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審決分類 審判    F1
管理番号 1330175 
審判番号 無効2014-880017
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2017-07-27 
意匠に係る物品 箸の持ち方矯正具 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1406731号「箸の持ち方矯正具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,平成26年10月31日付け審判請求書を提出し,「意匠登録第1406731号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のように主張するとともに,証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。

1.請求の理由
(1)本件意匠登録
登録番号 意匠登録第1406731号
出願日 平成21年8月21日
登録日 平成23年1月 7日
掲載公報発行日 平成23年2月 7日
意匠に係る物品 箸の持ち方矯正具
登録意匠 甲第1号証(意匠公報)参照

(2)先行意匠
登録番号 特許第3766831号
出願日 平成14年 8月13日
国際公開日 平成15年 2月27日
公表目 平成16年12月24日
登録日 平成18年 2月 3日
掲載公報発行日 平成18年 4月19日
発明の名称 子供の知的能力を発達させる練習用箸
先行意匠 甲第2号証(特許公報)参照

(3)無効理由の要点
意匠登録第1406731号意匠(甲第1号証に記載された意匠。以下,「本件登録意匠」という。)は,本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である特許第3766831号の特許公報(甲第2号証)に記載された意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し無効とすべきである。

(4)本件登録意匠を無効にすべき理由
ア 本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠登録第1406731号の意匠公報に記載のとおり,意匠に係る物品を「箸の持ち方矯正具」とした意匠であり,その構成は以下のとおりである。
(ア)基本的構成態様
本件登録意匠の形態の基本的構成態様を以下に摘示する。([ ]括弧書きは,甲第3号証に記載された<本件登録意匠(甲第1号証)と先行意匠(甲第2号証)との対比>の表の本件登録意匠(甲第1号証)の列(右列)の参照箇所(No.と【図名】を示す。)。)
(i)箸の持ち方矯正具であって,箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し矯正リングに指を挿入する機構であり,この点は,看者が最も注意を引かれる部分である。[No.1【箸の持ち方矯正具の参考斜視図】]
(ii)矯正リングは2本の箸に別々に挿入する。[No.1【箸の持ち方矯正具の参考斜視図】]
(iii)矯正リングは,箸に挿入する挿入部と,指を挿入する円環が一体成形されている。[No.2【箸の持ち方矯正具の参考斜視図】]
(iv)2本の箸に別々に挿入される矯正リングの箸に挿入する挿入部に対する指を挿入する円環の傾きは各々異なる。[No.2【箸の持ち方矯正具の参考斜視図】]
(v)使用者が,人差し指と薬指とを矯正のリングに挿入することで,指の挿入位置が自動的に決まり,持ち方が矯正されるようになっている。[No.3【持ち方矯正具を取付けた箸を持った状態の参考斜視図】]
(イ)各部の具体的態様
本件登録意匠の形態の各部の具体的態様を以下に摘示する。
(i)箸に挿入する挿入部は,断面が丸みを帯びた四角で長さが約数cmの角管である。[No.2【箸の持ち方矯正具の参考斜視図】]
(ii)指を挿入する円環は指が挿入できる程度の内径を有する円環である。[No.2【箸の持ち方矯正具の参考斜視図】]
(iii)箸に挿入する挿入部の角管の中心線に対して指を挿入する円環の中心線が,人差し指用は少し傾斜している。[No.4【箸の持ち方矯正具の片方の正面図】]
(iv)箸に挿入する挿入部の角管の中心線と指を挿入する円環の中心線が,薬指用は互いに垂直。[No.11【箸の持ち方矯正具のもう一方の背面図】]

イ 先行意匠(甲第2号証)の要旨
甲第2号証は,特許第3766831号の特許公報であり,本件登録意匠の意匠登録出願(出願日:平成21年8月21日)前の平成15年2月27日に国際公開(国際公開番号:W02003/015589)された後,平成16年12月24日に国内公表(公表番号:特表2004-538074)された刊行物であるから,甲第2号証に記載された意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願の時点(出願日:平成21年8月21日において,公然知られている。
甲第2号証に記載された意匠は,特許第3766831号の特許公報に記載された発明の名称「子供の知的能力を発達させる練習用箸」に係る意匠であり,その構成は以下のとおりである。
(ア)基本的構成態様
先行意匠の形態の基本的構成態様を以下に摘示する。([ ]括弧書きは,甲第3号証に記載された<本件登録意匠(甲第1号証)と先行意匠(甲第2号証)との対比>の表の先行意匠(甲第2号証)の列の参照箇所(No.と【図名】))
(i)箸の持ち方矯正具であって,箸に矯正リング(輪)を設け,矯正リングに指を挿入する機構であり,この点は,看者が最も注意を引かれる部分である。[No.1【図6】]
(ii)矯正リングは一方の箸には箸と矯正リング(輪)を一体に設け,他方の箸には矯正リング(輪)を挿入する。[No.1【図6】]
(iii)2本の箸に別々に設けられる矯正リングの箸に挿入する挿入部に対する指を挿入する円環の傾きは各々異なる。[No.1【図6】【画像部分】]
(iv)使用者が,親指,人差し指と薬指とを矯正のリングに挿入することで,指の挿入位置が自動的に決まり,持ち方が矯正されるようになっている。[No.3【使用例】]
(イ)各部の具体的態様
先行意匠の形態の各部の具体的態様を以下に摘示する。
(i)箸に挿入する挿入部は,断面が円形で長さが約数cmの管である。[No.2【参考図】]
(ii)指を挿入する円環は指示挿入できる程度の内径を有する円環である。[No.2【参考図】]
(iii)箸に挿入する挿入部の管の中心線に対して指を挿入する円環の中心線が,少し傾斜している。[No.1【図6】の符号121]
(iv)箸と一体成形された円環
(v)(右記の符号111)の中心線は,箸の中心線と垂直。[No.2【参考図】の符号111]

ウ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の意匠に係る物品の対比
意匠に係る物品は,両意匠ともに「箸の持ち方矯正具」に関するものであり,同一の物品である。

エ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の形態の共通点及び差異点の列挙
両意匠の基本的構成態様及び各部の具体的態様については,以下の共通点と差異点が認められる。
<本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の形態の共通点>
【共通点1】 指を挿入するリングの中心線の方向が箸の軸に垂直なリングと,指を挿入するリングの中心線の方向が箸の軸に対して少し傾斜したリングを形成する点
【共通点2】 リングに指を挿入する点
<本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の形態の差異点>
【差異点1】 本件登録意匠は,第1箸部材及び第2箸部材の各々に装着する2個のリングからなるのに対して,甲第2号証に記載の意匠は,3個のリングからなる点
【差異点2】 本件登録意匠は,第1箸部材及び第2箸部材に装着する矯正具であるのに対して,甲第2号証に記載の意匠は,第1箸部材のリングが箸と一体成形され,第2箸部材のリングは,第2箸部材に装着する矯正具である点
【差異点3】 本件登録意匠は,「箸の持ち方矯正具」の箸取付け部の断面が丸みを帯びた四角形であるのに対して,甲第2号証に記載の意匠では円形である点

オ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の形態の差異点に関する検討
意匠の類否は,意匠法24条2項に「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されている。

差異点1について,本件登録意匠の2個のリングは,甲第2号証に記載の意匠の3個のリングに含まれるものであり,甲第2号証に記載の意匠の3個のリングと,本件登録意匠の2個のリングが構成要素において部分的差異があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのないものである。本件登録意匠は,本質的に甲第2号証に記載の先行意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないものである(同趣旨の判例:最二小判昭49年3月19日[可僥性伸縮ホース事件]民集28巻2号308頁,以下「昭和49年最判」という。)。
また,意匠を全体として考察すると,指の動かし方を矯正するという,意匠を見る者の注意を最もひきやすい要部である本件登録意匠と甲第2号証に記載のリングは,一般の需要者が誤認混同を来す恐れがあるほどに美感が似ているため類似と言える(同趣旨の判例:東京高判昭52.4.14[スプレーガン事件]判タ364号281頁,以下「昭和52年高判」という。)。

差異点2については,甲第2号証に記載の意匠の第1箸部材は,リングが箸と一体成形されているのに対して,甲第2号証に記載の第2箸部材及び本件登録意匠のリングは,装着型である点に差異があるが,要部であるリングが一体型であってもあるいは装着型であっても,使用形態等から,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところはなく,本件登録意匠は,本質的に先行意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないものである(同趣旨の判例:「昭和49年最判」)。
また,意匠を全体として考察した場合,意匠を見る者の注意を最もひきやすい要部であるリングが,箸と一体型であることと,装着型であることは,一般の需要者は分離して判断せず,視覚を通じて同一出所から出た意匠と判断し誤認混同するので類似と言える(同趣旨の判例:「昭和52年高判」)。

差異点3は,本件登録意匠「箸の持ち方矯正具」の箸取付け部の断面が丸みを帯びた四角形であるのに対して,甲第2号証に記載の意匠では円形である点であるが,本件登録意匠と甲第2号証に記載の意匠のリング断面形状に,丸みを帯びた四角形と円形という部分的差異があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面はなんら異なることがなく,本件登録意匠は,本質的に先行意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないものである(同趣旨の判例:「昭和49年最判」)
また,意匠を全体として考察した場合も,意匠を見る者の注意を最もひきやすい要部のリングについては,本件登録意匠と甲第2号証に記載の意匠のリング断面形状の丸みを帯びた四角形と円形という部分的差異は,一般の需要者が誤認混同するほどに同じ美感を生ずるものなので類似と言える(同趣旨の判例:「昭和52年高判」)。

即ち,本件登録意匠は,甲第2号証に記載の意匠と基本的構成態様及び各部の具体的態様において共通するものであり,各部の具体的態様における差異は,需要者の注意を惹き付けるものではなく,両意匠の差異点は,両意匠の共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えない。したがって,本件登録意匠と,甲第2号証に記載の意匠は,全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を共通にし類似するというべきである(同趣旨の判例:平成23年(ワ)第9476号[角度調節金具事件]地判45頁)。

5.むすび
上記より,本件登録意匠と,先行意匠である甲第2号証に記載の意匠とは,差異点1,2,3が認められるが,このような部分的差異があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面において,なんら異なるところのない意匠は,本質的に公知意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないと言える(同趣旨の判例:「昭和49年最判」)。
また,意匠の類否を判断するにあたっては,意匠を全体として考察することを要し,意匠を見る者の注意を最もひきやすい部分を要部として把握し,これを観察して一般の需要者が誤認,混同するかどうかという観点から,その類否を決するのが相当であり,本件登録意匠は,先行意匠と誤認混同を来す恐れがあるほどに,類似していることが明らかである。
したがって,本件登録意匠は,甲第2号証に記載された意匠に類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

6.証拠方法
(1)甲第1号証 意匠登録第1406731号の意匠公報 (写し)
(2)甲第2号証 特許第3766831号の特許公報 (写し)
(3)甲第3号証 対比表(本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比)

第2 被請求人の答弁及びその理由
1.答弁の趣旨
被請求人は,平成27年2月23日付け審判事件答弁書を提出し,「請求人の請求は,成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める」と答弁し,その理由として以下のように主張した。

2.答弁の理由
(1)「請求の理由」に対する認否
ア.「1.本件意匠登録」について
認める。

イ.「2.先行意匠」について
特許第3766831号の登録番号,出願日,国際公開日,公表日,登録日,掲載公報発行日,発明の名称については認める。
しかし,「先行意匠 甲第2号証(特許公報)参照」との主張については,その趣旨が不明確ではあるが,否認ないし争う。詳細を後述するとおり,請求人が先行意匠であると主張していると思われる意匠(審判請求書6ページの図の意匠)は,甲第2号証に開示された意匠ではない。

ウ.「3.無効理由の要点」について
否認ないし争う。詳細は後述のとおり。

エ.「4.本件意匠登録を無効にすべき理由」について
(ア)「ア 本件意匠登録の要旨」について
本件登録意匠が意匠登録第1406731号の意匠公報に記載のものであり,意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であることは認める。
しかし,その構成については,以下のとおり,否認ないし争う。
a.基本的構成態様について
(a)基本的構成態様(i)について
本件登録意匠が,箸の持ち方矯正具に係るものであることは認める。
請求書の「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し」は誤記と思われる。
本件登録意匠に係る箸の持ち方矯正具においては,箸を,箸の持ち方矯正具に挿入して使用する。
また,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。
また,請求書の「この点は,看者が最も注意を引かれる部分である」については,否認ないし争う。請求人のいう「この点は,」とは,どの点をいうのか,不明である。
請求書の対比表右欄の「No.1【持ち方矯正具を箸に取付けた状態の参考斜視図】」については,当該図面が意匠出願時に添付された参考斜視図に対応するものであることは認めるが,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。
(b)基本的構成態様(ii)について
本件登録意匠に係る箸の持ち方矯正具の使用時において,2本の箸を,矯正具に別々に挿入することは認める。
ただし,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。
(c)基本的構成態様(iii)について
矯正リングが,挿入部と円環が一体成形されていることは,否認する。
本件登録意匠には,「一体成形」といった限定は無いので,一体成形されている場合もあるが,接合により製造する場合も含まれる。
本件登録意匠に係る箸の持ち方矯正具が,箸を挿入する挿入部と,指を挿入する円環部とからなることは,認める。
(d)基本的構成態様(iv)について
本件箸の持ち方矯正具の片方(A)と,本件箸の持ち方矯正具のもう一方(B)とにおいて,挿入部に対する円環の傾きが異なることは認める。
(e)基本的構成態様(v)について
使用者が,人差し指と薬指とを円環部に挿入することで,指の挿入位置が自動的に決まり,箸の持ち方が矯正されることは認める。
ただし,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。
請求書の対比表右欄の「No. 3【持ち方矯正具を取付けた箸を持った状態の参考斜視図】」については,当該図面が意匠出願時に添付された参考斜視図に対応するものであることは認めるが,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。

b.各部の具体的態様について
(a)各部の具体的態様(i)について
箸を挿入する挿入部は,断面が丸みを帯びた四角の角管であることは,認める。
しかし,挿入部の長さが約数cmであることは,否認する。
本件登録意匠には,寸法についての限定は無い。
もっとも,円環部は,人差し指又は薬指を挿入して使用するものであるところ,人の指の太さは通常は一定の範囲内にあるため,本件登録意匠も,通常は,一定の範囲内にある。
したがって,請求人の「長さが約数cm」という主張が,本件登録意匠において,挿入部の長さが2cmを大幅に超えるような,例えば9cmのものも含むということであれば,その主張は誤りである。
(b)各部の具体的態様(ii)について
認める。
(c)各部の具体的態様(iii)について
認める。ただし,「箸に挿入する挿入部」は,「箸を挿入する挿入部」の誤記と思われる。
(d)各部の具体的態様(iv)について
認める。ただし,「箸に挿入する挿入部」は,「箸を挿入する挿入部」の誤記と思われる。

(イ)「イ 先行意匠(甲第2号証)の要旨」について
a.「先行意匠」の特定について
そもそも,請求人の主張する「先行意匠」は,どの意匠をいうのか,若干不明確ではある。もっとも,請求人は,先行意匠の基本的構成態様(i)において,「箸に矯正リング(輪)を設け」等と主張し,その右の欄には,審判請求書6ページの図(No.1【図6】)を掲載していることから,以下では,その審判請求書6ページの図の全体を先行意匠として特定したことを前提に,認否反論する。
なお,請求人が,先行意匠の特定について,これと異なる主張をすることは,請求書の要旨を変更する補正であり,手続上,認められない(意匠法52条で準用する特許法131条の2第1項)。
b.審判請求書5ページ下から3行?6ページ3行について
甲第2号証が特許第3766831号の特許公報であることは認める。
審判請求書の「甲第2号証は,…本件意匠登録出願(出願日:平成21年8月21日)前の平成15年2月27日に国際公開([国際公開番号:WO2003/015589]された後,平成16年12月14日に国内公表(公表番号:特表2004-538074)された刊行物であるから,」の部分は,主張の趣旨が不明である。甲第2号証の特許公報の内容が公知であることを主張するのであれば,甲第2号証の特許公報の公開日の主張をすべきである。
c.審判請求書6ページ4行?6行について
請求人は,審判請求書6ページの図の意匠(前掲)が,甲第2号証に記載されている旨主張するようであるが,否認する。
甲第2号証の図6は,審判請求書6ページの図とは,少なくとも,答弁書8ページの図(【甲第2号証の図6に,赤丸を加筆した図】)の赤丸で囲んだ部分において,大きく異なる。
すなわち,甲第2号証の図6は,練習用箸100の図であり,箸の持ち方矯正具の図ではない。
また,甲第2号証の第1箸部材110および第2箸部材130の上端には,取り付穴113が形成され,その取り付穴113には,人気のあるキャラクターなどの装飾品Aが挿入されている(甲第2号証【0048】,【0056】)。
また,甲第2号証の第2箸部材110および第2箸部材130の下端には,固形物を掴み取る第1パッド200および第2パッド210が形成されている(甲第2号証【0056】,【0057】)。
また,甲第2号証の第1箸部材110及び第2箸部材130の上部には,結合手段440が形成されている。すなわち,第1箸部材110の上部には,雄接続ボール410が形成され,第2箸部材130の上部には,雌接続穴420が形成されている(甲第2号証【0058】,【0062】)。
また,甲第2号証の取り付け穴113の上端には,発行ランプ510が形成されている(甲第2号証【0060】)。
甲第2号証の図6には,上記のとおり,少なくとも,取り付穴113,人気のあるキャラクターなどの装飾品A,固形物を掴み取る第1パッド200および第2パッド210,結合手段440,発行ランプ510を備える練習用箸100が記載されているのである。
したがって,甲第2号証のこれらの構成要素を取り除いた審判請求書6ページの図(No.1【図6】)に表された意匠は,甲第2号証には開示されていない。

なお,甲第2号証の図6の意匠が,「子供の知的能力を発達させる練習用箸」に係る意匠であることは,認める。すなわち,請求人も認めるとおり,当該意匠は,「箸の持ち方矯正具」に係る意匠ではない。
上述のように,請求人の主張する先行意匠(審判請求書6ページの図(No.1【図6】)に表された意匠)は,甲第2号証に開示されていないものであるが,当該先行意匠の構成についての請求人の主張については,念のため,以下のとおり,否認ないし争う。
d.基本的構成態様について
(a)基本的構成態様(i)について
先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠をいう。以下同じ。)が箸の持ち方矯正具に係る意匠であるとの主張は,否認する。先行意匠は,箸の部品に係る意匠である。
また,「この点は,看者が最も注意を引かれる部分である」との主張は否認ないし争う。請求人のいう「この点は,」とは,どの点をいうのか,不明である。
(b)基本的構成態様(ii)について
審判請求書の基本的構成態様(ii)に関する記載の冒頭に記載の「矯正リングは」の修飾関係が不明確である。
なお,甲第2号証の図6において,第1箸部材110は親指挿入穴111を有する。
また,甲第2号証の図6において,第2箸部材130は人差し指および中指を挿入する保持ユニット120と,保持ユニット120の結合位置を調節する調節手段300とを有し,また,この保持ユニット120は人差し指を挿入する人差し指挿入穴121と,中指を挿入する中指挿入穴122とを有する(甲第2号証【0057】)。
(c)基本的構成態様(iii)について
否認ないし争う。
請求人の主張する先行意匠において,第1箸部材(審判請求書6ページの図の左側の箸)は,一体的に製造されているので,箸を挿入する挿入部なる部分は存在しない。
(d)基本的構成態様(iv)について
否認する。少なくとも甲第2号証の意匠においては,第2箸部材の保持ユニット120には,人差し指と薬指ではなく,人差し指と中指を挿入する(甲第2号証【0057】)。
また,右の欄の図では,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122が,第2箸部材に対して,180度よりも小さい角度で配置されているが,審判請求書6ページの図では,人差し指挿人穴121及び中指挿入穴122は,第2箸部材に対して,略180の角度で配置されているので,右の欄の図は,誤った図である。
e. 各部の具体的態様について
(a)各部の具体的態様(i)について
i. 請求人の主張は不明確ではあるが,少なくとも,先行意匠の第1箸部材(審判請求書6ページの図の左側の箸)は一体的に成形されているため,箸を挿入する挿入部は存在しない。
ii.また,審判請求書7ページでは,右の欄の一番下に,「No.2【参考図】」として,第1箸部材の一部と思われる図が記載されている。しかし,そもそも,甲第2号証の図6の意匠から,審判請求書6ページの図のような形で恣意的に部分的に抽出して作成した図にも意味がない上,更にその一部分を,審判請求書7ページの図のような形で抽出して作成した図には,全く意味がない。
iii.しかも,審判請求書7ページの右の欄のNo.2【参考図】の一番下の図は,審判請求書6ページの図の一部を抽出したものとしても,極めて不正確かつ恣意的なものであり,到底受け入れられない。
仮に審判請求書6ページの図の親指挿入穴111の部分を抽出するのであれば,真円に近い円環が,その外周において箸の棒に接するように接合している構成は,審判請求書6ページの図の構成とは著しく異なるものである。
したがって,上記の構成に関する請求人の主張は,到底認めることができない。
iv.また,甲第2号証の図6の構成においては,保持ユニット120の内側には,雄ネジ部123または突出部124を有する(甲第2号証の【0040】,【0041】,図4)。
v. また,上記の甲第2号証の図4の断面図や,甲第2号証の明細書からも明らかなとおり,甲第2号証の図6の意匠においては,保持ユニット120は,人差し指挿人穴121及び中指挿人穴122が一体的に形成されているのである。すなわち,人差し指挿入穴121の部分と,中指挿入穴122の部分が分離する構成にはなっていない。
したがって,これらが分離することを前提として記載したと思われる審判請求書7ページの真ん中の図(No.2【参考図】の上の図)は,誤りであり,意味がない。
vi .しかも,審判請求書7ページの真ん中の図も,審判請求書7ページの一番下の図について前述したのと同様に,真円に近い円環が,その外周において箸の棒に接するように接合している点で,審判請求書6ページの図の構成とは著しく異なるものである。
(b)各部の具体的態様(ii)について
認める。
(c)各部の具体的態様(iii)について
否認ないし争う。
請求人の主張は,趣旨が不明確であるが,甲第2号証の図3,図4,図6や明細書の記載に鑑みて,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122の中心線は,第2箸部材の箸の中心線と,略平行である。
(d)各部の具体的態様(iv)について
先行意匠の第1箸部材(審判請求書6ページの図の左側の箸)において,親指挿入穴111の中心線が,箸の中心線と垂直であることは,認める。
しかし,右の欄の図面が,審判請求書6ページの図とは構成が異なるものであることは,前述のとおりである。

(ウ)「ウ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の意匠に係る物品の対比」について
否認ないし争う。
本件登録意匠の意匠に係る物品は,箸の持ち方矯正具である。
他方,請求人が先行意匠であると主張する形態(審判請求書6ページの図)は,甲第2号証に記載された物品の部分に過ぎないので,単体での物品性を有しない。
また,仮に先行意匠の意匠が物品性を有するとしても,その物品とは,箸の部品である。前述のように,甲第2号証の図6には,少なくとも,取り付穴113,人気のあるキャラクターなどの装飾品A,固形物を掴み取る第1パッド200および第2パッド210,結合手段440,発行ランプ510を備える練習用箸100が開示されているところ,先行意匠は,装飾品Aや第1パッド及び第2パッド等が省略されており,その意味で,意匠に係る物品は,完成品ではなく,箸の部品に過ぎない。また,仮に,先行意匠に係る部分のみで,箸としても使用できなくはないという意味で,意匠に係る物品が部品ではなく,完成品であるとしても,先行意匠の意匠に係る物品は,箸である。この点は,請求人も,審判請求書6ページ4?5行で認めるとおりである。
したがって,本件登録意匠に係る物品と,先行意匠に係る物品が,同一であるということはできない。
詳細は,後述する。

(エ)「エ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の形態の共通点及び差異点の列挙」について
審判請求人の主張する「先行意匠」とは,審判請求書6ページの図のものであり,甲第2号証に記載されたものではないことは,前述のとおりであるが,以下では,念のため,本件登録意匠と先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠)の共通点及び差異点について,認否する。
a. 共通点について
(a)共通点1について
否認ないし争う。
本件登録意匠においては,箸は,意匠の構成要素ではない。
また,先行意匠の第2箸部材(審判請求書6ページの左の図)においては,前述のとおり,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122の中心線は,箸の中心線と,略平行である。
(b)共通点2について
否認ないし争う。
「リングに指を挿入する点」が,使用方法として共通することは認める。
しかし,それは,使用方法の共通点であって,形態の共通点ではない。
b.差異点について
(a)差異点1について
否認ないし争う。
本件登録意匠においては,箸自体は意匠の構成要素ではないのに対し,先行意匠においては,意匠に係る物品が,箸ないし箸の部品である。
また,請求人は,「甲第2号証に記載の意匠(被請求人代理人注:先行意匠の趣旨と解する。)は,3個のリングからなる」と主張するが,先行意匠は,3個のリングのみからなるのではなく,第1箸部材中に親指挿入穴111が形成され,第2箸部材上の保持ユニット中に人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122が形成されている。
(b)差異点2について
否認ないし争う。
本件登録意匠においては,箸自体は意匠の構成要素ではない。
また,先行意匠においては,意匠に係る物品が,矯正具ではなく,箸ないし箸の部品である。
また,請求人の主張は,第2箸部材のリングが矯正具であるとするもののようにも読めるが,第2箸部材のリングは,物品の一部分にすぎず,単独で矯正具たり得るものではない。
(c)差異点3について
認める。
ただし,請求人のいう「甲第2号証に記載の意匠では円形である」とは,「先行意匠の保持ユニットの断面が円形である」の趣旨であると解する。
また,請求人は,審判請求書3ページ等で,「箸に挿入する挿入部」といった記載をしているところ,当該「挿入部」と,この差異点1に記載の「箸取付け部」とは,同一のものを指すのか,異なるものを指すのか,不明であるが,同一のものを指すという前提で,認める。
また,先行意匠の保持ユニット120の内側には,雌ネジ部123または突出部124を有する(甲第2号証の【0040】,【0041】,図4)。
(d)更なる差異点については,後述する。

(オ)「オ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の形態の差異点に関する検討」について
否認ないし争う。
詳細な反論は後述する。

オ.「5.むすび」について
否認ないし争う。
詳細な反論は後述する。

カ.甲第3号証について
甲第3号証は,主張ではなく証拠として提出されており,趣旨が不明ではあるが,誤導的な点が多々あるので,以下,簡単に指摘しておく。
なお,甲第3号証の右側の欄(列)の図は,No.1の図が,甲第2号証の図6をもとに請求人が作図した図であるほか,No.2?15についても,いずれも,請求人が作図した図であり,先行文献に記載された図ではない。
(ア)No.1について
本件登録意匠は,箸を構成に含まない。これに対し,先行意匠は,箸の意匠である。
したがって,本件登録意匠に箸を挿入した状態の参考図と,先行意匠を対比している点で,不適切である。
(イ)No.2の先行意匠の図について
前述のとおり,甲第2号証の図6の意匠においては,保持ユニット120は,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122が一体的に形成されており,分離できない点で誤った図である。
また,前述のとおり,真円に近い円環が,その外周において箸の棒に接するように接合している点で,甲第2号証の図6とは異なる構成であり,誤った図である。
(ウ)No.3の先行意匠の図について
人差し指挿人穴121及び中指挿入穴122が,第2箸部材に対して,180度よりも小さい角度で配置されているが,審判請求書6ページの図では,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,第2箸部材に対して,略180の角度で配置されているので,No.3の先行意匠の図は,誤った図である。
(エ)No.4?7の先行意匠の図について
指を挿入する輪と箸が,図のような角度になっていることは,甲第2号証からは読み取れない。
また,先行意匠の一部を恣意的に抽出した図であり,意味がない。
(オ)No.8,9の先行意匠の図について
真円に近い円環が,その外周上の1点において箸の棒に接するように接合している点で,甲第2号証の図6とは異なる構成であり,誤った図である。
また,先行意匠の一部を恣意的に抽出した図であり,意味がない。
(力)No.10,11の先行意匠の図について
先行意匠の一部を恣意的に抽出した図であり,意味がない。
(キ)N0.12?15の先行意匠の図について
真円に近い円環が,その外周上の1点において箸の棒に接するように接合している点で,甲第2号証の図6とは異なる構成であり,誤った図である。
また,先行意匠の一部を恣意的に抽出した図であり,意味がない。

(2)本件登録意匠と先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠)の,意匠に係る物品の認定及び類否判断
ア.本件登録意匠の意匠に係る物品は,箸の持ち方矯正具である。
使用者は,本件登録意匠の箸の持ち方矯正具のそれぞれの挿入部に,一定の太さの範囲内で任意に選んだ箸を挿入して使用する。
イ.先行意匠の意匠に係る物品は,箸の部品である。
すなわち,前述のように,甲第2号証の図6には,少なくとも,取り付穴113,人気のあるキャラクターなどの装飾品A,固形物を掴み取る第1パッド200および第2パッド210,結合手段440,発光ランプ510を備える練習用箸100が開示されているところ,先行意匠は,装飾品Aや第1パッド及び第2パッド等が省略されており,その意味で,意匠に係る物品は,完成品ではなく,箸の部品に過ぎない。仮に,先行意匠に係る部分のみで,箸としても使用できなくはないという意味で,意匠に係る物品が部品ではなく,完成品であるとしても,先行意匠の意匠に係る物品は,箸である。この点は,請求人も,審判請求書6ページ4?5行で認めるとおりである。
ウ.以上のとおり,本件登録意匠の意匠に係る物品が箸の持ち方矯正具に関するものであるのに対し,先行意匠の意匠に係る物品は箸の部品又は箸である。
本件登録意匠の箸の持ち方矯正具は,箸を挿入部に挿入することによって初めて使用可能になる。これに対し,先行意匠の箸の部品は,これに第1パッド及び第2パッド等を装着して完成品とすれば,使用可能になるので,先行意匠の箸の部品に,箸部材を更に追加する必要はない。また,先行意匠を箸の完成品と解したとしても,先行意匠については,更に箸部材を追加する必要はない。
したがって,本件登録意匠の物品と,先行意匠の物品とでは,使用方法や,使用のために更に箸部材を要するか否かが異なるのであるから,類似しない。

なお,本件意匠登録の分割前の出願(意願2009-019204)については,平成22年4月21日(起案日)付け拒絶理由通知書において,担当審査官より,「この意匠登録出願の意匠は,願書及び添付図面の記載によると,『箸の持ち方矯正具』と『はし』の二つの物品に係るものと認められます。」と通知された。このことからも,「箸の持ち方矯正具」と「箸」は,別の物品であり,非類似のものと解すべきである。
したがって,形態の比較をするまでもなく,本件登録意匠と先行意匠は,非類似というべきである。
もっとも,以下,念のため,形態についても検討する。

(3)形態の共通点及び差異点の認定
前提として,本件登録意匠は,2個のリング状の箸の持ち方矯正具に係るものであり,他方,先行意匠は,審判請求書6ページの図に記載された箸である。
ア.共通点について
既に認否したとおり,請求人の主張する共通点1及び2は,いずれも,形態の共通点とは認められない。
したがって,本件登録意匠と先行意匠は,形態の共通点を有しない。
イ.差異点について
既に認否したとおり,請求人の主張する差異点1及び2は妥当ではない。
また,既に認否の項で主張したとおり,請求人の主張する差異点3は,次の差異点3’のように解する。
【差異点3’】
本件登録意匠では,「箸の持ち方矯正具」の挿入部の断面が丸みを帯びた四角形であるのに対して,先行意匠の保持ユニットの断面は円形である点。
その他,本件登録意匠Eと,先行意匠とは,以下の差異点を有する。
【差異点4】
本件登録意匠は,箸を挿入する挿入部を有するのに対し,先行意匠はこれを有しない点。
【差異点5】
本件登録意匠は,棒状の箸部材を有しないのに対して,先行意匠は,これを有する点。
【差異点6】
本件登録意匠においては,箸の持ち方矯正具の片方は1つの円環部を有し,箸の持ち方矯正具のもう一方も1つの円環部を有するのに対し,先行意匠においては,第1箸部材は1つの穴(親指挿入穴)を有し,第2箸部材は2つの穴(箸に対して互いに180°の位置に配置された,人差し指挿入穴及び中指挿入穴)を有する点。
【差異点7】
本件登録意匠の挿入部の内側には,特にネジ等の特徴はないのに対し,先行意匠の保持ユニット120の内側には,雌ネジ部123または突出部124を有し,第2箸部材は,これらに対応する雄ネジ部131または複数の固定溝133を有する(甲第2号証の【0040】,【0041】,図4)点。
【差異点8】
本件登録意匠においては,箸の持ち方矯正具の片方の円環部の内径と,箸の持ち方矯正具のもう一方の円環部の内径とは,略同一であるのに対し,先行意匠においては,第1箸部材上の親指挿人穴の内径は,第2箸部材の人差し指挿人穴及び中指挿入穴の内径よりも大きい点。
【差異点9】
本件登録意匠においては,箸の持ち方矯正具の片方の円環部には人差し指を入れて箸の持ち方矯正具のもう一方の円環部には薬指を入れて使用するのに対し,先行意匠においては,第1箸部材上の親指挿人穴には親指を入れ,第2箸部材の人差し指挿入穴及び中指挿入穴にはそれぞれ人差し指と中指を挿入する点。
(※ただし,上の【先行意匠の使用状態】の図においては,人差し指挿人穴121及び中指挿入穴122が,第2箸部材に対して,180度よりも小さい角度で配置されているが,審判請求書6ページの図では,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,第2箸部材に対して,略180の角度で配置されているので,その意味で,この先行意匠の図は,誤った図である。)
【差異点10】
本件登録意匠の箸の持ち方矯正具のもう一方においては,円環部の厚み部分の面下図のピンクの部分)と円環部の側面部の面(下図の水色の部分)の境界は,丸みを帯びた直角となっており,その境界の稜線ははっきりとしているのに対し,先行意匠の第1箸部材の親指挿入穴では,それに相当する境界がない点。
【差異点11】
本件登録意匠の箸の持ち方矯正具のもう一方においては,指を挿入する円環部の穴部分は,箸を挿入する挿入部の外側に位置しており,重なっていないのに対して,先行意匠の第1箸部材の親指挿入穴においては,穴が箸の太さ部分に重なってこれを侵食しており,当該箇所では,箸の太さが極めて薄くなっている。
【差異点12】
本件登録意匠の箸の持ち方矯正具のもう一方においては,指を挿入する円環部の穴部分の外周部と箸を挿入する挿入部との境界の角度は,約30°であるのに対して,先行意匠においては,親指挿人穴の外周部と第1箸部材の直線的な箸部分との境界の角度は,鈍角(約120° 程度と思われる。)である点。
【差異点13】
本件登録意匠においては,2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)とは,挿入部と円環部の角度が異なるものの,それ以外の形態は概ね同じであるのに対して,先行意匠においては,第1箸部材と第2箸部材とは,円環部の個数(第1箸部材は1個で,第2箸部材は2個),円環部の可動性(第2箸部材の保持ユニットは上下に可動である。),保持ユニットの有無等において,異なる点。
【差異点14】
本件登録意匠の箸の持ち方矯正具のもう一方においては,円環部の断面は略長方形であるのに対して,先行意匠の親指挿入穴の断面は,山形である点。

(4)形態の差異点の個別評価
上述のとおり,本件登録意匠と先行意匠は,形態において,差異点3'?14を有する。これらの差異点は,以下のとおり,いずれも意匠全体の美感の違いに大きな影響を与える。
ア.差異点3’
差異点3'について,需要者は,本件登録意匠については,円環部の円形と挿入部の四角形の組合せのコントラストによる強い印象を受けるのに対して,先行意匠については,全体的に丸みを帯びた印象を受けるので,差異点3’は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。
イ.差異点4
需要者は,本件登録意匠については,やや丸みを帯びた四角い筒状の挿入部を認識する。本件登録意匠の2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)のそれぞれは,円環部と挿入部の2つの部分からなるところ,このうちの1つの部分である挿入部の有無は,需要者が感ずる美感に極めて大きな影響を有する。
ウ.差異点5
棒状の箸部分の有無は,基本的構成に関わる差異であるから,需要者にとって顕著な違いであり,需要者が感ずる美感に極めて大きな影響を有する。
エ.差異点6
先行意匠の第2箸部材では,2つの穴(人差し指挿入穴及び中指挿入穴)が,箸に対して互いに略180°の位置に配置されている。これにより,先行意匠は,箸を軸として,略180°の回転対称性(厳密には,人差し指挿人穴及び中指挿人穴は箸の軸方向にずれているので,回転対称ではない。)を有しているかのような印象を生じさせる。
これに対して,本件登録意匠では,2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)は結合しないので,このような回転対称のような印象は生じさせない。
したがって,この差異点6は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。
オ.差異点7
甲第2号証の図4の状態では,外部から第2箸部材上の雄ネジ部131または複数の固定溝133は見えないが,甲第2号証の【0040】,【0041】の使用方法を見ると,保持ユニットを上下に移動することができるのであるから,図4の状態から,保持ユニットを上下に移動すれば,外部から第2箸部材上の雄ネジ部131または複数の固定溝133が視認可能になり,これは,需要者の美感に影響する。
力.差異点8,13
本件登録意匠においては,2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)とは,挿入部と円環部の角度が異なるものの,それ以外の形態は概ね同じであるから,2つの部材は,セットとしての全体の統一的な美感を生じさせる。
これに対して,先行意匠においては,第1箸部材と第2箸部材とは,円環部の大きさ,円環部の個数(第1箸部材は1個で,第2箸部材は2個),円環部の可動性(第2箸部材の保持ユニットは上下に可動である。),保持ユニットの有無等において,異なるので,統一感がなく,寄せ集めのような印象を生じる。
キ.差異点9
本件登録意匠と先行意匠では,入れる指が全く異なるので,使用時においても,その位置関係等から生じる美感は大きく異なる。
すなわち,本件登録意匠では,人差し指を入れる箸の持ち方矯正具の一方の方が,薬指を入れる箸の持ち方矯正具のもう一方よりも,箸の上側に配置される。これに対して,先行意匠では,第1箸部材の親指挿人穴の方が,第2箸部材の人差し指挿人穴及び中指挿入穴よりも,箸の上側に配置されている。
これらは,使用時においても,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。
ク.差異点10,14
本件登録意匠の円環部には,稜線があるので,シャープな印象を生じるのに対し,先行意匠の親指挿人穴は,全体として丸みを帯びた印象を生じる。
また,円環部は,使用者が自らの指を通す部分であるので,使用者の注意が向く部分であるので,この部分に関する差異点10,14は,美感の違いに大きな影響を有する。
ケ.差異点11
本件登録意匠では,箸の挿入部の太さは十分に確保されているので,安定した印象を生じるが,先行意匠では,第1箸部材の棒部分が箸の先端部から箸の後端部に至る途中の,親指挿入穴の部分で,一旦極めて薄くなるので,不安定な印象を生じる。
この差異点は,使用者が自らの指を通す円環部ないしこれに隣接する部分に関する差異であるから,使用者の注意が向くので,この部分に関する差異点11は,美感の違いに大きな影響を有する。
コ.差異点12
本件登録意匠では,円環部の外形の円形状がはっきり認識されるのに対して,先行意匠の親指挿入穴では,円形状というより,なだらかな山形のような印象を与える。また,円環部は,使用者が自らの指を通す部分であるので,使用者の注意が向く部分であるので,この部分に関する差異点12は,美感の違いに大きな影響を有する。

(5)意匠全体としての類否判断
以上のとおり,本件登録意匠と先行意匠とは,そもそも意匠に係る物品が非類似なので,全体としても非類似である。
また,形態を比較しても,前述のとおり共通点がなく,需要者の美感に大きな影響を生じる差異点3’?14があるのであるから,全体としても,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が全く異なる。
また,仮に請求人が引用する東京高裁昭和52年4月14日判決を前提としても,差異点3’?14,とりわけ,棒状の箸部材の有無に関する差異点5等に鑑みて,需要者が本件登録意匠と先行意匠について,誤認混同を生じるおそれは皆無である。
また,請求人は,審判請求書10ページで差異点2に関連して,「要部であるリングが一体型であってもあるいは装着型であっても,使用形態等から,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果においてなんら異なるところはなく,」等主張する。しかし,仮にリングが要部であれば,それに関連して多くの差異点がある以上,本件登録意匠と先行意匠とは,全体として非類似である。
また,請求人は,リングが箸と一体型(先行意匠)であるか装着型(本件登録意匠)であるかの違いが重要ではない,と主張するようであるが,リングが装着型であれば,箸と装着型リング(本件登録意匠)とは別の部品としての美感上のコントラストを生じさせるのに対して,一体型(特に先行意匠の第1箸部材)の場合には,箸部とリング部は一体として美感を生じるのであるから,これらの差異は,極めて大きな美感上の違いを生じさせる。
また,請求人は,「同趣旨の判例」ということで,過去の判例を事件番号等で特定して引用している。しかし,それらの判例のどの部分が本件に適用可能であるのか,主張の趣旨が不明である。当然のことながら,過去の判例のあてはめ部分や結論部分は,当該事例に特有の判断部分であり,当然には他の事件に適用できない。また,判例の規範部分が他の事件に適用可能な場合はあり得るが,請求人が,判決のどのような趣旨で判例を引用しているのかは,全く不明である。

(6) むすび
以上のとおり,本件登録意匠は,先行意匠と類似しないのであるから,意匠法3条1項3号には該当しない。
よって,本件審判請求は理由がないものであり,請求人の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。

第3 被請求人の答弁書に対する請求人の弁駁
請求人は,本件無効審判事件に関し被請求人より提出された平成27年7月23日付け審判事件答弁書における被請求人の主張に対して,平成27年8月21日付け審判事件弁駁書を提出し,以下のとおり弁駁した。

I.答弁書に対する弁駁
1. 請求人の主張の整理
(1) 被請求人の答弁
被請求人は,平成27年2月23日付け答弁書において,「『先行意匠甲第2号証(特許公報)参照』との主張については,その趣旨が不明確である…(中略)…請求人が先行意匠であると主張していると思われる意匠(審判請求書6ページの図の意匠)は,甲第2号証に開示された意匠ではない。」と答弁している(答弁書2頁16?19行目)。
そこで,請求人は,その主張を次の通り整理する。

(2)甲第2号証の記載
甲第2号証には,以下の記載がある。
【0012】
第1箸部材は,親指を挿入する親指挿入穴と,固形物を掴み取る第1パッドとを有する。親指挿入穴は第1箸部材の上部に形成し,第1パッドは第1箸部材の下端に形成する。
【0013】
第2箸部材は,人差し指および中指を挿入する保持ユニットと,保持ユニットの固定位置を調節する調節手段と,固形物を掴み取る第2パッドとを有する。この保持ユニットは,人差し指を挿入する人差し指挿入穴と中指を挿入する中指挿入穴とを有する。第2パッドは,第2箸部材の下端に形成する。
【0035】
第1箸部材110は,親指を挿入する親指挿入穴111と,食物など固形物を掴み取第パッドとを有する。親指挿入穴111は第1箸部材110の上部に形成し,第1パッド200は第1箸部材110の下端に形成する。
【0039】
保持ユニット120は,一体形成した人差し指挿入穴121と中指挿入穴122とで構成する。
【0055】
本発明の練習用箸100の別な実施態様を図6に示す。
【0056】
第1箸部材110は,親指を挿入する親指挿入穴111と,固形物を掴み取る第1パッド200と,キャラクターなどの装飾品Aとを有する。親指挿入穴111は第1箸部材110の上部に形成する。第1パッドは第1箸部材110の下端に形成し,そして装飾品Aは第1箸部材の上端に形成する。
【0057】
第2箸部材130は人差し指および中指を挿入する保持ユニット120と,保持ユニット120の結合位置を調節する調節手段300と,固形物を掴み取る第2パッド210とを有する。この保持ユニット120は人差し指を挿入する人差し指挿入穴121と,中指を挿入する中指挿入穴122とを有する。

(3)甲第2号証に記載された「保持ユニット120」について
甲第2号証の段落【0039】には「保持ユニット120は,一体形成した人差し指挿入穴121と中指挿入穴122とで構成する。」と記載されているところ,この記載のみでは何と何が一体形成されているのか,必ずしも明確ではない。
ここで,保持ユニット120には,「(箸を挿入する管状の)保持ユニット本体」と「人差し指挿入穴121」又は「中指挿入穴122」とで構成されており,【図3】及び【図6】によれば,「保持ユニット本体」と「人差し指挿入穴121」とは一体形成されており,「保持ユニット本体」と「中指挿入穴122」とも一体形成されていることが読み取れる。
反対に,「保持ユニット本体」,「人差し指挿入穴121」及び「中指挿入穴122」の3つが一体形成されているならば,保持ユニット120の上下略中央に円弧状の実線がないものとして表わされる筈であるが,甲第2号証の【図3】及び【図6】においては,明確に円弧状の実線が記載されている
従って,甲第2号証に記載されている保持ユニット120は,一体形成された次の2つの構成よりなるものである。

(4)請求人が特定する先行意匠
甲第2号証に記載された意匠のうち,請求人が「刊行物(甲第2号証)に記載された先行意匠」として特定するのは以下の意匠である。
すなわち,意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であって,その形態は,「第1箸部材の『親指挿入穴111』」及び「第2箸部材の『保持ユニット120と人差し指挿入穴121』」と『保持ユニット120と中指挿入穴122』」である。

(5)要旨変更ではないこと
被請求人は答弁書において,「請求人が,先行意匠の特定について,これと異なる主張をすることは,請求書の要旨を変更する補正であり,手続上,認められない。」旨を答弁しているが,請求人は,上記の通り,被請求人の誤解・曲解を正すべく先行意匠について整理・詳述しているのである。
請求人は,審判請求書において先行意匠の物品が「箸の持ち方矯正具」であることを明記している(審判請求書8頁表のすぐ下)。
また,もし仮に審判請求書において請求人が審判請求書6頁の図面の全体を先行意匠として特定していたならば,相違点の認定に当たって箸本体の有無という最も大きな相違点を看過する筈はない。
以上の通り,請求人は審判請求書において,先行意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であることを明示し,先行意匠が「第1箸部材の『親指挿入111』」及び「第2箸部材の『保持ユニットと人差し指挿入穴121』と『保持ユニットと中指挿入穴122』」であることを前提としている。従って,請求人の本書における主張は,審判請求書に記載の要旨に沿って先行意匠を整理するものであって,審判請求の要旨を変更するものではない。

2.被請求人の答弁に対する弁駁(総論)
(1)本件登録意匠について
被請求人は,「箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。」と主張するが,審判請求書では,「箸の挿入する」と言っているのであり,箸が,本件登録意匠の物品であるとは言っていない。
(2)物品の特定
意匠法第2条第1項によれば,意匠とは,物品(物品の部分を含む)の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
そこで,物品とは以下のものを言う
【本件登録意匠】
意匠公報に記載の物品であり,これを箸に挿入して使用されるものである。
【先行意匠】
意匠法第3条第1項に記載の「国内において頒布された刊行物である特許第3766831号に記載された意匠」であり,特許第3766831号から本件登録意匠と同一又は類似の物品を切り出したものである。
具体的には,下記の比較表において図6から,本件登録意匠の【矯正具の参考斜視図】A,Bに類似の【参考図】符号121, 符号122, 符号111を切り出したものである。
即ち,本件登録意匠の物品【矯正具の参考斜視図】A,Bと,先行意匠の物品【参考図】符号121, 符号122, 符号111の意匠の類似性を検討するものである。

先行意匠は,審判請求書6頁の図6に示す通り人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,本件登録意匠と同一「物品」であり,親指挿入穴111 は,第1箸部材110の一部であるとしても111を第1箸部材110から切り出して「物品」とすることは極めて容易なことであり,先行意匠の物品は,箸から取り外す物品と箸から切り出せる物品であり,本件登録意匠の物品は,箸に取り付ける「物品」で,何れも「物品」であることは,意匠法第2条第1項に「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状・・・」とあることからも明白である。

(3)本件意匠と先行意匠との差異
本件登録意匠と先行意匠との間に若干の差異があったとしても,意匠審査基準によれば,意匠の類否判定には,物品の大きさの違いについての評価として,両意匠の意匠に係る物品自体の大きさ(説明の記載がない場合に認定する通常の大きさの範囲を含む。)が違っていたとしても,それが物品の認定に影響を及ぼさない限り,その違いは,強く注意を引くものとはならない,と記載されている。
また,機能的形状の評価として,機能的な要求の実現に造形的な自由度があり,その形状でなければならない必然性がない場合の形状については,その造形的な特徴を考慮する。ただし,物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠は,意匠法が本来保護を予定しない技術的思想の創作に対して排他的独占権を付与することになるため,保護しない
また,視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違について,その相違が機能に大きく関わっていても,ことさら重要視しない,と記載されている。
請求人が,審判請求書で示した本件登録意匠と先行意匠に関しては,意匠審査基準に記載の通りであり,被請求人が主張するような差異はない。

(4)請求人の弁駁(総論) まとめ
以上,審判請求書で請求人が主張する先行意匠とは,先行意匠に記載されている本件登録意匠と同一または類似の物品についての意匠であり,被請求人が勝手に設定した先行意匠とは異なる。
本件登録意匠と,先行意匠である甲第2号証とは,部分的差異があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は,本質的に公知意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないと言える(最二小判昭49年3月19日)。
また,意匠の類否を判断するにあたっては,意匠を全体として考察することを要し,意匠を見る者の注意を最もひきやすい部分を要部として把握し,これを観察して一般の需要者が誤認,混同するかどうかという観点から,その類否を決するのが相当であり,本件登録意匠は,先行意匠と誤認 混同を来す恐れがある程に似通っていることが明らかである。
従って,本件登録意匠は,甲第2号証に記載された意匠に類似するものであり,意匠法第3条第1項第第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。

3.被請求人の答弁に対する個別弁駁(各論)
(1)「(1)「請求の理由」に対する認否」について
1)「ア.『1.本件意匠登録』について」に対する弁駁
被請求人は,請求人の主張を「認める」としているので,特段の弁駁を要しない。

2)「イ.『2.先行意匠』について」に対する弁駁
被請求人は,「特許第3766831号の登録番号,出願日,国際公開日,公表日,登録日,掲載公報発行日,発明の名称」については認めるとしている。
しかし,『「先行意匠 甲第2号証(特許公報)参照」との主張については,その趣旨が不明確ではあるが,否認ないし争う。詳細を後述するとおり,請求人が先行意匠であると主張していると思われる意匠(審判請求書6ページの図の意匠)は,甲第2号証に開示された意匠ではない。』と主張している。
この主張に対する請求人の弁駁は,上記「1.請求人の主張の整理」で述べた通りである。

3)「ウ.『3.無効理由の要点』について」に対する弁駁
被請求人は,「否認ないし争う。詳細は後述のとおり。」と述べているので,これに対する弁駁は,後に述べる。

4)「エ.『4.本件意匠登録を無効にすべき理由』について」のうち「ア 本件意匠登録の要旨」について
被請求人は,「『ア 本件意匠登録の要旨』に関しては本件登録意匠が意匠登録第1406731 号の意匠公報に記載のものであり,意匠に係る物品が『箸の持ち方矯正具』であることは認める。しかし,その構成については,以下のとおり,否認ないし争う。」として,種々答弁しているので,以下にそれぞれ弁駁する。

ア.「a.基本的構成態について」
(ア)「(a)基本的構成態様(i)について」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠が,箸の持ち方矯正具に係るものであることは認める。」と答弁し,審判請求書の「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し」については,誤記と思われるとし,「本件登録意匠に係る箸の持ち方矯正具においては,箸を,箸の持ち方矯正具に挿入して使用する。また,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。」と答弁している。
しかし,「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し」は,「箸の持ち方矯正具」を使用する際の動作を述べたものであり,動作の主体である「箸」に「箸の持ち方矯正具」を適用して「箸の持ち方矯正」を行うものと理解できる。「箸を,箸の持ち方矯正具に挿入して使用する」と言うことは,「箸の持ち方矯正具」がそれ自体単独で何らかの動作が出来るような感じを与え不自然である。また,審判請求書には「箸が,本件登録意匠の物品」であるとの記載はしていない。また,意匠法第2条第1項において「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状・・・」とあることからすれば,仮に先行意匠の物品が「箸」であるとしても,その部分である「箸の持ち方矯正具」も意匠法上の「物品」であることは,意匠法が予定しているところである。
また,被請求人は,「請求書の『この点は,看者が最も注意を引かれる部分である。』については,否認ないし争う。請求人のいう『この点は,』とは,どの点をいうのか,不明である。」と答弁している。
しかし,「箸の持ち方矯正具であって,箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構であり,この点は,看者が最も注意を引かれる部分である。」との短文の中で,「この点」に該当するものは,「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構」以外にあり得ない。
被請求人は,請求書の右欄の「No.1【持ち方矯正具を箸に取付けた状態の参考斜視図】」について,「当該図面が意匠出願時に添付された参考斜視図に対応するものであることは認めるが,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。」と答弁するが,審判請求人は,審判請求書で「箸自体が,本件登録意匠の物品」であるとの記載はしていない。従って,被請求人の答弁は失当である。

(イ)「(b)基本的構成態様(ii)について」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠に係る箸の持ち方矯正具の使用時において,2本の箸を,矯正具に別々に挿入することは認める。ただし,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。」と答弁している。
しかし,審判請求人は,審判請求書で「箸自体が,本件登録意匠の物品」であるとの記載はしていない。従って,被請求人の答弁は失当である。

(ウ)「(c)基本的構成態様(iii)について」に対する弁駁
被請求人は,「矯正リングが,挿入部と円環が一体成形されていることは,否認する。本件登録意匠には,『一体成形』といった限定は無いので,一体成形されている場合もあるが,接合により製造する場合も含まれる。本件登録意匠に係る箸の持ち方矯正具が箸を挿入する挿入部と,指を挿入する円環部とからなることは,認める。」と答弁している。
このうち,「一体成形されている場合もあるが,接合により製造する場合も含まれる。」との答弁については,請求人も認める。

(エ)「(d)基本的構成態様(iv)について」に対する弁駁
被請求人は,「本件箸の持ち方矯正具の片方(A)と,本件箸の持ち方矯正具のもう一方(B)とにおいて,挿入部に対する円環の傾きが異なることは認める。」と答弁している。
被請求人は,請求人の主張を「認める」としているので,特段の弁駁を要しない。

(オ)「(e)基本的構成態様(v)について」に対する弁駁
被請求人は,「使用者が,人差し指と薬指とを円環部に挿入することで,指の挿入位置が自動的に決まり,箸の持ち方が矯正されることは認める。ただし,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。」と答弁している。また,被請求人は,請求書の右横の『No.3【持ち方矯正具を取付けた箸を持った状態の参考斜視図】について,「当該図面が意匠出願時に添付された参考斜視図に対応するものであることは認めるが,箸自体は,本件登録意匠の物品ではない。」と答弁する。
繰り返すが,審判請求人は,審判請求書では「箸自体が,本件登録意匠の物品」であるとは記載していない。従って,被請求人の答弁は失当である。

イ.「b.各部の具体的態様について」
(ア)「(a)各部の具体的態様(i)について」に対する弁駁
被請求人は,「箸を挿入する挿入部は,断面が丸みを帯びた四角の角管であることは,認める。しかし,挿入部の長さが約数cmであることは,否認する。本件登録意匠には,寸法についての限定は無い。もっとも,円環部は,人差し指又は薬指を挿入して使用するものであるところ,人の指の太さは通常は一定の範囲内にあるため,本件登録意匠も,通常は,一定の範囲内にある。…(中略)…。したがって,請求人の『長さが約数cm』という主張が,本件登録意匠において,挿入部の長さが2cmを大幅に超えるような,例えば9cmのものも含むということであれば,その主張は誤りである。」と答弁する。
しかし,請求人は,審判請求書に「例えば9cmのものも含む」と言うような記載はしていない。「長さが約数cmである」は,長さを例示したもので,10?12mm,14?18mmと言うように厳密に記載するようなものではない。従って,被請求人の答弁は失当である。

(イ)「(b)各部の具体的態様(ii)について」に対する弁駁
被請求人は,請求人の主張を「認める」としているので,特段の弁駁を要しない。

(ウ)「(c)各部の具体的態様(iii)について」に対する弁駁
被請求人は,「認める」としながらも,「『箸に挿入する挿入部』は,『箸を挿入する挿入部』の誤記と思われる。」と答弁している。
この点については,上記「3.(1)4),ア.(ア)『(a)基本的構成態様(i)について』」の項において,請求人が弁駁した通りであって,被請求人の答弁は失当である。

(エ)「(d)各部の具体的態様(iv)について」に対する弁駁
被請求人は,「認める」としながらも,「『箸に挿入する挿入部』は,『箸を挿入する挿入部』の誤記と思われる。」と答弁している。
この点については,上記「3.(1)4)ア.(ア)『(a)基本的構成態様(i)について』」の項において,請求人が弁駁した通りであって,被請求人の答弁は失当である。

5)「エ.『(4)本件意匠登録を無効にすべき理由』について」のうち「イ 先行意匠(甲第2号証)の要旨」について
ア.「a.『先行意匠』の特定について」に対する弁駁
被請求人は,「そもそも,請求人の主張する『先行意匠』は,どの意匠をいうのか,若干不明確ではある。もっとも,請求人は,先行意匠の基本的構成態様(i)において,『箸に矯正リング(輪)を設け』等と主張し,その右の欄には,下記の図面を掲載していることから,以下では,請求人が,下記の図面の全体を先行意匠として特定したことを前提に,認否反論する。なお,請求人が,先行意匠の特定について,これと異なる主張をすることは,請求書の要旨を変更する補正であり,手続上,認められない(意匠法52条で引用する特許法131条の2第1項)。」と答弁している。
しかし,請求人が上記「1.請求人の主張の整理」において弁駁主張している通りである。よって,被請求人の答弁は失当である。

イ.「b.審判請求書5ページ下から3行?6ページ3行について」に対する弁駁
被請求人は,「甲第2号証が特許第3766831号の特許公報であることは認める。審判請求書の『甲第2号証は,…本件意匠登録出願(出願日:平成21年8月21日)前の平成15年2月27日に国際公開([国際公開番号:W02003/015589]された後,平成16年12月14日に国内公表(公表番号:特表2004-538074)された刊行物であるから』の部分は,主張の趣旨が不明である。甲第2号証の特許公報の内容が公知であることを主張するのであれば,甲第2号証の特許公報の公開日の主張をすべきである。」と答弁している。
しかし,被請求人の答弁の意味が不明である。審判請求書に記載の通り,国際公開,国内公表は,「甲第2号証は,平成15年2月27日に国際公開(国際公開番号:W02003/015589)された後,平成16年12月24日に国内公表(公表番号:特表2004-538074)された刊行物である」と記載した通りである。

ウ.「c.審判請求書6ページ4行?6行について」に対する弁駁
被請求人は,「請求人は,審判請求書6ページの図の意匠(前掲)が,甲第2号証に記載されている旨主張するようであるが,否認する。すなわち,…(中略)…甲第2号証の図6は,審判請求書6ページの図とは,少なくとも,下の図の赤丸で囲んだ部分において,大きく異なる。すなわち,甲第2号証の図6は,練習用箸100の図であり,箸の持ち方矯正具の図ではない。」と答弁している。
しかし,審判請求書6ページの図は,先行意匠の主要部である甲第2号証の図6の「箸」及び「矯正リング」部を抽出して示したものであり,審判請求書6ページの図と甲第2号証の図6が異なるのは当然である。
また,被請求人は,「甲第2号証の第1箸部材110および第2箸部材130の上端には,…(中略)…が形成されている(甲第2号証【0060】)。甲第2号証の図6には,上記のとおり,少なくとも,取り付穴113,人気のあるキャラクターなどの装飾品A,固形物を掴み取る第1パッド200および第2パッド210, 結合手段440発光ランプ510を備える練習用箸100が記載されているのである。したがって,甲第2号証のこれらの構成要素を取り除いた審判請求書6ページの意匠は,甲第2号証には開示されていない。」と答弁している。
しかし,この被請求人の答弁は失当であり,その理由は上記「1.請求人の主張の整理」で請求人が弁駁主張した通りである。
更に,被請求人は,「甲第2号証の図6の意匠が,『子供の知的能力を発達させる練習用箸』に係る意匠であることは,認める。すなわち,請求人も認めるとおり,当該意匠は,『箸の持ち方矯正具』に係る意匠ではない。」と答弁している。
しかし,審判請求書には,甲第2号証の図6の意匠が,「箸の持ち方矯正具」に係る意匠であるとは記載していない。甲第2号証の図6の意匠が,「箸の持ち方矯正具」に係る意匠と類似であると主張しているものである。

エ.「c .基本的構成態様について」に対する弁駁
被請求人は,「請求人の主張する先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠)は,甲第2号証に開示されていないものであるが,当該先行意匠の構成についての請求人の主張については,念のため,以下のとおり,否認ないし争う。)としているが,いずれも以下の通り失当である。

(ア)「(a)基本的構成態様(i)について」に対する弁駁
被請求人は,「先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠をいう。以下同じ。)が箸の持ち方矯正具に係る意匠であるとの主張は,否認する。先行意匠は,箸の部品に係る意匠である。また,『この点は,著者が最も注意を引かれる部分である』との主張は否認ないし争う。請求人のいう『この点は,』とは,どの点をいうのか,不明である。」と答弁している。
しかし,前述の通り,意匠法第2条第1項において「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状・・・」とあることからすれば,仮に先行意匠の物品が「箸」であるとしても,その部分である「箸の持ち方矯正具」も意匠法上の「物品」であることは‥意匠法が予定しているところである。従って,本件登録意匠に係る物品である「箸の持ち方矯正具」と,先行意匠の物品である「箸」の部分である「箸の持ち方矯正具」とは,同一である。よって,被請求人の答弁は失当である。
また,「箸の持ち方矯正具であって,箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構であり,この点は,看者が最も注意を引かれる部分である。」との短文の中で,「この点」に該当するものは。「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構」以外に考えられないものであるから,被請求人の答弁は,審判請求の争点に直接関係しない答弁であり,徒に請求人を論難するものあると言わざるを得ない。

(イ)「(b)基本的構成態様(ii)」に対する弁駁
被請求人は,「審判請求書の基本的構成態様(ii)に関する記載の冒頭に記載の『矯正リングは』の修飾関係が不明確である。」と答弁する。
しかし,「矯正リングは一方の箸には箸と矯正リングを一体に設け,他方の箸には,矯正リングを挿入する。」という一文において「矯正リングは」主語である。修飾関係は存しない。
また,被請求人は,「甲第2号証の図6において,第1箸部材110は親指挿入穴111を有する。また,甲第2号証の図6において,第2箸部材130は人差し指および中指を挿入する保持ユニット120と,保持ユニット120の結合位置を調節する調節手段300とを有し,また,この保持ユニット120は人差し指を挿入する人差し指挿入穴121と,中指を挿入する中指挿入穴122とを有する(甲第2号証【0057】)。」と答弁する。
しかし,上記「1.請求人の主張の整理」に説明した通りであるから,被請求人の答弁は失当である。

(ウ)「(c)基本的構成態様(iii)」に対する弁駁
被請求人は,「否認ないし争う,とし,請求人の主張する先行意匠において,第1箸部材(審判請求書6ページの図の左側の箸)は,一体的に製造されているので,箸を挿入する挿入部なる部分は存在しない。」と答弁している。
確かに被請求人の指摘する通りであるから,この「先行意匠の基本的構成態様(iii)」については,「2本の箸に別々に設けられた矯正リングの指を挿入する円環の傾きは各々異なる。」と訂正する。

(エ)「(d)基本的構成態様(iv)」に対する弁駁
被請求人は,「否認する」として,「少なくとも甲第2号証の意匠においては,第2箸部材の保持ユニット120には,人差し指と薬指ではなく,人差し指と中指を挿入する(甲第2号証【0057】)。」と答弁している。
確かに被請求人の指摘する通りであるから,この「先行意匠の基本的構成態様(iv)」については,「使用者が,親指,人差し指と薬指とを矯正のリングに挿入することで,指の挿入位置が自動的に決まり,持ち方が矯正されるようになっている」と訂正する。
また,被請求人は,「右の欄の図では,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122が,第2箸部材に対して,180度よりも小さい角度で配置されているが,審判請求書6ページの図では,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,第2箸部材に対して,略180の角度で配置されているので,右の欄の図は,誤った図である。」と答弁している。
しかし,「人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122が,第2箸部材に対して,180度よりも小さい角度で配置されている」,「人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,第2箸部材に対して,略180の角度で配置されている」とは,どの角度を指すものか不明である。
以下は,審判請求書6,7ページの図において人差し指挿入穴121および中指挿入穴122の箸に対する位置が異なることを指しているものとして反論する。
甲第2号証の【0042】には,「手の大きさに応じて保持ユニット120を調節できる。」,【0049】には,「本発明の箸を使用する場合,第1箸部材110の親指挿入穴111に親指を挿入し,人差し指および中指それぞれを,保持ユニット120に形成した人差し指挿入穴121および中指挿入穴122に挿入する。」と記載されている通り,人差し指挿入穴121および中指挿入穴122の位置は変動するものであるため,右の欄の図は,決して誤った図ではない。

オ.「d.各部の具体的態様について」に対する弁駁
(ア)「(a)各部の具体的態様(i)について」のうちの「i」,「ii」について
被請求人は,「請求人の主張は不明確ではあるが,少なくとも,先行意匠の第1箸部材(審判請求書6ページの図の左側の箸)は一体的に成形されているため,箸を挿入する挿入部は存在しない。」と答弁している。
確かに被請求人の指摘する通り,先行意匠の第1箸部材(審判請求書6ページの図の左側の箸)は一体的に成形されているため,箸を挿入する挿入部は存在しないが,第2箸部材の保持ユニット120における箸に挿入する挿入部は,断面が円形で長さが約数cmの管である。
また,被請求人は,「審判請求書7ページでは,右の欄の一番下に,『No.2【参考図】』として,第1箸部材の一部と思われる図が記載されている。しかし,そもそも,甲第2号証の図6の意匠から,審判請求書6ページの図のような形で恣意的に部分的に抽出して作成した図にも意味がない上,更にその一部分を,審判請求書7ページの図のような形で抽出して作成した図には,全く意味がない。」と答弁している。
しかし,審判請求書7ページの右の欄の「No.2【参考図】」は,具体的態様(i),(ii)の内容を図示したものである。よって,被請求人の答弁は失当である。
(イ)「(a)各部の具体的態様(i)について」のうちの「iii」について
被請求人は,「しかも,審判請求書7ページの一番下の図は,審判請求書6ページの図の一部を抽出したものとしても,極めて不正確かつ恣意的なものであり,到底受け入れられない。すなわち,審判請求書6ページの図は,下の図である。【審判請求書6ページの図】(図面省略)。したがって,仮に審判請求書6ページの図の親指挿入穴111の部分を抽出するのであれば,例えば,下図のようになる。【審判請求書6ページの図の一部についての図の一例】(図面省略)。しかしながら,請求人は,審判請求書7ページにおいて,下の図を記載している。【審判請求書7ページの一番下の図】(図面省略)。このような,真円に近い円環が,その外周において箸の棒に接するように接合している構成は,審判請求書6ページの図の構成とは著しく異なるものである。したがって,上記の構成に関する請求人の主張は,到底認めることができない。」と答弁している。
しかし,審判請求書7ページの一番下の図は,「円環であること」及び「円環の中心線は,箸の中心線と垂直であること」を示した参考図に過ぎないから,被請求人の主張は失当である。
(ウ)「(a)各部の具体的態様(i)について」のうちの「iv」,「v」について
被請求人は,「また,甲第2号証の図6の構成においては,保持ユニット120の内側には,雌ネジ部123または突出部124が存する(甲第2号証の【0040】,【0041】,図4)。[甲第2号証の図4]」と答弁し,更に続けて,「また,上記の甲第2号証の図4の断面図や,甲第2号証の明細書からも明らかなとおり,甲第2号証の図6の意匠においては,保持ユニット120は,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122が一体的に形成されているのである。すなわち,人差し指挿入穴121の部分と,中指挿入穴122の部分が分離する構成にはなっていない。したがって,これらが分離することを前提として記載したと思われる審判請求書7ページの真ん中の図は,誤りであり,意味がない。」と答弁する。
しかし,上記「1.請求人の主張の整理」の中の「(3)甲第2号証に記載された『保持ユニット120』について」の項目で詳述した通り,甲第2号証の図6では121,122の間は線で区切られており一体形成されたものではない。従って,審判請求書7ページの真ん中の図は,121,122を抜き出した参考図であり,間違った図ではない。よって,被請求人の答弁は,甲第2号証に開示された意匠のうちの一の実施例のみを把握しての主張であり,甲第2号証には「人差し指挿入穴121の部分と,中指挿入穴122の部分が分離する構成」の意匠が開示されている事実がある。従って,被請求人の答弁は失当である。
(エ)「(a)各部の具体的態様(i)について」のうちの「vi」について
被請求人は,「しかも,審判請求書7ページの真ん中の図も,審判請求書7ページの一番下の図について前述したのと同様に,真円に近い円環が,その外周において箸の棒に接するように接合している点で,審判請求書6ページの図の構成とは著しく異なるものである。」と答弁している。
しかし,審判請求書7ページの一番下の図は,「円環であること」及び「円環の中心線は,箸の中心線と垂直であること」を示した参考図に過ぎないから,被請求人の主張は失当である。
(オ)「(b)各部の具体的態様(ii)について」
被請求人は,請求人の主張を「認める」としているので,特段の弁駁を要しない。
(カ)「(c)各部の具体的態様(iii)について」
被請求人は,各部の具体的態様(iii)について否認ないし争うとして,「請求人の主張は,趣旨が不明確であるが,甲第2号証の図3,図4,図6や明細書の記載に鑑みて,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122の中心線は,第2箸部材の箸の中心線と,略平行である。」と答弁している。
しかし,箸の断面図である甲第2号証の図4によれば,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,手前側を下にしてやや傾斜していることが明白である。従って「箸に挿入する挿入部の管の中心線に対して指を挿入する円環の中心線が,少し傾斜している」との請求人の主張は正確であり,被請求人の答弁は失当である。
(キ)「(d)各部の具体的態様(iv)について」
被請求人は,「先行意匠の第1箸部材(審判請求書6ページの図の左側の箸)において,親指挿入穴111の中心線が,箸の中心線と垂直であることは,認める。しかし,右の欄の図面が,審判請求書6ページの図とは構成が異なるものであることは,前述のとおりである。」と答弁している。
しかし,「意匠審査基準第2部 意匠登録の要件(2)意匠に係る物品の認定及び類否判断」には,以下の記載がある。
「意匠とは物品の形態であることから,意匠の類似は,対比する意匠同士の意匠に係る物品の用途及び機能が同一又は類似であることを前提とするが,この場合にいう『意匠に係る物品の用途及び機能が同一又は類似であること』とは,物品の詳細な用途及び機能を比較した上でその類否を決するまでの必要はなく,具体的な物品に表された形態の価値を評価する範囲において,用途(使用目的,使用状態等)及び機能に共通性がある物品であれば,物品の用途及び機能に類似性があると判断するに十分である。」
即ち,具体的な物品に表された形態の価値を評価する範囲において,用途(使用目的,使用状態等)及び機能に共通性がある物品であれば,物品の用途及び機能に類似性があると判断できるのであるから,被請求人の答弁は失当である。

6)「エ.『4.本件意匠登録を無効にすべき理由』について」のうち「ウ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の意匠に係る物品の対比」について
被請求人は,「否認ないし争う」として,「本件登録意匠の意匠に係る物品は,箸の持ち方矯正具である。他方,請求人が先行意匠であると主張する形態(審判請求書6ページの図)は,甲第2号証に記載された物品の部分に過ぎないので,単体での物品性を有しない。また,仮に先行意匠の意匠が物品性を有するとしても,その物品とは,箸の部品である。前述のように,甲第2号証の図6には,少なくとも,取り付穴113,人気のあるキャラクターなどの装飾品A,固形物を掴み取る第1パッド200および第2パッド210,結合手段440,発光ランプ510を備える練習用箸100が開示されているところ,先行意匠は,装飾品Aや第1パッド及び第2パッド等が省略されており,その意味で,意匠に係る物品は,完成品ではなく,箸の部品に過ぎない。また,仮に,先行意匠に係る部分のみで,箸としても使用できなくはないという意味で,意匠に係る物品が部品ではなく,完成品であるとしても,先行意匠の意匠に係る物品は,箸である。この点は,請求人も,審判請求書6ページ4?5行で認めるとおりである。したがって,本件登録意匠に係る物品と,先行意匠に係る物品が,同一であるということはできない。詳細は,後述する。」と答弁している。
しかし,請求人が,本書「1.請求人の主張の整理」において整理し,その後において弁駁主張している通り,意匠法第2条第1項において「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状・・・」とあることからすれば,仮に先行意匠の物品が「箸」であるとしても,その部分である「箸の持ち方矯正具」も意匠法上の「物品」であることは,意匠法が予定しているところである。従って,本件登録意匠に係る物品である「箸の持ち方矯正具」と,先行意匠の物品である「箸」の部分である「箸の持ち方矯正具」とは,同一である。よって,被請求人の答弁は失当である。

7)「エ.『(4)本件意匠登録を無効にすべき理由』について」のうち「エ 本件登録意匠と先行意匠(甲第2号証)の形態の共通点及び差異点の列挙」について
被請求人は,「審判請求人の主張する『先行意匠』とは,審判請求書6ページの図のものであり,甲第2号証に記載されたものではないことは,前述のとおりであるが,以下では,念のため,本件登録意匠と先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠)の共通点及び差異点について,認否する。」とし種々答弁をしているが,以下の通り何れも失当である。
ア.「a.共通点について」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠においては,箸は,意匠の構成要素ではない。また,先行意匠の第2箸部材(審判請求書6ページの左の図)においては,前述のとおり,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122の中心線は,箸の中心織と,略平行である。」と答弁している。また,「『リングに指を挿入する点』が,使用方法として共通することは認める。しかしそれは,使用方法の共通点であって,形態の共通点ではない。」と答弁している。
しかし,請求人が,本書「第1 請求人の主張の整理」において整理し,その後において弁駁主張している通り,意匠法第2条第1項において「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状・・・」とあることからすれば,仮に先行意匠の物品が「箸」であるとしても,その部分である「箸の持ち方矯正具」も意匠法上の「物品」であることは,意匠法が予定しているところである。従って,本件登録意匠に係る物品である「箸の持ち方矯正具」と,先行意匠の物品である「箸」の部分である「箸の持ち方矯正具」とは,同一の物品である。よって被請求人の答弁は失当である。
イ.「b.差異点について」のうち
(ア)「(a)相違(当審注。答弁書では「差異」。以下同様。)点1について」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠においては,箸自体は意匠の構成要素ではないのに対し,先行意匠においては,意匠に係る物品が,箸ないし箸の部品である。」と答弁している。
しかし,請求人が何度も弁駁主張している通り,意匠法第2条第1項において「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状・・・」とあることからすれば,本件登録意匠に係る物品である「箸の持ち方矯正具」と,先行意匠の物品である「箸」の部分である「箸の持ち方矯正具」とは,同一の物品である。よって,被請求人の答弁は失当である。
(イ)「(b)相違点2について」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠においては,箸自体は意匠の構成要素ではない。また,先行意匠においては,意匠に係る物品が,矯正具ではなく,箸ないし箸の部品である。」と答弁している。
しかし,意匠法第2条第1項において「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状・・・」とあることからすれば,本件登録意匠に係る物品である「箸の持ち方矯正具」と先行意匠の物品である「箸」の部分である「箸の持ち方矯正具」とは,同一の物品である。よって,被請求人の答弁は失当である。
また,被請求人は,「請求人の主張は,第2箸部材のリングが矯正具であるとするもののようにも読めるが,第2箸部材のリングは,物品の一部分にすぎず,単独で矯正具たり得るものではない。」と答弁している。
しかし,甲第2号証【0063】に「この実施態様の練習用箸を使用するさい,箸に慣れていない者や子供は親指,人差し指および中指をそれぞれ親指挿入穴111,人差し指挿入穴121および中指挿入穴122に挿入する。」と記載されている通り,第2箸部材のリングである121,122は,練習用箸を使用する際に使用するものであり,矯正具に相当するものである。従って,被請求人の答弁は失当である。
(ウ)「(c)差異点3について」に対する弁駁
被請求人は,請求人の主張を「認める」としているので,特段の弁駁を要しない。
(エ)「(d)更なる相違点について」に対する弁駁
被請求人は,更なる相違点の存在を示唆し,「後述する」と答弁しているので,それに対する請求人の弁駁主張も,後段でそれぞれ行う。

8)「オ.『5.むすび』について」に対する弁駁
被請求人は,「5.むすび」について否認ないし争うとして,「詳細な反論は後述する」と答弁しているので,それに対する請求人の弁駁主張も,後段でそれぞれ行う。

9)「力.甲第3号証について」に対する弁駁
ア. No.1について
被請求人は種々答弁しているが,本書で詳細に弁駁主張している通りであり,被請求人の答弁は失当である。
イ. No.2について
先に主張した通り,甲第2号証の図6では121,122の間は線で区切られており一体形成されたものではない。従って,審判請求書7ページの真ん中の図及び甲第3号証のNo.2の図は,121,122を抜き出した参考図であり,間違った図ではない。
ウ.No.3について
被請求人の「人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122が,第2箸部材に対して,180度よりも小さい角度で配置されている」,「人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,第2箸部材に対して,略180の角度で配置されている」との答弁は,どの角度を指すものか不明である。
甲第2号証の【0042】には,「手の大きさに応じて保持ユニット120を調節できる。」,(0049)には,「本発明の橋を使用する場合,第1箸部材110の親指挿入穴111に親指を挿入し,人差し指および中指それぞれを,保持ユニット120に形成した人差し指挿入穴121および中指挿入穴122に挿入する。」と記載している通り,人差し指挿入穴121および中指挿入穴122の位置は変動するものであるため,誤った図ではない。
エ.No.4?7について
甲第2号証から,指を挿入する輪と箸が,図のような角度になっていることは,図面に関する通常の常識があれば容易に読み取れるものである。
No.4?7の先行意匠の図は,先行意匠に対応する甲第2号証の意匠を表示した点で意味がある。
オ.No.8,9について
甲第2号証の図6の先行意匠が本件登録意匠とどのように対応しているかを示す図である。被請求人の「甲第2号証の図6とは異なる構成であり,誤った図である」との主張の意味が理解できない。
力. No.10,11について
先行意匠は,請求人が本件登録意匠を無効にするために抽出したものであり,甲第2号証の図6の先行意匠が本件登録意匠とどのように対応しているかを示す図である。
キ. No.12?15について
先行意匠は,請求人が本件登録意匠を無効にするために抽出したものであり,甲第2号証の図6の先行意匠が本件登録意匠とどのように対応しているかを示す図である。

(2)「(2)本件登録意匠と先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠)の意匠に係る物品の認定及び類否判断」について
被請求人は,「(2)本件登録意匠と先行意匠(審判請求書6ページの図の意匠)の,意匠に係る物品の認定及び類否判断及び(3)形態の共通点及び差異点の認定」で,「本件登録意匠の意匠に係る物品が箸の持ち方矯正具に関するものであるのに対し,先行意匠の意匠に係る物品は箸の部品又は箸である。」との答弁を繰り返しているが,本件登録意匠と先行意匠については,先の「第1 請求人の主張の整理」及び,「第2 被請求人の答弁に対する弁駁」で詳しく説明し弁駁主張した通りであるので,この点に関する請求人の弁駁は,本書におけるこれまでの弁駁を援用する。

(3)「(3)形態の共通点及び差異点の認定」について
この点において,被請求人が種々答弁する僅かな相違については,意匠審査基準に,「視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違について,その相違が機能に大きく関わっていても,ことさら重要視しない。」とある通り,その違いは,強く注意を引くものとはならない。よって,被請求人の答弁は何れも失当である。

(4)「(4)形態の差異点の個別評価」のうち
1)「ア.相違点3′」に対する弁駁
被請求人は,「需要者は,本件登録意匠については,円環部の円形と挿入部の四角形の組合せのコントラストによる強い印象を受けるのに対して,先行意匠については,全体的に丸みを帯びた印象を受けるので,差異点3’は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。」と答弁している。
しかし,需要者が,本件登録意匠及び先行意匠について強い印象を受けるのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する差異点(iii)に対して強い印象を受けることはあり得ない。よって,被請求人の主張は失当である。
2)「イ.差異点4」に対する弁駁
被請求人は,「需要者は,本件登録意匠については,やや丸みを帯びた四角い筒状の挿入部を認識する。本件登録意匠の2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)のそれぞれは,円環部と挿入部の2つの部分からなるところ,このうちの1つの部分である挿入部の有無は,需要者が感ずる美感に極めて大きな影響を有する。」と答弁している。
しかし,需要者が,本件登録意匠及び先行意匠について強い印象を受けるのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する挿入部の有無のような枝葉末節について需要者が極めて大きな影響を受けることなどあり得ない。なお,先行意匠の121,122は箸の挿入部である。よって,被請求人の主張は失当である。
3)「ウ.差異点5」に対する弁駁
被請求人は,「棒状の箸部分の有無は,基本的構成に関わる差異であるから,需要者にとって顕著な違いであり,需要者が感ずる美感に極めて大きな影響を有する。」と答弁している。
しかし,「棒状の箸部分」が関わる点については,先の「第1請求人の主張の整理」及び,「第2 被請求人の答弁に対する弁駁」で詳しく説明した通りである。よって,被請求人の主張は失当である。
4)「エ.差異点6」に対する弁駁
被請求人は,「先行意匠の第2箸部材では,2つの穴(人差し指揮入穴及び中指揮入穴)が,箸に対して互いに略180°の位置に配置されている。これにより,先行意匠は,箸を軸として,略180°の回転対称性(厳密には,人差し指挿入穴及び中指挿入穴は箸の軸方向にずれているので,回転対称ではない。)を有しているかのような印象を生じさせる。これに対して,本件登録意匠では,2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)は結合しないので,このような回転対称のような印象は生じさせない。たがって,この差異点6は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。」と答弁している。
しかし,需要者が,本件登録意匠及び先行意匠について強い印象を受けるのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する差異点(vi)のような回転対称性に対してではない。よって,被請求人の主張は失当である。
5)「オ.差異点7」に対する弁駁
被請求人は,「甲第2号証の図4の状態では,外部から第2箸部材上の雄ネジ部131または複数の固定溝133は見えないが,甲第2号証の[0040],[0041]の使用方法を見ると,保持ユニットを上下に移動することができるのであるから,図4の状態から,保持ユニットを上下に移動すれば,外部から第2箸部材上の雄ネジ部131または複数の固定溝133が視認可能になり,これは,需要者の美感に影響する。」と答弁している。
しかし,需要者が,本件登録意匠及び先行意匠について強い印象を受け るのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する差異点(vii)のようなネジ部の有無に対してではない。よって,被請求人の主張は失当である。
6)「力.差異点8,13」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠においては, 2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)とは,挿入部と円環部の角度が異なるものの,それ以外の形態は概ね同じであるから,2つの部材は,セットとしての全体の統一的な美感を生じさせる。」と答弁している。
しかし,被請求人は何をもって「セットとしての全体の統一的な美感を生じさせる」と主張するのか,何らの根拠・証拠の提示も無い。先行意匠はそれぞれの物品(物品の部分を含む)から,それに対応した美観が生じるものであって,被請求人の主張は失当である。
また,被請求人は,「これに対して,先行意匠においては,第1箸部材と第2箸部材とは,円環部の大きさ,円環部の個数(第1箸部材は1個で,第2箸部材は2個),円環部の可動性(第2箸部材の保持ユニットは上下に可動である。),保持ユニットの有無等において,異なるので,統一感がなく,寄せ 集めのような印象を生じる。」と答弁している。
しかし,本件登録意匠の【持ち方矯正具を取り付けた箸を持った状態の参考斜視図】と先行意匠のN0.3【使用例】とは,基本的に「リングに指を挿入して箸を持った図」で類似のものであり,被請求人が主張する「円環部の大きさ,円環部の個数,円環部の可動性,保持ユニットの有無等において,異なるので,統一感がなく,寄せ集めのような印象を生じる」ものではない。
7)「キ.差異点9」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠と先行意匠では,入れる指が全く異なるので,使用時においても,その位置関係等から生じる美感は大きく異なる。
すなわち,本件登録意匠では,人差し指を入れる箸の持ち方矯正具の一方の方が,薬指を入れる箸の持ち方矯正具のもう一方よりも,箸の上側に記置される。これに対して,先行意匠では,第1箸部材の親指挿入穴の方が,第2箸部材の人差し指挿入穴及び中指挿入穴よりも,箸の上側に配置されている。これらは,使用時においても,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。」と答弁している。
しかし,前項で指摘した通り,本件登録意匠の【持ち方矯正具を取り付けた箸を持った状態の参考斜視図】と先行意匠のNo.3【使用例】とは基本的に「リングに指を挿入して箸を持った図」で類似のものであり,被請求人が主張する「美感の違いに大きな影響を有する」とする根拠が見出せない。よって,被請求人の主張は失当である。
8)「ク.差異点10,14」に対する弁駁
被請求人は,「本件登録意匠の円環部には,稜線があるので,シャープな印象を生じるのに対し,先行意匠の親指挿入穴は,全体として丸みを帯びた印象を生じる。また,円環部は,使用者が自らの指を通す部分であるので,使用者の注意が向く部分であるので,この部分に関する差異点10,14は,美感の違いに大きな影響を有する。」と答弁している。
しかし,意匠審査基準には,「視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違について,その相違が機能に大きく関わっていても,ことさら重要視しない。」とある通り,差異点10,14は,視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違であって,美感の違いに大きな影響を有するものではない。よって,被請求人の主張は失当である。
9)「ケ.差異点11」及び「コ.相違点12」に対する弁駁
被請求人は,差異点11について「本件登録意匠では,箸の挿入部の太さは十分に確保されているので,安定した印象を生じるが,先行意匠では,第1箸部材の棒部分が箸の先端部から箸の後端部に至る途中の,親指挿入穴の部分で,一且極めて薄くなるので,不安定な印象を生じる。この差異点は,使用者が自らの指を通す円環部ないしこれに隣接する部分に関する差異であるから,使用者の注意が向くので,この部分に関する差具点11は,美感の違いに大きな影響を有する。」と答弁し,差異点12について「本件登録意匠では,円環部の外形の円形状がはっきり認識されるのに対して,先行意匠の親指挿入穴では,円形状というより,なだらかな山形のような印象を与える。また,円環部は,使用者が自らの指を通す部分であるので,使用者の注意が向く部分であるので,この部分に関する差異点12は,美感の違いに大きな影響を有する。本件登録意匠では,円環部の外形の円形状がはっきり認識されるのに対して,先行意匠の親指挿入穴では,円形状というより,なだらかな山形のような印象を与える。また,円環部は,使用者が自らの指を通す部分であるので,使用者の注意が向く部分であるので,この部分に関する差異点12は,美感の違いに大きな影響を有する。」と答弁している。
しかし,「両意匠の意匠に係る物品自体の大きさ(説明の記載がない場合に認定する通常の大きさの範囲を含む。)が違っていたとしても,それが物品の認定に影響を及ぼさない限り,その違いは,強く注意を引くものとはならない。」とある通り,この相違点11及び12は,看者の注意を強く引くものとはならない。よって,被請求人の答弁は何れも失当である。

(5)「(5)意匠全体としての類否判断」に対する弁駁
被請求人は,「以上のとおり,本件登録意匠と先行意匠とは,そもそも意匠に係る物品が非類似なので,全体としても非類似である。また,形態を比較しても,前述のとおり共通点がなく,需要者の美感に大きな影響を生じる差異点3’?14があるのであるから,全体としても,需要者の視覚を通じて起こさせる美感が全く異なる。」と答弁している。
しかし,本件登録意匠と先行意匠及びその類似点については,請求人が先の「第1 請求人の主張の整理」及び,「第2 被請求人の答弁に対する弁駁」で詳しく説明し弁駁した通りである。また,被請求人の「需要者の美感に大きな影響を生じる差異点3’?14がある」との主張は,請求人が,先に何度も主張を繰り返した通り,需要者が,本件登録意匠及び先行意匠について強い印象を受けるのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する差異点3’?14のような枝葉末節の事項ではない。従って,被請求人の答弁は何れも失当である。

また,被請求人は「仮に請求人が引用する東京高裁昭和52年4月14日判決を前提としても,差異点3’?14,とりわけ,棒状の箸部材の有無に関する差異点5等に鑑みて,需要者が本件登録意匠と先行意匠について,誤認混同を生じるおそれは皆無である。」と答弁している。
しかし,この点については,請求人が,審判請求書で主張した通り,意匠を全体として考察した場合,意匠を見る者の注意を最もひきやすい要部であるリングが箸と一体型であることと装着型であることは,一般の需要者は,分離して判断せず,視覚を通じて同一出所から出た意匠と判断し誤認混同するので類似の意匠と言えるものである。よって,被請求人の主張は失当である。

更に,被請求人は,審判請求書10ページで差異点2に関連して,「『要部であるリングが一体型であってもあるいは装着型であっても,使用形態等から,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果においてなんら異なるところはなく,』等主張する(下線は被請求人代理人による。)。しかし,仮にリングが要部であれば,それに関連して多くの差異点がある以上,本件登録意匠と先行意匠とは,全体として非類似である。」と答弁している。
しかし,リングに指を挿入する機構が要部であることはこれまでに繰り返し主張してきたところである。被請求人は,「仮にリングが要部であれば,それに関連して多くの差異点がある」と主張するが,その差異点は,先に主張した通り枝葉末節の事項であり,美感に影響を及ぼすものではない。
被請求人は,「請求人は,リングが箸と一体型(先行意匠)であるか装着型(本件登録意匠)であるかの違いが重要ではない,と主張するようであるが,リングが装着型であれば,箸と装着型リング(本件登録意匠)とは別の部品としての美感上のコントラストを生じさせるのに対して,一体型(特に先行意匠の第1箸部材)の場合には,箸部とリング部は一体として美感を生じるのであるから,これらの差異は,極めて大きな美感上の違いを生じさせる。」とも答弁している。
しかし,請求人は「『リングが箸と一体型(先行意匠)であるか装着型(本件登録意匠)であるかの違い』については,一般の需要者は,分離して判断せず,視覚を通じて同一出所から出た意匠と判断し誤認混同するので(東京高判昭52.4.14)類似の意匠と言える旨を主張している。被請求人の「リングが装着型であれば,箸と装着型リング(本件登録意匠)とは別の部品としての美感上のコントラストを生じさせるのに対して,一体型(特に先行意匿の第1箸部材)の場合には,箸部とリング部は一体として美感を生じるのであるから,」との答弁は,本件登録意匠では部品であり,先行意匠は箸との一体物であるという被請求人の勝手な判断によるものであり,先に繰り返し主張している通り,失当である。

加えて被請求人は,「請求人は『同趣旨の判例』ということで,過去の判例を事件番号等で特定して引用している。しかし,それらの判例のどの部分が本件に適用可能であるのか,主張の趣旨が不明である。当然のことながら,過去の判例のあてはめ部分や結論部分は,当該事例に特有の判断部分であり,当然には他の事件に適用できない。また,判例の規範部分が他の事件に適用可能な場合はあり得るが,請求人が,判決のどのような趣旨で判例を引用しているのかは,全く不明である。」と答弁している。
しかし,請求人が引用する判例は,何れも以下のような趣旨の判例であって,本件登録意匠と先行意匠とは部分的差異があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない類似の意匠ということができるものである。
〔1〕最二小判昭49年3月19日「可僥性伸縮ホース事件」は,「本件登録意匠の2個のリングは,甲第1号証に記載の3個のリングに含まれるものであり,甲第1号証の3個のリングと,本件登録意匠の2個のリングが構成要素において部分的差異があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのないものである。本質的に甲第1号証に記載の公知意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないものである。」との判例である。
〔2〕東京高判昭52.4.14「スプレーガン事件」は,「意匠を全体として考察すると,指の動かし方を矯正するという意匠を見る者の注意を最もひきやすい要部である本件登録意匠と甲第1号証に記載のリングは,一般の需要者が誤認混同を来す恐れがある程美感が似ているため類似と言える。」との判例である。
〔3〕判例 最二小判昭49年3月19日は,「甲第2号証に記載の第1箸部材は,リングが箸と一体成形されているのに対して甲第2号証に記載の第2箸部材及び本件登録意匠のリングは,装着型である点に差異があるが,要部であるリングが一体型であってもあるいは装着型であっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところはなく,本件登録意匠は,本質的に公知意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないものである」との判例である。
〔4〕判例 平成23年(ワ)第9476号「角度調節金具事件」地判は,「本件登録意匠は,甲第2号証と基本的構成態様及び具体的構成態様において共通するものであり,具体的構成態様における差異は,需要者の注意を惹き付けるものではなく,両意匠の差異点は,両意匠の共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えない。したがって,本件登録意匠と,甲第1号証は,全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を共通にし,類似するというべきである。」との判例である。

(6)「(6)むすび」に対する弁駁
被請求人は,「以上のとおり,本件登録意匠は,先行意匠と類似しないのであるから,意匠法3条1項3号には該当しない。」と答弁している。
しかし,本書において請求人が詳細に弁駁主張している通り,本件登録意匠と甲第2号証に記載された先行意匠とは,差異点3,4,5の差異があるが,このような部分的差異があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は,本質的に先行意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しない。
また,意匠の類否を判断するにあたっては,意匠を全体として考察することを要し,意匠を見る者の注意を最もひきやすい部分を要部として把握し,これを観察して一般の需要者が誤認,混同するかどうかという観点から,その類否を決するのが相当であり,本件登録意匠は,先行意匠と誤認混同を来す恐れがある程似ていることが明らかである。
従って,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきものである。

4.請求人の弁駁主張 まとめ
以上の通り,被請求人の答弁は何れも失当であって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきものである。

第4 口頭審理
当審は,本件無効審判事件について,平成27年12月3日に口頭審理を行った。(平成27年12月3日付け第1回口頭審理調書)

I.[被請求人]
被請求人は,答弁の趣旨及び理由について,平成27年2月23日付け審判事件答弁書及び平成27年11月5日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。
また,被請求人は,請求人の提出した甲第1号証ないし甲第8号証の成立を認めた。

1.陳述の要領
(1)答弁書に追加する主張
(差異点9について) 本件登録意匠と先行意匠とは,入れる指という大きな違いがあることは,答弁書記載のとおりである。これは,両者の目的・機能の違いに由来し,結果として,視認可能な美感上の差異をもたらしている。
すなわち,本件登録意匠は,「箸の持ち方矯正具」であり,多くは,ある程度箸を持ちなれた者の持ち方を矯正することを目的・機能としている。他方,先行意匠は,「子供の知的能力を発達させる練習用箸」であり,「箸に慣れていない者や子供に箸を簡単に使えるようにする練習用箸」である。
前者のある程度箸を持ちなれた者は,箸を持つ経験があるので,箸に対する指の把握力自体は十分であるが,指の配置に問題があるものである。その結果,薬指を使わない「偏り箸」のような握り方になりやすい。そこでは,薬指と人差し指の相対的な位置の矯正が必要となる。
後者の場合は,子供は指の把握力自体が不十分であり,箸に慣れていない者は,例え潜在的な把握力があってもその把握力をうまく指に伝えられないという問題がある。その結果,2本の箸を握りこむ「握り箸」のような握り方になりやすい。その結果,人差し指と中指の位置を第2箸部材に平行に固定するとともに,それらに対向する親指の位置を第1箸部材に固定することが必要となる。

このような目的・機能上の違いは,下記の様な構成上の違いをもたらしている。
ア.本件登録意匠においては,【意匠に係る物品の説明】の欄に記載されているように,第2箸部材に人差し指を,第1箸部材に薬指を挿入する構成となっている。
(i)したがって,本件登録意匠の2つのパーツ自体及びその中の円環部の内径は,その相対的な大きさが,略同一となる(差異点8参照)。
(ii)また,上記のように本件登録意匠においては,使用者は各パーツにそれぞれ人差し指と薬指を挿入することから,人差し指が第2箸部材に対して略平行となるように,また,薬指が第1箸部材に対して直角になるように,穴が形成される(後述の差異点15)
イ.これに対して,先行意匠においては,第2箸部材には人差し指及び中指を挿入し,第1箸部材には,親指を挿入する構成となっている。
(i)したがって,先行意匠の第1箸部材と第2箸部材とでは,2つ円環部の内径ひいてはその外径も,その相対的な大きさが,大きく異なる(どのようなサイズの箸でもそれぞれの円の大きさが相対的に異なる。)。
(ii)また,上記のように,先行意匠においては,第2箸部材には人差し指及び中指を挿入することから,人差し指及び中指が第2箸部材に対して平行になるように穴が形成され,また,第1箸部材には親指を挿入することから,親指が箸に対して斜行(10?35°)するように穴が形成される(【0038】)。従って,親指挿入穴は,自然的には楕円となる。

ウ.本件登録意匠の「箸の持ち方矯正具」も先行意匠の「子供の知的能力を発達させる練習用箸」も,購入の際は手に合うか慎重に確認する性質の商品であるから,視覚上容易にその美感上の差異を識別できる。

エ.なお,上記の差異点のうち,本件登録意匠においては,人差し指を挿入する穴が,傾斜してはいるものの箸と概ね平行な方向を向いており,薬指を挿入する穴が箸に対して直角になるように形成されているのに対し,先行意匠においては,人差し指及び中指を挿入する穴が第2箸部材に対して平行になるように形成され,親指を挿入する穴が箸に対して斜行(10?35°)するように形成されている(【0038】)点を,差異点15とする。

(2)弁駁書に対する反論
ア.先行意匠の特定について
(ア)請求人の平成27年8月21日付け弁駁書に記載された形態を先行意匠とすることは,要旨を変更する補正であること

a.請求人は,平成27年8月21日付け弁駁書5ページにおいて,第1箸部材の「親指挿入穴111」並びに第2箸部材の「保持ユニット120と人差し指挿入穴121」及び「保持ユニットと中指挿入穴120」なる,当該ページに記載した図面の形態を,本件無効審判における先行意匠として特定する旨主張する。

b.しかし,請求人の平成26年10月31日付け審判請求書では,そのような主張は全くされていない。
すなわち,審判請求書6ページには,先行意匠の基本的構成態様として,【審判請求書6ページの図】が記載されている。
また,請求人は,上記図について,審判請求書6ページに,基本的構成態様(i)として,「箸の持ち方矯正具であって,箸に矯正リング(輪)を設け,矯正リングに指を挿入する機構であり,この点は,看者が最も注意を引かれる部分である」(下線は被請求人代理人による。)等,主張している。しかも,上記下線部の趣旨につき,請求人は,「看者が最も注意を引かれる部分」が,「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構」である旨,釈明している(弁駁書22ページ6?8行)。請求人の上記主張は,先行意匠が,「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構」以外の部分,すなわち,箸の棒状の部分も含むものでないと,意味が通じない。
また,審判請求書6ページには,先行意匠の形態の基本的構成態様(ii)として,「矯正リングは一方の箸には箸と矯正リング(輪)を一体に設け,他方の箸には矯正リング(輪)を挿入する」と記載されている。
審判請求書のこれらの記載からは,請求人が,審判請求書において,上記の審判請求書6ページの図の全体の形態を,先行意匠として特定して,本件無効審判を請求したものと解さざるを得ない。
他方,請求人が平成27年8月21日付け弁駁書で新たに特定した先行意匠は,上記の審判請求書で特定した先行意匠とは,箸の棒状の部分の有無において,大きく異なるものである。
したがって,請求人が平成27年8月21日付け弁駁書で新たに特定した先行意匠を,本件無効審判の先行意匠として審理することは,請求書の要旨を変更する補正の禁止に反し,手続上,認められない(意匠法52条で引用する特許法131条の2第1項)。

c.なお,請求人は,「もし仮に審判請求書において請求人が審判請求書6頁の図面の全体を先行意匠として特定していたならば,相違点の認定に当たって箸本体の有無という最も大きな相違点を看過する筈はない。」(弁駁書4ページ最下行?5ページ2行)などと主張し,前記の主張が請求書の要旨の補正ではない旨主張する。
しかしながら,そもそも,意匠法52条で引用する特許法131条の2第1項において,請求書の要旨変更補正が制限される趣旨は,「当初の請求書に記載した理由以外に新たな理由が遅れて発見された場合,請求人が無効理由・証拠の追加を無期限・無制限に行うことも多く,審理の遅延の原因となっていた」ので,「このような弊害を改善するため」のものであり,当該制限により,「その結果,審判請求時に十分な準備をし,全ての無効理由を提出しようとするインセンティブが審判請求人に働くようになり,審理期間の大幅な短縮が図られた。」ものである(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕)。
上記制度趣旨に鑑みると,請求人は,「審判請求時に十分な準備をし」てから審判請求するべきものであり,自ら多義的ないし不明確な審判請求書を提出した請求人が,被請求人からの答弁書を受けてから,当初の審判請求書の記載のいいとこどりをして,恣意的にこれを抜粋・引用し,実質的に当初と大幅に異なる無効理由を主張することは,許されない。

(イ) 請求人の平成27年8月21日付け弁駁書5ページに記載された先行意匠に係る物品は,甲第2号証に記載されたものではないこと

仮に,請求人の平成27年8月21日付け弁駁書に記載された形態を先行意匠とすることが請求書の要旨の変更にあたらないとしても,甲第2号証には,「箸の持ち方矯正具」なる物品は記載されていない。
すなわち,甲第2号証の段落【0066】(【図面の簡単な説明】)には,「【図6】本発明の別な実施態様による練習用箸を示す斜視図である。」と記載されているとおり,甲第2号証には,練習用箸が記載されているに過ぎない。
したがって,請求人の主張に反し,甲第2号証には,「箸の持ち方矯正具」の物品は記載されていない。

(ウ)請求人の平成27年8月21日付け弁駁書5ページに記載された意匠は,甲第2号証に記載されたものではないこと
甲第2号証の図6は,次の図である。この【甲第2号証の図6】の意匠のうち,部分のみを取り出して,「先行意匠」として認定することは許されない。

(エ)請求人が平成27年8月21日付け弁駁書5ページで主張する先行意匠は,部品の意匠であるのか部分意匠であるのか,不明確であること

a. 請求人は,平成27年8月21日付け弁駁書5ページで,【111の部分のみ切りだした図】【120,121,122の部分のみ切りだした図】の意匠を先行意匠として特定する旨主張している。
しかし,当該意匠なるものはその図を見ると,上下が閉じておらず,物品の部分に過ぎないようにも思える。
そうすると,請求人は,部分意匠を先行意匠として特定して主張しているようにも思われる。
この点,意匠審査基準の71.2.1項には,「部分意匠の意匠登録出願をする場合は,願書の『意匠に係る物品』の欄には,全体意匠の意匠登録出願をする場合と同様に,意匠法第7条の規定により別表第一の下欄に掲げる物品の区分又はそれと同程度の区分による物品の区分が記載されていなければならない。(第5部『一意匠一出願』参照)例えば,カメラの意匠の創作において,『意匠登録を受けようとする部分』が当該グリップ部分であっても,権利の客体となる意匠に係る物品が当該グリップ部分を含む『カメラ』であることから,願書の『意匠に係る物品』の欄には,『カメラ』と記載されていなければならない。」と記載されている。
したがって,仮に,請求人が,部分意匠を先行意匠として特定して主張するのであれば,本件では,先行意匠の意匠に係る物品は,前述のように,練習用箸となるはずである。
しかしながら,請求人は,先行意匠の意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であると主張している。
さらに,請求人は,弁駁書4ページにおいて,保持ユニットが,2つに分離し得ることを主張しているようである。
また,弁駁書7ページで,請求人は,「箸から切り出せる物品」とは明示的に区別して,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122を「箸から取り外す物品」と評価しているようである。
そうすると,少なくとも,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122については,請求人は部品の意匠を先行意匠として主張しているようにも読める。
以上の通り,請求人の主張は,支離滅裂であり,趣旨が不明確である。

b.なお,請求人は,「仮に先行意匠の物品が『箸』であるとしても,その部分である『箸の持ち方矯正具』も意匠法上の『物品』であることは,意匠法が予定しているところである。」(弁駁書15ページ17?19行)と主張しているが,上記の意匠審査基準の71.2.1項のとおり,部分意匠の物品とは,全体の物品をいうものであるから,請求人の当該主張は,明らかに誤りである。

(オ)保持ユニット120が,2つに分離するものではないこと
請求人は,弁駁書4ページにおいて,甲第2号証の図3及び図6の保持ユニット120の拡大図が,下記【120,121,122の部分のみ切りだした図,上下に表れている図】のものであるとしている。
そして,請求人は,上記図面の真ん中の線をもって,これが上部と下部に分離すると解して,先行意匠を,下記【120,121,122の部分のみ切りだした図,上下を別に分離させた図】のものと特定している。
しかしながら,甲第2号証の図4の断面図を見ると,保持ユニットは,上下に分離するものではないことは明らかである。

なお,請求人は,弁駁書27ページ1行において,別の争点に関してではあるが,F箸の断面図である甲第2号証の図4によれば,」と,甲第2号証の図4を根拠にして主張している。
また,甲第2号証の明細書の記載を見ても,保持ユニットが上下に分離するものであることを示唆する記載は全くない。すなわち,甲第2号証の【0042】などには,挿入穴121及び122の両方を含む保持ユニット120を全体として箸の上下にずらすことが記載されてはいるが,他方,挿入穴121及び122を個別に移動することについては,何ら記載がない。
また,特許請求の範囲の請求項1にも,「人差し指および中指を挿入する保持ユニット」という文言や,「この保持ユニットが人差し指を挿入する人差し指挿入穴と中指を挿入する中指挿入穴とを有し,」という文言があるところ,これらの文言を素直に読めば,保持ユニットという1つの部材に,人差し指挿入穴及び中指が形成されていると解釈するべきである。
また,甲第2号証にかかる意匠では,人差し指に対する中指の位置は相対的に決まっており,ことさら保持ユニット120を分離させて,121と122を周方向に分離可動とする必要はなく,それはかえって指の位置固定という目的を妨げることになる。
上記請求人の主張は,甲第2号証の図3及び図6の保持ユニットの中央にひかれた横線を唯一の根拠とするものであるが,意匠の対比において先行意匠として特定できるのは,先行意匠の中に構成が十分に開示されていることが必要であり,想像で構成を補足することは許されない。上記実線のみを以て,甲第2号証にかかる意匠を,部材が2つの構成からなり,ひいては周方向に分離可動であるかのように先行意匠として特定しているのは,単なる申立人の想像の産物でしかない。
よって,請求人が主張するように,甲第2号証の保持ユニット120を上下に分離させたものを,甲第2号証に記載された先行意匠として認定することはできない。

イ 弁駁書7?12ページの比較表について
請求人は,弁駁書6ページからの「2.物品の特定」の項の中で,弁駁書7ページ以降に,「比較表(本件登録意匠と先行意匠の比較)」なる表を記載しているが,どういう趣旨の表であるのか,不明である。

なお,当該表は,請求人が作成したと思われる甲第3号証の表と概ね同じようである。そして,これらの表に「先行意匠」として記載された図が,甲第2号証に記載されたものではなく,請求人が作成した不正確な図である点等については,答弁書17ページ以下で述べたとおりである。

ウ 形態の差異点の個別評価についての反論
(ア) 差異点3’について
差異点3’について,請求人は,「需要者が,本件登録意匠及び先行意匠について強い印象を受けるのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する差異点3’に対して強い印象を受けることはあり得ない。」と主張する(弁駁書34ページ)。
しかし,本件登録意匠においては,挿入部が四角形であることによって,請求人が「強い印象を受ける」としているリングに指を挿入する部分の円形とのコントラストが引き立ち,意匠全体として強い印象を与えるのに対して,先行意匠においては,保持ユニットの断面が円形であることにより,請求人が「強い印象を受ける」としているリングに指を挿入する部分の円形と相まって,意匠全体として丸みを帯びた印象を与えることになる。
そもそも,請求人も,弁駁書15ページ下から5?1行及び弁駁書22ページ4?8行において,「箸に矯正リング(輪)A, Bを挿入」する部分が,「看者が最も注意を引かれる部分」であると主張している。これに矛盾する請求人の主張は,禁反言ないし信義則に反し許されない。
したがって,差異点3’は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。

(イ) 差異点6について
差異点6について,請求人は,「需要者が,本件登録意匠及び先行意匠について強い印象を受けるのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する差異点6のような回転対称性に対してではない。」(弁駁書35ページ7?9行)と主張する。
しかし,仮に,請求人の主張するように,需要者が,「リングに指を挿入する機構」について,強い印象を受けるのであれば,そのリングの個数や,リングの配置も,需要者が強い印象を受ける部分となる。
したがって,差異点6は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。

(ウ) 差異点7について
差異点7について,請求人は,「需要者が,本件登録意匠及び先行意Eについて強い印象を受けるのは,リングに指を挿入する機構であり,被請求人が主張する差異点7のようなネジ部の有無に対してではない。」(弁駁書35ページ19?21行)と主張する。
しかし,仮に,請求人の主張するように,需要者が,「リングに指を挿入する機構」について,強い印象を受けるのであれば,そのリングに近接する部分である,本件登録意匠の挿入部の内側や,先行意匠の保持ユニットの内側や,先行意匠の第2箸部材の雄ネジ部131または固定溝133も,需要者が強い印象を受ける部分となる。
したがって,差異点7は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。

(エ)差異点8,13について
差異点8,13について,請求人は,「先行意匠はそれぞれの物品(物品の部分を含む)から,それに対応した美観が生じる」(弁駁書36ページ2?4行)と主張する。
この点,請求人のいう,先行意匠の「それぞれの物品」とは,第1箸部材に係る部分と,第2箸部材に係る部分とをいうものと思われる。
そして,請求人は,これらの「それぞれの物品」「に対応した美観(ママ)が生じる」と主張しているところ,これは,すなわち,第1箸部材に係る部分と,第2箸部材に係る部分とで,異なる美感が生じ,これらに全体としての統一感が生じないことを自認するものである。
他方,本件登録意匠においては,2つの部材(箸の持ち方矯正具の片方と箸の持ち方矯正具のもう一方)とは,円環部の大きさ及び形状が概ね同じであるから,2つの部材は,セットとしての全体の統一的な美感を生じさせる。
したがって,差異点8,10は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。

エ.意匠全体としての類否判断についての反論
(ア)請求人による引用について
請求人の弁駁書39ページ7行以下の引用は,不正確である。審判官殿におかれては,答弁書における被請求人の主張については,請求人の弁駁書の引用形式の表現ではなく,元の答弁書での表現を参照して審理・判断頂きたい。なお,請求人の弁駁書においては,上記の39ページ以外においても,答弁書の不正確な引用が散見されるので,同様にご留意頂きたい。

(イ)判例に関する請求人の主張に対する反論
弁駁書40ページ14行以下の,判例に関する請求人の主張は,意味不明である。
請求人が列挙する判例〔1〕?〔4〕では,請求人がカギカッコで囲んだような判示はなされていない。
当該判例〔1〕?〔4〕は,いずれも,本件とは事案が異なるものである。

(3)まとめ
追加主張,及び弁駁書に対する反論として上述したほか,被請求人の主張は,答弁書記載のとおりである。
本件登録意匠は,先行意匠と類似しないのであるから,意匠法3条1項3号には該当しない。
よって,本件審判請求は理由がないものであり,請求人の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。

II.[請求人]
請求人は,審判請求の趣旨及び理由について,審判請求書,平成27年8月21日付け無効審判弁駁書及び平成27年11月19日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述し,併せて,甲第4号証ないし甲第8号証を提出した。

1.陳述の要領
(1) 被請求人の口頭審理陳述要領書(H27.11.5付)に対する反論
ア.「(1)答弁書に追加する主張」に対する反論
(ア)相違点9についての主張に対する反論
被請求人は,「差異点9について,本件登録意匠と先行意匠とは,入れる指という大きな違いがあることは,答弁書記載のとおりである。これは,両者の目的・機能の違いに由来し,結果として,視認可能な美感上の差異をもたらしている。」と主張しているが,差異点9について,本件登録意匠の2個のリングは,先行意匠に記載の3個のリングに含まれるもので,本件登録意匠の2個のリングと,先行意匠に記載の3個のリングが構成要素において部分的差異があっても,全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面において何ら異なるところはないものである。よって,被請求人の主張は失当である。

(イ)「ア 本件登録意匠においては,・・・(要領書2頁21行目?)」に対する反論
被請求人は,「本件登録意匠においては,【意匠に係る物品の説明】の欄に記載されているように,第2箸部材に人差し指を,第1箸部材に薬指を挿入する構成となっている。(i)したがって,本件登録意匠の2つのパーツ自体及びその中の円環部の内径は,その相対的な大きさが,略同一となる(差異点3参照)。(ii)また,上記のように本件登録意匠においては,使用者は各パーツにそれぞれ人差し指と薬指を挿入することから,人差し指が第2箸部材に対して略平行となるように,また,薬指が第1箸部材に対して直角になるように,穴が形成される(後述の差異点10」と主張している。
確かに本件登録意匠と先行意匠の第1箸部材の親指挿入穴との間には若干の差異があるが,これは,「両意匠の意匠に係る物品自体の大きさ(説明の記載がない場合に認定する通常の大きさの範囲を含む。)が違っていたとしても,それが物品の認定に影響を及ぼさない限り,その違いは,強く注意を引くものとはならない。」(意匠審査基準,甲第4号証29ページ)に該当するもので,その違いは,強く注意を引くものとはならない。

(ウ)「イ これに対して,…(要領書3頁8行目?)」に対する反論
被請求人は,「イ これに対して,先行意匠においては,第2箸部材には人差し指及び中指を挿入し,第1箸部材には,親指を挿入する構成となっている。(i)したがって,先行意匠の第1箸部材と第2箸部材とでは,2つ円環部の内径ひいてはその外径も,その相対的な大きさが,大きく異なる(どのようなサイズの箸でもそれぞれの円の大きさが相対的に異なる。)。(ii)また,上記のように,先行意匠においては,第2箸部材には人差し指及び中指を挿入することから,人差し指及び中指が第2箸部材に対して平行になるように穴が形成され,また,第1箸部材には親指を挿入することから,親指が箸に対して斜行(10°?35°)するように穴が形成される(【0038】)。従って,親指挿入穴は,自然的には楕円となる」と主張する。
確かに,本件登録意匠と先行意匠の第1箸部材の親指挿入穴との間には若干の差異があるが,これは,「両意匠の意匠に係る物品自体の大きさ(説明の記載がない場合に認定する通常の大きさの範囲を含む。)が違っていたとしても,それが物品の認定に影響を及ぼさない限り,その違いは,強く注意を引くものとはならない。」(意匠審査基準,甲第4号証29ページ)に該当するもので,その違いは,強く注意を引くものとはならないことは,前述の通りである。
また,先行意匠について,「親指が箸に対して斜行(10°?35°)するように穴が形成される(【0038】)。従って,親指挿入穴は,自然的には楕円となる」と主張するが,意匠審査基準には,「視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違について,その相違が機能に大きく関わっていても,ことさら重要視しない。」(意匠審査基準,甲第4号証31ページ)とある通り,その違いは,強く注意を引くものとはならない。

(エ)「ウ 本件登録意匠の…(要領書3頁18行目?)」に対する反論
被請求人は,「ウ 本件登録意匠の『箸の持ち方矯正具』も先行意匠の『子供の知的能力を発達させる練習用箸』も,購入の際は手に合うか慎重に確認する性質の商品であるから,視覚上容易にその美感上の差異を識別できる。」と主張する。
確かに,本件登録意匠の「箸の持ち方矯正具」も先行意匠の「子供の知的能力を発達させる練習用箸」も,購入の際は手に合うか慎重に確認する性質の商品であるが,両者に若干の差異があったとしても,これは意匠審査基準の「視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違について,その相違が機能に大きく関わっていても,ことさら重要視しない。」(意匠審査基準,甲第4号証31ページ)に該当し,その違いは,強く注意を引くものとはならない。

(オ)「エ なお,上記の差異点のうち,・・・差異点10とする。(要領書3頁21行目?)」に対する反論
被請求人は,「なお,上記の差異点のうち,本件登録意匠においては,人差し指を挿入する穴が,傾斜してはいるものの箸と概ね平行な方向を向いており,薬指を挿入する穴が箸に対して直角になるように形成されているのに対し,先行意匠においては,人差し指及び中指を挿入する穴が第2箸部材に対して平行になるように形成され,親指を挿入する穴が箸に対して斜行(10°?35° )するように形成されている(【0038】)点を,差異点10とする。」と主張している。
しかし,この差異は,意匠審査基準の(意匠審査基準,甲第4号証31ページ)に該当し,その違いは,強く注意を引くものとはならないことは前述の通りである。
よって,被請求人の主張は何れも失当である。

イ.「(2)弁駁書に対する反論」に対する再反論
(ア)「ア 先行意匠の特定について」に対する再反論
a.「(ア)請求人の平成27年…(要領書4頁2行目?)」に対する再反論
被請求人は「請求人の平成27年8月21日付け弁駁書に記載された形態を先行意匠とすることは,要旨を変更する補正である」と主張するが,この件に関しては,平成27年8月21日付け弁駁書5ページで反論した通りである。
即ち,請求人が特定する先行意匠は,甲第2号証に記載された意匠のうち,平成27年8月21日付け弁駁書5ページの表に示した「箸の持ち方矯正具」の意匠である。そして,審判請求書8ページには,「意匠に係る物品は,両意匠ともに『箸の持ち方矯正具』に関するものである,同一の物品である。」ということが明記されているから,弁駁書における請求人の主張は,要旨変更ではない。
被請求人は答弁書において,「請求人が,先行意匠の特定について,これと異なる主張をすることは,請求書の要旨を変更する補正であり‥手続上,認められない。」旨を答弁しているが,弁駁書で,請求人が先行意匠について丁寧に整理しているのは,被請求人の誤解・曲解を正すべく行ったものであり,審判請求の要旨を変更しようとするものではない。
また,もし仮に審判請求書において請求人が審判請求書6頁の図面の全体を先行意匠として特定していたならば,相違点の認定に当たって箸本体の有無という最も大きな相違点を看過する筈はないことは弁駁書でも反駁した通りである。
以上の通り,請求人は審判請求書において,先行意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であることを明示し,先行意匠が「第1箸部材の『親指挿入穴111』」及び「第2箸部材の『保持ユニットと人差し指挿入穴121』と『保持ユニットと中指挿入穴122』」であることを前提としている。従って,請求人のこれまでの主張は,審判請求書に記載の要旨に沿って先行意匠を整理するものであって,審判請求の要旨を変更するものではない。
被請求人は,「先行意匠は,箸の意匠である。」と被請求人側に都合の良いように「意匠」の範囲を勝手に決めつけているが,前述の通り審判請求書8ページに「意匠に係る物品は,両意匠ともに『箸の持ち方矯正具』に関するものである,同一の物品である。」と明記している通り,請求人が本件無効審判において先行意匠として摘示するのは甲第2号証に記載された「第1箸部材の『親指挿入穴111」及び「第2箸部材の『保持ユニットと人差し指挿入穴121』と『保持ユニットと中指挿入穴122』」である。よって,被請求人の反論は全くの失当である。
そして,本件登録意匠と,甲第2号証に記載の先行意匠(「親指挿入穴111」及び「保持ユニットと人差し指挿入穴121」「保持ユニットと中指挿入穴122」)とは,部分的差異があるものの全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠であって,本件登録意匠は本質的に先行意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しないと言える(甲第5号証)。
また,「意匠登録に際し,登録出願に係る意匠が公知意匠と類似する意匠であるときは意匠登録の要件を具備しないとされるのは,当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ,取引の対象とされる場合において,取引者,需要者が両意匠を類似していると認識することにより当該物品の誤認混同を生じないようにするためであると解されるから,その類否判断は,両意匠の構成を全体的に観察したうえ,取引者,需要者が最も注意を惹く意匠の構成,すなわち要部がどこであるかを当該物品の性質,目的,用途,使用態様などに基づいて認定し,その要部に表われた意匠の形態が看者に異なった美感を与えるか否かによって判断すべきものと解される。」(東京高裁平成7年9月26日,甲第6号証)であるから,本件登録意匠と先行意匠とにおいて取引者・需要者が最も注意を惹く意匠の構成すなわち要部は,通常の箸には存在しない「箸の持ち方矯正具」であるリング状の部分である(箸本体は一般にありふれた周知の形状であって,要部とはなりえない)。このような「箸の持ち方矯正具」である本件登録意匠と先行意匠とにおいては,一般の需要者が誤認,混同する蓋然性が非常に高く,類似意匠であると言わざるを得ないものである。

b.「(イ)請求人の平成27年・・・(要領書6頁9行目?)」に対する再反論
被請求人は,「仮に,請求人の平成27年8月21日付け弁駁書に記載された形態を先行意匠とすることが請求書の要旨の変更にあたらないとしても,甲第2号証には,『箸の持ち方矯正具』なる物品は記載されていない。すなわち,甲第2号証の段落【0066】(【図面の簡単な説明】)には,『【図6】本発明の別な実施態様による練習用箸を示す斜視図である。』と記載されているとおり,甲第2号証には,練習用箸が記載されているに過ぎない。したがって,請求人の主張に反し,甲第2号証には,『箸の持ち方矯正具』の物品は記載されていない。」と反論している。
しかし,審判請求書の8ページに「意匠に係る物品は,両意匠ともに『箸の持ち方矯正具』に関するものであり,同一の物品である。」と記載している通り,甲第2号証に記載の先行意匠(「親指挿入穴111」,「保持ユニットと人差し指挿入穴121」及び「保持ユニットと中指挿入穴122」)は,いずれも指を挿入するための穴であり,その目的は「箸に慣れていない者や子供に箸を簡単に使えるようにする【0009】」及び「箸の使い方を段階的に学ぶことができる【0010】」である。つまり,箸の持ち方を練習するための穴である。被請求人は「甲第2号証には,『箸の持ち方矯正具』の物品は記載されていない」と反論するが,確かに甲第2号証には「箸の持ち方矯正具」という文字は記載されていないが,箸の持ち方を練習するための物品(「親指挿入穴111」,「保持ユニットと人差し指挿入穴121」及び「保持ユニットと中指挿入穴122」)が図面に表わされている。「箸の持ち方矯正具」という文字が記載されていないとの被請求人の主張は,その場しのぎの方便・論弁に過ぎず,明らかに失当である。

c.「(ウ)請求人の平成27年・・・(要領書6頁19行目?)」に対する再反論
被請求人は「上記の意匠のうち,部分のみを取り出して,『先行意匠』として認定することは許されない。」と反論する。
しかし,意匠法第2条第1項には「この法律で『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定されており,逐条解説によれば「『物品』とは市場で流通する有体物であるとされていることから,昭和34年制定の現行法においては独立して取引の対象となり得ない物品の部分は,意匠法上の『物品』ではなく,物品の部分に係る意匠は保護対象となっていなかった。しかし,近年,独創的で特徴ある部分を取り入れつつ意匠全体で侵害を避ける巧妙な模倣が増加し,十分にその投資を保護することができないものとなっていたことから,物品の部分に係る意匠も保護対象となるように改正したものである。」とある(特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第18版],甲第7号証)とおり,現行法においては「物品の部分」も物品に含まれることが明記されており,本件についていえば甲第2号証に記載されている「練習用箸」という物品の部分である「箸の持ち方矯正具」も「物品」に該当するものである。
従って,「上記の意匠のうち,部分のみを取り出して,『先行意匠』として認定することは許されない。」との被請求人の反論は失当である。

d.「(エ)請求人が平成27年・・・(要領書7頁3行目?)」に対する再反論
被請求人は「請求人は,部分意匠を先行意匠として特定して主張しているようにも思われる。」及び「少なくとも,人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122については,請求人は部品の意匠を先行意匠として主張しているようにも読める。」として,「請求人の主張は,支離滅裂であり,趣旨が不明確である。」と反論している。
しかし,前述の通り,請求人は審判請求書において,先行意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であることを明示し,先行意匠が「親指挿入穴111」,「保持ユニットと人差し指挿入穴121」及び「保持ユニットと中指挿入穴122」であるとしている。
そして,意匠法第2条第1項において,意匠法上の「物品」について「物品の部分を含む。第8条を除き,以下同じ。」と定義されている通り,本件についていえば甲第2号証に記載されている「練習用箸」という物品の部分である 「箸の持ち方矯正具」も意匠法上の「物品」に該当するものである。
被請求人は,この先行意匠の特定について,審査基準を持ち出し「部分意匠」云々と反論するが,部分意匠の出願時の願書の記載に関する審査基準は,意匠無効審判における先行意匠の認定に何ら影響しない。被告のこの反論は,甲第2号証の刊行物に1つの意匠しか開示されていないという思い込みに起因するものと思われる。甲第2号証には全体を通して様々な意匠が記載されており,【図6】においても「練習用箸」の意匠のみならず「箸の持ち方矯正具」の意匠,「装飾品」の意匠,「結合手段」の意匠,「パッド」の意匠,「発光ランプ」の意匠等,たくさんの物品(物品の部分を含む。)に係る意匠が開示されているものである。甲第2号証の「発明の名称」に拘泥し,甲第2号証には「練習用箸」の意匠しか開示されていないという被請求人の反論は,明らかに失当である。
甲第2号証に開示されている様々な意匠の中で,請求人が先行意匠として特定するのは,甲第2号証の【図3】及び【図6】に記載された「親指挿入穴111」,「保持ユニットと人差し指挿入穴121」及び「保持ユニットと中指挿入穴122」である。

e.「(オ)保持ユニット120が・・・(要領書9頁2行目?)」に対する再反論
被請求人は,「甲第2号証の明細書の記載を見ても,保持ユニットが上下に分離するものであることを示唆する記載は全くない。」として「甲第2号証の保持ユニット120を上下に分離させたものを,甲第2号証に記載された先行意匠として認定することはできない。」と反論している。
しかし,甲第2号証の【図3】及び【図6】における保持ユニット120を拡大すると以下の通りである。
この甲第2号証の【図3】及び【図6】においては,「保持ユニット120と人差し指挿入穴121」と「保持ユニット120と中指挿入穴120」との間に,明確な円弧状の実線が記載されている。そして,被請求人が主張する【図4】は,「本発明の一つの実施態様による練習用箸の調節手段を示す詳細図」であって,一実施例に過ぎないものである。確かに【図4】における上下に分離しない保持ユニットも甲第2号証に開示された一つの意匠には相違ないが,請求人が先行意匠として特定する意匠ではない。
請求人が先行意匠として特定する意匠は,甲第2号証の【図3】及び【図6】に記載された「親指挿入穴111」,「保持ユニットと人差し指挿入穴121」及び「保持ユニットと中指挿入穴122」である。そして,その【図3】及び【図6】においては,「保持ユニット120と人差し指挿入穴121」と「保持ユニット120と中指挿入穴120」との間に,明確な円弧状の実線が記載されているから,上下に分離する構成の意匠であることが明白である。
また,被請求人は「甲第2号証の明細書の記載を見ても,保持ユニットが上下に分離するものであることを示唆する記載は全くない。」という事を強調しているが,甲第2号証に記載の発明に「保持ユニットが上下に分離するものであること」という思想が含まれていることは,その出願経過に徴すれば明白である(甲第2号証の発明の公表特許公報(甲第8号証)【図5】参照)。
従って,被請求人の反論は失当である。

(イ)「イ弁駁書7?12ページの比較表について(要領書11頁14行目?)」に対する再反論
被請求人は,甲第3号証の表について,その趣旨が不明であると論難する。甲第3号証の表は,本件登録意匠と先行意匠とがどのように対応しているかを示したものであるから,その趣旨は,本件登録意匠と先行意匠とは類似する意匠であるというものである。

(ウ)「ウ 形態の相違点の個別評価についての反論」に対する再反論
a.「(ア)相違点3´について(要領書11頁23行目?)」に対する再反論
被請求人は,差異点3’について,「請求人の主張は,禁反言ないし信義則に反し許されない。」と反論しているが,失当である。
【差異点3’】は,「本件登録意匠で『箸の持ち方矯正具』の挿入部の断面が丸みを帯びた四角形であるのに対して,先行意匠の保持ユニットの断面は円形である」という点である。
この点について,被請求人は請求人の弁駁書における主張の一部を自らの都合が良いように抜粋し,請求人の主張を意図的に歪めている。
請求人の弁駁書の記載は「箸の持ち方矯正具であって,箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構であり,この点は,看者が最も注意を引かれる部分である。」というものである。それを被請求人は「『箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入』する部分が,『看者が最も注意を引かれる部分である。』と主張している。」というように引用しているが,不当極まりない。
請求人が「看者が最も注意を引かれる部分である。」と主張しているのは「箸に矯正リング(輪)A,Bを挿入し,矯正リングに指を挿入する機構」である。つまり,リングに指を入れるという機構が「看者が最も注意を引かれる部分である。」と主張しているのである。
以上の通り,「請求人の主張は,禁反言ないし信義則に反し許されない。」との被告の反論は,請求人の主張を意図的に歪めた上に成立する反論であって,失当である。
そして,確かに相違点3’に係る相違はあるものの,その差異は,視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違であって,強く注意を引くものではない。

b.「(イ)相違点6について(要領書12頁13行目?)」に対する再反論
被請求人は,「需要者が,『リングに指を挿入する機構』について,強い印象を受けるのであれば,そのリングの個数や,リングの配置も,需要者が強い印象を受ける部分となる。」と反論する。
しかし,本件登録意匠及び先行意匠に係る物品は,あくまで「箸の持ち方矯正具」であるから,「リングの個数や,リングの配置」という点は埓外の問題である。「リングの個数や,リングの配置」というのは,一対の箸に装着された場合の個数や配置を言っているものと思われるが,本件登録意匠及び先行意匠に係る物品は「箸の持ち方矯正具」(箸に装着されていない状態のもの)であるから,箸本体との関係性に起因する「リングの個数や,リングの配置」という点は,本件の物品(箸の持ち方矯正具)において需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響しないものである。
従って,前記のような被請求人の反論は失当である。

c.「(ウ)相違点7について(要領書12頁22行目?)」に対する再反論
被請求人は,「先行意匠の保持ユニットの内側や,先行意匠の第2箸部材の雄ネジ部131または固定溝133も,需要者が強い印象を受ける部分となる。」と反論するが失当である。
前記の通り,請求人が先行意匠として特定するのは,甲第2号証の【図3】及び【図6】に記載された「親指挿入穴111」,「保持ユニットと人差し指挿入穴121」及び「保持ユニットと中指挿入穴122」である。
つまり,被請求人の反論は,本件登録意匠と先行意匠(「親指挿入穴111」及び「保持ユニットと人差し指挿入穴121」及び保持ユニットと中指挿入穴122」)との対比による反論ではなく,本件登録意匠と甲第2号証に記載された別の意匠(雄ネジ部や固定溝の意匠)との対比による反論であるから,本件審判における反論としては,失当である。

d.「(エ)相違点8,13について(要領書13頁5行目?)」に対する再反論
被請求人は「先行意匠は全体としての統一感が生じないのに対し,本件登録意匠はセットとしての全体の統一的な美感を生じさせる。よって,相違点8,13は,需要者が感ずる美感の違いに大きな影響を有する。」旨を反論している。
被請求人の上記反論は,弁駁書の「先行意匠のそれぞれの物品(物品の部分を含む)から,それに対応した美感が生じる。」との記載の「それぞれ」という文言を抽出して,勝手に「それぞれ(異なる)」という解釈を加えて曲解した上での反論であり,失当である。請求人は「それぞれの物品から,それに対応した美感が生じる」と主張しているのであって,その美感が「異なる」とは述べていない。
また,被請求人は「本件登録意匠においては, 2つの部材とは,円環部の大きさ及び形状が概ね同じであるから,2つの部材は,セットとしての全体の統一的な美感を生じさせる。」と反論するが,先行意匠においても「保持ユニットと人差し指挿入穴121」と「保持ユニットと中指挿入穴122」とは,円環部の大きさ及び形状が概ね同じであるから,2つの部材は,セットとしての全体の統一的な美感を生じさせるものである。この点において,本件登録意匠と先行意匠とは,需要者の視覚を通じて起こさせる美感を共通にするものである。よって被請求人の反論は失当である。

(エ)「エ 意匠全体としての類否判断についての反論」(要領書13頁20行目?)に対する再反論
被請求人は,種々反論して,本件登録意匠と公知意匠とは構成要素において,相違点が多数あるから非類似の意匠である旨を主張している。
しかし,昭和49年03月19日最高裁判所第三小法廷判決(昭和45(行ツ)45)の趣旨は,「同一又は類似の物品の公知意匠と構成要素において部分的相違があっても,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は,本質的に公知意匠に含まれるものであり,創作として未知のものと評価するに値しない。法3条1項3号は,かかる意匠を,公知意匠そのものと同一の意匠に準じ,類似の意匠として登録しないこととしたものである。」とされている(甲第5号証)。
してみれば,本件登録意匠と甲第2号証に記載の先行意匠(「親指挿入穴111」及び「保持ユニットと人差し指挿入穴121」[保持ユニットと中指挿入穴122])とは,入れる指が異なる等の機能的な面での部分的相違があるものの,その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠である。従って,本件登録意匠は,本質的に公知意匠に含まれるものであり創作として未知のものと評価するに値しないものとして,意匠法第3条第1項第第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。

ウ.「C.まとめ」(要領書14頁6行目?)に対する再反論
以上の通り,被請求人の主張・反論は何れも失当であるから,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とされるべきものである。

(2)請求人の主張
以上の通り,被請求人の主張・反論は何れも失当であるから,請求人は請求の趣旨記載の審決を求めるものである。

2.証拠方法
・甲第4号証 意匠審査基準 第2部第2章 新規性 (写し)
・甲第5号証 最高裁判所判例解説民事編昭和49年度 (写し)
(平成元年5月31日第1版第4刷 財団法人法曹会発行)
・甲第6号証 東京高裁(平成7年(行ヶ)33号)
平成7年9月26日 判決 (写し)
・甲第7号証 工業所有権法逐条解説第18版 意匠法第2条の部分(写 し)(2010年1月31日 社団法人発明協会発行)
・甲第8号証 特表2004-538074 公表特許公報 (写し)

[審判長]
審判長は,請求人の提出した甲第1号証ないし甲第8号証について取り調べた。
審判長は,本件の審理を終結する旨,請求人及び被請求人に通告した。

第6 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成21年8月21日に意匠登録出願がなされ,平成23年1月7日に設定の登録がなされた意匠登録第1406731号の意匠(日本国特許庁発行の意匠公報(平成23年2月7日発行)記載)であって,意匠に係る物品を「箸の持ち方矯正具」とし,意匠に係る物品の説明において「本物品は,箸の持ち方矯正具に関するものである。矯正具は,箸に取付けた状態の参考斜視図に示すように,左右の箸に個別に挿入される。使用者は,箸を持った状態の参考斜視図に示すように,人差し指と薬指とを矯正具内に挿入することで,持ち方が矯正される。」とするものであり,その形態を願書及び願書添付図面に記載されたとおりとしたものである。(甲第1号証,別紙第1参照)

すなわち,本件登録意匠は,箸とは別体の,箸に取り付けて,箸を持つ指を挿入して使用する,箸を持つ指の位置や向きを矯正するための器具である「箸の持ち方矯正具」に係るものであって,その全体の形態は,以下の基本的構成態様及び具体的態様から成るものである。
(1)基本的構成態様
ア.2本一対の箸のそれぞれに装着するための2つの構成部品から成るものである。
イ.2つの構成部品はともに箸を挿入して取り付ける取付部と指を挿入する円環状(リング)部によって形成されている。
ウ.構成部品は,ともに取付部とリング部が一体成形されているが,リング部と取付部の取付け向き,角度は異なっている。
(2)各部の具体的態様
ア.取付部は,通常の太さの箸を挿入する程度の内径のやや短い両端開口の肉薄の隅丸正方形角管状である。
イ.リング部は,やや細幅で若干肉厚の,指輪のような円環状(超扁平円筒状)である。
ウ.取付部とリング部の結合の態様は,一方(「構成部品A」と称す。)は取付部とリング部の穴の中心線の方向(指と箸の挿入方向)が直交する向きに,もう一方(「構成部品B」と称す。)は同2つの方向が概略同方向平行で,僅かに(左右方向約20度,上下方向数度)傾いて,円環状の外側が溶けて角管状に貼り付くように形成されている。
エ.構成部品を構成する各部の主な構成比は,角管状の長さと円環状の外径の比は約2:3で,円環状の厚みは円環状の内径(直径)の約1/5で,円環状の幅については,構成部品Aが角管状の端面の一辺とほぼ同長の幅で,構成部品Bがその3/4強の細幅のものである。

2 無効理由
(1)請求人の申し立てた無効理由
請求人の申し立てた無効理由は,本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物に記載された意匠(以下,「引用意匠」という。)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し無効とすべきである,とするものである。
そして,その引用意匠は,本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である特許公報に掲載された特許第3766831号(甲第2号証,別紙第2参照)に記載された意匠である。

(2)引用意匠
ア.本件登録意匠の出願前に公然知られた意匠(引用意匠)の特定
甲第2号証は,特許第3766831号の特許公報であり,本件登録意匠の意匠登録出願(出願日:平成21年8月21日)前の平成18年4月19日に発行された刊行物であるから,甲第2号証に記載された意匠は,本件登録意匠の意匠登録出願(出願日:平成21年8月21日)前に既に公然知られた意匠である。
甲第2号証の特許公報に記載された発明の名称は「子供の知的能力を発達させる練習用箸」であり,同公報には複数の練習用箸あるいは練習用箸の一部分(調整手段及び結合手段の部分等)を表した図が記載されているが,審判請求書においては,そのいずれの図に表された意匠を本件登録意匠の無効理由を構成する先行する公知意匠(引用意匠)とするかは必ずしも明確ではない。
請求人は,「第1 4.本件登録意匠を無効にすべき理由 イ 先行意匠の要旨」(請求書第6?8ページ記載)において,先行意匠(引用意匠)は,特許第3766831号の特許公報に記載された発明の名称「子供の知的能力を発達させる練習用箸」に係る意匠であるとしている。また一方で,その引用意匠の構成を特定する際に,甲第3号証にいくつかの図をもって意匠を表している(別紙第3参照)が,それらは,特許第3766831号の特許公報に記載されたいずれの図とも同一ではなく,それらの図によって表された意匠も同一ではない。請求人が甲3号証(対比表(本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比))に,甲2号証に記載された意匠として表した全ての意匠は,請求人が独自かつ新たに改変,創作した意匠である。
したがって,この甲第3号証に表されたいずれの意匠も,本審判事件において,請求人が申し立てた無効理由である意匠法第3条第1項第3号に該当する前提となる本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物(特許公報(甲第2号証)に掲載された特許第3766831号)に記載された意匠ではないから,これらの意匠は本件の無効理由を構成する引用意匠として適格なものではない。
そこで,本件においては,当然ながら,請求人が申し立てた無効理由である意匠法第3条第1項第3号に該当する本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物(特許公報(甲第2号証)に掲載された特許第3766831号)に記載された意匠のみを,本件登録意匠と対比して類否判断を行う適格な引用意匠とする。
そして,具体的には,請求人の本件審判請求の趣旨から総合的に判断して,同公報記載の図6に表された「練習用箸」の意匠(以下,「引用意匠1」という。)及び図3?図5に表された「練習用箸」の意匠(以下,「引用意匠2」という。),並びに引用意匠2及び引用意匠1に表されている指を挿入するリング部を備えた箸に取り付ける構成部品(ユニット)の意匠(以下,「引用意匠3」という。)を,本件登録意匠と対比して類否判断を行う引用意匠とする。
(同公報には,その他に,図2に表された「箸」の意匠及び図1に表された「箸」の意匠も掲載されているが,それらは同公報においていずれも従来技術,従来の実施例を示すものとして表されており,請求人が審判請求書において積極的に対比しようとしていないものであるので,これらは対象外とする。)

イ.引用意匠の意匠に係る物品及び形態
[引用意匠1(図6に表された「練習用箸」の意匠)]
引用意匠1は,意匠に係る物品を「練習用の箸」とするもので,図中にはキャラクターの形状を模した装飾部品や箸先のセンサー付パッド等の取り外し可能な追加付属的な部品も表されているが,以下は,それらの追加付属部品を除く「練習用の箸」の本体部の構成を認定する。
(ア)全体の基本的構成態様
a.箸は2本一対の丸棒状のもので構成されている。
b.その棒状には,持ち方を矯正するための,指を挿入する円環状部(以下,「リング部」という。)が設けられている。
c.また,2本の棒状を緩く連結させるための結合部(以下,「結合部」という。)をそれぞれの棒状に形成している。
(イ)各部の具体的態様
a.2本の棒状はともに,先端に向けて緩やかに次第に縮径するテーパの付いた細長丸棒状(以下,単に「棒状」ともいう。)である。上端には円孔が軸方向に設けられており,下端は電気接続用のコネクター部となっている。
b.リング状部は,一方の棒状(以下,「第1箸部材」という。)には1個
,リングの穴の貫通方向が棒状の軸と直交する水平の向きに棒状に一体に形成されている(以下,この第1箸部材に1個形成されたリング状部を「Aリング状部」という。)。
もう一方の箸(以下,「第2箸部材」という。)には2個,リングの穴の貫通方向が棒状の軸とほぼ同じ垂直の向きに,2個が上下に,棒状を挟んで対向する位置に取り付けられている(以下,この第2箸部材に2個形成されたリング状部を「Bリング状部」,上のものを「B上リング状部」,下のものを「B下リング状部」という。)。
c.Aリング状部は,棒状の上から約1/3の周側面の位置に縦にリングの円環の上下が棒状と融合して,棒状にU字形状がR状に滑らかに貼り付くように形成され,リングの内径の円孔が棒状の中心軸の位置以上に食い込むように一体的に形成されている。
d.Bリング状部は,棒状の略中央の,棒状よりごく僅かに径の太い取付部分の中央やや上寄りと中央やや下寄りの位置に,上下幅の細い,やや肉厚の円環状2つが棒状を挟んで相互に対向する位置(約180度開いて離れた(ベンゼン環の置換基のパラの位置)に,円筒状取付部分に円環状の外側が溶着して貼り付くように結合形成されている。2つの円環状は,細幅で肉厚の円環状(極扁平円管状)である。
また円筒状取付部の中央の上下のリング状部分の間には1本の水平方向の線模様が表れている。
(なお,この筒状部分の構成態様については,箸とは別体であるのか,また円筒状部分が上下に別々に分離するのか等は,公報記載の図には直接的には明示されておらず,不明である。ただし,後述の図3及び図4と同等の構成,形態のものであるとすれば,箸とは別体のリング状の付いたユニット(構成部品)ではあると推認することはできるが,そのユニットが,B上リング状部とB下リング状部の2つに分離できるものか,一体のものであるかは不明である。)
e.結合部は,第1箸部材の上部に形成した棹状の先の雄接続ボールが第2箸部材の上部に形成した棹状の先の雌接続穴に回動自在に係合し,両箸部材を所定の間隔で保持するものである。(取り外しも可能。)

[引用意匠2(図3?図5に表された「練習用箸」全体の意匠)]
引用意匠2は,意匠に係る物品を「練習用の箸」とするもので,図中には端上端に取り付ける連結部品や箸先のパッド等の取り外し可能な追加付属的な部品も表されているが,以下は,それらの追加付属部品を除く「練習用の箸」の本体部の構成を認定する。(したがって,連結部品を表した図5は実質的には対象外の図となる。)
(ア)全体の基本的構成態様
a.箸は2本一対の丸棒状のもので構成されている。
b.その棒状には,持ち方を矯正するための,指を挿入する円環状部(以下,「リング部」という。)が設けられている。
(イ)各部の具体的態様
a.2本の棒状はともに,先端に向けて緩やかに次第に縮径するテーパの付いた細長丸棒状(以下,単に「棒状」ともいう。)である。
b.リング状部は,一方の棒状(以下,「第1箸部材」という。)には1個,リングの穴の貫通方向が棒状の軸と直交する水平の向きに棒状に一体に成形されている(以下,この第1箸部材に1個形成されたリング状部を「Aリング状部」という。)。
もう一方の棒状(以下,「第2箸部材」という。)には2個,リングの穴の貫通方向が棒状の軸とほぼ同じ垂直の向きに,2個が上下に,棒状を挟んで対向する位置に取り付けられている(以下,この第2箸部材に2個形成されたリング状部を「Bリング状部」,上のものを「B上リング状部」,下のものを「B下リング状部」という。)。
c.Aリング状部は,棒状の上から約1/3の周側面の位置に縦にリングの円環の上下が棒状と融合して,棒状にU字形状がR状に滑らかに貼り付くように形成され,リングの内径の円孔が棒状の中心軸の位置以上に食い込むように一体的に形成されている。
d.Bリング状部は,棒状の略中央の,棒状よりごく僅かに径の太い取付部分の中央 やや上寄りと中央やや下寄りの位置に,上下幅の細い,やや肉厚の円環状2つが棒状を挟んで相互に対向する位置(ベンゼン環の置換基のパラの位置)に,円筒状取付部分に円環状の外側が溶着して貼り付くように結合形成されている。2つの円環状は,細幅で肉厚の円環状(極扁平円管状)である。
なお,この2つのリング状部を有する円筒状取付部の構成態様については,図3のとおり,外観上は円筒状取付部の中央の上下のリング状部の間に1本の水平方向の線模様が表れているものの,図4においては,箸とは別体であることは示されているが,円筒状部分が上下別々に分離するのものとしては表されておらず,図3と図4では整合していないため,分離するか否かは不明である。

[引用意匠3(図3(又は図6)及び図4に表された「練習用箸」の構成部品の意匠)]
引用意匠3は,引用意匠2において,その第2箸部材の中央に取り付けられた,箸の持ち方練習用箸の一部を構成する部品である,「箸の持ち方練習用箸の指挿入」人差し指及び中指を挿入する保持ユニット(符号120,121及び122)の意匠
(1)全体の基本的構成態様
a.2本一対の箸の一方に装着する構成部品である。
b.指を挿入する2つのリング(輪)部と箸を挿入して取り付ける取付部によって形成されている。
(2)各部の具体的態様
a.取付部は,通常の太さの箸を挿入する程度の内径のやや短い両端開口の肉薄の僅かにテーパの付いた円筒状である。
b.リング部は,やや細幅で若干肉厚の,指輪のような円環状(超扁平円筒状)である。
c.リング部は,円筒状の取付部の中央やや上寄りと中央やや下寄りの位置に,上下円環状2つが取付部を挟んで相互に対向する180°の位置(ベンゼン環置換基のパラの位置)に,かつ円環状の面を水平より僅かに傾けて,円筒状取付部に円環状の外側が溶着して貼り付くように結合形成されている。
なお,この2つの円環状を有する円筒状取付部の構成態様については,図3のとおり,外観上は円筒状の中央の上下の円環状の間に1本の水平方向の線が表れているものの,図4の断面図においては,箸とは別体であることは示されているが,円筒状部分が上下に分離するのものとして表されておらず,図3と図4では整合していないため,分離するか否かは不明である。
また,図4aにおいては,ユニットの箸取付部内に雌ねじが切られており,第2箸部材に切られた雄ねじと螺合させて固定するもの,図4bにおいては,ユニットの箸取付部内に水平環条の突出部が設けられており,第2箸部材に設けられた固定用の環状溝に係合させて固定するものが示されている。

(3)本件登録意匠と各引用意匠との対比
[引用意匠1]
ア.意匠に係る物品
本件登録意匠は,箸に取り付ける取付部と指を挿入するリング部のみから成る「箸の持ち方矯正具」であるのに対して,引用意匠1は箸の持ち方を矯正するための指を挿入するリング部が設けられている「練習用箸」または「練習用箸の本体(部品)」であって,意匠に係る物品が異なる。

イ.形態
(ア)共通点
・箸を持つ指を挿入する穴部を形成するリング状部を有する。
・一部のリング状部のリング状部分のみの形状が,やや肉厚の細幅円環状である。

(イ)相違点
a 全体の構成
・本件登録意匠は,一対の箸のそれぞれに取り付けて使用する,2つの独立した矯正具から構成されるものであるのに対して,引用意匠1は,2本一対の箸(棒状)それぞれに箸の持ち方を矯正するための指を挿入する部分が一体に備えられた態様のものである。一方の棒状には完全に一体に成形された指挿入部分が1つ形成され、もう一方には棒状とは別の構成部材からなる指挿入部分が2つ形成されている。

b 基本的構成態様及び具体的態様
・上記共通点以外は,上述(1)及び(2)のイ.においてそれぞれ認定した形態のとおりの相違点がある。

[引用意匠2]
ア.意匠に係る物品
本件登録意匠は,箸に取り付ける取付部と指を挿入するリング部のみから成る「箸の持ち方矯正具」であるのに対して,引用意匠2は箸の持ち方を矯正するための指を挿入するリング部が設けられている「練習用箸」または「練習用箸の本体(部品)」であって,意匠に係る物品が異なる。

イ.形態
(ア)共通点
・箸を持つ指を挿入する穴部を形成するリング状部を有する。
・一部のリング状部のリング状部分のみの形状が,やや肉厚の細幅円環状である。
(イ)相違点
a.全体の構成
・本件登録意匠は,一対の箸のそれぞれに取り付けて使用する,2つの独立した矯正具から構成されるものであるのに対して,引用意匠2は,2本一対の箸それぞれに箸(棒状)の持ち方を矯正するための指を挿入する部分が一体に備えられた態様のものである。一方の棒状には完全に一体に成形された指挿入部分が1つ形成され、もう一方には棒状とは別の構成部材からなる指挿入部分が2つ形成されている。

b.基本的構成態様及び具体的態様
上記共通点以外は,上述(1)及び(2)のイ.においてそれぞれ認定した形態のとおりの相違点がある。

[引用意匠3]
ア.意匠に係る物品
本件登録意匠は,箸に取り付ける取付部と指を挿入するリング部のみから成る「箸の持ち方矯正具」であり,2本一対の箸のそれぞれに取り付けて,それぞれに人差し指と薬指を挿入して使用するものであるのに対して,引用意匠3は,箸の持ち方を矯正するための指を挿入するリング部が設けられている「練習用箸」または「練習用箸の本体(部品)」用の,箸を持つ指を挿入するリング部の一部を構成する,箸に取り付ける取付部と指を挿入するリング部から成る構成部品であり,用途及び機能の一部は共通するが,2本一対の箸の1本にのみ取り付けて2つのリングに人差し指と中指を挿入して使用するものである点で,異なるものである。

イ.形態
(ア)共通点
基本的な構成態様
箸に取り付ける取付部と指を挿入するリング部から成るものである。
具体的態様
・リング状部のリング状部分のみの形状が,やや肉厚の細幅円環状である。
・取付部とリング部の取り付け態様において,取付部とリング部の穴の中心線の方向(指と箸の挿入方向)が概略同方向平行である部分を有する。

(イ)相違点
a 全体の構成
本件登録意匠は,2本の箸のそれぞれに取り付けて使用する2つの構成部品から成るものであるのに対して,引用意匠3は,箸の1本に取り付ける,箸の持ち方を矯正する部分を備えた1つの構成部品のものである。(上記の引用意匠の認定のとおり,取付部のユニットが2つに分離するかは図からは明らかでない。)

b 基本的構成態様及び具体的態様
・取付部が,隅丸四角形状の角筒状であるのに対して,引用意匠3は,円筒状である。
・リング状部の2つの円環状の幅が異なるのに対して,引用意匠3は同幅である。
・リング状部の2つの円環状の取付部に対する取付向きが,本件登録意匠は,1つは取付部の筒状の軸とほぼ同方向の軸の向きであるが,もう1つは取付部の筒状の軸と直交する方向の軸の向きであるのに対して,引用意匠3は,取付部と筒状の軸とほぼ同方向の軸の向きである。加えて,取付部とリング部の結合部分の態様が,本件登録意匠はそれぞれの形状が独立的な形状を残しながらも接合部分が滑らかに結合形成されているのに対して,引用意匠3は(図3(及び図6))比較的滑らかに結合形成されている。

(4)本件登録意匠と各引用意匠との類否判断
[引用意匠1との類否判断]
(ア)意匠に係る物品
本件登録意匠は「箸の持ち方矯正具」であるのに対して,引用意匠1は「箸」であるから,異なるものである。
より具体的に両者の用途及び機能を比較しても,本件登録意匠は,箸に取り付けて使用する箸という飲食用の道具の付属品的なもの(あるいは教育訓練用の補助具的なもの)である「持ち方矯正具」であるのに対して,先行意匠は,その一部に箸の持ち方を矯正するための部分を一体的に成形しているとはいえ,「箸」という飲食用の道具そのものであって,箸の持ち方を矯正する役割を持つという点で共通するところはあるとしても,意匠の類否判断が不能であるといえるほどに,両意匠を対比する前提となる用途及び機能において全く次元が異なるものであり,両意匠の類否判断において極めて大きな影響を及ぼすものである。
(イ)形態
上記「(3)対比」のとおりであって,本件登録意匠と先行意匠は,全体の構成において,箸を持つ指を挿入する穴を形成するリング状部を有し,そのうちの一部のリング状部の,リング状部分のみの形状において,細幅で肉厚の円環状である点で共通するだけであって,意匠全体の形態として見た場合には,本件登録意匠のリング部と取付部のみから成る,2つの小さな指輪様の小さな塊の構成部品は,引用意匠の細い丸棒状の箸の形状を主とする形態とは全く異なる形態であって,類似しない。
(ウ)以上のことから,本件登録意匠と引用意匠1とは,意匠に係る物品において,異なるものであり,また意匠全体の形態においても全く相違するものであって共通の美感を与えるものではないから,本件登録意匠は引用意匠1に類似するものとは認められない。

[引用意匠2との類否判断]
(ア)意匠に係る物品
引用意匠1の場合と同様である。
(イ)形態
引用意匠1の場合と同様である。
(ウ)以上のことから,本件登録意匠と引用意匠2とは,意匠に係る物品において,異なるものであり,また意匠全体の形態においても全く相違するものであって共通の美感を与えるものではないから,本件登録意匠は引用意匠2に類似するものとは認められない。

[引用意匠3との類否判断]
(ア)意匠に係る物品
本件登録意匠と引用意匠3は,箸の持ち方を矯正するための指を挿入するリング部と,箸に取り付ける取付部とから成る構成部品であり,用途及び機能の一部は共通するが,本件登録意匠は,2本一対の箸のそれぞれに取り付けて,それぞれに人差し指と薬指を挿入して使用するものであるのに対して,引用意匠3は,2本一対の箸の1本にのみ取り付けて2つのリングに人差し指と中指を挿入して使用するものである点で,異なるものであるから,両意匠を対比する前提となる機能及び使用方法において異なるものであり,その点は両意匠の類否判断において大きな影響を及ぼすものである
(イ)形態
上記「(3)対比」のとおりであって,まず,共通点については,箸に取り付ける取付部と指を挿入するリング部から成るものである点は,未だ具体的な形状の共通点という以前の概念的な共通性であり,方や,その指を挿入するリング状部の形状においてのみ,やや肉厚の細幅円環状である点が共通することについても,それはいわゆるごく単純な細幅の,いわゆる指を通す輪としてごくありふれた形状であって両意匠にのみ共通するものではないから,それらのみをもって,意匠全体として類似するものとはいえない。
一方,本件登録意匠は,箸に取り付けて使用する矯正具2つの構成部品から成るものであるのに対して,先行意匠は,箸の持ち方を矯正する部分を備えた1つの構成部品であるから,その基本的構成の異なる点は,両意匠の類否判断において大きな影響を及ぼすものである。(上記の引用意匠3の認定のとおり,取付部のユニットが2つに分離するかは図からは明らかでない。)
また,具体的な態様においても,リング状部の2つの円環状の取付部に対する取付向きが,本件登録意匠は,1つは取付部の筒状の軸とほぼ同方向の軸の向きであるが,もう1つは取付部の筒状の軸と直交する方向の軸の向きであるのに対して,引用意匠3は,取付部と筒状の軸とほぼ同方向の軸の向きである点の相違は,この物品の用途及び機能に極めて大きな影響を及ぼすものであって,形態的にも大きく異なるものであり,リング部の結合部分の相違(本件登録意匠はそれぞれの形状が独立的な形状を残しながらも接合部分が滑らかに結合形成されているのに対して,引用意匠3は比較的滑らかに結合形成されている相違。)とも合わせてみると,両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものである。
また,両意匠の形態は比較的単純な構成であるだけに,取付部の隅丸四角形状の角筒状と円筒状の違いは,挿入する箸の形状の違いであり,いずれもありふれているともいえるものの,引用意匠3のものは,内部に雌ねじを切る場合には必須の円筒形状である点の違いにも繋がる基本的な形態の相違でもあるので,両意匠の類否判断において一定程度の影響を及ぼすものといえ,また,本件登録意匠のリング状部の2つの円環状の幅が異なるのに対して,引用意匠3は同幅である点にも違いがあり,リング部の取付角度の違いと相まって両意匠の異なる印象を強めるものである。

そうすると,本件登録意匠と先行意匠は,全体の構成において,箸を持つ指を挿入する穴を形成するリング状部を有し,そのうちの一部のリング状部の,リング状部分のみの形状において,細幅で肉厚の円環状である点で共通するだけであって,意匠全体の形態として見た場合には,本件登録意匠のリング部と取付部のみから成る,2つの小さな指輪様の小さな塊の構成部品は,引用意匠の一つのまとまった形態の構成部品から成るものとは大きく異なり,さらに,取付部とリング部の取付向き等において大きく異なる相違が類否判断に大きな影響を及ぼすものであるから,本件登録意匠の形態は引用意匠3の形態と全く異なる形態であって,類似しない。

なお,仮に引用意匠3の構成部品が,1つのまとまった形態のものではなく,上下2つに分離するものであったとしても,それは片方の箸に装着する点で変わるものではなく,取付部とリング部の取付向き等において大きく異なる相違点が両意匠の類否判断において極めて大きな影響を及ぼすことに変わりはないから,本件登録意匠の形態は引用意匠3の形態と全く異なる形態であって,類似しない。

(ウ)以上のことから,本件登録意匠と引用意匠3とは,意匠に係る物品において,用途において共通するものの,その具体的な機能,それに伴う使用方法において相違するものであり,また意匠全体の形態においても大きく相違するものであって共通の美感を与えるものではないから,本件登録意匠は引用意匠3に類似するものとは認められない。

(4)小括
したがって,本件登録意匠は,甲第2号証に表された引用意匠1ないし引用意匠3のいずれの意匠とも類似しないものであって,意匠法第3条第1項第3号に該当しないものである。

3.両当事者の主張について
(1)請求人
請求人は,本審判事件の無効理由である,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当する意匠であることを立証するための証拠である,本件登録意匠出願前に公知の意匠を,甲第2号証に記載された意匠のうちから,意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であって,特許第3766831号から本件登録意匠と同一又は類似の物品を切り出した,「第1箸部材の『親指挿入穴111』」及び「第2箸部材の『保持ユニット120と人差し指挿入穴121』」と『保持ユニット120と中指挿入穴122 』」であると主張する。
そして,その主張(先行の公知の意匠の特定が適法である)の根拠として,意匠法第2条第1項(定義)において「意匠とは,物品(物品の部分を含む)の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形状模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。(当審で下線付与。)」と規定されているから,「物品には部分を含む」から,任意に切り出し可能である,と解釈できると述べている。
「先行意匠は,…(中略)…人差し指挿入穴121及び中指挿入穴122は,本件登録意匠と同一『物品』であり,親指挿入穴111 は,第1箸部材110の一部であるとしても111を第1箸部材110から切り出して『物品』とすることは極めて容易なことであり,先行意匠の物品は,箸から取り外す物品と箸から切り出せる物品であり,本件登録意匠の物品は,箸に取り付ける『物品』で,何れも『物品』であることは,意匠法第2条第1項に「…(中略)…」とあることからも明白である。」
「意匠法第2条第1項において「…(中略)…」とあることからすれば,仮に先行意匠の物品が「箸」であるとしても,その部分である「箸の持ち方矯正具」も意匠法上の「物品」であることは,意匠法が予定しているところである。従って,本件登録意匠に係る物品である「箸の持ち方矯正具」と,先行意匠の物品である「箸」の部分である「箸の持ち方矯正具」とは,同一である。よって,被請求人の答弁は失当である。」等々述べている。

しかしながら,意匠法第2条第1項において,物品に物品の部分を含む,と定義していることが,意匠法第3条第1項の適用において,意匠(物品の形態)の同一及び類似を判断するにあたり,物品の全体と物品の一部分と区別無く対比して判断することが適法であるとする解釈は,請求人の独自の考えであって,適正な解釈の範囲を逸脱している。
意匠の定義において,物品に「物品の部分を含む」としたのは,物品の形態である意匠を保護するにあたり,近年,物品全体ではなく,特徴的な物品の部分のデザインを保護する必要性が生じてきたことから,その物品の全体の形態ではなく,また一部を構成する独立して認識できる部分品でもない,一体として形成された物品の一部の部分の形態であっても,保護の対象となり得るとして,平成10年意匠法改正において新たに「部分意匠」の保護が加えられたのである。物品=物品の部分が同じであるとしたのではない。
しかし,意匠法第3条第1項新規性に係る登録要件の判断において,「意匠」つまり「物品」の「形状」が同一または類似するか否かを判断しなければならないことに変わりはないのであって,意匠に係る物品(用途及び機能)とその形態の両方の共通,相違の有無や程度をもって全体として類否を判断するのである。
意匠は,その物品の用途及び機能を前提として,それを全体の形態としてどのような造形としたかの創作であるから,その造形的なバランス等も含めて対比観察して類否を判断するものであって,その際に,一のまとまった物品の形態の一部分のみを任意に切りだし抽出して比較し,意匠(物品の形状)が類似する,と判断することは全く適当でない。意匠の定義において,物品部分を含むこととしたのは,保護の対象として,物品の部分の形態も保護の対象とするためであって,「物品」が「物品の部分」が同じである(物品=物品の部分)としたのではない。
本件の場合において,本件登録意匠は,その意匠に係る物品が「箸の持ち方矯正具」であって,箸ではなく,箸に追加的に付けて使用する部品,付属品であるから,その物品の区分と同一レベルの部品,付属品として新規性の有無(意匠法第3条第1項第3号に該当するか否か)を判断しなければならない。
そうすると,一体に成形されている箸において,部分的に本件登録意匠の用途及び機能の一部と共通し,形状においても同一あるいは類似する部分が存在したとしても,それはあくまでも箸の切り離せない一部分であって,部品,付属品の創作として比較できるものではない。
本件登録意匠は「箸の持ち方矯正具」であり,別の物品である箸に取り付けるものであり,その取付部の具体的な形態を有しているのであるから,その取付部の形態を有さない,箸と一体になったリング部とその周辺部分のみを恣意的に任意の範囲の形態を切り出し,あるいは概念的,抽象的に抽出して,その用途,機能及び形態が具体的には定まっていないものと対比して登録要件を判断することは,意匠法3条1項の適正な適用を超えるものであるといわざるを得ない。

物品の全体の一部を構成する箇所(部分)が,明確に取り外せる部品であれば,当該部品に対応する部品である物品と比較して意匠の類否を判断する対象とすることは妥当であるといえる。(引用意匠3は,公報掲載の図面から,箸と別体の部品として認定することができるものであったので,本件登録意匠の無効理由の証拠として適格な,対比可能な先行公知意匠としたのである。)
しかし,部品として分かれておらず一体に成形されている場合,及び明確に部品として取り外すことができるか不明な場合には,当該箇所(部分)を任意に抽象的に切り出し抽出して,恣意的に「部品」の如きものとして意匠の類否判断を行うことは全く適当でない。

第7 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し、同法第3条1項柱書に違反して登録されたものとはいうことはできないから,同法第48条第1項第1号の規定により,その意匠登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-06-17 
出願番号 意願2010-14238(D2010-14238) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (F1)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 佐々木 朝康 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 本多 誠一
渡邉 久美
登録日 2011-01-07 
登録番号 意匠登録第1406731号(D1406731) 
代理人 名越 秀夫 
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所 
代理人 中所 昌司 
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