のチューブ体は,右側面視縦長長方形状であって,正面視縦横奥行き比率は約2.6:23:1である。
(え)略細長矩形筒状のチューブは,そのチューブ壁の厚みについて右側面視において横幅(奥行き)の約5分の1のものである。
(お)テープ状基板部は,厚みが薄く,その正面及び背面に発光ダイオード素子などを設置するものであって,正面視において横幅は略細長矩形筒状のチューブ体とほぼ同尺で縦幅は略細長矩形筒状のチューブ体より短い,縦横比率約1:13の長いテープ状である。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は,以下の3つである。
(1)本件登録意匠が,その意匠登録出願前に公然知られた,甲第1号証の意匠(以下「甲1意匠」という。別紙第2参照。)と同一の意匠であり,意匠法第3条第1項第2号に規定する意匠に該当するので,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠の登録が,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである(以下,この無効理由を「無効理由1」という。)。
(2)本件登録意匠の意匠登録出願前に公然知られた,甲1意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するので,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠の登録が,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである(以下,この無効理由を「無効理由2」という。)。
(3)本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において公然知られた甲第2号証の意匠(以下「甲2意匠」という。別紙第3参照。)に,同じく日本国内又は外国において公然知られた甲1意匠を適用することで,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」ともいう。)について容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠の登録が,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定によって,無効とされるべきであるとするものである(以下,この無効理由を「無効理由3」という。)。

3 無効理由1について
本件登録意匠が,甲1意匠と同一の意匠であるか否かについて検討する。
本件登録意匠については,前記1の(1)及び(2)に記載のとおりである。
(1)甲1意匠
甲1意匠は,甲第1号証(提案型情報誌 Proposal(プロポーザル)2006年6月号(別紙第2参照))に現された意匠であり,甲第1号証は,その表紙及び裏表紙の記載から,株式会社オガワより2006年6月号として発行され,すくなくとも2006年(平成18年)6月ごろの頒布を想定した刊行物と認められるので,本件意匠登録の出願日である平成18年(2006年)10月20日前に公然知られたものとなったと認められる。その第1頁にLEDユニット「tsLIGHTwp」として,使用状態の写真図版部が第1頁上半部と下半部に掲載されている。
また,第2頁には「接続時の注意点」,「サインへの取付け方法」に続けて下方に「tsLIGHTwpの仕様」の記事があり,全体及び各部のサイズ記載などとともに製品の図面記載がある。
甲1意匠は,第1頁上半部の写真図版部とその記事「防水型tsLIGHTwpは,フィルム基板上のLEDユニットをシリコン製チューブで包み込んだ仕様。-中略-チューブは無色透明なので,光を遮断することもありません。」からLED(発光ダイオード)素子を複数設けたフィルム基板を可撓性の透明のチューブで包み込んだ照明器具と認められる。その全体の形状は,2頁「tsLIGHTwpの仕様」の記事「1本あたり350mm(長さ)×3.0mm(幅)×5.0mm(高さ)(※末端部分やコネクター部分は除く)」及びコネクターを備えた完成品の図面記載から,末端部分やコネクター部分は除くチューブ体(端部材を含む)の全長が350mmであり縦横寸法は5mm×3mmの細長い略矩形筒状のものであり,内部はA-A′断面図から片面に発光ダイオード素子を設けたフィルム基板部をチューブ内奥手一方に寄せて配して成るものと認められる。
なお,A-A′断面図の図面上の縦の長さが約3mmであって仕様図切断指示箇所のチューブ体の縦の長さも約3mmで一致し,両端に表された端部材の縦の長さは約4mmであるから,A-A′断面図は断面のみ記載した図(端面図)と認められ,A-A′断面図の外形線に表された矩形状は端部やコネクターの形状線ではなく,チューブ体の形状線であると認められ,仕様図は発光ダイオード素子を設けたフィルム基板をごく薄い透明のチューブ体で包み込んだ製品の図であると認められる。
(2)本件意匠部分と対比する対象とする甲1意匠の部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本件意匠部分と対比する対象とする甲1意匠の部分(以下,甲1意匠部分という。)は,前記記載からLED(発光ダイオード)素子を複数設けたフィルム基板を可撓性の透明のチューブで包み込んだ照明器具と認められるから,本件意匠部分と同様の発光ダイオード照明器具の可撓性のある外側を覆う透明な軟性樹脂部(チューブ)とその内部の細長いシート(テープ)状基板部から成る部分であって,そのテープ状基板部上から発光ダイオード素子などの設置物部分を除くものであり,位置は物品の端部材を除くチューブ体全体にあたり,大きさは,細幅の小型の照明器具に相当し,範囲は発光ダイオード素子などの設置物部分を除いたほぼ物品の全域にわたるものである。 (3)形態
甲1意匠部分の形態については,本件意匠部分と図の向きを合わせると以下の構成態様となる。
ア 基本的構成態様
(あ)長手方向に発光ダイオード素子を複数設けた細長シート状(テープ)基板部を透明な略細長矩形筒状のチューブ体で覆ったものである。
(い)略細長矩形筒状のチューブ体内奥手側に寄せてシート状基板部が配置されている。
イ 具体的構成態様
(う)略細長矩形筒状のチューブ体は,右側面視縦長長方形状であって,正面視縦横奥行き寸法は両端部材を除いて約5mm×334mm(350-(端部材8×2)×3mm)でその比率は,約1.7:111:1である。
(え)略細長矩形筒状のチューブ体は,そのチューブ体壁の厚みについてそのA-A′断面図においてごく薄いものである。
(お)テープ状基板部は,厚みが薄く,その正面視において横幅は略細長矩形筒状のチューブ体とほぼ同尺で縦幅もほぼ同尺であって縦横比率約1:67の長いテープ状である。
(4)本件登録意匠と甲1意匠部分の対比
ア 意匠に係る物品について
本件登録意匠の意匠に係る物品は,発光ダイオード照明器具であり,甲1意匠に係る物品は「LED(発光ダイオード)ユニット」であって,その使用態様から照明機能を持つものであると認められるから,本件登録意匠と甲1意匠の意匠に係る物品は,共通する。
イ 両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本件登録意匠部分と甲1意匠部分(以下,両意匠部分という。)の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲は前記(2)のとおりほぼ共通する。
ウ 形態について
本件意匠部分と甲1意匠部分の形態を対比すると,主として,以下の共通点と相違点が認められる。
(ア)共通点
あ 基本的態様について
A 両意匠部分は,その基本的態様において,長手方向に発光ダイオード(LED)が複数配列されたテープ状の基板部を透明な略矩形筒状のチューブ体で包み込むようにした点で共通している
(イ)相違点
あ 基本的態様について
a 本件意匠部分はテープ状の基板部をチューブ体内略中央に配したものであるのに対し,甲1意匠部分は奥手側に寄せて配したものかの点で相違する。
い 具体的態様について
b 略細長矩形筒状のチューブ体について,本件意匠部分の正面視,縦横奥行き比率は約2.6:23:1であるのに対して,甲1意匠部分の縦横奥行き比率は約1.7:111:1である点。
c チューブ体のチューブ壁の厚みが本件意匠部分は,側面視において横幅(奥行き)の約5分の1のものであるのに対して甲1意匠部分は,そのA-A′断面図においてごく薄いものである点。
d テープ状基板部について,本件意匠部分は,その正面視において横幅は略細長矩形筒状のチューブ体とほぼ同尺で縦幅はそれに比して短い,縦横比率約1:13の長いテープ状であるに対して甲1意匠部分は,その正面視において横幅は略細長矩形筒状のチューブ体とほぼ同尺で縦幅もほぼ同尺であって縦横比率約1:67の長いテープ状である点。
(5)両意匠部分が同一であるか否かの判断
両意匠部分は,その形態において,aの基本的態様についても相違し,bの縦横奥行き比率の値が相違するから,両意匠部分は,同一の意匠ではない。
(6)小括
本件登録意匠と甲1意匠は,意匠に係る物品は共通し,両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲も共通するものの,その形態において,基本的構成態様及び具体的構成態様に相違する点があり,同一の意匠とは認められない。
すなわち,本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に公然知られた甲1意匠と同一の意匠ではなく,したがって無効理由1によって,本件登録意匠の登録が,意匠法第48条第1項第1号に該当し,同条同項柱書の規定によって,無効とされるべき理由はない。

4 無効理由2について
本件登録意匠が,甲1意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
本件登録意匠については,前記1に記載のとおりであり,甲1意匠及び甲1意匠部分については,前記3の(1)ないし(3)に記載のとおりである。
また,本件登録意匠部分と甲1意匠部分の対比については前記(4)に記載のとおりである。
(1)両意匠が類似するか否かの判断
両意匠部分の形態については,以下のとおり評価する。
ア 共通点の評価
基本的構成態様としてあげた共通点Aは,両意匠部分の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものであるから,この点が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響を大きいということはできない。
イ 相違点の評価
これに対して,両意匠部分のaないしdの具体的構成態様に係る各相違点を見ると,相違点aについては,シート状基板部の配置態様に関わり,一定程度の類否判断への影響を与えるものである。
相違点bは,略矩形筒状のチューブ体の全体の縦横奥行き比率についてであって,長さにおいて,甲1意匠部分は,本件意匠部分の約5倍で大きく相違し,その縦の長さについては,本件意匠部分は,甲1意匠部分の約1.5倍長く,縦に細長い矩形状と縦にあまり長くない丈の詰まった正方形寄りの矩形状とではその印象は相違し,縦に細長い矩形状の横にあまり長くないチューブ体と丈の詰まった矩形状の横に長いチューブ体とでは,全体のプロポーションが大きく異なり,両意匠部分の視覚的印象に大きく関わるものであるから,この点が類否判断に与える影響は大きい。
次にcについてはチューブ壁の厚みの相違であって,部分的で看取し難い相違であるが,本件意匠部分は,その側面方向(チューブ体の開口方向)から観察可能であり,甲1意匠部分は,切断時には,観察可能なものであり,両意匠部分のチューブ体は透明なものであるから,チューブ体周面からの観察もある程度可能であることを考えると,両意匠の印象に関わり,一定程度の類否判断への影響を与えるものである。
また,相違点dについては,テープ状基板部についての縦横比率の相違であって相違点bとあいまって,全体の具体的プロポーションにかかるものであるから,この点が類否判断に与える影響は大きい。
そうすると,相違点a及び相違点cは類否判断に与える影響は一定程度あるものであって,相違点b及び相違点dは類否判断に与える影響が大きいものであるから,それら相違点aないし相違点dがあいまった視覚的効果も考慮して総合すると,相違点は,共通点を凌駕して,両意匠部分を別異のものと印象づけるものであるから本件意匠部分が甲1意匠部分に類似するということはできない。
(2)小括
以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠は,意匠に係る物品は共通し,両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲も共通するものの,両意匠部分の相違点が共通点を凌駕し,両意匠部分は類似するものではない。
すなわち,本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に公然知られた甲1意匠に類似する意匠ではなく,したがって無効理由2によって,本件登録意匠の登録が,意匠法第48条第1項第1号に該当し同項柱書の規定によって,無効とされるべき理由はない。

5 無効理由3について
請求人は,前記第2の1(3)に示すように本件登録意匠は「甲第2号証の意匠に,甲第1号証の意匠を適用することで容易に創作することができたものである」と主張している。
まず,請求人のいうところの「甲第2号証に甲第1号証を適用する」とは,甲第2号証に現された意匠(甲2意匠。後述。)はチューブ体のないものであるから,「甲2意匠を基にありふれた手法を用いて甲1意匠の一部(チューブ体)を組み合わせることによって容易に本件登録意匠が創作することができたとすること」と認められ,また,審判請求書で「基板に対して軟性樹脂(シリコン製チューブ)を幅方向に大きくすることは当業者であれば極めて容易に創作をすることができる。」(前記第2の2(3)C(イ))と述べ,口頭審理陳述要領書において「基板と,この基板を内部に配置するチューブとの構成態様からなる本件登録意匠は,(中略)甲第2号証と甲第1号証とから構成の比率を変更して創作するというありふれた手法により本件登録意匠を容易に創作することができるものである。」(前記第2の4(1)(1-4))とも述べているから,「当業者がありふれた手法に基づいて,甲1意匠の一部(チューブ体)及び甲2意匠の構成の比率を変更して甲2意匠に甲1意匠の一部(チューブ体)を組み合わせて,本件登録意匠を容易に創作できた」とするものである。
(1)甲2意匠について
甲2意匠は,甲第2号証(提案型情報誌 Proposal(プロポーザル)2004年9月号(別紙第3参照))に現された意匠であり,甲第2号証は,その表紙及び裏表紙の記載から,株式会社オガワより2004年9月号として発行され,すくなくとも2004年(平成16年)9月ごろの頒布を想定した刊行物と認められるので,本件意匠登録出願日である平成18年(2006年)10月20日前に公然知られたものとなったと認められる。
その第1頁にLEDユニット「thin&small LIGHT」として,第1頁上部に使用状態の写真図版部が,下段部に主な仕様が掲載されている。第2頁には,上段に特長として(当審注:甲第2号証の第2頁に記載の丸付き数字は,使用文字の制限のため,以下〔 〕付き数字で表す。)[1]ないし[6]の記事とそれに対応した写真図版部[1]ないし[4]が掲載されている。下段には基本的な使用方法が場合に応じて写真図版部とともに掲載されている。
甲2意匠は,第1頁の写真図版部及び「主な仕様」の記載からフィルム状の基板に間隔を空けて複数のチップ型の発光ダイオードと配線コードが設けられた(チューブ体のない)照明器具であって,配線コード部が上面に貼り付けられたものかフィルム状基板内部に設けられたものかは不明で,記事の記載から1本の寸法は420mm長さ×3.5mm幅×2.0mm高さのものであって,基板部は,フィルム状であるからごく薄く,全体はチップ型の発光ダイオード部を含めても扁平で細長いものと認められる。
また,第2頁の[2]の記事及び図版部の記載から可撓性のあるものであり,[3]の記事「裏面は粘着テープ仕様」及び写真図版部から裏面(発光ダイオードの設けられている面の反対側)は剥離紙のついた粘着面であるものと認められる。
(2)甲2意匠の本件意匠部分のテープ状基板部分に相当する部分について
甲2意匠の本件意匠部分のテープ状基板部分に相当する部分は,前記,甲2意匠のうち,発光ダイオード等を除くテープ状基板部分(以下,甲2意匠部分という。)である。
(2-1)甲2意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
甲2意匠部分は,前記記載からLED(発光ダイオード)素子を複数設けたフィルム基板の発光ダイオード照明器具であると認められ,その基板部上から発光ダイオード素子などの部材を除くテープ状基板部分であって,位置は物品全体の下方基底部であって,大きさは,細幅の小型の照明器具に相当し,範囲は発光ダイオード素子などの部材を除いたほぼ物品の全域にわたるものである。
(2-2)甲2意匠部分の形態
前記(2)により甲2意匠部分は甲2意匠の基板部分であるからその基本的構成態様はごく薄く細長いものであって,前記(1)から,寸法は略420mm長さ×3.5mm幅のものであるから,具体的構成態様は,縦横比率約1:120の厚みのごく薄い長いテープ状である。
(3)本件登録意匠と甲1意匠部分の対比
本件登録意匠については,前記1の(1)及び(2)に記載のとおり。甲1意匠については,前記3の(1)に記載のとおりである。
また,本件意匠部分と対比の対象とする甲1意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲については,前記3の(2),甲1意匠部分の形態については前記3の(3),本件登録意匠と甲1意匠部分の対比についても前記3の(4)に記載のとおりである。そして,甲1意匠は本件登録意匠出願前に公然知られたものであったと認められる。
ア 本件意匠部分と甲1意匠部分のチューブ体の対比
本件意匠部分と甲1意匠部分の対比については前記3の(4)のとおりであるから,本件意匠部分のチューブ体と甲1意匠部分のチューブ体は,両意匠部分の用途及び機能,並びに大きさは,ほぼ共通する。
(ア) 形態について
本件意匠部分のチューブ体と甲1意匠部分のチューブ体の形態を対比すると以下のとおりである。
(あ)基本的態様について
両意匠部分は,その基本的態様において,長手方向に発光ダイオード(LED)が複数配列されたテープ状の基板部が透明な略矩形筒状のチューブ体内に配されている。
(い)具体的態様について
本件意匠部分のチューブ体は,右側面視縦長長方形状であって,やや幅のある略矩形状であり,正面視,縦横奥行き比率は約2.6:23:1であるのに対して,甲1意匠部分のチューブ体の縦横奥行き比率は約1.7:111:1であり,略細長矩形筒状のチューブは,そのチューブ壁の厚みについて本件意匠部分のチューブ体は側面視において横幅(奥行き)の約5分の1のものであるのに対して甲1意匠部分は,そのA-A′断面図においてごく薄いものである。
(4)本件意匠部分と甲2意匠部分の対比
甲2意匠は前記(1)のとおり甲2意匠部分は(2)のとおり,それぞれ認定したものである。そして,甲2意匠は本件登録意匠出願前に公然知られたものであったと認められる。
ア 本件意匠部分のテープ状基板部と甲2意匠部分の対比
(ア)甲2意匠部分と本件意匠部分のテープ状基板部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
甲2意匠部分と本件意匠部分のテープ状基板部分部(以下,両テープ状基板部分という)の用途及び機能は,照明器具として,照明用の発光ダイオード素子を設ける基板部であるから共通し,大きさは,両テープ状基板部分は細幅の小型の照明器具のテープ状基板部であるから概ね共通する。位置及び範囲は本件意匠部分のテープ状基板部は,略矩形状チューブ体の内部中央に配されているのに対し,甲2意匠部分は,そのままテープ状の基板部を照明器具として用いているので,その位置はチューブ体内に位置するものとチューブ体のない単体でそのまま用いられる基板部であるから相違し,範囲においても,チューブ体を含む全体に対する内部のテープ状基板部の範囲であるか,ほぼ全体の範囲であるかの点で両テープ状基板部分は相違する。
(イ)形態について
甲2意匠部分と本件意匠部分のテープ状基板部の形態を対比すると,以下のとおりである。
(あ)基本的態様について
甲2意匠部分と本件意匠部分のテープ状基板部は,その基本的態様において,共に,長手方向に長い,発光ダイオード(LED)が複数配列されたテープ状の基板部である。
(い)具体的態様について
本件意匠部分のテープ状基板部については,その正面視において,縦横比率約1:13の長いテープ状であるに対して,甲2意匠部分は,縦横比率約1:120の長いテープ状であり,本件意匠部分のテープ状基板部分の背面については,その背面視及び右側面視において,何らかの部材が見受けられるのに対し,甲2意匠部分の当該面(裏面:発光ダイオード素子を設けた面と反対の面)は,剥離紙のついた粘着面である。
(5)創作非容易性の判断
前記5の冒頭に述べたとおり,請求人の無効理由3についての主張は,当業者がありふれた手法に基づいて,甲1意匠の一部(チューブ体)及び甲2意匠の構成の比率を変更して甲2意匠に甲1意匠の一部(チューブ体)を組み合わせて,本件登録意匠を容易に創作できたというものである。
そうすると,甲1意匠の一部(チューブ体)は甲1意匠部分のチューブ体であり,組み合わせるところの甲2意匠の本件意匠部分のテープ状基板部分に相当する部分は,甲2意匠部分であるから,以下,甲1意匠部分のチューブ体及び甲2意匠部分の構成比率を変更し,甲2意匠部分に甲1意匠部分のチューブ体を組み合わせることによって本件意匠部分が当業者によって容易に創作できたものであるかについて検討し判断する。
まず,当業者がありふれた手法に基づいて,甲1意匠部分のチューブ体及び甲2意匠部分の構成比率を変更し,甲2意匠部分に甲1意匠部分のチューブ体を組み合わせることによって本件意匠部分が当業者によって容易に創作できたものであるかについて検討するにあたっては,甲2意匠部分は,チューブ体のない発光ダイオードユニットのテープ状基板部であるから,チューブ体のないテープ状基板部にチューブ体を設けることが,この物品分野において,ありふれた手法であるかどうかについて検討すべきである。
甲1意匠部分においては,チューブ体でテープ状基板部を覆った態様が現されており,弁駁書及び口頭審理陳述要領書で追加された証拠(甲第5号証,甲第7号証)に表された意匠にもテープ状基板部とチューブ体を組み合わせる態様は表されており,これらの態様は,この本件登録意匠出願前に公然知られたものと認められ,発光ダイオードのテープ状基板部に組み合わせてチューブ体を設けることは,この発光ダイオード照明器具の物品分野において,すでに見受けられていたといえる。
次に,甲1意匠部分のチューブ体の構成比率を変更することが容易に創作できたものかどうかについて検討すると,前記(3)のア(ア)(い)のとおり,甲1意匠部分のチューブ体には,本件意匠部分のチューブ体の具体的な形態(チューブ体は,略細長矩形筒状の右側面視縦長長方形状であって,正面視縦横奥行き比率は約2.6:23:1であり,略細長矩形筒状のチューブ体は,そのチューブ壁の厚みについて右側面視において横幅(奥行き)の約5分の1のものである態様)が現されておらず,本件意匠部分のチューブ体は,正面視,縦横奥行き比率は約2.6:23:1であるのに対して,甲1意匠部分のチューブ体は,その縦横奥行き比率は約1.7:111:1であって,特に横方向長さにおいては甲1意匠部分の奥行き方向に対するチューブ体の横方向の長さは,本件登録意匠のそれの約5倍と大きく相違し,さらにチューブ壁の厚みにおいても本件登録意匠部分は,奥行きの約5分の1のものであるのに対して,甲1意匠部分は,ごく薄いものである。
本件意匠部分のチューブ体の具体的形態に至るまでには,甲1意匠部分のチューブ体の形態をもとに,縦,横,奥行き比率に変更を加えてチューブ壁の厚みも変更を加えねば想到することはできないところ,チューブ体の縦横奥行き比率を本件意匠部分のような約2.6:23:1とすることが,ありふれた手法であることを示す証拠はないから,当業者においても想到することは困難な構成比率の変更であるというべきである。
また,前記(4)のア(イ)(い)のとおり,甲2意匠部分についても,本件意匠部分のテープ状基板部の形態(テープ状基板部は横比率約1:13の長いテープ状である)は現されておらず,本件意匠部分のテープ状基板部は,その正面視において,縦横比率約1:13の長いテープ状であるに対して,甲2意匠部分は,縦横比率約1:120の長いテープ状であって,テープ状基板部の縦横比率を本件意匠部分のような約1:13とすることが,ありふれた手法であることを示す証拠はないから,当業者が容易に想到できたとはいえない。さらに,甲2意匠部分は,チューブ体なしに使用設置を想定されたものであって,背面(裏面)に剥離紙付の粘着面を形成したものであり,本件意匠部分のように粘着層及び剥離紙のない態様に変更することがありふれた手法であることを示す証拠はなく,粘着層及び剥離紙のない態様に変更することまで含めて,当業者が容易に想到できたとはいうことはできない。
そうすると,本件登録意匠の具体的態様については,甲1意匠部分のチューブ体及び甲2意匠部分の構成比率を変更し,甲2意匠部分に甲1意匠部分のチューブ体を組み合わせることによって本件意匠部分が当業者によって容易に創作できたということはできない。
以上のとおり,本件登録意匠は,当業者がその意匠登録出願の出願前に日本国内又は外国において公然知られた「甲第2号証の意匠に,甲第1号証の意匠を適用することで容易に創作することができたものである」ということはできない。
したがって無効理由3によって,本件登録意匠の登録が,意匠法第48条第1項第1号に該当し,同項の規定によって,無効とされるべき理由はない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1ないし無効理由3に係る理由及び証拠方法によっては,本件登録意匠の登録は無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2017-01-27 
出願番号 意願2014-4313(D2014-4313) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (H1)
D 1 113・ 113- Y (H1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 玲香 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 渡邉 久美
刈間 宏信
登録日 2014-04-18 
登録番号 意匠登録第1498005号(D1498005) 
代理人 粕川 敏夫 
代理人 狩生 咲 
代理人 清水 喜幹 
代理人 奥田 和雄 

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