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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 F3
管理番号 1327952 
審判番号 不服2015-2124
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-03 
確定日 2017-04-28 
意匠に係る物品 塗り絵用紙 
事件の表示 意願2013- 23371「塗り絵用紙」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠
本願は,平成25年(2013年)10月4日の意匠登録出願であって, その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「塗り絵用紙」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」ともいう。)を願書の記載及び願書に添付した図面に記載したとおりとしたものである。(別紙第1)
すなわち,全体形状は,円柱状の芯材にその上下端部を多少露出する程度に幅の狭い巻き広げ可能な帯状用紙部の内方端辺部を留めて巻き付け,外方端辺縁部に取付けた紐状材で外周を括った巻物状のものであって,具体的構成態様として,帯状用紙部は,表装紙のない帯状用紙のみから構成され,帯状用紙部外方端辺の全幅にわたって極細径の略円柱棒状の発装部を設けており,その帯状用紙部外方端辺略中央には,撚りによる凹凸のある長尺のこより紐材を留めつけて形成し,帯状用紙部の外周面は装飾などのないものである。

第2 当審における拒絶の理由及び引用意匠
当審における拒絶の理由は,本願意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠(先行の公知意匠に類似するため,意匠登録を受けることのできない意匠)に該当するとしたものであって,当審が拒絶の理由に引用した意匠は,本願出願前,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠,すなわち,
「引用意匠(別紙第2-1)
著者の氏名 コクヨ株式会社及びco-lab
運営者の連絡先 (info@krei-project.com)
表題 「月見里のぬり絵巻」
掲載場所 KREI OPEN SOUCE STUDIO
媒体のタイプ [online]
掲載年月日 平成25年(2013年)5月10日
検索日 平成28年(2016年)6月8日
情報の情報源 インターネット
情報のURL http://krei-project.com/log/1296
に掲載された「塗り絵用巻物」の意匠

参考URL(別紙第2-2)
INTERNET ARCHIVE wayback machine(http://www.archive.org/web/web.php)が2013年6月13日に公開した,
http://web.archive.org/web/20130613042648/http://krei-project.com/log/1545」である。
また,拒絶の理由は,具体的には,「本願意匠と引用意匠(以下,「両意匠」という。)は,意匠に係る物品が「塗り絵用紙」と「塗り絵用巻物」(引用意匠の製品名称は「ぬり絵巻」であるが,引用意匠が掲載された上記URLに掲載された写真及び記事内容から「塗り絵用巻物」と認められる。)で表記は異なるものの機能及び用途においてほぼ同一であり,その形態については,太径の円柱形状の軸木に,その軸木がわずかにはみ出す程度の縦幅の長尺の塗り絵用紙を巻き付けたものであり,外側の用紙端部には極細径の発装部を設け,こより紐で略中央を括り結び留めた態様が共通しており,この共通点が,視覚を通じてまとまった一つの美感を与え,需要者の注意を強く惹くものということができます。
一方,両意匠は,主に色彩の有無と題箋部の有無に差異があります。引用意匠は色彩が現されており本願意匠は色彩を含めて意匠登録を受けようとするものではない差異点については,引用意匠の軸木は茶色,こより紐及び用紙の色は概ね白色であって,素材としてごく普通に見受けられる色彩であって,色彩の有無が両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものに留まります。引用意匠に標記用の略縦長長方形状の題箋部が付されているのに対し,本願意匠には付加されていないものである差異点については,巻物に題箋部を付加することと付加しないことの双方とも極めて普通に見受けられる態様ですから,引用意匠の題箋部は格別看者の注意を引くものではなく,本願意匠には題箋部がなく,むしろありふれた態様であることを踏まえると,題箋部の有無を本願意匠の引用意匠に対する差異として評価することはできません。したがって,意匠全体として観察する場合には,共通点が差異点を凌駕し,両意匠は類似するものといわざるを得ません。
(なお,引用意匠は,掲載頁末尾の「Material Garden 作品リスト 5/10公開へ戻る」の記載から,5月10日の「マテリアル・ガーデン」開催のイベントにおいて公開されたものと認められ,同イベントが行われた事実については,上記参考URL掲載の記事 「イベントレポート:『マテリアル・ガーデン』のキックオフ・イベント」から明らかであり,同URL掲載の記事は,遅くとも2013年6月13日までにはインターネット上で公開されていたと推認されます。)」としたものである。

第3 請求人の主張の要旨
1 意見書においての主張
本件に関し,拒絶理由通知書において指摘を受けたが,本願意匠は意匠法第4条第1項の規定に該当するものであり,意匠法第3条第1項第1号または第2号に該当するに至らなかったものとみなされるべきものである。
出願人は平成25年10月4日に巻物状とした塗り絵用紙の意匠に関し,意匠に係る物品を「塗り絵用紙」とする本件意匠登録出願を行ったが,これに先立つ平成25年5月10日にインターネット上において,表題を「月見里のぬり絵巻」とする記事が掲載されていた。
ちなみに,平成25年5月10日に上記co-lab西麻布において,表題を「月見里のぬり絵巻」とする展示がなされ,確かにこれは,山梨県工業技術センターデザイン技術部に所属する串田 賢一が,co-lab西麻布の運営者であった伊藤聡一氏の勧めに応じて出展したものであるが,当人はco-labがクリエーターの集まりであり,またco-labが会員制であることからco-lab西麻布における展示が一般公開であるとは認識していなかったためである。
以上のように,出願人である山梨県としては意匠登録出願を行う予定であったのであって,出願前にこのような記事の掲載を望むものではなく,したがってこれは山梨県の意に反してなされたものである。

2 出願人の意に反した公開であることの証明願
請求人は,意見書の後,平成28年8月5付けの手続補足書において,出願人の意に反した公開であることの証明願(別紙第3)を提出して,以下の事項についての伊藤聡一氏の証明を得たことを補足した。
(1)証明者の経歴
本願意匠の公開時期である平成25年5月当時は,co-lab西麻布の企画である展示イベント「マテリアル・ガーデン」のキュレーターとして展示企画,展示品のセレクトに携わっていたこと。
(2)公開の事実
ア co-lab西麻布における展示
表題:「月見里のぬり絵巻」
展示:平成25年5月10日
運営者:co-lab
会員制
デザイン提供:山梨県工業技術センター デザイン技術部 串田賢一
公開の内容:「塗り絵用巻物」
イ インターネットにおける掲載
表題:「月見里のぬり絵巻」
展示:平成25年5月10日
運営者:co-lab
会員制
デザイン提供:山梨県工業技術センター デザイン技術部 串田賢一
公開の内容:「塗り絵用巻物」
(3)出願人の意に反した公開であることの証明
出願人は平成25年10月4日に巻物風の塗り絵ができる用紙の意匠に関し,意匠に係る物品を「塗り絵用紙」とする意匠登録出願を行った。
意願2003-023371号の意匠
これに先立つ平成25年5月10日に上記co-lab西麻布において,表題を「月見里のぬり絵巻」とする展示がなされた。
確かにこれは,山梨県工業技術センターデザイン技術部に所属する串田賢一が,co-lab西麻布の運営者であった伊藤聡一氏の勧めに応じて出展したものであるが,串田賢一はco-labがクリエーターの集まりであり,またco-labが会員制であることからco-lab西麻布おける展示が一般公開であるとは認識していなかったためである。
もちろん,山梨県工業技術センターデザイン技術部に所属する串田賢一は,出願準備を進めていたこともあって,上記展示の事実がインターネットにて公開されることは全く想定していなかったのである。
以上のように,上記co-lab西麻布おける展示が一般公開ではなく,また出願人の意に反して平成25年5月10日に上記co-lab西麻布における展示についての記事がインターネットに掲載されてしまったのである。

3 平成28年10月25日の請求人の回答
(1)当審による請求人に対する平成28年9月15日の審尋(要旨)
請求人は,平成28年8月9日付けの意見書において,「本願意匠は意匠法第4条第1項の規定に該当するものであり,意匠法第3条第1項第1号または第2号に該当するに至らなかったものとみなされるべきものであります。」と述べ,また,引用意匠(平成28年6月29日付けの当審の拒絶の理由に記載の意匠)が本願出願前に公開されるに至った経緯などについて述べたが,本願意匠が意匠法第4条第1項の規定に該当するものであると認めるには,意見書に記載された内容のみでは,未だ十分とはいえないものであって,少なくとも下記(ア),(イ)及び(ウ)についての事実を主張し,それを裏付ける書面などによって,立証する必要がある。
(ア)出願人が,公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者であること。
(イ)公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公開された事実。
(ウ)公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者が,意匠登録出願をしていること。
(公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者と当該意匠登録出願の願書に記載された意匠登録出願人とが相違する場合には,公開意匠の公開後に,当該公開意匠についての意匠登録を受ける権利が当該出願人に承継されている事実が明示されると共に証明される必要があります。)(意匠審査基準31.2)
上記を踏まえ,以下について具体的に明らかにされたい。
(ア)については,引用意匠の公開時に引用意匠の意匠登録を受ける権利を有する者が以下のどれに相当するかについて。
ア.創作者(串田氏)が意匠登録を受ける権利を有する者である場合
引用意匠がいつ創作されたかを明らかにして,その創作の日から引用意匠の公開までに引用意匠の意匠登録を受ける権利を誰にも承継させていない事実を主張し,立証する。
イ.出願人(山梨県)が意匠登録を受ける権利を有する者である場合
引用意匠の公開時までに引用意匠の意匠登録を受ける権利を創作者(串田氏)が山梨県に承継した事実を主張し,立証する。
ウ.第三者が意匠登録を受ける権利を有する者である場合
第三者が誰であるかを明示し,その者が引用意匠の公開までに引用意匠の意匠登録を受ける権利を創作者(串田氏)から承継した事実を主張し,立証する。
立証にあたっては,当該事実を証明する書面((例)署名及び捺印のある創作者からの譲渡契約書,宣誓書など)を提出するなどして明らかされたい。
(2)審尋に対する請求人の回答
(ア)引用意匠がいつ創作されたかを明らかにして,その創作の日から引用意匠の公開(平成25年5月10日)までに引用意匠の意匠登録を受ける権利を誰にも承継させていない事実を,平成25年5月当時の山梨県工業技術センター・デザイン技術部部長吉村千秋氏の証明書(意匠の創作からその公開までに意匠登録を受ける権利が誰にも承継されていなかったことの証明願)(別紙第4)を提出して明らかにする。
(イ)「公開時における公開意匠(引用意匠)の意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公開された事実」については,別途手続補足書をもって,意匠登録を受ける権利を有する者(創作者)の意に反した公開であることの証明願(別紙第5)を提出し,当該展示施設運営に携わるco-labの会員であり,展示品の提供を勧めた伊藤聡一氏が,当該公開が串田氏の了解を得ないでなされた展示であったこと,すなわち意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公開されたことを証明している。
(ウ)本願意匠の出願は,出願人(山梨県)によってなされたものであるので,平成25年9月9日付けの職員職務発明届(知事宛)(別紙第6),平成25年9月26日付けの譲渡書(知事宛)(別紙第7)を,別途手続補足書をもって提出し,公開意匠について意匠登録を受ける権利が本願の意匠登録出願前に出願人に承継されている事実を証明する。

当審注:上記別紙第5に係る平成28年10月24日付けの意匠登録を受ける権利を有する者の意に反した公開であることの証明願については,山梨県工業技術センターのデザイン技術部長金丸勝彦氏が伊藤聡一氏に証明を求めるもので,両者の押印が認められ,内容については,おおむね,前回提出された上記別紙3に係る平成28年8月9付けの証明願の「出願人の意に反した公開」を「意匠登録を受ける権利を有する者の意に反した公開」としたことに伴う変更を行ったものであって,3.意匠登録を受ける権利を有する者の意に反した公開であることの証明の記載は「出願人(山梨県)は創作者(意匠登録を受ける権利を有する)である串田賢一から平成25年9月26日付けで意匠登録を受ける権利の譲渡を受け,出願人は平成25年10月4日に巻物風の塗り絵ができる用紙の意匠に関し,意匠に係る物品を「塗り絵用紙」とする意匠登録出願を行った。」とした。

4 平成29年1月24日の請求人の回答書
(1)当審による請求人に対する平成28年12月15日の審尋(要旨)
「請求人は,平成28年11月25日の回答書及び平成28年10月28日付けの手続補足書(証明願2件,発明届及び譲渡書を添付)によって,
(ア)公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者が創作者である串田賢一氏であること。
(イ)公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者(串田賢一氏)の意に反して公開された事実。
(ウ)公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者が,意匠登録出願をしていること(本願の出願人である山梨県が意匠登録出願前に串田賢一氏より意匠登録を受ける権利について譲渡されていたこと)。
について主張し,立証されたが(イ)「公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者(串田賢一氏)の意に反して公開された事実。」については,以下の点が未だに不明である。
[不明な点]
ア.公開時における公開意匠の意匠登録を受ける権利を有する者(串田賢一氏)による意に反して公開された事実の主張及び立証について
(A).串田賢一氏が公開意匠(製品名称「ぬり絵巻」である「塗り絵用巻物」)を意匠登録出願前に第三者(伊藤聡一氏)へ提供するに際し,串田賢一氏が当然に公開されないと思うに足る事実。
(B).公開意匠(「塗り絵用巻物」(以下,巻物という))を伊藤聡一氏へ提供するに際し,伊藤聡一氏による公開が予想された場合,それを未然に防ぐために串田賢一氏が何らかの配慮をしていたか否か。
[不明である理由]
ア.について「公開時における公開意匠の意匠登録を受ける権利を有する者(串田賢一氏)による意に反して公開された」とは,「出願の意匠について,その出願前に公然知られたものにならないよう,配慮をしていたにもかかわらず,意匠登録を受ける権利を有する者のその意に反して公開された」ことをいうものと解されるところ,串田賢一氏の「意に反して公開されたこと」の主張及び立証は完全になされていない。すなわち,公開意匠(巻物)の伊藤聡一氏の公開を予想しないことが当然である場合,その事実を示す具体的な証拠,また,当然公開が予想できた場合,串田賢一氏が伊藤聡一氏に巻物を提供するにあたり,巻物が公然知られたものにならないための配慮をしていた事実について具体的な証拠が示されていない。
(2)審尋に対する請求人の回答
今回,(イ)の「公開時における公開意匠(引用意匠)についての意匠登録を受ける権利を有する者(串田賢一氏)の意に反して公開された事実」が不明であるとの指摘を受けた。
そこで当時の状況を再度確認したところ,串田賢一氏は口頭で巻物の提供にあたって「巻物を事前に許可なく公開しない。」との誓約を伊藤聡一氏と交わしていたにもかかわらず,伊藤聡一氏がその誓約に反して公開した事実が判明した。
そこで,当該事実を主張し,それを裏付ける書面(串田賢一氏及び伊藤聡一氏両名の押印付の証明書(平成29年1月20日付けの出願人の意に反した公開であることの証明願)(別紙第8)を提出して当該事実を立証した。

当審注:上記別紙第8に係る平成29年1月20日付けの意匠登録を受ける権利を有するものの意に反した公開であることの証明願については,上記別紙第3に係る平成28年8月9付け出願人の意に反した公開であることの証明願と同様の体裁で,山梨県工業技術センターのデザイン技術部の串田賢一氏が伊藤聡一氏に証明を求めるもので,両者の押印が認められ,内容については,おおむね,平成28年8月9付けで提出された出願人の意に反した公開であることの証明願の内容に沿っており,3.出願人の意に反した公開であることの証明の「串田賢一はco-labがクリエーターの集まりであり,またco-labが会員制であることからco-lab西麻布おける展示が一般公開であるとは認識していなかったためである」とあった記載を「串田賢一は口頭で『巻物を事前に許可なく公開しない』との誓約を伊藤聡一氏と交わしていたにもかかわらず,伊藤聡一氏がその誓約に反して公開してしまったものである。」とした内容である。

第4 当審の判断
1 当審の拒絶の理由における引用意匠
当審が拒絶の理由に引用した意匠は,上記第2のとおり,公然知られたと認められる日が,平成25年(2013年)5月10日であって,インターネットに掲載されたものであり,本願の意匠登録出願の日が上記第1のとおり,平成25年(2013年)10月4日であるから,意匠登録出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠であり,意匠法第3条第1項第2号に該当するに至った意匠と認められる。
また引用意匠の形態は,全体形状は,円柱状の芯材にその上下端部を多少露出する程度に幅の狭い巻き広げ可能な帯状用紙部の内方端辺部を留めて巻き付け,外方端辺縁部に取付けた紐状材で外周を括っており,具体的構成態様として,帯状用紙部は,表装紙のない帯状用紙のみから構成され,帯状用紙部外方端辺の全幅にわたって極細径の略円柱棒状の発装部を設けており,その帯状用紙部外方端辺略中央には,撚りによる凹凸のある長尺のこより紐材を留めつけて形成し,帯状用紙部の外周面端辺寄りに細長長方形状の短冊状の題箋部を付加し,色彩を現したものであって,縁材部及び芯部は茶色,こより紐材,用紙部及び題箋部はおおむね白色としたものである。

2 新規性喪失の例外規定の適用についての判断
意匠法第4条第1項の規定の適用について,以下,検討し,判断する。
(1)意匠法第4条第1項の規定の適用について
意匠法第4条第1項の規定,すなわち,「意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至つた意匠は,その該当するに至つた日から6月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第1項及び第2項の規定の適用については,同条第1項第1号又は第2号に該当するに至らなかつたものとみなす。」との規定を適用するための要件を満たしているかの判断においては,次の(A)又は(B)いずれかの意匠に該当するに至った意匠について,以下の(a)ないし(d)の事実(要件事実)が明示されると共に証明される必要がある。
(A)意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠(意匠法第3条第1項第1号の規定に該当するに至った意匠)
(B)本願の意匠登録出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠(意匠法第3条第1項第2号の規定に該当するに至った意匠)
(a)公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者が誰であるか。
創作者が意匠登録を受ける権利を第三者へ承継して公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者が創作者と相違する場合には,その事実。
(b)公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公開された事実。
(c)公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者が,意匠登録出願をしていること。
なお,公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者と当該意匠登録出願の願書に記載された意匠登録出願人とが相違する場合には,公開意匠の公開後に,当該公開意匠についての意匠登録を受ける権利が当該出願人に承継されている事実が明示されると共に証明される必要がある。
(d)当該意匠登録出願が,公開意匠が最初に公開された日から6か月以
内に出願されていること。
(2) 意匠法第4条第1項の規定を適用するための要件事実への当てはめ
まず,上記第4の1に示したとおり,当審が拒絶の理由において引用した意匠は,上記の「(B)本願の意匠登録出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠」であり,意匠法第3条第1項第2号に該当するに至った意匠(以下「本件公開意匠」という。)と認められる。
次に,要件事実「(d)当該意匠登録出願が,公開意匠が最初に公開された日から6か月以内に出願されていること」については,本願の出願日が平成25年10月4日であるから,本願が,本件公開意匠の掲載年月日(平成25年5月10日)からほぼ5ヶ月後,すなわち,6か月以内に出願されたことは明らかである。
また,要件事実「(a)公開時における公開意匠の意匠登録を受ける権利を有する者が誰であるか」,「(c)公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者が,意匠登録出願をしていること」及び「(b)公開意匠が公開時に公開意匠について意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公開された事実」については,平成28年8月9日の意見書及び平成28年8月5付けの「出願人の意に反した公開であることの証明願」(別紙第3)においては明確に示されていなかったので,平成28年9月14日付けの審尋によってその点を明らかにするよう求めた。そして,平成28年10月25日の回答書で主張された事実を立証する平成28年10月24日付けの「意匠の創作からその公開までに意匠登録を受ける権利が誰にも承継されていなかったことの証明願」(別紙第4),「串田賢一(創作者)の山梨県への平成25年9月9日付けの発明届の写し」(別紙第6)及び「串田賢一(創作者)の山梨県への平成25年9月26日付けの譲渡書の写し」(別紙第7)によって,「(a)公開時における公開意匠の意匠登録を受ける権利を有する者」が創作者である「串田賢一氏」であること,が認められ,また,本願出願前に本願の出願人である「山梨県」に本願出願前にその権利が譲渡されている事実が証明されているから,「(c)公開時における公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者が,意匠登録出願をしていること」が認められる。
しかしながら,依然として,「公開時における公開意匠について意匠登録を受ける権利を有する者」(上記により串田賢一氏)がその「意に反して」(「意に反して」とは公開される事態が予想できるにもかかわらず単に見過ごして公開されてしまったというものではなく,意匠を開示する際には守秘義務を課すなど出願前に一定の配慮をしていたにもかかわらず,公開されてしまった状態と解される。)本件公開意匠が公開された事実は,十分に証明されてはいなかったので,平成28年12月14日付けで審尋を行い,平成29年1月24日の回答書及び平成29年1月20日付けの「出願人の意に反した公開であることの証明願」(別紙第8)が提出された。
この内容については,平成25年5月10日にco-lab西麻布において,表題を「月見里のぬり絵巻」とする展示がなされたが,それは,「串田賢一は口頭で『巻物を事前に許可なく公開しない』との誓約を伊藤聡一氏と交わしていたにもかかわらず,伊藤聡一氏がその誓約に反して公開してしまったものである。」のであり,その意に反した「上記の展示の事実がインターネットに公開されることはまったく想定していなかった」と記載され,両者の押印がされたものであって,これによって,本件公開意匠について意匠登録を受ける権利を有する者である串田賢一氏が守秘義務を課していたにもかかわらず,本件公開意匠が同氏の意に反して公開されたことが立証されたというべきであるので,「(b)公開時における本件公開意匠についての意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公開された事実」が認められる。
であるから,意匠法第4条第1項の規定を適用するための要件事実(a)ないし(d)が認められ,本件公開意匠は,意匠法第4条第1項の規定が適用される。
(3)小括
したがって,本件公開意匠は,意匠法第3条第1項第2号に該当するに至った意匠ではあるが,上述のとおり,同法第4条第1項の規定を適用するための要件事実(a)ないし(d)が認められるので,本件公開意匠については,同項の規定が適用され,本件公開意匠は,本願意匠についての同法第3条第1項の規定の適用については同項第2号に該当する意匠に至らなかったものとみなされる。

第5 むすび
以上のとおり,本件公開意匠(当審が拒絶の理由において引用した意匠)は,意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当するに至らなかったとみなされるから,本願意匠と本件公開意匠の類否について判断するまでもなく,本願意匠は,同項第3号に掲げる意匠に該当しないので,同項の規定によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2017-04-18 
出願番号 意願2013-23371(D2013-23371) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (F3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鶴田 愛並木 文子 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 渡邉 久美
刈間 宏信
登録日 2017-05-19 
登録番号 意匠登録第1578913号(D1578913) 
代理人 土橋 博司 

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