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審決分類 審判    F2
管理番号 1329158 
審判番号 無効2016-880019
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-10-18 
確定日 2017-05-10 
意匠に係る物品 ペンケース 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1536925号「ペンケース」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1536925号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の請求の趣旨及び理由
請求人は,平成28年10月18日付けの審判請求において,「登録第1536925号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証及び別紙1ないし5の書証を提出した。

1.無効理由の要点
1-1.無効理由の要点
本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反して登録されたため,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

1-2.無効理由
(1)無効理由1
本件登録意匠は,その出願日前に意匠公報に掲載された甲第1号証の意匠(以下甲1号意匠という)と類似するから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件登録意匠は,その出願日前に頒布された刊行物(甲第2号証)に掲載された意匠(以下甲2号の1意匠という)と類似するから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
同様に本件登録意匠はその出願日前に公然実施され公知となった甲第14号証の意匠(甲2号の2意匠という)と類似するため,同様に無効とすべきである。

(3)無効理由3
本件登録意匠は,その出願日前に外国において公然知られた甲第7号証の意匠(以下甲7号意匠という)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(4)無効理由4
本件登録意匠は,その出願日前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,甲1号乃至同10号の各意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
2-1.本件登録意匠について
(1)登録番号:登録1536925号意匠
(2)意匠に係る物品:「ペンケース」
(3)手続の経緯
出願日:平成26年(2014年) 8月22日
登録日:平成27年(2015年)10月 2日
意匠公報発行日:平成27年(2015年)11月 2日

2-2.本件登録意匠の構成
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「ペンケース」とするもので,「ファスナーにより開閉自在となっており,内部に筆記具等を収納させることができるペンケース」であって(意匠に係る物品の説明),その構成は意匠公報に掲載のとおり下記構成態様からなる。

(1)基本的構成態様
(A)ペンケース本体は,一側面を除く上面及び他側面(前面)が連続したファスナーにより大きく開口すべく開閉自在に構成され,
(B)しかも前記ケース本体は,正面視略縦長長方形状で,上面から他側面側の角部が連続した弧状に形成され,且つ他側面側の弧状線直下は一側面側と略平行な直線状に形成されてなり,
(C)ケース本体の他側面側の一対のケースボデイ間には,上面の端部から他側面側の下端迄正面視略逆L字状の連続したファスナーが裸出して設けられてなり,
(D)ケース本体内には,ペンを収納可能な収納部を形成すべくケースボデイ間の前面側内部の下半身には仕切壁が形成されてなり,
(E)ケース本体を開放した状態ではケース本体がペンスタンド(ペン立て)として自立可能なペンスタンドを兼ねたペンケースとして構成されてなる。

(2)具体的構成態様
(F)ケース本体の側面視は,上方先端部が窄まった略砲弾型形状である,
(G)ケース本体の平底面視は,略しずく状に形成されてなり,
(H)ケース本体の正背面視,略中央部には上下を区画するための区画用の区画線がやや右上がり傾斜して形成されてなり,
(I)該区画線の上方が内部が視認できる格子模様部として透光性のメッシュ生地で形成されてなり,下方が無模様部として形成されてなる,
(J)正面視,ケース本体の縦横比は約2.2:1の略縦長長方形状体である。

2-3.無効理由1について
Aの1 甲1号意匠(甲第1号証所載の意匠)
(1)開発経緯(創作ポイント)
本件甲1号意匠に係る「ペンケース」は,2001年春頃に開発した従来全く存在しない斬新な「ペンケース」であって,「ペンケース」と「ペン立て」を兼用させることをコンセプトとして請求人が独自に開発した新製品で,特に学生が使い勝手が良く,ペン等の収納と同時に使用時に便利なように「ケース」と「ペン立て」を兼用させたことが最大の創作ポイントである(甲第3号証)。

(2)手続の経緯
出願日:平成13年(2001年)5月2日
物品名:ペンケース
登録日:平成14年(2002年)1月11日
意匠公報発行日:平成14年(2002年)3月4日

(3)甲1号意匠の構成
(3-1)基本的構成態様
(a)ペンケース本体は,一側面を除く上面及び他側面(前面)が連続したファスナーにより大きく開ロすべく開閉自在に構成され,
(b)しかも前記ケース本体は,正面視縦長長方形状で,上面から他側面側の角部が連続した弧状に形成され,且つ他側面側の弧状線直下は一側面側と略平行な直線状に形成されてなり,
(c)前記ケース本体の他側面側の一対のケースボデイ間には,上面の端部から他側面側の下端迄正面視略L字状の連続したファスナーが裸出して設けられてなり,
(d)前記ケース本体内には,ペンを収納可能な収納部を形成すべくケースボデイ間の前面側内部の下半身には仕切壁が形成されてなり,
(e)ケース本体を開放した状態では,ケース本体がペンスタンド(ペン立て)として自立可能なペンスタンドを兼ねたペンケースとして構成されてなる。

(3-2)具体的構成態様
(f)ケース本体の側面視は,上方先端部が先細状のローソク型形状である,
(g)ケース本体の底面視は,略しずく状に形成されてなり,
(h)ケース本体の全面が不透明である,
(i)正面視ケ-ス本体の縦横比が約2.9:1の縦長長方形状体である。

Aの2.本件登録意匠と甲1号意匠との類否
(1)両意匠に係る物品
両意匠に係る物品は,「ペンケース」であって物品は同一物品である。
(2)両意匠の構成対比
(2-1)共通点
両意匠は,前記構成においてその基本的構成態様である(A)乃至(E)〔(a)乃至(e)〕において共通する他,具体的構成態様である(G)〔(g)〕においても共通する。
しかるに,両意匠はその具体的構成態様において下記構成態様が相違する。
(2-2)相違点
(イ)本件登録意匠は,ケ-ス本体の正・背面視の略中央部に上下を区画する区画線〔(H)〕が形成されているが,甲1号意匠には該区画線が存在しない点相違する。
(ロ)本件登録意匠は,前記区画線より上方がメッシュ地によって内部が視認できる透明〔(I)〕であるのに対し,甲1号意匠は全体が不透明〔(h)〕である点相違する。
(ハ)本件登録意匠の側面視は砲弾型〔(G)〕であるのに対し,甲1号意匠はローソク型形状〔(f)〕である点相違する。
(ニ)本件登録意匠は,縦横比約2.2:1であるのに対し,甲1号意匠は約2.9:1である点相違する。

(3)両意匠の類否
(3-1)甲1号意匠の評価
甲1号意匠に係る「ペンケース」は,甲第3号証に示すように,名称「コクヨWillペンケース」として販売し,さらに同形状(但し中央部に区画線あり)のペンケースを名称「コクヨ ネオクリッツ」,「NEO CRITZ」と称して,甲第2号証に示すように2006年12月頃より販売し,現在も甲1号意匠に係るいずれの「ペンケース」も継続して大量に販売している(甲第3号証)他,2014年5月22日から甲1号意匠のミニサイズも甲第4号証に示すように追加販売し,現在請求人の「ペンケース」は,甲第5号証に示すようにテレビ,ネット等でも取り上げられ,大ヒット商品となり,2015年末時点で既に320万個以上(約12億円売上)の空前の売り上げとなったのである(甲第5号証)。
その要因は,「立つペンケース」として,「ペンケース」でありながら「ペン立て」にもなる機能形態と使いやすさ等にある。
しかもこの意匠に係る「ペンケース」については,国内の市場では一切の類似品や近接品が存在しないのである。その理由は甲1号意匠権の存在と本件請求人所有の特許権(第4617597号,甲第6号証)の存在にある。
さらに,御庁においても,甲1号意匠と近似する意匠は本件登録意匠以外には登録された事実がないのである。このことは甲1号意匠の出願日である平成13年5月2日以降長年にわたって甲1号意匠に近似する登録意匠を発見できなかったことからも甲1号意匠の類似範囲が広く御庁が解釈されていたことの裏付けとなるものである。
さらに,上記甲1号意匠の評価が市場において,すなわち需要者(特に学生等)において非常に高い評価を得ているのが実情であり,且つテレビ等の広告宣伝や取材において甲1号意匠(甲第3号証)及び甲2号意匠のペンケースが広く知られる程の周知形態となっているのも事実である(2013年度の文紙MESSEにて新製品コンテストの最優秀賞受賞)。

(3-2)両意匠の類否判断
上記事情を踏まえて,本件登録意匠と甲1号意匠との類否を総合的に検討すると,本件登録意匠と甲1号意匠との共通する基本的構成態様からなるペンケースは,前記のように従来全く存在しない斬新な形態で,特にペンケースでありながら本件登録意匠の使用状態参考斜視図にも示すように「ペン立て」としても使用できる機能形態の共通性とが相俟って両意匠は明らかに基本的創作ポイントが共通し,且つ需要者,特に学生等に与える印象を共通にするものであるため,両意匠は類似することは明らかである。
しかも前記のように甲1号意匠及び同2号意匠の「ペンケース」の形態が周知形態となっていることに鑑みると,本件登録意匠に係る「ペンケース」が製品化されると需要者は請求人の製品と勘違いし混同するおそれが十分あるため,より一層両意匠は類似するものと判断すべきである。
最近の意匠の類否判断の判決の大多数は,「意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,更には公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,意匠に係る物品の取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通するか否かを判断すべきものといえる。」と判示している[東京地判,平成18年(ワ)第13406号事件等]。
よって,上記理由にて本件登録意匠と甲1号意匠とは類似する意匠であると結論づけるものである。

(3-3)両意匠の相違点の評価
(ア)区画線の有無
本件登録意匠と甲1号意匠とは,正・背面視ケ一ス本体の上下を区画する区画線の有無において相違するが,該区画線は,例えば甲第2号証や甲第4号証の請求人の実施品においても公知形状であり,特に甲第4号証の実施品においては区画線によって上下を明確に区分けしている態様が公知である。
さらに,甲第7号証や甲第8号証においても上下を区画するための区画線が公知形状として存在する以上,格別該区画線の有無は両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。
(イ)メッシュ地と透明性の有無
本件登録意匠は前記区画線より上方をメッシュ地による格子模様によって透視可としてなるが,甲1号意匠は全面不透明である点相違する。
しかるに,まずこの種ペン等のケースにおいて,ケース本体の全面又は半面あるいはその一部を格子状のメッシュ地によって透視可とすることはごくありふれた手法である。すなわち甲第7号証,同9号証,同10号証,同11号証,さらには被請求人製品を示す甲第12号証及び件外の文具メーカーのカタログである甲第13号証等においても通常一般的に行われている公知手法又は公知の形状であって何ら格別創作性のある形状相違ではない。
特に,本件登録意匠のように上下のうち上半身又は下半身のみをメッシュ地により透視化することは,甲第7号意匠及び甲第9号意匠の図1並びに甲第10号証のfig6と全く同一形状で明らかに公知の形態である。
従って,本件登録意匠と甲1号意匠とは内部の視認化の有無の相違点は存在するが,上記公知例を参酌するならば本件登録意匠と甲1号意匠の基本的形態に吸収又は埋没される程度の相違であって,全体観察すると前記両意匠の類似判断を否定する根拠とはなりえないのである。
(ウ)側面視の形状相違
側面視の形状において,前記のように砲弾型かローソク型かの相違はあるが,いずれも側面視上方先端部程先細状である点共通するもので,しかもこの種物品の素材は通常布地等地物で形成されているため,前記側面視の相違は線図程実施品は明確な相違とはならないので,該相違点は微差である。
(エ)ケ-ス本体の寸法比
本件登録意匠の縦横比は,約2.2:1であるのに対し,甲1号意匠は約2.9:1である点相違するがこの程度の相違は類否判断上,単なる微差である。

Aの3 小括
以上のとおり,本件登録意匠と甲1号意匠とは,甲1号意匠がその出願日前全く存在しない新規且つユニークな形態からなる創作度が極めて高い点や製品としての機能形態,さらには需要者の認知度の高さや周知形態等を総合的に観察すると両意匠は類似する意匠であると判断するのが正当な判断である。
よって,本件登録意匠は甲1号意匠による無効事由に理由があるとの審決を下されたい。

2-4.無効理由2について
Bの1 甲2号意匠の特定
(1)甲第2号証
本号証は,請求人が2006年12月12日に発表した請求人のホームページに形成したプレスリリース用の掲載文で,該掲載文の第6頁には請求人の製品(名称:NEO CRITZ)であるペンケースの写真が掲載されている。該掲載写真の「ペンケース」の意匠を甲2号の1意匠という。
甲第14号証は甲2号の1意匠の現物のペンケースの写真で,請求人が2006年12月12日以降に公然と販売した実施品としてのペンケースで,該意匠を甲2号の2意匠というが,その構成は甲2号の1意匠と同一構成である。

(2)本号意匠の構成
甲2号の1意匠と同2意匠と前記甲1号意匠とは,実質的に同一意匠で,甲2号意匠は甲1号意匠の実施品で,相違する構成は甲1号意匠の具体的構成態様として甲1号意匠のケース本体には上下を区画する区画線が存在しないが,甲2号の1意匠と同2の意匠には正面視,上下を区画する区画線が右上向きに傾斜した傾斜線として形成されてなる。該区画線によってケース本体の上方が軟質性で,下方側が硬質性の素材からなることを区画してなるものである。その他の構成態様は甲1号意匠と同一の構成態様である。

Bの2 本件登録意匠と甲2号の1及び同2意匠との類否
甲2号の1及び2意匠と甲1号意匠とは,前記のとおり区画線の有無のみにおいて相違するものでその他の構成態様は共通する構成である。
さすれば本件登録意匠と甲2号の1及び同2意匠との主要な相違点は,甲1号意匠と本件登録意匠との相違点中,具体的構成態様であるケース本体の区画線の上方がメッシュ地によって内部が視認できるか否かの相違点のみである。
しかるに,上記甲1号意匠と本件登録意匠との類否判断において評価したとおり上記相違点であるメッシュ地による透明化形状は,この種物品において公知乃至はありふれた手法であるため,全体観察による類否判断においては単なる微差であって両意匠の類否判断を左右する程の差ではない。
なお,本件登録意匠と甲2号の1及び同2意匠との側面視形状の相違(砲弾型かローソク型か)及びケース本体の寸法比の相違は,上記したように微差である。

Bの3 小括
よって,本件登録意匠は甲2号の1及び同2の意匠と類似する意匠であるため,本件登録意匠は甲2号の1及び同2の意匠による無効事由に理由があるものと確信致します。

2-5.無効理由3について
Cの1 甲7号意匠について
(1)甲7号意匠
甲第7号証の1は,2014年6月25日に台湾経済部工業局が運営する「台湾製品MIT微笑標章網站」のウェブページ(http://www.mittw.org. tw/products/prod-more.aspx?Z%2fUV03hxSvs0VIQ3bdMMnw%3d%3d)(甲第7号証の1)に掲載された,標章番号01900032-02103,亞律達有限公司製の「筆袋」の意匠である。
なお,同ウェブページが2014年6月25日に台湾経済部工業局により掲載された事実を示すために,請求人が台湾の法律事務所を通じて当局に問い合わせ,その後当局より得た回答を甲第7号証の2に示し,その日本語翻訳文を甲第7号証の3に示す。さらに甲第7号証の1の意匠の現物写真を甲第15号証に示す。
よって,甲第7号証の1意匠は,2014年6月25日に前記ウェブページに掲載された意匠であることは明らかな事実である。しかも該意匠に係るペンケースは台湾で公然と販売された事実がある。

(2)甲7号意匠の構成
(2-1)基本的構成態様
(a)ペンケース本体は,一側面を除く上面及び他側面(前面)が連続したファスナーにより大きく開口すべく開閉自在に構成され,
(b)しかも前記ケース本体は,正面視縦長長方形状で,上面から他側面側の角部が連続した弧状に形成され,且つ他側面側の弧状線直下は一側面側と略平行な直線状に形成されてなり,
(c)前記ケース本体の他側面側の一対のケースボディ間には,上面の端部から他側面側の下端迄正面視略L字状の連続したファスナーが裸出して設けられてなり,
(d)前記ケース本体内にはペンを収納可能な収納部を形成すべくケースボディ間の前面側内部の下半身には仕切壁が形成されてなり,
(e)ケース本体を開放した状態ではケース本体がペンスタンド(ペン立て)として自立可能なペンスタンドを兼ねたペンケースとして構成されてなる。
(2-2)具体的構成態様
(f)ケース本体の側面視は,上方先端部が先細状のビン型形状である,
(g)ケース本体の底面視は,略しずく状に形成されてなり,
(h)ケース本体の正面視,略中央部には上下を区画するための区画用の区画線がやや右上がり傾斜して形成されてなり,
(i)該区画線の上方が内部が視認できる格子模様部として透光性のメッシュ生地で形成されてなり,下方が無模様部(赤色)として形成されてなる,
(j)正面視,ケース本体の縦横比は約1.9:1の縦長長方形状体である。
(k)面前記ファスナーは,ケース本体の上下面並びに他側面の外周縁に縫着した 縁取辺に縫着され且つケース本体の上面より外方に垂れ下がり突出してなり,
(l)正面視,ケース本体の上面中央部の縁取辺からタブが下向きに臨出し,該タブの先端にリングが設けられてなる。

以上のとおり,甲7号意匠は,上記(a)乃至(l)の構成態様からなる「ペンケース」である。

Cの2 本件登録意匠と甲7号意匠との類否
(1)両意匠に係る物品
本件登録意匠に係る物品は,「ペンケース」であり,甲7号意匠は「筆袋」であって,両意匠の意匠に係る物品は同一物品である。
(2)両意匠の対比
(2-1)共通点
本件登録意匠と甲7号意匠とは,その基本的構成態様〔(A)乃至(E)と(a)乃至(e)〕及び具体的構成態様中,(G),(H),(I)と(g),(h),(i)において共通し,その主要な構成態様において共通するものである。

(2-2)相違点
これに対し,両意匠は具体的構成態様中,側面視形状において本件登録意匠は砲弾型形状であるのに対し甲7号意匠は先細状ビン型形状である点相違する他,ファスナーにおいて本件登録意匠はケースボディ間すなわち略本体内に形成されてなるが,甲7号意匠のファスナーは,その外周縁の縁取辺に縫着され,且つ該縁取辺が幅広くケース本体の上下面並びに他側面外周縁から裸出した状態でケース本体に縫着されてなる点及びケース本体の縦横比,並びにタブとリングが形成されてなる点において相違する。

(3)両意匠の類否
本件登録意匠と甲7号意匠とは,その基本的構成態様並びに具体的構成態様中の区画線の存在及び該区画線を介して上方をメッシュ地によって内部が視認できるよう透明化し,下方を不透明化して区画した構成態様が全て共通するため,両意匠は明らかに類似する意匠であることは疑う余地がないのである。
これに対し,相違点であるファスナーの外部の縁取辺の存在や縦横比の差及び側面視の形状相違等は,両意匠を全体観察した場合には細部的な事項であって,両意匠を別異のものと判断する程の差異では決してないのである。

Cの3 小括
以上の結果,本件登録意匠は甲7号意匠に類似する意匠であることは明白であるため,甲7号意匠による無効事由には理由があるものと確信致します。

2-6.無効理由4について
(1)本件登録意匠は,前記のように無効理由1乃至3,特に無効理由3によって明白な無効理由が存在するものである。
しかしながら,万一甲1号意匠又は甲2号意匠の1と2並びに甲7号意匠と本件登録意匠とが非類似であると判断されたとしても,本件登録意匠は本件無効理由4によって無効にされるべきである。

以下無効理由4について論述する。
(2)本件登録意匠の「ペンケース」の基本的形態
本件登録意匠は,前記のように「ペンケース」としての基本的形態は甲1号意匠又は甲2号意匠の1と2並びに甲7号意匠によって公知形状であることは明らかである。
さらに甲1号意匠及び甲2号意匠に係る「ペンケース」は,前記のように我が国において本件登録意匠の出願日前には周知の形態である。
上記周知乃至は少なくとも公知の形状である「ペンケース」の存在からすれば本件登録意匠は創作容易な意匠である。

(3)本件登録意匠の区画線を介して上方をメッシュ地により透視可能な形状として下方を不透明化した形状
この種ペンケース等の物品において下記のような形状とすることは通常周知慣用化されている形態である。
(a)ケース本体の区画線
ケース本体の略中央部に上下を区画する区画線を設けることは,甲2号意匠や甲7号意匠や甲第4号証の写真並びに甲第8号証の図面等から公知の形状で,特に区画線を斜め上方に形成することも公知である。

(b)ケース本体の上下の材質,形状相違
ケース本体に前記区画線を設けて,上方を軟質素材とし,下方を硬質素材として上下を異種の素材で形成することは,前記甲2号意匠並びに甲第4号証や甲第8号証に掲載されたケースの素材からも明らかで公知の手法である。
しかもケース本体をメッシュ地によって透光性を有する透視可能とすることは,甲第7号証によって明らかに公知である他,甲第9号証乃至同13号証によっても公知である。

(c)ケース本体の区画線の上下いずれか一方をメッシュ地によって透視可とする形状
甲第10号証のfig5,fig6及び甲第9号証や同11号証の意匠はいずれもケース本体の上方又は下方のみメッシュ地によって透視可能に形成してなるもので,該形状は既に公知であることは明らかである。

(4)さすれば,本件登録意匠は甲1号意匠や甲2号意匠,甲4号意匠に係るペンケース本体の一部を改変して区画線の上方をメッシュ地によって透光性を有する形状とし下方を非透光性を有する形状としたものであるが,前記ペンケース本体の基本的形態が公知乃至は周知の形態である以上,本件登録意匠のように区画線を介して上方のみを透光性を有する形状とすることはこの種物品分野においては,甲7号意匠等のように通常慣用化又は常態化されたありふれた手法であって何ら格別な創作性を有するものではない。

(5)小括
以上,検討の結果,本件登録意匠が仮に意匠法第3条第1項第3号の無効理由に該当しないとしても,意匠法第3条第2項によって本件登録意匠はこの種物品分野のいわゆる当業者にとっては容易に創作できたものであることは明らかである。
よって,本件登録意匠は意匠法第3条第2項に該当する無効理由を有するものである。

3.むすび
以上のとおり,本件登録意匠は無効理由1乃至4の少なくともいずれかによって無効とされるべきものであるため,意匠法第48条第1項第1号の規定に該当し,同法同条同項柱書に基づいて無効とすべきである。

4.証拠方法
甲第1号証 登録第1135375号 意匠公報の写し
甲第2号証 コクヨ株式会社発行のプレスリリース(ウェブページ)の写し
甲第3号証 コクヨ株式会社のカタログ(ウェブページ)の写し
甲第4号証 コクヨ株式会社発行のプレスリリース(ウェブページ)の写し
甲第5号証 ウェブマガジン「TALKNEWS」(ウェブページ)の写し
甲第6号証 特許第4617597号 公報の写し
甲第7号証の1 台湾製産品MIT微笑標章網站(ウェブページ)の写し
甲第7号証の2 台湾経済部工業局の書簡の写し
甲第7号証の3 台湾経済部工業局の書簡の日本語翻訳文
甲第8号証 実用新案登録第3171817号 登録実用新案公報の写し
甲第9号証 特開2001-17225号 公開特許公報の写し
甲第10号証 米国意匠特許US D609,456 S号 公報の写し
甲第11号証 登録第1245529号 意匠公報の写し
甲第12号証 セキセイ株式会社発行のカタログの写し
甲第13号証 株式会社LIHIT LAB.発行のカタログの写し
甲第14号証 甲2号意匠の実物写真
甲第15号証 甲7号意匠の実物写真
別紙1 登録第1536925号 意匠公報の写し
別紙2 本件登録意匠と甲1号意匠との対比図
別紙3 本件登録意匠と甲2号意匠との対比図
別紙4 本件登録意匠と甲7号意匠との対比図
別紙5 本件登録意匠と甲各号意匠との対比図

第2 被請求人の答弁及び理由
特許庁より,被請求人に審判請求書の副本を送付し,期間を指定して答弁書の提出を求めたが,請求人の申立及び理由に対して,被請求人からの応答はなかった。

第3 当審の判断
当審は,無効理由1については,意匠登録第1536925号の意匠(以下,単に「本件登録意匠」という。)は,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である甲第1号証の意匠(以下「甲1号意匠」という。)に類似する意匠ではなく,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえない,と判断する。
次に,無効理由2についても,本件登録意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である甲第2号証の意匠(以下「甲2号意匠」という。)に類似する意匠ではなく,また,本件登録意匠の意匠登録出願前に,公然知られた甲第14号証の意匠(以下「甲14号意匠」という。)に類似する意匠ではなく,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえない,と判断する。
それから,無効理由3についても,本件登録意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である甲第7号証の意匠(以下「甲7号意匠」という。)に類似する意匠ではなく,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえない,と判断する。
しかし,無効理由4については,本件登録意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である甲2号意匠及び甲7号意匠に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものといえるので,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたもの,と判断する。
その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成26年(2014年)8月22に意匠登録出願(意願2014-18330)されたものであって,審査を経て平成27年10月2日に意匠権の設定の登録(意匠登録第1536925号)がなされ,同年11月2日に意匠公報が発行されたものである。
そして,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「ペンケース」とし,形態を願書の記載及び願書に添付した図面に記載したとおりとしたものである。(別紙第1参照)
具体的には,以下のとおりである。
(1)意匠に係る物品
意匠に係る物品は,「ペンケース」であり,開口部に備えたスライドファスナーの開閉によりペン等を収納するものであるとともに,開口部を開いた状態において自立したペンスタンドにもなるものである。
(2)形態
<基本的な構成態様>
(あ)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体とし,
(い)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部とし,
(う)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面とし,その上下方向の中央付近を右側面側から左側面側に向けて下方に傾斜する境界線を境にして,略上半部を格子模様が表れている透明,略下半部を不透明とし,
(え)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁(以下「仕切壁」ともいう。)を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状とし,
<具体的な構成態様>
(お)正面視縦横比を,約2.3対1とし(なお,請求書には約2.2対1とあるが,審判合議体の計測によると記載のとおりである。),
(か)側面視形状について,上方がすぼまった略長方形状からなる態様は,上方のすぼまり方を曲線状とした,いわゆる砲弾型とし,
(き)平面視形状について,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型とし,
(く)仕切壁は,略下半部に横長長方形のポケット式収納部を備え,仕切壁及びポケット収納部の上辺を帯状とし,
(け)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部は,その延長上のケース外側に突き出し,引き手付きスライダー金具を2個備え,
(こ)物品全体に,色彩が付されていないものである。

2.無効理由1について
請求人が主張する無効理由1,すなわち本件登録意匠は甲1号意匠に類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)本件登録意匠
本件登録意匠については,前記「1.」の(1)及び(2)に記載のとおりである。

(2)甲1号意匠
甲1号意匠は,特許庁が本件登録意匠の意匠登録出願前の平成14年3月4日に発行した意匠公報に掲載された意匠登録第1135375号の「ペンケース」の意匠であり,その形態は,同公報に掲載されたとおりとしたものである。(別紙第2参照)
具体的には,以下のとおりである。
(2-1)意匠に係る物品
意匠に係る物品は,「ペンケース」であり,開口部に備えたスライドファスナーの開閉によりペン等を収納するものであるとともに,開口部を開いた状態において自立したペンスタンドにもなるものである。
(2-2)形態
<基本的な構成態様>
(ア)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体とし,
(イ)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部とし,
(ウ)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面とし,その全面を不透明とし,本件登録意匠に見られるような境界線や格子模様は表れていないものとし,
(エ)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状とし,
<具体的な構成態様>
(オ)正面視縦横比を,約2.7対1(なお,請求書には約2.9対1とあるが,審判合議体の計測によると記載のとおりである。)とし,
(カ)側面視形状について,上方がすぼまった略長方形状からなる態様は,上方のすぼまり方を直線状とした,いわゆるローソク型とし,
(キ)平面視形状について,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型とし,
(ク)仕切壁は,その上端寄りから下端にかけて縦長長方形のポケット式収納部を備え,仕切壁及びポケット式収納部は,どちらも内部が透けて見えるメッシュ状,上辺を帯状とし,
(ケ)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,引き手付きスライダー金具を1個備え,
(コ)物品全体を白黒の濃淡調子により表したものである。

(3)本件登録意匠と甲1号意匠(以下「両意匠」という。)の共通点及び相違点
(3-1)意匠に係る物品について
意匠に係る物品については,両意匠ともに「ペンケース」であり,前述のとおり,どちらも開口部に備えたスライドファスナーの開閉によりペン等を収納するものであるとともに,開口部を開いた状態において自立したペンスタンドにもなるものであるから,共通する。
(3-2)形態について
(3-2-1)共通点
<基本的な構成態様>
(A)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体としたものである。
(B)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部としたものである。
(C)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面としたものである。
(D)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状としたものである。
<具体的な構成態様>
(E)平面視において,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型としたものである。
(F)仕切壁は,矩形状のポケット式収納部を備え,仕切壁及びポケット式収納部の上辺を帯状としたものである。
(G)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設けたものである。

(3-2-2)相違点
<基本的な構成態様>
(a)正面,右側面及び背面について,本件登録意匠は,その上下方向の中間付近を右側面側から左側面側に向けて下方に傾斜する境界線を境にして,略上半部を格子模様が表れている透明,略下半部を不透明としたものであるのに対して,甲1号意匠は,本件登録意匠に見られるような境界線や格子模様は存在せず,全面を不透明としたものである。
<具体的な構成態様>
(b)正面視縦横比について,本件登録意匠は,約2.3対1としたものであるのに対して,甲1号意匠は,約2.7対1としたものである。
(c)上方がすぼまった略縦長長方形状とした側面視形状について,本件登録意匠は,上方のすぼまり方を曲線状とした,いわゆる砲弾型としたものであるのに対して,甲1号意匠は,上方のすぼまり方を直線状とした,いわゆるローソク型としたものである。
(d)仕切壁について,本件登録意匠は,略下半部に横長長方形のポケット式収納部を設けたものであるのに対して,甲1号意匠は,上端寄りから下端にかけて縦長長方形のポケット式収納部を設け,内部が透けて見えるメッシュ状の態様としたものである。
(e)スライドファスナーについて,本件登録意匠は,上面側の端部が,その延長上のケース外側に突き出し,引き手付きスライダー金具を2個備えたものであるのに対して,甲1号意匠は,上面側の端部が上面の内側に止まり,引き手付きスライダー金具を1個備え,
(f)色彩について,本件登録意匠は,色彩を付していないものであるのに対して,甲1号意匠は,白黒の濃淡により表したものである。

(4)共通点及び相違点の評価
両意匠は,意匠に係る物品が共通するものであるから,形態の共通点と相違点の両意匠の類否判断に及ぼす影響の大きさを比較し,共通点が相違点を凌駕するものであれば,両意匠は類似するものといえる。したがって,以下,形態について,その共通点及び相違点の評価を行う。
(4-1)共通点の評価
共通点(A)ないし(D)は,両意匠の開口部を閉じた状態と開口部を開けて自立させた状態に係るものであるが,いずれも基本的な構成態様における共通点であり,概括した場合には両意匠は共通しているといえるとしても,両意匠には基本的な構成態様に相違点が存在するとともに,具体的な構成態様にも相違点が多く存在しており,共通点(A)ないし(D)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,両意匠の類否判断を決する程に大きいとはいえない。
共通点(E)は,平面視形状をしずく型とした点であるが,それは正面及び背面の全体に及ぶものであるから,共通点(E)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度認められる。
共通点(F)は,仕切壁に矩形状のポケット式収納部を設け,上辺を帯状とした点であるが,この点は,ペンスタンドとして使用する際には機能的に軽視できないものであるとしても,内部の形態の一部分である仕切壁における付加的なものであり,開口部を閉じた状態においては目に触れるものではないから,部分的な相違に止まり,共通点(F)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
共通点(G)は,スライドファスナーについて,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設けた点であるが,この共通点に見られる態様は,この種物品分野の意匠において,極普通に見られるものであり,また,その具体的な態様には,上面側の端部が,その延長上のケース外側に突き出しているか否かの点において相違しており,共通点(G)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

以上の両意匠の共通点を総合すると,基本的な構成態様の共通点(A)ないし(D)に,具体的な構成態様の共通点(E)ないし(G)が加わったとしても,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,両意匠の類否判断を決する程のものとはいえない。

(4-2)相違点の評価
相違点(a)は,正面,右側面及び背面における,境界線及び格子模様が表れている透明部分の有無の相違であるが,この相違は,正面や背面という大きな面を占める部分における相違であって,両意匠の基本的な構成態様に影響を及ぼすものであり,開口部を閉じた状態だけでなく,ペンスタンドとして使用している状態においても,目立つ相違であるから,相違点(a)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点(b)は,正面視縦横比の相違であるが,どちらも縦の長さを横の長さの2.5倍前後としたものであるといえる程度の,僅かな相違と認められるから,相違点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(c)は,側面視形状を砲弾型としたか,それともローソク型としたかの相違であるが,両意匠ともに上方がすぼまった略縦長長方形状とした態様における相違であり,需要者にとってさほど注視する部分ともいえないから,相違点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(d)は,仕切壁の態様の相違であるが,特にメッシュ状の態様としたか否かは,本件登録意匠が,この仕切壁をケース本体の略下半部と同様に不透明としたことにより,ペンスタンドとした状態において,略下半部を不透明部分として統一させた印象を与えるものとなっているのに対し,甲1号意匠においては,仕切壁のみをメッシュ状の態様としたものであり,部分的な特徴に止まるものであるから,相違点(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,軽視することができない。
相違点(e)は,スライドファスナーの態様の相違であるが,上面側の端部がその延長上のケース外側に突き出しているか否か,引き手付きスライダー金具の個数が1個であるか2個であるかの相違は,いずれも細部の相違であるから,相違点(e)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(f)は,色彩の有無の相違であるが,甲1号意匠の白黒の濃淡の態様に格別特徴があるとはいえないから,相違点(f)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度に止まる。

以上の両意匠の相違点を総合すると,特に相違点(a)及び(d)が相俟って,また,その余の相違点も加わり,需要者に両意匠は異なるものであるとの印象を与えるものといえる。

(5)類否判断
そうすると,両意匠は,意匠に係る物品については共通するものの,その形態において,相違点が相俟って生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕するものであって,意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠は,甲1号意匠に類似するものということはできない。

(6)小括
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず,請求人の主張する無効理由1には,理由がない。

3.無効理由2について
請求人が主張する無効理由2,すなわち本件登録意匠は甲2号意匠又は甲14号意匠に類似する意匠であるか否かについて検討する。
3-1.まず,本件登録意匠は甲2号意匠に類似する意匠であるか否かについて,検討し,判断する。
(1)本件登録意匠
本件登録意匠については,前記「1.」の(1)及び(2)に記載のとおりである。

(2)甲2号意匠
甲2号意匠は,甲第2号証として提出した,請求人であるコクヨ株式会社発行のプレスリリース(ウェブページ)の写しにおいて,第6頁に表れている「ペンケース」(製品の名称は「NEO CRITZ(ネオ クリッツ)」)の意匠であり,その形態は,同写しに表されたとおりのものである。(別紙第3参照)
このウェブページが発表された日は,請求書の記載及び同写しの1枚目の右上方の記載によれば,本件登録意匠の意匠登録出願前の2006年12月12日である。
ちなみに,特許庁意匠課はこのウェブページと同様のものを審査用の資料として2007年4月13日にインターネット上から収集している。このウェブページは,インターネットアーカイブ社のWayback Machineに2006年12月13日のものとして記録されており,以下のアドレスから確認することができる。
(アドレス:http://web.archive.org/web/20061214143558/http://www.kokuyo.co.jp/press/news/20061212-654.html)
以上鑑みるに,甲第2号証の内容に,特に信用性を疑わせる事情は認められない。

そして,甲2号意匠は,具体的には,以下のとおりである。なお,甲2号意匠の形態を表した図は,正面,左側面及び平面が表れている斜視図による,開口部を閉じた状態,開口部を開けた状態,及び開口部を開けて略上半部を折り曲げた状態を表した3図のみであるので,背面,右側面及び底面については推認可能な範囲で適宜認定する。
(2-1)意匠に係る物品
意匠に係る物品は,「ペンケース」であり,開口部に備えたスライドファスナーの開閉によりペン等を収納するものであるとともに,開口部を開いた状態において自立したペンスタンドにもなるものである。
(2-2)形態
<基本的な構成態様>
(ア)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体とし(なお,側面視形状については,開口部を閉じた状態の図における正面の底辺の湾曲態様から,下方は膨らみのある態様と認められるのに対して,正面の上端の幅はスライドファスナーの幅程度としたものであり,上方に向けてすぼまるものといえるから記載のとおり認定し,平面視形状については,開口部を閉じた状態の図における底辺の湾曲態様等から記載のとおり認定し,そして底面については,上面及び左側面を全開した場合に,左側面の下端が左右に広がるものであるから記載のとおり認定した。),
(イ)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部とし,
(ウ)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面とし,その上下方向の中間付近に右側面側から左側面側に向けて下方に傾斜する境界線を境にして,略上半部と略下半部とは異なる部材とし,全面を不透明とし(なお,正面と背面が連続した態様である点については,開口部を閉じた状態の図における底辺の右側面側の湾曲態様等から記載のとおり認定し,背面及び右側面における境界線の態様については,正面における境界線の態様及び上半部を折り曲げた状態等から記載のとおり認定した。),
(エ)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状とし,
<具体的な構成態様>
(オ)正面視縦横比を,約2.7対1(なお,請求書には約2.4対1とあるが,審判合議体の計測によると記載のとおりである。)とし,
(カ)側面視形状について,上方がすぼまった略長方形状からなる態様は,上方のすぼまり方を直線状とした,いわゆるローソク型とし(なお,上方のすぼまり方については,開口部を閉じた状態の図において,略上半部の右側辺が直線状に表れていることから,記載のとおり認定した。),
(キ)平面視形状について,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型とし(なお,開口部を閉じた状態における正面の底辺の湾曲した態様は,左側面寄りも右側面寄りの方が大きく湾曲したものであるから記載のとおり認定した。),
(ク)仕切壁は,略下半部に横長長方形のポケット式収納部を備え,仕切壁及びポケット収納部の上辺を帯状とし,
(ケ)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部は,その延長上のケース外側に突き出し,引き手付きスライダー金具を1個備え,
(コ)物品の外側は,暗い青色,内側は,明るい青色としたものである。

(3)両意匠の共通点及び相違点
(3-1)意匠に係る物品について
意匠に係る物品については,両意匠ともに「ペンケース」であり,前述のとおり,どちらも開口部に備えたスライドファスナーの開閉によりペン等を収納するものであるとともに,開口部を開いた状態において自立したペンスタンドにもなるものであるから,共通する。
(3-2)形態について
(3-2-1)共通点
<基本的な構成態様>
(A)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体としたものである。
(B)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部としたものである。
(C)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面とし,その上下方向の中間付近に右側面側から左側面側に向けて下方に傾斜する境界線が表れたものである。
(D)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状としたものである。
<具体的な構成態様>
(E)平面視において,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型としたものである。
(F)仕切壁は,略下半部に横長長方形状のポケット式収納部を備え,仕切壁及びポケット式収納部の上辺を帯状としたものである。
(G)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部が,その延長上のケース外側に突き出したものである。

(3-2-2)相違点
<基本的な構成態様>
(a)正面,右側面及び背面について,本件登録意匠は,略上半部を格子模様が表れている透明,略下半部を不透明としたものであるのに対して,甲1号意匠は,略上半部と略過半部とを別部材とするものの,全面を不透明としたものである。
<具体的な構成態様>
(b)正面視縦横比について,本件登録意匠は,約2.3対1としたものであるのに対して,甲2号意匠は,約2.7対1としたものである。
(c)上方がすぼまった略縦長長方形状とした側面視形状について,本件登録意匠は,上方のすぼまり方を曲線状とした,いわゆる砲弾型としたものであるのに対して,甲2号意匠は,上方のすぼまり方を直線状とした,いわゆるローソク型としたものである。
(d)スライドファスナーについて,本件登録意匠は,引き手付きスライダー金具を2個備えたものであるのに対して,甲2号意匠は,引き手付きスライダー金具を1個備えたものである。
(e)色彩について,本件登録意匠は,色彩を付していないものであるのに対して,甲
2号意匠は,外側は暗い青色,内側は明るい青色としたものである。

(4)共通点及び相違点の評価
両意匠は,意匠に係る物品が共通するものであるから,形態の共通点と相違点の両意匠の類否判断に及ぼす影響の大きさを比較し,共通点が相違点を凌駕するものであれば,両意匠は類似するものといえる。したがって,以下,形態について,その共通点及び相違点の評価を行う。
(4-1)共通点の評価
共通点(A)ないし(D)は,両意匠の開口部を閉じた状態と開口部を開けて自立させた状態に係るものであるが,いずれも基本的な構成態様における共通点であり,概括した場合には両意匠は共通しているといえるとしても,両意匠には基本的な構成態様に相違点が存在するとともに,具体的な構成態様にも相違点が多く存在しており,共通点(A)ないし(D)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,両意匠の類否判断を決する程に大きいとはいえない。
共通点(E)は,平面視形状をしずく型とした点であるが,それは正面及び背面の全体に及ぶものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度認められる。
共通点(F)は,仕切壁の略下半部に横長長方形状のポケット式収納部を設け,仕切壁及びポケット式収納部の上辺を帯状とした点であるが,この点は,ペンスタンドとして使用する際には機能的に軽視できないものであるとしても,内部の形態の一部分である仕切壁における付加的なものであり,開口部を閉じた状態においては目に触れるものではないから,部分的な相違に止まり,共通点(F)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
共通点(G)は,スライドファスナーについて,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部を,その延長上のケース外側に突き出したものとした点であるが,この種の物品分野においては極普通に見られる態様であり,両意匠にのみの特徴ともいえないから,共通点(G)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

以上の両意匠の共通点を総合すると,基本的な構成態様の共通点(A)ないし(D)に,具体的な構成態様の共通点(E)ないし(G)が加わったとしても,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,両意匠の類否判断を決する程のものとはいえない。

(4-2)相違点の評価
相違点(a)は,正面,右側面及び背面において,略上半部を格子模様が表れている透明部としたか否かの相違であるが,この相違は,正面や背面という大きな面を占める部分における相違であって,両意匠の基本的な構成態様に影響を及ぼすものであり,開口部を閉じた状態だけでなく,ペンスタンドとして使用している状態においても,目立つ相違であるから,相違点(a)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点(b)は,正面視縦横比の相違であるが,どちらも縦の長さを横の長さの2.5倍前後としたものであるといえる程度の,僅かな相違と認められるから,相違点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(c)は,側面視形状を砲弾型としたか,それともローソク型としたかの相違であるが,両意匠共に上方がすぼまった略縦長長方形状とした態様における相違であり,需要者にとってさほど注視する部分ともいえないから,相違点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(d)は,スライドファスナーの態様の相違であるが,引き手付きスライダー金具の個数が1個であるか2個であるかの相違は,細部の相違であるから,相違点(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(e)は,色彩の有無の相違であるが,甲2号意匠の色彩の態様に格別特徴があるとはいえないから,相違点(e)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度に止まる。

以上の両意匠の相違点を総合すると,特に基本的な構成態様に影響を及ぼす相違点(a)は,その余の相違点も加わり,需要者に両意匠は異なるものであるとの印象を与えるものといえる。

(5)類否判断
そうすると,両意匠は,意匠に係る物品については共通するものの,その形態において,相違点が相俟って生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕するものであって,意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠は,甲2号意匠に類似するものということはできない。

(6)小括
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず,請求人の主張する無効理由2には,理由がない。

3-2.甲14号意匠(別紙第4参照)は,請求書の記載によれば,甲2号意匠の実物写真であり,甲2号意匠と対比した場合,正面視縦横比について甲2号意匠が約2.7対1,甲14号意匠が約2.3対1(なお,請求書には約2.4対1とあるが,審判合議体の計測によると記載のとおりである。)とする点に相違点が存在するものの,その他の態様においては共通している。そうすると,甲2号意匠についての判断と同様の判断によって,本件登録意匠は,甲14号意匠に類似するものではないといえるから,請求人の主張する無効理由2には,理由がない。

4.無効理由3について
請求人が主張する無効理由3,すなわち本件登録意匠が甲7号意匠に類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)本件登録意匠
本件登録意匠については,前記「1.」の(1)及び(2)に記載のとおりである。

(2)甲7号意匠
甲7号意匠は,台湾生産品MIT微笑標章網站(ウェブページ)の写しである甲第7号証の第1頁に表された「筆袋」の意匠(標章番号01900032-02103)であり,甲第7号証の3(甲第7号証の2の日本語翻訳文)によれば,甲第7号証のウェブページは,台湾経済部工業局が本件登録意匠の意匠登録出願前の2014年6月25日に公開されたものであり,その形態は,同写しに表されたとおりのものであり,(別紙第5参照)
なお,甲第7号証の1ないし3の内容には,特に信用性を疑わせる事情は認められず,また,審決作成時において,台湾経済部工業局のウェブページ上(http://www.mittw.org. tw/products/prod-more.aspx?Z%2fUV03hxSvs0VIQ3bdMMnw%3d%3d)で甲7号意匠を確認することができる。

そして,甲7号意匠は,具体的には,以下のとおりである。なお,甲第7号証に表されている甲7号意匠は,正面図の1図のみによって表されたものであるが,請求人は,甲7号意匠の実物写真として甲第15号証(別紙第6参照)を提出していることから,当審においても甲第15号証に表されている意匠は甲7号意匠の実物写真として扱い,以下,正面図から認定できる態様については甲第7号証に基づいて認定し,その他の態様については甲第15号証に基づいて認定する。
(2-1)意匠に係る物品
意匠に係る物品は,「筆袋」であり,開口部に備えたスライドファスナーの開閉によりペン等を収納するものであるとともに,開口部を開いた状態において自立したペンスタンドにもなるものである。
(2-2)形態
<基本的な構成態様>
(ア)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体とし,
(イ)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部とし,
(ウ)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面とし,上下方向の中間付近に右側面側から左側面側に向けて下方に傾斜する境界線を境にして,略上半部を格子模様が表れている透明,略下半部を不透明とし,
(エ)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状としたものであり,
<具体的な構成態様>
(オ)正面視縦横比を,約1.8対1(なお,請求書には約1.9対1とあるが,審判合議体の計測によると記載のとおりである。)とし,
(カ)側面視形状について,上方がすぼまった略長方形状からなる態様は,上方のすぼまり方を直線状とした,いわゆるローソク型とし,
(キ)平面視形状について,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型とし,
(ク)仕切壁に本件登録意匠に見られるポケット式収納部を設けず,
(ケ)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部は,その延長上のケース外側に突き出し,引き手付きスラーダー金具を1個備え,
(コ)上面,左側面及び底面にわたる端部に,正面視逆コ字状に表れている縁部を設け,
(サ)正面の上端略中央に環状の係止金具を設け,
(シ)物品の上半部の透明部を白色,略下半部(仕切壁も含めて)の外側を赤色,略下半部の内側を黒色,そして正面視逆コ字状に表れている縁部を黒色としたものである。

(3)両意匠の共通点及び相違点
(3-1)意匠に係る物品について
意匠に係る物品については,本件登録意匠は「ペンケース」であり,甲7号意匠は「筆袋」であるが,前述のとおり,どちらも開口部に備えたスライドファスナーの開閉によりペン等を収納するものであるとともに,開口部を開いた状態において自立したペンスタンドにもなるものであるから,共通する。
(3-2)形態について
(3-2-1)共通点
<基本的な構成態様>
(A)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体としたものである。
(B)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部としたものである。
(C)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面とし,上下方向の中間付近に右側面側から左側面側に向けて下方に傾斜する境界線を境にして,略上半部を格子模様が表れている透明,略下半部を不透明としたものである。
(D)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状としたものである。
<具体的な構成態様>
(E)平面視において,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型としたものである。
(F)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部が,その延長上のケース外側に突き出したものである。

(3-2-2)相違点
<具体的な構成態様>
(a)正面視縦横比について,本件登録意匠は,約2.3対1としたものであるのに対して,甲7号意匠は,約1.8対1としたものである。
(b)上方がすぼまった略縦長長方形状とした側面視形状について,本件登録意匠は,上方のすぼまり方を曲線状とした,いわゆる砲弾型としたものであるのに対して,甲7号意匠は,上方のすぼまり方を直線状とした,いわゆるローソク型としたものである。
(c)スライドファスナーについて,本件登録意匠は,引き手付きスライダー金具を2個備えたものであるのに対して,甲7号意匠は,引き手付きスライダー金具を1個備えたものである。
(d)上面,左側面及び底面の端部に縁部を設けたか否かついて,本件登録意匠は,縁部を設けていないものであるが,甲7号意匠は,正面視逆コ字状に表れている縁部を設けたものである。
(e)正面の上端略中央に環状の係止金具を設けたか否かについて,本件登録意匠は,設けていないものであるのに対して,甲7号意匠は,設けたものである。
(f)色彩について,本件登録意匠は,色彩を付したものではないのに対して,甲7号意匠は,上半部の透明部を白色,略下半部(仕切壁も含めて)の外側を赤色,略下半部の内側を黒色,そして正面視逆コ字状に表れている縁部を黒色としたものである。

(4)共通点及び相違点の評価
両意匠は,意匠に係る物品が共通するものであるから,形態の共通点と相違点の両意匠の類否判断に及ぼす影響の大きさを比較し,共通点が相違点を凌駕するものであれば,両意匠は類似するものといえる。したがって,以下,形態について,その共通点及び相違点の評価を行う。
(4-1)共通点の評価
共通点(A)ないし(D)は,両意匠の開口部を閉じた状態と開口部を開けて自立させた状態に係るものであるが,いずれも基本的な構成態様における共通点であり,概括した場合には両意匠は共通しているといえるとしても,具体的な構成態様に相違点が多く存在している両意匠にあっては,共通点(A)ないし(D)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,両意匠の類否判断を決する程に大きいとはいえない。
共通点(E)は,平面視形状をしずく型とした点であるが,それは正面及び背面の全体に及ぶものであるから,共通点(E)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度認められる。
共通点(F)は,スライドファスナーについて,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部を,その延長上のケース外側に突き出したものとした点であるが,この種の物品分野においては極普通に見られる態様であり,両意匠にのみの特徴ともいえないから,共通点(F)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

以上の両意匠の共通点を総合すると,基本的な構成態様の共通点(A)ないし(D)に,具体的な構成態様の共通点(E)及び(F)が加わったとしても,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,両意匠の類否判断を決する程のものとはいえない。

(4-2)相違点の評価
相違点(a)は,正面視縦横比の相違であるが,本件登録意匠は縦の長さが横の長さの2倍以上のものであるのに対して,甲7号意匠は2倍以下のものであり,この相違は,本件登録意匠が全体としてスマートな印象を与えるのに対して,甲7号意匠が全体としてずんぐりした印象を与えるものであるから,需要者に別異の意匠との印象を与え,相違点(a)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点(b)は,側面視形状を砲弾型としたか,それともローソク型としたかの相違であるが,両意匠共に上方がすぼまった略縦長長方形状とした態様における相違であり,需要者にとってさほど注視する部分ともいえないから,相違点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(c)は,スライドファスナーの態様の相違であるが,引き手付きスライダー金具の個数が1個であるか2個であるかの相違は,細部の相違であるから,相違点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(d)は,上面,左側面及び底面の端部に縁部を設けたか否かの相違であるが,縁部を設けていない本件登録意匠は,全体としてすっきりした印象を与えるものであるのに対して,縁部を設けた甲7号意匠は全体としてごてごてした印象を与えるものであるから,相違点(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点(e)は,正面の上端略中央に環状の係止金具を設けたか否かの相違であるが,細部の相違であるから,相違点(e)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点(f)は,色彩の有無の相違であるが,甲7号意匠の色彩の態様に格別特徴があるとはいえないから,相違点(f)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度に止まる。

以上の両意匠の相違点を総合すると,特に全体の印象に影響を及ぼす相違点(a)及び(d)は,その余の相違点も加わり,需要者に両意匠は異なるものであるとの印象を与えるものといえる。

(5)類否判断
そうすると,両意匠は,意匠に係る物品については共通するものの,その形態において,相違点が相俟って生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕するものであって,意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠は,甲7号意匠に類似するものということはできない。

(6)小括
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず,請求人の主張する無効理由3には,理由がない。

5.無効理由4について
請求人が主張する無効理由4,すなわち本件登録意匠が甲2号意匠及び甲7号意匠に基づいて容易に創作することができた意匠であるのか否かについて検討する。
(1)本件登録意匠
本件登録意匠については,「第3 当審の判断」中,前記「1.」の(1)及び(2)に記載のとおりである。

(2)甲2号意匠
甲2号意匠については,「第3 当審の判断」中,前記「3.」の(2)ないし(2-2)に記載のとおりである。

(3)甲7号意匠
甲7号意匠は,「第3 当審の判断」中,前記「4.」の(2)ないし(2-2)に記載のとおりである。
そして,甲7号意匠は,ペンケースの意匠として,正面視略上半部を格子模様の表れている透明としたものが本願出願前から既に知られた形態であることを示すものである。

(4)創作容易性の判断
まず,本件登録意匠の形態において,甲2号意匠との相違点を除いた形態,つまり以下の(A)ないし(G)については,甲2号意匠にも見られるものであり,本願出願前に公然知られた形態といえる。
(A)全体を,正面視において上方の左角部を凸弧状に丸めた略縦長長方形状,側面視において上方がすぼまった略縦長長方形状,平面視において略横長楕円形状,そして底面にマチ部を有する袋状体とし,
(B)上面及び左側面を,正面視略逆L字状に一続きのスライドファスナーにより開閉可能な開口部とし,
(C)正面は右側面を回り込み,背面と連続した面とし,その上下方向の中間付近に右側面側から左側面側に向けて下方に傾斜する境界線が表れ,
(D)開口部を開いて自立させた状態において,ケースの内側で左側面側の略下半部の開口部付近に,開口部を閉じた際には折り畳まれた状態となる縦長長方形状の仕切壁を設け,底部となる底面は,略倒舌片形状とし,
(E)平面視において,略楕円形状からなる態様は,右側面側が半円状に膨らみ,左側面側に向けて先細りした,いわゆるしずく型とし,
(F)仕切壁は,略下半部に横長長方形状のポケット式収納部を備え,仕切壁及びポケット式収納部の上辺を帯状とし,
(G)スライドファスナーは,その金具部とともに帯状基部を上面及び左側面の端部に露出して設け,上面側の端部が,その延長上のケース外側に突き出したものとした。

次に,本件登録意匠のように正面視略上半部を格子模様が表れている透明としたものは,甲7号意匠に見られるものであり,本願出願前に既に知られている態様といえる。

そうすると,本件登録意匠は,甲2号意匠の形態を基礎とし,その正面視上半部を,甲7号意匠に見られるように,格子模様が表れている透明としたまでのものといわざるをえず,当業者が容易に創作できたものと認められる。

なお,本件登録意匠と甲2号意匠を対比した場合,正面視上半部を格子模様が表れている透明としたか否かの他に,正面視縦横比の相違,側面視形状の相違,引き手付きスライダー金具の個数の相違,色彩の有無の相違が認められるが,いずれもありふれた僅かな改変といえる程度のものであるから,本件登録意匠の創作容易性の判断に影響を及ぼすものではない。

(5)小括
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当し,請求人の主張する無効理由4には,理由がある。

第4 むすび
以上のとおり,請求人の主張及び証拠方法によっては,無効理由1ないし3には理由がないものの,無効理由4には理由がある。
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に違反して意匠登録を受けたものであり,同法第48条第1項第1号に該当することより,本件登録意匠は無効とすべきものである。
また,審判に関する費用については,意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2017-03-10 
結審通知日 2017-03-14 
審決日 2017-03-31 
出願番号 意願2014-18330(D2014-18330) 
審決分類 D 1 113・ 121- Z (F2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 重坂 舞 
特許庁審判長 山田 繁和
特許庁審判官 正田 毅
江塚 尚弘
登録日 2015-10-02 
登録番号 意匠登録第1536925号(D1536925) 
代理人 石井 隆明 
代理人 野村 慎一 
代理人 藤本 昇 

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