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審決分類 審判    K6
審判    K6
管理番号 1329157 
審判番号 無効2016-880014
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-06-20 
確定日 2017-05-08 
意匠に係る物品 シャワーヘッド用カートリッジ 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1476957号「シャワーヘッド用カートリッジ」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,平成28年6月20日付けの審判請求において,「登録第1476957号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証の書証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
(1)本件登録意匠は,出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の図2に記載された意匠(以下「甲第1号証意匠1」という。)(無効理由1),及び図1に記載された意匠(以下「甲第1号証意匠2」という。)(無効理由2)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(2)本件登録意匠は,出願前に頒布された刊行物である甲第1号証意匠1及び甲第1号証意匠2に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。(無効理由3)

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠登録第1476957号の意匠公報に記載のとおり,本意匠を意匠登録第1476774号とする関連意匠であり,意匠に係る物品を「シャワーヘッド用カートリッジ」とし,実線で表された部分を部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本件実線部分」という。)としたもので,その形態(構成態様)は以下に示すとおりとしたものである。
なお,意匠に係る物品の説明において,「この意匠に係る物品はシャワーヘッド用カートリッジであって,使用状態を示す参考図に示すように,本物品の内部に化粧剤等を充填し,シャワーヘッドに装着して使用されるものである。なお,本物品内部に充填された化粧剤等が,シャワーヘッド内部を流れる水流に溶出することによりシャワーヘッドから化粧成分等を含む水流を吐出することができる。」との記載がある。
ア 本件実線部分の用途及び機能について
本件実線部分は,その意匠に係る物品の説明及び使用状態を示す参考図の記載によれば,シャワーヘッド用カートリッジの端部に突設された接続口部の接続部分,すなわち,シャワーヘッド側の接続部材と嵌合する部分に係り,シャワーヘッドへの水溶液の流出路としての機能も有するものと認められる。
イ 本件実線部分の位置,大きさ,範囲について
本件実線部分は,全体が円筒状の蓋付きカートリッジにおいて,カートリッジ(本体)の上部(流出側)に位置し,カートリッジ(本体)の上端から全高の略5%の長さ,幅はカートリッジ直径の略2/3の大きさ,範囲を占める。
ウ 本件実線部分の形態について
(a)基本的構成態様について
本件実線部分は,全体が細口の短円筒状(短円筒状部)で,その上縁部付近にOリングを配したもので,上端から下方へ順に,鍔状の上縁部,Oリング,上縁部の軸方向の長さより長い下方円筒部からなり,上面はドーナツ状平坦面状(ドーナツ状平坦面状部)でその内側(中央)が開口する,との基本的構成態様を有する。
具体的構成態様は以下のとおりである。
(b)短円筒状部の外周面について
短円筒状部は,外径に対する長さ(軸方向の長さ)を略1/2とする短円筒状で,厚みの薄い鍔状の上縁部下の溝に上縁部の厚みよりやや太いOリングが嵌めこまれたもので,下方円筒部の長さ(軸方向の長さ)を上縁部の厚みの2倍強(外径の略0.2の長さ)としている。
(c)短円筒状部の上面について
ドーナツ状平坦面状部は,外周縁から内周縁の開口部際まで平坦面状で,中央開口部はその内径が外径の1/2弱の大きさとしている。

(2)甲第1号証意匠1
甲第1号証意匠1は,2008年4月24日付けで特許庁が発行した公開特許公報,特開2008-93188号(発明の名称「シャワー用カートリッジ」)の図2に記載されたシャワー用カートリッジの意匠であり,その意匠は,甲第1号証に示すとおりである。本件実線部分に相当する部分は,段差手前の細い円筒部分である(以下「甲1相当部分1」という。)。
甲第1号証の明細書によれば,甲第1号証意匠1は,図2に表された「シャワー用カートリッジ」の意匠で,図4に示すようにシャワーヘッドに内挿されるものである。図面の簡単な説明によれば,図2は第2実施形態に係るカートリッジの(a)軸線方向断面図,(b)軸線直交方向断面図を示す。図4はカーリッジを内挿したシャワーヘッドの斜視図と記載されている。
明細書によれば,[0001]において「この発明は,水道水等に,機能性水溶性物質,例えば,亜硫酸カルシウムやアスコルビン酸などの脱塩素剤,ヒアルロン酸や尿素などの保湿剤,各種ビタミン類やコラーゲンなどの薬用成分などを徐放してシャワーから噴出させるシャワー用カートリッジに関するものである。」と記載されている。
また,当該第2実施形態に係るカートリッジについて,[0028]から[0034]までの記載によれば,円筒状ケース11の内側に,軸線方向に延びる排水管12が設けられたもので,排水管12とケース11の間に機能性水溶性物質を溶出する粒状の濾材fが詰められるもので,シャワーヘッドに装着して通水すると,図2(a)の→に示されるように,通水口16を介して原水の水道水がケース11に流人し,濾材fに接触して,通水口17を介して排水管12の内径面から排出され,逆止弁18から流出するものである。
したがって,甲第1号証意匠1は,「シャワー用カートリッジ」に係り,図4に示すようにシャワーヘッドに装着して使用されるもので,本シャワーカートリッジの内部に,濾材,具体的には機能性水溶性物質,例えば,亜硫酸カルシウムやアスコルビン酸などの脱塩素剤,ヒアルロン酸や尿素などの保湿剤,各種ビタミン類やコラーゲンなどの薬用成分などが詰められ,これらの濾材が溶出した水をシャワーから吐出させるものと認められる。また,図2(a)においては,流出側を下にして配されているが,図4のシャワーヘッドに装着された状態では,流出側か上,通水口16が下となるように取り付けられるものである。
なお,図2は断面図であるが,当該第2実施形態に係るカートリッジについて,[0028]において,円筒状のケース11と記載されていること,図2(b)に表された軸線直交方向断面図が円形であること等を総合すると,その構成態様は以下のとおりと認められる。
本件登録意匠に対応するように,図2の上下を逆さにして,以下,述べる。
ア 甲1相当部分1の用途及び機能について
甲1相当部分1は,シャワーヘッド用カートリッジの端部に突設されたシャワーヘッドの通水路に接続されるキャップ14の突出部分,すなわち,シャワーヘッド側の接続部材と嵌合する部分に係り,シャワーヘッドへの水溶液の流出路としての機能も有するものと認められる。
イ 甲1相当部分1の位置,大きさ,範囲について
甲第1号証意匠1は,全体が円筒状のカートリッジの上下に接続口部を突設したもので,甲1相当部分1は,カートリッジの流出側端部に位置し,カートリッジの先端から全高の略5%の長さ,幅はカートリッジ直径の略2/3の大きさ,範囲を占める。
ウ 甲1相当部分1の形態について
(a)基本的構成態様について
甲1相当部分1は,全体が細口の短円筒状(短円筒状部)で,その上縁部付近にOリングを配したもので,上端から下方へ順に,鍔状の上縁部,Oリング,上縁部の軸方向の長さより長い下方円筒部からなり,上面はドーナツ状平坦面状(ドーナツ状平坦面状部)でその内側(中央)が開口する,との基本的構成態様を有する。
各部の具体的構成態様は以下のとおりである。
(b)短円筒状部の外周面について
短円筒状部は,外径に対する長さ(軸方向の長さ)を略1/2とする短円筒状で,厚みの薄い鍔状の上縁部下の溝に上縁部の厚みよりやや太いOリングが嵌めこまれたもので,下方円筒部は,その長さ(軸方向の長さ)を上縁部の厚みの2倍弱(外径の略0.15の長さ)としている。
(c)短円筒状部の上面について
ドーナツ状平坦面状部は,その内周縁に細幅斜面状の面取りがあり,中央開口部はその内径が外径の1/2強の大きさとしている。

(3)甲第1号証意匠2
甲第1号証意匠2は,2008年4月24日付けで特許庁が発行した公開特許公報,特開2008-93188号(発明の名称「シャワー用カートリッジ」)の図1に記載されたシャワー用カートリッジの意匠であり,その意匠は甲第1号証に示すとおりである。本件実線部分に相当する部分は,円筒部分である(以下「甲1相当部分2」という。)。
甲第1号証の明細書によれば,甲第1号証意匠2は,図1に表された「シャワー用カートリッジ」の意匠で,図4に示すようにシャワーヘッドに内挿されるものである。図面の簡単な説明によれば,図1は第1実施形態に係るカートリッジの(a)軸線方向断面図,(b)軸線直交方向断面図を示す。図4はカートリッジを内挿したシャワーヘッドの斜視図と記載されている。
上記(2)甲第1号証意匠1で述べた明細書の[0001]における記載「この発明は,水道水等に,機能性水溶性物質,例えば,亜硫酸カルシウムやアスコルビン酸などの脱塩素剤,ヒアルロン酸や尿素などの保湿剤,各種ビタミン類やコラーゲンなどの薬用成分などを徐放してシャワーから噴出させるシャワー用カートリッジに関するものである。」は,甲第1号証意匠2においても共通する。
また,当該第1実施形態に係るカートリッジについて,[0022]から[0027]までの記載によれば,円筒状ケース1の内側に,軸線方向に延びる導水管2が設けられたもので,導水管2とケース1の間に機能性水溶性物質を溶出する粒状の濾材fが詰められるもので,シャワーヘッドに装着して通水すると,図1(a)の→に示されるように,通水口6を介して原水の水道水がケース1に流人し,濾材fに接触して,通水口7を介してケース1の外径面から排出され,下流端を開いた場合はそのまま排出されるものである。
したがって,甲第1号証意匠2は,「シャワー用カートリッジ」に係り,図4に示すようにシャワーヘッドに装着して使用されるもので,本シャワーカートリッジの内部に,濾材,具体的には機能性水溶性物質,例えば,亜硫酸カルシウムやアスコルビン酸などの脱塩素剤,ヒアルロン酸や尿素などの保湿剤,各種ビタミン類やコラーゲンなどの薬用成分などが詰められ,これらの濾材が溶出した水をシャワーから吐出させるものと認められる。また,図1(a)においては,流出側を下にして配されているが,図4のシャワーヘッドに装着された状態では,流出側が上となるように取り付けられるものである。
なお,図1は一部切欠き断面図であるが,当該第1実施形態に係るカートリッジについて,[0022]において,円筒状のケース1と記載されていること,図1(b)に表された軸線直交方向断面図が円形であること等を総合すると,その構成態様は以下のとおりと認められる。
本件登録意匠に対応するように,図1の上下を逆さにして,以下,述べる。
ア 甲1相当部分2の用途及び機能について
甲1相当部分2は,シャワーヘッド用カートリッジの端部に突設されたシャワーヘッドの通水路に接続されるキャップ4の突出部分,すなわち,シャワーヘッド側の接続部材と嵌合する部分に係り,シャワーヘッドへの水溶液の流出路としての機能も有するものと認められる。
イ 甲1相当部分2の位置,大きさ,範囲について
甲第1号証意匠2は,全体が円筒状のカートリッジの上下に接続口部を突設したもので,甲1相当部分2は,カートリッジの流出側端部に位置し,カートリッジの先端から全高の略5%の長さ,幅はカートリッジ直径の略2/3の大きさ,範囲を占める。
ウ 甲1相当部分2の形態について
(a)基本的構成態様について
甲1相当部分2は,全体が細口の短円筒状(短円筒状部)で,その上縁部付近にOリングを配したもので,上端から下方へ順に,鍔状の上縁部,Oリング,上縁部の軸方向の長さより長い下方円筒部からなり,上面はドーナツ状平坦面状(ドーナツ状平坦面状部)でその内側(中央)が開口する,との基本的構成態様を有する。
具体的構成態様は以下のとおりである。
(b) 短円筒状部の外周面について
短円筒状部は,外径に対する長さ(軸方向の長さ)を略1/2とする短円筒状で,厚みの薄い鍔状の上縁部下の溝に上縁部の厚みよりやや太いOリングが嵌めこまれたもので,下方円筒部は,その長さ(軸方向の長さ)を上縁部の厚みの2倍弱(外径の略0.15の長さ)としている。
(c) 短円筒状部の上面について
ドーナツ状平坦而状部は,その内周縁に細幅斜面状の面取りがあり,中央開口部はその内径が外径の1/2弱の大きさとしている。

(4)本件登録意匠と甲第1号証意匠1(無効埋由1)
本件登録意匠に対応するように,図2の上下を逆さにして,以下,対比する(参照 甲第8号証)。
ア 意匠に係る物品について
本件登録意匠と甲第1号証意匠1は,ともにシャワーヘッド用カートリッジである点において共通する。
そして,カートリッジ内部に水溶性の化粧剤,薬剤等を充填し,シャワーヘッドに装着して使用するもので,シャワーヘッドから水流に溶出した各種成分を含む水,浄水等を吐出するとの具体的な用途及び機能においても共通する。
イ 本件実線部分と甲1相当部分1の用途及び機能について
両部分は,シャワーヘッド用カートリッジの接続部分,すなわち,シャワーヘッド側の接続部材と嵌合する部分であり,上面中央の開口部がシャワーヘッドへの水溶液等の流出路としての機能も有する点で,用途及び機能が共通する。
ウ 本件実線部分と甲1相当部分1の位置,大きさ,範囲について
両部分は,円筒状のカートリッジの流出側端部に位置している点で共通し,その大きさ,範囲についても共通する。
エ 本件実線部分と甲1相当部分1の形態の共通点及び差異点について
本件実線部分と甲1相当部分1を対比すると,以下の点の共通点及び差異点がある。
A 共通点
(a)基本的構成態様
両部分は,全体が細口の短円筒状(短円筒状部)で,その上縁部付近にOリングを配したもので,上端から下方へ順に,鍔状の上縁部,Oリング,上縁部の軸方向の長さより長い下方円筒部からなり,上面はドーナツ状平坦面状(ドーナツ状平坦面状部)でその内側(中央)が開口する,との基本的構成態様において共通する。
具体的構成態様のうち,以下の点において共通する。
(b) 短円筒状部の外周面について
短円筒状部は,外径に対する長さ(軸方向の長さ)を略1/2とする短円筒状で,厚みの薄い鍔状の上縁部下の溝に上縁部の厚みよりやや太いOリングが嵌めこまれたもので,下方円筒部は,上縁部の厚みより長いものとしている。
B 差異点
具体的構成態様のうち,以下の点において差異がある。
(a)下方円筒部の長さについて
下方円筒部の長さについて,本件実線部分の外径に対する下方円筒部の長さ(軸方向の長さ)は,甲1相当部分1の外径に対する下方円筒部の長さよりやや長い点。
(b)上面のドーナツ状平坦而状部の内周縁部の態様について
本件実線部分は,上面のドーナツ状平坦面状部は,外周縁から内周縁の開口部際まで平坦面状としているのに対して,甲1相当部分1のドーナツ状平坦面状部は,内周縁に細幅斜面状の面取りがあり,中央開口部が上面全体に占める大きさを本件実線部分の中央開口部が上面全体に占める大きさより僅かに大きいものとしている点。
オ 両意匠の類否判断
上記(4)エ Aで述べた共通点である「全体が細口の短円筒状で,その上縁部付近にOリングを配したもので,上端から下方へ順に,鍔状の上縁部,Oリング,上縁部の軸方向の長さより長い下方円筒部からなり,上面はドーナツ状平坦面状で内側(中央)が開口する,との基本的構成態様」は両意匠(部分)全体を支配する骨格的態様であり,需要者(取引者を含む。)に視覚的に強い共通感を与えるものである。さらに,短円筒状部について,外径に対する長さ(軸方向の長さ)を略1/2とする短円筒状で,厚みの薄い鍔状の上縁部下の溝に上縁部の厚みよりやや太いOリングが嵌めこまれたものとし,下方円筒部は,上縁部の厚みより長いものとしているとの具体的構成態様が,上記の共通感を一層強めている。
これに対し,上記(4)エ Bで述べた差異点は,以下に述べるように,いずれも形態全体としてみれば,限られた部分における軽微な差異であって,類否判断に与える影響は微弱なものにすぎず,本件登録意匠は甲第1号証意匠1に類似することは明らかである。
(a)下方円筒部の長さの差異について
シャワーヘッド等に装着されるカートリッジの接続口の外周に,水漏れ等を防ぐシール用Oリングを嵌めた構成は,この種物品において極めてありふれた構成であるところ,Oリングから下方(根元側)部分の長さはシャワーヘッド等の取り付け側のサイズに対応して適宜変更されるもので,本件実線部分に見られるような当該部位の長さを上縁部の厚みより,より長くした態様は,例えば,以下に挙げた登録意匠にも見られるように,本件登録意匠の出願前より見られるありふれた態様であり,かつ,本件実線部分と甲1相当部分1における外径に対する下方円筒部の長さの差異は極めて僅かであり,取り立てて需要者(取引者を含む。)の注意を強く引くものとはいえず,限られた部分における軽微な差異にすぎない。
i)意匠登録第1034981号意匠(甲第2号証)
ii)意匠登録第1054878号意匠(甲第3号証)
iii)意匠登録第1182423号意匠(甲第4号証)
iv)意匠登録第1418739号意匠(甲第5号証)
(b)上面のドーナツ状平坦面状部の内周縁部の態様について
本件実線部分のように上面ドーナツ状平坦面がそのまま周縁際まで平坦面状とした態様は,以下の例示に見られるように,本件登録意匠の出願前より普通に見られる態様であり,面取りのない平坦な態様が格別新規な特徴あるものとはいえず,本件実線部分の開口部の大きさが甲1相当部分1に比べて若干小さい点についても微差の範囲であり,当該差異が需要者(取引者を含む。)の注意を強く引くものとは到底いえず,類否判断に与える影響は微弱である。
v)特開2005-23583号の図1,図5及び図6に表された意匠(甲第6号証)
vi)意匠登録第1318992号意匠(甲第7号証)
したがって,先に述べたように,両意匠の共通点は,両意匠の部分全体の骨格的態様を表出するものであって,需要者(取引者を含む。)の注意を強く引く部分であり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものである。これに対し,前述したごとく,(a)下方円筒部の長さの差異,及び(b)上面のドーナツ状平坦面状部の内周縁部の態様の差異は,いずれも両意匠全体に与える影響は小さく,これらの差異を総合してもなお,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものであり,本件登録意匠には甲第1号証意匠1とは異なる意匠的効果を有する新規な特徴が格別見出せないものであるから,両意匠が類似することは明らかである。
カ 以上述べたとおり,本件登録意匠は,その出願前に特許庁が発行した特許公開公報に記載された甲第1号意匠1に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,意匠登録を受けることができない意匠であり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。

(5)本件登録意匠と甲第1号証意匠2(無効理由2)
本件登録意匠に対応するように,図1の上下を逆さにして,以下,対比する(参照 甲第9号証)。
ア 意匠に係る物品について
本件登録意匠と甲第1号証意匠2は,ともにシャワーヘッド用カートリッジである点において共通する。
そして,カートリッジ内部に水溶性の化粧剤,薬剤等を充填し,シャワーヘッドに装着して使用するもので,シャワーヘッドから水流に溶出した各種成分を含む水,浄水等を吐出するとの具体的な用途及び機能においても共通する。
イ 本件実線部分と甲1相当部分2の用途及び機能について
両部分は,シャワーヘッド用カートリッジの接続部分,すなわち,シャワーヘッド側の接続部材と嵌合する部分であり,上面中央の開口部がシャワーヘッドへの水溶液等の流出路としての機能も有する点で,用途及び機能が共通する。
ウ 本件実線部分と甲1相当部分2の位置,大きさ,範囲について
両部分は,円筒状のカートリッジの流出側端部に位置している点で共通し,その大きさ,範囲についても共通する。
エ 本件実線部分と甲1相当部分2の形態の共通点及び差異点について
本件実線部分と甲1相当部分2を対比すると,以下の共通点及び差異点がある。
A 共通点
(a)基本的構成態様
両部分は,全体が細口の短円筒状(短円筒状部)で,その上縁部付近にOリングを配したもので,上端から下方へ順に,鍔状の上縁部,Oリング,上縁部の軸方向の長さより長い下方円筒部からなり,上面はドーナツ状平坦面状(ドーナツ状平坦面状部)でその内側(中央)が開口する,との基本的構成態様において共通する。
具体的構成態様のうち,以下の点において共通する。
(b)短円筒状部の外周面について
短円筒状部は,外径に対する長さ(軸方向の長さ)を略1/2とする短円筒状で,厚みの薄い鍔状の上縁部下の溝に上縁部の厚みよりやや太いOリングが嵌めこまれたもので,下方円筒部は,上縁部の厚みより長いものとしている。
B 差異点
具体的構成態様のうち,以下の点において差異がある。
(a)下方円筒部の長さについて
下方円筒部の長さについて,本件実線部分の外径に対する下方円筒部の長さ(軸方向の長さ)は,甲1相当部分2の外径に対する下方円筒部の長さよりやや長い点。
(b)上面のドーナツ状平坦而状部の内周縁部の態様について
本件実線部分は,上面のドーナツ状平坦面状部は,外周縁から内周縁の開口部際まで平坦面状としているのに対して,甲1相当部分2のドーナツ状平坦面状部は内周縁に細幅斜面状の面取りがある点。
オ 両意匠の類否判断
上記(5)エ Aで述べた共通点である「全体が細口の短円筒状で,その上縁部付近にOリングを配したもので,上端から下方へ順に,鍔状の上縁部,Oリング,上縁部の軸方向の長さより長い下方円筒部からなり,上面はドーナツ状平坦面状で内側(中央)が開口する,との基本的構成態様」は,両意匠(部分)全体を支配する骨格的態様であり,需要者(取引者を含む。)に視覚的に強い共通感を与えるものである。さらに,短円筒状部について,外径に対する長さ(軸方向の長さ)を略1/2とする短円筒状で,厚みの薄い鍔状の上縁部下の溝に上縁部の厚みよりやや太いOリングが嵌めこまれたものとし,下方円筒部は,上縁部の厚みより長いものとしているとの具体的構成態様が,上記の共通感を一層強めている。
これに対し,上記(5)エ Bで述べた差異点は,以下に述べるように,いずれも形態全体としてみれば,限られた部分における軽微な差異であって,類否判断に与える影響は微弱なものにすぎず,本件登録意匠は甲第1号証意匠2に類似することは明らかである。
(a)下方円筒部の長さの差異について
シャワーヘッド等に装着されるカートリッジの接続口の外周に水漏れ等を防ぐシール用Oリングを嵌めた構成は,この種物品において極めてありふれた構成であるところ,Oリングから下方(根元側)の長さはシャワーヘッド等の取り付け側のサイズに対応して適宜変更されるもので,本体実線部分に見られるような当該部位の長さを上縁部より長くした態様,すなわち,カートリッジの接続口において先端縁部よりOリングから根元側部分の長さを長くした態様は,例えば,以下に挙げた登録意匠にも見られるように,本件登録意匠の出願前より見られるありふれた態様であり,かつ,本件実線部分と甲1相当部分2の下方円筒部の長さの差異は極めて僅かであり,取り立てて需要者(取引者を含む。)の注意を強く引くものとはいえず,限られた部分における軽微な差異にすぎない。
i)意匠登録第1034981号意匠(甲第2号証)
ii)意匠登録第1054878号意匠(甲第3号証)
iii)意匠登録第1182423号意匠(甲第4号証)
iv)意匠登録第1418739号意匠(甲第5号証)
(b)上面のドーナツ状平坦面状部の内周縁部の態様について
本件実線部分のように上面ドーナツ状平坦面がそのまま内周縁際まで平坦面状とした態様は,以下の例示に見られるように,本件登録意匠の出願前より普通に見られる態様であり,面取りのない平坦な態様が格別新規な特徴あるものとはいえず,当該差異が需要者(取引者を含む。)の注意を強く引くものとは到底いえず,類否判断に与える影響は微弱である。
v)特開2005-23583号の図1,図5及び図6に表された意匠(甲第6号証)
vi)意匠登録第1318992号意匠(甲第7号証)
したがって,先に述べたように,両意匠の共通点は,両意匠の全体の骨格的態様を表出するものであって,需要者(取引者を含む。)の注意を強く引く部分であり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものであるのに対し,前述したごとく,差異点(a)下方円筒部の長さの差異,及び(b)上面のドーナツ状平坦面状部の内周縁部の態様の差異は,いずれも両意匠全体に与える影響は小さく,これらの差異を総合してもなお,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものであり,本件登録意匠には甲号第1号証意匠2とは異なる意匠的効果を有する新規な特徴が格別見出せないものであるから,両意匠が類似することは明らかである。
カ 以上述べたとおり,本件登録意匠は,その出願前に特許庁が発行した特許公開公報に記載された甲第1号意匠2に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,意匠登録を受けることができない意匠であり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。

(6)本件登録を無効とすべき理由(無効理由3)
ア 本件登録意匠は,その出願前に公然知られたシャワーヘッド用カートリッジの意匠の接続部分の形状,すなわち,甲1相当部分1,及び甲1相当部分2を,単に,上面開口部周縁を面取りのない平坦面状とし,Oリングの下方(根元側)の円筒部を僅かに長くした程度にすぎないものであり,当業者であれば格別の創意工夫を要することなく,容易に創作することができたものであり,登録を無効とすべきものである。
イ 本件登録意匠
前記(1)に述べたとおりである。
ウ 甲号第1号証意匠1
前記(2)に述べたとおりである。
エ 甲号第1号証意匠2
前記(3)に述べたとおりである。
オ 本件実線部分と甲1相当部分1を対比すると,前記(4)で述べたように,両部分は以下の差異点を除きほぼ共通する。
(a)下方円筒部の長さについて
下方円筒部の長さについて,本件実線部分の外径に対する下方円筒部の長さ(軸方向の長さ)は,甲1相当部分1の外径に対する下方円筒部の長さよりやや長い点。
(b)上面のドーナツ状平坦面状部の内周縁部の態様について
本件実線部分は,上面のドーナツ状平坦面状部は,外周縁から内周縁の開口部際まで平坦面状としているのに対して,甲1相当部分1のドーナツ状平坦面状部は内周縁に細幅斜面状の面取りがあり,中央開口部が上面全体に占める大きさを本件実線部分の中央開口部が上面全体に占める大きさより僅かに大きいものとしている点。
力 本件実線部分と甲1相当部分2を対比すると,前記(5)で述べたように,以下の差異点を除き共通する。
(a)下方円筒部の長さについて
下方円筒部の長さについて,本件実線部分の外径に対する下方円筒部の長さ(軸方向の長さ)は,甲1相当部分2の外径に対する下方円筒部の長さよりやや長い点。
(b)上面のドーナツ状平坦面状部の内周縁部の態様について
本件実線部分は,上面のドーナツ状平坦面状部は,外周縁から内周縁の開口部際まで平坦面状としているのに対して,甲1相当部分2のドーナツ状平坦面状部は内周縁に細幅斜面状の面取りがある点。
キ 上記(6)オ及び力の差異点についての創作容易性の検討
A 上記(6)オの差異点について
(a)下方円筒部の長さの差異について
この種シャワーヘッド等に装着されるカートリッジの接続口の外周に,水漏れ等を防ぐシール用Oリングを嵌めた構成は,この種物品において極めてありふれた態様であるところ,Oリングから下方(根元側)の長さはシャワーヘッド等の取り付け側のサイズに対応して適宜変更されるもので,Oリングから下方(根元側)の長さを,上縁部より長くすること,すなわち,カートリッジの接続口において先端縁部よりOリングから根元側部分の長さを長くすることは,以下に挙げた登録意匠(例えば,意匠登録第1034981号意匠(甲第2号証),意匠登録第1054878号意匠(甲第3号証)及び意匠登録第1182423号意匠(甲第4号証))に見られるように,本件登録意匠の出願前より,この種物品分野において,普通に行われているものであって,本件登録意匠は,単に接続口のOリングから下方(根元側)部分の長さを当業者にとってありふれた手法に基づき,僅かに変更したにすぎないものであるから,本件実線部分に見られる態様が,格別創作を要するものではない。
(b)上面のドーナツ状平坦面状部の内周縁部の態様について
本件実線部分のように面取りのない平坦円状とすることはありふれた態様であり(例えば,特開2005-23583号の図1,図5及び図6に表されたカートリッジの意匠の接続部分の形状(甲第6号証),並びに意匠登録第1318992号意匠(甲第7号証)),開口部の大きさについても,シャワーヘッド等の接続側の設計に応じて適宜変更されるもので,格別意匠的効果を有するものではない。
B 上記カの差異点について
(a)上記(6)オ(a)において述べたところと同様である。
(b)上記(6)オ(b)において述べたところと同様である。
ク したがって,上記で述べたこの種物品分野において公然知られた意匠を基礎として検討すると,本件登録意匠は,公然知られたシャワーヘッド用カートリッジの意匠である甲1相当部分1,及び甲1相当部分2を,単に,上面開口部周縁をありふれた態様である面取りのない平坦面状とし,上面中央開口部の大きさ及びOリングの下方(根元側)の円筒部の長さをシャワーヘッドの取り付け側の形状に対応して僅かに変更した程度にすぎないものであり,当業者であれば格別の創意工夫を要することなく,容易に創作することができたものであるから,登録を無効とすべきものである。
ケ 以上のとおりであるから,本件登録意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公然知られた,シャワーヘッド用カートリッジの意匠の接続部分の形状(「甲第1号証意匠1」及び「甲第1号証意匠2」)に基づいて,容易に意匠の創作をすることができたものと認められ,意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し,その意匠登録は同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。

(7)むすび
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号及び意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるため,同法第48条第1項第1号により,直ちに無効とされるべきである。

3. 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2008-93188号公報(写し)
(2)甲第2号証:意匠登録第1034981号公報(写し)
(3)甲第3号証:意匠登録第1054878号公報(写し)
(4)甲第4号証:意匠登録第1182423号公報(写し)
(5)甲第5号証:意匠登録第1418739号公報(写し)
(6)甲第6号証:特開2005-23583号公報(写し)
(7)甲第7号証:意匠登録第1318992号公報(写し)
(8)甲第8号証:対比図1
(9)甲第9号証:対比図2


第2 被請求人の答弁及び理由
特許庁より,被請求人に審判請求書を送付し,期間を指定して答弁書の提出を求めたが,請求人の申立及び理由に対して,被請求人からの応答はなかった。


第3 当審の判断
当審は,意匠登録第1476957号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)が,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である甲第1号証の意匠1(以下,「引用意匠1」という。)に記載された意匠と類似しない意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえないと判断する。(無効理由1)
また,本件登録意匠が,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である甲第1号証の意匠2(以下,「引用意匠2」という。)に記載された意匠と類似しない意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえないと判断する。(無効理由2)
そして,本件登録意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である甲第1号証意匠1(引用意匠1)及び甲第1号証意匠2(引用意匠2)の意匠に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものとはいえないので,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえないと判断する。(無効理由3)
その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1476957号の意匠)は,物品の部分について意匠登録を受けようとし,本意匠を意匠登録第1476774号(意願2012-31556号)とする関連意匠の意匠登録出願として,平成24年(2012年)12月26日に意匠登録出願され,平成25年(2013年)7月12日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「シャワーヘッド用カートリッジ」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に表されたとおりのものであって,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で,それ以外の部分を破線で表している。一点鎖線は,部分意匠として登録を受けようとする部分とそれ以外の部分の境界を表している。」(以下,本件登録意匠において,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本件実線部分」という。)としたものである。(別紙第1参照)
すなわち,本件登録意匠は,内部に化粧剤等を充填し,シャワーヘッドに装着して使用される「シャワーヘッド用カートリッジ」である。
本件登録意匠は,全体を細長の略円筒状とし,全体の高さの下約4/5の高さの部分をカートリッジの本体部(以下,「本体部」という。)とし,同径で全体の高さの上約1/5の高さの部分を蓋部(以下,「蓋部」という。)としたものであって,蓋部を装着した状態において蓋部の内側の細い円筒状の突出部が本体部上面中央の開口部に嵌合させるものであり,その蓋部を外した状態において,上面の開口部が通水口であり,外周面がシャワーヘッドの内側の上部にある接続部材にはめ込まれ,シャワーヘッドに装着させる際の接続部となるものであって,本体部の外周の約1/2の径の外周で本体部全体の高さの約1/7の上方に突出し縮径した略円筒状の部分のうち,さらに上方約2/5の高さの上方の開口部付近の部分(以下,「略短円筒状部」という。)を実線部分としたものであって,一点鎖線で囲まれた部分から上の本体部の上端部を本件実線部分としたものである。
本件実線部分の形態は,部分全体を,略短円筒状部とし,略短円筒状部の縦の高さと外周の直径の長さの比を約1:1.7とし,上面中央に外周の径の約45%の径の開口部を設けたものであって,正面視において上端寄りに横長細帯状に表れるO状リング(以下,「O状リング」という。)を設け,O状リングは,切断面を略円形状とし,正面視において,本体部の略短円筒状部の上端寄りに,本件実線部分全体の高さの上から約1/8から約1/2の位置にある断面視略コ字状の凹状部に,上下に僅かに隙間を空けて嵌合させており,平面視すると本体部の外周の径よりO状リングが外側に僅かにはみ出して視認できるものである。

2.無効理由1について(意匠法第3条第1項第3号)
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録の出願の日前に日本国内において公然知られ頒布された刊行物である甲第1号証に記載された【図2】に表された引用意匠1(甲第1号証-1)の意匠の本件実線部分に相当する部分(以下,この部分を「引用相当部分1」という。)(別紙第2参照)と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものであり,意匠登録を受けることができないものであるので,その意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであると主張するので,以下,検討する。

引用意匠1(別紙第2参照)
引用意匠1は,本件登録意匠の出願日前である平成20年(2008年)4月24日に発行された特開2008-93188号の公開特許公報に掲載された【発明の名称】を「シャワー用カートリッジ」とし,保湿材などを除放してシャワーから噴出させることができるもので,【図2】に表された意匠であって,【図2】(a)には軸線方向断面図が表され,(b)には軸線直交方向断面図(短手方向)が表されており,(a)のシャワー用カートリッジの端部のキャップ14の部分が引用相当部分1であり,その形態は,同公報の図面及び関連する説明の記載のとおりのものである。
引用意匠1の図は,いずれも断面図であるが,それらの図からすると,全体を細長の略円筒状とし,略円筒状のケースの上下端部に略短円筒状のキャップを取り付けたものであって,蓋部はないものと認められ,使用時にはシャワーヘッドの内側の上部となる,【図2】(a)の図面上では下方になる縮径した略円筒状の部分であって,本体部の外周の約3/5の径の外周で本体部全体の高さの約1/12の下方に突出した縮径した部分のうち,さらに段差状に縮径した下方の約2/3の高さの下部の端部キャップ14の開口部付近の部分を本件実線部分に相当する部分(引用相当部分1)としたものである。
引用相当部分1の形態は,部分全体を,端部のキャップ14(以下,この部分を「キャップ部」という。)の下方の略円筒状部の段差状に縮径した部分から端部の開口部をもつ面までの略短円筒状部とし,略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比を約1:2.6とし,下面に外周の径の約67%の径の開口部を設けたものであって,下端寄りの外周にO状リング15を設け,O状リングは,断面を略円形状とし,キャップ部の下端寄りに引用相当部分1の全体の高さの下から約1/5から約7/20の位置にある断面視略コ字状の凹状部に上下に隙間なくO状リングを嵌合させており,キャップ部の外周の径よりO状リングが外側に僅かにはみ出して視認できるものであり,開口部周囲の縁を切り欠いて傾斜面を設けたものである。

3.本件登録意匠と引用意匠1との対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠と引用意匠1(以下,「両意匠」という。)意匠に係る物品について,本件登録意匠は,「シャワーヘッド用カートリッジ」であるのに対して,引用意匠1は,「シャワー用カートリッジ」である。
(2)本件実線部分と引用相当部分1(以下,「両部分」という。)の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
(2-1)共通点
蓋部を取った状態における本件実線部分と引用相当部分1は,いずれも使用時にはシャワーヘッドの内側に装着されるカートリッジの本体部上部の縮径した略短円筒状部である点が共通する。
(2-2)差異点
本件実線部分の上面の開口部は,通水口であるが,蓋部の内側の突条部と嵌合させる部分でもあるのに対して,引用相当部分1は,通水口ではあっても蓋部を嵌合させる機能を有さないものである点に差異が認められる。
本件実線部分の略短円筒状部の周側面は,シャワーヘッドの接続部材にはめ込まれ,カートリッジをシャワーヘッド内で固定させる役割のものであるのに対して,引用相当部分1は,そういった機能は不明なものである点に差異が認められる。
本件実線部分は,全体を本体部と蓋部とするもので,蓋部の内側に位置し,保管時及び流通時には露出しないものとしているのに対して,引用相当部分1は,蓋部を有さず,露出しているものである点に差異が認められる。
本件実線部分は,本体部上部の略短円筒状部の上方部分としているのに対して,引用相当部分1は,本体部上部の段差状に縮径したキャップ部の上方の略短円筒状部の部分である点に差異が認められる。
(3)形態
以下,本件実線部分と引用相当部分1(以下,「両部分」という。)の形態について対比する。
なお,両部分を同一方向から対比するため,引用相当部分1の上下を逆に向け,本件実線部分と同一方向のものとして,以下,認定し,対比する。
また,両部分の形態については,主として,以下のとおりの共通点及び差異点がある。
(3-1)形態における共通点
両部分は,
(A)部分全体を略短円筒状とし,上面中央に外周の径より小さい径の開口部を設けている点,
(B)正面視すると上端寄りの外周に切断面が略円形状のO状リングを設け,上面の外周の径よりO状リングが外側に僅かにはみ出して視認できるものである点,
(C)O状リングを取り付ける部分を,略短円筒状部の上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部としている点,
において主に共通する。
(3-2)形態における差異点
一方,両部分には,
(ア)上面開口部の大きさについて,本件実線部分は,外周の径の約45%の径としているのに対して,引用相当部分1は,外周の径の約67%の径としている点,
(イ)略短円筒状部の上端寄りの断面視略コ字状の凹状部とO状リングの態様について,(イ-1)本件実線部分は,正面視において本体部の略短円筒状部の上端寄りに本件実線部分全体の高さの約1/8から約1/2の位置にO状リングを嵌合しているのに対して,引用相当部分1は,キャップ部の上端寄りに略短円筒状部の引用相当部分1の全体の高さの約1/5から約7/20の位置にO状リングを嵌合している点,(イ-2)本件実線部分は,上下に僅かに隙間を設けてO状リングを嵌合しているのに対して,引用相当部分1は,上下に隙間なくO状リングを嵌合している点,
(ウ)略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比について,本件実線部分は,約1:1.7であるのに対して,引用相当部分1は,約1:2.6で本件実線部分より太くて短い点,
(エ)上面開口部の態様について,本件実線部分は,開口部の周囲が平坦面であるのに対して,引用相当部分1は,開口部周囲の縁を切り欠いて傾斜面を設けている点,
に主な差異が認められる。

4.本件登録意匠と引用意匠1の類否判断
(1)意匠に係る物品
まず,両意匠の意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「シャワーヘッド用カートリッジ」であって,引用意匠1は,「シャワー用カートリッジ」であり,いずれもシャワーヘッドの中に内設して用いられる化粧剤等を内蔵したカートリッジであるから,両意匠の意匠に係る物品は共通している。
(2)両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
(2-1)共通点
両部分は,蓋部を取った状態において,いずれも使用時にはシャワーヘッドの内側に装着されるカートリッジの本体部上部の縮径した略短円筒状部である点で,その位置,大きさ及び範囲が共通しているが,シャワーヘッド用のカートリッジに縮径した略短円筒状の部分を設けた態様は多数見受けられ,その位置,大きさ及び範囲の共通点は,両部分の類否判断に与える影響は小さいものといえる。
(2-2)差異点
一方,両部分には,上面の開口部が蓋部の内側の突条部と嵌合する部分であるか否か,略短円筒状部がシャワーヘッドの接続部材にはめ込まれカートリッジを固定させる機能を持つか否かに差異が認められ,本件実線部分が専用の蓋部を嵌合させることやシャワーヘッドの接続部材にはめ込むことを前提としていることから,これらの差異によって,両部分の機能が大きく異なり,需要者に与える印象を異ならせるものといえ,両部分の類否判断に与える影響が大きい。
また,両部分には,蓋部を設けることを前提とした態様であるか否かに差異が認められ,本件実線部分は,販売や保管のために蓋部をつけてカートリッジ本体部を保護するための機能を持ち,蓋部の内側にある点で引用相当部分1とは位置や範囲が大きく異なり,両部分の類否判断に与える影響が大きい。
そして,両部分には,本体部上部の略短円筒状部の上方部分としているのか,段差状に縮径したキャップ部の上方部分であるのかの差異点が認められるが,部材が異なることによって,両部分の位置や範囲が異なる印象を起こさせるものといえるから,両部分の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
そうすると,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲については,共通点が両部分の類否判断に与える影響を考慮しても,それぞれの差異点が,両部分全体として需要者に与える印象を異ならせるもので,両部分の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
(3)形態
以下,両部分の形態の共通点及び差異点について評価し,両部分の類否について判断する。
(3-1)共通点
共通点(A)については,部分全体を略短円筒状とし,上面中央に外周の径より小さい径の開口部を設けている態様は,両部分に共通する全体の基本構成であるが,この種の物品分野においては,概括的な態様といえるもので,両部分の他にも既に見られるもので,両部分のみに認められる格別の特徴であるとはいえず,この点が両部分の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
次に,共通点(B)について,正面視において上端寄りの外周に切断面が略円形状のO状リングを設け,上面の外周の径よりO状リングが外側に僅かにはみ出して視認できるものである態様も,この種の物品分野においては,両部分の他にも既に多数見られる,ごく普通に見られるありふれた態様であって,特徴的な態様とはいえず,また,O状リングの位置や大きさにも様々な態様のものがあることから,O状リングを設けたというだけで,直ちに両部分が類似となる程の顕著な特徴であるとはいえず,この点が両部分の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
また,共通点(C)についても,O状リングを取り付ける部分を,略短円筒状部の上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部としている態様が共通しているが,この種の物品分野においては,略短円筒状部の上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部を設けたものは,他にも見られ,さほど特徴のないものといえ,上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部を設けてO状リングを取り付けたものであるというだけで,直ちに両部分が類似となる程の顕著な特徴であるとはいえず,この点が両部分の類否判断に及ぼす影響は一定程度に留まるものである。
そして,共通点全体として両部分の類否判断に与える影響を考慮しても,これらの共通点が両部分の類否判断を決定付けるものであるということはできない。
(3-2)差異点
これに対して,差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,両部分の類否判断を決定付けるものである。
すなわち,まず,差異点(ア)の上面開口部の大きさについて,いずれも部分的な差異ではあるが,需要者は,カートリッジをシャワーヘッドに装着する際に通水口を確認する時や,蓋部を嵌合する際にも確認することから,外周の径の約45%の径としている本件実線部分と,外周の径の約67%の径としている引用相当部分1とでは,両部分を見た場合の需要者に与える印象が明らかに異なり,その差異は,両部分の類否判断に影響を与えるものといえる。
次に,差異点(イ)の略短円筒状部の上端寄りの断面視略コ字状の凹状部とO状リングの態様について,まず,(イ-1)正面視において本体部の略短円筒状部の上端寄りの部分全体の高さの約1/8から約1/2の位置に断面視略コ字状の凹状部を設けO状リングを嵌合している本件実線部分の態様は,上端部に寄ったもので,正面視において部分全体の高さの約1/5から約7/20の位置にO状リングを嵌合している引用相当部分1とでは,両部分を正面視した場合の印象が明らかに異なり,その差異は,両部分の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。また,(イ-2)隙間を設けてO状リングを嵌合しているか否かについても,上下に僅かに隙間を設けてO状リングを嵌合している本件実線部分は,上下に隙間なくO状リングを嵌合している引用相当部分1とは,見る者に異なる印象を与えるもので,両部分の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
そして,差異点(ウ)の略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比について,略短円筒状部の縦横比には,様々なものが見受けられ,本件実線部分と同様にやや細長いものも存在するところではあるが,開口部付近まで細い本件実線部分と,略短円筒状部が太くて短い引用相当部分1とでは,差異点(イ-1)の断面視略コ字状の凹状部の態様における差異と相俟って,視覚的印象が異なり,その差異は,両部分の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
さらに,差異点(エ)の開口部周囲の縁を切り欠いて傾斜面を設けているか否かについても,細部に係るものであり,両部分の態様ともありふれた態様といえるものであるが,本件実線部分の開口部は,蓋をした状態の時には蓋部に嵌合させる部分であり,需要者は,シャワーヘッドへの装着時のほか,蓋部を着脱する際に注意深く見ることから,その違いをはっきり認識できるものであり,シャワーヘッドに装着し,使用する時には通水口にもなる部分であるから,単に傾斜面を設けていないのではなく,蓋部や水流に合わせた大きさとしたものであり,引用相当部分1は,そのような機能を持たないものであって,前記した差異点(ア)の上面開口部の径の大きさの差異と相俟って,需要者に異なった印象を与えるものであり,平坦な面の本件実線部分の態様と,縁を切り欠いて傾斜面を設けたものである引用相当部分1とでは,その視覚的印象が異なるものであるから,その差異は,両意匠の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
(4)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するものであるが,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲に差異が認められ,それらが両部分の類否判断に大きな影響を与え,また,両部分の形態において,差異点が共通点を凌駕し,それらが両部分の意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないものと認められる。
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された引用意匠1の意匠と類似しないものであるから,意匠法第3条1項第3号に規定する意匠には該当せず,その意匠登録は,無効理由1によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。

5.無効理由2について(意匠法第3条第1項第3号)
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録の出願の日前に日本国内において公然知られ頒布された刊行物である甲第1号証に記載された【図1】に表された引用意匠2(甲第1号証-2)の意匠の本件実線部分に相当する部分(以下,この部分を「引用相当部分2」という。)(別紙第2参照)と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものであり,意匠登録を受けることができないものであるので,その意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであると主張するので,以下,検討する。

引用意匠2(別紙第2参照)
引用意匠2は,本件登録意匠の出願日前である平成20年(2008年)4月24日に発行された特開2008-93188号の公開特許公報に掲載された【発明の名称】を「シャワー用カートリッジ」とし,保湿材などを除放してシャワーから噴出させることができるもので,【図1】に表された意匠であって,【図1】(a)には軸線方向断面図が表され,(b)には軸線直交方向断面図(短手方向)が表されており,(a)のシャワー用カートリッジの端部のキャップ4の部分が引用相当部分2であり,その形態は,同公報の図面及び関連する説明の記載のとおりのものである。
引用意匠2の図は,いずれも断面図であるが,それらの図からすると,全体を細長の略円筒状とし,略円筒状のケースの上下端部に略短円筒状のキャップを取り付けたものであって,蓋部はないものと認められ,使用時にはシャワーヘッドの内側の上部となる,【図1】(a)の図面上では下方になる縮径した略円筒状の部分であって,本体部の外周の約7/10の径の外周で本体部全体の高さの約1/23の下方に突出した縮径した部分のうち,さらに段差状に縮径した下方の約2/3の高さの下部の端部キャップ4の開口部付近の部分を本件実線部分に相当する部分(引用相当部分2)としたものである。
引用相当部分2の形態は,部分全体を,端部のキャップ4(以下,この部分を「キャップ部」という。)の下方の略円筒状部の段差状に縮径した部分から端部の開口部をもつ面までの略短円筒状部とし,略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比を約1:2.7とし,下面に外周の径の約50%の径の開口部を設けたものであって,下端寄りの外周にO状リング5を設け,O状リングは,断面を略円形状とし,キャップ部の下端寄りに引用相当部分2の全体の高さの下から約3/10から約2/5の位置にある断面視略コ字状の凹状部に上下に隙間なくO状リングを嵌合させており,キャップ部の外周の径よりO状リングが外側に僅かにはみ出して視認できるものであり,開口部周囲の縁を切り欠いて傾斜面を設けたものである。

6.本件登録意匠と引用意匠2との対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠と引用意匠2(以下,「両意匠」という。)意匠に係る物品について,本件登録意匠は,「シャワーヘッド用カートリッジ」であるのに対して,引用意匠2は,「シャワー用カートリッジ」である。
(2)本件実線部分と引用相当部分2(以下,「両部分」という。)の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
(2-1)共通点
蓋部を取った状態における本件実線部分と引用相当部分2は,いずれも使用時にはシャワーヘッドの内側に装着されるカートリッジの本体部上部の縮径した略短円筒状部である点が共通する。
(2-2)差異点
本件実線部分の上面の開口部は,通水口であるが,蓋部の内側の突条部と嵌合させる部分でもあるのに対して,引用相当部分2は,通水口ではあっても蓋部を嵌合させる機能を有さないものである点に差異が認められる。
本件実線部分の略短円筒状部の周側面は,シャワーヘッドの接続部材にはめ込まれ,カートリッジをシャワーヘッド内で固定させる役割のものであるのに対して,引用相当部分2は,そういった機能は不明なものである点に差異が認められる。
本件実線部分は,全体を本体部と蓋部とするもので,蓋部の内側に位置し,保管時及び流通時には露出しないものとしているのに対して,引用相当部分2は,蓋部を有さず,露出しているものである点に差異が認められる。
本件実線部分は,本体部上部の略短円筒状部の上方部分であるのに対して,引用相当部分2は,縮径したキャップ部の上方部分である点に差異が認められる。
(3)形態
以下,本件実線部分と引用相当部分2(以下,「両部分」という。)の形態について対比する。
なお,両部分を同一方向から対比するため,引用相当部分2の上下を逆に向け,本件実線部分と同一方向のものとして,以下,認定し,対比する。
また,両部分の形態については,主として,以下のとおりの共通点及び差異点がある。
(3-1)形態における共通点
両部分は,
(A)部分全体を略短円筒状とし,上面中央に外周の径より小さい径の開口部を設けている点,
(B)正面視すると上端寄りの外周に切断面が略円形状のO状リングを設け,上面の外周の径よりO状リングが外側に僅かにはみ出して視認できるものである点,
(C)O状リングを取り付ける部分を,略短円筒状部の上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部としている点,
において主に共通する。
(3-2)形態における差異点
一方,両部分には,
(ア)上面開口部の大きさについて,本件実線部分は,外周の径の約45%の径としているのに対して,引用相当部分2は,外周の径の約50%の径としている点,
(イ)略短円筒状部の上端寄りの断面視略コ字状の凹状部とO状リングの態様について,(イ-1)本件実線部分は,正面視において本体部の略短円筒状部の上端寄りに本件実線部分全体の高さの約1/8から約1/2の位置にO状リングを嵌合しているのに対して,引用相当部分2は,キャップ部の上端寄りに略短円筒状部の引用相当部分1の全体の高さの約3/10から約2/5の位置にO状リングを嵌合している点,(イ-2)本件実線部分は,上下に僅かに隙間を設けてO状リングを嵌合しているのに対して,引用相当部分1は,上下に隙間なくO状リングを嵌合している点,
(ウ)略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比について,本件実線部分は,約1:1.7であるのに対して,引用相当部分2は,約1:2.7で本件実線部分より太くて短い点,
(エ)上面開口部の態様について,本件実線部分は,開口部の周囲が平坦面であるのに対して,引用相当部分2は,開口部周囲の縁を切り欠いて傾斜面を設けている点,
に主な差異が認められる。

7.本件登録意匠と引用意匠2の類否判断
(1)意匠に係る物品
まず,両意匠の意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「シャワーヘッド用カートリッジ」であって,引用意匠2は,「シャワー用カートリッジ」であり,いずれもシャワーヘッドの中に内設して用いられる化粧剤等を内蔵したカートリッジであるから,両意匠の意匠に係る物品は共通している。
(2)両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
(2-1)共通点
両部分は,蓋部を取った状態において,いずれも使用時にはシャワーヘッドの内側に装着されるカートリッジの本体部上部の縮径した略短円筒状の部分である点で,その位置,大きさ及び範囲が共通しているが,シャワーヘッド用のカートリッジに縮径した略短円筒状の部分を設けた態様は多数見受けられ,その位置,大きさ及び範囲の共通点は,両部分の類否判断に与える影響は小さいものといえる。
(2-2)差異点
一方,両部分には,上面の開口部が蓋部の内側の突条部と嵌合する部分であるか否か,略短円筒状部がシャワーヘッドの接続部材にはめ込まれたカートリッジを固定させる機能を持つか否かに差異が認められ,本件実線部分が専用の蓋部を嵌合させることやシャワーヘッドの接続部材にはめ込むことを前提としていることから,これらの差異によって,両部分の機能が大きく異なり,需要者に与える印象を異ならせるものといえ,両部分の類否判断に与える影響が大きい。
また,両部分には,蓋部を設けることを前提とした態様であるか否かに差異が認められ,本件実線部分は,販売や保管のために蓋部をつけてカートリッジ本体部を保護する機能を持ち,蓋部の内側にある点で引用相当部分2とは位置や範囲が大きく異なり,両部分の類否判断に与える影響が大きい。
そして,両部分には,本体部上部の略短円筒状部の上方部分としているのか,縮径したキャップ部の上方部分であるのかの差異点が認められるが,部材が異なることによって,両部分の位置や範囲が異なる印象を起こさせるものといえるから,両部分の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
そうすると,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲については,共通点が両部分の類否判断に与える影響を考慮しても,それぞれの差異点が,両部分全体として需要者に与える印象を異ならせるもので,両部分の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
(3)形態
以下,両部分の形態の共通点及び差異点について評価し,両部分の類否について判断する。
(3-1)共通点
そこで検討するに,共通点(A)については,部分全体を略短円筒状とし,上面中央に外周の径より小さい径の開口部を設けている態様は,両部分に共通する全体の基本構成であるが,この種の物品分野においては,概括的な態様といえるもので,両部分の他にも既に見られるもので,両部分のみに認められる格別の特徴であるとはいえず,この点が両部分の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
次に,共通点(B)について,正面視において上端寄りの外周に切断面が略円形状のO状リングを設け,上面の外周の径よりO状リングが外側に僅かにはみ出して視認できるものである態様も,この種の物品分野においては,両部分の他にも既に多数見られる,ごく普通に見られるありふれた態様であって,特徴的な態様とはいえず,また,O状リングの位置や大きさにも様々な態様のものがあることから,O状リングを設けたというだけで,直ちに両部分が類似となる程の顕著な特徴であるとはいえず,この点が両部分の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
また,共通点(C)についても,O状リングを取り付ける部分を,略短円筒状部の上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部としている態様が共通しているが,この種の物品分野においては,略短円筒状部の上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部を設けたものは,他にも見られ,さほど特徴のないものといえ,上端寄りの位置に断面視略コ字状の凹状部を設けてO状リングを取り付けたものであるというだけで,直ちに両部分が類似となる程の顕著な特徴であるとはいえず,この点が両部分の類否判断に及ぼす影響は一定程度に留まるものである。
そして,共通点全体として両部分の類否判断に与える影響を考慮しても,これらの共通点が両部分の類否判断を決定付けるものであるということはできない。
(3-2)差異点
これに対して,差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,両部分の類否判断を決定付けるものである。
すなわち,まず,差異点(ア)の上面開口部の大きさについて,いずれも部分的な差異ではあるが,需要者は,カートリッジをシャワーヘッドに装着する際に通水口を確認する時や,蓋部を嵌合する際にも確認することから,外周の径の約45%の径としている本件実線部分と,外周の径の約50%の径としている引用相当部分2とでは,両部分を見た場合の需要者に与える印象が僅かに異なり,その差異は,両部分の類否判断に僅かではあるが影響を与えるものといえる。
次に,差異点(イ)の略短円筒状部の上端寄りの断面視略コ字状の凹状部とO状リングの態様について,まず,(イ-1)の正面視において本体部の略短円筒状部の上端寄りの部分全体の高さの約1/8から約1/2の位置に断面視略コ字状の凹状部を設けO状リングを嵌合している本件実線部分の態様は,上端部に寄ったもので,正面視において部分全体の高さの約3/10から約2/5の位置にO状リングを嵌合している引用相当部分2とでは,両部分を正面視した場合の印象が明らかに異なり,その差異は,両部分の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。また,(イ-2)隙間を設けてO状リングを嵌合しているか否かについても,上下に僅かに隙間を設けてO状リングを嵌合している本件実線部分は,上下に隙間なくO状リングを嵌合している引用相当部分2とは,見る者に異なる印象を与えるもので,両部分の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
そして,差異点(ウ)の略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比について,略短円筒状部の縦横比には,様々なものが見受けられ,本件実線部分と同様にやや細長いものも存在するところではあるが,開口部付近まで細い本件実線部分と,略短円筒状部が太くて短い引用相当部分2とでは,差異点(イ-1)の断面視略コ字状の凹状部の態様における差異と相俟って,視覚的印象が異なり,その差異は,両部分の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
さらに,差異点(エ)の開口部周囲の縁を切り欠いて傾斜面を設けているか否かについても,細部に係るものであり,両部分の態様ともありふれた態様といえるものであるが,本件実線部分の開口部は,蓋をした状態の時には蓋部に嵌合させる部分であり,需要者は,シャワーヘッドへの装着時のほか,蓋部を着脱する際に注意深く見ることから,その違いをはっきり認識できるものであり,シャワーヘッドに装着し,使用する時には通水口にもなる部分であるから,単に傾斜面を設けていないのではなく,蓋部や水流に合わせた大きさとしたものであり,引用相当部分2は,そのような機能を持たないものであって,前記した差異点(ア)の上面開口部の径の大きさの差異と相俟って,需要者に異なった印象を与えるものであり,平坦な面の本件実線部分の態様と,縁を切り欠いて傾斜面を設けたものである引用相当部分2とでは,その視覚的印象が異なるものであるから,その差異は,両意匠の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
(4)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するものであるが,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲に差異が認められ,それらが両部分の類否判断に大きな影響を与え,また,両部分の形態において,差異点が共通点を凌駕し,それが両部分の意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないものと認められる。
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された引用意匠2の意匠と類似しないものであるから,意匠法第3条1項第3号に規定する意匠には該当せず,その意匠登録は,無効理由2によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。

8.無効理由3について(意匠法第3条第2項)
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載され公知となった甲第1号証の引用意匠1(甲第1号証-1)(別紙第2参照)の意匠と引用意匠2(甲第1号証-2)(別紙第2参照)の意匠に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項に該当することから意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである旨主張するので,以下,検討する。

(1)引用意匠1(甲第1号証-1)(別紙第2参照)
引用意匠1は,前記2.に述べたとおり,特開2008-93188号の公開特許公報に掲載された【発明の名称】を「シャワー用カートリッジ」とした【図2】に表された意匠である。引用意匠1の形態は,前記2.のとおりであり,また,本件登録意匠と引用意匠1の共通点及び差異点は,前記3.のとおりである。

(2)引用意匠2(甲第1号証-2)(別紙第2参照)
引用意匠2は,前記5.に述べたとおり,特開2008-93188号の公開特許公報に掲載された【発明の名称】を「シャワー用カートリッジ」とした【図1】に表された意匠である。引用意匠2の形態は,前記5.のとおりであり,また,本件登録意匠と引用意匠2の共通点及び差異点は,前記6.のとおりである。

(3)甲第2号証ないし甲第7号証の意匠(別紙第3ないし第8参照)
請求人は,シャワー用カートリッジの物品分野において,O状リングを設けた態様や縮径した略短円筒状の部分を有する態様がありふれた態様であることを主張するために甲第2号証ないし甲第7号証の意匠を提出している。
甲第2号証の意匠を例示意匠1(別紙第3参照),甲第3号証の意匠を例示意匠2(別紙第4参照),甲第4号証の意匠を例示意匠3(別紙第5参照),甲第5号証の意匠を例示意匠4(別紙第6参照),甲第6号証の意匠を例示意匠5(別紙第7参照),甲第7号証の意匠を例示意匠6(別紙第8参照)として,以下,検討する。

(3-1)本件実線部分の略短円筒状部分の長さと例示意匠1ないし例示意匠4(別紙第3ないし別紙第6参照)
請求人は,O状リングから下方の根元部分までの縮径した略短円筒状の部分の長さについて甲第2号証の意匠(例示意匠1),甲第3号証の意匠(例示意匠2),甲第4号証の意匠(例示意匠3),及び甲第5号証の意匠(例示意匠4)を挙げて,その長さについて,O状リングの下方(根元側)の略短円筒状の部分を僅かに長くした程度にすぎないものであり,当業者であれば容易に創作することができたものであると主張している。
(あ)甲第2号証の意匠(例示意匠1)
甲第2号証の例示意匠1は意匠登録第1034981号の意匠であって,意匠に係る物品を「浄水器用入れ替え容器」としたもので,下方側に縮径した略短円筒状の部分を設け,その正面視の略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比が約1:2.1である。(別紙第3参照)
(い)甲第3号証の意匠(例示意匠2)
甲第3号証の例示意匠2は意匠登録第1054878号の意匠であって,意匠に係る物品を「浄水器とイオン水生成器に使用するフィルターカートリッジ」としたもので,下方側に縮径した略短円筒状の部分を設け,その正面視の略短円筒状部の縦の長さと横幅の比が約1:2.8である。(別紙第4参照)
(う)甲第4号証の意匠(例示意匠3)
甲第4号証の例示意匠3は意匠登録第1182423号の意匠であって,意匠に係る物品を「浄水器用カートリッジ」としたもので,左側に縮径した略短円筒状の部分を設け,正面図を本件実線部分の向きに揃えると,その正面視の上端寄りの略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比が約1:1.8で,その左右がなだらかに凹曲面を描いて傾斜面を形成し,さらにねじ用突条部を設けた短円筒部に連続し,略短円錐台形状の部分と接続して径の太い本体部へと連続しているものである。(別紙第5参照)
(え)甲第5号証の意匠(例示意匠4)
甲第5号証の例示意匠4は意匠登録第1418739号の意匠であって,意匠に係る物品を「浄水器用カートリッジ」としたもので,下方側に縮径した略短円筒状の部分を設け,正面図を本件実線部分の向きに揃えると,その正面視の上端寄りの略短円筒状部の縦の長さと横幅の比が約1:1で開口部寄りが僅かに狭くなり傾斜面があるものである。(別紙第6参照)
(お)本件実線部分の略短円筒状部分の長さと例示意匠1ないし例示意匠4について
本件実線部分の正面視の略短円筒状部の縦の長さと外周の直径の長さの比は約1:1.7である。そうすると,例示意匠1及び例示意匠2は本件実線部分より縦の長さが短いものといえ,また,例示意匠3は,正面図を本件実線部分の向きに揃えると,その略短円筒状部の左右に凹曲面を有しているもので,本件実線部分の態様とは異なる。そして,例示意匠4は,本件実線部分より縦の長さが長いものといえ,開口部寄りが僅かに狭くなり傾斜面があるもので,本件実線部分の態様とは異なる。
例示意匠1ないし例示意匠4はいずれも略短円筒状部の開口部寄りにO状リングを有し,そのO状リングの下方に略短円筒状部分が連続しているものではあるが,いずれも本件実線部分の態様とは異なり,これらの態様がありふれているものであったとしても,本件実線部分の態様が引用意匠1及び引用意匠2に基づいて,単にO状リングの下方の略短円筒状部を僅かに長くした程度にすぎないものとはいうことができず,また,本件実線部分は,略短円筒状部の途中までの部分に一点鎖線を施し,あえて途中までを実線部分としたもので,段差状に縮径部を設けた引用意匠1及び引用意匠2の段差状に縮径した根元までの部分である引用相当部分1及び引用相当部分2から,本件登録意匠の態様を容易に導き出すことはできないものである。

(3-2)本件実線部分の開口部周囲の態様と例示意匠5及び例示意匠6(別紙第7及び別紙第8参照)
請求人は,本件実線部分のように縁を切り欠いて傾斜面を設けていない,平坦面状とすることはありふれた態様であるとして,甲第6号証の例示意匠5,甲第7号証の例示意匠6を挙げて,また,開口部の大きさについても,シャワーヘッド等の接続側の設計に応じて適宜変更されるもので,格別意匠的効果を有するものではない,として当業者であれば容易に創作することができたものであると主張している。
(あ)甲第6号証の意匠(例示意匠5)
甲第6号証の例示意匠5は特開2005-23583号の【図1】,【図5】及び【図6】に表された意匠であって,発明の名称を浄水カートリッジ位置決め構造とし,【図1】及び【図5】の22に(頭部浄水カートリッジ結合用)結合部として浄水カートリッジの開口部が表されている。その外周の径の約58%の径の開口部としたものである。(別紙第7参照)
(い)甲第7号証の意匠(例示意匠6)
甲第7号証の例示意匠6は意匠登録第1318992号の意匠であって,意匠に係る物品を「ろ過器」としたもので,正面図を本件実線部分の向きに揃えると,上面側に開口部が表されている。その外周の径の約57%の径の開口部としたものである。(別紙第8参照)
(う)本件実線部分の開口部周囲の態様と例示意匠5及び例示意匠6について
確かに開口部の周囲を平坦面とすることは,本件実線部分意外にも多数見受けられ,それが格別特徴的な態様とはいえないものであるが,本件実線部分の開口部は,その外周の径の約45%の径の開口部としたものである。引用意匠1の開口部は,その外周の径の約67%の径であり,引用意匠2の開口部は,その外周の径の約50%の径であり,例示意匠4の開口部は,その外周の径の約58%の径であり,引用意匠2の開口部は,その外周の径の約57%の径であり,様々な径の開口部が存在することは認められるが,いずれも本件実線部分ほどその開口部の外周の径に対する大きさが小さめで,開口部周囲を広めとしたものは他には見当たらず,その開口部の割合の小ささについては,ありふれた態様であるとまではいうことができないものである。

(4)創作容易性について
引用意匠1の引用相当部分1と,引用意匠2の引用相当部分2及び例示意匠1ないし例示意匠6の各態様を組み合わせて本件登録意匠の本件実線部分の態様が容易に創作できたものであるかどうかについて検討してみると,引用相当部分1と引用相当部分2を,単に上面の開口部の周囲を平坦面状とすることは,ありふれた手法により可能といえるものではあるが,本件実線部分と引用相当部分1及び引用相当部分2の略短円筒状部は,その長さが異なり,その具体的な態様も異なるもので,本件実線部分と同様に同径のまま略短円筒状部を長めとした態様は,例示意匠1ないし例示意匠4のいずれにも見当たらず,また,その開口部の大きさの割合を本件実線部分と同様に小さくしたものは,例示意匠5及び例示意匠6にも見つけることができず,引用相当部分1と引用相当部分2の上面の開口部の周囲を平坦面状としたとしても,本件実線部分の開口部は,水流調整や蓋部との嵌合状態に応じて創作したものであるから,ありふれた改変であるとはいえないものである。前記したとおり,本件実線部分と引用相当部分1,本件実線部分と引用相当部分2とは,それぞれ略短円筒状部の態様や開口部の大きさが異なるもので,引用相当部分1と引用相当部分2から本件実線部分の態様を容易に導き出すことはできない。
本件実線部分と同一のものとするためには,まず,蓋部を有するもので,蓋部の内側の突条部に嵌合される部分としたものであって,引用相当部分1の略短円筒状の部分を長めに設けて変更し,引用相当部分2の開口部を平坦面状として,開口部の大きさを本件実線部分と同様の小さいものとして変更してから組み合わせることとなり,いずれも,ありふれた改変の範囲であるとはいうことができないものであるから,本件実線部分は,引用相当部分1の略短円筒状の部分と引用意相当部分2の開口部を単に組み合わせたまでのものとは到底いうことができず,本件実線部分の態様を容易に導き出すことはできないものである。
そうすると,本件実線部分は,蓋部の内側の突条部と嵌合する部分であり,また略短円筒状の部分や開口部の態様により,本件実線部分独自の態様を持つものといえるものであるから,このような本件登録意匠は,引用意匠1と,引用意匠2に基づいて,この種の物品分野における通常の知識を有する者であれば容易に創作することができたものということはできない。

(5)小括
したがって,本件登録意匠は,本件登録意匠に係る物品であるシャワーヘッド用カートリッジの分野における通常の知識を有する者が,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載され公然知られた,引用意匠1(甲第1号証-1)と,引用意匠2(甲第1号証-2)に基づいて容易に創作することができたものとは認められず,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものはいえないから,その意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当せず,その登録を無効とすることはできない。


第5 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,無効理由1である,意匠法第3条第1項3号に規定する意匠に該当するにもかかわらず,意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。
また,本件登録意匠は,無効理由2である,意匠法第3条第1項3号に規定する意匠に該当するにもかかわらず,意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。
そして,本件登録意匠は,無効理由3である,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず,意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲



審理終結日 2017-02-28 
結審通知日 2017-03-03 
審決日 2017-03-29 
出願番号 意願2012-31557(D2012-31557) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (K6)
D 1 113・ 121- Y (K6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久木 真子 
特許庁審判長 山田 繁和
特許庁審判官 斉藤 孝恵
正田 毅
登録日 2013-07-12 
登録番号 意匠登録第1476957号(D1476957) 
代理人 山口 健司 
代理人 水野 みな子 
代理人 恩田 博宣 
代理人 青木 篤 
代理人 鶴田 準一 
代理人 恩田 誠 
代理人 萩尾 保繁 
代理人 小林 徳夫 
代理人 森 有希 
代理人 関口 尚久 
代理人 川崎 典子 

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